(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】医薬ポリマーコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
A61K 33/30 20060101AFI20240228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240228BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240228BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K33/30
A61P35/00
A61K47/64
A61K47/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557679
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 SG2022050139
(87)【国際公開番号】W WO2022197246
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】10202102785S
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523356134
【氏名又は名称】ジロニックス・ピーティーイー.リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ジニョク・フレッド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA03
4C086HA20
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA06
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、治療的に活性な二価金属イオンを細胞内送達するための組成物であって、(i)ポリペプチドに結合した1つまたは複数の標的化部分、(ii)それに開裂性リンカーを介して結合したイオノホア、および(iii)それに結合した二価金属イオンを有するポリペプチドを含む組成物、ならびにそのような組成物を調製する方法、ならびに治療法におけるそれらの使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド結合によって結合されたグルタミン酸モノマー単位を含むポリグルタミン酸を含むポリマー主鎖と、
それぞれが第1のリンカー部分を介してポリマー主鎖中のモノマー単位に共有結合し、モノマー単位から懸垂(pendant)している、複数の第1の受容体標的化部分と、
それぞれが開裂性リンカー部分を介してポリマー主鎖中のモノマー単位に共有結合し、モノマー単位から懸垂している、複数のイオノホアと、
またはその塩もしくは溶媒和物と
を含むポリマーコンジュゲート。
【請求項2】
それぞれが第2のリンカー部分を介してポリマー主鎖中のモノマー単位に共有結合し、モノマー単位から懸垂している、複数の第2の受容体標的化部分
をさらに含む、請求項1に記載のポリマーコンジュゲート。
【請求項3】
それぞれが標識リンカー部分を介してポリマー主鎖中のモノマー単位に共有結合し、モノマー単位から懸垂している、複数の標識部分
をさらに含む、請求項1または2に記載のポリマーコンジュゲート。
【請求項4】
前記塩が、その亜鉛(II)複合体である、請求項1、2、または3に記載のポリマーコンジュゲート。
【請求項5】
ポリマーコンジュゲートに対する亜鉛(II)の重量対重量比が、1:5~1:20の範囲内である、請求項4に記載のポリマーコンジュゲート。
【請求項6】
ポリマーコンジュゲート当たりの亜鉛(II)イオンの数が、平均して少なくとも20である、請求項4に記載のポリマーコンジュゲート。
【請求項7】
式IV、V、またはVI:
【化1】
によるポリマーコンジュゲート、またはその金属イオン複合体。
(式中、R
1はHであり、
R
2は、OH、またはOM、またはL
A-T
1、またはL
B-T
2、またはL
Q-Qであり、
L
Aは、結合またはポリマーに結合した第1の末端部位およびT
1に結合した第2の末端部位を有する二官能性連結基であり、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して接続されており、
L
Bは、結合またはポリマーに結合した第1の末端部位およびT
2に結合した第2の末端部位を有する二官能性連結基であり、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して接続されており、
L
Qは、ポリマーに結合した第1の末端部位およびQに結合した開裂性末端部位を有する二官能性連結基であり、第1の末端部位および開裂性末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して接続されており、
L
Zは、存在する場合、結合またはポリマーに結合した第1の末端部位およびZに結合した第2の末端部位を有する二官能性連結基であり、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して接続されており、
T
1は、第1の標的化部分であり、
T
2は、第2の標的化部分であり、
Qは、イオノホア部分であり、
Zは、存在する場合、蛍光団部分であり、
Mのそれぞれは、独立してH、プロトン、アルカリイオン、薬学的に許容される一価カチオンであるか、または存在せず、
aおよびbは、ゼロ、または約5までの有限数であるが、aおよびbは両方ともゼロではなく、
cは、約3から約50の範囲の有限数であり、
dは、存在する場合、約1であり、
mは、約50から約700の範囲の有限数である。)
【請求項8】
請求項7に記載のポリマーコンジュゲート、および薬学的に許容される希釈剤、担体、緩衝剤、ビヒクル、またはそれらの任意の組み合わせを含む、医薬組成物。
【請求項9】
非経口投与用に製剤化される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ポリマーコンジュゲートが、ポリマーコンジュゲートの亜鉛(II)複合体である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ポリマーコンジュゲートに対する亜鉛(II)の重量対重量比が、1:5~1:20の範囲内である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ポリマーコンジュゲート当たりの亜鉛(II)イオンの数が、平均して少なくとも20である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
患者の腫瘍を治療するための方法であって、請求項8から12のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を前記患者に投与するステップを含む方法。
【請求項14】
患者の腫瘍におけるパータナトスを誘導する方法であって、請求項8から12のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を前記患者に投与するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、治療有効量の金属イオンの細胞内送達に有用なポリペプチドポリマーコンジュゲートが提示される。本発明はまた、組成物が対象とする細胞内でパータナトスを誘導するための組成物、およびそのような組成物を使用する治療の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの複雑さおよび不均一性は長期にわたって認識されてきたが、しばらくの間、生理学的位置、組織学的外観、および系統による疾患分類などの歴史的発展に治療様式は追随してきた。最近、免疫療法および他の免疫関連の手法に注意が向けられており、例えば、ワクチン接種による抗がんT細胞免疫応答の開始、または腫瘍細胞にネオ抗原提示を引き起こす手段としての免疫原性細胞死の誘導が挙げられる。
【0003】
ネクロトーシス、ピロトーシス、またはパータナトスなどの免疫原性細胞死を誘導するための方法には、いくつかの機構が関連している場合がある。ネクロトーシスに基づく治療の可能性を実証する前臨床研究がいくつかある一方で、ピロトーシスまたはパータナトス経路を利用する方法については、ほとんど進歩が報告されていない。パータナトスは、DNA損傷センサーおよび修復酵素PARPの過剰活性化によって誘発される、プログラムされたネクローシスの一様式である。PARPの過剰な活性化により、反応生成物であるPARポリマーが蓄積し、AIFの核移行を引き起こし、次に重度のDNA断片化を誘発し、最終的には細胞死を誘発する。
【0004】
報告では、亜鉛またはカドミウムの急性毒性が、PARP1活性に関与していることが示唆されている。(非特許文献1、2)。例えば、亜鉛塩の神経毒性を評価した報告では、単純な亜鉛塩に由来する高濃度の亜鉛イオン(400μMまたは26μg/mL)は、培養皮質細胞におけるPARP/PARG媒介NAD+およびATPの枯渇、ならびにその後のネクローシスを誘導することが記載されている。(非特許文献3)。反対に、がん細胞株に対する亜鉛活性の研究では、特定の壊死機構が観察されたが、その亜鉛剤の濃度でラットに急性神経毒性を引き起こすことが他の研究者によって示された。(非特許文献4、5)。
【0005】
これらの二価金属イオンに関する他の研究では、それらのピリチオン(「Pyr」)複合体(すなわち、ZnPyr2)に焦点が当てられている。ある研究では、ZnPyr2が細胞毒性効果を示し、したがって潜在的に抗腫瘍特性を有すると報告されているが、その研究では、ZnPyr2ががん細胞株でアポトーシスを誘導し、いかなるDNA損傷も引き起こさずに完全なPARP切断を引き起こすことが判明した。(非特許文献6)。アポトーシスによる細胞死は、パータナトス機構に対して直交性である(機構的な共通性が欠如している)と考えられており、実際、ZnPyr2について報告されているPARP切断は、パータナトスカスケードを誘発する役割を果たす過剰活性は言うまでもなく、いかなるPAR活性も妨げるであろう。
【0006】
本発明者らは、2016年11月1日出願のシンガポール特許出願第10201609131Y号、および2017年10月30日出願の第10201708886R号において、可消化ポリマー亜鉛キレート複合体(それぞれ、γ-ポリグルタミン酸亜鉛[Zn-γPGA]およびα-ポリグルタミン酸亜鉛[Zn-αPGA])の抗がん効果について以前に開示した。その後、2018年6月22日出願のシンガポール特許出願第10201805412T号および2018年12月24日出願の第10201811577T号において、本発明者らは、関連する亜鉛ベースの薬剤が、単独療法として、または免疫腫瘍薬と組み合わせて、一連のがんの兆候に対して治療効果を有することについて開示した。前述の出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
それにもかかわらず、腫瘍に対するより大きな有効性、および/またはM2様マクロファージなどの他の細胞型に対する活性のどちらも示す改良された薬剤の必要性が依然として存在する。
【0008】
言及された問題を解決するために、ポリペプチドポリマーの設計を実験し、追加の構造的特徴および機能的特性が、細胞内、特に金属イオンの送達に使用されるポリペプチドコンジュゲートによって標的とされる細胞型内で治療効果を発揮する金属イオンの能力をどのように改善するかを実験した。二価金属イオンの細胞内送達に有用であり、さらにパータナトスを誘導することができるポリマーコンジュゲート組成物を調製するために、ポリマーに結合する部分の種類およびそれらの結合の方法を実験した。そのような組成物をがん細胞(固形腫瘍がんおよび血液がん細胞を含む)およびM2様マクロファージに対する活性について試験し、そのような組成物が強力な殺腫瘍効果を有し、かつパータナトスを誘導することを発見し、したがって本明細書に記載の本発明を完成した。
【0009】
本明細書に開示される組成物および方法は、標的化部分および開裂性イオノホア部分を含むポリペプチドポリマーコンジュゲートの金属イオン複合体が、様々なヒトおよびマウスの腫瘍においてパータナトスを誘導することができ、in vivo試験でのT細胞およびマクロファージなどの抗腫瘍免疫コンパートメントにおける応答を開始することができるという驚くべき観察に起因する。
引用
NPL1. Sheline, C.T., Wang, H., Cai, A.L., Dawson, V.L., Choi, D.W. (2002). Involvement of poly ADP ribosyl polymerase-1 in acute but not chronic zinc toxicity. Eur. J. Neurosci. 18, 1402-1409.
NPL2. Luo, T., Yuan, Y., Yu, Q., Liu, G., Long, M., Zhang, K., Bian, J., Gu, J., Zou, H., Wang, Y., Zhu, J., Liu, X., Liu, Z. (2017). PARP-1 overexpression contributes to cadmium-induced death in rat proximal tubular cells via parthanatos and the MAPK signalling pathway. Scientific Reports 7, 4331.
NPL3. Kim, Y.H., and Koh, J.Y. (2002). The role of NADPH oxidase and neuronal nitric oxide synthase in zinc-induced poly(ADP-ribose) polymerase activation and cell death in cortical culture. Experimental Neurology 177, 407-418.
NPL4. Carraway, R.E., and Dobner, P.R. (2012). Zinc pyrithione induces ERK- and PKC-dependent necrosis distinct from TPEN-induced apoptosis in prostate cancer cells. Biochimica et Biophysica Acta 1823, 544-557.
NPL5. Snyder, D.R., de Jesus, C.P., Towfighi, J., Jacoby, R.O., and Wedig, J.H. (1979). Neurological, microscopic and enzyme-histochemical assessment of zinc pyrithione toxicity. Food and Cosmetics Toxicology 17, 651-660.
NPL6. Zhao, C. et al. (2017). Repurposing an antidandruff agent to treating cancer: zinc pyrithione inhibits tumor growth via targeting proteasome-associated deubiquitinases. Oncotarget8, 13942-13956.
【発明の概要】
【0010】
本開示は、概して、治療的に活性なポリペプチドポリマーコンジュゲート組成物、ならびにそれらを製造する方法および使用する方法に関する。より具体的には、この組成物は、ポリマーに結合した標的化部分およびイオノホアリガンド、ならびに前記ポリマーに結合した治療的に活性な金属イオンを含み、そのような組成物は、治療有効量の金属イオンの組成物によって標的とされる細胞への細胞内送達に有用である。治療的に活性な金属イオンは、亜鉛(II)およびカドミウム(II)イオンから選択される。
【0011】
一態様では、本開示は、ポリペプチドポリマーコンジュゲート組成物およびその合成方法を提供する。ポリマーは、ペプチド結合を介して結合されたモノマー単位から構成されており、モノマー単位は、様々な官能部分をポリマーに結合させるために利用できる官能基を備えた側鎖を含む。好ましい一実施形態では、モノマー単位側鎖に存在する官能基は、カルボキシル基である。カルボキシル基は、様々な部分をポリマー主鎖に結合するための多種多様な周知の共役化学反応を提供する。また、この官能基はカルボキシレートの形態で調製でき、治療的に活性な金属イオンをポリマーに結合するために使用できる。
【0012】
少なくとも1つのモノマー単位側鎖は、標的化部分に結合し、少なくとも1つのモノマー単位側鎖は、イオノホア部分に結合する。標的化部分は、組成物が対象とする細胞上に見出される細胞表面受容体によって認識され得る分子を含む。したがって、この部分は、ポリマー組成物を特定の細胞に導く役割を果たし、その際、受容体は、細胞へのポリマー組成物の取り込みを促進することができる。イオノホアは、治療的に活性な金属イオンと配位複合体を形成できる分子を含む。概して、官能部分の結合は、リンカー基を介して側鎖官能基を官能部分と結合することによって達成される。好ましくは、標的化部分は、非開裂性共有結合リンカー基を介してポリマーに結合され、一方、イオノホア部分は、開裂性結合を含む共有結合リンカー基を介してポリマーに結合され、それによってイオノホア部分がポリマー主鎖から分離し、治療的に活性な金属イオンと複合体を形成することができる。
【0013】
標的化部分またはイオノホア部分のいずれにも結合していない残りのモノマー単位のうち、いくつかの実施形態では、そのようなモノマー単位側鎖は、独立して、プロトン化(カルボン酸)または非プロトン化(カルボン酸イオン)形態である。カルボキシル基の形態は、概して、ポリマーの固体形態を生成する化学的処理によって決まり、ポリマーは、塩として調製されても遊離酸として調製されてもよいか、またはポリマーは、溶液中で提供され、この場合、カルボキシル基の水溶液中のイオン化状態は、pHに応じる。他の実施形態では、複数の残りの非共役側鎖は、カルボン酸イオンとして存在し、治療的に活性な金属イオンと複合体を形成するが、他の残りの側鎖カルボキシル基は、プロトン化および/または非プロトン化形態で存在してもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明のポリマーコンジュゲートは、式(I)で示される部分構造を含む。
【0015】
【0016】
(式中、
Aは、イオン性官能基を有する側鎖を持つモノマー単位であり、
LQは、開裂性連結基であり、
Qは、イオノホアリガンドであり、
LAは、第1の連結基であり、
T1は、第1の受容体を標的とする第1の標的化部分であり、
Mは、出現ごとに独立して選択され、プロトン、カチオン性対イオン、または治療的に活性な金属イオンであってもよく、
括弧は、集合的にポリマーを形成する各種類のモノマー単位の、1回または複数回の出現を表す。)
各モノマー種類の数は互いに独立しているが、特定のモノマー種類の出現の回数は、本明細書に記載の組成物に所望される官能性および特性に従って選択され得る。当業者が理解するように、特に本明細書の開示を考慮すると、各モノマー種類の出現は、概して無作為に順序づけられているため、一次構造は例示によって意図されているのではない。
【0017】
他の実施形態では、本発明のポリマーコンジュゲートは、式(II)で示される部分構造を含む。
【0018】
【0019】
(式中、
式(I)と共通の記号は、同じ意味を有し、
LBは、第2の連結基であり、
T2は、第1の受容体または第2の受容体を標的とする第2の標的化部分である。)
他の実施形態では、本発明のポリマーコンジュゲートは、式(III)で示される部分構造を含む。
【0020】
【0021】
(式中、
式(I)および式(II)と共通の記号は、同じ意味を有し、
LZは、標識連結基であり、
Zは、標識部分である。)
標識部分は、化学合成の開発、またはin vitro、in situ、もしくはin vivoの調査研究を容易にするのに役立つ検出可能な標識である。好ましくは、標識は、蛍光団である。
【0022】
式(I)~(III)のそれぞれにおいて、ポリマー主鎖が側鎖官能基と同じかまたは同様の化学反応性を有する末端官能基を有する限り、連結基LA、LB、LQ、またはLZのうちの1つは、末端官能基の位置に結合してもよいことが認識されるべきである。これは、無作為な競合、共役反応における試薬の添加順序、またはカップリング剤、反応条件、もしくは特定のリンカー基の官能基による反応選択性の結果である場合がある。
【0023】
別の態様では、本発明は、存在する治療的に活性な金属イオンを用いて調製された式(I)~(III)の上記のポリマー組成物のいずれかを、治療的に活性なポリマーコンジュゲート剤として提供する。このような治療薬組成物は、概して、溶液として製剤化され、かつ投与経路および投与形態と一致する薬学的に許容される方法で製剤化される。一実施形態では、治療薬組成物は、静脈内投与用に製剤化される。
【0024】
別の態様では、対象における固形腫瘍または血液がんを治療するための方法における、治療的に活性なポリペプチドポリマーコンジュゲートの実施形態のうちのいずれかの医薬組成物の使用が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、治療される固形腫瘍または血液がんは、PARP媒介壊死を起こしやすい種類である。
【0025】
別の態様では、マクロファージ媒介炎症を治療するための方法における、治療的に活性なポリペプチドポリマーコンジュゲートの実施形態のうちのいずれかの医薬組成物の使用が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、M2様マクロファージを標的とし、マクロファージ媒介炎症状態を治療するのに有用である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、様々な免疫コンパートメントにおいて免疫応答を開始するのに有用である。
【0026】
別の態様では、細胞が葉酸受容体を過剰発現するために、病変を引き起こす細胞が葉酸部分による標的化を受けやすいか、または細胞が標的インテグリンを過剰発現するために、病変を引き起こす細胞がインテグリンのリガンドによる標的化を受けやすい対象の症状を治療するための方法における、治療的に活性なポリペプチドポリマーコンジュゲートの実施形態のうちのいずれかの医薬組成物の使用が本明細書で提供される。
【0027】
別の態様では、本明細書に開示される治療の方法で使用するための医薬組成物または医薬の製造における、本明細書に開示される実施形態のいずれかによるポリペプチドポリマーコンジュゲート組成物の使用が本明細書で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例6に記載されるポリマーコンジュゲートの一実施形態を示す図である。
【
図2】実施例7に記載されるポリマーコンジュゲートの一実施形態を示す図である。
【
図3】実施例8に記載されるポリマーコンジュゲートの一実施形態を示す図である。
【
図4】実施例9に記載される、対照として使用されるポリマーコンジュゲートを示す図である。
【
図5A】
図5Aは、4T1細胞に対する24時間処置後のLDH放出アッセイを使用した比較in vitro細胞毒性評価を示すグラフである。
図5Bは、in vitro時間分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Cは、in vitro用量分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Dは、PARP阻害剤PJ34を伴うかまたは伴わずに、C010DS-Znで処置した4T1細胞に対するin vitro PAR-ELISAアッセイの結果を示すグラフである。
【
図5B】
図5Aは、4T1細胞に対する24時間処置後のLDH放出アッセイを使用した比較in vitro細胞毒性評価を示すグラフである。
図5Bは、in vitro時間分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Cは、in vitro用量分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Dは、PARP阻害剤PJ34を伴うかまたは伴わずに、C010DS-Znで処置した4T1細胞に対するin vitro PAR-ELISAアッセイの結果を示すグラフである。
【
図5C】
図5Aは、4T1細胞に対する24時間処置後のLDH放出アッセイを使用した比較in vitro細胞毒性評価を示すグラフである。
図5Bは、in vitro時間分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Cは、in vitro用量分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Dは、PARP阻害剤PJ34を伴うかまたは伴わずに、C010DS-Znで処置した4T1細胞に対するin vitro PAR-ELISAアッセイの結果を示すグラフである。
【
図5D】
図5Aは、4T1細胞に対する24時間処置後のLDH放出アッセイを使用した比較in vitro細胞毒性評価を示すグラフである。
図5Bは、in vitro時間分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Cは、in vitro用量分解アポトーシス-ネクローシスフローサイトメトリーアッセイの結果を示す図である。
図5Dは、PARP阻害剤PJ34を伴うかまたは伴わずに、C010DS-Znで処置した4T1細胞に対するin vitro PAR-ELISAアッセイの結果を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、1.5時間処置した4T1細胞の代表的な共焦点蛍光画像である。
図6Bは、細胞生存率、AIFの核移行、および核TUNEL強度(nuclear TUNEL intensity)についての蛍光画像の定量分析を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、腫瘍部位によって層化された53個のPDX腫瘍タイプに対するC010DS-Znのex vivo IC50値を示すグラフである。
図7Bは、各PDX腫瘍断片に関連するTMBまたはMSIスコアに対するex vivo IC50値のプロットである。
図7Cは、CTG-1413肉腫PDX腫瘍断片からのex vivo細胞毒性反応データの1例を示す図である。
【
図7B】
図7Aは、腫瘍部位によって層化された53個のPDX腫瘍タイプに対するC010DS-Znのex vivo IC50値を示すグラフである。
図7Bは、各PDX腫瘍断片に関連するTMBまたはMSIスコアに対するex vivo IC50値のプロットである。
図7Cは、CTG-1413肉腫PDX腫瘍断片からのex vivo細胞毒性反応データの1例を示す図である。
【
図7C】
図7Aは、腫瘍部位によって層化された53個のPDX腫瘍タイプに対するC010DS-Znのex vivo IC50値を示すグラフである。
図7Bは、各PDX腫瘍断片に関連するTMBまたはMSIスコアに対するex vivo IC50値のプロットである。
図7Cは、CTG-1413肉腫PDX腫瘍断片からのex vivo細胞毒性反応データの1例を示す図である。
【
図8】10%DMSO(PC)またはC010DS-Znによるex vivo処置時のPDX腫瘍断片における抗γH2AX取り込みの比較蛍光画像特性を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、4T1-Balb/c処置モデルスキーム、腫瘍増殖動態、およびTMEにおける顕著な免疫応答を示す図である。
図9Bは、CT26-Balb/c処置モデルスキーム、腫瘍増殖動態、およびTMEにおける顕著な免疫応答を示す図である。
【
図9B】
図9Aは、4T1-Balb/c処置モデルスキーム、腫瘍増殖動態、およびTMEにおける顕著な免疫応答を示す図である。
図9Bは、CT26-Balb/c処置モデルスキーム、腫瘍増殖動態、およびTMEにおける顕著な免疫応答を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、スプラーグドーリーラットを使用したC010DS-Znの単回静脈内ボーラス投与後の、Cy5.5シグナルおよび亜鉛レベルを介してC010DSを個別に追跡した、C010DS-Znの血漿薬物動態プロファイルを示す図である。
図10Bは、4T1-Balb/cモデルに対する13日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
図10Cは、4T1-Balb/cモデルに対する16日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
【
図10B】
図10Aは、スプラーグドーリーラットを使用したC010DS-Znの単回静脈内ボーラス投与後の、Cy5.5シグナルおよび亜鉛レベルを介してC010DSを個別に追跡した、C010DS-Znの血漿薬物動態プロファイルを示す図である。
図10Bは、4T1-Balb/cモデルに対する13日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
図10Cは、4T1-Balb/cモデルに対する16日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
【
図10C】
図10Aは、スプラーグドーリーラットを使用したC010DS-Znの単回静脈内ボーラス投与後の、Cy5.5シグナルおよび亜鉛レベルを介してC010DSを個別に追跡した、C010DS-Znの血漿薬物動態プロファイルを示す図である。
図10Bは、4T1-Balb/cモデルに対する13日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
図10Cは、4T1-Balb/cモデルに対する16日間の非抗がん投与スキーム、その腫瘍増殖動態、および収集された腫瘍における処置に対するマクロファージ免疫応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書に開示されるポリマーコンジュゲートは、ポリマー主鎖に結合した2つの官能部分の種類から構成されており、治療的に活性な金属イオンと複合体を形成することができる。これらの成分(標的化部分、イオノホア部分、および金属イオン)は、本明細書に記載の金属イオンポリマーコンジュゲート複合体(metal ion polymer conjugate complex)として接合されると、対象において治療的利益を与える生物学的反応を誘導することができる。ポリマーコンジュゲートは、イオノホア部分の援助により、標的化部分によってポリマーコンジュゲートが向けられる受容体を発現する細胞の細胞内環境に、ある用量の金属イオンを送達する役割を果たすと考えられる。
【0030】
主題である高分子組成物には、その望ましい特性に寄与する全体的な特徴がいくつかある。第1に、本組成物は、細胞表面受容体に結合するリガンドを含む。このリガンドは、標的化部分と呼ばれる。目的のリガンドは、目的の細胞型で過剰発現しているか、または少なくとも豊富に存在する細胞表面受容体に結合するリガンドである。注目すべきことに、腫瘍細胞およびマクロファージなどの免疫細胞は、特定の受容体、例えば葉酸受容体または葉酸結合タンパク質を過剰発現することが判明しており、したがって、受容体リガンドまたはその類似体もしくは誘導体を使用してこれらの細胞型を標的とする手段を提供する。全体的に、標的化部分は、開裂されにくい方法で構造の残りの部分に共有結合する。構造の残りの部分との結合は、概して親水性であり、構造の残りの部分からの立体障害をほとんど受けずにリガンドが細胞表面受容体に接近することを可能とするのに十分な長さがある。複数の標的化部分が構造に結合されていてもよく、かつ/または1つより多くの種類の標的化部分が含まれていてもよい。
【0031】
第2に、本組成物は、金属イオンのイオノホアを含む。このイオノホアは、イオノホア部分と呼ばれる。イオノホアは、金属イオンと可逆的に結合し、生体膜を横断する金属イオンの輸送を助ける分子である。好ましい実施形態では、イオノホア部分は、開裂性結合を介して構造の残りの部分に結合される。さらなる実施形態では、結合は、高分子が蓄積する微小環境の結果として開裂される。さらなる実施形態では、イオノホアは、構造の残りの部分から開裂された結果として、正常に金属イオンと結合することができる。つまり、例えば、結合の開裂により、金属イオンに配位する基の1つであるイオノホア内の官能基が曝露される。複数のイオノホア部分が構造に結合されていてもよく、かつ/または1つより多くの種類のイオノホア部分が含まれていてもよい。
【0032】
第3に、本組成物は、生物学的効果をもたらすことができる金属イオンを含む。本組成物の目的は、治療的利益を有する生物学的効果をもたらすために、対象内に金属イオンを送達することである。全体的に、複数の金属イオンが各高分子構造体に結合しており、したがって、本質的に、特定の細胞環境にボーラス用量の金属イオンを提供する。本明細書に開示される構造体を使用して金属イオンを送達する利点は、そのような構造体がなければ、金属イオンをそのような濃度で細胞環境に送達することができず、かつ/または細胞、組織、器官、または対象全体に対する毒性効果がそのように欠如していなければ送達できないことである。
【0033】
第4に、本組成物は、(i)セットとして送達可能であり、セットとして機能するための、上記で論じた他の様々な成分が結合できる足場と、(ii)細胞がエンドサイトーシス(例えば、受容体媒介エンドサイトーシス、吸着エンドサイトーシスなど)によって組成物を取り込むのに十分なサイズまたは嵩との両方を提供する高分子から構成される。このような足場を提供し得る一般的な高分子構造体には、直鎖状ポリマー、分岐ポリマー、デンドリマー、および他の種類のナノ粒子が含まれる。概して、このような高分子は、コンジュゲートを調製して金属イオンを結合するために必要な官能基を提供することに加えて、水溶性、非毒性、および非免疫原性であるべきである。さらに、このような高分子は、好ましくは生分解性であり、そうでない場合は、効率的な腎排出のために約40kDa未満であるべきである。理論に束縛されるものではないが、エンドサイトーシスによる取り込み過程では、エンドソームおよびリソソームが組成物を受け入れ、その中の微小環境、例えば、低いpH、ならびに消化酵素、および酸化還元活性分子(例えば、グルタチオン)の存在により、イオノホアに開裂性結合がもたらされて開裂すると考えられている。その結果、金属イオンはイオノホアと結合することができ、イオノホアがエンドソームおよびリソソームから残りの細胞内環境への金属イオンの輸送を援助し、そこで金属イオンがパータナトス誘発などの意図された生物学的効果を発揮し得る。
【0034】
主題である組成物のこれらの全体的な原理および特性について説明してきたが、次に本発明の特定の実施形態について詳細に言及する。
A.ポリマーコンジュゲート。
【0035】
一実施形態では、ポリマーコンジュゲートは、式(IV):
【0036】
【0037】
およびその金属イオン複合体によって記載される。
式(IV)では、ポリマー主鎖は、ガンマ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)であり、直鎖状主鎖は、1つのモノマーのアミノ基と、第2のモノマー単位のガンマ位に位置するカルボン酸基の間のペプチド結合によって形成される。したがって、各モノマー単位のアルファ位にあるカルボン酸基は、共役に利用できるペンダント側鎖であり、カルボン酸イオンとして存在する場合、金属イオンと結合するか、またはカチオンと対になることも可能である。
【0038】
この式は、異なるモノマー単位の周りに角括弧を備えており、これは4つの異なる種類のモノマー単位があり、置換基によって定義される異なる構造を潜在的に有することを示している。各括弧は、下付き文字(左から右にc、a、b、およびm)を有し、各モノマー単位の種類が多くの場合に存在する可能性があることを示している。但し、この式は、ポリマー主鎖の接続性、つまり一次構造が、最初のモノマー種類の「c」単位であり、その後に2番目のモノマー種類の「a」単位が続く、などということを要求することを意図するものではない。むしろ、一次構造は、ポリマーコンジュゲート組成物を調製するために使用される合成経路によって生じる任意の傾向、例えば、当業者によって理解されるように、連結基および側鎖の付加の順序、連結基とαカルボキシル基の間に形成される結合の性質、カップリング剤、反応条件などの影響を受けて、さまざまなモノマー種類の無作為な順序を含む。
【0039】
末端位置を考慮すると、N末端では、R1はHであり、C末端では、R2はOHまたはOMまたはLA-T1またはLB-T2またはLQ-Qである。
T1およびT2は、標的化部分である。一実施形態では、T1およびT2はそれぞれ、異なるクラスの細胞表面受容体と結合し、したがって異なるクラスのリガンドを表す。別の実施形態では、T1およびT2は異なる分子であるが、それらはそれぞれ同じクラスの細胞表面受容体と結合する。T1およびT2は、天然のリガンド(受容体との天然の結合パートナーである細胞内に見られる分子)でもよいか、またはリガンド類似体(細胞内に天然には見られないが、受容体に対する結合親和性を有する分子)、またはリガンド誘導体(天然リガンドの修飾された形態であり、通常は結合を促進するために修飾されている)でもよい。T1またはT2が、反応して共有結合を形成しやすく存在する官能基を有する場合、その官能基を使用して、部分を連結基に結合するか、または部分をポリマーに直接結合させることができる。概して、リガンド類似体は、好適な官能基を有するように調製されている。葉酸などの天然のリガンドは、好適な官能基を有する場合があるが、そうでない場合には、好適な官能基を提供するためにリガンド誘導体を調製することができる。
【0040】
T1およびT2は、それぞれ連結基LAおよびLBを介してペンダント側鎖のα-カルボキシル基を通じてポリマー主鎖に結合している。LAおよびLBは、共有結合を介して標的部分をポリマー主鎖に結合することができる任意の化学部分である。T1またはT2がポリマーと直接共有結合を形成できる場合、LAまたはLBは、それぞれ結合を表す。それ以外の場合、LAおよびLBは、モノマー単位のペンダントα-カルボキシル基と結合を形成することができる第1の末端部位、ならびにT1およびT2の好適な官能基と結合を形成することができる第2の末端部位を有する二官能性分子をそれぞれ表し、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して互いに接続されている。第1の末端部位は、-O-、-S-、または-NH-であってもよく、それによってエステル、チオエステル、またはポリマーへのアミド結合が形成される。第2の末端部位は、-O-、-S-、-NH-、または-アシルであってもよい。3~20個の原子の鎖は、ポリエーテル、-O(CH2CH2)O-などのエーテルセグメント、または場合により置換されている直鎖状または分岐状炭化水素を含んでもよい。LAおよびLBの第1の末端部位および第2の末端部位は、同じであっても異なっていてもよい。便宜上、LAおよびLBに同じ第1の末端部位を提供すると、LAおよびLBとポリマーの間のカップリング反応を同時に実施することが容易になり得る。
【0041】
T1およびT2の少なくとも一方または両方が、標的化部分として存在する。指数「a」および「b」は、それぞれT1の組み込み度およびT2の組み込み度であり、「a」および「b」は、ポリマー当たりの組成物中のそのようなモノマー単位の平均数を表す。「a」および「b」は、それぞれ、ゼロ、または約5までの有限数であり得るが、「a」および「b」は、両方ともゼロではない。
【0042】
Qは、イオノホア部分であり、ポリマーコンジュゲートの金属イオン複合体を調製するために使用される金属イオンに対するイオノホアを含む。好ましい実施形態では、イオノホアは二座リガンドであり、リガンドの一方は、チオールまたはチオン基であり、他方のリガンドは、概してO-またはN-ベースの官能基である。一実施形態では、イオノホア部分は、チオールまたはチオン基を介してリンカーLQに結合されるように調製され、リンカーLQにはSベースの官能基が備わっており、それによりLQ-Qは、開裂され得るジスルフィド結合によって結合される。
【0043】
LQは、それを介してQがモノマー単位のα-カルボキシル基に結合される連結基を表し、LQは開裂性部位を含む。開裂性結合は、LQとQの間の結合である。LQは、モノマー単位のペンダントα-カルボキシル基と結合を形成することができる第1の末端部位、およびQの好適な官能基と結合を形成することができる第2の末端部位を有する二官能性分子を表し、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して互いに接続されている。第1の末端部位は、-O-、-S-、または-NH-であってもよく、それによってエステル、チオエステル、またはポリマーへのアミド結合が形成される。開裂性末端部位は、例えばQのチオール基とジスルフィド結合を形成するために、-S-であってもよい。3~20個の原子の鎖は、ポリエーテル、-O(CH2CH2)O-などのエーテルセグメント、または場合により置換されている直鎖状または分岐状炭化水素を含んでもよい。LQの第1の末端部位は、LAおよびLBの第1の末端部位と同じであっても異なっていてもよい。便宜上、LQ、LAおよびLBに同じ第1の末端部位を提供すると、LQ、LAおよびLBとポリマーの間のカップリング反応を同時に実施することが容易になり得る。
【0044】
指数「c」はQの組み込み度であり、「c」はポリマー当たりの組成物中のそのようなモノマー単位の平均数を表す。「c」は、約3から約50までの有限数であり得る。
Mは、それぞれの場合において、独立してH、プロトン、アルカリイオン、薬学的に許容される一価カチオンを表すか、または存在しない。
【0045】
指数「m」は、他のいかなる基にも存しないモノマー単位の組み込み度であり、「m」は、ポリマー当たりの組成物中のそのようなモノマー単位の平均数を表す。「m」は、約50から約700までの有限数であり得る。
【0046】
一実施形態では、ポリマーコンジュゲートは、式(V):
【0047】
【0048】
およびその金属イオン複合体によって記載される。
式(IV)中の記号と共通する式(V)中の記号は、同じ意味を有する。
式(IV)によって記載される実施形態に対して、式(V)の実施形態は、リンカー基LZを介してC末端γ-カルボキシル基でポリマーに結合する蛍光団部分Zをさらに含む。
【0049】
LZは、共有結合を介して蛍光団部分をポリマー主鎖(ここでは、末端モノマー単位)に結合することができる任意の化学部分である。Zがポリマーと直接共有結合を形成できる場合、LZは結合を表す。それ以外の場合、LZは、モノマー単位のカルボキシル基と結合を形成することができる第1の末端部位、およびZの好適な官能基と結合を形成することができる第2の末端部位を有する二官能性分子を表し、第1の末端部位および第2の末端部位は、3~20個の原子の鎖を介して互いに接続されている。第1の末端部位は、-O-、-S-、または-NH-であってもよく、それによってエステル、チオエステル、またはポリマーへのアミド結合が形成される。第2の末端部位は、-O-、-S-、-NH-、または-アシルであってもよい。3~20個の原子の鎖は、ポリエーテル、-O(CH2CH2)O-などのエーテルセグメント、または場合により置換されている直鎖状または分岐状炭化水素を含んでもよい。LZの第1の末端部位およびLZの第2の末端部位は、同じであっても異なっていてもよい。便宜上、LA、LB、およびLQの1つ、一部、またはすべてと同じ第1の末端部位をLZに提供すると、LZ、LA、LB、およびLQの一部またはすべてとポリマーの間のカップリング反応を同時に実施することが容易になり得る。
【0050】
式(V)には明示されていないが、末端位置での蛍光団部分の組み込み度は、正確に1ではない可能性がある。その代わりに、様々な反応収率の結果として、組み込み度は、約0.8~1.2になる可能性がある。
【0051】
一実施形態では、ポリマーコンジュゲートは、式(VI):
【0052】
【0053】
およびその金属イオン複合体によって記載される。
式(V)中の記号と共通する式(VI)中の記号は、同じ意味を有する。
式(V)によって記載される実施形態と比較して、式(VI)の実施形態は同じ成分を含むが、蛍光団部分Zが、リンカー基LZを介してペンダントα-カルボキシル基でモノマー単位の1つに結合している。
【0054】
指数「d」はZの組み込み度であり、「d」はポリマー当たりの組成物中のそのようなモノマー単位の平均数を表す。「c」は、約1(1より大きいかまたは小さい)の有限数であり得る。
B.ポリマーコンジュゲートの成分。
ポリマー主鎖。
【0055】
様々な部分およびイオンが結合する高分子構造体としての使用が本明細書で企図されるポリマーには、医薬用途に安全である生分解性の非免疫原性ポリマーが含まれる。ポリマーは、官能部分をポリマーに結合させるため、または金属イオンなどのカチオンと相互作用して結合するために使用できるカルボン酸官能基を提供するモノマー単位を含む。
【0056】
一実施形態では、ポリマーは、ペプチド結合によって結合されたモノマー単位を実質的に含む。さらなる実施形態では、モノマー単位は、グルタミン酸の任意の形態から選択される。グルタミン酸の形態は、グルタミン酸のL異性体、D異性体、またはDLラセミ体を含む。これらの形態のいずれかを使用してもよく、任意の比率で2種以上の異なる形態をともに使用してもよい。
【0057】
別の実施形態では、グルタミン酸モノマー単位は、α-カルボン酸基またはγ-カルボン酸基のいずれかを介してペプチド結合で結合してもよい。一実施形態では、同じカルボン酸基がポリマー中で繰り返し使用され、α-ポリグルタミン酸(α-PGA)またはγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)の均一なセグメントを含むポリマーが提供される。さらなる実施形態では、ポリマー全体にわたって同じ接続性が見られ、すなわち、ポリマーは、α-PGAまたはγ-PGAのホモポリマーであってもよい。α-PGAおよびγ-PGAのさまざまな異性体形態は、合成でも天然源由来でもよい。生物は通常、L異性体からポリ(アミノ酸)を生成するのみであるが、α-PGAまたはγ-PGAを生成する特定の細菌酵素は、いずれかの異性体または両方の異性体からポリマーを生成することができる。
【0058】
α-PGAまたはγ-PGAからなるものを含むグルタミン酸モノマー単位を含むポリマーは、様々なサイズおよびさまざまなポリマー分散度で提供され得る。ポリマーの分子量は、概して少なくとも約5kDa、最大で約100kDaである。いくつかの実施形態では、ポリマーの分子量は、少なくとも約5kDa、または少なくとも約10kDa、または少なくとも約20kDa、または少なくとも約30kDa、または少なくとも約35kDa、または少なくとも約40kDa、または少なくとも約50kDaである。いくつかの実施形態では、ポリマーの分子量は、最大で約100kDa、または最大で約90kDa、または最大で約80kDa、または最大で約70kDa、または最大で約60kDaである。許容されるポリマー分子量範囲は、上記に示したポリマー分子量値のいずれかから選択することができる。一実施形態では、ポリマーの分子量は、約5kDa~約50kDaの範囲内である。一実施形態では、ポリマーの分子量は、約50kDa~約100kDaの範囲内である。一実施形態では、ポリマーの分子量は、約50kDaである。ポリマーの分子量は、典型的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定に基づく数平均分子量(Mn)として与えられる。上記のポリマー質量は、Mnとして引用され、他の測定技術を使用して、例えば質量(重量)平均分子量(Mw)を求めることができ、所与の任意のポリマーの仕様を様々なポリマー質量表示の間で変換することができる。
標的化部分。
【0059】
企図される標的化部分は、葉酸、およびその類似体または誘導体などの葉酸受容体リガンド、ならびにRGDペプチドおよびその類似体または誘導体などのインテグリン標的化ペプチドを含む。
【0060】
葉酸受容体タンパク質は、多くのヒト腫瘍でしばしば発現される。葉酸は本来、葉酸受容体に対して高い親和性を有し、さらに結合すると、葉酸および結合されたコンジュゲートは、エンドサイトーシスによって細胞内に輸送され得る。このようにして、葉酸部分を含むポリマーコンジュゲートは、腫瘍細胞を標的にして蓄積し、金属イオンを腫瘍細胞の近傍および/または内部に送達することができる。
【0061】
N5、N10-ジメチルテトラヒドロ葉酸(DMTHF)は、葉酸受容体に対して高い親和性を有することも公知である。DMTHFの調製は、Leamon,C.P.ら、Bioconjugate Chemistry13,1200~1210に記載されている。さらに、葉酸受容体(FR)には2つの主要なアイソフォームである、FR-αおよびFR-βがあり、DMTHFは、FR-βよりもFR-αに対してより高い親和性を有することが示されている(Vaitilingam,B.ら、The Journal of Nuclear Medicine53、1127~1134)。これは、腫瘍細胞を標的化するのに有益であり、なぜならFR-αが多くの悪性細胞型で過剰発現される一方、FR-βは、炎症性疾患に関連するマクロファージで過剰発現されるからである。したがって、葉酸ベースの標的化部分は、腫瘍細胞またはマクロファージによって発現される葉酸受容体に選択的に結合する手段を提供し得る。
【0062】
同様に、RGDペプチドは、腫瘍内皮細胞および一部の腫瘍細胞で発現される、α(V)β(3)インテグリンに強力に結合することが公知である。したがって、RGDコンジュゲートは、抗腫瘍剤を腫瘍部位に標的化して送達するために使用され得る。細胞表面受容体のインテグリンファミリー、がん、炎症性または自己免疫疾患を含むさまざまな病態におけるその役割、それに結合する天然リガンドおよび類似体またはミメティクス、ならびに結合方法に関するさらなる情報が、最近概説されている(Wu,PH.ら、(2019)Targeting integrins in cancer nanomedicine:applications in cancer diagnosis and therapy.Cancers 11、1783)。
【0063】
ポリマー主鎖への標的化部分の結合に関して、葉酸はモノマー(グルタミン酸モノマー単位など)の遊離カルボン酸基と結合して、両者を結合するアミド結合を形成できる環外アミン基を有する。葉酸と同じ環外アミン基が、DMTHFでアミド結合の形成に利用できる。RGDコンジュゲートも、当技術分野で周知であり、また同様に、例えばRGDの遊離α-アミノ基を介して遊離カルボン酸基に共有結合することができる。代替的に、いずれかの部分が、例えばポリエチレングリコールアミンなどの連結基(例えば、LAまたはLB)を介してポリマー主鎖に結合してもよい。α-PGAのγ-カルボン酸炭素基とアミノ基の間の共役反応の例は、Baiらの米国特許第9,636,411号に見出され、アミノ基およびヒドロキシル基に関するものは、Vanらによる米国特許付与前出願公開(US Pre-Grant Publication)第2008/0279778号に見出すことができる。葉酸およびクエン酸を含むγ-PGAへの共役反応の例は、WO2014/155142(2014年10月2日公開)に見出すことができる。他の合成スキームは、以下の実施例に提供される。
イオノホア部分。
【0064】
金属イオンに対するイオノホアを含むイオノホア部分は、金属イオンの治療活性を高めるために、金属イオンが細胞の細胞内コンパートメントに入るのを援助することができるリガンドを提供するための手段として、開裂性リンカー基を介してポリマーコンジュゲートに結合することが本明細書において企図される。例示的なイオノホアには、ピリチオンおよび1-ヒドロキシピリジン-2-チオンが含まれ、当業者は他の好適なイオノホアを特定することができる。これらのイオノホアは、イオノホア内の硫黄部分を使用してイオノホア連結基(LQ)のチオール基とジスルフィド結合を形成することができるという有益な特性を有し、イオノホアは遮蔽され、後程まで金属イオンと結合せず、ジスルフィド結合が開裂されると同時にイオノホアが放出され、遮蔽が解除される。別の実施形態では、イオノホア結合部位は、開裂される前に遮蔽されず、イオノホアがポリマーコンジュゲートから開裂される前および開裂される後の両方で、金属イオンと(結合を含めて)相互作用することができる。理論に束縛されるものではないが、これは、金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物が細胞に取り込まれ、その条件がジスルフィドの開裂に有利な場合に起こると考えられている。その結果、金属イオン-イオノホア複合体が形成され得、かつ/またはイオノホアは金属イオンが細胞内コンパートメントに入るのを援助することができる。
標識部分。
【0065】
例えば蛍光団などの検出可能な標識を含む標識部分は、ポリマーコンジュゲート組成物を容易に検出および/または定量化する手段としてポリマーコンジュゲートに結合することが本明細書において企図される。これは、調査研究において特に有用であると考えられる。直接または連結基(LZ)を介して蛍光団をポリマーに容易に結合させることを可能にする官能基を蛍光団構造が含む限り、当業者に公知の任意の標準的な蛍光団を使用することができる。例示的な蛍光団は、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、およびCy7色素を含むシアニン色素、ならびに市販されているこれらの色素の他の類似体および誘導体を含む。色素の特定の選択は、各化合物によって提供される特定の励起および発光波長、または共役反応の準備が整った状態で提供される活性化合成中間体の入手可能性に依存し得る。
金属イオン。
【0066】
金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物について本明細書で企図される金属イオンには、亜鉛(II)イオンおよびカドミウム(II)イオンが含まれる。金属イオン塩、例えば、亜鉛(II)塩(すなわち、Zn2+塩)が組成物を調製するために使用され、対イオン(アニオン)は、医薬品の製造における使用に好適な任意の無機または有機アニオンであり得る。好適なアニオンは、毒性ではないものを含め、人体に許容されるものである。概して、金属イオン塩は、式M2+X2-またはM2+(X-)2、さらにはM2+(X-)(Y-)で表すことができ、ここでM2+は、Zn2+またはCd2+であり、X2-/1-およびY2-/1-が好適なアニオンである。アニオンは、FDA承認の医薬品の成分であるアニオンの群から選択され得る。いくつかの実施形態では、金属(II)塩は、薬学的に許容される金属塩である。亜鉛塩の例としては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、クエン酸亜鉛、酢酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、アミノ酸亜鉛キレート、例えばグリシン酸亜鉛、または当技術分野で公知であり、使用されている他のアミノ酸が挙げられる。カドミウム塩の例としては、塩化カドミウム、硫酸カドミウム、および当技術分野で公知であり、使用されている他の塩が挙げられる。
C.金属イオン-ポリマーコンジュゲート複合体。
【0067】
金属イオン-ポリマーコンジュゲート複合体は、金属イオンを本明細書に記載のポリマーコンジュゲート組成物と組み合わせることによって調製され得る。本発明による複合体中の金属イオンの量は、モノマー単位(「MU」)に対する金属イオンのモル比、またはポリマーコンジュゲートに対する金属イオンの重量比として表すことができる。1:2、1:5、1:10、1:20の範囲のモル比が考えられ、さらに低い比率も可能であるが、その場合には、好適な用量の金属イオンを送達するために必要とされる投与量に含まれるPGAの量が増加する。投与量と非亜鉛成分の量の間の適切なバランスは、当業者によって決定され得る。一実施形態では、この比率は、約1:2から約1:10のZn:MUの間の任意の値である。別の実施形態では、この比率は、約1:3から約1:6の間の任意の値である。別の実施形態では、この比率は、約1:4.5である。他の実施形態では、金属イオンは、2つの成分の特定の重量比でポリマーコンジュゲートと組み合わされて、金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物を形成する。一実施形態では、金属イオン:ポリマーコンジュゲートの重量比は、約1:5から1:20の間であり、好ましい一実施形態では、重量比は約1:10である。
【0068】
金属イオン-ポリマーコンジュゲート複合体は、以下の実施例に開示される方法を含む、水溶性高分子電解質と金属イオン複合体を調製するための当技術分野で公知の技術によって調製することができる。このような複合体は、溶液として調製および保存されてもよく、または凍結乾燥して固体として保存されてもよい。溶液として調製される場合、組成物中に提供される金属イオンの濃度は、概して約1μg/mL~約100mg/mLの範囲である。これは、金属イオンの約0.0001重量%~約10重量%の範囲に相当する。濃度は少なくとも約10μg/mL、もしくは少なくとも約0.1mg/mL、もしくは少なくとも約1mg/mL、もしくは少なくとも約10mg/mL、もしくは少なくとも約50mg/mLであってもよく、または濃度の範囲は、これらの例示的な濃度のうちの任意の2つの範囲内に収まってもよい。一実施形態では、濃度は約100μg/mL~約5mg/mLの範囲であってもよい。別の実施形態では、濃度は約200μg/mL~約2mg/mLの範囲であってもよい。
D.医薬組成物。
【0069】
金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物は、医薬組成物または薬剤を調製するために使用され得る。一実施形態では、医薬組成物または薬剤は、液体剤形として製剤化されてもよい。好適な液体剤形は、溶液、懸濁剤、シロップ剤、および口腔スプレー剤を含む。このような溶液は、経口摂取されるか、または静脈内、皮内、筋肉内、髄腔内もしくは皮下などの注射によって投与されてもよいか、または腫瘍内に直接もしくはその近傍に投与されてもよいが、経口投与には一般に懸濁剤、シロップ剤およびスプレー剤が適切である。別の実施形態では、医薬組成物または薬剤は、液体剤形として投与する前に再構成される凍結乾燥形態として製剤化されてもよい。
【0070】
好ましくは、医薬組成物または薬剤は、対象、特にヒト患者への投与に好適であり、医薬組成物を意図した目的に対して安定で有効である状態にするのに好適である、1種または複数の薬学的に許容される担体、緩衝剤、希釈剤、ビヒクル、賦形剤、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、液体剤形は全身送達用に製剤化される。特定の状況では、金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物を、標準的な送達器具を使用して、好適に製剤化された医薬ビヒクルで、非経口的に、例えば、限定されないが、静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、腹腔内、経皮、または局所投与することが望ましい場合がある。他の実施形態では、液体剤形は、対象、特にヒト患者の腫瘤を含む体内または体の周囲の1つまたは複数の細胞、組織、または器官に直接注射することによって投与され得る。
【0072】
非経口または経口送達に好適な液体剤形の実施形態は、金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物および水を含む。さらなる実施形態では、液体剤形は、緩衝剤および/または塩化ナトリウムなどの塩をさらに含んでもよい。緩衝剤が含まれる場合、好ましい緩衝剤のpHは、約pH4~約pH9の範囲である。また、液体剤形のいくつかの実施形態では、溶液は、それが注入される流体と等張であり、好適なpHを有する。前述の液体剤形の実施形態のいずれにおいても、溶液は滅菌溶液として調製され得る。このような等張性の緩衝滅菌水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、真皮下、および/または腹腔内投与に特に好適である。
【0073】
本明細書に開示される医薬組成物は、例えば滅菌水性媒体、緩衝剤、希釈剤を含む1種または複数の薬学的に許容されるビヒクルでの使用に好適な方法で製剤化され得る。例えば、所与の投与量の金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物を特定容量の等張溶液(例えば等張食塩水)に溶解し、次いで、提案された投与部位に注射するか、または静脈内注射に好適なビヒクルでさらに希釈することができる。
【0074】
液体剤形は、バイアル瓶、アンプル、カートリッジ、およびプレフィルドシリンジなどに包装され得る。いくつかの実施形態では、液体剤形は、投与前に希釈されてもよく、かつ/または包装または送達器具から別の送達器具に移されてもよく、例えばバイアル瓶から輸血用器具に移されてもよい。凍結乾燥形態は、バイアル瓶、カートリッジ、好適なシリンジ器具、および凍結乾燥物を液体剤形に再構成することを容易にする他の好適な混合システムに包装することができる。
E.使用方法
本明細書に記載の医薬組成物は、治療有効量の金属イオン-ポリマーコンジュゲート組成物を提供して、対象において所望の生物学的反応を達成するために投与され得る。治療有効量とは、治療を必要とする患者に送達される金属イオンの量が、金属イオン、ポリマーコンジュゲートに結合した部分またはそこから放出された部分を含むポリマーコンジュゲート、および/または剤形の送達効率などの組み合わされた効果によって、所望の生物学的反応を達成するであろうことを意味する。治療有効量は、治療される適応症および対象の状態によっても異なる可能性がある。
【0075】
所望の生物学的反応には、対象、例えば哺乳類、特にヒト(患者とも呼ばれる)における腫瘍もしくはがんの発症または成長の予防、腫瘍もしくはがんの進行の部分的もしくは全体的な予防、遅延もしくは阻害、または腫瘍もしくはがんの再発の予防、遅延または阻害が含まれる。治療法の臨床的利点は、客観的奏効率、腫瘍サイズ、奏効期間、治療失敗までの期間、無増悪生存期間、および臨床使用で評価される他の一次および二次エンドポイントによって評価され得る。
【0076】
PARP媒介ネクローシスの影響を受けやすいすべての腫瘍タイプまたはマクロファージ媒介炎症性病態は、本明細書に開示される治療方法に従って治療され得る適応症であると考えられる。様々な実施例は、開示された組成物および医薬製剤の実施形態を使用した、開示された方法の実施形態による治療の有効性を実証する。この結果は、in vitroでのマウスがん細胞、ex vivoでのヒトがん細胞の効果的な治療、および同系マウスがんモデルにおけるin vivoでの治療効果を実証する。
【0077】
治療有効量の達成は、製剤の特徴に依存し、各個人の性別、年齢、状態、および遺伝子構造によっても異なる。亜鉛金属複合体の場合、例えば、遺伝的原因または他の吸収不良の原因、または重度の食事制限により亜鉛が不十分な個人は、一般に亜鉛が適切なレベルである個人と比較して、治療効果を得るために異なる量が必要である可能性がある。
【0078】
対象には概して、約0.1mg/kg/日から約6mg/kg/日までの量の金属イオンが投与される。いくつかの実施形態では、投与される金属イオン、例えば、亜鉛の量は、約1.0mg/kg/日から約4mg/kg/日である。複数の剤形を1日に一緒に服用しても別々に服用してもよい。治療は概して、所望の治療効果が達成されるまで継続される。本明細書に記載の組成物および製剤の低投与量レベルは、腫瘍が退縮するかまたは阻害される場合、その再発を予防、遅延、もしくは阻害する目的で、または予防的治療として使用するために、本発明の実施形態による治療として継続することもできる。
【実施例】
【0079】
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。実施例は例示のみを目的として示されており、実施形態は本発明の態様を非限定的に実証することを意図していることを理解されたい。本明細書に開示される説明および実施例から、当業者は、本開示の本質的な特徴を確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本開示を適合させるために様々な変更および修正を加えてもなお、同様の製品また結果を得ることができる。結果として、本開示は、本明細書に記載される例示的な実施例によって限定されるものではない。
【0080】
以下では次の略語が使用される。ACNはアセトニトリルであり、DCCはN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドであり、DICは、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミドであり、DIEAはN,N-ジイソプロピルエチルアミンであり、DMSOはジメチルスルホキシドであり、EDCは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドであり、equiv.は当量であり、HBTUは2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートであり、HOBtはヒドロキシベンゾトリアゾールであり、MTBEはメチルtert-ブチルエーテルであり、NHSはN-ヒドロキシスクシンイミドであり、NLTは以上であり、NMTは以下であり、TFAはトリフルオロ酢酸である。
A.ポリマーコンジュゲートおよびその金属イオン複合体の調製
実施例1:葉酸-NH-PEG4-NH2側鎖の調製
葉酸側鎖である、葉酸-NH-PEG4-NH2を、以下に示す合成スキームに従って調製した。
【0081】
【0082】
A.葉酸-NH-PEG4-NH-Bocの合成
DIC(5.72g、2equiv.)を投入したDMSO(350mL)/ピリジン(150mL)溶液に葉酸(10g、1equiv.)を溶解し、25℃で0.5時間撹拌することによって、10gスケールの合成を実施した。DMSO(10mL)に溶解したBoc-NH-PEG4-NH2(9.15g、1.2equiv.)を添加し、3日間撹拌した。4日目に、追加投入のDIC(1.43g、0.5equiv.)を添加し、撹拌を1日続けた。反応時間の終わりに、γ-異性体:α異性体比は95:5であることが判明した。ピリジンを40℃でロータリーエバポレーションにより除去した。残った溶液をMTBE(4vol.equiv.)に注ぎ、次いで上層を除去した。MTBE(2vol.equiv.)を2回添加して褐色粘着性化合物をスラリー化し、毎回上層を除去した。MTBE(1vol.equiv.)を添加して橙色粘着性化合物をスラリー化し、次いで上層を除去した。スラリー化プロセスを数回繰り返した結果、粘着性褐色粗生成物は橙色/黄色の固体に変化した。ろ過し、固体をN2下で乾燥させた後、粗Boc-葉酸側鎖を橙色から黄色の粉末として得た(15.1g、粗収率88%)。生成物を、プロトンNMR(d6-DMSO)によって確認した。20gスケールの他の調製物は、同様の結果をもたらした。
B.葉酸-NH-PEG4-NH2の合成
葉酸-NH-PEG4-NH-Boc(10.0g、1.0equiv.)を室温にてトリフルオロ酢酸(100mL)で処置し、反応の進行をHPLCで監視した。40℃で減圧濃縮することによりTFAを除去し、褐色の粘稠な油を得た。この油を、DEAE Sephadex A-25カラム(200g;0.1M四ホウ酸カリウム(K2B4O7)四水和物で前処理し、H2O相に変えた)を使用するイオン交換により精製した。油を水(5mL)で希釈し、カラムに添加し、1倍量のH2Oで洗浄し、50mM重炭酸アンモニウム溶液で溶出した。生成物を含む画分を収集し(推定生成物収率:81%)、同様に調製した別のバッチと合わせて、約4.2Lの重炭酸アンモニウム溶液中に約2.4gの粗生成物を得た。この溶液を、LiChroprep RP-18(40~63μm)(100g)を使用してさらに精製した。材料をカラムに装填した後、カラムをH2Oで洗浄し、5倍量の0.1%TFA/H2Oで洗浄することによってpH2に酸性化し、生成物を9:1のH2O(0.1%TFA)/ACNで溶出した。適切な画分を収集し、35℃で約200mLに減圧濃縮し、これを凍結乾燥して、葉酸-NH-PEG4-NH2(1.988g、収率70%、純度90.8%)を黄色の綿毛状固体として生成した。
【0083】
生成物を、プロトンNMR(d6-DMSO)およびESI質量分析法(m/z:658.29[M-H]+)によって確認した。
実施例2:cRGDfk-(O)C-PEG4-NH2側鎖の調製
環状RGD側鎖である、cRGDfk-(O)C-PEG4-NH2を、以下に示す合成スキームに従って調製した。
【0084】
【0085】
A.Boc-NH-PEG4-CO2Hの合成
H2O(50mL)の溶液に、NH2-PEG4-CO2H(5g、1equiv.)およびNaHCO3(4.74g、3equiv.)を添加した。混合物を0~5℃に冷却し、THF(50mL)中の(Boc)2O(4.94g、1.2equiv.)を添加し、得られた混合物を0~5℃で1時間撹拌した。混合物を室温に温め、一晩撹拌した。混濁した溶液を、MTBEで抽出した(80mL×3)。42%クエン酸をNMT10℃で添加することにより、水層をpH4に酸性化し、次いでCH2Cl2で抽出した(80mL×3)。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、蒸発乾固して、Boc-NH-PEG4-CO2H(5.1g、収率74%)を無色の油として得た。生成物を、プロトンNMRによって確認した。
B.Boc-NH-PEG4-cRGDfkの合成
Boc-NH-PEG4-CO2H(1300mg、1equiv.)を室温でDMF(120mL)に溶解し、次いでEDC-HCl(700mg、1equiv.)、NHS(430mg、1equiv.)を活性化のために添加した。1時間後、DMF(45mL)中のcRGDfK(TFA対イオン)(3g、1equiv.)およびDIPEA(870μL、1.2equiv.)を活性化Boc-NH-PEG4-CO2H溶液に添加し、一晩撹拌し、次いでMTBE(3L)に添加して生成物を沈殿させた。ろ過し、ろ液を80mLのMTBEで洗浄した後、粗生成物Boc-NH-PEG4-cRGDfK(3.26g、収率80%)を白色固体として得た。C-18ゲル(20μm)(Diasogel Grade:SP-120-20-ODS-BP)を使用して、水(230mL)に溶解した粗生成物を装填すること、ならびに移動相AおよびBとして0.1%HCl(水溶液)およびACN中の0.1%HClを使用して、Bの画分を0%から15%まで、次いで25%まで5%ずつ増加させることによって溶出することによって粗生成物(2.2g)をさらに精製した。適切な画分を収集し、合わせ、溶媒を除去して、生成物Boc-NH-PEG4-cRGDfK(0.6g)を得た。
C.cRGDfk-PEG4-NH2の合成
Boc-NH-PEG4-cRGDfK(0.6g)をTFA(2mL)で室温にて15分間処置することにより脱保護し、TFAを除去した。粗生成物を水(80mL)に溶解し、前述のBoc保護前駆体の場合と同様にC-18ゲルを使用して精製した、但し、移動相Bの画分を0%から10%まで5%ずつ増加させることによってカラムを溶出したことを除く。適切な画分を収集し、合わせ、溶媒を除去して、生成物cRGDfK-PEG4-NH2(0.22g)を得た。生成物を、プロトンNMRおよびESI質量分析法(m/z:849.44[M-H]+)によって確認した。
【0086】
実施例3:ピリチオン-S-PEG3-NH2側鎖の調製
イオノホア側鎖である、Pyr-S-PEG3-NH2を、以下に示す合成スキームに従って調製した。
【0087】
【0088】
A.Pyr-S-PEG3-NH-Bocの合成
ジピリチオン(8g、5equiv.)およびBoc-N-アミド-PEG3-チオール(2g、1equiv.)をメタノール(400mL)/酢酸(250mL)溶液に溶解し、室温で24時間撹拌した。反応完了後、反応混合物を40℃でロータリーエバポレーションにより蒸発乾固し、白色固体を得た。メタノールを固体に添加し、得られた混合物をろ過した。このケーキは、ジピリチオンであることを確認した。濃縮したろ液を100mLのMTBEに添加し、得られた白色沈殿物(ジピリチオン)をろ過により除去した。MTBEろ液は、ピリチオンおよび目的生成物を含むことを確認した。ピリチオン-PEG3-NH-Bocを、40gのLiChroprep RP-18(40~63μm)を使用して、移動相として水およびACNを使用して分離および精製し、ACNを10%から30%まで5%ずつ増加させた。適切な画分を収集し、合わせ、溶媒を除去して、ピリチオン-PEG3-NH-Boc(2.04g、純度97.6%)を無色の油として得た。生成物を、ESI質量分析法(m/z457.1[M+Na]+)によって確認した。
B.Pyr-S-PEG3-NH2の合成
ピリチオン-S-PEG3-NH-Boc(1.8g)を、TFA(15mL)で室温にて12分間処置することにより脱保護し、TFAを40℃でロータリーエバポレーションによって除去した。粗生成物を水(6mL)に溶解し、凍結乾燥して、粗生成物ピリチオン-S-PEG3-NH2(3.0g、純度97%)を透明な淡黒色の油として得た。生成物を、プロトンNMRおよびESI質量分析法(m/z:355.1[M+H]+)によって確認した。
【0089】
実施例4:Cy5.5-NH-(CH2)6-NH2側鎖の調製
Cy5.5側鎖である、Cy5.5-NH-(CH2)6-NH2を、以下に示す合成スキームに従って調製した。
【0090】
【0091】
A.N-Boc-1,6-ジアミノヘキサンの合成
1,6-ジアミノヘキサン(27.8g、5equiv.)のCH2Cl2(200mL)溶液に、Boc無水物(10.45g、1equiv.)のCH2Cl2(60mL)溶液を、NMT5℃で滴加した。混合物をNMT5℃で50分間撹拌し、次いで室温で一晩撹拌した。混合物を真空下85℃で蒸発乾固した。残渣を120mLの15%Na2CO3溶液で洗浄した。H2O層を除去した後、30mLのDCMを添加して、相を分離し、DCM層を52mLの15%Na2CO3溶液で抽出し、50mLのH2Oで4回洗浄して、残留1,6-ジアミノヘキサンを除去した。有機層を蒸発乾固して、粗N-Boc-1,6-ヘキシルジアミン(7.21g)を淡黄色の油として粗収率70%で得た。生成物を、プロトンNMRによって確認した。粗生成物(4mL)を10mLのDCMに溶解し、Na2SO4で乾燥し、次いで真空下40℃で蒸発乾固して、所望の生成物を得た。
B.Cy5.5-NH-(CH2)6-NH-Bocの合成
Cy5.5-CO2H(2.0g、1equiv.)、N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン塩酸塩(816mg、1equiv.)、HBTU(3.68mg、3equiv.)、HOBt水和物(1.31g、3equiv.)およびDIEA(8.4mL、15equiv.)を40mLのDMFに溶解した。混合物を室温でNLT2.5時間撹拌した。TLCで監視して反応が完了した後、混合物にDCM(25mL)を添加して、H2Oで抽出した(25mL×4)。有機層をNa2SO4で乾燥させ、ろ過し、蒸発乾固した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=9/1)で精製して、Boc保護Cy5.5側鎖(2.95g、収率112%(残留溶媒が過剰分の原因である))を得た。生成物を、プロトンNMR(CDCl3)によって確認した。
C.Cy5.5-NH-(CH2)6-NH2の合成
5%HCl(37%)の2,2,2,-トリフルオロエタノール溶液(94mL)中のBoc保護Cy5.5側鎖(2.95g、1equiv.)を暗所、室温で3時間撹拌した。TLCで監視して反応が完了した後、溶媒を蒸発乾固して、粗Cy5.5側鎖(3.44g、HPLCによる純度90%)を得た。粗生成物を、移動相AおよびBとして0.1%HCl(水溶液)およびACN中の0.1%HClを使用して、LiChroprep RP-18(40~63μm)により精製した。粗生成物を、0.1%HClを含有する10%(v/v)ACNに溶解し、カラムに注ぎ、Bの画分を10%から60%まで10%ずつ増加させることによって溶出した。適切な画分を収集し、合わせ、凍結乾燥して、Cy5.5-NH-(CH2)6-NH2(1.33g、収率51%、純度99%)を深青色固体として得た。生成物を、プロトンNMR(メタノール-d4)およびESI質量分析法(m/z:681.45[M+])によって確認した。
【0092】
実施例5:γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)の調製
γ-PGAのナトリウム塩の溶液を酸性化し、n-プロパノールを使用して遊離酸の沈殿を助けることによって、遊離酸形態のγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)を調製した。
【0093】
約32kDaのMwを有するγ-PGA-Na+(100g)を水(200mL)に溶解し、この溶液をLT10℃で6NのHCl(約65mL)を添加することによって、約pH3に酸性化した。酸性化した溶液を99.5%EtOH/n-プロパノール(1:3v/v)溶液(1200mL)に5分間にわたって添加し、次いで10分間撹拌し、白色の粘着性の沈殿物を得た。溶液を注ぎ出し、油状の沈殿物を残した。水(200mL)を添加して沈殿物を溶解し、得られた溶液をさらなるワークアップのために2つの部分に分離した。溶液を10℃未満に保ちながら、6N HClを使用して約20~25分間にわたって約pH2に調整することによって、各部分を酸性化した。次いで、各部分を99.5%EtOH(1600mL)中に室温で5分間にわたって添加し、白色の綿毛状の沈殿物を得た。ろ過、および乾燥後、γ-PGA-H(61.0g)を白色固体として得た。γ-PGA-Hは、DMSOおよびH2Oに可溶であった。
【0094】
実施例6:C010D-Znの調製
ポリマーコンジュゲートC010Dは、
図1に示す公称構造を有する。
ポリペプチドポリマーγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)、ならびにそれぞれピリチオン、葉酸、cRGDfk、およびCy5.5部分を有する4つの側鎖を、実施例1~5に記載のように調製し、以下のように使用してC010Dを調製した。γ-PGA-H(0.76g、1equiv.)をDMSO(50mL)に溶解し、EDC・HCl(74mg、23equiv.)およびNHS(45mg、23equiv.)を添加し、溶液を室温で45分間撹拌した。各側鎖を、DMSO(1mL)中の6equivのDIPEA(側鎖に対して)と合わせた。γ-PGA-Hに対する各側鎖の公称比率は、ピリチオン:5equiv.、葉酸:2equiv.、cRGDfk:2equiv.、Cy5.5:1equiv.であった。各側鎖を有するDMSO溶液を活性化されたγ-PGA-Hに添加し、側鎖の消費をHPLCで監視しながら溶液を21時間撹拌した。完了したら、反応物を水(200mL)に溶解し、6N NaOH/6N HClでpHを4.2から8.84に調整し、0.22μmのPVDF膜でろ過し、次いでMillipore Pellicon(登録商標)3カセット(0.11m
2、5kD膜)を使用するタンジェンシャルフローろ過によってDMSO除去を含む精製を行い、続いて6回のダイアフィルトレーション(毎回2000mLのH
2Oを添加)を行い、220mLの最終容量を提供した。不純物を再度ろ過によって除去し、ろ液を凍結乾燥して、C010Dポリマーコンジュゲート(0.874g)を青色固体として得た。各側鎖の組み込み度は、プロトンNMR(D
2O/DMSO-d
6)によって求めた。γ-PGAポリマー当たり、側鎖であるピリチオン:葉酸:cRGDfk:Cy5.5は、3.96:1.84:1.71:1.09の比率で存在した。
【0095】
C010D(279mg、ポリマーコンジュゲートのアッセイ量:71.65%)を30mM HEPES(pH7)水溶液(20mL)中で硫酸亜鉛七水和物(88mg;0.1equiv、ポリマーコンジュゲート当たり)と混合することにより、C010D-Znを調製した。この溶液では、亜鉛イオンとC010Dのγ-PGA主鎖の間の重量/重量比は1:10であり、別段に言及しない限り、以下の生物学的試験の実施例の一部においてそのまま使用した。
【0096】
実施例7:C010DS-Znの調製
ポリマーコンジュゲートC010DSは、
図2に示す公称構造を有する。
ポリペプチドポリマーγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)、ならびにそれぞれピリチオン、葉酸、cRGDfk、およびCy5.5部分を有する4つの側鎖を、実施例1~5に記載のように調製し、以下のように使用してC010DSを調製した。γ-PGA-H(0.76g、1equiv.)をDMSO(50mL)に溶解し、EDC・HCl(113mg、35equiv.)およびNHS(68mg、35equiv.)を添加し、溶液を室温で45分間撹拌した。各側鎖を、DMSO(1mL)中の6equivのDIPEA(側鎖に対して)と合わせた。γ-PGA-Hに対する各側鎖の公称比率は、ピリチオン:10equiv.、葉酸:2equiv.、cRGDfk:2equiv.、Cy5.5:1equiv.であった。各側鎖を有するDMSO溶液を活性化されたγ-PGA-Hに添加し、側鎖の消費をHPLCで監視しながら溶液を21時間撹拌した。完了したら、実施例6に記載したのと同じ手順を使用して反応物をワークアップおよび精製し、C010DSポリマーコンジュゲート(0.9g)を青色固体として得た。各側鎖の組み込み度は、プロトンNMR(D
2O/DMSO-d
6)によって求めた。γ-PGAポリマー当たり、側鎖であるピリチオン:葉酸:cRGDfk:Cy5.5は、7.94:1.82:1.70:0.96の比率で存在した。
【0097】
C010DS(309mg、ポリマーコンジュゲートのアッセイ量:64.77%)を30mM HEPES(pH7)水溶液(20mL)中で硫酸亜鉛七水和物(88mg;0.1equiv、ポリマーコンジュゲート当たり)と混合することにより、C010DS-Znを調製した。この溶液では、亜鉛イオンとC010Dのγ-PGA主鎖の間の重量/重量比は1:10であり、別段に言及しない限り、以下の生物学的試験の実施例の一部においてそのまま使用した。
【0098】
実施例8:010DS(P50)-Znの調製
ポリマーコンジュゲート010DS(P50)は、
図3に示す公称構造を有する。
ポリペプチドポリマーγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)、ならびにそれぞれピリチオン、葉酸、およびcRGDfk部分を有する3つの側鎖を、実施例1~3、および5に記載のように調製し、以下のように使用して010DSを調製した。γ-PGA-H(37.1g、1equiv.)をDMSO(2250mL)、およびDIC(6.77g、65equiv.)、NHS(6.17g、65equiv.)に溶解し、NaOH(2.14g、65equiv.)を添加し、溶液をN
2下室温で60分間撹拌した。各側鎖を、DMSO(45mL)に溶解した。γ-PGA-Hに対する各側鎖の公称比率は、ピリチオン:25equiv.、葉酸:2equiv.、cRGDfk:2equiv.であった。各側鎖を有するDMSO溶液を活性化されたγ-PGA-Hに添加し、側鎖の消費をHPLCで監視しながら溶液を17.5時間撹拌した。その後、追加の25equiv.のピリチオン側鎖を添加する第2段階を開始した。18時間目に、この反応混合物にDIC(7.8g、γ-PGA-Hに対して75equiv.)を添加し、20時間目に45mLのDMSO中のピリチオン側鎖(25equiv.)、20.5時間目にNaOH(181mg、5.5equiv.)を添加した。23時間目に、さらにNaOH(181mg、5.5equiv.)を添加し、24時間目に、NHS(7.12g、75equiv.)を添加した。24.4時間の時点で、ピリチオン側鎖は未反応のままであったが、その後反応が開始した。46時間目に、追加のNaOH(350mg、10.6equiv.)を添加し、47.5時間目に、ピリチオン側鎖共役反応は37%進行した。112.5時間後、側鎖共役反応は97%進行し、反応を停止した。その後、反応溶液を9280mLの水に添加し、6N NaOHを添加してpHを7.0に調整した。実施例6に記載したのと同じ手順を使用して溶液を精製し、適切にスケール調整し、最後に凍結乾燥して、010DSポリマーコンジュゲート(46.6g)を黄色固体として得た。各側鎖の組み込み度は、プロトンNMR(D
2O/DMSO-d
6)によって求めた。γ-PGAポリマー当たり、側鎖であるピリチオン:葉酸:cRGDfkは、47.10:1.58:1.91の比率で存在した。分子量(Mw)は、40,085と測定した。さらに、MPは39,698、Mnは25,872、Mzは62,852であり、多分散指数は1.55であった。
【0099】
010DS(P50)(36.7g、ポリマーコンジュゲートのアッセイ量:68.13%)を水(184mL)中で硫酸亜鉛七水和物(11g;0.1equiv、ポリマーコンジュゲート当たり)と混合することにより、010DS(P50)-Znを調製した。この溶液を凍結乾燥して、010DS(P50)-Zn(40.1g)を黄色固体として得た。亜鉛イオンと010DS(P50)のγ-PGA主鎖の間の重量/重量比は、1:10であった。
【0100】
実施例9:C005D-Zn(対照)の調製
ポリマーコンジュゲートC005Dは、
図4に示す公称構造を有する。
ポリペプチドポリマーγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA-H)、ならびにそれぞれ葉酸、cRGDfk、およびCy5.5部分を有する3つの側鎖を、実施例1~2および4~5に記載のように調製し、以下のように使用してC005Dを調製した。γ-PGA-H(50g、1equiv.)をDMSO(350mL)に溶解し、EDC・HCl(3.2g、15equiv.)およびNHS(1.92g、15equiv.)を添加し、溶液を室温で60分間撹拌した。各側鎖を、DMSO(50mL)中の6equivのDIPEA(側鎖に対して)と合わせた。γ-PGA-Hに対する各側鎖の公称比率は:葉酸:3equiv.;cRGDfk:3equiv.;Cy5.5:1equivであった。各側鎖を有するDMSO溶液を活性化されたγ-PGA-Hに添加し、側鎖の消費をHPLCで監視しながら溶液を30時間撹拌した。完了したら、水(100mL)をDMSO反応物に添加し、すべての溶媒を凍結乾燥によって除去して、粗生成物C005D(130.34g)を得た。実施例6に記載したのと同じ手順を使用してワークアップおよび精製し、C010DSポリマーコンジュゲート(42.56g)を青色固体として得た。各側鎖の組み込み度は、プロトンNMR(D
2O/DMSO-d
6)によって求めた。γ-PGAポリマー当たり、側鎖である葉酸:cRGDfk:Cy5.5は、3.25:3.14:0.79の比率で存在した。
【0101】
C005D(10g、ポリマーコンジュゲートのアッセイ量:79.1%)を、水(15mL)中の硫酸亜鉛七水和物(3.48g;0.1equiv、ポリマーコンジュゲート当たり)の水溶液(0.22μmのPVDFフィルターで事前にろ過)と混合することにより、C005D-Znを調製した。1N NaOH(3mL)および6N HCl(350μL)を使用して、溶液のpHを6.37に調整した。溶液を凍結乾燥により除去し、C005D(11.89g)を青色固体として得た。
【0102】
この固体を、本発明による治療的に活性な金属イオンポリマーコンジュゲート組成物のいくつかの実施形態に対して、生物学的試験のための以下の実施例のいくつかで対照として使用するために、30mM HEPES(pH7)水溶液に溶解した。この溶液では、別段に言及しない限り、亜鉛イオンとC005Dのγ-PGA主鎖の間の重量/重量比は1:10であった。
B.ポリマーコンジュゲート-金属イオン複合体の生物学的試験
実施例10:in vitro細胞毒性試験
C010DS-Zn(実施例7に従って調製)および硫酸亜鉛、Zn2+7対Pyr1のモル比の硫酸亜鉛-Pyrナトリウム混合物(7Zn-1Pyr)(C010DS-Znペイロードと一致するように)を含む関連する対照群、ならびにC005D-Zn(同一の構造および亜鉛含有量からPyr側鎖修飾を差し引いた陽性対照化合物)(実施例9に従って調製)のin vitro細胞毒性を試験した。
【0103】
各化合物の24時間IC50値を取得する際に乳酸デヒドロゲナーゼ放出アッセイ(LDHアッセイ)を使用して、4T1マウスの三重陰性乳がん細胞株に対して、各化合物について24時間in vitro細胞毒性を試験し、比較検討するために亜鉛濃度(μM Zn)単位で表した。C010DS-Znは、硫酸亜鉛(80.7μM Zn)またはC005D-Zn(268.7μM Zn)に対して、24時間IC50が16.35μM Znで、著しく高い効力を示した。7Zn-1Pyrは、試験した濃度範囲(12.1μM Zn~300μM Zn)では細胞毒性反応を示さなかった(
図5A)。
【0104】
アネキシンV(A5)およびヨウ化プロピジウム(PI)マーカーを使用したフローサイトメトリー分析を実施して、3時間処置後(
図5C)、またはそれ以上経過した24時間IC50を超える過剰濃度(
図5B)での、24時間IC50で定義された濃度勾配付近で観察された細胞毒性効果のin vitroアポトーシス/ネクローシス細胞死の特徴を比較した。7Zn-1Pyrは、細胞毒性がなく、24時間IC50値を導き出すことができなかったため、試験から除外した。時間分解試験での処置は、C010DS-Zn(50μM Zn)および硫酸亜鉛(450μM Zn)群が治療後1.5時間で主にPI+A5+および軽度のPI+のみのネクローシス細胞死を誘導したのに対し、C005D-Zn(600μM Zn)が処置の3時間後に同様のネクローシス細胞死を示したことを示した。A5+のみのアポトーシス死反応は、いずれの試験群、またはいずれの時点でも観察されなかった。3時間処置後の濃度分解試験では、C010DS-Zn、C005D-Zn、および硫酸亜鉛が、A5+のみのアポトーシス細胞死において顕著な増加はなく、濃度依存的にPI+のみまたはPI+A5+のネクローシス細胞死をそれぞれ最大77%、62%、26%誘導したことが示された。また、PI+A5+とPI+のみのネクローシスの割合は、C010DS-Zn群で最も高く(57%対30%)、硫酸亜鉛群で最も低い(4%対18%)ことが判明した。まとめると、これらの細胞毒性試験は、C010DS-Znが、4T1細胞に対する所定の亜鉛含有量当たりのPI+A5+ネクローシス細胞死の最も強力かつ効率的な誘導物質であることを実証した。
【0105】
実施例11:in vitro作用機序試験
PIおよびA5の同時取り込みを特徴とする細胞毒性に加えて、Fatokunらは、PARP依存性のAIFの核移行およびその後の大量のDNA切断の生成が、パータナトスの顕著な特徴であると以前に定義していた(Parthanatos:mitochondrial-linked mechanisms and therapeutic opportunities.British journal of pharmacology 171、2000~2016(2014))。観察された亜鉛化合物によるPI+A5+ネクローシス性4T1細胞死(
図5Bおよび5C)が、これらの特徴を伴うか否かを調査するために、1.5時間処置後の共焦点顕微鏡法試験を実施し、強力なPARP1およびPARP2阻害剤PJ34との共インキュベートの際の抗AIF、TUNEL、およびHoechst 33342(Hoechst)DNA染色の蛍光プローブを使用したPARP依存性細胞毒性、AIFの核移行、およびDNA切断の発生を評価した。しかしながら、この試験中にPARポリマーに対する十分に感度の高い蛍光プローブが入手できなかったため、PARポリマー含量の評価をこの実験に組み込むことができなかった。また、C010DS-Zn処置群で観察された広範な細胞毒性変化のため、これ以上長い処置時間をこの実験に適用することはできなかった。
【0106】
1.5時間処置後、硫酸亜鉛およびC005D-Zn処置は、試験したすべての濃度にわたって顕著な細胞剥離を引き起こさなかったが、より高濃度の処置における細胞形態は、細胞毒性変化を示した。しかしながら、C010DS-Zn処置では、60μM Zn処置群で細胞が完全に消失し、15μM Zn処置群でさえ広範囲の細胞剥離が起こった。0.5μM PJ34(選択的PARP1およびPARP2阻害剤)との共処置は、C010DS-Zn 15μM Zn群では細胞剥離を有意に軽減したが、60μM Zn治療群では保護効果を示さなかった(
図6B)。
【0107】
その後の平均核AIFシグナルおよび平均核TUNELシグナルの定量的画像解析は、それぞれAIFの核移行の程度、および結果として生じる検出された核におけるDNA損傷を表しており、C010DS-Znが15μM Znで有意にAIFの核移行および大量のDNA損傷の誘導を引き起こしたことを示し、これはPJ34共処置によって阻害された。C005D-Zn処置群において、同様であるが、有意に少ない傾向が見られた。一方、硫酸亜鉛処置は、有意に高いAIFの核移行もDNA損傷も誘発しなかった。
【0108】
C010DS-Znの細胞毒性で観察されたPARP酵素の関与をさらに検証するために、市販のELISAキットを使用してPARポリマーの定量化を実施し、24時間のC010DS-Zn処置により、in vitro処置4T1細胞におけるPARP酵素の活動亢進を示すPARポリマーの用量依存的な蓄積が実際に生じたことを観察した(
図5D)。
【0109】
これらの観察は、Fatokunらによって規定されたパータナトスの細胞死の特徴と一致しているため、C010DS-Znは、試験した硫酸亜鉛、C005D-Zn、または他の対照物質よりも著しく強力なパータナトスの誘導物質であることが一括して証明された。
【0110】
実施例12:患者由来の固形腫瘍に対するex vivoスクリーニング
より広範な種類の固形がんに対するC010DS-Zn薬理活性の適用性および一貫性を明らかにするために、Champions Oncology/Phenovistaの患者由来異種移植片(PDX)の腫瘍断片を使用した画像ベースのex vivo細胞毒性スクリーニングサービスプラットフォームを採用した。三重陰性乳がん(BrC-TNBC)、非三重陰性乳がん(BrC-nonTNBC)、結腸直腸がん(CRC)、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん(OVC)、膵臓がん(Panc)、前立腺がん(PrC)を含む8種類のがんおよび肉腫の53個のPDXモデルを選択した。C010DS-Znは、0.07μg Zn/mLから1.91μg Zn/mLの範囲のIC50値で試験した53のモデルすべてに対して細胞毒性を示し、卵巣がんでは統計的に有意ではないものの、他の種類のがんよりも高い平均IC50値を示した(
図7A)。C010DS-Zn IC50値と各モデルの腫瘍遺伝子変異量(TMB)またはマイクロサテライト不安定性(MSI)スコアの間に統計的に有意な相関関係はやはり見出されなかったが、これは、DNA損傷媒介PARP活性化がパータナトス誘導における最初の重要なステップであるという従来の見解にもかかわらず(上記、Fatukunらを参照)、C010DS-Znの細胞毒性が、標的モデルの先天的な遺伝子変異量に依存しなかったことを示している(
図7B)。
【0111】
アポトーシスを誘導する10%DMSO陽性対照処置群と最高用量のC010DS-Zn処置群の間で、腫瘍断片中の二本鎖DNA(dsDNA)切断の指標であるγH2AXレベルを比較評価したところ、C010DS-Znが、試験した最も高いIC50値を有するモデルにおいてさえ、アポトーシス陽性対照よりも著しく多くのdsDNA切断を誘導したことが示された(
図7C)。10%DMSO陽性対照処置に対するC010DS-Zn処置によるこの特徴的な大量のdsDNA切断の誘導は、試験した53個のex vivoPDXモデルのうち50個でさらに観察され、これは様々な種類の固形がんにおけるその薬理作用の高い一貫性を示している(
図8)。
【0112】
実施例13:C010DS-Zn処置に対するin vivo治療反応
次に、免疫原性同系がんモデルCT26-Balb/cおよび免疫抑制性同系がんモデル4T1-Balb/cに対するC010DS-Znの静脈内(iv)投与のin vivo治療効果を試験した。簡潔に言えば、CT26は広範に使用される免疫原性マウス結腸直腸がんモデルであり、抗PD1処置に対する応答細胞である。一方、4T1は、抗PD1処置に応答しない、広範に使用される免疫抑制性三重陰性乳がんモデルである(Kim,Kら、Eradication of metastatic mouse cancers resistant to immune checkpoint blockade by suppression of myeloid-derived cells.Proc.Nat’l.Acad.Sci.U.S.A.111、11774~11779(2014))。
【0113】
4T1-Balb/cモデルを標的とした最初の試行錯誤の結果、観察可能な治療効果を生み出すには、C010DS-Znを2mg Zn/Kgの各注射用量で、1日2回静脈内投与する必要があることを発見した。無処置動物でのパイロット試験中に、50%+の腫瘍表面潰瘍形成の問題に頻繁に遭遇したが、一般毒性の定義(下記参照)を満たす毒性の兆候は、最終試験中に観察されなかった(
図9A)。ビヒクル対照群(pH7で30mM HEPES)では、腫瘍潰瘍形成が急速に発生したため、腫瘍増殖速度の直接比較は困難であったが、エンドポイントの腫瘍微小環境(TME)免疫細胞分析により、1日2回の2mg Zn/KgのC010DS-Znの注射が、CD4T細胞、CD8T細胞、グランザイムB+樹状細胞(GB+DC)、およびマクロファージの免疫コンパートメントの著しい拡大を引き起こすことが明らかになった。特にマクロファージコンパートメントでは、抗腫瘍M1様マクロファージの割合が有意に増加した(対照群の7%に対して25%、p<0.05)が、一方で前腫瘍M2様マクロファージの割合は抑制された(対照群の35%に対して18%、p<0.005)(
図9A)。より少ない量または頻度でのC010DS-Zn投与、例えば、1日1回1mg Zn/Kgの静脈内注射では、そのような結果は生じなかった。C010DS-Zn処置は忍容性が良好であり、動物の体重は安定したままであった。
【0114】
CT26-Balb/cモデルに対するC010DS-Zn静脈内投与処置は、腫瘍増殖およびエンドポイントのTME免疫細胞分析の両方において、より顕著で用量依存的な応答を生成した。一般毒性の定義を満たす毒性の兆候は、試験中に観察されなかった(
図9B)。CT26-Balb/cモデルは、1日1回および2回の注射レジメンの両方で腫瘍増殖の減少を示したが、4T1-Balb/cモデルとは異なり、有意な免疫応答開始効果は、CD8T細胞コンパートメントに限定されていた(
図9B)。C010DS-Zn処置は忍容性が良好であり、動物の体重は安定したままであった。
【0115】
興味深いことに、4T1-Balb/cモデルとCT26-Balb/c対照モデルの間のエンドポイント腫瘍免疫プロファイルを比較すると、T細胞(4T1では1E+3であるのに対してCT26では9E+3)、CD11b+骨髄細胞(4T1では1E+4であるのに対してCT26では4E+4)、およびM1マクロファージレベル(4T1ではCD11b+細胞の5%であるのに対してCT26ではCD11b+細胞の11%)は、CT26モデルと比較して4T1モデルで顕著に抑制されたことが観察された。一方、4T1およびCT26の1日2回のC010DS-Zn処置群間の同様の比較では、T細胞(4T1では8E+3であるのに対してCT26では2E+4)、およびCD11b+細胞(4T1では4E+4であるのに対してCT26では5E+4)における2つの腫瘍モデルの免疫組成間の差が小さいことが示された。4T1モデルとCT26モデルにおける処置後のM2様マクロファージレベルは、18%および15%で同様であった。まとめると、これらの観察は、1日2回のC010DS-Zn処置の抗腫瘍免疫開始効果が、4T1-Balb/cモデルおよびCT26-Balb/cモデルの腫瘍抑制免疫コンパートメントにおいてより顕著であることを示した。
全体的な毒性。
【0116】
0日目から動物を毎日観察し、デジタルスケールを使用して週に3回体重を測定し、個体および平均のグラム重量、0日目に対する体重変化の平均パーセント(%vD0)を含むデータを各群について記録し、試験完了時に%vD0をプロットした。0日目と比較した場合に10%以上の体重減少を示した動物には、存在する場合、DietGel(商標)(ClearH2O(登録商標)、メイン州、Westbrook)を随意に与えた。動物の死亡があった場合は記録した。%vD0が20%超および/または10%超の死亡率の平均損失を報告した群は、評価されたレジメンにおけるその処置の最大耐用量(MTD)を超えているとみなされた。追加の毒性試験エンドポイントは、瀕死状態であることが判明したマウス、または7日間続く期間で20%超の正味体重減少を示したマウス、またはマウスが30%超の正味体重減少を示した場合であった。各処置群の最大平均%vD0(体重の最低点)は、試験完了時に報告した。
【0117】
実施例14:低用量でのC010DS-Znのマクロファージ除去効果
4T1-Balb/cモデルにおいて抗腫瘍免疫応答開始を引き起こすには、C010DS-Znを使用した1日2回の静脈内処置が必要であるという観察は、静脈内注射されたC010DS-Znの薬物動態プロファイルを試験することを本発明者らに促した(
図10A)。非腫瘍担持スプラーグドーリーラットにC010DS-Znを単回ボーラス静脈内注射した後のラット内PKプロファイルの評価は、C010DS-Znによって注射された亜鉛の一部のみが、T
max2時間の血液の無細胞血漿コンパートメントに見出されたことを明らかにし、これは、単核食細胞系(MPS)による注射されたC010DS-Znの急速な全身クリアランスを示している(Song,g.ら、Nanoparticles and the mononuclear phagocyte system:pharmacokinetics and applications for inflammatory diseases.Curr.Rheumatol.Rev.10、22~34(2014))。MPSは、主に肝臓および脾臓のマクロファージからなるため、この観察は、マクロファージに対するC010DS-Znの直接的な細胞毒性相互作用の可能性を示唆した。
【0118】
C010DS-ZnがTME内の生きたマクロファージを直接減少させることができるかどうかを評価するために、抗腫瘍活性または免疫開始効果を生じない低用量で、生きたTMEマクロファージ集団に対するC010DS-Znの効果を試験することを決定した。また、4T1がんモデルは、初期の免疫抑制状態から、後期の転移を促進するM2様マクロファージが豊富な状態へのTME免疫転移を起こすことが報告されているため、処置後13日目および処置後16日目のTME免疫の特性を明らかにすることを決定した(Steenbrugge, J.,ら、Anti-inflammatory signaling by mammary tumor cells mediates prometastatic macrophage polarization in an innovative intraductal mouse model for triple-negative breast cancer.J. Exp.Clin.Cancer Res.37、191(2018); Yang, Y.,ら、Celastrol inhibits cancer metastasis by suppressing M2-like polarization of macrophages.Biochem.Biophys.Res.Comm.503、414~419(2018).)。以前の報告と一致して、13日目に収集された4T1腫瘍は、T細胞およびM1様およびM2様タイプの両方のマクロファージ含有量が大幅に抑制されていることを特徴とした。これらの動物では、一般毒性の定義(実施例13を参照)を満たす毒性の兆候は、試験中に観察されなかった(
図10B)。それに対して、16日目に採取されたものには、大幅に増加した量のマクロファージが含まれており(13日目の腫瘍では1E+2であったのに対し、16日目の腫瘍では1.3E+5)、これは主に、活発な炎症を示唆するM2様マクロファージ集団の拡大、およびT細胞含有量の大幅な拡大によるものである(
図10Bおよび
図10C)。16日目に屠殺された動物の多くは、試験の終わりに向けて50%+の腫瘍表面潰瘍形成を発生したため、16日目より前に瀕死と断定した。低用量のC010DS-Znをそれぞれ2mgのZn/Kgの1日1回の静脈内注射、または1mgのZn/Kgの1日2回の注射で処置した場合、この処置により13日目および16日目の両方の処置マウスで、TME中のマクロファージ含有量が有意に減少した。特に、16日目の処置群では、2mg Zn/Kgを1日1回投与するとM2様マクロファージが優先的に減少したが、1mg Zn/Kgを1日2回投与すると、M1様およびM2様マクロファージの両方が顕著に減少した。また、16日目のマウスの両方のC010DS-Zn処置群は、TME中のT細胞含有量のレベルの顕著な減少を示し、炎症の減少を示唆した(
図10C)。
【0119】
前述の開示において、単数形「a」、「an」、および「the」は、別段に記載がない限り、または文脈が別段に必要としない限り、複数の指示対象を含む。したがって、これらの冠詞は、文脈によってこれらの用語の全範囲が除外されない限り、「1つ」、「1つまたは複数」、または「1つまたは1つより多くの」を意味する場合がある。代替物が「または」という用語で導入されている場合、代替物が相互に排他的な選択肢でない限り、「または」という用語は「および/または」という意味を含むものとして読まれるべきである。本開示では「および/または」という用語が使用され得るが、これは強調のために使用されており、「または」が単に選言的なものとして読まれるべきであることを含意するものではない。
【0120】
本発明は、特定の実施形態および実施例に関して本明細書に開示されているが、本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化することができる。したがって、説明および図面は例示としてみなされるべきであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって決定され、特許請求の範囲内に含まれるすべての適切な変更および等価物が本発明に包含される。
【国際調査報告】