(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】レコード制作装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G11B 3/00 20060101AFI20240301BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20240301BHJP
G11B 3/68 20060101ALI20240301BHJP
G11B 23/00 20060101ALI20240301BHJP
G11B 27/026 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G11B3/00 Z
B26F3/00 F
G11B3/68 Z
G11B23/00 M
G11B27/026
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555161
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 GB2022050584
(87)【国際公開番号】W WO2022189772
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523340720
【氏名又は名称】イラスティックステージ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ELASTICSTAGE LIMITED
【住所又は居所原語表記】Third Floor 1 New Fetter Lane London EC4A 1AN United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】フレイスタター ウェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ローズ スティーブ
【テーマコード(参考)】
3C060
5D110
【Fターム(参考)】
3C060AA04
3C060CA05
3C060CA10
5D110AA12
5D110AA26
(57)【要約】
オーディオレコードを制作する方法、システム及び装置が提供される。レコードフォーマットが選択され、一組のデジタルオーディオファイル(31)の変更に使用される。音楽制作インターフェース5は、上記選択を受信するために提供されてもよい。修正された一組のデジタルオーディオファイル(31)から一組の製造指示(73)が生成される。一組の製造指示(73)は、ブランクレコード(10b)を再生可能なオーディオレコード(10)に変換するために使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レコード製造業者(8)と、
選択されたレコードフォーマット及び一組のデジタルオーディオファイル(31)を受信し、前記一組のデジタルオーディオファイル(31)を前記選択されたレコードフォーマットに応じて変更し、前記変更された一組のデジタルオーディオファイル(31)から一組の製造指示を生成し、前記一組の製造指示をレコード製造業者に送信するように構成された音楽制作インターフェースと、を備え、
前記レコード製造業者は、音楽制作インターフェースから前記一組の製造指示を受信し、それに応じて、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードへ変換するように構成されている、レコード制作システム。
【請求項2】
ブランクレコードから再生可能なオーディオレコードへの変換は、前記ブランクレコードから材料を取り除く減法製造工程である、請求項1に記載のレコード制作システム。
【請求項3】
前記レコード製造業者は、前記再生可能なオーディオレコード内のオーディオを変調済み螺旋溝として符号化するように構成されている、請求項1又は2に記載のレコード制作システム。
【請求項4】
前記レコード製造業者は、前記ブランクレコードに溝を刻むためのカッティングヘッドと、前記カッティングヘッドと前記ブランクレコードの相対的な回転運動を許容するため、溝形成中は前記ブランクレコードが一時的に付着されるターンテーブルと、を備える、請求項3に記載のレコード制作システム。
【請求項5】
前記ブランクレコードの下面は、溝形成中は前記ターンテーブルに取り外し可能に付着されている、請求項4に記載のレコード制作システム。
【請求項6】
前記ブランクレコードの前記下面の大部分が、溝形成中は前記ターンテーブルに取り外し可能に付着されている、請求項5に記載のレコード制作システム。
【請求項7】
前記ブランクレコードは、溝形成中は静電付着によって前記ターンテーブルに取り外し可能に付着されている、請求項5又は6に記載のレコード制作システム。
【請求項8】
前記レコード制作システムは、溝形成中の静電付着による前記ブランクレコードの前記ターンテーブルへの付着のために静電気を発生するように構成された静電気発生装置を更に備える、請求項7に記載のレコード制作システム。
【請求項9】
前記レコード制作システムは、溝形成後に静電付着を解除し、前記ブランクレコードから作製された前記ブランクレコードを前記ターンテーブルから解放することができるように、前記静電付着を解除するように構成された帯電防止装置を更に備える、請求項7又は8に記載のレコード制作システム。
【請求項10】
前記製造指示は、前記カッティングヘッドが径方向内側へ移動する速度を制御するためのピッチ速度指示を含み、前記溝がそのピッチで前記オーディオレコードに刻まれる、前記請求項5から9のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項11】
前記レコード制作システムは、前記溝のカッティング後、又はカッティング中に前記オーディオレコードからの削屑を自動的に除去するための削屑バキュームを更に備える、請求項4から10のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項12】
前記ブランクレコードはプラスチック材料から作製され、請求項1から11のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項13】
前記プラスチック材料は、ポリエステル、又は帯電列においてポリエステルと同等、又はより負に帯電しやすい材料である、請求項12に記載のレコード制作システム。
【請求項14】
前記ブランクレコードは、材料の1つの塊から作製されたもの、又は類似のプラスチック材料から作製された複数の層で構成されている、請求項12又は13に記載のレコード制作システム。
【請求項15】
前記材料は、PET-G、又は同等の硬さを有する材料を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項16】
前記ブランクレコードは、0.5mm~3mmの厚さを有する、請求項1から15のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項17】
前記レコード制作システムは、アッセンブル部門と、少なくとも1つの印刷モジュールを更に備え、前記印刷モジュールは、前記製造指示に関連した一組の印刷指示を受信するように構成され、それに応じて、関連する前記オーディオレコード用の印刷パッケージを印刷し、前記オーディオレコードと前記パッケージは、アッセンブル部門によって組み合わされ、流通可能な一組のレコード及びパッケージの形で音楽製品とされる、請求項1から16のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項18】
前記レコード制作システムは、前記製造指示に関連する一組の流通指示において指定された少なくとも1つの配送先に音楽製品を配送するよう構成された流通システムを更に備える、請求項17に記載のレコード制作システム。
【請求項19】
前記製造指示は、前記印刷指示及び/又は流通指示の少なくとも1つと個別注文識別子によって関連付けられている、請求項17又は18に記載のレコード制作システム。
【請求項20】
前記音楽制作インターフェースは、前記オーディオレコード及びそのパッケージの外観を指定するユーザからの入力を受信するように構成されたエディタを更に備え、前記エディタは、ユーザが選択した画像ファイル及びその配置を受信し、それに応じて、そこからの印刷指示を含む製造指示を生成するように構成されている、請求項17から19のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項21】
前記音楽制作インターフェースは、前記一組のデジタルオーディオファイルの時系列、前記一組のデジタルオーディオファイルの最長再生時間、及び前記一組のデジタルオーディオファイルの再生音量のうちのユーザが選択した少なくとも1つに応じて、前記一組のデジタルオーディオファイルを変更するように構成されている、請求項1から20のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項22】
前記音楽制作インターフェースは、予め定められた周波数の振幅を制御する少なくとも1つのフィルタを適用することによって、前記一組のデジタルオーディオファイルを変更するように構成されている請求項1から21のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項23】
適用される少なくとも1つのフィルタは、RIAA等化の適用を含む、請求項22に記載のレコード制作システム。
【請求項24】
前記レコード制作システムは、前記デジタルオーディオファイルを一組のアナログ信号に変換するD/Aコンバータを更に備える、請求項1から23のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項25】
前記一組のアナログ信号はステレオペアで、カッティング中に、前記溝を画定する一組の谷壁のうち対応する谷壁の動きをそれぞれ制御する、請求項24に記載のレコード制作システム。
【請求項26】
前記レコード制作システムは、処理・搬送モジュール、アッセンブル部門、印刷モジュール、製造制御装置、レコード流通業者、レコード製造業者、システムサーバ、オーディオトランスコーダ、アカウントマネージャ、及びユーザコンピュータのうち少なくとも1つを備える、請求項1から25のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項27】
前記レコード制作システムは、サーバ-ライアント間ウェブインターフェースを介して前記音楽制作インターフェースがユーザコンピュータに提供されるよう構成されたシステムサーバを備える、請求項1から26のいずれか一項に記載のレコード制作システム。
【請求項28】
選択されたレコードフォーマットに応じて変更されたデジタルオーディオファイルを含む製造指示を受信し、それに応じて、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードに変換するように構成及び配置されたオーディオレコード製造業者。
【請求項29】
請求項28に記載の前記オーディオレコード製造業者又は請求項1~27のいずれか一項に記載のレコード制作システムによって製作された、オーディオレコード。
【請求項30】
選択されたレコードフォーマットを受信し、
前記選択されたレコードフォーマットに応じて一組のデジタルオーディオファイル(31)を変更し、
前記変更された一組のデジタルオーディオファイルから一組の製造指示を生成し、
前記一組の製造指示を前記レコード製造業者に送信し、
前記一組の製造指示を使用して、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードに変換する、オーディオレコード制作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレコード制作に関する。特に、一般にビニールレコードとして知られ、平らな円盤にオーディオ情報を螺旋溝として刻み、符号化するレコードを制作するための方法、システム、及び装置に関する。また、それらの方法、システム、及び装置によって制作された新規な構成のオーディオレコードに関する。
【背景技術】
【0002】
既存のビニールレコードは、ポリ塩化ビニル(PVC)を高温高圧でプレスする工程によって制作される。PVCの「ビスケット」を加熱し、金属スタンパでプレスすることによって、オーディオ信号を伝える螺旋溝が刻まれる。具体的には、一対のスタンパを使用して、両面レコードの各面に1つずつ、計2つの螺旋溝を刻む。
【0003】
各スタンパは、レコードのそれぞれの面に刻まれる螺旋溝の逆形状の螺旋突条を有する。金属スタンパは、従来の方法及びダイレクトメタルマスタリングという周知の2つの方法のうちのいずれかによって制作されるのが一般的となっている。
【0004】
従来の方法では、カッティングマシンを使用してオーディオ信号変調された溝をアセテート盤と呼ばれる円盤に刻むカッティングを行うことによって、ソフトマスタが作られる。アセテート盤は、硬いアルミ板上にコーティングされてアルミ板によって支持された滑らかなラッカー層を有する。ラッカー層は、比較的柔らかいニトロセルロース材料からなり、「ソフトマスタ」と呼ばれる。ニトロセルロース材料の物理的特性は、歪むことなく正確に音溝を刻むことを可能にする一方、比較的脆く、単体ではラッカー層に刻まれた溝内の符号化された情報が物理的劣化を起こすことなく複数回の再生に耐え得ることができない。再生針を使用した再生は、ソフトマスタの溝を侵食する。したがって、溝によって符号化された情報をより耐久性があり複数回の再生が可能なフォーマットで保持するためには、更なる処理が必要である。
【0005】
そのためには、ラッカー層を銀などの材料でコーティングして導電性を持たせ、めっき層に浸して、銀層を金属でコーティングする。コーティングに使用する金属は、通常、ニッケル又はクロムである。金属コーティングは、その下にあるソフトマスタから剥離され、ソフトマスタとは逆の形状を有するコピーができる。これは、「ネガ型」メタルマスタと呼ばれる。ソフトマスタはこの工程によって劣化してしまうため、通常は廃棄される。
【0006】
このようなネガ型メタルマスタは、原則、最初にカッティングされたソフトマスタの「ポジ型」のビニールコピーをプレスで作製するためのスタンパとして使用される。繰り返しプレスを行うことによってスタンパに劣化が生じるため、1つのメタルマスタから作られるコピーの数には制限が設けられる。この問題は、電気めっき工程を追加して複数の「ネガ型」のスタンパを作製することによって回避することができる。まず、ネガ型メタルマスタから電鋳によってポジ型メタルマトリックスを作製し、ポジ型メタルマトリックスから電鋳によって1つ以上のネガ型スタンパを作製する。このように、従来の方法では、1つのスタンパを作製するのに3つの電鋳工程を行うため、最終的にプレスされるビニールレコードは、最初のソフトマスタから数えて4番目のコピーとなる。
【0007】
ダイレクトメタルマスタリングは、銅板に直接カッティングを施し、スタンパを作製するために1回だけ電鋳を行う。銅板はより耐久性があるため、従来の方法におけるソフトマスタのように捨てることなく複数のスタンパを作製することができる。オーディオ信号の銅板へのカッティングを行う際にノイズの発生を最小限に抑えるためには、銅板は完璧に平滑でなければならない。また、オーディオ信号の物理的なカッティング時に銅板の平滑性を保つためには、ソフトマスタ同様、敷板又は基板は十分強く硬くなければならない。記録面の湾曲や屈曲は当然音の歪みに繋がる。
【0008】
従来の方法又はダイレクトメタルマスタリングでは、カッティングマシンのカッティング針でマスタの「ブランク」レコードにオーディオ信号を物理的に刻み込んでいく。カッティングマシンは重厚なターンテーブルを有しており、マスタブランクが固定され、カッティング作業中常に一定の回転速度が維持されるようになっている。回転速度は想定のレコード再生速度に応じて設定される。
【0009】
ターンテーブルのセンタースピンドルはマスタブランクの中央の穴を貫通するように延びる。スピンドルにはクランプが取り付けられており、クランプとターンテーブルとでマスタブランクを挟む。これにより、スピンドルに沿う軸方向の動きを抑えることができると共に、マスタブランクがターンテーブルに対して回転してしまうことがないようにすることができる。マスタブランクの中央の穴からずれた位置に第2の穴を設け、ターンテーブルから上方に延びる突起に嵌めることで、マスタブランクのターンテーブルに対する回転を抑えることもできる。
【0010】
クランプは、マスタブランクの内側中央部、つまり、スピンドルの直近で、通常、レコードのラベルが貼り付けられる場所のみ押し付けることができる程度に延出していればよい。これは、音溝がカッティングされる上面の径方向外側部分を避けるためである。
【0011】
したがって、湾曲を避ける上で、マスタブランクの強度は最も重要である。上述したように、従来の方法では、マスタコピー、つまり、柔軟なニトロセルロースラッカー層の敷板である強固なアルミ基板によって強度を得ていた。敷板としてはガラスも挙げられる。強度がなければ、カッティング針による摩擦力によってマスタコピーに湾曲が生じ、オーディオ信号に歪みが生じる。
【0012】
つまり、カッティング針を介してオーディオ信号が記録されるマスタブランクは、カッティング針によって簡単に溝を刻むことのできる柔軟な外側の層と、オーディオ信号を記録するために刻まれた溝に歪みを生じさせないために、外側の層を強固に支持する内側の層の2つの異なる層で構成される必要がある。脆弱な溝に耐久性を与えるために、続いて電気めっき及びスタンピング工程が行われ、レコードの大量生産が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、既存のビニールレコード製造には様々な欠点がある。高温高圧で行われる電気めっき及びスタンピングは、比較的複雑でエネルギーを大量に消費する工程である。また、原盤であるソフトマスタと最終生産物である再生可能なレコードとの間に複数の中間コピーを作製することはノイズの発生に繋がる。
【0014】
レーザ彫刻などの最新技術を使用してスタンパを作製し、電気めっき工程を排除し、最終的なビニールレコードに刻まれるオーディオ信号の解像度を向上させる試みが行われてきた。しかしながら、適切なレーザ装置及びその運転コストは高額であり、レコード制作に関連するコストがかさむ大きな原因となる。
【0015】
したがって、レコード及びスタンパの作製に掛かるコストは、スタンパを従来の技術で作るか、最新の技術で作るかの如何に拘わらず、引き続き高額となっている。これは、各レコードの制作にかかるコストを引き上げ、少量のレコード制作では利益を得られないことになる。つまり、従来のレコード制作技術は、いずれも高いコストを相殺ためにスタンパから同一のレコードを大量生産することに重きを置いている。高品質で、信号の劣化なく複数回の再生に耐え得る少量又は「1回限り」のレコードは非常に高価なものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものである。
【0017】
本発明の第1の態様によれば、オーディオレコード制作システムを提供することができる。レコード制作システムは、レコード製造業者及び音楽制作インターフェースのうち少なくとも1つを備えていてもよい。音楽制作インターフェースは、選択されたレコードフォーマット及び一組のデジタルオーディオファイルのうちの少なくとも1つを受信するように構成されていてもよい。音楽制作インターフェースは、一組のオーディオファイルを変更するように構成されていてもよい。変更は、選択されたレコードフォーマットに応じて実施することができる。音楽制作インターフェースは、デジタルオーディオファイル又は変更されたデジタルオーディオファイルから一組の製造指示を生成するように構成されていてもよい。音楽制作インターフェースは、一組の製造指示をレコード製造業者に送信するように構成されていてもよい。また、レコード製造業者は、一組の製造指示を受信し、それに応じて、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードに変換するように構成されていてもよい。
【0018】
ブランクレコードを使用することで、特に少量又は1枚のみの注文について、レコードの製造コストを削減することができるという利点がある。ビニールレコードの従来の製造方法では、金属スタンパの作製に必要な中間段階に係る多額の諸経費がかかるため、同じレコードを大量生産する場合にのみ利益を生むことができていたが、これとは対照的である。ブランクレコードを使用することで、中間段階及び多額の諸経費を削減することができる。
【0019】
ブランクレコードから再生可能なオーディオレコードへの変換は、ブランクレコードから材料を取り除く減法製造工程によって実施されることが望ましい。具体的には、レコード制作システムは、ブランクレコードに溝を刻む旋盤を有することが望ましい。
【0020】
レコード製造業者は、前ン期再生可能なオーディオレコード内に変調済み螺旋溝として符号化をするように構成されていることが好ましい。レコード製造業者は、ブランクレコードに溝を刻むためのカッティングヘッドを備えていてもよい。レコード製造業者は、溝形成中にブランクレコードが一時的に付着されるターンテーブルを備えていてもよい。これは、カッティングヘッドとブランクレコードの相対的な回転運動が可能になるという利点がある。
【0021】
ブランクレコードの下面は、溝形成中はターンテーブルに対して取り外し可能に付着されていることが好ましい。ブランクレコードの下面の大部分が、溝形成中はターンテーブルに取り外し可能に付着されていることが好ましい。これは、ターンテーブルとブランクレコードとの間では、50%を超える表面積が付着し得るという利点がある。付着する表面積が75%~100%であればより好ましい。
【0022】
ブランクレコードは、溝形成中は静電付着によってターンテーブルに付着されることが好ましい。レコード制作システムは、静電付着を実行するための静電気発生装置を備えていてもよい。静電気発生装置は、溝形成中はブランクレコードを静電付着によってターンテーブルさせるための静電気を発生するように構成されていてもよい。ターンテーブルとブランクレコードとの固定は、必ずしも直接的な固定である必要はない。具体的には、静電付着であれば、ブランクレコードとターンテーブルとの間に1つ以上の薄い層があってもよい。更に、レコード制作システムは、ブランクレコードとターンテーブルとの間に置く支持マットを備えていてもよい。支持マットはブランクレコードの下面の傷防止、及び/又はブランクレコードとターンテーブルとの間の固着力の向上に役立つという利点もある。ターンテーブル自体が支持マットを備えていてもよい。
【0023】
レコード制作システムは、帯電防止装置を更に備えていてもよい。帯電防止装置は、溝形成後に静電付着を解除し、ブランクレコードから作製されたレコードをターンテーブルから解放することができるように構成されていてもよい。製造指示は、カッティングヘッドが径方向内側へ移動する速度を制御するためのピッチ速度指示を含み、溝がそのピッチでオーディオレコードに刻まれることが好ましい。
【0024】
レコード制作システムは、レコードから削屑を除去するための削屑バキュームを更に備えることが好ましい。削屑バキュームは、溝形成後及び/又は溝形成中にレコードから削屑を自動的に除去するように構成されていてもよい。
【0025】
ブランクレコードはプラスチック材料から作製されていることが好ましい。プラスチック材料はポリエステルであることが好ましい。この材料は、帯電列上において同等又はより負に帯電しやすい材料である。
【0026】
ブランクレコードの材料は、PET-G(つまり、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)を含んでいてもよい。ブランクレコードは、同等の硬さを有する材料から作製されたものであってもよい。これは、カッティングマシンのカッティング針を使用してブランクレコードに容易に溝が刻めることと、従来のレコード再生針を使用した複数回の再生に十分耐え得ることの兼ね合いにおいて最適であるという利点がある。
【0027】
ブランクレコードは、1つの材料片から作製されることが好ましい。しかしながら、特定の実施形態においては、ブランクレコードが複数の層を含んでいてもよい。少なくとも1つの層は、ポリエステルなどのプラスチック材料であることが好ましい。複数の層は、同じ、又は類似の材料で構成されていることが好ましい。例えば、すべての層が同じ、又はわずかに異なるプラスチック材料からなっていてもよい。これは、これらの層を容易に固着することができ、ブランクレコードの製造が容易になるという利点がある。
【0028】
好ましくは、ブランクレコードは、オーディオ信号を符号化するために溝が刻まれる少なくとも1つの外層を有している。
-外層は、下層よりも柔らかい材料から作製されている
-下層は、外層よりも硬い材料から作製されている
-外層は半透明であり、その下にある下層が視認できる
【0029】
ブランクレコードを1つの材料片から作製することで、レコードの製造を簡素化し、コストを削減することができる。複数の層からなるブランクレコードは、若干複雑ではあるものの、下層を比較的安価な精製度の低い材料から作製し、外層の精製度をより高くし、刻まれるオーディオ信号の忠実かつ耐久性のある符号化を可能にする特性をもつ材料から外層を作製することで、コストを削減することもできる。更に、カッティング中に外層をしっかりと支持するために下層をより硬くすることもできる。
【0030】
外層はPET-Gであり、着色料添加物を含まないことが理想的であることが好ましい。下層は、PET-Aや着色されたPET-Gであってもよい。理想的には、下層には黒色の着色料が含まれており、既存のビニールレコードと一致させることが理想的であるが、他の色を選択することもできる。更に、外層が半透明である場合は、下層は不透明であることが好ましい。これは、レコード製品の美観を向上させることができると共に、ユーザが再生機器を操作する際に、例えば、再生針をセットしなければならない導入溝の位置を特定するのに役立てることができるという利点がある。
【0031】
本願の発明者らは、着色料が添加された材料から作製されたブランクレコードに刻まれたオーディオ信号に高レベルのノイズが内在することを確認した。これは、ポリエステル材料、特にPETに当てはまる。着色料添加物を含まない半透明の外層を下層の着色層と共に設けることによって、カラーの製品の良さを出すだけでなく、オーディオ信号を比較的低ノイズで符号化することも同時に実現することができる。これは、オーディオ信号の大部分が外層に刻まれるためである。
【0032】
いずれにしても、ブランクレコードは従来の構造ではないため、ダイレクトメタルマスタリングなどで使用される従来のマスタディスクやレコード制作の従来の方法で使用されるソフトマスタよりもはるかに採算の合うブランクレコードを作製することができる。更に、材料が複数回の再生に耐え得る十分な耐久性を持つため、再生可能なオーディオレコードとしてブランクレコードを最終製品へと変換し、使用するための更なる工程は必要ない。
【0033】
ブランクレコードは、0.5mm~3mmの範囲の厚さを有していてもよい。厚さは約1~2mmであることがより好ましい。
【0034】
通常、PET-Gと同等の硬さを有し、上記範囲の厚さを有する材料は、カッティング中に過度の反りが生じる場合があるため、ブランクレコードの材料に使用するには適さないと考えられる。しかし、本発明は、下にある剛性のあるターンテーブルにブランクレコードを付着させることにより、たわみや歪みを最小限に抑え、この問題を解消している。
【0035】
レコードをターンテーブルに静電付着により固定することがきる。この方法は、迅速な付着の有効化及び無効化を行うことが可能など、複数の利点がある。更に、静電付着は、粘着物質の場合と異なり、ターンテーブルにと接触しているレコードの表面を傷つけることがない。更に、静電付着では、両面レコードの制作時によく問題となるような、すでに下面に形成された溝による付着効果の大幅な低下は起こらない。
【0036】
したがって、ブランクレコードは、帯電列において、非常に負に帯電しやすい、又は非常に製に帯電しやすいと格付けされていることが好ましい。更に、帯電列におけるターンテーブルとブランクレコードの格付けの差が大きいことが好ましい。
【0037】
レコード制作システムは、アッセンブル部門及び/又は少なくとも1つの印刷モジュールを更に備えることが好ましい。印刷モジュールは、製造指示に関連付けられた一組の印刷指示を受信し、それに応じて、関連するレコードのパッケージを印刷するように構成されていてもよい。レコードとパッケージは、アッセンブル部門によって組み合わされ、流通可能な一組のレコード及びパッケージの形で音楽製品とされることが好ましい。
【0038】
レコード制作システムは、製造指示に関連付けられた一組の流通指示において指定された少なくとも1つの配送先に音楽製品を配送するように構成された流通システムを更に備えていることが好ましい。
【0039】
製造指示は、印刷指示及び/又は流通指示の少なくとも1つと個別注文識別子によって関連付けられていることが好ましい。
【0040】
音楽制作インターフェースは、レコード及びそのパッケージの外観を指定するユーザからの入力を受信するように構成されたエディタを備えていることが好ましい。エディタは、WYSIWYGエディタであってもよい。エディタは、ユーザが選択した画像ファイル及びその配置を受信し、それに応じて、そこからの印刷指示を含む製造指示を生成するように構成されていてもよい。
【0041】
音楽制作インターフェースは、ユーザが以下のうち少なくとも1つを選択し、それを受信した場合、受信に応じて、一組のデジタルオーディオファイルを変更するように構成されていてもよい。
-一組のデジタルオーディオファイルの時系列
-一組のデジタルオーディオファイルの最長再生時間
-一組のデジタルオーディオファイルの再生音量
【0042】
音楽制作インターフェースは、予め定められた周波数の振幅を制御するための少なくとも1つのフィルタを適用することによって一組のデジタルオーディオファイルを修正するように構成されていることが好ましい。適用される少なとも1つのフィルタは、RIAA等化の適用が含まれていてもよい。
【0043】
レコード制作システムは、デジタルオーディオファイルを一組のアナログ信号に変換するためのD/Aコンバータを更に備えていることが好ましい。一組のアナログ信号はステレオペアであり、カッティング中に、溝を画定する一対の谷壁のうち対応する谷壁の動きをそれぞれ制御することが好ましい。
【0044】
レコード制作システムは、処理・搬送モジュール、アッセンブル部門、印刷モジュール、製造制御装置、レコード流通業者、レコード製造業者、システムサーバ、オーディオトランスコーダ、アカウントマネージャ、及びユーザコンピュータを更に備えていることが好ましい。
【0045】
レコード制作システムは、サーバ-クライアント間ウェブインターフェースを介して音楽制作インターフェースがユーザコンピュータに提供されるように構成されたサーバを更に備えていることが好ましい。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、選択されたレコードフォーマットに応じて変更されたデジタルオーディオファイルを含む製造指示を受信し、それに応じて、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードに変換するように構成及び配置されたオーディオレコード製造業者を提供することができる。
【0047】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様のオーディオレコード製造業者、又は本発明の第1の態様のレコード制作システムによって制作されたオーディオレコードを提供することができる。
【0048】
本発明の第4の態様によれば、オーディオレコードを制作する方法を提供することができる。この方法は、以下のうちの少なくとも1つを含む。
選択されたレコードフォーマットを受信する
選択されたレコードフォーマットに応じて一組のデジタルオーディオファイルを変更する
変更された一組のデジタルオーディオファイルから一組の製造指示を生成する
一組の製造指示を使用して、ブランクレコードを再生可能なオーディオレコードに変換する
【0049】
上記方法は、以下のうちの少なくとも1つを更に含んでいてもよい。
デジタルオーディオファイルを音楽制作インターフェースに転送する
トランスコード済みデジタルオーディオファイルを含む制作指示を生成する
制作指示を送信する
レコードを製造する
製造されたレコードを配送する
【0050】
本発明の異なる態様の特徴及び利点は、文脈から逸脱しない範囲で、組み合わせや置き換えができると解されるべきである。
【0051】
例えば、本発明の第1の態様に関連して説明したレコード制作システムの特徴は、第2の態様のレコード製造業者、第3の態様のレコード及び/又は第4の態様に関連して説明した方法の一部であってもよい。
【0052】
更に、そのような特徴自体が、単独で、又は他の特徴と組み合わせて、本発明の更なる態様を構成することも可能である。例えば、音楽制作インターフェース、ブランクレコード、レコード、カッティングマシン、システムサーバ、処理・搬送モジュール、アッセンブル部門、印刷モジュール、製造制御装置、レコード流通業者、レコード製造業者、オーディオトランスコーダ、アカウントマネージャ、及びユーザコンピュータの特徴は、それら自体で本発明の更なる態様を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレコード制作装置の概略ブロック図。
【
図3】レコード制作及び
図1のシステムの流通部分の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、
図2に示す一般例のレコード制作方法200を実施するために構成されたレコード制作システム1の概略ブロック図である。
【0055】
レコード制作システム1は、ネットワーク2と、ユーザコンピュータ3と、システムサーバ7と、レコード製造業者8と、レコード流通業者9と、を備えている。システムサーバ7は、アカウントマネージャ4と、音楽制作インターフェース5と、オーディオトランスコーダ6と、を備えている。システムサーバ7は更に音楽プラットフォームの少なくとも一部を備え、レコード制作システム1のユーザはこの音楽プラットフォームを介してレコードの注文を行うことができる。
【0056】
レコード制作システム1の各ユーザは、レコードを注文する注文ユーザと、レコードの特徴を表す楽曲とアートワークを総合的に編集する編集ユーザと、楽曲やアートワークの権利(例えば、著作権や契約上の権利)を有する権利者を含む、1つ以上のカテゴリに分類される。1人のユーザが上記3つのすべてのカテゴリに該当する場合もあり得る。ただし、以下の例では、上記のうち編集と注文の2つのカテゴリに該当するユーザに焦点を当てて説明する。本例では、複数のアーティストによって録音された楽曲を集めた、所謂「ミックステープ」の編集を行い、発注するユーザを想定している。しかしながら、複数の異なるカテゴリに属する異なるユーザに対応した機能や構成も本発明の異なる実施形態とすることができる。レコード制作システム1は、ユーザコンピュータ3のユーザがどのように音楽製品を制作するのかを指定することができるように構成されている。具体的には、ユーザは、システムサーバ7の音楽制作インターフェース5とやり取りすることによって、1つ以上のデジタルオーディオファイル31のユーザの選択による編集からレコード10の制作(つまり、製造及び流通)を指定することができる。ユーザは音楽制作インターフェース5を使用し、1つ以上の画像ファイル32の選択による編集から、レコード10に関するパッケージ10cを作成することもできる。このような楽曲及びアートワークは、ユーザが所有権を有していなくてもよく、権利者30が所有する権利を管理するようにレコード制作システム1が構成されている。特に、レコード制作システム1は、ロイヤルティの支払いの処理を行うように構成されている。例えば、楽曲(及び/又はアートワークを使用したパッケージ10c)の所有権を有する権利者30に対して、レコード10制作時に自動的にロイヤルティを支払うように構成されている。通常、権利者30には、イメージクリエータ、作詞/作曲家、レコーディングアーティスト、出版社などが含まれ、更に、会員に代わってロイヤルティの支払い管理を行う団体、例えば、演奏権管理団体(Performing Rights Society,PRS)や機械的著作権保護団体(Mechanical-Copyright Protection Society,MCPS)なども含まれる。
【0057】
本実施形態では、制作されるレコード10は、背景技術で説明した「ビニール」レコードとして知られているタイプのレコードであり、オーディオ情報がオーディオ信号変調螺旋溝としてレコード上で物理的に符号化されている。そして、溝と機械的に相互作用することでオーディオ情報を抽出して音として再生するオーディオ再生トランスデューサを備えたレコードプレーヤーで音を再生することができる。
【0058】
本実施形態は、特にこのようなレコードの制作に係るものであるが、ビニールレコードとは異なるタイプの記憶媒体の制作についても本発明の他の実施形態とすることができる。特に、本実施形態の構成要素や特徴は、コンパクトディスクなど、他の手段を使用してーディオ情報が物理的に符号化される物理的オーディオ記録媒体の制作に適用することもできる。
【0059】
通信ネットワーク2は、レコード制作システム1のコンピュータを相互接続する。接続方法としては、有線及び/又は無線のローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネットなどのワイドエリアネットワーク(WAN)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
図1に示すレコード制作システム1の構成要素のいくつかを1つの装置内に設けることもでき、この場合、通信ネットワーク2には、装置内の通信チャンネルも含まれることもある。
【0060】
また、
図1の概略ブロック図に示された構成要素は、他の構成要素の一部であるか、他の構成要素と一体化されていてもよい。
【0061】
例えば、レコード製造業者8及びレコード流通業者9は、製造及び制作を行う施設の一部であってもよい。同様に、レコード製造業者8及び/又はレコード流通業者9は、システムサーバ7の少なくとも一部を備えていてもよい。なお、
図1では、明確にするためにこれらが別々に示されている。
【0062】
アカウントマネージャ4、音楽制作インターフェース5及びオーディオトランスコーダ6は、システムサーバ7上の仮想モジュールとして実装されているように示されている。
図1においては、機能や関係性を説明するためにこれらを概略的に別々に示しているが、実際には、異なる装置に設けられている場合もあれば、複数の装置一式である場合もあり、また、それぞれの一部である場合もある。例えば、オーディオトランスコーダ6は、音楽制作インターフェース5の一部であってもよい。
【0063】
音楽制作インターフェース5は、サーバ-ライアント間ウェブインターフェースを介してシステムサーバ7によってユーザコンピュータ3に提供されるものを主に想定している。これには、ウェブブラウザ経由でアクセス可能なフロントエンドGUI(グラフィカルユーザインターフェース)が含まれる。しかし、他の実施形態として、ユーザコンピュータ3は、音楽制作インターフェース5の一連の機能を実行する独立したアプリケーションをダウンロードし実行するように構成されていてもよい。
【0064】
更に、構成要素は、単一の物理的機器又は装置である必要はない。例えば、「サーバ」という語は、分散型又は「クラウド」コンピュータサービス、エンジン、サービス又はプラットフォームを含む場合もある。
【0065】
また、簡潔かつ明確にするために、レコード制作システム1のほとんどの構成要素は、1つの例として
図1に示されているにすぎない。したがって、実際には、レコード制作システム1は、通常、様々な複数の要素、例えば、それぞれユーザの異なる少なくとも数千のユーザコンピュータ3を含んでいる。
【0066】
図2は、レコード制作システム1によって適用されるレコード制作方法の概要を示す。これにより、ユーザは、レコードプロデューサの役割を担うことができる。
【0067】
レコード制作方法200の第1ステップ210では、デジタルオーディオファイル31が音楽制作インターフェース5に転送される。通常、アルバムアートとして使用する画像ファイル32も提供される。オーディオ及び画像ファイル31,32は、例えば、ユーザコンピュータ3から通信ネットワーク2を介してシステムサーバ7に転送することができる。あるいは、又はそれに加えて、これらは、ユーザコンピュータ3とは別のメディアライブラリから選択され、転送されてもよい。
【0068】
音楽制作インターフェース5により、ユーザは、ユーザコンピュータ3を介して、少なくとも1つのデジタルオーディオファイル31の処理の設定を行い、レコード10への転送に好適な形式に変換することができる。変換には、少なくともデジタルオーディオファイル31のトランスコードが含まれる。
【0069】
レコード制作方法200の第2ステップ230では、処理されたデジタルオーディオファイル31に基づいて制作指示が生成される。制作指示には、トランスコード済みデジタルオーディオファイル、レコード10のパッケージの素材から作成された画像などが通常含まれている。ここで、パッケージとは、レコードやレコードジャケットに使用されるラベルを指す。
【0070】
レコード制作方法200の第3ステップ250では、制作指示が送信される。通常は、システムサーバ7からレコード製造業者8やレコード流通業者9に送られる。
【0071】
制作指示には、レコード製造業者8への製造指示やレコード流通業者9への流通指示が含まれる。このような指示及び制作指示のうちの他の独立した部分は、個別注文識別子(unique order identifier,UOI)によって互いに関連付けられている。これにより、製造及び流通の効率的な連携が可能となる。
【0072】
レコード制作方法200の第4ステップ270では、制作指示に含まれる製造指示に従ってレコードが製造される。
【0073】
レコード制作方法200の第5ステップ290では、レコード流通業者9を介して製造されたレコード10が流通される。制作指示に含まれる流通指示は、例えば、発送元やレコード10の配送先などが挙げられる。
【0074】
次に、
図1を参照してレコード制作システム1についてより詳しく説明する。
【0075】
アカウントマネージャ4は、登録処理で設定された各ユーザのユーザアカウント一式を管理する。ユーザは、適切なユーザコンピュータ3を介してシステムサーバ7にアクセスしてアカウントを設定する。システムサーバ7では、ユーザはアカウントマネージャ4とやり取りして、レコード制作システム1の使用目的に応じて、認証情報(ユーザ名、パスワード、メールアドレスなど)や個人情報を入力する。
【0076】
具体的には、ユーザが注文ユーザであり、レコードの購入及び配送を希望する場合は、アカウントマネージャ4がユーザから支払情報及び配送先を取得し、制作されたレコードの配送先としてユーザアカウントに追加される。
【0077】
権利者30に関連付けられたユーザアカウントも、システムサーバ7によって管理することができる。この場合、関連付けられたユーザアカウントは、システムサーバ7によって管理されるアカウントに登録されたデジタルコンテンツ(オーディオファイル及び/又は画像ファイルなど)を更に含んでいてもよい。アカウントマネージャ4により、ユーザは、そのようなデジタルコンテンツを自身のアカウントと関連付けることができ、例えば、自身のコンピュータや別のデジタルメディアライブラリからシステムサーバ7に転送することができる。アカウントマネージャ4は、権利者30と関連付けられた銀行口座の詳細を保存することもでき、自身の権利を他のユーザが使用した場合、権利者30が使用料を受け取ることができるようにすることもできる。したがって、レコード制作システム1によって、権利者30、例えば、レコード制作システム1で入手可能な楽曲を制作したアーティストの権利の管理やロイヤルティの支払いをサポートすることができる。
【0078】
アカウントマネージャ4は、ユーザが自身のアカウントにログインしている場合、音楽制作インターフェース5を使用してユーザが編集して作成したデータを保存することもできる。このようなデータには、オーディオファイルやアートワークの設定、メタデータ、配置が含まれる。
【0079】
音楽制作インターフェース5は、制作可能な物理的メディアのフォーマットのリストを示す。編集ユーザは、リストにあるフォーマットのいずれかを選択し、そのフォーマットで使用可能なデジタルコンテンツ(パッケージに表示する画像やメディア自体に記録するオーディオコンテンツなど)を選択する。
【0080】
権利者30が関連付けられたオーディオコンテンツ及び画像コンテンツは、レコード10やパッケージ10cの制作時に、ロイヤルティが権利者30に支払われるように、音楽制作インターフェース5によって登録される。
【0081】
前述したように、想定される主な一般フォーマットは、ビニールレコード10のフォーマットである。しかしながら、この一般フォーマットにおいても、レコードの物理的サイズや再生スピードなど、様々なバリエーションが存在する。
【0082】
特に本発明を適用可能な一般的によく使われるフォーマットとしては、LP(long play)レコードである。具体的には、33.33rpm(revolutions per minute)の12インチの両面レコードで、所謂マイクログルーヴ仕様が使われている(つまり、再生針の先端の半径が25ミクロンよりも小さく、通常は10~20ミクロンの範囲内)。具体的な使用例は後述するが、レコードは、後述する使用例とは異なる規格や仕様に準拠した他の実施形態であってもよい。例えば、他の録音及び再生スピードであってもよく、例えば、もう1つの一般的な選択肢である45rpmであってもよい。
【0083】
特定のフォーマットを選択した場合、ラベルやパッケージなどを含め、信頼性のあるレコード制作のために制約が課される。
【0084】
制約の1つは最長再生時間で、12インチレコードの場合、片面が約20~30分である。再生時間はオーディオ信号自体の特性などの因子によって異なる。音量及び振幅の大きいオーディオ信号は、レコードの上側及び下側の両方に刻まれる太い溝となるため、隣接する溝への干渉を避けるためには、溝のピッチを大きくしてスペースを取る必要がある。オーディオ信号の他の特性(例えば、特定の周波数、特に低周波成分)によっても、そのようなオーディオ信号をレコード上で物理的な符号化を行うための最適な方法に同様の制約が課される。
【0085】
したがって、音楽制作インターフェース5は、編集ユーザが、ユーザコンピュータ3を介して、少なくとも1つのデジタルオーディオファイル31の処理を設定するためのユーザ設定し、オーディオデータをレコード10への転送に好適な形式に変換することができるように構成されている。
【0086】
例えば、一組のデジタルオーディオファイル31を音楽制作インターフェース5に転送し、音楽制作インターフェース5を介して一組のデジタルオーディオファイル31の曲順を変更し、オーディオの時系列を管理することができる。これは、特徴のある楽曲やトラックを使ったアルバムなどの編集に特に適している。
【0087】
これに加え、音楽制作インターフェース5は、品質や最長再生時間などのレコード10の制限について、編集ユーザにフィードバックすることができ、編集ユーザは、フィードバックに基づいて編集の調整をすることができる。
【0088】
音楽制作インターフェース5により、編集ユーザは、再生音量と編集の全長とのバランスなど、トレードオフに関する設定を行うことができる。本例では、音楽制作インターフェース5はプロパティの各設定(例えば、再生音量、長さ)と設定値(例えば、デシベル、秒)を表示する。音楽制作インターフェース5は、ユーザが各設定を調整するためのユーザインタラクタブルインターフェース(例えば、ドラッグスライダ)を提供し、ユーザがある設定を変更すると、表示された他の設定の設定値がユーザインタラクタブルインターフェースを介して自動更新される。例えば、音楽制作インターフェース5の音量スライダをユーザが高い値の側にドラッグすると、それと同時に、表示されている再生時間スライダが小さい値の側に自動的に移動する。
【0089】
音楽制作インターフェース5を介してユーザが選択した設定情報はオーディオトランスコーダ6に送られ、レコード製造業者8がレコードの製造に使用するのに適した形式にデジタルオーディオファイルをオーディオトランスコーダ6がどのように変換するかが設定される。
【0090】
更に、オーディオトランスコーダ6は、製造されるレコード10のフォーマット及びデジタルオーディオファイルの構成の両方に基づき、デジタルオーディオファイルに対し、その他の処理を行う。
【0091】
例えば、オーディオトランスコーダ6は、元のデジタルオーディオファイル内の周波数のうち、特定の録音フォーマットに不適切な周波数を除去したり、他の周波数の振幅を制限したりするように構成されている。更に、ヘッドルームを削除して、符号化されるオーディオデータのS/N比を高めたり、オーディオデータのピーク制限を行ったりすることもできる。
【0092】
例えば、特定の高振幅低周波の低音は、LPレコードに問題が発生する可能性がある。そのような音の符号化には「スキー斜面」と言われる形状の溝が必要で、溝の読み取り(又は書き込み)に使用する針の針飛びに繋がる恐れがある。したがって、オーディオトランスコーダ6は、振幅と周波数を減衰させることで、そのような振幅と周波数の組み合わせのLPレコードフォーマットへの悪影響を最小限に抑えるように構成されている。
【0093】
オーディオトランスコーダ6は、RIAA等化を適用する形でデジタルオーディオファイルに他の同様の処理を行うように構成されている。ここで、録音のための標準RIAA等化曲線により、低周波の振幅は全体的に低減され、高周波の振幅は全体的にブーストされている。これにより、録音中に発生しがちなヒスノイズやクリック音などの高周波ノイズを効果的に減衰させることができる。
【0094】
オーディオトランスコーダ6は、トランスコードされ処理されたデジタルオーディオファイルを含む一組の製造指示の少なくとも一部を生成するよう構成されている。デジタルオーディオファイルは、通常、レコード10の各面に対して1つずつのオーディオファイルのペアとなっている。その他にも、特定のレコードフォーマットに特化した製造指示がオーディオトランスコーダ6によって生成される。
【0095】
特にLPレコード10用には、カッティング針の径方向内側への移動速度の変化をLPレコード10の製造中にどのように制御するかについての指示である録音ピッチ速度指示を生成するように構成されている。具体的には、録音中に、ピッチ速度指示により、LPレコードの連続した螺旋溝のピッチ、ひいては隣接する溝同士の有効間隔を制御することができる。
【0096】
溝同士の間隔が広すぎると総再生時間が短縮され、狭すぎると溝の「衝突」が起こる可能性があるため、そのバランスをとるために、上記制御が行われる。溝同士の間隔が狭いと、溝壁の歪みによって、1つの溝に記録された音が隣接する溝を介して聞こえてしまう、ゴーストが発生する可能性がある。
【0097】
ピッチ速度指示は、オーディオファイルの構成と再生(及び録音)中のターンテーブルの角速度に基づいて生成される。具体的には、オーディオトランスコーダ6は、デジタルオーディオファイル内の音溝の幅を決定し、決定した幅と回転周期毎に発生する音に対応する音溝とを比較し、最適な溝間隔を決定し、録音に最適なピッチ速度を決定する。例えば、33.33rpmで再生するLPレコードは、ターンテーブルが1.8秒毎に1回転する。したがって、デジタルオーディオファイル内の1.8秒離れたオーディオ信号同士が比較される。音溝の幅が広くなるオーディオ信号(高振幅信号など)の場合、符号化中にピッチ速度を速くする必要があり、1.8秒先の信号についても同様である。したがって、中間の幅広の溝に隣接する2つの溝(つまり、高振幅信号の1.8秒前と1.8秒後の符号化音)は、その幅広の溝から十分な間隔を取って設けられる。
【0098】
製造指示の少なくとも一部は、音楽制作インターフェース5から生成される。
【0099】
音楽制作インターフェース5では、WYSIWYG(What You See Is What You Get)エディタも使用可能となっており、編集ユーザは、レコード10及びパッケージ10cの外観を選択することができる。例えば、編集ユーザは、レコード10の材料の色を選択することができる。更に、編集ユーザは、レコード10のパッケージ10c上で画像ファイル32をどのような特徴にするかを選択することができる。LPレコードの場合、そのようなパッケージには、通常、レコードの各面に1枚ずつの一組のセンターラベル及びレコードジャケットが含まれる。
【0100】
例えば、編集ユーザは、適切なパッケージの構成要素の概要を示すテンプレートについて、画像の様々な特性(位置、サイズ、色合い、明るさ、コントラスト、不透明度など)を選択することができる。これらは、仮想レコードなどの他の仮想の構成要素ついて、音楽制作インターフェース5を介して表示可能である。これにより、各パッケージ構成要素のサイズについて、ユーザは明確なフィードバックを得ることができる。音楽制作インターフェース5では、レコード10とそのパッケージ10cの2Dテンプレート及びの3Dモデル表示も可能となっており、編集ユーザの最終的な音楽製品の視覚化と編集能力をより高めることができる。
【0101】
先述のように、画像ファイル32は、ユーザコンピュータ3から転送される場合やメディアライブラリから転送される場合がある。更に、画像は音楽制作インターフェース5に予めロードしておくことも、自動生成することもできる。例えば、ペアレンタルアドバイザリを明示するロゴのような標準画像は、音楽制作インターフェース5に予めロードしておき、ダウンロードしなくてもすぐに使用可能としておくこともできる。更に、音楽制作インターフェース5は、EAN-13コード、グリッドコード、ISRCコードなど、音楽製品やそのパッケージに特有の画像及び/又はテキストを自動生成するように構成されている。音楽制作インターフェース5は、そのようなコードを編集ユーザからの情報(原産国など)に基づいて自動生成する。更に、音楽制作インターフェース5は、英数字のコードからバーコードを生成するバーコードジェネレータも備えており、英数字のコードを機械可読画像にすることができる。音楽制作インターフェース5は、レコード及びパッケージの配列/配置に関するメタデータを自動生成することもできる。
【0102】
したがって、編集ユーザは、音楽フォーマットに使用する音楽の配列やアートワークの配置を選ぶことによって、一組の音楽製品を定義することができる。この音楽製品の編集ユーザは、注文ユーザとしてこれらの音楽製品を注文することができる。
【0103】
更に、これらの音楽製品は、システムサーバ7によってサポートされている音楽プラットフォーム上で編集ユーザが公開することによって、他の注文ユーザが注文することも可能となる。編集ユーザは、アカウントマネージャ4によって管理されるユーザアカウントで、これらの音楽製品に関する公開情報の設定、例えば、ユーザ指定の種類や製品へのアクセス範囲などの設定をすることができる。例えば、編集ユーザは、他のユーザがどの音楽製品が注文可能か、どのフォーマットで注文可能かをアカウントマネージャ4で指定することができる。例えば、ある音楽製品はLPレコードのみ注文可能とすることができる。
【0104】
更に、編集ユーザ(及び、多くの場合、権利者30)は、アカウントマネージャ4で以下のオプション及び情報を指定することができる。
-これらの音楽製品の一部をオンライン上で試聴可能か(例えば、特定のトラックの試聴)
-これらの音楽製品を見つけるための検索ワード
-トラックリスト
-トラック/アルバムの再生時間
-作曲家リスト
-ビデオクリップ
-著作権情報
-アートワーク表示
【0105】
トラック/アルバムの再生時間のような一部の情報は、例えば、編集ユーザと音楽制作インターフェース5とのやり取りの間に生成されるメタデータから音楽制作インターフェース5によって自動生成される。
【0106】
このような情報は、編集ユーザが編集したレコードを注文ユーザが注文することができるように音楽プラットフォーム上で公開され、結果として、権利者によって制作されたコンテンツが紹介される。
【0107】
このようにして、注文ユーザは、編集ユーザによって指定されたレコード10の制作を注文することができる。それに応じて、システムサーバ7は、オーディオトランスコーダ6及び音楽制作インターフェース5によって生成された製造指示及び音楽製品に関する他のデータを含む制作指示を生成する。
【0108】
図3は、レコード製造業者8及びレコード流通業者9の概略ブロック図であり、受注のための構成と配置が示されている。注文には制作指示70が含まれており、システムサーバ7から通信ネットワーク2を介して送信され、音楽製品が製造され、配送される。
【0109】
制作指示70には、音楽製品を適切な配送先11に配送するための配送指示71が含まれている。制作指示70には、個別注文識別子(unique order identifier,UOI)72と、トランスコード済みオーディオファイル73及び印刷指示74が含まれた製造指示とが含まれる。制作指示70a,70b、それに対応する配送指示71a,71b、UOI72a,72b、及び製造指示73a/74a,73b/74bは同時にレコード製造業者8に送信されてもよい。
【0110】
レコード製造業者8は、製造制御装置12、印刷モジュール13、アッセンブル部門14、及び処理・搬送モジュール15を備える。処理・搬送モジュール15は、静電気発生装置16、帯電防止装置17、削屑バキューム18、及び搬送装置19を備える。レコード流通業者9は、流通システム90を備える。静電気発生装置16は、各レコード作成モジュール20、20a,20b内の静電気ピンに接続されている。そのうちの1つの静電気ピン16aが
図3のレコード作成モジュール20内に示されている。
【0111】
本実施形態において、製造制御装置12は、システムサーバ7から制作指示70を受信し、制作指示70のうちの様々な指示をレコード製造業者8やレコード流通業者9の然るべき部門に送り、注文を完了させる。例えば、配送指示71,71a,71bは、製造制御装置12によって流通システム90に送信される。
【0112】
しかしながら、その他の形態として、制作指示70のうちの様々な指示をシステムサーバ7から該当する部門に直接送信するようにしてもよい。例えば、配送指示71,71a,71bをシステムサーバ7から流通システム90に直接送信するようにしてもよい。また、システムサーバ7が製造制御装置12の少なくとも一部を備えていてもよい。
【0113】
UOI72、72a,72bがレコード製造業者8及びレコード流通業者9の各部門に送信される場合、異なる指示が共通の注文番号によって互いに関連付けられる。これにより、レコード製造業者8及びレコード流通業者9の各部門からの様々なアウトプットが結び付けられ、注文を効果的に履行することができる。
【0114】
レコード製造業者8は、レコード作成モジュール20、20a,20bを更に備える。レコード作成モジュール20、20a,20bは同一構成であり、説明の簡略化のため、以下、1つについてのみ詳細に説明する。
【0115】
レコード作成モジュール20は、カッティングマシン制御装置21、筐体蓋22、及びカッティングヘッド23を備える。カッティングヘッド23は、トランスデューサ23a,23b、ダイアモンド製のカッティング針23c、及びキャリッジ23dを備える。
【0116】
レコード作成モジュール20は、アルミニウム製のターンテーブル24を更に備えている。レコード10は、ターンテーブル24のスピンドル24aを介して中央に位置決めされ、ターンテーブル24に支持され、カッティングヘッド23を使用して、レコード10にオーディオ変調された溝を刻むことができる。ターンテーブル24は、レコード10の下面10uを支持する上面を有し、レコード10の上面10tにカッティング針23cが食い込むようになっている。レコード作成モジュール20は、レコード10の下面10uとターンテーブル24の上面との間に挟まれるゴム製の支持マット25を更に備える。
【0117】
レコード作成モジュール20は、処理・搬送モジュールの削屑バキューム18に加えて、又はその代わりに、標準的な削屑バキューム及びバキュームチューブを備えていてもよい。
【0118】
カッティングマシンに関連する技術分野における一般的なその他の特徴については、具体的に説明しない。また、
図3にも示されていない。
【0119】
製造制御装置12は、レコード作成モジュール20、20a,20b、処理・搬送モジュール15、印刷モジュール13、アッセンブル部門14、及び流通システム90に通信可能に接続されている。前述したように、製造制御装置12は、制作指示70を受信し、適切な指示一式を各部に送信する。各部への指示の送信は、製造制御装置12によって決められたスケジュールに従って行うことによって、音楽製品の制作を待ち行列で効率的に行うか管理をするようにしてもよい。
【0120】
具体的には、製造指示は、処理・搬送モジュール15及びレコード作成モジュール20に送信され、印刷指示74は、印刷モジュール13に送信され、UOIは、アッセンブル部門14に送信される。
【0121】
処理・搬送モジュール15は、製造指示を受信するように構成され、製造指示に応じて、適切なブランクレコード10bをレコード作成モジュール20、20a,20bのうちの1つの内部の定位置に搬送する。処理・搬送モジュール15は、カッティングの間、ブランクレコード10bを定位置に保持し、カッティング済みレコード10を取り出してアッセンブル部門14に送る。製造指示73には、制作するレコード10の特徴(サイズや色など)を含まれているため、処理・搬送モジュール15は、受信した製造指示73に含まれる特徴に応じたブランクレコード10bを選ぶことができる。
【0122】
印刷指示74、74a,74bは印刷モジュール13に送信され、印刷及び裁断が行われ、レコードジャケット、ラベル及び/又はその他のパッケージ10cが作成され、アッセンブル部門14に送られる。アッセンブル部門14はカッティング済みレコード10及びパッケージ10cを受け取り、カッティング済みレコード10と、個別注文識別子(又は、スケジュールやその他の手段)により識別されたパッケージ10cとをアッセンブルし、一組の音楽製品を流通可能レコードパッケージ10dの形態でレコード流通業者9に送る。レコード流通業者9の流通システム90により、配送指示71,71a,71bによって指定された配送先11に音楽製品が配送される。個別注文識別子は、バーコードのような機械可読フォーマットで表され、アッセンブル部門14によってアッセンブルされる品物のそれぞれに印刷又は取り付けられていてもよい。
【0123】
次に、特定のLPレコードの製造にとって有効な点について説明する。
【0124】
LPレコードは、プラスチック材料の1つの塊から作製されたブランクレコードから作られる。プラスチック材料はグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET-G)であり、これから得られる組成物は、後述する処理に有効である。この組成物は、従来のビニールレコードの色と同じ黒を含め、実質あらゆる希望の色に着色することができる。したがって、本実施形態のレコード10は、「ビニールレコード」と呼ばれていたとしても、実際にはビニール(PVC)から作られているわけではない。
【0125】
また、ブランクレコードは、複数層からなるプラスチック材料で構成されていてもよい。具体的には、ブランクレコードは2つの外層と、外層に挟まれる内層を有していてもよい。外層のそれぞれには、オーディオ信号を符号化するためのカッティングが施される。また、外層は、内層より柔らかく、剛性の低い素材から作られていてもよい。また、内層が着色され、外層が半透明であってもよい。多層構造は、プラスチック材料からなる1つの個体から作られたブランクレコードに比べて複雑ではあるが、上述したような特定の利点をもたらす可能性がある。
【0126】
受理した注文に応じて、製造制御装置12は処理・搬送モジュール15に指示を与え、ブランクレコード10bを取り出し、レコード作成モジュール20のターンテーブル24に載置する。これは、搬送装置19、本実施形態ではロボット搬送装置19によって実行される。本処理は手動で実行されてもよい。ブランクレコード10bに傷が付かないように、ゴム製の支持マット25は事前にターンテーブル24の定位置に置かれており、ブランクレコード10bの下面とターンテーブル24との間の薄い保護層となっている。
【0127】
次に、処理・搬送モジュール15は、ブランクレコード10cをターンテーブル24に固定する処理を開始する。既存のカッティングマシンでは、ターンテーブルのスピンドルに取り付けられたクランプによって固定され、円盤の中央部を当該クランプとターンテーブルとの間で保持する。また、真空ピン留めによって円盤をターンテーブルに固定してもよい。本実施形態では、ターンテーブル24とブランクレコード10cとを静電付着による固定という有利な方法で行っている。
【0128】
処理・搬送モジュール15は静電気発生装置16を備えており、静電気発生装置16により上記静電付着を行うことができる。静電気発生装置16は、高直流電圧の送電線を介して、レコード作成モジュール20内の静電気放電ピン16aに接続されている。静電気放電ピン16aに約5~25kV電圧が印加されると、静電気を発生し、静電付着が起きる。静電気放電ピン16aは、ターンテーブル24に近接して設けられている。通常は、ターンテーブル24から1~3cm離れた位置で、ブランクレコード10bの周縁部に隣接する位置に配置される。静電気放電ピン16aからのコロナ放電は、ブランクレコード10b及び薄いゴム製の支持マット25を通過して、接地されたターンテーブル24まで到達する。もしくは、静電気放電ピン16aに接続された、上記送電線とは反対の極性を有する送電線を介して、静電気発生装置16に戻るように構成されていてもよい。
【0129】
本実施形態では、複数の放電ピンが設けられており、各レコード作成モジュール20、20a,20bに少なくとも1つの放電ピンが設けられ、1つの静電気発生装置で、複数のレコード作成モジュール20、20a,20bに対応できるようになっている。これに代えて、レコード作成モジュール20、20a,20b毎に1つの静電気発生装置が設けられていてもよい。また、放電ピンは、処理・搬送モジュール15に取り付けられていてもよいし、上記レコード作成モジュール16/各レコード作成モジュールに取り付けられていてもよい。
【0130】
ターンテーブル24は陽性のアルミニウム製であり、ブランクレコード10cは強い陰性のPET-G製であるため、2つの材料は帯電列において大きく離れている。したがって、静電気を帯電させると、2つの材料は強く引かれ合うことになる。これにより、従来のクランプを必要とせず、ブランクレコード10cをターンテーブル24にしっかりと固定することができる。
【0131】
ゴム製の支持マット25は、ターンテーブル24とブランクレコード10bとの間の静電付着に大きな影響を与えない程度に十分に薄い(~0.5mm)。本願の発明者らは、実験により、ゴム製の支持マット25に最適な材料が高密度(>1600kg/m3)合成ボムであることを発見した。支持マットは、理想的にはフッ素含有量が約65~70%のフッ素重合体エラストマ(通常はバイトン(登録商標)のブランド名で販売されている)からなる。このような材料は、支持マット25を薄くても耐久性のあるものとすることができ、傷を付き難くし、静電付着をし易くすることができる。更に、支持マット25は、カッティングヘッド23によって力が加えられた状態や静電付着状態でも著しく圧縮されることがない。したがって、より信頼性の高いカッティングが可能となる。
【0132】
ブランクレコード10bの定位置への固定に静電気を利用することは、第1に、固定にクランプが必要とされないため、ブランクレコード10bをターンテーブル24に載置するための搬送処理を簡素化することができる。第2に、レコード/ブランクレコード10bの下面10uの表面のほぼ全体に亘ってより確実に支持マット25を介してターンテーブル24に接続及び固定することができる。
【0133】
また、静電付着は、スピンドルを中心としたターンテーブル24とブランクレコード10b間の相対回転運動を抑制する。これにより、従来のレコード原盤制作で見られる第2のオフセット穴をブランクレコード10bに設ける必要がない。また、支持マット25によりターンテーブル24とブランクレコード10bの両方をしっかり保持することができるため、回転時の滑りを抑制することができる。
【0134】
上記方法は、従来の円盤付着方法に比べ、大きな利点がある。真空式の方法は、円盤を保持するターンテーブルに振動ノイズを発生させる。更に、従来のクランプ式では、円盤の中心部分のみを固定し、その周りの部分、つまり、溝が刻まれる部分は、理論上、中心部よりも曲がる可能性がある。本技術分野において、従来の原盤の構成は非常に堅牢な層を含む多層であるため、曲がりや歪みは最小限に抑えられており、上記の問題は、大きな問題とは捉えられていない。しかしながら、本発明の実施形態によれば、そのような曲がりの可能性も取り除くことができる。つまり、比較的シンプルで、安価で、薄く、柔軟なブランクレコード10bを使用することが可能となる。
【0135】
ブランクレコード10bの厚さは約1~2mmである。他の実施形態でも、厚さは通常、0.5~3mmの範囲である。このように曲がりが生じやすい比較的薄いブランクレコード10bであっても、静電付着という有利な方法によって、使用することが可能となっている。
【0136】
下記の搬送装置19によってブランクレコード10bがレコード作成モジュール20のターンテーブル24に載置された後、筐体蓋22が下ろされる。これは、静電気放電ピン16aの動作に必要な高電圧から作業者を守るための安全機構として機能する。筐体蓋22は、正確な録音の妨げとなる外部からの振動によるカッティングヘッド23への干渉を最小限に抑えるため、レコード作成モジュール20内部を遮音するためにも用いられる。
【0137】
筐体蓋22を開けたときに静電気発生装置16から静電気放電ピン16aへの高電圧接続を無効し、逆に、閉じたときに静電気放電ピン16aへの高電圧接続を有効にするスイッチ機構を筐体蓋22が備えていてもよい。その場合、静電気放電ピン16aは物理的に筐体蓋22に結合され、筐体蓋22を上げたときに静電気放電ピン16aがブランクレコード10b(又はレコード10)から離され、逆に、筐体蓋22を下げたときに静電気放電ピン16aの位置がブランクレコード10b及びターンテーブル24から最適な距離となるように正確に位置決めされるようになっていてもよい。
【0138】
処理・搬送モジュール15及びカッティングマシン制御装置21は、例えば製造制御装置12を介して互いに連携されており、ブランクレコード10bがターンテーブル24の定位置に載置されると、筐体蓋22が閉められ、ブランクレコード10bが静電付着によって定位置に保持され、カッティングが開始される。
【0139】
カッティングマシン制御装置21は、製造制御装置からトランスコード済みオーディオファイルを含む適切な製造指示73を受信し、これが、トランスデューサ23a、23bによって実行されるカッティング用の変調を含む、カッティングヘッド23の操作を行うために使用される。カッティングマシン制御装置21は、トランスコード済みオーディオファイルをデジタルフォーマットで受信し、アナログ信号のステレオペアに変換して各トランスデューサ23a、23bに送信するように構成されていてもよい。
【0140】
あるいは、カッティングマシン制御装置21は、中間D/Aコンバータからそのような信号を受信してもよい。更に、D/Aコンバータは音楽制作インターフェース5の一部であってもよい。
【0141】
カッティングマシン制御装置21は、製造指示73で規定されたピッチ速度で、カッティングヘッド23がキャリッジ23dに沿って径方向内側へ移動する動きを制御する。ターンテーブル24は33.33rpmの一定の角速度で回転し、カッティング針23cは、製造指示73内のトランスコード済みオーディオファイルに応じたオーディオ変調螺旋溝をブランクレコード10bに刻む。
【0142】
レコード制作の技術分野では周知のように、溝は、断面において、V字の谷形状となっており、左右の谷壁があり、それぞれがステレオのオーディオ信号の左右のチャンネルに対応している。谷壁は互いに90°をなして傾斜しており、レコードのほぼ平らな表面に垂直な軸に対して、45°をなしている。同様に、左右のトランスデューサ23a、23bは、カッティング中に、符号化される信号に対応するカッティング針23cのトランスデューサ23a、23bによる振動によって各直交面に沿ってカッティング針23cが動くように、トランスデューサ23a、23bの位置決め及び配置がなされている。
【0143】
オーディオ信号変調螺旋溝をレコード10に刻む処理は、片面を完了するのに、通常、15~20分かかる。この間、静電気放電ピン16aは周期的に何度も静電気を放電し、ブランクレコード10bがターンテーブル24に付着された状態を維持する。実験結果によれば、数秒間の放電を約4~10回繰り返す放電サイクルを2~5分毎に行った場合、ブランクレコード10bがターンテーブル24に確実に付着された状態を十分に維持することができる。このようなデューティサイクルを使用することにより、電力や静電付着の有効性を損失することなく、レコード作成モジュール20、20a、20bそれぞれの放電ピンへ静電気発生装置16からの出力を順番に分配することができる。特定の実施形態については、このように1つの静電気発生装置で複数のレコード作成モジュールに対応することができる。
【0144】
また、本願の発明者は、カッティング中、カッティングヘッド23がブランクレコード10bとかみ合う前は比較的高電圧の電力が印加され、カッティングヘッド23がブランクレコード10bとかみ合っている間は比較的低電圧の電力が印加される最適な放電形態を実験から見出した。高圧電力は、低圧電力の2倍以上高いことが好ましい。これにより、放電ピンからの電気がアークを発生させたり、カッティングヘッド23の動作に干渉したりする可能性を低減することができる。
【0145】
具体的には、カッティングを行う前に、静電気発生装置16によって約17kVの電圧が印加され、その後、カッティング中は7kVの電圧が定期的に印加されて、カッティング前に確立された静電付着が持続されるように構成されている。
【0146】
このカッティング中、処理・搬送モジュール15は他のレコード作成モジュール20、20a、20bに対応可能であり、使用不可となり得る時間を有効活用することができる。
【0147】
レコード作成モジュール20におけるカッティング完了後、処理・搬送モジュール15は元の位置に戻る。帯電防止装置17がオンとなり、カッティング済みレコード10とターンテーブル24との間の静電付着が解除される。
【0148】
帯電防止装置17はイオナイザバーと変圧器を備える。入力電圧が変圧器によって約7.5kVに昇圧される。昇圧された電圧は、シールドされた高圧ケーブルを介して帯電防止装置17のイオナイザバーへ印加される。イオナイザバーはエミッタ電極の列に接続されている。これにより、高エネルギーのイオン雲が形成され、イオン雲の中では、非常に多くの正イオンと負イオンが生成される。ほぼ同量の正イオンと負イオンが生成される。いずれかの極性の静電気を帯びた表面がイオン雲の近くを通過すると、その表面は直ちに中和される。帯電防止装置17は、イオン雲がカッティング済みレコード10及びターンテーブル24に向くように配置されており、静電付着を無効化することができる。帯電防止装置17の例としては、短距離パルスの24V入力DCイオン化装置が挙げられるが、他の帯電防止装置(AC又はDC)でも同様の効果を得ることができる。
【0149】
更に、帯電防止装置17又はそのエミッタ電極は、処理・搬送モジュール15の代わりに、レコード作成モジュールに備えられている構成も上記実施形態の変形例として挙げられる。
【0150】
帯電防止装置17による処理に続き、処理・搬送モジュール15の削屑バキューム18により、残留する削屑を除去することができる。そして、ロボット搬送装置19によってレコード10を裏返し、製造指示73に含まれる第2のトランスコード済みオーディオファイルを使用して、もう片方の面にカッティングを行うようにしてもよい。両方の面のカッティングが完了している場合、又は片方の面のみにカッティングを行う場合は、ロボット搬送装置19がカッティング済みレコード10を取り出して、アッセンブル部門14へ送り、指定されたパッケージ10cと組み合わせる。
【0151】
本実施形態では、帯電防止装置17はロボット搬送装置19に取り付けられており、カッティング済みレコード10の脱イオン化や操作を同時に行うことが可能となっているが、これらは別個に設けられ、別々に機能するようになっていてもよい。
【0152】
上述のように、アッセンブル部門14は、カッティング済みレコード10及びそのパッケージ10cを受け取って組み合わせ、一組の音楽製品を流通可能レコードパッケージ10dの形でレコード流通業者9に送る。レコード流通業者9の流通システム90は、通常これらを配送先11の住所が記載された郵便封筒に入れ、配送のために郵送システムに提出する。
【0153】
レコード流通業者9は、音楽製品の発送をシステムサーバ7に通知する。これにより、システムサーバ7は注文ユーザに発送を通知することができると共に、レコード10及び/又はパッケージ10cによって生み出される楽曲及び/又は画像作品の権利者30の収益に係るロイヤルティ支払処理を行うことができる。
【0154】
したがって、特にLPレコードに関して、採算の合う小規模単位の音楽製品の制作をサポートすることのできる、より強化されたレコード制作システム1及び方法200を実現することができる。この業界ではこれまで比較的少数のアーティストによる大量のユニットのみサポートされていたが、生産ユニット数の比較的少ない多数のアーティストに門戸を開くことができる。
【0155】
本発明について、特定の実施形態を示して説明したが、言うまでもなく、上記実施形態の代替、変形、変更も可能であることは当業者にとって明らかである。
【0156】
したがって、特許請求の範囲におけるそのような代替、変形、変更をすべて包含することが意図されている。
【国際調査報告】