(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】美容スキンケア組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20240229BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20240229BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/67
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023556758
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022056114
(87)【国際公開番号】W WO2022194653
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521042714
【氏名又は名称】ユニリーバー・アイピー・ホールディングス・ベスローテン・ヴェンノーツハップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】オー,バン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,アンドリュー・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ギエラキス,マリアン・ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ハリキアン,ビヤン
(72)【発明者】
【氏名】ラスロップ,ウィリアム・エフ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジアンミン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ,ナンドウ
(72)【発明者】
【氏名】ローザ,ホセ・ギレルモ
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB432
4C083AC072
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC421
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC472
4C083AC482
4C083AC542
4C083AC552
4C083AD152
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD492
4C083AD532
4C083AD572
4C083AD621
4C083AD622
4C083AD662
4C083CC02
4C083DD02
4C083DD33
4C083EE11
(57)【要約】
(a)美容皮膚有益剤;(b)レチノイド;及び(c)皮膚科学的に許容されるビヒクルを含む局所組成物。当該組成物は、美容アンチエイジングスキンケアクリーム及びローションとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1-オレオイル-rac-グリセロール、(2S)-1-オレオイルグリセロール、オレオイル-rac-グリセロール(ORG)、(2R)-1-オレオイルグリセロール、2-オレオイルグリセロール、及び/又はそれの誘導体、及び/又はそれらの混合物から選択される美容皮膚有益剤;
(b)レチノイド[当該レチノイドはプロピオン酸レチニルである。];
及び
(c)皮膚科学的に許容されるビヒクル
を含む、局所用組成物。
【請求項2】
前記美容皮膚有益剤がYAP/TAZ経路活性剤である、請求項1に記載の局所組成物。
【請求項3】
前記美容皮膚有益剤が1-オレオイル-rac-グリセロールである、請求項2に記載の局所組成物。
【請求項4】
前記美容皮膚有益剤が2-オレオイルグリセロールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の局所組成物。
【請求項5】
前記組成物がさらに環状ホスファチジン酸(cLPA)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の局所組成物。
【請求項6】
しわ、たるみ、乾燥、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲンの増加/維持、皮膚におけるデコリンレベルの上昇/維持、組織修復の促進;皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの向上;皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つの美容スキンケア効果を提供する美容方法であって、
前記皮膚に請求項1~5のいずれか1項に記載の局所組成物を適用することを含む方法。
【請求項7】
しわ、たるみ、老化、乾燥及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防、皮膚におけるコラーゲンレベルの上昇/維持、皮膚細胞核におけるYAPレベルの上昇/維持、組織修復の促進;皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの向上及び/又は皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つの美容スキンケア効果を提供するための、請求項1~6のいずれか1項に記載の局所組成物の使用。
【請求項8】
しわ、たるみ、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲン沈着の増加/維持、皮膚におけるデコリン産生の増加/維持、組織修復の促進;皮膚の質感、及び滑らかさ及び/又は張りの向上及び皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つの美容スキンケア効果を提供するための、局所組成物中のYAP活性化受容体の活性剤としてのプロピオン酸レチニルと組み合わせたオレオイル-rac-グリセロールの使用。
【請求項9】
前記美容皮膚有益剤がORG又はORGを含むオイルである、前記請求項のいずれか1項に記載の局所組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト皮膚に塗布するための局所化粧品組成物、並びに皮膚の状態及び外観を改善する上でのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、皮膚障害、環境乱用(風、空調、セントラルヒーティング、汚染)による劣化、又は皮膚が太陽に曝露(光老化)されることによって加速される可能性のある通常の老化プロセス(経年老化)による劣化を受ける。ヒト皮膚の外観及び状態を美容的に改善したいという要求は普遍的かつ時代を超えている。特に、しわ、老化、及び/又は光損傷を受けた皮膚の目に見える兆候を回復、軽減、又は予防することに、大きな需要がある。世界中の消費者が、しわ、線、たるみ、色素沈着過剰及び染みなどの皮膚の経年老化や光老化の目に見える兆候を回復、治療、又は遅延させる「アンチエイジング」化粧品を求め続けている。
【0003】
主要な皮膚基質タンパク質であるコラーゲンは、皮膚に引張強度を与えることが知られている。皮膚のコラーゲンレベルは、皮膚が老化したり光損傷を受けたりすると、大幅に減少する。すなわち、コラーゲン原線維が破壊され、メカノトランスダクションシグナルを受信しない(下記の定義を参照)。多くの研究が、皮膚におけるI型コラーゲンのレベルが、年齢とともに、及び/又は光損傷の増加とともに低下することを示している(例えば、Lavker, R. Eng. J. Med. (1993) 329, 530-535)。皮膚のコラーゲンレベルの低下は、皮膚の引張強度の低下、つまり老化した皮膚の構造的損傷と関連しており、シワ及び緩みを引き起こし、そのように現れる。逆に、皮膚のコラーゲンレベルを高めることによる皮膚基質の強化は、アンチエイジング/皮膚修復の利点をもたらす。
【0004】
かつて細胞を構造的に支える足場としてのみ機能すると考えられていた細胞外基質(ECM)は、形態、増殖、分化及び生存などの細胞挙動の多くの側面を制御する。メカノトランスダクションのプロセスを通じて、細胞は機械的刺激を生化学的変化又は転写変化に変換することができる[Chiquet, M. et al., From mechanotransduction to extracular matrix in fibroblasts. Biochim Biophys Acta, 2009, 1793(5):p.911-20. Daley, WP,SB Peters and M. Larsen, Extracellular matrix dynamics in development and regenerative medicine. J Cell Sci, 2008, 121(Pt3):p.こ255-64]。このシグナル伝達には、ECM、細胞質膜、細胞骨格及び核膜のタンパク質が関与し、最終的には遺伝子レベル及びエピジェネティックレベルで核クロマチンに影響する。
【0005】
メカノトランスダクションシグナル伝達は細胞挙動の重要な推進力である。細胞微小環境の物理的及び機械的特性は、細胞の形状を制御し、細胞表現型に強い影響を与え得る。最近、メカノセンサー及びメカノトランスデューサーとしての、どちらもHippo経路の転写エフェクターであるYAP(Yes関連タンパク質)とTAZ(PDZ結合モチーフを有する転写コアクチベータ)が同定され、それが手がかりとなって、細胞が機械的合図を感知及び伝達して遺伝子発現を調節する機序がわかるようになり始めた。
【0006】
以下を参照のこと:
Mohri, Z., A. Del Rio Hernandez, and R. Krams, The emerging role of YAP/TAZ in mechanotransduction. J Thorac Dis, 2017. 9(5): p. E507-E509.
Dupont, S., Role of YAP/TAZ in cell-matrix adhesion-mediated signalling and mechanotransduction. Exp Cell Res, 2016. 343(1): p. 42-53.
Halder, G., S. Dupont, and S. Piccolo, Transduction of mechanical and cytoskeletal cues by YAP and TAZ. Nat Rev Mol Cell Biol, 2012. 13(9): p. 591-600.
Zhang, H., H.A. Pasolli, and E. Fuchs, Yes-associated protein (YAP) transcriptional coactivator functions in balancing growth and differentiation in skin. Proc Natl Acad Sci U S A, 2011. 108(6): p. 2270-5.
Dupont, S., et al., Role of YAP/TAZ in mechanotransduction. Nature, 2011. 474(7350): p. 179-83.
【0007】
YAPとTAZは、重要なメカノセンサー及びメカノトランスデューサーとして機能して、剪断応力や細胞の形状からECMの剛性に至るまでの広範囲の機械的手がかりを細胞特異的転写プログラムに変換することが明らかになっている。
【0008】
適切な皮膚ECMの機械的特性は、若い線維芽細胞挙動を維持する。若い皮膚では、真皮の線維芽細胞がよく広がっており、インテグリンを介して豊富で組織化されたコラーゲン原線維の束と結合している。(光)老化により、コラーゲン原線維が断片化され、組織化されなくなる。線維芽細胞はコラーゲン(及び他のECM)接着部位を失い、その結果、形態が崩れ、TGFbシグナル伝達とコラーゲンの産生が減少し、基質分解酵素の産生が増加する。この老化した微小環境では、細胞とECM原線維の間の力の恒常性が損なわれ、その結果、メカノトランスダクションシグナル伝達の欠損が生じる[Fisher, G.J., et al., Reduction of fibroblast size/mechanical force down-regulates TGF-beta type II receptor: implications for human skin aging. Aging Cell, 2016. 15(1): p. 67-76;Qin, Z., et al., Age-associated reduction of cellular spreading/mechanical force up-regulates matrix metalloproteinase-1 expression and collagen fibril fragmentation via c-Jun/AP-1 in human dermal fibroblasts. Aging Cell, 2014. 13(6): p. 1028-37;Qin, Z., et al., Oxidant exposure induces cysteine-rich protein 61 (CCN1) via c- Jun/AP-1 to reduce collagen expression in human dermal fibroblasts. PLoS One, 2014. 9(12): p. e115402;Fisher, G.J., D.L. Sachs, and J.J. Voorhees, Ageing: collagenase-mediated collagen fragmentation as a rejuvenation target. Br J Dermatol, 2014. 171(3): p. 446-9;Fisher, G.J., J. Varani, and J.J. Voorhees, Looking older: Fibroblast collapse and therapeutic implications. Archives of Dermatology, 2008. 144(5): p. 666-672.]。さらに、架橋ヒアルロン酸の充填剤で真皮の機械的特性を強化すると、皮膚の若返り活性が活性化されることが明らかになっており、非架橋材料の注入は、同じ生物活性を刺激しなかった。Quan, T., et al., Enhancing structural support of the dermal microenvironment activates fibroblasts, endothelial cells, and keratinocytes in aged human skin in vivo. J Invest Dermatol, 2013. 133(3): p. 658-67を参照する。
【0009】
したがって、本願人は、皮膚への局所塗布によるYAPの活性化が、老化した真皮からの欠損した機械的シグナル伝達を無効にして、皮膚の若返り挙動を駆動する可能性があるという仮説を立てた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lavker, R. Eng. J. Med. (1993) 329, 530-535
【非特許文献2】Chiquet, M. et al., From mechanotransduction to extracular matrix in fibroblasts. Biochim Biophys Acta, 2009, 1793(5):p.911-20.
【非特許文献3】Daley, WP,SB Peters and M. Larsen, Extracellular matrix dynamics in development and regenerative medicine. J Cell Sci, 2008, 121(Pt3):p.こ255-64
【非特許文献4】Mohri, Z., A. Del Rio Hernandez, and R. Krams, The emerging role of YAP/TAZ in mechanotransduction. J Thorac Dis, 2017. 9(5): p. E507-E509.
【非特許文献5】Dupont, S., Role of YAP/TAZ in cell-matrix adhesion-mediated signalling and mechanotransduction. Exp Cell Res, 2016. 343(1): p. 42-53.
【非特許文献6】Halder, G., S. Dupont, and S. Piccolo, Transduction of mechanical and cytoskeletal cues by YAP and TAZ. Nat Rev Mol Cell Biol, 2012. 13(9): p. 591-600.
【非特許文献7】Zhang, H., H.A. Pasolli, and E. Fuchs, Yes-associated protein (YAP) transcriptional coactivator functions in balancing growth and differentiation in skin. Proc Natl Acad Sci U S A, 2011. 108(6): p. 2270-5.
【非特許文献8】Dupont, S., et al., Role of YAP/TAZ in mechanotransduction. Nature, 2011. 474(7350): p. 179-83.
【非特許文献9】Fisher, G.J., et al., Reduction of fibroblast size/mechanical force down-regulates TGF-beta type II receptor: implications for human skin aging. Aging Cell, 2016. 15(1): p. 67-76.
【非特許文献10】Qin, Z., et al., Age-associated reduction of cellular spreading/mechanical force up-regulates matrix metalloproteinase-1 expression and collagen fibril fragmentation via c-Jun/AP-1 in human dermal fibroblasts. Aging Cell, 2014. 13(6): p. 1028-37.
【非特許文献11】Qin, Z., et al., Oxidant exposure induces cysteine-rich protein 61 (CCN1) via c- Jun/AP-1 to reduce collagen expression in human dermal fibroblasts. PLoS One, 2014. 9(12): p. e115402.
【非特許文献12】Fisher, G.J., D.L. Sachs, and J.J. Voorhees, Ageing: collagenase-mediated collagen fragmentation as a rejuvenation target. Br J Dermatol, 2014. 171(3): p. 446-9.
【非特許文献13】Fisher, G.J., J. Varani, and J.J. Voorhees, Looking older: Fibroblast collapse and therapeutic implications. Archives of Dermatology, 2008. 144(5): p. 666-672.
【非特許文献14】Quan, T., et al., Enhancing structural support of the dermal microenvironment activates fibroblasts, endothelial cells, and keratinocytes in aged human skin in vivo. J Invest Dermatol, 2013. 133(3): p. 658-67.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
YAP/TAZは、心臓や腸などのさまざまな組織の組織再生に関して研究されている[Hong, A.W., Z. Meng, and K.L. Guan, The Hippo pathway in intestinal regeneration and disease. Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 2016. 13(6): p. 324-37;Lin, Z. and W.T. Pu, Harnessing Hippo in the heart: Hippo/Yap signaling and applications to heart regeneration and rejuvenation. Stem Cell Res, 2014. 13(3 Pt B): p.571-81;Moya, I.M. and G. Halder, The Hippo pathway in cellular reprogramming and regeneration of different organs. Curr Opin Cell Biol, 2016. 43: p.62-68;18. Wang, Y., A. Yu, and F.X. Yu, The Hippo pathway in tissue homeostasis and regeneration. Protein Cell, 2017. 8(5): p.349-359;Xiao, Y., et al., Hippo/Yap Signaling in Cardiac Development and Regeneration. Curr Treat Options Cardiovasc Med, 2016. 18(6): p.38.]。
【0012】
研究において本願人は、皮膚の若返り活性を駆動する上でのYAP/TAZの力と、それを大幅に高めることができる活性物質を予期せず発見している。
【0013】
研究において本願人は、ソフトヒドロゲルモデルシステム上のYAPの活性化が、プロコラーゲンの産生並びにECM構築活性の他のバイオマーカーの活性化を誘発することを明らかにしており、これらのデータを総合すると、YAPの活性化がECM構築生理活性を介して皮膚の外観を改善する可能性があることを示唆している。
【0014】
YAP/TAZの細胞内局在は、それの活性の調節及びシグナル伝達におけるそれの役割における重要な決定因子である。YAP/TAZは細胞核と細胞質の間を往復する。YAPが核内にある場合、それは活性であると考えられ、組織の成長に非常に重要な遺伝子の転写の駆動を助ける。YAPが細胞質に隔離されている場合、それは細胞のそのコンパートメントで遺伝子転写活性を駆動することができないため、YAPは不活性になる。したがって、コラーゲン産生につながるシグナル伝達機序の活性化が、メカノトランスダクション経路を介して達成される可能性がある。YAPは、コラーゲンの産生を駆動するために皮膚細胞核において必要である。YAP/TAZ経路はヒト細胞に存在するメカノトランスダクションシグナル伝達経路であり、両者とも細胞外空間の機械的シグナルを感知し、遺伝子発現活性を直接の結果的な細胞挙動に駆動することでこれらのシグナルに応答する。YAPは組織再生のマーカーとして使用される。公開された文献に基づいて、本願人は、日常的な組織培養能力で行われ、YAPに対する抗体を使用する核転座アッセイを開発した。このアッセイは、細胞質と核の間の核転座を示し、核内の蓄積パーセントを測定するものである。高スループットアッセイが、Cytoo, Grenoble, Franceなどの所有権者から入手可能である。
【0015】
本願人は、YAP核転座アッセイ結果の下流への影響又は利用の確認として、遺伝子発現及びプロコラーゲン研究を追加した。本願人は、理論に束縛されることを望むものではないが、皮膚細胞内のYAP活性化経路を促進する、皮膚への局所適用のための美容若返り活性物質を予期せずに確認した。
【0016】
本願人は今般、しわ、線、たるみ、色素沈着過剰及びシミなどの経年性老化又は光老化による、正常ではあるが美容上望ましくない皮膚状態の効果的な治療及び予防が、グリセロールの特定のモノ不飽和脂肪酸エステルを含む化粧品組成物を皮膚に適用することによって得られることを認めた。本発明によるモノグリセリドは、メカノトランスダクション経路において役割を有する。
【0017】
リゾホスファチジン酸(LPA)は、脂肪酸モノグリセリドリン酸モノエステルを代表するものであり、モノグリセリド基の脂肪酸鎖は飽和脂肪酸(主にパルミトイル及びステアロイル)及び不飽和脂肪酸(主にリノレオイル、アラキドニル及びオレオイル)で構成されている。LPAは限られた数のスキンケア製品用にしか使用されてこなかったが、この種のリン酸モノエステルには、より広範囲のパーソナルケア製品での利用を制限する重大な欠点を有する。例えば、LPAは、特に高温下で、製剤された製品での長期貯蔵期間基準に耐えられるほど安定ではない。さらに、LPAの極性リン酸ヘッド基は、LPAを界面活性剤分子にし、皮膚を通した効率的な送達が生体標的の機能レベルに到達するのを防ぐ。さらに、大規模LPA供給は困難であり、各種製品カテゴリーにわたる幅広い使用を可能にするためにはかなりの費用がかかる。したがって、LPAのような利点を皮膚に提供できる、許容可能な皮膚送達プロファイルを有する、より商業的に実現可能で化学的に安定した化合物が必要とされている。
【0018】
LPAについての構造機能相関研究により、12個を超える炭素を含む脂肪酸アルキル基及びリン酸モノエステル基の両方がLPA誘導生理活性に必要であることが実証されている。しかしながら、本願人は驚くべきことに、リン酸エステルヘッド基を欠く特定の化合物(例えば特定のモノグリセリド)がメカノトランスダクション経路において同等のLPA様機能を示すことを発見した。本願人は、観察されたメカノトランスダクションシグナル伝達がモノグリセリドの脂肪酸基の構造に敏感であることも発見した。本発明による化合物はまた、大規模供給、安価な調達及びより優れた化学的安定性及び皮膚送達プロファイルなど、パーソナルケア製品用のLPA様化合物を超える大きな利点を提供する。
【0019】
皮膚バリア回復のための特定のグリセリン脂肪酸誘導体、主にモノオレイン酸グリセリル及びモノステアリン酸グリセリル(本明細書において、「GMS」と称する)は、KR2015/112578に記載されている。
【0020】
モノステアリン酸グリセリル(GMS)及びオレオイル-rac-グリセロール(ORG)は、通常、最大5%のレベルで乳化剤として、又は医薬組成物の担体として使用される。KR1015566552B1では、オレイン酸又はステアリン酸モノアシルグリセロールが、料理用油の機能性油、代謝性疾患用の機能性油、又は化粧品の脂質として使用されている。
【0021】
上記の技術は、老化する皮膚を治療するための、グリセロール主鎖の1位又は2位のグリセロールのシス-モノ不飽和脂肪酸エステルから選択される特定のグリセロールの脂肪酸エステルを開示していない。また、上記技術は、そのようなグリセロールエステルと皮膚細胞レベルでの有益な効果/結果又は作用機序をもたらす生体標的との間のいかなる関連も開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願人は、皮膚の老化を治療するために、グリセロール主鎖の1位又は2位のグリセロールのシス-モノ不飽和脂肪酸エステルから選択される特定のグリセロールの脂肪酸エステルを確認した。
【0023】
本発明の第1の態様によれば、
(a)YAP/TAZ経路の活性化剤及び/又はそれの誘導体及び/又はそれらの混合物である美容皮膚有益剤;
(b)レチノイド[当該レチノイドはプロピオン酸レチニルである。];
及び
(c)皮膚科学的に許容されるビヒクル
を含む局所用組成物が提供される。
【0024】
本発明は、しわ、たるみ、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲン沈着の増加、皮膚細胞におけるメカノトランスダクションの増加、組織修復の促進;及び皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの改善;及び皮膚バリア回復の促進から選択される少なくとも一つのスキンケア効果を提供するための、スキンケア組成物中にグリセロール主鎖の1位若しくは2位にグリセロールのシス-モノ不飽和脂肪酸エステル、好ましくはオレオイル-rac-グリセロール(「ORG」)及びORG豊富オイルを含む本発明の組成物の使用を包含する。
【0025】
本発明は、
しわ、たるみ、乾燥、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲンの増加/維持、皮膚におけるデコリンレベルの上昇/維持、組織修復の促進;皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの向上;皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つの美容スキンケア効果を提供する美容方法であって、
皮膚に上記の局所組成物を適用することを含む方法を包含する。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、しわ、たるみ、乾燥、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲン沈着の増加、皮膚細胞におけるメカノトランスダクションの増加、組織修復の促進;皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの向上;及び皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つのスキンケア効果を提供する美容方法であって、
前記皮膚に上記の局所組成物を適用することを含む方法が提供される。
【0027】
本発明の第3の態様によれば、しわ、たるみ、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲン沈着の増加/維持、皮膚におけるデコル(decor)の増加/維持、組織修復の促進;皮膚の質感、及び滑らかさ及び/又は張りの向上、及び/又は皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つのスキンケア効果を提供するための、局所組成物中でYAP活性化受容体の活性剤としてのプロピオン酸レチニルと組み合わせたオレオイル-rac-グリセロール(「ORG」)の美容的使用が提供される。
【0028】
本発明のさらに別の態様によれば、しわ、たるみ、老化及び/又は光損傷を受けた皮膚の治療/予防;皮膚におけるコラーゲン沈着の増加、皮膚におけるメカノトランスダクションの増加、組織修復の促進;及び皮膚の質感、滑らかさ及び/又は張りの向上及び皮膚バリアの回復の促進から選択される少なくとも一つの美容スキンケア効果を提供するための、美容局所組成物でのYAP活性化受容体の活性剤である脂質成分及び/又はそれの誘導体及び/又はそれらの混合物の使用が提供される。
【0029】
したがって、本発明の組成物、方法及び使用は、改善されたより均一な肌の色とともに、弾力性が改善され、しわ及び老化した皮膚の出現が減少又は遅延される、滑らかでしなやかな皮膚の促進をもたらす、アンチエイジング効果を提供する。特に皮膚の輝き、透明感、及び全体的な若々しい外観に関して、外観、質感及び状態に改善が達成される。
【0030】
本明細書で使用される「美容(の)」という用語は、消費者によって認識される、正常ではあるが肉眼的に望ましくない皮膚の外観をその範囲内に含む。
【0031】
本明細書で使用される「皮膚基質」という用語は、加齢に伴って大きな構造的損傷が生じる皮膚の真皮層の真皮細胞外基質(「ECM」)をその範囲内に含む。
【0032】
本明細書で使用される「細胞外基質」又は「細胞外真皮基質」又は「ECM」という用語は、細胞を構造的に支持する足場としての機能をその範囲内に含む。理論に拘束されることを望むものではないが、本願人は、ECMがさらに、形態、増殖、分化、及び生存などの細胞挙動の多くの側面を調節すると考えている。メカノトランスダクションのプロセスを通じて、細胞は機械的刺激を生化学的変化又は転写的変化に変換することができる。このシグナル伝達には、ECM、細胞質膜、細胞骨格、及び核膜のタンパク質が関与し、最終的には遺伝子レベル及びエピジェネティックレベルで核クロマチンに影響を与える。
【0033】
本明細書において使用される「リーブオン」という用語は、ウォッシュオフ前の長期間にわたり、皮膚上に残すことをその範囲に含む。
【0034】
本明細書で使用される「局所的」という用語には、その範囲内に皮膚の外側への適用を含む。
【0035】
本明細書で使用される「治療する」という用語は、その範囲内に、正常な老化プロセスによって引き起こされる、上記の正常ではあるが美容上望ましくない皮膚状態を美容的に又は肉眼的に軽減、遅延、及び/又は予防することを含む。しわ、線及び/又はたるみなどの目に見える老化の兆候が遅れるか軽減される。一般に、しわを予防又は軽減し、皮膚の柔軟性、張り、滑らかさ、しなやかさ及び弾性を高めることによって、皮膚の質が向上し、その外観及び質感が改善される。本発明による組成物、方法及び使用は、すでにしわができ、老化及び/又は光損傷状態にある皮膚を治療するのに、又は正常な老化/光老化プロセスによる前述の望ましくない変化を予防又は軽減するために若々しい皮膚を治療するのに有用であり得る。
【0036】
メカノトランスダクションは、細胞が機械的刺激を電気化学的活動に変換する機序である。本明細書で使用される「メカノトランスダクション」という用語は、細胞が機械的情報をどのように認識し、ECMから核に伝達するかについてのシグナル伝達機構をその範囲内に含む。メカノトランスダクションシグナル伝達が細胞挙動の重要な要素であることがますます明らかになってきている。最近、Hippoシグナル伝達経路の二つの転写エフェクターであるYAP及びTAZが、重要なメカノセンサー及びメカノトランスデューサーとして機能して、剪断応力及びECM剛性からの広範囲の機械的手がかりを細胞特異的な転写プログラムに変換することが明らかになっている。
【0037】
ここで使用されるGMSという用語は、グリセリルモノステアレートの略称である。
【0038】
本明細書で使用されるオレオイル-rac-グリセロール又はORGという用語は、下記の化学構造:
【化1】
を有する1-オレオイル-rac-グリセロール(又はオレイン酸モノグリセリド、又は1~シス共役オレイン酸モノグリセリド)
及び下記の化学構造:
【化2】
を有する2-オレオイルグリセロール(又は2-シス共役オレイン酸モノグリセリド又は2-オレオイル-rac-グリセロール)
の組み合わせを指す。
【0039】
ORGは、1-オレオイル-rac-グリセロール及び2-オレオイルグリセロールの組み合わせを有するモノオレイン酸グリセリル(又はオレイン酸グリセリル又はオレオイルモノグリセリド)を指すこともできる。
【0040】
ある実施形態において、ORGは、約5~99重量%、又は15重量%~約99重量%、又は約25重量%~約99重量%、又は約35重量%~約99重量%、又は約45重量%~約99重量%、又は約50重量%~約99重量%、又は約55重量%~約99重量%、又は約65重量%~約99重量%、又は約75重量%~約99重量%、又は約85重量%~約99重量%、又は約90重量%~約99重量%、又は約95重量%~99重量%、又は約5重量%~約95重量%、又は約15重量%~約95重量%、又は約25重量%~約95重量%、又は約35重量%~約95重量%、又は約45重量%~約95重量%、又は約50重量%~約95重量%、又は約55重量%~約95重量%、又は約65重量%~約95重量%、又は約75重量%~約95重量%、又は約85重量%~約95重量%、又は約90重量%~約95重量%、5重量%~約90重量%、又は約15重量%~約90重量%、又は約25重量%~約90重量%、又は約35重量%~約90重量%、又は約45重量%~約90重量%、又は約50重量%~約90重量%、又は約55重量%~約90重量%、又は約65重量%~約90重量%、又は約75重量%~約90重量%、又は約85重量%~約90重量%の1-オレオイル-rac-グリセロール(ここで包含される組み込まれた全ての範囲を含む)を有する。
【0041】
本明細書で使用される「YAP」という用語は、その範囲内に、Yes関連タンパク質を含む。本明細書で使用される「TAZ」という用語は、その範囲内に、PDX結合モチーフを有する転写共活性化因子を含む。どちらも、メカノセンサー及びメカノトランスデューサーとしての、Hippo経路の転写エフェクターである。本明細書で使用される「Hippo経路」は、その範囲内に、細胞の増殖、分化、及び細胞死を制御する高度に保存されたシグナル伝達ネットワークを含む。
【発明を実施するための形態】
【0042】
オレイン酸及びそれのトリグリセリドエステル
1,2,3-プロパントリオール又はトリグリセリドとしても知られるグリセロールは、3個のOH基を有する炭素3個の骨格を持っている。そのOH基は自然に又は合成的に容易にエステル化されて、トリグリセリドエステル誘導体、又はトリグリセリド、グリセロール主鎖上で脂肪酸で置換された全ての位置異性体が得られる。Fessenden, et al., Organic Chemistry, Chapter 19, p. 870 (1979)を参照する。前記トリグリセリド(グリセロール主鎖)は、少なくとも一つの脂肪酸部分を含まなければならない。例えば、本発明によるグリセロール主鎖上の三つのエステル化可能な位置のうち、1位及び/又は2位を、オレイン酸で及び別の脂質により、好ましくは1位で脂質により、より好ましくはシスモノ不飽和を有する脂質で、最も好ましくはグリセロール主鎖の1位でオレイン酸でエステル化されていても良い。
【0043】
オレイン酸(以下、OAと称する)は、式CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOHを有する、動物及び/又は植物脂肪に由来するシスモノ不飽和長鎖(C18)脂肪酸である。Fessenden, et al., Organic Chemistry, Chapter 19, p. 870 (1979)を参照する。
【0044】
本発明は、そうしてオレイン酸部分を含む遊離酸の誘導体を含む。好ましい誘導体には、エステル(例、トリグリセリドエステル、モノグリセリドエステル、ジグリセリドエステル、リン酸エステル)、アミド(例、セラミド誘導体)、塩(例、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩);及び/又はα-ヒドロキシ及び/又はβ-ヒドロキシ誘導体などのC18/C22炭素鎖の置換から誘導されたもの、並びに12-ヒドロキシステアリン酸などのカルボキシル基から離れた脂肪酸鎖のさらに下流にヒドロキシ基を含む誘導体、例えば12-ヒドロキシステアリン酸及びリシノール酸誘導体などがある。好ましくは、グリセロール主鎖の1位又は2位上のグリセロールのシス-モノ不飽和脂肪酸エステル(例えば、1-オレオイル-rac-グリセロール及び/又は2-オレオイルグリセロール)、好ましくはORG及びORG豊富オイルである。
【0045】
ORG豊富であるオイルも本発明での使用に適している。このようなオイルは市販されており、BASFのMONOMULS(登録商標)ブランドなどがあり、それは約90%のモノオレイン酸グリセリル(1-オレオイル-rac-グリセロール及び2-オレオイルグリセロールの組み合わせを有する)を含有し、残りがジエステル及びトリエステルと遊離グリセロールを含む。
【0046】
YAP核蓄積の美容活性剤
YAP/TAZの活性は、細胞内の局在化によって決まり、核YAP/TAZは活性であるが、細胞質YAP/TAZタンパク質は不活性である。目標は、YAPが細胞質から皮膚細胞核まで往復するように誘導することで、メカノトランスダクションシグナル伝達経路の活性化を誘発することである。核中のYAPは皮膚細胞の増殖/組織成長を促進する。YAP/TAZは若返りのマーカーである。
【0047】
本願人は、ORGがYAP/TAZ核蓄積の特に効果的な活性剤であること、及び/又はメカノトランスダクション経路のシグナル伝達分子であることを予想外に発見した。本願人は、ORGが皮膚の深層に存在する細胞におけるYAP/TAZ生理活性の独特の効果的な活性剤であることを発見し、それを明らかにした。YAP/TAZ活性は、皮膚の最上層の細胞の挙動を調節することが以前に報告されている(ケラチノサイト生物学)。ORGがYAP/TAZの活性剤であること、又はYAPを皮膚細胞核に向かわせることでメカノトランスダクションシグナルを強化し、皮膚層の線維芽細胞からのコラーゲン産生を促進したり、美容上のアンチエイジング治療を提供するための化粧品組成物に使用することについては、当該技術分野においては開示も示唆もない。
【0048】
YAP活性化を実証することができ、したがってYAPの活性剤を確認できる、確立された広く受け入れられている方法は、核転座アッセイである。したがって、YAPの活性化剤である化粧品材料は、下記の実施例1に概説されるように、YAPの核蓄積を引き起こす化合物として、当業者によって容易に識別され得るものである。
【0049】
したがって、化粧品化合物がこのイン・ビトロYAPアッセイに合格する場合、すなわち、下記の実施例1に概説されるアッセイにおいてYAPを皮膚細胞核に向かわせる場合、それは、本明細書で具体的に言及されていなくても、脂質YAP活性剤として含まれる。本発明の好ましい実施形態では、脂質YAP活性剤は、より効果的なアンチエイジング剤であるため、ビヒクル対照によって達成されるレベルを超えて核内でのYAPの蓄積を促進する化合物である。
【0050】
本願人は、皮膚の若返りに関連したYAP/TAZメカノトランスダクションシグナル伝達を研究するために、調整可能な基質剛性のヒドロゲルに基づくモデルを開発し、皮膚若返り活性の駆動におけるYAPの重要性について科学的証拠を提供した。
【0051】
本明細書で使用される美容皮膚有益剤は、YAP活性剤である。YAP/TAZアッセイ試験を満足させる美容YAP活性剤の例には、モノ不飽和モノグリセリドなどがある。
【0052】
脂肪酸部分は、直鎖又は分枝鎖、不飽和であってもよく、置換されていても良く、例えば12-ヒドロキシ脂肪酸である。
【0053】
YAP活性剤は、これらの酸のいずれかの相当するジグリセリド及びトリグリセリド及びリン脂質であってもよく、本発明での使用のためである。好ましい誘導体には、酸のカルボキシル基の置換から誘導されるもの、例えばエステル(例えば、トリグリセリドエステル、モノグリセリドエステル、ジグリセリドエステル、リン酸エステル)などがある。トリグリセリドエステル誘導体の場合には、グリセロール主鎖上のすべての位置異性体が含まれる。グリセロール主鎖上の1位及び2位異性体が好ましく、グリセロール主鎖上の1位異性体がより好ましい。
【0054】
したがって、脂肪酸トリグリセリド豊富なオイルも本発明での使用に適している。このようなオイルは市販されており、コリアンダーシードオイル(ペトロセリン酸豊富)、パセリ種子オイル(ペトロセリン酸豊富)、月見草オイル(ガンマリノレン酸豊富)、ルリヂサ種子オイル(ガンマリノレン酸豊富)、シアバター(オレイン酸とリノール酸が豊富)、魚油及びそれの濃縮物(DHAとEPAが豊富)、亜麻仁オイル(αリノレン酸豊富)、アーモンドオイル(オレイン酸豊富)、綿実油(リノール酸豊富)などがある。
【0055】
本発明による好ましいYAP活性剤には、1-オレオイル-rac-グリセロール、(2S)-1-オレオイルグリセロール、(2R)-1-オレオイルグリセロール、2-オレオイルグリセロール、及びN-(2-ヒドロキシエチル)リシノレイルアミド(RMEA)/リシノール酸及びそれらの組み合わせなどがある。本発明によるより好ましいYAP活性剤は、1-オレオイル-rac-グリセロール、(2S)-1-オレオイルグリセロール、(2R)-1-オレオイルグリセロール、2-オレオイルグリセロール、オレオイル-rac-グリセロール(ORG)及びそれらの組み合わせである。1実施形態において、YAP活性剤は、1-オレオイル-rac-グリセロール及び2-オレオイルグリセロール又はオレオイル-rac-グリセロール(ORG)の組み合わせである。1実施形態において、YAP活性剤は1-オレオイル-rac-グリセロールである。1実施形態において、YAP活性剤は2-オレオイルグリセロールである。
【0056】
理解すべき点として、本発明による組成物中に存在するYAP活性剤は、理想的には「活性」形態で存在する、すなわち、それは、ジグリセリド又はトリグリセリドとしてエステル化されていない。したがって、オイルなどの天然の材料源については上で言及したが、本発明による組成物で使用されるYAP活性剤は、その活性剤の生のエステル化された形態ではなく、むしろ、エステル化されていないYAP活性剤豊富である原材料源、又はエステル化された形態が専らオレイン酸から誘導されるジグリセリド若しくはトリグリセリド又はオレイン酸から誘導されるジグリセリド若しくはトリグリセリド及び優先的に「活性」形態を放出するC6-C22脂肪酸の混合物を含む原材料源である。
【0057】
理論に拘束されることを望むものではないが、本願人は、長鎖(例えば、C16~C22)飽和脂肪酸グリセリド(例えば、1-ステアロイル-rac-グリセロールに見られるC18炭素鎖)の直鎖炭素鎖構造は、対応するシスモノ不飽和脂肪酸炭素鎖(例えば、ORGに存在するC18:1シス炭素鎖など)と比較して、YAP活性化能力に有害であると考えている。このような脂肪酸誘導体の直鎖及び飽和長鎖炭素鎖の性質により、これらの分子は強いファンデルワールス分子間力を介して積み重なることができ、その結果、シス-モノ-不飽和炭素鎖を有する脂肪酸誘導体と比較してその分子を分解するのに必要なエネルギーがより多くなる。結果的に、本願人はまた、ORGの溶解性及び皮膚送達が、飽和誘導体1-ステアロイル-rac-グリセロール又は1-ラウロイル-rac-グリセロールよりも優れていると考えている。
【0058】
ORGを含むYAP活性剤は、本発明の組成物中で、組成物の0.0001重量%~50重量%、又は0.001重量%~10重量%、又は0.01重量%~10重量%の量で使用される。より好ましくは、その量は、最小のコストで最大の利益を得るためには、0.01%~5%、又は0.1%~5%、又は0.1%~0.4%、最も好ましくは0.1%~3%であり;さらにより好ましくは、下限は約1.15%~約1.5%、上限は約2.0%~約3.0%である。好ましくは、それは4重量%未満のレベルで存在し;好ましい例は、1.5%、2.0%、及び3.0%を含む。
【0059】
皮膚科学的に許容されるビヒクル
本発明に従って使用される組成物は、活性成分の希釈剤、分散剤又は担体として作用する皮膚科学的/化粧品的に許容されるビヒクルも含む。ビヒクルは、水、液体若しくは固体の皮膚軟化剤、シリコーンオイル、乳化剤、溶媒、湿潤剤、増粘剤、粉剤、噴射剤などのスキンケア製品に一般的に使用される材料を含んでもよい。
【0060】
ビヒクルは、通常、組成物の5重量%~99.9重量%、好ましくは25重量%~80重量%を形成し、他の化粧品補助剤の非存在下では、組成物の残りの部分を形成することができる。
【0061】
任意の皮膚有益材料及び化粧品補助剤
選択された美容スキン効果有益物質に加えて、追加のアンチエイジング活性物質、例えば、プロピオン酸レチニルなど(これに限定されるものではない)のレチノイド、リゾホスファチジン酸(LPA)及び環状ホスファチジン酸(cLPA、或いはCyPA(登録商標)として知られる)など(これらに限定されるものではない)のホスファチジン酸誘導体、焼け止め剤、美白剤、皮膚の日焼け剤などの他の特定のスキン有益活性物質も含まれ得る。プロピオン酸レチニルが特に有利である。保湿活性物質には、ペトロセリン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸及びアラキドン酸などがあり得て、それらはグリセロールの所望の脂肪酸エステルを形成するのに有用である。ビヒクルはまた、酸化防止剤、香料、乳白剤、防腐剤、着色剤及び緩衝剤などの補助剤をさらに含んでもよい。
【0062】
プロピオン酸レチニルなどのレチノイドは、局所組成物の約0.001重量%~10重量%、又は約0.001重量%~約5重量%、又は約0.001重量%~約2重量%、又は約0.001重量%~約1重量%、又は約0.001重量%~約0.5重量%、又は約0.01重量%~約5重量%、又は約0.01重量%~約3重量%、又は約0.01重量%~約1.5重量%、又は約0.01重量%~約1重量%、又は約0.01重量%~約0.5重量%(ここで包含される全ての範囲を含む)の量で本発明の組成物で使用される。
【0063】
本明細書に記載のホスファチジン酸誘導体は、局所組成物の約0.001重量%~10重量%、又は約0.001重量%~約5重量%、又は約0.001重量%~約3重量%、又は約0.001重量%~約1重量%、又は約0.001重量%~約0.5重量%、又は約0.01重量%~約5重量%、又は約0.01重量%~約3重量%、又は約0.01重量%~約1.5重量%、又は約0.01重量%~約1重量%、又は約0.01重量%~約0.5重量%(ここで包含される全ての範囲を含む)の量で本発明の組成物で使用される。
【0064】
本発明の1態様において、YAP活性剤:レチノイドの重量比は、20:1~1:1、又は10:1~1:1、又は9:1~1:1、又は8:1~1:1、又は7:1~1:1、又は6:1~1:1、又は5:1~1:1、又は4:1~1:1、又は3:1~1:1である。
【0065】
本発明の1態様において、YAP活性剤:レチノイドの重量比は、20:1~1:1、又は10:1~1:1、又は9:1~1:1、又は8:1~1:1、又は7:1~1:1、又は6:1~1:1、又は5:1~1:1、又は4:1~1:1、又は3:1~1:1である。
【0066】
製品の調製、形状、使用及び包装
本発明の方法で使用される局所組成物を調製するのに、スキンケア製品を調製するための通常の方法を使用することができる。一般に、活性成分を、従来の方法で皮膚科学的/化粧品的に許容される担体に組み込む。活性成分を好適には、最初に、ある量の水又は別の溶媒若しくは液体に溶解若しくは分散させて、組成物中に組み込む。好ましい組成物は、水中油型又は油中水型又は水中油中水型乳濁液である。
【0067】
組成物は、クリーム、ジェル又はローション、カプセルなどの従来のスキンケア製品の形態であってもよい。最も好ましくは、その製品は「リーブオン」製品;すなわち、皮膚に適用した直後に入念なリンスの段階を行わずに皮膚に適用される製品である。
【0068】
当該組成物は、従来の方法で、ジャー、瓶、管、ロールボールなどの任意の適切な方法で包装することができる。本発明の組成物を、二つの別個の組成物のキットとして包装することができ、一方は本発明の脂質成分OAを含み、第二は任意の皮膚有益剤成分を含み、同時又は連続的に又は別個の時間で皮膚に適用することができることも想到される。
【0069】
本発明の方法は、処置を必要とする皮膚に対して1日1回以上実施することができる。皮膚の外観の改善は、皮膚の状態、本発明の方法で使用される活性成分の濃度、使用される組成物の量、及びそれを適用する頻度に応じて、通常3~6か月後に目に見えるようになる。一般に、少量の組成物、例えば0.1~5mLを適切な容器又はアプリケーターから皮膚に適用し、手又は指又は適切な機器を使用して皮膚上に広げる及び/又は皮膚に擦り込む。組成物が「リーブオン」製品として製剤されるか、「リンスオフ」製品として製剤されるかに応じて、リンス段階を続けても良い。
【0070】
本発明をより容易に理解できるようにするため、例示のみを目的として以下の実施例を示す。
【実施例】
【0071】
実施例1.YAP/TAZ生理活性の活性剤を同定するための核転座アッセイ
YAPの細胞局在は、細胞が付着する基質又はECMの剛性、又は細胞が基質上で広がる程度によって制御することができる。したがって、イン・ビトロモデルが、YAP活性の低い状態を操作するのに役立つ。YAP/TAZの活性化を実証できる確立され広く受け入れられている方法が公開されている。
【0072】
すなわち、初代ヒト皮膚線維芽細胞をフィブロネクチンのマイクロプリント基質アイランド(<1000μm2)上に播種し、細胞培養インキュベータ内で37℃、5%CO2で終夜インキュベートした。次に、線維芽細胞を表1に記載の材料で処理した。2時間の処理期間後、細胞を固定して染色した。核をHoechst色素で染色し、YAP/TAZをYAP/TAZに対するマウス抗体(Santa Cruz Biotechnology)で染色し、続いて二次蛍光タグ抗体(ロバ抗マウスAlexaFluor488)で染色した。顕微鏡画像を取得し、各細胞の細胞質及び核におけるYAP/TAZ蛍光シグナルを測定した。以下の表1に示すように、核で測定された蛍光強度を、細胞質で測定された蛍光強度で割ることで、YAP/TAZ比の読み取り値が得られる。
【0073】
YAP/TAZを活性化する化粧品材料を特定する。
【0074】
A.以下の実験データは、細胞核におけるYAPの蓄積を記録することにより、他の飽和グリセロールエステルに比べてモノ不飽和グリセロールエステル1-オレオイル-rac-グリセロールの利点を裏付けるものである。核内のYAPの蓄積を、メカノトランスダクション活性化の読み取り値として使用する。
【0075】
表1.
メカノトランスダクションに対する脂肪酸グリセロールエステルのアルキル鎖の効果
【表1】
【0076】
上記の表1のデータからわかるように、陽性対照リゾホスファチジン酸(LPA)は、ビヒクルDMSOに勝るメカノトランスダクションシグナル伝達(すなわち、細胞質YAP/TAZの核への移行)を誘発する。驚くべきことに、モノ不飽和脂肪酸グリセロールエステルである1-オレオイル-rac-グリセロールも、メカノトランスダクションシグナル伝達をかなり誘発する。対照的に、飽和脂肪酸グリセロールエステル、1-ステアロイル-rac-グリセロール又は1-ペンタデカノイル-rac-グリセロールは、メカノトランスダクションを誘発しない。したがって、メカノトランスダクションYAP/TAZシグナル伝達経路を活性化するには、長鎖脂肪酸グリセロールエステルのモノ不飽和化が必要である。さらに、そして予想外なことに、(-)-荷電リン酸アニオン性ヘッド基を長鎖モノ不飽和脂肪酸グリセロールエステルに結合させることは、そのようなメカノトランスダクションシグナル伝達を引き起こすのに必須ではない。
【0077】
B.送達及び沈着
局所適用製剤からの1-オレオイル-rac-グリセロール及び1-ステアロイル-rac-グリセロールの皮膚送達を、数学モデルを使用して予測した。この皮膚送達モデルでは、皮膚を、角質層、生存表皮及び真皮の三つの層を有するものとして扱い、各層は文献で報告されている代表的な厚さ(それぞれ15、85、1000mm)を有するものとしている。試験化合物を含む製剤は、皮膚表面で別の層として扱われる。この皮膚送達モデルは、分配-拡散理論に基づく試験化合物の皮膚への浸透の動的プロセスをシミュレートするものであり、すなわち、各皮膚及び製品層において、試験化合物の物質移行がフィックの拡散第2法則を使用して特徴付けられるが、二つの隣接する層間の界面での試験化合物の移動は分配によって支配される。各皮膚層における試験化合物の潜在的な結合もシミュレートする。皮膚送達モデルの主要な入力パラメータには、分子量、水-オクタノール分配係数、化学組成(各種類の原子及び二重結合の数)などがある。数式、モデル入力パラメータからパラメータ(拡散性、分配係数及び結合係数など)を推定する方法が、Danciらの論文(Yuri Dancik, Mattew A. Miller, Joanna Jaworska, Gerald B. Kasting, Design and performance of a spreadsheet-based model for estimating bioavailability of chemicals from dermal exposure. Advanced Drug Delivery Reviews, 65:221-236, 2013.) Danciketal.で報告された。しかしながら、本モデルは、製品と角質層の間の分配係数の推定を改良して、代表的な皮膚製剤からの試験化合物の送達をよりよく予測するものであった。
【0078】
局所適用24時間後の生存表皮及び真皮への1-オレオイル-rac-グリセロール及び1-ステアロイル-rac-グリセロールの予測皮膚送達を表2に提供している。製剤は、臨床研究では一般的な2mg/cm2のレベルで適用されると仮定した。送達量は、適用された製剤中に含まれる試験化合物の総量のパーセント(%用量)として表される。予測結果は、最大5重量%の試験化合物を含む製剤について、及び異なる適用レベル(例えば、1又は5mg/cm2)では未変化のままであることに留意する。
【0079】
表2.皮膚送達予測:
1-オレオイル-rac-グリセロール対1-ステアロイル-rac-グリセロール
【表2】
【0080】
上の表2のデータからわかるように、1-オレオイル-rac-グリセロールは、代表的な皮膚製剤から皮膚を通って表皮層及び真皮層まで1-ステアロイル-rac-グリセロールよりもはるかに優れて(少なくとも3倍優れて)送達されると予測され、後者は、LPAなどのリゾホスファチジン酸よりもはるかに優れて送達されると予測された。さらに、1-オレオイル-rac-グリセロール(1-ステアロイル-rac-グリセロールではない)の機能レベルは、一部の皮膚製品で認められる脂肪酸グリセロールエステルのレベルに相当する3%1-オレオイル-rac-グリセロールを含む皮膚製剤からこれらの皮膚層に送達されると予測される。したがって、1-オレオイル-rac-グリセロールは、メカノトランスダクションを誘発できるだけでなく、適切な物理化学的特性(飽和グリセロールエステル及びリゾホスファチジン酸を超える)も有しており、メカノトランスダクション経路を活性化するのに必要である表皮層及び真皮層への効果的な送達を可能とするものである。
【0081】
C.この実施例は、水溶解度が、化粧品用途における1-ステアロイル-rac-グリセロールに勝る1-オレオイル-rac-グリセロールのもう一つの利点であることを実証する。
【0082】
表3.1-オレオイル-rac-グリセロール対1-ステアロイル-rac-グリセロールの水溶解度予測
【表3】
【0083】
上記の表3のデータからわかるように、1-オレオイル-rac-グリセロールは、1-ステアロイル-rac-グリセロールよりも水系媒体への溶解度がほぼ2倍高いことが予測され、これにより前者は、より広範囲の局所塗布化粧品製剤に適し、より汎用性が高くなる。さらに、1-オレオイル-rac-グリセロールの融点(すなわち、35℃)は体温(つまり37℃)より低いことで、(製剤中で)皮膚に塗布すると、それが液体の状態のままであり、意図どおりに皮膚に浸透し、皮膚を通って送達され得る。対照的に、1-ステアロイル-rac-グリセロールの融点は体温より高い(すなわち、40.5℃)ため、皮膚の上に早期に沈殿し、経皮送達を著しく妨げる可能性がある。したがって、1-オレオイル-rac-グリセロールは、水溶解度が高く、融点が低い(体温より低い)ため、局所化粧品組成物及び用途には1-ステアロイル-rac-グリセロールよりも優れた選択肢となる。
【0084】
実施例2
この実施例は、本発明の有効成分のアンチエイジング効果を実証するものである。
【0085】
若返り活性を評価するためのハイドロゲルモデル
YAP活性は基質の剛性に大きく依存するため、調整可能な機械的特性を備えた基質上でのアッセイを開発及び実行する必要があった。文献では、約2kPa以下のヒドロゲル基質上で培養された細胞は無視できるレベルの核YAPしか示さないことが報告されており、したがって、これらの材料は、若返り表現型(皮膚の真皮層の細胞外マトリクスの量及び/又は質の構築に重要なプロコラーゲン産生及び遺伝子活性化の促進など)に対するYAP活性剤の効果を評価するのに理想的である。
【0086】
初代ヒト皮膚線維芽細胞(P3)を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中の2%ウシ胎仔血清1mL中で24ウェル2kPaコラーゲンでコーティングしたヒドロゲルプレートに31,579細胞/cm2で蒔き、5%二酸化炭素の細胞培養インキュベータ内で24時間維持する。細胞をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、次いで0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを補充したDMEM 1mLで洗浄した。細胞は、5%二酸化炭素の細胞培養インキュベータ内で24時間維持した。
【0087】
培地200マイクロリットルを各ウェルから除去した。各ウェルに、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを補充したDMEM中の500μg/mLアスコルビン酸100μLを添加した。試験材料を、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを添加したDMEM又は0.1%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを添加したPBS中で最終濃度10倍まで希釈し、100μLを二連のウェルに投与した。細胞/プレートを細胞培養インキュベータ内で37℃、5%CO2で3日間インキュベートした。第3日に培地をウェルから除去し、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンと50μg/mLアスコルビン酸を添加したDMEM 900μLを加えた。処理を上記のように追加した。治療開始後6日目に、プロコラーゲンのレベルを測定するために、各ウェルから培地100μLを取り出す。
【0088】
プロコラーゲンアッセイ
培地サンプル中のプロコラーゲンの量を、Takara Bio Procollagen type 1C-peptide(PIP)検出EIAアッセイを使用して測定した。そのアッセイは、次のような製造者の説明書に従って実行した。すなわち、培地サンプル及び標準曲線に必要な数の再生抗体-PODコンジュゲート100μLをアッセイのウェルに加えた。プロコラーゲン標準溶液を、サンプル希釈液を使用して2倍連続希釈して、640、320、160、80、40、20、10及び0ng/mLプロコラーゲンの標準曲線を作成した。培地サンプルをサンプル希釈剤で1/20希釈した。標準曲線希釈液20μLをアッセイプレートのウェルに二連で加えた。サンプル希釈液中の培地希釈液20μLを一連でアッセイプレートのウェルに加えた。プレートを37℃で3時間インキュベートし、リン酸緩衝生理食塩水洗浄緩衝液で4回洗浄し、軽く叩いて残留洗浄緩衝液をすべて除去した。基質溶液(TMBZ)100μLを各ウェルに添加し、15分間インキュベートした。停止溶液100μLを各ウェルに添加し、プレートを振盪して混合し、450nmでの光学密度をプレートリーダーで読み取った。試験サンプル中のプロコラーゲンの量を標準曲線の値から計算し、希釈係数とウェルでの体積について補正して、サンプル中のプロコラーゲンのng数を得た。試験材料によって誘発されたプロコラーゲンの量を基本培地と比較した。
【0089】
以下の表の結果は、ORG(本発明の範囲内)が、驚くべきことに、既知の抗アンチエイジングマーカーであるヒト皮膚線維芽細胞におけるプロコラーゲン-Iの合成を促進することを実証している。対照的に、マグノロール、ヒノキオール、グリシン酸オレオイル及びプロピオン酸レチニル(これらは単独では本発明の範囲外)などの、このアッセイに単独で含まれる他の分子は、皮膚の生体力学的特性を模倣する基質でのプロコラーゲン活性を誘発する上でそのような顕著な効果を示さない。
【0090】
表4.ヒト皮膚線維芽細胞におけるプロコラーゲン合成に対する各種化合物処理の効果
【表4】
【0091】
皮膚におけるプロコラーゲン1のレベルの上昇又は維持は、しわの解消や光損傷を受けた皮膚の皮膚修復など、多くの皮膚アンチエイジング効果と関連している。
【0092】
驚くべきことに、ORGとプロピオン酸レチニルの組み合わせにより、プロコラーゲン生成が相乗的に増加した。ORGとプロピオン酸レチニルの組み合わせの効果は、いずれかの材料単独よりも統計的に有意に大きな増加をもたらし、プロコラーゲンのORG誘発間の差は、プロピオン酸レチニルと組み合わせた場合のORGとは統計的に(statically)異なった。
【0093】
若返りに関連するYAP下流遺伝子の活性化
YAPの活性化は、心臓や腸などのいくつかの臓器系における組織再生に重要な下流遺伝子の制御と関連している。したがって、我々は、ヒドロゲルモデルシステムにおけるYAPの活性化が細胞外マトリックスの構築に重要な遺伝子の制御ももたらすか否かを調べようとした。
【0094】
初代ヒト皮膚線維芽細胞(P3)を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中の2%ウシ胎仔血清2mL中で6ウェル2kPaヒドロゲルコラーゲンコートプレートに31,579細胞/cm2で蒔き、5%二酸化炭素の細胞培養インキュベータで24時間維持する。細胞をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で2回洗浄し、次いで、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミン(FAF-BSA)を補充したDMEM 1mLで洗浄した。細胞を、5%二酸化炭素の細胞培養インキュベータで24時間維持した。培地400μLをプレートの各ウェルから除去した。所望の最終濃度の10倍に希釈したYAP活性処理液200μL+1%DMSOを、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを補充したDMEMで希釈した。対照ウェルを1%DMSO 200μLで処理し、0.6%無脂肪酸ウシ血清アルブミンを補充したDMEMで希釈した。所望の最終濃度の10倍に希釈した水溶性YAP活性物質200μLを、DPBS+0.1%FAF-BSAで希釈した。対照ウェルをDPBS+0.1%FAF-BSA 200μLで処理した。プレートを37℃、5%CO2で終夜インキュベートした。午前中に、プレートにDPBS+0.1%FAF-BSA中の水溶性YAP活性物質220μLに投与するか、対照ウェルにDPBS+0.1%FAF-BSA 220μLを投与した。6時間後、培地をウェルから吸引し、細胞をDPBSで2回洗浄し、RNAが単離されるまでプレートを-80℃で凍結した。
【0095】
RNA単離
次の変更を加えて製造者の説明書にしたがって、Qiagen RNeasyミニキットを使用して、RNAを単離した。
【0096】
プレートを冷凍庫から取り出した直後に、RLT緩衝液+β-メルカプトエタノール700μLを各ウェルに加えた。プレートを500回転/分のオービタルシェーカー上に15分間置き、その間に緩衝液を解凍し、細胞を抽出した。細胞溶解物をQiashedderに移し、Qiashedderを通過させて細胞を破壊した。回収溶解物を等体積の70%エタノール、30%水と混合した。RNAを、NA汚染を除去するためのDNase段階を含むミニカラムで精製した。RNAサンプルを、NanoDrop800で定量し、定量アクセスはAgilent Bio-analyzerで行った。RNAサンプルの小分けサンプルをcDNAに逆転写し、5ng/μLの入力RNAに希釈した。cDNAサンプルについて、反応当たりcDNA 2μLを使用する比較Taqman解析を使用して特定マーカーの発現レベルを評価した。RNA発現レベルを、デルタデルタサイクル閾値(ddCt)法を使用して比較した。RNAの小分けサンプルも、RNA配列分析のためにLexogen(ウィーン、オーストリア)に提出した。
【0097】
表5.mRNA遺伝子発現に対するORG(Monomuls(登録商標))の効果
【表5】
【0098】
表5に、次式:増加パーセント=100×(2^log2FC)-100を用いて平均log2倍-変化(DESeq2を用いて計算)を増加パーセントに変換することによって計算されたBenjamini-Hochberg調整p値(adj. p. value)とともに、ビヒクル対照と比較したORG処理語の細胞外マトリクス産生に関与する遺伝子のmRNA発現における平均増加パーセントを示している。
【0099】
実施例2A
レチノイド活性のよく知られたマーカーであるCRABPII(細胞レチノイン酸結合タンパク質II)を分析することによって、プロピオン酸レチニル+ORG相乗効果(表4で観察される通り)をさらに解明するために、実施例2に記載の細胞培養及びRNA単離方法を使用して独立の実験を行った。RNAを細胞から採取した後(実施例2に記載の方法で)、High-Capacity RNA-to-cDNAキット(Applied Biosystems(商標名))を使用して、RNAサンプルの小分けサンプルをcDNAに逆転写した。次に、反応当たり10ngのcDNAサンプルを、プライマー及び比較TaqMan(商標名)遺伝子発現アッセイ及びTaqMan(商標名)Fast Advanced Master(FAM) Mix(Applied Biosystems(商標名)から購入)を使用してCRABPIIの発現レベルについて評価し、ViiA(商標名) 7 Real Time PCRシステム(Applied Biosystems(商標名)製)で実行した。CRABPII発現の増加パーセントを、次式:増加パーセント=100×(2^log2FC)-100を用いてlog2倍変化を増加パーセントに変換することによって計算した。
【0100】
【0101】
レチノイドは細胞の増殖及び分化において重要な役割を果たし、皮膚の老化を防ぐのに有益であることが示されている。超微細構造レベルでは、レチノイドは表皮の厚さを増加させ、コラーゲンI、II、VII並びにエラスチン及びムチンなどの真皮層の細胞外マトリクス分子の産生を増加させることも明らかになっている。レチノイドは、細胞レチノイン酸結合タンパク質(CRABP)によって細胞核に輸送され、CRABPIIは皮膚における支配的なアイソフォームである。レチノイドの細胞シグナル伝達の開始におけるCRABPIIの重要な役割を考慮すると、CRABPII発現は、レチノイド活性と、それに続くコラーゲン産生の増加などの上記の下流の皮膚若返り効果の初期マーカーとみなされる。
【0102】
表6に示すように、レチノイド、例えばプロピオン酸レチニルは、予想通りCRABPII遺伝子発現の強力な増加を誘発するが、ORGはレチノイドバイオマーカーのより緩やかな増加をもたらした。驚くべきことに、ORGとプロピオン酸レチニルの組み合わせはCRABPII遺伝子発現の相乗的な増加をもたらし、プロピオン酸レチニルとORGの組み合わせによってもたらされる予期せぬ生理活性の証拠をさらに提供した。プロピオン酸レチニルとORGの組み合わせによるCRABPII遺伝子発現におけるこの予期せぬ相乗的増加は、コラーゲン産生増加など(これに限定されるものではない)の皮膚アンチエイジング効果にとって重要であることが知られているレチノイド活性の増加を裏付けるものである。
【0103】
実施例3
下記の処方は、本発明による方法及び使用に適した水中油型クリームについて説明するものである。示されたパーセンテージは組成物の重量基準である。
【0104】
【0105】
実施例4
下記の処方は、本発明による乳濁液クリームについて説明するものである。
【0106】
【0107】
上記の局所組成物は、通常の老化プロセスによって滑らかさ及び張りを失った正常な皮膚に適用した場合、又はそのような望ましくない変化を予防若しくは遅延させるのに役立てるために若い皮膚に適用した場合、しわのある、老化した、光損傷を受けた皮膚の外観を改善する上で効果的な美容処置を提供する。その組成物は従来の方法で加工することができる。
【国際調査報告】