(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】圧電セラミックスの析出強化方法および圧電セラミックス
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20240229BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20240229BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240229BHJP
H10N 30/097 20230101ALI20240229BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B35/465
H10N30/853
H10N30/097
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556793
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 EP2022056951
(87)【国際公開番号】W WO2022194999
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】102021106699.9
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511004645
【氏名又は名称】セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec-Platz 1-9, D-73207 Plochingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン レーデル
(72)【発明者】
【氏名】ユリー コルザ
(72)【発明者】
【氏名】チャンハオ チャオ
(57)【要約】
本発明は、圧電セラミックスの析出強化方法および圧電セラミックスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックスの析出強化方法であって、前記方法は、
圧電セラミックスを、少なくとも1つの焼結温度で焼結するステップ;
前記焼結圧電セラミックスを熱処理するステップであって、前記熱処理は、
前記圧電セラミックスの温度を焼結温度からプロセス温度に調節するステップ;および
前記圧電セラミックスを少なくとも1つのエージング温度でエージングするステップであって、前記エージングを、少なくとも最初はエージング温度としての前記プロセス温度で行うものとするステップ;
を含むものとするステップ
を含み、
前記熱処理により結晶粒の内部に析出物を形成する、方法。
【請求項2】
前記圧電セラミックスの温度を調節するステップが、
前記圧電セラミックスを、前記焼結温度から前記プロセス温度まで、特に第1の期間内にかつ/または第1の温度変化率で冷却するステップ
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記圧電セラミックスの温度を調節するステップが、
前記圧電セラミックスを、前記焼結温度から中間温度まで、特に第2の期間内にかつ/または第2の温度変化率で冷却するステップ;
前記圧電セラミックスを、前記中間温度で第3の期間にわたって保持するステップ;
および/または
前記圧電セラミックスを、前記中間温度から前記プロセス温度まで、特に第4の期間内にかつ/または第3の温度変化率で加熱するステップ
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(i)前記焼結温度が、前記圧電セラミックスの相図のセラミックス系の固溶体の単相領域内の温度であり;
(ii)前記中間温度が、前記圧電セラミックスの相図の二相領域内の温度であり、かつ/または前記中間温度が、室温以上であり;
(iii)前記焼結温度が、前記プロセス温度よりも高く;
(iv)前記プロセス温度が、前記中間温度よりも高く;
かつ/または
(v)前記プロセス温度が、前記圧電セラミックスの相図の二相領域内の温度である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記圧電セラミックスの前記エージングを、単一のエージング温度で行い、特に、前記エージングを、第5の期間にわたっておよび/または単一のエージング温度としての前記プロセス温度で行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記圧電セラミックスの前記エージングを、2つ以上の異なるエージング温度で行い、特に第1のエージング温度で第6の期間にわたっておよび/または第2のエージング温度で第7の期間にわたって行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
(i)前記第1のエージング温度が、前記プロセス温度と一致しており、
(ii)前記第2のエージング温度が、前記第1のエージング温度よりも高く、
(iii)前記エージングが、前記第6の期間とともに開始し、
(iv)前記エージングが、前記第7の期間の後に終了し、
かつ/または
(v)前記第1のエージング温度から前記第2のエージング温度への移行を、第8の期間内にかつ/または第4の温度変化率で行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記プロセス温度および/または前記第1のエージング温度が、500℃~1450℃である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第2のエージング温度が、600℃~1450℃である、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
(i)前記圧電セラミックスを焼結するステップが、
セラミックス粉末を含む成形体を提供するステップであって、前記セラミックス粉末は、前記圧電セラミックスの製造に適した出発材料を含むものとするステップ;
および/または
前記成形体を、少なくとも1つの焼結温度で第9の期間にわたって焼結して、前記焼結圧電セラミックスを得るステップ;
を含み、かつ/または
(ii)前記焼結圧電セラミックスを熱処理するステップが、前記圧電セラミックスを、特に前記圧電セラミックスのエージングの最後の温度から開始して、第10の期間内にかつ/または第5の温度変化率で、最終温度、特に室温まで冷却するステップをさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記圧電セラミックスに含まれる鉛が、1重量%未満、有利には0.1重量%未満、有利には0.01重量%未満、有利には1000ppm未満、有利には100ppm未満である、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1体積%の析出物を含み、特に請求項1から11までのいずれか1項記載の方法によって製造されたまたは製造可能な、圧電セラミックス。
【請求項13】
前記析出物を、
(i)前記圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像において、特に前記圧電セラミックスのマトリックス結晶粒内に配置された、元素の原子番号によって決定される異なるコントラストの析出物として特定することができ;
かつ/または
(ii)前記圧電セラミックスのそれぞれ1つの圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像および/または圧電応答力顕微鏡画像において、前記ドメイン壁の付着/固定による前記強誘電体ドメインの歪みによって特定することができる、請求項12記載の圧電セラミックス。
【請求項14】
前記圧電セラミックスが、卓越した圧電セラミックスであり、それぞれ参照セラミックスと比較して、
(i)特に、1Hzにて-2kV/mm~+2kV/mmで変化する電界でヒステリシスを記録した場合に、前記卓越した圧電セラミックスのバイポーラ分極および/またはひずみヒステリシスがより小さく;
かつ/または
(ii)前記卓越した圧電セラミックスの前記機械的品質係数が増加し;
その際、前記参照セラミックスは有利には、前記卓越した圧電セラミックスを粉砕するステップ;前記合成され、粉砕された圧電セラミックス粉末から成形体をプレス加工するステップ;および特に前記セラミックスを急冷およびエージングすることなく前記成形体を焼結して、前記参照セラミックスを得るステップを含む製造方法により製造されたかまたは製造可能である、請求項12または13記載の圧電セラミックス。
【請求項15】
(i)前記卓越した圧電セラミックスの前記分極ヒステリシスが、前記参照セラミックスの前記分極ヒステリシスよりも10%~80%、有利には20%~70%、有利には30%~70%、有利には40%~70%および/または10%超、有利には20%超、有利には30%超、有利には40%超、有利には50%超小さく;
(ii)前記卓越した圧電セラミックスの前記ひずみヒステリシスが、前記参照セラミックスの前記ひずみヒステリシスよりも1%~50%、有利には5%~40%、有利には10%~40%、有利には15%~30%および/または10%超、有利には20%超、有利には30%超、有利には40%超、有利には50%超小さく;
かつ/または
(iii)前記卓越した圧電セラミックスの前記機械的品質係数が、前記参照セラミックスの前記機械的品質係数よりも10%超、20%超、30%超、40%超または50%超大きい、請求項14記載の圧電セラミックス。
【請求項16】
前記圧電セラミックスが、100以上、有利には300以上、有利には800以上、有利には1000以上の機械的品質係数を有する、請求項12から15までのいずれか1項記載の圧電セラミックス。
【請求項17】
前記圧電セラミックスが、分極ヒステリシスを有し、外部電界なしでの前記分極ヒステリシスの2つの分岐が、3μC/cm
2以上、有利には5μC/cm
2以上、有利には10μC/cm
2以上、有利には15μC/cm
2以上、有利には20μC/cm
2以上、有利には25μC/cm
2以上、有利には30μC/cm
2以上でかつ/または50μC/cm
2以下、有利には45μC/cm
2以下、有利には40μC/cm
2以下、有利には35μC/cm
2以下、有利には30μC/cm
2以下、有利には25μC/cm
2以下、有利には20μC/cm
2以下、有利には15μC/cm
2以下、有利には10μC/cm
2以下、有利には5μC/cm
2以下の垂直距離を有する、請求項12から16までのいずれか1項記載の圧電セラミックス。
【請求項18】
前記圧電セラミックスが、0.01%以上、有利には0.02%以上、有利には0.03%以上、有利には0.04%以上、有利には0.05%以上、有利には0.06%以上、有利には0.07%以上でかつ/または0.1%以下、有利には0.9%以下、有利には0.8%以下、有利には0.7%以下、有利には0.6%以下、有利には0.5%以下、有利には0.4%以下、有利には0.3%以下、有利には0.2%以下の最大ひずみ値を有するひずみヒステリシスを有する、請求項12から17までのいずれか1項記載の圧電セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスの析出強化方法および圧電セラミックスに関する。
【0002】
先行技術
いわゆる圧電セラミックスは、先行技術から知られている。圧電セラミックスは、多数の技術分野で使用されている。ここで、最も重要な分野の1つは、超音波の発生である。しかし、既知の圧電セラミックスの問題点は、頻繁に過熱することと、鉛を含むことである。
【0003】
したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を克服する圧電セラミックスの製造方法を規定することである。また、先行技術の欠点を克服する圧電セラミックスを規定することも本発明の課題である。
【0004】
発明の詳細な説明
前記課題は、第1の態様による本発明によって、圧電セラミックスの析出強化方法であって、
圧電セラミックス、特にニオブ酸塩セラミックス、チタン酸塩セラミックスまたはフェライトセラミックスを、少なくとも1つの焼結温度で焼結するステップ;
焼結圧電セラミックスを熱処理するステップであって、熱処理は、
圧電セラミックスの温度を焼結温度からプロセス温度に調節するステップ;および
圧電セラミックスを少なくとも1つのエージング温度でエージングするステップであって、エージングを、少なくとも最初はエージング温度としてのプロセス温度で行うものとするステップ
を含むものとするステップ
を含む方法が提案されることにより解決される。
【0005】
したがって、本発明は、セラミックス材料中に析出物を設けることにより、セラミックス部品の内部における磁壁の移動を著しく低減させることができるという驚くべき知見に基づくものである。その結果、損失が低減され、使用時に磁壁が移動する際、すなわち、周期的に膨張し、再び収縮する際にセラミックス内で発生する熱が少なくなる。これにより、セラミックスが過熱するリスクが明らかに低下する。そのため、セラミックスを、より高温でより高性能で使用することができる。その結果、セラミックスの使用の信頼性が高まり、より要求の厳しい条件下でもセラミックスの使用が可能となる。
【0006】
このようにして、提案された方法を用いて製造されたセラミックスの適用分野を、特に、適用温度と、振動速度、ひいては供給されるエネルギーとの双方に関して拡大することができる。
【0007】
有利には、本出願の趣意での析出物は、セラミックス組織内、特に圧電セラミックスのマトリックス結晶粒内の第二相である。析出物および/または圧電セラミックスは、室温で、特に、本明細書に記載される析出強化方法全体にわたって固体の凝集状態であり得る。ここで、第二相は、熱処理、特にエージングによって、その間に進行する析出プロセスの範囲内で、全体的または部分的に生じる。ここで、特に以下でさらに
図2~
図5を参照して詳述されるとおり、第二相の組成および形態は、セラミックス主相(マトリックス)と区別することができる。混合された添加物質と比較して、析出物は有益には、セラミックス中により均一に分布している。特に、析出物は結晶粒の内部に位置する。必要に応じて、析出物は、特に、焼結セラミックスを焼結温度未満の温度で熱処理することにより形成可能である材料を含み、特に、析出物はこうした材料からなる。例えば、圧電セラミックスがニオブ酸のアルカリ金属塩からなる場合、熱処理によって酸化アルミニウムの析出物が形成されることはない。
【0008】
焼結圧電セラミックスの本発明による熱処理によって、析出物を特に容易かつ確実に実現することができる。
【0009】
ここで、析出物は、本発明による熱処理によって、特に圧電セラミックスの焼結後の本発明による熱処理によって、特に容易に実現することができる。本発明による熱処理(言別の表現では、温度処理)により、結晶粒の内部に析出物が形成される。その結果、圧電セラミックスの析出強化が達成される。ここで、エージング中に圧電セラミックスの析出プロセスを実施することにより、析出強化された圧電セラミックスの最終組織が得られる。
【0010】
ここで、「析出強化」という用語は有利には、圧電セラミックスが、生成された析出物に起因して、例えば耐熱性の向上、動作中の発熱の低減、ひずみヒステリシスの低減、分極ヒステリシスの低減および/または圧電セラミックスの機械的品質係数の増加に関して、特性の向上を示すことを意味する。
【0011】
熱処理は、特に容易に実現可能である。まず、圧電セラミックスを単に、焼結後、特に迅速に冷却または急冷することによりプロセス温度にし、この温度でそのエージングも開始される。エージング(任意に他の温度を有することができる)の後、次いで、圧電セラミックスを例えば冷却することができる。
【0012】
熱処理が焼結に直接続くことが特に好ましい。したがって、本方法は、非常に効率的に実施することができる。
【0013】
有利には、本方法全体にわたる温度は、定義されたまたは定義可能な温度プロファイルにしたがって制御される。これは、特に信頼性が高い。
【0014】
温度変化は、原則として有利には線形的に、放物線状に、別の多項式関数にしたがって、または指数関数的に行われることができる。
【0015】
析出物は有利には、マトリックス結晶粒サイズよりも小さいサイズおよび/または0.01μm~1μm、有利には0.05μm~0.5μm、有利には0.1μm~0.5μm、有利には0.2μm~0.4μmのサイズを有する。
【0016】
一実施形態では、圧電セラミックスは、円板、ロッド、立方体、半球またはリングの形状に形成されていてよい。代替的または追加的に、圧電セラミックスは、特に円板またはリングの形状に形成されている場合に、少なくとも0.05cm、有利には少なくとも0.1cm、有利には少なくとも0.3cm、有利には少なくとも0.5cm、有利には少なくとも1cm、有利には少なくとも2cm、有利には少なくとも3cm、有利には少なくとも4cm、有利には少なくとも5cm、有利には少なくとも6cmでかつ/または最大で10cm、有利には最大で9cm、有利には最大で8cm、有利には最大で7cm、有利には最大で6cm、有利には最大で5cm、有利には最大で4cm、有利には最大で3cm、有利には最大で2cm、有利には最大で1cm、有利には最大で0.5cm、有利には最大で0.3cm、有利には最大で0.1cm、有利には最大で0.05cmの厚さを有する。厚さは、0.05cm~10cm、有利には1cm~5cmであってもよく、その際、境界値は、有利には含まれるか、または含まれない。
【0017】
例えば、圧電セラミックスがそのレセプタクルの内部に配置されているまたは配置される1つ以上の炉/オーブンの1つ以上の加熱装置は、圧電セラミックスが焼結および/または熱処理中にそれぞれ当該温度に到達および/または保持されるように制御することができる。したがって、1つ以上の加熱装置を有する単一の炉、またはそれぞれが1つ以上の加熱装置を有する複数の炉を有利に使用することができる。
【0018】
ここで、温度制御には、温度の設定、変更、閉ループ制御および/または開ループ制御が含まれ得る。有利には、温度制御によって、それぞれある時点について指定された目標温度が時間に応じて設定される。
【0019】
圧電セラミックスおよび/またはその粉末状出発材料は、材料として有利には、以下のものを有することも、それからなることもできる:0.8BaTiO3-0.2CaTiO3および/または(Ba,Ca)TiO3。
【0020】
一実施形態では、圧電セラミックスおよび/またはその粉末状出発材料は、材料として、以下のものを有するかまたはそれからなる:50%超がPZTからなるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がPMNからなるマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がBaTiO3からなるBaTiO3系材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がNBTからなるチタン酸ビスマスナトリウム(NBT)系圧電セラミックス、50%超がニオブ酸のアルカリ金属塩からなるニオブ酸のアルカリ金属塩のクラスからの圧電セラミックス、および/または50%超がBFからなるビスマスフェライト(BF)系圧電セラミックスのクラスからの圧電セラミックス。
【0021】
一実施形態では、圧電セラミックスは、酸化物系セラミックス、特に混合酸化物および/またはペロブスカイト構造を有する酸化物である。セラミックスは、1つ以上のカチオン性成分を有することができ、該成分は特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉄カチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオン、鉛カチオン、ビスマスカチオンおよび/またはチタンカチオンを含むことも、これらからなることもできる。セラミックスは、1つ以上のアニオン性成分を有することができ、該成分は特に、酸素アニオンを含むことも、これからなることもできる。一実施形態では、圧電セラミックスは、カチオン性成分Aとカチオン性成分Bとを含む。カチオン性成分Aは特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉛カチオンおよびビスマスカチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。カチオン性成分Bは特に、チタンカチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオンおよび鉄カチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。任意に、圧電セラミックスは、ABO3の分子式を有する。例えば、圧電セラミックスは、ニオブ酸塩セラミックス、チタン酸塩セラミックスまたはフェライトセラミックスであってよい。一実施形態では、成分Aは、複数のアルカリ金属カチオンおよび/またはアルカリ土類金属カチオンの混合物であり、例えば、カリウムとリチウム、カリウムとナトリウム、ナトリウムとリチウム、マグネシウムとカルシウム、ナトリウムとビスマス、カリウムとビスマス、鉛とランタン、バリウムとジルコニウム、またはバリウムとカルシウムのカチオンの混合物である。
【0022】
一実施形態では、析出物は、酸化物系セラミックス、特に混合酸化物および/またはペロブスカイト構造を有する酸化物を含む。析出物は、第二相を形成するため、それを取り囲む圧電セラミックスとは化学組成が異なる。析出物は、1つ以上のカチオン性成分を有することができ、該成分は特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉄カチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオン、鉛カチオン、ビスマスカチオンおよび/またはチタンカチオンを含むことも、これらからなることもできる。析出物は、1つ以上のアニオン性成分を有することができ、該成分は特に、酸素アニオンを含むことも、これからなることもできる。一実施形態では、析出物は、カチオン性成分Aとカチオン性成分Bとを含む。カチオン性成分Aは特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉛カチオンおよびビスマスカチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。カチオン性成分Bは特に、チタンカチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオンおよび鉄カチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。任意に、析出物は、ニオブ酸塩、チタン酸塩またはフェライトを含むことも、これらからなることもできる。一実施形態では、成分Aは、複数のアルカリ金属カチオンおよび/またはアルカリ土類金属カチオンの混合物であり、例えば、カリウムとリチウム、カリウムとナトリウム、ナトリウムとリチウム、マグネシウムとカルシウム、ナトリウムとビスマス、カリウムとビスマス、鉛とランタン、バリウムとジルコニウム、またはバリウムとカルシウムのカチオンの混合物である。
【0023】
もう1つの重要な点は、従来、例えば機械的品質係数、たわみおよび振動速度に関して比較的良好な結果を得るために、しばしば鉛が使用されてきたという事実に関するものである。析出物によって強化された鉛不含の圧電セラミックスは、すでに直接的に機械的品質係数が増加しており、したがって発熱が少なくなっているため、このようなことは、本発明ではもはや不要である。
【0024】
したがって、一実施形態では、製造されたセラミックスは、鉛を含まない。
【0025】
その結果、本発明による方法を用いることで、セラミックスにおける鉛の使用を省くことができる。したがって、このようにして製造されたセラミックスは、環境に優しく、すでに一方では、廃棄の際に生じる問題が少なく、他方では、厳しさを増す環境規制の下でも問題なくさらに使用することができる。
【0026】
しかし、このことは、鉛含有圧電セラミックスが、提案された方法で製造できないということを意味するものではなく、むしろその逆である。本方法は、いずれにせよ本発明の他の利点を享受するために、鉛含有圧電セラミックスにも有利には特に有益に適用することができる。
【0027】
これは、本方法により、特に以下の有益な基準を完全にまたは部分的に満たす圧電セラミックスを製造することが可能となるためである:
- 鉛を含まず;
- 高温で著しく大きな発熱が起こらず;
- より高い性能を達成でき;
- 使用中のセラミックスの温度が低いため、セラミックスの熱脱分極のリスクが低く、安全性が高く;かつ
- セラミックス温度の低下により、溶媒や電子部品の発火が防止でき、特に回避できる。
【0028】
ここで、本発明による方法は、圧電セラミックスの既存の製造および/または加工方法に非常に容易に組み込むことができ、それによってこれらの従来の方法を補足することができる。したがって、本発明による方法は、非常に効率的に実施することができる。
【0029】
さらに、鉛不含および/または耐熱性圧電セラミックスについては、市場でより高価格を達成することができる。本発明による方法によって得られる圧電セラミックスには鉛を含有させる必要がないため、対応する圧電セラミックスから、製造業者にとって非常に大きな競争上の優位性が生まれる可能性がある。
【0030】
したがって、本方法は、特にセラミックスの製造および/またはさらなる加工の分野において特に有益に使用することができる。したがって、本方法は、特にセラミックス産業にとって特に重要である。
【0031】
本方法によって得られる圧電セラミックスは、圧電セラミックスが重要な構成要素である用途および/または装置において特に有益に使用することができる。特にここでは、超音波技術、この場合特に、超音波溶接、超音波洗浄およびパワー超音波、ならびにそれぞれ対応する装置が挙げられる。さらに、この点で、圧電モータおよび圧電変圧器が挙げられる。
【0032】
本方法はまた、特に時計産業において、医療機器の衛生分野において、工業分野、例えば光学分野において、または例えば部品の洗浄もしくは溶接のための高出力用途のような工業で使用される装置において洗浄機器に使用される圧電セラミックスの製造に特に好適である。それに応じて、本発明により製造された圧電セラミックスは、例えば超音波洗浄装置、特に工業用超音波洗浄装置において使用することができる。
【0033】
代替的または追加的に、圧電セラミックスの温度を調節するステップが、
圧電セラミックスを、焼結温度からプロセス温度まで、特に第1の期間内にかつ/または第1の温度変化率で冷却するステップ
を含むことが提供されていてもよい。
【0034】
ここで、例えば、圧電セラミックスの冷却は、圧電セラミックスの急冷を含むことができる。
【0035】
本願発明の趣意での急冷とは、有利には、圧電セラミックスを初期温度から目標温度まで、よってこの場合、例えば焼結温度からプロセス温度まで、急激に冷却することを意味する。例えば、単相領域から二相領域への冷却時の冷却速度が、第二相の形成が阻止されるほど迅速である場合に、急冷が生じる。急冷とみなされるのは、例えば、能動冷却を含むか、または何ら熱を供給せずにセラミックスを自発的に冷却させるプロセスである。ここで、冷却、特に急冷は、水、油を用いておよび/または大気などのガスの吹き込みによって行うことができる。
【0036】
セラミックスを熱処理する際に、有利には、熱の供給によって冷却速度を所定値に設定することができる。ここで、冷却速度は、特に試料の厚さに応じて選択することができる。
【0037】
代替的または追加的に、圧電セラミックスの温度を調節するステップが、
圧電セラミックスを、焼結温度から中間温度まで、特に第2の期間内にかつ/または第2の温度変化率で冷却するステップ;
圧電セラミックスを、中間温度で第3の期間にわたって保持するステップ;
および/または
圧電セラミックスを、中間温度からプロセス温度まで、特に第4の期間内にかつ/または第3の温度変化率で加熱するステップ
を含むことが提供されていてもよい。
【0038】
圧電セラミックスをまず中間温度まで冷却し、次いで、より高いプロセス温度まで加熱すると、特に非常に小さく、したがって特に効果的な析出物の大量生産も、特に確実に達成することができる。
【0039】
中間温度を経ることにより、より迅速な冷却を達成することができ、ひいては高温域での滞留時間を短縮することができる。高温域によって、析出物の形成がさほど良好に制御されなくなり、かつ/または制御不可能となる。したがって、提案された中間温度は、析出物のより良好な制御をもたらす。
【0040】
ここで、例えば、圧電セラミックスの冷却は、圧電セラミックスの急冷を含むことができる。
【0041】
例えば、中間温度は、300℃~1200℃、特に350℃~1200℃、または400℃~1100℃である。任意に、中間温度は、600℃~1200℃、有利には700℃~1200℃、有利には800℃~1100℃、有利には800℃~1000℃である。
【0042】
例えば、中間温度は、少なくとも300℃、少なくとも350℃、または少なくとも400℃である。一実施形態では、中間温度は、少なくとも600℃、有利には少なくとも700℃、有利には少なくとも800℃、有利には少なくとも900℃、有利には少なくとも1000℃、有利には少なくとも1100℃である。代替的にまたは追加的に、中間温度は、高くても1500℃、有利には高くても1400℃、有利には高くても1300℃、有利には高くても1200℃、有利には高くても1100℃、有利には高くても1000℃、有利には高くても900℃、有利には高くても800℃である。
【0043】
例えば、中間温度は、600℃、700℃、800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃または1200℃である。
【0044】
代替的にまたは追加的に、
(i)焼結温度が、圧電セラミックスの相図のセラミックス系の固溶体の単相領域内の温度であり;
(ii)中間温度が、圧電セラミックスの相図の二相領域内の温度であり、かつ/または中間温度が、室温以上であり;
(iii)焼結温度が、プロセス温度よりも高く;
(iv)プロセス温度が、中間温度よりも高く;
かつ/または
(v)プロセス温度が、圧電セラミックスの相図の二相領域内の温度である
ことが提供されていてもよい。
【0045】
温度が相図の言及された範囲にある場合に、本方法により、析出物の特に有益な結果を達成することができる。
【0046】
相図は、材料に依存する。したがって、これらの範囲が常に、圧電セラミックスに使用される材料の相図に関連するものであることは自明である。
【0047】
特定の理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、言及された範囲から温度を選択した場合の有益な効果を、マトリックス結晶粒の内部での核形成がこれらの温度範囲で起こり、核が均一に分布するという点で説明している。その後、これらの核は所望のサイズに成長する。
【0048】
焼結温度がセラミックス系の固溶体の相図の単相領域(α)にあり、プロセス温度が相図の二相領域(α+β)内の温度であると特に有益であることが判明した。プロセス温度が中間温度を経由して達成される場合、任意に、中間温度もまた、相図の二相領域内の温度であることが好ましい。例えば、中間温度は室温以上とすることができる(ただし、中間温度は、最良の場合には、プロセス温度より低くなるはずである)。
【0049】
本出願の趣意において、室温は、特に101.325kPaの周囲圧力で、有利には20℃である。
【0050】
代替的または追加的に、圧電セラミックスのエージングを、単一のエージング温度で行い、特に、エージングを、第5の期間にわたっておよび/または単一のエージング温度としてのプロセス温度で行うことが提供されていてもよい。
【0051】
これは特に容易に実現可能であり、なぜならば、このためには圧電セラミックスを一定の温度(プロセス温度)に保持するだけでよいためである。
【0052】
代替的または追加的に、圧電セラミックスのエージングを、2つ以上の異なるエージング温度で行い、特に第1のエージング温度で第6の期間にわたっておよび/または第2のエージング温度で第7の期間にわたって行うことが提供されていてもよい。
【0053】
圧電セラミックスのエージングを2つの(またはさらにそれを上回る)各種温度で行うと、圧電セラミックスの特性に関してさらにより良好な結果を得ることができる。
【0054】
代替的または追加的に、
(i)第1のエージング温度が、プロセス温度と一致しており、
(ii)第2のエージング温度が、第1のエージング温度よりも高く、
(iii)エージングが、第6の期間とともに開始し、
(iv)エージングが、第7の期間の後に終了し、
かつ/または
(v)第1のエージング温度から第2のエージング温度への移行を、第8の期間内にかつ/または第4の温度変化率で行う
ことが提供されていてもよい。
【0055】
ここで、第1のエージング温度は、核形成のための温度を表すことができ、かつ/または第2のエージング温度は、(核からの)析出物の成長のための温度を表すことができる。したがって、より低い温度で核を生成し、より高い温度で析出物の成長を進行させることができる。これにより、特に効果的な圧電セラミックスを、特に信頼性の高い方法で製造することができる。
【0056】
有益には、エージング温度(またはエージング温度、特に第1のエージング温度)は常に、100℃超、有利には200℃超、有利には300℃超、有利には400℃超、有利には500℃超、有利には600℃超、有利には700℃超、有利には800℃超、有利には900℃超である。代替的にまたは追加的に、エージング温度は常に、1600℃未満、有利には1550℃未満、有利には1500℃未満、有利には1450℃未満、有利には1400℃未満、有利には1300℃未満、有利には1200℃未満、有利には1100℃未満、有利には1000℃未満である。
【0057】
代替的または追加的に、プロセス温度および/または第1のエージング温度が、900℃~1500℃、有利には1000℃~1400℃、有利には1000℃~1300℃、有利には1100℃~1250℃であることが提供されていてもよい。代替的な一実施形態では、プロセス温度および/または第1のエージング温度は、少なくとも500℃、少なくとも600℃または少なくとも700℃であってよい。この温度は有利には、高くても1450℃または高くても1250℃である。特定の実施形態では、この温度は、500℃~1450℃、600℃~1250℃または700℃~1250℃である。使用される圧電セラミックスによっては、第1のエージング温度はより低くてもよく、特に400℃~1000℃、または500℃~800℃であってもよい。圧電セラミックスによっては、第1のエージング温度は、少なくとも400℃または少なくとも500℃であってよい。
【0058】
提案された温度プロファイルにより、焼結温度との差が少なくとも一時的に20℃以上、有利には50℃以上、有利には100℃以上、有利には200℃以上、有利には300℃以上、有利には400℃以上、有利には500℃以上となる、熱処理時の温度を設定することが有益には可能である。有利には、この差は、1000℃以下、有利には900℃以下、有利には800℃以下、有利には700℃以下、有利には600℃以下、有利には550℃以下、有利には300℃以下である。したがって、この差は、例えば、20℃~1000℃、50℃~900℃、または100℃~800℃であってよい。
【0059】
有利には、焼結温度と熱処理時の温度、特にエージング温度との最大温度差は、最大で1000℃、有利には最大で900℃、有利には最大で800℃、有利には最大で700℃、有利には最大で600℃、有利には最大で500℃、有利には最大で400℃、有利には最大で300℃である。
【0060】
有利には、焼結温度とエージング温度との最小温度差は、少なくとも10℃、有利には少なくとも50℃、有利には少なくとも100℃、有利には少なくとも200℃、有利には少なくとも300℃、有利には少なくとも400℃、有利には少なくとも500℃、有利には少なくとも600℃である。
【0061】
有益には、圧電セラミックスの焼結時に、相を1つしか必要としない熱力学的状態が存在する。代替的にまたは追加的に、有益には、温度(プロセス温度および/またはエージング温度など)または温度プロファイルは、焼結温度よりも低い温度が少なくとも一時的にまたは常に存在するように、例えば焼結温度に対して20℃以上の差を有するように、焼結圧電セラミックスの熱処理時に有利に選択される。それによって、析出物形成のための十分な熱力学的駆動力を提供することができる。
【0062】
有益には、熱処理時の温度は常に、少なくとも500℃以上、有利には600℃以上、より有利には700℃以上である。これにより、カチオンの拡散を可能にする十分なキネティクスが確実に可能となり得る。
【0063】
言及された温度範囲で、特に効果的な圧電セラミックスを得ることができる。範囲の境界値は、有利には含まれるか、または含まれない。
【0064】
例えば、プロセス温度および/または第1のエージング温度は、少なくとも300℃、少なくとも400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、少なくとも700℃、少なくとも800℃、少なくとも900℃、有利には少なくとも1000℃、有利には少なくとも1100℃、有利には少なくとも1200℃、有利には少なくとも1300℃、有利には少なくとも1400℃でかつ/または高くても1500℃、有利には高くても1400℃、有利には高くても1300℃、有利には高くても1200℃、有利には高くても1100℃で、有利には高くても1000℃である。
【0065】
例えば、プロセス温度および/または第1のエージング温度は、約400℃、約500℃、約900℃、約950℃、約1000℃、約1050℃、約1100℃、約1150℃、約1200℃、約1250℃、約1300℃、約1350℃、約1400℃、約1450℃または約1500℃である。
【0066】
代替的または追加的に、第2のエージング温度が1000℃~1600℃、有利には1100℃~1500℃、有利には1150℃~1450℃、有利には1200℃~1400℃、有利には1250℃~1350℃であることが提供されていてもよい。代替的な一実施形態では、第2のエージング温度は、少なくとも500℃、少なくとも600℃または少なくとも700℃であってよい。第2のエージング温度は有利には、高くても1450℃または高くても1250℃であってよい。特定の一実施形態では、第2のエージング温度は、500℃~1450℃、600℃~1250℃、または700℃~1250℃である。
【0067】
言及された温度範囲により、選択された圧電セラミックスに応じて特に効果的な圧電セラミックスを得ることができる。範囲の境界値は、有利には含まれるか、または含まれない。
【0068】
例えば、第2のエージング温度は、少なくとも900℃、有利には少なくとも1000℃、有利には少なくとも1100℃、有利には少なくとも1200℃、有利には少なくとも1300℃、有利には少なくとも1400℃、有利には少なくとも1500℃でかつ/または高くても1500℃、有利には高くても1400℃、有利には高くても1300℃、有利には高くても1200℃、有利には高くても1100℃、有利には高くても1000℃である。
【0069】
例えば、第2のエージング温度は、900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃、1200℃、1250℃、1300℃、1350℃、1400℃、1450℃または1500℃である。
【0070】
代替的にまたは追加的に、
(i)圧電セラミックスを焼結するステップが、
セラミックス粉末を含む成形体を提供するステップであって、セラミックス粉末は有利には、圧電セラミックスの製造に適した出発材料、例えば(Ba,Ca)TiO3、BaCO3、CaCO3および/またはTiO2;例えばNa2CO3、K2CO3、Li2CO3および/またはNb2O5;例えばBi2O3、Na2CO3、TiO2および/またはBaCO3;例えばPbO、ZrO2および/またはTiO2;例えばBi2O3および/またはFe2O3を含むものとするステップ;
および/または
成形体を、少なくとも1つの焼結温度で第9の期間にわたって焼結して、焼結圧電セラミックスを得るステップ;
を含み、かつ/または
(ii)焼結圧電セラミックスを熱処理するステップが、圧電セラミックスを、特に圧電セラミックスのエージングの最後の温度から開始して、第10の期間内にかつ/または第5の温度変化率で、最終温度、特に室温まで冷却するステップをさらに含む
ことが提供されていてもよい。
【0071】
成形体は、例えば、セラミックスの(粉末状)原料を含むことができる。このために、セラミックス原料は有利には、混合、か焼および/または粉砕される。生じる圧電セラミックス粉末は、乾式圧縮(または例えばフィルムキャスティングなどの別の成形プロセス)によって圧電セラミックスの所望の形状にされ、緻密化される。
【0072】
ここで、成形体の焼結により有利には、組織、すなわち、粒界によって分離されたマトリックス結晶粒が形成され、材料が最終密度に達する。
【0073】
代替的または追加的に、圧電セラミックスに含まれる鉛が、1重量%未満、有利には0.1重量%未満、有利には0.01重量%未満、有利には1000ppm未満、有利には100ppm未満であることが提供されていてもよい。
【0074】
本発明による方法により、鉛を含まないかまたはごくわずかしか含まない圧電セラミックスを製造することが可能となる。これにより、環境規制のような特に厳しい規制下でも圧電セラミックスを使用することが可能となる。
【0075】
任意に、セラミックスは、少なくとも0.1ppmの鉛を含む。
【0076】
前述の課題は、第2の態様による本発明によって、少なくとも1体積%の析出物を含み、特に本発明の第1の態様による方法によって製造されたまたは製造可能な圧電セラミックスが提案されることにより解決される。
【0077】
特に効果的で堅牢な圧電セラミックスは、圧電セラミックス中の析出物の対応する含有量によって特徴付けられる。特に本発明による方法によって、言及された値範囲での析出物を初めて特に良好に実現することができる。
【0078】
本発明による圧電セラミックスは、本方法によって製造されたまたは製造可能な圧電セラミックスに関連して他の箇所にも記載されている有益な特性を有する。また、本発明による圧電セラミックスの使用および使用分野も、本方法によって製造されたまたは製造可能な圧電セラミックスに関連して論じられたものと一緒である。したがって、ここでは、繰り返しを避けるために、これらの記述を参照することができる。
【0079】
有利には、圧電セラミックスは、少なくとも1体積%、有利には少なくとも1.5体積%、有利には少なくとも2体積%、有利には少なくとも2.5体積%、有利には少なくとも3体積%、有利には少なくとも3.5体積%、有利には少なくとも4体積%、有利には少なくとも4.5体積%、有利には少なくとも5体積%、有利には少なくとも7体積%、有利には少なくとも10体積%、有利には少なくとも15体積%、有利には少なくとも20体積%の析出物を含む。任意にまたは代替的に、圧電セラミックスは、最大で50体積%、有利には最大で50体積%、有利には最大で40体積%、有利には最大で30体積%、有利には最大で20体積%、有利には最大で15体積%、有利には最大で10体積%、有利には最大で7体積%、有利には最大で5体積%、有利には最大で4体積%、有利には最大で3体積%、有利には最大で2体積%、有利には最大で1体積%の析出物を含む。圧電セラミックス中の析出物の好ましい一体積割合は、1~20%、特に1~10%である。
【0080】
有利には、圧電セラミックスは、従来の圧電セラミックスよりも特に優れた電気機械特性および圧電特性を有する。有利には、析出物は、セラモグラフィックおよび/または顕微鏡法を用いて、特に走査型電子顕微鏡法、透過型電子顕微鏡法および/または圧電応答力顕微鏡法を用いて、圧電セラミックス中で、特にセラミックス体積全体における析出物の占める体積を含めて検出可能である。
【0081】
このことは有利には、このような手段で検出できない析出物は、該当する析出物としてカウントされないことを意味する。
【0082】
顕微鏡検査では、例えば二次元表面が観察されるが、この場合、これは有利には圧電セラミックス試料の表面ではなく、最初に試料が切断される。したがって、顕微鏡画像には、圧電セラミックスの内部も映し出される。
【0083】
有利には、顕微鏡画像から、特に複数の画像から、(所定面積あたりの)析出物の数およびそのサイズを求めることができ/求められ、そこから体積割合が算出される(所定の三次元形状、典型的には球状、針状または板状の形状を仮定する)。
【0084】
この評価を、任意に例えばX線回折法によっても補足することができ、その際、相割合を、精密化によって決定することができる。
【0085】
代替的な方法としてはX線マイクロトモグラフィーがあり、試料の3D画像が得られ、次いでこれを評価することができる。この場合、2つの相は化学的に十分に異なっていることが有利であり、本明細書に記載の析出物では、総じてそうである。
【0086】
圧電セラミックスは、材料として有利には、以下のものを有することも、それからなることもできる:0.8BaTiO3-0.2CaTiO3および/または(Ba,Ca)TiO3。
【0087】
一実施形態では、圧電セラミックスは、材料として、以下のものを有するかまたはそれからなる:50%超がPZTからなるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がPMNからなるマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がBaTiO3からなるBaTiO3系材料のクラスからの圧電セラミックス、50%超がNBTからなるチタン酸ビスマスナトリウム(NBT)系圧電セラミックス、50%超がニオブ酸のアルカリ金属塩からなるニオブ酸のアルカリ金属塩のクラスからの圧電セラミックス、および/または50%超がBFからなるビスマスフェライト(BF)系圧電セラミックスのクラスからの圧電セラミックス。
【0088】
一実施形態では、圧電セラミックスは、酸化物系セラミックス、特に混合酸化物および/またはペロブスカイト構造を有する酸化物である。セラミックスは、1つ以上のカチオン性成分を有することができ、該成分は特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉄カチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオン、鉛カチオン、ビスマスカチオンおよび/またはチタンカチオンを含むことも、これらからなることもできる。セラミックスは、1つ以上のアニオン性成分を有することができ、該成分は特に、酸素アニオンを含むことも、これからなることもできる。一実施形態では、圧電セラミックスは、カチオン性成分Aとカチオン性成分Bとを含む。カチオン性成分Aは特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉛カチオンおよびビスマスカチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。カチオン性成分Bは特に、チタンカチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオンおよび鉄カチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。任意に、圧電セラミックスは、ABO3の分子式を有する。例えば、圧電セラミックスは、ニオブ酸塩セラミックス、チタン酸塩セラミックスまたはフェライトセラミックスであってよい。一実施形態では、成分Aは、複数のアルカリ金属カチオンおよび/またはアルカリ土類金属カチオンの混合物であり、例えば、カリウムとリチウム、カリウムとナトリウム、ナトリウムとリチウム、マグネシウムとカルシウム、ナトリウムとビスマス、カリウムとビスマス、鉛とランタン、バリウムとジルコニウム、またはバリウムとカルシウムのカチオンの混合物である。
【0089】
一実施形態では、析出物は、酸化物系セラミックス、特に混合酸化物および/またはペロブスカイト構造を有する酸化物を含む。析出物は、第二相を形成するため、それを取り囲む圧電セラミックスとは化学組成が異なる。析出物は、1つ以上のカチオン性成分を有することができ、該成分は特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉄カチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオン、鉛カチオン、ビスマスカチオンおよび/またはチタンカチオンを含むことも、これらからなることもできる。析出物は、1つ以上のアニオン性成分を有することができ、該成分は特に、酸素アニオンを含むことも、これからなることもできる。一実施形態では、析出物は、カチオン性成分Aとカチオン性成分Bとを含む。カチオン性成分Aは特に、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、鉛カチオンおよびビスマスカチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。カチオン性成分Bは特に、チタンカチオン、ニオブカチオン、ジルコニウムカチオン、亜鉛カチオン、ニッケルカチオンおよび鉄カチオンならびにそれらの混合物から選択することができる。任意に、析出物は、ニオブ酸塩、チタン酸塩またはフェライトを含むことも、これらからなることもできる。一実施形態では、成分Aは、複数のアルカリ金属カチオンおよび/またはアルカリ土類金属カチオンの混合物であり、例えば、カリウムとリチウム、カリウムとナトリウム、ナトリウムとリチウム、マグネシウムとカルシウム、ナトリウムとビスマス、カリウムとビスマス、鉛とランタン、バリウムとジルコニウム、またはバリウムとカルシウムのカチオンの混合物である。
【0090】
一実施形態では、セラミックスは、鉛を含まない。これを特に、提案された方法で有利かつ高い信頼性で実現することができる。
【0091】
代替的または追加的に、析出物を、
(i)圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像において、特に圧電セラミックスのマトリックス結晶粒内に配置された、元素の原子番号によって決定される異なるコントラストの結晶粒として特定することができ;
かつ/または
(ii)圧電セラミックスのそれぞれ1つの圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像および/または圧電応答力顕微鏡画像において、ドメイン壁の付着/固定による強誘電体ドメインの歪みによって特定することができる
ことが提供されていてもよい。
【0092】
代替的または追加的に、圧電セラミックスが、卓越した圧電セラミックスであり、それぞれ参照セラミックスと比較して、
(i)特に、1Hzにて-2kV/mm~+2kV/mmで変化する電界でヒステリシスを記録した場合に、卓越した圧電セラミックスのバイポーラ分極および/またはひずみヒステリシスがより小さく;
かつ/または
(ii)卓越した圧電セラミックスの機械的品質係数が増加し;
その際、参照セラミックスは有利には、
- 卓越した圧電セラミックスを粉砕するステップ;
- 合成され、粉砕された圧電セラミックス粉末から成形体をプレス加工するステップ、および
- 特にセラミックスを急冷およびエージングすることなく成形体を焼結して、参照セラミックスを得るステップ
を含む製造方法により製造されたかまたは製造可能であることが提供されていてもよい。
【0093】
本発明による圧電セラミックスの改良は特に、析出物が卓越した圧電セラミックスの強誘電体ドメイン壁の移動を拘束することによって達成される。これにより、損失が低減される。
【0094】
言い換えれば、ドメイン壁の移動の結果、結晶粒内の微視的領域は、それぞれ一定の膨張を経る。これが合わさることで、局所的な配向に依存して個々の領域から部品の全体的なひずみが生じる。ドメイン壁の移動は内部摩擦を引き起こし、これが損失を招く。今般、本発明によるセラミックスによりこの移動を低減することにより、損失が低減される。
【0095】
代替的または追加的に、
(i)卓越した圧電セラミックスの分極ヒステリシスが、参照セラミックスの分極ヒステリシスよりも10%~80%、有利には20%~70%、有利には30%~70%、有利には40%~70%および/または10%超、有利には20%超、有利には30%超、有利には40%超、有利には50%超小さく;
(ii)卓越した圧電セラミックスのひずみヒステリシスが、参照セラミックスのひずみヒステリシスよりも1%~50%、有利には5%~40%、有利には10%~40%、有利には15%~30%および/または10%超、有利には20%超、有利には30%超、有利には40%超、有利には50%超小さく;
かつ/または
(iii)卓越した圧電セラミックスの機械的品質係数が、参照セラミックスの機械的品質係数よりも10%超、20%超、30%超、40%超または50%超大きく、好ましい一実施形態では、さらには参照セラミックスの機械的品質係数よりも2、3、5または10倍の大きさであることが提供されていてもよい。
【0096】
例えば、卓越した圧電セラミックスの分極ヒステリシスは、参照セラミックスの分極ヒステリシスよりも少なくとも5%、有利には少なくとも7%、有利には少なくとも10%、有利には少なくとも15%、有利には少なくとも20%、有利には少なくとも25%、有利には少なくとも30%、有利には少なくとも35%、有利には少なくとも40%、有利には少なくとも45%、有利には少なくとも50%小さい。一実施形態では、卓越した圧電セラミックスの分極ヒステリシスは、参照セラミックスの分極ヒステリシスよりも最大で80%、有利には最大で70%、有利には最大で60%、有利には最大で50%、有利には最大で45%、有利には最大で40%、有利には最大で30%、有利には最大で25%、有利には最大で20%、有利には最大で15%、有利には最大で10%小さい。
【0097】
例えば、卓越した圧電セラミックスのひずみヒステリシスは、参照セラミックスのひずみヒステリシスよりも少なくとも1%、有利には少なくとも3%、有利には少なくとも5%、有利には少なくとも7%、有利には少なくとも10%、有利には少なくとも13%、有利には少なくとも15%、有利には少なくとも17%、有利には少なくとも20%、有利には少なくとも25%、有利には少なくとも30%、有利には少なくとも35%、有利には少なくとも40%および/または最大で50%、有利には最大で45%、有利には最大で40%、有利には最大で35%、有利には最大で30%、有利には最大で25%、有利には最大で20%、有利には最大で15%、有利には最大で10%、有利には最大で5%、および有利には最大で3%小さい。
【0098】
例えば、卓越した圧電セラミックスの機械的品質係数は、参照セラミックスの機械的品質係数よりも少なくとも5%、有利には少なくとも7%、有利には少なくとも10%、有利には少なくとも13%、有利には少なくとも15%、有利には少なくとも17%、有利には少なくとも20%、有利には少なくとも25%、有利には少なくとも30%、有利には少なくとも35%、有利には少なくとも40%、有利には少なくとも60%、有利には少なくとも80%、有利には少なくとも100%、有利には少なくとも200%、有利には少なくとも300%、有利には少なくとも500%、有利には少なくとも800%、有利には少なくとも900%または少なくとも1000%大きい。一実施形態では、卓越した圧電セラミックスの機械的品質係数は、参照セラミックスの機械的品質係数よりも最大で4000%、有利には最大で300%、有利には最大で2000%、有利には最大で1000%、有利には最大で800%、有利には最大で500%、有利には最大で300%大きい。
【0099】
殊に本発明による方法によって、品質係数を特に確実に高めることができる。殊に、特に出発材料が比較的低い品質係数を有する場合には、例えば最大で4000%、最大で3000%、最大で2000%または最大で1000%の増加を達成することもできる。
【0100】
本発明のさらなる態様
したがって、本発明は、特に以下の利点および特徴を有する:
1.焼結後のセラミックスの迅速な冷却
これにより特に、中間温度範囲における制御不能なプロセスが阻止される。高温で存在する単相状態が、低温でも存在する(いわゆる「過飽和溶液」が生じる)。
2.焼結温度とプロセス温度/エージング温度とが、相図の異なる領域にあること。
これにより特に、析出物が、焼結中ではなく低温でのみ生じることが保証され、この低温ではキネティクスが遅くなり、より良好に制御することができる。
3.(1つ以上のエージング温度での)セラミックスのエージング
これにより特に、核形成のための所定の温度およびこれらの核の成長のための温度が、理想的に制御される。
【0101】
特に好ましくは、以下の特徴のうち1つ以上を提供することができる:
・焼結温度が、900℃~1300℃、または1400℃~1550℃である;
・第1の期間(焼結温度からプロセス温度までの冷却)が、1秒間~1時間である;
・第2の期間(焼結温度から中間温度までの冷却)が、1秒間~30時間である;
・第3の期間(中間温度での保持時間)が、1秒間~1ヶ月間、有利には1分間~10分間である;
・第4の期間(中間温度からプロセス温度への加熱)が、1秒間~30時間である;
・第5の期間(エージング)が、1分間~100時間、有利には1100℃~1350℃の温度である;
・第6の期間(第1のエージング)が、1分間~100時間であり、有利には1100℃~1300℃の温度である;
・第7の期間(第2のエージング)が、1分間~100時間、有利には1200℃~1350℃の温度である;
・第8の期間(第1のエージング温度から第2のエージング温度への移行)が、1秒間~30時間である;
・第9の期間(焼結)が、10分間~24時間、特に30分間~16時間、または2時間~12時間である;
および/または
・第10の期間(エージング後の冷却)が、1秒間~30時間である。
【0102】
本発明のさらなる有益な特徴
本発明は任意に、以下に詳説するさらなる特徴を有することができる。ここで、これらの特徴は、文脈から明らかな場合を除き、本発明の第1の態様による方法および本発明の第2の態様による圧電セラミックスの双方を規定することができる。
【0103】
焼結圧電セラミックスを熱処理するステップは有益には、圧電セラミックスの結晶粒内、特にマトリックス結晶粒内に析出物を生成し、かつ/またはその生成を誘発し、支持し、増大させかつ/または改善する。これは、第二相の純粋な混和物と比較して特に有益であることが実証された。なぜならば、こうした混和物は、マトリックス相に加えて不活性な状態で存在し、特に粒界相にのみ作用するためである。また、混和物は、析出物のような均一な分散が不可能である。
【0104】
通常は、混和された成分は、結晶粒直径も大きくなる。これとは対照的に、結晶粒内の析出物によって(結晶粒の内部に存在する強誘電体ドメイン壁との相互作用によって)明らかに改善された材料特性を達成することができる。
【0105】
有益には、エージング(調質または時効とも呼ばれる)によって結晶粒体積(格子)内でのカチオンの拡散が可能となり、その結果、そこで結晶粒体積内に析出物が生成される。
【0106】
有益には、圧電セラミックスの材料系は、LNN、例えばNaxLi1-xNbO3であるか、またはこれを含む。
【0107】
有益には、熱処理は単段熱処理であり、特にエージング温度は一定に保たれる。例えば、任意に単段の熱処理の際の温度(例えばエージング温度)は、500℃~800℃である。熱処理の温度(特にエージング温度)は、特に1時間~48時間(例えば24時間)、有利には4時間~24時間、有利には4時間~12時間(例えば8時間)、または12時間~24時間であってよい。
【0108】
有益には、単段熱処理の場合には、熱処理時に選択される温度によって、析出物の数、密度および/またはサイズがそれぞれ少なくとも部分的に制御される。
【0109】
熱処理は有益には、二段熱処理とすることもでき、よって、特にエージング温度は、あるエージング温度から別のエージング温度に、例えば連続的または離散的に変更される。例えば、二段熱処理時の温度(例えば、第1のエージング温度)は、まず500℃~800℃(例えば500℃)で、特に12時間~48時間、例えば24時間であり、次に500℃~800℃(例えば600℃)で、特に0.1時間~12時間、特に1時間~8時間、例えば6時間である。この二段熱処理は、特にニオブ酸塩の圧電セラミックスに適していることが実証された。
【0110】
二段熱処理の場合、第1の処理段階は有益には、核形成のために行われ、かつ/または第2の処理段階は有益には、析出物(または核)の成長のために行われる。
【0111】
有益には、二段熱処理の場合には、第2の処理段階の期間の選択によって、析出物のサイズが少なくとも部分的に制御される。
【0112】
有利には、熱処理は常に、焼結圧電セラミックスのキュリー温度を上回る温度で行われる。
【0113】
有利には、本発明の第1の態様による本方法によって熱処理された圧電セラミックスおよび/または本発明の第2の態様による圧電セラミックスの機械的品質係数は、100以上、有利には350以上、有利には600以上、有利には850以上、有利には1000以上である。任意に、機械的品質係数は、4000未満、2000未満または1500未満であり得る。
【0114】
これにより、発熱が比較的少ないセラミックスを使用することができる。ここで、セラミックスの機械的品質係数は、有利にはDIN EN 50324:2002-12に準拠して決定することができる。
【0115】
代替的または追加的に、圧電セラミックスが分極ヒステリシスを有し、外部電界なしでの(つまり、Y軸との交点での;
図6a参照)該分極ヒステリシスの2つの分岐が、3μC/cm
2以上、有利には5μC/cm
2以上、有利には10μC/cm
2以上、有利には15μC/cm
2以上、有利には20μC/cm
2以上、有利には25μC/cm
2以上、有利には30μC/cm
2以上でかつ/または50μC/cm
2以下、有利には45μC/cm
2以下、有利には40μC/cm
2以下、有利には35μC/cm
2以下、有利には30μC/cm
2以下、有利には25μC/cm
2以下、有利には20μC/cm
2以下、有利には15μC/cm
2以下、有利には10μC/cm
2以下、有利には5μC/cm
2以下の垂直距離を有することが提供されていてもよい。
【0116】
ここで、例えば、分極ヒステリシスは、周波数1Hzでの電界を用いて決定可能であってもよいし、決定されたものであってもよい。分極ヒステリシスは、例えばソーヤータワー回路、シャント法または仮想接地法によって測定することができる。
【0117】
代替的または追加的に、圧電セラミックスが、0.01%以上、有利には0.02%以上、有利には0.03%以上、有利には0.04%以上、有利には0.05%以上、有利には0.06%以上、有利には0.07%以上でかつ/または0.1%以下、有利には0.9%以下、有利には0.8%以下、有利には0.7%以下、有利には0.6%以下、有利には0.5%以下、有利には0.4%以下、有利には0.3%以下、有利には0.2%以下の最大ひずみ値を有するひずみヒステリシスを有することが提供されていてもよい。
【0118】
ここで、例えば、ひずみヒステリシスは、周波数1Hzでの電界を用いて決定可能であってもよいし、決定されたものであってもよい。ひずみヒステリシスは、レーザー干渉計を使用して、光学センサーを使用して、誘導型センサー(LVDT)を使用して、またはひずみゲージを使用して決定することができる。
【0119】
有利には、析出物は、結晶粒サイズ、特に結晶粒直径の0.1%以上、1%以上、3%以上、有利には5%以上、有利には8%以上、有利には10%以上であるサイズ、特に直径を有する。任意に、析出物は、結晶粒サイズ、特に結晶粒の最大直径の20%以下、有利には18%以下、有利には16%以下、有利には14%以下、有利には12%以下であるサイズ、特に最大直径を有する。
【0120】
有利には、析出物は、コヒーレント、セミコヒーレントおよび/または異方性析出物である。ドメイン壁を、特に有益には異方性析出物によって拘束することができる。コヒーレント析出物の場合、析出物の格子定数は、周囲のマトリックスの格子定数からわずかに(例えば、最大2%)しかずれておらず、したがって、界面を通る格子面は連続的である。セミコヒーレント析出物の場合、これは、界面の片側だけに適用される。異方性析出物は、2つまたは3つの空間方向で異なる長さを持つ析出物である。
【0121】
析出物が結晶粒内で生成されるのが有益である。これにより、すべてのドメイン壁へのアクセスが特に効果的に可能である。これは、これにより圧電セラミックスのすべての体積が析出物によって占められていることを確実に達成できるためであるという理由を有し得る。
【0122】
上記で言及された参照セラミックスに関して、Shibataらに提示された圧電セラミックスを用いることができる(Kenji Shibata, Ruiping Wang, Tonshaku Tou, and Jurij Koruza, “Applications of lead-free piezoelectric materials”, mrs bulletin, 83, 612- 616(2018))。該文献には、組成0.82(Bi1/2Na1/2)TiO3-0.15BaTiO3-0.03(Bi1/2Na1/2)(Mn1/3Nb2/3)O3、電気機械的品質係数Qmが500、圧電係数d33が110pC/Nである共振用途の材料が記載されている。
【0123】
有益には、析出物は、圧電セラミックスの主材料とは異なる材料によって生成される。「主材料」とは、その重量割合に関して圧電セラミックスの最大の割合を有する材料である。
【0124】
有利には、圧電セラミックスは、100nm3あたり平均して約1個の析出物を含む。一実施形態では、この析出物密度は、100nm3あたり少なくとも0.1個の析出物、特に100nm3あたり少なくとも0.5個の析出物、または100nm3あたり少なくとも0.8個の析出物である。任意に、この析出物密度は、100nm3あたり多くとも10.0個の析出物、特に100nm3あたり多くとも3.0個の析出物、または100nm3あたり多くとも1.5個の析出物である。特に、この析出密度は、100nm3あたり0.1~10.0個の析出物、特に100nm3あたり0.5~3.0個の析出物、または100nm3あたり0.8~1.5個の析出物であり得る。本発明は特に、圧電セラミックスにおける析出物の特に均一な分布をもたらす。一実施形態では、圧電セラミックスは、100nm3あたり10個を超える析出密度を有する100nm3の体積割合を含まない。圧電セラミックス中の析出物間の距離は、特に平均で20nm~200nm、有利には40nm~180nm、または40nm~150nmである。析出物間の平均距離は、各析出物の、それにそれぞれ最も近い3つの析出物までの距離の平均値である。
【0125】
有利には、析出物または結晶粒の「サイズ」とは、それぞれの圧電セラミックス中のそれぞれの析出物または結晶粒の最大の広がりを意味すると理解される。
【0126】
有益には、圧電セラミックス中の析出物の体積パーセントでの割合は、特に有益に、透過型電子顕微鏡法による圧電セラミックスの評価によって行うことができ、特に(例えば、別の箇所で言及されたアプローチの継続および/もしくは補足として、ならびに/またはそれに代わるアプローチとして)、圧電セラミックスを同じ厚さおよび/または既知の厚さの複数のスライスに分割し、各スライスについて1つ以上の透過型電子顕微鏡画像を撮影し、存在する析出物の体積パーセントでの割合に関して評価することによって行うことができる。あるいはこの評価は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した画像により行うこともできる。
【0127】
本発明のさらなる特徴および利点は、概略図を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する以下の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【
図1】
図1のaは、本発明による析出強化に例示的に使用されるセラミックス系の相図の一部を示す図であり、
図1のbは、本発明による方法における例示的な温度推移を示す図である。
【
図2】
図2のaは、焼結および急冷された圧電セラミックスのX線回折図であり、
図2のbは、本発明により製造された圧電セラミックスのX線回折図である。
【
図3】
図3のaは、従来の圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像であり、
図3のbは、本発明により製造された圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図4】
図4のaは、析出物を含まない圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像であり、
図4のbは、析出物を含む圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図5】
図5のaは、析出物およびドメイン構造を有する本発明により製造された圧電セラミックスの圧電応答力顕微鏡画像を示す図であり、
図5のbは、
図5のaでマークした領域の拡大図である。
【
図6a】焼結および急冷された圧電セラミックスのバイポーラ分極ヒステリシス、および本発明により製造された圧電セラミックスのバイポーラ分極ヒステリシスを示す図である。
【
図6b】焼結および急冷された圧電セラミックスのバイポーラひずみヒステリシス、および本発明により製造された圧電セラミックスのバイポーラひずみヒステリシスを示す図である。
【
図7】焼結および急冷された圧電セラミックスの機械的品質係数、および本発明による方法の異なる変形例にしたがって製造された2つの圧電セラミックスの機械的品質係数を示す図である。
【
図8】本発明による析出強化に例示的に使用されるセラミックス系の相図の一部を示す図である。
【
図9a】第1の圧電セラミックスの透過型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図9b】第2の圧電セラミックスの透過型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図10】第3の圧電セラミックスの透過型電子顕微鏡画像を、拡大部分とともに示す図である。
【
図11a】二段エージングを施した(
図8の)LNN18試料の機械的品質係数Q
m、平面電気機械結合係数k
p、および圧電係数d
33の例示的なグラフを示す図である。
【
図11b】単段エージングを施した(
図8の)LNN18試料の機械的品質係数Q
m、平面電気機械結合係数k
p、および圧電係数d
33の例示的なグラフを示す図である。
【
図12a】単段時効を施した本発明により製造された圧電セラミックスのバイポーラ分極ヒステリシスを示す図である。
【
図12b】二段時効を施した本発明により製造された圧電セラミックスのバイポーラ分極ヒステリシスを示す図である。
【0129】
実施例
1.圧電セラミックスの製造
図1aは、本発明による析出強化に例示的に使用されるセラミックス系の相図の一部を示す。
図1aの相図は、このような2成分系、すなわち2つの成分を有するセラミックス材料の相図である。グラフの左端では、第1の成分(A)が純物質として存在する。グラフの右端では、第2の成分(B)が純物質として存在する。
【0130】
相図は、実線で2つの領域に分割されている。ここで、αで示された領域は、固溶体αの相図領域である。ここで、α+βで示された領域は、2つの固溶体αおよびβを有する相図領域である。実線の推移は、セラミックス材料に依存する。
【0131】
物質Bのパーセンテージ(グラフの横軸参照)に応じて、相図の単相領域から二相領域への移行が、実線によって決定される温度(グラフの縦軸参照)で行われる。
【0132】
図1bは、本発明の第1の態様による本発明による方法における例示的な温度推移を示す。本発明による方法は、相図が
図1aに示されている圧電セラミックスを用いて実施される。
【0133】
本方法で使用される圧電セラミックスは、例えば、固体合成によって製造し、次いでさらなる方法により処理することができる。このために、セラミックス原料が、混合、か焼および粉砕される。生じる圧電セラミックス粉末が、乾式圧縮(または別の成形プロセス)によって対応する形状にされ、緻密化される。これにより、セラミックス粉末を含む成形体が提供される。
【0134】
この成形体は、次いで焼結され、その際、組織、すなわち粒界によって分離されたマトリックス結晶粒が形成され、セラミックス材料は、最終密度に達する。
図1aからわかるように、本発明による方法は、その点で例えば、圧電セラミックスを焼結温度T
sまで加熱し、その後、焼結温度T
sで第9の期間t
sにわたって焼結することを提供する。焼結温度は、固溶体αの相図領域にある。
【0135】
従来のように、圧電セラミックスを焼結後に室温まで比較的低い冷却速度で冷却する代わりに、本発明によれば、焼結後に特定の熱処理が行われる。
【0136】
熱処理の過程で、圧電セラミックスは焼結後に急冷される。これは、圧電セラミックスが比較的高い冷却速度で冷却されることを意味し、特に本ケースでは、相図の二相領域に冷却される。ここで、圧電セラミックスは、中間温度T
z(これは、例えば室温であってよい)まで急冷され、この温度で期間t
zにわたって保持される。
図1aからわかるように、中間温度T
zは、相図の二相領域内にある。その後、圧電セラミックスをより高いプロセス温度まで加熱するが、この温度は依然として二相図内にある。ここで、このより高いプロセス温度は、本ケースでは析出温度T
ausと同じである。
【0137】
プロセス温度、そしてひいては析出温度も通常は、それぞれのセラミックス系に依存し、したがって圧電セラミックスを初期にも特に成形体の形状で有する材料に依存する。
【0138】
圧電セラミックスは、析出温度Tausで第5の期間tausにわたってエージングされる。言い換えれば、期間tausにわたって、圧電セラミックスは常に温度Tausに保持される。少なくともこの期間にわたって析出プロセスが行われ、圧電セラミックスの最終組織が形成される。本例示的実施形態では、エージングは、結果として、単一の一定のエージング温度のみで実施される。その後、圧電セラミックスは、例えば室温まで冷却される。
【0139】
本例示的実施形態では、圧電セラミックスの材料は、例えば、0.8BaTiO3-0.2CaTiO3(BCT20)を有することも、それからなることもできる。BCT20の場合、特に好ましい結果を得るために、記載されたプロセスシーケンスにおいて(しかしまた、本発明による方法の範囲内で極めて全般的に)、以下の特定の温度を選択することができる:1500℃の焼結温度(特にts=8時間の期間にわたる)および/または1000℃~1300℃の、例えば1200℃の温度における一定の析出温度(特にtaus=72時間の期間にわたる)。
【0140】
別の実施形態では、焼結圧電セラミックスを、プロセス温度に直接、すなわち最初に中間温度にすることなく、急冷することもできる。代替的または追加的に、析出プロセスを、2つまたはさらには3つ以上の析出温度で実施することも可能である。その場合、第1のエージング温度を、例えば核生成に使用し、第2のエージング温度を、析出物の成長に使用することができる。
【0141】
材料BCT20において、別の実施形態では(しかしまた、本発明による方法の範囲内で極めて全般的に)、第1の温度を、例えば1100℃~1250℃、特に1200℃(特にtaus=72時間の期間にわたる)と選択し、かつ/または第2の温度を、例えば1250℃~1350℃、特に1300℃(特にtaus=24時間の期間にわたる)と選択することができる。
【0142】
さらなる材料ペアおよびその温度は、例えば、焼結温度が1500℃、析出温度が1100℃~1350℃である材料BCT18、および焼結温度が1150℃、析出温度が950℃~1050℃である材料NBT-BT-Znである。
【0143】
2.本発明による圧電セラミックスの特性決定
本発明による方法によって製造された圧電セラミックスを、様々な方法で詳細に特性決定し、説明することができる。特に、本方法によって生成された析出物の存在を、様々な方法で確認することができる。
【0144】
析出物の存在を、例えばX線回折法によって確認することができる。これに関して、
図2は、焼結および急冷された圧電セラミックスのX線回折図(a)、および本発明により製造された圧電セラミックスのX線回折図(b)を示す。本例は、圧電セラミックス(Ba,Ca)TiO
3を示す。析出相は、「
*」で示されている。
【0145】
図2の(a)で示される推移は、例示的な圧電セラミックスの焼結および急冷された試料のX線回折図に相当する。(b)で示される推移は、例示的な圧電セラミックスの焼結、急冷およびエージングされた試料のX線回折図に相当する。アスタリスク記号は、析出相(本例ではCaTiO
3に富む第二相)を表し、この相は、本発明により熱処理され、その結果エージングされた試料にのみ存在する。このことは、本発明による特定の熱処理が、析出物の顕著な形成をもたらすことを示している。さらに、中間温度を経ることの利点も明らかであり、これにより、より迅速な冷却を達成することができ、ひいては高温域での滞留時間を短縮することができる。高温域によって、析出物の形成がさほど良好に制御されなくなり、かつ/または制御不可能となる。
【0146】
析出物の存在を、例えば走査型電子顕微鏡法によって確認することもできる。これに関して、
図3は、従来の圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像(a)、および本発明により製造された圧電セラミックスの走査型電子顕微鏡画像(b)を示す。試料中の析出物は、小さな黒色の結晶粒として視認可能である。
図3の(a)および(b)の双方の比較から、本発明により熱処理された圧電セラミックスの析出物が、マトリックス結晶粒内に存在していると結論づけることができる。
【0147】
析出物の存在を、例えば透過型電子顕微鏡法によって確認することもできる。これに関して、
図4は、析出物を含まない圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像(a)、および析出物を含む圧電セラミックス結晶粒の透過型電子顕微鏡画像(b)を示す。
図4(b)では、析出物が実線の矢印で示されている。(b)の強誘電体ドメイン構造の歪みが明らかに識別でき、破線の矢印で示されている。これは、そこでドメイン壁が静止した形で固定(拘束)されること、すなわちその移動度が低下していることを視覚的に示している。本発明により製造された圧電セラミックスは、結果として、
図4(b)に示されるような幾何学的形状(例えば、析出物/歪んだドメイン)によって確認することができる。
【0148】
析出物の存在を、例えば圧電応答力顕微鏡法によって確認することもできる。これに関して、
図5は、析出物およびドメイン構造を有する(Ba,Ca)TiO
3圧電セラミックスの圧電応答力顕微鏡画像を示す。ここで、
図5(a)および(b)は、同じ領域の2つの異なる拡大画像である。析出物を、それぞれ矢印で示す。
【0149】
析出物の存在を確認するために、原子間力顕微鏡を適宜使用することもできる。
【0150】
3.本発明による圧電セラミックスの特性
圧電セラミックスの機能特性に対する析出物の影響を、特に電気機械特性および圧電特性の測定によって定量化した。析出物が、強誘電体ドメイン壁の移動を拘束し、その結果、巨視的な分極およびひずみを低減させる。さらに、有利には損失の逆数である機械的品質係数を定量化した。
【0151】
この点に関して、
図6aは、(Ba,Ca)TiO
3圧電セラミックスのバイポーラ分極ヒステリシスを示し、
図6bは、(Ba,Ca)TiO
3圧電セラミックスのバイポーラひずみヒステリシスを示す。ここでは、周波数1Hzで±2kV/mmの電界を用いた。ここで、一方の試料を、本発明による方法により焼結し、室温まで急冷し、エージングして室温まで冷却し、他方の試料を、焼結の直後に室温まで急冷した。その結果、本発明による方法によるエージングに起因する効果が特によく示されている。
【0152】
本発明により処理(焼結、急冷、エージング、冷却)された試料は、分極、ひずみおよびヒステリシスの低減を示し、これは圧電性の強化を示す。例えば、分極は、約±12.5μC/cm2から約±10μC/cm2に減少し、ひずみは、約0.04%…-0.015%から約0.025%…-0.005%に減少する。
【0153】
したがって、本発明による方法により、分極、ひずみおよびヒステリシスの大幅な低減が可能となる。
【0154】
さらに、
図7は、エージングなし(焼結および急冷のみ)の(Ba,Ca)TiO
3圧電セラミックスの機械的品質係数(Q
m)、および2つの異なる条件下でのエージングありの(Ba,Ca)TiO
3圧電セラミックスの機械的品質係数(Q
m)を示す。圧電セラミックスを焼結後に室温まで急冷した場合には、約350の機械的品質係数Q
mが達成される(
図7の左側のバー、「急冷のみ」と表示)。圧電セラミックスを室温まで急冷した後、1200℃の一定の1つのエージング温度で72時間エージングした場合には、約460の機械的品質係数Q
mが達成される(
図7の中央のバー、「1200℃-72h」と表示)。圧電セラミックスを、室温まで急冷した後にまず1200℃のエージング温度で72時間エージングして核を形成させ、その後、1300℃のエージング温度で24時間エージングして核を成長させた場合には、約540の機械的品質係数Q
mが達成される(
図7の右のバー、「1200℃-72h、1300℃-24h」と表示)。
【0155】
したがって、本発明による方法により、機械的品質係数の大幅な増加が可能となる。
【0156】
図面に関する上記の記述は、本発明の第1の態様による本発明による方法によって製造された圧電セラミックスに関するものである。しかし有利には、これらの記述は、本発明の第2の態様による本発明による圧電セラミックスにも同様に適用される。すなわち、これらの圧電セラミックスにおいても、析出物を適宜確認することができる。そして、これらの圧電セラミックスも、従来のセラミックスおよび/または参照セラミックスと比較して、分極、ひずみおよびヒステリシスの低減、ならびに機械的品質係数の増加を示す。
【0157】
以下に、セラミックス、特に強誘電体セラミックスの強化のための小板状析出物について、より詳細に説明する。
【0158】
4.本発明による圧電セラミックスのさらなる例
図8は、本発明による析出強化に例示的に使用されるセラミックス系Na
xLi
1-xNbO
3の相図の一部を示す。そこに記入された矢印は、焼結セラミックスの例示的な単段熱処理を概略的に示しており、その際、圧電セラミックスは、焼結と熱処理との間に急冷される。NN
SSは、セラミックスの均一な単相を表し、LN
SSは、第二相としての析出物を表す。
【0159】
前述のセラミックス系の第1の圧電セラミックスを、1300℃で焼結する。
【0160】
次いで急冷を行い、その後、エージング温度500℃で24時間の単段熱処理を行う。
図9および
図10、
図11および
図12はすべて、Li
0.18Na
0.82NbO
3に関するものである。
【0161】
図9aは、500℃で24時間の第1のエージング後の圧電セラミックスの透過電子顕微鏡画像を示す。
図9aでは、複数の点状の印を認めることができ、これらの印から、析出核を認めることができる。さらに、これらの析出核のうちの1つが、矢印で示されている。
【0162】
図9bは、まず500℃で24時間にわたって第1のエージングを行った後に600℃で6時間にわたって第2のエージングを行った後の圧電セラミックスの透過型電子顕微鏡画像を示す。
図9bでは、エージングによって生成された析出物を、細長い構造物として認めることができる。この場合には異方性である析出物の長辺のうちの1つが、矢印で示されている。
【0163】
明らかに、第2の処理段階、したがって二段熱処理の適用は、結晶粒内の析出物の形成(第1の段階)、特にその成長(第2の段階)を支援する。
【0164】
図10は、
図9と同様の圧電セラミックスの透過型電子顕微鏡画像であるが、これは、700℃で8時間後に単段エージングした後のものである(図の左部分)。ここでは、小板状のLiNbO
3析出物が視認可能である。
【0165】
図10の右部分には、左部分にマークした領域が拡大部分として示されている。ここでは、析出物を特によく認めることができる。この部分には、3つの領域が示されている。ここで、領域Aは、マトリックス結晶粒を表す。ここで、領域Bは、析出物を表す。ここで、領域Cは、析出物とマトリックス結晶粒との間の相境界を表す。
【0166】
図11a)に、二段エージング、すなわち500℃での第1の段階と600℃での異なる時間での第2の段階のエージングの特性値を示す。ここでは特に、10倍を上回る増加を示す機械的品質係数が重要である。
【0167】
特に、電気機械的品質係数Qmは、時効なし(すなわち熱処理なし)の系では55であるが、500℃で24時間時効処理した試料では631である。また、これらの処理によって、圧電係数はほとんど変化せず、電気機械結合係数は、確かに低下するが、さほど大幅な低下ではないことに留意すべきである。
【0168】
これとの比較として、単段エージングを
図11b)に示す。
図11b)では、
図11a)と同じ特性値が示されているが、これは単段エージング後のものである。この場合、電気機械結合係数は、高温ではもはや大幅には低下しなくなる。
【0169】
図12aおよび
図12bは、異なる熱処理(12a:単段熱処理、12b:二段熱処理)を施した圧電セラミックスの分極曲線を示す。
【0170】
先の説明、特許請求の範囲および図面に開示された特徴は、個々でも、任意の組み合わせでも、それらの様々な実施形態において本発明に不可欠であり得る。
【符号の説明】
【0171】
Ts 焼結温度
Taus エージング温度
Tz 中間温度
ts 焼結期間
taus エージング期間
tz 期間
α 相図の単相領域
α+β 相図の二相領域
【国際調査報告】