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特表2024-510191幹細胞から由来したエクソソームを含む関節炎の緩和又は治療用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】幹細胞から由来したエクソソームを含む関節炎の緩和又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240228BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P19/02
A61P19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555322
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 KR2021002853
(87)【国際公開番号】W WO2022191341
(87)【国際公開日】2022-09-15
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 電気通信回線を通じての発表 掲載年月日:2020年3月9日 掲載アドレス:https://doi.org/10.1080/20013078.2020.1735249
(71)【出願人】
【識別番号】517146460
【氏名又は名称】株式会社エキソステムテック
【氏名又は名称原語表記】EXOSTEMTECH CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヨン ウ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジ スク
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヨン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ウ,チャン ヒ
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB15
(57)【要約】
本発明は、エクソソームに基づいた関節炎の緩和及び治療用医薬組成物に関する。本発明によるエクソソームは、軟骨に発生した炎症を緩和及び治療して軟骨侵食を防止するだけでなく、滑膜のような周辺組織内の炎症反応までも効果的に緩和させて関節炎を根本的に治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖する脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cells)から由来したエクソソームを有効成分として含む、関節炎の緩和又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記脂肪由来幹細胞がヒト脂肪由来幹細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記関節炎が骨関節炎(osteoarthritis)及びリュウマチ関節炎(rheumatoidarthritis)から選択されるものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記エクソソームが4回~6回継代培養で増殖する幹細胞から由来したものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記エクソソームが5回継代培養で増殖する幹細胞から由来したものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記エクソソームが抗炎症性サイトカインを含むものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗炎症性サイトカインがTIMP-1及びTIMP-2から選択される1つ以上のものである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む関節炎の緩和又は治療用注射剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、関節炎の緩和又は治療用医薬組成物に関する。
[背景技術]
リュウマチ関節炎は、自己免疫による炎症が原因であると理解されている。退行性関節炎、すなわち骨関節炎は、関節を構成する軟骨細胞(chondrocytes)に老化などの退行が発生し、インターロイキン-1(interleukin-1)及び腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-α)などの炎症性サイトカイン(cytokine)の生成により、関節基質を分解する基質金属タンパク質分解酵素(matrix metalloproteinase:MMP)の合成及び活性が関節細胞において増加し、関節組織が破壊されることで誘発される疾病である。
【0002】
また、関節炎は、炎症性サイトカインによる一酸化窒素の生成、及び生成された一酸化窒素による自己増幅的なサイトカインの生成によって、より多くのMMPの合成が誘発されて関節基質の分解が促進されることでさらに悪化する。また、炎症性サイトカインは、脂質代謝産物であるプロスタグランジンE2の生成を増加させて、関節炎における炎症反応を誘発する。骨関節炎は、退行性関節炎とも称される関節炎の一種であって、特定の基質的原因なしに主に老年に頻発し、慢性的に進行すれば、関節構造の変形によって歩行障害などの運動障害を伴う。骨関節炎では、主に、関節軟骨(cartilage)の漸進的な損傷や退行性変化により、関節を構成する骨と靭帯などに損傷が起きて炎症が発生する。骨関節炎の進行時には、TNF-α、IL-1などの炎症性サイトカインの生成が増加し、コラゲナーゼ(collagenase)、ストロメリシン(stromelysin)などのようなMMPの分泌が増加して、関節軟骨が破壊されるようになる。また、MMPはIL-1、TNF-αなどを誘導するが、これにより筋肉、腱、靭帯などのような組織にも影響を及ぼして酷い炎症を引き起こす。
【0003】
本明細書の全体にわたって多数の文献が参照され、その引用が示されている。引用された文献の開示内容は、その全体が本明細書に参照として援用されることで、本発明が属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
本発明は、幹細胞から由来したエクソソームが軟骨に発生した炎症を緩和及び治療することで、炎症による軟骨侵食を防止するだけでなく、滑膜(synovium)のような周辺組織内の炎症反応までも効果的に緩和させて、関節炎の治療効果があることを見出して本発明の完成に至った。
【0004】
したがって、本発明は、幹細胞から由来したエクソソームを有効成分として含む、関節炎の緩和又は治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
より詳しくは、本発明は、以下の具現例を提供することを目的とする。
【0005】
具現例1.増殖する脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cells)から由来したエクソソームを有効成分として含む、関節炎の緩和又は治療用医薬組成物;増殖する脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームの、関節炎の緩和又は治療用医薬品の製造のための用途;又は増殖する脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームを有効成分として含む組成物を対象体に投与することを含む、関節炎の緩和又は治療方法。
【0006】
具現例2.具現例1において、前記脂肪由来幹細胞がヒト脂肪由来幹細胞である医薬組成物;用途;又は方法。
【0007】
具現例3.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記関節炎が、骨関節炎(osteoarthritis)及びリュウマチ関節炎(rheumatoid arthritis)から選択されるものである医薬組成物;用途;又は方法。
【0008】
具現例4.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記エクソソームが4回~6回継代培養で増殖する幹細胞から由来したものである医薬組成物;用途;又は方法。
【0009】
具現例5.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記エクソソームが5回継代培養で増殖する幹細胞から由来したものである医薬組成物;用途;又は方法。
【0010】
具現例6.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記エクソソームが抗炎症性サイトカインを含むものである医薬組成物;用途;又は方法。
【0011】
具現例7.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記抗炎症性サイトカインがTIMP-1及びTIMP-2から選択される1つ以上のものである医薬組成物;用途;又は方法。
【0012】
具現例8.先行する具現例のいずれか一つによる医薬組成物を含む関節炎の緩和又は治療用注射剤。
【0013】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明確になる。
[課題を解決するための手段]
本発明の一態様は、増殖する脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cells)から由来したエクソソームを有効成分として含む、関節炎の緩和又は治療用医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明で使われる用語「幹細胞(stem cell)」とは、自己複製能力だけでなく、細胞が位置する環境の影響を受けて必要に応じて適切な信号が与えられる場合、多分化能(multi potency)の特性によって多様な細胞に分化可能な特性を有する細胞を意味する。
【0015】
本発明の幹細胞は、自己由来又は同種由来の幹細胞であり得、ヒト及び非ヒト哺乳類を含む任意の類型の動物由来であり得る。望ましくは、前記幹細胞は、患者の自己脂肪組織から由来したものであり得る。
【0016】
本発明で使われる用語「脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cell)」とは、脂肪組織から由来した幹細胞を意味する。脂肪組織は、多量の組織採取が容易であるため、幹細胞の収得に良い条件を有している。脂肪由来幹細胞は、培養において安定的な成長と増殖を示し、分化を誘導したときに多様な細胞への分化が可能である。
【0017】
本発明で使われる用語「エクソソーム(exosome)」とは、多種の細胞から分泌される膜構造の小胞体であって、免疫学的に重要なタンパク質である主要組織適合性タンパク質と熱ショックタンパク質とを含む強力な抗腫瘍免疫応答を誘導し、他の細胞及び組織に結合して膜の構成要素、タンパク質、RNAを送達するなど様々な役割を果たすことが知られている。したがって、炎症緩和に関連する多様な遺伝情報、タンパク質、成長因子を含むエクソソームを用いて関節炎治療剤の組成物として活用することができる。
【0018】
本発明の脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームは、抗炎症性サイトカインを含んでいるため、骨関節炎(osteoarthritis)及びリュウマチ関節炎(rheumatoid arthritis)のような関節炎の緩和及び治療において重要な役割を果たすことができる。具体的には、TIMP-1(メタロプロテイナーゼ-1の組織阻害剤)、TIMP-2、IL-1ra(インターロイキン-1受容体拮抗薬)、IL-4(インターロイキン-4)、IL-10(インターロイキン-10)、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)などを含み、これらのサイトカインは、炎症反応の阻害を誘導し、炎症性サイトカインの阻害を誘導する役割を有している。
【0019】
前記抗炎症性サイトカインを含むエクソソームは、継代培養で増殖する幹細胞から由来したものであり得るが、望ましくは4回~6回継代培養、より望ましくは5回継代培養で増殖する幹細胞から由来したものであり得る。4回~6回継代培養で増殖する幹細胞からエクソソームを抽出する場合、3回又は7回継代から抽出したエクソソームと比べて、抗炎症性サイトカインの含有量が著しく上昇する臨界的な意義がある。
【0020】
具体的には、4回~6回継代培養で増殖する幹細胞から由来したエクソソームのタンパク質当たり含有された抗炎症性サイトカインの質量(pg/タンパク質(μg))は、3回又は7回継代培養で増殖する幹細胞から由来したエクソソームに含有された量の少なくても2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、又は少なくとも100倍であり得る。
本発明による医薬組成物は、脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームの薬学的に有効な量とともに、一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含み得る。
【0021】
「薬学的に有効な量」とは、関節に発生した炎症を改善及び治療するのに十分な量を意味する。本発明による脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームは、前記医薬組成物中に1×10粒子/mL~1×1010粒子/mLの濃度、望ましくは5×10粒子/mL~1×10粒子/mLの濃度で含まれ得る。しかしながら、前記エクソソームの濃度は、関節炎の進行程度、患者の年齢、体重、健康状態、性別、投与経路及び治療期間などによって適切に変更され得る。
【0022】
また、「薬学的に許容される」とは、生理学的に許容され、ヒトに投与されるとき、通常、胃腸障害、めまいなどのアレルギー反応又はこれに類似の反応を引き起こさない組成物を意味する。前記担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0023】
また、本発明の組成物は、医薬分野における通常の方法に基づき、患者の体内への投与に適した単位投与型の製剤に剤形化して投与し得、前記製剤は、1回又は数回投与により関節炎を緩和又は治療できる有効な投与量を含む。この目的に適した製剤としては、非経口投与製剤として、注射用アンプルなどの注射剤、注入バッグなどの注入剤などが望ましい。前記注射用アンプルは、使用直前に注射液と混合して調製し、注射液としては、生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、リンゲル液等を用い得る。
【0024】
前記医薬製剤には、前記有効成分に加え、一つ又はそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、例えば、注射剤の場合は、保存剤、無痛化剤、可溶化剤又は安定化剤などを、局所投与用製剤の場合は、基剤(base)、賦形剤、潤滑剤又は保存剤などをさらに含み得る。
【0025】
このように調製された本発明の組成物又は医薬製剤は、ラット、マウス、家畜、ヒトなどの哺乳動物に、非経口、経口などの多様な経路で投与され得、投与方法としては、当技術分野で通常使用する全ての方式が採用可能である。これに限定されないが、経口、直腸又は静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜又は脳室内(intracerebroventricular)注射などによって投与され得る。
【0026】
具体的には、投与方法はこれに限定されないが、脂肪由来幹細胞から抽出されたエクソソームを静脈内に投与(静脈注射)するか、又は、関節炎部位に投与(局所投与)し得る。
【0027】
他の態様として、本発明は、上述した脂肪由来幹細胞から由来したエクソソームを有効成分として含む関節炎の緩和及び治療用医薬組成物を含む関節炎の緩和又は治療用注射剤を提供する。
【0028】
前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をさらに含み得る。すなわち、前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水に脂肪由来幹細胞から抽出されたエクソソームを担持して使用し得る。
【0029】
前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水の代わりにハイドロゲルを含み得る。前記ハイドロゲルは、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギネート、キトサン、フィブリン、エラスチン、コラーゲン及びメチルセルロースからなる群より選択されたいずれか一つ以上であり得、具体的にはヒアルロン酸ハイドロゲルであり得るが、これに限定されない。
[発明の効果]
本発明による幹細胞由来エクソソームは、軟骨に発生した炎症を緩和及び治療して軟骨侵食を防止するだけでなく、滑膜(synovium)のような周辺組織内の炎症反応までも効果的に緩和させることで、関節炎を根本的に治療することができる。
[図面の簡単な説明]
図1]エクソソームの顕微鏡分析及びエクソソーム表面マーカーの分析結果である。
図2]各継代毎に産生されたエクソソームに含まれた抗炎症サイトカイン(TIMP-1及びTIMP-2)の含有量を示したものである。
図3]ヒト脂肪とヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソームの炎症調節因子(TIMP-1)を分析した結果である(ヒト骨髓由来幹細胞から産生されたエクソソームの場合、有意な含量が確認されなかったため、示していない)。
図4]MIA誘導ラット骨関節炎モデルから分離した膝関節を染色して観察した結果である。
図5]MIA誘導ラット骨関節炎モデルにおいて、周辺滑膜及びIFPの炎症反応に対するエクソソームの効能を評価した結果である。
[発明を実施するための形態]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲を制限するものではないということは、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者にとって自明であろう。
【0030】
<実施例>
1.増殖する幹細胞からのエクソソームの抽出
1次ヒト脂肪由来幹細胞(Primary hASCs)はCEFOバイオ社(Seoul、Korea)から購入し、成長培地と補充剤はライフテクノロジーズ社(Carlsbad、CA、USA)から購入した。一般培養培地(ウシ胎児血清10%、ペニシリン/ストレプトマイシン1%を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))を用いて37℃、5%CO条件でhASCを3回~7回継代培養して増殖させた。各継代(passage)毎にエクソソームを抽出した。具体的には、エクソソームを抽出する前に、各継代毎に増殖された幹細胞を無血清DMEM培地に交換し、24時間維持した後、細胞培養上清を回収した。その後、タンジェンシャルフローろ過(tangential flow filtration:TFF)システムに基づいた多重濾過システムによって回収した細胞培養上清からエクソソームを分離した。
【0031】
2.エクソソームの顕微鏡観察及び表面マーカーの分析
増殖する幹細胞から抽出されたエクソソームを、透過電子顕微鏡(transmission electron microscope)とナノ粒子分析機(Dynamic Light Scattering:DLS)を用いて大きさ及び模様を確認し、フローサイトメトリー(flow cytometry)を用いてエクソソーム膜の表面タンパク質を確認した。
【0032】
その結果、抽出されたエクソソームの模様を透過電子顕微鏡で確認でき、それぞれの大きさは平均的に約86.46nmであることを確認した(図1)。
【0033】
また、フローサイトメトリーにより、エクソソーム表面マーカータンパク質として知られたCD9、CD63及びCD81が抽出されたエクソソームからすべて発現されていることを確認した(図1)。
【0034】
3.エクソソームに含有された抗炎症性因子の評価
炎症緩和に関して分泌される代表的なサイトカインとしてTIMP-1(メタロプロテイナーゼ-1の組織阻害剤)及びTIMP-2があるが、これらサイトカインは炎症反応の阻害を誘導し、炎症性サイトカインの阻害を誘導する役割を有していると知られている。
【0035】
継代3、5及び7で産生されたエクソソームに含有された抗炎症因子を確認するため、それぞれのエクソソームを用いてサイトカイン分析を行い、その結果を図2に示した。実験の結果、継代3又は継代7で産生されたエクソソームよりも継代5で産生されたエクソソームが、ヒト脂肪由来幹細胞エクソソーム内部に抗炎症サイトカイン(TIMP-1及びTIMP-2)の含有量が大きく増加していることが確認された(図2)。
【0036】
また、比較対照群として、ヒト骨髓由来幹細胞(継代3)から産生されたエクソソーム(BM-MSC-Exo)及びヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソーム(UC-MSC-Exo;継代5)を用いて、ヒト脂肪由来幹細胞から産生されたエクソソーム(hASC-Exo;継代5)との相対的なTIMP-1強度(intensity)を測定した。実験の結果、BM-MSC-Exoの場合、有意なTIMP-1含量が確認されず、UC-MSC-Exoの場合は、TIMP-1を含むことが確認されたものの、hASC-Exoに比べてTIMP-1含量が著しく低いことが確認された(図3)(*P<0.1)。
【0037】
4.MIA誘導OAモデルにおけるhASC-EVの治療効能
上記の3.で抗炎症効果が最も優れることが確認された継代5で産生されたエクソソームを使用し、MIA(Monosodium Iodoacetate、モノヨード酢酸ナトリウム)誘導ラットOAモデルにおける関節炎治療効能を評価した。具体的には、MIA注入の1週後から3週間、毎週関節内にエクソソームを投与した。MIA注入の4週後、分離した膝関節をインディアンインクで染色し、観察結果を図4に示した。
【0038】
実験の結果、hASC-Exo処理群は、MIAモデルの関節において、PBS及びHA(ヒアルロン酸)処理群に比べて、炎症によって侵食された軟骨表面の面積が大きく減少していることが確認された(図4)。
【0039】
5.滑膜炎症に対するエクソソームの影響評価
膝関節(knee joint)へのMIA注入は、軟骨退化(cartilage degradation)だけでなく、周辺滑膜(perimeniscal synovium)及び膝蓋下脂肪パッド(infrapatellar fat pad:IFP)を含む関節周辺組織の変化を誘導した。このような周辺滑膜及びIFPの炎症反応に対するhASC-Exoの効果を評価し、その結果を図5に示した。
【0040】
急性関節炎モデルでは、PBS処理群で内膜下繊維症及び血管新生を含む滑膜炎症が観察された。しかし、hASC-Exo投与群では、繊維性沈着及び血管形成を防止し、IFPの脂肪細胞が豊富な模様を維持することが確認された(図5)。また、慢性関節炎モデルのPBS群では、増殖、広範囲な内膜下繊維症と血管形成、及び軟骨断片を含む深刻な滑膜炎症が見られた一方、hASC-Exo投与群は滑膜炎症が減少することが確認された(図5)。
【0041】
このような結果は、hASC-Exoが関節炎モデルで軟骨退化を防止するだけでなく、周辺滑膜及びIFPの炎症反応を緩和させて関節炎の治療効果があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1a】エクソソームの顕微鏡分析及びエクソソーム表面マーカーの分析結果である。
図1b】エクソソームの顕微鏡分析及びエクソソーム表面マーカーの分析結果である。
図1c】エクソソームの顕微鏡分析及びエクソソーム表面マーカーの分析結果である。
図2】各継代毎に産生されたエクソソームに含まれた抗炎症サイトカイン(TIMP-1及びTIMP-2)の含有量を示したものである。
図3】ヒト脂肪とヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソームの炎症調節因子(TIMP-1)を分析した結果である(ヒト骨髓由来幹細胞から産生されたエクソソームの場合、有意な含量が確認されなかったため、示していない)。
図4a】MIA誘導ラット骨関節炎モデルから分離した膝関節を染色して観察した結果である。
図4b】MIA誘導ラット骨関節炎モデルから分離した膝関節を染色して観察した結果である。
図5a】MIA誘導ラット骨関節炎モデルにおいて、周辺滑膜及びIFPの炎症反応に対するエクソソームの効能を評価した結果である。
図5b】MIA誘導ラット骨関節炎モデルにおいて、周辺滑膜及びIFPの炎症反応に対するエクソソームの効能を評価した結果である。
図5c】MIA誘導ラット骨関節炎モデルにおいて、周辺滑膜及びIFPの炎症反応に対するエクソソームの効能を評価した結果である。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
【国際調査報告】