(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】導電率及びイオン伝導性が向上したリチウム電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240228BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20240228BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20240228BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240228BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M4/139
C01B32/182
C01B32/198
C01B32/168
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557751
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 KR2022002930
(87)【国際公開番号】W WO2022196977
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10-2021-0186472
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523353834
【氏名又は名称】ビチュロセル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523357441
【氏名又は名称】メイクセンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,シモン
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャニル
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ホンソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】パク,キョンス
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジフン
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC20B
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4G146BA01
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4G146CB01
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4G146DA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA09
5H050GA01
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA11
5H050GA15
5H050GA22
5H050GA27
(57)【要約】
本発明は、導電率及びイオン伝導性が向上したリチウム電池用電極の製造方法を提供する。前記方法は、IPL、レーザ、プラズマ又はマイクロ波を用いて光電磁エネルギーを印加することにより、電極ナノ複合材料(活物質、バインダー及び導電性炭素添加剤を含む)にエネルギーを印加するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池用電極の製造方法であって、
活物質、炭素添加剤及び重合体バインダーを混合してスラリー混合物を形成するステップ(a)と、
スラリー混合物を基板上に堆積させてコーティングを形成するステップ(b)と、
コーティングを乾燥させるステップ(c)と、
乾燥コーティングにエネルギーを印加するステップ(d)と、を含む、方法。
【請求項2】
(a)における炭素添加剤は化学的に官能化されるか、又は界面活性剤と混合され、
(d)におけるエネルギー印加により、前記炭素添加剤が脱官能化されるか、又は界面活性剤が炭化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーが炭化される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーの少なくとも一部がアモルファス化されるか、又は前記重合体バインダーの少なくとも一部の結晶相が変化する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
(d)におけるエネルギー印加により、乾燥コーティング中に含まれる金属不純物が酸化される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
(d)におけるエネルギー印加は、真空雰囲気中又は不活性雰囲気中で行われ、エネルギー印加時に界面活性剤又は重合体バインダーから放出される酸素が、金属不純物の酸化に使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(d)では、強いパルス光(IPL)が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(d)では、レーザ、マイクロ波、プラズマ、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェン酸化物、グラフェンナノシート、カーボンナノファイバー、及びグラファイトのうちの1種又は複数種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(c)の後に2つのローラーを用いて圧延を行うステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記2つのローラーには、異なる電位が印加される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
圧延ステップにおいて、機械的、電極的、又は磁気的な分極が行われ、炭素添加剤が基板に平行又は基板に垂直な方向に整列される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記圧延ステップは、
半結晶性重合体バインダーを熱処理してβ相転移を誘導するステップaと、
半結晶性重合体バインダーを電気的に分極してβ相転移を誘導するステップbと、
加熱及び圧縮により、炭素添加剤を電極面に平行に整列させるステップcと、
真空圧力をかけて、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップdと、
2つのローラー間に電界又は磁界を印加することにより、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップeと、のうちの1つ又は複数のステップを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池用電極の製造方法に関し、具体的には、炭素添加剤及び重合体バインダーを光電磁的に処理するステップと、重合体バインダー中の結晶化度を除去するステップと、電界又は磁界により炭素添加剤材料の整列を誘導するステップを含むリチウム電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などのリチウム電池は、他の充電式電池と比較して、エネルギー密度が高く、充放電特性が高く、寿命が比較的長いことから、携帯型エネルギー貯蔵機器として広く使用されている。
【0003】
携帯型電子機器や電気自動車向けの需要拡大に伴い、リチウム電池への需要も急速に拡大している。リチウム電池では、電極が活物質、バインダー及び導電性炭素添加剤からなる。活物質は、リチウムイオンを貯蔵するための部位を提供し、導電性又は非導電性材料であってもよい。バインダーは、活物質を集電体に粘着させ、電極内でそれらを機械的に固定する。導電性炭素添加剤は、重合体バインダー及び活物質と混合され、電極内に導電性ネットワークを形成し、導電率を提供する。
【0004】
カーボンブラックは、その表面積-体積比が高く、コストが比較的に低いため、導電性炭素添加剤として最もよく使用されている。しかし、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンやグラフェンナノシート(GNP)などのカーボンナノ粒子を使用することが最近のトレンドとなっている。炭素ナノ粒子は、カーボンブラックと比較して、アスペクト比及び導電率に優れている。これにより、少ない炭素添加剤(約20wt.%)で電極を所望の導電率にすることができ、活物質の使用量を増加させ、さらに電池のエネルギー容量を増加させることができる。炭素添加剤(例えば、高アスペクト比のCNT)もまた、電極複合材料の機械的支持体として使用することができる。
【0005】
CNTは、高い引張強度で知られており、機械的特性と電気的特性を向上させるために重合体ナノ複合材料によく使われている。電極添加剤としてのCNTは、電極内に導電性ネットワークを維持することにより、機械的な応力や歪みにより導電率が失われることを防止する。さらに、CNTは、重合体バインダーと活物質を機械的に結合することで電極の構造的安定性を確保している[Gonzalezら,2017]。単層CNT(SWCNT)、多層CNT(MWCNT)、薄層カーボンナノチューブ(TWCNT)のような様々な種類のCNTを異なる構成とすることにより、リチウム電池の電気的特性を向上させることができる。
【0006】
リチウム電池の電極へのCNTの使用に関する文献は以下のとおりである。
【0007】
カーボンナノチューブ重合体リチウムイオン電池及びその製造方法、CN 2016/105 720 265A
【0008】
本願は、コバルト酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸リチウムで製造され、カーボンナノチューブ重合体で被覆された正極に関する。さらに、このような電池の製造プロセスも説明されている。本願によれば、正極を含む電池は、1グラムあたりの電力容量、エネルギー密度を増加させ、充放電を繰り返した後の残存容量を向上させ、サイクル寿命を延長させる。
【0009】
リチウムイオン電池用ハイブリッドナノワイヤ陽極組成物、US 2017/9 564 629 B2
【0010】
本願は、ハイブリッドナノワイヤ電気化学電池の電極用の組成物に関する。この組成物は、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)などの材料で製造されたナノスケールの導電性ワイヤの集合体からなり、これらの材料は相互に接続されて、連通空隙ネットワークを形成する。繊維ワイヤは、ケイ素、ケイ素合金及びケイ素酸化物を含む複数の材料から製造することができるリチウムイオンを吸脱着可能な陽極活物質からなるマイクロ/ナノスケールの表面に被覆されている。
【0011】
ナノ粒子及びナノ構造支持マトリックスを含む組成物、ならびにエネルギー貯蔵システムにおける可逆的高容量陽極としての製造方法、US 2020/10 878 977 B2
【0012】
本願は、電極がCNTなどのナノ構造からなり、その中に垂直に整列されたナノ構造支持マトリックスが形成されている、リチウムイオン電池の陽極電極用組成物及びその製造方法に関する。ナノ構造支持マトリックスとナノ粒子との界面が結合することにより、性能が改善されリチウムイオン電池に有用な電極が形成される。支持マトリックスは、集電体材料からなる基板上に成長させてもよい。
【0013】
リチウムイオン電池用途に適したナノチューブ複合陽極材料、US 2011/0 104 551 A1
【0014】
本願は、カーボンナノチューブ複合材料からなるリチウムイオン電池用陽極材料に関する。この材料は、カーボンナノチューブが整列されてなり、カーボンナノチューブの内面又は外面にはリチウム合金材料が塗布されている。ケイ素は、典型的なリチウム合金材料である。ケイ素と整列したカーボンナノチューブを組み合わせることで、充放電速度を速め、容量を向上させ、サイクル中の安定性を高く保つことができる。これは、大きな体積膨張を補償し、層間剥離を防止するCNTの弾性変形能力のためである。
【0015】
リチウムイオン電池用負極材料の製造方法、WO 2015/124 049 A1
【0016】
本願は、リチウムイオン電池用負極材料の開発に関する。カーボンナノチューブを溶液中に分散させ、焼結や乾燥などいくつかの加工ステップを経て、CNT、ケイ素及び炭素からなる複合材料を形成する。ケイ素はカーボンナノチューブネットワークと炭素外側シェルとの間に挟み込まれ、バッファ層として膨張を防ぐ。さらに、CNTネットワークとカーボン外層により、ケイ素の導電率を向上させることができる。
【0017】
以上の書類は、電極の電気的、電気化学的、及び機械的特性を改善するためのCNT及びその他の炭素添加剤の使用に関する。しかし、CNTは電極ナノ複合材料中での分散性が低いため、カーボン導電性添加剤として使用するには限界がある。ファンデルワールス力の作用により、炭素添加剤は固有の凝集傾向を持ち、分散性が悪い。混合物中の炭素添加剤の分散性を向上させるために、カーボンナノチューブの官能化による化学的、物理的修飾に加えて、ボールミーリングや遊星式ボールミル混合などの各種混合プロセスが用いられる。
【0018】
官能化CNTは、複合材料中のCNTの分散を改善し、全体的な導電率を向上させるが、本来のCNTと比較して、官能化CNTの導電率はわずかに低下する。界面活性剤の使用により、通常、非導電性界面活性剤材料が分散後に複合材料中に残留される。CNTを分散させるためのこれらの方法は、全体的な導電率の向上に寄与するが、最大の潜在的な導電率には達しない場合がある。溶液中で官能化CNTを脱官能化して元のCNTとした研究報告は少ない。
【0019】
溶液中の官能化カーボンナノチューブを熱処理してその脱官能化に影響を与えること、WO 2005049488A2
【0020】
本願は、CNTの溶液状態での熱脱官能化により、再懸濁化を容易にすることに関する。従来技術は、乾燥状態での熱脱官能化により元のCNTを回復させるものであり、複数のCNT間に共有結合架橋が存在するため、液体中で再懸濁させることができなかったが、従来技術とは異なり、本方法は、熱脱官能化に関し、また、溶液中への懸濁が可能である。溶液には、重合体材料と界面活性剤とが混合されていてもよい。混合物又は混合材料を熱処理して懸濁状態のCNTを脱官能化する。
【0021】
しかし、懸濁形態の元のCNTは粘性スラリー混合物中での分散度が低いため、この方法を電極の製造に適用することは困難であった。そのため、CNTを分散させて複合材料を硬化させた後に脱官能化する、電極の製造に適した方法が求められている。有望な方法の1つは、光電磁エネルギー印加である強いパルス光(IPL)照射である。
【0022】
電極の製造方法、該方法により製造された電極、該電極を含むスーパーキャパシタ、及び該電極を含む充電式リチウム電池、US 2014/0255776 A1
【0023】
本願は、キセノン強いパルス光(IPL)を印加して金属酸化物、導電性重合体、及び炭素材料で製造された電極を処理することに関する。本願では、導電率が比較的低い材料(金属酸化物やグラフェン酸化物など)に適用したIPLプロセスにより、材料を導電性金属やグラフェンに還元し、電極材料として利用可能にすることが実施例により明らかになる。これは、迅速かつ簡便な電極製造方法である。
【0024】
電極の導電率を高めるもう1つの方法は、比較的安価で導電率の悪い材料を炭化することである。このプロセスに関連する従来技術は多数あるが、本明細書ではいくつかの例を示す。
【0025】
軟質炭素又は硬質炭素を複合化した負極材料、その製造方法、及びその負極材料を含むコンデンサ、CN107993853B
【0026】
本願は、電極製造において、軟質炭素及び硬質炭素前駆体を用いて、炭化プロセスによってこれらを炭素電極に変換することに関する。軟質炭素前駆体はコールタールピッチ及びピッチを含み、硬質炭素前駆体はスクロースを含む。本願の実施例は、長時間の高温下での予備炭化及び炭化プロセスを示し、異なる材料の温度、持続時間及び大気条件の情報を詳細に示す。
【0027】
炭素電極及びその製造方法、KR101647960B1
【0028】
本願は、炭素系電極を製造するための天然炭素材料及びその熱処理に関する。天然炭素材料は、綿、麻、亜麻、ジュート、ヒツジウール、ヘネケン麻、ウール、シルクなどの天然繊維を含む。炭化プロセスは、600℃で予備炭化を行い、900~1100℃で炭化を行い、生成したセルロースを1300~1500℃で二次炭化することにより、炭素電極の表面にアルカリ金属又はアルカリ土類金属を生成させることを含む。
【0029】
先行技術文献
【0030】
特許文献
【0031】
(文献001)CN 105720265 A(2016.06.29)
【0032】
(文献002)US 9,564,629 B2(2017.02.07)
【0033】
(文献003)US 10,878,977 B2(2020.12.29)
【0034】
(文献004)US 2011/0104551 A1(2011.05.05)
【0035】
(文献005)WO 2015/124049 A1(2015.08.27)
【0036】
(文献006)WO 2005/049488 A2(2005.06.02)
【0037】
(文献007)US 2014/0255776 A1(2014.09.11)
【0038】
(文献008)CN 107993853 B(2019.09.17)
【0039】
(文献009)KR 10-1647960 B1(2016.08.08)
【0040】
(文献010)US 2010-0035152 A1(2010.02.11)
【0041】
非特許文献
【0042】
(文献001)Li, L., Yang, H., Zhou, D., & Zhou, Y. (2014). Progress in Application of CNTs in Lithium-Ion Batteries. Journal of Nanomaterials, 2014, 1-8. https://doi.org/10.1155/2014/187891.(CNTのリチウムイオン電池への応用進展.『ナノ材料ジャーナル』)
【0043】
(文献002)Tagawa*, K., & Brodd, R. J. (2008). Production Processes for Fabrication of Lithium-Ion Batteries. Lithium-Ion Batteries, 1-14. https://doi.org/10.1007/978-0-387-34445-4_8.(リチウムイオン電池製造の生産プロセス.『リチウムイオン電池』)
【0044】
(文献003)B. J. Landi, M. J. Ganter, C. D. Cress, R. A. DiLeo, and R. P. Raffaelle, “Carbon nanotubes for lithium-ion batteries,” Energy & Environmental Science, vol. 2, no. 6, p. 638, Apr. 2009.(「リチウムイオン電池用カーホンナノチューフ,」『エネルギー及び環境科学』)
【0045】
(文献004)L. Xue, G. Xu, Y. Li, S. Li, K. Fu, Q. Shi, and X. Zhang, “Carbon-Coated Si Nanoparticles Dispersed in Carbon Nanotube Networks As Anode Material for Lithium-Ion Batteries,” ACS Applied Materials & Interfaces, vol. 5, no. 1, pp. 21-25, 2012.(「リチウムイオン電池の陽極材料としての、カーボンナノチューブネットワークに分散した炭素被覆ケイ素ナノ粒子,」『ACS適用材料及び界面』)
【0046】
(文献005)B. J. Landi, M. J. Ganter, C. D. Cress, R. A. DiLeo, and R. P. Raffaelle, “Carbon nanotubes for lithium-ion batteries,”
Energy & Environmental Science, vol. 2, no. 6, p. 638, Apr. 2009.(リチウムイオン電池用カーボンナノチューブ,」『エネルギー及び環境科学』)
【0047】
(文献006)Song, D. P., Li, W., Park, J., Fei, H. F., Naik, A. R., Li, S., Zhou, Y., Gai, Y., & Watkins, J. J. (2021). Millisecond photothermal carbonization for in-situ fabrication of mesoporous graphitic carbon nanocomposite electrode films. Carbon, 174, 439-444. https://doi.org/10.1016/j.carbon.2020.12.036.(メソポーラスグラファイトカーボンナノ複合電極膜のその場製造におけるミリ秒スケールの光熱炭化.『炭素』)
【0048】
(文献007)Song, D. P., Naik, A., Li, S., Ribbe, A., & Watkins, J. J. (2016). Rapid, Large-Area Synthesis of Hierarchical Nanoporous Silica Hybrid Films on Flexible Substrates. Journal of the American Chemical Society, 138(41), 13473-13476. https://doi.org/10.1021/jacs.6b06947.(フレキシブル基板上での階層型ナノ多孔質シリカハイブリッド膜の迅速かつ大面積合成.『米国化学会雑誌』)
【0049】
(文献008)Bhandavat, R., & Singh, G. (2013). Stable and Efficient Li-Ion Battery Anodes Prepared from Polymer-Derived Silicon Oxycarbide-Carbon Nanotube Shell/Core Composites. The Journal of Physical Chemistry C, 117(23), 11899-11905. https://doi.org/10.1021/jp310733b.(ポリマー由来の炭化ケイ素-カーボンナノチューブのシェル/コア複合材料から製造された、安定かつ効率的なリチウムイオン電池陽極。『物理化学雑誌C』)
【0050】
(文献009)Colombo, P., Mera, G., Riedel, R., &Soraru, G. D. (2010). Polymer-Derived Ceramics: 40 Years of Research and Innovation in Advanced Ceramics. Journal of the American Ceramic Society, no. https://doi.org/10.1111/j.1551-2916.2010.03876.x.(ポリマー由来セラミックス:先進セラミックスにおける40年間の研究と革新.『アメリカセラミック協会誌』)
【0051】
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【0052】
(文献011)Atif, R. & Inam, F., 2016. Reasons and remedies for the agglomeration of multilayered graphene and carbon nanotubes in polymers. Beilstein Journal of Nanotechnology, 7(1), pp.1174-1196.(ポリマー中での多層グラフェンとカーボンナノチューブの凝集の理由及び解決策.『バイルシュタイン・ジャーナル・オブ・ナノテクノロジー』)
【0053】
(文献012)Aviles, F. et al., 2009. Evaluation of mild acid oxidation treatments for MWCNT functionalization. Carbon, 47(13), pp.2970-2975.(MWCNT 機能化のための弱酸酸化処理の評価.『炭素』)
【0054】
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【0055】
(文献014)Breuer, O. & Sundararaj, U., 2004. Big returns from small fibers: A review of polymer/carbon nanotube composites. Polymer Composites, 25(6), pp.630-645.(小さな繊維から得られる大きな利益:ポリマー/カーボンナノチューブ複合材のレビュー.『ポリマー複合材料』)
【0056】
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【0057】
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【0058】
(文献017)Kim, I.T. et al., 2010. Synthesis, characterization, and alignment of magnetic carbon nanotubes tethered with maghemite nanoparticles. Journal of Physical Chemistry C, 114(15), pp.6944-6951.(マグヘマイトナノ粒子が結合した磁性カーボンナノチューブの合成、特性評価、及び整列.『物理化学雑誌C』)
【0059】
(文献018)Kim, I.T., Tannenbaum, A. & Tannenbaum, R., 2011. Anisotropic conductivity of magnetic carbon nanotubes embedded in epoxy matrices. Carbon, 49(1), pp.54-61.(エポキシマトリックスに埋め込まれた磁性カーボンナノチューブの異方性導電率.『炭素』)
【0060】
(文献019)Le, V.T. et al., 2013. Surface modification and functionalization of carbon nanotube with some organic compounds. Advances in Natural Sciences: Nanoscience and Nanotechnology, 4(3), p.035017.(いくつかの有機化合物によるカーボンナノチューブの表面修飾と機能化.『自然科学の進歩:ナノサイエンスとナノテクノロジー』)
【0061】
(文献020)Lee, J. et al., 2015. Magnetically Aligned Iron Oxide/Gold Nanoparticle-Decorated Carbon Nanotube Hybrid Structure as a Humidity Sensor. ACS applied materials & interfaces, 7(28), pp.15506-13.(湿度センサーとして磁気的に整列した酸化鉄/金ナノ粒子で修飾されたカーボンナノチューブハイブリッド構造.『ACS適用材料及び界面』)
【0062】
(文献021)Lee, J., Lee, K. & Park, S.S., 2016. Environmentally friendly preparation of nanoparticle-decorated carbon nanotube or graphene hybrid structures and their potential applications. Journal of Materials Science, 51(6), pp.2761-2770.(ナノ粒子で修飾されたカーボンナノチューブ又はグラフェンハイブリッド構造の環境に優しい調製とその潜在的な用途.『材料科学雑誌』)
【0063】
(文献022)Oliva-Aviles, A.I. et al., 2012. Dynamics of carbon nanotube alignment by electric fields. Nanotechnology, 23(46), p.465710.(電界によるカーボンナノチューブ整列のダイナミクス.『ナノ技術』)
【0064】
(文献023)Park, S.-H. & Kim, H.-S., 2015. Environmentally benign and facile reduction of graphene oxide by flash light irradiation. Nanotechnology, 26(20), p.205601.(環境に優しく、フラッシュ光照射により酸化グラフェンを容易に還元する.『ナノ技術』)
【0065】
(文献024)Parmar, K. et al., 2013. Effect of CNT alignment on the strain sensing capability of carbon nanotube composites. Smart Materials and Structures, 22(7), p.75006.(カーボンナノチューブ複合材料のひずみ感知能力に対する CNT 整列の影響.『スマートな材料及び構造』)
【0066】
(文献025)Pramanik, C. et al., 2017. Carbon Nanotube Dispersion in Solvents and Polymer Solutions: Mechanisms, Assembly, and Preferences. ACS Nano, 11(12), pp.12805-12816.(溶媒及びポリマー溶液中のカーボンナノチューブの分散:メカニズム、集合、及び好み.『ACSナノ』)
【0067】
(文献026)Sahoo, N.G. et al., 2006. Effect of functionalized carbon nanotubes on molecular interaction and properties of polyurethane composites. Macromolecular Chemistry and Physics, 207(19), pp.1773-1780.(官能化カーボンナノチューブが分子相互作用とポリウレタン複合材料の特性に及ぼす影響.『高分子の化学及び物理学』)
【0068】
(文献027)Li X, Kang F, Shen W., 2006. Multiwalled carbon nanotubes as a conducting additivein a LiNi0.7Co0.3O2 cathode for rechargeable lithium batteries. Carbon;44:1334-6.(充電式リチウム電池のLiNi0.7Co0.3O2陰極における導電性添加剤としての多層カーボンナノチューブ.『炭素』)
【0069】
(文献028)Sheem K, Lee YH, Lim HS., 2006. High-density positive electrodes containing carbonnanotubes for use in Li-ion cells. J Power Sources;158:1425-30.(リチウムイオン電池用のカーボンナノチューブを含む高密度正極.『電源雑誌』)。
【0070】
(文献029)Wang G, Zhang Q, Yu Z, Qu M., 2008. The effect of different kinds of nano-carbonconductive additives in lithium ion batteries on the resistance andelectrochemical behaviorof the LiCoO2 composite cathodes. Solid StateIonics, 179:263-8.(リチウムイオン電池のさまざまな種類のナノカーボン導電性添加剤が、LiCoO2複合陰極の抵抗及び電気化学的挙動に及ぼす影響.『固体イオニクス』)
【0071】
(文献030)Wusiman, K. et al., 2013. Thermal performance of multi-walled carbon nanotubes (MWCNTs) in aqueous suspensions with surfactants SDBS and SDS. International Communications in Heat and Mass Transfer, 41, pp.28-33.(界面活性剤SDBS及びSDSを含む水性懸濁液中での多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の熱性能.『熱と物質移動における国際コミュニケーション』)
【0072】
(文献031)Xin, F. & Li, L., 2013. Effect of Triton X-100 on MWCNT/PP composites. Journal of Thermoplastic Composite Materials, 26(2), pp.227-242.(MWCNT/PP複合材料に対するTriton X-100の効果『熱可塑性複合材料雑誌』)
【0073】
(文献032)Xin, F. & Li, L., 2012. The role of silane coupling agent in carbon nanotube/polypropylene composites. Journal of Composite Materials, 46(26), pp.3267-3275.(カーボンナノチューブ/ポリプロピレン複合材料におけるシランカップリング剤の役割.『複合材料雑誌』)
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(文献033)Yang, Y. et al., 2017. Biomimetic Anisotropic Reinforcement Architectures by Electrically Assisted Nanocomposite 3D Printing. Advanced Materials, 1605750, p.1605750.(電気支援ナノコンポジット 3D プリンティングによる生体模倣異方性強化アーキテクチャ.『先端材料』)
【0075】
(文献034)Yim, C. et al., 2017. Eco-friendly and rapid fabrication method of producing polyethylene terephthalate (PET) mask using intensive pulsed light. International Journal of Precision Engineering and Manufacturing-Green Technology, 4(2), pp.155-159.(強力なパルス光を使用してポリエチレンテレフタレート(PET)マスクを製造する、環境に優しく迅速な製造方法.『精密工学及び製造の国際ジャーナル-グリーンテクノロジー』)
【0076】
(文献035)Yuen, S.-M. et al., 2006. Preparation, morphology and properties of acid and amine modified multiwalled carbon nanotube/polyimide composite.(酸及びアミンで修飾された多層カーボンナノチューブ/ポリイミド複合体の調製、形態及び特性)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0077】
本発明の目的は、上記の従来技術に基づいて、より導電率の強いリチウム電池用電極の製造方法を提供することである。
【0078】
具体的には、本発明の目的は、電極ナノ複合材料を分散させて乾燥した後、カーボンナノチューブを脱官能化し、重合体バインダーを炭化して結晶構造を除去することにより、イオン伝導性を向上させることである。さらに、複合材料の導電率や異方性は、内蔵されたカーボンナノチューブや他の炭素添加剤の整列や操作方向に応じて制御することもできる。
【0079】
さらに、本発明の目的は、導電率が向上したリチウム電池用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0080】
本発明は、リチウム電池用電極に関し、特にリチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池などのリチウム電池用電極に関する。前記リチウム電池は、集電体と、陽極と、陰極と、電解質と、セパレータとを含む。
【0081】
本発明は、炭素添加剤(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、グラフェン酸化物、グラフェンナノシートなど)を使用して電極複合材料の導電率を向上させ、分散方法を使用して複合材料中でのその分散性を向上させることに関する。
【0082】
さらに、本発明はまた、炭素材料の脱官能化により導電率をさらに向上させる光電磁エネルギー印加プロセスに関する。前記光電磁エネルギー印加プロセスは、キセノンランプを用いた強いパルス光(IPL)照射、レーザ照射、マイクロ波照射、又はジュール加熱を含んでもよい。IPLプロセスでは、キセノンランプからの閃光が使用される。使用される閃光は、短周期での高出力、広スペクトルという特徴を持つ。IPLプロセスは自発的プロセスであり、炭素添加剤の吸収効果が良好であり、それは脱官能化の主要な目的である。マイクロ波照射プロセスでは、高電力のマイクロ波スペクトルを利用して、加熱により高エネルギーを用いて分子振動を励起する。
【0083】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(例えば、二層カーボンナノチューブ(DWCNT))、カーボンナノチューブ(DWCNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、グラフェン、グラフェン酸化物、及びグラフェンナノシート(GNP)を含む炭素添加剤は、通常、混合物中での分散を向上させるために、官能基(例えば、カルボキシル又はアミノ)によって化学的に官能化されるが、官能基の存在は個々の炭素添加剤粒子の導電率を低下させる。前記光電磁エネルギー印加は官能基を除去することで、炭素添加剤の導電率をさらに向上させることができる。
【0084】
印加された光電磁エネルギーはまた、電極にいくつかの有利な影響を与えることができる。炭素添加剤に金属不純物(製造プロセスで使用される触媒の痕跡)が含まれている場合、光電磁エネルギーの印加によりこれらの不純物が酸化され、電池の電気化学反応に不活性になる可能性がある。
【0085】
前記エネルギーはまた、重合体バインダー材料の材料特性を変化させるために使用され得る。前記バインダー材料は、活物質同士を機械的に固定し、集電体に付着させる。光電磁エネルギーの印加は、バインダー材料に影響を与え、その特性を変化させることができる。前記バインダー材料に十分に高いエネルギーを印加すると、前記バインダー材料は炭化され、活物質の周囲に炭素構造が形成され、導電率及びイオン伝導性が向上する。リチウムイオンが拡散しやすくなるので、導電率及びイオン伝導性を向上させることにより、電池の充放電速度を向上させ、抵抗を低減することができる。さらに、光電磁エネルギーを印加することで、一部のバインダー材料の結晶化度を無くすことも可能である。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は耐薬品性、耐熱性や耐機械性のため、リチウムイオン電池電極によく使われる重合体バインダー材料である。しかしながら、PVDFは位相にかかわらず結晶化度比が高いことが知られている。光電磁エネルギーの印加は、結晶化度の解消に寄与し、結晶相よりもアモルファス相中のPVDFの割合を増加させる。
【0086】
光電磁エネルギー印加は、電極の特性を様々な面で向上させることができる、簡単で費用対効果の高い方法である。さらに、炭素添加剤の他の簡単な整列方法は、電極の材料特性を向上させるために、光電磁エネルギー印加プロセスと組み合わせて使用することができる。前記炭素添加剤の整列プロセスは、機械的せん断応力、電気的分極又は磁気的な分極のような様々な方法を用いて行うことができ、すべての方法は、圧延プロセス中に設備を改造することによって達成するのに適している。アスペクト比の高い炭素添加剤(例えば、CNTやグラフェン)は、その整列方向に応じて異方性材料特性を生じさせることができる。最も重要なのは、導電率をその整列方向に平行な方向に増加させた後、その整列方向に垂直な方向に減少させることである。
【0087】
ロールツーロール(R2R)製造プロセス中に行われる圧延プロセスは、圧縮による材料せん断流又は真空吸引によるせん断流中に炭素添加剤を整列させる機械的せん断応力を加えることができる。さらに、2つのローラー間の十分に高い電界又は磁界(交流又は直流)も炭素添加剤の整列を促すことができる。整列を容易にするために、炭素添加剤は、化学的又は物理的方法によって官能化され、その後、上記の光電磁エネルギー応用プロセスによって脱官能化されてもよい。
【0088】
炭素添加剤の整列に加えられた電界は、特定のバインダー材料の結晶化度を変化させる追加の効果をもたらすこともある。電気的な分極はPVDFの別の結晶相(α相あるいはγ相)からβ相への相転移を誘導する可能性がある。PVDFの結晶化度は材料のイオン抵抗を高めるが、β相の結晶化度はPVDFの親水性を高め、電解質の電極への拡散を高める可能性がある。
【0089】
本発明は、電極の導電率を向上させ、材料特性を所望の状態にするための材料、方法、及び機器を提案する。この方法を用いて電極の導電率を向上させることにより、導電性炭素添加剤の割合を低減し、より多くの活物質を添加することを可能にし、全体的なエネルギー密度を向上させることができる。
【0090】
本発明の説明をサポートするために、例示的な実験及びその結果も記載されている。PVDF-ACNT(酸変性CNT)ナノ複合材料に対してIPL応用実験を行い、FT-IR分析、EDX分析や導電率分析の結果を提供した。
【0091】
本発明の主題は以下に概説される。
【0092】
本発明に係るリチウム電池用電極の製造方法は、活物質、炭素添加剤及び重合体バインダーを混合してスラリーを形成すステップ(a)と、スラリーを基板上に堆積させてコーティングを形成するステップ(b)と、コーティングを乾燥させるステップ(c)と、乾燥コーティングにエネルギーを印加するステップ(d)と、を含む。
【0093】
ステップ(a)における炭素添加剤は、ステップ(d)のエネルギー印加後に炭素添加剤が脱官能化されるか、又は界面活性剤が炭化されるので、化学的方法により官能化されるか、又は界面活性剤と混合されてもよい。
【0094】
前記重合体バインダーは、(d)におけるエネルギーの作用により炭化されてもよい。
【0095】
(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーの少なくとも一部がアモルファス化されるか、又は前記重合体バインダーの少なくとも一部の結晶相が変化してもよい。
【0096】
(d)におけるエネルギー印加により、乾燥コーティング中に含まれる金属不純物が酸化されてもよい。(d)におけるエネルギー印加は、真空環境下又は不活性ガス環境下で行われてもよく、エネルギー印加時に界面活性剤又は重合体バインダーから放出される酸素ガスが金属不純物の酸化に使用される。
【0097】
例えば、(d)では、強いパルス光(IPL)が使用されてもよく、(d)では、レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種はIPLとともに使用することも、IPLを使用しないこともできる。
【0098】
炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェン酸化物、カーボンナノファイバー、及びグラファイトのうちの1種又は複数種を含んでもよい。
【0099】
この方法は、(c)の後に、2つのローラーを用いて圧延を行うステップをさらに含んでもよい。
【0100】
2つのローラーには、異なる電位が印加されてもよい。
【0101】
圧延ステップにおいて、機械的、電極的又は磁気的な分極が行われ、炭素添加剤が基板に平行又は基板に垂直な方向に整列される。
【0102】
圧延ステップは、
【0103】
半結晶性重合体バインダーを熱アニール処理してβ相転移を誘導するステップaと、
【0104】
半結晶性重合体バインダーを電気的に分極してβ相転移を誘導するステップbと、
【0105】
加熱及び圧縮により、炭素添加剤を電極面に平行に整列させるステップcと、
【0106】
真空圧力をかけて炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップdと、
【0107】
2つのローラー間に電界又は磁界を印加することにより、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップeと、のうちの1つ又は複数のステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図面を参照して、本発明のいくつかの態様は、限定的にではなく、例示的に、詳細に図面に説明される。
【
図1】CNTの官能化及び脱官能化過程を示し、ここで、官能化CNTは、酸及び尿素処理に基づく官能化過程を経て、カルボキシル、ヒドロキシ又はアミン基をその炭素壁に付着させ、エネルギー(IPL、マイクロ波及びジュール加熱)の印加により、脱官能化過程により元の状態に戻す。
【
図2】電気的な分極とアニールによるα相からβ相へのPVDF結晶構造の変化を示している。β相PVDFは表面の親水性を強化し、それによって電解質の拡散を改善する。
【
図3】電界を用いて炭素添加剤を整列させ、PVDFの結晶相を変化させる変性R2Rプロセスを示している。
【
図4】材料の特性を改善するために、CNTの官能化、集電体へのブレード塗布、乾燥、R2R圧延及び脱官能化、及び最終的なIPLプロセスにおけるCNTの脱官能化を含む、スラリー混合及び混合超音波処理を含む電極の製造方法を示している。
【
図5】溶媒で懸濁させたMWCNTを示しており、(a)は元のMWCNTサンプル、(b)は酸変性MWCNTサンプル、(c)はIPL処理されたMWCNTサンプルである。MWCNTサンプルを同じ条件で撹拌及び超音波処理したところ、(b)酸変性MWCNTサンプルが最も長く分散したままであり、(a)元のMWCNTサンプルと(c)IPL処理されたMWCNTサンプルが底部に沈んで速く凝集する。
【
図6】、IPL印加後に重合体バインダーと炭素添加剤で封入された活物質のSEM画像である。活物質としてのNMC 811を89.1wt.%、重合体バインダーとしてのPVDFを10wt.%、酸変性MWCNTを0.9wt.%含む。IPLは窒素で満たされた容器において2900Vの電力で6ms印加される。
【
図7a-7c】(a)1500~500cm
-1FT-IR、(b)3500~1500cm
-1FT-IR、及び(c)PVDF-ACNT薄膜のEDXがIPL照射電力によって変化した結果を示している。
【
図8a-8b】(a)シート抵抗及び(b)IPL照射電力に伴う導電率の変化を示している。
【
図9a-9b】IPL印加前後での半電池容量の比較結果を示している。
【
図10】IPL印加前後での電極における電気化学インピーダンススペクトルの結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下の説明及び本発明の前記実施例は、本発明の主題の原理を説明することを意図する。これらの実施例は、本発明の原理及び主題の様々な態様を示すものであって、限定するものではない。本発明及び図面において、同じ符号は、同様の構成要素を表す。図面は必ずしも比率に基づくものではなく、場合によっては、特定の特徴をより明確に描写するために比率を大きくすることがある。
【0110】
図1はCNTの官能化及び脱官能化過程を示しており、官能化されたCNTは、酸及び尿素処理による官能化過程によって炭素壁にカルボキシル、ヒドロキシ又はアミン基が付着している。官能化CNTは、脱官能化過程でIPL、マイクロ波、ジュール加熱などのエネルギーの印加により元の状態に戻る。
【0111】
炭素添加剤の効果
【0112】
ナノ複合材料の材料特性を理解するには、まず、マトリックスとフィラーを理解する必要がある。ほとんどの場合、フィラーは、マトリックスにない特定の特性を強化するために添加される。CNTは高い導電率、高い熱伝導率、高い引張強度を有しているが、ほとんどの重合体マトリックスはこれらの特性を有していないため、重合体CNTナノ複合材料は理想的な選択である[Breuer&Sundararaj,2004]。
【0113】
CNTの特性はたちまちリチウムイオン電池業界の注目を集めた。これらは、最初に、層状構造のLiCoO2化合物のような陰極複合材料に適用される。まず、カーボンブラック(CB)とカーボンファイバー(CF)が用いられたが、やがて多層CNT(MWCNT)がリチウムイオン電池の容量、充放電速度、寿命を向上させることがわかった[Wangら,2008]。実験により、MWCNTを使用した陰極は従来の導電剤(例えばカーボンブラック)を使用した陰極より優れていることが明らかになった[KangとShen,2006;Sheemら,2006)。研究により、MWCNTの導電率はより良く、また、MWCNTの高いアスペクト比も、繰り返しサイクルする充電と放電の間に導電性ネットワークを維持し、ナノ複合電極を機械的に固定するのに寄与することが明らかになった。その効果はほとんどの複合陰極で、特に効果の低いカーボンファイバーやカーボンブラックと比較して現れる。
【0114】
CNTは陽極に好適な導電性添加剤としても知られている。独自のリチウムイオン埋め込み能力により、CNTはグラファイトなどの活物質の代替品としても期待されているが、市販グラファイトに比べて生産コストの面で劣っている。ケイ素、スズ、ビスマスやチタン酸化物などの体積変化の大きい金属合金活物質の発展に伴い、陽極材料の導電性添加剤としてCNTが注目されるようになった。従来のグラファイト陽極と比べ、これらの材料は高いエネルギー密度で知られているが、体積変化が大きく、その後粉化、層間剥離や固体電解質中間相(SEI)の不良な形成が現れる。CNTとその高い導電率は、その導電性ネットワークを利用して活物質の体積変化を抑制し、活物質とバインダー材料を固定することにより電気化学的特性の損失を低減することができる。
【0115】
炭素添加剤の分散
【0116】
CNTと炭素添加剤ナノ粒子はいずれも凝集する傾向がある。凝集はCNT同士のファンデルワールス力が互いに引き寄せ合った結果である。これは、重合体CNTナノ複合材料やその他の任意の炭素系ナノフィラーを含む複合材料の製造において、従来から存在してきた問題である[Atif&Inam,2016]。
【0117】
均一な材料特性(マクロスケール)を実現するために、ナノフィラーの均一な分散を検討した。ナノフィラーの分散は、ナノフィラーが分散された溶媒と直接関連する。分散はエネルギー的に不利であるため、すべてのCNTと溶媒系は凝集状態になる傾向があることが研究からわかっているが[Pramanikら,2017]、一部の溶媒はCNTを分散させるのに必要なエネルギーが少なく、分散状態を保持する時間が長い。
【0118】
一般に、元のCNTは疎水性であるため、水などの極性溶媒よりも非極性溶媒への分散効果が高い[Wusimanら,2013]。ピラミッド型のDMSOは、CNT表面に対して平面的で配向的に平行なDMF(ジメチルホルムアミド)やDMC(ジメチルカーボネート)に比べて、CNTとの相互作用効果が低いため、溶媒の分子幾何構造も分散効果に影響を与える。用いる重合体マトリックスの分子幾何構造や極性もCNTの分散に影響する[Pramanikら,2017]。
【0119】
CNT分散を設計する前に、溶媒と重合体を選択することが一般的であり、これは、重合体マトリックスの種類が材料の特性を決定することが多いからである。したがって、必要な分散エネルギーを低減するか、又はエネルギーを供給するための追加の技術が必要である。CNTの分散に必要なエネルギーを供給することにより、ナノフィラーの分散には、超音波(溶液中の粒子を撹拌するための高周波振動)、圧延(粘性混合物のせんだん力をロール圧延すること)[Gojnyら,2004]、ボールミーリング(フィラーをラッピングして束ねること)[Liら,1999]などの機械的分散方法が一般的に用いられている。
【0120】
超音波時間に対するCNTの分散を比較した。測定前に、蒸留水とSDS(ラウリル硫酸ナトリウム)水溶液にCNTを分散させる(比1:300)。紫外可視測定では界面活性剤とCNTのバンドが重なる可能性があるので、界面活性剤溶液のスペクトルを測定し、ベースラインを補正する。超音波時間の増加は吸光度を増加させ、CNTの溶液中への分散が良好であることが示唆されている[Sobolkinaら,2012]。
【0121】
機械的分散方法は、適用が容易であり、重合体や溶媒が適用するタイプに制限されない。しかし、機械的分散法自体では、CNTやその他のナノフィラーを完全に分散させるには不十分であることが多い。なぜなら、これらの方法は、過剰なエネルギーを伝達すると表面を損傷し、ナノフィラーの長さを短くする可能性があるからである[Luら,1996]。多くの場合、CNTが完全に分散する前に損傷が発生する。したがって、機械的分散方法は、ナノフィラーの露出時間及び強度を制限しながら、一般的に他の技術と共に使用される。
【0122】
CNTの表面に別の分子を付着させ、カーボンナノチューブに異なる特性を持たせる官能化というもう1つの過程もある。官能化タイプによっては、CNTの電気的特性を高めたり、磁気的特性を提供したり、CNTと周囲の重合体との間に接続を確立したり、CNTをより良好に分散させたりすることができる。官能化には2つのタイプがある。1つは物理的官能化であり、もう1つは化学的官能化である。Hirschは化学的官能化を欠陥基官能化と共有結合側壁官能化に分け、物理的官能化を外部官能化と内部官能化に分けている。
【0123】
物理的官能化(界面活性剤を使用する)
【0124】
物理的官能化はCNTと分子間の非共有結合であり、通常は、π堆積(π-π相互作用)や分子のCNT表面への物理的吸着によって維持される。これがCNTの外側シェルで起こることから、外部官能化と呼ばれる。また、CNTの内部に原子や分子を挿入する内部官能化と呼ばれる物理的官能化もあるが、内部官能化方法はCNTの分散にほとんど影響を与えない[Georgakilasら,2007]。
【0125】
界面活性剤は、ナノフィラーを分散して物理的に官能化する一般的な例である。欠陥基官能化又は共有結合側壁官能化技術は、ナノフィラーの元の炭素鎖に損傷を与え、それによってナノフィラーの機械的特性及び電気的特性を変化させる。界面活性剤はナノフィラーと非共有結合を形成し、表面エネルギーを変化させながら本来の特性を維持する。
【0126】
異なる界面活性剤を含む溶液の紫外可視スペクトルに基づいて、各種界面活性剤がCNTの分散に及ぼす影響を調べた。特定波長での吸光度値は解束CNTの数に比例する[Grossiordら,2005]ことから、紫外可視スペクトルを用いてCNTの分散度を決定することができる。Inamらの研究では、GA(アラビアゴム)の分散効果はSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)よりも優れているが、2種類の界面活性剤を併用した場合に分散効果が最も高いことが示されている[Inamら,2014]。TritonTM X-100(ポリオキシエチレンフェニルオクチルエーテル)又はトウェイン-20TMと呼ばれる非イオン界面活性剤とその分散によりMWCNTポリプロピレン(MWCNT-PP)ナノ複合材料の材料特性をどのように改善するかについて研究した。研究によると、TritonTM X-100は、MWCNT-PPナノ複合材料中のCNTの分散を強化する。改善されたCNT分散はまた、MWCNT-PPナノ複合材料の導電率及び引張弾性率を改善する。界面活性剤としてシランカップリング剤(ZFDA、ダウコーニングZ-6173)を用いた研究でも、同様の結果が観察されている[Xin&Li,2012]。
【0127】
界面活性剤の欠点
【0128】
しかし、界面活性剤の使用は必ずしもCNTを分散させる最適な方法ではない。界面活性剤を過剰に添加するとCNTの導電率が実質的に低下することが報告されている[XinとLi,2012]。これは分散効果の低下を意味するのではなく、非導電性界面活性剤の体積の増加がCNTの分散性の向上による導電率の増加を相殺することを意味する。この現象はSDSやSDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)でも示されており、界面活性剤を含むナノ複合材料は、界面活性剤を含まないナノ複合材料よりも熱伝導率が低い[Wusimanら,2013]。
【0129】
化学的官能化
【0130】
他の官能化は、CNTに異なる原子又は分子を追加することを伴う共有結合官能化又は欠陥基官能化と呼ばれる。この化学的官能化は、ナノチューブの拡張π共役を破断し、分離ナノチューブの導電率を低下させると考えられているが、機械的特性や熱的特性への影響は限定的である。しかし、CNTの導電率に比べて、化学的官能化による分散改善効果が欠点をはるかに上回ることが多く報告されている[Moniruzzaman&Winey,2006]。
【0131】
分子鎖の構築により、共有結合には主に2つの方法がある。「グラフト」方法は、特定の分子量を有し、末端が活性基又はラジカル前駆体である重合体を合成することを含む。その後の反応では、付加反応によりナノチューブ表面に重合体鎖が付着する。「グラフト」方法は、CNTの側壁や縁部に固定化された化学物質によるモノマーのその場重合により、CNT表面から重合体を成長させるものである[Spitalskyら,2010]。
【0132】
本発明が「グラフト」方法を採用する主な理由は、分子量及び多分散性が制御された予備成形された市販重合体を利用することができ、CNTを官能化により分散させる目的を達成することができるからである。この官能化方法は、一般的に、CNTのカルボン酸官能化から始まり、通常はCNT「酸処理」と呼ばれる。
【0133】
CNTの酸処理は、様々な種類の酸を用いて異なるプロセスパラメータで行うことができる。いくつかの従来の方法は、硫酸と硝酸を3:1の割合で混合することであり[Gaoら,2005;SYahooら,2006;Mengら,2008)、3:2の割合で混合する方法もある[Yuenら,2006]。CNTの酸溶液中での撹拌時間も様々であり、撹拌温度が低いほどCNTの撹拌時間が長くなるというのが一般的な経験則である。その後、酸溶液中で反応したCNTを多量の脱イオン水で洗浄し、濾過乾燥して余分な酸を除去し、官能化したCNTのみを残す。
【0134】
酸で処理されていない、又は非常に穏やかな酸で処理されたサンプルは、凝集したCNTの析出を示し、それ以外の酸で処理されたサンプルは、24時間後でも分散したCNTが溶液中に懸濁したままであることを示した。カルボン酸官能化CNTは、酸処理された重合体ナノ複合材料中でより良好に分散され、その機械的特性が改善される。アミノの極性はカルボン酸基よりもわずかに低いが、アミン及びジアミン官能化CNTは、特定の重合体マトリックス(ポリアミド)中にカルボン酸官能化CNTよりも均一に分散していることが報告されている。酸変性MWCNTとアミノ変性MWCNTの両方は、ポリアミド中での分散効果が元のMWCNTよりも優れており、アミノ変性MWCNTの濃度が低い場合、PA-MWCNTナノ複合材料のヤング率が最大となる。
【0135】
CNTの整列
【0136】
ナノフィラー分散の強化は、ナノ複合材料の機械的、電気的、及び熱的特性を改善するだけでなく、ナノ複合材料の全体積における均一な材料特性も改善する。さらに、ナノ複合材料中に、アスペクト比の高いナノフィラー(CNTなど)を特定の方向に整列させて、異方性材料の特性を実現できることが研究から見出された。異方性材料特性は、様々な用途で使用することができる。一例は、垂直方向には導電性であるが、横方向には導電性ではない配向性導電性である。これは、積層構造で製造されてきた従来のリチウムイオン電池に理想的な特性かもしれない。
【0137】
炭素添加剤中のCNTを整列させるには、主に3つの方法がある。第1方法は機械的整列で、流れによるせん断応力を利用してCNTを整列させる。第2方法は、磁界を用いてCNTを磁界整列する方法であり、最後の方法は、電界を用いてCNTを電界整列する方法である。
【0138】
重合体CNTナノ複合材料を製造するために溶融混合を用いる場合、機械的整列法が使用される。機械的整列法は、低粘度の溶液状態で整列する磁界整列や電界整列法とは異なり、粘性重合体自体の流動を利用してせん断応力を発生させて繊維を整列させる。重合体CNTナノ複合材料の射出成形又は圧縮成形がよい例である。
【0139】
異なるせん断速度でポリカーボネートMWCNT(PC-MWCNT)ディスクの圧縮成形とドッグボーンのようなサンプルのマイクロ射出成形を研究した。その結果、ディスクサンプルを圧縮成形すると、CNTが径方向に整列され、ドッグボーンのようなサンプルマイクロ射出成形すると、CNTが線状に整列されることが分かった。また、せん断速度が速いほどCNTの整列の度合いが高いこともわかっている[Abbasiら,2010]。さらに、PC-MWCNTの射出成形によりCNTが整列し、ナノ複合材料に異方性の導電率[Mahmoodiら,2012;Parmarら,2013;Arjmandら,2011]と熱伝導性[Mahmoodiら,2015]が生じることが報告されている。
【0140】
この技術の欠点は、表面近傍のせん断応力/ひずみ(制御が困難な場合)と整列の度合がより大きくなること、すなわち、より高いせん断応力が発生することである。これにより、ナノ複合材料体積全体の材料特性が不均一になる。
【0141】
磁界整列法や電界整列法は、機械的整列法よりも均一なナノ複合材料サンプルを得ることができる。磁界整列法や電界整列法は、ナノフィラーに磁気的又は電気的特性を要求するが、ナノフィラーを整列させる射出成形法は、どのようなナノフィラーにも適用可能である。
【0142】
磁界中に元のCNTを整列させることは可能であるが[Camponeschiら,2007]、CNTの磁化率が低いと比較的高い磁界(15T以上)が必要となる。研究者らは、CNTが磁気の影響を受けやすいナノ粒子(酸化鉄など)で修飾できることを発見した。マグヘマイト(γ-Fe2O3)MWCNTを合成して、エポキシ樹脂と混合し、0.3Tの磁界にさらす。これらの混合物は、磁場の方向に強く配向され整列した磁性CNTを生成する[Kimら,2010;Kimら,2011]。
【0143】
電界整列法は、機械的整列法や磁界整列法に比べ、CNTの整列において加工が簡単で効率が高いという特徴がある[Yangら,2017]。この方法は、誘電体粒子(すなわちCNT)に力を加えて電界強度が最大となる位置に移動させる誘電泳動現象を利用する。さらに、直流電界を使って各層のプリント材料にCNTを任意の所望の方向に整列できる3Dプリンタも製造された[Yangら,2017]。しかし、直流電界整列法には、磁界整列法と同様の問題がある。磁界が十分に強ければ、CNTは電界(あるいは磁界)に沿って整列するだけでなく、磁界の方向性によってマイグレーションを起こす可能性が高い[Leeら,2016]。
【0144】
直流電界整列法の問題を解決するために、交流電界整列法を開発した。電界の交番方向はCNTの移動を阻止し、CNTは誘電泳動誘起モーメントによって整列される。元のMWCNTをPSF(ポリスルホン)マトリックス中に混合した後、周波数1kHzで13.3kVp/pmの電界を印加する。電界に平行な方向と垂直な方向で測定した抵抗値には、特に低いCNT濃度で大きな差がある[Oliva-Avilesら,2012]。
【0145】
本発明は、CNT又は他の導電性炭素添加剤を所望の方向に整列するように誘導し、導電性炭素添加剤を電極内に整列するための電気的特性及び機械的特性を制御して、電極のスラリー混合物を集電体上に堆積させる新規な電極製造プロセスを記載する。電極が2つのローラーの間を通過すると、ローラーは、機械的せん断応力、真空吸引力、電界又は磁界を含む様々な方法(
図3参照)でCNTなどの整列を誘導することができる。
【0146】
図2は、電気的な分極とアニールによるα相からβ相へのPVDF結晶構造の変化を示している。β相PVDFは表面の親水性を高め、電解質の拡散を改善する。
【0147】
図3は、電界を用いて炭素添加剤を整列させ、PVDFの結晶相を変化させる変性R2Rプロセスを示している。
【0148】
機械的せん断応力は、2つのローラーを圧縮することによって印加されてもよい。スラリー材料が平坦に圧縮されると、圧縮力はスラリー材料にせん断流を発生させ、整列を誘導するために必要なせん断応力を印加する。この方法は、炭素添加剤を電極面に平行に整列させることを誘導することができる。炭素添加剤を電極面に垂直に合い列させるように誘導するために、電極に電界又は磁界を印加してもよい。
【0149】
電界を印加するには、ローラーを導電性電極として電位を印加するようにしてもよい。電圧差は、直流(DC)又は交流(AC)であってもよい。炭素添加剤の整列は、材料の粘度、電界強度、及び暴露時間に依存するので、所望の整列の度合になるように、ロールツーロールプロセスの供給速度を低下させるか、又は複数回の供給を繰り返すことができる。
【0150】
ロールツーロール供給システムのローラーは、磁界を発生させるために永久磁石又は電磁石としてもよい。元のCNTや炭素添加剤を整列させるには高強度の磁界が必要であるが、前述したように、それを酸化鉄ナノ粒子で物理的に官能化することで整列を誘導しやすくすることができる。
【0151】
例示的な実験では、交番電流を用いてCNTを重合体ナノ複合材料中に整列させる。溶液キャスト技術を用いてナノ複合材料サンプルを製造する。PVDFとジメチルチカルボキサミド(DMF)を1:10の割合で混合してPVDFマトリックスを製造する。混合物を80℃のホットプレート上で24時間撹拌し、PVDFをDMF中に完全に溶解させる。溶液にカルボキシル官能化MWCNTを10wt.%添加して混合し、超音波により30分間分散させる。
【0152】
電界発生器を設置した鋳型にこの混合物を流し込む。高電圧圧電増幅器(PI E-463)は関数発生器と組み合わせて使用され、2つの銅電極間の3cmのギャップに250Hzの周波数で230Vp-pの正弦波を印加する。2つの電極間で7.68kVp-p/mの交流電界が発生した。電界を12時間印加した後、IPLをサンプルに照射し、迅速な重合とCNTの脱官能化を実現する。
【0153】
次に、4点プローブ抵抗計を用いて、交流電界CNT整列中に得られたサンプルを分析する。正方形のサンプルは、幅及び長さに沿って測定され、一方は印加電界に平行であり、他方は印加電界に垂直である。
【0154】
【表1】
電界整列無しのランダム配向ナノ複合材料は、測定方向にかかわらず、抵抗がほとんど変化しない。ナノ複合材料(整列CNT)に交流電界を印加した場合、CNTの整列方向に垂直に測定した結果、CNTの整列方向に平行に測定した結果よりも明らかに抵抗値が大きくなった。幅方向の抵抗と長さ方向の抵抗との比が7.48である異方性抵抗値が顕著に観察された。測定方向に強く依存する抵抗値から、CNTが整列していることがわかる。
【0155】
実験用電極の製造及び特徴評価
【0156】
IPLによる光電磁エネルギー印加の効果を検証するためにサンプル電極を用意した。まず、実験用PVDF-ACNT(酸変性MWCNT)ナノ複合薄膜を作製した。CNTを6wt.%含むPVDF-ACNTをボールミルにより300RPMで3時間混合し、超音波発生器で2分間撹拌した。その後、スラリー混合物をアルミニウム箔に塗布し、真空オーブンで1時間乾燥させた。次に、20mmの距離で、2.2kVから2.8kVまでのさまざまな電力を用いてIPLをサンプルに印加した。サンプル電極の製造プロセスを
図4に模式的に示す。
図4に示すように、電極製造プロセスは、CNTの官能化、超音波処理、集電体へのブレードコーティング、乾燥、R2R圧延、及び脱官能化を含む、スラリー混合物の混合を含んでもよい。得られたサンプルについては、FT-IR、EDX、抵抗測定を用いて分析した。
【0157】
脱官能化
【0158】
酸を用いたCNTの化学的官能化の利点は、強い分散効果をもたらすことである。CNTに対する化学的官能化の潜在的な欠点の1つはプロセスが複雑で、CNT表面に損傷を与え、それによって個々のCNTの導電率を低下させることである。
【0159】
本発明では、「強いパルス光(IPL)照射によるその場脱官能化」と呼ばれる技術を導入することにより、導電率の低下による潜在的な欠点を解決する。官能化CNTの脱官能化過程は、CNTに付着した官能基の種類によって異なる可能性がある。酸変性CNTの場合、化学的に還元するか、あるいは還元環境下で加熱する形でエネルギーを印加するだけで、官能化CNTを元の状態に戻すことができる。しかし、いったん官能化CNTが脱官能化されると、それらは重合体ナノ複合材料中に均一に分散する能力を失ってしまう。
【0160】
元のCNTの導電性を維持しつつ、官能化CNTの分散効果を利用するためには、硬化重合体CNTナノ複合材料を熱処理することが推奨される。PVDF-MWCNTナノ複合を製造し、MWCNTをN-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド(NHMI)などの高分子により、ディールス・アルダー反応により官能化し、PVDFマトリックス中にMWCNTを均一に分散させる。MWCNT-PVDFを硬化させた後、160℃で3時間加熱しディールス・アルダー反応を誘導した。これにより、熱処理後の導電率が向上する[Chang&Liu,2011]。
【0161】
本発明では、ナノ複合材料を長時間加熱する代わりに、強いパルス光(IPL)を使用して所望のエネルギーを提供することにより、生産効率を大幅に向上させる。IPL照射によりグラフェン酸化物を還元グラフェン酸化物に還元することに成功した研究は、他の論文でも明らかにされている[Yimら,2017;Park&Kim,2015]。
【0162】
本開示では、特に重合体溶液中で、酸変性MWCNTはIPL印加により脱官能化される。これは、IPLを印加して酸変性CNTを迅速に脱官能化する応用であり、これにより、分散したCNTの位置を維持すると同時に元のCNTの高い導電率を回復することができる。
【0163】
実験では、ギ酸処理を用いて酸変性MWCNTを製造した。元MWCNT(工業グレード;直径10~30nm、長さ10~30μm)1gと試薬グレードのギ酸250mLを混合した。混合物を反応容器中で10分間超音波処理した後、90℃で100分間撹拌してCNTを官能化した。混合物を撹拌しながら室温まで冷却し、脱イオン水750mLで希釈した後、濾過した。希釈されたギ酸と官能化MWCNTの混合物を真空ファンネルを用いて濾過し、濾過されたMWCNTをpHが7になるまで脱イオン水で洗浄した。濾過されたMWCNTを再度アセトンで洗浄して余分な水又は残留酸を除去し、さらに24時間真空乾燥させた。その後、乾燥したMWCNTを採取し、収率は約80%であった。
【0164】
CNTの脱官能化と分散効果に対するIPLの影響を調べるために、簡単なコロイド試験を行った。上記で製造した酸処理MWCNTの半分を、3600Wのキセノン閃光IPLに6ms曝さした。元のMWCNT、酸変性MWCNT、酸変性MWCNT及びIPL暴露MWCNTサンプルを脱イオン水に懸濁させ、30分間超音波処理した。超音波処理後1時間後にコロイドサンプルの写真を撮影した。
【0165】
図5は溶媒で懸濁させたMWCNTを示す図であり、(a)は元のMWCNTサンプル、(b)は酸変性MWCNTサンプル、(c)は酸変性されIPL処理されたMWCNTサンプルである。
【0166】
図5のコロイド試験から、(a)元のMWCNTサンプルが容器の底部に沈降し、(b)酸変性MWCNTサンプルが分散・懸濁状態を維持し、(c)その後、酸変性されIPL処理されたMWCNTサンプルは、酸変性されたMWCNTサンプルよりも沈降沈降が多く、ただし(c)酸変性されIPL処理されたMWCNTサンプルは、(a)元のMWCNTサンプルよりも沈降が少ないことが観察された。
【0167】
このことは、酸が官能化された後、官能化CNTがIPLに暴露された後、ある程度元のCNTに還元されることを示している。
【0168】
よりよく理解するために、カルボン酸官能化MWCNTを用いてMWCNT-PDMSナノ複合材料サンプルを製造し、官能化と脱官能化の影響を判定した。クロロホルム6gに、PDMS2.5g、硬化剤0.25g、酸変性MWCNT 0.25gを混合した。サンプルを室温で2時間撹拌した後、超音波浴中で30分間超音波処理した。
【0169】
サンプルを3つのシャーレに均等に分配した。このうち2つのサンプルを45℃で8時間加熱し、溶媒を完全に蒸発させて重合反応を起こした。他のサンプルには3600Wのキセノンフ閃光IPLを6ms照射した。元のMWCNTを参照サンプルとして用いて、別のMWCNT-PDMSシャーレを作製した。得られたMWCNTサンプルは、上下面から2cm離れた2点の抵抗を測定することにより比較された。サンプルごとに5回測定し、サンプルごとの平均抵抗を測定し、表2に並べて示した。
【0170】
【表2】
予想通り、酸変性MWCNTサンプルは、元のMWCNTサンプルと比較して、分散が強化されたため、抵抗が低下した。興味深いことに、IPL照射がサンプルに及ぼす影響は照射時間によって異なる。サンプルの硬化・重合前に照射が行われると、生成されるサンプル抵抗は最小となり、これは、脱官能化により導電率が向上することを意味する。重合後の照射は、元のMWCNTを有するサンプルと比較して抵抗を大幅に増加させる。IPL照射プロセスでの観察結果に基づき、1つの仮説を提出し、すなわち、硬化/重合前にIPL照射を行うと、溶媒の蒸発と急速な重合過程中でIPL照射の過剰なエネルギーが吸収され、一方、硬化後のIPL照射では、MWCNT-PDMSナノ複合材料サンプルの燃焼と損傷に過剰なエネルギーが使用される。
【0171】
図6は、IPL印加後に重合体バインダーと炭素添加剤で封入された活物質のSEM画像である。
【0172】
活物質としてのNMC 811を89.1wt.%、重合体バインダーとしてのPVDFを10wt.%、酸変性MWCNTを0.9wt.%含んだ。IPLは窒素ガスで満たされた容器中にて2900Vの電力で6ms印加された。
【0173】
図6を参照すると、IPLを印加すると、重合体バインダーは薄いニューラルネットワーク形状のネットワークを形成し、NMC活物質に付着する。この形態は、接触表面積及び導電率の増加に寄与し、リチウムイオン拡散を改善する。
【0174】
図7a、7b、及び7cは、(a)1500~500cm
-1 FT-IR、(b)3500~1500cm
-1FT-IR、及び(c)印加されたIPL電力によるPVDF-ACNT薄膜のEDXを示している。PVDF-ACNT薄膜はPVDFと1wt.%の酸変性MWCNTとからなる。IPLランプと薄膜の間の2cmの距離に、2.2kVから2.8kVのさまざまな電力レベルで、6msにわたってIPLを印加する。
【0175】
IPL処理されていないACNT/PVDF薄膜では、763、854、1148、1423cm-1にはPVDFのα相、1070と1170cm-1にはβ相、833、1231及び1401cm-1にはγ相が観察された。2.2kVでIPL処理を行ったところ、PVDFの結晶化度は改善され、794、973、1208及び1380cm-1にはα相が観察され、また、1277cm-1にはβ相も形成した。しかし、IPL電圧値が2.4kVから2.8kVに上昇するにつれて、α、β、及びγに対応するピーク強度は徐々に低下し、2.8kVのIPL処理では、854cm-1でのα相しか観察されなかった。これらの結果から、IPL印加は、PVDFのα、β、及びγに対する結晶化度を低下させ、PVDFを炭化させたと結論した。PVDFの結晶化度を低下させることにより、イオン伝導性を向上させることができる。
【0176】
図7bに示すように、IPL電圧の上昇に伴ってPVDFの結晶化度が低下するのに比べて、PVDFの炭化が改善されている。IPL処理なしの場合、1900~2000cm
-1の間のC=C=Cと2140~2100 cm
-1の間のC≡Cに対応するピークは存在しない。しかし、IPL電圧が2.2kVから2.8kVに上昇するにつれて、これらのピークの強度は徐々に増加している。
図7cにおいて、FT-IR結果と同様に、EDX結果におけるフッ素の割合は、IPL電圧の上昇に伴って減少している。IPL処理前に、原子%では、Cは65.75%、Fは28.6%、Oは5.65%であった。IPL電圧が2.2kVから2.8kVに上昇するにつれて、原子%では、Cは65.75%から84.08%に増加し、FとOはそれぞれ28.6%から13.98%、5.65%から1.91%に低下した。これにより、PVDFの結晶化度の低下(すなわち、α相及びγ相のピーク値の低下)により、PVDFのイオン伝導性が向上するとともに、炭化によりPVDFの機械的及び化学的安定性が確保される。
【0177】
図7bに示すように、IPLを印加することで酸変性カーボンナノチューブを脱官能化することができる。IPL処理前に、1710cm
-1~1680 cm
-1の間にはC=Oに対応するピークが存在し、酸変性カーボンナノチューブには-COOH基が存在する。2.2kVと2.4kVのIPL処理中も、ピークは存在した。しかし、2.6kV以上のIPL電圧では、ピークが完全に除去される。さらに、IPL電圧が上昇した場合、3024cm
-1と2984cm
-1の間のO-HとC-Hに対応するピークは除去され、IPL処理中に、両ピークとも2.8kVで除去される。
【0178】
したがって、
図7a及び
図7bのFT-IR分析では、IPL電力の増加に伴い、PVDFのα及びγ相結晶構造のピークが減少し、O-Hに対応するピークが減少し、酸変性カーボンナノチューブの脱官能化が進んでいることが示され、
図7cのEDX分析では、IPL電力の増加に伴い、炭素含有量が増加し、PVDFが炭化されていることが示された。
図7cは、IPL電力の増加に伴い、炭素含有量が増加し、PVDFが炭化していることを示しており、IPL電力の増加に伴い、C=Cのピーク値が増加していることを示しており、IPLがPVDFバインダーを炭化させていることを示している。
【0179】
図8a及び8bは、IPL電力を2.2kVから2.8kVに上昇させながら増加させた場合の(a)シート抵抗及び(b)導電率を示している。
【0180】
PVDFの炭化と酸変性カーボンナノチューブの脱官能化は、PVDF-CNTサンプル電極表面の電気的特性を著しく向上させる。IPL処理前に、薄膜の平均シート抵抗は2,458kΩ/sqであった。IPL電圧が2.2kVから2.8kVに上昇するにつれて、シート抵抗はそれぞれ112.5kΩ/sq、61.58kΩ/sq、31.9k Ω/sq、及び21.8kΩ/sqに低下し、シート抵抗の最大低下率は99.11%であった。IPL電圧に基づくシート抵抗は、IPL電圧に基づく導電率と比較して、シート抵抗よりも導電率の向上が顕著である。IPL処理前の平均導電率は20.5mS/mであった。IPL電圧の上昇に伴い、導電率は805.2mS/m、1246.1mS/m、1619.4mS/m、2299.8mS/mと徐々に上昇し、最大上昇率は10997%であった。
【0181】
図9aは、IPL印加前後での半電池容量の比較結果を示している。活物質としてケイ素を用い、炭素材料としてMWCNTを用い、バインダーとしてCMCとSBRを1:1の割合で用いる。活物質、酸変性カーボンナノチューブ及びバインダーの割合は72:8:20である。0.01~1.5Vの電圧範囲において0.1Cの固定レートで20サイクルの性能評価を行った。第1サイクルでは、IPLを印加していない電池の放電容量密度は約1610mAh/gであり、2.5kV-IPLを印加した電池の放電容量密度は約1780mAh/gである。したがって、IPL処理により放電容量密度が10%向上する。20サイクル後、IPL印加前後の放電容量密度に大きな差があった。IPLを印加していない電池の放電容量密度は約150mAh/gであるのに対し、IPLを印加した電池の放電容量密度は1180mAh/gである。IPLを印加した電池の値は、印加しなかった電池の値よりも約7.8高くなっている。
図9aに示すように、サイクル数が増加するにつれて、IPLを印加していない電池の容量密度は急速に低下し、IPLを印加した電池の容量密度は徐々に低下する。さらに、
図9bの充放電効率の結果に示すように、IPLを印加していない電池の効率は、2サイクル目まで99%程度で推移していたが、サイクル数が増えるにつれて80%まで低下しているのに対し、IPLを印加した電池の効率は低下せず、サイクル数が増えても95%以上の効率を維持している。充放電時のバインダーの炭化作用により活物質の周囲に均一なSEI層が形成され、効率が向上する。
【0182】
図10は、電極にIPLを印加する前後の電気化学インピーダンススペクトルの結果を示している。IPL印加前の電池の電荷輸送抵抗は約250Ωであり、2.5kV-IPL印加後の電池の電荷輸送抵抗は約100Ωである。電荷輸送抵抗は約60%低減した。さらに、IPL印加前後で、拡散抵抗は約400Ωから約200Ωへと50%低下した。これは、酸変性炭素の脱官能化により活物質間の導電率が向上し、バインダーの炭化により活物質とバインダーとの間の電荷移動が向上するためである。
【0183】
本発明の主題は、以下のように概説され得る。
【0184】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池又はリチウム固体電池などのリチウム電池用電極の電気化学的特性を改善する方法を提供する。
【0185】
a.電極は、活物質、炭素添加剤及び重合体バインダーを含む陽極及び/又は陰極であり、
【0186】
b.炭素添加剤は、化学的に官能化されるか、又は界面活性剤と混合されていることにより、分散効果が改善されていることを確保し、
【0187】
c.化学的に官能化された、又は界面活性剤と混合された炭素添加剤は、エネルギーを印加することによって脱官能化され、それによって導電率が向上したり、炭素添加剤の金属不純物が酸化されて不活性化したりする。
【0188】
d.エネルギーを印加することにより重合体バインダーを炭化させて導電率をさらに向上させたり、結晶化度バインダーのアモルファス相やβ相の増加に応じてイオン伝導性などのバインダーの特性を向上させる。
【0189】
導電率を向上させるために、活物質とバインダーとからなる陽極又は陰極に、導電率の高い炭素添加剤を添加する方法において、前記炭素添加剤は、多層、単層又は薄層カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノシート、グラフェン酸化物、カーボンナノファイバー又はグラファイトなどのカーボンナノチューブを含んでもよい。
【0190】
化学的に官能的に分散された炭素添加剤材料を使用する方法において、最大の導電率を達成するために、前記炭素添加剤が電極層中に均一に分散される。元々凝集した炭素添加剤を分散させるために、酸及び/又は尿素の化学的官能化技術が使用される。化学的官能化により、前記炭素添加剤に付着した官能基(カルボキシル、アミン基など)が互いに押しのけ合い、分散効果が向上する。
【0191】
炭素添加剤材料を分散させるための界面活性剤を使用する方法において、炭素添加剤に非共有結合物理的官能化を起こすために、前記界面活性剤は、アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテル(APEO)、シラン変性ポリカルボン酸エステル(シランPCE)、カチオン性ポリカルボン酸エステル(C-PCE)、TritonTM X-100、トウェイン-20TM、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)のうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0192】
炭素添加剤材料を物理的方法で分散させる方法において、化学的に官能化された、又は界面活性剤と混合された炭素添加剤材料を、ボールミーリング又は超音波周波数による超音波処理を用いて電極混合物スラリー中に分散させた後、乾燥させて分散状態を固定化する。
【0193】
高い導電率を回復する方法において、分散状態を固定化した後、IPL瞬間エネルギー印加を用いて化学的に官能化された炭素添加剤材料料を脱官能化する。
【0194】
重合体バインダー材料を炭化して電極の特性を高く改善する方法において、重合体バインダーは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスルホスチレン(PEDOT:PSS)、ポリジエチレン(PDA)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン(SEBS)、グリセリン、スクロース、セルロース、リグニン、メソフェーズピッチ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデントリフルオロエチレン(PVDF-TRFE)、パリレン-Cのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。バインダーや界面活性剤の炭化に伴って導電性が向上し、それに伴って電極の親水性が向上し、電解液の吸収が向上する。
【0195】
IPL瞬間エネルギーを使用して電極複合材料中に残存する界面活性剤を炭化することで電極性能を改善する方法において、界面活性剤は、アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテル(APEO)、シラン変性ポリカルボン酸エステル(シランPCE)、カチオン性ポリカルボン酸エステル(C-PCE)、TritonTM X-100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)のうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。バインダーや界面活性剤の炭化に伴って導電性が向上し、それに伴って電極の親水性が向上し、電解液の吸収が向上する。
【0196】
鉄等の金属不純物を酸化する方法において、IPL瞬間エネルギー印加を用い、真空中や不活性ガスが充填された環境下においても、印加エネルギーは界面活性剤と重合体バインダーから放出される酸素を利用して金属不純物を炭化して酸化する。
【0197】
高強度IPL瞬間エネルギー印加を用いて、半結晶性重合体バインダーをより非晶質化することで、電極の特性を改善するための方法において、半結晶性重合体バインダーは、PET、PTFE、PVDF及びPVDF-TRFEのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。半結晶性重合体バインダーは、結晶相の割合が比較的高く、バインダー材料のイオン伝導性が抑制される。高強度のエネルギー印加により、結晶相が減少し、アモルファスPVDFが増加し、イオン伝導性が向上する。
【0198】
半結晶性重合体バインダーをアニールし、重合体鎖にβ相転移を誘起する方法において、IPL瞬間エネルギー印加を用いて、低い強度で繰り返しサイクルすることにより、電極の特性を改善し、半結晶性重合体バインダーはPET、PTFE、PVDF及びPVDF-TRFEのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。重合体の結晶化度は材料のイオン伝導性を低下させるが、表面特性を変化させて電解質の電極への拡散性を高めることができる。
【0199】
分散状態を固定化した後、レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種のエネルギー印加方法を用いて炭素添加剤材料を脱官能化して、より厚い電極にエネルギーを通過させて電極の特性を改善する方法において、化学的に官能化された炭素添加剤を脱官能化して、高い導電率を回復させる。
【0200】
レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種のエネルギー印加方法を用いて、重合体バインダーを炭化し、より厚い電極にエネルギーを通過させて、電極の特性を改善する方法において、重合体バインダーは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスルホスチレン(PEDOT:PSS)、ポリジエチレン(PDA)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン(SEBS)、グリセリン、スクロース、セルロース、リグニン、メソフェーズピッチ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化VDF-TRFE)、及びパリレン-Cのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。バインダーや界面活性剤の炭化に伴って導電性が向上し、それに伴って電極の親水性が向上し、電解液の吸収性が向上する。
【0201】
レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種のエネルギー印加方法を用いて電極複合材料中に残存する界面活性剤を炭化して、より厚い電極にエネルギーを通過させて、電極の特性を改善する方法において、界面活性剤は、アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテル(APEO)、シラン変性ポリカルボン酸エステル(シランPCE)、カチオン性ポリカルボン酸エステル(C-PCE)、TritonTM X-100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)の1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。バインダーや界面活性剤の炭化に伴って導電性が向上し、それに伴って電極の親水性が向上し、電解液の吸収が向上する。
【0202】
鉄等の金属不純物を酸化する方法において、レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のいずれか1種又は複数種のエネルギー印加方法を用いて、より厚い電極にエネルギーを通過させ、電極の特性を改善し、真空中や不活性ガスが充填された環境下においても、印加されたエネルギーは、重合体バインダーから放出される酸素と界面活性剤とを利用して金属不純物を酸化することができる。
【0203】
レーザ、マイクロ波、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種のエネルギー印加方法を用いて、半結晶性重合体バインダーをより非晶質化して、より厚い電極にエネルギーを通過させて、電極の特性を改善する方法において、半結晶性重合体バインダーは、PET、PTFE、PVDF、及びPVDF-TRFEのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。半結晶性重合体バインダーは、結晶相の割合が比較的高く、バインダー材料のイオン伝導性を抑制する。高強度のエネルギー印加により、結晶相が減少し、アモルファスPVDFが増加し、イオン伝導性が向上する。
【0204】
電極材料の特性を向上させるための装置は、2つのローラー(異なる電位が印加される)を備えたロールツーロール機械と、ヒータと、真空発生器とを備える。前記装置はロールツーロール機械及び真空発生器によって機械的応力を制御し、ヒータによって温度を制御し、2つのローラー間に印加される電位によって電界を制御することができる。前記装置は、以下の方法で材料の特性を向上させることができる。
【0205】
a.半結晶性重合体バインダーを熱処理して、β相転移を誘導する。
【0206】
b.半結晶性重合体バインダーを電気的に分極して、β相転移を誘導する。
【0207】
c.加熱・圧縮により炭素添加剤材料を電極面に平行に整列させる。
【0208】
d.真空圧力をかけて、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させる。
【0209】
e.2つのローラー間に電界又は磁界を印加することにより、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させる。
【0210】
前記装置を用いた熱処理により半結晶性重合体バインダーのβ相転移を誘導する方法において、電極材料に熱を加えることにより粘度を低下させ、圧縮することにより機械的応力を加えることができ、よりコンパクトで秩序ある結晶構造を形成することができる。
【0211】
前記装置を用いた電気的な分極により半結晶性重合体バインダーのβ相転移を誘導する方法において、2つのローラー間に印加される電位差によって、半結晶性重合体バインダーの相転移比が決定される。
【0212】
前記装置を使用して圧縮を加えて電極中の炭素添加剤を整列させる方法において、電極材料が2つのローラー間を移動する間に熱が材料の粘度を低下させ、ローラーによって印加される圧縮が径方向のせん断流を誘導し、それによって炭素添加剤材料が電極面に平行な方向のせん断流に沿って整列するように誘導する。電極材料の粘度、温度、ロールプレス量、発生する真空度により、整列の度合を決定することができる。
【0213】
前記装置を用いて真空を印加して、電極中の炭素添加剤を整列させる方法において、電極材料が2つのローラーの間を移動する間に熱が材料の粘度を低下させ、電極の上下から印加される真空が材料のせん断流を誘導し、そのせん断流に沿って電極面に平行な方向に炭素添加剤材料を整列させる。電極材料の粘度、温度、ロールプレス量、発生する真空度により、整列の度合を決定することができる。
【0214】
前記装置を用いて電界又は磁界を印加することにより電極中の炭素添加剤を整列させる方法において、電極材料が2つのローラー間を移動する際に、交流又は直流で発生する電界整列、又は電磁石や永久磁石で発生する磁界が炭素添加剤の整列を誘導する。前記炭素添加剤は、元のもの、整列の度合を向上させるために、化学的に官能化されているもの、酸化鉄やコバルトなどの磁性材料で物理的に修飾されているものであってもよい。電極材料の粘度、炭素添加剤の幾何学的形状、印加される電界又は磁界の強度、印加される電界又は磁界の周波数のいずれによっても、整列の度合を決定することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池用電極の製造方法であって、
活物質、炭素添加剤及び重合体バインダーを混合してスラリー混合物を形成するステップ(a)と、
スラリー混合物を基板上に堆積させてコーティングを形成するステップ(b)と、
コーティングを乾燥させるステップ(c)と、
乾燥コーティングにエネルギーを印加するステップ(d)と、を含
み、
ここで、(a)における炭素添加剤は化学的に官能化されるか、又は界面活性剤と混合され、
(d)におけるエネルギー印加により、前記炭素添加剤が脱官能化されるか、又は界面活性剤が炭化される、方法。
【請求項2】
リチウム電池用電極の製造方法であって、
活物質、炭素添加剤及び重合体バインダーを混合してスラリー混合物を形成するステップ(a)と、
スラリー混合物を基板上に堆積させてコーティングを形成するステップ(b)と、
コーティングを乾燥させるステップ(c)と、
乾燥コーティングにエネルギーを印加するステップ(d)と、を含み、
ここで、(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーが炭化される、方法。
【請求項3】
(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーが炭化される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(d)におけるエネルギー印加により、前記重合体バインダーの少なくとも一部がアモルファス化されるか、又は前記重合体バインダーの少なくとも一部の結晶相が変化する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
(d)におけるエネルギー印加は、真空雰囲気中又は不活性雰囲気中で行われ、エネルギー印加時に界面活性剤又は重合体バインダーから放出される酸素が、金属不純物の酸化に使用される、請求項
2に記載の方法。
【請求項6】
(d)では、強いパルス光(IPL)が使用される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項7】
(d)では、レーザ、マイクロ波、プラズマ、又はジュール加熱のうちの1種又は複数種が使用される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェン酸化物、グラフェンナノシート、カーボンナノファイバー、及びグラファイトのうちの1種又は複数種を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項9】
(c)の後に2つのローラーを用いて圧延を行うステップをさらに含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記2つのローラーには、異なる電位が印加される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
圧延ステップにおいて、機械的、電極的、又は磁気的な分極が行われ、炭素添加剤が基板に平行又は垂直な方向に整列される、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
前記圧延ステップは、
半結晶性重合体バインダーを熱処理してβ相転移を誘導するステップaと、
半結晶性重合体バインダーを電気的に分極してβ相転移を誘導するステップbと、
加熱及び圧縮により、炭素添加剤を電極面に平行に整列させるステップcと、
真空圧力をかけて、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップdと、
2つのローラー間に電界又は磁界を印加することにより、炭素添加剤を電極面に垂直に整列させるステップeと、のうちの1つ又は複数のステップを含む、請求項
9に記載の方法。
【国際調査報告】