(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】細胞せん断損傷を低減する細胞ゲル製剤及び細胞せん断損傷を低減する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240229BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240229BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240229BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240229BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240229BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240229BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240229BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240229BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240229BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P19/02
A61P29/00
A61K9/06
A61K47/36
A61L27/52
A61L27/20
A61L27/38 112
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558895
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 CN2021122674
(87)【国際公開番号】W WO2022213562
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】202110386052.7
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513322718
【氏名又は名称】清華大学
【氏名又は名称原語表記】TSINGHUA UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】1 Qinghuayuan, Haidian District, Beijing 100084, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ドンシェン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ジャクォ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ボ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、シン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ユジェ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ビニ
(72)【発明者】
【氏名】リ、シン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB11
4C076BB32
4C076CC29
4C076CC50
4C076EE30
4C076FF63
4C081AB05
4C081BA12
4C081CD012
4C081CD34
4C081DA12
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB111
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4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB63
4C087MA02
4C087MA28
4C087MA66
4C087MA67
4C087NA03
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB11
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを含む、関節内注射による急性または慢性の骨関節炎および/またはその症状の治療および/または予防のための細胞ゲル製剤;前記細胞ゲル製剤を使用して急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状(特に、骨関節の疼痛、可動性または機能の減少)を治療または予防する方法;ならびに前記核酸ハイドロゲルを使用してせん断環境下における細胞のせん断損傷を低減する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを含む、細胞ゲル製剤。
【請求項2】
前記核酸ハイドロゲルは、足場コアおよび前記足場コアに結合する少なくとも3つの一本鎖核酸を含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの足場粘着末端を有する、足場ユニット;
架橋コアおよび前記架橋コアに結合する少なくとも2つの一本鎖核酸を含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの架橋粘着末端を有する、架橋ユニット;および
水性媒体を含み、
記足場ユニットおよび前記架橋ユニットは、前記足場粘着末端及び前記架橋粘着末端の相補的塩基対合による架橋により、三次元空間網目構造を形成する、請求項1に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項3】
前記足場ユニットは、足場コアと前記足場コアに結合する少なくとも3つの一本鎖核酸とを含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの足場粘着末端を有し;前記足場コアは核酸であり;前記足場コアとしての核酸は、相補的対合領域を有し、前記相補的対合領域の長さは、4~150bpである、請求項1~2のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項4】
前記架橋ユニットは、架橋コアおよび架橋コアに結合する少なくとも2つの一本鎖L-核酸を含み、各一本鎖L-核酸は、少なくとも1つの架橋粘着末端を有し;前記架橋コアは核酸であり;前記架橋コアとしての核酸は、相補的対合領域を有し、前記相補的対合領域の長さは、4~150bpである、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項5】
前記核酸ハイドロゲル中の足場ユニットと架橋ユニットとのモル比は2:1~1:3である、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項6】
前記足場ユニット、前記架橋ユニットおよび前記三次元空間網目構造は、生理学的条件下(37℃、pH7.2~7.4、0.9wt%NaCl、等張)で安定な架橋状態にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項7】
前記核酸ハイドロゲルは、25℃、ひずみ1%のひずみ振幅で、周波数掃引により測定された、0.1から100rad/sのすべてのひずみ値での、損失弾性率G”よりも優位な貯蔵弾性率G’を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項8】
前記核酸ハイドロゲルの足場ユニットまたは架橋ユニットは、CpG配列を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項9】
前記間葉系幹細胞は、前記核酸ハイドロゲル中に包埋または分散される、請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞の密度は、10
5~10
8個細胞/mL(毎ミリリットル細胞ゲル製剤)である、請求項1~9のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項11】
さらに抗炎症剤を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤。
【請求項12】
急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状を治療または予防するための医薬の製造のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤の使用。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の細胞ゲル製剤を使用して、せん断環境における細胞のせん断損傷を低減する方法であって、前記方法が
(i)足場ユニットおよび架橋ユニットを含む核酸ハイドロゲルを提供すること、および(ii)間葉系幹細胞を核酸ハイドロゲルに担持させること、を含むか;または、
(i)核酸ハイドロゲルの足場ユニットおよび架橋ユニットを別々に調製すること、および(ii)間葉系幹細胞を足場ユニットおよび架橋ユニットと混合し、自己組織化により本発明の細胞ゲル製剤を得ること、を含む、方法。
【請求項14】
前記細胞ゲル製剤をせん断環境に供することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記せん断環境は、注射過程および関節内の内部摩擦を含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを含む、関節内注射による急性または慢性の骨関節炎および/またはその症状の治療および/または予防のための細胞ゲル製剤;前記細胞ゲル製剤を使用して急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状(特に、骨関節の疼痛、可動性または機能の減少)を治療または予防する方法;ならびに前記核酸ハイドロゲルを使用してせん断環境下における細胞のせん断損傷を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨関節炎(OA)は、関節軟骨の退行性変化と続発性骨過形成を特徴とする慢性疾患である。軟骨細胞の再生能力は限られているため、軟骨の退行性変化は不可逆的である。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSC)は軟骨を修復し、退行性変化を遅延させるある程度の効果が確認されており、骨関節炎や軟骨欠損の治療において重要な意義を有している。
【0003】
現在、細胞治療は臨床応用が期待される治療法の一つであり、従来の細胞治療では、細胞送達媒体として水性溶液が用いられている。例えば、従来の骨関節の細胞治療では、細胞の懸濁液を注射器で関節腔内に注射し、生物学的治療効果を発揮させる。しかし、細胞を水性溶液で送達する過程では、注射後数時間から数日のうちに大量の細胞が死滅してしまう。現在のところ、転移過程における大量の細胞死の原因として、3つのメカニズムが広く受け入れられている:注射過程で細胞が受けるせん断力によって細胞死を引き起こすこと;成長因子の不足によって定着依存性の細胞が死滅すること;注射された外来細胞は宿主組織内の血管にアクセスしにくいため、宿主組織からの栄養補給の不足によって細胞死を引き起こすこと。その中でも、注射過程における機械的せん断力は細胞死の重要な原因である。細胞を生理食塩水のようなニュートン流体中に注射すると、細胞はシリンジ内でのせん断力と引張力を受ける。これは、シリンジ内壁と流体との界面における流動抵抗によるもので、シリンジ中心部の流速は内壁付近の流速よりも速いからである。さらに、注射に使用される針の直径は、通常、シリンジの直径よりも小さいため、シリンジと針の界面における引張力が飛躍的に増大する。これらの力の不均等な分布は、細胞に巨大なせん断応力を与え、その結果、細胞膜が破裂し、一部の壊死細胞が急速に死滅してしまう他、アポトーシス過程を誘発し、宿主に注射された細胞がさらに死滅する可能性もある。さらに、注射過程におけるせん断力の存在は、細胞の遺伝子発現や表現型などにも影響を及ぼす可能性があり、特に幹細胞の分化に重要な影響を及ぼす。
【0004】
せん断減粘性生体材料は、せん断応力の存在により液化してシリンジ内壁面に潤滑層を形成し、材料全体の流動抵抗を減少させることができ、さらに注射過程中に、該材料はシリンジの中心部と端部で同様の流速を有し、プラグフローを形成することにより、せん断応力を減少させることができる。これにより、注射過程中に細胞に機械的保護を与え、細胞にかかるせん断力を減少させることができるため、細胞の生存率を向上させ、細胞内の遺伝子発現などに対するせん断力の影響を減少させることができる。このような生体材料としては、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウムなどをベースに調製された天然高分子や超分子ハイドロゲル、及びポリペプチドベースの超分子ハイドロゲルなどが挙げられる。これらの材料は、一定のせん断減粘性を有するものの、潜在的な生物学的安全性の問題及び構造上の透過性の不足などの欠点があるため、細胞培養や組織再生でのさらなる応用が妨げられている。
【0005】
注射過程におけるせん断による細胞損傷に加え、関節内に注射された細胞は、関節内の摩擦などのせん断環境により損傷を受け、治療効果に影響を及ぼすこともある。このように、せん断環境下での細胞損傷をさらに低減するために、せん断減粘性をさらに向上させることが必要とされている。
【0006】
また、従来の細胞治療における水性溶液を用いた細胞注射過程におけるせん断による細胞損傷により、細胞の生存率や治療効果が大きく低下するという問題や、既存のせん断減粘性材料は潜在的な生物学的安全性の問題及び構造上の透過性の不足という問題に対し、骨関節炎の治療において、細胞のせん断損傷をさらに低減することができる方法、並びに細胞のせん断損傷を低減することと同時に、骨関節炎の治療に必要な良好な生体適合性などの望ましい性能を有する細胞製剤の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Piuzzi, N. S.; Ng, M.; Chughtai, M.; Khlopas, A.; Ramkumar, P. N.; Harwin, S. F.; Mont, M. A.; Bauer, T. W.; Muschler, G. F., Accelerated Growth of Cellular Therapy Trials in Musculoskeletal Disorders: An Analysis of the NIH Clinical Trials Data Bank. Orthopedics 2019, 42 (2), e144-e150.
【非特許文献2】Jones, I. A.; Togashi, R.; Wilson, M. L.; Heckmann, N.; Vangsness, C. T., Jr., Intra-articular treatment options for knee osteoarthritis. Nat Rev Rheumatol 2019, 15 (2), 77-90.
【非特許文献3】Ng, J.; Little, C. B.; Woods, S.; Whittle, S.; Lee, F. Y.; Gronthos, S.; Mukherjee, S.; Hunter, D. J.; Worthley, D. L., Stem cell directed therapies for osteoarthritis: The promise and the practice: Concise review. Stem Cells 2019.
【非特許文献4】Mitrousis, N.; Fokina, A. & Shoichet, M.S. Biomaterials for cell transplantation. Nat Rev Mater 2018, 3, 441-456.
【非特許文献5】Yan, C.; Mackay M. E.; Czymmek K.; Nagarkar R. P.; Schneider J. P.; and Pochan D. J., Injectable Solid peptide hydrogel as a cell carrier: effects of shear flow on hydrogels and cell payload. Langmuir 2012 28 (14), 6076-6087.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の核酸超分子ハイドロゲルを細胞送達媒体として用いた場合、当該核酸ハイドロゲルが治療細胞をほぼ100%保護し、細胞注射過程および関節内を模擬したせん断環境での細胞生存率が99%以上と高くなることを見出した。本発明者らは、核酸ハイドロゲルが独特な三次元網目構造を有し、優れたせん断減粘性を有するため、細胞せん断損傷を著しく低減し、細胞に抗せん断保護を与え、せん断環境下での細胞生存率を向上させ、細胞治療の有効性を向上させることができることを見出した。一方、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウム等をベースに調製された天然高分子や超分子ハイドロゲルと比較して、本発明の核酸超分子ハイドロゲルは、ゲル化が速く、良好な生体適合性と透過性など、軟骨組織工学に適した優れた特性を有するため、骨関節炎のための細胞ゲル製剤の形成に適している。
【0009】
以上の知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
具体的に,本発明は、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを含む、関節内注射による急性または慢性の骨関節炎および/またはその症状の治療および/または予防のための細胞ゲル製剤;前記細胞ゲル製剤を使用して急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状(特に、骨関節の疼痛、可動性または機能の減少)を治療または予防する方法;ならびに前記核酸ハイドロゲルを使用してせん断環境下における細胞のせん断損傷を低減する方法に関する。
【0011】
本発明の細胞ゲル製剤は、注射過程や関節内の摩擦などのせん断環境による細胞のせん断損傷を低減することができ、前記細胞ゲル製剤中の細胞はせん断環境下でもほとんど損傷しない。具体的には、本発明の核酸ハイドロゲルは、細胞注射過程において、細胞に抗せん断保護を与え、従来の注射法に比べて、細胞の生存率が85%から99%以上に向上し;核酸ハイドロゲルは、模擬した関節せん断環境中で細胞に抗せん断保護を与え、培養液中の細胞に比べて、細胞の生存率が75%から99%以上に向上し;並びに、本発明の核酸ハイドロゲルによって送達された細胞のウサギの膝骨関節炎の治療効果は、従来の細胞治療よりも著しく優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】細胞を含まないハイドロゲルおよび間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルのレオロジー特性(時間掃引及びひずみ掃引を含む)のテストグラフである。
【
図2】従来の注射法と核酸ハイドロゲルを使用した細胞注射の過程図と、両注射法の注射前後にCalcein-AM/PI染色により細胞を標識することによって決定された生存率を示す図である。
【
図3】両注射法による注射前後の細胞の生存率の統計グラフである。
【
図4】関節せん断環境を模擬する過程図と、培地中及びハイドロゲル中で摩擦した前後にCalcein-AM/PI染色により細胞を標識して測定した生存率を示す図である。
【
図5】培地中及びハイドロゲル中で、模擬した関節せん断環境で摩擦した前後の細胞の生存率の統計グラフである。
【
図6】ウサギの膝骨関節炎の治療のために、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを膝関節内注射により投与したから12週間後と24週間後の膝関節の全体図である。
【
図7】ウサギの膝骨関節炎の治療のために、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを膝関節内注射により投与したから12週間後と24週間後の膝関節の組織染色図である。
【
図8】異なる核酸固形分含量の、注射後の細胞の生存率に対する影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されている科学技術用語は、当業者が一般に理解している用語と同じ意味を有するが、矛盾する場合には、本明細書の定義に準ずる。
【0014】
第1の態様において、本発明は、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを含む、関節内注射による急性または慢性の骨関節炎および/またはその症状の治療および/または予防のための細胞ゲル製剤に関する。
【0015】
一実施形態において、前記核酸ハイドロゲルは、足場コアおよび前記足場コアに結合する少なくとも3つの一本鎖核酸を含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの足場粘着末端を有する、足場ユニット;架橋コアおよび前記架橋コアに結合する少なくとも2つの一本鎖核酸を含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの架橋粘着末端を有する、架橋ユニット; および水性媒体を含み、前記足場ユニットおよび前記架橋ユニットは、前記足場粘着末端及び前記架橋粘着末端の相補的塩基対合による架橋により、三次元空間網目構造を形成する。
【0016】
一実施形態において、前記核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)などを含み、好ましくは、デオキシリボ核酸(すなわち、DNA)である。核酸は、天然のD-核酸であってもL-核酸であってもよく、L-核酸は、L-ヌクレオチドが重合したL-核酸を指す。具体的には、L-DNAは、L-デオキシリボヌクレオチドが重合したDNAを指す。好ましくは、L-核酸である。
【0017】
一実施形態において、前記足場ユニットは、足場コアと前記足場コアに結合する少なくとも3つの一本鎖核酸とを含み、各一本鎖核酸は少なくとも1つの足場粘着末端を有する。好ましくは、足場コアは核酸であり、具体的は、D-核酸またはL-核酸であってもよく、さらに具体的には、D-DNAまたはL-DNAであってもよい。一実施形態において、足場コアとしての核酸は、相補的対合領域を有し、前記相補的対合領域の長さは、4~150bpであってもよく、好ましくは5~50bp、より好ましくは6~30bp、さらに好ましくは8~20bpであってもよい。
【0018】
一実施形態において、前記足場コアはポリペプチドであってもよく、これは、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結された化合物である。足場コアとしてのポリペプチドは、具体的には、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドなどを包含する。さらに、本発明のポリペプチドには、オリゴペプチド、タンパク質、蛋白質なども包含されている。
【0019】
一実施形態において、前記架橋ユニットは、架橋コアおよび前記架橋コアに結合する少なくとも2つの一本鎖L-核酸を含み、各一本鎖L-核酸は、少なくとも1つの架橋粘着末端を有する。好ましくは、前記架橋コアは核酸であってもよく、具体的にはD-核酸またはL-核酸であってもよく、さらに具体的にはD-DNAまたはL-DNAであってもよい。一実施形態において、架橋コアとしての核酸は、相補的対合領域を有し、前記相補的対合領域の長さは、4~150bpであってもよく、好ましくは5~50bp、より好ましくは6~30bp、さらに好ましくは8~20bpであってもよい。
【0020】
一実施形態において、前記足場粘着末端または架橋粘着末端は4nt以上の長さを有し、こうなると、生理学的条件下で容易に安定な架橋状態にする。好ましくは、足場粘着末端または架橋粘着末端の長さは150nt以下、好ましくは50nt以下、より好ましくは30nt以下、より好ましくは30~50nt、より好ましくは20nt以下である。
【0021】
一実施形態において、足場コアと架橋コアが同じであり、足場コアに結合する一本鎖核酸と架橋コアに結合する一本鎖核酸が同じ、例えば、同じL-核酸であり;足場コアに結合する一本鎖核酸の数と架橋コアに結合する一本鎖核酸の数(いずれも≧3)が同じである場合、足場ユニットと架橋ユニットは同じである。したがって、一実施形態において、足場ユニットと架橋ユニットは同じである。一実施形態において、足場単位と架橋単位は異なる。
【0022】
実施形態において、前記核酸ハイドロゲル中の足場ユニットと架橋ユニットとのモル比は、2:1~1:3、好ましくは1:1~1:2、より好ましくは1:1.5である。
【0023】
一実施形態において、前記足場ユニットおよび前記架橋ユニットは、前記足場粘着末端及び前記架橋粘着末端の相補的塩基対合による架橋により、三次元空間網目構造を形成する。好ましくは、足場ユニット、架橋ユニットおよび三次元空間網目構造は、生理学的条件下(37℃、pH7.2~7.4、0.9wt%NaCl、等張)で安定な架橋状態にある。
【0024】
一実施形態において、水性媒体は水または水溶液を指す。前記水溶液としては、緩衝塩を含む緩衝液が好ましい。前記水溶液は、好ましくは、生理学的条件(37℃、pH7.2~7.4、0.9wt%NaCl、等張)などの幹細胞の生体内微小環境に類似した環境を形成することができる。
【0025】
一実施形態において、前記核酸ハイドロゲルは好適な機械的強度を有し、例えば、機械的強度は0.1Pa以上、好ましくは1Pa以上、より好ましくは10Pa以上であってもよく、好ましくは10000Pa以下、より好ましくは1000Pa以下であってもよい。
【0026】
一実施形態において、核酸ハイドロゲルは、25℃、ひずみ1%のひずみ振幅で、周波数掃引により測定された、0.1から100rad/sのすべてのひずみ値での、損失弾性率G”よりも優位な貯蔵弾性率G’を有する。好ましくは、0.1から100rad/sのひずみ値での損失弾性率G”に対する貯蔵弾性率G’の比は2より大きく、より好ましくは10より大きい。
【0027】
一実施形態において、本発明の核酸ハイドロゲルは、望ましい安定性を有してもよく、例えば、制限エンドヌクレアーゼの存在下で、24時間、好ましくは36時間、より好ましくは48時間、またはそれ以上の時間、その構造を安定に維持し得る。
【0028】
一実施形態において、前記核酸ハイドロゲルの足場ユニットまたは架橋ユニットは、CpG配列を含むことができる。CpG配列は、シトシン-リン酸-グアノシン(CpG)ジヌクレオチドをコアとする回文配列であり、5’末端に2つのプリン、3’末端に2つのピリミジン、すなわち5’-PurPur-CG-PyrPyr-3’を有する。CpG配列は哺乳類細胞に認識され、補体の活性化、貪食作用、炎症性サイトカイン遺伝子の発現など、一連の生体防御機構を引き起こすことができる。現在、既知の強い免疫刺激作用を有するCpG配列としては、例えば5’-TCCATGACGTTCCTGACGTT-3’などが挙げられる。
【0029】
一実施形態において、前記足場ユニットの配列は5’-CGATTGACTCTCCACGCTGTCCTAACCATGACCGTCGAAG-3’、5’-CGATTGACTCTCCTTCGACGGTCATGTACTAGATCAGAGG-3’または5’-CGATTGACTCTCCCTCTGATCTAGTAGTTAGGACAGCGTG-3’である。一実施形態において、前記架橋ユニットの配列は5’-GAGAGTCAATCGTCTATTCGCATGAGAATTCCATTCACCGTAAG-3’または5’-GAGAGTCAATCGCTTACGGTGAATGGAATTCTCATGCGAATAGA-3’である。
【0030】
本発明の核酸ハイドロゲルは、CN201610740754Xに記載の方法により調製することができ、例えば、DNA一本鎖(すなわち、前記足場ユニットおよび前記架橋ユニット)を別々に調製し、次いでそれらを混合し、自己組織化により本発明のハイドロゲルを得ることができ;あるいは、前記足場ユニットおよび架橋ユニットを別々に前記水性媒体と混合して、足場ユニットの水性媒体溶液および架橋ユニットの水性媒体溶液を得、次いで、2つの溶液を混合して架橋させ、三次元空間網目構造を形成させてことにより、本発明のハイドロゲルを得ることもできる。
【0031】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞は、前記核酸ハイドロゲル中に包埋または分散される。好ましくは、前記間葉系幹細胞は、前記核酸ハイドロゲル中に包埋される。
【0032】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯または胎盤に由来する。前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、末梢血間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、および臍帯血間葉系幹細胞のいずれか1つに由来する。前記間葉系幹細胞は、望ましい抗炎症性能と再生性能を有する。
【0033】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞の密度は、105~108個細胞/mL(毎ミリリットル細胞ゲル製剤)であり、好ましくは、2×107~5×107個細胞/mLであり、より好ましくは、1×107個/mLである。
【0034】
一実施形態において、前記ゲルは、注射過程中に細胞を保護するために、0.7~5.0%(質量/体積比、ゲル1mlあたりの核酸固形分)の核酸固形分含量を有する。核酸固形分が0.7%(質量%)未満では、ゲルを形成することができず、ゲル中の核酸含量が5.0%より大きいと、強度が高く、注射過程中の抵抗が過大となるため、注射が困難となる。好ましい実施形態では、核酸固形分は1.5~4.0%、2.0~4.0%、3.0~4.0%、3.5~4.0%、または3.8%である。
【0035】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞は、核酸ハイドロゲルが形成された後にハイドロゲル中に添加または混合され、それによって前記細胞ゲル製剤が形成される。一実施形態において、前記間葉系幹細胞をDNAアセンブリと混合し、常法に従って間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを形成する。一実施形態において、前記間葉系幹細胞をDNA一本鎖(足場ユニット3個と架橋ユニット2個)と混合し、先ずは細胞を担持したDNAアセンブリを形成し、次いで核酸ハイドロゲルを形成する。
【0036】
一実施形態において、前記細胞ゲル調製物はさらに抗炎症剤を含み、前記抗炎症剤は好ましくはステロイド性抗炎症化合物(例えば、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンおよびトリアムシノロン)、非ステロイド性抗炎症化合物(例えば、イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセンなど)、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサート、レフルノミドなど)、抗CD20薬、抗サイトカイン薬(例えば、抗IL1薬、抗IL6薬、抗IL-17薬)、抗TNF薬(例えば、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、リツキシマブなど)、またはそれらの混合物から選択される。
【0037】
第2の態様において、本発明は、前記細胞ゲル製剤を使用して急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状(特に、骨関節の疼痛、可動性または機能の減少)を治療または予防する方法に関する。一実施形態において、前記疾患または症状は、例えば、骨関節炎、退行性関節炎、膝関節疾患、股関節の退行性関節疾患、ならびに自己免疫疾患(特に、関節リウマチおよび全身性エリテマトーデス(SLE))、脊椎関節症、リウマチ性多発筋痛、強直性脊椎炎、ライター症候群、乾癬性関節症、腸疾患性関節炎(出血性大腸炎及びクローン病などの炎症性腸疾患に関係する)、神経障害性関節症、急性リウマチ熱、痛風、軟骨石灰化症、カルシウムヒドロキシアパタイトの結晶沈着疾患、ライム病などの関節が関与する他の炎症性全身状態、ならびに他の全ての退行性関節疾患から選択される。
【0038】
第3の態様において、本発明は、核酸ハイドロゲルを使用してせん断環境における細胞のせん断損傷を低減する方法に関し、方法は、(i)足場ユニットおよび架橋ユニットを含む核酸ハイドロゲルを提供すること、および(ii)間葉系幹細胞を核酸ハイドロゲルに担持させることを含むか;または、(i)核酸ハイドロゲルの足場ユニットおよび架橋ユニットを別々に調製すること、および(ii)間葉系幹細胞を足場ユニットおよび架橋ユニットと混合し、自己組織化により本発明の細胞ゲル製剤を得ることを含むか;または、細胞注射試験等により、細胞を担持した核酸ハイドロゲルの細胞に対する抗せん断保護効果を測定することを含む。
【0039】
第4の態様において、本発明は、急性および慢性の骨関節炎および関連する炎症由来の症状を治療または予防するための医薬の製造のための細胞ゲル製剤の使用に関する。
【0040】
一実施形態において、核酸ハイドロゲルは上記の通りである。一実施形態において、前記間葉系幹細胞は、前記核酸ハイドロゲル中に包埋または分散される。一実施形態において、せん断環境は、注射過程および関節内の内部摩擦を含む。
【実施例】
【0041】
実験材料
核酸ハイドロゲルは、CN201610740754Xに開示された方法を用いて調製した。まず、表1に示されるDNA一本鎖(Y1、Y2およびY3)および(L1CおよびL2C)を、それぞれ、水性媒体中で自己組織化させ、DNAアセンブリ(これは、足場ユニット1mmol/Lおよび架橋ユニット1.5mmol/Lである)になり、次いで、DNAアセンブリを混合して、所望のDNAハイドロゲルサンプル(すなわち、核酸ハイドロゲル)を形成した。
【0042】
【0043】
細胞培養培地は最小必須培地(MEM)α(Gibco, Thermo Fisher, USA)を用いた。
【0044】
Live/Dead細胞染色キットはCalcein-AM/PI(Solarbio, Solarbio, Beijing)を用いた。
【0045】
レオロジー特性はKomexusレオメーター(Malvern社製)を用いて測定し;細胞画像はLSM 710Metaレーザー走査型共焦点顕微鏡(Carl Zeiss AG、ドイツ)を用いて取得した。
【0046】
実施例1:間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルの調製
上記表1のY-足場ユニット1 mmol/Lを、一定量の幹細胞(実験室で抽出したウサギの骨髄間葉系幹細胞に由来)懸濁液に完全に溶解させ、上記表1の架橋ユニット1.5 mmol/Lを等容量の溶液に完全に溶解させ、これらの2つを混合し、ゲルを形成させた(ゲルは、数秒後に形成することができた)。得られた核酸ハイドロゲルの最終細胞濃度は1×107細胞/mlであり、核酸固形分含量は3.8%(質量%)であった。
【0047】
実施例2: 細胞を担持した核酸ハイドロゲルのレオロジー試験
実施例1で調製した間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを薬さじで取り出し、レオメーターの試験板の上に置いた。ハイドロゲル試料に接触するように、レオメーターのコーンプレートをゆっくりと下降するように調整し、最終的にコーンプレートと板の間の距離を150μmに固定した。
【0048】
このセクションでは、合計2種類のレオロジーテストを行った。
【0049】
1つ目は時間掃引(Time scan)試験であり、すなわち、掃引周波数一定で、一定時間内で試料を連続的にせん断処理し、試料のせん断抵抗能力を試験し、さらに、損失弾性率に対する貯蔵弾性率の比を比較することによって、異なる試料の機械的強度を反映させた。この実験で設定したパラメーターは、ひずみ=1%、周波数=1Hz、温度25℃一定である。
【0050】
2つ目はひずみ掃引(strain sweep)試験であり、異なるひずみ下での異なる試料の貯蔵弾性率と損失弾性率の変化傾向を測定することにより、試料がせん断減粘挙動を有するかどうかを反映させた。この実験で設定したパラメータは、ひずみ範囲=0.1~1000%、周波数=1Hz、温度25℃一定である。
【0051】
図1Aと
図1Bは細胞を含まないハイドロゲルの時間モードとひずみモードでのレオロジーテストの結果を示し、
図1Cと
図1Dは細胞を含むハイドロゲルの時間モードとひずみモードでのレオロジーテストの結果を示す。
図1からわかるように、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルは、細胞を支持するための良好な機械的強度を保ちつつ、せん断減粘性を有している。
【0052】
実施例3:細胞を担持した核酸ハイドロゲルの細胞に対するせん断保護
この実施例では、実施例1で調製した核酸ハイドロゲルの、細胞注射過程および模擬した関節せん断環境での抗せん断保護効果について調べた。
【0053】
29Gのインスリンシリンジ(針の直径がわずか330μm)を用いて、実施例1の細胞を担持した核酸ハイドロゲルについて、細胞の注射試験を行い、同時に培地中の細胞を対照とした。細胞生存率を注射後のLive/Dead染色により特徴づけられた。実験結果は
図2と
図3に示される通りである。
図2は、従来の注射法と核酸ハイドロゲルによる細胞注射の過程図と、両注射法の注射前後にCalcein-AM/PI染色により細胞を標識することによって決定された生存率を示す。
図2において、A行は注射法、B行は生細胞の分布(生細胞は緑色の明るいスポット(原画像)または白色のスポット(白黒画像))を示し、C行は死細胞の分布(死細胞は赤色の明るいスポット(原画像)または薄い灰色のスポット(白黒画像))を示し、D行は生細胞/死細胞の分布を示す。便宜上、死細胞だけの分布をC行で示した。
図2のC行からわかるように、従来の注射法で注射する前には、例えば
図2の領域1Cのように、もうすでに多くの死細胞が見られたのに対し、核酸ハイドロゲルで保護した注射をする前には、例えば
図2の領域3Cのように、死細胞は見られなかった。注射した後、従来の注射法では、例えば
図2の領域2Cのように大量の細胞死をもたらしたのに対し、核酸ハイドロゲルで保護して注射した後、例えば
図2の領域4Cのようにほとんど細胞死は見られなかった。このことから、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲル自身が細胞に保護を与える(すなわち、注射前の保護)ことができることを示しており、さらに、注射後の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルの、細胞に対する保護効果が特に著しいことが明らかとなった。
【0054】
関節内のせん断環境を模擬するために、実施例1の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを互いに330μmの距離を有する2枚のカバースリップの間に配置し、2枚のカバースリップを双方向にスライドさせることにより関節内のせん断環境を模擬した。双方向スライドを2分間行った後、細胞の生存率をLive/Dead染色により特徴づけられた。実験結果は
図4と
図5に示される通りである。
図4は、関節せん断環境を模擬する過程図と、水性媒体培地中及びハイドロゲル中で細胞を摩擦させた前後で、Calcein-AM/PI染色により細胞を標識して測定した生存率を示す。水溶液中での摩擦は、例えば、
図4の領域2Aのように、大量な細胞死をもたらした(死細胞は、赤色の明るいスポット(原画像)または薄い灰色のスポット(白黒画像))のに対し、核酸ハイドロゲルでは死細胞はほとんど観察されなかった。
【0055】
この2つの実験結果から、細胞懸濁液を直接注射する場合と比較して、核酸ハイドロゲルは注射過程および模擬した関節せん断環境で細胞に抗せん断保護を与え、死細胞の発生がほとんど観察されず、せん断環境下での細胞の生存率が大幅に向上することが明らかとなった。具体的には、核酸ハイドロゲルは、細胞注射過程において、細胞に抗せん断保護を与え、従来の注射法に比べて細胞の生存率が85%から99%以上に向上し、核酸ハイドロゲルは、模擬した関節せん断環境中で細胞に抗せん断保護を与え、細胞の生存率は培養液中のものと比較して75%から99%以上に向上した。
【0056】
実施例4:間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルの膝関節内注射によるウサギの膝骨関節炎の治療
骨格が成熟した雄ニュージーランドウサギ(年齢:6ヵ月齢、体重:3.5±0.5Kg、n=60)を北京大学動物実験センターから購入した。前十字靭帯切断および内側半月板切除により、ウサギに骨関節炎を誘発した。すべての動物実験手順は、北京大学動物ケアと使用委員会の承認を得ており、実験動物のケアと使用に関するガイドライン(National Academy of Sciences Press、National Institutes of Health Press, No.85-23、1996年改訂)に従ったものである。具体的な手順は以下の通りである。麻酔と通常の無菌的準備の後、膝蓋骨内側切開から関節腔に入り、前十字靭帯を切断し、内側半月板を完全に切除した。膝関節の安定性の低下は前方引き出しテストによって確認した。手術後、すべての動物を対応するウサギケージに戻し、自由に動けるようにし、必要な感染予防と疼痛緩和治療を行い、膝関節の機能回復を行った。
【0057】
すべての動物を無作為に以下を含む5つの群に分け、それぞれ左膝に、手術と注射による治療を行った:1. Sham群:単に皮膚を切開し、縫合した;2. Blank群:単に膝骨関節炎モデル手術をウサギに行った;3. PDS群:ウサギの膝骨関節炎に核酸ハイドロゲルのみを注射した;4. MSCs群:ウサギの膝骨関節炎に間葉系幹細胞のみを注射した;5. Hybrid群:ウサギの膝骨関節炎に間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを注射した。注射はすべて、ウサギの膝骨関節炎モデル手術後8週目に、週1回、計3回行った。PDS群には毎回、膝あたり200μlの核酸ハイドロゲルを注射し、MSCs群には毎回、膝あたり200μlの細胞の基礎培地懸濁液を注射し(細胞濃度1×107細胞/ml)、Hybrid群には毎回、膝あたり200μlの実施例1の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲル(細胞濃度1×107細胞/ml)を注射した。注射治療終了後12週目と24週目に、各群のウサギを安楽死させ、さらなる研究のために膝関節サンプルを採取した。
【0058】
一般的な観察結果からわかるように、Blank群とPDS群では、時間の経過とともに悪化する軟骨びらんおよび軟骨欠損が認められのに対し、MSCs治療群とHybrid治療群での軟骨損傷は有意に改善され、ここでHybrid群の一般的な観察結果は、より正常な軟骨(Sham群)に近いものであった。サンプル組織はさらに、H&E、サフラニンO-ファストグリーン、トルイジンブルー染色、及びII型コラーゲン免疫組織化学に供された。MSCs治療群と比較して、間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲル治療群(Hybrid群)の軟骨形態及びII型コラーゲン発現は、特に24週目において、より正常軟骨組織のそれに近いものであった。同様に、軟骨表面の微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、従来の間葉系幹細胞を担持した水性溶液治療群(MSCs群)の軟骨表面は、ひび割れはなかったが、依然として多数の丘が認められた。一方、Hybrid群の軟骨表面は滑らかで、小さな凹凸があるだけであった。結果は
図6と
図7に示される通りである。
【0059】
実施例5:間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルに対する核酸固形分の影響
実施例1と同様に、核酸固形分0.95%、1.9%、4.2%の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルを調製し、これら3種類の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルについて、実施例3と同様に、細胞注射過程における細胞に対する抗せん断保護効果を試験した。注射24時間後、核酸固形分3.8%のものと同様に、核酸固形分0.95%、1.9%、4.2%の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルでは、死細胞は認められなかった。しかし、同様に調製した場合、核酸固形分3.8%の間葉系幹細胞を担持した核酸ハイドロゲルの方が、より均一な細胞分布、より好適な核酸強度及び好ましい注射性が得られた。結果は
図8に示される通りである。
【0060】
以上、本発明の実施例を示して説明したが、上記の実施例は、例示的なものであり、本発明を限定するものとは解釈されないことを理解し、当業者は、本発明の範囲内において、上記実施形態を変更、修正、置換、および変形することができる。
【国際調査報告】