(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/34 20060101AFI20240228BHJP
B23B 27/14 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C23C16/34
B23B27/14 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557205
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2022057100
(87)【国際公開番号】W WO2022195054
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】102021106674.3
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マンディ ヘーン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K030
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF22
4K030AA02
4K030AA13
4K030AA14
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4K030AA18
4K030BA02
4K030BA18
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4K030BA42
4K030BB03
4K030BB12
4K030CA02
4K030CA03
4K030CA17
4K030FA10
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030LA22
(57)【要約】
本発明は、材料工学の分野に関するものであり、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層およびその製造方法に関する。本発明の課題は、硬度および耐摩耗性が向上し、かつ時間およびコスト効率よく製造可能であるAlN硬質材料層を提供することである。本発明によれば、AlN基硬質材料層であって、該AlN基硬質材料層は、単層または多層の層系であり、少なくとも単層または多層の層系の少なくとも1つの層は、六方晶格子構造を有するAlN基硬質材料層であり、該六方晶格子構造は、<002>に形成された酸素ドープテクスチャを有し、酸素ドーピングは、0.01原子%~15原子%の範囲で存在する、硬質材料層が提供される。硬質材料層は、切削工具の摩耗保護層として使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層であって、前記AlN基硬質材料層は、プラズマ励起を伴わないCVDプロセスによって製造された単層または多層の層系であり、少なくとも前記単層または前記多層の層系の少なくとも1つの層は、六方晶格子構造を有するAlN層であり、前記六方晶格子構造は、<002>に形成された酸素ドープテクスチャを有し、前記酸素ドーピングは、0.01原子%~15原子%の範囲で存在し、かつ前記六方晶格子構造において直接的には格子結合していないものとする、硬質材料層。
【請求項2】
前記テクスチャが、>2.5~8のテクスチャ係数TCを有する、請求項1記載の硬質材料層。
【請求項3】
Al含有量が≧45原子%である、請求項1または2記載の硬質材料層。
【請求項4】
前記テクスチャが、柱状に形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項5】
前記h-AlN基硬質材料層が、5~40μmの層厚を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項6】
前記少なくとも1つのh-AlN基硬質材料層が、ナノ結晶性となるように形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項7】
晶子径が、5nm~100nmである、請求項6記載の硬質材料層。
【請求項8】
前記ナノ結晶性h-AlN基硬質材料層が、非晶質成分を有する、請求項6記載の硬質材料層。
【請求項9】
0.01原子%~25原子%の酸素ドーピングが存在する、請求項8記載の硬質材料層。
【請求項10】
前記h-AlN基硬質材料層が、Zr、Si、Hf、Taおよび/またはTiのドーピングを含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項11】
少なくとも1つのh-AlN基硬質材料層が、2500HV[0.01]~2800HV[0.01]の硬度を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項12】
少なくとも1つの結合層、中間層および/またはカバー層が存在する、請求項1から11までのいずれか1項記載の硬質材料層。
【請求項13】
前記結合層、中間層および/またはカバー層が、PSEの第4族~第6族遷移元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、オキシ炭化物、オキシ炭窒化物、またはAlもしくはZrの酸化物からなる、請求項12記載の硬質材料層。
【請求項14】
前記結合層、中間層および/またはカバー層が、TiN、TiCN、TiAlNおよび/またはそれらの組み合わせである、請求項12または13記載の硬質材料層。
【請求項15】
金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層の製造方法であって、CVD反応器内でのプラズマ励起を伴わないサーマルCVDプロセスによって、AlCl
3、H
2、N
2、NH
3、COおよび/またはCO
2の気相から、850℃~1050℃の温度および0.1kPa~30kPaの圧力で、テクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層を堆積させ、その際、COおよび/またはCO
2を、別個のガスフィードを通じてCVD反応器に別に供給する、方法。
【請求項16】
気相を生成するために、NH
3を別個のガスフィードを通じてCVD反応器に別に供給する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
0.30体積%~2体積%のNH
3を含む気相を使用する、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記h-AlN基硬質材料層の堆積の前に、PSEの第4族~第6族遷移元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、オキシ炭化物、オキシ炭窒化物、またはAlもしくはZrの酸化物から構成される少なくとも1つの結合層、中間層および/またはカバー層を堆積させる、請求項15から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
TiN、TiCN、TiAlNおよび/またはそれらの組み合わせを有する結合層、中間層および/またはカバー層を堆積させる、請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料工学の技術分野に関するものであり、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層およびその製造方法に関する。本発明によるAlN基硬質材料層は、高度のテクスチャを有し、かつ酸素ドープされており、例えば、切削工具の摩耗保護層、タービンブレードの保護層、またはマイクロエレクトロニクスの拡散バリアとして使用することができる。
【0002】
AlON層は先行技術から知られており、主に誘電体層として、またマイクロエレクトロニクスの抵抗変化型メモリに使用されている。ここで、この層は、多種多様なCVD(サーマルCVD、RTP-MOCVD)およびPVDプロセスによって製造される。
【0003】
特開2001-287104号公報には、酸窒化アルミニウムを含む1つ以上の被覆材が開示されている。酸窒化アルミニウム層は、Al-O-N固溶体、結晶性のAl-O-N化合物、または両者の混合物からなる。さらに、これにAlNを混合してもよい。
【0004】
独国特許出願公開第102010052687号明細書には、有利にはHSSや超硬合金などの基材上の立方晶系のAlNおよびAlONを有する多層酸窒化物の層系が開示されている。ここで、複数の層からなる層構造体が開示されており、有利には0.3~2.5マイクロメートルの層厚のCr、Al、OおよびNの元素から構成される酸窒化物層が含まれている。
【0005】
米国特許第4336305号明細書には、CVDプロセスにより、少なくとも1層のAl2O3またはAlONの薄い被覆材が表面に配置されたセラミックススローアウェイチップが開示されている。
【0006】
国際公開第2012126031号から、TiAlN層と、AlONおよび任意に炭素からなる第2の層との組み合わせが知られており、その際、Alを部分的に他の金属で置き換えることができる。
【0007】
先行技術から知られている解決策の欠点は、製造されたAlN硬質材料層の硬度および耐摩耗性が不十分であることである。先行技術によるAlN基硬質材料層は、約2000HVの硬度を示す。さらに、このようなAlN基硬質材料層の製造には時間およびコストがかかるという欠点がある。
【0008】
硬度および耐摩耗性が向上したAlN基硬質材料層を提供することが課題である。本発明はまた、AlN硬質材料層を製造するための、時間およびコスト効率のよいサーマルCVDプロセスを提供するという課題に基づいている。
【0009】
前述の課題は、特許請求の範囲の特徴により解決され、本発明は、相互に排他的でない限り、ANDの接続関係の意味で、個々の従属特許請求の範囲の組み合わせも包含される。
【0010】
本発明によれば、前述の課題は、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層であって、該AlN基硬質材料層は、プラズマ励起を伴わないCVDプロセスによって製造された単層または多層の層系であり、少なくとも単層または多層の層系の少なくとも1つの層は、六方晶格子構造を有するAlN基硬質材料層であり、該六方晶格子構造は、<002>に形成された酸素ドープテクスチャを有し、酸素ドーピングは、0.01原子%~15原子%の範囲で存在し、かつ六方晶構造において直接的には格子結合していないものとする、硬質材料層により解決される。
【0011】
有利には、テクスチャは、>2.5~8のテクスチャ係数TCを有する。また有利には、テクスチャは、柱状に形成されている。
【0012】
有利には、AlN基六方晶硬質材料層は、≧45原子%のAl含有量を有する。
【0013】
さらに有利には、h-AlN基硬質材料層は、5~40μmの層厚を有する。
【0014】
本発明の有利な一実施形態では、少なくとも1つのh-AlN基硬質材料層は、ナノ結晶性となるように形成されており、特に有利には、晶子径は、5nm~100nmである。
【0015】
さらに、ナノ結晶性h-AlN基硬質材料層は、特に有利には非晶質成分を有していてもよく、非常に特に有利には、0.01原子%~25原子%の酸素ドーピングが存在する。
【0016】
有利には、少なくとも1つのh-AlN基硬質材料層は、2500HV[0.01]~2800HV[0.01]の硬度を有する。
【0017】
さらに有利には、h-AlN基硬質材料層が、Zr、Si、Hf、Taおよび/またはTiのドーピングを含むことが提供されていてよい。
【0018】
有利な一実施形態では、少なくとも1つの結合層、中間層および/またはカバー層が存在し、これらの層は、特に有利には、PSEの第4族~第6族遷移元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、オキシ炭化物、オキシ炭窒化物、またはAlもしくはZrの酸化物からなる。非常に特に有利には、結合層、中間層および/またはカバー層は、TiN、TiCN、TiAlNおよび/またはそれらの組み合わせである。
【0019】
本発明によれば、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上のAlN基硬質材料層の製造方法であって、CVD反応器内でのプラズマ励起を伴わないサーマルCVDプロセスによって、AlCl3、H2、N2、NH3、COおよび/またはCO2の気相から、850℃~1050℃の温度および0.1kPa~30kPaの圧力で、テクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層を堆積させ、その際、COおよび/またはCO2を、別個のガスフィードを通じてCVD反応器に別に供給する、方法も提供される。
【0020】
有利には、気相を生成するために、CVD反応器にNH3を別に供給し、その際、特に有利には、0.2体積%~2体積%のCOおよび/またはCO2を含む気相を堆積させる。
【0021】
同様に有利には、0.30体積%~2体積%のNH3を含む気相からAlN基硬質材料層を堆積させる。
【0022】
本方法の有利な一実施形態では、h-AlN基硬質材料層の堆積の前に、PSEの第4族~第6族遷移元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、オキシ炭化物、オキシ炭窒化物、またはAlもしくはZrの酸化物から構成される少なくとも1つの結合層、中間層および/またはカバー層を堆積させ、これらの層を、非常に特に有利には、TiN、TiCN、TiAlNおよび/またはそれらの組み合わせを有する結合層、中間層および/またはカバー層として堆積させる。
【0023】
本発明は、プラズマ励起を伴わないサーマルCVDプロセスによって時間およびコスト効率よく製造され、かつ硬度および耐摩耗性が向上した、テクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層を提供する。
【0024】
本発明によれば、常に<002>方向に形成された六方晶格子構造のテクスチャを有する純粋なAlN基硬質材料層が提供される。AlN硬質材料層の六方晶格子構造を得るために、特にプラズマ励起を伴わないCVDプロセスによって、狙いどおりにかつ別個にCOおよび/またはCO2を別のガスフィードを通じてCVD被覆チャンバに導入し、それによって酸素を六方晶格子構造にドープしてそこに狙いどおりに取り込むことが提案される。ここで、酸素の直接的な格子結合は起こらない。したがって、先行技術とは異なり、h-AlN基硬質材料層は、CVD反応器内の不純物やリークに起因する酸素成分を含まず、格子間サイトのみに直接的に格子結合することなく、モルフォロジー特性に影響を与える狙いどおりの酸素ドーピングが行われる。
【0025】
その結果、2800HV[0.01]に及ぶ高硬度と高耐摩耗性とを示す、新規の、高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN硬質材料層が提供される。驚くべきことに、層の堆積時に特定の割合の酸素が狙いどおりに取り込まれることにより、本発明によるh-AlN基硬質材料層の構造および特性に好影響を与えられる。
【0026】
このことは、テクスチャを有し、0.01原子%~15原子%の範囲の酸素ドーピングを含み、それにより高い硬度および優れた耐摩耗性を示す六方晶格子構造を有するAlN基硬質材料層を提供し、製造することによって達成される。
【0027】
本発明において、テクスチャとは、プラズマ励起を伴わない本発明によるCVDプロセスによって基材上に成長する、酸素ドープh-AlN基硬質材料層の晶子の結晶学的配向であると理解されるべきである。ここで、テクスチャは、有利には柱状に形成されており、それぞれの柱状物は、実質的に六角形の、したがってハニカム状の形状を有する。
【0028】
高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のテクスチャが柱状に形成されていることより、本発明によるAlN基硬質材料層内の並置された柱状物の直接的な接触によって内部応力が生じ、この内部応力が、硬質材料層の強化をもたらし、ひいては硬度および耐摩耗性の大幅な向上をもたらす。
【0029】
本発明によれば、酸素ドープAlN基層系の少なくとも1つの層は、<002>に形成されたテクスチャを有する六方晶格子構造を有する。
【0030】
本発明による単層または多層のテクスチャは、テクスチャ係数TCによって表すことができる。
【0031】
ここで、テクスチャ係数TCは、JCPDS 0-25-1133に準拠して、以下の式によって算出される:
【数1】
【0032】
この算出には、以下の8つの原子面が用いられる:<100>、<002>、<101>、<102>、<110>、<103>、<200>、<112>。
【0033】
本発明による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のTCは、有利には>2.5~8である。
【0034】
本発明による解決策により、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体上の新規の酸素ドープh-AlN基硬質材料層が提供され、その際、h-AlN基硬質材料層は、単層または多層の層系である。
【0035】
多層の層系では、層系の少なくとも1つのh-AlN基硬質材料層が、ナノ結晶性となるように形成されていてよい。ナノ結晶層は、特に微粒状に形成されており、5nm~100nmの晶子径を有する。このようなナノ結晶性AlN基硬質材料層はさらに、非晶質成分を含むことができ、有利には0.01原子%~25原子%の酸素ドーピングを有することができる。
【0036】
被覆される物体と本発明による酸素ドープh-AlN基硬質材料層との間に、1つ以上の結合層、中間層および/またはカバー層が存在すると特に有利である。1つ以上の結合層、中間層またはカバー層を予め堆積させることにより特に、金属、超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される物体に対する本発明による酸素ドープh-AlN基硬質材料層のはるかにより良好な密着性を実現することができる。
【0037】
結合層とカバー層との間に1つ以上の中間層を堆積させることにより、層系全体、特に結合層の硬度の向上が達成される。
【0038】
1つ以上のカバー層を施与することにより、耐酸化性のさらなる向上と、後でその上に配置されるh-AlN基硬質材料層の結合性の向上とが可能になる。さらに、高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層と被加工材料との間の摩擦の低減が達成され、それにより、例えば摩耗保護層の耐用年数の大幅な改善が達成される。有利には、結合層、中間層またはカバー層は、PSEの第4族~第6族遷移元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、オキシ炭化物、オキシ炭窒化物、またはAlもしくはZrの酸化物からなる。
【0039】
特に有利には、結合層、中間層および/またはカバー層は、TiN、TiCN、TiAlNおよび/またはそれらの組み合わせから構成されていてよい。被覆される物体に良好に密着させるために、例えば、結合層はTiNからなることができる。硬度を向上させるために、例えばTiCN製の中間層が結合層上に堆積されていてもよい。さらに、本発明によるh-AlN基硬質材料層の密着性をさらに向上させるために、中間層上にTiN製の追加のカバー層が設けられていてもよい。
【0040】
本発明によるAlN基硬質材料層の六方晶格子構造と、CVD被覆装置における追加の酸素源としてのCOおよび/またはCO2の狙いどおりの使用に、本発明によるテクスチャが組み合わさることにより、≧45原子%の高いAl元素割合を有する2500HV[0.01]~2800HV[0.01]の特に高い硬度値が達成される。Alの可能な限り高い元素割合により、耐酸化性が向上し、その結果、特に高温で耐摩耗性に好影響が与えられる。
【0041】
h-AlN基硬質材料層が、Zr、Si、Hf、Taおよび/またはTiの追加のドーピングを有すると有利である。少量のZr、Si、Hf、Taおよび/またはTiを導入することにより、異種原子が六方晶格子構造に導入され、それによりh-AlN基硬質材料層の硬度および耐摩耗性が向上する。
【0042】
本発明によるテクスチャおよび酸素ドーピングを有するh-AlN基硬質材料層の摩耗特性の向上は、プラズマ励起を伴わないサーマルCVDプロセスによって達成され、この層を、CVD反応器内で、COおよび/またはCO2を狙いどおりに添加したAlCl3、H2、N2およびNH3から構成される気相から、850℃~1050℃の温度および0.1kPa~30kPaの圧力で堆積させることによって達成される。
【0043】
被覆に必要な反応性気相を、まずCVD反応器内で混合し、そこで基材上に直接堆積させると有利であることが判明した。
【0044】
CVD反応器内に気相を供給するには、NH3を別個のガス供給装置を通じて反応器チャンバに送るのが有利である。気相の成分を別々に供給することには、気相が、反応器内での堆積の瞬間に、はるかにより高い反応性を有し、その結果、ガス供給装置内で早期に反応する危険性が低減されるという利点がある。さらに、反応ガスをCVD反応器に別々に供給することにより、気相の組成を個別にかつ容易に調整することができ、特にNH3、CO2および/またはCOの供給を制御することができる。
【0045】
0.2体積%~2.0体積%のCOおよび/またはCO2を含む気相を堆積させると有利であることも判明した。COおよび/またはCO2を狙いどおりに添加することにより、六方晶格子構造への直接的な格子結合が生じることなく、AlN基硬質材料層に酸素が狙いどおりに取り込まれる。これは特に、h-AlN基硬質材料層の耐酸化性の向上につながる。有利には、気相はさらに、Zr、Si、Hf、Taおよび/またはTiのドーピングを有することができ、これらのドーピングは、硬質材料層の堆積時にh-AlN基硬質材料層の六方晶格子構造に取り込まれる。
【0046】
驚くべきことに、堆積される気相が0.3体積%~2.0体積%のNH3の割合を有する場合に、>2.5~8の高いテクスチャ係数TCを有する強度のテクスチャリングが達成されることを見出すことができた。
【0047】
本発明を総括すると、2800HV[0.01]に及ぶ高硬度と高耐摩耗性とを示す、新規の、高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層が提供される。驚くべきことに、層の堆積時に特定の割合の酸素が狙いどおりに取り込まれることにより、本発明によるh-AlN基硬質材料層の構造および特性に好影響を与えられる。新規のLPCVDプロセスにより、850℃~1050℃の温度範囲での層の製造が可能となる。
【0048】
以下、いくつかの実施形態例および付属の図面を参照して、本発明につき詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】実施形態例1によるCVDにより製造された高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN層のX線回折図である。
【
図2】実施形態例1による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のTEM像を示す図である。
【
図3】実施形態例1による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のTEM-EDX分析を示す図である。
【
図4】実施形態例2によるCVDによって製造された高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のX線回折図である。
【
図5】実施形態例2による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のTEM像を示す図である。
【
図6】実施形態例2による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のTEM-EDX分析を示す図である。
【
図7】実施形態例3による厚さ40μmの高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層のSEM断面像を示す図である。
【
図8】実施形態例4によるCVDによって製造された高度のテクスチャを有する酸素およびケイ素ドープh-AlN基硬質材料層のEDX分析を示す図である。
【
図9】実施形態例5によるCVDにより製造された高度のテクスチャを有する酸素およびジルコニウムドープh-AlN基硬質材料層のEDX分析を示す図である。
【
図10】実施形態例1、実施形態例4および実施形態例5による高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層の摩耗試験を示す図である。
【0050】
実施形態例1
結合層、中間層およびカバー層としての厚さ5μmのTiN/TiCN/TiN層系で予備被覆されたWC/Co超硬合金スローアウェイチップ上に、プラズマ励起を伴わないサーマルCVDプロセスにより、高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層をカバー層として堆積させる。被覆プロセスを、内径75mmの高温壁式CVD反応器内で行う。CVD被覆を、0.46体積%のAlCl3、0.31体積%のNH3、0.72体積%のCO2、4.80体積%のN2および93.71体積%のH2から構成される気相で行う。堆積温度は900℃であり、プロセス圧力は6kPaである。90分の被覆時間後に、高度のテクスチャを有する厚さ5.2μmの酸素ドープh-AlN基硬質材料層が得られる。
【0051】
X線撮影法による層分析を実施すると、h-AlN相が検出され、その晶子は、高度にテクスチャを有している状態で<002>方向に成長している。テクスチャ係数TCは、7.2である。
図2および
図3による元素分析と組み合わせたTEM試験により、h-AlN相には13原子%の酸素がドープされていることが明らかになった。ビッカース圧子を用いて測定した微小硬さは、2690HV[0.01]であった。
【0052】
TEMでの元素分析により、以下の元素含有量が判明した:
47原子% Al、
39.5原子% N、
13原子% O、
および0.5原子% Cl。
【0053】
実施形態例2
結合層、中間層およびカバー層としての厚さ5μmのTiN/TiCN/TiN層系で予備被覆されたWC/Co超硬合金スローアウェイチップ上に、サーマルCVDプロセスにより、非晶質成分を含むナノ結晶性である高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層をカバー層として堆積させる。被覆プロセスを、内径75mmの高温壁式CVD反応器内で行う。CVD被覆を、0.46体積%のAlCl3、0.42体積%のNH3、0.61体積%のCO2、4.68体積%のN2および93.83体積%のH2から構成される気相で行う。堆積温度は850℃であり、プロセス圧力は6kPaである。90分の被覆時間後に、非晶質成分を含むナノ結晶性であり、高度のテクスチャを有する、厚さ6.0μmの酸素ドープh-AlN基硬質材料層が得られる。
【0054】
X線撮影法による層分析を実施すると、
図4によるX線回折図によってh-AlN相が検出され、その晶子は、高度にテクスチャを有している状態で<002>方向に成長している。テクスチャ係数TCは、4.2である。
図5および
図6による元素分析と組み合わせたTEM試験により、h-AlN相には24原子%の酸素がドープされていることが明らかになった。ビッカース圧子を用いて測定した微小硬さは、2580HV[0.01]であった。
【0055】
TEMでの元素分析により、以下の元素含有量が判明した:
45原子% Al、
30.5原子% N
24原子% O、
および0.5原子% Cl。
【0056】
実施形態例3
厚さ1μmのTiN結合層で予備被覆されたWC/Co超硬合金スローアウェイチップ上に、サーマルCVDプロセスにより、高度のテクスチャを有する酸素ドープh-AlN基硬質材料層をカバー層として堆積させる。被覆プロセスを、内径75mmの高温壁式CVD反応器内で行う。CVD被覆を、0.46体積%のAlCl3、0.45体積%のNH3、0.58体積%のCO2、4.80体積%のN2および93.71体積%のH2から構成される気相で行う。堆積温度は1000℃であり、プロセス圧力は6kPaである。150分の被覆時間後に、高度のテクスチャを有する厚さ40.0μmの酸素ドープh-AlN基硬質材料層が得られる。
【0057】
X線撮影法による層分析を実施すると、h-AlN相が検出され、その晶子は、高度にテクスチャを有している状態で<002>方向に成長している。テクスチャ係数TCは、5.4である。
図7による断面のSEM試験から、高度のテクスチャを有する厚さ40μmのh-AlN基硬質材料層が確認された。ビッカース圧子を用いて測定した微小硬さは、2760HV[0.01]であった。
【0058】
実施形態例4
結合層、中間層およびカバー層としての厚さ5μmのTiN/TiCN/TiN層系で予備被覆されたWC/Co超硬合金スローアウェイチップ上に、サーマルCVDプロセスにより、高度のテクスチャを有する酸素およびケイ素ドープh-AlN基硬質材料層をカバー層として堆積させる。被覆プロセスを、内径75mmの高温壁式CVD反応器内で行う。CVD被覆を、0.46体積%のAlCl3、0.06体積%のSiCl4、0.31体積%のNH3、0.72体積%のCO2、4.80体積%のN2および93.65体積%のH2から構成される気相で行う。堆積温度は900℃であり、プロセス圧力は6kPaである。90分の被覆時間後に、高度のテクスチャを有する厚さ4.8μmの酸素およびケイ素ドープh-AlN基硬質材料層が得られる。
【0059】
X線撮影法による層分析を実施すると、h-AlN相が検出され、その晶子は、高度にテクスチャを有している状態で<002>方向に成長している。テクスチャ係数TCは、3.7である。
図8によると、断面のEDX試験から、高度のテクスチャを有するh-AlN層への酸素およびケイ素のドーピングが判明した。ビッカース圧子を用いて測定した微小硬さは、2610HV[0.01]であった。
【0060】
実施形態例5
結合層、中間層およびカバー層としての厚さ5μmのTiN/TiCN/TiN層系で予備被覆されたWC/Co超硬合金スローアウェイチップ上に、サーマルCVDプロセスにより、高度のテクスチャを有する酸素およびジルコニウムドープh-AlN基硬質材料層をカバー層として堆積させる。被覆プロセスを、内径75mmの高温壁式CVD反応器内で行う。CVD被覆を、0.46体積%のAlCl3、0.04体積%のZrCl4、0.31体積%のNH3、0.72体積%のCO2、4.80体積%のN2および93.67体積%のH2から構成される気相で行う。堆積温度は1030℃であり、プロセス圧力は6kPaである。90分の被覆時間後に、高度のテクスチャを有する厚さ4.5μmの酸素およびジルコニウムドープh-AlN基硬質材料層が得られる。
【0061】
X線撮影法による層分析を実施すると、h-AlN相が検出され、その晶子は、高度にテクスチャを有している状態で<002>方向に成長している。テクスチャ係数TCは、4.1である。
図9によると、断面のEDX試験から、高度のテクスチャを有するh-AlN基硬質材料層への酸素およびジルコニウムのドーピングが判明した。ビッカース圧子を用いて測定した微小硬さは、2650HV[0.01]であった。
【国際調査報告】