(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】共振キャビティおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/08 20230101AFI20240229BHJP
H01S 3/04 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558686
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 CA2021050942
(87)【国際公開番号】W WO2022198298
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523362146
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ ドゥ モンクトン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フランソワ・ビソン
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AL01
5F172EE13
5F172NN06
(57)【要約】
【課題】 共振キャビティおよびその製造方法が提供される。
【解決手段】 上記共振キャビティは、第1の反射面および第2の反射面を含み、上記第1の反射面および上記第2の反射面はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、この位相シフトは、上記第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトに対して約π異なる。上記第1の反射面および上記第2の反射面のうちの少なくとも一方は、複減衰を有する。上記第1の反射面の上記第1の主軸は、上記第2の反射面の上記第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α
0程度だけ回転してセットされる。その結果、空間ホールバーニングと二重モードの作動をなくすことができる。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振キャビティであって、
第1の反射面および第2の反射面を含み、前記第1の反射面および前記第2の反射面はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、前記位相シフトは、前記第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトに対して約π異なり、前記第1の反射面および前記第2の反射面のうちの少なくとも一方は、前記第1の主軸に沿った第1の反射係数と、前記第1の主軸に垂直な前記第2の主軸に沿った第2の反射係数とを有し、前記第1の反射係数は前記第2の反射係数よりも大きく、
前記第1の反射面の前記第1の主軸は、前記第2の反射面の前記第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α
0程度だけ回転してセットされる、共振キャビティ。
【請求項2】
前記角度α
0は、次を満たす前記共振キャビティの往復ジョーンズ行列を導くことで決定され、
(PT)J=J(PT)
ここで、Pはパリティ‐時間演算子、Tは時間反転演算子である、請求項1に記載の共振キャビティ。
【請求項3】
前記往復ジョーンズ行列は次のように定義され、
【数1】
このとき、前記第1の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【数2】
、前記第2の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【数3】
、ここでr
11、r
12、r
21、およびr
22は正の実数であり、
【数4】
である、請求項2に記載の共振キャビティ。
【請求項4】
前記第1の反射面の前記第1の主軸が、前記第2の反射面の前記第1の主軸に対して回転式に再セット可能である、請求項1に記載の共振キャビティ。
【請求項5】
前記第1の反射面の前記光学的な応答が、前記第2の反射面の前記光学的な応答と等しく、次のジョーンズ行列で表わされ、
【数5】
前記角度α
0は次のように決定される、
【数6】
請求項2に記載の共振キャビティ。
【請求項6】
前記第1の反射面が、前記第1の主軸および前記第2の主軸に沿って等しい反射係数を有し、前記第1の反射面の前記光学的な応答は次のジョーンズ行列で表わされ、
【数7】
前記第2の反射面が、前記第1の主軸に沿った前記第1の反射係数を有し、前記第2の主軸に沿った前記第2の反射係数とは異なり、前記第2の反射面の前記光学的な応答は次のジョーンズ行列で表わされ、
【数8】
前記角度α
0は次のように決定される、
【数9】
請求項2に記載の共振キャビティ。
【請求項7】
レーザ媒質が、前記第1の反射面と前記第2の反射面との間に配置される、請求項1に記載の共振キャビティ。
【請求項8】
共振キャビティの製造方法であって、
第1の反射面および前記第1の反射面と向かい合う第2の反射面を配置することを含み、前記第1の反射面および前記第2の反射面はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、前記位相シフトは、前記第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿ってもたらされる位相シフトに対して約π異なり、前記第1の反射面および前記第2の反射面のうちの少なくとも一方は、前記第1の主軸に沿った第1の反射係数と、前記第1の主軸に垂直な前記第2の主軸に沿った第2の反射係数とを有し、前記第1の反射係数は前記第2の反射係数よりも大きく、
前記第1の反射面の前記第1の主軸は、前記第2の面の前記第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α
0程度だけ回転してセットされる、方法。
【請求項9】
前記角度α
0は、次を満たす前記共振キャビティの往復ジョーンズ行列を導くことで決定され、
(PT)J=J(PT)
ここで、Pはパリティ‐時間演算子、Tは時間反転演算子である、請求項8に記載の共振キャビティ。
【請求項10】
前記往復ジョーンズ行列は次のように定義され、
【数10】
このとき、前記第1の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【数11】
、前記第2の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【数12】
、ここでr
11、r
12、r
21、およびr
22は正の実数であり、
【数13】
である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の反射面の前記第1の主軸が、前記第2の反射面の前記第1の主軸に対して回転式に再セット可能である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の反射面の前記光学的な応答が、前記第2の反射面の前記光学的な応答と等しく、次のジョーンズ行列で表わされ、
【数14】
前記角度α
0は次のように決定される、
【数15】
請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の反射面が、前記第1の主軸および前記第2の主軸に沿って等しい反射係数を有し、前記第1の反射面の光学的な応答は次のジョーンズ行列で表わされ、
【数16】
前記第2の反射面が、前記第1の主軸に沿った前記第1の反射係数を有し、前記第2の主軸に沿った前記第2の反射係数とは異なり、前記第2の反射面の前記光学的な応答は次のジョーンズ行列で表わされ、
【数17】
前記角度α
0は次のように決定される、
【数18】
請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記方法はさらに、前記第1の反射面と前記第2の反射面との間にレーザ媒質を配置することを含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、一般に共振キャビティに関し、詳細には共振キャビティおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振キャビティは既知のものである。レーザの特定の構成では、共振キャビティの両端に2つのミラーを配置して、それらの間で光を繰り返し反射させる。これらのミラーのうち一方は反射率が高く、もう一方のミラーは、そこからの光の出射を可能にするために、反射率が低くなっている。一般に、これらのミラーは等方性で、平面または放物面のものにすることができる。両ミラーの間に利得媒質すなわちレーザ媒質を配置し、励起光源からエネルギーを供給してその利得媒質を励起する。そのエネルギーが、ミラー間で光が往復反射されると利得媒質によってさらに増幅される。
【0003】
このレーザで、線幅が非常に狭い準単色の放射を出すために、シングルモードを作り出すことが求められている。これを実現するには、光波の、光軸に垂直な第1の主軸に沿って振動する電界成分の位相を、光軸および第1の軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する電界成分の位相に対して、半波長分ずらす。これは通常、キャビティ内の2つのミラーのそれぞれの前に1/4波長板を挿入することによって実現される。この構成は一般に「ツイストモード動作」と呼ばれる。
【0004】
非特許文献1に、パリティ‐時間(PT)反転対称演算子が、エルミート系と同様に、全体的に実数の固有値スペクトルを示すことができ、したがって量子力学における観測可能量を表現するものになり得ることは否定できないと指摘されている。PT対称の演算子はまた、特定の非エルミート性パラメータの値が限度を超えると自発的な対称性の破れを示す。PT対称系が最もうまく適用されているのは光学分野である。レーザ科学では、PT対称性の破れを適用して、不均一な広がりを有するマイクロリング共振器内に、シングル縦モードのレーザ動作を作り出した。非特許文献2では、一方のマイクロリングレーザの利得ともう一方の結合された共振器の損失とのマッチングを慎重に行って、つまり1つのシングルモードがPT対称性の破れによって増幅が強化されると同時に、他の競合するモードはPT対称が破れていない領域に留まることで抑制されるようにすることによって、PT対称シングルモードレーザを実現した。非特許文献3では、PT対称の破れの概念を利用し、ささやきの回廊モードレーザ内への利得と損失の配分を精緻に操作することによって、シングルモード放射を実現した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.M.ベンダー(C.M.Bender)、S.ベッチャー(S.Boettcher)、「PT対称性を有する非エルミートハミルトニアンの実スペクトル(Real Spectra in Non-Hermitian Hamiltonians having PT Symmetry)」、フィジカルレビューレター(Physical Review Letters)、1998年、第80巻、p.5243
【非特許文献2】H.ホデ(H.Hodae)、M.=A.ミリ(M.-A.Miri)、ハインリヒ(M.Heinrich)、D.N.クリストドゥリデス(D.N.Christodoulides)、M.ハジャビハン(M.Khajvikhan)、「パリティ‐時間対称マイクロリングレーザ(Parity-time-symmetric microring laser)」、サイエンス(Science)、2014年、第346巻、p.975
【非特許文献3】L.フォン(L.Feng)、Z.J.ウォン(Z.J.Wong)、Z.J.マ(Z.J.Ma)、Y.ワン(Y.Wang)、X.ジャン(X.Zhang)、「パリティ‐時間対称性の破れによるシングルモードレーザ(Single-mode laser by parity-time-symmetry breaking)」、サイエンス(Science)、2014年、第346巻、p.972
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、共振キャビティが提供され、上記共振キャビティは、第1の反射面および第2の反射面を含み、上記第1の反射面および上記第2の反射面はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、上記位相シフトは、上記第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトに対して約π異なり、上記第1の反射面および上記第2の反射面のうちの少なくとも一方は、上記第1の主軸に沿った第1の反射係数と、上記第1の主軸に垂直な上記第2の主軸に沿った第2の反射係数とを有し、上記第1の反射係数は上記第2の反射係数よりも大きく、上記第1の反射面の上記第1の主軸は、上記第2の反射面の上記第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α0程度だけ回転してセットされる。
【0007】
上記角度α0は、次を満たす上記共振キャビティの往復ジョーンズ行列を導くことで決定することができ、
(PT)J=J(PT)、
ここで、Pはパリティ‐時間演算子、Tは時間反転演算子である。
【0008】
上記往復ジョーンズ行列は次のように定義でき、
【0009】
【数1】
このとき、上記第1の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【0010】
【数2】
上記第2の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【0011】
【数3】
ここでr
11、r
12、r
21、およびr
22は正の実数であり、
【0012】
【0013】
上記第1の反射面の上記第1の主軸は、上記第2の反射面の上記第1の主軸に対して回転式に再セット可能であり得る。
【0014】
上記第1の反射面の上記光学的な応答は、上記第2の反射面の上記光学的な応答と等しくでき、次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0015】
【0016】
【0017】
上記第1の反射面は、上記第1の主軸および上記第2の主軸に沿って等しい反射係数を有することができ、上記第1の反射面の上記光学的な応答は次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0018】
【数7】
上記第2の反射面は、上記第1の主軸に沿った上記第1の反射係数を有することができ、これは上記第2の主軸に沿った上記第2の反射係数とは異なることができ、上記第2の反射面の上記光学的な応答は次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0019】
【0020】
【0021】
レーザ媒質が、上記第1の反射面と上記第2の反射面との間に配置され得る。
【0022】
別の態様では、共振キャビティを製造する方法が提供され、上記方法は、第1の反射面および上記第1の反射面と向かい合う第2の反射面を配置することを含み、上記第1の反射面および上記第2の反射面はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、上記位相シフトは、上記第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿ってもたらされる位相シフトに対して約π異なり、上記第1の反射面および上記第2の反射面のうちの少なくとも一方は、上記第1の主軸に沿った第1の反射係数と、上記第1の主軸に垂直な上記第2の主軸に沿った第2の反射係数とを有し、上記第1の反射係数は上記第2の反射係数よりも大きく、上記第1の反射面の上記第1の主軸は、上記第2の面の上記第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α0程度だけ回転してセットされる。
【0023】
上記角度α0は、次を満たす上記共振キャビティの往復ジョーンズ行列を導くことで決定することができ、
(PT)J=J(PT)
ここで、Pはパリティ‐時間演算子、Tは時間反転演算子である。
【0024】
上記往復ジョーンズ行列は次のように定義でき、
【0025】
【数10】
このとき、上記第1の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【0026】
【数11】
上記第2の反射面の光学的な応答が、次のジョーンズ行列で表され、
【0027】
【数12】
ここでr
11、r
12、r
21、およびr
22は正の実数であり、
【0028】
【0029】
上記第1の反射面の上記第1の主軸は、上記第2の反射面の上記第1の主軸に対して回転式に再セット可能であり得る。
【0030】
上記第1の反射面の上記光学的な応答は、上記第2の反射面の上記光学的な応答と等しくでき、次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0031】
【数14】
ここで、上記角度α
0は次のように決定され得る。
【0032】
【0033】
上記第1の反射面は、上記第1の主軸および上記第2の主軸に沿って等しい反射係数を有することができ、上記第1の反射面の光学的な応答は次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0034】
【数16】
上記第2の反射面は、上記第1の主軸に沿った上記第1の反射係数を有することができ、上記第2の主軸に沿った上記第2の反射係数とは異なることができ、上記第2の反射面の光学的な応答は次のジョーンズ行列で表すことができ、
【0035】
【数17】
ここで、上記角度α
0は次のように決定され得る。
【0036】
【0037】
上記方法はさらに、上記第1の反射面と上記第2の反射面との間にレーザ媒質を配置することを含み得る。
【0038】
以下の図および説明を検討すれば、他の技術的利点も当業者なら容易に分かるであろう。
【0039】
次に、本明細書に記載の実施形態の理解を深め、それらの実施方法を明示するために、添付の図を参照する。これらの図は単なる例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】一実施形態によるレーザ用の共振器キャビティの図である。
【
図2】
図1の共振器キャビティの大まかな製造方法のフローチャートである。
【
図3A】共振器キャビティ内の光の往復ジョーンズ行列の、計算による固有値の大きさおよび位相を示す図である。
【
図3B】共振器キャビティ内の光の往復ジョーンズ行列の、計算による固有値の大きさおよび位相を示す図である。
【
図4A】出力カプラに向かう波の共振器内の2つの固有偏光状態(青色の実線と赤色の破線)の、計算によるポアンカレ球上のx、y、z座標を示す図である。
【
図4B】共振器の外部に放出された放射の2つの固有偏光状態(実線および破線)の、実験(点)および計算(線)によるポアンカレ球上のx、y、z座標を示す図である。
【
図5】角度αの関数として、固有モードごとの同一定在波の、コントラストを示す図である。
【
図6A】α=-15度における、PT対称性が破れた領域の一方の偏光固有状態の放出ビームの周波数成分を示す図である。
【
図6B】α=-15度における、PT対称性が破れた領域のもう一方の偏光固有状態の放出ビームの周波数成分を示す図である。
【
図6C】α=-5度における例外点EP付近の放射ビームの周波数成分を示す図である。
【
図6D】α=0度における対称性が破れていない領域の放射ビームの周波数成分を示す図である。
【
図7A】PT対称性が破れていない領域と破れた領域との間の転移付近における、ミラーの直交する方向間の位相シフトに小さな誤差があった場合の、往復ジョーンズ行列の固有値スペクトルに対する影響を示す図である。位相シフトの誤差については、両ミラー共2π/300で同じ場合と、両ミラーが互いに逆の場合を示している。
【
図7B】
図7Aに示したのと同じ条件に対する、定在波のコントラストへの効果を示す図である。
【
図8A】利得媒質の両端に反射面が形成されている、別の実施形態による共振器キャビティの図である。
【
図8B】利得媒質の両端に反射面が形成されている、別の実施形態による共振器キャビティの図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
特に明記しない限り、図面に描かれている物品は必ずしも縮尺通りに描かれているとは限らない。
【0042】
説明を簡単かつ明瞭にするために、適切とみなせる場合には、対応するまたは類似の要素を示すために図面間で参照番号を繰り返すことがある。さらに、本明細書に記載の実施形態を十分に理解できるように、多くの具体的な細部について説明している。しかしながら、本明細書に記載の実施形態は、これらの具体的な細部がなくても実施できることが当業者には理解されよう。それ以外の実施例では、本明細書に記載の実施形態を不明瞭にしないために、周知の方法、手順および構成要素については詳細に説明していない。本開示の原理については、例示的な実施形態を図面に示し、以下に説明しているが、現時点で知られているかどうかを問わず任意の数の技術を使用して実施できることを初めに理解されたい。本開示は、図面に示し、以下に説明している例示的な実装形態および技術に限定すべきではない。
【0043】
本明細書の説明全体にわたって使用されている様々な用語は、文脈上特に示されていない限り、次のように読み取り理解することができる。全体にわたって使用されている「または」は、「および/または」と書かれているのと同様に包括的である。全体にわたって使用されている単数形の冠詞と代名詞はその複数形を含み、その逆も同様である。同様に、性別代名詞はそれと対になる代名詞を含み、したがって、代名詞は、本明細書に記載のものを何であれ、単一の性による使用、実装、実行などに限定するものと解釈すべきではない。「例示的(exemplary)」は、「例示的(illustrative)」または「例示的(exemplifying)」と解釈すべきであり、必ずしも他の実施形態よりも「好ましい」と解釈すべきではない。用語の他の定義が本明細書に記載されている場合がある。こういった定義は、本明細書の説明を読むことで分かるように、それらの用語の前後の例に適用することができる。尚、「1つの(a)」または「1つの(an)」という用語の使用は、特に明示的な記載がない限り、あるいはそれが「1つの」を意味しなければならないことが明らかであると解釈されない限り、全ての例で「少なくとも1つの」を意味することが理解されよう。
【0044】
本開示の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載のシステム、装置、および方法に対して修正、追加、または省略を行うことができる。例えば、これらのシステムおよび装置の構成要素は統合されてもよく、分離されてもよい。さらに、本明細書に開示のシステムおよび装置の動作は、より多くの、より少ない、または他の構成要素によって実行されてもよく、記載の方法は、より多くの、より少ない、または他のステップを含んでもよい。さらに、各ステップは任意の適当な順序で実行することができる。本明細書で使用する限りでは、「それぞれ」は、一セットのうちの各部材、または一セットのうちの一サブセットの各部材を示す。
【0045】
本明細書で例示する、命令を実行するモジュール、ユニット、コンポーネント、サーバ、コンピュータ、端末、エンジンまたはデバイスはいずれも、コンピュータ可読媒体を含むことができ、あるいはその他の方法でコンピュータ可読媒体へのアクセスを有することができる。コンピュータ可読媒体は、記憶媒体、コンピュータ記憶媒体、またはデータ記憶装置(取り外し可能なものおよび/または取り外し不可能なもの)などであり、これらには例えば磁気ディスクや光ディスク、テープなどがある。コンピュータ記憶媒体は、揮発性/不揮発性の、取り外し可能/取り外し不可能な媒体を含むことができ、これらは、例えばコンピュータ可読命令、データ構造体、プログラムモジュール、またはその他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法または技術で実装される。コンピュータ記憶媒体の例には、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、デジタル多用途ディスク(DVD)またはその他の光記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置またはその他の磁気記憶装置、あるいは必要な情報を保存するために使用でき、アプリケーション、モジュール、またはその両方からアクセスできるその他の任意の媒体が含まれる。このようなコンピュータ記憶媒体はいずれも、命令を実行するデバイスの一部であってもよく、そのデバイスからアクセス可能であってもよく、そのデバイスに接続可能であってもよい。さらに、文脈上特に示されていない限り、本明細書に記載のプロセッサまたはコントローラはいずれも、単一または複数のプロセッサとして実装され得る。単一のプロセッサが例示され得る場合であっても、複数のプロセッサが並べて配置されても、分散配置されてもよく、本明細書で言及される処理機能はいずれも、1つプロセッサによって実行されても、複数プロセッサによって実行されてもよい。本明細書に記載の任意の方法、アプリケーションまたはモジュールは、コンピュータ可読/実行可能な命令を使用して実装され得る。これらの命令は、上述のようなコンピュータ可読媒体によって記憶またはその他の方法で保持され、上記1つまたは複数のプロセッサによって実行され得る。
【0046】
本明細書では、共振器キャビティおよびその製造方法を開示する。シングルモードレーザ動作の実現方法には、やはりPT対称性の破れを利用するが、結合した共振器間の利得と損失、またはそれらの空間的な分布を精緻に操作する必要はない。異方性を有するレーザミラーを使用することで、非エルミートのPT対称偏光状態を示すレーザ共振器を形成することができる。そういったミラー2枚の相対角度を調整することにより、非エルミート性の度合いを調整することができる。PT対称性が破れていない形態では二重偏光発振が抑制される一方、PT対称性が破れた形態では定在波の軸方向の強度パターンをなくすことによってシングル縦モード動作が実現される。これらの2つの形態は、その間にある転移点である例外点(EP)で合流し、この例外点の周囲で単一の周波数動作が可能になる。
【0047】
従来の直線状のレーザキャビティ設計では、その定在波の強度パターンによって、反転密度が枯渇していない領域が規則的な間隔をおいて生じる。この領域は、放射断面積が小さくても、レーザ発振の実現のために他の軸モードによって使われる可能性がある。これによって一般に、望ましくないマルチモード動作が発生する。各レーザミラーの前に1/4波長板を挿入することによって、対向して伝播する(CP)波同士を直交させ、定在波のコントラストをなくす。これはいわゆるツイストモード動作であり、CPの左または右円偏光の伝播固有波同士が干渉することにより、軸方向に均一な強度を有する定在波が作り出され、軸方向に沿ってねじれたリボンのように回転する直線偏光状態が生じる。ただし、この方式には、共存する2つの固有偏光状態を識別できないというよく知られた欠点がある。その結果、両偏光状態における二重放射が発生するが、これは一般に、λ/4波長板とミラーの間に偏光選択素子を配置することで解消される。
【0048】
本明細書に開示の共振器キャビティは、ツイストモード設計のシングル縦モード動作の利点を保持しながら、二重偏光の存在そのものを排除することによって、偏光状態間の競合を根本からなくす。
【0049】
偏光の例外点の発見は20世紀初頭に遡り、吸収性の二軸結晶における光の伝播に関連したものであった。この現象は、特異軸と呼ばれる光の特定の方向について見られるものであり、S.パンチャラトナム(S.Pancharatnam)、「吸収性二軸結晶における光の伝播‐1.理論(The propagation of light in absorbing biaxial crystals - I.Theoretical)」、インド国立科学アカデミー会報、セクションA(The Proceedings of the National Academy of Sciences, India, Section A)、1955年、第42巻、p.86で正確な分析が行われた。パンチャラトナムは、特異方向における偏光の固有状態の結合の存在を実証することに加えて、固有状態以外の偏光状態を有する光線が、特異軸に沿って伝播するにつれて徐々に固有ベクトルに変容することを示した。したがって、パンチャラトナムの発見は、実際には、最近提案されたオムニポーラライザ(omnipolarizer)の先駆けであったと思われる。偏光空間におけるPT対称性の破れの概念は最近のものであり、一般に、小型偏光変換器のような能動的な偏光制御の実現を目的としている。これは一般に、人工的に作り出されたメタサーフェスまたは導波管を用いて、利得と損失のバランスを慎重に調整することにより実現される。
【0050】
本明細書に開示の共振器キャビティに用いた手法によると、利得と損失の精微な調整または複雑なナノ加工段階の必要性を軽減することができる。本明細書で使用する限りでは、「共振器キャビティ」は、内部にある2つ以上の反射面の間で光が反射される任意の容器または媒質を意味するものとする。PT対称性の破れに基づく従来のシングルモードレーザとは対照的に、本共振器キャビティでは、1つのモードの選択的な対称性の破れには関与しない。実際、従来の共振器キャビティの設計は、モード一つだけが利得と損失の適切なバランスをとって、選択的に対称性を破るようになっており、それによって利得のコントラストを高め、モード選択のメカニズムを実現する。ここでは、そのモード間隔の程度ではミラーの光学特性はあまり変化しないため、複数のモードが例外点で同時にPT対称性が破れていない領域から破れた領域へと転移する。それにも関わらず、対向伝播波の偏光状態が直交しているおかげで軸方向の空間ホールバーニングがなくなることにより、均一な広がりを有する活性物質に対して、シングルモードの選択が可能になる。2つの領域間の転移点は、二重偏光状態と競合する縦モードとの効果的な識別を一度に実現できる、特別な操作点と言える。
【0051】
図1は、一実施形態によるレーザ共振器キャビティ20を示す。レーザ共振器キャビティ20は、第1のミラー24の形をした第1の反射面と、第2のミラー28の形をした第2の反射面とを含む。第1のミラー24および第2のミラー28は、共振キャビティ20の光軸OAに沿って1列に並ぶように配置される。第1のミラー24は反射率が高く、共振器キャビティ20内のエネルギーのほぼ全てを第2のミラー28に向けて返す。第2のミラー28は第1のミラー24よりも反射率が低く、したがって中心軸CAを有するレーザビームの形で光が出てくることが可能になる。第1のミラー24および第2のミラー28のうちの少なくとも一方は複減衰をもたらす。つまり一方のミラーは、第1の主軸32a、32bに沿って振動する波の電界成分に対しては第1の反射係数を有し、第1の反射係数は、第1の主軸32a、32bに垂直な第2の主軸36a、36bに沿った第2の反射係数よりも大きい。主軸とは、その向きに沿って入射した直線偏光の光の偏光が反射後も変化しない特定の向きのことである。そのような軸は2つ存在する。これらの軸は反射面の平面内に位置し、かつ互いに垂直であり、かつ反射面のこれらの主軸に平行なラインに沿って、本明細書に記載の反射面の反射率の挙動を示す。この実施形態では、第2のミラー28のこれらの主軸に沿った反射率の差が、斜め蒸着によって実現される。この斜め蒸着は、第1の主軸に沿って約95%、第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って約55%の反射係数を有するコーティングをミラー上に形成する。他の実施形態では、上記複減衰は、共鳴格子ミラーまたは他の何らかの適切な手段を介して実現され得る。さらに、第1のミラー24および第2のミラー28はそれぞれ複屈折性を有する。つまり、これらのミラーで反射した光波の電界成分の位相シフトは、第1の主軸に沿って振動する光波と、第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する光波とで、約π異なる。
【0052】
第2のミラー28の第1の主軸32bは、第1のミラー24の第1の主軸32aに対して、以下でさらに説明するように、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α0程度だけ回転してセットされる。第1のミラー24の第1の主軸と第2の主軸の対応する位置32b´、36b´が、第2のミラー28上に投影されて示されている。
【0053】
本明細書で使用する限りでは、「ミラー」は用語「反射面」と交換可能に使用することができ、多くの場合ミラーについて言及するが、他の種類の反射面も使用できることが理解されよう。本明細書で使用する限りでは、「反射面」とは、光を少なくとも部分的に反射する表面を意味するものとし、それには鏡や、物体に塗布されたコーティングなどが含まれ得る。
【0054】
活性レーザ媒質、すなわち利得媒質40が、共振器キャビティ20の光軸OAに沿って配置される。励起光源44がこの利得媒質40にエネルギーを伝達し、利得媒質40がそのエネルギーを吸収した結果、利得媒質40の原子が励起状態になる。利得媒質40は、光学的な利得源である。この利得は、励起光源44によって予め満たされた高エネルギー状態から低エネルギー状態への電子または分子遷移が生じて光子が誘導放出されることによるものである。十分な励起が行われると利得媒質40内で誘導放出が発生し、光が生成される。
【0055】
次に
図2を参照して、共振キャビティの製造方法100について説明する。複減衰を有する少なくとも1つのミラーからなる共振器キャビティに対して、PT対称性を満たす特徴的な偏光ジョーンズ行列を作成することができる。方法100では、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α
0を決定する。まず、共振器キャビティの往復ジョーンズ行列を決定する(110)。次に、この往復ジョーンズ行列を、2×2ジョーンズ行列に対するPT対称行列の一般形と比較する(120)。これにより、複減衰と、各反射面の直交主軸に沿って振動する光波の反射電界成分間のπの位相シフトとを、PT対称の固有偏光状態を実現するための重要な要素として特定することができる。両ミラーの主軸の相対的な向きαもまた、PT対称性が破れていない領域とPT対称性が破れた領域の間の転移を連続的に網羅することを可能にする柔軟な制御パラメータとして特定される。次に、例外点、すなわちパリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域の間の角度α
0を決定する(130)。これで、第1および第2の反射面を互いに向かい合わせに配置して、両反射面の対応する主軸を例外点付近、つまりほぼα
0の角度になるまで互いに相対的に回転させる。
【0056】
110では、往復ジョーンズ行列を導くために、2つの線形異方性ミラーからなる定在波レーザ共振器を考える。非偏光解消のレーザミラーの光学的な応答を、2×2のジョーンズ行列によってモデル化することができる。つまり、上記2つの線形異方性ミラーは、その主軸を基底とした対角ジョーンズ行列で次のように表される。
【0057】
【0058】
【数20】
ここで、各係数は複素数である。一方のミラーをもう一方のミラーに対して共振器キャビティの光軸の周りに角度α程度だけ回転させるとき、共振器内に偏光要素が存在しないと仮定して(活性物質内部の熱複屈折は無視できるとものとする)、キャビティ内を往復するジョーンズ行列を計算する。慣例として、等方性ミラーは以下と表記される。
【0059】
【数21】
マイナス記号は、反射時の偏光状態が新しい座標(x´,y´,z´)で表現されることから生じる。このときy軸とz軸は、反射時に向きが反転する。左右の円を基底とすると、次のようになる。
【0060】
【0061】
【0062】
図2の方法100における決定ステップ120では、
図3Aおよび
図3Bに示すように一方のミラーをもう一方に対して角度αだけ回転させる場合、往復のジョーンズ行列Jは次のように与えられる。
【0063】
【数24】
ここで、Tは角度α/2の回転行列で、次のように与えられる。
【0064】
【0065】
自由空間または均質な活性物質内における共振器内伝播は、単位行列の倍数に相当し、一定の位相係数以外には何の役割も果たさないため、無視する。式(3)と式(5)を用いて式(4)を計算すると、次のようになる。
【0066】
【0067】
PT対称ジョーンズ行列の一般形を使用して式(6)と比較すれば、上記ミラーの光学特性(すなわちrij値)を特定でき、PT対称が破れていない領域とPT対称が破れた領域を連続的に網羅することが可能、かつ実験で利用可能な制御パラメータを決定することできる。このような制御パラメータが実際に存在し、それがひねり角度αに密接に関連していることが示される。
【0068】
次に120で、上記往復ジョーンズ行列を、2×2ジョーンズ行列に対するPT対称行列の一般形と比較する。行列Jが、次の交換関係を満たす場合、PT対称であると定義される。
【0069】
【数27】
ここで、Pはパリティ演算子であり、Tは時間反転演算子で、この場合複素共役をとるものとして定義される。PT対称2×2行列の一般形は次のように導かれる。
【0070】
【数28】
ここでA、B、CおよびDは任意の実数値をとることができ、
【0071】
【数29】
である。以下に示す導出は、時間反転演算子の上記の定義と整合しており、偏光状態のユニタリ変換によって固有値が不変であることのみに基づいている。式(6)と(8)を比較することによって、全てのr
ijを実数とすることにより、往復演算子J
RTをPT対称にできることが分かる。比較すると次のようになる。
【0072】
【0073】
C=0の場合Jはエルミートである。したがって、Cは非エルミート性の度合いを決定する。秩序変数χを次のように定義できる。
【0074】
【0075】
対称性が破れていないための条件、つまりJ演算子とPT演算子が同じ固有ベクトルを共有し、固有値が実数であるという条件は次の式で与えられる。
【0076】
【0077】
両ミラーが同じものである、つまり、以下となるようにr21=r11=r1かつr22=r12=r2とした特定の構成では、式(9a)~(9f)および(10)から、χは次のように決定できる。
【0078】
【0079】
【0080】
130の例外点を決定するステップでは、この実施例における非エルミート性は、ひねり角度αと二色性|r1-r2|によって制御されることが分かる。転移は例外点α=αEP(χ=1)で発生する。したがって、
【0081】
【0082】
他の特定の構成では、一方のミラーは複減衰を有さず、光学的な応答を表すジョーンズ行列は
【0083】
【数36】
と書き表すことができ、もう一方のミラーは複減衰を有し、光学的な応答を表すジョーンズ行列は
【0084】
【数37】
と書き表すことができる。角度α
0は次のように決定される。
【0085】
【0086】
ここで留意すべきは、PT対称性が破れていない領域とPT対称性が破れた領域の間の、例外点における転移は、以下の場合に限り存在するということである。つまり、(a)r1とr2が同じ符号を有すること、これはすなわち、慣例では、直交軸に沿って振動する光波の反射電界成分間にπの位相シフトが存在することを意味し、かつ、(b)r1≠r2であること、すなわち複減衰が存在するということである。
【0087】
位相シフトのないミラーからなる共振器(r1とr2が反対の符号の実数値をとる)は、PT対称の特性を有するが役に立たない。というのは、あらゆるαに対してχ<1であるため、どのα値についてもPT対称性を破ることができないからである。同様に、複減衰のない共振器(r1=r2)は、共振器が等方性であるα=0およびπ/2の自明な場合を除き、どのα値でもχ>1であるため、PT対称性の制御には適さない。
【0088】
本明細書で説明した原理を例示するため、例示のレーザ共振器を、平坦なリアミラーと凹面の出力カプラとで製作した。リアミラーは、励起光(λ=933nm)に対して透過性を有し、レーザ波長(λ=1030nm)で高い反射率を有し、出力カプラは、100mmの曲率半径を有し、上記レーザ波長で92%の反射率を有する。各ミラーの前に、反射防止コーティングしたゼロオーダ1/4波長板を配置して、直交軸間にπの反射位相シフトを作り出した。出力カプラとλ/4板の組み合わせの直前に、垂直入射に対してブリュースター角付近の60°に傾斜した厚さ1mmのガラス板を配置した。これら3つの構成部品を組み合わせることにより、位相シフトがπの複減衰・複屈折ミラーをシミュレートする。このミラーの反射行列は、水平垂直を基底として次のようになる。
【0089】
【数39】
一方、リアミラーとλ/4板の組み合わせは、位相シフトがπの複屈折ミラー、つまり二色性を含まないミラーをシミュレートし、主軸を基底として次の形になる。
【0090】
【数40】
リアミラーは、2つのミラーの相対的な向きαを制御する目的と、αがレーザ特性に及ぼす影響を調べる目的で、回転ステージに取り付けた。2つの「ミラー」の間に、厚さ1mm、反射防止コーティングした10at%Yb
3+ドープのY
3Al
5O
12セラミックを、リアミラーのλ/4波長板の表面に対して垂直入射用に配置した。共振器の全長はL≒2.5cmであった。自由スペクトル範囲(FSR)の情報により、規則的な干渉縞の対応付けが可能になった。TEM
00ガウスモードのモードサイズについては、専ら共振器の幾何形状のみから、リアミラー付近でおよそw
0=120μmと見積もった。933nmで放射するファイバ結合レーザダイオードから放射された光を、一対の平凸を使用して、活性媒質内部のTEM
00基本モードに合わせるように、端面励起方式の活性物質に集光させた。活性物質内部での熱の発生と熱複屈折を最小限に抑えるために、ほとんどの実験では励起光のオン期間を10μsとし、これを125μsごとに繰り返した(デューティサイクル8%)。場合によっては、2つの固有偏光モードのうちの一方を取り出してエリプソメトリ分析に適応させる目的で、励起光のパルス幅を増減させる必要があった。レーザ発振開始の検出を可能にするために、放出されたレーザ放射の一部分をシリコンベースの光検出器に送った。セットしたα値ごとに共振器ミラーの位置合わせを最適化することで、レーザ発振を達成するために必要なレーザダイオードの最小駆動電流を求めた。この情報と、電流‐出力特性の情報および活性素子によって吸収される励起光出力の割合に関する情報とを組み合わせることで、発振閾値で吸収された励起光出力を角度αの関数としてプロットすることが可能になった。
【0091】
上記共振器の外部の偏光状態を判定するために、放出された放射を、補償子と呼ばれる1/4波長板、続いて検光子と呼ばれる偏光子に送って通過させた。これらはそれぞれ、送出ビームのできるだけ厳密な消光を実現させるために、回転角度を調整できる回転ステージに取り付けた。この消光は、まず、補償子の速軸を、ほぼ楕円形をなすビームの横方向の電界ベクトルである楕円パターンの一方の軸に合わせることによって、ビームを直線偏光に変換してから、検光子を回転させて消光の位置を探すことによって行うことができた。次に、補償子の速軸の角度(ξ)から消光時の検光子の角度を差し引いて、角度ψを求めた。次に、ポアンカレ座標上のx、y、z座標を次のように決定した。
【0092】
【0093】
PT対称性が破れた領域内では、2つの状態が共存し、一方からもう一方にランダムにホッピングすることが分かった。この共存により、それぞれの状態のξとΧを個別に測定することができた。
【0094】
計算による外部の固有状態ベクトルを、次の行列と出力カプラに入射する内部固有状態ベクトルとの積により求めた。
【0095】
【数42】
ここで、左上の項は複減衰を規定し、もう一方の項はy方向の1/4波長の位相の進みを規定している。
【0096】
各モードの対向伝播(CP)波の偏光状態も、レーザ動作にとって重要なパラメータである。というのは、それらの偏光状態同士の近接度によって、定在波パターンの軸方向の強度コントラストと、マルチ縦モードの作動の可能性が決まるためである。各対向伝播波の強度がほぼ等しいと仮定すると、干渉パターンの可視度Vは、次の各モードiのCP波のエルミートスカラー積の大きさに等しくなる。
【0097】
【数43】
ここで、u
i+とu
i-は±z方向に伝播するモードiのジョーンズベクトルを示し、記号
【0098】
【0099】
この例示の構成では、放射スペクトルを分析するために、まず、λ<950nmの光をカットするローパスフィルタを使用して、933nmの吸収されていない励起光を除去した。放射されたビームを、開口数NA=0.2の顕微鏡対物レンズでファブリペロー(FP)エタロン(自由スペクトル範囲FSR=30GHz、1030nmでのフィネスF=30)に集光させた。FPエタロンの共振条件の合致したものに対応した一連の鮮明な円形の干渉縞を、f=70mmのレンズの焦点面に配置したCCDカメラで観察することができる。競合する偏光状態が観察され得るPT対称性が破れた領域では、二重偏光の作動が周波数放射の分裂として現れた。次に2つの固有モードのうちの一方だけを選択するように、補償子と検光子を調整した。取り込みの開始タイミングの調整は、およそ20μs続く取り込み期間の間に、選択したモードが放射されるように行った。例外点では、2つの偏光状態が結合していたが、対称性が破れていない領域内では、一方の状態のみが発振でき、もう一方の状態は、2つの状態間に共振器内損失の差があることによって抑制された。
【0100】
図3Aに、計算による固有値の大きさおよび位相を、例示の構成のパラメータに対するαの関数として示している。PT対称性が破れていない領域|α|<α
EPでは、固有値は純粋な実数であり、一方の偏光状態は、もう一方の偏光状態よりも損失が大きく、レーザ動作中に活性媒質の飽和が生じると抑制されることが予想される。PT対称性が破れた領域|α|>α
EPでは、固有値は互いに複素共役であり、それによって二重偏光放射が起こることが示唆される。この固有値の大きさは、PT対称性が破れていない領域における優先的な偏光状態の固有値よりも小さい。このことは、レーザ発振閾値が、PT対称性が破れていない領域の方が、PT対称性が破れた領域よりも低くなるはずであることを意味する。
【0101】
図3Bに、レーザ発振閾値における励起光出力をαの関数として測定した際のまさに実験によって見出されたものを示している。1/4波長板の速軸が互いに平行または直交していることに対応する、対称性が破れていない領域が2つ存在している。発振閾値は、計算した固有値の大きさに従って、PT対称性が破れた領域では一定であるが、PT対称領域内では急激に低下することが分かる。
【0102】
図4Aに、共振器内部にある2つのモードの計算による固有ベクトルを、ポアンカレ球上の(x、y、z)座標として示している。PT対称性が破れていない領域では両偏光状態は直線(z=0)のままであり、αが大きくなるにつれてそれらの偏光面は互いに向かって回転する。次に、両偏光状態はEPで結合して単一の縮退した斜め偏光状態(x=0、y=1、z=0)を形成する。その後、対称性が破れた領域で再び分裂し、さらにα値が大きくなると左円および右円(z=±1)に近づく。
【0103】
放出ビームの偏光状態を、補償子と検光子で消光の位置を探すことによって分析した。予想どおり、PT対称領域では、利得飽和のため放出ビームの一方の偏光状態のみが観察され、PT対称性が破れた領域では、両方の固有偏光状態の間で放出がランダムにホッピングし、それによって各偏光状態の特性評価が可能になった。
図4Bに示している、例示の構成から得たデータは、理論と一致しており、α=±5度の付近に位置する例外点で、両方の状態が結合していることを明確に示している。
【0104】
図5に、各モードのCP波のエルミートスカラー積の大きさから計算した各モードの干渉パターンの可視度を、αの関数として示している。これに対応する、1つのモードの対向伝播波の固有ベクトルの軌跡を、
図5のはめ込み図内のポアンカレ球上に示している。各固有モードのCP波は、最初はα=0で平行であるが、|α|が大きくなるにつれて直交していき、EPでCP波は完全に直交し、PT対称性が破れた領域全体にわたってその状態を保つ。この結果の意味は、PT対称性が破れた領域では、空間ホールバーニングが抑制され得るということである。したがって、EPは、単一の偏光状態で単一の縦方向放射を実現できる、恵まれた動作状態であると思われる。
【0105】
図6A~6Dに、様々なα値での、高フィネスのファブリペローエタロンを使用した放射スペクトルを示している。マルチ縦モード動作が生じている場合、周波数間隔はFSR(≒6GHz)、またはFRSの整数倍に等しくなっている。PT対称性が破れていない領域でのマルチモード放射から、対称性が破れた領域でのほぼ単一の縦モード動作への転移がはっきり確認できる。
図6Aおよび6Bに示している対称性の破れた領域(α=-15度)では、我々の偏光検光子を用いると、偏光状態をそれぞれ個別に検出することが可能であるが、各偏光状態は、ほぼシングルモードであった。α=0度では、放射スペクトルは高度にマルチモードになっているが、観察できた偏光状態は1つだけであった。
図6Cに示している例外点付近(α≒5度)では、放射は偏光状態を1つだけ示し、縦モードを2つだけ検出することができた。
図6Cに示しているように、競合する周波数ラインがやはり複数ある。つまり複数の周波数が存在する。この理由は、例示の構成において適切な特性を得るために必要なキャビティ内部品を収容するため、共振器キャビティが比較的長くなり、周波数間隔が非常に狭くなっているため、モード間の競合が促進されたためである。本明細書に記載の構造を有する反射面を用いると、共振器をこれよりはるかに短くすることが可能になり、競合する周波数が効果的に抑制される。
【0106】
理論および実験により、異方性ミラーを用いると、偏光固有状態のPT対称性の破れを実現できることが示された。尚、この異方性ミラーはそれぞれ、その主軸に沿って振動する光波の反射電界成分間にπの位相シフトを有し、かつ、それらの2つのミラーのうちの少なくとも一方が複減衰を有する。2つのミラー間のひねり角度は用途の広い制御パラメータであり、これを用いると、例外点付近における、PT対称性が破れていない領域とPT対称性が破れた領域の間の転移の探索が可能になったり、レーザ放射の特性の制御が可能になったりする。PT対称性が破れていない領域では二重偏光発振が抑制され、PT対称性が破れた領域ではマルチ縦モード放射が抑制される。例外点では、二重偏光放射および軸方向の空間ホールバーニングが抑制されることにより、シングルモードのレーザ動作を実現することができる。
【0107】
α値の大きさがα0よりも小さい場合、二重偏光放射は抑制されるが、空間ホールバーニングによりマルチ縦モード放射が生じる可能性がある。これにより、この共振器の自由スペクトル範囲の間隔で並ぶ放射スペクトル内に複数のラインが生じる。2つの固有偏光状態の損失には差異があり、損失の低い固有偏光状態のみが発振する。これは、利得媒質の飽和により、損失が低い方の偏光状態では往復利得と往復損失が等しくなるが、もう一方の、したがって抑制される偏光状態では往復損失が往復利得を上回るためである。空間ホールバーニングは、αがα0と等しいか、またはそれより大きくないが、α値がα0よりも小さい場合、部分的に現れ、マルチ縦モード放射を促進する。
【0108】
α値の大きさがα0よりも大きい場合、二重偏光放射が発生するが、空間ホールバーニングがなくなることにより、シングル縦モード放射が得られる。これにより放射スペクトル内に一対のラインが生じ、その間隔はα、つまり反射面の互いに対応する主軸の向きの相対的なオフセット角度によって決まる。とはいえ2つの固有偏光状態は全く同じ損失を有するため、両方とも発振し得る。実験では、偏光は一方の固有状態からもう一方の固有状態にホッピングするか、両方の状態が共に発振する。
【0109】
十分に短い共振器を使用するのであれば、マルチモード放射の効果的な抑制を実現することができる。ジャン=フランソワ・ビッソン(Jean-Francois Bisson)、コフィ・ノヴィニョン・アモウゾウ(Koffi Novignon Amouzou)、「異方性レーザミラーを使用したレーザの空間ホールバーニングの制御(Controlling spatial hole burning in lasers using anisotropic laser mirrors)」、米国光学学会誌B(Journal of the Optical Society of America B)、2019年の
図8に、定在波の最大許容コントラストに対する、活性媒質の特性(つまり、その放射断面積)と共振器の長さの影響が示されており、その一方で、定在波のコントラストとα値の間の関係を、
図5に示している。両方の情報を合わせることにより、α
0の許容差を判定することが可能になる。α
0の許容差は、数分の1度から、1度を超えるまでに及び得る。
【0110】
状況によっては、2つのミラーの相対的な回転の向きを、α0にある例外点付近の、α0とは異なる角度αに再セット可能にして、シングルモード放射を実現しつつレーザの偏光状態と放射スペクトルを制御できるようにすることが望ましいこともあり得る。つまり、ミラーの向きを互いに対して回転させて変え、それらを新たな相対的な回転の向きにセットすることができる。
【0111】
ジョーンズ行列の対角成分間の小さな位相シフトφの影響を、次の行列で調べた。
【0112】
【0113】
PT対称の挙動は、小さなφ値から悪影響を受ける可能性があるように思われる。このことが、
図7Aおよび
図7Bに示されている。これらの図は、我々の1/4波長板のスペック(λ/4±λ/300)に対応する2π/300の位相シフトに関したものであり、その他の条件は我々の実験条件になっている。例外点では、転移が滑らかになり、固有値と固有ベクトルの縮退が解消され、EPを越えると、各モードの対向伝播波が完全には直交しなくなる。したがって、直交軸間で必要なπの位相シフトに対してわずか2π/300の誤差があるだけで、EPでの縮退が解消され、定在波の均一性が低下する。しかしながら、例えば
【0114】
【0115】
【数47】
など、互いに逆の位相シフトを有するミラーを使用した場合は、固有値、固有ベクトル、および定在波パターンのコントラストにほとんど悪影響が生じず、したがって
図7Aと
図7Bを見比べると、これらのミラーがPT対称行列に良く近似していることにも留意されたい。より短い共振器を使用することでも、ミラーの光学特性の許容範囲は緩和される。というのは、隣接するモード間の利得の差異が十分な大きさであれば、シングルモード動作の実現に際しての、軸方向の強度パターンを均一にすることに関する要件が不要になるからである。
【0116】
一方の反射面にπからわずかに外れた位相シフトがあると、対称性が破れていない領域から対称性が破れた領域への転移が滑らかになる可能性がある。例えば、2つの固有偏光状態は互いに接近するものの、ぴったり合わさらなくなる。
図7Aに示しているように、2つの偏光状態の間には損失の差異が存在し、それによって損失が低い方の状態だけが発振する。
図7Bに示しているように、定在波の変調によるコントラストも、理想的な場合に比べて増大する可能性がある。共振器を十分に短くすれば、その共振器を、上記で概要を説明したメカニズムによる空間ホールバーニングに対して耐性を有するものにすることができる。位相シフトがπと異なる場合の状況は、πの位相シフト値が理想的な値の状態でα値がα
0より小さい場合と非常に似ている。
【0117】
ジャン=フランソワ・ビッソン(Jean-Francois Bisson)、コフィ・ノヴィニョン・アモウゾウ(Koffi Novignon Amouzou)、「異方性レーザミラーを使用したレーザの空間ホールバーニングの制御(Controlling spatial hole burning in lasers using anisotropic laser mirrors)」、米国光学学会誌B(Journal of the Optical Society of America B)、2019年の
図8に、定在波の最大許容コントラストに対する、活性媒質の特性(つまり、その放射断面積)と共振器の長さの影響が示されており、その一方で、定在波のコントラストと位相値の間の関係を、
図8Bに示している。
【0118】
これまでの計算では、熱誘起複屈折を無視した。この現象は、吸収された励起光によって活性物質に熱が蓄積されることで発生する。熱の拡散によって生じる不均一な温度プロファイルは活性物質内部に熱的な歪みを引き起こし、その歪みによって、光弾性効果による空間的に不均一な熱誘起複屈折が生じる。これにより、活性媒質を通過する光の偏光状態が不均一な形で変化する。偏光検光子で各固有モードの消光比を測定することにより、放出ビームの若干の偏光解消が観察された。この現象は励起光出力が高くなると悪化することが予想されたが、逆の傾向が観察された。PT対称性が破れた領域では、偏光消光比(PER)は、発振閾値をわずかに上回る励起光出力では約100と測定され、励起光出力が高くなると着実に改善して、発振閾値の1.5倍の励起光出力では200に達した。PT対称性が破れていない領域では、α=0度付近で測定したPER値は、発振閾値をわずかに上回る励起光出力では1000程度であり、発振閾値の3倍の励起光出力では3000を超えるまで高まった。PT対称性が破れていない領域でのPERがはるかに高かったことは、共振器の一方の側にλ/4板を配置し、もう一方の側にそのλ/4波長板の1つの軸と位置合わせした偏光子を配置することにより、偏光解消損失が数桁減少するという観察結果で説明することができる。そのメカニズムは次のとおりである。励起光の軸を中心とした方位角が0度および90度の位置では、熱誘起複屈折の主軸を水平方向と垂直方向に揃えていることで、水平に偏光した入射光の場合、偏光解消損失はほぼゼロになる。逆に、偏光解消損失は通常、対角方位角の位置(つまり、偏光子の軸に対して±45度)で最も大きくなる。ただしこの対角方位角の位置では、垂直に偏光した入射ビームなら同じ大きさの対角成分に分解され、これらの対角成分が、異なる大きさの位相シフトを受ける。しかし、これらの成分はλ/4板への入りと出で偏光面が90度回転して入れ替わり、復路で活性媒質を通過するときに位相シフトもまた入れ替わる結果、±45度および±135度でも同様に、偏光解消損失は無視できるものとなる。この状況が、ここでα=0に近いところでも発生する。というのは、0度の固有ベクトルが、偏光子として機能するブリュースター板の存在により垂直に偏光しているためである。αが大きくなるにつれて、偏光状態は回転し(
図4Aおよび4Bを参照)、この仕組みはそれほど効果的ではなくなる。これによって、PT対称性が破れていない領域で偏光解消損失が大きくなる理由が説明される。PERが高いという事実と、α≒±5度で急激な転移が生じるという例示の構成から得た発見と、任意のα値に対する測定偏光状態と計算偏光状態の優れた一致とを組み合わせることで、熱複屈折による偏光解消を無視することの根拠が得られ、これにより、本明細書に記載の線形モデルに基づいた固有偏光状態のモデルが裏付けられる。
【0119】
単一の周波数放射を実現するためにα値がどの程度α0値に一致すべきかは、主にキャビティの長さによって決まる。より短い共振キャビティを使用すると、反射層の複屈折特性および複減衰特性の許容範囲が緩和される。さらに、活性媒質内部の熱複屈折による悪影響も低減される。上記で説明した実験的実証では、キャビティ内要素の存在により共振器がかなり長くなり(L=2.5cm、自由スペクトル範囲は6GHz)、その結果、隣接するモード間の周波数間隔が狭くなることで、それらの競合が助長され、これがモードのホッピングとして出現する。
【0120】
ミリメートル台の長さのマイクロチップレーザを使用すると、これらの問題が全て解消する。これは、異方性薄膜ミラーまたはナノ加工技術を用い、現在使用されているキャビティ内要素をなくすことによって実現することができる。このようなミラーの実現には、斜め蒸着などの既存の技術や、誘電体多層膜にエッチングされた回折光学素子、例えば円形格子や共鳴格子、フォトニック結晶などを利用することができる。
【0121】
図8Aおよび8Bに、別の実施形態による共振器キャビティ200を示している。その活性媒質216の端面212a、212bに、異方性薄膜やナノ加工などの任意の適当な手段によって、異方性薄膜の形をした反射面204、208が形成されている。活性媒質216の端面212aは、互いに平行な研磨面である。この実施形態では、活性媒質216が共振器キャビティとして機能する。典型的にはレーザダイオードである励起光源218が、活性媒質216に隣接して配置される。励起光源218のビームは、共振器キャビティ200の光軸OAと同軸である。代替例では、励起光源は電流(すなわち電荷の注入)の形をしていてもよい。第1の反射面204は、反射率が高く、利得媒質容器216内のエネルギーのほぼ全てを第2の反射面208に向けて返す。さらに、第1の反射面204は、励起光源218をほぼ透過することから、励起光源218から活性媒質216へのエネルギー伝達は比較的効率的である。第2の反射面208は、第1の反射面204よりも反射率が低く、したがって中心軸CAを有するレーザビームの形で光を出射することが可能になる。第1の反射面204および第2の反射面208のうちの少なくとも一方は複減衰をもたらす。つまり一方のミラーは、第1の主軸224に沿って第1の反射係数を有し、第1の反射係数は、第1の主軸224に垂直な第2の主軸228に沿った第2の反射係数よりも大きい。さらに、第1のミラー204および第2のミラー208はそれぞれ、第1の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトをもたらし、この位相シフトは、第1の主軸に垂直な第2の主軸に沿って振動する光波の反射電界成分の位相シフトに対して約π異なる。第2のミラー208の第1の主軸は、第1のミラー24の第1の主軸に対して、パリティ‐時間対称性が破れていない領域とパリティ‐時間対称性が破れた領域との間の角度α
0程度だけ回転してセットされる。第2のミラー208の第1の主軸および第2の主軸の対応する位置224´、228´が、第1のミラー204上に投影されて示されている。
【0122】
念のため、一般的なPT対称行列(式8)と制御パラメータχ(式10)の導出についてここで説明する。行列Jは、次の交換関係を満たせばPT対称であると定義される。
【0123】
【数48】
ここで、Pはパリティ演算子であり、Tは時間反転演算子で、この場合複素共役をとるものとして定義される。式(23)は次式と等価である。
【0124】
【0125】
次に、PT対称ジョーンズ行列Jの一般形を導く必要がある。この一般形は、ジョーンズベクトルの任意の直交基底で表現することができる。まず、1つの特定の形のP行列を試す。
【0126】
【0127】
この選択は、一般に認められているパリティ演算子の特性によって妥当性が示される。つまり、パリティ演算子はエルミートであり、ユニタリであり、対合(すなわち、自分が自分自身の逆となる)である。Jが次の形式で与えられている場合、
【0128】
【数51】
係数a、b、c、dは一般に複素数であるが、PT対称の条件式(24)により、aとdが実数で、bとcが虚数であることが示唆される。したがって、次のようになる。
【0129】
【数52】
ここでη、β、γ、δは全て実数である。これでJを任意の選択の基底で表現することができる。ジョーンズベクトルの直交基底は次のようにパラメータで表すことができる。
【0130】
【0131】
【0132】
【数55】
は偏光状態を一意に決定する。したがって、対応するユニタリ変換は次のようになる。
【0133】
【0134】
【0135】
式(31)の面倒ではあるが単純な計算を行うと、次のように求まる。
【0136】
【0137】
【0138】
尚、A、B、C、およびDは任意の実数値をとることができる。また、異なる基底を使用すると、P行列も変化する。P´を新しい基底のP行列とする。交換操作式(24)は次を意味する。
【0139】
【0140】
【0141】
式(24)と式(38)を比較すると、次のことが分かる。
【0142】
【0143】
選択したユニタリ演算Rを用いると、P´は次のようになる。
【0144】
【0145】
ここで、破れていないPT対称性は、PT演算子とJが共通の固有ベクトルのセットを共有する条件に対応する。破れていない対称性が有効であるためのA、B、C、Dパラメータに対する制約条件を特定するには、特定のユニタリ変換を選択すると便利である。つまり、式(32)においてθ=0かつφ=π/2とする。次式が得られる。
【0146】
【数64】
すなわち、4つの成分は他に制約がない実数であり、対応するP演算子は次のとおりである。
【0147】
【数65】
これは単位行列である。その場合P´T演算子の固有ベクトルは、複素共役演算子であるTの固有ベクトルとなる。したがって、P´T固有ベクトルの成分は、同じ位相を有する係数の任意の対、または等価的に、共通のグローバル位相因子を含んだ実数成分の任意の対である。ここで、J´の固有ベクトルがやはり純粋な実数の固有ベクトルを持つための条件は、その固有値が実数であることであることを示すのは容易である。この条件は、特性方程式の判別式を正とすることによって保証される。
【0148】
【数66】
すなわち、B
2-C
2+D
2>0 (44)
【0149】
Χパラメータを次のように定義する。
【0150】
【数67】
この式から実数の固有値の条件は次式が直ぐに得られる。
【0151】
【数68】
固有値は相似変換によって不変であるため、これは破れていないPT対称性の一般条件である。C
2=B
2=D
2のときに、行列Jは完全性を有さなくなり、これが、本文で説明した例外点(EP)に対応する。式(40)の定義によると、PTはパリティ‐時間反転対称演算子とは言えないという主張もあり得る。しかしながらここで重要なことは、純粋な実数の固有値が存在する条件と、特定の制御パラメータ値(χ=1)における自発的PT対称性の破れである。
【0152】
特定の利点を上記に列挙したが、各種実施形態はこれらの列挙した利点の一部を含んでも、全く含まなくても、全てを含んでもよい。
【0153】
当業者であれば、さらに多くの代替実装形態および修正形態が可能であること、ならびに上記の実施例が1つまたは複数の実装形態の単なる例示であることを理解するであろう。したがって本発明の範囲は、本明細書に添付した特許請求の範囲およびそれに行われた補正のみによって限定されるものとする。
【符号の説明】
【0154】
20 共振器キャビティ
24 第1のミラー
28 第2のミラー
32a 第1の主軸
32b 第1の主軸
36a 第2の主軸
36b 第2の主軸
40 利得媒質
44 励起光源
OA 光軸
CA 中心軸
200 共振器キャビティ
204 第1の反射面
208 第2の反射面
212a 活性媒質の端面
212b 活性媒質の端面
216 活性媒質
218 励起光源
224 第1の主軸
228 第2の主軸
【国際調査報告】