IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチの特許一覧

特表2024-5104173D細胞培養およびインビトロ組織モデルのためのウェルインサートおよびデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】3D細胞培養およびインビトロ組織モデルのためのウェルインサートおよびデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240229BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553600
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 SG2022095001
(87)【国際公開番号】W WO2022197254
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】10202102643V
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】パヴェス, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】アドリアニ, ジュリア
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC10
4B029GA03
4B029GB10
(57)【要約】
三次元(3D)細胞培養のためのマルチウェルプレート対応デバイスまたはインサート、その使用およびキットが提供される。デバイスは、外壁および内壁を備え、内壁は容積部を画定し、外壁内に配置され、外壁との間に空洞を形成する。デバイスはまた、内壁内の容積部の下に細胞培養試料を配置するように構成された基部と、基部に接続され、内壁を外壁に接続し、空洞を複数の空隙に分割する1つ以上の仕切りと、を備える。空隙を形成する表面の開口部は、第1の空隙から内壁内の容積部の下で第2の空隙へ流体が流れることを可能にし、流体の流れは、内壁内の試料領域を通って流れるときに細胞培養試料と相互作用するように構成される。試料領域は、内壁内の容積部を横切る内側距離によって規定される長さよりも大きい内壁の高さによって規定される深さを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁と、
前記外壁内にある内壁であって、前記内壁内の容積部を画定し、前記外壁との間に空洞を形成する、内壁と、
前記外壁の底部および前記内壁の底部に接続され、前記内壁内の前記容積部の下に細胞培養試料を配置するように構成された基部と、
前記基部に接続され、前記内壁を前記外壁に接続する1つ以上の仕切りであって、前記1つ以上の仕切りが前記空洞を複数の空隙に分割する、1つ以上の仕切りと、
を備える、マルチウェルプレート対応細胞培養デバイスであって、
前記空隙を形成する表面の開口部が、前記空隙のうちの第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの第2の空隙へ流体が流れることを可能にし、前記流体の流れが、前記内壁内の試料領域を通って流れるときに前記細胞培養試料と相互作用するように構成され、前記試料領域が、前記内壁内に画定された前記容積部を横切る内側距離によって規定される長さよりも大きい前記内壁の高さによって規定される深さを有する、
マルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項2】
前記外壁が、細胞培養皿または細胞培養プレートのウェルに適合するように寸法決めされている、請求項1に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項3】
前記開口部が前記基部に形成されている、請求項1または2に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項4】
前記開口部が前記内壁に形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項5】
前記開口部がネット開口部を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項6】
動作中、前記流体が前記ネット開口部を通って流れるとき、前記空隙のうちの前記第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの前記第2の空隙へ流れる前記流体中に存在する前記細胞培養試料が保持される、請求項5に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項7】
前記開口部がピラーを備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項8】
動作中、前記流体が前記ピラーを備える前記開口部を通って流れるとき、前記空隙のうちの前記第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの前記第2の空隙へ流れる前記流体中に存在する前記細胞培養試料が保持される、請求項7に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項9】
動作中、前記細胞培養試料がヒドロゲル内に封入され、前記基部が前記ヒドロゲルを前記試料領域内に封入するように構成される、請求項1~8のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項10】
動作中、前記空隙のうちの前記第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの前記第2の空隙へ流れる前記流体が細胞培養培地を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項11】
動作中、前記流体が、前記空隙のうちの前記第1の空隙内の前記流体の体積および前記空隙のうちの前記第2の空隙内の前記流体の体積における圧力勾配または圧力差に応じて、前記空隙のうちの前記第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの前記第2の空隙へ流れる、請求項10に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項12】
前記開口部がネット開口部を含み、動作中、前記流体が前記ネット開口部を通って流れるとき、前記空隙のうちの前記第1の空隙から前記内壁内の前記容積部の下で前記空隙のうちの前記第2の空隙へ流れる前記流体中に存在する前記細胞培養試料が保持される、請求項1~11のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項13】
前記細胞培養試料が、オルガノイド、スフェロイド、組織、生検試料、および細胞培養細胞株からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項14】
前記仕切りが、前記外壁の高さよりも低い高さを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項15】
前記仕切りが、前記外壁の前記高さの半分の高さを有する、請求項14に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項16】
前記内壁と前記外壁との間に形成された前記空洞が、前記外壁の高さよりも浅くなっている、請求項1~15のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項17】
前記内壁を前記外壁に接続する前記1つ以上の仕切りが、前記空洞を2つ以上の空隙に分割する2つ以上の仕切りを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項18】
前記内壁を前記外壁に接続する前記2つ以上の仕切りが、前記空洞を2つの空隙に分割する2つの仕切りを含む、請求項17に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項19】
前記内壁を前記外壁に接続する前記2つ以上の仕切りが、前記空洞を4つの空隙に分割する4つの仕切りを含む、請求項17に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項20】
前記細胞培養ウェルインサートを密封するために前記基部の外面に取り付けられた膜または積層体をさらに備える、請求項1~19のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイス。
【請求項21】
マルチウェル細胞培養皿またはマルチウェル細胞培養プレートのウェルへのインサートとしての、請求項1~20のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイスの使用。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか一項に記載のマルチウェルプレート対応細胞培養デバイスと、
形状が前記マルチウェルプレート対応細胞培養デバイスの前記内壁内に画定された前記容積部内にぴったりと適合するように寸法決めされている、試料除去ロッドと、
を備える、細胞培養デバイスキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
[0001]本出願は、2021年3月16日に出願されたシンガポール特許出願第10202102643号明細書の優先権を主張する。
【0002】
[0002]本発明は、一般に細胞培養ウェルプレートに関し、より詳細には、マルチウェル細胞プレート用の細胞培養ウェルインサートなどの三次元細胞培養用のウェルインサートに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]精密腫瘍学では、次世代シークエンシング、mRNAシークエンシング、ChIPシークエンシング、および質量分析などのオミクスが、既存の抗癌剤によって治療することができる突然変異を同定するために患者特異的腫瘍プロファイルを決定する。個別化治療の進歩にもかかわらず、すべての腫瘍が既存の薬物で標的とされ得る突然変異を有するわけではないため、癌は依然として信じられないほど困難なものである。さらに、各腫瘍タイプの既存のオミクスデータは限られており、腫瘍は非常に不均質であり、これは、原発腫瘍には存在しない腫瘍の転移における突然変異を有する可能性があり、これが同じ治療に対して異なる応答をもたらし得ることを意味する。これはさらに、同定されたバイオマーカでさえ、それらのバイオマーカを標的とする治療またはそれらのバイオマーカに対して開発された治療に完全には反応しないという事実につながる。
【0004】
[0004]腫瘍生検に対して前臨床薬物試験を行う現在の方法は、マウス患者由来異種移植片(PDX)モデルを使用している。腫瘍細胞を免疫不全マウスに移植して、治療中の腫瘍進行を追跡する。PDXはいくらかの応答予測を提供することができるが、臨床現場での実際の適用を制限する限界がある。例えば、PDXは生着性が低く、結果を得るための時間が2ヶ月~12ヶ月の範囲であり得るので、費用と時間の両方がかかる。これらの欠点により、PDXモデルは、精密医療に必要な速度およびハイスループットと両立しない。
【0005】
[0005]したがって、患者由来腫瘍オルガノイドに対する治療戦略の試験を単純化するが、腫瘍の複雑さを保持し、迅速な薬物スクリーニングを可能にする、臨床治療投与前に抗癌化合物に対する患者特異的腫瘍感受性を試験することを可能にするデバイスが必要とされている。インビボの複雑さを模倣し、生理学的に関連する環境でオルガノイドを培養するためのツールを提供することができる3Dインビトロモデルを構築する必要性もある。さらに、他の望ましい特徴および特性は、添付の図面および本開示の背景と併せて、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0006】
[0006]本実施形態の少なくとも1つの態様によれば、マルチウェルプレート対応細胞培養デバイス、例えばマルチウェル細胞プレート用のインサートが提供される。細胞培養ウェルデバイスは、外壁と、内壁と、基部と、1つ以上の仕切りと、を備える。内壁は、外壁内に配置され、外壁との間に空洞を形成する。内壁はまた、内壁内の容積部を画定する。基部は、外壁の底部および内壁の底部に接続され、内壁内の容積部の下に細胞培養試料を配置するように構成される。1つ以上の仕切りは、基部に接続され、内壁を外壁に接続し、1つ以上の仕切りは、空洞を複数の空隙に分割する。空隙を形成する表面の開口部は、空隙のうちの第1の空隙から内壁内の容積部の下で空隙のうちの第2の空隙へ流体が流れることを可能にし、流体の流れは、内壁内の試料領域を通って流れるときに細胞培養試料と相互作用するように構成される。試料領域は、内壁内に画定された容積部を横切る内側距離によって規定される長さよりも大きい内壁の高さによって規定される深さを有する。
【0007】
[0007]添付の図面は、同様の参照符号が別々の図を通して同一のまたは機能的に同様の要素を指し、以下の詳細な説明と共に本明細書に組み込まれて本明細書の一部を形成し、様々な実施形態を例示し、本実施形態による様々な原理および利点を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの臨床ワークフローおよび詳細を示している。
図2A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、側面立面平面図である。
図2B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、底面平面図である。
図2C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、細胞培養ウェルインサートを覗く上面平面図である。
図2D】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、細胞培養ウェルインサートを覗く傾斜上面斜視図である。
図2E】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、ヒドロゲル被覆細胞培養試料を示す傾斜底面図である。
図2F】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、ヒドロゲル被覆細胞培養試料を示す切断傾斜上面図である。
図2G】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、ヒドロゲル被覆細胞培養試料を示す切断立面図である。
図2H】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を示し、使用中の細胞培養ウェルインサートを示す図2Gの切断立面図である。
図3A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの写真を示し、細胞培養ウェルインサートの上面側面斜視図および底面傾斜斜視図を示している。
図3B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの写真を示し、細胞培養ウェルインサートの上面平面図を示している。
図3C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの写真を示し、細胞培養ウェルインサートの底面平面図を示している。
図4A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの一方の設計の底面側面斜視図の写真を示し、ネット設計を示している。
図4B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの他方の設計の底面側面斜視図の写真を示し、ピラー設計を示している。
図5A】本実施形態によるマルチウェル細胞培養プレート内の細胞培養ウェルインサートの使用を示し、マルチウェル細胞培養プレートのウェルへの細胞培養ウェルインサートの挿入を示している。
図5B】本実施形態によるマルチウェル細胞培養プレート内の細胞培養ウェルインサートの使用を示し、マルチウェル細胞培養プレートのウェルに設置された細胞培養ウェルインサートの上面斜視図を示している。
図5C】本実施形態によるマルチウェル細胞培養プレート内の細胞培養ウェルインサートの使用を示し、マルチウェル細胞培養プレートに設置された2つの細胞培養ウェルインサートの上面斜視図を示している。
図5D】本実施形態によるマルチウェル細胞培養プレート内の細胞培養ウェルインサートの使用を示し、透明なマルチウェル細胞培養プレートのウェルに設置された細胞培養ウェルインサートの底面斜視図を示している。
図5E】本実施形態によるマルチウェル細胞培養プレート内の細胞培養ウェルインサートの使用を示し、マルチウェル細胞培養プレートのウェルに設置された細胞培養ウェルインサートの上面平面図を示している。
図6A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートと共に使用するための試験プロトコルを示し、患者生検からのオルガノイドの固形腫瘍血管新生の図を示している。
図6B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートと共に使用するための試験プロトコルを示し、治療についてスクリーニングするための二次腫瘍モデルの開発の図を示している。
図7A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの有効性の試験結果を示し、細胞培養ウェルインサートの底面図の蛍光顕微鏡画像を示している。
図7B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの有効性の試験結果を示し、図6Aによる試験結果の蛍光顕微鏡画像を示している。
図7C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの有効性の試験結果を示し、図6Bによる試験結果の蛍光顕微鏡画像を示している。
図8A】コラーゲンヒドロゲルによって取り囲まれた緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する肝細胞癌細胞凝集体の蛍光顕微鏡画像を示し、内皮細胞が埋め込まれた肝細胞癌細胞凝集体を示している。
図8B】コラーゲンヒドロゲルによって取り囲まれた緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する肝細胞癌細胞凝集体の蛍光顕微鏡画像を示し、肝細胞癌細胞凝集体に典型的な壊死性コアを有する肝細胞癌細胞凝集体を示している。
図9A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのピラー設計の詳細を示し、底面図アングルを示している。
図9B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのピラー設計の詳細を示し、底面/側面図アングルを示している。
図9C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのピラー設計の詳細を示し、側面底面図アングルを示している。
図10A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、第1の底面図アングルを示している。
図10B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、第2の底面図アングルを示している。
図10C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、第1の底面/側面図アングルを示している。
図10D】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、第2の底面/側面図アングルを示している。
図10E】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、断面傾斜図を示している。
図10F】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのためのネット設計の詳細を示し、断面平面図を示している。
図11A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための半壁設計の図を示し、上面/側面図アングルを示している。
図11B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための半壁設計の図を示し、断面平面図を示している。
図12】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための半深設計の図を示している。
図13】本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための四分の一ウェル設計を示している。
図14】本実施形態による細胞培養ウェルインサート内のコラーゲンヒドロゲル中で培養された肝臓オルガノイドのインサイチュ免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像を示している。
図15A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの半壁設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像を示し、図6Aに示される血管新生プロセスによる試験結果の画像を示している。
図15B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの半壁設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像を示し、図15Aの試験結果を含む細胞培養ウェルインサートの底面図の画像を示している。
図16A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの「ピラー」設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像を示し、図6Aに示される血管新生プロセスによる試験結果の画像を示している。
図16B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートの「ピラー」設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像を示し、図16Aの試験結果を含む細胞培養ウェルインサートの底面図の画像を示している。
図17A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから新鮮な(凍結されていない)試料を除去するためのプロセスを示し、試料が細胞培養ウェルインサートから押し出された直後の段階を示す写真である。
図17B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから新鮮な(凍結されていない)試料を除去するためのプロセスを示し、試料がペトリ皿に採取される後期段階を示す写真である。
図18A】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから凍結試料を除去するためのプロセスを示し、底部積層体が細胞培養ウェルインサートから除去される段階を示す写真である。
図18B】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから凍結試料を除去するためのプロセスを示し、凍結試料が細胞培養ウェルインサートから押し出されてペトリ皿に採取される段階を示す上からの写真である。
図18C】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから凍結試料を除去するためのプロセスを示し、図18Bの段階を示す細胞培養ウェルインサートの底部に向かう写真である。
図18D】本実施形態による細胞培養ウェルインサートから凍結試料を除去するためのプロセスを示し、凍結試料が組織学試料調製のための「カセット」に配置される後期段階を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0026]当業者であれば、図中の要素は簡略化および明瞭化のために示されており、必ずしも縮尺通りに示されていないことを理解するであろう。
【0010】
[0027]以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示であり、本発明または本発明の用途および使用を限定することを意図するものではない。さらに、本発明の前述の背景技術または以下の詳細な説明に提示される特定の理論に拘束される意図はない。本実施形態の意図は、細胞培養ウェルインサートを提示することである。本実施形態によるウェルインサートは、任意の細胞培養ウェルプレートに使用することができ、個々のウェルのサイズに合わせて寸法決めすることができる。
【0011】
[0028]図1を参照すると、図100は、本実施形態による、マルチウェル細胞培養ウェルプレート140内の細胞培養ウェルインサート130を用いた薬物試験を利用する研究の基礎研究110および臨床トランスレーショナル応用120を含む臨床ワークフローを示している。細胞培養ウェルインサート130は、薬物試験150および薬物スクリーニング155のためにエクスビボで患者生検を成長させるために使用される。
【0012】
[0029]本実施形態による細胞培養ウェルインサート130は、三次元(3D)細胞外マトリックス中で培養された血管新生した患者由来の腫瘍オルガノイドの薬物感受性および耐性を定義するために、例えば抗癌化合物のパネルのエクスビボ試験用の製品である。エクスビボデータを分子プロファイリングからの情報と組み合わせて、腫瘍応答の包括的な写真を提供することができ、それにより、好適には、各患者にとって最も適切な治療を特定するのに役立つ。さらに、患者試料を、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された化合物のライブラリおよび化合物の組合せで治療して、薬物再利用のための抗癌活性についてスクリーニングすることができる。
【0013】
[0030]本実施形態による細胞培養ウェルインサート130は、好適には、臨床ワークフロー120に示されているように、患者由来細胞の高速かつハイスループットな試験を可能にする。結果は、低い細胞数要件で数日以内に得ることができる。実地臨床におけるルーチンなものとしてのエクスビボ感受性試験の実施は、意思決定ステップにおいて臨床医を助け、有利には、癌治療における精密医療の成功のための新しい時代を開くことができる。したがって、本実施形態による細胞培養ウェルインサート130は、細胞培養ウェルインサート130が好適には迅速な薬物スクリーニングを可能にしながら腫瘍の複雑さを保持するので、適切な検証に伴って、患者由来腫瘍オルガノイドに対する治療戦略を試験するためのゴールドスタンダードになり得る。
【0014】
[0031]三次元(3D)細胞培養は、二次元(2D)表面と比較して、研究者がより生理学的な培養系で細胞現象を研究する必要性のために、細胞生物学分野において指数関数的に重要性を増している。いくつかの疾患モデルおよび薬物試験プラットフォームは、細胞がインビボで感知する微小環境を模倣するために3D細胞培養を実施している。しかしながら、ハイスループット、費用効果および操作の簡単さを提供する、信頼性があるが単純な3D細胞培養採取を可能にする改善された技術を開発することが依然として必要とされている。
【0015】
[0032]特に、オルガノイドおよびスフェロイドは、ヒト組織の特性を模倣し、保持するために、細胞外マトリックス様環境によって取り囲まれ、支持細胞と共培養される必要がある。マルチウェルプレート形式でスフェロイド/オルガノイドを成長させる既存の方法は、細胞遊走、ホーミングおよび細胞発達などの多くの生物学的機構の基本である圧力および化学勾配の欠如などの多くの制限を提示する。さらに、今日では、薬物スクリーニングおよび薬物開発プロセスをスピードアップするためのハイスループットアッセイが緊急に必要とされている。この必要性を満たすために、本実施形態による細胞培養ウェルインサート。細胞培養ウェルインサートは、実装および使用が非常に簡単であり、必要に応じてアップスケールすることができるツールである。
【0016】
[0033]図2Aから図2Cは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの詳細を、側面立面平面図205図2A)、底面平面図210図2B)、および細胞培養ウェルインサートを覗く上面平面図215図2C)で示している。図2Dは、細胞培養ウェルインサートを覗く傾斜上面斜視図220を示し、図2Eは、傾斜底面図225を示している。
【0017】
[0034]本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、図2Dから図2Eに見られるように、外壁230を形成するプラスチックシリンダと、内壁232内の容積部を画定する内壁232(例えば、円筒形状または他の三次元形状)と、内壁232および外壁230の底部に接続された基部234と、基部234に接続され、内壁232を外壁230に接続する仕切り236と、を備える。仕切り236は、内壁232と外壁230との間に形成された空洞を複数の空隙238に分割する。このように、図2Aから図2Eに示される細胞培養ウェルインサートは、2つのリザーバ(2つの空隙238)を備え、したがって3つのチャンバ(2つのリザーバおよび内壁232内の容積部)を備える。図2Fおよび図2Gを参照すると、切断傾斜上面図240および切断側面立面平面図260は、内壁232によって形成された容積部の底部に画定された試料領域245を示している。試料領域245は、内壁232の高さによって規定される深さを有し、深さは、内壁232内に画定された容積部を横切る内側距離247によって規定される長さよりも大きい。標準的な細胞培養ピペットおよびチップを使用して、ユーザは、ヒドロゲル被覆細胞培養試料(細胞、オルガノイド、組織または他の有機材料の試料が埋め込まれたヒドロゲル250)を試料領域245に加えることができる。ヒドロゲル250は、所望の実験プロトコルに従って、または所望の実験プロトコルで必要とされる場合、単一細胞またはオルガノイドおよびスフェロイドを受け入れることができる。2つのリザーバ238は、マルチ培養アッセイを実施するために同様に細胞で満たすことができ、またはリザーバ238は、ヒドロゲルを水和させ、3D細胞培養物を支持するために培養培地および様々な可溶性因子で満たすことができる。
【0018】
[0035]外壁230、内壁232、基部234、および仕切り236はプラスチックで形成され得ると述べたが、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの大量生産のための任意のポリマーまたは同様の生体適合性材料、例えばポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン、またはポリカーボネートを使用してもよい。
【0019】
[0036]漏出することなく試料領域245から細胞培養物を容易に回収するために、細胞培養ウェルインサートの底部全体を密封するために、本実施形態に従って膜を使用してもよい。膜は、例えば紫外線(UV)硬化性接着剤によって平坦な底面に接着されてもよく、使用される膜材料に応じて非透過性または透過性であってもよい。したがって、膜の透過性は、酸素透過性であるPMPなどの選択された材料の関数である。従来のデバイスにおける試料領域は、典型的には、試料領域の深さよりも大きい長さを有する。ユーザが、本明細書で論じられる膜などのデバイスの「カバースリップ」からデバイスを分離することによって試料領域内のヒドロゲルにアクセスしようとするとき、ゲルはカバースリップもしくはデバイスのいずれかに、または部分的に両方に付着し得る。この問題の根本原因は、カバースリップと接触しているヒドロゲルの表面積が、デバイスと接触しているヒドロゲルの表面積と同等であることである。除去プロセス中のヒドロゲル付着の問題は、下流分析のためにヒドロゲルおよびヒドロゲルの内容物(すなわち、試料)を無傷で回収することを困難にする。しかしながら、本実施形態によれば、ヒドロゲル250が水平チャネルと対向して垂直カラム内に配置されるので、試料領域245の深さは試料領域の長さ247よりも大きい。細胞培養ウェルインサートの本設計は、ウェル底部/膜表面よりもゲルと接触している内壁232によって形成されたカラム内の表面積が多いので、好適には、オルガノイド、生検、血管系、または同様の試料を含むヒドロゲル250を試料領域245内に保持し、試料領域から首尾よく除去することを可能にする。したがって、本実施形態による細胞培養ウェルインサートからのヒドロゲル250の除去の成功は、好適には、凍結切片化、組織学、デジタル空間プロファイリング、または同様の処理による下流分析のために、培養細胞または生検の試料を培養細胞または生検の空間的構成を損なわずに回収することを可能にする。
【0020】
[0037]図2Hを参照すると、切断立面図280は、使用中の細胞培養ウェルインサートを示している。本実施形態によれば、ヒドロゲル250は、ヒドロゲルの粘度に起因して、後述するように、ピラーまたは「マイクロネット」特徴または半壁の存在のおかげで、表面張力によってインサートの中央領域、すなわち試料領域245に捕捉されたままである。ヒドロゲル250が加えられ、重合された後(適用プロトコルの最初のステップ)、細胞培地リザーバと呼ばれる2つのリザーバ238に細胞培養培地264を加えることができる。細胞培養ウェルインサートの底部で、リザーバ238は、専用の流体セクション内で培地264を(矢印268によって示されるように)流すことを可能にする孔を通して「半月」形状のチャネル266(図2Eでよりよく見られる「半月」形状)に接続される。流れは、チャンバ内の細胞培養培地264の液体体積の高さの差から生じる圧力に応じて生成された2つのリザーバ238内の圧力勾配から生じ、チャネル266に移送され、ヒドロゲル体積に対する横方向の力をもたらす。次いで、培地264は、ピラー間または「マイクロネット」設計の孔間または半壁間の空間を通過することによってヒドロゲル領域を横切ることができる。
【0021】
[0038]圧力勾配は、中央にヒドロゲル262を有する2つの別個の培地リザーバ238の存在により生成され得、ヒドロゲル262を細胞培養培地264で灌流することを可能にする。図2Hには示されていないが、内壁232内の容積部からなる中央チャンバ270を使用して、ある体積の培地をヒドロゲル250の上部に加えることもできる。中央チャンバ270内の細胞培養培地の液体体積の高さから生じる圧力は、培地が中央チャンバ270に加えられるときに試料領域245に直接加えられる。サイトカイン、成長因子、ホルモン、および抗体などの拡散性因子の化学勾配も支持される。重要なことに、細胞培養ウェルインサートは、さらなる生物学的分析のために細胞および上清を回収するために、本実施形態に従ってウェルから抽出することができる。
【0022】
[0039]基本的に、圧力勾配は、インサートの中央位置、すなわち試料領域245のヒドロゲル262に埋め込まれた組織/オルガノイド250の周りに培養培地を流す。圧力勾配は、リザーバ238および/または中央チャンバ270に加えられる液体体積の量を制御することによって、ヒドロゲル領域250全体にわたって制御することができる。次いで、本実施形態に従って、左から右、右から左、または上から横に、化学勾配および流体の流れを生成することができる。本明細書に開示される例は、記載された基準を満たす実施形態の非限定的な例であることを理解されたい。例えば、本明細書に開示される細胞培養インサートに固定された試料を通って流れる流体は、リザーバ238および/または中央チャンバ270内の圧力勾配/体積差によって移動することがさらに理解される。
【0023】
[0040]特定の拡散性因子の勾配を達成するために、異なるリザーバ238に加えられる細胞培養培地264は、異なる濃度の拡散性因子を含んでもよい。次いで、拡散性因子は、底部の開口部を通って勾配を徐々に下って移動し、その結果、内部チャンバ内の細胞培養物は、異なる方向に異なる濃度の拡散性因子にさらされる。当業者であれば、濃度勾配を調整し、チャンバ間の純粋な拡散機構を使用するか、あるいはリザーバ238間の体積差を調整して間隙流体の流れを作り出すことができることを理解するであろう。最初のケースでは、リザーバ238のうちの1つに、または内壁232によって形成された中央チャンバ内に化学化合物または抗体を加えると、流体が同じレベルである場合には、より低濃度の方向に拡散する。この場合、任意の時間依存性拡散曲線は、ヒドロゲル262の組成の関数となる。血管新生ヒドロゲルは、薬物/分子/抗体が低抵抗の形成された「パイプ」に容易に流入することができる血管系を提示する。あるいは、コラーゲンの濃度が高い空のヒドロゲルは、拡散に対するより高い抵抗および障害となる。本実施形態によれば、抗体は12時間のインキュベーション時間にわたってヒドロゲル中に拡散することができることが分かった。間隙流体の流れを生じさせて圧力差を生じさせ、使用されるヒドロゲルに基づいて勾配を能動的に駆動するためのリザーバ238間の体積差については、リザーバ238は、培地交換が行われなければ24時間後に平衡に達する。
【0024】
[0041]図3Aから図3Cは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの写真310、330、350をそれぞれ示している。写真310は、細胞培養ウェルインサートの上面側面斜視図および底面傾斜斜視図を示し、写真330は、細胞培養ウェルインサートの上面平面図を示している。写真330において、内壁232によって形成された容積部は、ヒドロゲル堆積およびオルガノイド播種のためのアクセスポート335を提供する。写真350は、側方の「半月」形状のチャネル266が見られる細胞培養ウェルインサートの底面平面図を示している。
【0025】
[0042]図4Aおよび図4Bは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための2つの設計の底面側面斜視図の写真400、450を示している。これらの2つの設計は、試料領域245内の組織捕捉の設計が異なり、写真400は試料領域245内のネット構造410を示し、写真450は試料領域245内のピラー構造460を示している。
【0026】
[0043]本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、使い捨ての実験室用消耗性プラスチック片として設計され、マルチウェル細胞培養プレートのウェル内にぴったりと適合するように寸法決めされる。例えば、本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、好適には、標準的な24または48マルチウェルプレートのウェルに適合して、3D細胞培養のためのマルチチャンバ環境を作り出す。滅菌細胞培養ウェルインサートは、異なるチャンバ内で細胞培養を実施するために必要な緊密な固定を確実にする圧入によってウェルの内側に配置することができる。図5Aは、マルチウェル細胞培養プレート504のウェルへの細胞培養ウェルインサート502の挿入の写真500を示している。図5Bは、マルチウェル細胞培養プレートのウェルに設置された細胞培養ウェルインサートの上面斜視図を示す写真510であり、図5Cは、マルチウェル細胞培養プレート504に設置された2つの細胞培養ウェルインサート522の上面斜視図を示す写真520である。図5Dは、透明なマルチウェル細胞培養プレート504のウェルに設置された細胞培養ウェルインサート502の底面斜視図を示す写真530であり、図5Eは、マルチウェル細胞培養プレート504のウェルに設置された細胞培養ウェルインサート502の上面平面図を示す写真540である。
【0027】
[0044]マルチウェル細胞培養プレート504内のウェルの底部は、細胞培養ウェルインサート502の底面として機能する。あるいは、細胞培養ウェルインサート502は、本実施形態の一態様による底部積層体と共に使用することができる。通常、市販のマルチウェル細胞培養プレートは、時には1ミリメートルを超える厚さの、厚い底面を有する。厚い底面は高分解能顕微鏡を妨害するので、本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、積層体がわずか約100umの薄い厚さで提供され得るので、より良好な顕微鏡性能が望まれる場合に、マルチウェル細胞培養プレート用のインサートの代わりに独立型細胞培養デバイスとして底部積層体と共に使用することができる。独立型デバイスとして使用する代わりに、積層体付きの細胞培養ウェルインサートは、無底ウェルまたはマルチウェルプレートなどの専用ホルダと共に使用することができる。
【0028】
[0045]積層体なしの細胞培養ウェルインサートは、ウェルの底面にヒドロゲルを付着させたままにすることなくマルチウェル細胞培養プレートのウェルから分離することができるが、積層体付きの変形例は、積層体を容易に除去して中央ゲルカラムにヒドロゲルを保持することを可能にする、インサート構造の底部に近い細胞培養ウェルインサートの外面に空隙を組み込み、漏出防止培養および容易な回収の両方をもたらす。この空隙により、ユーザはピンセットを使用して、細胞培養ウェルインサートから積層体をつまんで剥がすことができる。積層体を接着するために使用される接着剤は、剥離することなく静水圧および湿度に耐えるのに十分強くなければならず、同時に、ピンセットを用いて手で容易に引き離すのに十分弱くなければならない。
【0029】
[0046]卵巣癌(OC)生検に対する薬物の試験において、本実施形態による細胞培養ウェルインサートを使用する利点が、一例として示される。第1選択および第2選択の治療を超えて利用可能な治療選択肢は限られているため、卵巣癌に対する試験を行うことが決定された。さらに、卵巣癌は、シンガポールでは女性において5番目に多い癌であり、シンガポールでは癌死の5番目に多い原因であり、長期の臨床的寛解を達成するための効果的な治療アプローチが緊急に必要とされている。2D技術から3D技術への移行に対する科学界の需要の高まりが、この市場の成長をさらに促進している。
【0030】
[0047]腫瘍生検およびオルガノイドの3D培養を可能にする本実施形態による細胞培養ウェルインサートの能力を試験した。特に、臨床的に関連する時間枠において各患者に特異的な最良の治療レジメンを特定するために、培養患者由来卵巣癌オルガノイドを使用して薬物ライブラリをスクリーニングした。図6Aおよび図6Bを参照すると、図600、620は、試験の2つの主な目的を示している。
【0031】
[0048]患者の生検から固形腫瘍血管新生のオルガノイドモデルを開発する第1の目的は、癌細胞の腫瘍血管新生のプロセスを示す図600に示されている。新鮮な生検は、各患者の最良の治療レジメンを特定するための薬物スクリーニングおよび免疫療法における使用を可能にする重要な遺伝的特徴および表現型の特徴を維持する。プロジェクトのこの部分は、個々の患者の臨床応答を予測し、臨床医が各患者に対してより効果的な治療を選択するのを助けるために、異なる化学療法、抗血管新生、および免疫療法アプローチならびにそれらの組合せをスクリーニングおよび比較することを可能にした。
【0032】
[0049]治療についてスクリーニングするための二次腫瘍モデルを開発する第2の目的は、癌細胞の腫瘍血管外遊出(転移)のプロセスを示す図620に示されている。このプロセスは、循環622から転移部位626への細胞の腫瘍血管外遊出624を含む。転移部位626では、腫瘍は転移前ニッチ段階628を経て微小転移630に至る。生検から単離された癌細胞は、本実施形態による細胞培養ウェルインサート内に形成された灌流可能な(perusable)血管系ネットワークに注入される。次いで、血管外遊出および二次腫瘍増殖が、可能な薬物治療によってどのように影響されるかを評価することを目的として、これらの癌細胞の血管外遊出能力を内皮血管系全体にわたって評価し、微小転移の形成を観察した。
【0033】
[0050]図7Aを参照すると、蛍光顕微鏡画像700は、血管系ネットワーク710(緑色で染色)によって取り囲まれた腫瘍組織705(赤色で染色)を有する本実施形態による細胞培養ウェルインサートの底面図を示している。図7Bは、図600に示す第1の目的による試験結果の蛍光顕微鏡画像730を示し、図7Cは、図620に示す第2の目的による試験結果の蛍光顕微鏡画像760を示している。蛍光顕微鏡画像730、760では、腫瘍組織735、765(赤色で染色)は、血管系ネットワーク740、770(緑色で染色)によって取り囲まれている。2つの目的の蛍光顕微鏡画像730、760の結果は、他の腫瘍タイプに適合させる技術およびプロトコルの準備が整っていることを示しており、本実施形態による細胞培養ウェルインサートが、腫瘍学前臨床試験のための適格な個別化薬物スクリーニングプラットフォームであることが実証された。
【0034】
[0051]本実施形態によれば、培養細胞インサートに関する特定された利用プロトコルは、細胞の3D培養物を支持するためのヒドロゲルの使用を含む。ヒドロゲル262に埋め込まれた組織/オルガノイド250を、側方の「半月」形状のチャネル266上に「漏出する」ことなく、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの中央位置に閉じ込めることによって、ヒドロゲル266中の細胞262は、図2Gに示すように、培地264に含まれる栄養素または他の可溶性因子によって支持され得る。インサートには、空のヒドロゲルまたは細胞が予め充填されたヒドロゲルを充填することができる。空のヒドロゲルの場合、細胞が培養培地に注入されると、細胞は、側方液体チャネルからヒドロゲルにコロニーを形成することによって、ヒドロゲルに「侵入する」ことができる。細胞培養インサートがオルガノイド/スフェロイドを培養するために使用され、ユーザがオルガノイド/スフェロイドを取り囲む迅速な血管系ネットワークを得たい場合、最も効率的な特定されたプロトコルは、オルガノイド/凝集体を内皮細胞(EC)線維芽細胞と混合することである。これらの2つの細胞の混合は、灌流可能な血管系ネットワークの自己組織化を可能にする。図8Aおよび図8Bは、1型コラーゲンヒドロゲルによって取り囲まれた緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する肝細胞癌細胞株(HepG2)凝集体を使用した3D細胞凝集体培養の一例の蛍光顕微鏡画像800、850を示し、画像800は、内皮細胞810(赤色で示す)が埋め込まれた肝細胞癌細胞凝集体を示し、画像850は、内皮細胞が埋め込まれていないがこのタイプの腫瘍スフェロイドに典型的な壊死性コア860を有する肝細胞癌細胞凝集体を示している。
【0035】
[0052]「マイクロネット」設計特徴は、内側中央チャンバ内の試料が2つの側部チャンバのうちの1つに移動するのを回避するための機械的障害物を含む。基本的に、設計特徴は、ヒドロゲル262に埋め込まれた組織/オルガノイド250を、側方の「半月」形状のチャネル上に「漏出する」ことなく、インサートの中央位置に閉じ込める。図9A図9Bおよび図9Cを参照すると、図900、920、940は、ヒドロゲル262を有する内側中央チャンバからチャネル266への流入部および流出部内に配置されたいくつかのピラー910を含む「ピラー」設計を示している。
【0036】
[0053]図10Aから図10Fは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートのための「ネット」設計の詳細の図1000、1010、1020、1030、1040、1050を示している。図1000、1010は、ネット1005構造を有する細胞培養ウェルインサートの底面図アングルを示している。なお、ネット1005は「フィルタ」ではなく、代わりに、「ネット」設計のネット1005構造は、「ピラー」設計のピラー910と同様に、内側中央チャンバ内の試料が2つの側部チャンバに移動するのを回避するための機械的障害物である。
【0037】
[0054]図1020、1030は、ネット1005特徴を示す細胞培養ウェルインサートの底面/側面図アングルである。ネット1005特徴はまた、断面傾斜図1040および断面平面図1050に見られる場合もある。「ネット」設計は、「ピラー」設計と比較して射出成形で製造することがより困難である可能性があるが、両方の設計は、側部チャネル領域にこぼれることなくヒドロゲルを細胞培養ウェルインサートの中央に閉じ込めるという主な要件を満たすことができる。
【0038】
[0055]「ネット」および「ピラー」設計は、小さな特徴のために、製造においていくつかの課題を提示する。半壁設計は、細胞培養ウェルインサートを製造する最良かつ最も簡単な方法を特定するために、ヒドロゲルを細胞培養ウェルインサートの中央領域に閉じ込めるために試験される別の選択肢であり、半壁1110は、図11Aの細胞培養ウェルインサートへの上面/側面図アングル1100および図11Bの断面平面図1150において見られる内壁仕切りである。上面/側面図アングル1100において、中央の孔1120はヒドロゲル注入用であり、より小さい孔1130は培養培地の注入用である。半壁設計に加えて、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの上部流体チャンバを部分的に細分する代替案は、図12の側方断面平面図1200に示される半深設計、および図13の上面平面図1300に示される四分の一ウェル設計を含む。上面平面図1300において、外壁1315と同じ高さにある内側仕切り1310は、リザーバチャンバを4つのチャンバ1320に細分する。リザーバチャンバを細分する理由は、流体が同じチャンバ内の一方の孔から他方の孔に流れ、側方チャネルの長手方向の流体流に変換することを可能にするためである。この流体流は、例えば、側方チャネル播種中の細胞の均一な分布を可能にするか、または真空吸引器を使用する場合に培地の過剰吸引を防止する。
【0039】
[0056]図14は、本実施形態による細胞培養ウェルインサート内のコラーゲンヒドロゲル中で培養された肝臓オルガノイドのインサイチュ免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像1410、1420、1430を示している。画像1410、1420、1430は、50pmのスケールバーを有し、肝臓オルガノイドの生死染色を示している。画像1410における生細胞の青色核染色および画像1420における死細胞の赤色染色は、画像1430においてマージされている。
【0040】
[0057]半壁設計および「ピラー」設計は異なる構造であるが、両方の設計は、側部チャネル領域にこぼれることなくヒドロゲルを細胞培養ウェルインサートの中央に閉じ込めるという主な要件を満たすことができる。さらに、図15Aおよび図16A、ならびに図15Bおよび図16Bに見られるように、腫瘍血管新生の結果は、細胞培養ウェルインサート中の培養物が異なる設計を有する場合、実質的に異ならない。図15Aおよび図15Bは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの半壁設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像1500、1550を示し、図16Aおよび図16Bは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートの「ピラー」設計における血管新生腫瘍の共焦点顕微鏡画像1600、1650を示している。画像1500、1600は、図6Aに示される血管新生プロセスによる試験結果を示し、画像1550、1650は、血管新生プロセスによる試験結果を含む細胞培養ウェルインサートの底面図を示している。
【0041】
[0058]図17Aおよび図17Bを参照すると、本実施形態による細胞培養ウェルインサートから新鮮な(凍結されていない)試料を除去するためのプロセスが写真1700、1750に示されている。写真1700において、ロッド1710は、細胞培養ウェルインサート1730内の内壁232によって形成された容積部にロッドが通されるにつれて、試料1720(例えば、ヒドロゲル被覆組織/オルガノイド)を細胞培養ウェルインサートから押し出している。写真1700は、試料1720が細胞培養ウェルインサート1730からロッド1710によって押し出された直後の、本実施形態による試料回収プロセスの段階を示している。写真1750は、試料1720が細胞培養ウェルインサート1730から完全に除去され、ペトリ皿1740に採取される試料回収プロセスの後期段階を示している。
【0042】
[0059]ロッド1710は、ヒドロゲルカラム(すなわち、細胞培養ウェルインサート1730の内壁232によって画定される容積部)の内径と一致する直径を有する適切な円筒形要素である。
【0043】
[0060]図18Aから図18Dは、本実施形態による細胞培養ウェルインサートから凍結試料を除去するためのプロセスの段階を示す写真1800、1820、1840、1860を示している。試料1802は、細胞培養ウェルインサート1804を液体窒素蒸気に曝露することによって急速に凍結させることができる。写真1800に示すように、細胞培養ウェルインサート1804の底部に加えられた膜または積層体1806は、一対のピンセット1808によって容易に剥がすことができる。底部積層体1806を使用することにより、好適には、本実施形態による細胞培養ウェルインサート1804を独立型3D細胞培養デバイスとして、または専用ホルダもしくは無底ウェルプレート内で使用することが可能になる。
【0044】
[0061]写真1820、1840を参照すると、ロッド1825は、細胞培養ウェルインサート1804の上部から入り、凍結試料1802を細胞培養ウェルインサート1804からペトリ皿1830に押し出すために使用することができる。写真1860は、凍結試料1802がピンセット1808で採取され、組織学試料調製のために「カセット」1862に加えられる、凍結試料回収プロセスの後期段階を示している。
【0045】
[0062]新鮮な試料および凍結試料を採取するための記載された方法の両方を、さらなる組織学的分析およびデジタル空間プロファイリングのために使用することができる。生細胞が必要とされる場合、天然状態の新鮮な試料が好ましいが、回収中の構造破壊を最小限に抑えるために、回収前に試料を凍結することが好ましい。新鮮な試料採取または凍結試料採取のいずれが使用されるかは、実行される下流分析/アッセイが決定の要因になる。マルチウェル細胞培養プレートのウェル内のインサートの緊密な適合を考慮すると、ピンセット1808はまた、ウェルからインサートを容易に除去するために必要である場合もある。
【0046】
[0063]本実施形態による細胞培養細胞インサートは、好適には、3D細胞培養マトリックス中での細胞培養を可能にし、臨床治療投与前に抗癌化合物に対する患者特異的腫瘍感受性を試験するための多くの分析技術およびアッセイタイプにおける解決策を提供し、腫瘍の複雑さを維持し、迅速な薬物スクリーニングを可能にしながら、患者由来腫瘍オルガノイドに対する治療戦略の試験を単純化する。
【0047】
[0064]したがって、本実施形態は、臨床治療投与前に抗癌化合物に対する患者特異的腫瘍感受性を試験することを可能にし、それにより、患者由来腫瘍オルガノイドに対する治療戦略の試験を単純化するが、腫瘍の複雑さを保持し、迅速な薬物スクリーニングを可能にするデバイスを提供することが分かる。本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、標準的な48ウェル細胞培養プレートに適合するプラスチックインサートである。インサートは、射出成形によって容易に大量生産することができる。スフェロイド/オルガノイドを培養するヒドロゲル全体にわたって勾配が生成され得、勾配は、スフェロイド/オルガノイドを生存可能かつ機能的に保つため、および様々なスクリーニング用途のための薬物または可溶性因子を投与するために重要である。ウェルインサートの設計は、上部(すなわち、開放系)からの酸素交換を可能にし、インサートをウェルから取り出して生体材料を回収することができる。
【0048】
[0065]本実施形態による細胞培養ウェルインサートは、底部積層体または膜の有無にかかわらず、既存のマルチウェルプレート(例えば、24ウェルプレートまたは48ウェルプレート)と共に使用することができる。細胞培養ウェルインサート内のヒドロゲル区画のサイズ、例えば48ウェル培養プレート用の(3mm×1.5mm(h))は、好適には、他のマイクロ流体技術とは対照的に、より大きなオルガノイドまたは組織片の培養を可能にする。さらに、培養細胞/生検は、凍結切片化、組織学、デジタル空間プロファイリング、または他の分析プロセスによる下流分析のために、それらの空間的構成を損なわずに細胞培養ウェルインサートから回収することができる。
【0049】
[0066]本実施形態による細胞培養ウェルインサートの設計は、ゲル+オルガノイド、生検、血管系、または同様の試料を細胞培養ウェルインサートのゲルカラム(内壁232によって形成された内側円筒形空間)に保持することを可能にする。さらに、ウェル底部/カバースリップ/積層体表面よりもゲルと接触しているカラム内の表面積が大きいので、ヒドロゲル中の試料を損なうことなく積層体を容易に除去することができる。
【0050】
[0067]既存のデバイスはゲルへの容易なアクセスを可能にしないが、本実施形態による積層体なしの細胞培養ウェルインサートは、好適には、ウェルの底面にゲルを付着させたままにすることなくマルチウェルプレートのウェルから分離することができる。積層体付きのデバイスは、有利には、ゲルが中央ゲルカラム内に保持された状態で積層体の容易な除去を可能にする特徴を組み込んでおり、好適には、漏出防止培養および容易な試料回収の両方を促進する。
【0051】
[0068]ゲルは、ゲルカラムの内径と一致する直径を有する円筒形ロッド1710、1825などの適切な形状の器具を使用して押し出すことができる。実験要件に応じて、ゲルをゲルの天然状態で回収することができ(例えば、生細胞が必要な場合)、または回収前にゲルをデバイス内で凍結することができる(回収プロセス中のあらゆる構造破壊を最小限に抑えるため)。
【0052】
[0069]例示的な実施形態は、本実施形態の前述の詳細な説明に提示されているが、膨大な数の変形形態が存在することを理解されたい。例示的な実施形態は単なる例であり、決して本発明の範囲、適用性、動作、または構成を限定することを意図するものではないことをさらに理解されたい。むしろ、前述の詳細な説明は、本発明の例示的な実施形態を実施するための簡便なロードマップを当業者に提供し、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に記載されたステップおよび動作方法の機能および配置に様々な変更を加えてもよいことが理解される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図18C
図18D
【国際調査報告】