(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】金属支持体電気化学セル用金属基板
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20240228BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240228BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240228BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20240228BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20240228BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20240228BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240228BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240228BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240228BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240228BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20240228BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20240228BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20240228BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240228BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M8/1226
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/067
C25B13/07
C25B13/04 301
C25B9/23
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/1246
H01M4/86 T
H01M8/124
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555580
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 US2022018893
(87)【国際公開番号】W WO2022192081
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502337907
【氏名又は名称】プレシジョン コンバスチョン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100082049
【氏名又は名称】清水 敬一
(74)【代理人】
【識別番号】100220711
【氏名又は名称】森山 朗
(72)【発明者】
【氏名】スズキ,トシオ
(72)【発明者】
【氏名】ジュナエディ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ロイチョードリー,スビル
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA17
4K011AA18
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB40
4K021DB53
5H018AA06
5H018EE12
5H018EE13
5H126AA02
5H126AA06
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5H126HH01
5H126HH04
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ04
5H126JJ05
(57)【要約】
フェライト合金等の第1の金属を含む多孔質金属支持体を備える金属支持体電気化学セルに使用する金属基板を開示する。例えば、ニッケル等のミクロン型粒子の第2の金属と、例えば、ガドリニウム添加セリア等のミクロン型微粒子の金属酸化物との二峰性分布を持つ障壁層が金属基板の片側に被覆される。金属基板の製法も開示する。金属支持電極と金属支持体電気化学セルは、金属基板を使用して製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 孔径範囲3μm~75μmの細孔を有しかつ第1の金属を含む一層を形成する多孔質金属支持体と、
(b) ミクロン型粒子の第2の金属及びミクロン型微粒子の金属酸化物を含みかつ多孔質金属支持体の片側に設けられる障壁層とを備えることを特徴とする金属支持体電気化学セルへの使用に適する金属基板。
【請求項2】
多孔質金属支持体は、範囲80μm~1,000μmの層厚を有する請求項1に記載の金属基板。
【請求項3】
多孔質金属支持体層は、20体積%を超える気孔率、好ましくは、25体積%~50体積%範囲の気孔率を有する請求項1に記載の金属基板。
【請求項4】
多孔質金属支持体層は、フェライト合金を含み、 場合により、フェライト合金は、15モル%を超える量のクロムを含む請求項1に記載の金属基板。
【請求項5】
障壁層は、範囲10μm~50μmの層厚を有する請求項1に記載の金属基板。
【請求項6】
ミクロン型粒子の第2の金属は、範囲2μm~20μmの粒径である請求項1に記載の金属基板。
【請求項7】
第2の金属は、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の金属基板。
【請求項8】
第2の金属は、ニッケル又は銅である請求項7に記載の金属基板。
【請求項9】
ミクロン型微粒子の金属酸化物は、範囲0.1μm以上かつ1μm未満の粒径を有する請求項1に記載の金属基板。
【請求項10】
金属酸化物は、セリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタン、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の金属を含む請求項1に記載の金属基板。
【請求項11】
ミクロン型微粒子の金属酸化物は、セリア若しくは希土類添加セリア、ランタンクロマイト若しくは希土類添加ランタンクロマイト又はチタン酸ストロンチウム若しくは希土類添加チタン酸ストロンチウムを含む請求項1に記載の金属基板。
【請求項12】
ミクロン型粒子は、ニッケルを含む請求項11に記載の金属基板。
【請求項13】
(a) 範囲3μm~75μm孔径の細孔を有しかつ第1の金属を含む一層として形成される多孔質金属支持体を準備し、ミクロン型微粒子の金属酸化物及び第2の金属を含むミクロン型粒子と、溶剤と、結合剤とを含むインク障壁層により、多孔質金属支持体の片側を被覆して、生地基板複合体を形成する工程と、
(b) 生地基板複合体を加熱して、範囲3μm~75μm孔径の細孔を有しかつ多孔質金属支持体を備える一層に形成される多孔質金属基板を形成しつつ、第2の金属とミクロン型微粒子の金属酸化物とを含むミクロン型粒子を有する障壁層を多孔質金属基板の片側に被覆する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属基板の製造法。
【請求項14】
(a) 下記(a)(i)及び(a)(ii)を備える金属基板と、
(a)(i) 3μm~75μm孔径範囲の細孔を有する第1の金属を含む一層を形成する多孔質金属支持体、
(a)(ii) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつ第2の金属のミクロン型粒子及び金属酸化物のミクロン型微粒子を含む障壁層、
(b) 金属基板の障壁層上に設けられる電極層とを備えることを特徴とする層状の金属支持電極。
【請求項15】
多孔質金属支持体は、フェライト合金を含み、
障壁層は、ニッケルのミクロン型粒子と、ミクロン型微粒子のセリア又は希土類添加セリアとを含む請求項14に記載の金属支持電極。
【請求項16】
金属支持電極は、燃料電極、好ましくはニッケル及びイットリア安定化ジルコニアを含む燃料電極である請求項14に記載の金属支持電極。
【請求項17】
(a) 第1の金属を含みかつ3μm~75μm孔範囲の細孔を有する多孔質金属支持体を準備し、第2の金属とミクロン型微粒子の金属酸化物とを含むミクロン型粒子、溶剤及び結合剤を含むインク障壁層により、多孔質金属支持体一層の片側を被覆して、生地基板複合体を形成する工程と、
(b) 電極インクにより生地基板複合体を被覆して生地電極複合体を生成する工程と、
(c) 生地電極複合体を加熱して金属支持電極を形成する工程とを含む請求項14に記載の金属支持電極の製造法。
【請求項18】
(a) 下記(a)(i)及び(a)(ii)を備える金属基板と、
(a)(i) 3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する一層を形成する第1の金属を含む多孔質金属支持体、
(a)(ii) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつ第2の金属のミクロン型粒子及び金属酸化物のミクロン型微粒子を含む障壁層、
(b) 金属基板の障壁層上に設けられる第1の電極層と、
(c) 第1の電極層上に設けられる電解質層と、
(d) 電解質層上に設けられかつ第1の電極層とは反対の極性を有する第2の電極層とを備えることを特徴とする層状の電気化学セル。
【請求項19】
多孔質金属支持体層は、範囲80μm~1,000μmの層厚を有する請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項20】
多孔質金属支持体層は、20体積%を超える気孔率、好ましくは、25体積%~50体積%の範囲の気孔率を有する請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項21】
多孔質金属支持体層は、フェライト合金を含み、 場合により、フェライト合金は、15モル%を超える量のクロムを含む請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項22】
障壁層は、範囲10μm~50μmの層厚を有する請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項23】
第2の金属のミクロン型粒子は、範囲2μm~20μmの粒径を有する請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項24】
ミクロン型粒子の第2の金属は、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項25】
第2の金属は、ニッケル又は銅である請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項26】
ミクロン型微粒子の金属酸化物は、範囲0.1μm以上かつ1μm未満の粒径である請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項27】
金属酸化物は、セリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタン、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の金属を含む請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項28】
ミクロン型微粒子の金属酸化物は、セリア若しくは希土類添加セリア、ランタンクロマイト若しくは希土類添加ランタンクロマイト又はチタン酸ストロンチウム若しくは希土類添加チタン酸ストロンチウムを含む請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項29】
第1の電極は、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ガドリニウム、サマリウム、カルシウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウムの酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物とニッケル又は酸化ニッケルとの組み合わせを含む燃料電極であり、好ましい燃料電極は、酸化ニッケル-イットリア安定化ジルコニア(NiO-YSZ)である請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項30】
電解質は、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウム、カルシウム及びそれらの混合物の酸化物からなる群から選択される金属酸化物を含み、好ましい電解質は、イットリア安定化ジルコニア又はスカンジア安定化ジルコニアである請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項31】
バリウム、ストロンチウム、ランタン、サマリウム、プラセオジム又はそれらの組み合わせからなる群から選択される元素をAとし、鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される元素をBとし、酸素元素をOすると、第2の電極は、組成物式ABO
3から選択される酸素電極層であり、好ましくは、ABO
3は、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LaSrCoFeO
3)である請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項32】
固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電気分解電池である請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【請求項33】
第2の電極は、酸素電極であり、酸素電極と電解質との間に層厚1μm~20μmの中間層が配置される請求項18に記載の金属支持体電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府が享有する権利
本発明は、第80NSSC19C0577号契約の規定により、米国航空宇宙局の後援と米国政府の支援を受けて完成した。米国政府は、本発明に関する一定の特許を受ける権利を有する。
【0002】
関連出願の表示
本発明は、2021年3月12日に出願された米国仮特許出願第63/160,187号の利益を主張し、米国仮特許出願の内容を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0003】
本発明は、金属支持体電気化学セルに使用される金属基板に関連する。本発明は、金属基板の製造法と製造法で製造される金属支持体電気化学セルにも関連する。本明細書に記載される全構成要素は、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、固体酸化物形電気分解電池(SOEC)又は固体酸化物電気化学センサの製造及び動作に有用である。
【背景技術】
【0004】
電気化学セルは、層状に配置される酸素電極、電解質及び燃料電極の必須三要素で構成される。詳細には、固体酸化物形燃料電池(SOFC)では、酸素電極が機能して、酸素分子は、電子源により酸化物イオンに還元される。電解質は、酸素電極から燃料電極まで酸化物イオンを移動する媒体機能がある。燃料電極の機能により、水素と一酸化炭素等の燃料供給物は、酸化物イオンにより酸化されて、水と二酸化炭素を生成すると同時に、電子も生成する。メタンも他の適切な燃料供給物である。複数の燃料電極は、外部電気回路に接続される燃料電極により生成される電子は、外部電気回路を通じて酸素電極に送られると共に、電気を発生する。単一の電気化学セルから得られる電圧は、通常低いので、複数の電気化学セルを直列又は並列に接続して、高出力の電気化学セル積層体に形成される。
【0005】
電気化学セルは、燃料電極、電解質又は酸素電極の何れかを固定する多孔質基板に構造上支持されかつ物理的強度が付与される。各種の基板材料でも、電気化学セルの性能向上に好適な多孔質金属基板が提案されている。粉末冶金法を使用して、様々な種類と孔径の細孔を有する多孔質金属基板を準備できる。従来の金属基板は、通常10μmを超える範囲の細孔を有するが、細孔径は、通常1μm未満(サブミクロン)範囲の従来の燃料電極及び電解質材料の粒径より大きい。また、従来の金属基板の細孔径は、各燃料電極及び電解質層の通常層厚より大きいため、下記の欠陥を招来する。
【0006】
セルの製造時と動作時の欠陥の回避に重要な役割を果たす金属基板の孔径を、当業者は、認識する。直径10μmを超える大きい孔径を備える基板は、電極層及び電解質層が崩壊・崩落しかつ電極層と電解質層の金属成分の基板内への有害な拡散を発生し易い欠点がある。一例として、フェライト基板内のクロムが動作条件下でニッケル/イットリア安定化ジルコニア(Ni-YSZ)のアノードに拡散して、有害なニッケル-クロム合金を形成する可能性がある。アノード内のニッケルが基板に拡散して、有害な合金を形成する可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、金属基板の細孔径を10μm未満の範囲に維持して、金属基板に形成される従来の燃料電極及び電解質材料の粒径(粒子寸法)より確実に小さい粒径の細孔を金属基板に形成することにある。各燃料電極及び電解質層の通常の層厚(5μm~20μm)より金属基板の細孔径を低減する必要がある。高信頼性の製造技術を要する10μm未満の細孔を備える金属基板の実現は、残念ながら極めて困難である。
【0008】
高性能燃料セルの所望の単位重量当たりの基準電力は、約1,000W/kg、望ましくは約2,000W/kgを超える高電力密度の達成にある。高電力密度を達成する燃料セルは、十分な機械的強度厚と軽量のセル基板を維持しつつ、単位面積当たり電流値約1A/cm2を超える電流密度で作動する必要がある。
【0009】
肉薄かつ軽量で一体構造に形成されて、最適化電力密度を保持する電気化学セル用の改良型多孔質金属基板を製造することが望ましい。約1.0mm未満、好ましくは約0.5mm未満の肉厚で実質的に平坦で傷がなく、意図する用途に応じて、最大約10cm×10cm以上の平面面積に製造できる多孔質金属基板が望ましい。押圧電極成形に対する耐性と、電極-電解質成分の基板への拡散に対する耐性とを備える多孔質金属基板が最も望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電気化学セルの一部として新規な障壁層(バリヤー層)を組み込んで、大きい孔径の金属基板の電極層が崩落する欠点と、小さな孔径の金属基板の製造の困難性を解消する金属支持体電気化学セル用金属基板を提供することを目的とする。従って、本発明の一実施の形態は、下記(a)及び(b)を備える金属支持体電気化学セルに使用する新規金属基板を提供する。
【0011】
(a) 約3μm~75μmの粒径範囲の細孔を有する一層を形成しかつ第1の金属を含む多孔質金属支持体及び
【0012】
(b) 多孔質金属支持体の片側に被覆形成されかつ第2の金属のミクロン型粒子及び金属酸化物のミクロン型微粒子を含む障壁層。
【0013】
本発明の別の実施の形態は、下記(a)及び(b)を備える金属支持体電気化学セルに使用する新規金属基板の製造法を提供する。
【0014】
(a) 溶剤と、結合剤と、第2の金属を含むミクロン型粒子と、サブミクロン寸法の金属酸化物微粒子とを含むインク障壁層により、約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する一層を形成する第1の金属を含む多孔質金属支持体の片側を被覆して、生地基板複合体を形成する工程及び
【0015】
(b) 約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する一層を形成する第1の金属を含む多孔質金属支持体を備える金属基板を形成するのに十分な条件下で生地基板複合体を加熱して、ミクロン寸法の第2の金属粒子及びサブミクロン寸法の金属酸化物微粒子を含む障壁層を金属基板の片側に被覆する工程。
【0016】
本発明の更に別の実施の形態は、層状に配置される下記構成(a)(i)、(a)(ii)及び(b)を備える新規な金属支持電極を提供する。
【0017】
(a)(i) 約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する一層を形成する第1の金属を含む多孔質金属支持体、
(a)(ii) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつ第2の金属のミクロン型粒子及び金属酸化物のミクロン型微粒子を含む障壁層とを備える(a)金属基板及び
【0018】
(b) 障壁層上に設けられる電極層。
【0019】
本発明の更に他の実施の形態は、下記工程(a)、(b)及び(c)を含む金属支持電極の製造法を提供する。
【0020】
(a) 溶剤と、結合剤と、第2の金属を含むミクロン型粒子と、金属酸化物のミクロン型微粒子とを含む生地基板複合体を形成するインク障壁層により、約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する第1の金属を含む多孔質金属支持体の一層の片側を被覆する工程、
【0021】
(b) 溶剤と、結合剤と、電極材料粒子とを含む電極インクにより生地基板複合体を被覆して、生地電極複合体を形成する工程及び
【0022】
(c) 金属支持電極を形成するのに十分な条件下で生地電極複合体を加熱する工程。
【0023】
本発明の更に別の実施の形態は、層状に配置される下記構成(a)、(b)、(c)及び(d)を備える新規な金属支持体電気化学セルを提供する。
【0024】
(a) 下記構成を備える金属基板、
(a)(i) 約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する一層を形成する第1の金属を含む多孔質金属支持体及び
(a)(ii) 第2の金属のミクロン型粒子及び金属酸化物のミクロン型微粒子を含みかつ金属基板の片側に被覆される障壁層、
【0025】
(b) 障壁層上に設けられる第1の電極層、
【0026】
(c) 第1の電極層上に設けられる電解質層、
【0027】
(d) 電解質層上に設けられかつ第1の電極層とは反対の極性を有する第2の電極層。
【0028】
本発明は、金属支持固体酸化物形燃料電池(MS-SOFC)若しくは固体酸化物形電気分解電池(SOEC)又は固体酸化物電気化学センサ等、金属支持体電気化学セルに有用な新規多孔質金属基板及びその新規製造法を提供する。本発明は、最大約10cm×10cm以上の平面面積を有する実質的に平坦で傷のない層表面を備えかつ基板厚約1.0mm未満、好ましくは約0.1mm~0.50mmのセルを製造できる点で有利である。実質的に平坦で傷のない層表面を維持しつつセル厚さを最小限に抑制する技術条件は、単位重量当たりの電力が約1,000W/kg、望ましくは約2,000W/kgを超えるセルの軽量化と高電力密度の達成に重要である。
【0029】
金属支持固体酸化物セル(MS-SOC)の製造法は、セル構成要素層をスクリーン印刷し、その後、脱脂して焼結して完了する。後述の基準に基づいて選択されるインク障壁層配合物は、多孔質金属支持体の大きな細孔径によるセル構成要素の崩壊及び拡散を完全に排除しないが、大幅に抑制される。得られるミクロン型粒子とミクロン型微粒子の二峰性分布を構成する新規障壁層の選択により、金属支持体の粒径範囲約3μm~75μmの間隙と細孔が充填される。本明細書に記載する全工程は、約1,000W/kgを超える高電力密度の固体酸化物セルを発生する高電流密度の薄型基板を製造する本発明の新規な工程である。
【0030】
新規金属支持固体酸化物形燃料電池(MS-SOFC)の実施により、航空宇宙、防衛、エネルギー分野の用途を含む多くの用途に、高出力密度、高速応答、耐久性のある燃料セル発電機を設置する機会を与える。本発明の金属支持体電気化学セルにより、より軽量、高熱効率、効率的かつ耐久性のある電気化学セル積層体を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】障壁層で被覆される多孔質金属支持体を有する基板上に支持されるアノードを有する電気化学セルの断面図
【0032】
【
図2】本発明の一実施の形態による金属支持固体酸化物型燃料セルの作動時の分極曲線特性(電流密度I対電圧V特性と電流密度対電力P特性)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の目的に対し、用語「粒子」は、本明細書に記載する様々にかつ任意に分布する小粒径の微結晶又は粒子を示す。
【0034】
本明細書に使用する用語「層」は、厚さ寸法に対し、長さ寸法と幅寸法が著しく大きい擬二次元(薄膜状)構造を示す。第2の材料の全表面又は一部表面を被覆する第1の材料の一方の厚さの一平面又は薄板と一層を考えられる。本明細書に使用する用語「層」は、特定形状に層を限定せず、例えば、正方形、長方形、六角形、円、楕円又は設計上選択する他の任意形状を層に付与できる。通常同一形状を有するセル内の全層を揃えて密封し、端又は角で固定できる。
【0035】
本明細書に記載する数値範囲の用語「約」は、数値範囲の下限値を優先する。別段の限定のない限り、用語「約」は、下限値と上限値の両許容変動を考慮して、数値範囲の下限値と上限値の両方の優先を意図する。
【0036】
本発明の技術的利点は、実質的に平坦な基板層を製造して、基板層上に強固にかつ密着して設けられる電極層にある。用語「平坦」は、実質的に凹凸又は起伏のない描線又は輪郭軌跡で特徴付けられる平らな表面を意味する。平坦度の許容基準は、無拡大又は倍率約10~20の光学顕微鏡を使用して、表面の反り又は変形を探す目視検査で決定される。
【0037】
基板層に不許容数の割れ目、毛割れ、小穴、その他表面均一性に対する傷のない実質的に表面欠陥のない基板層の製造法が本発明の別の技術的利点である。基板層の反りの検査と同様に、基板層又は他のセル層の露出表面を拡大せずに、目視検査で傷を特定できる。別法として、約10~20倍の倍率の光学顕微鏡で視覚的に所望の表面を検査できる。カソード層を設ける前に多孔質金属支持体、障壁層、燃料電極及び電解質を含む半電池の検査を行うことが、特に有益である。
【0038】
多孔質金属支持体と障壁層とを含む複合体として本明細書に記載する薄くかつ軽量の基板を製造することが本発明の更に別の技術的利点である。本発明の基板は、板厚約1.1mm未満、通常約100μm~約1,000μm有する点で有利である。
【0039】
例示的な一実施の形態では、金属支持体電気化学セルに使用する新規金属基板は、下記構成(a)、(b)及び障壁相を備える。
【0040】
(a) 一層を形成しかつニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第1の金属により形成されかつ約3μm~75μmの粒径範囲の孔を有する層状の多孔質金属支持体及び
【0041】
(b) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の金属により形成される約2μm~20μmのミクロン粒径範囲粒子を含む障壁層、
障壁層は、セリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタン、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の金属を含む約0.1μm~1μm未満のサブミクロン粒径範囲の金属酸化物微粒子を更に含有する。
【0042】
本発明の別の例示的実施の形態では、多孔質金属支持体の層厚は、約80μm~1,000μmの粒径範囲と、約20体積%を超える気孔率を有し、好適な実施の形態では、約25体積%~50体積%の範囲の気孔率を有する。
【0043】
本発明の別の例示的実施の形態では、多孔質金属支持体層は、フェライト合金を含み、 好適には、約15重量%を超える量のクロムを含むフェライト合金を含む。
【0044】
本発明の別の例示的実施の形態の障壁層は、約10μm~50μmの粒径範囲の厚さを有する。
【0045】
本発明の別の例示的実施の形態の障壁層は、ニッケル及び銅からなる群から選択される第2の金属のミクロン寸法の粒子を含む。別の例示的実施の形態では、障壁層は、セリア又は希土類添加セリアからなるサブミクロン寸法の金属酸化物微粒子を含む。別の例示的実施の形態の障壁層は、クロム酸ランタン又は希土類添加クロム酸ランタンからなるサブミクロン寸法の金属酸化物微粒子を含む。更に別の例示的実施の形態の障壁層は、チタン酸ストロンチウム又は希土類添加チタン酸ストロンチウムからなるサブミクロン寸法の金属酸化物微粒子を含む。
【0046】
更に別の例示的実施の形態では、本発明は、層状に配置される下記(a)及び(b)を備える。
【0047】
(a) 下記(a)(i)及び(a)(ii)を備える金属基板、
(a)(i) 一層を形成しかつニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第1の金属を含みかつ約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する多孔質金属支持体、
(a)(ii) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつ約2μm~20μmの粒径範囲を有するニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の金属のミクロン型粒子を含む障壁層、及び
(b) 障壁層上に設けられる電極層。
障壁層は、約0.1μm~1μm未満の粒径範囲を有するセリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタン、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の金属を含む金属酸化物のミクロン型微粒子を更に備える。
【0048】
層状の金属支持電極を提供する。
【0049】
更に別の例示的実施の形態では、本発明は、層状に配置される下記構成(a)、(b)、(c)及び(d)を備える新規金属支持体電気化学セルを提供する。
【0050】
(a) (a)(i)及び(a)(ii)を有する金属基板
(a)(i) ニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される一層を形成する第1の金属を含みかつ約3μm~75μm粒径範囲の細孔を有する多孔質金属支持体、
(a)(ii) 多孔質金属支持体の片側に被覆されかつ約2μm~20μmの粒径範囲を有するニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の金属のミクロン型微粒子並びにセリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタニウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びこれらの混合物からなる群から選択される第3の金属を含む約0.1μm~1μmの粒径範囲を有する金属酸化物を含む障壁層、
【0051】
(b) 障壁層上に形成される第1の電極層、
【0052】
(c) 第1の電極層上に設けられる電解質層、
【0053】
(d) 電解質層上に設けられかつ第1の電極層とは反対の極性を有する第2の電極層。
【0054】
本発明の更に別の例示的実施の形態の電気化学セルは、第1の電極層を燃料電極層としかつ第2の電極層を酸素電極層(又は空気極層)とする金属支持固体酸化物形燃料電池又は金属支持固体酸化物形電気分解電池である。本発明の別の例示的実施の形態の電気化学セルは、約3μm~20μm層厚の燃料電極層、約1μm~20μm厚さの電解質層及び約10μm~30μm層厚の酸素電極層を有する。
【0055】
別の例示的実施の形態の燃料電極層は、ニッケル又は酸化ニッケルと、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ガドリニウム、サマリウム、カルシウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウムの酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物との組み合わせを含む複合体である。好適な一実施の形態の燃料電極層は、酸化ニッケル-イットリア安定化ジルコニア(NiO-YSZ)である。
【0056】
更に別の例示的実施の形態の電解質層は、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウム、カルシウムの酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物を含む。好適な一実施の形態の電解質層は、イットリア安定化ジルコニアである。
【0057】
バリウム、ストロンチウム、ランタン、サマリウム、プラセオジム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される物質をAとし、鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される物質をBとすると、更に別の例示的実施の形態の酸素電極層は、式ABO3で表される組成物から選択され、好適な実施の形態のABO3は、ランタン・ストロンチウム・コバルト・フェライト(LaSrCoFeO3)である。
【0058】
別の例示的実施の形態の電気化学セルでは、電解質層と酸素電極層との間に設けられる中間層は、場合により、約1μm~20μmの層厚を有する。中間層は、電解質の材料と酸素(又はカソード)の材料との反応を遅延する機能を有する。中間層は、IIA族元素から選択される1種類以上の金属を添加した1種類以上の希土類元素を通常含む。本発明の一実施の形態では、1種類以上の希土類元素は、ランタン、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施の形態の中間層には、セリアが配合される。
【0059】
本発明の理解を補助するため、本発明で想定する一実施の形態の電気化学セルの断面図を
図1に示す。図示の下から上方に、多孔質金属支持体、障壁層、燃料電極(アノード)、電解質、酸素電極(カソード)の順序の少なくとも五層を含む電気化学セルを当業者は、理解できよう。本発明では、燃料電極と特定の細孔径の多孔質金属支持体との間に、特定の化学組成の障壁層が配置される。
【0060】
多孔質金属支持体は、電気化学セルに使用できる強度、導電率及び熱膨張係数を有する任意の金属材料を通常含む。多孔質金属支持体は、純粋な金属元素又は合金等の組み合わせ金属元素として通常使用される。本発明に適する金属支持体の非限定例は、主成分の鉄と、15重量%を超える量のクロムと、少量の他の金属元素とを含むフェライト合金が挙げられる。約80μm(0.08mm)~1,000μm(1mm)、好ましくは、約100μm(0.1mm)~500μm(0.5mm)の層厚範囲を有する一薄板又は一層に、多孔質金属支持体は、通常形成される。全金属支持体及び金属支持体の内部に複数の細孔、溝及び/又は連通孔が形成されてガス成分の拡散を促進する「多孔質」の金属支持体が必要かつ重要である。多孔質金属支持体の総体積に対して、通常20体積(vol)%より大きく、約25~50体積%の気孔率範囲が好ましい。
【0061】
層厚上限範囲(800~1,000μm)の薄板状又は層状の多孔質金属支持体を供給業者から購入できる。当技術分野で公知のテープ注型法(材料粉懸濁液を薄膜状に成型して乾燥し焼結する薄膜形成法)により層厚約500μm未満の多孔質金属支持体を製造できる。テープ注型法は、溶媒、結合剤、粉末状の金属元素、合金又はそれらの前駆体、細孔形成剤、必要に応じて可塑剤及び分散剤の少なくとも1つを通常含む懸濁液を準備する工程と、所望の厚さの薄板又は薄膜に懸濁液を成型する工程とを含む。その後、溶媒を除去して生地を形成し、脱結合剤工程又は焼成工程を通じて、温度約300℃~800℃の酸化雰囲気空気中に形成した生地を暴露する。更に、例えば、水素とアルゴン又は窒素等の不活性ガスとの混合気等の還元雰囲気中で生地を更に加熱し、より緻密な多孔質素材の金属支持体が形成される。例えば、金属粉末から薄層多孔質金属支持体を準備する米国特許出願公開第2008/0096079号公報の内容を、参照して本明細書に組み込むものとする。
【0062】
障壁層上に被覆する所定の電極層の許容導電率の金属から、障壁層内の第2の金属のミクロン型粒子を通常得ることができる。選択した電極内の電子伝導性金属に同一又は略同一の金属から第2の金属が通常選択して、障壁層と電極との間の電気抵抗を低減できる。本発明の一実施の形態では、障壁層の第2の金属は、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、銅、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される。特に、ニッケルは、好適な第2の金属の実施例の1つである。障壁層内の第2の金属のミクロン型粒子は、多孔質金属支持体内と、障壁層と多孔質金属支持体との界面に沿う隙間とを充填する機能がある。
【0063】
障壁層の金属酸化物のミクロン型微粒子は、適切な多孔性と酸化物イオン(O2)伝導性を付与する金属酸化物から通常得られる。本発明の一実施の形態のミクロン型微粒子の金属酸化物は、 セリウム、ガドリニウム、サマリウム、ランタン、イットリウム、クロム、チタン、カルシウム、ストロンチウム、鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の金属から形成される。金属酸化物は、本発明の種々の実施例に適合する。例示的な一実施の形態の障壁層の金属酸化物は、セリア又は希土類添加セリアである。別の例示的な実施の形態の障壁層の金属酸化物は、ランタンクロマイト又は希土類添加ランタンクロマイトである。更に別の例示的な実施の形態の障壁層の金属酸化物は、チタン酸ストロンチウム又は希土類添加チタン酸ストロンチウムである。ミクロン型粒子間の隙間を充填する機能の有るサブミクロン粒径微粒子は、障壁層と金属支持体との一方側界面及び障壁層と電極との他方側界面に特に均一かつ平坦な無傷の表面を形成する。
【0064】
本発明の基板を準備する際に、溶媒と、結合剤と、ミクロン寸法かつ第2の金属の粉末粒子と、サブミクロン寸法かつ金属酸化物の粉末粒子とを含むインク障壁層により多孔質金属支持体をまず被覆する。インク障壁層は、可塑剤、分散剤又はそれらの混合物も通常含む。例えば、選択する第2の金属の粒子又はニッケル若しくは酸化ニッケル等の酸化物の元素形態若しくは酸化物形態でミクロン型粒子は、インク障壁層に通常含まれる。インク障壁層に配合されるミクロン型粒子の粒径範囲は、通常約1μm~10μmである。インク障壁層内のミクロン型粒子分量範囲は、インク障壁層に含まれる金属の総重量に対し、約34重量%~65重量%である。選択する金属酸化物粒子としてインク障壁層に配合されるミクロン型微粒子の粒径範囲は、通常約0.05μm~0.5μmである。インク障壁層内のミクロン型微粒子の分量範囲は、インク障壁層の金属含有量の総重量に対し、通常約35重量%~66重量%である。
【0065】
インク障壁層に使用する溶媒は、通常温度約50℃~120℃で容易に除去できる通常の有機溶媒から選択される。アルコール、エステル及びケトンからなる群から通常選択される。溶媒の分量は、インク障壁層の総重量に対し、通常約5重量%~20重量%で配合される。結合剤の分量は、例えば、アルコール及びポリビニル系結合剤等市販結合剤配合物から約5重量%~20重量%で選択される。フタル酸類とグリコール類の可塑剤を含む適切な可塑剤の分量は、通常約1~10重量%で配合される。適切な分散剤は、約1重量%~10重量%の分量で背後される魚油及びアミン基を含む。全成分の混合後、多孔質金属支持体の片側にインク障壁層をスクリーン印刷して、生地基板複合体が製作される。
【0066】
インク障壁層印刷後、生地基板複合体を2段階熱処理により脱脂し焼結すると、本発明の多孔質金属基板が生成される。第1の段階の熱処理は、空気流中で実施される。支持体-インク複合体を温度範囲約60℃~450℃に加熱して、第1の段階の熱処理が行われる。ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスと水素との還元混合物雰囲気で、範囲約900℃~1400℃の温度に加熱して、障壁層を形成しかつ多孔質金属支持体に接着して、生地基板を焼結する第2の段階が行われる。障壁層は、金属支持体の細孔内へのセル成分の埋没を阻止する機能と共に、電極への支持体成分の有害な拡散とを阻止する機能を生ずる利点がある。それでも、金属支持体と障壁層の多孔性のため、ガス成分が基板の内外に拡散する。また、障壁層に被覆される電極の電気伝導度、酸化物イオン伝導度及び熱膨張係数の値に十分に対応する障壁層成分が選択される。
【0067】
燃料電極と酸素電極に有用な材料は、動作温度での安定性、固体酸化物電解質の熱膨張係数との互換性のある熱膨張係数及び固体酸化物セルの製造時及び動作時に固体酸化物電解質及び他の材料との化学的相溶性を備える必要がある。順方向動作では、燃料電極の機能は、電解質を通り拡散する酸化物イオンと、燃料電極に供給される燃料とを化合して、電子流を生成しかつ水と二酸化炭素を生成することにある。
【0068】
如何なる特定の燃料電極、電解質又は酸素電極にも本発明を限定すべきでないことを、当業者は、理解すべきである。当該技術分野で公知の燃料電極、電解質又は酸素電極の何れにも、本発明を適用できるが、燃料電極は、燃料、通常水素及び一酸化炭素を含む気体改質物を電極内に拡散させる多孔質無機金属複合材料(サーメット)層により通常構成される。電気伝導性とイオン導電性とを要する燃料電極は、標準的な窯業加工技術で製造される無機材料と金属材料とを組み合わせる無機金属複合材料(サーメット)により通常構成される。適切な燃料電極層は、例えば、ニッケル又は酸化ニッケルと、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ガドリニウム、サマリウム、カルシウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウムの酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物とにより構成される。本発明の一実施の形態の燃料電極層は、酸化ニッケル-イットリア安定化ジルコニア(NiO-YSZ)で構成される。
【0069】
固体酸化物電解質は、酸化物イオン(O2)を伝導する高密度セラミック層により構成される。電解質は、スカンジウム、セリウム、ジルコニウム、ランタン、ストロンチウム、マグネシウム、ガリウム、バリウム、イットリウム、ガドリニウム、サマリウム、カルシウム及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物により通常構成される。固体酸化物電解質層を形成する材料例は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)及びスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を挙げられる。開発される新規な電解質により、酸化物イオン伝導性が改善され、より剛性のある材料と抵抗率の問題を軽減して、本発明に利用する電解質層性能も改善される。
【0070】
酸素電極は、電極全体で酸素を均一に流動させかつ酸化物イオン(O2)を固体酸化物電解質に伝導する多孔質であることを要する。ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、(La,Sr)(Co,Fe)O3及びコバライトの何れかを、酸素電極を形成する非限定的な材料例に挙げることができる。
【0071】
燃料電極層、電解質層及び酸素電極層は、個別のインクのスクリーン印刷と熱処理とにより形成される。使用するインクは、溶媒、結合剤、関係する特定層のセラミック材料と金属成分を通常含み、必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤と分散剤とが配合される。本発明の例示的な実施の形態の燃料電極層用インクは、溶媒、燃料電極層の無機金属複合材料粉末前駆体、結合剤、可塑剤及び分散剤を含む。十分な混錬後、障壁層上に燃料電極インクをスクリーン印刷し、温度約60℃~120℃で乾燥させる。次に、燃料電極層上に電解質インクをスクリーン印刷する。多孔質金属支持体と、障壁層と、印刷された燃料電極層と、印刷された電解質層とを含む多層複合体は、前記の通り、まず加熱空気で熱処理し、次に還元雰囲気で熱処理して、金属支持半電池が形成される。電解質層とアノード層の焼結温度範囲は、通常最大1400℃である。焼結後、酸素電極インクを電解質層上にスクリーン印刷して、酸素電極層が形成される。
【0072】
通常の動作条件では、各電気化学セルは、約1V未満の低電圧電力しか生成しないが、多くの用途では、高電圧を必要とするので、実際の応用例では、本発明の複数の電気化学セルを直列又は並列に接続して積層体(スタック)を形成して、用途に合致する高電圧を得ることができる。積層体に機械的強度を付与しかつセルを互いに分離する2つの接続端子間に各電気化学セルを固定して、積層体が形成される。
【0073】
セルの酸化側と還元側の両側で高温に曝露される接続端子を、非変質性の安定化特性を保持する必要があるため、接続端子は、曝露する加熱環境と化学的環境に耐性のある導電性材料で形成される。本発明の一実施の形態の接続端子は、例えば、耐高温ステンレス鋼合金の金属板又は金属箔で形成される。別の実施の形態では、許容範囲の熱安定性と導電性とを有する無機金属複合材料により接続端子が形成される。本発明は、接続端子材料又は接続端子層の特定の層厚に限定されない。
実施例
【0074】
本実施例では、本発明の製造法により、フェライト金属粉末を使用して多孔質金属支持体及び障壁層を備える金属基板を形成した。フェライト系金属粉末(鉄クロム合金、平均粒径10μm)及びポリメタクリル酸メチル(平均粒径8μm)細孔形成剤と、溶媒、結合剤及び可塑剤の市販の配合物とを混合し、得られた混合物をテープ注型法により成型した。成型した生地薄膜を大気中で熱処理して有機材料を脱脂した後、水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気で生地薄膜を焼結して、厚さ0.45mm(450μm)かつ平均細孔径10μmの多孔質金属支持体を形成した。
【0075】
溶媒(アルコール)と、ポリビニルバインダー(6g)と、フタル酸エステル系可塑剤(1g)と、分散剤(魚油、1g)と、ミクロン寸法ニッケル粒子(30g、5μm)と、サブミクロン寸法ガドリニウム粒子添加セリア(20g、0.05μm、10%ガドリニウム)とを含むインク障壁層をスクリーン印刷で多孔質金属支持体に被覆して、生地基板複合体を生成した。
【0076】
アルコール(6g)と、ポリビニル結合剤(6g)と、フタル酸エステル系可塑剤(1g)と、分散剤(魚油、1g)と、酸化ニッケル(30g)と、イットリア安定化ジルコニア(20g)とを含む燃料電極(アノード)インクを、スクリーン印刷で生地基板複合体に被覆して、生地燃料電極複合体を準備した。
【0077】
アルコール(10g)と、ポリビニル結合剤(6g)と、フタル酸エステル系可塑剤(2g)と、魚油分散剤(2g)と、スカンジウム安定化ジルコニア(50g)とを含む電解質インクをスクリーン印刷で生地燃料電極複合体に被覆して、生地半電池を形成した。
【0078】
下記の加熱操作により、得られる生地半電池の共焼結を行った。室温の空気中に生地半電池を配置して、温度400℃に加熱した後、この温度に1~5時間保持した。次に、試料を配置した水素(5体積%)混合不活性ガス雰囲気を温度1320℃に加熱して、1~5時間維持し、その後、不活性ガス中の水素流下で試料を冷却した。
【0079】
走査型電子顕微鏡(SEM)で焼結した半電池を観察した。多孔質金属支持体と、障壁層と、燃料電極(アノード)と、電解質とを有する半電池の隣接層間に明確な境界(界面)を備える金属支持固体酸化物半電池製造法の製造状態を、エネルギー分散型X線分光法(EDS)スペクトルにより確認した。また、反りや欠陥がなく、平坦かつ均一な最上層の電解質の表面を観察した。酸素電極の被覆と燃料セル性能試験では、半電池構造を全般的に許容できる結果であった。
【0080】
形成した金属支持型半電池を使用して金属支持型固体酸化物燃料セル(MS-SOFC)を製造し、セル性能試験を行った。ランタンコバルト-セリア系材料(LaSrCoFeO3)を含む生地酸素電極層をスクリーン印刷で半電池の電解質層上に被覆した。前記手順により半電池を焼結して、金属支持型固体酸化物燃料セル(11μm、厚さ0.8mm)を形成した。
【0081】
図2は、金属支持型固体酸化物燃料セルの試験結果に基づく、分極特性曲線、即ち、電流I対電圧V特性と、電流I対電力P特性とを示す。試験結果は、1.10Vより僅かに高い750℃での開回路電圧(OCV)と本質的に電流密度1A/cm
2とを有する正常なセルを示す。
図2のセル電流名目密度は、0.7A/cm
2であり、電力8ワットを発生した(活性領域4×4cm
2を有するセル領域5×5cm
2を使用)。セルのピーク電力1A/cm
2をセル比電力1,000W/kgに相当する12ワットと算出した。
【0082】
厚さ0.8mmのセルの製造結果に基づき、同一セル性能を維持するものと仮定すると、より薄い金属支持型固体酸化物燃料セル(7g、0.45mmセル厚)及び更に薄い金属支持型固体酸化物燃料セル(4.5g、0.27mmセル厚)は、セル比出力の大幅な向上を示した。例えば、セル厚0.45mmと0.27mmとでは、単一セルから生成される電力12ワット(活性領域4×4cm2を有するセル領域5×5cm2の場合)のセル固有電力は、夫々約1700W/kg及び約2600W/kgとなる。
【0083】
本発明の限定数の実施の形態を詳細に説明したが、開示した実施の形態に本発明を限定して解釈すべきでないことは、容易に理解できよう。むしろ、記載がなくても、本発明の精神及び範囲に相応する任意の数の変形、変更、置換又は同等の構成を備える構成に、本発明を修正できよう。また、記載した本発明の様々な実施の形態の態様には、説明した実施の形態の一部のみを含む場合もあることは、理解されよう。従って、本発明は、前記説明により限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定すべきものである。
【国際調査報告】