(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶、その製造方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 39/11 20060101AFI20240229BHJP
C07C 37/84 20060101ALI20240229BHJP
C07D 213/82 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07C39/11 CSP
C07C37/84
C07D213/82
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554035
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 CN2022078935
(87)【国際公開番号】W WO2022184120
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】202110243777.0
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523322782
【氏名又は名称】コクリスタル テクノロジー(チアシン)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】メイ シュエフォン
(72)【発明者】
【氏名】チアン ユイハン
(72)【発明者】
【氏名】チュー ピンチン
【テーマコード(参考)】
4C055
4H006
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA01
4C055CA02
4C055CA34
4C055DA01
4C055GA01
4H006AA01
4H006AA02
4H006AD15
4H006BC51
4H006FC52
4H006FE11
4H006FE13
(57)【要約】
本発明は、医薬技術分野に関し、具体的に、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶、その製造方法および組成物に関する。本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であり、セルパラメータa=9.4999、b=11.8285、c=11.4439、α=90°、β=96.628°、δ=90°である。本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、融点が高く、吸湿しなく、安定性がよく、ヒドロキシチロソールの利用便利性を向上する。研磨法により直接的に製造された組成物は、収率が高く、コストが低く、大規模の幅広い応用に適する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1である、ことを特徴とする、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶。
【請求項2】
前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶のセルパラメータa=9.4999、b=11.8285、c=11.4439、α=90°、β=96.628°、δ=90°である、ことを特徴とする、請求項1記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶。
【請求項3】
前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶が、2θ角度で示されるX線粉末回折において、少なくとも回折角11.4±0.2、13.6±0.2、14.9±0.2、17.6±0.2、18.8±0.2、20.1±0.2、20.3±0.2、20.8±0.2°で特徴ピークを有する;
および/または、前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶が基本的に
図1で示されるようなX線粉末回折パターンを有する、
ことを特徴とする、請求項1記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶。
【請求項4】
前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の融点が111℃±2℃である;
および/または、示差走査熱量分析測定により、前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の融解開始温度が110±2℃であり、最大ピーク値が111±2℃である、
ことを特徴とする、請求項1記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶。
【請求項5】
前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、赤外線吸収スペクトルで少なくとも3426cm
-1、3371cm
-1、3155cm
-1、1692cm
-1、1627cm
-1、1601cm
-1、1527cm
-1、1409cm
-1、1356cm
-1、1260cm
-1、1200cm
-1、1117cm
-1、1060cm
-1、1026cm
-1、929cm
-1、849cm
-1、809cm
-1、711cm
-1、654cm
-1、635cm
-1で吸収ピークを有し;
好ましくは、前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶が、基本的に
図3で示されるような赤外線スペクトルを有する、
ことを特徴とする、請求項1記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の製造方法であって、少なくとも
S1:ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを有機溶媒に溶解し、第1の温度で完全溶解するまで撹拌する工程;
S2:S1で得られる溶液を前記第1の温度よりも低い第2の温度で冷却し、晶析する工程;
S3:固体分離し、乾燥し、前記ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得る工程、
を含む;
および/または、前記第一温度が10~80℃であり、好ましくは30~50℃である;
および/または、前記第2の温度が-40~0℃であり、好ましくは-30~-10℃である、
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブチルアルコール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、tert-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロメタン、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルからなる群より選ばれる一つまたは複数である、ことを特徴とする、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の製造方法であって、少なくとも:
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを粉砕装置に投入し混合研磨し、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1以下である工程、を含む;
および/または、前記粉砕装置が、機械式粉砕機およびボールミル機を含む;
および/または、前記混合の温度が15~50℃である;
および/または、前記ボールミル機の周波数が30~50Hzである、
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する組成物であって、前記組成物が、さらに、ニコチンアミドおよび/または薬理学的に許容される添加剤を含み;
好ましくは、組成物の原料がモル比1:1.01~1:3のヒドロキシチロソールとニコチンアミドからなる場合、前記組成物が2θ角度で示されるX線粉末回折パターンにおいて回折角11.4±0.2、13.6±0.2、14.9±0.2、17.6±0.2、18.8±0.2、20.1±0.2、20.3±0.2、20.8±0.2°で特徴ピークを有する、ことを特徴とする、組成物。
【請求項10】
請求項9記載の組成物の製造方法であって、固形研磨法により製造し;
好ましくは、少なくとも、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを粉砕装置に投入し混合研磨し、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1よりも低く、好ましくは1:1.01~1:5、より好ましくは1:1.01~1:3である工程を含む、ことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬技術分野に関し、具体的に、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶、その製造方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシチロソールは、オリーブオイルから抽出されたポリフェノール系化合物であり、具体的な構造式が、式Iで示される。
【0003】
【0004】
ヒドロキシチロソールは、比較的に強い酸化防止能力および幅広い生物学的活性を持ち、現在、広く食品、サプリメントおよび化粧品に応用されている。しかしながら、ヒドロキシチロソール原料は、そのものの融点が低く(52℃)、吸湿性が大きく、環境温度および湿度でワックス状の固体または粘着なオイル状として存在し、直接的にハードカプセルまたは錠剤に適用できなく、かつ原料のそのものが光、熱、水分、酸素等に対して極めて不安定であり、使用の過程において酸化し変色しやすいものである。
【0005】
現在、包埋法によりヒドロキシチロソールを保護し、形成されたヒドロキシチロソールの包埋粉搭載量が20~30%であり、ヒドロキシチロソールのそのものと比較し、包埋粉の粉末の特性がより最適化されたが、ヒドロキシチロソールが両親媒性化合物であるため、包封率が高くなく、包埋されていないヒドロキシチロソールが依然として不安定性があり、変色しやすい等の課題があり;そして、包埋粉が大量のデンプン系添加剤を含有するため、吸湿性がさらに増大していることが報告されている。
【0006】
以上を鑑みると、本発明を提出する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の発明目的は、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を提出することにある。
【0008】
本発明の第2の発明目的は、このヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の製造方法を提出することにある。
【0009】
本発明の第3の発明目的は、このヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含む組成物を提出することにある。
【0010】
本発明の発明目的を達成するために、採用された技術案は、以下である。
【0011】
ヒドロキシチロソール製品の安定性を向上させるために、本発明は、補助化合物を加入する方法により、ヒドロキシチロソール共結晶を製造し、この補助化合物には、分子レベルでヒドロキシチロソールと非共有結合の相互作用が存在し、そのため分子レベルでヒドロキシチロソールの融点を向上させ、その安定性を改善し、その応用分野を広くすることができる。
【0012】
第一の態様では、本発明は、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であり、ニコチンアミドの構造式が式IIで示される、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶化合物を提出する。
【0013】
【0014】
本発明は、大量の実験により、L-プロリン、L-カルニチンおよびニコチン酸等のような他の類似の化合物は、いずれもヒドロキシチロソールを安定な粉末製剤に製造することができないことを見出した。ニコチンアミドを採用して共結晶を製造し、上記の技術課題を解決でき、本発明を完成した。
【0015】
本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶のセルパラメータは、a=9.4999、b=11.8285、c=11.4439、α=90°、β=96.628°、δ=90°である。
【0016】
いくつかの実施形態では、ヒドロキシチロソールと比較して、本発明で製造されたヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、著しく向上した融点を有する。なお、周知常識として、すべての共結晶が著しく融点を向上させるのではなく、一部の共結晶の融点が、単独の2つの化合物の融点よりも低い可能性がある。いくつかの実施形態では、ヒドロキシチロソールと比較して、本発明で製造されたヒドロキシチロソール共結晶は、さらに、著しく低下した吸湿性を有する。いくつかの実施形態では、ヒドロキシチロソールと比較して、本発明で製造されたヒドロキシチロソール共結晶は、著しく向上した化学的安定性を有する。
【0017】
特に、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶が、2θ角度で示されるX線粉末回折パターンにおいて、少なくとも11.4±0.2、13.6±0.2、14.9±0.2、17.6±0.2、18.8±0.2、20.1±0.2、20.3±0.2、20.8±0.2の回折角°で特徴ピークを有する。さらに特に、基本的に
図1で示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0018】
特に、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、融点が111℃±2℃である。示差走査熱量分析測定により、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、融解開始温度が110±2℃であり、最大ピーク値が111±2℃である。さらに特に、基本的に
図2で示されるような示差走査熱量分析図を有する。
【0019】
特に、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、赤外線吸収スペクトルで少なくとも3426cm
-1、3371cm
-1、3155cm
-1、1692cm
-1、1627cm
-1、1601cm
-1、1527cm
-1、1409cm
-1、1356cm
-1、1260cm
-1、1200cm
-1、1117cm
-1、1060cm
-1、1026cm
-1、929cm
-1、849cm
-1、809cm
-1、711cm
-1、654cm
-1、635cm
-1で吸収ピークを有する。さらに特に、基本的に
図3で示されるような赤外線スペクトルを有する。
【0020】
第2の態様では、本発明は、ヒドロキシチロソール共結晶の製造方法であって、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを分子状態で接触させた後、晶析する工程を含む、方法に関する。
【0021】
分子状態での接触は、溶液合成法、固形研磨法等を含むが、これらに限定しない。溶液合成法とは、溶液において共結晶の合成を行うことを意味し、徐速蒸発、冷却結晶化、懸濁結晶化、溶解晶析等を含む。固形研磨法は、主に、固体を乾式研磨および溶媒補助研磨することを含む。乾式研磨法は、主体の薬物とリガンドの混合物を研磨することにより、共結晶製品を得る方法である。溶液補助研磨は、研磨過程において少量の溶媒を添加することにより研磨効率を向上させる方法である。固形研磨法の方式は、ボールミルまたは高速せん断を含む。
【0022】
特に、ヒドロキシチロソール共結晶の製造方法は、以下の方法の一であってもよい。
【0023】
方法一:
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを有機溶媒において再結晶化し、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得る;
方法二:
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを粉砕装置に投入し混合し、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得る。
【0024】
特に、方法一は、少なくとも以下の工程を含む:
S1:ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを第1の温度で有機溶媒に溶解する;
S2:S1で得られる溶液を第1の温度よりも低い第2の温度で冷却し、ヒドロキシチロソール共結晶を析出する。
【0025】
具体的に、S1において、第一温度が10~80℃であり、好ましくは30~50℃である。
【0026】
具体的に、S1において、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を製造する場合、有機溶媒が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブチルアルコール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、tert-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロメタン、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルからなる群より選ばれる一つまたは複数である。好ましくは、有機溶媒が、エタノールおよびイソアミルアルコールの混合溶媒、エタノールおよびイソブチルアルコールの混合溶媒、エタノールおよびtert-アミルアルコールの混合溶媒からなる群より選ばれる。混合溶媒における二つの溶媒の体積比が、1:0.1~10、好ましくは1:1~5、より好ましくは1:1であってもよい。
【0027】
具体的に、S2において、第2の温度が-40~0℃であり、好ましくは-30~-10℃である。
【0028】
具体的に、S2において、晶析過程において、種結晶を加入して、結晶の形成を加速させることができる。
【0029】
具体的に、晶析後には、さらに、固液分離および乾燥の工程を含み;その中、固液分離は、濾過、遠心等の方法から選択することができ、好ましくは濾過であり;乾燥は、常圧乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等の方式により行い、好ましくは常温で真空乾燥する。
【0030】
特に、方法二は、少なくとも以下の工程を含む:
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを粉砕装置に投入し混合し、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1以下である。
【0031】
具体的に、粉砕装置が、機械式粉砕機およびボールミル機を含む。
【0032】
具体的に、混合の温度が、15~50℃である。
【0033】
具体的に、ボールミル機の周波数が、30~50Hzである。
【0034】
具体的に、機械式粉砕機の回転数が、5000~30000rpmである。
【0035】
第3の態様では、本発明は、上記のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含む、組成物を提供する。
【0036】
いくつかの実施形態では、組成物には、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶以外、さらに過剰量のニコチンアミドを含んでもよく、過剰量のヒドロキシチロソールを含んでもよく、そしてその他の薬理学的に許容される添加剤を含むことができる。すなわち、組成物の原料において、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が、特に限定せずに、組成物の原料から上記のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を製造できればよい。例えば、組成物中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が、10:1~1:10であってもよく、その中の一部の成分がヒドロキシチロソール共結晶として存在し、他の成分が遊離物として存在してもよい。さらに好ましくは、ヒドロキシチロソールの全部を共結晶に形成し、ヒドロキシチロソールの低い融点、悪い安定性の欠点を克服する。
【0037】
第4の態様では、本発明の組成物の製造方法は、好ましくは、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを粉砕装置に投入することにより共結晶製造し、その後ヒドロキシチロソールとニコチンアミドを含む組成物を得ることを含む。組成物の原料において、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1よりも低く、好ましくは、ヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1.01~1:10であり、さらに好ましくは1:1.01~1:3である。ニコチンアミドが残りすぎると、吸湿性が増大する傾向があり、ヒドロキシチロソールの安定性に不利となる。
【0038】
その他の薬理学的に許容される添加剤が添加される場合、さらにその他の添加剤と混合する工程を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、組成物の原料が、モル比1:1.01~1:3のヒドロキシチロソールとニコチンアミドからなり、組成物中のヒドロキシチロソールのモル数に対して、遊離ニコチンアミドのモル数がヒドロキシチロソールモル数の101%~200%である。組成物中の遊離ニコチンアミドがこの比例範囲にあると、組成物は、いずれも、2θ角度で示されるX線粉末回折パターンにおいて回折角11.4±0.2、13.6±0.2、14.9±0.2、17.6±0.2、18.8±0.2、20.1±0.2、20.3±0.2、20.8±0.2°で特徴ピークを有する。それは、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の特徴ピークを有することにより、この組成物中の共結晶が本発明の共結晶の結晶形と一致することを実証する。特に、示差走査熱量分析測定により、この組成物の融解開始温度が100±2℃であり、最大ピーク値が101℃±2℃である。組成物中の遊離ニコチンアミドがこの比例範囲にあると、この組成物は、赤外線吸収スペクトルで、いずれも少なくとも3426cm-1、3371cm-1、3155cm-1、1692cm-1、1627cm-1、1601cm-1、1527cm-1、1409cm-1、1356cm-1、1260cm-1、1200cm-1、1117cm-1、1060cm-1、1026cm-1、929cm-1、849cm-1、809cm-1、711cm-1、654cm-1、635cm-1で吸収ピークを有する。
【0040】
さらに好ましくは、本発明の組成物は、研磨法により直接的に製造されることができる。そして、研磨法によりヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を製造する場合、過剰量のニコチンアミドを添加することにより、製造時間を短縮するとともに、ヒドロキシチロソールを全部共結晶に形成させ、組成物中に遊離状態のヒドロキシチロソールが存在しないことを保証できる。そして、研磨法により直接的に製造された組成物は、一定量のニコチンアミドを含有するが、組成物の融点、吸湿性および安定性に著しく不利な影響なく、溶媒結晶化法と比較して、製造効率が高い技術利点を有し、収率を向上させ、コストを低下させることができ、大規模の幅広い応用に適する。
【0041】
本発明の有利な効果は、少なくとも以下を含む。
【0042】
ヒドロキシチロソールのそのものと比較して、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、融点が著しく向上した。ヒドロキシチロソールのそのものおよびその包埋粉と比較して、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶は、吸湿性が低下し、そして化学的安定性が著しく向上した。
【0043】
ヒドロキシチロソールとニコチンアミドの共結晶と比較して、本発明では、研磨法により製造されたヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する組成物が、収率が高く、コストが低く、規模化生産に適する技術利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の実施例のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶のX線粉末回折(XRPD)パターンである。
【
図2】本発明の実施例のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の示差走査熱量分析(DSC)図である。
【
図3】本発明の実施例のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の赤外線スペクトル(IR)図である。
【
図4】本発明の実施例のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する混合物のX線粉末回折(XRPD)パターンである。
【
図5】本発明の実施例のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する混合物の示差走査熱量分析(DSC)図である。
【
図6】ヒドロキシチロソールそのもの、ヒドロキシチロソール包埋粉、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶(実施例1)、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する組成物(実施例4)、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する組成物(実施例5)の動的水分吸着対照図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の目的、技術案および利点をさらに明らかにするために、以下、図面および実施例を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。なお、ここで記載される具体的な実施例は、本発明を釈明するためのみに使用され、本発明を限定しない。
【0046】
試薬および装置
本発明の実施例におけるX線粉末回折パターンは、Bruker D8 Advanced型番のX線粉末回折装置を採用して得れたものである。この装置が、Cu-Kα照射(λ=1.54056Å)を採用し、スキャン範囲が2θ区間で3°から40°であり、スキャン速度が2°/分である。
【0047】
示差走査熱量分析法は、TA DSC Q2000装置を採用し、加熱速度が10K/minであった。
【0048】
フーリエ変換赤外線分光計は、Thermo Scientific Nicolet 6700を採用した。
【0049】
ヒドロキシチロソールは、陝西富恒生物科技有限公司から購入され、純度≧98%であった。
【0050】
ニコチンアミドは、Aladdin試薬から購入され、純度≧98.5%であった;
ヒドロキシチロソール包埋粉は、陝西富恒生物科技有限公司から購入され、その中、30%のヒドロキシチロソールと70%の重合体添加剤(主にマルトデキストリン)を含み、噴霧乾燥の方法により製造された。
【実施例】
【0051】
実施例1
ヒドロキシチロソール(4mmol)とニコチンアミド(4mmol)をモル比1:1で20mlのエタノールおよびイソアミルアルコール(体積比1:1)の混合溶媒に加入し、40℃で溶液が清澄となるまで撹拌し、-20℃で冷却し、24時間後、再結晶化し白色沈殿物を得て、ブフナー漏斗により沈殿物を濾過し、固体を真空乾燥ボックスで1日間常温乾燥し、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得た。
【0052】
セルパラメータ:a=9.4999、b=11.8285、c=11.4439、α=90°、β=96.628°、δ=90°
上記の実験データから、共結晶中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であることを実証した。
【0053】
この共結晶が、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量分析、赤外線スペクトルにより表現された。結果は、
図1-
図3で示される。
【0054】
実施例2
ヒドロキシチロソール(4mmol)とニコチンアミド(4mmol)をモル比1:1で20mlのエタノールおよびイソブチルアルコール(体積比1:1)の混合溶媒に加入し、40℃で溶液が清澄となるまで撹拌し、-20℃で冷却し、24時間後、再結晶化し白色沈殿物を得て、ブフナー漏斗により沈殿物を濾過し、固体を真空乾燥ボックスで1日間常温乾燥し、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得た。
【0055】
この共結晶が、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量分析、赤外線スペクトルにより表現された。結果は、
図1~
図3と一致した。
【0056】
実施例3
ヒドロキシチロソール3.1gとニコチンアミド2.4g(モル比1:1)を量り、ボールミル缶(上海浄信Tissuelyser-II試料快速研磨機)に投入し、適量の研磨ボールを加入し、室温で40Hz周波数で2時間ボールミルし、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を得た。
【0057】
この共結晶が、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量分析、赤外線スペクトルにより表現された。結果は、
図1~
図3と一致した。得られた共結晶の結晶形は、実施例1と同じ結晶形であることを証明した。
【0058】
実施例4
ヒドロキシチロソール3.1gとニコチンアミド4.8g(モル比1:2)を量り、ボールミル缶(上海浄信Tissuelyser-II試料快速研磨機)に投入し、適量の研磨ボールを加入し、室温で40Hz周波数で2時間ボールミルし、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する混合物を得た。
【0059】
この混合物は、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量分析により表現された。実験結果は、
図4および
図5で示される。
【0060】
図4は、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶の特徴ピークである11.4±0.2°、13.6±0.2°、14.9±0.2°、17.6±0.2°、18.8±0.2°、20.1±0.2°、20.3±0.2°、20.8±0.2°と、遊離ニコチンアミド晶体の特徴ピークである25.3±0.2°および27.3±0.2°を示した。
【0061】
図5は、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶および遊離のニコチンアミドが、低融点共晶物を形成し、約100℃で一つの共晶吸熱ピークを有し、遊離ニコチンアミドの熔融ピークがないことを示した。
【0062】
上記の結果から、この混合物がヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶とニコチンアミドの混合物であり、結晶形が実施例1で製造された共結晶の結晶形と一致し、共結晶中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であることを証明した。
【0063】
実施例5
ヒドロキシチロソール1.6gとニコチンアミド3.8g(モル比1:3)を量り、ボールミル缶(上海浄信Tissuelyser-II試料快速研磨機)に投入し、適量の研磨ボールを加入し、室温で40Hz周波数で2時間ボールミルし、ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する混合物を得て、共結晶中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であった。
【0064】
この混合物は、X線粉末回折(XRPD)により表現され、その特徴ピークの位置が
図4と基本的に一致し、得られた共結晶の結晶形が実施例1と同じ結晶形であり、共結晶中のヒドロキシチロソールとニコチンアミドのモル比が1:1であることを証明した。示差走査熱量分析により、その吸収ピークの位置が、
図5と基本的に一致することを分かった。
【0065】
実施例6
ヒドロキシチロソール、ヒドロキシチロソール包埋粉、実施例1で得られたヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶、実施例4で得られた組成物の吸湿性を比較した。
【0066】
約5mg粉末試料を取り、動的水分吸着装置(DVS)に設置し、相対湿度範囲が0~95%であり、温度が25℃であると設定し、試料が異なる環境湿度条件での重量変化を記録し、試料の吸湿性を判断した。実験結果は、
図6で示される。
【0067】
図6から、80%相対湿度で、ヒドロキシチロソールおよび包埋粉は、16.9%および116.3%とひどく吸湿したことに対し、本発明で提供されるヒドロキシチロソール共結晶および組成物は、基本的に吸湿性がないことを分かった。そして、組成物の吸湿性(80%RHで0.94%および0.79%吸湿)は、共結晶の吸湿性(80%RHで0.39%吸湿)と比較してやや増加した。
【0068】
これにより、本発明で記載されるヒドロキシチロソール共結晶および組成物は、ヒドロキシチロソールおよびその包埋粉と比較して、吸湿性が著しく低下した。
【0069】
実施例7:
ヒドロキシチロソール、ヒドロキシチロソール包埋粉、実施例1で得られたヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶、実施例4および実施例5で得られた組成物の40℃/75%RHでの化学的安定性を比較した。
【0070】
適量の粉末試料を40℃/75%RH加速安定性ボックスに設置し、包装条件:二重層ポリエチレン袋、0d、14d、30dでサンプリングした。高速液体クロマトグラフィー測定(含有量の算出方法が外部標準法である)を採用してヒドロキシチロソール含有量を測定した。
【0071】
液相方法は、以下であった。
【0072】
移動相: A相:0.1% トリフルオロ酢酸水溶液、B相:アセトニトリル;流速:1mL/min;検出波長:280nm;クロマトグラフィーカラム:C18 Plus 4.6×150mm×5μm;
勾配方法:
0~10min――A:B (95:5);
10.1~14min――A:B (50:50);
14.0~17min――A:B (95:5)。
【0073】
実験結果は、表1で示される。
【0074】
【0075】
表1から、試料中の初期ヒドロキシチロソール含有量が、いずれも100%とした。30日間後、ヒドロキシチロソールの含有量が初期含有量の92.3%であり、包埋粉の含有量が初期含有量の57.2%にしかなく、一方、本発明で提供されたヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶において、ヒドロキシチロソールの含有量が依然として99%以上に維持した。ヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶を含有する組成物において、ヒドロキシチロソールの含有量がやや低下した。
【0076】
それにより、ヒドロキシチロソールおよびヒドロキシチロソール包埋粉と比較して、本発明のヒドロキシチロソールニコチンアミド共結晶および組成物は、より優れた化学的安定性を有する。
【0077】
比較例1
ヒドロキシチロソール(4mmol)とL-プロリン(4mmol)をモル比1:1で20mlの混合溶媒(混合溶媒がメタノール、エタノール、体積比1:1のメタノールとn-プロパノール、体積比1:1のメタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとn-プロパノール、体積比1:1のエタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソブチルアルコールである)に加入し、40℃で溶液が清澄となるまで撹拌し、-20℃で冷却し、24時間後、再結晶化しL-プロリン白色粉末を析出し、ヒドロキシチロソールの粉末製剤を得られなかった。
【0078】
比較例1から、L-プロリンを採用して、様々な溶媒においていずれも共結晶を製造できなかった。
【0079】
比較例2
ヒドロキシチロソール(4mmol)とL-カルニチン(4mmol)をモル比1:1で20mlの混合溶媒(混合溶媒がメタノール、エタノール、体積比1:1のメタノールとn-プロパノール、体積比1:1のメタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとn-プロパノール、体積比1:1のエタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソブチルアルコールである)に加入し、40℃で溶液が清澄となるまで撹拌し、-20℃で冷却し、24時間後、再結晶化しL-カルニチン白色粉末を析出し、ヒドロキシチロソールの粉末製剤を得られなかった。
【0080】
比較例2から、L-カルニチンを採用して、様々な溶媒においていずれも共結晶を製造できなかった。
【0081】
比較例3
ヒドロキシチロソール(4mmol)とニコチン酸(4mmol)をモル比1:1で20mlの混合溶媒(混合溶媒がメタノール、エタノール、体積比1:1のメタノールとn-プロパノール、体積比1:1のメタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソブチルアルコール、体積比1:1のメタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとn-プロパノール、体積比1:1のエタノールとn-ブチルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソアミルアルコール、体積比1:1のエタノールとイソブチルアルコールである)に加入し、40℃で溶液が清澄となるまで撹拌し、-20℃で冷却し、24時間後、再結晶化し、析出された沈殿物がニコチン酸リガンドであった。
【0082】
比較例3から、ニコチン酸を採用して、様々な溶媒においていずれも共結晶を製造できなかった。
【0083】
実施例および比較例の結果を比較して、ヒドロキシチロソールが特定の化合物、例えばニコチンアミドと共結晶を形成することができ、その他の構造類似物、例えば、L-プロリン、L-カルニチン、ニコチン酸等とは、いずれも共結晶を形成することができないことを分かった。
【0084】
本出願は好適例として開示されているが、特許請求の範囲を限定することを意図したものではなく、当業者であれば本出願の概念から逸脱することなく変更または修正を加えることができ、したがって本出願の保護範囲は本出願の特許請求の範囲に定義されたとおりとする。
【国際調査報告】