IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノースウェスタン ユニバーシティの特許一覧

特表2024-510422ヒトオルニチンアミノトランスフェラーゼの選択的不活化剤としての3-アミノ-4,4-ジハロシクロペンタ-1-エンカルボン酸
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ヒトオルニチンアミノトランスフェラーゼの選択的不活化剤としての3-アミノ-4,4-ジハロシクロペンタ-1-エンカルボン酸
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/48 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07C229/48 CSP
A61K31/196
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P1/16
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553735
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 US2022018753
(87)【国際公開番号】W WO2022187523
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/156,147
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ビー.シルバーマン
(72)【発明者】
【氏名】シーダ シェン
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206FA44
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZA75
4C206ZB26
4C206ZC20
4H006AA01
4H006AB20
(57)【要約】
アミノ、フルオロ置換されたシクロペンテンカルボン酸化合物が開示される。開示される化合物及びその組成物は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性を調節する方法に利用することができ、hOAT活性に関連する疾患若しくは障害、又は細胞増殖性疾患及び障害などの発現を治療するための方法を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式:
【化1】
〔式中、
二重結合がα炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に存在し、
及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIなどのハロゲンから独立して選択される〕
の化合物、又はその解離形態、非プロトン化形態、双性イオン形態、若しくは塩。
【請求項2】
アンモニウム部分及びカルボキシレート部分を含む双性イオン形態である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
二重結合がα炭素とε炭素の間にある、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
及びRのうちの少なくとも1つがFである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
アンモニウム塩が、プロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物中の請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
式:
【化2】
〔式中、
及びRのうちの少なくとも1つがFである〕
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
式:
【化3】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
式:
【化4】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
(i)請求項1に記載の化合物;及び(ii)薬学的に適した担体、希釈剤又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項16】
ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性を調節する方法であって、該方法は、請求項1に記載の化合物をhOATを含む培地と接触させることを含み、該化合物がhOAT活性を調節するのに十分な量で存在する、方法。
【請求項17】
ヒトがんによって発現されるhOATの活性を減少させる方法であって、該方法は、hOATを発現するがんを有効量の請求項1に記載の化合物と接触させてhOAT活性を減少させることを含む、方法。
【請求項18】
治療有効量の請求項1に記載の化合物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象におけるがんを治療するための方法。
【請求項19】
がんが肝細胞癌腫(HCC)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
がんが非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
がんが、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)の発現又は過剰発現によって特徴付けられる、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
化合物が、アンモニウム部分及びカルボキシレート部分を含む双性イオン形態である、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
二重結合がα炭素とε炭素の間にある、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
及びRのうちの少なくとも1つがFである、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
アンモニウム塩が、プロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
化合物が、薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物中にある、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
化合物が、式:
【化5】
〔式中、
及びRのうちの少なくとも1つがFである〕
を有する、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
化合物が、式:
【化6】
を有する、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
化合物が、式:
【化7】
を有する、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、請求項33に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年3月3日に出願された米国特許出願第63/156,147号に対する優先権の利益を主張するものであって、その内容全体が参照により援用される。
【0002】
連邦政府資金による研究又は開発に関する声明
本発明は、保健社会福祉省、国立衛生研究所及び国立薬物乱用研究所によって授与されたDA030604に基づく政府の支援を受けてなされた。
政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
トオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT;EC2.6.1.13)は2つの共役アミノ基転移反応を触媒するピリドキサール-5’-リン酸(PLP)依存酵素であり、L-オルニチン(L-Orn)を変換してL-グルタミン酸-γ-セミアルデヒド(L-GSA)を生成し、後半反応でα-ケトグルタル酸(α-KG)からL-グルタミン酸(L-Glu)を生成した。得られた中間体L-GSAはΔ1-ピロリン-5-カルボン酸(P5C)の自発平衡種であるが、P5CはP5Cレダクターゼ(PYCR)によって触媒されるL-プロリンを与えることができる。一方、生成されたL-Gluはピロリン-5-カルボキシラートシンターゼ(P5CS)によってもP5Cに変換され、プロリン代謝に関与する。プロリン生合成は、プロリン消費の加速、ヒドロキシプロリン蓄積、α-フェトプロテイン(AFP)レベルの増加及びHCCの予後不良との相関を特徴とする、肝細胞がん(HCC)のヒト腫瘍組織における最も実質的に変化したアミノ酸代謝として同定された。さらに、グルタミンシンテターゼ(GS)はL-GluのL-グルタミン(L-Gln)への変換を触媒する。L-Glnは、がん細胞が同化過程を支持するために高度に必要とされ、細胞増殖を促進する。
【0004】
HCCは主な肝臓悪性腫瘍であり、世界中でがん関連死亡の最も一般的な原因の1つである。以前の研究では、DNAマイクロアレイ解析により同定されたPsammomys obesus(サンドラット)由来の自然発生HCC発生肝臓における7つの過剰発現遺伝子の1つとしてOAT遺伝子を同定した。さらに、選択的hOATメカニズムに基づく不活化剤(MBI)BCF(1)の処理(0.1及び1.0mg/kg;PO)は、HCCマウスモデルにおいて血清AFPレベルを著しく低下させ、腫瘍増殖を阻害し、薬理学的選択的hOAT阻害の抗腫瘍効果を強調した。MBIは、最初は標的酵素の代替基質として作用し、次に、特異的共有結合修飾、強結合静電相互作用、又はその他の機能的に不可逆的な阻害を介して酵素をさらに不活性化することができる活性種に変換される分子の一種である6-7。MBIは、典型的には、標的酵素の活性部位との最初の結合の前には反応せず、それによって、通常、顕著な標的特異性及び選択性を示す。全体として、hOATはHCCの潜在的治療標的と考えられ、hOATを選択的に不活化することは、有効なHCC治療を発見するための新しい機会を提供する可能性がある。
【0005】
しかしながら、hOATの選択的MBIを発見するための主な課題は、他のアミノトランスフェラーゼ、特にhOATと高い構造的類似性を有するγ-アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ(GABA-AT)に対する不可逆的阻害を克服することである。ホモ二量体構造の活性部位ポケットには2つの有意差しかない:hOAT中のTyr85とTyr55はそれぞれGABA-AT中のIle72とPhe351で置換される。さらに、Ile72及びPhe351は、hOATと比較してGABA-ATの活性部位がわずかに狭いが疎水性が高いことに関与している。対照的に、Tyr55のヒドロキシル基は基質の荷電C-2アミノ基と相互作用する水素結合受容体として働くが、Tyr85は基質特異性の重要な決定因子であり、かさ高い基質を採用するためにコンホメーション的に柔軟である
【0006】
これら2つのアミノトランスフェラーゼ間の高い類似性に従い、hOATに対する予備的スクリーニングをストックGABA-AT阻害剤を用いて以前に行った。弾頭としてビス(トリフルオロメチル)基を有するBCF(1)と呼ばれるシクロペンタン系類似体は、hOATの選択的MBIであると同定されたが、GABA-ATに対するmmolの可逆的阻害のみを示した。最近の機構的研究は、そのトリフルオロメチル基の1つがフッ化物イオンの脱離を起こし、リガンドが共役付加を通じて触媒Lys292を共有結合的に修飾することを明らかにした9-10。立体的なかさばるビス(トリフルオロメチル)基は、GABA-ATの比較的狭いポケットにアクセスするのが容易ではなく、リガンドと酵素との間の最初の結合ポーズに影響を及ぼし、これがGABA-ATに対する可逆的阻害の原因である可能性があると考えられる。BCFは、上述のようにインビボで有効であることが実証されており、HCC患者由来の異種移植(PDX)モデルにおける広範なIND標識毒性評価及び有効性試験で検討されている。同様の戦略に基づき、環系を拡大して試験し、さらにジフルオロ基を有するシクロヘキセンベースの類似体WZ-2-051(2)を発見した11。WZ-2-051は、BCFと比較してhOATに対する不活化効率(kinact/K比により定義)が23倍向上したが、GABA-ATより13.3倍選択性を示した。その後の機構的研究は、WZ-2-051が2段階フッ化物イオン脱離を受け、最終的に付加-芳香族化メカニズムを介してhOATを不活性化することを明らかにした11。選択的hOAT不活性化剤のさらなる例は、hOAT基質L-Ornの構造及び非選択的GABA-AT不活性化剤AFPAの構造に刺激された5-FMOrn(3)であり12、三元付加物を形成することによってエナミン経路を介してhOATを不活性化する13
【0007】
5-FMOrnのα-アミノ基はhOAT結晶錯体(PDB侵入2OAT)においてTyr55のフェノール基と強い水素結合を形成することに留意すべきである14。さらに、BCF(PDB侵入6OIA)及びWZ-2-051(PDB侵入6V8C)とのhOAT結晶錯体におけるそれらのカルボキシラート基とTyr55の間の水素結合が観察され9,11、それにより、Tyr55との相互作用がリガンド特異性及び選択性において重要な役割を果たすことが示された。しかし、公表されているhOAT不活化剤のうち、hOATに対する強力な不可逆的阻害、GABA-ATに対する弱い可逆的阻害(K=4.2mM)、及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Asp-AT)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(Ala-AT)に対する阻害を最大4mMまで示さず、有望なhOAT選択性をもたらす。従って、hOATの新規選択的MBIを発見することは、HCCの潜在的治療アプローチとしてのhOAT不活化剤の研究を促進するであろう。
【0008】
2000年に、(1R,4S)-4-アミノ-3,3-ジフルオロシクロペンタンカルボン酸(4)はGABA-ATに対する可逆的阻害剤であることが分かった(K=0.19mM)15。15年後、それはさらにhOAT不活化剤であることが証明された。しかしながら、化合物4はhOATに対して高い結合親和性(KI=7.8mM)を示し、hOATに対して低い最高不活性化速度(kinact=0.02分-1)を示し、最終的には中程度の不活性化効率(kinact/K=0.003分-1mM-1)を引き起こし、不活性化及びターンオーバーメカニズムの解明には限界がある。
【0009】
本技術は、高度に強力で選択的なhOAT不活性化剤であることが実証されている4のシクロペンタン環系に追加の二重結合を組み込むことにより、SS-1-148(6)を含む新規なシクロペンテン系類似体を提供する。結晶化、タンパク質及び分子質量分析、過渡状態測定、及び計算シミュレーションを利用した機構研究により、SS-1-148の新規非共有不活性化機構を明らかにした。
【発明の概要】
【0010】
開示されているのは、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)の選択的阻害のための化合物、組成物及び関連する使用方法である。開示された化合物、組成物、及び方法は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)に関連する疾患及び障害を治療するために利用することができる。
【0011】
開示された化合物は、置換シクロペンテン化合物として記載することができる。特に、開示された化合物は、アミノ、ハロ置換シクロペンテンカルボン酸化合物として記載することができる。開示された化合物及びその組成物は、hOAT活性又は細胞増殖性疾患及び障害などの発現に関連する疾患又は障害を治療する方法を含む、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性を調節する方法に利用することができる。
【0012】
開示された化合物は、次の式の化合物、又は解離型、非プロトン化型、双性イオン型、又はそれらの塩に向けることができる。
【0013】
【化1】
【0014】
式中、α炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に二重結合が存在する。
【0015】
【化2】
【0016】
式中、R及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲンから独立して選択される。
【0017】
示されているように、開示された化合物は、プロトン化されて、例えば、アンモニウム部分を形成することができ、場合により、化合物が塩として存在する。開示された化合物はまた、非プロトン化及び/又は解離されてもよく、例えば、カルボン酸部分がカルボン酸部分から解離され、場合により、化合物が塩として存在する。開示された化合物は、化合物がプロトン化されたアンモニウム部分及び解離されたカルボキシレート部分を含み、場合により化合物が塩として存在する双性イオン形態であってもよい。
【0018】
開示された化合物及び組成物は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性を調節する方法に利用することができる。このような方法は、以下の式の化合物又は解離型、双性イオン型、又はそれらの塩などの本明細書に開示される化合物を提供し、hOATを化合物と接触させることを含むことができる。
【0019】
【化3】
【0020】
式中、α炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に二重結合が存在し、R及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲンから独立して選択される。
【0021】
ある実施形態において、開示された方法は、限定されるものではないが、肝細胞がん(HCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC)、又はhOATを発現若しくは過剰発現する他のがんを含む、がんによって発現されるhOATの活性を低下させることを指向することができる。このような方法は、以下の式の化合物又は解離型、非プロトン化型、双性イオン型、又はそれらの塩などの本明細書に開示される化合物を提供し、がんを化合物と接触させることを含むことができる。
【0022】
【化4】
【0023】
式中、α炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に二重結合が存在し、R及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲンから独立して選択される。
【0024】
ある実施形態において、開示された方法は、それを必要とする対象における細胞増殖性疾患又は障害を治療することを指向することができる。適切な細胞増殖性疾患及び障害には、限定されるものではないが、肝細胞がん(HCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC)などのhOATを発現又は過剰発現するがんが含まれ得る。このような方法は、以下の式の化合物又は解離型、プロトン化されていない型、双性イオン型、又はそれらの塩をその必要とする対象に投与することを含むことができる。
【0025】
【化5】
【0026】
式中、α炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に二重結合が存在し、R及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲンから独立して選択される。
【0027】
本明細書に開示された化合物は、立体化学的又は立体配置上の制限なしであり、立体化学的又は立体配置上の制限が示されない限り、すべての立体化学的又は立体配置上の異性体を包含する。以下に例示及び説明するように、そのような化合物及び/又はそれらの中間体は、単一のエナンチオマー、異性体を分離することができるラセミ混合物、又は対応するエナンチオマーを分離することができるジアステレオマーとして入手可能である。従って、任意の立体中心は、任意の他の立体中心に対して、(S)又は(R)であり得る。別の考察として、種々の化合物は、酸又は塩基塩として、例えばアミノ基で部分的又は完全にプロトン化されてアンモニウム部分を形成する、及び/又は部分的又は完全に解離されて、例えばカルボキシル基で存在し、カルボキシレート置換基又は部分を形成することができる。特定のそのような実施形態において、アンモニウム置換基又は部分に関して、対イオンは、プロトン酸の共役塩基であり得る。特定のそのような又は他の実施形態において、カルボキシレート置換基又は部分に関して、対イオンは、アルカリ、アルカリ土類又はアンモニウムカチオンであり得る。さらに、本明細書に開示される任意の1つ以上の化合物を、治療方法又は薬剤と共に使用するための薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物の一部として提供することができることが当業者によって理解されるであろう。
【0028】
ある実施形態において、開示された方法は、hOAT活性及び/又は過剰発現に関連する疾患又は障害(細胞増殖性疾患及びhOAT活性及び/又は発現又は過剰発現に関連するがんなどの障害を含む)に関する。適切な疾患及び障害には、限定されるものではないが、細胞増殖性疾患及び障害が含まれ、これらには、このような治療を必要とするヒト対象における肝細胞がん及び非小細胞肺がんが含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、そのような化合物は、医薬組成物の一部として提供することができる。
【0029】
ある実施形態において、開示された方法は、がん(例えば、肝細胞がん(HCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC))によって発現されるヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼの活性を低下又は調節することを目的とする。そのような方法は、上述又は本明細書の他の箇所に記載された種類の化合物を提供する工程、及びヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼを発現するがんを含む細胞媒体と、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ活性を低下させるのに有効な量のそのような化合物と、そのような化合物とを接触させる工程を含むことができる。ある実施形態において、そのような化合物は、医薬組成物の一部として提供することができる。いずれにせよ、そのような接触はインビトロ又はインビボであり得る。
【0030】
より一般的には、開示された方法は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼを阻害又は不活性化することを目的とすることができる。そのような方法は、医薬組成物の一部であるか否かにかかわらず、上述又は下記に記載された種類の化合物を提供する工程、及びヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼと接触するための有効量のそのような化合物を投与する工程を含むことができる。このような接触は、当技術分野で理解されるように、実験目的及び/又は研究目的のために、又は1以上のインビボ又は生理学的条件をシミュレートするように設計され得る。そのような化合物には、以下の実施例、参考図、引用文献、及び/又は付随する合成スキームによって例示されるものが含まれるが、これらに限定されない。特定のそのような実施形態において、そのような化合物及び/又はその組み合わせは、hOAT、細胞増殖及び/又は腫瘍増殖を阻害するのに少なくとも部分的に十分な量で存在することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】hOATと関連代謝経路(A);hOATメカニズムに基づく不活化剤BCF(1)、WZ-2-051(2)及び5-FMOrn(3)(B)の構造。
図2】hOAT(A;PDBエントリー1OAT)とGABA-AT(B;PDBエントリー1OHV)の活性部位比較。C)hOAT不活性化因子4~6の構造。
図3A】hOAT(A)及びGABA-AT(B)中のSS-1-148の主要代謝物。
図3B】hOAT(A)及びGABA-AT(B)中のSS-1-148の主要代謝物。
図4】化合物SS-1-148を用いた浸漬実験(A、PDB侵入7LK1)及び共結晶化(B、PDB侵入7LK0)から生じるhOATの結晶構造。SS-1-148の浸漬構造は2つの立体配座で示されている。1つはカルボキシラート基がTyr55と相互作用する構造(コンホメーションA)であり、もう1つはカルボキシラートがArg413と塩橋を形成する構造(コンホメーションB)である。この特定の鎖については、立体配座の占有率は0.51(コンホメーションA)と0.49(コンホメーションB)である。hOAT残基及びSS-1-148は棒状に表示されている。六角形の原子間のH-結合距離は破線で示されている。
図5A】SS-1-148により不活性化されたhOATの変性、無傷(A)及び天然(B)タンパク質質質質量分析。
図5B-1】SS-1-148により不活性化されたhOATの変性、無傷(A)及び天然(B)タンパク質質質質量分析。
図5B-2】SS-1-148により不活性化されたhOATの変性、無傷(A)及び天然(B)タンパク質質質質量分析。
図6】SS-1-148と反応するhOATの275,420,560nmで観察された過渡状態吸収変化。OAT(12.7μM最終)をSS-1-148(126、251、502、1004、2008、4016μM)と混合し、CCDスペクトルを時間枠0.009~49.2秒間収集した。(A)420nmで観測されたデータは、支持情報に記述された式(3)に従って3つの指数項の線形結合に適合する。矢印は、インヒビター濃度を増加させるために観察される振幅の傾向を示す。(B)420nmで観測された第一相の観測された速度定数依存性は支持情報に記述された式(5)に適合した。k2及びk3の値は、図5Aの適合から得られる平均値である。フィットは赤色のダッシュで表示されます。(C)560nmで観察されたデータ。曲がった矢印は、阻害剤濃度を増加させるために観察された振幅の傾向を示す。これらのデータは、支持情報に記載された式(4)に従って、2つ(1004、2008、及び4016μM)又は3つ(126、251、及び502μM)の指数項の線形結合に適合した。フィットは赤色のダッシュで表示されます。(D)8032μM SS-1-148の存在下で得られた2000秒にわたる275nmでの観測データは、支持情報の方程式(4)に従って2つの指数項の線形結合に適合した。フィットは赤色のダッシュで表示されます。
図7A-B】SS-1-148と反応するhOATで観測された過渡状態吸収変化の特異値分解(SVD)による部分分解。hOAT(6.94μM;最終濃度)を、10℃でSS-1-148(1040μM;最終濃度)を有する停止流分光光度計中で反応させ、4桁の大きさにわたる速度を分析するのに十分な時間分解能を得るために、平均化された短時間及び長時間フレームデータセットを一緒にスプライシングすることにより、250~800nm及び0.0137~9843秒にわたる複合CCD吸光度データセットを調製した。これらのデータは、速度定数が単一波長分析から決定されたものに制約される線形非可逆4段階モデルに適合した(図6)。SVD分析(A)から導いたデコンボリューション複合スペクトル。データセット(B)に適合するために使用した速度定数に基づく種濃度プロファイル。
図7C】分析したデータセット(C)からのスペクトルのサブセットの三次元図。
図8】DFT/B3LYP法(A)を用いたCγ位置における水素の理論的pKa計算と、中間体の静電ポテンシャルとCδ及びC4’位置(B)のESP電荷に符号化された電子密度マップ。
図9】SS-1-148によるhOATの滴定。酵素活性の消失を、酵素濃度に対する不活性化の比の関数として測定した。直線回帰を曲線の直線部分で用いて、回転数(分配比=回転数-1)であるX切片を得た。
図10】種々の濃度のSS-1-148によりhOATの時間依存透析が部分的又は完全に阻害された。
図11】中間体を4σレベルに浸漬したSS-1-148のポーダーマップ。
図12】4σレベルのSS-1-148共結晶のポーダーマップ。
図13】天然の未修飾hOATをネイティブMSが調べた。左:未処理hOAT;右:衝突解離エネルギーを印加した未処理hOAT(NCE:15)。
図14-1】M7及び関連する互変異性体に対するGibbの自由エネルギー。
図14-2】M7及び関連する互変異性体に対するGibbの自由エネルギー。
図15-1】hOAT中の4-6の主要代謝物。(A)hOAT中の4の一次代謝産物。(B)hOAT中の5の一次代謝産物。hOATにおけるSS-1-148(6)の一次代謝産物(C)。
図15-2】hOAT中の4-6の主要代謝物。
図15-3】hOAT中の4-6の主要代謝物。
図15-4】hOAT中の4-6の主要代謝物。
【発明を実施するための形態】
【0032】
開示された主題事項は、以下のような定義及び用語を用いてさらに記述することができる。本明細書で使用される定義及び用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、限定することを意図しない。
【0033】
本明細書及び請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形を含む。例えば、用語「置換基」は、文脈が明確に他のことを指示しない限り、「1つ以上の置換基」を意味すると解釈されるべきである。
【0034】
本明細書で使用される[0038]本明細書では、「約」、「約」、「実質的」、及び「有意」は、当業者によって理解され、それらが使用される文脈によってある程度変化するであろう。用語が使用される文脈が与えられた場合、当業者にとって明確でない用語の使用がある場合、「約」及び「約」は、特定の用語の±10%までを意味し、「実質的に」及び「有意に」は、特定の用語の±10%を超えるか又は超えることを意味する。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「含む(include)」及び「含んでいる(including)」は、用語「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」と同じ意味を有する。用語「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」は、クレームに記載された構成要素にさらに追加の構成要素を含めることを可能にする「オープンな」移行用語であると解釈されるべきである。用語「なる(consist)」及び「からなる(consisting of)」は、クレームに記載された構成要素以外の追加構成要素を含めることを許容しない「閉じた」移行用語であると解釈されるべきである。「本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、部分的に閉じられていると解釈されるべきであり、クレームされた主題事項の性質を根本的に変化させない追加の構成要素のみを含めることができる。
【0036】
文言「そのようなもの」は「例えば、含む」と解釈されるべきであり、さらに、「そのようなもの」を含むがこれらに限定されない任意の全ての例示的な言語の使用は、単にクレームされた主題事項をより良く照明することを意図し、クレームされた主題事項の範囲を限定するものではない。
【0037】
さらに、「A、B、C等のうちの少なくとも1つ」に類似する慣例が使用される場合には、一般に、このような構造は、当該慣例を当業者が理解するという意味で意図される(例えば、「A、B、Cのうちの少なくとも1つを有するシステムは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの間、AとCの間、BとCの間、及び/又はA、BとCの間を有するシステムを含むが、これらに限定されない)。明細書又は図面のいずれかにおいて、2つ以上の代替用語を提示する実質的に任意の分離語及び/又は語句は、用語のいずれか、又は両方の用語のいずれか、又はいずれかの用語の1つを含める可能性を考慮するように理解されるべきであることが、当業者によってさらに理解されるであろう。例えば、語句「A又はB」は、「A」又は「B」又は「A及びB」の可能性を含むと理解されるであろう。
【0038】
「最大」、「少なくとも」、「より多い」、「より少ない」等のようなすべての言語は、列挙された数を含み、続いて範囲及びサブ範囲に分解することができる範囲を指す。範囲は、個々のメンバーを含む。従って、例えば、1~3のメンバーを有するグループは、1、2、又は3のメンバーを有するグループを指す。同様に、6個のメンバーを有するグループは、1、2、3、4、又は6個のメンバーを有するグループなどを指す。
【0039】
モード動詞は、同一内に含まれる複数の説明された実施形態又は特徴のうちの1つ又は複数のオプション又は選択の好ましい使用又は選択を指す。同じ中に含まれる特定の実施形態又は特徴に関する選択肢又は選択肢が開示されていない場合、モード動詞は、同じ中に含まれる説明された実施形態又は特徴の製造又は使用方法及びアスペクトに関する肯定的な行為、又は同じ中に含まれる説明された実施形態又は特徴に関する特定のスキルを使用する確定的な決定を指すことができる。後者の文脈では、法助動詞「may」は助動詞「can」と同じ意味と含意を有する。
【0040】
本明細書中で使用されるように、「それを必要とする対象」は、ヒト及び/又は非ヒト動物を含み得る。「それを必要とする対象」は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性に関連する疾患又は障害を有する対象を含み得る。「それを必要とする対象」は、限定されるものではないが、肝細胞がん(HCC)を含み得る、細胞増殖性疾患又は障害を有する対象を含み得る。
【0041】
化学物質
新規化学物質及び化学物質の用途が本明細書に開示される。化学物質は、当該技術分野で公知の用語を用いて記載することができ、以下にさらに説明する。
【0042】
本明細書で使用する場合、ダッシュ「-」又はアスタリスク「」又はプラス記号「+」を使用して、任意のラジカル基又は置換基に対する結合点を指定することができる。
【0043】
本明細書で意図される用語「アルキル」は、そのすべての異性体形、例えば、本明細書ではそれぞれC1~C12アルキル、C1~C10-アルキル、及びC1~C6-アルキルと呼ばれる、1~12、1~10、又は1~6炭素原子の直鎖又は分枝鎖基中の直鎖又は分枝アルキルラジカルを含む。
【0044】
用語「アルキレン」は、直鎖又は分枝アルキル基(すなわち、直鎖又は分枝C1~C6アルキル基のジラジカル)のジラジカルを指す。例示的なアルキレン基としては、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)CH-、-CH(CHCH)CHCHなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
用語「ハロ」は、ハロゲン置換(例えば、-F、-Cl、-Br、又は-I)を指す。用語「ハロアルキル」とは、少なくとも1つのハロゲンで置換されたアルキル基を指す。例えば、-CHF、-CHF、-CF、-CHCF、-CFCFなどである。
【0046】
本明細書中で使用される用語「ヘテロアルキル」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子(例えば、O、N、又はS原子)で置換されている「アルキル」基を指す。ヘテロアルキル基の1つのタイプは、「アルコキシ」基である。
【0047】
本明細書中で使用される用語「アルケニル」は、本明細書中でそれぞれC2~C12-アルケニル、C2~C10-アルケニル、及びC2~C6-アルケニルと称する、2~12、2~10、又は2~6炭素原子の直鎖又は分枝鎖基などの少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する不飽和直鎖又は分枝鎖炭化水素を指す。
【0048】
用語「アルキニル」とは、本明細書において、それぞれC2~C12-アルキニル、C2~C10-アルキニル、及びC2~C6-アルキニルと称する、2~12、2~10、又は2~6炭素原子の直鎖又は分枝鎖基のような、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する不飽和直鎖又は分枝鎖炭化水素を指す。
【0049】
用語「シクロアルキル」とは、シクロアルカンから誘導された、本明細書中で「C4~8-シクロアルキル」と称する、3~12、3~8、4~8、又は4~6炭素の一価飽和環式、二環式、又は橋かけ環式(例えば、アダマンチル)炭化水素基を指す。特記しない限り、シクロアルキル基は、1以上の環位置で、例えばアルカノイル、アルコキシ、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アミド又はカルボキシアミド、アミノ、アリールアルキル、アリールアルキル、アジド、カルバメート、カルボネート、カルボキシ、シアノ、シクロアルキル、エステル、ホルミル、エーテル、ハロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリール、ヒドロキシル、イミノ、ケトン、ニトロ、リン酸塩、ホスホナート、ホスフィナート、スルフェート、スルホンアミド、スルホニル又はチオカルボニルで任意に置換される。ある実施形態において、シクロアルキル基は置換されていない、すなわち、置換されていない。
【0050】
用語「0055」は、シクロアルカンの少なくとも1つの炭素が、例えばN、O、及び/又はSのようなヘテロ原子で置換されている、3~12、3~8、4~8、又は4~6炭素の一価飽和環式、二環式、又は架橋環式炭化水素基を指す。
【0051】
用語「シクロアルキレン」は、1つ以上の環結合で不飽和であるシクロアルキル基を指す。
【0052】
用語「部分的に不飽和のカルボシクリル」とは、少なくとも1つのカルボシクリルの環が芳香族でない環原子間の少なくとも1つの二重結合を含む単価の環状炭化水素を指す。部分的に不飽和なカルボシクリルは、炭素原子の番号に従って特徴付けることができる。例えば、部分的に不飽和なカルボシクリルは、5~14、5~12、5~8、又は5~6環炭素原子を含有することができ、従って、それぞれ、5~14、5~12、5~8、又は5~6員の部分的に不飽和なカルボシクリルと呼ばれる。部分的に不飽和なカルボシクリルは、単環式炭素環、二環式炭素環、三環式炭素環、橋かけ炭素環、スピロ環式炭素環、又は他の炭素環系の形態であってもよい。例示的な部分不飽和カルボシクリル基には、シクロアルケニル基及び部分的に不飽和である二環式カルボシクリル基が含まれる。特記しない限り、部分的に不飽和なカルボシクリル基は、1以上の環位置で、例えばアルカノイル、アルコキシ、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アミド又はカルボキシアミド、アミノ、アリールアルキル、アリールアルキル、アジド、カルバメート、カルボネート、カルボキシ、シアノ、シクロアルキル、エステル、ホルミル、エーテル、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロアリール、ヒドロキシル、イミノ、ケトン、ニトロ、リン酸塩、ホスホナート、ホスフィナート、スルフェート、スルホンアミド、スルホニル又はチオカルボニルで置換されてもよい。ある実施形態において、部分的不飽和カルボシクリルは置換されていない、すなわち、置換されていない。
【0053】
用語「アリール」は技術的に認識されており、炭素環式及び/又は複素環式芳香族基を指す。代表的なアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピリジニル、キノリニル、フラニル、チオニルなどが挙げられる。用語「アリール」は、2つ以上の炭素が2つの隣接する環に共通であり(環は「縮合環」)、ここで、環の少なくとも1つは芳香族であり、そして、例えば、他の環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、及び/又はアリールであり得る、2つ以上の炭素環を有する多環式環系を含む。特記しない限り、芳香族環は、1以上の環位置で、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド又はカルボキシアミド、カルボキシル酸、-C(O)アルキル、-CO2アルキル、カルボニル、カルボキシル、アルキルチオ、スルホニル、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、アリール又はヘテロアリール部分、-CF、-CNなどで置換されてもよい。ある実施形態において、芳香族環は、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシル、又はアルコキシルで1つ以上の環位置で置換される。特定の他の実施形態では、芳香族環は置換されていない、すなわち、置換されていない。ある実施形態において、アリール基は、6~10員環構造である。
【0054】
用語「ヘテロシクリル」及び「複素環基」は、技術的に認識されており、飽和、部分的に不飽和、又は芳香族の3~10員環構造、あるいは3~7員環を指し、その環構造は、窒素、酸素、及び硫黄などの1~4個のヘテロ原子を含む。ヘテロシクリル基中の環原子数は、5Cx~Cx命名法を用いて指定することができる。xは環原子数を指定する整数である。例えば、C3~C7ヘテロシクリル基は、窒素、酸素、及び硫黄のような1~4個のヘテロ原子を含む飽和又は部分的に不飽和の3~7員環構造を指す。「C3~C7」という名称は、複素環が、環原子位置を占めるヘテロ原子を含めて、3~7個の環原子を含むことを示す。
【0055】
用語「アミン」及び「アミノ」は、技術的に認識されており、置換されていないアミン及び置換されたアミン(例えば、モノ置換アミン又はジ置換アミン)の両方を指し、置換基は、例えば、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルケニル、及びアリールを含み得る。
【0056】
用語「アルコキシ」又は「アルコキシル」は、技術的に認識されており、酸素ラジカルがそれに結合している上記定義のアルキル基を指す。代表的なアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、tert-ブトキシなどが挙げられる。
【0057】
エーテルは、酸素によって共有結合された2つの炭化水素である。従って、エーテルをアルキル化するアルキルの置換基は、-O-アルキル、-O-アルケニル、-O-アルキニル等で表されるアルコキシルであるか又はアルキルに類似している。
【0058】
本明細書中で使用される用語「カルボニル」は、ラジカル-C(O)-を指す。
【0059】
用語「オキソ」は、2価の酸素原子-O-を指す。
【0060】
本明細書中で使用される用語「カルボキシ」又は「カルボキシル」は、ラジカル-COOH又はその対応する塩、例えば-COONaなどを指す。「カルボキシアルキルエステル」は、部分-C(O)O-Rを有する化合物を指し、ここで、Rはアルキルである。
【0061】
本明細書中で使用される用語「カルボキサミド」は、ラジカル-C(O)NRR’を指し、ここで、R及びR’は同じであっても異なっていてもよい。R及びR’は、例えば、独立して、水素、アルキル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、ホルミル、ハロアルキル、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルであり得る。
【0062】
用語「アミド(amide)」又は「アミド(amido)」又は「アミジル(amidyl)」は、本明細書中で使用される場合、-RC(O)N(ROB)-、-RC(O)N(ROD)R-、-C(O)NR、又は-C(O)NH2の形態の基を指し、ここで、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アミド、アミド、アリール、アリールアルキル、カルバメート、シクロアルキル、エステル、エーテル、ホルミル、ハロゲン、ハロアルキル、ヘテロアリール、水素、ヒドロキシル、ケトン又はニトロである。
【0063】
本開示の化合物は異性体であり得る。いくつかの実施形態において、開示された化合物は、異性体として純粋であり得、ここで、化合物は、化合物の異性体混合物内の全ての化合物の約99%よりも大きいことを表す。また、本明細書では、所定の化合物の単一異性体を少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%含むことができる組成物を含む、本質的に純粋な異性体化合物及び/又は異性体的に濃縮された組成物からなる、又はそれらからなる組成物も意図される。
【0064】
本開示の化合物は、1以上のキラル中心及び/又は二重結合を含んでもよく、従って、幾何異性体、エナンチオマー又はジアステレオマーのような立体異性体として存在する。本明細書で使用される場合、用語「立体異性体」は、全ての幾何異性体、鏡像異性体又はジアステレオマーからなる。これらの化合物は、キラル又はキラル炭素原子の周りの置換基の立体配置及び観察される旋光度に依存して、「R」又は「S」、又は「+」又は「-」の記号で表すことができる。開示された化合物は、種々の立体異性体及びそれらの混合物を包含する。立体異性体には、エナンチオマー及びジアステレオマーが含まれる。鏡像異性体又はジアステレオマーの混合物は、命名法において「(±)」と称することができるが、当業者は、構造が暗黙のうちにカイラル中心を示すことができることを認識するであろう。化学構造の図示、例えば一般的な化学構造は、特に断らない限り、特定の化合物のすべての立体異性体形態を包含することが理解される。また、本明細書では、所定の化合物の単一のエナンチオマー(例えば、所定の化合物の少なくとも約95%のRエナンチオマー)を含み、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%から構成され得る組成物から本質的に構成されるか、又はエナンチオマーを豊富に含む組成物及び/又は組成物から構成される組成物も意図される。
【0065】
開示された化合物の種々の非限定的実施形態及び使用方法は、OATの触媒メカニズム及びGABA-AT及びOATの不活性化メカニズムを理解することによって考慮することができる。いくつかの実施形態において、開示された主題は、本明細書ではまとめて担体と称される1以上の生理学的に許容される又は許容される希釈剤、担体、アジュバント又はビヒクルと共に組成物に製剤化された、上述の1以上のOAT阻害剤に関する。このような接触又は投与に適した組成物は、無菌であるか否かにかかわらず、生理学的に許容される水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョンを含むことができる。得られた組成物は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼとの投与又は接触のために、本明細書に記載された種々の方法と共に、得ることができる。医薬組成物と共に「接触させる」か否かは、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ及び1つ以上の阻害剤化合物が、そのような阻害剤化合物を酵素に結合及び/又は複合させる目的で一緒にされることを意味する。ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼを阻害するのに有効な化合物の量は経験的に決定することができ、そのような決定を行うことは当業者の範囲内である。ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ活性の阻害又は他の作用には、OAT活性、グルタミン酸産生、グルタミン合成、細胞増殖及び/又は腫瘍増殖の減少、緩和及び/又は調節のほか、除去が含まれる。
【0066】
当業者には、投与量は、特定の阻害剤化合物の活性、病態、投与経路、治療期間、及び医学及び薬学分野で周知の同様の因子によって変化することが理解される。一般に、適切な用量は、治療効果又は予防効果をもたらすのに有効な最低用量である量であろう。所望であれば、そのような化合物、その薬学的に許容される塩、又は関連組成物の有効用量を、2つ以上のサブ用量で、適切な期間にわたって別々に投与することができる。
【0067】
薬学的製剤又は組成物を調製する方法は、阻害剤化合物を担体、及び場合により1以上の追加のアジュバント又は成分と結合させる工程を含む。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton,PAに記載されているような標準的な医薬製剤技術を使用することができる。
【0068】
組成又は処方にかかわらず、当業者は、薬剤投与のための種々の経路を、そのような薬剤を投与に適したものにする際に考慮すべき対応する因子及びパラメータと共に認識するであろう。従って、1以上の非限定的実施形態に関して、開示された化合物は、hOAT活性、発現、又は過剰発現に関連する疾患又は障害の治療又は予防における治療的使用のための薬剤の製造のための阻害化合物として利用することができる。適切な疾患又は障害には、細胞増殖性疾患又は障害が含まれ得、これらには、限定されるものではないが、肝細胞がん(HCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC)が含まれ得る。
【0069】
一般に、様々な実施形態に関して、開示された主題は、病的増殖性障害の治療のための方法を対象とすることができる。本明細書中で使用される場合、用語「障害」とは、正常な機能の障害が存在する状態を指す。「病気」とは、患者や接触者に不快感、機能障害、苦痛を与える身体や精神の異常状態を指す。しばしば、この用語は、損傷、障害、症候群、症状、逸脱行動、及び構造と機能の非定型的変化を包含するために広く用いられ、他の文脈では、これらは区別可能なカテゴリーと考えられる。用語「疾患」、「障害」、「状態」及び「病気」は、本明細書において同様に使用されることに留意されたい。
【0070】
ある実施形態によれば、開示された方法は、ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)を発現する悪性増殖性障害を含む悪性増殖性障害の治療に特に適用可能であり得る。本明細書中で使用される場合、「がん」、「腫瘍」及び「悪性腫瘍」は全て、組織又は器官の過形成に等価である。組織がリンパ系又は免疫系の一部である場合、悪性細胞は、循環細胞の非固形腫瘍を含み得る。他の組織又は臓器の悪性腫瘍は、固形腫瘍を引き起こすことがある。従って、本明細書に開示された化合物、組成物、及び方法は、非固形及び固形腫瘍の治療に使用することができる。
【0071】
本明細書で意図される悪性腫瘍は、hOATを発現する黒色腫、がん腫、白血病、リンパ腫及び肉腫からなる群から選択され得る。OATを発現する悪性腫瘍(白血病、リンパ腫及び骨髄増殖性障害を含む)、低形成性及び再生不良性貧血(ウイルス誘発性及び特発性の両方)、骨髄異形成症候群、あらゆるタイプの腫瘍随伴症候群(免疫媒介性及び特発性の両方)及び固形腫瘍(膀胱、直腸、胃、子宮頸部、卵巣、腎臓、肺、肝臓、乳房、結腸、前立腺、消化管、膵臓及びカルポシを含む)を含むが、これらに限定されない、本明細書に開示される方法によって治療することができる悪性腫瘍を含むことができる。より具体的には、特定の実施形態によれば、非固形がん、例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄異形成症候群(MDS)、肥満細胞白血病、有毛細胞白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫及び多発性骨髄腫などの造血器悪性腫瘍の治療又は抑制のための方法、ならびに口唇及び口腔、咽頭、喉頭、副鼻腔、大唾液腺、甲状腺、食道、胃の腫瘍などの固形腫瘍の治療又は抑制のために、化合物及び組成物を併用することができる。小腸、結腸、結腸、結腸、直腸、結腸管、肝臓、肛門管、結腸、肛門管、肝臓、肛門管膨大部、膵臓、胸膜中皮腫、骨、軟部組織肉腫、がん及び皮膚、乳房、外陰部、外陰部、膣、子宮頸部、子宮体、卵管、卵巣、卵管、妊娠性絨毛腫瘍、陰茎、前立腺、精巣、腎盂、腎臓、尿管、尿管、尿道、眼瞼がん、結膜がん、悪性黒色腫、結膜悪性黒色腫、網膜芽細胞腫、涙腺がん、涙腺がん、脳肉腫、眼窩、脳、脊髄、血管系、血管肉腫、カポジ肉腫。
【0072】
本明細書に開示された化合物及び組成物は、当技術分野で公知の治療方法で投与することができ、従って、種々のそのような化合物及び組成物は、任意の適切な方法で、そのような方法と共に投与することができる。例えば、投与は、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、非経口投与、経皮投与、膣内投与、鼻腔内投与、粘膜投与、舌下投与、局所投与、直腸投与又は皮下投与、又はそれらの任意の組合せを含み得る。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、処置された対象は、哺乳動物対象であり得る。本明細書に開示された方法は、特に、ヒトにおける増殖性障害の治療を意図しているが、他の哺乳動物も含まれる。非限定的な例として、哺乳動物対象としては、サル、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、マウス、ラット及びブタが挙げられる。
【0074】
本明細書及び請求項で使用される用語「治療、治療、治療」は、病的障害を有する対象における疾患活動性の1以上の臨床的指標を改善することを意味する。「治療」とは、治療的処置をいう。治療を必要とするのは、何らかの病的障害を有する哺乳動物被験者である。「患者」又は「必要な対象」とは、本明細書に記載される種類の化合物又は任意の医薬組成物の投与が、そのような負荷を防止、克服、調節又は減速するために望ましい任意の哺乳動物を意味する。「予防的(preventive)治療」又は「予防的(prophylactic)治療」を提供することは、何か、特に状態又は疾患に対して防御又は予防するために、防御的な方法で作用することである。
【0075】
より一般的には、開示された方法は、OAT活性に関連する悪性病理学的増殖性障害の開始、進行及び/又は転移(例えば、他の部位からの肝臓又は他の臓器又は組織からの肝臓への)に影響を与え、調節し、減少させ、阻害し、及び/又は予防することを目的とすることができる。(例えば、Lucero OM, Dawson DW, Moon RT, et al. A re-evaluation of the "oncogenic" nature of Wnt/beta-catenin signaling in melanoma and other cancers. Curr Oncol Rep 2010, 12, 314-318; Liu Wei; Le Anne; Hancock Chad; Lane Andrew N; Dang Chi V; Fan Teresa W-M; Phang James M. Reprogramming of proline and glutamine metabolism contributes to the proliferative and metabolic responses regulated by oncogenic transcription factor cMYC. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2012, 109(23), 8983-8988; and Tong, Xuemei; Zhao, Fangping; Thompson, Craig B. The molecular determinants of de novo nucleotide biosynthesis in cancer cells. Curr. Opin. Genet. Devel. 2009, 19(1), 32-3を参照されたい)。
【0076】
例示的な実施形態
以下の実施形態は例示的なものであり、クレームされた主題事項の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0077】
実施形態1.次の式の化合物又は解離型、双性イオン型若しくはその塩。
【0078】
【化6】
【0079】
式中、α炭素とε炭素の間、又はα炭素とβ炭素の間に二重結合が存在し、R及びRの各々は、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲンから独立して選択される。
【0080】
実施形態2.アンモニウム部分及びカルボキシレート部分を含む双性イオン形態の実施形態1に記載の化合物。
【0081】
実施形態3.二重結合がα炭素とε炭素との間にある、実施形態1に記載の化合物。
【0082】
実施形態4.二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、実施形態1に記載の化合物。
【0083】
及びRの少なくとも1つがFである、実施形態1に記載の化合物。
【0084】
実施形態6.化合物が、アンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、実施形態に5記載の化合物。
【0085】
実施形態7.アンモニウム塩がプロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、実施形態6に記載の化合物。
【0086】
実施形態8.薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物中の実施形態1に記載の化合物。
【0087】
実施形態9.式の実施形態1の化合物:
【0088】
【化7】
【0089】
式中、R及びRのうちの少なくとも1つがFである。
【0090】
実施形態10.R及びRの各々がFである、実施形態9に記載の化合物。
【0091】
実施形態11.以下の式である実施形態1の化合物。
【0092】
【化8】
【0093】
実施形態12.以下の式である実施形態1の化合物。
【0094】
【化9】
【0095】
実施形態12.化合物がアンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、実施形態9に記載の化合物。
【0096】
実施形態14.アンモニウム塩がプロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、実施形態13に記載の化合物。
【0097】
実施形態15.薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物中の実施形態9に記載の化合物。
【0098】
実施形態16.化合物がアンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、実施形態11又は12に記載の化合物。
【0099】
実施形態17.アンモニウム塩がプロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、実施形態16に記載の化合物。
【0100】
実施形態18.薬学的に許容される担体成分を含む医薬組成物中の実施形態11又は12に記載の化合物。
【0101】
実施形態19.(i)実施形態1の化合物;及び(ii)薬学的に適切な担体、希釈剤又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【0102】
実施形態20.(i)実施形態9の化合物;及び(ii)薬学的に適切な担体、希釈剤又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【0103】
実施形態21.(i)実施形態11又は12の化合物;及び(ii)薬学的に適した担体、希釈剤又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【0104】
実施形態22.ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)活性を調節する方法であって、実施形態1の化合物を、hOATを含む培地と接触させることを含み、ここで、該化合物は、hOAT活性を調節するのに十分な量で存在する、方法。
【0105】
実施形態23.二重結合がα炭素とε炭素の間にある、実施形態22に記載の方法。
【0106】
実施形態24.二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、実施形態22に記載の方法。
【0107】
実施形態25.R及びRの少なくとも1つがFである、実施形態22に記載の方法。
【0108】
実施形態26.化合物がアンモニウム置換基、カルボキシレート置換基、及びそれらの組み合わせから選択される置換基を含む塩である、実施形態22に記載の方法。
【0109】
実施形態27.アンモニウム塩がプロトン酸の共役塩基である対イオンを有する、実施形態26に記載の方法。
【0110】
実施形態22.接触がインビボである、実施形態22に記載の方法。
【0111】
実施形態29.ヒトがんによって発現されるhOATの活性を低下させる方法であって、hOATを発現するがんと、実施形態1の化合物を接触させることを含み、ここで、該化合物はhOAT活性を低下させるのに有効な量で存在する、方法。
【0112】
実施形態30.二重結合がα炭素とε炭素との間にある、実施形態29に記載の方法。
【0113】
実施形態31.二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、実施形態29に記載の方法。
【0114】
実施形態32.R及びRの少なくとも1つがFである、実施形態29に記載の方法。
【0115】
実施形態33.化合物が医薬組成物中に提供される、実施形態32記載の方法。
【0116】
実施形態34.接触がインビボである、実施形態33に記載の方法。
【0117】
実施形態35.接触が、それを必要とするヒト対象との接触である、実施形態34に記載の方法。
【0118】
実施形態36.実施形態1の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、それを必要とする対象におけるがんを治療するための方法。
【0119】
実施形態37.二重結合がα炭素とε炭素の間にある、実施形態36に記載の方法。
【0120】
実施形態38.二重結合がα炭素とβ炭素の間にある、実施形態36に記載の方法。
【0121】
実施形態39.R及びRの少なくとも1つFであるが、実施形態36に記載の方法。
【0122】
実施形態40.化合物が式の化合物である、実施形態36に記載の方法
【0123】
【化10】
【0124】
実施形態41.化合物が以下の式:
【0125】
【化11】
【0126】
〔式中、R及びRの少なくとも1つがFである〕
の化合物又はその塩である、実施形態36に記載の方法。
【0127】
実施形態42.R及びRのそれぞれがFである、実施形態36に記載の方法。
【0128】
実施形態43.がんがヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT)の発現又は過剰発現によって特徴付けられる、実施形態36に記載の方法。
【0129】
実施形態44.がんが肝細胞がんである、実施形態36記載の方法。
【0130】
実施形態45.がんが非小細胞肺がん(NSCLC)である、実施形態36に記載の方法。
【実施例
【0131】
以下の実施例は例示的なものであり、クレームされた主題事項の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。以下の非限定的な実施例及びデータは、開示された化合物、組成物、及び方法に関連する種々の態様及び特徴を例示し、これには、限定されるものではないが、肝細胞がん(HCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC)を含む細胞増殖性疾患及び障害などの、ヒトオルニチンアミノトランスフェラーゼ活性のhOAT活性、発現又は過剰発現、及び/又は低下に関連する疾患及び障害の治療が含まれる。本発明の有用性は、それとともに使用できるいくつかの化合物及び組成物の使用を通して例示されているが、本発明の範囲に相応するように、同等の結果が種々の他の化合物を用いて得られることは、当業者には理解されるであろう。
【0132】
実施例1
タイトル-ヒトオルニチンアミノトランスフェラーゼの選択的機構に基づく不活性化剤、SS-1-148の発見とメカニズム研究
導入
ヒトオルニチンδ-アミノトランスフェラーゼ(hOAT;EC2.6.1.13)は2つの共役アミノ基転移反応を触媒するピリドキサール-5’-リン酸(PLP)依存性酵素であり、L-オルニチン(L-Orn)を変換してL-グルタミン酸-γ-セミアルデヒド(L-GSA)を後半反応におけるα-ケトグルタル酸(α-KG)からのL-グルタミン酸(L-Glu)の生成との前半反応において生成する(図1A。得られた中間体L-GSAはΔ1-ピロリン-5-カルボン酸(P5C)の自発平衡種であるが、P5CはP5Cレダクターゼ(PYCR)によって触媒されるL-プロリンを与えることができる。一方、生成されたL-Gluはピロリン-5-カルボキシラートシンターゼ(P5CS)によってもP5Cに変換され、プロリン代謝に関与する(図1A。プロリン生合成は、プロリン消費の加速、ヒドロキシプロリン蓄積、α-フェトプロテイン(AFP)レベルの増加及びHCCの予後不良との相関を特徴とする、肝細胞がん(HCC)のヒト腫瘍組織における最も実質的に変化したアミノ酸代謝として同定された。さらに、グルタミンシンテターゼ(GS)はL-GluのL-グルタミン(L-Gln)への変換を触媒する。L-Glnは、がん細胞が同化過程を支持するために高度に必要とされ、細胞増殖を促進する。
【0133】
HCCは主な肝臓悪性腫瘍であり、世界中でがん関連死亡の最も一般的な原因の1つである。著者らの以前の研究は、DNAマイクロアレイ解析により同定されたPsammomys obesus(サンドラット)由来の自然発生HCC発達肝臓における7つの過剰発現遺伝子の1つとしてOAT遺伝子を同定した。さらに、選択的hOATメカニズムに基づく不活化剤(MBI)BCF(1)の処理(0.1及び1.0mg/kg;PO)は、HCCマウスモデルにおいて血清AFPレベルを著しく低下させ、腫瘍増殖を阻害し、薬理学的選択的hOAT阻害の抗腫瘍効果を強調した。MBIは、最初は標的酵素の代替基質として作用し、次に、特異的共有結合修飾、強結合静電相互作用、又はその他の機能的に不可逆的な阻害を介して酵素をさらに不活性化することができる活性種に変換される分子の一種である6-7。MBIは、典型的には、標的酵素の活性部位との最初の結合の前には反応せず、それによって、通常、顕著な標的特異性及び選択性を示す。全体として、hOATはHCCの潜在的治療標的と考えられ、hOATを選択的に不活化することは、有効なHCC治療を発見するための新しい機会を提供する可能性がある。
【0134】
しかし、hOATの選択的MBIを発見するための主要な課題は、他のアミノトランスフェラーゼ、特にhOATと高い構造的類似性を有するγ-アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ(GABA-AT)に対する不可逆的阻害を克服することである。ホモ二量体構造の活性部位ポケットには2つの有意差しかない。hOATのTyr85とTyr55はそれぞれGABA-ATのIle72とPhe351に置き換わっている(図2。さらに、Ile72及びPhe351は、hOATと比較してGABA-ATの活性部位がわずかに狭いが疎水性が高いことに関与している。対照的に、Tyr55のヒドロキシル基は基質の荷電C-2アミノ基と相互作用する水素結合受容体として働くが、Tyr85は基質特異性の重要な決定因子であり、かさ高い基質を採用するためにコンホメーション的に柔軟である
【0135】
これら2つのアミノトランスフェラーゼ間の高い類似性に従い、hOATに対する予備的スクリーニングを、著者らのストックGABA-AT阻害剤を用いて以前に行った。弾頭としてビス(トリフルオロメチル)基を有するBCF(1、図1B)と呼ばれるシクロペンタンベースの類似体は、hOATの選択的MBIであると同定されたが、GABA-ATに対するmmolの可逆的阻害のみを示した。最近の機構的研究は、そのトリフルオロメチル基の1つがフッ化物イオン脱離を起こし、リガンドが共役付加を介して触媒Lys292を共有結合的に修飾することを明らかにした(スキーム1A)9-10。立体的なかさばるビス(トリフルオロメチル)基は、GABA-ATの比較的狭いポケットにアクセスするのが容易ではなく、リガンドと酵素との間の最初の結合ポーズに影響を及ぼし、これがGABA-ATに対する可逆的阻害の原因である可能性があると考えられる。BCFは、上述のようにインビボで有効であることが実証されており、HCC患者由来の異種移植(PDX)モデルにおける広範なIND標識毒性評価及び有効性試験で検討されている。シクロヘキセンベースの類似体WZ-2-051(2、図1B)は、拡大環系及びジフルオロ基を有する11。WZ-2-051は、BCFと比較してhOATに対する不活化効率(kinact/K比により定義)が23倍向上したが、GABA-ATより13.3倍選択性を示した。その後の機構的研究は、WZ-2-051が2段階フッ化物イオン脱離を受け、最後に付加-芳香族化メカニズム(スキーム1B)を介してhOATを不活性化することを明らかにした11。選択的hOAT不活性化剤のさらなる例は、hOAT基質L-Ornの構造及び非選択的GABA-AT不活性化剤AFPAの構造に刺激された5-FMOrn(3)であり12、三元付加物を形成することによってエナミン経路を介してhOATを不活性化する(スキーム1C)13
【0136】
【化12】
【0137】
5-FMOrnのα-アミノ基はhOAT結晶錯体(PDB侵入2OAT)においてTyr55のフェノール基と強い水素結合を形成することに留意すべきである14。さらに、BCF(PDBエントリー6OIA)及びWZ-2-051(PDBエントリー6V8C)とのhOAT結晶錯体におけるそれらのカルボキシラート基とTyr55の間の水素結合が観察され9,11、それにより、Tyr55との相互作用がリガンド特異性及び選択性において重要な役割を果たすことが示された。しかし、公表されているhOAT不活化剤のうち、hOATに対する強力な不可逆的阻害、GABA-ATに対する弱い可逆的阻害(K=4.2mM)、及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Asp-AT)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(Ala-AT)に対する阻害を最大4mMまで示さず、有望なhOAT選択性をもたらす。従って、hOATの新規選択的MBIを発見することは、HCCの潜在的治療アプローチとしてのhOAT不活化剤の研究を促進するであろう。
【0138】
2000年に、(1R,4S)-4-アミノ-3,3-ジフルオロシクロペンタンカルボン酸(4,図2C)はGABA-ATに対する可逆的阻害剤であることがわかった(K=0.19mM)15。15年後、それはさらにhOAT不活化剤であることが証明された。しかしながら、化合物4はhOATに対して高い結合親和性(K=7.8mM)を示し、hOATに対して低い最高不活性化速度(kinact=0.02分-1)を示し、最終的には中程度の不活性化効率(kinact/K=0.003分-1mM-1)を引き起こし、不活性化及びターンオーバーメカニズムの解明には限界がある。
【0139】
本技術は、高度に強力で選択的なhOAT不活性化剤であることが実証されている4のシクロペンタン環系に追加の二重結合を組み込むことによって、SS-1-148(6)を含む新規なシクロペンテン系類似体を提供する。結晶化、タンパク質及び分子質量分析、過渡状態測定、及び計算シミュレーションを利用した機構研究により、SS-1-148の新規非共有不活性化機構を明らかにした。
【0140】
結果と考察
ジフルオロ基を有するシクロペンテン類似体5及び6の合成
二重結合を取り込むことは、不活性化効率を改善するための効果的な戦略であることが実証されており、これは、最初の外部アルジミンの立体配置及びα,β-不飽和カルボキシラートによる補助プロトンの酸性度に影響する16-17。したがって、このアプローチをより強力なhOAT不活性化剤の開発に適用するために、ジフルオロ基を有するシクロペンテン系類似体5及び6を、親化合物4(図2C)の構造に基づいて設計した。
【0141】
スキーム2.4及び5への合成経路。試薬及び条件。(a)i)p-アニシルアルコール、濃HCl、rt;ii)NaH、TBAI、THF/DMF(10:1)、0℃-rt;(b)DBDMH、AcO、rt;(c)K2CO3、MeOH/HO、rt;(d)(COCl)2、DMSO、TEA、THF、-78℃-rt;(e)BuSnH、AIBN、ベンゼン、還流;(f)Deoxo-Fluor(トルエン中2.7M)、THF、120℃(MW);(g)セリックアンモニウム硝酸塩、CHCN/HO、rt;(h)4N HCl、AcOH、70℃;(i)i)EtOH中HCl(1.2M)、70℃;ii)BocO、TEA、DCM、rt;(j)PhSeCl、KHMDS(3.0当量、トルエン中0.5M)、-78℃-rt;(k)4N HCl、AcOH、70℃。
【0142】
【化13】
【0143】
化合物5を製造するための合成経路は、(1R)-(-)-2-アザビシクロ[2.2.1ヘプト-5-エン-3-オン(7;ビンスラクタム18;CAS#:79200-56-9)から開始し、以前に開発した手順に従って鍵となる二環式中間体9を与える15。次に、9のアセチル基を酸性条件下でヒドロキシル基に変換し、次にSwern酸化し、ケトン中間体11を得た。その後、文献の手順に基づき、脱水素反応により11の橋頭位のブロモ基を水素に置き換え、BuSnH/AIBN条件下で12を生成させた15。中間体12をさらにマイクロ波条件下でDeoxo-Fluor試薬と反応させて、ジフルオロ中間体13を得た。次に、13に硝酸アンモニウムセリウム(CAM)を用いてPMB脱保護を行い、得られたラクタム14をHCl/EtOHで処理して還流条件下でエチルエステルシクロペンタンを得た。Boc保護基の導入に従い、中間体15を得た。興味深いことに、フォローアップα-脱離反応のためにKHMDS(3.0当量)条件下で15のカルボキシラート基のα-位置にセレネニル基を有する15の中間体を調製しようとしたとき、α、ε-共役カルボキシラート基を有する中間体16を唯一の生成物として直接得た16。1D及び2D NMRを行い、16の構造を検証した。最終的に、酸性条件下での脱保護後に、新しいシクロペンテン系類似体5を適宜得た。親シクロペンタンベースの類似体4も中間体14から調製し、容易に1段階酸性加水分解を行い、その後の動態研究で新しい類似体及びBCFと共に評価した。
【0144】
スキーム3.6aへの合成経路。試薬及び条件。(a)m-CPBA、CHCl、還流;(b)BF・OEt2、AcOH、DCM、rt;(c)MOMCl、DIPEA、DCM、rt;(d)K2CO3、MeOH/HO、rt;(e)(COCl)2、DMSO、TEA、THF、-78℃-rt;(f)Deoxo-Fluor(トルエン中2.7M)、THF、120℃(MW);(g)セラミックアンモニウム硝酸塩,CHCN/HO、rt;(h)i)HCl(MeOH中1.2M)、85℃、シール;ii)BocO、MeOH、rt;(i)Burgess試薬、THF、70℃;(l)4N HCl、AcOH、70℃。
【0145】
【化14】
【0146】
6を調製する合成経路は、PMB保護ビンスラクタム8からの重要な二環中間体20の合成から出発して、最近発表された効率的な手順に従った。次に、20のヒドロキシル基をSwern酸化によりケトン中間体21に変換した。ジフルオロ中間体22は、上記と同じフッ素化条件によって得られた。さらに、22のPMB群をCAM条件下で除去し、続いてラクタム加水分解及びシクロペンタン中間体24を得るBoc保護を行った。24のメチルカルボキシレート基のβ位のヒドロキシル基を還流条件下でBurgess試薬19-20を用いて脱水し、α、β-共役カルボキシレート基を含むシクロペンテン中間体25を形成した。最終生成物6を、従って、上記の脱保護条件に従って得た。
【0147】
類似体4~6の反応速度論的研究。表1の速度論的結果は、3つのジフルオロベースの化合物4~6すべてがhOATに対して不可逆的阻害を示したが、GABA-ATに対しては可逆的阻害を示し、それらが選択的hOAT不活性化剤であることを示している。さらに、hOATの高mmol結合親和性(K)を示した4及び5と比較して、6は有意な改良を示した(KI=0.06mM)。分配比の決定及びフッ化物イオン放出の結果(表1)は、4及び5の大部分が、大量のフッ化物イオンを放出し、その高い結合親和性をもたらす一方で、不活性化経路よりもむしろ代替ターンオーバー経路に関与することを明らかにした。一方、6は4及び5に対して最高速度定数(kinact)を示し、それにより親化合物4に対して6の優れた不活化効率(kinact/K)をもたらした(1.333対0.003分-1mM-1;444倍の改善)。さらに、GABA-ATに対するシクロペンテンベースの5及び6の阻害活性は、シクロペンタンベースの4よりも約10倍弱く、GABA-ATよりも高い選択性を示唆することも注目された。SS-1-148と命名された化合物6は、前臨床段階BCFと比較してGABA-ATに対する可逆的阻害を保持しながら、hOATに対して同等の不活性化効率を示した。SS-1-148も10mMまでAsp-ATとAla-ATに対して顕著な阻害を示さなかった。したがって、hOATにおけるSS-1-148の潜在的不活性化とターンオーバーメカニズムの解明は興味深い。
【0148】
【表1】
【0149】
SS-1-148の不活化機構経路案(6)。他の関連するGABA-AT/hOAT不活化剤のこれまでの機構的研究に基づいて、3つの可能な経路が最初に提唱され7,11、スキーム4にまとめられている。不活性化の開始時に、SS-1-148は内部アルジミンLys292-PLPからPLP部分を捕捉し、外部アルジミンM1を形成した。その後、M1は脱プロトン化を行ってキノノイド種M2を形成し、続いてフッ化物イオン脱離段階を経て、以下の3つの経路で共通の中間体M3が得られた。経路aは、シクロヘキセンベースの類似体WZ-2-051に基づく最近の知見に基づいて提案された11。中間体M3の求電子性Cδ位置はLys292によって攻撃され、共役付加を介して共有結合(M4)を形成した。キノノイド種M4は、第2のフッ化物イオン脱離が起こり、最終付加物M5(スキーム4)を与える。経路bは、GABA-ATにおけるCPP-115及びOV329の不活性化メカニズムに刺激される。このメカニズムは、活性部位のカルボキシラートとアルギニン残基との間に強い静電的相互作用をもたらす水を介したメカニズムによって達成される16,21。Lys292によって触媒される水分子は中間体M3の求電子性Cδ位置を攻撃し、次に、hOAT中の残基との共有結合を確立するのではなく、エノール/カルボニル基(M7)を与える別のフッ化物イオン脱離工程を行う。経路cは、典型的なエナミンメカニズムに従って提案される22。Lys292はCδ位置の代わりにアルジミンのC4’位置を攻撃し、エナミン中間体M9を放出し、これは内部アルジミン(PLP-Lys292)のイミン結合を再結合し、共有結合付加物M10を生成する。
【0150】
【化15】
【0151】
hOAT及びGABA-ATを用いたSS-1-148の妥当な代謝回転機構。SS-1-148は比較的高い分配比(33.9倍、表1及び図9)を示し、SS-1-148の34.9当量が、化合物の各等価物について活性部位当たりに転倒し、不活性化に至ったことを示した。さらに、不活性化事象毎に33.9±0.8当量のフッ化物イオン(表1)が放出されることから、一次代謝回転経路は1つのフッ化物イオン除去段階のみで起こることが示唆される。以前、静電ポテンシャル(ESP)電荷計算を行い、フッ素原子がエナミン中間体(M8の構造に類似)の求核性を明らかに減少させ11、エナミン付加の発生を妨げることを示した。hOATにおけるSS-1-148のメタボロミクス研究(図3A)は、一次代謝産物の分子量とフラグメンテーションが、エナミン中間体M8からの対応する加水分解生成物であるスキーム5のM10の構造と一致することを示した。したがって、スキーム4の経路cはhOATにおけるSS-1-148の主要な代謝回転経路であると考えた。一方、GABA-AT中のSS-1-148の主要代謝物が同定された。図3Bに示す分子量及びフラグメンテーションは、SS-1-148が基質として作用し、ジフルオロ基を有するケトンM11を生成することを示唆する(スキーム5)。
【0152】
非不活化経路の主要中間体を捕獲するために、hOATホロ酵素結晶を用いてSS-1-148溶液を用いた1時間浸漬実験を行った。hOAT構造は、以前に報告された構造(PDBエントリー1OAT)からの分子置換によって解いた。SS-1-148浸漬構造の空間群はP 3 2 1であり、構造はタンパク質単量体の3コピーを1つの非対称ユニットに含むことが分かった。図4A及び図11に示す結晶構造(PDBエントリー7LK1)は、PLPがSS-1-148に共有結合していることを示し、一方、浸漬結晶ではLys292とSS-1-148の間の共有結合が明らかになった。Lys292とSS-1-148の間の共有結合は、以前のhOAT/配位子結晶では観察されなかった安定なゲム-ジアミン種を表す9-11,23。この観察はさらに、エナミン中間体M8のゲムジアミン前駆体(M12又はM13、スキーム5)を検証した。さらに、SS-1-148のカルボキシラート基の位置が異なる浸漬結晶において、この中間体の2つの構造立体配座が観察された。第一の立体配座はTyr55とSS-1-148のカルボキシラートの間に水素結合を形成し、第二の立体配座はArg413と塩橋を形成する。中間体構造の二つの選択的立体配座に関する結論は、Arg413とTyr55の近傍の正の密度と、それ自体の単一立体配座に対する比較的高いB因子に基づいていた。別の説明としては、タンパク質の活性部位と異なるやり方で相互作用する可能性のある、2つの異なる、しかし構造的に類似した中間体種が挙げられる。
【0153】
【化16】
【0154】
全体的に、証拠によれば、hOAT及びGABA-ATにおけるSS-1-148の主要代謝回転機構はそれぞれスキーム5で提唱されている。Lys292からPLPリガンドを捕捉した後、M1は脱プロトン化を受け、得られたキノノイドM2はhOAT中でフッ化物イオン脱離(経路a;スキーム5)を起こし、モノフッ素を有するアルジミン中間体M3を与える。M3の大部分は、C4’位置でLys292によって攻撃され、最初のゲム-ジアミンM12を形成し、続いてプロトン移動により第2のゲム-ジアミンM13が得られ24-25、さらにエナミン代謝物M8及び内部アルジミンに変換される。最終的に、M8はhOAT中のSS-1-148の主要代謝産物としてケトンM10に加水分解する。一方、キノノイド中間体M2は電子伝達を受けてケチミンM14を生成するだけで、GABA-ATの主要代謝物としてPMPとM11を放出する。GABA-ATにおけるSS-1-148の挙動は、フッ化物イオンを除去せずにアミノ転移反応に似ており、GABA-ATに対するその可逆的阻害と一致している。hOATとGABA-ATとの間の構造的相違により、上述の既知の選択的hOAT不活性化剤(1~3)は、GABA-ATよりもリガンド特異性及び選択性を改善するためにかさ高い部分又はα-アミノ基を含むことに留意されたい。しかし、SS-1-148の選択性は基質GABAとの競合関係に関連している。
【0155】
hOATによるSS-1-148の考えられる不活性化機構。SS-1-148によるhOAT阻害の不可逆性を、過剰なPLPとα-KGからなる緩衝液に対して48時間までの時間依存透析実験により評価した(図10)。hOATの残りの活性は変化せず、SS-1-148がhOAT不可逆阻害剤であることを示した。不活化反応における最終生成物の構造を明らかにするために、著者らは過剰量のSS-1-148とhOATを共結晶化した。結晶構造(PDBエントリ7LK0)は上記と同様の方法で解き、SS-1-148共結晶の空間群(図4B及び図12)はP 3 1 2であることが分かった。また、1つの非対称単位に3コピーのタンパク質単量体が含まれている。図4Aに示す浸漬結晶構造と同様に、PLPは共結晶構造中のSS-1-148部分に共有結合している。しかし、Lys292と最終生成物との間に共有結合は認められない。さらに、天然酵素(holo-hOAT)の公表された結晶構造において、Arg413は一般的にGlu235と塩橋を形成し、これは異なる不活性化剤を有するhOATのいくつかの共結晶に対して無傷であることが分かった14,23,26。hOAT/SS-1-148浸漬結果(図4A)では、Arg413-Glu235の塩橋は、1つの中間体とArg413のカルボキシラートの間に代替塩橋が存在するために壊れた。興味深いことに、Arg413-Glu235塩橋もhOAT/SS-1-148共結晶中で切断されることが見出されたが、Arg413と配位子間の直接的相互作用は観察されなかった。代わりに、Arg413、Gln266、及び最終生成物は同じ水分子に水素結合している。さらに、リガンドの酸素基は、2.9Åの距離でGlu235との水素結合を示し(図4B)、これは、hOATポケット内のリガンドの安定化に寄与し得る。hOAT/SS-1-148共結晶中の配位子構造は、不活性化がスキーム4の経路Bに帰せられ、M7の構造に近い最終生成物(理論質量:370.06Da)を生成することを示す。
【0156】
無傷タンパク質質量分析(無傷MS)は、hOAT不活化剤の不活化機構を解明するために以前に適用された9,11。ここでは、SS-1-148により完全に不活化されたhOAT試料を用いた変性、無傷LC-MS(図5A、右)実験を通して、hOATのわずか16%が共有結合的に修飾され、370.01Daの質量シフトを導いた。hOATの大部分は未修飾のままであり(図5A、上)、対照としての天然hOATと比較した(図5A、下)。付加物質量(370.01Da)は、非共有形態M7と平衡にあり得るゲムジアミンM15(370.06Da;スキーム6)の理論質量と同一であることが分かった。しかし、酵素が完全に不活性化されているこれらの条件下では、共有結合的に付加された酵素の存在量がより多くなると予想される。このように、この知見は、hOATとSS-1-148の間の主要な非共有、不活性化メカニズムを支持した。
【0157】
天然タンパク質質量分析(天然MS)をさらに用いて、気相中に保存される溶液状態の非共有タンパク質相互作用を同定し、hOAT中のSS-1-148生成物の結合を特性化した。図5Bに示される結果は、未修飾hOATが、理論的apo-hOAT二量体より459Da大きい二量体(92,737±2Da)として現れることを示す。この質量シフトは、二量体の2つの活性部位における2つのPLP結合内部アルジミン(459Daシフトを観測;460Da理論的)と一致する。未修飾hOATのタンパク質分解形態(図5B、未修飾hOAT())も観察されたが、対照条件下でのみ観察された。対照的に、SS-1-148により完全に不活化された天然の二量体hOAT試料は、742Daと778Daの質量シフトに対応する93、020±4Daと93、056±3Daの2つの高量質量で観察された(図5B、hOAT+SS-1-1-148(左))。塩付加物に起因する可能性のある、より大量の種が観察された(図5B、hOAT+SS-1-1-148(左)())。未修飾、apo-hOAT又はPLP結合hOATは観察されなかった。観測された93,020±4Da質量は両方の活性部位(理論的には93,018Da)におけるM7(370.06Da)の理論質量と一致した。さらに、93,056±3Daの観測された質量はM7と両タンパク質鎖の活性部位水(理論的には93,056Da)と一致し、最終生成物と共結晶構造で観察された主要な水分子を検証した(図4B)。
【0158】
質量分析によるSS-1-148-hOAT相互作用をさらに調べるために、高エネルギー衝突解離(HCD)を未修飾に適用し、別々に処理したhOATを用いてタンパク質-リガンド相互作用を解離し、酵素複合体からリガンドを放出した。サブタンパク質分解解離条件(HCD NCE:15)下では、未修飾hOATでは質量欠損は観察されなかった(図13)。しかし、これらの同じ解離条件下で、SS-1148不活化hOATについて2つの追加質量が生成された(図5B、hOAT+SS-1-1-148(右))。apo-hOATと一致する質量が45%の相対存在量で観察された(観察:92,275±4Da;理論:92,278Da)。92,597±5Daの第2の質量が100%の相対的存在量で観察された。以前に観察されたM7及び1つの水分子に結合した各活性部位と一致する二量体質量と比較して、この種は457Daの質量欠損を有する。厳密には、存在量の大きな質量変化は、タンパク質二量体からの単一のM7±HO付加体の喪失(M7-hOATの理論質量:92,648Da;1M7-hOAT+HOの理論質量:92,666Da)によって説明できない。しかし、HCD活性化を介して観察された質量欠陥は、両活性部位からのPLPの消失によって説明できるが、活性部位水及びSS-1-148部分は保持される(観察:457Da;理論的:460Da)。同一の衝突エネルギーが修飾されていないタンパク質二量体からPLPを放出しないことを考えると、この発見は驚くべきことである。しかしながら、SS-1-148と水のTyr55、Glu235、Gln266とArg413への結合を同定した共結晶構造に基づいて、タンパク質安定性はSS-1-148結合時に増加し、気相ではこれらの相互作用の遮断はPLPの開裂に比べて好ましくない。
【0159】
天然MSで観察されたアポ酵素がなく、hOATの約84%が変性条件下でアポ酵素状態であったことから、結果は、非共有結合M7が不活性化後の第一形態である一方、共有結合M15はM7と平衡状態にある小さな形態であることを示した。したがって、水媒介経路b(スキーム4)から生成したM7は不活化後のSS-1-148の最終生成物であると思われる。しかし、その高度に共役した構造を考えると、M7は互変異性化を起こしやすい。したがって、MOPAC上でギプス自由エネルギー計算を行い、hOATの活性部位におけるM7及び関連する互変異性体の安定性を評価した。図14に示された結果は、エノール形M7(ΔG=-26.36kcal mol-1)と比較して、その対応するケトン(互変異性体5、ΔG=-48.07kcal mol-1)及びケチミン(互変異性体8、ΔG=-49.89kcal-1)は、活性部位において比較的安定であることを示唆している。さらに、約275nmでの吸光度を示す化学種が、その後の過渡状態測定(図7C)において最終生成物として決定され、それにより、吸光度がSS-1-148の最終形態として420nmで適切であることをすべての外部アルジミン(例えば、M7及び互変異性体5)を除外したことに留意すべきである。他方、上記の結果は、最終状態がゲムジアミン又はケチミンのようなものである一方、それらの典型的な吸光度は約330~340nmに現れることを示している。文献によれば、プロトン化されたアルジミン及び脱プロトン化されたヒドロキシルを含むケトエナミン部分と比較して、ヒドロキシル及びアルジミン基の中性状態を有するエノリミンは、有意に低い吸収極大(410nm対330nm)を示す30。まとめると、M7と平衡状態にあるジェムジアミンM15とM7から互変異性化されたケチミンM18の両方は、それぞれM16とM19を形成するために電子移動の余分な段階を経る可能性がある。ゲムジアミンM16とケチミンM19の中性状態のために、それらの吸収極大は330nmから275nmに低下することができ、それにより過渡状態測定で観察された最終種の吸光度に一致する。
【0160】
全体として、hOAT中のSS-1-148の不活性化経路をスキーム6にまとめた。最初の外部アルジミンM1はLys292によって触媒される脱プロトン化を起こし、最初のキノノイドM2を生成する。フッ化物イオン脱離に続いて、M2からモノフルオロアルジミンM3を得る。M3の大部分(約97%;分配比で決定)のC4’位置はLys292によって攻撃され、エナミン代謝産物が放出され、それが加水分解して一次代謝産物としてケトンM10になる(経路a;スキーム5及び6)。少量のM3(約3%)のCδは水を介した求核攻撃(経路b;スキーム6)を受け、第二のキノノイドM6が生成する。中間体M6はさらに別のフッ化物イオン脱離を起こしてM7を生成する。その後、少量のM7(約16%)がゲムジアミン型(M15)を介してC4’位置のLys292に共有結合する(経路c;スキーム6)。生成されたgem-ジアミンM15は、M7と平衡にあり得るが、一方、より安定な状態として中性のgem-ジアミン形態16を生成するために、さらに電子移動が起こり得る。一方、M7の大部分(~84%)は互変異性化してより好ましいケチミンM18となり、続いて電子移動が起こり、ケチミンM19が一次最終生成物となる(経路d;スキーム6)。
【0161】
【化17】
【0162】
SS-1-148により阻害されたhOATの過渡状態測定。提案したメカニズムには種々の過渡状態が関与しているので、SS-1-148によるhOAT阻害の速度論を捕捉するために、その後高速混合分光光度測定を行った。このアプローチは、PLP依存性トランスアミナーゼ反応において連続的に蓄積する共役種を利用する10。SS-1-148で起こる阻害反応は、反応の進行の異なる段階で得られた上述のX線構造と組み合わせて解釈された(下記参照)。図6及び7に示す実験データは、SS-1-148とhOATとの反応が複雑であることを示している。4つの識別可能な相が、少なくとも2つの平行反応経路の証拠で観察され(図6)、このことは、引き出された機構的結論は必然的に未決定のモデルから導かれることを示している。停止フロー装置のデッドタイム内で、SS-1-148とhOATとの反応は、外部アルジミン(図7A-B(A))と一致するスペクトル(約420nm)を形成した。SS-1-148によるhOATの滴定は、デッドタイムで形成されたアルジミンとおそらく相加的である第2の外部アルジミン寄与の蓄積の速度及び程度を調節した(図7A-B(B))。第二の外部アルジミンは速度依存性を示し、二分子反応(6.2×10-1-1)を示す。このことは、SS-1-148がhOATと少なくとも2つの経路で結合し、平行反応経路を生じることを示唆している(図6A-B)。組み合わせた外部アルジミンスペクトルの強さは、0.4s-1(図6A-B及び7A-B)におけるキノノノイド種(約560nm)のスペクトル転移特性の蓄積と共に部分的に減衰する。見かけのキノノイド種は、外部アルジミン遷移の同時及び部分的崩壊と共に形成され、第2の外部アルジミン蓄積とほぼ等しい振幅である。このことは、これらの化学種が同じ反応経路にあることを示唆している。
【0163】
スキーム6で提案された最初の外部アルジミンM1及び段階的フッ化物脱離工程の脱プロトン化は、典型的には、E1CBメカニズム脱離と考えられることが報告されている31-32。フッ素及びアルジミンのプロトン化窒素の電子求引効果は、脱離反応中に生成したカルバニオン状態を安定化することができる32-33。一方、キノノノイド過渡状態M2は、第一及び第二の外部アルジミン(M1及びM3)の間に形成されると考えられる。しかし、ストップドフロー実験結果は、M1中の反ペリプレーナ水素とフッ素が、プロトンの喪失、フッ化物イオンの放出、及びより好ましいフッ化物除去経路としてのアルケンの生成と同時に異常なLys292支援E2機構を受け31、単一過渡状態として第2の外部アルジミンM3を与えることを示唆する(経路e;スキーム6)。この結果は、他の関連PLP依存性アミノトランスフェラーゼ不活化剤の以前の機構的研究で実験的に観察されたことはない1,7
【0164】
キノノノイド吸光係数を約30mM-1cm-1と仮定すると、観察されたキノノノイドの分数蓄積は1mM SS-1-148で全反応種の約20%である。その後、キノノイドは0.09s-1の速度で減衰し、一方、外部アルジミン種に帰属される残留遷移は広がり、持続する(図7A-B(D))。キノノイドM6は、代謝回転(経路a;スキーム5)及び不活性化(経路b;スキーム6)機構に基づいて観察できる最初のキノノイド種(約560nm)であると思われる。観測された最終相は0.007s-1の速度定数で起こる。この段階では、図式6の最終生成物として提唱されたゲムジアミンM16及びケチミンM19と一致して、薬275nmでの吸収強度の顕著な増加を伴う外部アルジミン崩壊の特徴が共役の喪失を示す(図7A-B(E))。
【0165】
まとめると、これらのデータは、複数の異なる外部アルジミン種から成る支配的経路を支持しており、これらは最終的には共役性の低い生成物に分解する(代謝回転機構;経路e;及びスキーム6)。また、最初の外部アルジミンを形成する第2の副経路は、よりゆっくりであるが、その後キノノイド中間体を経て分解し、非共役生成物を形成する(不活性化機構;経路b-e;スキーム6)。図7Cに示すデータは、各経路の割合がSS-1-148の濃度に依存することを示している。高濃度のSS-1-148はキノノイド種の蓄積を減少させるが、観察された蓄積と減衰の速度を変化させず、より迅速で優性な経路がより高いSS-1-148濃度で酵素のより大きな画分を隔離することを示唆した。
【0166】
SS-1-148の共役アルケンの意義。SS-1-148(6)の不活性化及び代謝回転のメカニズムをよりよく理解した後、類似体4~6を比較するために計算を行った。本発明者らの以前の研究は、シクロペンタン環系に余分な二重結合を取り込むことがα、β-共役カルボキシラートを確立し、補助プロトンの酸性度の増加による脱プロトン化段階を促進し、速度定数を増加させることを明らかにした16-17。298KにおけるDFT/B3LYP法34を用いて理論的pKa計算を行い、ジフルオロ類似体4~6のCγ位置におけるプロトンの酸性度を予測した(図2C)。図8Aに示された結果は、α、β-共役カルボキシラート系を有するPLP結合SS-1-148(M1)のCγ水素が3つの類似体の中で最も低いpKa値を示し、一方、PLP結合5(M1)中の対応するプロトンのpKa値は、親シクロペンタン4(M1’)に対するCα及びCε位置での導入二重結合により顕著に影響されないことを示唆する。これらの特徴的なkinact値(表1)を総合すると、これらの知見は、Cγ位置のより酸性の水素がSS-1-148(M1)の最初の外部アルジミンを促進し、典型的なE1CB脱離反応よりもE2フッ化物イオン脱離段階を開始させ、それによりその改善された速度定数に寄与することを示唆する。
【0167】
分配比測定及びフッ化物イオン放出の結果(表1)は、4及び5が大量のフッ化物イオンを放出する一方で不活性化経路よりもむしろ主に第二代謝回転経路に関与することを明らかにした。電子密度マップ及びESP電荷計算11図8B)は、SS-1-148(6)の過渡状態M3におけるCδの求電子性が対応する過渡状態4及び5(M3’は4、M3’は5)におけるそれよりもはるかに高く、M3のCδ位置が他の2つの中間体におけるそれよりも反応性が高いことを示している。一方、M3’及びM3’’のアルジミン結合におけるC4’位置は、M3の結果よりもはるかに大きい同等の求電子性を示し、これは、M3’及びM3’’が触媒Lys292によって攻撃され、それらのターンオーバー経路をトリガし、最終的に4及び5の有意に高い分配比をもたらすことを示す。さらに、hOATにおけるさらなるメタボロミクス研究は、hOATにおけるSS-1-148と同様に、シクロペンテン類似体5がその主要代謝物として単一フッ素を有するケトンを生成することを明らかにした(M5-1、図15B)。対照的に、シクロペンタン4は、モノフッ化ケトン(M4-1、図15A)を形成するだけでなく、ヒドロキシル基を有するケトン代謝物(M4-2、図15A)を生成したが、これはシクロペンテン類似体のメタボロミクスの結果では検出されなかった。スキーム6のSS-1-148の提案したメカニズムによれば、取り込まれた二重結合も共役系の安定化に重要な役割を果たすと考えられる。
【0168】
結論
以前は、(S)-3-アミノ-4,4-ジフルオロシクロヘックス-1-エンカルボン酸(WZ-2-051,2)は共有結合付加-芳香族化メカニズムを介してhOATを不活性化した(スキーム1B)。しかし、それでもGABA-ATに対する明らかな無責任な阻害を示す。(S)-3-アミノ-4,4-ジフルオロシクロペンタ-1-エンカルボン酸(SS-1-148,6)は前臨床段階選択的hOAT不活化剤BCFと同等の不活化効率を示すことが同定され、GABA-ATの可逆的阻害剤であることが実証された。速度論的研究及び計算により、シクロペンテン環中のSS-1-148の共役アルケンが高いhOAT不活性化効率を保持することを支持する証拠が得られた。浸漬結晶中のLys292との一時的なゲム-ジアミン中間体共有結合と共結晶錯体中の安定な非共有結合最終生成物を捕捉するために、2つの結晶学的アプローチを行った。hOAT中のArg413-Glu235の臨界塩架橋は両方の結晶錯体で破壊されることが分かった。さらに、天然/無傷のMS実験は、SS-1-148の主要な不活性化機構としての非共有結合経路、及び非共有結合形態と平衡にあるゲム-ジアミン構造であり得る軽微な形態として観察される共有結合修飾をさらに支持する。最後に、停止流れ実験は、SS-1-148の最初の外部アルジミンが典型的なE1CB脱離反応の代わりに異常なE2フッ化物イオン脱離を起こし、単一過渡状態として第2の外部アルジミンを形成することを示唆した。包括的なメカニズム研究は、SS-1-148が主に水媒介メカニズムを介して非共有的にhOATを不活性化することを示した。さらに、予備評価は、SS-1-148が良好なDMPK特性(データは示さず)を示すことを示唆し、HCCのPDXマウスモデルで検討中である。
【0169】
略語
AFPA、(S)-4-アミノ-5-フルオロペンタン酸;BocO、二炭酸ジ-tert-ブチル;Deoxo-Fluor、ビス(2-メトキシエチル)アミノ硫黄三フッ化物;DMPK、薬物代謝及び薬物動態;DIPEA、N,N-ジイソプロピルエチルアミン;DBDMH、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン;DMF、ジメチルホルムアミド;DMSO、ジメチルスルホキシド;DCM、ジクロロメタン;IND、治験中の新薬申請;PO、経口投与;THF、テトラヒドロフラン;TEA、トリエチルアミン;TBAI、テトラ-n-ヨウ化ブチルアンモニウム。
【0170】
参考文献
1. Lee, H.; Juncosa, J. I.; Silverman, R. B., Ornithine aminotransferase versus GABA aminotransferase: implications for the design of new anticancer drugs. Med Res Rev 2015, 35 (2), 286-305.
2. Tanner, J. J.; Fendt, S. M.; Becker, D. F., The Proline Cycle As a Potential Cancer Therapy Target. Biochemistry 2018, 57 (25), 3433-3444.
3. Tang, L.; Zeng, J.; Geng, P.; Fang, C.; Wang, Y.; Sun, M.; Wang, C.; Wang, J.; Yin, P.; Hu, C.; Guo, L.; Yu, J.; Gao, P.; Li, E.; Zhuang, Z.; Xu, G.; Liu, Y., Global Metabolic Profiling Identifies a Pivotal Role of Proline and Hydroxyproline Metabolism in Supporting Hypoxic Response in Hepatocellular Carcinoma. Clin Cancer Res 2018, 24 (2), 474-485.
4. Cadoret, A.; Ovejero, C.; Terris, B.; Souil, E.; Levy, L.; Lamers, W. H.; Kitajewski, J.; Kahn, A.; Perret, C., New targets of beta-catenin signaling in the liver are involved in the glutamine metabolism. Oncogene 2002, 21 (54), 8293-301.
5. Zigmond, E.; Ben Ya'acov, A.; Lee, H.; Lichtenstein, Y.; Shalev, Z.; Smith, Y.; Zolotarov, L.; Ziv, E.; Kalman, R.; Le, H. V.; Lu, H.; Silverman, R. B.; Ilan, Y., Suppression of Hepatocellular Carcinoma by Inhibition of Overexpressed Ornithine Aminotransferase. ACS Med Chem Lett 2015, 6 (8), 840-4.
6. Eliot, A. C.; Kirsch, J. F., Pyridoxal phosphate enzymes: mechanistic, structural, and evolutionary considerations. Annu Rev Biochem 2004, 73, 383-415.
7. Silverman, R. B., Design and Mechanism of GABA Aminotransferase Inactivators. Treatments for Epilepsies and Addictions. Chem Rev 2018, 118 (7), 4037-4070.
8. Pan, Y.; Gerasimov, M. R.; Kvist, T.; Wellendorph, P.; Madsen, K. K.; Pera, E.; Lee, H.; Schousboe, A.; Chebib, M.; Brauner-Osborne, H.; Craft, C. M.; Brodie, J. D.; Schiffer, W. K.; Dewey, S. L.; Miller, S. R.; Silverman, R. B., (1S, 3S)-3-amino-4-difluoromethylenyl-1-cyclopentanoic acid (CPP-115), a potent gamma-aminobutyric acid aminotransferase inactivator for the treatment of cocaine addiction. J Med Chem 2012, 55 (1), 357-66.
9. Moschitto, M. J.; Doubleday, P. F.; Catlin, D. S.; Kelleher, N. L.; Liu, D.; Silverman, R. B., Mechanism of Inactivation of Ornithine Aminotransferase by (1S,3S)-3-Amino-4-(hexafluoropropan-2-ylidenyl)cyclopentane-1-carboxylic Acid. J Am Chem Soc 2019, 141 (27), 10711-10721.
10. Butrin, A.; Beaupre, B. A.; Kadamandla, N.; Zhao, P.; Shen, S.; Silverman, R. B.; Moran, G. R.; Liu, D., Structural and Kinetic Analyses Reveal the Dual Inhibition Modes of Ornithine Aminotransferase by (1S,3S)-3-Amino-4-(hexafluoropropan-2-ylidenyl)-cyclopentane-1-carboxylic Acid (BCF). ACS Chemical Biology 2020.
11. Zhu, W.; Doubleday, P. F.; Catlin, D. S.; Weerawarna, P. M.; Butrin, A.; Shen, S.; Wawrzak, Z.; Kelleher, N. L.; Liu, D.; Silverman, R. B., A Remarkable Difference That One Fluorine Atom Confers on the Mechanisms of Inactivation of Human Ornithine Aminotransferase by Two Cyclohexene Analogues of gamma-Aminobutyric Acid. J Am Chem Soc 2020, 142 (10), 4892-4903.
12. Daune, G.; Gerhart, F.; Seiler, N., 5-Fluoromethylornithine, an irreversible and specific inhibitor of L-ornithine:2-oxo-acid aminotransferase. Biochem J 1988, 253 (2), 481-8.
13. Bolkenius, F. N.; Knodgen, B.; Seiler, N., DL-canaline and 5-fluoromethylornithine. Comparison of two inactivators of ornithine aminotransferase. Biochem J 1990, 268 (2), 409-14.
14. Storici, P.; Capitani, G.; Muller, R.; Schirmer, T.; Jansonius, J. N., Crystal structure of human ornithine aminotransferase complexed with the highly specific and potent inhibitor 5-fluoromethylornithine. J Mol Biol 1999, 285 (1), 297-309.
15. Qiu, J.; Silverman, R. B., A new class of conformationally rigid analogues of 4-amino-5-halopentanoic acids, potent inactivators of gamma-aminobutyric acid aminotransferase. J Med Chem 2000, 43 (4), 706-20.
16. Juncosa, J. I.; Takaya, K.; Le, H. V.; Moschitto, M. J.; Weerawarna, P. M.; Mascarenhas, R.; Liu, D.; Dewey, S. L.; Silverman, R. B., Design and Mechanism of (S)-3-Amino-4-(difluoromethylenyl)cyclopent-1-ene-1-carboxylic Acid, a Highly Potent gamma-Aminobutyric Acid Aminotransferase Inactivator for the Treatment of Addiction. J Am Chem Soc 2018, 140 (6), 2151-2164.
17. Shen, S.; Doubleday, P. F.; Weerawarna, P. M.; Zhu, W.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B., Mechanism-Based Design of 3-Amino-4-Halocyclopentenecarboxylic Acids as Inactivators of GABA Aminotransferase. ACS Med Chem Lett 2020, 11 (10), 1949-1955.
18. Singh, R.; Vince, R., 2-Azabicyclo[2.2.1]hept-5-en-3-one: chemical profile of a versatile synthetic building block and its impact on the development of therapeutics. Chem Rev 2012, 112 (8), 4642-86.
19. Wang, B. L.; Gao, H. T.; Li, W. D., Total synthesis of (+)-iresin. J Org Chem 2015, 80 (10), 5296-301.
20. Gross, L. J.; Stark, C. B. W., Regioselective dehydration of alpha-hydroxymethyl tetrahydrofurans using Burgess' reagent under microwave irradiation. Org Biomol Chem 2017, 15 (20), 4282-4285.
21. Lee, H.; Doud, E. H.; Wu, R.; Sanishvili, R.; Juncosa, J. I.; Liu, D.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B., Mechanism of inactivation of gamma-aminobutyric acid aminotransferase by (1S,3S)-3-amino-4-difluoromethylene-1-cyclopentanoic acid (CPP-115). J Am Chem Soc 2015, 137 (7), 2628-40.
22. Shen, S.; Doubleday, P. F.; Weerawarna, P. M.; Zhu, W.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B., Mechanism-Based Design of 3-Amino-4-Halocyclopentenecarboxylic Acids as Inactivators of GABA Aminotransferase. ACS Medicinal Chemistry Letters 2020.
23. Mascarenhas, R.; Le, H. V.; Clevenger, K. D.; Lehrer, H. J.; Ringe, D.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B.; Liu, D., Selective Targeting by a Mechanism-Based Inactivator against Pyridoxal 5'-Phosphate-Dependent Enzymes: Mechanisms of Inactivation and Alternative Turnover. Biochemistry 2017, 56 (37), 4951-4961.
24. Di Salvo, M. L.; Scarsdale, J. N.; Kazanina, G.; Contestabile, R.; Schirch, V.; Wright, H. T., Structure-based mechanism for early PLP-mediated steps of rabbit cytosolic serine hydroxymethyltransferase reaction. Biomed Res Int 2013, 2013, 458571.
25. Soniya, K.; Awasthi, S.; Nair, N. N.; Chandra, A., Transimination Reaction at the Active Site of Aspartate Aminotransferase: A Proton Hopping Mechanism through Pyridoxal 5′-Phosphate. ACS Catalysis 2019, 9 (7), 6276-6283.
26. Shah, S. A.; Shen, B. W.; Brunger, A. T., Human ornithine aminotransferase complexed with L-canaline and gabaculine: structural basis for substrate recognition. Structure 1997, 5 (8), 1067-75.
27. Leney, A. C.; Heck, A. J., Native Mass Spectrometry: What is in the Name? J Am Soc Mass Spectrom 2017, 28 (1), 5-13.
28. Stewart, J. J., MOPAC: a semiempirical molecular orbital program. J Comput Aided Mol Des 1990, 4 (1), 1-105.
29. Karsten, W. E.; Ohshiro, T.; Izumi, Y.; Cook, P. F., Reaction of serine-glyoxylate aminotransferase with the alternative substrate ketomalonate indicates rate-limiting protonation of a quinonoid intermediate. Biochemistry 2005, 44 (48), 15930-6.
30. Thibodeaux, C. J.; Liu, H. W., Mechanistic studies of 1-aminocyclopropane-1-carboxylate deaminase: characterization of an unusual pyridoxal 5'-phosphate-dependent reaction. Biochemistry 2011, 50 (11), 1950-62.
31. Clift, M. D.; Ji, H.; Deniau, G. P.; O'Hagan, D.; Silverman, R. B., Enantiomers of 4-amino-3-fluorobutanoic acid as substrates for gamma-aminobutyric acid aminotransferase. Conformational probes for GABA binding. Biochemistry 2007, 46 (48), 13819-28.
32. Gokcan, H.; Konuklar, F. A., Theoretical study on HF elimination and aromatization mechanisms: a case of pyridoxal 5' phosphate-dependent enzyme. J Org Chem 2012, 77 (13), 5533-43.
33. Alunni, S.; De Angelis, F.; Ottavi, L.; Papavasileiou, M.; Tarantelli, F., Evidence of a borderline region between E1cb and E2 elimination reaction mechanisms: a combined experimental and theoretical study of systems activated by the pyridine ring. J Am Chem Soc 2005, 127 (43), 15151-60.
34. Ghalami-Choobar, B.; Dezhampanah, H.; Nikparsa, P.; Ghiami-Shomami, A., Theoretical calculation of the pKa values of some drugs in aqueous solution. International Journal of Quantum Chemistry 2012, 112 (10), 2275-2280.
【0171】
実施例2-実施例1のDMPK結果
【0172】
【表2】
【0173】
実施例3-実施例1の補足資料
【0174】
補足表
【0175】
【表3】
【0176】
4-6の合成
一般手順
市販の試薬及び溶媒をさらに精製することなく使用した。全ての反応を0.25mmのSiliCycle過硬250μM TLCプレート(60F54)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によりモニターし、スポットをUV(254nm)及びモリブデン酸セリウムアンモニウム又はニンヒドリン染色下で可視化した。シリカカラム及び逆相C-18カラムを用いてCombi-Flash(登録商標)Rfシステム(Teledyne ISCO)上でフラッシュクロマトグラフィーを実施した。分析用HPLCを用いて、以下の条件下で、Agilent 1260シリーズ装置を用いて最終生成物の純度を測定した:カラム、Phenomenex Kintex C-18カラム(50×2.1mm、2.6μm);移動相、0.9mL/分の流速で6分間、0.05%のTFAを含有する5~100%アセトニトリル/水;254nmでのUV検出。インビトロ生物学的試験のために試験された全化合物の純度は、HPLC分析により>95%であった。Bruker AVANCE III 500MHzシステム及びBruker NEOコンソールw/QCI-Fクライオプローブ600MHzシステムを用いて、H、13C、及び2D NMRスペクトルを得た。化学シフトは、CDClH NMRでδ=7.26、13C NMRスペクトルでδ=77.16)、CDOD(H NMRでδ=3.31、13C NMRスペクトルでδ=49.15)、DMSO-d6(H NMRでδ=2.50、13C NMRスペクトルでδ=39.52)に対して報告された。多重性のために以下の略語を使用した:s=一重項、d=二重項、t=三重項、q=四重項、m=多重項、dd=二重項、dd=二重項、dt=三重項、dq=三重項の二重項、dd=四重項の二重項、ddt=三重項の二重項、ddd=二重項の二重項、dddd=二重項の二重項、ddt=三重項の二重項の二重項、br=幅広い一重項。前述のAgilent Infinity 1260 HPLCシステムを用いた大気圧化学イオン化(APCI)を用いて、正イオンモードのThermo TSQ量子システムを用いて低分解能質量スペクトル(LRMS)を得た。Agilent G1312A HPLCポンプを用いたエレクトロスプレーイオン化(ESI)と、ノースウエスタン大学総合分子構造教育研究センター(IMSERC)のAgilent G1367B自動注入器を用いて、正イオンモードのAgilent 6210 LC-TOF分光計で高分解能質量スペクトル(HRMS)を得た。
【0177】
【化18】
【0178】
(1R,4S)-2-(4-メトキシベンジル)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-3-オン(8)。(i)p-アニシルアルコール(10mL)及び濃塩酸(15mL)を、100mLの丸底3つのネック付きフラスコに室温で溶解した。得られた混合物を室温でさらに1時間撹拌した。反応終了後、溶液を氷中に注ぎ、EtOAc(20mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、飽和状態で洗浄した。NaCO溶液及びブラインをNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。新鮮な4-メトキシベンジルクロリドを無色油状物(9.2g、52%)として得、さらなる精製なしで次の工程に直接使用した。(ii)乾燥THF(300mL)中の(1R)-(-)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-3-オン(1、CAS#79200-56-9、5.8g、53mmol)の撹拌溶液に、氷浴中にDMF(30mL)中に懸濁したNaH(60%、3.18g、80mmol)を添加した。得られた混合物を同じ温度で30分間撹拌し、次に、4-メトキシベンジルクロリド(9.2g、63.6mmol)及びTBAI(1.96g、5.3mmol)を0℃で添加し、得られた混合物を室温にゆっくりと温め、さらに3時間撹拌した。反応終了後、溶液を水(200mL)でクエンチし、EtOAc(100mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、飽和状態で洗浄した。NaCO溶液及びブラインをNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~50%)により精製し、無色油状物として8(7.8g、65%)を得た。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 7.12 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.87 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.62 - 6.50 (m, 2H), 4.24 (d, J = 14.6 Hz, 1H), 4.16 (q, J = 1.9 Hz, 1H), 4.10 (d, J = 14.6 Hz, 1H), 3.77 (s, 3H), 3.32 - 3.30 (m, 1H), 2.25 (dt, J = 7.7, 1.8 Hz, 1H), 2.07 (dt, J = 7.7, 1.6 Hz, 1H). 13C NMR (126 MHz, CD3OD) δ 182.5, 160.8, 141.6, 137.6, 130.9 (2C), 129.2, 115.0 (2C), 64.6, 60.0, 55.9, 55.1, 47.8。C1416NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、230.12;実測値、230.21;TR=2.28分。
【0179】
【化19】
【0180】
(1R,4R,7R)-7-ブロモ-2-(4-メトキシベンジル)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3,6-ジオン(11)。DCM(200mL)中の塩化オキサリル(3.69mL、42.9mmol)の撹拌溶液に、アルゴン雰囲気下-78℃でDMSO(5.0mL、70.6mmol)をゆっくり添加した。-78℃で10分間撹拌した後、DCM(200mL)に溶解した10(10.0g、30.7mmol)を同じ温度で得られた混合物に加え、次に-78℃でさらに10分間撹拌した。次に、TEA(30mL、215mmol)を滴下した。
添加の完了後、反応物を-78℃で10分間撹拌し、室温まで加温し、1N NHClでクエンチした。有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をEtOHで洗浄して、11(7.8g、73%)を茶色固形物として得、さらに精製せずに次の工程で使用した。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.22 - 6.99 (m, 2H), 6.92 - 6.75 (m, 2H), 4.72 (d, J = 14.7 Hz, 1H), 4.35 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 3.94 (d, J = 14.7 Hz, 1H), 3.80 (s, 3H), 3.66 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 3.16 (dt, J = 4.1, 2.0 Hz, 1H), 2.71 (dd, J = 17.8, 4.2 Hz, 1H), 2.22 (dd, J = 17.9, 2.5 Hz, 1H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 202.9, 172.6, 159.6, 129.8 (2C), 127.0, 114.4 (2C), 68.4, 55.3, 49.0, 48.2, 45.3, 32.1。C1415BrNO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、324.02;実測値、324.33;TR=2.40分。
【0181】
【化20】
【0182】
(1S,4R)-2-(4-メトキシベンジル)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3,6-ジオン(12)。ベンゼン(100mL)中の11(6.0g、18.5mmol)の撹拌溶液に、室温でBnSnH(7mL、26.0mmol)及びAIBN(151mg、0.925mmol)を添加した。次に、得られた混合物を加熱して一晩還流させた。反応終了後、溶液を水でクエンチし、EtOAc(100mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~50%)により精製して、12(3.1g、68%)をオフホワイト固形物として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.22 - 7.13 (m, 2H), 6.89 - 6.80 (m, 2H), 4.70 (d, J = 14.8 Hz, 1H), 3.88 (d, J = 14.8 Hz, 1H), 3.80 (d, J = 1.1 Hz, 3H), 3.56 (q, J = 1.7 Hz, 1H), 3.03 (qd, J = 2.3, 1.4 Hz, 1H), 2.30 - 2.22 (m, 1H), 2.18 (td, J = 4.0, 3.4, 2.1 Hz, 2H), 1.86 (dt, J = 10.7, 1.5 Hz, 1H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 206.2, 176.6, 159.4, 129.7 (2C), 127.9, 114.2 (2C), 64.6, 55.3, 45.1, 42.5, 39.1, 35.2。C1416NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、246.11;実測値、246.10;TR=1.81分。
【0183】
【化21】
【0184】
(1S,4R)-6,6-ジフルオロ-2-(4-メトキシベンジル)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オン(13)。12(245mg、1.0mmol)をマイクロ波管中のTHF(3mL)に溶解し、次に、Deoxo-Fluor(1.11mL、3.0mmol、トルエン中2.7M)を室温で添加した。得られた混合物をマイクロ波反応器中で120℃で40分間加熱した。反応の完了後、溶液を飽和状態でクエンチした。NaHCO液をEtOAc(10mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~100%)で精製して、13(190mg、71%)を無色油状物として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.26 - 7.12 (m, 2H), 6.99 - 6.73 (m, 2H), 4.99 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 3.81 (s, 3H), 3.78 (s, 1H), 3.61 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 2.85 (dq, J = 3.9, 1.8 Hz, 1H), 2.32 - 2.10 (m, 2H), 2.01 (dtd, J = 10.4, 3.6, 1.8 Hz, 1H), 1.85 (ddd, J = 10.6, 3.8, 1.9 Hz, 1H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 175.9, 159.2, 129.5 (2C), 130.05 (t, J = 260.4 Hz), 128.2, 114.2 (2C), 61.47 (dd, J = 32.7, 21.0 Hz), 45.35 (d, J = 2.7 Hz), 43.69 (t, J = 4.0 Hz), 38.86 (d, J = 3.9 Hz), 36.7 (t, J = 23.9 Hz)。C1416NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、268.11;実測値、268.07;TR=2.36分。
【0185】
【化22】
【0186】
(1S,4R)-6,6-ジフルオロ-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オン(14)。CHCN(8mL)中の13(190mg、0.71mmol)の撹拌溶液に、室温で硝酸セリンアンモニウムの水溶液(3mL水中1.16g、2.10mmol)を添加した。得られた混合物を、出発物質が完全に消失するまで2時間撹拌した。残渣をEtOAc(10mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、飽和状態で洗浄した。NaCO溶液及びブラインをNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~100%)で精製して、14(60mg、57%)を白色粉末として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.69 (br s, 1H), 3.82 (t, J = 1.9 Hz, 1H), 2.77 (dd, J = 4.5, 2.3 Hz, 1H), 2.35 - 2.21 (m, 1H), 2.23 - 2.16 (m, 1H), 2.17 - 2.03 (m, 1H), 1.98 (ddq, J = 10.5, 3.6, 1.7 Hz, 1H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 179.0, 128.8 (t, J = 258.6 Hz), 59.4 (dd, J = 33.2, 22.6 Hz), 43.6 (t, J = 4.0 Hz), 39.1 (d, J = 3.1 Hz), 36.97 (dd, J = 25.1, 23.4 Hz)。CNO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、148.06;実測値、148.02;TR=0.33分。
【0187】
【化23】
【0188】
(1R,4S)-エチル4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3,3-ジフルオロシクロペンタンカルボン酸塩(15)。(i)14(150mg、1.02mmol)を、室温でHClエタノール溶液(2mL、1.2M)に溶解した。得られた混合物を圧力管中で85℃で一晩加熱した。反応完了後、過剰の溶媒を真空下で除去した。粗生成物を淡黄色固体として得、さらに精製することなく次の工程に直接使用した。(ii)MeOH(5mL)中の中間体の撹拌溶液に、室温でBocO(327mg、1.50mmol)及びTEA(0.21mL、1.50mmol)を添加した。得られた混合物を室温で2時間撹拌した。反応終了後、過剰の溶媒を真空下で除去し、残渣を水でクエンチし、EtOAc(25mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~100%)で精製して、15を白色固体(240mg、2段階で82%)として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.14 - 4.64 (m, 1H), 4.27 - 4.19 (m, 1H), 4.16 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.01 - 2.85 (m, 1H), 2.56 - 2.32 (m, 3H), 1.77 (dtd, J = 12.1, 10.0, 1.8 Hz, 1H), 1.45 (s, 9H), 1.26 (t, J = 7.1 Hz, 3H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 173.5, 155.1, 127.2 (dd, J = 255.6, 250.9 Hz), 80.2, 61.7, 55.2 (dd, J = 26.0, 20.6 Hz), 36.3, 35.8 (t, J = 25.8 Hz), 32.9 (d, J = 4.5 Hz), 28.3 (3C), 14.1。C14NO[M-Boc+2H]のLRMS(APCI)計算値、194.10;実測値、193.99;TR=2.67分。
【0189】
【化24】
【0190】
(S)-エチル4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3,3-ジフルオロシクロペンタ-1-エンカルボキシレート(16)。THF(8mL)中の15(100mg、0.34mmol)の撹拌溶液に、-78℃でKHMDS(2.0mL、トルエン中0.5M)を添加した。得られた混合物を-78℃で2時間撹拌し、次に、温度でTHF(2mL)溶液中で塩化フェニル(78mg、0.41mmol)を添加した。反応物を室温にゆっくりと温め、さらに6時間撹拌した。反応物を飽和水性NHClでクエンチし、EtOAc(10mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~100%)で精製して、16(20mg、20%)を白色固体として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 6.60 (s, 1H), 4.91 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 4.57 - 4.53 (m, 1H), 4.26 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 3.17 (dt, J = 16.1, 7.4 Hz, 1H), 2.42 (ddt, J = 14.8, 6.1, 3.0 Hz, 1H), 1.47 (s, 9H), 1.32 (t, J = 7.1 Hz, 3H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 163.1, 155.1, 143.1 (t, J = 10.1 Hz), 132.44 (dd, J = 30.7, 24.6 Hz), 127.2 (t, J = 251.0 Hz), 80.4, 61.5, 54.5 (t, J = 20.9 Hz), 35.8, 28.3 (3C), 14.1。C12NO[M-Boc+2H]のLRMS(APCI)計算値、192.08;実測値、191.96;TR=2.71分。
【0191】
【化25】
【0192】
(S)-4-アミノ-3,3-ジフルオロシクロペンタ-1-エンカルボン酸(5)
AcOH(1mL)中の16(20mg、0.07mmol)の撹拌溶液に、室温で4N HCl(1mL)を添加した。得られた混合物を70℃で一晩加熱した。反応完了後、過剰の溶媒を真空下で除去した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(C18逆カラム、CHCN/HO:0~5%)により精製して、5を白色粉末塩酸塩(10mg、71%)として得た。1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 6.65 (s, 1H), 4.22 (dq, J = 13.2, 7.1, 6.7 Hz, 1H), 3.28 - 3.21 (m, 1H), 2.80 - 2.64 (m, 1H)。13C NMR (126 MHz, CD3OD) δ 165.23, 145.84 (dd, J = 11.3, 9.5 Hz), 131.65 (dd, J = 29.4, 25.5 Hz), 129.21 (t, J = 248.6 Hz), 54.50 (dd, J = 31.3, 20.0 Hz), 34.64 (d, J = 2.2 Hz)。CFNO[M+H]のHRMS(ESI)計算値、164.0518;実測値、164.0516。
【0193】
【化26】
【0194】
(1R,4S)-4-アミノ-3,3-ジフルオロシクロペンタンカルボン酸塩(4)。14(60mg、0.41mmol)を4N HCl(4mL)に室温で溶解した。得られた混合物を70℃で1時間加熱した。反応完了後、過剰の溶媒を真空下で除去した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(C18逆カラム、CHCN/HO:0~5%)により精製し、4を白色粉末塩酸塩(60mg、89%)として得た。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 3.93 (qd, J = 11.4, 7.8 Hz, 1H), 3.16 (tt, J = 10.0, 8.2 Hz, 1H), 2.69 - 2.47 (m, 3H), 2.04 (dtd, J = 12.3, 10.7, 1.4 Hz, 1H)。13C NMR (126 MHz, CD3OD) δ 175.5, 128.3 (dd, J = 255.0, 252.6 Hz), 55.8 (dd, J = 29.6, 20.7 Hz), 37.9 (t, J = 4.5 Hz), 37.2 (t, J = 24.8 Hz), 31.9 (d, J = 4.8 Hz)。C10FNO[M+H]のHRMS(ESI)計算値、166.0674;実測値、166.0671。
【0195】
【化27】
【0196】
(1S,4S,7R)-2-(4-メトキシベンジル)-7-(メトキシメトキシ)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3,6-ジオン(21)を、12の合成手順に従って20(12.0g、39mmol)から調製し、無色油状物(10.8g、91%)として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.20 - 7.04 (m, 2H), 6.97 - 6.77 (m, 2H), 4.64 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.62 (d, J = 14.8 Hz, 1H), 4.59 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.17 (q, J = 2.2 Hz, 1H), 4.02 (d, J = 14.8 Hz, 1H), 3.80 (s, 3H), 3.59 (t, J = 1.9 Hz, 1H), 3.30 (d, J = 1.7 Hz, 3H), 3.11 - 3.05 (m, 1H), 2.51 (dd, J = 17.5, 4.3 Hz, 1H), 2.14 (dd, J = 17.4, 1.9 Hz, 1H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 206.0, 173.4, 159.4, 129.7 (2C), 127.7, 114.3 (2C), 96.2, 80.5, 66.6, 56.3, 55.3, 46.9, 45.0, 31.5。C1620NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、306.13;実測値、306.39;TR=2.36分。
【0197】
【化28】
【0198】
(1S,4S,7R)-6,6-ジフルオロ-2-(4-メトキシベンジル)-7-(メトキシメトキシ)-2-アザビシクロ[2.2.1]-ヘプタン-3-オン(18)を、13の合成手順に従って17(670mg、2.20mmol)から合成し、褐色油状物(490mg、72%)として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.15 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.87 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 5.02 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 4.59 (s, 3H), 4.03 (dt, J = 4.7, 2.0 Hz, 1H), 3.80 (s, 3H), 3.79 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 3.58 (q, J = 1.8 Hz, 1H), 3.48 - 3.34 (m, 2H), 3.33 (s, 3H), 2.96 - 2.84 (m, 1H), 2.57 (dddd, J = 18.0, 13.8, 9.4, 4.3 Hz, 1H), 2.16 (dddd, J = 15.9, 13.7, 6.2, 1.7 Hz, 1H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 172.5, 159.3, 129.72 (dd, J = 274, 254 Hz), 129.6 (2C), 127.8, 114.3 (2C), 95.9, 81.2 (d, J = 4.0 Hz), 62.4 (dd, J = 29.9, 20.3 Hz), 56.2 (d, J = 1.7 Hz), 55.3, 48.5 (t, J = 3.8 Hz), 45.3 (d, J = 2.6 Hz), 34.8 (t, J = 24.7 Hz)。C1620NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、328.14;実測値、328.46;TR=2.58分。
【0199】
【化29】
【0200】
(1S,4S,7R)-6,6-ジフルオロ-7-(メトキシメトキシ)-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オン(23)。CHCN(40mL)中の22(900mg、2.75mmol)の撹拌溶液に、室温で硝酸セリンアンモニウムの水溶液(12mLの水中4.52g、8.26mmol)を添加した。得られた混合物を、出発物質が完全に消失するまで2時間撹拌した。残渣をEtOAc(25mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、飽和状態で洗浄した。NaCO溶液及びブラインをNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc-ヘキサン:0~100%)で精製して、23(340mg、60%)を淡黄色固体として得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.91 (s, 1H), 4.70 (s, 2H), 4.29 - 4.16 (m, 1H), 3.83 (q, J = 2.0 Hz, 1H), 3.41 (s, 3H), 2.84 (dt, J = 3.9, 1.9 Hz, 1H), 2.62 (dddd, J = 18.3, 13.6, 8.9, 4.4 Hz, 1H), 2.13 (dddd, J = 15.8, 13.8, 6.2, 1.8 Hz, 1H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 175.0, 128.2 (dd, J = 263, 253 Hz), 96.2, 81.7 (d, J = 3.3 Hz), 60.5 (dd, J = 30.5, 21.6 Hz), 56.24 (d, J = 1.8 Hz), 48.66 (dt, J = 4.1, 1.5 Hz), 34.11 (dd, J = 25.7, 24.2 Hz)。C12NO[M+H]のLRMS(APCI)計算値、208.08;実測値、2008.07;TR=0.79分。
【0201】
【化30】
【0202】
(1S,2R,3S)-メチル3-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4,4-ジフルオロ-2-ヒドロキシシクロペンタンカルボン酸塩(24)。(i)23を室温でHClメタノール溶液(1.2M)に溶解した。次に、得られた混合物を圧力管中で85℃で一晩加熱した。反応完了後、過剰の溶媒を真空下で除去し、次に残渣を飽和状態で中和した。NaHCO液をEtOAc(25mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物を淡黄色固体(160mg、70%)として得、さらに精製することなく次の工程に直接使用した。(ii)MeOH(10mL)中の中間体(160mg、0.82mmol)の撹拌溶液に、室温でBocO(268mg、1.23mmol)を添加した。次に、得られた混合物を室温で一晩撹拌した。反応終了後、過剰の溶媒を真空下で除去し、次に、残渣を水でクエンチし、EtOAc(25mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮し、24をオフホワイトの固体(230mg、95%)として得、さらに精製することなく、次の工程に直接的に使用した。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.07 (s, 1H), 4.19 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 4.13 (s, 1H), 4.09 - 3.98 (m, 1H), 3.76 (s, 3H), 2.92 (q, J = 9.4 Hz, 1H), 2.67 - 2.39 (m, 2H), 1.46 (s, 9H)。13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 172.5, 156.7, 124.4 (t, J = 254 Hz), 81.2, 77.8 (d, J = 6.9 Hz), 62.9 (dd, J = 25.2, 17.9 Hz), 52.6, 44.6, 35.0 (t, J = 26.0 Hz), 28.2 (3C)。C12NO[M-Boc+2H]のLRMS(APCI)計算値、196.08;実測値、196.03;TR=2.20分。
【0203】
【化31】
【0204】
(S)-メチル3-(((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4,4-ジフルオロシクロペンタ-1-エンカルボキシレート(25)。THF(5mL)中の24(230mg、0.78mmol)の撹拌溶液に、アルゴン雰囲気下室温でBurgess試薬(580mg、2.44mmol)を添加した。次に、得られた混合物を4時間加熱還流した。反応終了後、溶液を水でクエンチし、EtOAc(25mL×3)で抽出した。合わせた有機層を分離し、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン:0~100%)で精製して、オフホワイト固体として25(110mg、49%)を得た。C10NO[M-Boc+2H]のLRMS(APCI)の計算値、178.07;実測値、177.86;TR=2.65分。
【0205】
【化32】
【0206】
(S)-3-アミノ-4,4-ジフルオロシクロペンタ-1-エンカルボン酸塩(SS-1-148,6)。酢酸(10mL)中の25(200mg、0.72mmol)の撹拌溶液に、室温で4N HCl(10mL)を添加した。得られた混合物を70℃で一晩加熱した。反応完了後、過剰の溶媒を真空下で除去した。粗生成物をCombi-Flash(登録商標)クロマトグラフィー(C18逆カラム、CHCN/HO:0~5%)により精製し、6を白色粉末HCl塩(72mg、50%)として得た。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 6.58 (s, 1H), 4.77 - 4.67 (m, 1H), 3.29 - 3.16 (m, 2H). 13C NMR (126 MHz, CD3OD) δ 165.2, 140.0, 133.4, 128.0 (t, J = 254.8 Hz), 61.0 (dd, J = 35.5, 20.7 Hz), 41.64 (t, J = 27.1 Hz)。CFNO[M+H]のHRMS(ESI)計算値、164.0518;実測値、164.0517。
【0207】
hOATの発現及び精製
hOATを発現させ、以前に発表されたプロトコールを用いて精製した。簡単に説明すると、pMAL-t-hOATプラスミドを含有するE.coli BL21(DE3)細胞を、100μg/mLアンピシリンを補充したLysogeny Broth(LB)培地中で振とうしながら37℃でインキュベートした。培養OD600が0.7に達したとき、0.3mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドの添加によりMBP-t-hOAT融合タンパク質の発現を誘導し、更に16~18時間25℃でインキュベートし、遠心分離により細胞を回収し、20mMのTris-HCl、200mMのNaCl、及び100μMのPLP、pH7.4からなる緩衝液Aで洗浄し、液体窒素中でフラッシュ凍結し、-80℃で保存した後、凍結細胞ペレットを解凍し、緩衝液A中で超音波処理し、40,000×gで20分間遠心分離した。得られた上清を、緩衝液Aで予め平衡化したアミロースアフィニティーカラム上にロードし、カラムを徹底的に洗浄し、MBP-t-hOAT融合タンパク質を、10mMマルトースでカラムから溶出させた。融合タンパク質を含む画分を合わせ、TEVプロテアーゼで処理してMBPタグを除去した。切断されたhOATタンパク質を回収し、遠心フィルターを用いて濃縮した。次に、HiLoad Superdex-200PGカラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーにより、タンパク質をさらに精製した。カラムを予め平衡化し、タンパク質を、50mM HEPES、100μM PLP、及び300mM NaCl、pH7.5を含有する緩衝液中で溶出させた。
【0208】
速度論的研究のためのアミノトランスフェラーゼ及び補酵素
酵素精製及びアッセイのためのすべての試薬は、Sigma-Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。ヒトOAT(0.672mg/mL)を、上述の手順に従ってE.coli BL21(DE3)細胞から精製し、補酵素ヒト組換えピロリン5-カルボキシレートレダクターゼ(PYCR)を発現させ、増殖させ、文献手順に従って精製した。γ-アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ(GABA-AT、0.4mg/mL)は前述の手順に従ってブタ脳から精製し、補酵素コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSDH)はGABase(カタログ番号G7509-25UN、Sigma-Aldrich)から精製した。SSDHとGABA-ATの市販の混合物を既知の手順で使用する。市販のブタ心臓由来のL-アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Asp-AT)(カタログ番号G2751-2KU、Sigma-Aldrich)及びブタ由来の所望のアッセイ補酵素リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(カタログ番号M2634-5KU、Sigma-Aldrich)、及びブタ心臓由来のL-アラニンアミノトランスフェラーゼ(Ala-AT)(カタログ番号 G8255-200UN、Sigma-Aldrich)及び所望のアッセイであるブタ由来の補酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(カタログ番号427211-50KU、Sigma-Aldrich)をさらに精製せずに直接使用した。不活化、分配比、及び透析実験のためのすべての酵素アッセイを、透明な96ウェルプレートを有するSynergy H1ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(Biotek、米国)で記録した。
【0209】
hOATの時間依存性阻害剤としての化合物の評価
hOATに対する時間依存性不活化を、以前に公開された最適化手順を用いて実施した。10μLのhOAT(0.025mg/mL)を、100mMピロリン酸カリウム緩衝液(pH8.0、5mM α-ケトグルタル酸、及び5mMβ-メルカプトエタノール)中、10μLの種々の濃度の試験化合物と共に、96ウェルプレート中25℃で予めインキュベートした。時間間隔で、上記ピロリン酸カリウム緩衝液中のPYCR(0.5μg)、1mM NADH、及び25mM L-オルニチンを含有するアッセイ溶液80μLをインキュベーション混合物に添加し、37℃で30分間、OAT活性をアッセイした。NADHのNADOAへの変換に基づく340nmでの37℃でのUV吸光度の変化をマイクロプレートリーダーによりモニターした。すべてのアッセイを二重に行い、各インヒビター濃度における各プレインキュベーション時間における残りのOAT活性を平均化した。残りのOAT活性のパーセンテージの自然対数を、各インヒビター濃度におけるプレインキュベーション時間に対してプロットして、各濃度についてのkobs(傾き)値を得た。kobs値は、それぞれの阻害剤濃度での不活化を表す速度定数である。kobsは、GraphPad Prism 8.0を用いた非線形回帰分析を用いて阻害剤濃度に対して再移植される。Kとkinact値は、式(1)
【0210】
【数1】
【0211】
から推定され、ここで、kinactは不活化の最大速度であり、Kは不活化の最大半分に必要な阻害濃度であり、[I]は試験化合物のプレインキュベーション濃度である。
【0212】
GABA-ATの可逆的阻害剤としての化合物の評価
阻害定数(K)は、SSDHと組み合わせたアッセイを用いて、試験化合物の0~20mM濃度の存在下でGABA-AT活性をモニターすることにより決定した。96ウェルプレートに、50mMピロリン酸カリウム緩衝液(pH8.5、5mM α-ケトグルタル酸、及び5mMβ-メルカプトエタノール)中に、過剰のSSDH、1mM NADP+、11.1mM GABA、及び10μLの種々の濃度の試験化合物を含有する80μLのアッセイ混合物を装填した。混合物を25℃で1分間インキュベートした後、上記ピロリン酸カリウム緩衝液中のGABA-AT(0.03mg/mL)10μLを96ウェルプレートに添加した。マイクロプレートを25℃で1分間振とうし、NADPOAからNADPHへの変換に基づいて、25℃で340nmにおける吸光度の変化を観察することにより、残りの酵素活性を決定した。GraphPad Prism 8.0を用いた非線形回帰分析を用いて、半最大発育阻止濃度(IC50)値を得た。その後のKi値を式(2)を用いて決定した。
すべてのアッセイを2回実施した。
【0213】
【数2】
【0214】
ここで[S]は基質GABAの最終濃度(8.88mM)であり、KmはMichaelis-Menten定数であり、ブタ脳から単離したこのバッチのGABA-ATについて2.60mMであると決定された。
【0215】
SS-1-148によるAsp-ATとAla-ATの阻害
96ウェルプレートに、pH7.4で100mMリン酸カリウム、5.55mM α-ケトグルタル酸、1.11mM NADH、5.55mM L-アスパラギン酸、5.55mMリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、及び種々の濃度のSS-1-148を含む90μLのアッセイ混合物を装填した。混合物を室温で数分間インキュベートした後、10μLのAsp-AT(pH7.4の100mMリン酸カリウム中2.0単位/mL)を添加した。プレートを室温で1分間振とうし、NADHのNADOAへの変換に基づいて10秒ごとに340nmで90分間吸光度を測定した。残りのAsp-AT活性パーセンテージは、対応する濃度に従って計算した。すべてのアッセイを2回実施した。SS-1-148によるAla-ATの阻害を決定するためのアッセイ条件は、L-アラニンを基質として用い、乳酸デヒドロゲナーゼを補酵素として用いた以外はL-アスパラギン酸と同一であった。
【0216】
透析アッセイ
透析実験は以前のプロトコールを用いて行った8-10
【0217】
分配比実験
以前のプロトコールを用いて分配比を計算した8-10
【0218】
フッ化物イオン放出アッセイ
フッ化物イオン放出アッセイは、以前のプロトコールを用いて行った10。試料中の酵素の最終濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce,cat:23225)を介して測定した。電圧(V,mV)の検量線を種々の濃度のNaF(F,μM)から作成した。フッ化物イオン濃度の正確な検出のために、10μMのフッ化物イオンを各対照及び試料に添加した。活性部位当たりに放出されるフッ化物イオンの数は、フッ化物イオン放出濃度と酵素濃度の比によって計算した。
【0219】
天然タンパク質質量分析
D-Tube(商標)Dialyzer Mini(MWCO12-14KDa;Lot#:345246;Millipore)中の処理及び未修飾hOAT試料を、100mM NHOAcに対する透析により別々に、4℃で96時間脱塩した。脱塩試料を+1500~+2000Vのスプレー電圧のNanospray Flex Ion Source(Thermo Fisher Scientific)を備えたQ-Exactive Ultra High Mass Range(UHMR)(Thermo Fisher Scientific)質量分析計に別々に導入した。イオン移送管を310℃に設定した。質量分析計を+ESIモードで運転した。200マイクロスキャンで4000~10,000m/zから収集したフルスキャンデータと、35,000又は17,500(200m/zで)のOrbitrap分解能及び1e6チャージのターゲットAGCを用いた。SレンズRFレベルは200%に設定し、延長トラッピングは100に設定した。タンパク質二量体から付加物を放出するために、HCD衝突活性化を5~15に設定した正規化衝突エネルギー(NCE)で適用した。各実験からの生スペクトルを、複数のスキャンにわたって合計した。質量デコンボリューションは、ゼロ電荷質量及び関連質量標準偏差を生成するために、mMass及び/又はUniDecを用いて実施した。
【0220】
無傷タンパク質質量分析及び代謝
処理及び非修飾の精製hOAT試料を、Amicon Ultra 10KDa分子量スピンフィルター(Millipore)上の最適グレード水(Fisher)で10回脱塩した。タンパク質をクロマトグラフィーで分離するために、Dionex Ultimate3000液体クロマトグラフィーシステム(Thermo Fisher)を用いて、タンパク質0.5μgを3cmのPLRP-S(Agilent)トラップカラムに装填した。タンパク質分析物を10%溶媒B(95%アセトニトリル/5% 2O/0.2%ギ酸)及び90%溶媒A(5%アセトニトリル/95%HO/0.2%ギ酸)の10分間のアイソクラティック勾配で洗浄した。タンパク質を、PLRP-S樹脂(Agilent)を充填した長さ75μm ID×15cmのナノ細孔キャピラリーカラムで自家製に分離した。LC系は、以下の勾配で0.3μL/分の流速で操作した:0~10分、10%溶媒B;10~12分、~40%溶媒B;12~22分、~90%溶媒B;22~24分、90%溶媒B;24~26分、~10%溶媒B;26~30分、10%溶媒Bで26~30分のアイソクラティック。hOAT試料をThermo Fischer Orbitrap Fusion Lumos又はEclipse質量分析計に導入し、前述のように全MSデータを取得した。前述したように、Q-Exactive Orbitrap質量分析計(Thermo)上で、小分子及び代謝物の質量を同定し、正及び負モードの高分解能LC-MS/MSにより特徴付けた。
【0221】
SS-1-148によるhOATの[0263]結晶化及び結晶浸漬
hOAT結晶浸漬。ホロ酵素結晶をまず懸垂液滴蒸気拡散法により成長させた。1滴中にタンパク質2μL及びウェル溶液2μLを含有した。最良の結晶化条件は、10%PEG8000、200mM NaCl、10%グリセロールを含んでいた。ホロ酵素結晶が最大サイズに達すると、16mM SS-1-148の2μLを結晶で滴に添加した。SS-1-148添加の最初の5分以内に、hOAT結晶は黄色から青色に変色した。結晶を1時間浸漬し、凍結保護溶液(30%グリセロールを添加したウェル溶液)に移し、次に液体窒素中でフラッシュ凍結した。
【0222】
hOAT共結晶化。精製後、hOATを、5mM α-ケトグルタル酸を供給する結晶化緩衝液(50mMトリシンpH7.8)中に緩衝液交換した。次に、タンパク質を6mg/mLに濃縮した。以前に報告された結晶化条件を、PEG6000(8~12%)、NaCl(100~250mM)、グリセロール(0~10%)及び100mMトリシンpH7.8を緩衝液として一定に保つことにより懸垂液滴蒸気拡散法を用いて最適化した。懸垂1滴につき、2μLのタンパク質溶液を等容量のウェル溶液及び0.5μLの10mM SS-1-148と混合した。10%PEG8000、200mM NaCl、10%グリセロールを含む最終条件下で、最高の形態とサイズの結晶が成長した。結晶を凍結保護液(30%グリセロールを添加したウェル溶液)に移し、その後液体窒素中でフラッシュ凍結した。
【0223】
X線回折及びデータ処理。アルゴンヌ国立研究所のAdvanced Photon SourceのLS-CATビームライン21-ID-Dで単色X線回折データを収集した。Dectris Eiger 9M検出器を用いて、波長1.127Å、温度100Kでデータを収集した。データセットを処理し、autoPROCソフトウェアで解析した。
【0224】
モデルの構築及び改良。Phenix中のPhaserを用いた分子置換によりhOAT構造を解いた。最初の検索モデルは、以前に発表されたhOATの構造(PDBコード:1OAT)であった。最低のRfree/Rファクター値が達成されるまでの反復過程として、CootとPhenixでモデル構築と改良をそれぞれ達成した。UCSFキメラを用いて構造図を作成した19
【0225】
過渡状態法。
Hitech Scientific(TgK)停止流分光光度計と電荷結合素子検出(260~800nm)を組み合わせた過渡状態でSS-1-148とhOATの反応を観察した。hOAT(12.68μM)を50mMのHEPES及び200mMのNaClを含む緩衝液(pH7.5)中で種々の濃度(125、251、502、1004、2008、4016、8032μM)のSS-1-148と10℃で反応させた。阻害剤の各濃度について、CCDスペクトルデータセットを50秒間重複して収集し、重複を平均した。阻害剤の最高濃度(8mM)について、2つの時間枠(0.0025~12.4秒及び0.0025~2480秒)について重複CCDデータセットを得た。任意の時間枠についての複製データセットを平均化し、次に12秒で一緒にスプライシングして、1つのデータセットを形成し、迅速で遅いプロセスを適切に記述するのに十分な時間分解能を有した。ハイブリッドデータセットを、KinTek ExplorerソフトウェアのSpectrafit特異値分解モジュールを用いて線形4種モデルに基づいてデコンボリューションした。この過程において、速度定数は、式(3)、(4)及び(5)に従って連続した一次過程を仮定する単一波長について抽出されたデータに分析的適合を用いて測定された値に固定された。抗体は吸光度であり、Axは観察された各相に関連する振幅であり、kxは対応する速度定数であり、Cは吸光度の終点である。
【0226】
【数3】
【0227】
ギブス自由エネルギー計算
MOPAC 2016は、量子理論と熱力学の概念に基づく計算化学ソフトウェアであり、いくつかの進歩した数学の概念を用いている。これは、固体状態、ナノ構造、分子構造及びそれらの反応の研究に使用される半経験的分子軌道パッケージである20-21。この文脈において、MOPAC 2016は、M7の各互変異性形の分子幾何学を設定し(図14)、続いてPM7半経験的方法を通して最適化するために使用されてきた。水分子による溶媒和は計算に考慮されなかった。図14に示した各互変異性体の結合自由エネルギーについて、分子力学エネルギー、極性及び非極性エネルギー、及びエントロピーの組み合わせを考察した。エンタルピー(ΔH)とエントロピー(ΔS)はそれぞれの互変異性体のΔG値に寄与し、ギブス自由エネルギー方程式、ΔG=ΔH-TΔSによって決定される。
【0228】
理論的pK 計算
M1、M1’、及びM1’’の中性及び脱プロトン化種の幾何学は、理論のDFT B3LYP/6-31G**レベルを用いて完全に最適化された。調べたすべての化合物について、化合物の気相Gibbs自由エネルギー変化(ΔGg)をGaussian09ソフトウエアを用いて計算した22。溶媒和自由エネルギーを、同じレベルの理論と基底集合(B3LYP/6-31G**)を用いて分極可能連続体モデル(PCM)を適用して計算した。PCM計算は、溶媒キャビティを構築するときに溶媒和のギブス自由エネルギーを計算するときにUAHF原子半径とともに使用された。pKa値は、以下の式(6)、(7)、及び(8)と、Ghalami-Choobarらによって提示された熱力学サイクルAを適用して得られた。
【0229】
【数4】
【0230】
静電ポテンシャル(ESP)電荷計算
Spartan’14ソフトウェア(Wavefuction,Inc.,2014)を用いてM1,M1’,M1’’の三次元(3D)分子モデルを構築した。Merck分子力場(MMFF94)を用いた分子力学により構築構造を精緻化した。次に、最も低いエネルギー配座異性体を選択し、平衡幾何学と分子軌道を6-31G理論レベルのHartree-Fock(HF)を用いて計算した。Spartan’14はまた、電子密度及び静電ポテンシャルマップを生成するために使用された。
【0231】
略語
BocO、二炭酸ジ-tert-ブチル;Deoxo-Fluor、ビス(2-メトキシエチル)アミノ硫黄三フッ化物;DMPK、薬物代謝及び薬物動態;DIPEA、N,N-ジイソプロピルエチルアミン;DBDMH、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン;DMF、ジメチルホルムアミド;DMSO、ジメチルスルホキシド;DCM、ジクロロメタン;THF、テトラヒドロフラン;TEA、トリエチルアミン;TBAI、テトラ-n-ヨウ化ブチルアンモニウム。
【0232】
参考文献
1. Lu, H.; Silverman, R. B., Fluorinated conformationally restricted gamma-aminobutyric acid aminotransferase inhibitors. J Med Chem 2006, 49 (25), 7404-12.
2. Shen, S.; Doubleday, P. F.; Weerawarna, P. M.; Zhu, W.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B., Mechanism-Based Design of 3-Amino-4-Halocyclopentenecarboxylic Acids as Inactivators of GABA Aminotransferase. ACS Med Chem Lett 2020, 11 (10), 1949-1955.
3. Mascarenhas, R.; Le, H. V.; Clevenger, K. D.; Lehrer, H. J.; Ringe, D.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B.; Liu, D., Selective Targeting by a Mechanism-Based Inactivator against Pyridoxal 5'-Phosphate-Dependent Enzymes: Mechanisms of Inactivation and Alternative Turnover. Biochemistry 2017, 56 (37), 4951-4961.
4. Christensen, E. M.; Patel, S. M.; Korasick, D. A.; Campbell, A. C.; Krause, K. L.; Becker, D. F.; Tanner, J. J., Resolving the cofactor-binding site in the proline biosynthetic enzyme human pyrroline-5-carboxylate reductase 1. J Biol Chem 2017, 292 (17), 7233-7243.
5. Koo, Y. K.; Nandi, D.; Silverman, R. B., The multiple active enzyme species of gamma-aminobutyric acid aminotransferase are not isozymes. Arch Biochem Biophys 2000, 374 (2), 248-54.
6. Silverman, R. B.; Bichler, K. A.; Leon, A. J. J. Am. Chem. Soc. 1996, 118 (6), 1241-52.
7. Juncosa, J. I.; Lee, H.; Silverman, R. B., Two continuous coupled assays for ornithine-delta-aminotransferase. Anal Biochem 2013, 440 (2), 145-9.
8. Moschitto, M. J.; Doubleday, P. F.; Catlin, D. S.; Kelleher, N. L.; Liu, D.; Silverman, R. B., Mechanism of Inactivation of Ornithine Aminotransferase by (1S,3S)-3-Amino-4-(hexafluoropropan-2-ylidenyl)cyclopentane-1-carboxylic Acid. J Am Chem Soc 2019, 141 (27), 10711-10721.
9. Juncosa, J. I.; Takaya, K.; Le, H. V.; Moschitto, M. J.; Weerawarna, P. M.; Mascarenhas, R.; Liu, D. L.; Dewey, S. L.; Silverman, R. B., Design and Mechanism of (S)-3-Amino-4-(difluoromethylenyl)cyclopent-1-ene-1-carboxylic Acid, a Highly Potent gamma-Aminobutyric Acid Aminotransferase Inactivator for the Treatment of Addiction. J Am Chem Soc 2018, 140 (6), 2151-2164.
10. Lee, H.; Doud, E. H.; Wu, R.; Sanishvili, R.; Juncosa, J. I.; Liu, D. L.; Kelleher, N. L.; Silverman, R. B., Mechanism of Inactivation of gamma-Aminobutyric Acid Aminotransferase by (1S,3S)-3-Amino-4-difluoromethylene-1-cyclopentanoic Acid (CPP-115). J Am Chem Soc 2015, 137 (7), 2628-2640.
11. Niedermeyer, T. H.; Strohalm, M., mMass as a software tool for the annotation of cyclic peptide tandem mass spectra. PLoS One 2012, 7 (9), e44913.
12. Marty, M. T.; Baldwin, A. J.; Marklund, E. G.; Hochberg, G. K.; Benesch, J. L.; Robinson, C. V., Bayesian deconvolution of mass and ion mobility spectra: from binary interactions to polydisperse ensembles. Anal Chem 2015, 87 (8), 4370-6.
13. Zhu, W.; Doubleday, P. F.; Catlin, D. S.; Weerawarna, P. M.; Butrin, A.; Shen, S.; Wawrzak, Z.; Kelleher, N. L.; Liu, D.; Silverman, R. B., A Remarkable Difference That One Fluorine Atom Confers on the Mechanisms of Inactivation of Human Ornithine Aminotransferase by Two Cyclohexene Analogues of gamma-Aminobutyric Acid. J Am Chem Soc 2020, 142 (10), 4892-4903.
14. Vonrhein, C.; Flensburg, C.; Keller, P.; Sharff, A.; Smart, O.; Paciorek, W.; Womack, T.; Bricogne, G., Data processing and analysis with the autoPROC toolbox. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 2011, 67 (Pt 4), 293-302.
15. McCoy, A. J.; Grosse-Kunstleve, R. W.; Adams, P. D.; Winn, M. D.; Storoni, L. C.; Read, R. J., Phaser crystallographic software. J Appl Crystallogr 2007, 40 (Pt 4), 658-674.
16. Shen, B. W.; Hennig, M.; Hohenester, E.; Jansonius, J. N.; Schirmer, T., Crystal structure of human recombinant ornithine aminotransferase. J Mol Biol 1998, 277 (1), 81-102.
17. Emsley, P.; Lohkamp, B.; Scott, W. G.; Cowtan, K., Features and development of Coot. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 2010, 66 (Pt 4), 486-501.
18. Liebschner, D.; Afonine, P. V.; Baker, M. L.; Bunkoczi, G.; Chen, V. B.; Croll, T. I.; Hintze, B.; Hung, L. W.; Jain, S.; McCoy, A. J.; Moriarty, N. W.; Oeffner, R. D.; Poon, B. K.; Prisant, M. G.; Read, R. J.; Richardson, J. S.; Richardson, D. C.; Sammito, M. D.; Sobolev, O. V.; Stockwell, D. H.; Terwilliger, T. C.; Urzhumtsev, A. G.; Videau, L. L.; Williams, C. J.; Adams, P. D., Macromolecular structure determination using X-rays, neutrons and electrons: recent developments in Phenix. Acta Crystallogr D Struct Biol 2019, 75 (Pt 10), 861-877.
19. Pettersen, E. F.; Goddard, T. D.; Huang, C. C.; Couch, G. S.; Greenblatt, D. M.; Meng, E. C.; Ferrin, T. E., UCSF Chimera--a visualization system for exploratory research and analysis. J Comput Chem 2004, 25 (13), 1605-12.
20. Dewar, M. J. S.; Thiel, W., Ground states of molecules. 39. MNDO results for molecules containing hydrogen, carbon, nitrogen, and oxygen. Journal of the American Chemical Society 1977, 99 (15), 4907-4917.
21. Stewart, J. J. P., Optimization of parameters for semiempirical methods VI: more modifications to the NDDO approximations and re-optimization of parameters. Journal of Molecular Modeling 2013, 19 (1), 1-32.
22. Gaussian 09, Revision A.02, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, X. Li, M. Caricato, A. Marenich, J. Bloino, B. G. Janesko, R. Gomperts, B. Mennucci, H. P. Hratchian, J. V. Ortiz, A. F. Izmaylov, J. L. Sonnenberg, D. Williams-Young, F. Ding, F. Lipparini, F. Egidi, J. Goings, B. Peng, A. Petrone, T. Henderson, D. Ranasinghe, V. G. Zakrzewski, J. Gao, N. Rega, G. Zheng, W. Liang, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, K. Throssell, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. Bearpark, J. J. Heyd, E. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, T. Keith, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, J. M. Millam, M. Klene, C. Adamo, R. Cammi, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, O. Farkas, J. B. Foresman, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2016.
23. Ghalami-Choobar, B.; Dezhampanah, H.; Nikparsa, P.; Ghiami-Shomami, A., Theoretical calculation of the pKa values of some drugs in aqueous solution. International Journal of Quantum Chemistry 2012, 112 (10), 2275-2280.
【0233】
本開示によれば、構造的、立体化学的及び/又は立体配置的に変化する種々の他の化合物は、当業者に公知であり理解されるような修飾、このような手順、技術及び修飾を、任意の対応する試薬又は出発物質の商業的又は合成的利用可能性によってのみ制限されるような、そのような組み込まれた合成方法及び技術、又はそれらの直接的修飾によって利用可能である。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B-1】
図5B-2】
図6
図7A-B】
図7C
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図15-4】
【国際調査報告】