(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-07
(54)【発明の名称】COVID‐19の発症を予防、治療、又は減弱するのに有用な、SARS‐CoV‐2タンパク質を発現する1つ又は複数の改変BCG株を含有する免疫原性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20240229BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240229BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240229BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20240229BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240229BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240229BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
A61K35/74 A ZNA
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/215
A61K39/00 G
A61K39/00 E
A61K47/02
C12N15/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563134
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 CL2021050123
(87)【国際公開番号】W WO2022133622
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CL
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515075496
【氏名又は名称】ポンティフィシア・ウニベルシダ・カトリカ・デ・チリ
(71)【出願人】
【識別番号】523239619
【氏名又は名称】ファンダシオン コペック ウニベルシダ カトリカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カレルギス パッラ、アレクシス
(72)【発明者】
【氏名】ブエノ レミレス、スーザン
(72)【発明者】
【氏名】グンザレス ムニョス、パブロ
(72)【発明者】
【氏名】レタマル ディアス、アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ソト ラミレス、ホルヘ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB16
4C076BB31
4C076CC06
4C076CC35
4C076DD23Q
4C076FF04
4C076FF36
4C076FF61
4C076FF63
4C076GG06
4C085AA03
4C085BA71
4C085BB11
4C085CC07
4C085CC08
4C085DD01
4C085DD13
4C085DD62
4C085DD84
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG04
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC29
4C087MA16
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、Bacillus Calmette‐Guerin(BCG)の1つ又は複数の改変組換え株を、104~109菌の間の濃度で含有する免疫原性製剤に関し、各BCG株は、薬学的に許容される生理食塩水緩衝液中で、SARS‐CoV‐2の少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性フラグメントを発現し、この製剤は、SARS‐CoV‐2感染を予防、治療又は減弱させるのに有用なワクチンを調製するのに役立つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COVID‐19に対する保護を与える免疫原性製剤であって、SARS‐CoV‐2ウイルスの少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性フラグメントを発現する、1用量当たり10
4~10
9CFUの量の、マイコバクテリウム・ボビス バチルス・カルメット・ゲラン(Mycobacterium bovis Bacillus Calmette‐Guerin)(BCG)の少なくとも1つの弱毒化組換え株を、薬学的に許容される生理食塩水緩衝液中に含むことを特徴とする、上記免疫原性製剤。
【請求項2】
BCGによって発現されるSARS‐CoV‐2ウイルスのタンパク質又は免疫原性フラグメントが、SARS‐CoV‐2のN、E、M又はSタンパク質又はその免疫原性フラグメントに対応することを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性製剤。
【請求項3】
SARS‐CoV‐2のタンパク質又は免疫原性フラグメントが、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に定義されるヌクレオチド配列の遺伝子産物と少なくとも75%同一なアミノ酸配列に対応することを特徴とする、請求項2に記載の免疫原性製剤。
【請求項4】
SARS‐CoV‐2のタンパク質又は免疫原性フラグメントが、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に定義されるヌクレオチド配列の遺伝子産物と少なくとも95%同一であることを特徴とする、請求項3に記載の免疫原性製剤。
【請求項5】
SARS‐CoV‐2のN、E、M若しくはSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントをコードする遺伝子が、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)BCGのゲノム中又は染色体外プラスミド中に、1つ以上のコピーで挿入されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の免疫原性製剤。
【請求項6】
SARS‐CoV‐2のN、E、M若しくはSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントをコードする遺伝子が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4と少なくとも75%同一のヌクレオチド配列に対応することを特徴とする、請求項5に記載の免疫原性製剤。
【請求項7】
SARS‐CoV‐2のN、E、M若しくはSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントをコードする遺伝子が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%同一なヌクレオチド配列に対応することを特徴とする、請求項6に記載の免疫原性製剤。
【請求項8】
遺伝子の発現が、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)BCGの内因性又は外因性プロモーターによって、構成的又は誘導的に指令されることを特徴とする、請求項7に記載の免疫原性製剤。
【請求項9】
SARS‐CoV‐2のN、E、M若しくはSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントが、BCGによって、可溶性‐細胞質様式で、細胞外に分泌されて、又は細胞膜に結合したタンパク質として発現され得ることを特徴とする、請求項8に記載の免疫原性製剤。
【請求項10】
使用前の保存のために、凍結、凍結乾燥又は緩衝生理食塩水及び賦形剤によって安定化されることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性製剤。
【請求項11】
使用前の保存のために、凍結、凍結乾燥又は生理食塩水緩衝液及び賦形剤により安定化されることを特徴とする、請求項9に記載の免疫原性製剤。
【請求項12】
弱毒化組換え株がBCGデンマーク株又はBCGパスツール株であることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性製剤。
【請求項13】
組換え株が、rBCG‐E‐SARS‐CoV‐2、rBCG‐M‐SARS‐CoV‐2、rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2及び/又はrBCG‐S‐SARS‐CoV‐2に相当することを特徴とする、請求項3に記載の免疫原性製剤。
【請求項14】
組換え株が、0~100%のrBCG‐E‐SARS‐CoV‐2、0~100%のrBCG‐M‐SARS‐CoV‐2、0~100%のrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2及び/又は0~100%のrBCG‐S‐SARS‐CoV‐2を含む、ただし、これらの株の少なくとも1つが存在することを特徴とする、請求項13に記載の免疫原性製剤。
【請求項15】
SARS‐CoV‐2感染及び/又はCOVID‐19疾患の発症を予防、治療、又は減弱させるワクチンを調製するのに役立つことを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の免疫原性製剤の使用であって、前記製剤が、生理学的に許容される生理食塩水で安定化されたマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)BCGの組換え弱毒化株の1x10
4~1x10
9コロニー形成単位を含有する、上記使用。
【請求項16】
SARS‐CoV‐2の感染及び/又はCOVID‐19の発症を予防、治療又は減弱させるためのワクチンを調製し、生理的に許容される生理食塩水中で皮下に(subcutaneously)、経皮的に(percutaneously)又は皮下に(subdermally)投与するのに役立つことを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
SARS‐CoV‐2感染及び/又はCOVID‐19の発症を予防、治療、又は減弱させるためのワクチンが、最初の適用で投与され、その後に:
SARS‐CoV‐2ウイルスの少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性フラグメントを発現する、1用量当たり10
4~10
9CFUの量の、マイコバクテリウム・ボビス・カルメット・ゲリン(BCG)の弱毒化組換え株の製剤;
又は不活化SARS‐CoV‐2ウイルスの免疫原性製剤;
又は精製SARS‐CoV‐2ウイルスサブユニットの免疫原性製剤;
又はSARS‐CoV‐2のペプチド免疫原性フラグメントを有する免疫原性製剤;
又はSARS‐CoV‐2 DNAワクチンの免疫原性製剤;
又はSARS‐CoV‐2のRNAワクチンの免疫原性製剤
を含有するブースターが投与され得ることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
COVID‐19の原因ウイルスであるSARS‐CoV‐2に対するワクチンの調製に有用な免疫原性製剤が開示され、この製剤は、SARS‐CoV‐2感染の予防、治療、又は減弱に有用な、SARS‐CoV‐2の1つ以上のタンパク質又は免疫原性フラグメントを組換え発現する、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis、ウシ型結核菌)、バチルス・カルメット・ゲラン(Bacillus Calmette‐Guerin、カルメット・ゲラン桿菌)(BCG)の少なくとも1つの弱毒化株を含む。
【背景技術】
【0002】
SARS‐CoV‐2は、2019年12月に中国湖北省武漢市で発見された呼吸器ウイルスである。COVID‐19(コロナウイルス疾患2019)と呼ばれる急性呼吸器症候群を生じ、密接な接触間でのヒト‐ヒト感染の証拠が確認された。配列解析により、この人獣共通感染症SARS‐CoV‐2ウイルスは、コロナウイルスに典型的なゲノム構造を有し、β‐コロナウイルス群に属することが示された。
【0003】
この症候群の主な症状及び臨床徴候は、38℃以上の発熱、呼吸困難、乾いた咳であり、肺炎の引き金となり、さらにひどい場合には死に至ることもある。このウイルスの平均死亡率は2020年の最初の4ヶ月間で約2%と低いものの、その感染力の高さから、世界的に公衆衛生上の大きな問題となっており、世界保健機関(WHO)は2020年3月11日にパンデミック宣言を行った。
【0004】
パンデミックと宣言されたCOVID‐19は、現在までに世界のほとんどの国で流行しているが、その影響はすべての国で同じではない。この違いは、数ある要因の中でも、各国がパンデミックに直面した政策やその政策の時期などによって説明できる部分もあるが、多くの研究者は、SARS‐CoV‐2の罹患率及び死亡率の両方における影響の低さと、小児期のBacillus Calmette‐Guerin(BCG)ワクチン接種政策との関連性を指摘している。普遍的なBCGワクチン接種政策をとっていない国(特に、イタリア、オランダ、米国など)は、普遍的で長年のBCG政策をとっている国に比べ、より深刻な影響を受けていることが報告されている。データによると、BCGワクチンは、その国で報告されているCOVID‐19の症例数を減少させることも示している(Covian,C.,Retamal‐Diaz,A.,Bueno,S.M.and Kalergis,A.M.,2020.Could BCG vaccination induce protective trained immunity for SARS‐CoV‐2.Frontiers in Immunology,11,p.970(BCGワクチン接種によりSARS‐CoV‐2に対する訓練された防御免疫が誘導される可能性。);Miller,Aaron,et al.Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study.medRxiv,2020(COVID‐19の普遍的BCGワクチン接種政策と罹患率及び死亡率の減少との相関:疫学的研究。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
知られているように、COVID‐19を予防するために異なる技術に基づく様々なワクチンが開発されており、そのほとんどは成人への使用が承認されているが、そのうちのいくつかは3~6歳以降の小児患者を対象に緊急承認されている。
【0006】
ワクチン接種によってパンデミックの進行を遅らせることはできたが、現在までのところ、新生児や3歳未満の小児への適用が承認されたワクチンはない。さらに、新種の変異体の出現により、パンデミックは何年も続く可能性があり、私たちは感染の波や発生状況に応じて、年に1回又は複数回のワクチン接種を受けなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このシナリオを踏まえ、本発明者らはCOVID‐19のための新しいワクチンを開発した。このワクチンはベクターとして、100年以上前から実証されているMycobacterium bovis、Bacillus Calmette‐Guerin(BCG)の弱毒株を使用し、新生児に安全に使用でき、アジュバントとして作用し、長期的な免疫をもたらす反応を誘導することが知られており、SARS‐CoV‐2のタンパク質又は免疫原性フラグメントを発現するように変換することで、このウイルスに対する免疫を生成し、COVID‐19の発症を制御し、出生時から集団を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-A】PCR法によるE‐SARS‐CoV‐2及びM‐SARS‐CoV‐2遺伝子の組換えBCGクローンの同定(特異的スプリッターを使用)。組換えBCG株のゲノム中の目的の遺伝子の同定は、目的の遺伝子それぞれに特異的なプライマーを用いて行った。その後、アンプリコンを1%アガロースゲルで分析し、予想されるサイズのアンプリコンを同定した(E‐SARS‐CoV‐2については228bp、M‐SARS‐CoV‐2については669bp)。「-CO
2」は、菌がCO
2の非存在下で5%増殖したことを意味する。「+CO
2」は、菌がCO
2の存在下で5%増殖したことを意味する。「SC‐2」はSARS‐CoV‐2の略である。「ベータ」は、以前の試験で分離され、40日間増殖し続けた菌株に相当し、M‐SARS‐CoV‐2については陰性であったことを意味する。
【
図1-B】特異的スプリッターを用いたPCRによる組換えBCG株のN‐SARS‐CoV‐2及びS‐SARS‐CoV‐2遺伝子の同定。組換えBCG株のゲノムからのN及びS遺伝子の同定は、目的の各遺伝子に対する特異的プライマーを用いて行った。その後、アンプリコンを1%アガロースゲルで分析し、予想されるサイズのアンプリコンを同定した(N‐SARS‐CoV‐2では1260bp、S‐SARS‐CoV‐2では3644bp)。「CO
2」は、菌がCO
2の存在下で5%増殖したことを意味する。「SC‐2」はSARS‐CoV‐2の略である。
【
図2】SARS‐CoV‐2遺伝子を持つ組み換えBCGからのタンパク質の抽出。各菌株のプロテオームと目的のウイルスタンパク質を比較すると、いずれの場合もクローン化されたタンパク質と同様の大きさのバンドが存在することが観察される。
【
図3-A】組換えBCGにおけるN‐SARS‐CoV‐2遺伝子の発現。N遺伝子の転写産物のコピー数の評価は、rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2で飽和培養して得られた100ngの全RNAから行った。
【
図3-B】組換えBCGからのE‐SARS‐CoV2遺伝子の発現。E遺伝子の転写産物のコピー数の評価は、rBCG‐E‐SARS‐CoV‐2で飽和培養して得られた100ngの全RNAから行った。
【
図3-C】組換えBCGからのM‐SARS‐CoV‐2遺伝子の発現。M遺伝子の転写産物のコピー数の評価は、rBCG‐M‐SARS‐CoV‐2で飽和培養して得られた100ngの全RNAから行った。
【
図3-D】組換えBCGからのS1/2‐SARS‐CoV‐2遺伝子の発現。S1/2遺伝子の転写産物のコピー数の評価は、rBCG‐S1/2‐SARS‐CoV‐2で飽和した培養から得られた100ngの全RNAから行った。 グラフ中の数字は、コンベンショナルPCRで陽性と確認された株からの異なるRNAサンプルを示す。(1)培養継代2におけるrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株のクローン1からのRNAサンプル。(2)培養継代1におけるrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株のクローン2からのRNAサンプル。(3)培養継代1におけるrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株のクローン1からのRNAサンプル。「Neg」は陰性対照で、RNAを含まない反応に相当する。コピー数は、プラスミドpUC57‐N‐SARS‐CoV‐2であらかじめ標準化した標準曲線で各サンプルについて得られたCTを外挿することにより算出した。記号(#)は培養継代に対応する。
【
図4】組換えBCGワクチン接種による抗SARS‐CoV‐2免疫応答の誘導を評価するための免疫化スケジュール。0日目と14日目は、1x10
8CFU(Colony Forming Unit、コロニー形成単位)の用量を動物に接種した日である。日数の下にあるチューブは、血清を得るために血液サンプルを採取した実験内の時点に対応する。21日目は実験の終点である。
【
図5】組換えBCGワクチン接種による抗SARS‐CoV‐2免疫応答の誘導を評価するための免疫化スケジュール。0日目は1x10
5CFUの用量を動物に接種した日である。日数の下にあるチューブは、血清を得るために血液サンプルを採取した実験内の時点に対応する。21日目は実験の終点に相当する。
【
図6】rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2でのワクチン接種によるサイトカインの測定。免疫化スケジュールNo2に従った動物の脾臓及びリンパ節から得られた樹状細胞と全Tリンパ球からなる共培養で分泌されるサイトカインを評価した。サイトカインIFN‐γは、共培養上清を1/10に希釈してELISAにより評価した。比色反応はELISAリーダーで波長450nmで評価した。Con Aは免疫応答を増強する刺激であり、陽性対照に相当する。
【
図7】異なる処理を負荷した樹状細胞との共培養72時間後のCD4
+及びCD8
+Tリンパ球の表面の活性化マーカーの評価。rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2によるワクチン接種が細胞性免疫応答を誘導するかどうかを評価するために、実験終了後、動物の脾臓から全Tリンパ球を精製した。次に、これらを72時間、異なるペプチドと処理を負荷した樹状細胞と共培養した。この時間の後、活性化マーカーCD69
+、CD71
+、CD25
+をフローサイトメトリーでCD4
+とCD8
+Tリンパ球の表面で評価した。上のパネルは、CD25
+、CD69
+、CD71
+マーカーのCD4
+Tリンパ球に対応する。下のパネルは、CD25
+、CD69
+、CD71
+マーカーに対するCD8
+T細胞に対応する。
*印のバーはSARS‐CoV‐2 Nタンパク質に対する反応に対応し、+印のバーは実験の活性化の陽性対照である対照Con Aに対応する。
【
図8】rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2でのワクチン接種により誘導されたSARS‐CoV‐2抗N抗体の測定。1x10
8CFUを2回用量で免疫化した動物から得られた血清から分泌された抗体を評価した。ウイルスのNタンパク質に対する特異的抗体は,1/600に希釈した血清を用いたELISAで評価した.比色反応はELISAリーダーで波長450nmで評価した。
【
図9】本発明の組換えBCG株のプール(混合物)によるワクチン接種による抗SARS‐CoV‐2免疫応答の誘導を評価するための免疫化スケジュール。0日目は、4x10
5CFUの用量を動物にワクチン接種した日に相当する。14日目は、精製タンパク質及び水酸化アルミニウム(Alum)又はそれらの対照をそれぞれ投与したブースターに対応する。日数の下の記号は、血清採取のために血液を採取した実験中の時点に対応する。24日目は実験の終点である。
【
図10】ワクチン接種動物の体重曲線の決定。rBGC‐N‐SARS‐CoV‐2、rBGC‐E‐SARS‐CoV‐2、rBGC‐M‐SARS‐CoV‐2、rBGC‐S‐SARS‐CoV‐2の組換え株のプール(混合物)から4x10
5CFUの用量を投与し、免疫化した動物の体重増加又は減少を24日間モニターし、ワクチンが動物にとって安全かどうかを決定した。
【
図11】組換えBCG株のプール(混合物)を4x10
5CFUの用量でワクチン接種することにより誘導されるSARS‐CoV‐2抗N抗体の測定。ウイルスのNタンパク質に対する特異的抗体を、表1に示したすべての条件について、1/5に希釈した血清を用いたELISAで評価した。比色反応はELISAリーダーで波長450nmで評価した。
【
図12】組換えBCG株のプール(混合物)を4x10
5CFUの用量でワクチン接種することにより誘導されるSARS‐CoV‐2抗S抗体の測定。ウイルスのSタンパク質に対する特異的抗体価は、表1に示したすべての条件について、1/10から1/2560に希釈した血清を用いたELISAで評価した。比色反応はELISAリーダーで450nmの波長で評価した。
【
図13】SARS‐CoV‐2のタンパク質N、M、S、又はN、M及びSの混合物の異なる刺激で処理した樹状細胞との共培養72時間後のCD8
+Tリンパ球表面の活性化マーカーの評価。実験終了後、表2のスキームに従い、脾臓から全Tリンパ球を精製した。次に、これらを各種ペプチドを負荷した樹状細胞と72時間共培養した。この時間後、活性化マーカーCD69
+、CD71
+、CD25
+をフローサイトメトリーでCD8
+Tリンパ球の表面で評価した。
【
図14】異なる刺激、N若しくはSタンパク質、又は精製タンパク質誘導体(PPD)で処理した樹状細胞との共培養72時間後のCD8
+Tリンパ球表面の活性化マーカーの評価。実験終了後、表3のスキームに従い、脾臓から全Tリンパ球を精製した。これらを、異なる刺激を負荷した樹状細胞と72時間共培養した。この時間後、活性化マーカーCD69
+、CD71
+及びCD25
+をフローサイトメトリーでCD8
+Tリンパ球の表面で評価した。
【
図15】1x10
5CFUの用量でrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株のワクチン接種と組換えNタンパク質+Alumによるブースター、及び不活化ウイルスワクチンによって誘導されたSARS‐CoV‐2抗N抗体の測定。ウイルスのNタンパク質に対する特異的抗体は、原液血清を用いELISA法で評価した。比色反応はELISAリーダーで波長450nmで評価した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、Mycobacterium bovis、好ましくはSARS‐CoV‐2の異種ウイルス抗原の組換え発現を含むBacillus Calmette‐Guerin株(BCG)に基づく少なくとも1つの生きた弱毒化株を含む免疫原性製剤に対応する。
【0010】
SARS‐CoV‐2を含むコロナウイルス(CoV)は、26,000から37,000塩基の一本鎖ポジティブセンスRNAを含む。これはRNAウイルスの中で最大の既知のゲノムである。CoVのゲノム構造は以下の通りである:尾部5’‐リーダー‐UTR‐レプリカーゼ‐S(スパイク)‐E(エンベロープ)‐M(膜)‐N(ヌクレオキャプシド)‐3’UTRpoly(A)。Mタンパク質とEタンパク質はウイルスの組み立てに重要な役割を果たし、Nタンパク質はRNA合成に必要である。Sタンパク質(スパイク)は、受容体との結合とそれに続く宿主細胞へのウイルス侵入を担う。スパイクは高度にグリコシル化された三量体クラスI融合タンパク質で、S1とS2の2つのサブユニットを含む。本書では、S又はS1/S2と互換的に呼ぶ。
【0011】
より詳細には、本発明は、SARS‐CoV‐2ウイルスのN、E、M及び/又はSの(rBCG)抗原を組換え的に発現するBacillus Calmette‐Guerin(BCG)の少なくとも1つの株を含む製剤に対応することを示すことができる。このBCGワクチン株は、それが使われてきた年月にわたって驚くほど遺伝的に安定している。
【0012】
SARS‐CoV‐2の目的の遺伝子は、標準的な遺伝子工学的手法によって、マイコバクテリウム中で組換え及び発現するpMV361ベクターにクローニングされ、得られたベクターでBCG株がエレクトロポレーションによって形質転換された。形質転換後、ウイルス抗原の発現レベルをウェスタンブロットによりタンパク質レベルで、RT‐qPCRによりメッセンジャーRNAレベルで評価した。さらに、形質転換株のゲノムDNAを精製し、BCGゲノムにおける目的の遺伝子の組み込みを決定した。
【0013】
当業者にとっては、本発明者らによって選択されたものとは異なるベクター及び異なる変換技術が、このような変更が観察された結果の悪化を意味することなく、使用され得ることは明らかであり、このような変更は本発明の範囲内であると考えられる。
【0014】
具体的には、本発明は、COVID‐19に対する保護を与える免疫原性製剤であって、SARS‐CoV‐2ウイルスの少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性フラグメントを発現する、1用量当たり104~109コロニー形成単位(CFU)の間の量の、少なくとも1つの弱毒化されたマイコバクテリウム・ボビス バチルス・カルメット・ゲラン(BCG)組換え株を、薬学的に許容される生理食塩水緩衝液中に含む、免疫原性製剤を目的とする。好ましくは、SARS‐CoV‐2のタンパク質又は免疫原性フラグメントは、SARS‐CoV‐2のN、E、M又はSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントに相当し、ここで、タンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物のアミノ酸配列と少なくとも75%同一のアミノ酸配列を有する。そして好ましくは、タンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する。
【0015】
配列番号1は、酵素BstBI及びClaIの制限部位を用いて、Nタンパク質をコードする遺伝子に対応する。配列番号2は、酵素BstBI及びClaIの制限部位を用いて、タンパク質Eをコードする遺伝子に対応する。配列番号3は、酵素BstBI及びClaIの制限部位を用いて、Mタンパク質をコードする遺伝子に対応する。配列番号4は、酵素MfeI及びAflIIの制限部位を用いて、Sタンパク質をコードする遺伝子に対応する。
【0016】
本発明の免疫原性製剤において、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M若しくはS又はその免疫原性フラグメントをコードする遺伝子は、マイコバクテリウムBCGのゲノム中又は染色体外プラスミド中に、1又は複数のコピーで挿入され、マイコバクテリウムBCGの内因性又は外因性プロモーターによって、構成的又は誘導的に制御又は指令される。ここで、SARS‐CoV‐2タンパク質N、E、M若しくはS又はそれらの免疫原性フラグメントをコードする遺伝子は、すべての中間的な選択肢を考慮すると、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4と少なくとも75%同一であり、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列に対応する。その結果、SARS‐CoV‐2のN、E、M若しくはSタンパク質又はそれらの免疫原性フラグメントは、BCGによって可溶性‐細胞質様式で、細胞外に分泌されて、又は細胞膜結合タンパク質として発現され得る。使用されるBCG株は、好ましくはBCGデンマーク株(BCG Danish)又はBCGパスツール株(BCG Pasteur)から選択される。
【0017】
本発明の実施態様において、SARS‐CoV‐2ウイルスのタンパク質又は免疫原性フラグメントは、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物として定義されるSARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M又はSのタンパク質配列に関して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列に対応し、ここで、その差異は置換、欠失、付加又は挿入を含む。同様に、当業者にとっては、このタンパク質の発現を得るために、細菌は、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有するベクターで形質転換されなければならないことが明らかであろう。ここで、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に従って定義されるヌクレオチド配列、及び遺伝暗号の変性から生じるそれらの等価物に関して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を含有するヌクレオチド配列を含む。
【0018】
当業者にとって、SARS‐CoV‐2ウイルスの変異体の場合、これらの変異体のウイルスタンパク質のペプチド配列に従って、特異的なワクチンを処方することができることは明らかであろう。ここで、SARS‐CoV‐2変異体の前記ウイルスタンパク質が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物として定義されるSARS‐CoV‐2のN、E、M又はSタンパク質の配列と少なくとも75%の同一性を有する場合、それらのワクチンは本発明の範囲内にあると考えられる。
【0019】
本発明の実施態様において、本発明の免疫原性製剤は、使用前の保存のために、凍結、凍結乾燥又は生理食塩水緩衝液及び注射用製剤のための賦形剤によって安定化される。適切な賦形剤の中には:グルタミン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム七水和物、リン酸水素カリウム、クエン酸一水和物、L‐アスパラギン一水和物、クエン酸鉄アンモニウム、グリセロール、及び注射用水、及び本発明を実施する時点で、当技術分野で利用可能な他の任意のものがある。
【0020】
本発明の別の実施態様では、SARS‐CoV‐2による感染を予防、治療又は減弱させるワクチンを調製するために記載された免疫原性製剤の使用を保護し、ここで、前記製剤は、生理食塩水で安定化されたMycobacterium bovis BCGの組換え弱毒化株、の1x104~1x109CFUを含有する。このワクチンは、生理学的に許容される生理食塩水中で皮下に(subcutaneously)、経皮的に(percutaneously)又は皮下に(subdermally)投与することができる。
【0021】
周知のように、多くの場合、COVID‐19ワクチンは最初の接種後にブースターを必要とする。本発明の場合、初回接種から1~6ヶ月以内に、弱毒ウイルスワクチン、又は精製ウイルスサブユニット、又はペプチド免疫原性フラグメント、又はDNAワクチン、又はRNAワクチンですら前記ブースターを行うことが提案される。
【0022】
本発明のワクチンによるブースターは、BCGワクチンの初回接種から数年後に行うことができ、例えば、乳児の出生時に行うことができる。
【0023】
本発明で保護される製剤を作製するために、BCGのデンマーク(Danish)株又はパスツール(Pasteur)株を使用し、それをゲノムレベルで形質転換し、SARS‐CoV‐2のN、E、M又はSタンパク質をその複製サイクル中に構成的に発現させる。このタンパク質の合成は、細菌の複製能力に変化や障害をもたらさないので、ベクター株に対して毒性作用を及ぼすことはない。
【0024】
本発明の特筆すべき2つの特徴は、前臨床マウスモデルで評価した安全性プロファイルと免疫原性にある。免疫化したマウスの成長曲線と臨床症状から、このワクチンの投与は重大な副作用を起こさず、形質転換していないBCG又はWT(英語の頭文字をとって野生型)と同様の効果を有することが示された。このワクチンの免疫原性に関しては、SARS‐CoV‐2の精製抗原N、E、M又はSに対するCD4+及びCD8+特異的T細胞の増殖及び活性化が観察されており、免疫応答を生じさせ、免疫学的記憶を生成するのに不可欠な刺激である。
【0025】
本発明のワクチンについて観察された安全性及び免疫原性プロファイルは、それを安全な免疫化ツールとする。
【0026】
現在、乳幼児に特化したSARS‐CoV‐2感染の予防又は治療法として承認され、出生時から適用できる有効なワクチン又は治療法はない。本発明によるタンパク質N、E、M及び/又はS SARS‐CoV‐2を発現する組換えBCGワクチンは、新生児を含む全ての年齢の個体に使用することができる。本発明はCOVID‐19を予防するために開発されたワクチンである。BCGは、新生児、小児及び成人において安全であることが示されているので、ワクチン開発のための良い手段である。BCGは低コストで容易に大量生産でき、温度変化にも安定である。さらに、BCGはアジュバントとして働き、ウイルスの排除に必要なTh1応答(Tヘルパーリンパ球)を誘導する。他の製剤と異なり、ウイルスタンパク質が発現しているBCGベクターは、ヒトで約100年間広く使用されている。
【0027】
一実施形態では、ワクチンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物のペプチド配列に関して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を有する、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M及び/又はSを発現するrBCG株の1x104~1x109CFUを含む。
【0028】
第2の実施形態において、ワクチンは、本発明による2つの株rBCGの組合せの1x104~1x109CFUを含み、各株rBCGは、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物のペプチド配列に関して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を有する、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M又はSを発現する。ここで、組み合わせは、すべての可能な選択肢の中から選択される、すなわち、可能な対:NとE;NとM;NとS;EとM;EとS;MとSのいずれかを有する形質転換株である。
【0029】
第3の実施形態において、ワクチンは、本発明による3つのrBCG株の組合せの1x104~1x109CFUを含み、各rBCG株は、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子産物のペプチド配列に関して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を有する、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M又はSを発現する。ここで、組み合わせは、全ての可能な選択肢の中から選択される、すなわち、可能なトリオ:N、E及びM;N、E及びS;M、E及びS;N、M及びSのいずれかを有する形質転換株である。
【0030】
第4の実施形態では、ワクチンは、本発明による4つのrBCG株の組み合わせの1x104~1x109CFUを含み、各rBCG株は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4の遺伝子の産物のペプチド配列に関して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の同一性を有する、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M又はSを発現する。すなわち、N、E、M及びSを有する形質転換株の組み合わせである。
【0031】
本発明のワクチンは、SARS‐CoV‐2の1つ以上のタンパク質又は免疫原性フラグメント、特にNタンパク質又はその免疫原性フラグメントを組換え又は異種様式で発現する、Mycobacterium bovis、好ましくはBacillus Calmette‐Guerin(BCG)、例えばBCG Danish又はPasteur株の生きた弱毒化組換え株を含有する。本発明のワクチンは、記載された株の1用量あたり1x104~1x109CFU(コロニー形成単位)を含み、投与前に凍結乾燥又は生理食塩水及び低温安定化賦形剤中で保存することができる。
【0032】
本発明の免疫原性製剤又はワクチンのための適切な安定化溶液の例は以下の通りである。
‐希釈Sauton SSI溶液(125μgのMgSO4、125μgのK2HPO4、1mgのL‐アスパラギン、12.5μgのクエン酸第二鉄アンモニウム、18.4mgの85%グリセロール、0.5mgのクエン酸、1mlのH2O中)、4℃;
‐PBS(137mMのNaCl;2,7mMのKCl;4,3mMのNa2HPO4;1,47mMのKH2PO4、pH7,4)、-80℃でTween 80 0,02%及びグリセロール20%を添加;又は
‐体積溶液:乳糖25%、Proskauer and Beck培地にグルコースとTween 80を添加したもの(PBGT:0.5gのアスパラギン、5.0gのリン酸一カリウム、1.5gのクエン酸マグネシウム、0.5gの硫酸カリウム、0.5mlのTween 80、及び10.0gのグルコース、蒸留水1リットルあたり)、凍結乾燥し、4℃~25℃の温度範囲で保存。
【0033】
本発明の組換え株を得るために、SARS‐CoV‐2のN、E、M又はSタンパク質又はその免疫原性フラグメントをコードする遺伝子をプラスミドに挿入し、これを任意の利用可能な技術によって細菌に組み込む。一実施形態では、プラスミドpMV361が使用され、エレクトロポレーションによって細菌に組み込まれ、マイコバクテリオファージのインテグラーゼの作用によって細菌ゲノムに組み込まれる。これらの遺伝子は染色体外プラスミド、例えばpMV261に挿入することもでき、これはエレクトロトランスフォーメーションによりマイコバクテリウムに組み込まれ、菌体内で染色体外に維持される。これらの遺伝子は1コピーでも複数コピーでもよく、その発現はBCGの内因性プロモーター、例えばそれぞれhsp60遺伝子のプロモーターとacr遺伝子のプロモーターなどの構成性又は誘導性プロモーターによって指令される。これらのタンパク質、あるいはSARS‐CoV‐2の免疫原性フラグメントは、BCG又は他の弱毒化されたマイコバクテリウム株によって、可溶性‐細胞質性、細胞外分泌性、あるいは膜結合性タンパク質として発現させることができる。
【0034】
本発明の製剤は、SARS‐CoV‐2の感染及び/又はCOVID‐19疾患の発症を予防、治療、又は減弱させるためのワクチンを調製するために使用することができ、ここで、前記製剤は、生理学的に許容される生理食塩水で安定化されたMycobacterium bovis BCGの組換え弱毒化株の1x104~1x109コロニー形成単位を含有する。前記ワクチンは、生理学的に許容される生理食塩水中で皮下に(subcutaneously)、経皮的に(percutaneously)又は皮下に(subdermally)投与することができる。
【0035】
現在市販されているワクチンで知られているように、SARS‐CoV‐2ワクチンは初回接種の1ヵ月後に2回目の接種を必要とすることが多く、インフルエンザなど他の持続性又は季節性の病気と同様に、半年に1回又は年1回の接種によるブースター投与が毎年冬に必要となる可能性が高い。
【0036】
本発明のワクチンの場合、現在のBCGによるブースターが5歳時に実施されていることを考慮すべきであり、COVID‐19に加えて結核も予防し続けるというワクチンの二価性を考慮すると、新生児や幼児に対するワクチン接種スケジュールでは、本発明のワクチンの接種から1~6ヶ月の間に、COVID‐19の最初のブースターを市販されている他のワクチンで行うことが可能であり、最も都合がよい。
【0037】
しかし、毎年のブースター、あるいは時間的にもっと間隔をあけたブースターには、もちろん本発明の製剤をブースターとして適用するのが便利であろう。
【0038】
最初の適用から1ヶ月目から6ヶ月目の間に最初のブースターとして適用され得るワクチンの中には、不活化SARS‐CoV‐2ウイルス、又は精製SARS‐CoV‐2ウイルスサブユニット、又はSARS‐CoV‐2のペプチド免疫原性フラグメント、又はSARS‐CoV‐2 DNAワクチン、又はSARS‐CoV‐2のRNAワクチンに基づくワクチンがある。
【実施例】
【0039】
これらの実施例は単なる例示であり、本発明の製造又は適用の範囲を限定することを意図するものではない。以下の説明において特定の用語が使用されているが、それらの使用は説明的なものであり、限定的なものではない。
【0040】
例I:SARS‐CoV‐2のN、E、M又はS遺伝子の組換えデンマークBCG株。
SARS‐CoV‐2タンパク質N、E、S及びMの遺伝子を含有するBCGについて、4つの発現ベクターを構築した。このために、細菌のゲノムに1回だけ組み込まれるプラスミドpMV361を使用した。
【0041】
各遺伝子をプラスミドに挿入するために、N、E、及びM遺伝子については、各遺伝子の5’末端にBstBI(TTCGAA)、3’末端にClaI(ATCGAT)という酵素の組み合わせを用いた。タンパク質Nを発現させるためにプラスミドに挿入される配列は、配列番号1に記載されている。タンパク質Eを発現するためにプラスミドに挿入されるものは、配列番号2に記載されており、タンパク質Mを発現するためにプラスミドに挿入されるものは、配列番号3に記載されている。
【0042】
スパイク、Sの遺伝子を挿入するために、遺伝子の5’末端にMfeI(CAATTG)、3’末端にAflII(CTTAAG)という酵素の組み合わせを用い、これをギブソンアセンブリー法を用いてpMV361ベクターにクローニングした。発現は配列番号4に記載されている:
【0043】
得られたプラスミドはそれぞれpMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、pMV361/M SARS‐CoV‐2、及びpMV361/S SARS‐CoV‐2と呼ばれ、挿入された配列は内因性プロモーターの制御下で発現し、BCG hsp60遺伝子を構成的に発現する。さらに、形質転換された細菌を選択するために、このプラスミドはカナマイシン耐性遺伝子を有する。
【0044】
プラスミドが挿入されたセグメントを含有していることを確認するために、各挿入物をプラスミドから切断し、得られたフラグメントが各場合において予想されたサイズを有することを電気泳動により確認した。これは、E遺伝子について226bpのサイズ、M遺伝子について669bpのサイズ、N遺伝子について1260bpのサイズ、S1/S2遺伝子について4122bpのサイズである。
【0045】
各SARS‐CoV‐2タンパク質のプラスミドが得られたら、エレクトロコンピテントBCGをSARS‐CoV‐2のN、E、M及びSタンパク質を発現する統合発現プラスミドで形質転換した。
【0046】
得られたプラスミドを用いて、BCGエレクトロコンピテントデンマーク株の培養を、各プラスミドpMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、pMV361/M SARS‐CoV‐2、及びpMV361/S SARS‐CoV‐2でエレクトロポレーションによりそれぞれ独立に形質転換した。
【0047】
形質転換により得られた組換えコロニーを、選択抗生物質としてカナマイシン25ug/mLを添加したMiddlebrock 7H9培地中、37℃で21日間独立に増殖させた。
【0048】
培養液をOD600nm=1になるまで増殖させ、プラスミドpMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、又はpMV361/M SARS‐CoV‐2、及びpMV361/S SARS‐CoV‐2で形質転換したBCGを11,000rpmで20分間遠心し(エッペンドルフ社製ローター モデル5702/R A‐4‐38)、PBS溶液(137mM NaCl;2.7mM KCl;4.3mM Na2HPO4;1.47mM KH2PO4、pH 7.4)に懸濁した。
【0049】
例II:SARS‐CoV‐2のN、E、M又はS遺伝子に対する組換えBCG株の同一性の証明。
例Iで得られた各形質転換体の同一性を確認するために、さまざまな試験を行った。まず、カナマイシンを添加した7H10培地を用いたプレートにおいて、各形質転換体について単離コロニーを得た。
【0050】
最初に、微生物が本当にBCGであることを確認するために、培養物中の16S BCGのフラグメントとIS6610挿入配列のフラグメントの存在をPCRで評価した。これらのフラグメントはこの種の細菌にのみ存在し、真菌や培養物を汚染する可能性のある他の種類の微生物には存在しない。BCGゲノムに保存されているこれらの遺伝子をPCRで増幅し、その後3%アガロースゲルで可視化することにより、組換えプラスミドpMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、又はpMV361/M SARS‐CoV‐2及びpMV361/S SARS‐CoV‐2で形質転換した後に得られたコロニーのセットがBCGに相当することを確認することに成功した。
【0051】
次に、形質転換株における目的の各SARS‐CoV‐2タンパク質をコードする遺伝子の存在を評価した。これは、対応する株について、各ウイルス遺伝子N、E、M及び/又はSに特異的なスプリッターを用いたPCRによって行われた。結果は
図1に示されており、レーン「1」に陽性対照「+」に類似したバンドが得られていることが観察される。
【0052】
得られた組換えBCGの画分をタンパク質抽出プロトコールに供し、それぞれにおける組換えN、E、M及び/又はS抗原の存在及び発現を評価した。このために、これらのBCGを溶解緩衝液(Tris 50mM、EDTA 5mM、SDS 0.6%、1X プロテアーゼ阻害剤カクテル)に再懸濁し、氷上で30秒間の超音波照射を6回行い、30秒間の休息パルスを行った。
【0053】
各形質転換株のタンパク質画分を電気泳動で分析し、各菌株のプロテオームと対応するウイルスから単離したタンパク質を比較したゲルの写真を
図2に示す。いずれの場合も、BCGが形質転換されたウイルスタンパク質と予想される分子量のタンパク質が存在することが観察される。
【0054】
SARS‐CoV‐2のE、M、N、又はSタンパク質を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体を用いて、免疫学的検査を行った。その後、比色反応を可能にするHRPで標識した抗マウスヤギ抗体(ヤギ抗マウスIgG‐HRP)を用いた。ウェスタンブロット試験及びドットブロット試験を行った結果、いずれの場合も、形質転換BCG pMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、pMV361/M SARS‐CoV‐2、又はpMV361/S SARS‐CoV‐2のそれぞれについて、対応するウイルスタンパク質が陽性であった。
【0055】
例III:組換えBCG株におけるSARS‐CoV‐2のウイルスタンパク質N、E、M及び/又はSの発現の評価。
BCGの組換え株の特徴を完全にするために、PCRによる遺伝子の同定、ウェスタンブロット及びドットブロットによる挿入されたタンパク質の発現の確認に加えて、本発明のワクチン株におけるSARS‐CoV‐2のウイルスタンパク質により生成された転写産物又はmRNAの定量をqPCR法(定量的)により行った。
【0056】
この方法により、rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2、E‐SARS‐CoV‐2、M‐SARS‐CoV‐2、及びS‐SARS‐CoV‐2の全てのクローンが目的の遺伝子を発現していることを見出すことができた(
図3において見ることができる)。この解析により、ワクチン株が発現している可能性のあるタンパク質の量を推定することが意図される。この情報により、将来の動物免疫化試験のための試験用量を推定することができる。
【0057】
rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2の2クローンにおけるN‐SARS‐CoV‐2遺伝子の転写産物数を評価した結果を
図3Aに示す。最初の継代培養では、クローン2の方が転写産物のコピー数が多かった。しかし、これをクローン1の培養継代2で得られたRNAのサンプルで評価すると、最初の継代で得られたものに対して、転写産物の量に一桁の増加が観察された。
【0058】
E‐SARS‐CoV‐2遺伝子の転写産物数を評価するために同様のアッセイを行い、評価した2つの継代培養について評価した遺伝子のコピー数の存在を観察した(
図3B)。しかし、rBCG‐E‐SARS‐CoV‐2株の2回目の継代培養で得られた転写産物量は、1回目の継代培養で得られた量に対して3桁多かった。
【0059】
M‐SARS‐CoV‐2遺伝子の発現も、他の遺伝子について述べたのと同じ方法で評価した。この試験から、2つの継代培養で評価したM‐SARS‐CoV‐2遺伝子のコピー数の存在は同程度であることが観察された(
図3C)。
【0060】
最後に、BCGの組換え株におけるプロテインS(スパイク)の発現を検出するために、条件を標準化した。このワクチン株の最初の継代培養を評価したところ、発現は認められたが、コピー数はあまり多くなかった(
図3D)。
【0061】
例IV:免疫原性の製剤化
pMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、pMV361/S SARS‐CoV‐2又はpMV361/M SARS‐CoV‐2で形質転換した先の例で得られた組換えコロニーを、Middlebrock 7H9を補充した培養液中で37℃で増殖させた、選択抗生物質としてカナマイシン25ug/mLを添加し、OD600nm=1まで培養した後、11,000rpmで20分間遠心分離し(エッペンドルフ・ローター・モデル5702/R A‐4‐38)、PBS溶液(137mM NaCl;2.7mM KCl;4.3mM Na2HPO4;1.47mM KH2PO4、pH 7.4)に再懸濁した。
【0062】
特定の濃度、例えば100μl当たり105又は108CFUのワクチンの用量を生成するために、用量バイアルから7H9培地を用いたプレートで連続希釈を行い、コロニー計数を行った。抗生物質無添加のLB培地と7H9培地で用量のいくつかを播種することで、汚染物質の存在を除外した。最後に、用量がCFU数に関して正確であることが確認されると、動物にワクチンとして使用するまで-80℃で保存された。
【0063】
組換えBCGの用量は、SARS‐CoV‐2のタンパク質N、E、M及び/又はSについて作製され、ここでBCG株は、Nについては配列番号1、Eについては配列番号2、Mについては配列番号3又はS1/S2については配列番号4に示される配列を含有するプラスミドでBCG株を形質転換し、rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2、rBCG‐E‐SARS‐CoV‐2、rBCG‐M‐SARS‐CoV‐2及びrBCG‐S‐SARS‐CoV‐2と同定した。
【0064】
用量は、形質転換された細菌のうちの1つのみを含有するか、又はそれらのうちの2つの組み合わせ、又はそれらのうちの3つの組み合わせ、又は4つすべてを含有することができ、ここで、2つ以上の形質転換された細菌の各組み合わせにおいて、それぞれが任意の割合で存在することができる。すなわち、用量は、0~100%のrBCG‐E‐SARS‐CoV‐2、0~100%のrBCG‐M‐SARS‐CoV‐2、0~100%のrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2、及び0~100%のrBCG‐S‐SARS‐CoV‐2を含有し得る。
【0065】
このようにして調製された用量は、皮下(subcutaneous)注射又は経皮(percutaneous)注射又は皮下(subdermal)注射によって動物にワクチン接種するために使用することができる。
【0066】
例V.rBCG株による動物の免疫化
例IVで得られた組成物を用いて、2セットの免疫化試験を動物モデル(マウス)で実施した。実験デザインは、SARS‐CoV‐2のE、N、M及び/又はSタンパク質のいずれかを発現する組換えBCG株によるワクチン接種によって誘導される細胞性免疫及び体液性免疫を評価するために開発された。
【0067】
最初の一連の分析は、
図4の図に従って行われ、0日目と14日目に1x10
8CFUの用量を動物に2回ワクチン接種した。血液サンプルは7、14、及び21日目に採取し、21日目に動物を安楽死させて実験を終了した。
【0068】
2回目の一連の分析は、
図5のスキームに従い、0日目に1x10
5CFUの用量で動物に1回のワクチン接種を行った。血液サンプルは7、14、及び21日目に採取し、21日目に動物を安楽死させて実験を終了した。
【0069】
各場合において、CFUの用量は本発明の形質転換BCGに対応し、これは形質転換BCG pMV361/N SARS‐CoV‐2、pMV361/E SARS‐CoV‐2、pMV361/M SARS‐CoV‐2又はpMV361/S SARS‐CoV‐2に対応する。
【0070】
例VI:動物におけるrBCG株ワクチンの効果
先の例で開発した両方の免疫化スキームにおけるrBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株によるワクチン接種の効果を評価するために、異なるペプチドと処理物を負荷した樹状細胞(DC)と、ワクチン接種を受けた動物の二次リンパ器官(脾臓とリンパ節)からの精製Tリンパ球との間の共培養を72時間行った。この時間後、細胞を異なる抗体で染色し、これらのTリンパ球の活性化を評価した。さらに、活性化マーカーCD69+、CD71+及びCD25+を、フローサイトメトリーによりCD4+及びCD8+Tリンパ球の表面で評価した。さらに、共培養の上清からサイトカインをELISAで評価した。
【0071】
2回目の免疫化スキームによる共培養から、異なる処理の上清中のサイトカインを評価した。最初に、サイトカインIL‐2とIFN‐γが評価された。IL‐2はT細胞増殖の増加と相関するように評価され、IFN‐γはワクチンによって促進された免疫応答と相関するように評価された。
【0072】
IFN‐γを評価したところ、rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株をワクチン接種した動物は、免疫応答を抗ウイルスプロファイルに極性化するこのサイトカインの分泌をより促進することが決定された(
図6参照)。
【0073】
rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2株によるワクチン接種が細胞性免疫応答を誘導するかどうかを評価するために、実験終了後、2回目の免疫化スケジュールから全Tリンパ球を脾臓から精製した。次に、これらを72時間、異なるペプチドと処理物を負荷した樹状細胞と共培養した。この時間後、活性化マーカーCD69+、CD71+及びCD25+を、フローサイトメトリーによりCD4+及びCD8+Tリンパ球の表面で評価した。
【0074】
結果を
図7に示す。SARS‐CoV‐2 Nタンパク質(20μg)に反応して、Tリンパ球が特異的に活性化されることがわかる。この結果は、評価したCD4
+及びT CD8
+リンパ球すべてにおいて非常に顕著であり、特異的ウイルス抗原に対する反応は、陽性対照であるコンカナバリンA(ConA)に対する反応と同様である。
【0075】
これらの結果は非常に重要で、ワクチンには、ウイルスに対する免疫応答の活性化を助けるCD4+Tリンパ球を促進し、同時に抗ウイルス作用を持つCD8+Tリンパ球を促進するポジティブな効果があることを意味している。
【0076】
これらの結果に加え、観察された細胞応答は、両方の免疫化スケジュールで誘導された抗体の測定で補足された。1x10
8CFUの用量を2回投与した免疫化スケジュールでは、免疫化24日後にELISAによる抗N‐SARS‐CoV‐2抗体の効率的な誘導が認められた。得られたデータから確認できたことは、ワクチン株rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2は刺激前に穏やかな抗体反応を促進することができるということであり、
*印のバーでは14日目にわずかな増加が観察された。しかし、この増加は刺激後24日目により顕著となり、組換え株rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2を接種した動物の血清から刺激に対する高い反応が観察された(
図8)。
【0077】
例VII:rBCG株の混合物による動物の免疫化
動物モデル(マウス)を用いて、4つの形質転換株(25%rBCG‐E‐SARS‐CoV‐2、25%rBCG‐M‐SARS‐CoV‐2、25%rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2及び25%rBCG‐S‐SARS‐CoV‐2)の混合物を含む例IVで得られた組成物による一連の免疫化試験を行った。実験デザインは、本発明の製剤によるワクチン接種によって誘導される細胞性免疫及び体液性免疫を評価するために開発された。
【0078】
これを実施するために、4×10
5総CFU(本発明の組換え株の各々の1×10
5CFU)の用量で免疫化を実施し、14日後、動物を、水酸化アルミニウムアジュバントとともに投与された精製タンパク質E、M、N及びS、合計40μg(各々10μg)を用いたブースターに相当する2回目の免疫化に供した、実験のスキームを
図9に示す。血液サンプルは免疫化後0日目、14日目、24日目に採取し、24日目に動物を安楽死させて実験を終了した。
【0079】
【0080】
例VIII:
動物におけるrBCG株の混合物によるワクチンの効果
まず、本発明のワクチン接種スキームを受けた動物及びその対照の体重減少の評価を実施した。ここで、本発明のワクチンは、BCGの4つの組換え株を一緒にしたプール又は混合物に相当する。結果を
図10に示す。本発明のワクチン接種スキームは、動物の体重が経時的に減少しなかったので、安全であることが証明された。
【0081】
0日目、14日目及び24日目に得られた血液サンプルから、SARS‐CoV‐2ウイルスのNタンパク質に対する抗体の測定が行われ、BCGプールによるワクチン接種が動物の抗N‐SARS‐CoV‐2抗体の増加を促進し、すべての対照群で得られた抗体よりも大きいことが観察された。この効果は、組換え株のプールと、組換えタンパク質(N、M及びS)とAlumの混合物からなるブースターを用いて免疫化した、本発明に対応するグループにおいて、試験終了時(24日目)に表向きにより大きくなることが観察された。試験動物から得られた血清中に存在する抗体は、SARS‐CoV‐2の組換えタンパク質N(rN)を標的として用い、比色反応を与える酵素HRPに結合した抗マウス抗体を用いたELISA法により評価した。試験動物の血清を1/5に希釈して使用した。比色反応はELISAリーダーで波長450nmで評価した。結果を
図11に示すが、本発明のワクチン接種スキームでは、実験の24日目に抗N抗体の最良の産生が得られることがわかる。
【0082】
さらに、本発明の免疫化スキームが動物にSARS‐CoV‐2ウイルスのSタンパク質に対する抗体を発達させたかどうかを決定するために滴定を行った。このために、試験の24日目に得られた血清が使用され、各実験群を構成する3匹の動物の血清を等しい割合で混合して、各群の動物について測定が行われた。この試験から、本発明のワクチン接種スキームを用いて行ったワクチン接種が、SARS‐CoV‐2のSタンパク質に対する強い抗体反応を促進することを決定することができた。ここで、抗体の産生は、
図12に示すように、他の実験グループについて観察されたものに関して、本発明のスキームにおいて顕著に高い。特に、この結果は、本発明の株のプールとウイルス組換えタンパク質のプール(N、M及びS)のブースターの組み合わせが、本発明の株(プール)のみの使用及び組換えタンパク質のみの使用よりも有意に多くの抗体を生成することを示している。
【0083】
本発明のスキームがSARS‐CoV‐2ウイルスに対する抗体の生成を促進することが示されたので、細胞性免疫応答も評価し、抗ウイルス効果のCD8+Tリンパ球の活性化を評価した。このために、実験を終了した後、24日目に、動物の脾臓から全Tリンパ球を精製した。評価条件を表2にまとめた。
【0084】
【0085】
次いで、精製したTリンパ球を、異なるSARS‐CoV‐2ペプチドを負荷した樹状細胞と72時間共培養した。使用したペプチドは、N、M及びSタンパク質、又はN、M及びSの混合物に相当する。
【0086】
培養終了時、CD8
+Tリンパ球表面のCD69
+、CD71
+及びCD25
+活性化マーカーをフローサイトメトリーで評価した。結果を
図13に示す。
【0087】
この結果から、評価した異なる刺激(N、M及びS、又はそれらの混合物)は、CD8
+Tリンパ球を効果的に刺激し、CD69
+、CD71
+、及びCD25
+マーカーの発現を増加させることが示された。具体的には、本発明のワクチン接種スキームである「rBCGs pool/rProts+Alum」を用いたグループでは、タンパク質M、N、及び共培養中のタンパク質の混合物の刺激に対して、マーカーCD69
+のより高い発現が認められた(
図13B)。一方、対象グループで2番目に多く発現した活性化マーカーはCD71
+であり、主にSタンパク質の刺激と混合タンパク質に反応した(
図13C)。最後に、CD25
+マーカーの発現においても、CD71
+で観察されたのと同様の反応が観察された(
図13A)。
【0088】
本研究で得られたデータは、異なるSARS‐CoV‐2タンパク質を発現する組換えBCG株のプールの使用が、感染のないモデルにおいてSARS‐CoV‐2感染に対して有効であろう体液性及び細胞性免疫応答を促進することを示している。
【0089】
例IX.比較例:本発明のワクチン接種スキーム対不活化ウイルスワクチン。
本発明のワクチン接種スキームによって付与される免疫を比較的に確立するために、動物を本発明に従って免疫化し、同時に不活化ウイルスワクチンで免疫化する実験を行った。ワクチン接種スケジュールを表3に要約する。
【0090】
【0091】
表3の免疫化スケジュールに基づいて、不活化ウイルスによるワクチン接種により生成した応答と比較して、我々のワクチン株rBCG‐N‐SARS‐CoV‐2によるワクチン接種により誘導された免疫応答を評価した。
【0092】
実験終了後、動物の脾臓とリンパ節を採取し、これらから全Tリンパ球の精製を行った。次いで、これらのリンパ球を、あらかじめ様々な刺激を負荷した樹状細胞と72時間共培養した。評価した処置は、陰性又は非処理対照(UT)、SARS‐CoV‐2 Nタンパク質、及び陽性感染マーカー又は陽性BCG刺激対照として使用される精製タンパク質誘導体(PPD)、及びSARS‐CoV‐2 Sタンパク質とともに不活化ウイルスで免疫化したグループであった。結果を
図14に示すが、本発明のワクチン接種スキーム及び不活化ウイルスによる接種後、CD8
+Tリンパ球の同様の活性化が得られ、マーカーCD69
+、CD71
+及びCD25
+の発現が増加していることがわかる。
【0093】
最後に、動物の血清中の抗N抗体の分泌を促進する両ワクチンの能力を評価した。これを決定するために、実験内の異なる時期に動物から得られた血清中に存在する抗N‐SARS‐CoV‐2抗体の総量を、間接ELISA法を用いて決定した。その結果、ワクチン接種スケジュールが完了すると、両グループ(本発明及び不活化ウイルスを接種したグループ)は、SARS‐CoV‐2 Nタンパク質に対する抗体の分泌を同程度のレベルで刺激した(
図15)。
【0094】
これらの結果は、形質転換BCG株がSARS‐CoV‐2タンパク質を構成的に発現することを示しており、従って、免疫原性製剤に使用すると、この組成物を受けた個体(動物又は人)がSARS‐CoV‐2に対する免疫を発達させることができ、これによりCOVID‐19に対する防御が得られるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】