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特表2024-510411金属の電着のための電着方法および電着のための電解質媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】金属の電着のための電着方法および電着のための電解質媒体
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/10 20060101AFI20240229BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C25D21/10 301
C25D21/12 K
C25D21/10 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023553256
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 ES2022070112
(87)【国際公開番号】W WO2022184956
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P202130186
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518360830
【氏名又は名称】ドライライテ エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス カスティロ ホアン ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ソト エルナンデス マルク
(72)【発明者】
【氏名】サルサネダス ジムペラ マルク
(57)【要約】
本発明は、電流発生器の第1の電極、および電極(3)を介して電解質媒体に接続された、第1の電極と対向する第2の電極への処理される金属部品(1)の接続を含む、金属部品(1)上に金属を電着させるための電着プロセスであって、処理される金属部品(1)の表面上で導電性溶液の金属カチオンの還元を引き起こす非導電性環境(5)において、正電荷を帯びた析出される金属の金属カチオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子(4)のセットに対して金属部品(1)を相対運動させるステップを含む、電着プロセスに関する。本発明は、析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する固体粒子(4)のセットと、固体粒子(4)の間の隙間空間とを含む、金属部品(1)上に金属を電着させるための電解質媒体にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流発生器の第1の電極、および電極(3)を介して電解質媒体に接続された前記第1の電極と対向する第2の電極への処理される金属部品(1)の接続を含む、金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法であって、
- 処理される前記金属部品(1)の表面上で導電性溶液の金属カチオンの還元を引き起こす非導電性環境(5)において、正電荷を帯びた析出される金属の金属カチオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子(4)のセットに対して前記金属部品(1)を相対運動させるステップ
を含むことを特徴とする、金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法。
【請求項2】
- 処理される前記金属部品(1)が前記電流発生器の負の電極に接続され、前記電解質媒体が電極(3)を介して前記電流発生器の正の電極に接続される、析出ステップと、
- 前記電流発生器の極性が逆転し、すなわち処理される前記金属部品(1)が、前記電流発生器の正の電極に接続され、前記電解質媒体が電極(3)を介して前記電流発生器の負の電極に接続される、制御ステップと
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法。
【請求項3】
前記正極と前記負極との間に印加される電流がパルス電流であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法。
【請求項4】
前記電着方法の開始時に、析出される前記金属の金属イオンが前記固体粒子(4)内に存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法。
【請求項5】
前記電着方法の開始時に、析出される前記金属の金属イオンが金属の形態で前記電極(3)に存在し、前記電着方法の間、アノード金属が、前記電解質媒体の前記遊離固体粒子(4)内に保持された前記導電性溶液中で金属カチオンに酸化することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属部品(1)上に金属を電着させるための電着方法。
【請求項6】
金属部品(1)上に金属を電着させるための電解質媒体であって、
・ 析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子(4)のセットと、
・ 前記固体粒子(4)の間の隙間空間と
を含むことを特徴とする、電着させるための電解質媒体。
【請求項7】
前記遊離固体粒子(4)がイオン交換樹脂を含むことを特徴とする、請求項6に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項8】
前記遊離固体粒子(4)が多孔質イオン交換樹脂を含むことを特徴とする、請求項6に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項9】
前記遊離固体粒子(4)がゲル型イオン交換樹脂を含むことを特徴とする、請求項6に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項10】
前記遊離固体粒子(4)が、スルホン酸/スルホン酸塩またはカルボン酸/カルボン酸塩タイプの基などの強酸基または弱酸基に基づくことを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項11】
前記遊離固体粒子(4)が、スチレン/ジビニルベンゼン系、アクリレート系、またはメタクリレート系のポリマーおよび誘導体に基づくイオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項12】
前記遊離固体粒子(4)が、キレート剤に基づくイオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項13】
前記遊離固体粒子(4)が、アミノ基を有するイオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の電着させるための電解質媒体。
【請求項14】
前記固体粒子(4)の間の前記隙間空間に非導電性媒体(5)が存在することを特徴とする、請求項6~13のいずれか一項に記載の電着させるための電解質媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的
本発明は、本明細書の発明の名称によって表されるように、析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子(4)のセットによるイオン輸送によって金属部品上に金属を電着させるための電着プロセス、および金属部品上に金属を電着させるための電解質媒体に関し、これらは、以下に詳細に説明され、その応用分野で現在知られているものと比較して顕著な改善を示す新たな利点および特性を提供する。
【0002】
本発明の第1の目的は、具体的には、遊離粒子のセットまたは縮小されたサイズの固体によるイオン輸送に基づいて、金属部品上に金属を電着させるための電着プロセスに関し、これは、粒子が導電性であり、析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持し、非導電性環境に一緒に組み込まれ、処理される金属部品が、電源、例えば直流発生器の負極に接続されるように配置され、好ましくは粒子のセットおよび粒状体のセットが電源の正極と電気接触するように粒子のセットおよび粒状体のセットに対して相対運動を示すという事実により本質的に特徴付けられる。
【0003】
本発明の第2の目的は、析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子のセットを含む、金属部品上に金属を電着させるための電解質媒体に関する。
【0004】
本発明の応用分野
本発明の応用分野は、金属表面の処理に特化した産業部門に属し、特に電着プロセスを含む。
【背景技術】
【0005】
亜鉛めっきまたは電気めっきとしても知られる電着は、部品の表面特性を改質することを目的として、ベース部品上に金属被覆を形成するための金属部品または金属表面の電気化学的処理である。電着は、耐食性、耐摩耗性、または審美的仕上げなどの部品の表面特性を改善するために使用される。
【0006】
従来の電着は、直流電流の通過によって引き起こされる部品の表面上の液体電解質媒体中の金属カチオンの還元に基づく。
【0007】
外部電源によって供給される電流は、負極またはカソードに接続された被覆される部品と、正極またはアノードに接続された電解質液との間に発生する。この電流により、電解質液と接触する部品の表面上の金属被覆の形態で電解質溶液のカチオンが還元される。
【0008】
電着プロセスが終了すると、一般に洗浄ステップが必要とされ、このステップでは、既に被覆された部品を洗浄して表面残留物を除去しなければならない。
【0009】
従来の電着プロセスに関連する電解質媒体は、金属カチオン、多くの場合、強酸、シアン化物などの媒体、および被覆の質を高めるために使用される他の化学試薬を含むため、高度に汚染性である。電着の前および後のプロセスにおいて部品を処理するための液体も、通常、高度に汚染性である。したがって、これらの液体を取り扱うことは、安全性および環境汚染のリスクがある。安全性および環境汚染のリスクがより低い電解質を有することが望まれる。
【0010】
電着プロセスによって生成される被覆を評価するための重要なパラメータは、被覆の厚さおよび均一性である。
【0011】
電着プロセスは、通常、1~50ミクロンの厚さを有する被覆を生成する。しかしながら、異なる領域において不均衡な厚さを有する被覆の不均一な分布が通常観察されるため、この厚さは部品全体にわたって一定ではない。部品の最も露出した部分、すなわち、最も外側の部分は、より多くの電気密度を受け、その結果、電着プロセスにおける材料の析出の程度がより強調されるので、より厚い被覆が生成される。この欠陥は、先端効果の結果として樹枝状結晶が成長する、従来の電着によって処理された部品の端部および頂点で特に目立つ。より均一な被覆分布を生成する電着プロセスを有することは興味深い。
【0012】
現在までに知られている電着プロセスの速度は、ネルンスト拡散層の形成によって物理的に制限される。この層は、部品と液体電解質との間のイオン拡散プロセスを表す。電圧を上げても、プロセスの速度は液体媒体中のイオンの移動度によって制限される。これは、十分に研究されており、液体電解質を用いた電着プロセス、および一般に液体媒体中での電気化学プロセスの本質的な制限であることが知られている。したがって、ネルンスト拡散層の形成を回避する電着プロセスを有することが望まれる。
【0013】
前述したように、電着によって被覆される部品は負極に接続されて、電解液の金属カチオンが還元される。これらの状況下では、通常は水性である液体電解質のプロトンが、還元プロセスの望ましくない副反応において液体電解質のカチオンと競合する。これらのプロトンは原子状水素に還元され、金属内に拡散し、金属内の粒子間空間および欠陥に蓄積する傾向がある。これらの点で、原子状水素が再結合して二水素ガスを形成し、材料の脆性が増大し、亀裂が生じ、実質的に変形せずに部品が破損する可能性がある。水素脆化として知られるこのプロセスは、特に鋼、チタンおよび銅に関する産業界の大きな懸念事項の1つである。このプロセスを修正するために、通常、部品は炉内で長時間処理されて、従来の電着の間に形成された水素が除去される。原子状水素の生成を回避する電着プロセスを有することは興味深い。
【0014】
金属の薄層を得ることは、通常、金属および触媒の濃厚溶液によって行われる。これらの液体は通常、腐食性、有毒性および汚染性の性質がある。使用者の安全性を向上させるため、また、リサイクル性を向上させる目的で、容易に飛び散らないか、またはこぼれない電解質を有することは興味深い。
【0015】
通常、工業用電着プロセスを効率的にするには高温が必要であり、これは余分なエネルギーコストとなる。効率的にするために高温を必要としない電着プロセスを有することが望まれる。
【0016】
他の可能性には、高品質の薄層を得るためにPVDまたはCVDなどの物理化学プロセスが含まれる。これらのプロセスでは、析出は真空下で実行されるため、プロセスが妨げられる。これらは実験室規模では適切なシステムであるが、工業規模では適用可能ではない。真空下での作業を必要とせずに高品質の薄層を得ることができる電着プロセスを有することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、金属部品上に金属を電着させるための改良された電着プロセス、ならびに効果的であり、上記の欠点および課題を回避する、前記電着プロセスのための電解質を開発することであり、少なくとも出願人の側では、このタイプのいずれかの他のプロセス、または特許請求されているものと同じ特徴を示す同様の発明の存在が知られていないことに留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明によって提案される、金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離(自由)固体粒子のセットによって金属部品上に金属を電着させるための電着プロセス、および析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子のセットを含む金属部品上に金属を電着させるための電解質媒体は、これらの実施態様によれば、これまでに示された目的が十分に達成されるため、これらの応用分野内で新規であり、これらを可能にし、区別する特徴的な詳細は、本明細書に付随する最終的な請求項に便宜的に含まれる。
【0019】
電着プロセス
本発明の目的である、金属部品上に金属を電着させるための電着プロセスは、以下のステップを含む。
- 処理される金属部品(1)を電流発生器の第1の極、通常は負極(カソード)に接続するステップ、
- 電解質媒体を電流発生器の第2の極、通常は正極(アノード)に電極(3)を介して接続するステップ、
- 処理される金属部品(1)の表面上で導電性溶液の金属カチオンの還元を引き超す非導電性環境(5)において負の電荷を帯びた、析出される金属の金属イオンを含む導電性溶液を保持する遊離固体粒子(4)のセットに対して金属部品(1)を相対運動させるステップ。
【0020】
本発明に記載されるプロセスは、例えば、次の通りであり得る:被覆される部品が電源の負極に接続され、固体電解質粒子のセットから構成される電解質媒体を含む容器内に浸漬される。電源の正極は、同様に容器内に配置される電極(3)に接続される。固体電解質粒子のセットは、析出される金属のイオンを含み、および/またはアノードは析出される金属から構成される。このプロセスは、部品と直接接触する粒子を連続的に新しくする、媒体中の部品の変位、振動、粒子の噴霧または衝撃などによる電解質媒体の粒子に対する処理される部品の相対運動を必要とする。処理される部品上に金属の電着が生じる酸化還元反応を引き起こす電解質媒体を介して部品(1)と電極(3)との間で電流が循環する。
【0021】
固体電解質によるこの電着プロセスは、このプロセスを従来のプロセスと明らかに区別する技術的効果を有する。
- このプロセスでは、電解質媒体は液体のように表面全体と接触するのではなく、粒子と表面とが接触する場合にのみ点接触する。これにより、電気密度が接触点で集中し、高い電着効率が得られる。
- 本発明は、液体媒体を使用する従来のプロセスで発生する、電極付近の拡散層によって課される動態学的制限を回避する。拡散層は、電極付近の液体中のイオン濃度の勾配を表す。析出されるカチオンの濃度が、液体全体の濃度と比べてアノード付近では低いため、実際にはこれが電着速度の制限となる。本発明によって提示されるプロセスでは、直接接触している粒子が常に新しくされるため、これらの拡散層が形成される時間が与えられない。
- 導電性溶液を有する粒子と表面との間の電気的接触点が経時的に安定しないため、部品-カソードの表面での水素ガスの形成が妨げられる。
- 部品の仕上げに関して最も重要な利点の1つは、粒子と部品の接触点で金属が析出されることである。これらの点が変化するため、先端効果による樹枝状結晶の形成が回避される。
【0022】
好ましい実施形態では、当該プロセスは、電流発生器の極性が逆転される、すなわち、処理される金属部品(1)が電流発生器の負の電極に接続され、電解質媒体が電流発生器の正の電極に接続される、電着プロセスを制御するステップも含むことができる。このステップを含めることは、被覆の金属がベース金属に不十分に接着する場合に被覆の良好な均一性に寄与する。
【0023】
プロセスの時間および電圧または電流密度によって、被覆層の厚さが決まる。
【0024】
印加される電流は、単純に、定電圧または定電流によって規定される直流電流とすることができる。交流電流、パルス電流などのより複雑な電流を使用することもできる。
【0025】
均質なプロセスを実現し、頂点および端部での過剰な金属の析出を回避するために、多くの場合、パルス電流を用いて作業することが望ましい。なぜなら、この方法では、析出が部品の表面全体に良好に分散されるためである。さらにより好ましい実施形態では、部品に印加される電圧が負、ゼロ、正、ゼロである4つのセクションに分割され得るパルス電流が使用される。各セクションは、調整可能で互いに独立した時間を有する。
【0026】
【表1】
【0027】
このパラメータおよび時間の選択の自由により、最も露出した領域と最も内側の領域の分極時間を調整することができる。
【0028】
例えば、直流条件下では、通常、最も外側の部分はより厚い被覆で仕上げられる。これらの分極時間を使用すると、より均一な被覆を得ることができる。
【0029】
最外側の領域はより速く分極するため、正の時間中に最も外側の領域を部分的に酸化または不動態化することが可能であり、これにより負の段階の間の活性が低下し、したがって、外側部分と内側部分の活性が均等になり、均一な被覆が得られる。
【0030】
概念的には、被覆を行うために析出される金属の初期状態に応じて、2つの異なるタイプのプロセスを確立することができる。
【0031】
- 第1のタイプのプロセスでは、析出される金属は固体電解質中の金属カチオンの形であり、カソードはプロセスの間に影響を受けない(またはほとんど影響を受けない)不活性材料によって形成される。この場合、カソードはプロセスの間に消費されない。固体電解質はプロセスが進行するにつれて金属カチオンの濃度を低下させるため、時々カチオンを取り替えるか、または電解質を交換する必要がある。
【0032】
- 第2のタイプのプロセスでは、析出される金属はアノードで金属の形態であるが、その金属は、補足的に固体電解質中で金属カチオンの形態になることもある。このプロセスの間、アノードの金属が酸化して、固体電解質中に金属カチオンが形成され、これがカソードに析出される。この場合、金属が析出されるのと同じ程度でアノードがプロセス中に消費される。
【0033】
電解質媒体
本発明の金属部品対象物上に金属を電着させるための電解質媒体は、
・ 金属カチオンを含む導電性溶液を保持する固体粒子のセット
を含む。
【0034】
粒子のセットは、好ましくは、粒子自体の中の1つとして、また研磨(pulir)される表面に対して動作するべきである。したがって、好ましくは、粒子は回転楕円体または球状の形状である。このようにして、処理される部品の表面全体にわたって流体的で均一な動きが達成される。流体のようにも動作できる他の粒子形状には、とりわけ、円柱、棒、(両凸)レンズ状の形状がある。
【0035】
好ましくは、粒子のセットは、平均直径が0.1~1mmのサイズ分布を有する。この範囲により、最適な表面仕上げおよび被覆が確保される。他のサイズが使用されてもよいが、より大きなサイズは空洞および角の内部部分に到達しない。より小さなサイズは、流動性が低くなり、仕上がりが悪くなる可能性がある。
【0036】
粒子内に導電性溶液を保持するメカニズムは、空洞、多孔性、材料の構造そのもの、例えば、層間空間、またはゲル型構造などであり得る。吸収される液体の量は、粒子のセットがそれらの間で測定可能な導電率を有するのに十分な量でなければならない。この量は、粒子の材料の種類および構造に応じて異なる。
【0037】
好ましくは、金属カチオンを含む導電性溶液を保持する固体粒子は過飽和状態にはないため、液体を含まない。
【0038】
イオン交換樹脂粒子は、多孔質構造またはゲル構造を有することができる。高速性が要求されるプロセスでは、有効接触面積が増加する滲出液が優先されるため、多孔質構造が好ましい。高品質で均一な仕上がりが要求されるプロセス、および複雑な形状を有する部品には、ゲル型構造を有するイオン交換樹脂の使用が好ましい。これは、薄く均一な層を得るのにも好ましい。
【0039】
粒子の材料は、その中に液体を保持できるものでなければならない。さらに、それは、電気化学プロセスの電圧および/または電流の範囲内で酸化および還元に対して安定でなければならない。導電性溶液は通常、強酸または強塩基などの攻撃的な試薬を含むため、材料は耐化学薬品性を備えていなければならない。その材料は、プロセスの間に振動および研磨される部分の摩擦にさらされるため、ある程度の機械的安定性も有さなければならない。
【0040】
特定のポリマー材料は、これらの特性を全て満たす。好ましい実施形態では、粒子はイオン交換樹脂から作製される。なぜなら、それらはこのようにして金属イオンを容易に保持し輸送する能力を有するからである。好ましくは、それらはカチオン交換樹脂であり、これらの中でも、スルホン酸/スルホン酸塩またはカルボン酸/カルボン酸塩タイプの基などの強酸または弱酸の基に基づくものが好ましい。これらの官能基は、保持された導電性溶液との一定の平衡を維持しながら、析出される金属イオンを保持する能力を有する。好ましくは、イオン交換樹脂は、スチレン/ジビニルベンゼン系、アクリレート系、またはメタクリレート系のポリマーおよび誘導体に基づく。
【0041】
他の好ましい配合物では、粒子はキレート化イオン交換樹脂である。これらの樹脂は、異なる金属カチオンを選択的に保持するという利点を有し、これは、ある特定の場合において、より制御された金属析出を実行するのに役立つ。これらの樹脂は、導電性溶液中に存在し、析出されない他の金属の痕跡を保持することができるため、形成される被覆のより高い化学的均一性を確保する。これらの樹脂の好ましい官能基の中には、遷移金属に対して高い親和性を有するため、イミノ二酢酸基、アミノホスホン酸基、ポリアミン基、2-ピコリルアミン基、チオ尿素基、アミドキシム基、イソチオウロニウム基、ビスピコリルアミン基がある。
【0042】
第一級、第二級、第三級、さらには第四級アンモニウムのアミノ基を有するイオン交換樹脂を用いて固体電解質粒子を配合することも可能である。これらの配合物は、酸性pHに感受性があり、例えば、コバルトを被覆するために中性媒体または塩基性媒体を用いて作業する必要がある金属に特に有用である。
【0043】
粒子内に保持される導電性溶液は、溶液が導電性を示すように、溶媒液体と、その液体中に溶解された析出される金属の金属イオンとを含む。
【0044】
好ましくは、溶媒液体、導電性溶液は水(水溶液)である。メタノール、エタノール、DMSO、DMFなどの有機極性溶媒など、とりわけ、イオン性液体などの他の液体を使用することもできる。スルホン酸塩、ポリグリコール、アルキルエーテルから誘導される界面活性剤などを使用することもできる。
【0045】
導電性液体は、好ましくは、部品上に析出される金属のカチオンを金属イオンとして含む。これらのカチオンは、溶媒液体に溶解した塩に由来し得る。塩、酸、または追加の塩基の存在も、通常、電解質媒体により大きな導電率を与えるのに適している。
【0046】
説明したように、本発明の対象となる電解質媒体は、粒子のセットによって形成されるため、連続媒体ではない。したがって、粒子の間には隙間空間が存在する。
【0047】
酸化還元プロセスを妨げないようにするために、この隙間空間には非導電性媒体(5)が存在する。この非導電性媒体(5)は、気体(空気、窒素、アルゴンなど)または液体(炭化水素、シリコーン、溶剤など)であってもよい。
【0048】
隙間空間に含まれる非導電性媒体の流れを確立して、電着プロセスの湿度および温度を調節することができ、その結果、プロセスの制御および安定性がより向上する。
【0049】
隙間空間に液体が存在しない場合、粒子のセットは粒状物質のように動作する。
【0050】
装置
固体電解質粒子によって乾式電着プロセスを実行するために必要な装置は、液体電着装置とは異なる特定の特徴を有する。それらは、部品と対向電極との間に電源からの電位差を提供するだけでなく、部品の金属表面に対する粒子の相対運動がプロセスの間に維持されることを確保しなければならない。
【0051】
固体電解質粒子が表面に静止している場合、接触点では金属の析出のみが発生し、仕上がりが不均一になるため、相対運動が必要である。粒子のセットは粒状または流体物質のように動作するため、振動または気体もしくは液体などの流体の注入によって粒子のセットを流動化すると、プロセスの仕上がりがより向上する。他の可能な方法の中では、粒子のセット内で部品を移動させることによって、相対的な運動を引き起こすこともできる。
【0052】
この装置は、処理される部品(複数も含む)と電源との電気接続を提供するための手段を有する。
【0053】
固体電解質によって電着プロセスを実行するための装置は、少なくとも
・ 電源
・ 処理される部品(1)を電源に接続するための接続手段(2)
・ 処理される部品の極と対向する(反対の)極に接続された電極(3)
・ 部品と電解質媒体の遊離固体粒子(4)との間に相対運動を生じさせるためのシステム
を備える。
【0054】
電源は、被覆される部品と電極との間に大きな電位差を提供できなければならない。
【0055】
電源は、析出速度を変更して端部での最大析出を回避できる正および負の電流パルスを生成することができ、また、同時に2つ以上の金属を同時析出する場合の化学組成を制御することができる。
【0056】
研磨される部品は、堅固に固定された接続、または部品をクランプしない接続によって電源からの接続を受け入れる。固定接続は、例えば、ピンセットの使用、または部品をフレームに吊り下げることによって達成され得る。部品をクランプしない接続は、例えば、いくつかの部品を、部品のセットに接触し得る電極を備えるドラムまたはトレイに配置することによって達成され得る。
【0057】
アノードは、形成される被覆と同じ金属から作製され得る。この場合、アノードの酸化により、カソードでのカチオンの還元による析出と同時に金属イオンが生成される。このようにして、電解質媒体中のカチオンの濃度は一定に保たれる。
【0058】
あるいは、アノードは、炭素または不溶性金属などの不活性材料から作製されてもよい。アノードでの酸化により酸素または他の種が生成される。被覆金属のカチオンは、粒子のセットに最初から十分な濃度で存在しなければならない。定期的に、より多くのイオンを媒体に追加しなければならないか、または媒体を新しいものと交換しなければならない。
【0059】
この装置は、処理される部品と媒体中の粒子との間に相対運動を生じさせるシステムを備える。この運動は、異なる大きさを有してもよく、および/またはそれらのいくつかの組み合わせであってもよい。
【0060】
好ましくは、この装置は、粒子のセットを流動化させるためのシステムを備える。好ましくは、このシステムは、粒子のセットのための容器の振動を含む。粒子のセットは粒状物質のように動作するため、エネルギーおよび振動を散逸させるのに非常に効果的であり、したがって、このシステムは、好ましくは、処理される部品の振動によって補完される。この部品の振動により、部品の表面の同じ点における粒子の滞留時間が制限されることが確保される。
【0061】
任意選択で、装置は、系の流動化および膨らませ(esponjar)に役立つ、粒子のセットによって形成される電解質媒体中に送風機を含む。吹き付けられる空気は、湿度、温度などの系の条件を維持するために使用され得る。
【0062】
好ましくは、この装置は、部品が粒子の媒体中で1センチメートル以上変位するための手段を有する。この運動は、とりわけ、円形の並進運動、直線運動、垂直(鉛直)または水平の振動運動であり得る。理想的には、適用される運動は部品の形状に対応する。
【0063】
好ましくは、タンク内の部品の運動は、垂直面内での振動運動と組み合わせた、水平面内での円形並進運動である。好ましくは、当該装置は、異なる運動の速度を独立して調節可能である。
【0064】
現在行われている説明を補足するため、また本発明の特徴をより良く理解するのを支援する目的で、図面を本明細書にその一体部分として添付する。以下は例示的に示されており、非限定的である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】本発明の対象である、遊離固体によるイオン輸送によって金属を電着させるための電着プロセスに関与する主要な要素の概略図を示す。
図2】本発明によるプロセスの固体を形成する粒子の概略図を示し、その粒子の多孔質構造およびそれを導電性にする電解質液保持能力を見ることができる。
図3】処理される部品の表面の一部の概略図を示し、プロセスに使用される粒子が取り得る可能な形状のいくつかの例を示す。
図4図1に示されるものと同様の図を示し、粒子の群が、アノードとカソードとの間で直接接触する電気ブリッジを形成する場合のプロセスの時点を示す。
図5図1に示されるものと同様の図を示し、粒子が、分離して部品の表面を擦る別の場合のプロセスの時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
好ましい実施形態では、電解質媒体は、析出される金属のカチオンを含む導電性水溶液を保持するイオン交換樹脂の0.1~1mmの球体によって形成される。好ましくは、イオン交換樹脂はカチオン交換樹脂である。好ましい配合物では、粒子内に保持される導電性溶液中の金属の濃度は、1Lの溶液中0.1gの金属から1Lの溶液中500gの金属の範囲内である。
【0067】
異なる金属を析出させるためにイオン交換樹脂粒子によって保持される水溶液の組成の例を以下に示す。
【0068】
乾式ニッケル電着
ニッケル電着には、酸性媒体中のニッケル(II)塩が使用される。好ましくは、使用されるニッケル塩は、硫酸ニッケル(II)Ni(SO)、塩化ニッケル(II)NiClまたはスルファミン酸ニッケル(II)Ni(SONHである。
【0069】
乾式亜鉛電着
亜鉛電着には、酸性媒体中の亜鉛(II)塩が使用される。好ましくは、使用される亜鉛塩は、塩化亜鉛(II)ZnClである。
【0070】
乾式金電着
金電着には、シアン化物媒体中の金(III)塩が使用される。好ましくは、使用される金塩は、塩化金(III)AuClまたはシアン化金AuCNである。
【0071】
乾式銀電着
金電着には、シアン化物媒体中の銀(I)塩が使用される。好ましくは、使用される金塩は、硝酸銀(I)AgNOまたはシアン化銀AgCNである。
【0072】
銅の乾式電着
銅電着には、酸性媒体中の銅(II)塩が使用される。好ましくは、使用される銅塩は、硫酸銅(II)CuSOである。
【0073】
クロム電着
最も使用される電着プロセスの1つは、硬質クロム被覆を形成することである。液体中でのこのプロセスは非常に非効率であり、電気エネルギーの80%超が水素還元の生成に費やされる。固体電解質を使用すると、電気密度が少しの点に集中し、効率が向上する。クロムを含む固体電解質を使用すると、耐食性被覆が生成する。
【0074】
一般に、この種類の被覆を得るにはCr(VI)塩が使用されるが、本発明はCr(III)塩を使用する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】