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特表2024-510278官能化セルロース、セルロースの酵素官能化の方法、有機酸を使用するセルロースの酵素官能化の方法、ならびに増加した疎水性を有するセルロース、および物品の生成のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】官能化セルロース、セルロースの酵素官能化の方法、有機酸を使用するセルロースの酵素官能化の方法、ならびに増加した疎水性を有するセルロース、および物品の生成のための方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/00 20060101AFI20240228BHJP
   C08B 3/08 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08B3/00
C08B3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557148
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 BR2022050097
(87)【国際公開番号】W WO2022192978
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】102021005126-4
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521023425
【氏名又は名称】スザノ・エス.エー.
【氏名又は名称原語表記】SUZANO S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】519120798
【氏名又は名称】ウニベルシダデ デ サンパウロ-ユーエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シケイラ、ジェルマーノ
(72)【発明者】
【氏名】アランテス、バルデイル
(72)【発明者】
【氏名】マロッティ、ブラス・デ・ソウザ
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA25
4C090BC08
4C090BD36
4C090CA38
4C090CA43
4C090DA02
(57)【要約】
本発明は、セルロースが脂肪酸からの疎水性エステル基を含む官能化セルロース、ならびに増加した疎水性を有するセルロースを生成する、セルロースの官能化のプロセスおよび方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースが疎水性エステル基を含むことを特徴とする、官能化セルロース。
【請求項2】
前記セルロースが少なくとも0.01の置換度を有することを特徴とする、請求項1に記載の官能化セルロース。
【請求項3】
前記セルロースが、セルロース繊維、セルロースマイクロフィブリル、マイクロフィブリル化セルロース、セルロースナノフィブリル、ナノフィブリル化セルロース、セルロースフィラメント、またはこれらの混合物でありうることを特徴とする、先行する請求項に記載の官能化セルロース。
【請求項4】
前記疎水性エステル基が、有機酸、好ましくは2~18個の炭素の炭素鎖を有する有機酸に由来することを特徴とする、請求項1に記載の官能化セルロース。
【請求項5】
前記有機酸が植物起源のものであることを特徴とする、請求項1に記載の官能化セルロース。
【請求項6】
前記有機酸が、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ブタン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、メリッサ(melissa)、吉草酸、またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項4または5に記載の官能化セルロース。
【請求項7】
酵素がリパーゼであることを特徴とする、請求項1~6に記載の官能化セルロース。
【請求項8】
前記リパーゼが、AmanoリパーゼA、ブタの膵臓からのリパーゼ、カンジダ種(Candida sp)のアンタルチカ(antartica)およびルゴサ(rugosa)からのリパーゼ、コウジカビ(Aspergillus oryzae)からのリパーゼ、Immobead150に固定化されたリパーゼBカンジダ・アンタルチカから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の官能化セルロース。
【請求項9】
セルロースの酵素官能化の方法であって、酵素の作用により有機酸からセルロースにエステル基を導入することを含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項10】
前記方法が、少なくとも1gの酵素の存在下で少なくとも1Mの有機酸により各1gのセルロースを官能化することを含むことを特徴とする、請求項10に記載のセルロースの酵素官能化の方法。
【請求項11】
前記方法が、1:50:1のセルロース:有機酸:酵素の比による官能化を含むことを特徴とする、請求項10に記載のセルロースの酵素官能化の方法。
【請求項12】
前記方法が、少なくとも7.43gのリパーゼの存在下で208g~416.66gのブタン酸により各1gのセルロースを官能化することを含むことを特徴とする、請求項9~11に記載のセルロースの酵素官能化の方法。
【請求項13】
有機酸を用いるセルロースのエステル化の方法であって、リパーゼの酵素触媒により有機酸からセルロースにエステル基を導入することを特徴とする、方法。
【請求項14】
有機酸からのセルロースの酵素官能化方法であって、以下の工程:
1.セルロースを水性媒体中に分散させる工程;
2.前記水性媒体をエタノール/アセトン混合物に置きかえる工程;
3.前記セルロースをジメチルホルムアミドに再懸濁させ、少なくとも1%の質量濃度を得る工程;
4.撹拌下に保持しながら、1%m/m DMFのセルロース懸濁液の100g毎に少なくとも50:1の質量比の酸:酵素を添加し、反応混合物を生成し、次いで放置する工程;
5.前記懸濁液を遠心分離することによって、官能化セルロースを回収する工程;
6.任意に、前記官能化セルロースをアセトンに再懸濁させ、続いて遠心分離し、上澄みを除去し、前記セルロースを、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の水溶液に再懸濁させる工程;
7.任意に、続いて遠心分離により官能化セルロースを得て、蒸留水に再懸濁させる工程
を含むことを特徴とする、有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項15】
工程4が、少なくとも221gのDMFを含むことを特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項16】
セルロースの少なくとも0.25質量%の割合でセルロースを水性媒体中に分散させる工程(1)を特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項17】
工程(2)の前記エタノール/アセトン混合物が1:5~5:1の比であることを特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項18】
工程(4)の前記放置が少なくとも12時間、好ましくは72時間であることを特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項19】
前記反応混合物を遠心分離して、残留有機酸を除去する工程(4a)が工程(4)の後に続くことを特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項20】
酵素が加熱により非活性化される工程(4b)が工程(4a)の後に続くことを特徴とする、請求項14に記載の有機酸からのセルロースの酵素官能化方法。
【請求項21】
増加した疎水性を有するパルプを生成するための方法であって、
(a)セルロース原材料を供給すること;
(b)リパーゼの存在下、有機酸から誘導されたエステル基を導入することにより、前記セルロース原材料を官能化して、増加した疎水性を有する官能化セルロースを生じること;
(c)前記増加した疎水性を有する官能化セルロースを回収することを含むこと
を特徴とする、方法。
【請求項22】
請求項21に記載のセルロースの官能化のためのリパーゼの使用であって、リパーゼ/セルロースの割合が、セルロース1g当たり少なくとも1gのリパーゼであることを特徴とする、使用。
【請求項23】
請求項21に記載の官能化セルロースを含む物品であって、セルロースが少なくとも0.01の置換度の官能化度を有することを特徴とする、物品。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[001]本発明は、有機酸からの疎水性エステルを有する官能化セルロース、ならびにその官能化法、および増加した疎水性の特徴をセルロースに与える方法に関する。セルロースは、好ましくは、マイクロフィブリル化(CMF)またはナノフィブリル化(CNF)セルロースである。
【発明の背景】
【0002】
[002]環境保全、ならびに再生可能資源、たとえば、サトウキビおよび漂白ユーカリクラフトパルプ(bleached eucalyptus kraft pulp)(BEKP)に重点を置いた、リグノセルロース材料の供給源からの原材料の適用に関連して、環境持続可能性が経済発展に取って代わっている。両方の栽培物は、すでに確立された常に成長している市場を有していることに加えて、高い生産性、広範囲の流通を有する。これらの材料は、高分子、たとえばリグニンおよびバイオポリマー、たとえば、セルロースおよびヘミセルロースの供給源であり、セルロースが、多数の産業界、たとえば、パルプ製紙部門、梱包およびバイオエネルギーにおいて多数の用途があるので最も際立っており、ブラジルが世界で第2位のパルプ生産国であり、生産の3分の2を国際市場に送り出している。したがって、これは、セルロース微粒子およびナノ粒子、たとえば、それぞれマイクロフィブリル化セルロース(CMF)およびナノフィブリル化セルロース(CNF)を含むいくつかの新たな生成物の合成のための、主要な原材料のうちの1つである。
【0003】
[003]セルロース粒子は、原繊維の高充填セットから単離される。したがって、これらをより高価な材料、たとえば繊維またはカーボンナノチューブの代替物として考慮することができる。粒子を物理的および化学的の両方において異なる方法により単離することができ、これらは、産業部門にとって極めて望ましい特性、たとえば、高い機械抵抗性、軽量および多数のヒドロキシルのために高度な親水性を有し、故に複合材料の生成、特にナノ粒子の場合にはナノ複合材料の作製のために優れた材料になる。用途の範囲を拡大する目的において、セルロース粒子の官能化によって物理化学的特性を変えること、たとえばマイクロフィブリル化セルロース(CMF)またはナノフィブリル化セルロース(CNF)が望ましく、故に、他の材料との適合性を拡大する。
【0004】
[004]当該技術は、Huang et al.(HUANG,J.et al.Fully Green Cellulose Nanocomposites.In:HANIEH,K.et al.(Ed.).Handbook of Nanocellulose and Cellulose Nanocomposites.1.ed.Weinheim:Wiley-VCH,2017.Ip.301-334.)のように、ナノセルロースの表面が、物理的相互作用(分子および高分子の吸着)、およびセルロース材料と結合剤の共有結合を確立する目的の手法の使用の両方により官能化されうることを明らかにしている。これらの結合を確立する化学反応は、化学または生化学経路(酵素)により触媒されうる。基本的に、すべての化学官能化は、表面に安定した正または負の静電荷を導入し、とりわけナノ複合材料の非極性構造または疎水性の特性と一緒に使用される場合、より良好な分散を得ること、またはナノセルロースの表面エネルギーの特徴を調整して適合性を改善することを可能にするという主要な目的を有し、Habibi,LuciaおよびRojas(HABIBI,Y.;LUCIA,L.A.;ROJAS,O.J.Cellulose nanocrystals:chemistry,self-assembly,and applications.Chemical reviews,v.110,n.6,p.3479-500,9 June 2010.Available at:<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20201500>)により明らかである。
【0005】
[005]当該技術は、いくつかの分野、たとえば、生物医学、織物、空気および製紙産業に適用される、化学触媒を使用した官能化ナノセルロースの潜在性を明らかにしている。
【0006】
[006]産業界では、American Process Incorporation(Atlanta/Georgia,USA)およびInoFib(Grenoble/Isere,France)が機能性ナノセルロースの生成方法を開発した。American Processは、AVAP(登録商標)として知られている方法により、リグノセルロース分解性材料それ自体から抽出されたリグニンをセルロースの官能化のために使用する(CNC-L/CNF-L)。2012年に設立されたフランスの会社であるInofibは、官能化または非官能性CNFを見出すことが可能なポートフォリオ(INOFIB.InoFib.Available at:<http://www.inofib.fr/lentreprise/>.Accessed on:12 mar.2019)を有する。両方の会社は、彼らの材料の開発のために化学経路のみを使用する。
【0007】
[007]生物工学経路に関しては、酵素が触媒として使用され、生成物が生物医学分野(「薬物送達」およびバイオセンサー)に使用できることに加えて、利点、たとえば、穏やかな反応条件、低減されたエネルギー消費量を有する反応がある。これらの利点にかかわらず、セルロースナノ粒子の官能化反応における触媒としての酵素の使用は、文献においてほとんどなく、とりわけマイクロフィブリル化(CMF)またはナノフィブリル化(CNF)セルロースについてそうであり、依然として事実上探索されていない分野であるが、途方もない商業的潜在性のある分野である。
【0008】
[008]増加した疎水性を有するセルロースは、官能化として知られている方法において、より疎水性の化学基の導入により、マイクロフィブリル化(CMF)またはナノフィブリル化(CNF)セルロースのように、そのようなセルロースの表面に存在するヒドロキシルをマイクロとナノの両方のスケールで改質することによって達成されうる。単一工程で人工的に設計され構造的に制御されたナノセルロースを得ることを目的にした酵素官能化が、注目を集めており、Bozic(BOZIC,M.;GORGIEVA,S.;KOKOL,V.Laccase-mediated functionalization of chitosan by caffeic and gallic acids for modulating antioxidant and antimicrobial properties.Carbohydrate Polymers,v.87,no.4,p.2388-2398,2012)に報告されている。エステルの形成は、より高い疎水性をセルロース表面に賦与する1つの方法である。
【0009】
[009]本発明は、有機酸、好ましくは脂肪酸と、基材としてのセルロースのヒドロキシル基とを反応させるエステル化反応である、酵素官能化を適用し、故に増加した疎水特性を有するセルロース生成物を生じることによって、当該技術の問題を克服する。当該技術の努力、たとえば、無水酢酸を伴う酵素の使用にもかかわらず、本発明は、新たな化合物群、たとえば有機酸を利用して、より大きな疎水性値を達成する。好ましくは、有機酸は2~18個の炭素の炭素鎖を有し、好ましくは脂肪酸である。加えて、方法は、環境に注意して行われ、方法に環境持続可能性を提供し、それは、当該技術より少ない工程を有し、主として有機酸を植物性原材料から得ることができるからである。
【発明の簡単な説明】
【0010】
[010]本発明は、官能化セルロースであって、疎水性エステル基を含む、官能化セルロースを提供する。好ましくは、本発明の第1の目的である官能化セルロースは、有機酸、好ましくは脂を起源とする疎水性エステル基を有する。特定の態様において、有機酸から誘導されるエステル基は、酵素の作用によりセルロースに組み込まれ、酵素はリパーゼでありうる。有機酸は、植物起源のものであってもよく、とりわけ、ブタン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはこれらの混合物から選択されうる。セルロースの酵素官能化の方法も開示され、各1gのセルロースの官能化が、1gの酵素の存在下で少なくとも1Mの有機酸によって行われ、セルロース:酸:酵素の比が1:50:1である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】[011]図1Aは、溶媒切替(solvent switching)の後に実施されたレーザー回折により実施されたCMFのサイズ分析である(A)。
図1B】[012]図1Bは、異なる脂肪酸を使用した官能化反応の後に、レーザー回折により実施されたCMFのサイズ分析である(B)。
図2】[013]図2は、表1の値と、接触角の例証画像を伴った、官能化反応前および後にCMFを使用した異なる接触角との相関関係の代表例である。
図3A】[014]図3Aは、官能化反応の前に、図1Aのマイクロフィブリル化セルロース(CMF)を使用して実施された分析を伴う、XPS技術により生成されたスペクトルの代表例である。
図3B】[015]図3Bは、アシルドナーとしてブタン酸を使用した後に、図1Bのマイクロフィブリル化セルロース(CMF)を使用して実施された分析を伴う、XPS技術により生成されたスペクトルの代表例である(B)。
図3C】[016]図3Cは、アシルドナーとしてオレイン酸を使用した後に、図1Bのマイクロフィブリル化セルロース(CMF)を使用して実施された分析を伴う、XPS技術により生成されたスペクトルの代表例である(C)。
図4A】[017]図4Aは、官能化反応の前に、CMF漂白ユーカリクラフトパルプのAFM-IR技術を使用して生成された画像およびスペクトルの代表例である(A)。
図4B】[018]図4Bは、アシルドナー基としてオレイン酸を用いたセルロースの官能化反応の後に得られた、漂白ユーカリクラフトパルプのCMFのAFM-IR技術を使用して生成された画像およびスペクトルの代表例である(B)。
図4C】[019]図4Cは、アシル基ドナーとしてブタン酸を用いた官能化反応の後に得られた、漂白ユーカリクラフトパルプのAFM-IR CMF技術を使用して生成された画像およびスペクトルの代表例である(C)。
図5A】[020]図5Aは、官能化反応の前に、NMR技術を使用して生成されたセルローススペクトルの代表例である(A)。
図6】[021]図6は、本発明に使用される例示的パルプである、漂白クラフトパルプ(BEKP)CNF繊維の原子間力顕微鏡画像である。(B)。
図6】[022]図6は、本発明に使用される例示的パルプである、漂白クラフトパルプ(BEKP)CNF繊維の原子間力顕微鏡画像である。
図7】[023]図7は、本発明に使用される例示的パルプである漂白クラフトパルプ(BEKP)の、CNF繊維の平均直径分布のヒストグラムである。
図8】[024]図8は、溶媒交換の際の漂白サトウキビバガスパルプのCNFの粒径分布の例証である。
図9A】[025]図9Aは、酵素官能化処理前の漂白ユーカリクラフトパルプ(A)のX線励起光電子分光法(XPS)技術を介して生成された、セルロースに存在する結合のスペクトルの代表例である。
図9B】[026]図9Bは、酵素官能化処理後の漂白ユーカリクラフトパルプ(A)のX線光電子分光法(XPS)技術を介して生成された、セルロースに存在する結合のスペクトルの代表例である。
図10】[027]図10は、漂白サトウキビバガスパルプCNF繊維の原子間力顕微鏡画像である。
図11】[028]図11は、漂白サトウキビバガスのCNFの平均直径分布のヒストグラムである。
図12A】[029]図12Aは、酵素官能化処理前の漂白サトウキビバガスのパルプのX線光電子分光法(XPS)の技術を介して生成された、セルロースに存在する結合のスペクトルの代表例である(A)。
図12B】[030]図12Bは、酵素官能化処理後の漂白サトウキビバガスのパルプのX線光電子分光法(XPS)の技術を介して生成された、セルロースに存在する結合のスペクトルの代表例である(B)。
図13】[031]図13は、AFMにより生成された画像およびその対応するFT-IRスペクトルである。リサイクル数5の後の固定化酵素を用いる反応(CFM-F5)。
【発明の詳細な説明】
【0012】
[032]本発明は、官能化セルロース、それを得るためのプロセスおよび方法を指す。本発明は、セルロースの官能化を提供し、セルロースは、セルロース繊維、マイクロフィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロースまたはこれらの混合物でありうる。好ましくは、セルロースは、マイクロフィブリル化(CMF)またはナノフィブリル化(CNF)セルロースである。本発明の目的のために、セルロースは、たとえば、ベータ(1~4)連結を有する数百個から数千個のD-グルコース単位の直鎖からなる多糖を指し、これらは木材の原材料に存在する。木材およびパルプ繊維供給原料に存在するセルロースの量は、TAPPI T-294cm-09方法を使用して本発明に従って測定される。
【0013】
[033]この意味において、リグノセルロース材料のいくつかの供給源を使用することができ、サトウキビバガスおよび漂白ユーカリクラフトパルプ(BEKP)に重点が置かれている。
【0014】
[034]この意味において、セルロース繊維は構造に多くのヒドロキシル基を有し、そのことが水素結合を容易に確立すること、ならびに親水性の性格を与えることを可能にする。マイクロフィブリル化またはナノフィブリル化されると、繊維サイズ、絡み合いおよび接触表面により、結合を形成するこの能力は増加する。したがって、とりわけ微粉砕パルプの官能化は、より重要になる。
【0015】
[035]第1の態様において、本発明は、官能化セルロースであって、セルロースが疎水性エステル基を含む、官能化セルロースを提供する。好ましくは、本発明の第1の目的である官能化セルロースは、有機酸を起源とする疎水性基を有し、有機酸は2~18個の炭素の炭素鎖を有する酸であり、より好ましくは脂肪酸であり、さらにより好ましくは、ブタン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはこれらの混合物から選択される脂肪酸であり、疎水性エステル基が賦与される。
【0016】
[036]特定の態様において、有機酸から誘導されるエステル基は、酵素の作用によりセルロースに組み込まれる。酵素はリパーゼでありうる。
【0017】
[037]リパーゼは、エステル結合の加水分解反応または合成を触媒することができる酵素である。本発明に使用することができるリパーゼのうちで多くのものは、市販の製品として容易に入手可能である。本発明に従って使用されるリパーゼは、単独型またはリパーゼの組み合わせのものでありうる。本発明に適切なリパーゼの例は、AmanoリパーゼA、ブタの膵臓からのリパーゼ、カンジダ種(Candida sp)のアンタルチカ(antartica)およびルゴサ(rugosa)からのリパーゼ、コウジカビ(Aspergillus oryzae)からのリパーゼ、Immobead150に固定化されたリパーゼBカンジダ・アンタルチカである。たとえば、EC3.1.1.3リパーゼが引用される。
【0018】
[038]使用されるリパーゼの量は、反応におけるアシル基供与源の質量に基づいて、好ましくは[1.25]~[5]質量パーセント、特に[2]~[3]パーセントである。
【0019】
[039]有機酸は、植物起源のものでありうる。さらに、有機酸は2~18個の炭素の炭素鎖を有する有機酸であり、好ましくは、酸は脂肪酸であり、より好ましくは、脂肪酸は、ブタン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはこれらの混合物から選択されうる。使用される有機酸の量は、反応混合物の質量に基づいて、32.5~70質量%、特に60~65%である。
【0020】
[040]本発明の目的である官能化セルロースは、有利には、官能化された後に寸法の増加を示さない。このように、図1Aおよび1Bを比較的に使用すると、疎水性が増加したにもかかわらず、官能化によって、同じサイズのセルロースを得ることができることを検証することが可能である。図12に例証されているように、セルロース官能化によって得られる接触角が表示されており、CMFに組み込まれた脂肪酸に由来する炭素-炭素結合の量の増加を示すXPSスペクトルを例証する図2A~2Cにより裏付けられる。
【0021】
[041]このように、得られる官能化セルロースは、好ましくは、増加量のエステル基を有する。好ましくは、エステル基の存在は、セルロースの約50mmol/gである。この意味において、本発明の目的である官能化セルロースは、少なくとも0.01の官能化(置換)度および少なくとも0.01の表面置換度を提示する。
【0022】
[042]本発明の第2の目的は、セルロースの酵素官能化の方法であって、方法が、少なくとも1gの酵素の存在下で少なくとも1Mの有機酸により各1gのセルロースを官能化することを含み、セルロース:有機酸:酵素の比が1:50:1である、方法を提供することである。一例として、過剰量下で、各1gのセルロースに、588gの脂肪酸を47gのリパーゼの存在下で使用した。この意味において、本発明はまた、有機酸を用いるセルロースのエステル化の方法であって、脂肪酸のエステル基をリパーゼの酵素触媒によりセルロースに導入することによって達成される、方法も提供する。
【0023】
[043]本発明の第3の目的は、有機酸からのセルロースの酵素官能化の方法であり、以下の工程を含む:
[044]1.セルロースを水性媒体中に分散させる工程;
[045]2.水性媒体をエタノール/アセトン混合物に置きかえる工程;
[046]3.セルロースをジメチルホルムアミドに再懸濁させ、少なくとも1%の質量濃度を得る工程;
[047]4.撹拌下に保持しながら、ジメチルホルムアミド(DMF)中1%m/mでセルロース懸濁液の100g毎に少なくとも50:1の質量比の酸:酵素を添加し、反応混合物を生成し、次いで放置する工程;
[048]5.懸濁液を遠心分離することによって、官能化セルロースを回収する工程;
[049]6.任意に、官能化セルロースをアセトンに再懸濁させ、続いて遠心分離し、上澄みを除去し、セルロースを、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の水溶液に再懸濁させる工程;
[050]7.任意に、続いて遠心分離により官能化セルロースを得て、蒸留水に再懸濁させる工程。
【0024】
[051]好ましくは、工程4は、少なくとも221gのDMFを含む。
【0025】
[052]態様の一例として、マイクロフィブリル化セルロース(CMF)を、1%(m/m)の濃度に達するまで水性媒体で希釈し、溶媒交換を、連続遠心分離を使用して実施した。簡潔には、1%m/mのCMF水性懸濁液の10mLを、50mLの円錐遠心分離管により5℃および13,300g(6,000rpm)で5分間遠心分離し、上澄みを収集し、廃棄した。次いで、10mLのエタノール/アセトン(1:1)混合物を添加し、撹拌により混合物をホモジナイズし、懸濁液を同じ条件下で再び遠心分離した。この手順を合計5回繰り返した。5回目の遠心分離の終了時に、CMFを10mLのDMFに再懸濁させ、1%(m/m)の最終濃度を得て、およそ1mLのアリコートを取り出し、粒径についてレーザー回折により分析した。
【0026】
[053]官能化反応は、125mLのErlenmeyerフラスコにおいて、60mLの総反応体積を用いて、170rpmにより48時間の軌道撹拌下で行った。反応は、アシルドナー基として25gのオレイン酸、4.25gのDMF中1%m/mのCMF懸濁液、33gのDMFおよび2gのリパーゼ(CABL,Sigma)を使用して実行した。48時間後、反応混合物を上記に記述した条件下で遠心分離して、残留有機酸を除去し、固体材料(CMF)を10mLの蒸留水に再懸濁させ、5分間沸点加熱して、酵素を非活性化した。次いで、懸濁液を再び遠心分離し、得られたペレットを最初に10mLのアセトンに再懸濁させ、4回遠心分離した。4回目の遠心分離工程で上澄みを除去した後、CMFを10mLのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の1%水溶液に再懸濁させ、5回遠心分離した。最後に、5回目の遠心分離の後に得たCMFを10mLの蒸留水に再懸濁させ、再び遠心分離した。
【0027】
[054]図1Aおよび1Bは、溶媒交換の前(1A)および後(1B)に取った読取り値のレーザー回折により実施された、および異なる脂肪酸を使用した官能化反応の後(1B)にも実施されたサイズ分析を例証する。図1Aおよび1Bは、すべての官能化工程でCMFサイズに変化がなかったことを明確に実証しており、分析はレーザー回折機器により実行された。検証されたように、粒子分析器により評価された粒子のサイズに変化はなく、実施された溶媒の交換によってサイズを増加させることなく、CMFにおいてエステル化反応が発生した。
【0028】
[055]これらの工程の後に得られたCMFを、原子間力顕微鏡法-AFM、AFM-IR、NMR、接触角、およびX線励起光電子分光法-XPSの粒径分析に使用した。
【0029】
[056]接触角分析は、Rame-Hart 300F1ゴニオメーターを使用して実施した。機器を使用して、CMFおよび官能化CMF試料(CMF-F)で調製されたフィルム上の1μLの脱イオン水の液滴により接触角を測定した。フィルムは、官能化CMF/CMFの希釈溶液(0.1%)を室温で24時間乾燥することにより調製した。測定の良好な統計管理を可能にするため、3滴を各試料上に置き、5つの角度測定値を各液滴で取った。対照CMFの接触角の値は、親水性のために30°に近く、これらの結果は文献に見出されるものに類似していた。最初に、官能化に使用される生化学経路は、非官能化CMF(対照)と比較したときに、肯定的な結果を実証していることに注目することができる。異なる有機酸を官能化反応で比較し、対照と比較したとき高い疎水性を提示したのはオレイン酸とブタン酸であった。ブタン酸は高い値に達し、オレイン酸(>80°)と異なる疎水性値(>110°)に達し、図2の表1において見ることができる。
【0030】
[057]CMFの表面改質を、X線光電子分光法(XPS)によりさらに分析した。分析は、低圧力でMg Kライン(h=1253.6eV)を備え、10eVで作動する市販の分光計(Thermo Scientific K-Alpha)を使用して実施した。図3Aおよび3Bを比較することによって分かるように、結果は、表面の化学組成に明確な変化があり、炭素-炭素結合の数が増加していることを示す。
【0031】
[058]具体的に、図3A、3Bおよび3Cは、XPS技術を使用して生成されたスペクトルを示す。分析は、官能化反応の前(A)、ならびにアシルドナーとしてブタン酸(B)およびオレイン酸(C)を使用した後のCMFを使用して実行した。図を分析すると、CMFに組み込まれた有機酸に由来する炭素-炭素結合量の増加を検証することが可能である(BおよびC)。
【0032】
[059]さらに、官能化の前後の炭素原子の割合を分析する場合、下記の表2によると、表面に存在する炭素原子の量の増加が検証され、これらの原子は、CMFポリマーに連結されたオレイン酸に由来する。
【0033】
[060]
【0034】
【表1】
【0035】
[061]ここでCMF-FABは、ブタン酸官能化マイクロフィブリル化セルロースであり、CMF-FAOは、オレイン酸官能化マイクロフィブリル化セルロースである。
【0036】
[062]具体的に、表2は、酵素エステル化反応の前(対照)および後の、異なるリグノセルロース原材料のフィルムの表面上に見出される、XPSにより得た酸素原子の割合およびこれらと炭素原子との関係を実証する。表を観察すると、CMFにおいて炭素の量が増加し、故に、酵素エステル化反応の後に酸素/炭素比が減少していると結論づけることが可能である。
【0037】
[063]図4A~4Cに例証されているように、FT-IRを融合したAFMを使用して別の定性分析技術が実施され、この技術はAFM-IRとして知られている。この技術は、画像の生成に加えて、赤外スペクトルがマイクロファイバーの特定の地点から生成されることを可能にする。結果はCMFのエステル化にブタン酸とオレイン酸の両方を使用することにより、エステル化反応が十分に発生したことを示し、これは非官能化CMF(図4A)と異なり、1740cm-1の近くにエステル基の特徴的なバンドが現れた(図4Bおよび4C)ことによって証明されている。さらにAFMにより生成された画像は、CMFが官能化反応の後であっても同じサイズであることを示す。両方の分析は、National Center for Research in Energy and Materials(CNPEM)にあるNational Nanotechnology Laboratory(LNNano)において実行された。
【0038】
[064]図5は、ブタン酸官能化反応(図5)の前(図5A)および後(図5B)の試料を使用して生成された、核磁気共鳴(NMR)スペクトルを例証する。分析は、プローブ:4mm CP/MASを備えたAvance III 400 Equipment(Bruker)-9.4Tesla(水素周波数で400MHz)により実行した。生成されたスペクトルは、ACD Spectrus Processor 2018ソフトウエアバージョン2.5を使用して分析し、見出されたピークを表3に列挙する。
【0039】
[065]
【0040】
【表2】
【0041】
[066]具体的に、表3は、主要な化学基およびこれらの対応する「化学シフト」値が、図5Aおよび図5Bに示されるNMRスペクトルに見出されることを実証している。官能化反応の後には、新たなタイプの炭素ハイブリダイゼーション(sp3およびsp2)、ならびに新たな化学基(カルボキシル基)が見出される。スペクトルに示されるこの化学変化は、酵素リパーゼにより触媒された、CMFに存在するヒドロキシルとブタン酸とのエステル化反応に潜在的に起源する。
【0042】
[067]スペクトルの分析は、ピラノシド環のスペクトルに見出される炭素原子の存在を示唆し、官能化反応の後にCMFにおいて化学変化があったことを実証している(図5Aおよび5B)。14.08~36.62ppmで変動する値を有するピークの出現(図5B)は、ブタン酸から誘導された脂肪族炭素原子の存在を示す。さらに、175ppmの値を有する小さなピークを検証することが可能であり、セルロースと酸とのエステル化から誘導されたカルボキシル基の存在を示している。したがって、この分析は、官能化反応がブタン酸からのCMFにエステル基を生成することができるという記述を裏付けている。
【0043】
[068]物理的および化学的分析方法が一緒に使用される場合、これらに技術が分離されて使用される場合に不可能である特徴を分析することが可能である。したがって、NMRを使用すると、CMFが有効に官能化されたこと、すなわち、有機酸をアシルドナー基として使用し、酵素触媒を介してエステル化されたことが立証される。加えて、XPSおよび接触角によって、この反応を使用して生成されたフィルム表面の物理化学的特徴が改質され、対照材料(反応前)には存在していない特徴、たとえば、疎水性およびエステル基の存在を提示していることが明白である。
【0044】
[069]このようにして、記載されているように本発明の目的は、工程(1)がセルロースの少なくとも0.25質量%の割合でセルロースを水性媒体に分散させる、有機酸から開始されるセルロースの酵素官能化の方法である。
【0045】
[070]他に、本発明の目的である、有機酸からのセルロースの酵素官能化の方法は、1:5~5:1比の範囲内で工程(2)のエタノール/アセトンの混合物を提示する。好ましくは、方法は、工程(4)において、少なくとも12時間、好ましくは48時間の放置を含む。さらに、記載されているように、反応混合物を遠心分離して、残留有機酸を除去する工程(4a)が工程(4)の後に続くことができる。官能化方法の工程(4a)の後に、酵素が加熱により非活性化される工程(4b)を行うことができる。
【0046】
[071]加えて、本発明は、増加した疎水性を有するセルロースを生成する方法であって、
[072](a)セルロース原材料を供給すること;
[073](b)リパーゼの存在下、有機酸から誘導されたエステル基を導入することにより、前記セルロース原材料を官能化して、増加した疎水性を有する官能化セルロースを生じること;
[074](c)前記増加した疎水性を有する官能化セルロースを回収すること
を含む方法を提供する。
【0047】
[075]例2は、漂白ユーカリクラフトパルプ(BEKP)から単離されたナノセルロースの酵素官能化を実証する。この例において、漂白ユーカリクラフトパルプ(BEKP)を最初に1%セルロース固形分(m/m)で懸濁させ、溶媒として水を使用してディスクウルトラ-リファイナー(disk ultra-refiner)(SuperMassColloider,Masuko,Model MKCA6-5J)により処理した。MKGA10-80モデルディスクは、多孔質ではないセラミック材料(酸化アルミニウムおよび樹脂)製であり、如何なるナノメートル粒子の浸潤を防止し、ディスク間の良好な適合を可能にする。一方のディスクは静止したままであり、もう一方は動作中であり、1,600rpmで回転している。ディスク間の距離を決定し、固定した。簡潔には、運動のゼロ位置は互いに接触しているディスクにより生じるノイズによって決定した。ゼロ運動位置からウルトラ-リファイナーがセルロース懸濁液を供給し、ディスクを-100μmのディスク間振幅の位置に直ちに調整した。位置は負であるが、セルロース懸濁液の存在によって、ディスクが互いに接触しないこと、およびディスクが摩耗しないことが確実になる。
【0048】
[076]処理(エネルギー消費量21kWh/kg)の直後に取り出したCNF懸濁液試料を、およそ0.01%(m/v)の濃度に希釈し、雲母支持体上に滴下した。試料を有する雲母をデシケーターに少なくとも4時間設置した。試料を調製した後、the National Nanotechnology Laboratory(LNnano)of the Surface Sciences Laboratory,National Center for Research in Energy and Matter(CNPEM,Campinas,Brazil)において、Nanosurf FlexAFM顕微鏡(Switzerland)およびFMRシリカプローブ(Nanoworld)を使用して画像を取った。公称共振周波数の75kHzおよび公称力定数(スプリング)の2.8m/mで間次接触技術を使用して、システムを操作した。結果は、使用された条件下では、極めて小さな直径および1μmを超える長さを有するCNFを生成することが可能であることを示し、図6において見ることができる。Gwyddion2.49ソフトウエアプログラム(64ビット)で処理された画像から、CNF粒子の100個の直径測定値を取り、Originソフトウエア(バージョン2019)でグラフにプロットして、直径階級および平均直径を分析し、図7のヒストグラムに表示した。
【0049】
[077]CNFを調製した後、CNF溶媒を、連続遠心分離の使用により有機溶媒の水性懸濁液に交換した。簡潔には、50mLの円錐遠心分離管中の10mLのCNF水性懸濁液(1%m/m)を5℃および13,300g(10,000rpm)で5分間遠心分離し、上澄みを収集し、廃棄した。次いで、10mLのエタノール/アセトン混合物(1:1)を添加し、管を手作業で振とうして混合物をホモジナイズし、懸濁液を同じ条件下で再び遠心分離した。この手順を合計5回繰り返した。それぞれの遠心分離の後、およそ1mLのアリコートを取り、レーザー回折により粒径を分析した。5回目の遠心分離の終了時に、CNFを10mLのジメチルホルムアミド(DMF)に再懸濁させ、1%(m/m)の最終濃度を得た。予測されたように、粒子分析器で評価された粒子のサイズに変化はなく、図8において見ることができる。したがって、実施された溶媒の交換によってサイズに有意な変化を有することなく、CNFにおいてエステル化反応が発生することを確証することが可能であった。
【0050】
[078]官能化反応は、125mLのErlenmeyerフラスコにおいて、60mLの総反応体積を用いて、170rpmにより48時間の軌道撹拌下で行った。反応は、アシルドナー基として25gのオレイン酸、4.25gのDMF中1%m/mCNF懸濁液、33gのDMFおよび2gのリパーゼ(CABL,Sigma)を使用して実行した。48時間後、反応混合物を上記に記述した条件下で遠心分離して、残留有機酸を除去し、固体材料(CNF)を10mLの蒸留水に再懸濁させ、5分間沸騰加熱して、酵素を非活性化した。次いで、懸濁液を再び遠心分離し、得られたペレットを最初に10mLのアセトンに再懸濁させ、4回遠心分離した。4回目の遠心分離工程で上澄みを除去した後、CNFを10mLのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の1%水溶液に再懸濁させ、5回遠心分離した。最後に、5回目の遠心分離の後に得たCNFを10mLの蒸留水に再懸濁させ、再び遠心分離した。これらの工程の後に得られたCNFを、原子間力顕微鏡法-AFM、接触角、およびX線励起光電子分光法-XPSの粒径分析に使用した。
【0051】
[079]接触角測定は、Rame-Hart 300F1ゴニオメーターを使用して実施した。機器を使用して、CNFおよび官能化CNF試料で調製されたフィルム上の1μLの脱イオン水の液滴により接触角を測定した。フィルムは、CNFおよび官能化CNFの希釈溶液(0.1%)を室温で24時間乾燥することにより調製した。測定の良好な統計管理を可能にするため、2滴を各試料上に置き、5つの角度測定値を各液滴で取った。高い親水性、すなわち、0または0に近い値のために、対照の接触角値を定量化することが可能でなかったことを強調することが重要である。最初に、官能化に使用される生化学経路は、非官能化CNF(対照)と比較したときに、肯定的な結果を示していることに注目することができる。オレイン酸およびブタン酸は、対照と比較した場合、高い疎水性を示した。CNFと反応し、化学結合を形成し、故に高い疎水性の性格を移行する場合、その分子に存在する炭素の数が推測される。
【0052】
[080]CNFの表面改質を、X線光電子分光法(XPS)によりさらに分析した。分析は、低圧力でMg Kライン(h=1253.6eV)を備え、10eVで作動する市販の分光計(Thermo Scientific K-Alpha)を使用して実施した。官能化の前後の炭素原子の割合を分析する場合、下記の表3によると、表面に存在する炭素原子の量の増加が検証され、これらの原子は、CNFポリマーに連結されたオレイン酸に由来する。漂白ユーカリクラフトパルプ対照から単離された(図9A)および酵素官能化処理後(9B)のCNF。スペクトルは、National Center for Research in Energy and Materials(CNPEM)のNational Nanotechnology Laboratoryの施設を使用して、X線光電子分光法(XPS)技術を使用して生成した。実用的な方法では、CNFに存在する接続の変化を観察することが可能である。画像9A(対照)および9B(官能化)を比較すると、炭素-炭素(C-C)結合の量が増加していた。さらに、画像9Bを観察すると、新たなバンド(289.04e.v)の出現が検証され、カルボニル型結合を表している。したがって、生成されたスペクトルから、オレイン酸(18個の炭素の炭素鎖を有する有機酸)とのエステル化反応を起源とする、CNF表面の化学組成の変化を、化学分析によって立証することが可能である。
【0053】
[081]表4は、酵素エステル化反応の前後の、漂白クラフトパルプから誘導されたCNF製のフィルムの表面に見出される、炭素原子の割合およびこれらと酸素原子との関係を表す。
【0054】
【表3】
【0055】
[082]本発明は、また、セルロースの官能化におけるリパーゼの使用であって、リパーゼ/セルロースの割合が、セルロース1g当たり47gのリパーゼである、使用を提供する。この意味において、例3は、漂白サトウキビバガスパルプから単離されたナノフィブリル化セルロースの酵素官能化を明らかにする。
【0056】
[083]最初に、使用されるサトウキビバガスのセルロースパルプを、蒸気爆発により、続いてアルカリ脱リグニンにより前処理して生成した。脱リグニン処理から得た材料の漂白を、2段階で実行し、1つは酸性であり、もう一方はアルカリ性であった。第1の段階では、容量2LのParr com反応器において、50gの乾燥材料を固体液体比の1:20で処理した。過酸化水素(H2O2)を濃度の8%(m/m)、ならびに3%でNaOH(m/m)および1.2%でMgSO(m/m)を添加した。反応を一定撹拌(120rpm)下、80±2℃で2時間行った。この工程の後、材料を濾過し、乾燥材料の質量の20倍、混合物の10倍および真空濾過流の10倍に比例する蒸留水の体積で洗浄した。第2の段階は、同じ反応器において、同じ固体比(1:20)により、以前の反応から回収されたすべての質量を使用し、濃酢酸を2.0%v/m(乾燥質量に対する体積)の濃度に達するまで、ならびに6%m/vの塩化ナトリウムを添加した。反応を75±2℃で2時間実行した。より高濃度のリグニンを除去するため、この工程をさらに2回繰り返した。したがって、4回の漂白反応を実行し、1回は酸媒体によるものであり、3回は塩基性媒体によるものであった。
【0057】
[084]ナノフィブリル化セルロース(NFC)の生成を目的として、漂白サトウキビバガスから単離したセルロース懸濁液(固形分1%(m/m))を、溶媒として水を使用するウルトラ-ディスクリファイナー(SuperMassColloider,Masuko,Model MKCA6-5J)により処理した。ディスク(MKGA10-80モデル)は、多孔質ではないセラミック材料(酸化アルミニウムおよび樹脂)製であり、如何なるナノメートル粒子の浸潤を防止し、ディスク間の良好な適合も可能にする。一方のディスクは静止したままであり、もう一方は動作中であり、1,600rpmで回転している。ディスク間の距離を決定し、固定した。簡潔には、運動のゼロ位置は互いに接触しているディスクにより生じるノイズによって決定した。ゼロ運動位置からウルトラ-リファイナーがセルロース懸濁液を供給し、ディスクを-100μmのディスク間振幅の位置に直ちに調整した。位置は負であるが、セルロース懸濁液の存在によって、ディスクが互いに接触しないこと、およびディスクが摩耗しないことが確実になる。
【0058】
[085]処理(エネルギー消費量40kWh/kg)の直後に取り出したCNF懸濁液試料を、およそ0.01%(m/v)の濃度に希釈し、雲母支持体上に滴下した。試料を有する雲母をデシケーターに少なくとも4時間挿入した。試料を調製した後、the National Nanotechnology Laboratory(LNnano)of the Surface Sciences Laboratory,National Center for Research in Energy and Matter(CNPEM,Campinas,Brazil)において、Nanosurf FlexAFM顕微鏡(Switzerland)およびFMRシリカプローブ(Nanoworld)を使用して画像を取った。公称共振周波数の75kHzおよび公称力定数(スプリング)の2.8m/mで間次接触技術を使用して、システムを操作した。結果は、使用された条件下では、極めて小さな直径および1μmを超える長さを有するCNFを生成することが可能であることを示した(図10)。Gwyddion2.49ソフトウエア(64ビット)プログラムで処理された画像から、CNF粒子の100個の直径測定値を取り、Originソフトウエア(バージョン2019)でグラフにプロットして、直径階級および平均直径を分析した。見出された値は、生成されたCNFの大部分が10~20nmの範囲の直径を有することを示し、図11において見ることができる。
【0059】
[086]故に接触角測定は、Rame-Hart 300F1ゴニオメーターを使用して実施した(表5)。機器を使用して、CNFおよび官能化CNF試料で調製されたフィルム上の1μLの脱イオン水の液滴により接触角を測定した。フィルムは、CNFおよび官能化CNFの希釈溶液(0.1%)を室温で24時間乾燥することにより調製した。測定の良好な統計管理を可能にするため、3滴を各試料上に置き、5つの角度測定値を各液滴で取った。高い親水性、すなわち、0または0に近い値のために、対照の接触角値を定量化することが可能でなかったことを強調することが重要である(JONOOBI et al.,2010a;BOZIC et al.,2015)。最初に、官能化に使用される生化学経路は、非官能化CNF(対照)と比較したときに、肯定的な結果を示していることに注目することができる。オレイン酸およびブタン酸は、対照と比較した場合、高い疎水性を示した。
【0060】
[087]
【0061】
【表4】
【0062】
[088]CNFの表面改質を、X線光電子分光法(XPS)によりさらに分析した。分析は、低圧力でMg Kライン(h=1253.6eV)を備え、10eVで作動する市販の分光計(Thermo Scientific K-Alpha)を使用して実施した。図12Aおよび12Bを比較することによって分かるように、結果は、表面の化学組成に明確な変化があり、植物起源の異なる原材料からのセルロースにおける炭素-炭素および酸素-カルボニル結合の数が増加していることを示し、官能化の前後の炭素原子の割合を分析する場合、下記の表6によると、表面に存在する炭素原子の量の増加が検証され、これらの原子は、CNFポリマーに連結されたオレイン酸に由来する。具体的に、図12Aおよび12BはX線光電子分光法(XPS)技術を使用して生成された、セルロースに存在する結合のスペクトルを示す:漂白サトウキビバガスパルプ対照から単離された(図12A)および酵素官能化処置後(図12B)のCNF。スペクトルは、National Center for Research in Energy and Materials(CNPEM)のNational Nanotechnology Laboratoryの施設を使用して、X線光電子分光法(XPS)技術を使用して生成した。実用的な方法では、CNFに存在する化学結合の変化を観察することが可能である。画像12A(対照)および12B(官能化)を比較すると、炭素-炭素(C-C)およびカルボニル型結合(O-C=O)の量が増加していた。セルロースの単離に使用した原材料は、漂白サトウキビバガスであり、これは残留値(およそ4%)のリグニンを有する。CNFに存在するこのリグニンは、対照材料であってもカルボニル(エステル基)を有する。したがって、生成されたスペクトルから、オレイン酸(18個の炭素の有機酸)とのエステル化反応を起源とする、CNF表面の化学組成の変化を、化学分析によって立証することが可能である。
【0063】
[089]表6は、酵素エステル化反応の前後の、サトウキビバガスから誘導されたCNFに誘導されたフィルムの表面に見出される、炭素原子の割合およびこれらと酸素原子との関係を表示する。
【0064】
【表5】
【0065】
[090]得られた結果を分析すると、BEKP誘導と漂白バガスの両方において、使用されたセルロースの表面に化学的および物理的改質があり、これらの改質が、リパーゼにより触媒されたエステル化反応の結果であり、故に疎水性を増加していると結論づけることが可能である。現存する技術と異なり、提案されている方法は、リパーゼ酵素を使用してCNFを疎水性化すること、およびアシルドナー基として有機酸を使用することを目的とする。
【0066】
[091]したがって、この技術は、セルロースの供給源および有機酸の種類にかかわりなく官能的であることが実証されている。この意味において、固定化酵素による酵素官能化反応を例証する例4を裏付ける。
【0067】
[092]最初に、CMF溶媒交換を前記例に記述された方法と同じ方法で実行した。固定化酵素(リパーゼアクリル樹脂)を用いた官能化反応を、50mLのFalcon型遠心管において、6gの1%m/m近似CMF懸濁液、32.5gのブタン酸、5.9gのDMF、1.2gの酵素の合計反応質量の45.6gにより、170rpmのタンブリング(tumbling)撹拌下で実行した。量は、最初の反応では2gの酵素であった。他の反応では、反応値を回収された酵素の量に基づいて適応させて、最初の割合を常に維持した。パラメーターは、たとえば温度および時間であり、これらは、すべてのリサイクル反応においてそれぞれ45℃および48時間で一定に保持された。
【0068】
[093]固定化酵素の回収では、酵素の分離方法を、2つの濾過システムを使用する前(上流)および後(下流)で使用した。濾過システム1は、0.5mmの多孔質のステンレス鋼金属メッシュフィルターを使用する。それとは異なり、濾過システム2は、ワットマン濾紙番号1を組み合わせたブフナー漏斗を使用する。最初に、酵素を、濾過システム1の脱気水で洗浄し、後に、濾過システム2のヘキサンで洗浄した。両方とも真空システムに連結された。これらの工程の後、酵素をオーブン(45℃)で乾燥し、反応媒体に添加する(上流工程)まで3℃で保管した。それぞれの反応(下流工程)の終了時に、反応媒体を濾過システム1に設置し、200mlの蒸留水を添加した。次いでフィルターケーキを取り出し、濾過システム2に設置し、ヘキサンを添加した。この操作をさらに2回繰り返し、次いで、濾過材料を4,789gで5分間遠心分離して、酪酸およびDMFを除去し、その結果としてCMFを濃縮した。分離工程の終了時に、回収された固定化酵素を冷蔵庫に保管した。すべての分離工程からのCMFを水性媒体中で、さらに3回またはpH値のばらつきがなくなり、過剰量の酸が除去されたことを示すまで遠心分離した。
【0069】
[094]AFM-FTIR技術を使用して、1730~1750cm-1の領域に見出されるエステルのC-O-OH(カルボキシル)バンドの存在または非存在を検証することが可能である。加えて、グルコースモノマーに見出されるセルロースに存在するO-H結合の典型的なバンドを見ることもでき(1640cm-1)、図13に示されている。得られたスペクトルにおいて、官能化CMF(CMF-F)は、C-O-OHバンド(カルボキシル)が対照CMFにおいて証明されていないことを示し、マイクロファイバーのエステル化を化学的に示している。したがって、3つの異なるリサイクル反応においてCMF官能化の発生を化学的に立証することが可能であり、同じ酵素を使用してCMFを少なくとも5回エステル化できること(CMF-F5)を実証した。ここで実証された結果は、この技術は定性的なだけであるという事実から、官能化の強度を示していない。
【0070】
[095]固定化リパーゼを用いた官能化CMFフィルム(CMF-F)の接触角値を下記の表7に示す。第1の反応において固定化リパーゼで官能化したCMFフィルム(CMF-F1)は、114°の接触角をもたらした。さらに、固定化酵素は、5回までのリサイクル反応で官能化することができた。したがって、得られた接触角値は対照(CMF)より高く、試験した5回のリサイクル反応のすべてにおいてCMFが官能化されたことを実証した。
【0071】
[096]表7は、固定化酵素を使用して官能化されたCMFの接触角を表示する。
【0072】
【表6】
【0073】
[097]CMF:CMF対照
[098]**CMF F1:固定化酵素による1回の反応後のCMF、CMF-F2:以前に使用された同じ固定化酵素による2回の反応後のCMF、このようにしてCMF-5まで。
【0074】
[099]ここでも、本発明は、セルロースの供給源および有機酸の種類と無関係に、遊離および固定化リパーゼを使用して官能的であることが実証されている。
【0075】
[0100]本発明の目的である官能化セルロースは、また、使用物品、たとえば、フィルム、有機溶媒に基づいた非水性配合物に組み込むこともでき、このことは官能化セルロースを含む物品を得ることを可能にし、これは少なくとも0.01の官能化(置きかえ)度を表す。
【0076】
[0101]提案されている技術は、多数の用途を有し、高い付加価値を有する新たな材料から、パルプ輸送の費用を低減する、とりわけマイクロおよびナノスケールで、既存の角質化(hornification)プロセス、たとえば、技術特性を低減する悪影響である、乾燥プロセスで存在する多数のヒドロキシルが原因のセルロースマイクロおよびナノフィブリルの凝集を低減するために使用されるものまで、あらゆるものを生成することができる。したがって、酵素、特にリパーゼにより触媒され、有機酸、好ましくは2~18個の酸素の炭素鎖を有する有機酸、より好ましくは脂肪酸、さらにより好ましくは、ブタン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはこれらの混合物から選択される脂肪酸を使用する疎水性官能化方法は、たとえば、穏やかな反応条件を有し、製紙、包装および生物医学の部門を含むいくつかの産業部門に容易に適用可能である等の魅力的な特徴を有する。増加した疎水性を有するそのようなセルロースは、極めて豊富にある産業副産物である原材料として適用することに加えて、広範囲の材料と優れた適合性を持つ高い疎水性能を特質として有する。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
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図12A
図12B
図13
【国際調査報告】