(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】7-Keto-LCAからウルソデオキシコール酸への変換率を向上させるルミノコッカスグナバス株由来の7β-HSDHの変異体及びこれを用いたウルソデオキシコール酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20240228BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240228BHJP
C12P 7/42 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N9/04 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P7/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557700
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 KR2022016088
(87)【国際公開番号】W WO2023075295
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0142625
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523357131
【氏名又は名称】エイス バイオファーマ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ACE BIOPHARM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】41 Dongsan-ro 8-gil Seocho-gu Seoul 06784 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ミン、ビョンギュ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ヒョンウク
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジェボム
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ミンジョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD07
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA10
4B065CA60
(57)【要約】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させるルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)の変異体及びこれを用いたウルソデオキシコール酸の製造方法に関する。本発明では、酵素改良による変異体の製造及び組換えタンパク質生産の開発を通じて、7-Keto-LCAのUDCAへの変換効率を向上させたところ、UDCA生合成及び生合成効率の向上のために広く活用できるものと期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)のアミノ酸配列変異を含む、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体であって、
前記アミノ酸配列変異は、
1)M207X
1、
2)T210X
2、及び
3)Q212X
3
からなる群から選択されるいずれか一つ以上の変異を含み、
X
1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、
X
2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、
X
3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表す、
7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項2】
前記7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体は、配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する配列モチーフに少なくとも1つの突然変異を付加的に有する、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項3】
前記突然変異は、配列番号1の207~212の配列モチーフがVMKIALである、
請求項2に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項4】
前記ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)は、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)を基質として認識し、7-Keto-LCAの7番目の炭素において立体特異的な酵素的還元の触媒作用を誘導する、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項5】
前記アミノ酸配列変異は、
4)D252X
4を付加的に有し、
X
4がアスパラギン酸(D)以外のアミノ酸を表す、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体を含む、組換えベクター。
【請求項7】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
前記変異体は、配列番号2の塩基配列からなる、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項9】
前記組換えベクターは、Tacプロモーター(promoter)及びカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を含む、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項10】
請求項6に記載の組換えベクターで形質転換された細胞。
【請求項11】
前記細胞は、組換えベクターを大腸菌に導入して形質転換された、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
受託番号KCTC 14715 BPで寄託されたものである、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる、
ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法。
【請求項14】
前記酵素の基質結合部位は、7β-HSDHのアミノ酸配列200~215の配列モチーフである、
請求項13に記載のウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法。
【請求項15】
前記変異は、
1)M207X
1、
2)T210X
2、及び
3)Q212X
3
からなる群から選択されるいずれか一つ以上の変異を含み、
X
1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、
X
2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、
X
3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表す、
請求項13に記載のウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法。
【請求項16】
酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法。
【請求項17】
前記酵素の基質結合部位は、7β-HSDHのアミノ酸配列200~215の配列モチーフである、請求項16に記載の7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法。
【請求項18】
前記変異は、
1)M207X
1、
2)T210X
2、及び
3)Q212X
3
からなる群から選択されるいずれか一つ以上の変異を含み、
X
1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、
X
2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、
X
3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表す、
請求項16に記載の7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させるルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)の変異体及びこれを用いたウルソデオキシコール酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胆汁酸は胆汁の主な構成成分であり、脂肪、脂肪酸及び疎水性ビタミンの消化及び吸収に必要な生体分子である。代謝がよく行われない安定した物質であり、生化学的機能及び溶解度の違いを引き起こす様々なヒドロキシ基(hydroxy group)がコレステロール環(cholesterol ring)の中心の様々な炭素位置に配置されている。様々な種類の胆汁酸のうち、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)は、少量でしか見られない胆汁酸の一つである。UDCAは最近、コレステロール含有胆石の溶解に関する治療的機能が明らかになっている。そのような化合物は、化学的ステップまたは酵素的ステップでトン単位の量(tonne quantity)で工業的に製造される。UDCAの合成にとって重要な前駆体は、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)が存在し、ナトリウムを触媒として7-Keto-LCAとn-ブタノールを反応させてUDCAに変換することができる。酵素を用いた方法の場合、7-ケト基を立体選択的に還元することができる7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により触媒される酵素触媒作用を用いて、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換を進める。このようなステップは、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)によって触媒される酵素触媒作用を用いて、反応において補酵素であるNAD(P)Hを必要とする。しかしながら、従来のルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)を用いた7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からUDCAへの変換反応の場合、30g/L以上の7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)が基質として存在する場合、基質濃度による阻害により変換能が低下する問題がある。
【0003】
したがって、基質結合部位(substrate binding site)のアミノ酸配列の変化による基質濃度の増加に伴う7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)酵素活性の低下効果を緩和するか、または組換え大腸菌を用いて前記改良された酵素の大量生産に関する研究が必要であり、まだ関連分野での研究は不十分な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一態様は、ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDHのアミノ酸配列変異を含む、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体を提供することである。
【0005】
別の態様は、前記変異体を含む組換えベクターを提供することである。
【0006】
別の態様は、前記組換えベクターで形質転換された細胞を提供することである。
【0007】
別の態様は、酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
【0008】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法を提供することである。
【0009】
別の態様は、酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
【0010】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法を提供することである。
【発明を解決するための手段】
【0011】
一態様は、ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)のアミノ酸配列変異を含む、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体であって、
【0012】
前記アミノ酸配列変異は、1)M207X1、2)T210X2、及び3)Q212X3からなる群から選択されるいずれか一つ以上の変異を含み、X1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、X2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、X3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表す7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体を提供する。
【0013】
一実施形態において、前記7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体は、4)D252X4変異を付加的に有し、X4はアスパラギン酸(D)以外のアミノ酸であり得る。
【0014】
本明細書で使用される「7β-HSDH(7β-hydroxysteroid dehydrogenase:7β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ)」という用語は、7-ケトステロイドの対応する7β-HSDHの立体特異的還元(水素化)、または7位にケト基及びステロイド構造上に1つ以上の追加のケト基を含むケトステロイドに対応する7β-HSDHを意味する。
【0015】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、アラニン(A;Alanine、A)、システイン(C;Cysteine、Cys)、アスパラギン酸(D;Aspartic acid、Asp)、グルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)、フェニルアラニン(F;Phenylalanine、Phe)、グリシン(G;Glycine、G)、ヒスチジン(H;Histidine、His)、イソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、リジン(K;Lysine、Lys)、ロイシン(L;Leucine、Leu)、メチオニン(M;Methionine、Met)、アスパラギン(N;Asparagine、Asn)、プロリン(P;Proline、Pro)、グルタミン(Q;Glutamine、Gln)、アルギニン(R;Arginine、Arg)、セリン(S;Serine、Ser)、トレオニン(T;Threonine、Thr)、バリン(V;Valine、Val)、トリプトファン(W;Tryptophan、Trp)、チロシン(Y;Tyrosine、Tyr)であり得、具体的には、バリン(V;Valine、Val)、イソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、ロイシン(L;Leucine、Leu)またはグルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)から選択されるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0016】
本明細書で使用される「アミノ酸配列変異」という用語は、1つ以上のアミノ酸配列の変異を示すものであり、1つの突然変異を表すM207X1、T210X2、Q212X3及びD252X4からなる群から選択される1つであり得、ここでX1~X4は、バリン(V;Valine、Val)、イソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、ロイシン(L;Leucine、Leu)またはグルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)から選択されるものであり得、具体的にはX1はバリン(V;Valine、Val)、X2はイソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、X3はロイシン(L;Leucine、Leu)、及びX4はグルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)であり得る。
【0017】
また、複数のアミノ酸配列変異を有する場合(M207X1及びT210X2)、(M207X1、及びQ212X3)、(M207X1及びD252X4)、(T210X2及びQ212X3)、(T210X2及びD252X4)、(M207X1、Q212X3及びD252X4)、(M207X1、T210X2及びQ212X3)、(M207X1、T210X2、及びD252X4)、(T210X2、Q212X3及びD252X4)または(M207X1、T210X2、Q212X3及びD252X4)から選択されるものであり得、X1~X4はバリン(V;Valine、Val)、イソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、ロイシン(L;Leucine、Leu)またはグルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)から選択されるものであり得、具体的にはX1はバリン(V;Valine、Val)、X2はイソロイシン(I;Isoleucine、Ile)、X3はロイシン(L;Leucine、Leu)、及びX4はグルタミン酸(E;Glutamic acid、Glu)であり得る。
【0018】
一実施形態において、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体は、配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する配列モチーフに少なくとも1つの突然変異を付加的に有する7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体であり得、前記突然変異は、配列番号1の207~212の配列モチーフがVMKIALであり得るが、これに限定されない。
【0019】
本明細書で使用される「変異体(variant)」という用語は、1つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/または修飾(modification)され、前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)または特徴(properties)が維持しているポリペプチドを指す。このような変異体は、一般に、前記ポリペプチドのアミノ酸配列のうちの1つ以上のアミノ酸を修飾し、前記修飾したポリペプチドの特徴を評価することによって同定(identify)することができる。すなわち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドと比較して増加することもあれば、変化しないこともあり、または減少することもある。また、一部の変異体は、N末端リーダー配列または膜貫通ドメイン(transmembrane domain)のような1つ以上の部分が除去された変異体を含み得る。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN末端及び/またはC末端から一部が除去された変異体を含み得る。前記用語「変異体」は、変異型、修飾、修飾ポリペプチド、修飾タンパク質、変異及び変異体等の用語(英語表現としては、modification、modified polypeptide、modified protein、mutant、mutein、divergent等)を混用されて使用することができ、変異したという意味で使用される用語であれば、これに限定されない。本出願の目的上、前記変異体は、配列番号3のアミノ酸配列の210番目のアミノ酸であるトレオニンがイソロイシンに置換され、212番目のアミノ酸であるグルタミンがロイシンに置換された、配列番号1に示されるポリペプチドであり得る。
【0020】
本明細書で使用される「立体選択性(Stereo selectivity)」という用語は、化学反応時に1つの立体構造を有し、選択的に生成される性質を意味する。
【0021】
一実施形態において、前記7β-HSDH変異体は、配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する配列モチーフに少なくとも1つの突然変異を付加的に有する7β-HSDH変異体であり得る。前記変異体は、配列番号1と80%以上、90%以上、95%、96%、97%、98%、99%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列からなるものであり得、前記突然変異は配列番号1の207~212の配列モチーフはVMKIALであり得る。
【0022】
本明細書で使用される「配列モチーフ(sequence motif)」という用語は、配列の一部の構成要素としてR.gnavus株由来の7β-HSDHのアミノ酸配列のうちの基質結合部位(substrate binding site)である配列番号1の207~212の配列を意味する。
【0023】
別の実施形態において、前記ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDHは、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)を基質として認識し、7番目の炭素において立体特異的な酵素的還元の触媒作用を誘導することができる。
【0024】
本明細書で使用される「立体特異性(stereospecificity)」という用語は、反応におけるある特定の立体異性体(stereoisomer)の反応物が1つの特定の立体異性体(または鏡像異性体対)の生成物を生成することを意味し、所与の反応物から生成される立体化学的結果を確実に特定(specify)できることを意味する。
【0025】
本明細書で使用される「酵素的還元」という用語は、微生物由来の還元酵素を用いる方法であり、酵素的還元法は、自然界から単離された新規微生物または論文または特許公知の微生物から還元酵素遺伝子を単離し、単離した遺伝子をプラスミドに移植して大腸菌内で形質転換させ、得られた大腸菌を培養した後、細胞を破砕及び遠心分離して得られた菌体をそのまま反応に使用してもよいし、あるいは前記大腸菌を破砕及び遠心分離して回収した上清液を反応に使用してもよい。ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株を用いて酵素的還元の触媒作用を誘導することができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
他の態様は、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体の遺伝子を含む組換えベクターを提供する。
【0027】
一実施形態において、前記組換えベクターに含まれる変異体は、配列番号1と80%以上、より具体的には90%以上、95%、96%、97%、98%、99%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0028】
一実施形態において、前記変異体は配列番号2の塩基配列からなるものであり得る。
【0029】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、遺伝子情報を決定する構造単位を意味し、タンパク質のアミノ酸配列または機能RNA(tRNA、rRNAなど)の塩基配列を決定する情報を有する構造遺伝子、及び/または構造遺伝子の発現を制御する調節遺伝子(例えば、プロモーター、リプレッサー(repressor)、作動遺伝子(operator)など)を含み、遺伝子の産物を生成するために転写されるヌクレオチド配列を含む一本鎖の方を意味すると理解される。
【0030】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが連結されている他の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターは、一本鎖、二本鎖、または部分的に二本鎖である核酸分子;1つ以上の遊離の末端を含む核酸分子、遊離の末端を含まない核酸分子(例えば、環状);またはDNA、RNA、またはその両方を含む核酸分子;及び当業界で知られている他の様々なポリヌクレオチドを含む。
【0031】
本明細書で使用される「組換えベクター」という用語は、発現させようとする目的ポリペプチド(核酸)のコードする遺伝子が作動可能に連結される場合、適切な宿主細胞において前記目的ポリペプチドを高効率で発現させることができる目的ポリペプチドの発現ベクターとして使用することができ、前記組換えベクターは宿主細胞で発現可能である。宿主細胞は原核細胞であり得、宿主細胞の種類に応じて、プロモーター(promoter)、ターミネーター(terminator)、エンハンサー(enhancer)などの発現調節配列、膜標的化または分泌のための配列などを適宜選択し、目的に応じて様々な組み合わせが可能である。
【0032】
一実施形態において、前記組換えベクターは、Tacプロモーター(promoter)及びカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を含み得る。
【0033】
本明細書で使用される「プロモーター(promoter)」という用語は、遺伝子がいつどこでどの程度発現するかを決定する作用をする塩基配列、すなわち遺伝子の発現調節機能を有する調節領域の一種であり、trp及びlacオペロンのプロモーターの組み合わせで生成される合成DNAプロモーターとして、一般に大腸菌でのタンパク質生産に使用されるTacプロモーター(promoter)を使用することができる。
【0034】
本明細書で使用される「カナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子」という用語は、組換え微生物が抗生物質にさらされても生き残ることができる薬物耐性を示す遺伝子を意味する。
【0035】
別の態様は、前記組換えベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0036】
本明細書で使用される「形質転換」という用語は、外部から与えられたDNAによって生物の遺伝的性質が変化することで、すなわち生物のある系統の細胞から抽出された核酸の一種であるDNAを他の系統の生細胞に導入したとき、DNAがその細胞に入って遺伝形質が変化する現象を意味するものであり得る。
【0037】
一実施形態において、前記形質転換された細胞は、組換えベクターを大腸菌に導入して形質転換された細胞であり得、前記形質転換された細胞は受託番号KCTC 14715 BPで寄託されたものであり得る。
【0038】
一実施形態において、前記大腸菌は、LB培地を含む発酵培地で30~40℃で4~48時間培養することができ、このとき前記培養は振とう三角フラスコ(baffled flask)を用いて好気的条件下で行うことができるが、これに限定されない。
【0039】
本明細書で使用される「発現」という用語は、大腸菌株が自ら発現できない酵素を人為的に発現させるために外部由来の遺伝子を菌株に導入して発現させることを意味し、「過剰発現」という用語は大腸菌株が自ら当該酵素をコードする遺伝子を有し、自ら発現できるが、大量生産のための目的でその発現量を増大させるために、人為的に当該酵素の発現量を増大させて過剰発現したことを意味する。
【0040】
本明細書で使用される「プライマー」という用語は、短い遊離の3末端ヒドロキシル基(free 3' hydroxyl group)を有する核酸配列であって、相補的な核酸の鋳型(template)と塩基対(base pair)を形成することができ、核酸鋳型の鎖コピーのための開始点として機能する短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度での重合反応(すなわち、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)のための試薬及び異なる4つのヌクレオチド三リン酸の存在下でDNA合成を開始することができる。
【0041】
前記プライマー設計時、プライマーのA、G、C、T含量比、プライマー結合体(dimer)形成防止、同じ塩基配列の3回以上繰り返し禁止など様々な制約が伴い、その他単独PCR反応条件における鋳型(template)DNAの量、プライマーの濃度、dNTPの濃度、Mg2+の濃度、反応温度、反応時間などの条件が適正でなければならない。
【0042】
前記プライマーは、基本特性を変えない追加の特徴を組み込むことができる。すなわち、核酸配列は、当技術分野で公知さている多くの手段を用いて修飾することができる。このような修飾の例としては、メチル化、キャッピング、ヌクレオチドの1つ以上の相同体への置換、及びホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダートまたはカルバメートなどの非荷電の結合体、またはホスホロチオエートまたはホスホロジチオエート等の荷電の結合体へのヌクレオチドの修飾が可能である。さらに、核酸は、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリLリジンなどのタンパク質、アクリジンまたはソラレンなどのインターカレーター、金属、放射性金属、鉄酸化金属などのキレート剤及びアルキル化剤などの1つ以上の付加的な共有結合した残基を有し得る。
【0043】
一実施形態において、前記形質転換された細胞は、7β-HSDH酵素のアミノ酸4種が変化した酵素(配列番号1)を発現するために、前記遺伝子が挿入された発現ベクターを大腸菌(E.coli MG1655)に導入し、形質転換されたものであり得、組換え大腸菌(E.coli ABP-5(寄託番号KCTC 14715 BP))はR.gnavus株由来の当該菌株を用いたタンパク質発現過程を通じて、改良された7β-HSDH酵素変異体であるABP-5を確保することができる。
【0044】
別の態様は、酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
【0045】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法を提供する。
【0046】
別の態様は、酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
【0047】
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法を提供する。
【0048】
一実施形態において、前記酵素の基質結合部位は、7β-HSDHのアミノ酸配列200~215配列モチーフであり得るが、これに限定されない。
【0049】
一実施形態において、前記変異は、1)M207X1、2)T210X2、及び3)Q212X3からなる群から選択されるいずれか1つ以上の変異を含み、X1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、X2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、X3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表すものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0050】
本明細書で使用される「7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid:7-ケトリトコール酸)」という用語は、ヒトの腸内細菌による二次胆汁酸ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)合成の中間体としてケノデオキシコール酸から形成される中間体を意味する。
【0051】
本明細書で使用される「変換率」という用語は、元の特定の物質(原料)のモル数を基準として、化学反応により他の物質に変換される元の特定の物質(原料)の百分率を意味する。
【発明の効果】
【0052】
本発明では、酵素改良による変異体の製造及び組換えタンパク質生産の開発により、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換効率を向上させたところ、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)生合成及び生合成効率の向上のために広く活用できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、R.gnavus株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)(配列番号3)と本発明で改良したABP-5のアミノ酸配列(配列番号1)を比較した結果を示す図である。
【
図2】
図2は、改良された7β-HSDH酵素であるABP-5を発現するために用いたpCDFDuet-1-Tac-Kanベクター(Tacプロモーター、カナマイシン耐性:Tac promoter, kanamycin resistance)を示す図である。
【
図3】
図3は、大腸菌を用いたR.gnavus株由来の7β-HSDH及び改良されたR.gnavus株由来の7β-HSDH(ABP-5)酵素発現をSDS-PAGEで分析した結果を示す図である。(A:R.gnavus株由来の7β-HSDH酵素(29.32kDa)、B:ABP-5(29.3kDa))
【
図4】
図4は、補酵素再生系を含む7β-HSDH酵素を用いた7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からUDCAへの変換模式図である。
【
図5】
図5は、様々な7-Keto-LCA濃度別各酵素のUDCAへの変換率を比較した結果を示す図である。(○:R.gnavus株由来の7β-HSDH、■:ABP-5)
【
図6】
図6は、pH調節による様々な7-Keto-LCA濃度別各酵素のUDCAへの変換率を比較した結果を示す図である。(○:pH調節ありABP-5 ■:pH調節なしABP-5)
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明しようとする。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは当業界で通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【実施例】
【0055】
<実施例1:ABP-5発現ベクター及び発現株の開発>
R.gnavus株由来の7β-HSDHのアミノ酸配列のうち、200~215位の周りの領域が基質結合に関与しており、240~259位の周りの領域が基質の立体選択性に関与していることが知られており、基質結合に関与するアミノ酸のうち、207位のメチオニン(methionine)、210位のトレオニン(threonine)、212位のグルタミン(glutamine)及び基質立体選択性に関与するアミノ酸のうち、252位のグルタミン酸(glutamic acid)を置き換えた場合、基質濃度が増加しても活性が維持されることを確認した。
【0056】
したがって、7β-HSDHの変異体であるABP-5は、既存の7β-HSDHのアミノ酸においてM207V、T210I、Q212L、D252E変異を含むものであり、より具体的には207番目のアミノ酸であるメチオニンがバリンに置き換えられ、210番目のアミノ酸であるトレオニンがイソロイシンに置き換えられ、212番目のアミノ酸であるグルタミンがロイシンに置き換えられ、252番目のアミノ酸であるアスパラギン酸がグルタミン酸に置き換えられた変異体を意味する(
図1)。
【0057】
ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnarvus)株由来の7β-HSDH酵素を改良した組換え酵素であるABP-5の遺伝子をE.coli MG1655株に挿入するために、Integrated DNA Technologies、Inc.のホームページで提供するコドン最適化ツール(Codon Optimization Tool)を用いてABP-5のアミノ酸配列を用いたコドン最適化を行った後、マクロジェン(Seoul, Republic of Korea)社に依頼してDNA合成を進行した。
【0058】
具体的には、本実験のコドン最適化されたABP-5遺伝子(配列番号2)及び比較対象であるR.gnavus株由来の7β-HSDH(配列番号4)を確保するためにABP-5_F(配列番号5)、ABP-5_R(配列番号6)、7β-HSDH-F(配列番号7)、及び7β-HSDH-R(配列番号8)プライマーを用いてPCRによる遺伝子増幅を進行した。
【0059】
発現に使用するベクターを作製するために、大腸菌用発現ベクターであるpCDFDuet-1を使用した。前記ベクターに存在するT7プロモーター(promoter)をTacプロモーター(promoter)に置換するためにハングオーバーPCR(hangover PCR)を応用した方法を用い、このとき使用したプライマーであるF_Tac_オーバーハング(overhang)及びR_Tac_オーバーハング(overhang)は配列番号2及び3にある配列で作製して進行した。ベクターを作製するためにDNAポリメラーゼ(Q5(登録商標) High-Fidelity DNA Polymerase、NEB)を98℃で10秒間、60℃で30秒間、及び72℃で遺伝子サイズ1kb当たり30秒間の条件で反応を設定し、前記サイクル(98℃で10秒間、50℃で30秒間、72℃で遺伝子サイズ1kb当たり30秒間反応)を30回行い、最後に72℃で5分間反応させる条件でベクター全体をリバース(Reverse)PCR反応を行った。その後、鋳型ベクターであるpCDFDuet-1を除去するために37℃条件でDpnI(NEB)を1時間処理し、その後クローニングホスト(cloning host)であるE.coli DH5αに挿入した後、作製したベクターを増幅して用いた。
【0060】
また、pCDFduet-1ベクターのアンピシリンカセットをカナマイシンカセットに置き換えるために、すべてのベクターF及びR(all vector-F、R)プライマー(配列番号9、10)を用いてDNAポリメラーゼ(Q5(登録商標) High-Fidelity DNA Polymerase、NEB)を用いた。98℃で10秒間、55℃で30秒間、72℃遺伝子サイズ1kb当たり30秒間の条件で反応を設定し、前記サイクル(98℃で10秒間、50℃で30秒間、72℃で遺伝子サイズ1kb当たり30秒間反応)を30回行い、最後に72℃で5分間反応させる条件でベクター全体をリバース(Reverse)PCR反応を行った。これを残っている鋳型ベクターを除去するためにDpnI(NEB)を37℃で1時間反応させ、カナマイシンカセットをカナマイシンF及びR(Kanamycin-F、R)プライマー(配列番号11、12)を用いてGXL DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社、日本)を用いて98℃で30秒間反応させ、98℃で10秒間、50℃で30秒間、72℃で遺伝子サイズ1kb当たり30秒間反応を設定し、前記サイクル(98℃で10秒間、50℃で30秒間、72℃で遺伝子サイズ1kb当たり30秒間反応)を30回行い、最後に72℃で5分間の条件で反応させた。リバース(Reverse)PCR反応したベクターとカナマイシンカセットをIn Fusion HD Enzyme(タカラバイオ社、日本)を用いてin-fusion法でクローニングし、最終的に作製した発現ベクターをpCDFDuet-1-Tac-Kanベクターと命名した。
【0061】
その後、pCDFDuet-1-Tac-Kanベクター(
図2)にNcoI、BamHI制限酵素で処理した後に増幅したABP-5酵素及びR.gnavus株由来の7β-HSDH遺伝子をIn Fusion HD Enzyme(タカラバイオ社、日本)を用いてin-fusion法で挿入し、最終的にE.coli MG1655株に前記組換えベクターを挿入した。
【0062】
形質転換後、ABP-5遺伝子を含むpCDFDuet-1-Tac-Kan挿入株を選択するために、50μg/mLの濃度のカナマイシン(kanamycin)を含有するLB培地に塗抹した後、37℃の温度条件で一日間培養した。その後、BioFACT社の2X Taq PCR pre-Mix製品及びABP-5_FとABP-5_Rプライマーまたは7β-HSDH-Fと7β-HSDH-Rプライマーを用いたコロニー(colony)PCRを行い、最終的にABP-5遺伝子及びR.gnavus株由来の7β-HSDH遺伝子を含むpCDFDuet-1-Tac-Kan挿入株を選択した。ABP-5遺伝子を含むpCDFDuet-1-Tac-Kanベクターを有する大腸菌(E.coli MG1655)を'E.coli ABP-5'と命名し、2021年09月17日付で韓国生命工学研究院に寄託して寄託番号KCTC 14715 BPを付与された。また、当該菌株で発現し改良された7β-HSDHをABP-5と命名した。
【0063】
【0064】
<実施例2:ABP-5酵素発現及び7-Keto-LCAのUDCAへの変換率確認>
前記実施例1で製造された、ABP-5酵素発現遺伝子が過剰発現するように形質転換された組換え大腸菌(E.coli ABP-5(寄託番号KCTC 14715 BP))を用いて組換えタンパク質の発現及び組換えタンパク質を用いた7-Keto-LCAのUDCAへの変換を確認した。
【0065】
菌株(E.coli ABP-5(寄託番号KCTC 14715 BP))の増殖は、600nm波長での光学濃度(OD値)を紫外可視分光光度計(UV-visible spectrophotometer)(UV-1800、SHIMADZU)を用いて測定した。培養後、タンパク質分析は、ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis;SDS-PAGE)(Mini-PROTEIN Tetra system、Bio-Rad)法を用いて行い、分析用ポリアクリルアミドゲル(polyacryllamide gel)(Mini-PROTEAN TGX Precast Gels)及びサンプルバッファー(sample buffer)(2×Laemmli Sample Buffer)を用いて分析を行った。
【0066】
組換えタンパク質ABP-5を用いた7-Keto-LCAのUDCAへの変換を確認するために、UFLC(LC-20AD、SHIMADZU)と培養液の3-HPを分析するために高速液体クロマトグラフ(HPLC Chromaster)(日立、日本)とACCUCORE C30 2.6UM 250×2.1MM COLUMNを用いて分析を行い、視差屈折率検出器(refractive index detector;RID)を用いて分析した。溶媒としては、1M K2HPO4(pH 3.0) 2.2mL、HPLC water 370mL、アセトニトリル(acetonitrile)300mL、メタノール400mLを混合し、その後、孔径0.2μmフィルター(pore size filter)で濾過(filtering)した後に用い、40℃条件で毎分の0.4mLの溶媒を使用する条件で分析を進行した。
【0067】
2-1.組換えタンパク質(ABP-5)の発現とSDS-PAGE確認
【0068】
菌株(E.coli ABP-5)の前培養にはLB培地(Luria bertani medium)を使用し、カナマイシン(kanamycin)50μg/L、グルコース0.5g/L、グリセロール5g/L及びラクトース2g/Lを加えて使用した。接種に使用した菌株は-80℃でグリセロールストック(glycerolstock)法により保存した菌株を使用し、LB培地に1%濃度で接種し、180rpm、37℃の条件で前培養を進行した。また、前培養後、対数期で回収し、滅菌蒸留水で2回洗浄して本培養に用いた。
【0069】
一方、ABP-5酵素及び比較群であるR.gnavus株由来の7β-HSDH製造のために、250mLの三角フラスコに50mLのLB_Kan培地を使用した。培養は振盪フラスコ(baffled flask)を用い、攪拌速度は180rpmとし、37℃の温度条件で大腸菌培養及び酵素発現を進行した。
【0070】
各培養時間別に培養液を回収し、遠心分離して上清を除去した後、回収した大腸菌を滅菌蒸留水で2回洗浄し、50mMリン酸緩衝溶液(pH8.0)に再懸濁し、その後超音波破砕機を用いて破砕及びタンパク質発現を確認した(
図3)。その結果、2時間後にABP-5酵素及び比較群であるR.gnavus株由来の7β-HSDHの発現が円滑に進行することを確認した。
【0071】
2-2.R.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5活性測定
【0072】
ABP-5酵素の活性測定のためにR.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5酵素発現を行った後、これを用いて7-Keto-LCAのUDCAへの変換反応を用いて酵素活性を測定した。
【0073】
7-Keto-LCAのUDCAへの酵素的変換の場合、補酵素としてNADPHを必要とする反応である。したがって、酵素活性を測定するためにNADPHが有する340nm波長帯の吸光度を用い、それを測定するために紫外可視分光光度計(UV-visible spectrophotometer)(UV-1800、SHIMADZU)を用いた。
【0074】
酵素反応のためにNADPH 0.5mMの濃度で添加し、反応緩衝溶液として50mMリン酸緩衝溶液(pH8.0)を使用した。基質7-Keto-LCAを10g/Lの濃度で添加し、R.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5酵素の場合、細胞破砕液の状態で2μL添加し、最終2mL体積で反応を進行した。
【0075】
活性測定の場合、各酵素を添加した後、1分間隔で340nmの吸光度の変化を測定した後、測定した吸光度変化値をNADPH標準曲線(340nm、0.01-0.1mM NADPH)に代入して酵素活性を測定した。細胞破砕液のタンパク質濃度を測定するために、ブラッドフォード(bradford)タンパク質定量法を使用し、各測定されたタンパク質濃度を測定した。
【0076】
R.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5酵素活性を比較するために、R.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5酵素遺伝子が挿入された発現ベクターが挿入された組換え大腸菌E.coli ABP-5及びE.coli R.gnavus株由来の7β-HSDHを用い、形質転換時に確保した10個のコロニー(colony)を選別し、実施例2.1の発現方法で発現した後、組換え大腸菌で発現された組換え7β-HSDHであるR.gnavus株由来の7β-HSDH及びABP-5の活性測定を進行した(表2)。その結果、R.gnavus株由来の7β-HSDHの場合は平均41.62±4.55U/mgの活性を示し、ABP-5の場合は49.13±4.72U/mgの活性を示し、既存の酵素に比べて活性が約18.10%向上されたことが確認できた。
【0077】
【0078】
2-3.ABP-5酵素及びR.gnavus株由来の7β-HSDHを用いた7-Keto-LCAのUDCAへの変換
【0079】
発現されたABP-5酵素及び比較群であるR.gnavus株由来の7β-HSDHを用いて7-Keto-LCAのUDCAへの変換を行った。
【0080】
7-Keto-LCAのUDCAへの変換に用いられる酵素である7β-HSDHの場合、補酵素としてNADPHを必要とする。ただし、前記反応の場合、当量対当量反応であるため、変換しようとする7-Keto-LCAと同量のNADPHを必要とする。これにより、大量のNADPHが必要な非効率的な反応になる可能性があるため、これを解決するために、
図4に示した補酵素再生系(Co-factor regeneration)を含む反応系を構成した後、変換を進行した。
【0081】
変換反応のために50mMのリン酸緩衝溶液(pH 8.0)を使用し、7-Keto-LCA(10、20、30、40、または50g/L)、NADPH 1mM、グルコース(Glucose)200mM、グルコース脱水素酵素(Glucose dehydrogenase;GDH)2U/mL、そしてABP-5酵素またはR.gnavus株由来の7β-HSDH 4U/mLの条件で30℃、150rpm条件で反応を進行した。
【0082】
反応の結果、7-Keto-LCA 20g/L濃度までは両酵素ともUDCAへの変換率が100%であることが確認された。しかしながら、R.gnavus株由来の7β-HSDHを用いた変換の場合、基質である7-Keto-LCAの濃度が30g/Lの場合55.12%、40g/Lの場合23.53%に変換率が減少し、50g/Lの濃度では5.37%で基質濃度の増加に伴い変換率が減少することを確認した。
【0083】
これに対し、ABP-5酵素を用いて変換を進行した場合、7-Keto-LCAの濃度が30g/Lの場合100%、40g/Lの場合92.44%に変換率が減少し、50g/Lの濃度では79.82%で、基質濃度増加に伴う変換率減少幅がR.gnavus株由来の7β-HSDHと比較して著しく低いことを確認した(
図5)。すなわち、改良された酵素変異体は、既存の変換活性が維持される7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)濃度である20g/Lだけでなく、30g/Lの濃度でも同じ変換効率を示し、40g/L及び50g/Lの7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)濃度でもUDCAへの変換が可能であることを確認した。
【0084】
このような結果をもとに、7β-HSDH酵素変異体であるABP-5の場合、既存の酵素に比べて基質濃度の増加に伴う阻害に対して耐性を有していることを確認し、このような利点を活用して様々な工程上の利得をとることができると考えられる。
【0085】
<実施例3:pH調節によるABP-5酵素を用いた7-Keto-LCAのUDCAへの変換>
実施例2のように本発明で新規に開発した酵素ABP-5を用いる場合、R.gnavus株由来の7β-HSDHを用いた場合と異なり、40g/L以上の7-Keto-LCA濃度で発生するUDCAへの変換阻害現象がある程度緩和されることを確認した。しかしながら、50g/L以上で7-Keto-LCA濃度が増加した場合、変換率が79.82%に大幅に減少する傾向が示された。
【0086】
7-Keto-LCAのUDCAへの変換に補酵素再生系として使用されるGDHの場合、グルコースをグルコン酸に変換し、補酵素としてNADPを用いる。したがって、反応が進行するにつれて蓄積するグルコン酸により反応液のpHが減少し、開始pH8.0で反応を開始する場合、終了時にpHが7.2まで減少する傾向が見られる。このようなpHの減少が活性阻害の原因であると考えられ、反応溶液のpHを毎時間測定してpHを8.0に再調整し、変換能を確認した。
【0087】
変換反応のために50mMリン酸緩衝溶液(pH 8.0)を使用し、7-Keto-LCA(10、20、30、40、または50g/L)、NADPH 1mM、グルコース200mM、グルコース脱水素酵素(Glucose dehydrogenase;GDH)2U/mL、そしてABP-5酵素またはR.gnavus株由来の7β-HSDH 4U/mL条件で30℃、150rpm条件で反応を進行した。また、毎時間pH測定器(FiveEasy、Mettler toledo)を用いて測定した後、5N NaOHを用いて反応液のpHを8.0に滴定して変換を行った。その結果、既存のpH調整をしなかった条件に比べ、40g/Lでは4.2%(92.44→96.24%)、そして50g/Lでは12.43%(79.82%→92.45%)変換率が向上することを確認した(
図6)。
【0088】
上述した説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるであろう。したがって、上述した実施形態はすべての点で例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)のアミノ酸配列変異を含む、7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体であって、
前記アミノ酸配列変異は、
1)M207X
1、
2)T210X
2、及び
3)Q212X
3
からなる群から選択されるいずれか一つ以上の変異を含み、
X
1はメチオニン(M)以外のアミノ酸を表し、
X
2はトレオニン(T)以外のアミノ酸を表し、
X
3はグルタミン(Q)以外のアミノ酸を表す、
7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項2】
前記7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体は、配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する配列モチーフに少なくとも1つの突然変異を付加的に有する、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項3】
前記突然変異は、配列番号1の207~212の配列モチーフがVMKIALである、
請求項2に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項4】
前記ルミノコッカスグナバス(Ruminococcus gnavus)株由来の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)は、7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)を基質として認識し、7-Keto-LCAの7番目の炭素において立体特異的な酵素的還元の触媒作用を誘導する、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項5】
前記アミノ酸配列変異は、
4)D252X
4を付加的に有し、
X
4がアスパラギン酸(D)以外のアミノ酸を表す、
請求項1に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)変異体を含む、組換えベクター。
【請求項7】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
前記変異体は、配列番号2の塩基配列からなる、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項9】
前記組換えベクターは、Tacプロモーター(promoter)及びカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を含む、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項10】
請求項6に記載の組換えベクターで形質転換された細胞。
【請求項11】
前記細胞は、組換えベクターを大腸菌に導入して形質転換された、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
受託番号KCTC 14715 BPで寄託されたものである、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる、
ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法。
【請求項14】
前記酵素の基質結合部位は、7β-HSDHのアミノ酸配列200~215の配列モチーフである、
請求項13に記載のウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の製造方法。
【請求項15】
酵素の基質結合部位が変異した7β-HSDH(7β-hydroxysteroid)により7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)をウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)に変換させるステップを含む、
7-Keto-LCA(7-keto Lithocholic Acid)からウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)への変換率を向上させる方法。
【国際調査報告】