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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】敗血症の新しい治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20240229BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240229BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240229BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P31/04
C12N5/0783
C12Q1/02
G01N33/50 K
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553032
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2022052636
(87)【国際公開番号】W WO2022201047
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/082447
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】21169770.1
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523189129
【氏名又は名称】グイジョウ シノルダ バイオテクノロジー カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジンリン
(72)【発明者】
【氏名】フ,ピンシェン
(72)【発明者】
【氏名】リ,シャオヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウ,リユン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FA37
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS33
4B065AA90X
4B065AC14
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB35
(57)【要約】
本発明は、対象における敗血症の治療のための方法であって、有効量の同種異系ナチュラルキラー細胞を含む医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法、およびこのような治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における敗血症の治療のための方法であって、有効量の同種異系ナチュラルキラー細胞を含む医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
同種異系ナチュラルキラー細胞の投与が複数回の投与によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
同種異系ナチュラルキラー細胞が少なくとも1回の静脈内注入によって投与される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
投与当たり少なくとも10個の同種異系ナチュラルキラー細胞が投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
対象が免疫不全である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
対象が、がんの継続的な薬物治療の結果として免疫不全である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象が、微生物感染によって引き起こされる敗血症に罹患している、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD3およびCD56である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD56およびCD16である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法における使用のための同種異系ナチュラルキラー細胞。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法における使用のための医薬組成物の製造における同種異系ナチュラルキラー細胞の使用。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、および前記血清中のインターロイキン-6のレベルを経時的にモニターすることを含み、インターロイキン-6のレベルの経時的な低下が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる、方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、および血清との同時インキュベーションの前後に前記同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の比例式(proportional expression)を測定することを含み、少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質がCD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46からなる群から選択され、前記同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式が、前記治療方法に対する対象の感受性の指標となる、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法の工程をさらに含む、治療方法に対する対象の感受性を予測するための請求項12に記載の方法。
【請求項15】
血清および同種異系ナチュラルキラー細胞が16~24時間にわたって同時インキュベートされる、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよび動物対象の治療的療法の分野に関し、特に、敗血症の治療において同種異系細胞を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染症または外傷に対する身体の反応によって引き起こされる非常に危険な状態である。炎症性メディエータまたは病原体認識シグナル伝達経路の遮断は失敗することが多く、免疫修飾療法が敗血症で使用される新しいアプローチとなり得る。
【0003】
敗血症の過程では、免疫系が過剰に活性化され、過剰なレベルのサイトカイン、免疫細胞を誘引するシグナル伝達分子が産生される。これらの細胞のレベルが上昇すると、より多くのサイトカインが分泌され、この「サイトカインストーム」によってさらに多くの免疫細胞が動員され、悪循環が激化する。最初の感染を食い止める代わりに、免疫因子は身体の組織や臓器を攻撃し、臓器不全を引き起こして死に至らしめる。サイトカインの産生または効果を標的とした介入の臨床試験はこれまでのところ成功したことがない(Chousterman他、2017)。患者が過剰炎症期を乗り切ったとしても、その後の免疫抑制期は依然として生命を脅かすものである。
【0004】
同種異系ナチュラルキラー(「NK」)細胞は、がんの治療のための養子免疫療法における使用が提案されている(Geller他、2011)。エキソビボで増殖させた後の同種異系NK細胞の注入は、ほぼ安全であると報告されている(Lim他、2015)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、敗血症の新たな治療的療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、対象における敗血症の治療のための方法であって、有効量の同種異系ナチュラルキラー細胞を含む医薬組成物をその対象に投与することを含む、方法に関する。
【0007】
一実施形態では、同種異系ナチュラルキラー細胞の投与は複数回の投与によって実施される。
【0008】
一実施形態では、同種異系ナチュラルキラー細胞は、少なくとも1回の静脈内注入によって投与される。
【0009】
一実施形態では、投与当たり少なくとも10個の同種異系ナチュラルキラー細胞が投与される。一部の実施形態では、投与当たり最高1010個または最高1011個の同種異系ナチュラルキラー細胞が投与される。
【0010】
一実施形態では、対象は免疫不全である。一部の実施形態では、対象は、がんの継続的な薬物治療の結果として免疫不全である。
【0011】
一実施形態では、対象は、微生物感染によって引き起こされる敗血症に罹患している。
【0012】
一実施形態では、同種異系ナチュラルキラー細胞は、抗腫瘍療法または抗菌感染療法と同時に、別々に、または連続して投与される。別の実施形態では、抗腫瘍療法は、放射線療法、化学療法、および免疫療法のうちのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせである。
【0013】
一実施形態では、医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD3およびCD56である。
【0014】
一実施形態では、医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD56およびCD16である。
【0015】
一実施形態では、循環敗血症バイオマーカーは、同種異系ナチュラルキラー細胞の投与によって減少する。一部の実施形態では、循環敗血症バイオマーカーは、IL6、プロカルシトニン、C反応性タンパク質、Dダイマーのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせである。
【0016】
一実施形態では、炎症性サイトカインの血清レベルは、同種異系ナチュラルキラー細胞の投与によって低下する。一部の実施形態では、炎症性サイトカインは、IL6、IL10、IL8、IL-1RAのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせである。
【0017】
一実施形態では、殺傷機能に関連するNK細胞サブセット(CD56+CD16+)の割合が増加する。別の実施形態では、殺傷機能に関連するNK細胞サブセットの割合(CD56+CD16+)は、約8.0%から18.0%までに増加する。
【0018】
一部の実施形態では、同種異系ナチュラルキラー細胞は末梢血または臍帯血に由来する。
【0019】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による方法における使用のための同種異系ナチュラルキラー細胞に関する。
【0020】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による方法における使用のための医薬組成物の製造における同種異系ナチュラルキラー細胞の使用に関する。
【0021】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、およびその血清中のインターロイキン-6のレベルを経時的にモニターすることを含み、インターロイキン-6のレベルの経時的な低下が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる方法に関する。
【0022】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、および血清との同時インキュベーションの前後にこの同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の比例式(proportional expression)を測定することを含み、この同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式(a reduced proportional expression)が、治療方法に対する対象の感受性の指標となり、少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質がCD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46からなる群から選択される方法に関する。
【0023】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、
- 対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションし、この血清中のインターロイキン-6のレベルを経時的にモニターすること、および
- 対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションし、血清との同時インキュベーションの前後にこの同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の比例式(proportional expression)を測定することを含み、前記同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式(reduced proportional expression)、少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質が、CD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46からなる群から選択され、
この同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式(reduced proportional expression)と組み合わせたインターロイキン-6のレベルの経時的低下が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる方法に関する。
【0024】
この態様の一実施形態では、血清および同種異系ナチュラルキラー細胞は16~24時間にわたって同時インキュベートされる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本開示の目的のために、「ナチュラルキラー細胞」または「NK細胞」は、標的細胞に事前に曝露されなくても、組織適合性抗原で提示されなくても、特に腫瘍細胞または病原体を破壊することができるリンパ球のサブセットとして定義される。NK細胞に特徴的な表面マーカーは、CD45+、CD3-、およびCD56+である。
【0026】
詳細な説明
本発明は、同種異系NK細胞の養子輸血を敗血症患者の治療のために使用することができるという発見に基づいている。NK細胞療法は、患者の炎症性サイトカインのレベルを低下させることができ、同時に抗炎症性サイトカインを増加させることができる。この治療法は、患者が感染症と闘う能力を向上させるのに役立つ可能性がある。
【0027】
第1の態様では、本発明は、対象における敗血症の治療のための方法であって、有効量の同種異系ナチュラルキラー細胞を含む医薬組成物をこの対象に投与することを含む、方法に関する。
【0028】
ナチュラルキラー細胞の精製および増殖は当技術分野で一般的に知られており、確立された方法に従って実施することができる。NK細胞の精製および増殖のための例示的な手順を実施例に挙げる。
【0029】
医薬組成物は、ヒト対象などの目的の対象への静脈内注入に適していることが好ましい。適切な医薬組成物は、注射用水を含み、任意選択により、ヒトアルブミンおよびその他の薬学的に許容される賦形剤を含む。静脈内注射用の組成物は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性、および安定性を備えていなければならない。適切な組成物は、例えば、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル注射剤、または乳酸リンゲル注射剤などの等張媒体を利用することができる。必要に応じて、保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/またはその他の添加剤が含まれていてもよい。さらに、適切な医薬組成物の配合は、例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、23版(Elsevier,Inc.2020、ISBN978-0-12-820007-0)によって当技術分野で知られている。
【0030】
同種異系ナチュラルキラー細胞を含む組成物の投与は、一般的に、少なくとも1回の静脈内注入などの単回または複数回の投与によって実施される。一実施形態では、投与は、少なくとも2回の投与、少なくとも3回の投与、少なくとも4回の投与、少なくとも5回の投与、少なくとも6回の投与、少なくとも7回の投与、少なくとも8回の投与、少なくとも9回の投与、または少なくとも10回の投与によって実施される。一実施形態では、投与当たり少なくとも10個の同種異系ナチュラルキラー細胞が投与される。
【0031】
一部の実施形態では、対象は免疫不全である。一部の実施形態では、対象は、がんもしくは自己免疫疾患の継続的な治療などの他の状態の継続的な薬物治療のために、または臓器移植のために免疫不全である。一部の実施形態では、対象は、疾患、または疾患によって引き起こされるかもしくは疾患に併発する機能不全のために免疫不全である。本開示の実施例に開示されているように、免疫不全の患者は、敗血症の標準治療に適切に反応しない可能性がある。したがって、本発明による方法は、この患者集団にとって非常に有益であり得る。
【0032】
一部の実施形態では、対象は、細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、またはそれらの任意の組み合わせなどの微生物感染によって引き起こされる敗血症に罹患している。
【0033】
一部の実施形態では、医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD3およびCD56である。一部の実施形態では、医薬組成物中の細胞の少なくとも70%がCD56およびCD16である。
【0034】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による方法における使用のための同種異系ナチュラルキラー細胞に関する。
【0035】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による方法における使用のための、前述のような同種異系ナチュラルキラー細胞を含む医薬組成物に関する。
【0036】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による方法における使用のための医薬組成物の製造における同種異系ナチュラルキラー細胞の使用に関する。適切な医薬組成物は注射用水を含み、任意選択により、ヒトアルブミンおよびその他の薬学的に許容される賦形剤を含む。静脈内注射用の組成物は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性、および安定性を備えていなければならない。適切な組成物は、例えば、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル注射剤、または乳酸リンゲル注射剤などの等張媒体を利用することができる。必要に応じて、保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/またはその他の添加剤が含まれていてもよい。さらに、適切な医薬組成物の配合は、例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、23版(Elsevier,Inc.2020、ISBN978-0-12-820007-0)によって当技術分野で知られている。
【0037】
さらに、治療効果の予測に有用なバイオマーカーが提供される。予期される患者の血漿は、NK細胞と同時インキュベーションされる。NK細胞が血漿中のIL6レベルを低下させ、かつ/またはNK細胞の殺傷機能のマーカーを低下させる場合、これは、NK細胞療法が患者の治療に有効であり得ることの指標となる。
【0038】
したがって、一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、およびこの血清中のインターロイキン-6のレベルを経時的にモニターすることを含み、インターロイキン-6のレベルの経時的な低下が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる方法に関する。
【0039】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションすること、および血清との同時インキュベーションの前後にこの同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の比例式(proportional expression)を測定することを含み、少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質がCD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46からなる群から選択され、この同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式(reduced proportional expression)が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる方法に関する。
【0040】
一態様では、本発明は、本発明の上記の態様による治療方法に対する対象の感受性を予測するための方法であって、
- 対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションし、この血清中のインターロイキン-6のレベルを経時的にモニターすること、および
- 対象の血清を同種異系ナチュラルキラー細胞と同時インキュベーションし、血清との同時インキュベーションの前後にこの同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の比例式(proportional expression)を測定することを含み、少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質が、CD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46からなる群から選択され、
この同種異系ナチュラルキラー細胞の細胞表面の少なくとも1つの細胞表面マーカータンパク質の低下した比例式(reduced proportional expression)と組み合わせたインターロイキン-6のレベルの経時的低下が、治療方法に対する対象の感受性の指標となる方法に関する。
【0041】
この態様の一実施形態では、血清および同種異系ナチュラルキラー細胞は16~24時間にわたって同時インキュベートされる。
【0042】
以下の実施例は本発明の説明として含まれており、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0043】
実施例1
58歳の男性患者が、進行性肺がんを患って本発明者の診療所に入院した。彼は放射線、化学療法、および免疫療法などの様々な抗腫瘍治療を受けたが、腫瘍は急速に進行し続けた。いくつもの治療は、肝臓や腎臓の重度の機能不全、免疫力の低下、および真菌や細菌の同時感染を引き起こした。これらの合併症により、患者は抗腫瘍療法を継続できなくなった。患者は血漿交換および血液透析を必要とし、集中治療が必要であった。抗生物質治療では感染を制御できなかった。
【0044】
循環C反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)、および血清IL-6濃度を含む敗血症のバイオマーカーは上昇した。患者は譫妄状態であった。
【0045】
患者および家族と合意した後、患者は病院の研究室から入手した増殖した同種異系ナチュラルキラー(「NK」)細胞の注入を受けた。フローサイトメトリーを使用して、特徴的な細胞表面マーカーCD45+、CD3-、CD56+によってNK細胞を同定した。NK細胞は、健康なドナーの末梢血単球細胞から培養された。IL2、IL7、IL15などのサイトカインで刺激した後、NK細胞は分極し、300~500倍に増殖した。生成物中のNK細胞(CD3-CD56+)の純度は78.3%であり、活性化率(CD56+CD16+)はNK細胞の74.2%であった。
【0046】
患者は、注入当たり10~2×10細胞数で同種異系NK細胞の静脈内注入により7回の投与を受けた。NK細胞注入後、循環敗血症バイオマーカーが大幅に減少し(表1)、患者の体温が低下し、主観的感覚が改善し、意識が改善した。
【0047】
【表1】
【0048】
NK細胞療法の前後で血清サイトカイン濃度を測定した。データは、治療によって炎症性サイトカイン(IL6、IL10、IL8、およびIL-1RA)の血清レベルが低下し、抗炎症性サイトカイン(IFN-γおよびTNF-α)のレベルが増加したことを示した(表2)。
【0049】
【表2】
【0050】
24時間で3回NK細胞を注入した後、患者の血液中のNK細胞サブセットのパーセンテージを分析した。患者の末梢血NK細胞サブセットを細分化したところ、データは殺傷機能に関連するNK細胞サブセット(CD56CD16)の割合が8.1%から16.8%までに増加したことを示した。さらに、NK細胞治療はまた、NK細胞殺傷に関連する細胞表面マーカーDNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46の発現の増加を引き起こした(表3)。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例2
インビトロでのNK細胞の治療効果を実証するために、患者の血清を16~24時間同時インキュベートした。これらの細胞を96ウェルU底プレートに播種し、37℃で5%COを含有する加湿雰囲気中で維持した。NK細胞1×10個および患者血清50μLを96ウェルプレートの1つのウェルに一緒に添加した。血清を対照として使用した。培地中のIL-6濃度の変化を評価した。NK細胞は血清中のIL-6レベルを減少させた(表4)。
【0053】
【表4】
【0054】
この試験は、3人の異なる健康なドナーから増殖させた3つの異なるバッチのNK細胞生成物(NK1、NK2、およびNK3)に対して実施された。
【0055】
同時培養系において発現したNK細胞の細胞表面マーカーの変化は、NK細胞表面マーカーCD56、CD16、DNAM-1、NKG2D、およびNKP30/NKP46と同じ検査パネルを使用して検査された。
【0056】
興味深いことに、細胞表面マーカーの発現の変化は、インビボでの治療使用とインビトロでの血清との同時培養との間で異なる。患者血漿とともに治療した後、NK細胞の殺傷機能は損なわれ、これは細胞傷害性サブセットの割合が78.4%から59.1%までに減少し、NKG2D、DNAM-1、およびNKP30/NKP46の発現も低下したことで表された(表5)。特定の理論に拘束はされないが、NK細胞は血漿中のサイトカインプロファイルに変化をもたらした後、NK細胞は活性状態から疲労状態または休止状態に移行する可能性がある。これは、同種異系NK細胞のバッチが機能していることを示している。
【0057】
【表5】
【0058】
実施例3
NK細胞の収集、増殖、および調製のための例示的手順。
健康なドナーの末梢血50mlを、抗凝固剤(ヘパリンNa)を含有する滅菌バキュテイナチューブに収集する。血漿はその後の培養のために収集する。末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-Paque(商標)(Cytiva)を使用して単離する。
【0059】
NK増殖は、抗CD16、10%自己血漿、IL-15、およびIL-2を用いるが、フィーダー細胞を用いずに1.5~4×10PBMCで開始する。細胞培養密度は、T75フラスコ中のX-VIVO15培地によって1.5×10/mlに調整する。3日間培養した後、X-VIVO15培地、自己血漿、およびIL-2を添加する。
【0060】
5日目にIL2およびX-VIVO15培地(Lonza)を添加し、細胞密度を1.0×10/mlに調整する。
【0061】
NK細胞(CD3CD56細胞)の割合を6日目にフローサイトメトリーで検査する。6日目にNK細胞サブセットの割合が10%を超えた場合は培養を継続するが、そうでない場合には培養は失敗したとみなされ、廃棄される。
【0062】
IL2およびRPMI1640培地を7日目に添加する。細胞を培養バッグに移し、細胞密度を0.7×10/mlに調整する。IL2およびRPMI1640培地を9日目から12日目まで連続的に追加する。細胞の凝集は回避される。
【0063】
NK細胞(CD3CD56細胞)の割合およびNK細胞でのCD16の発現レベルを13日目に評価する。NK細胞の割合が70%を超え、NK細胞のCD16陽性率が80%を超えている場合、細胞の無菌性を検査して採取することとなる。
【0064】
細胞を生理食塩水で2回洗浄し、その後、5%ヒト血清アルブミンを含む生理食塩水バッグに移す。
【0065】
参考文献
Bjorkstrom et al. (2010). CD56 negative NK cells: origin, function, and role in chronic viral disease. Trends in Immunology, 31(11), 401-406.
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【国際調査報告】