IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エメンドバイオ・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2024-510604C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略
<>
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図1
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図2
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図3
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図4
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図5
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図6
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図7
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図8
  • 特表-C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】C3セーフハーバー部位へのノックイン戦略
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240301BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240301BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240301BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
A61K48/00
A61K31/7105
A61K38/46
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K47/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555654
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 US2022019701
(87)【国際公開番号】W WO2022192508
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/159,602
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521476126
【氏名又は名称】エメンドバイオ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル、ラフィ
(72)【発明者】
【氏名】ゴラン・メシア、ミハル
(72)【発明者】
【氏名】ディッケン、ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC42
4C076EE30
4C076EE30N
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC22
4C084NA13
4C084NA14
4C084NA15
4C084ZA75
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZA75
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、並びにその組成物、方法及び使用を提供する。具体的には、本発明は、細胞中の補体成分3(C3)遺伝子のアレルを改変する方法であって、少なくとも1つのヌクレアーゼ及び提供された17~50ヌクレオチドのガイド配列を含むRNA分子を含む組成物を細胞へ導入することを含む方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内で補体成分3(C3)遺伝子のアレルを改変する方法であって、
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、又は前記RNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を前記細胞へ導入することを含み、
前記CRISPRヌクレアーゼと前記RNA分子の複合体が前記C3遺伝子のアレルを二本鎖切断する、方法。
【請求項2】
前記組成物は、前記二本鎖切断部位に導入されるヌクレオチドの配列を含有するドナー分子を更に含み、前記導入されたヌクレオチドの配列の発現が前記C3遺伝子のプロモーターにより媒介される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入される配列が、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ、及びN-アセチルグルタミン酸シンテターゼ、αガラクトシダーゼA、凝固因子IX、凝固因子VII、リソソームαグルコシダーゼ、フィブリノーゲン、フェニルアラニン4-ヒドロキシラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコシルセラミダーゼ、βガラクトシダーゼ、ポルホビリノーゲンデアミナーゼ、アリールスルファターゼB、βグルクロニダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、リソソームα、α-L-イズロニダーゼ、マンノシダーゼ、ホスファチジルコリンステロールアシルトランスフェラーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、凝固因子X、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、A1AT、イズロン酸-2-スルファターゼ、リソソームαグルコシダーゼ、サイクリン依存性キナーゼ様5、プロ低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、タンパク質グルタミンγグルタミルトランスフェラーゼK、又はリソソーム保護タンパク質をコードする遺伝子に由来する配列である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記RNA分子のガイド配列部分が、前記CRISPRヌクレアーゼの標的をC3アレルのSNP位置とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記SNP位置が、rs17030、rs199713383及びrs35473940のいずれか1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記RNA分子のガイド配列部分が、C3アレルのSNP位置を標的とする、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記SNP位置がヘテロ接合SNPを含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記RNA分子が、C3のイントロン1又はC3の3’非翻訳領域(3’UTR)を標的とする非区別的なガイド配列部分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記RNA分子が、19:6677732~6677881及び19:6719404~6720515のいずれか1つから選択されるゲノムの範囲に位置する配列を標的とする非区別的なガイド部分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記RNA分子のガイド配列部分が、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記RNA分子のガイド配列部分が、完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個又は5個のヌクレオチドミスマッチを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記RNA分子のガイド配列部分が、完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個又は5個のヌクレオチドミスマッチを含有するように改変された、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ガイド配列部分が、前記C3遺伝子のアレルとの相補性が高いガイド配列部分と比較して、前記CRISPRヌクレアーゼと前記RNA分子との複合体に対して高い標的特異性を示す、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法により得られる改変された細胞。
【請求項15】
前記改変された細胞が、幹細胞、肝臓細胞、肝実質細胞又はiPS由来肝実質細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1~7,046、又は完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個若しくは5個のヌクレオチドミスマッチを含有するように改変された配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子。
【請求項17】
請求項16に記載のRNA分子及び少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼを含む組成物。
【請求項18】
ドナー分子を更に含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ドナー分子が、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ、N-アセチルグルタミン酸シンテターゼ、αガラクトシダーゼA、凝固因子IX、凝固因子VII、リソソームαグルコシダーゼ、フィブリノーゲン、フェニルアラニン4-ヒドロキシラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコシルセラミダーゼ、βガラクトシダーゼ、ポルホビリノーゲンデアミナーゼ、アリールスルファターゼB、βグルクロニダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、リソソームα、α-L-イズロニダーゼ、マンノシダーゼ、ホスファチジルコリンステロールアシルトランスフェラーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、凝固因子X、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、A1AT、イズロン酸-2-スルファターゼ、リソソームαグルコシダーゼ、サイクリン依存性キナーゼ様5、プロ低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、タンパク質グルタミンγグルタミルトランスフェラーゼK、又はリソソーム保護タンパク質をコードする遺伝子に由来する配列を含有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
細胞中のC3アレルを改変する方法であって、前記方法が請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞へ送達することを含む、方法。
【請求項21】
障害を治療する方法であって、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を前記障害を有する対象の細胞へ送達すること、又は請求項14又は15に記載の改変された細胞を前記対象に送達することを含む、方法。
【請求項22】
細胞中のC3アレルの改変に使用する、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬であって、前記医薬は、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞へ送達することにより投与される、医薬。
【請求項23】
請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を、障害を有する若しくは障害を有するリスクがある対象の細胞へ送達すること、又は請求項14又は15に記載の改変された細胞を前記対象に送達することを含む、障害の治療、寛解又は予防のための、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物又は請求項14又は15に記載の改変された細胞の使用。
【請求項24】
障害の治療、寛解又は予防に使用する、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物又は請求項14又は15に記載の改変された細胞を含む医薬であって、前記医薬は、前記障害を有する若しくは前記障害を有するリスクがある対象の細胞へ送達すること、又は請求項14又は15に記載の改変された細胞を前記対象に送達することにより投与される、医薬。
【請求項25】
前記障害が肝臓関連障害又はリソソーム蓄積症である、請求項21に記載の方法、請求項23に記載の使用、又は請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
前記医薬が酵素補充療法である、請求項24に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2021年3月11日に出願された米国仮出願第63/159,602号の恩恵を主張し、その米国仮出願の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
この出願全体で、括弧に入れて参照したものを含む、さまざまな刊行物を参照する。この出願において全体として言及された全ての刊行物の開示は、この発明が属する技術分野及びこの発明と共に使用される技術分野における特徴の追加の説明を提供するために、この出願に参照により組み入れられる。
【0003】
配列表への言及
この出願は、「220310_91702-A-PCT_Sequence_Listing_AWG.txt」と名付けられたファイルに存在するヌクレオチド配列を参照により組み入れ、そのファイルは、サイズが1,526kbであり、MS-Windows(登録商標)とのシステム互換性を有するIBM-PC機フォーマットで2022年2月28日に作成され、この出願の一部として、2022年3月10日に出願されたテキストファイルに含まれている。
【背景技術】
【0004】
ヒトゲノムのDNAの変動にはいくつかのクラスがあり、そのクラスには、挿入及び欠失、反復配列のコピー数の違い、並びに一塩基多型(SNP)が挙げられる。SNPは、ゲノム中の一塩基(アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、又はグアニン(G))が、ヒトの間、又は個体における対となった染色体の間で異なるDNA配列の変動である。長年にわたって、さまざまなDNAの変動が、形質若しくは疾患因果関係を突きとめる研究におけるマーカーとして、又は遺伝的障害の潜在的原因として、関心の的であった。
【0005】
DNAの変動は、細胞中の特定のDNA部位を標的とするためにも利用できる。例えば、アレル特異的補体成分3(C3)セーフハーバー部位は、有害な破壊を引き起こすことなく、そこへ配列を導入するために標的とすることができる。導入した配列のC3プロモーターによる発現を可能にするこのような標的化ストラテジーを、肝臓関連障害の治療に利用してもよい。
【発明の概要】
【0006】
C3プロモーターの調節下で、場合によってはC3遺伝子の発現をノックアウトすることなく、遺伝子又はその一部分の発現を可能にするストラテジーを開示する。
【0007】
本開示は、C3遺伝子の2つのアレル間を区別/識別するために、少なくとも1つの天然に存在するヌクレオチドの違い又は多型(例.一塩基多型(SNP))を利用してもよい。
【0008】
本開示はまた、細胞内で補体成分3(C3)遺伝子のアレルを改変する方法であって、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、又は当該RNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を細胞へ導入することを含み、
CRISPRヌクレアーゼとRNA分子の複合体がC3遺伝子のアレルを二本鎖切断する、方法を提供する。
【0009】
いくつかの態様では、組成物はドナー分子も含み、二本鎖切断部位又はその近傍に、ドナー分子由来のヌクレオチドの配列が挿入又はコピーされる。同様に、いくつかの態様では、組成物は二本鎖切断部位に導入されるヌクレオチドの配列を含有するドナー分子を更に含み、導入された配列の発現がC3遺伝子のプロモーターにより媒介される。
【0010】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第1のRNA分子を提供する。いくつかの態様では、組成物は、CRISPRヌクレアーゼを更に含む。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0011】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に記載した方法のいずれか1つにより改変された細胞を提供する。いくつかの態様では、細胞は幹細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝臓細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞である。いくつかの態様では、細胞はiPS由来肝実質細胞である。
【0012】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のいずれか1つの細胞への送達は、in vitro、ex vivo又はin vivoで実施する。いくつかの態様では、この方法はex vivoで実施され、細胞は個々の患者から提供/外植される。いくつかの態様では、この方法は、改変又は編集されたC3アレルを有する得られた細胞を、個々の患者へ導入する工程(例.自家移植)を更に含む。
【0013】
本発明のいくつかの態様では、肝臓関連障害を治療する方法であって、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、肝臓関連障害を有する対象の細胞へ送達することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0014】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を細胞へ送達することを含む、細胞中のC3アレルを改変又は編集するための、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物の使用を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0015】
本発明のいくつかの態様では、細胞中のC3アレルの改変又は編集に使用する、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む医薬を提供し、前記医薬が、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を細胞へ送達することにより投与される。いくつかの態様では、医薬はドナー分子を更に含む。
【0016】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達することを含む、肝臓関連障害の治療、寛解又は予防のための、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物の使用を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。いくつかの態様では、この方法はex vivoで実施され、細胞は対象から提供/外植される。いくつかの態様では、この方法は、改変又は編集されたC3アレルを有する得られた細胞を対象へ導入する工程(例.自家移植)を更に含む。
【0017】
本発明のいくつかの態様では、肝臓関連障害の治療、寛解又は予防に使用する、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を含む医薬を提供し、前記医薬が、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達することにより投与される。いくつかの態様では、医薬はドナー分子を更に含む。
【0018】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子、並びに、RNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを細胞へ送達することについての使用説明書を含む、細胞中のC3アレルを改変又は編集するキットを提供する。いくつかの態様では、キットはドナー分子を更に含む。
【0019】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子、並びに、RNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達することについての使用説明書を含む、対象において肝臓関連障害を治療するキットを提供する。いくつかの態様では、キットはドナー分子を更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】HeLa細胞におけるC3遺伝子のイントロン1を標的とするRNAガイド分子の編集活性。DNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集し、ゲノムDNAを抽出し、標的化された領域を増幅し、次世代シーケンシング(NGS)により変異について分析した。グラフは、3つの独立したトランスフェクションの編集の割合(%)±標準偏差を表す。
図2】それぞれC3遺伝子のイントロン1を標的とする「g6」及び「g11」ガイド分子の活性。OMNI-79ガイドを、HeLa細胞においてトランスフェクトした。OMNI-50タンパク質及びOMNI-50合成RNAガイド分子を有するRNPを、HepG2細胞へ電気穿孔した。DNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集し、ゲノムDNAを抽出し、標的化された領域を増幅し、次世代シーケンシング(NGS)により変異について分析した。グラフは、3つの独立したトランスフェクション又は2つの独立したRNP電気穿孔の編集の割合(%)±標準偏差を表す。
図3】対照試料と比較した、編集された試料におけるC3 mRNAの相対量。電気穿孔から7日後に細胞を収集した。次いでRNAを抽出し、RT-qPCRを行った。グラフは、2つの独立したRNP電気穿孔の、対照試料と比較した編集された試料におけるC3 mRNAの相対量±標準偏差を表す。
図4】相同組換え修復(HDR)によるGFPの内因性C3遺伝子座への挿入。エクソン1は、分泌前に切断されるシグナルペプチドをコードする。分泌されるGFPは、エクソン1シグナルペプチドと共にスプライスされる。概略図において、「左HA」及び「右HA」は、それぞれ、左及び右の相同アームを指す。「SA」は、スプライスアクセプター部位を指し、「ポリA」は、ポリアデニル化シグナルを指す。
図5】フローサイトメトリーにより測定した、感染から72時間後のGFP発現。HepG2細胞を、CRISPRヌクレアーゼ(OMNI-79 V5570)及びガイド(C3 g11)、又はGFP相同組換え修復(HDR)鋳型のいずれかを含有する、AAVウイルス粒子に感染させた。構成的プロモーター下のGFPをコードするDNA分子を含有するAAVは、感染効率を評価する陽性対照として用いた。HDR鋳型のみに感染した細胞ではGFP発現は検出されず、オフターゲット組込みがないこと示している。グラフは、GFP陽性細胞の平均(%)±標準偏差(n=3)を表す。
図6】フローサイトメトリーにより測定した、感染から15日後のHepG2細胞におけるGFP発現。特に、GFP陽性細胞の集団ではその頻度が増加した。
図7】処理から15日後のHepG2細胞におけるGFP分泌のプレートリーダーによる測定。感染から14日後、自己蛍光を低下させるために、細胞培地をOpti-MEM(登録商標)へ交換し、15日目に細胞培地を収集して、GFP蛍光を測定した。全てのHDR陽性条件において、GFP蛍光は、未処理(NT)細胞のバックグラウンドより高かった。
図8】処理から8日後のGFP発現のフローサイトメトリー検出により測定した、電気穿孔後の編集を受けてのGFP組込み。HepG2細胞に、OMNI-50ヌクレアーゼ及びガイド(C3 g11)を含むRNPを電気穿孔し、電気穿孔から2時間後、GFP HDR鋳型を含有するAAVを感染させた。構成的プロモーター下にGFPをコードするDNA分子を含有するAAVは、感染効率を評価する陽性対照として用いた。GFPは、RNPが電気穿孔されかつHDR鋳型に感染した細胞において検出された。グラフは、GFP陽性細胞の平均(%)±標準偏差(n=2)を表す。
図9】処理から8日後のHepG2細胞におけるGFP分泌のプレートリーダー測定。感染から7日後、自己蛍光を低下させるために、細胞培地をOpti-MEM(登録商標)へ交換し、8日目に細胞培地を収集して、GFP蛍光を測定した。未処理(NT)試料における非特異的蛍光を全ての試料から減算した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
別段の定義がある場合を除き、この明細書で用いる全ての技術的及び/又は科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。この明細書に記載したものと類似した又は等価の方法及び材料は、本発明の態様の実施又は試験に用いることができるが、代表的な方法及び/又は材料を以下に記載する。矛盾する場合、定義を含めて、この特許明細書が優先する。加えて、材料、方法及び実施例は例証となるのみであり、必ずしも限定することを意図するものではない。
【0022】
用語「1つの(a、an)」は、列挙された成分の「1つ以上」を指すことが理解される。単数形の使用は、具体的に別段の説明がある場合を除き、複数形を含むことは当業者に明らかである。したがって、用語「1つの(a、an)」及び「少なくとも1つの」は、この出願では同じ意味である。
【0023】
この教示をより良く理解することを目的として、かつ教示の範囲を決して限定することなく、別段の指示がある場合を除き、この明細書及び特許請求の範囲で用いられる、量、パーセンテージ又は割合を表す全ての数及び他の数値は、あらゆる場合において、用語「約」により修飾されていると理解される。したがって、反する指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲に示した数的パラメータは、得られるように求められる所望の性質に依存して変動し得る近似値である。最低でも、各数的パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮しかつ通常の丸め技術を適用することによって解釈される。
【0024】
別段の説明がある場合を除き、形容詞、例えば、本発明の態様の特徴を示す状態又は関係を修飾する「実質的に」及び「約」は、その状態又は特性が、それが意図される適用についての態様の運用に受け入れられる許容範囲内までで定義されることを意味すると理解される。別段の指示がある場合を除き、この明細書及び特許請求の範囲における語「又は」は、排他的な「又は」というよりむしろ、包含的な「又は」であると見なされ、それが結合させる項目の少なくとも1つ又は任意の組合せを示す。
【0025】
本出願の説明及び特許請求の範囲において、動詞「含む(comprise)」、「含有する(include)」及び「有する(have)」、並びにそれらの活用形は、その動詞の目的語が、必ずしも、その動詞の主語の成分、要素又は部分の完全な列挙とは限らないことを示すために用いられる。この明細書では他の用語は、当技術分野におけるそれらの周知の意味により定義されることを意図される。
【0026】
用語「相同組換え修復」又は「HDR」は、細胞内で、例えばDNAの二本鎖及び一本鎖切断の修復中に、DNA損傷を修復する機構を指す。HDRは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、二本鎖又は一本鎖切断が起きた配列(例.DNA標的配列)を修復するために「核酸鋳型」(この明細書では、核酸鋳型とドナー鋳型は同じ意味である)を用いる。これは、例えば核酸鋳型から、DNA標的配列への遺伝子情報の移動が生じる。HDRは、核酸鋳型の配列がDNA標的の配列と異なり、かつ、核酸鋳型ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの一部又は全部がDNA標的配列へ組み入れられる場合には、DNA標的の配列が変化(例.挿入、欠失、変異)する可能性がある。いくつかの態様では、核酸鋳型ポリヌクレオチド全体、核酸鋳型ポリヌクレオチドの一部分又は核酸鋳型のコピーが、DNA標的配列に組み込まれる。
【0027】
用語「核酸鋳型」及び「ドナー」は、ゲノムへ挿入又はコピーされるヌクレオチド配列を指す。核酸鋳型は、標的核酸に付加されるか、標的核酸に変化を引き起こす鋳型となるか、又は、標的配列を改変するために用いてもよい、例えば1ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列を含む。核酸鋳型配列は、任意の長さ、例えば、2~10,000ヌクレオチド長であってもよい。核酸鋳型は、一本鎖核酸でも二本鎖核酸でもよい。いくつかの態様では、核酸鋳型は、例えば標的位置の、標的核酸の野生型配列に対応する、例えば1ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、核酸鋳型は、標的核酸の、例えば標的位置の、野生型配列と対応する、例えば1リボヌクレオチド以上の、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、核酸鋳型は修飾ヌクレオチドを含む。
【0028】
外因性配列(「ドナー配列」、「ドナー鋳型」、「ドナー分子」又は「ドナー」ともいう)の挿入も実行できる。例えば、ドナー配列は、相同な2つの領域に隣接する非相同配列を含めることで、目的の位置における効率的な相同組換え修復(HDR)が可能となる。さらに、ドナー配列は、細胞クロマチン中の目的の領域と相同ではない配列を有するベクター分子を含むことができる。ドナー分子は、細胞クロマチンと相同ないくつかの不連続な領域を含めることができる。例えば、通常は目的の領域に存在しない配列を標的とする挿入のために、前記配列をドナー核酸分子に含め、かつ目的の領域の配列と相同な領域を隣接させることができる。ドナー分子の長さは任意であり、例えば数ベース(例.10~20ベース)から数キロベースであってもよい。
【0029】
ドナーポリヌクレオチドは、DNA又はRNA、一本鎖及び/又は二本鎖であってもよく、直鎖状又は環状の形で細胞へ導入できる。例えば、米国特許出願公開第2010/0047805号;同第2011/0281361号;同第2011/0207221号及び同第2019/0330620号を参照。Anzalone et al. (2019)も参照。直鎖状の形で導入する場合には、ドナー配列の末端は、当業者に知られた方法により、(例えば、エキソヌクレアーゼの分解から)保護できる。例えば、1個以上のジデオキシヌクレオチド残基が、直鎖状分子の3’末端に付加され、及び/又は自己相補性オリゴヌクレオチドが一方若しくは両方の末端に連結される。例えば、Chang et al. (1987)及びNehls et al. (1996)を参照。外因性ポリヌクレオチドを分解から保護するための別の方法には、末端アミノ基の付加、ホスホロチオエート、ホスホロアミデートといった修飾型ヌクレオチド間結合及びO-メチルリボース又はデオキシリボース残基の使用が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0030】
ドナー配列は、オリゴヌクレオチドであってもよく、標的による内因性配列変更のために用いてもよい。オリゴヌクレオチドは、ベクターにより細胞へ導入してもよく、細胞へ電気穿孔してもよく、又は当技術分野において知られた他の方法によって導入してもよい。ドナーポリヌクレオチドは、裸の核酸として、リポソーム若しくはポロキサマーといった作用物質と複合体化された核酸として、導入でき、又はウイルス(例.アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV))により送達できる。
【0031】
この明細書では、用語「改変された細胞」は、標的配列とのハイブリダイゼーション、すなわち、オンターゲットハイブリダイゼーションの結果、RNA分子及びCRISPRヌクレアーゼの複合体が二本鎖切断する細胞を指す。用語「改変された細胞」は、二本鎖切断後に、外因性配列の導入を含む編集又は改変が行われた細胞を更に包含する場合がある。
【0032】
この発明は、この明細書に記載した方法のいずれかの使用により得られる改変された細胞を提供する。ある態様では、これらの改変された細胞は、子孫細胞を生じる能力がある。ある態様では、これらの改変された細胞は、移植後、子孫細胞を生じる能力がある。限定するものではない例として、改変された細胞は、造血幹細胞(HSC)又は同種間細胞移植若しくは自己細胞移植に適した細胞であってもよい。限定するものではない例として、改変された細胞は、幹細胞、肝臓細胞、肝実質細胞又はiPS由来肝実質細胞であってもよい。
【0033】
この発明はまた、これらの改変された細胞及び薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。細胞を薬学的に許容される担体と混合することを含む、この組成物を調製するin vitro又はex vivoの方法も、提供される。
【0034】
この明細書では、用語「標的化配列」又は「標的化分子」は、特定の標的配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列、又はヌクレオチド配列を含む分子を指し、例えば、標的化配列は、標的となる配列と少なくとも部分的に相補的であるヌクレオチド配列を有する。標的化配列又は標的化分子は、単独で、又は他のRNA分子と組み合わせて、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成できるRNA分子の一部であってもよく、標的化配列が、CRISPR複合体の標的化部分としての役割を果たす。標的化配列を有する分子がCRISPR分子と同時に存在する場合、RNA分子は、単独で又は他の1つ以上のRNA分子(例.tracrRNA分子)と組み合わせて、CRISPRヌクレアーゼの標的を特定の標的配列とする能力がある。限定するものではない例として、CRISPR RNA分子のガイド配列部分又は単一ガイドRNA分子は、標的化分子としての役割を果たしてもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。標的化配列は、所望の配列を標的とするようにカスタムデザインできる。
【0035】
この明細書では、用語「標的とする」は、標的化分子の標的化配列を、標的化されるヌクレオチド配列を有する核酸へ優先的にハイブリダイズさせることを指す。用語「標的化する」は、可変性のハイブリダイゼーション効率を包含し、したがって、標的化されるヌクレオチド配列を有する核酸の優先的標的化があるが、オンターゲットハイブリダイゼーションに加えて、意図しないオフターゲットハイブリダイゼーションも生じる可能性があることは理解されている。RNA分子が配列を標的とする場合、RNA分子とCRISPRヌクレアーゼ分子の複合体は、ヌクレアーゼ活性のためにその配列を標的とすることは理解されている。
【0036】
RNA分子の「ガイド配列部分」は、特定の標的DNA配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列を指し、例えば、ガイド配列部分は、ガイド配列部分に沿って標的化されるDNA配列と部分的に又は完全に相補的であるヌクレオチド配列を有する。いくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチドの長さは、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49若しくは50、又は、およそ17~50、17~49、17~48、17~47、17~46、17~45、17~44、17~43、17~42、17~41、17~40、17~39、17~38、17~37、17~36、17~35、17~34、17~33、17~31、17~30、17~29、17~28、17~27、17~26、17~25、17~24、17~22、17~21、18~25、18~24、18~23、18~22、18~21、19~25、19~24、19~23、19~22、19~21、19~20、20~22、18~20、20~21、21~22若しくは17~20である。好ましくは、ガイド配列部分の全長は、ガイド配列部分に沿って標的化されるDNA配列と完全に相補的である。ガイド配列部分は、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成できるRNA分子の一部であってもよく、ガイド配列部分がCRISPR複合体のDNA標的化部分としての役割を果たす。ガイド配列部分を有するRNA分子が、単独で又は追加の1つ以上のRNA分子(例.tracrRNA分子)と組み合わせて、CRISPR分子と同時に存在する場合、RNA分子は、CRISPRヌクレアーゼの標的を特定の標的DNA配列とする能力がある。したがって、CRISPR複合体は、ガイド配列部分を有するRNA分子のCRISPRヌクレアーゼとの直接的結合により、又はガイド配列部分及び追加の1つ以上のRNA分子を有するRNA分子のCRISPRヌクレアーゼとの結合により、形成できる。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。ガイド配列部分は、任意の所望の配列を標的とするようにカスタムデザインできる。したがって、「ガイド配列部分」を含む分子は一種の標的化分子である。いくつかの態様では、ガイド配列部分は、この明細書に記載したガイド配列部分、例えば、配列番号1~7,046のいずれかに示すガイド配列と同じ配列、又は1、2、3、4若しくは5ヌクレオチド以下の異なる配列を含む。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。これらの態様の一部において、ガイド配列部分は、配列番号1~7,046のいずれかに示す配列と同じである配列を含む。この出願全体で、用語「ガイド分子」、「RNAガイド分子」、「ガイドRNA分子」及び「gRNA分子」は、ガイド配列部分を含む分子と同義である。
【0037】
この明細書では、用語「非区別的な」は、遺伝子の一対のアレルで共通する特定のDNA配列を標的とするRNA分子のガイド配列部分を指す。例えば、非区別的なガイド配列部分は、細胞内に存在する遺伝子の一対のアレルを標的とすることができる。
【0038】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む。
【0039】
RNA分子及び/又はRNA分子のガイド配列部分は、修飾ヌクレオチドを有してもよい。ヌクレオチド又はポリヌクレオチドへの代表的な修飾は、合成であってもよく、天然に存在するアデニン、シトシン、チミン、ウラシル又はグアニン塩基以外の塩基を含むヌクレオチドを有するポリヌクレオチドを包含してもよい。ポリヌクレオチドへの修飾には、合成で、天然に存在しないヌクレオシド、例えば、ロックド核酸を有するポリヌクレオチドが挙げられる。RNAの安定性を増加又は減少させるために、ポリヌクレオチドを修飾してもよい。修飾ポリヌクレオチドの例は、1-メチルプソイドウリジンを有するmRNAである。修飾ポリヌクレオチドとその用途の例は、米国特許第8,278,036号、国際公開第2015/006747号及びWeissman and Kariko (2015)を参照。これらは、参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0040】
この明細書では、配列番号で示す「連続するヌクレオチド」は、ヌクレオチドの介入を一切含まない、配列番号に示した順序での配列のヌクレオチドを指す。
【0041】
本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、25ヌクレオチド長であってもよく、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する20~22ヌクレオチドを含有してもよい。本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、22ヌクレオチド長未満であってもよい。例えば、本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、17、18、19、20又は21ヌクレオチド長であってもよい。そのような態様では、ガイド配列部分は、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す連続する17~22ヌクレオチドの配列における、それぞれ17、18、19、20又は21ヌクレオチドからなってもよい。例えば、配列番号7,047に示す連続する17ヌクレオチドの配列のガイド配列部分は、以下のヌクレオチド配列のいずれか1つからなってもよい(連続する配列から排除されたヌクレオチドには、取り消し線が引かれている):
【0042】
【化1】
【0043】
本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチドの長さは、20を超えてもよい。例えば、本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチド長は、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30であってもよい。そのような態様では、ガイド配列部分は、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す連続する20、21又は22ヌクレオチドの配列を含有する17~50ヌクレオチド、及び、標的配列の3’末端、5’末端、又は両者に隣接するヌクレオチド(の配列)に完全に相補的なヌクレオチドを含む。
【0044】
本発明のいくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼ、及びガイド配列部分を含むRNA分子は、標的DNA配列と結合して、標的DNA配列を切断するCRISPR複合体を形成する。CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cpf1は、追加のtracrRNA分子なしで、CRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子を含むCRISPR複合体を形成してもよい。あるいは、CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9は、CRISPRヌクレアーゼとRNA分子とtracrRNA分子の間でCRISPR複合体を形成してもよい。特定の標的DNA配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列を含むガイド配列部分と、CRISPRヌクレアーゼ結合に関与する配列部分、例えば、tracrRNA配列部分は、同じRNA分子中に存在できる。あるいは、ガイド配列部分は1つのRNA分子に存在し、CRISPRヌクレアーゼ結合に関与する配列部分、例えば、tracrRNA部分は、別のRNA分子に存在してもよい。ガイド配列部分(例.DNA標的化RNA配列)及び少なくとも1つのCRISPRタンパク質結合RNA配列部分(例.tracrRNA配列部分)を含む単一のRNA分子が、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成し、DNA標的化分子としての役割を果たすことができる。いくつかの態様では、ガイド配列部分を含むDNA標的化RNA部分を含む第1のRNA分子と、CRISPRタンパク質結合RNA配列を含む第2のRNA分子は、塩基対形成により相互作用して、CRISPRヌクレアーゼの標的をDNA標的部位とするRNA複合体を形成し、あるいは、融合してCRISPRヌクレアーゼと複合体化し、CRISPRヌクレアーゼの標的をDNA標的部位とするRNA分子を形成する。
【0045】
本発明のいくつかの態様において、ガイド配列部分を含むRNA分子は、tracrRNA分子の配列を更に含んでいてもよい。そのような態様は、RNA分子のガイド部分とトランス活性化crRNA(tracrRNA)の合成的融合体としてデザインされてもよい。(Jinek et al., 2012参照)。そのような態様では、RNA分子は単一ガイドRNA(sgRNA)分子である。本発明のいくつかの態様は、個々のtracrRNA分子及びガイド配列部分を含む個々のRNA分子を利用するCRISPR複合体も形成してもよい。そのような態様では、tracrRNAは、塩基対形成を介してRNA分子とハイブリダイズしてもよく、この明細書に記載した発明のある特定の適用において有利である可能性がある。
【0046】
用語「tracrメイト配列」は、塩基対形成を介してtracrRNAとハイブリダイズし、CRISPR複合体の形成を促進するように、tracrRNA分子に対して十分に相補的な配列を指す。(米国特許第8,906,616号参照)。本発明のいくつかの態様では、RNA分子はtracrメイト配列を有する部分を更に含んでいてもよい。
【0047】
本発明では、「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域、及び、遺伝子産物の産生を制御する全てのDNA領域を含み、前記制御領域の配列は、コード配列及び/又は転写配列と隣接しているか、していないかを問わない。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列、例えば、リボソーム結合部位及び配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス付着部位、並びに遺伝子座調節領域が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。
【0048】
「真核」細胞には、真菌細胞(例.酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0049】
この明細書では、用語「ヌクレアーゼ」は、核酸のヌクレオチドサブユニット間のホスホジエステル結合を切断する能力がある酵素を指す。ヌクレアーゼは、天然物から単離してもよく、又は天然物に由来するものであってもよい。天然物は、生きている生物体であってもよい。あるいは、ヌクレアーゼは、ホスホジエステル結合切断活性を保持する、改変された又は合成されたタンパク質であってもよい。遺伝子改変は、ヌクレアーゼ、例えばCRISPRヌクレアーゼを用いて実現できる。
【0050】
本発明のいくつかの態様では、C3遺伝子のアレル内又はその近傍に位置するSNP位置(REF/SNP配列)を含む標的配列と完全に又は部分的に相補的であるヌクレオチド配列を含むガイド配列部分(例.標的化配列)を含むRNA分子を提供する。いくつかの態様では、RNA分子のガイド配列部分は、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26ヌクレオチド、又は26ヌクレオチドより多くからなる。いくつかの態様では、ガイド配列部分は、CRISPRヌクレアーゼの標的を標的配列に向け、それと複合体化されたCRISPRヌクレアーゼにより、C3標的部位から500、400、300、200、100、50、25又は10ヌクレオチド内に、二本鎖切断及び一本鎖切断から選択される切断事象を与えるように形成される。いくつかの態様では、RNA分子は、ガイドRNA分子、例えばcrRNA分子又は単一ガイドRNA分子である。
【0051】
この明細書では、用語「HSC」は、造血幹細胞と造血前駆幹細胞の両者を指す。幹細胞の限定するものではない例には、骨髄細胞、骨髄系前駆細胞、多能性前駆細胞及び系列限定前駆細胞が挙げられる。
【0052】
この明細書では、「前駆細胞」は、幹細胞に由来し、かつ有糸分裂能及び多分化能(例えば、細胞の成熟系列の全ての型とは限らないが、1つより多い型へ分化し、又は発生できる)を保持する系列細胞を指す。この明細書では、「造血(hematopoiesis、hemopoiesis)」は、さまざまな血液細胞(例.赤血球、巨核球、骨髄系細胞(例.単球、マクロファージ及び好中球)及びリンパ球)及び他の形成される要素の、体内(例.骨髄)での形成及び発生を指す。
【0053】
この明細書では、用語「一塩基多型(SNP)位置」は、一塩基DNA配列の変動が、種の間、又は個体における対となった染色体の間に存在する位置を指す。SNP位置が個体における対となった染色体に存在する場合、その染色体の一方のSNPは「ヘテロ接合SNP」である。SNP位置という用語は、特定の変動が存在する特定の核酸の位置を指し、特定の核酸の位置における最も頻繁に存在する塩基からの変動を含む配列(「SNP」又は「ALT」ともいう)と、特定の核酸の位置における最も頻繁に存在する塩基を含む配列(参照又は「REF」ともいう)の両者を包含する。したがって、SNP位置の配列は、SNP(すなわち、集団内のコンセンサス参照配列に対する配列バリアント)又は参照配列それ自体を反映する可能性がある。
【0054】
本発明のいくつかの態様では、細胞内で補体成分3(C3)遺伝子のアレルを改変する方法であって、
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、又は当該RNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を細胞へ導入することを含み、
CRISPRヌクレアーゼとRNA分子の複合体がC3遺伝子のアレルを二本鎖切断する方法を提供する。
【0055】
いくつかの態様では、組成物はドナー分子も含む。いくつかの態様では、二本鎖切断部位又はその近傍に、ドナー分子由来のヌクレオチドの配列が挿入又はコピーされる。
【0056】
いくつかの態様では、組成物は二本鎖切断部位に導入されるヌクレオチドの配列を含有するドナー分子を更に含み、導入された配列の発現がC3遺伝子のプロモーターにより媒介される。
【0057】
いくつかの態様では、導入される配列は、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ及びN-アセチルグルタミン酸シンテターゼの遺伝子に由来する配列である。
【0058】
いくつかの態様では、RNA分子は、CRISPRヌクレアーゼの標的をC3アレルのSNP位置とする。
【0059】
いくつかの態様では、SNP位置は、rs17030、rs199713383及びrs35473940のいずれか1つである。
【0060】
いくつかの態様では、第1のRNA分子のガイド配列部分は、C3アレルのSNP位置を標的とする、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0061】
いくつかの態様では、SNP位置はヘテロ接合SNPを含む。
【0062】
いくつかの態様では、SNP位置は、C3アレルのエクソン又はイントロン内にある。
【0063】
いくつかの態様では、RNA分子は、一対のC3アレルを標的とする非区別的なガイド部分を含む。
【0064】
いくつかの態様では、RNA分子は、C3のイントロン1又は3’非翻訳領域(3’UTR)を標的とする非区別的なガイド部分のいずれか1つを標的とする非区別的なガイド部分を含む。
【0065】
いくつかの態様では、RNA分子は、19:6677732~6677881及び19:6719404~6720515のいずれか1つから選択されるゲノムの範囲に位置する配列を標的とする非区別的なガイド部分を含む。
【0066】
RNA分子のガイド配列部分は、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0067】
いくつかの態様では、RNA分子のガイド配列部分は、完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個又は5個のヌクレオチドミスマッチを含む。
【0068】
いくつかの態様では、RNA分子のガイド配列部分は、完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個又は5個のヌクレオチドミスマッチを含有するように改変された、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0069】
いくつかの態様では、ガイド配列部分は、C3遺伝子のアレルとの相補性が高いガイド配列部分と比較して、CRISPRヌクレアーゼとRNA分子との複合体に対して、高い標的特異性を示す。
【0070】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つの方法により得られる改変された細胞を提供する。
【0071】
いくつかの態様によれば、細胞は、幹細胞、肝臓細胞、肝実質細胞又はiPS由来肝実質細胞である。
【0072】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子を提供する。
【0073】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子及び少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を提供する。
【0074】
いくつかの態様では、RNA分子は、配列番号1~7,046か、完全に相補的なC3標的配列に対して1個、2個、3個、4個若しくは5個のヌクレオチドミスマッチを含有するように改変された配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む。
【0075】
いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0076】
いくつかの態様では、ドナー分子は、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ、及びN-アセチルグルタミン酸シンテターゼの遺伝子に由来する配列を含有する。
【0077】
本発明のいくつかの態様では、細胞中のC3アレルを改変又は編集する方法であって、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物を細胞へ送達することを含む方法を提供する。
【0078】
本発明のいくつかの態様では、肝臓関連障害を治療する方法であって、肝臓関連障害を有する対象の細胞へ組成物を送達すること、又はこの明細書に示した態様のいずれか1つの改変された細胞を対象に送達することを含む方法を提供する。
【0079】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物を細胞へ送達することを含む、細胞中のC3アレルを改変又は編集するための、この明細書に示した組成物のいずれか1つの使用を提供する。
【0080】
本発明のいくつかの態様では、細胞中のC3アレルの改変又は編集に使用する、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物を含む医薬を提供し、前記医薬は、前記組成物を細胞へ送達することにより投与される。
【0081】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物を、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達すること、又はこの明細書に示した方法のいずれか1つにより改変された細胞を対象へ送達することを含む、肝臓関連障害の治療、寛解又は予防のための、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物又は改変された細胞の使用を提供する。
【0082】
本発明のいくつかの態様では、肝臓関連障害の治療、寛解又は予防に使用する、この明細書に示した態様のいずれか1つの組成物を含む医薬を提供し、前記医薬は、前記組成物を、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達することにより投与される。
【0083】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つのRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子;並びに、RNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを細胞へ送達することについての使用説明書を含む、細胞中のC3アレルを改変又は編集するキットを提供する。いくつかの態様では、キットは、ドナー分子及びドナー分子を細胞へ送達することについての使用説明書を更に含む。
【0084】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つのRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子;並びに、RNA分子;CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを、肝臓関連障害を有するか有するリスクがある対象の細胞へ送達することについての使用説明書を含む、対象において肝臓関連障害を治療するためのキットを提供する。いくつかの態様では、キットは、ドナー分子及びドナー分子を細胞へ送達することについての使用説明書を更に含む。
【0085】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子を含む遺伝子編集組成物を提供する。いくつかの態様では、RNA分子は、CRISPRヌクレアーゼと結合する配列を有する部分を更に含む。いくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼと結合する配列はtracrRNA配列である。
【0086】
いくつかの態様では、RNA分子はtracrメイト配列を有する部分を更に含む。
【0087】
いくつかの態様では、RNA分子は1つ以上のリンカー部分を更に含んでいてもよい。
【0088】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子のヌクレオチド長は、1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、又は100までであってもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。本発明のいくつかの態様では、RNA分子のヌクレオチドの長さは、17~300、100~300、150~300、100~500、100~400、200~300、100~200又は150~250であってもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。
【0089】
本発明のいくつかの態様では、組成物はtracrRNA分子を更に含む。
【0090】
本発明のいくつかの態様では、細胞中のC3アレルを改変又は編集する方法であって、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を細胞へ送達することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0091】
本発明のいくつかの態様では、障害を治療する方法であって、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、障害を有する対象の細胞へ送達することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。いくつかの態様では、障害は肝臓関連障害である。いくつかの態様では、障害はリソソーム蓄積症である。
【0092】
本発明のいくつかの態様では、対象の肝臓細胞においてDNA標的部位を改変する方法であって、DNA標的部位の改変が、改変によりコードされる所望のタンパク質を分泌するように肝臓細胞を誘導し、配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、対象の細胞へ送達することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、組成物はドナー分子を更に含む。
【0093】
本発明のいくつかの態様では、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子が、対象及び/又は細胞へ、実質的に同時に又は異なる時点で送達される。
【0094】
いくつかの態様では、tracrRNA分子が、CRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子と、実質的に同時に又は異なる時点で、対象及び/又は細胞へ送達される。
【0095】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は、C3遺伝子のエクソン内のSNP、イントロン内のSNP、第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロン内のSNP、C3遺伝子のイントロン内の一対のアレルに共通する配列、第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロン内の一対のアレルに共通する配列、プロモーター領域、開始コドン、終止コドン若しくは非翻訳領域(UTR)内のSNP、又は、一対のC3アレルに存在する配列を標的とする。
【0096】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は、C3アレルのエクソンとイントロンとの間のオルタナティブスプライシングシグナル配列を標的とする。
【0097】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は非区別的で、一対のC3アレルに存在する配列を標的とする。いくつかの態様では、配列は一対のC3アレルに存在する。いくつかの態様では、配列はC3遺伝子のイントロン内に存在する。いくつかの態様では、イントロンは、C3遺伝子の第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロンである。
【0098】
本開示の組成物及び方法は、障害、例えば、遺伝的障害の治療、予防、寛解又はその進行を遅くするために利用してもよい。例えば、そのような障害の限定するものではない例は、肝臓関連障害又はリソソーム蓄積症である。
【0099】
本発明では、C3アレルを改変又は編集するためのこれまでに説明したストラテジーのいずれか1つ又は組合せを使用してもよい。
【0100】
いくつかの態様によれば、本発明は、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ(例.CRISPRヌクレアーゼ)と結合し、前記RNA誘導型DNAヌクレアーゼと会合し、及び/又は、前記RNA誘導型DNAヌクレアーゼを目的の遺伝子のアレル間で異なる少なくとも1つのヌクレオチド(例.SNP)を含む標的配列(例.他方のC3アレルに存在しない一方のC3アレルの配列)へ誘導するRNA配列(「RNA分子」ともいう)を提供する。
【0101】
いくつかの態様では、この方法は、目的の遺伝子の少なくとも1つのアレルを非区別的なRNA分子、例えば、遺伝子の一対のアレルを標的とする能力があるガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9タンパク質と接触させることを含み、非区別的なRNA分子及びCRISPRヌクレアーゼが、目的の遺伝子の少なくとも1つのアレルのヌクレオチド配列と会合し、それにより、少なくとも1つのアレルを改変又は編集する。とりわけ、非区別的なRNA分子の細胞への導入により、2つのアレルの切断が生じる可能性があるが、切断部位へのヌクレオチド配列の挿入は、両方のアレルにおいてではなく、単一のアレルにおいてのみ生じる可能性がある。したがって、C3遺伝子のイントロンを標的とする非区別的なRNA分子による2つのアレルの切断の誘導は、一方のアレルに由来する内因性C3遺伝子の発現の保存と、他方のアレルへのヌクレオチド配列、例えば、ドナー分子由来のヌクレオチド配列の導入が生じる可能性がある。C3アレルへのヌクレオチド配列の導入は、C3アレルのC3コード遺伝子産物を発現させる場合もあるし、発現させない場合もある。
【0102】
いくつかの態様では、この方法は、目的の遺伝子のアレルをアレル特異的RNA分子及びCRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9タンパク質と接触させることを含み、アレル特異的RNA分子及びCRISPRヌクレアーゼが、目的の遺伝子の異なるアレルのヌクレオチド配列とは少なくとも1ヌクレオチドだけ異なる目的の遺伝子のアレルのヌクレオチド配列と会合し、それにより、標的化されたアレルを改変又は編集する。
【0103】
いくつかの態様では、非区別的RNA分子又はアレル特異的RNA分子及びCRISPRヌクレアーゼが、目的の遺伝子をコードする細胞へ導入される。いくつかの態様では、目的の遺伝子をコードする細胞は哺乳動物内にある。
【0104】
いくつかの態様では、RNA分子は、集団に高頻度で見られ、かつ治療される対象の少なくとも1つのC3アレルに存在するSNPを標的とする。
【0105】
いくつかの態様では、SNPは、目的の遺伝子のエクソン内にある。そのような態様では、RNA分子のガイド配列部分は、目的の遺伝子のエクソンの配列と会合するようにデザインされる。
【0106】
いくつかの態様では、SNPは、目的の遺伝子のイントロン又はエクソン内にある。いくつかの態様では、SNPは、イントロンとエクソンとの間のスプライス部位に近接している。いくつかの態様では、スプライス部位との近接は、スプライス部位の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20ヌクレオチド上流又は下流にある。それぞれの実現可能性は本発明の個別の態様である。そのような態様では、RNA分子のガイド配列部分は、スプライス部位を含む目的の遺伝子の配列と会合するようにデザインされてもよい。
【0107】
いくつかの態様では、本発明の方法は、障害又は疾患を有する対象の治療に利用される。そのような態様では、この方法は、疾患表現型を改善し、寛解し又は予防する。いくつかの態様では、疾患又は障害は肝臓関連障害である。いくつかの態様では、疾患又は障害はリソソーム蓄積症である。
【0108】
この明細書に記載した組成物の態様は、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、ガイド配列部分を含むRNA分子、及びtracrRNA分子を含み、tracrRNA分子は、ガイド配列部分を含むRNA分子とは別々に存在しても、ガイド配列部分を含むRNA分子に付着していてもよく、対象又は細胞において同時に有効である。少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、ガイド配列部分を含むRNA分子、及びtracrRNAは、実質的に同時に送達されてもよく、又は、異なる時点に送達できるが、効果は同時に生じる。例えば、これは、ガイド配列部分を含むRNA分子及び/又はtracrRNAが対象又は細胞中に実質的に存在する前に、CRISPRヌクレアーゼを対象又は細胞へ送達することを含む。
【0109】
いくつかの態様では、細胞は幹細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝臓細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞である。いくつかの態様では、細胞はiPS由来肝実質細胞である。
【0110】
肝臓関連障害を治療するための遺伝子のC3セーフハーバーノックイン
いくつかの態様では、本発明の方法を、C3セーフハーバー部位に配列をノックインするために用いてもよく、ノックイン配列のC3媒介発現が障害又は疾患の治療に関与又は関連する。
【0111】
限定するものではない例として、ノックイン配列の発現は、肝臓関連障害の治療に関与又は関連してもよい。例えば、ノックイン配列は、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ、若しくはN-アセチルグルタミン酸シンテターゼの配列、又はその一部分であってもよい。
【0112】
別の例では、肝臓細胞におけるC3 DNA標的部位は改変され、肝臓細胞が、改変によりコードされるタンパク質を発現及び分泌する。これらの改変された肝臓細胞は、例えばリソソーム蓄積症又は他の障害の治療に利用してもよい。したがって、これらの改変された細胞は、伝統的な酵素補充療法に代わる役割を果たす。限定するものではない例として、肝臓細胞は、αガラクトシダーゼA、凝固因子IX、凝固因子VII、リソソームαグルコシダーゼ、フィブリノーゲン、フェニルアラニン4ヒドロキシラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコシルセラミダーゼ、βガラクトシダーゼ、ポルホビリノーゲンデアミナーゼ、アリールスルファターゼB、βグルクロニダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、リソソームα、α-L-イズロニダーゼ、マンノシダーゼ、ホスファチジルコリンステロールアシルトランスフェラーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、凝固因子X、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、A1AT、イズロン酸-2-スルファターゼ、リソソームαグルコシダーゼ、サイクリン依存性キナーゼ様5、プロ低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、タンパク質グルタミンγグルタミルトランスフェラーゼK、リソソーム保護タンパク質、又はそれらの一部分を発現するように改変されてもよい。
【0113】
C3編集ストラテジーには、C3プロモーターの調節下で、場合によっては編集されるC3アレルをノックアウトすることなく、所望の配列の発現を可能にするストラテジーが含まれる。これは、以下のストラテジーにより実現できる:(1)C3アレルの第1のイントロン、若しくはC3アレルの第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロンにおけるノックイン;(2)C3アレルの第1のイントロン、若しくはC3アレルの第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロンにおけるアレル特異的ノックイン;(3)C3アレルの終止コドンの置換によるノックイン;又は(4)C3アレルの終止コドンをアレル特異的に置換することによるノックイン。
【0114】
CRISPRヌクレアーゼ及びPAM認識
いくつかの態様では、配列特異的ヌクレアーゼは、CRISPRヌクレアーゼ又はその機能性バリアントから選択される。いくつかの態様では、配列特異的ヌクレアーゼはRNA誘導型DNAヌクレアーゼである。そのような態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ(例.Cpf1)をガイドするRNA配列は、RNA誘導型DNAヌクレアーゼと結合し、及び/又は、前記RNA誘導型DNAヌクレアーゼをC3遺伝子のアレル間で異なる少なくとも1つのヌクレオチド(例.SNP)を含む標的配列へ誘導する。いくつかの態様では、CRISPR複合体は、tracrRNAを更に含まない。RNA誘導型DNAヌクレアーゼがCRISPRタンパク質である限定するものではない例において、C3アレル間で異なる少なくとも1つのヌクレオチドは、RNA分子がハイブリダイズするようにデザインされている領域内のPAM部位内及び/又はPAM部位の近傍に存在してもよい。RNA分子が、当技術分野において一般的に知られた方法により、ゲノムにおける選択の標的と結合するように操作できることを、当業者は理解する。
【0115】
この明細書では、用語「PAM」は、標的化されるDNA配列の近傍に位置し、かつCRISPRヌクレアーゼ複合体により認識される標的DNAのヌクレオチド配列を指す。PAM配列は、ヌクレアーゼの種類によって異なっていてもよい。加えて、ほとんど全てのPAMを標的にできるCRISPRヌクレアーゼがある。本発明のいくつかの態様では、CRISPRシステムは、ガイド配列部分と、標的を認識するための追加の要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣にある標的DNA部位のプロトスペーサーとの間で、ワトソン・クリック塩基対を形成することにより、CRISPRヌクレアーゼを標的DNA部位へ誘導するガイド配列部分を有する1つ以上のRNA分子を利用する。その後、CRISPRヌクレアーゼは、標的DNA部位を切断し、プロトスペーサー内に二本鎖切断を生じる。限定するものではない例において、II型CRISPRシステムは、crRNAのガイド配列部分と、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNA上のプロトスペーサーとの間で、ワトソン・クリック塩基対を形成することにより、CRISPRヌクレアーゼ(例.Cas9)を標的DNAへ誘導する成熟crRNA:tracrRNA複合体を利用する。本発明の操作されたRNA分子が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、例えば、利用するCRISPRヌクレアーゼに関連する配列に対応するPAM、の隣の目的の標的ゲノムDNA配列と会合するように更にデザインされることを、当業者は理解する。そのPAMは、例えば、限定するものではない例として、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9 WT(SpCAS9)ではNGG若しくはNAG(Nは任意の核酸塩基である);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SaCas9)ではNNGRRT;Jejuni Cas9 WTではNNNVRYM;SpCas9-VQRバリアントではNGAN若しくはNGNG;SpCas9-VRERバリアントではNGCG;SpCas9-EQRバリアントではNGAG;SpCas9-NRRHバリアントではNRRH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C、又はTである);SpCas9-NRTHバリアントではNRTH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C、又はTである);SpCas9-NRCHバリアントではNRCH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C、又はTである);SpCas9のSpGバリアントではNG(Nは任意の核酸塩基である);SpCas9のSpCas9-NGバリアントではNG若しくはNA(Nは任意の核酸塩基である);SpCas9のSpRYバリアントではNR若しくはNRN若しくはNYN(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、YはC又はTである);ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)Cas9バリアント(ScCas9)ではNNG(Nは任意の核酸塩基である);黄色ブドウ球菌のSaKKH-Cas9バリアント(SaCas9)ではNNNRRT(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGである);髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(NmCas9)ではNNNNGATT(Nは任意の核酸塩基である);アリサイクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)Cas12b(AacCas12b)ではTTN(Nは任意の核酸塩基である);又はCpflではTTTV(VはA、C、又はGである)である。本発明のRNA分子は、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に複合体を形成するようにそれぞれデザインされ、かつ前記CRISPRヌクレアーゼに対応する1つ以上の異なるPAM配列を利用して、目的のポリヌクレオチド配列を標的とするようにデザインされる。
【0116】
いくつかの態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ、例えば、CRISPRヌクレアーゼは、事実上、二本鎖又は一本鎖のいずれかで、細胞のゲノムにおける所望の位置に、DNA切断を引き起こすために用いてもよい。最も一般的に用いられるRNA誘導型DNAヌクレアーゼはCRISPRシステムに由来するが、他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼも、この明細書に記載したゲノム編集組成物及びゲノム編集方法における使用のために企図される。例えば、参照によりこの明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0211023号を参照。
【0117】
本発明の実施に使用できるCRISPRシステムは非常にさまざまである。CRISPRシステムは、I型、II型又はIII型のシステムであってもよい。適切なCRISPRタンパク質の限定するものではない例には、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(又はCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8al、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Casl0、Casl Od、CasF、CasG、CasH、Csyl、Csy2、Csy3、Csel(又はCasA)、Cse2(又はCasB)、Cse3(又はCasE)、Cse4(又はCasC)、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csbl、Csb2、Csb3,Csxl7、Csxl4、Csxl0、Csxl6、CsaX、Csx3、Cszl、Csxl5、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4及びCul966が挙げられる。
【0118】
いくつかの態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼは、II型CRISPRシステムに由来したCRISPRヌクレアーゼ(例.Cas9)である。CRISPRヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、ノカルディオプシス・ダッソンビレイ(Nocardiopsis dassonvillei)、ストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス、ストレプトスポランジウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)、ストレプトスポランジウム・ロゼウム、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)、バチルス・シュードマイコイデス(Bacillus pseudomycoides)、バチルス・セレニティレデュセンス(Bacillus selenitireducens)、エキシグオバクテリウム・シビリクム(Exiguobacterium sibiricum)、ラクトバチルス・デルブレッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ミクロシラ・マリナ(Microscilla marina)、バークホルデリアレス・バクテリウム(Burkholderiales bacterium)、ポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)、ポラロモナス種(Polaromonas sp.)、クロコスファエラ・ワトソニー(Crocosphaera watsonii)、シアノセイス種(Cyanothece sp.)、ミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)、シネココッカス種(Synechococcus sp.)、アセトハロビウム・アラビティカム(Acetohalobium arabaticum)、アンモニフェツクス・デゲンシイ(Ammonifex degensii)、カルディセルロシロプトル・ベスキー(Caldicellulosiruptor bescii)、キャンディダトゥス・デスルフォルディス(Candidatus Desulforudis)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)、ナトラネロビウス・サーモフィルス(Natranaerobius thermophilus)、ペロトマクルム・サーモプロピオニカム(Pelotomaculum thermopropionicum)、アシディチオバチルス・カルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)、アロクロマチウム・ビノスム(Allochromatium vinosum)、マリノバクター種(Marinobacter sp.)、ニトロソコッカス・ハロフィルス(Nitrosococcus halophilus)、ニトロソコッカス・ワッソニ(Nitrosococcus watsoni)、シュードアルテロモナス・ハロプランクティス(Pseudoalteromonas haloplanktis)、クテドノバクテル・ラセミファー(Ktedonobacter racemifer)、メタノハロビウム・エベスチガータム(Methanohalobium evestigatum)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)、ノジュラリア・スプミゲナ(Nodularia spumigena)、ノストック種(Nostoc sp.)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ種(Arthrospira sp.)、リングビア種(Lyngbya sp.)、ミクロコレウス・クソノプラステス(Microcoleus chthonoplastes)、オシラトリア種(Oscillatoria sp.)、ペトロトガ・モビリス(Petrotoga mobilis)、サーモシフォ・アフリカヌス(Thermosipho africanus)、アカリオクロリス・マリーナ(Acaryochloris marina)、又は既知のPAM配列を有するCRISPRヌクレアーゼをコードする任意の種に由来してもよい。非培養性細菌によりコードされるCRISPRヌクレアーゼも、本発明に関連して使用してもよい。(Burstein et al. Nature, 2017参照)。既知のPAM配列を有するCRISPRタンパク質のバリアント、例えば、SpCas9 D1135Eバリアント、SpCas9 VQRバリアント、SpCas9 EQRバリアント又はSpCas9 VRERバリアントも、本発明に関連して使用してもよい。
【0119】
したがって、Cas9タンパク質若しくは改変されたCas9、若しくはCas9のホモログ若しくはオルソログといったCRISPRシステムのRNA誘導型DNAヌクレアーゼ、又は、Cpf1とそのホモログ及びオルソログといった他のCRISPRシステムに属する他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼを、本発明の組成物に使用してもよい。別のCRISPRヌクレアーゼ、例えば、国際公開第2020/223514号及び国際公開第2020/223553号(これらは参照によりこの明細書に組み込まれる)に記載のヌクレアーゼも使用してもよい。
【0120】
ある特定の態様では、CRISPRヌクレアーゼは、天然に存在するCasタンパク質の「機能性誘導体」であってもよい。天然配列ポリペプチドの「機能性誘導体」は、天然配列ポリペプチドと質的に共通した生物学的性質を有する化合物である。「機能性誘導体」には、天然配列の断片、並びに天然配列ポリペプチド及びその断片の誘導体(ただし、それらは対応する天然配列ポリペプチドと共通の生物学的活性を有する)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。ここで企図される生物学的活性は、DNA基質を加水分解して断片にする能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントと、その共有結合性改変体及び融合体の両者を包含する。Casポリペプチド又はその断片の適切な誘導体には、Casタンパク質又はその断片の変異体、融合体、共有結合性改変体が挙げられるが、それらに限定されるものではない。誘導体には、CRISPRニッカーゼ、触媒的に不活性なCRISPRヌクレアーゼ又は「死んだ」CRISPRヌクレアーゼ、及びCRISPRヌクレアーゼ又はその誘導体と、塩基エディター又はレトロトランスポゾンといった他の酵素との融合体が挙げられるが、それらに限定されるものではない。例えば、Anzalone et al. (2019)及びPCT国際特許出願第PCT/US2020/037560号を参照。
【0121】
Casタンパク質又はその断片、加えてCasタンパク質又はその断片の誘導体を含むCasタンパク質は、細胞から取得可能なものであってもよく、若しくは化学的に合成されるものであってもよく、又はこれらの方法の組合せにより得られるものであってもよい。細胞は、天然でCasタンパク質を産生する細胞、又は、天然でCasタンパク質を産生し、かつ、内因性Casタンパク質をより高い発現レベルで産生するように、若しくは、内因性Casと同じ若しくは異なるCasをコードする外因的に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように、遺伝子操作された細胞であってもよい。場合によっては、細胞は、天然ではCasタンパク質を産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作されている。
【0122】
いくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼはCpf1である。Cpf1は、Tリッチなプロトスペーサー隣接モチーフを利用する単一のRNA誘導型エンドヌクレアーゼである。Cpf1は、ねじれ型DNA二本鎖切断によってDNAを切断する。アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)及びラクノスピラ科(Lachnospiraceae)に由来する2つのCpf1酵素が、ヒト細胞において効率的にゲノム編集を行うことが示されている。(Zetsche et al., 2015参照)。
【0123】
したがって、Cas9タンパク質若しくは改変されたCas9、若しくCas9のホモログ、オルソログ若しくはバリアントといったII型CRISPRシステムのRNA誘導型DNAヌクレアーゼ、又は、Cpf1及びそのホモログ、オルソログ若しくはバリアントといった他のCRISPRシステムに属する他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼを、本発明で使用してもよい。
【0124】
いくつかの態様では、ガイド分子は、新しい性質又は向上した性質(例.分解に対する安定性、ハイブリダイゼーションエネルギー又はRNA誘導型DNAヌクレアーゼとの結合性)を付与する1つ以上の化学修飾を含む。適切な化学修飾には、修飾塩基、修飾糖、又は修飾されたヌクレオシド間結合が挙げられるが、それらに限定されるものではない。適切な化学修飾の限定するものではない例には、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’-O-メチルプソイドウリジン、β,D-ガラクトシルキューオシン」、2’-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、「2,2-ジメチルグアノシン」、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、「β,D-マンノシルキューオシン」、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)スレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)スレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、キューオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)-カルバモイル)スレオニン、2’-O-メチル-5-メチルウリジン、2’-O-メチルウリジン、ワイブトシン、「3-(3-アミノ-3-カルボキシ-プロピル)ウリジン、(acp3)u、2’-O-メチル(M)、3’-ホスホロチオエート(MS)、3’-チオPACE(MSP)、プソイドウリジン又は1-メチルプソイドウリジンが挙げられる。それぞれの実現可能性は本発明の個別の態様である。
【0125】
C3アレルを標的とするガイド配列
DNA部位を標的とするために利用されるガイド配列部分を含む所定のRNA分子は、RNA分子の分解、限られた活性、活性なし、又はオフターゲット効果を生じる可能性がある。したがって、適切なガイド配列部分が、遺伝子中の所定のDNA部位を標的とするために必要である。
【0126】
本発明により、少なくとも1つのC3アレルを標的とし、C3プロモーターの調節下で発現されるヌクレオチドの配列を少なくとも1つのアレルへ導入し、それにより障害又は疾患を治療するための、ガイド配列部分の新規のセットが特定された。好ましくは、一対のC3アレルを標的とできる非区別的なRNA分子が、標的化に用いられる。
【0127】
しかしながら、特定のC3アレルを標的とする能力があるRNA分子も企図される。例えば、RNA分子のガイド配列部分は、1つのC3アレルに存在する特定のSNPを標的としてもよい。特に、所定の遺伝子は、数千個のSNPを含有していてもよい。遺伝子中の各SNPを標的とするための25個の塩基対標的ウィンドウを利用することは、数十万個のガイド配列を必要とする。
【0128】
本開示は、C3アレルを特異的に標的化できるガイド配列部分を提供する。いくつかの態様では、標的ではない一方のC3アレルを改変せずに、他方のC3アレルを標的とする。本発明のいくつかのガイド配列は、C3アレル間を特異的に区別するようにデザインされ、C3アレル間を特異的に区別する可能性が最も高い。いくつかの態様では、一対のC3アレルを標的とする。C3配列を標的とする全てのガイド配列のうち、この明細書に開示した特定のガイド配列は、開示した態様で機能するのに特に有効である。
【0129】
簡潔に説明すると、ガイド配列は、以下のような性質を有していてもよい:(1)一般集団、特定の民族集団、又は患者集団における保有率が1%を超えるSNP/挿入/欠失/インデル、及び、その集団におけるヘテロ接合率が1%を超えるSNP/挿入/欠失/インデルを標的とすること;並びに(2)例えば、遺伝子の任意の部分に近い(例.プロモーター、UTR、エクソン又はイントロンといった遺伝子の部分から5kベース以内)SNP/挿入/欠失/インデルの位置を標的とすること。いくつかの態様では、一般集団、特定の民族集団、又は患者集団におけるSNP/挿入/欠失/インデルの保有率が1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15%を超え、その集団におけるSNP/挿入/欠失/インデルのヘテロ接合率が1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15%を超える。それぞれの実現可能性は個別の態様であり、自由に組み合わせてもよい。
【0130】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は、C3遺伝子中の部位を標的として、C3遺伝子へヌクレオチドの外因性配列を導入又はノックインするために用いられる。いくつかの態様では、部位はSNP位置である。いくつかの態様では、部位の位置は、意図されるノックイン部位の近傍、好ましくは、開始コドン又は終止コドンの近傍、好ましくは、開始コドン又は終止コドンから150塩基対以内である。いくつかの態様では、部位は、標的化されるC3アレルの第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロン内に位置する。いくつかの態様では、部位は、標的化されるC3アレルのイントロン1内に位置する。
【0131】
本発明のガイド配列部分は以下であってもよい:(1)C3遺伝子のヘテロ接合SNPを標的とする;(2)前記遺伝子の上流又は下流の位置(共通配列又はSNP)を標的とする;(3)一般集団、特定の民族集団、又は患者集団におけるSNP/挿入/欠失/インデルの保有率が1%を超えるSNPを標的とする;(4)グアニン-シトシン含量が30%~85%である;(5)7個以上のチミン/ウラシル、グアニン、シトシン又はアデニンの反復を有さない;及び(6)ゲノム中に、同じPAM配列を有しミスマッチがゼロである別の標的を有さない。本発明のガイド配列は、上記条件のいずれか1つを満たしていてもよく、標的であるアレルをその対応する標的ではないアレルと区別する可能性が最も高い。
【0132】
細胞への送達
この明細書に記載した組成物は、適切な手段により標的細胞へ送達してもよい。本発明の組成物は、C3アレルを含有し及び/又は発現する細胞、例えば哺乳動物細胞、好ましくは肝臓細胞、を標的としてもよい。例えば、ある態様では、特異的にC3アレルを標的とするRNA分子が、標的細胞であるHSC、肝実質細胞又は他の肝臓細胞に送達される。細胞への送達は、in vitro、ex vivo又はin vivoで実施してもよい。さらに、この明細書に記載した核酸組成物は、DNA分子、RNA分子、リボ核タンパク質(RNP)、核酸ベクター又はそれらの組合せのうちの1つ以上として送達してもよい。
【0133】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のin vivo送達には、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はナノ粒子による送達が挙げられる。いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のin vivo送達には、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はナノ粒子による送達が挙げられる。組成物は、RNP組成物の形態であってもよい。したがって、送達は、対象(例.肝臓関連障害を患う対象)の肝臓細胞に対してin vivoで行うことができる。
【0134】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のいずれか1つが、ex vivoで細胞へ送達される。いくつかの態様では、細胞は幹細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝臓細胞である。いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞である。いくつかの態様では、細胞はiPS由来肝実質細胞である。組成物を公知のex vivo送達により細胞へ送達してもよく、その方法には、電気穿孔、ウイルス形質導入、ナノ粒子送達、リポソームなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。組成物は、RNP組成物の形態であってもよい。送達方法の詳細は、このセクション全体に記載されている。
【0135】
いくつかの態様では、場合によっては、肝葉又は肝実質細胞が、例えば生検を行うことで、対象から得られる。得られた細胞は、この明細書に記載した組成物のex vivo送達により遺伝子改変してもよい。改変された細胞を、葉移植又は肝実質細胞移植により対象へ再導入してもよい。
【0136】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のRNA分子は化学修飾を含む。適切な化学修飾の限定するものではない例には、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル、3’ホスホロチオエート(MS)、又は2’-O-メチル、3’チオPACE(MSP)、プソイドウリジン及び1-メチルプソイドウリジンが挙げられる。それぞれの実現可能性は本発明の個別の態様である。
【0137】
適切なウイルスベクター系を用いて、核酸組成物、例えば、本発明のRNA分子の組成物を送達してもよい。核酸を導入し、組織を標的とするために、通常のウイルス及び非ウイルスに基づく遺伝子移入を行うことができる。ある特定の態様では、in vivo又はex vivo遺伝子治療のために核酸が投与される。非ウイルスベクター送達系には、裸の核酸、及び送達媒体(例.リポソーム又はポロキサマー)と複合体化した核酸が挙げられる。遺伝子治療の手順の総説は、Anderson (1992);Nabel & Felgner (1993);Mitani & Caskey (1993);Dillon (1993);Miller (1992);Van Brunt (1988);Vigne (1995);Kremer & Perricaudet (1995);Haddada et al. (1995)及びYu et al. (1994)を参照。
【0138】
核酸及び/若しくはタンパク質の非ウイルス性送達の方法には、電気穿孔、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、パーティクルガン加速、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)、ポリカチオン若しくは脂質:核酸コンジュゲート、人工ビリオン、及び促進剤による核酸の取込みが挙げられ、又は、核酸及び/若しくはタンパク質は、細菌若しくはウイルス(例.アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、リゾビウム種(Rhizobium sp.)NGR234、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)、タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)、ジャガイモウイルスX(potato virus X)、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)、及びキャッサバ葉脈モザイクウイルス(cassava vein mosaic virus))により植物細胞へ送達できる。(例えば、Chung et al., 2006を参照)。例えばSonitron 2000システム(Rich-Mar)を用いるソノポレーションも、核酸の送達に用いることができる。タンパク質及び/又は核酸のカチオン性脂質媒介性送達も、in vivo、ex vivo又はin vitro送達として企図される。(Zuris et al. (2015)を参照;Coelho et al. (2013);Judge et al. (2006)及びBasha et al. (2011)も参照)。
【0139】
トランスポゾンに基づく系(例.組換えスリーピングビューティトランスポゾン系又は組換えPiggyBacトランスポゾン系)のような非ウイルスベクターを、標的細胞に送達してもよく、標的細胞において、組成物の分子のポリヌクレオチド配列又は組成物の分子をコードするポリヌクレオチド配列の転位に利用してもよい。
【0140】
他の代表的な核酸送達系には、Amaxa Biosystems(Cologne, Germany)、Maxcyte, Inc.(Rockville, Md.)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston, Mass.)及びCopernicus Therapeutics Inc.が提供するもの(例えば米国特許第6,008,336号参照)が含まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787号及び米国特許第4,897,355号で説明されており、リポフェクション試薬は市販されている(例.Transfectam(登録商標)、Lipofectin(登録商標)及びLipofectamine(登録商標)RNAiMAX)。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質には、国際公開第91/17424号及び国際公開第91/16024号に開示されているものが含まれる。細胞(ex vivo投与)又は標的組織(in vivo投与)への送達が可能である。
【0141】
免疫脂質複合体といった標的化リポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は、当業者によく知られている(例えば、Crystal, Science (1995);Blaese et al., (1995);Behr et al., (1994);Remy et al. (1994);Gao and Huang (1995);Ahmad and Allen (1992);米国特許第4,186,183号;同第4,217,344号;同第4,235,871号;同第4,261,975号;同第4,485,054号;同第4,501,728号;同第4,774,085号;同第4,837,028号及び同第4,946,787号を参照。)
【0142】
送達の別の方法には、送達する核酸をEnGeneIC送達媒体(EDV)へパッケージングすることが含まれる。EDVは、抗体の一方のアームが標的組織に対する特異性を有し、他方がEDVに対する特異性を有する二重特異性抗体を用いて、標的組織へ特異的に送達する。抗体は、EDVを標的細胞表面に運び、EDVがエンドサイトーシスによって細胞内に運ばれる。細胞内に入った後に、内容物が放出される。(MacDiarmid et al., 2009参照)。
【0143】
送達媒体には、細菌、好ましくは非病原性のもの、媒体、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、例えば組成物を金粒子に付着させ、その金粒子を「遺伝子銃」を用いて細胞へ発砲されることによる遺伝子銃送達、ウイルス媒体(例.レンチウイルス、AAV及びレトロウイルス)、ウイルス様粒子(VLP)、大型VLP(LVLP)、レンチウイルス様粒子、トランスポゾン、ウイルスベクター、裸のベクター、DNA又はRNA、当該技術分野において知られた他の送達媒体、が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0144】
CRISPRヌクレアーゼ及び/又はCRISPRヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、並びに、必要に応じて追加されたヌクレオチド分子及び/又はタンパク質若しくはペプチドの送達は、単一の送達媒体若しくは方法又は異なる送達媒体若しくは方法の組合せを利用することで行ってもよい。例えば、CRISPRヌクレアーゼは、LNPを利用して細胞へ送達してもよく、crRNA分子及びtracrRNA分子はAAVを利用して細胞へ送達してもよい。あるいは、CRISPRヌクレアーゼは、AAV粒子を利用して細胞へ送達してもよく、crRNA分子及びtracrRNA分子は、別のAAV粒子を利用して細胞へ送達してもよく、これは、サイズ制限のために有利であるかもしれない。
【0145】
ウイルスによる核酸の送達のためのRNA又はDNAウイルス系の使用は、ウイルスの標的を体内の特定の細胞とし、ウイルスペイロードを核へ輸送する高度に進化した方法を活用する。ウイルスベクターは、患者へ直接投与でき(in vivo)、又は、in vitroで細胞を処理するために使用でき、改変された細胞を患者へ投与する(ex vivo)。核酸を送達する従来のウイルス系には、遺伝子移入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス及び単純ヘルペスウイルスのベクターが挙げられるが、それらに限定されるものではない。この明細書に記載したRNA組成物の送達に、RNAウイルスを利用してもよい。さらに、多くの異なる細胞型及び標的組織において高い形質導入効率が観察されている。本発明の核酸は、非組込み型レンチウイルスにより送達してもよい。場合によっては、レンチウイルスでのRNA送達が利用される。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼのmRNA、ガイドのRNAを含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼのmRNA、ガイドのRNA、及びドナー鋳型を含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼタンパク質、ガイドRNAを含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼタンパク質、ガイドRNA、及び/又は、例えば相同組換え修復による遺伝子編集のためのドナー鋳型を含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼのmRNA、DNA標的化RNA、及びtracrRNAを含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼのmRNA、DNA標的化RNA、及びtracrRNA、並びにドナー鋳型を含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼタンパク質、DNA標的化RNA、及びtracrRNAを含む。場合によっては、レンチウイルスは、ヌクレアーゼタンパク質、DNA標的化RNA、及びtracrRNA、並びに、例えば相同組換え修復による遺伝子編集のためのドナー鋳型を含む。
【0146】
これまでに説明したように、この明細書に記載した組成物を、非組込み型レンチウイルス粒子法、例えば、LentiFlash(登録商標)システムを用いて、標的細胞に送達してもよい。そのような方法は、mRNA又は他の型のRNAを標的細胞へ送達するために使用してもよく、RNAの標的細胞への送達が、標的細胞の内部で、この明細書に記載した組成物の集合体を生じる。国際公開第2013/014537号、国際公開第2014/016690号、国際公開第2016/185125号、国際公開第2017/194902号及び国際公開第2017/194903号も参照。
【0147】
レトロウイルスのトロピズムは、外来エンベロープタンパク質を組み入れることにより変化させることができ、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大する。レンチウイルスベクターは、分裂していない細胞に形質導入又は感染できるレトロウイルスベクターであり、通常、ウイルス力価が高い。レトロウイルスの遺伝子移入系の選択は標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、シス作用性末端反復配列で構成され、最大6~10kbの外来配列をパッケージングする能力がある。最小限のシス作用性LTRは、ベクターの複製及びパッケージングに十分であり、治療用遺伝子を標的細胞へ組み込み、導入遺伝子を永続的に発現させるために用いられる。広く用いられるレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びそれらの組合せに基づくものが挙げられる。(例えば、Buchschacher et al. (1992);Johann et al. (1992);Sommerfelt et al. (1990);Wilson et al. (1989);Miller et al. (1991);国際公開第94/26877号を参照)。
【0148】
臨床試験における遺伝子移入のために、現在、少なくとも6つのウイルスベクターが利用でき、それらは、ヘルパー細胞株へ挿入された遺伝子による欠損ベクターの相補性を含むアプローチを利用して、形質導入剤を生成する。
【0149】
pLASN及びMFG-Sは、臨床試験で使用されたことがあるレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al., 1995;Kohn et al., 1995;Malech et al., 1997を参照)。PA317/pLASNは、遺伝子治療の治験で使用された初めての治療用ベクターであった(Blaese et al., 1995)。MFG-Sパッケージングベクターの形質導入効率は、50%以上であった(Ellem et al., (1997);Dranoff et al., 1997)。
【0150】
パッケージング細胞は、宿主細胞に感染する能力があるウイルス粒子を形成するために用いられる。そのような細胞には、アデノウイルス、AAVをパッケージングする293細胞、及びレトロウイルスをパッケージングするPsi-2細胞又はPA317細胞が挙げられる。遺伝子治療に用いられるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子へパッケージングする産生細胞株により生成される。ベクターは、通常、パッケージング及び(該当する場合は)その後の宿主への組込みに必要とされる最小限のウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現されるタンパク質をコードする発現カセットで置換されている。欠損したウイルス機能は、パッケージング細胞株によりトランスで供給される。例えば、遺伝子治療に用いられるAAVベクターは、通常、パッケージング及び宿主ゲノムへの組込みに必要とされるAAVゲノム由来の末端逆位配列(ITR)のみを有する。ウイルスDNAは、細胞株においてパッケージングされ、その細胞株は、他のAAV遺伝子、つまり、ITR配列を欠くが、rep及びcapをコードするヘルパープラスミドを含有する。その細胞株は、ヘルパーとしてのアデノウイルスにも感染する。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ITR配列の欠損のため、ヘルパープラスミドは大量にはパッケージングされない。アデノウイルスの混入は、例えば、アデノウイルスがAAVより感受性が高い熱処理によって軽減できる。さらに、バキュロウイルス系を用いて臨床スケールでAAVを産生できる(米国特許第7,479,554号参照)。
【0151】
多くの遺伝子治療において、遺伝子治療ベクターは、特定の組織に対して高度の特異性で送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターは、ウイルスの外表面のウイルス被覆タンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現させることによって、所定の細胞に対する特異性を有するように改変できる。そのリガンドは、目的の細胞に存在することが知られた受容体に対して親和性を有するように選択される。例えば、Hanら(1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスが、gp70と融合したヒトヘレグリンを発現するように改変でき、その組換えウイルスが、ヒト上皮増殖因子受容体を発現する特定のヒト乳がん細胞に感染することを報告した。この原理は、他のウイルス-標的細胞の組合せに拡張でき、その組合せでは、標的細胞は受容体を発現し、ウイルスは細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する。例えば、繊維状ファージは、事実上、選択されたいかなる細胞受容体に対しても特異的な結合親和性を有する抗体断片(例.FAB又はFv)を提示するように操作できる。この説明は、主にウイルスベクターに当てはまるが、同じ原理が非ウイルスベクターに適用できる。そのようなベクターは、特定の標的細胞による取込みを優先する特定の取込み配列を含むように操作できる。
【0152】
遺伝子治療ベクターは、以下で説明するように、個々の患者への投与により、通常、全身投与(例.硝子体内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下又は頭蓋内注入)又は局所適用により、in vivoで送達できる。あるいは、ベクターは、細胞、例えば、個々の患者から外植された細胞(例.リンパ球、骨髄穿刺、組織生検)又はユニバーサルドナー造血幹細胞へ、ex vivoで送達され、続いて、その細胞を患者へ、ベクターを組み入れている細胞の選択後に、再移植できる。限定するものではない代表的なex vivoアプローチは、培養のために患者から組織(例.末梢血、骨髄及び脾臓)を取り出し、培養細胞(例.造血幹細胞)に核酸を移入し、次いで、細胞を、患者の標的組織(例.骨髄及び脾臓)に移植することを含んでいてもよい。いくつかの態様では、幹細胞又は造血幹細胞は、生存率増強剤で更に処理してもよい。
【0153】
診断、研究のための、又は(例えばトランスフェクト細胞の宿主への再注入による)遺伝子治療のためのex vivoでの細胞トランスフェクションは、当業者によく知られている。好ましい態様において、対象から細胞が単離され、核酸組成物がトランスフェクトされ、対象(例.患者)へ再注入される。ex vivoトランスフェクションに適したさまざまな細胞型は、当業者によく知られている(例えば、Freshney, “Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique and Specialized Applications (6th edition, 2010)と、患者から細胞を単離し、培養する方法の考察において引用されている文献を参照)。
【0154】
適切な細胞には、真核細胞及び/又は細胞株が挙げられるが、それらに限定されるものではない。そのような細胞、又はそのような細胞から発生した細胞株の限定するものではない例には、COS、CHO(例.CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NSO、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例.HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、perC6細胞、任意の植物細胞(分化型又は未分化型)、加えて、昆虫細胞、例えば、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera fugiperda)(Sf)、又は真菌細胞、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、及びシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)が挙げられる。ある特定の態様では、細胞株は、CHO-K1、MDCK又はHEK293細胞株である。さらに、初代細胞を単離し、誘導型ヌクレアーゼシステム(例.CRISPR/Cas)で処理した後に治療する対象に再導入するために、ex vivoで使用してもよい。適切な初代細胞は、末梢血単核球(PBMC)及び他の血液細胞サブセット、例えば、限定するものではないが、CD4+ T細胞又はCD8+ T細胞が挙げられる。また、適切な細胞には、例として、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、造血幹細胞(CD34+)、神経幹細胞及び間葉系幹細胞といった幹細胞が挙げられる。
【0155】
ある態様では、細胞トランスフェクション及び遺伝子治療のために、幹細胞がex vivoで処理される。幹細胞を使用する利点は、in vitroで他の細胞に分化でき、又は、(細胞のドナーなどの)哺乳動物に導入して骨髄に移植できることである。サイトカイン、例えば、GM-CSF、IFN-γ、及びTNF-αを用いて、CD34+細胞をin vitroで臨床的に重要な免疫細胞型へ分化させる方法は知られている(限定するものではない例として、Inaba et al., 1992を参照)。
【0156】
幹細胞は、公知の方法で、形質導入及び分化のために単離される。例えば、幹細胞は、CD4+及びCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR-1(顆粒球)並びにIad(分化型抗原提示細胞)といった不要な細胞と結合する抗体で骨髄細胞をパニングすることにより、骨髄細胞から単離される(限定するものではない例として、Inaba et al., 1992を参照)。改変された幹細胞も、いくつかの態様で使用してもよい。
【0157】
治療用核酸組成物を有するベクター(例.レトロウイルス、リポソーム)は、また、in vivoで細胞に形質導入するために、生物体へ直接投与できる。投与は、注射、注入、局所適用(例.点眼剤及びクリーム)及び電気穿孔を含むが、それらには限定されない、分子を血液又は組織細胞と最終的に接触するように導入するために通常使用される経路のいずれかによる。そのような核酸を投与する適切な方法が利用でき、当業者によく知られており、特定の組成物を投与する複数の経路が使用できるが、特定の経路が、別の経路より迅速かつ効果的な反応を提供できる場合が多い。いくつかの態様によれば、組成物はIV注射で送達される。
【0158】
導入遺伝子の免疫細胞(例.T細胞)への導入に適したベクターには、非組込み型レンチウイルスベクターが挙げられる。例えば、米国特許出願公開第2009/0117617号を参照。
【0159】
薬学的に許容される担体は、部分的には、投与する組成物によって、加えて、組成物の投与に用いる方法によって、決まる。したがって、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1989の記載されているように、利用できる医薬組成物の幅広い種類の適切な製剤がある。
【0160】
いくつかの態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼと結合/会合し、及び/又は、前記RNA誘導型DNAヌクレアーゼを目的の遺伝子のアレル間で異なる少なくとも1つのヌクレオチド(例.SNP)を含む配列(すなわち、他方のC3アレルには存在しない一方のC3アレルの配列)へ誘導する、RNA分子を提供する。C3アレル間の配列の差が、単一のC3アレルを改変又は編集するために、本発明のRNA分子の標的となってもよい。
【0161】
また、本発明の組成物及び方法は、患者における顕性遺伝的障害を治療するための医薬の製造に用いてもよい。
【0162】
C3セーフハーバーノックイン方法についての作用機構
いかなる理論及び機構に拘束されるものではないが、本発明は、C3アレル内のセーフハーバー部位へ配列を導入し、導入された配列の発現をC3アレルのプロモーターが調節するために、CRISPRヌクレアーゼを適用してC3アレルを処理するのに利用してもよい。導入された配列の発現は、肝臓関連障害を予防又は治療する。特定のガイド配列は、標的の位置及び用いるCRISPRヌクレアーゼの型(例えば、必要とされるPAM配列に従って)に基づいて、表1から選択してもよい。
【0163】
C3遺伝子は、19番染色体上に位置し、補体成分3タンパク質をコードする。ドナー分子は、所望のヌクレオチドの配列をC3セーフハーバー部位へノックインにより導入するために用いてもよい。したがって、肝臓関連疾患を予防又は治療する発現産物をコードする配列が、C3セーフハーバー部位に導入されてもよい。ドナー分子によりコードされる配列の限定するものではない例には、ATP7B、A1AT、G6PC、SERPINA、LDLR、TTR、OTC-オルニチントランスカルバミラーゼ、ASD-アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギナーゼ、アルギニノスクシナーゼ、カルバモイルリン酸シンテターゼ及びN-アセチルグルタミン酸シンテターゼ又はそれらの一部分が挙げられる。
【0164】
1つのストラテジーは、C3遺伝子の、第1のイントロン、又は第1のコーディングエクソンに続く第1のイントロンにおいてヌクレオチド配列をノックインすることである。このストラテジーは、CRISPRヌクレアーゼの標的をC3遺伝子のイントロン1とし、それにより、二本鎖切断を行うためにRNA分子を利用する。切断は、非制御領域で行われるため、遺伝子の発現に影響を及ぼすとは予想されない。C3でのノックアウトのない配列のノックインでは、配列は、スプライシングアクセプター(SA)及びスプライシングドナー(SD)エレメントをノックインドナーカセットへ付加することで、新しいエクソン(すなわち、エクソン2)として挿入される。加えて、C3遺伝子の発現の中断を阻止するために、ドナーカセットは、挿入される遺伝子のC末端に、少なくとも1つの2A自己切断ペプチド及び/又はC3のシグナルペプチドを含み、それは、小胞体内で切断され、挿入された配列タンパク質発現産物のC3タンパク質からの分離を可能にする。
【0165】
別のストラテジーは、特定のC3アレルの第1のイントロンにヌクレオチド配列をノックインすることである。gnomADによれば、C3フレームシフト変異を有する健康な個体が存在し、ハプロ不全は問題ではないことを示唆している。したがって、ヌクレオチドのノックイン配列は、翻訳終結シグナルと共に新しいエクソンとして単一のC3アレルへ挿入でき、それにより、他方のC3アレルは変化せず、1つのC3アレルのみの発現をノックアウトする。C3アレル特異的編集は、例えば、イントロン1に位置するrs199713383といった高頻度のSNPを標的とすることで実現できる。
【0166】
別のストラテジーは、終止コドンの置換により、C3遺伝子にヌクレオチドの配列をノックインすることである。この場合、2つのアレルは、3’UTR領域において終止コドンの下流150ヌクレオチドまで、又は、終止コドンの上流150ヌクレオチドまでのイントロン領域で、切断される。これらの領域における切断の位置は、C3の発現に影響を及ぼさない。ヌクレオチドのノックイン配列は、終止コドンの代わりに挿入され、ノックインドナーカセットは、ヌクレオチドの挿入配列のN末端に少なくとも1つの2A自己切断ペプチドを含有し、そのことは、挿入配列タンパク質発現産物のC3タンパク質からの分離を可能にする。
【0167】
別のストラテジーは、終止コドンの置換により、特定のC3アレルにヌクレオチドの配列をノックインすることである。これは、RNA分子を利用して、CRISPRヌクレアーゼの標的を、C3アレルのエクソン41に位置するrs17030といった終止コドンの上流150ヌクレオチド以内のSNP位置とすることで実現できる。
【0168】
C3遺伝子のアレルを特異的に標的化するRNAガイド配列の例
C3アレルを標的とするように多数のガイド配列をデザインできるが、配列番号1~7,046で特定した表1に記載のヌクレオチド配列が、この明細書で示した方法を効果的に実行するように、かつ、アレル間を効果的に識別するように、特別に選択された。
【0169】
表1は、これまでに説明した態様での使用において、C3アレルと会合するようにデザインされたガイド配列を示す。操作された各ガイド分子は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)(例.配列NGG又はNAG(配列中、「N」は任意の核酸塩基である)に対応するPAM)の隣に位置する目的の標的ゲノムDNA配列と結合するように更にデザインされる。ガイド配列は、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に働くようにデザインされ、そのCRISPRヌクレアーゼには、例えば、SpCas9WT(PAM配列:NGG)、SpCas9.VQR.1(PAM配列:NGAN)、SpCas9.VQR.2(PAM配列:NGNG)、SpCas9.EQR(PAM配列:NGAG)、SpCas9.VRER(PAM配列:NGCG)、SaCas9WT(PAM配列:NNGRRT)、SpRY(PAM配列:NRN又はNYN)、NmCas9WT(PAM配列:NNNNGATT)、Cpf1(PAM配列:TTTV)、又はJeCas9WT(PAM配列:NNNVRYM)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。本発明のRNA分子はそれぞれ、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に複合体を形成するようにデザインされ、かつ使用するCRISPRヌクレアーゼ、それぞれの1つ以上の異なるPAM配列を利用して、目的のポリヌクレオチド配列を標的とするようにデザインされる。
【0170】
【表1】
【0171】
本発明のより完全な理解を促進するために実施例を以下に示す。以下の実施例は、本発明を構築しかつ実施する代表的な様式を示す。しかしながら、本発明の範囲は、これらの実施例に開示した特定の態様に限定されず、これらの態様は例証のみを目的とする。
【実施例
【0172】
実験の詳細
実施例1:C3オンターゲット活性の分析
配列番号1~7,046のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含むガイド配列について、オンターゲット活性が高いものを、HeLa細胞においてSpCas9を用いてスクリーニングする。オンターゲット活性は、DNAキャピラリー電気泳動分析により測定する。
【0173】
実施例2:C3標的化RNAガイド分子の活性
標的組織における豊富な発現と新しい配列の組込みに順応する能力のために、分泌を保証しC3発現を保存する様式で、標的とするゲノムのセーフハーバー部位として、肝臓細胞のC3遺伝子を選択した。挿入部位を、第1のエクソンでコードされ、最終的にはタンパク質産物から切断される分泌ペプチドに近接する、C3の第1のイントロンに操作した。OMNI-50及びOMNI-79 CRISPRヌクレアーゼを用いるガイドのスクリーニングをHeLa細胞で行った。簡潔に説明すると、OMNI-50又はOMNI-79ヌクレアーゼをコードするプラスミド(64ng)を、jetOPTIMUS試薬(Polyplus)を用いて、96ウェルプレート形式で、各ガイドをコードするDNAプラスミド(20ng)と同時にトランスフェクトした。DNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集し、ゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンシング(NGS)分析を行った。3回の独立した実験の平均編集率(%)±標準偏差(STDV)を図1に示す。NGS分析では、2つのヌクレアーゼの編集率が8%~86%であることを示す。特に、OMNI-50 RNP組成物は、一般に、DNAに基づく組成物と比較して活性が増加しており、したがって、HeLa細胞でのDNAのスクリーニングの概念実証のカットオフは低い。
【0174】
CRISPRヌクレアーゼとHDR鋳型は、アデノ随伴ウイルス(AAV)により標的細胞へ送達できる。OMNI-79ヌクレアーゼは、そのサイズが小さいことから、ガイド分子と共にAAVにパッケージングできる。ガイド「g6」及び「g11」を、OMNI-79 V5570ヌクレアーゼと共にAAVベクターにクローニングして、HeLa細胞で活性を試験した(図2)。簡潔に説明すると、AAVプラスミド(150ng)を、jetOPTIMUS試薬(Polyplus)を用いて96ウェルプレート形式でトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後にゲノムDNAを抽出し、NGS分析を行った。3回の独立した実験の平均編集率(%)±STDVを図2に示す。
【0175】
OMNI-50ガイド「g6」及び「g11」の活性を、RNP電気穿孔によりHepG2細胞で評価した。簡潔に説明すると、4×10細胞のHepG2細胞を、105pmoleのOMNI-50タンパク質と120pmoleのsgRNAからなる事前構築RNPと混合し、次いで、100pmoleの電気穿孔増強剤(IDT-1075916)と混合した。混合物を、SF Cell 4D-Nucleofector X Kit S(PBC2-00675、Lonza)を用いて、DS-123プログラムを適用することにより、細胞へ電気穿孔した。電気穿孔の72時間後に細胞画分を収集し、ゲノムDNAを抽出して、NGSによりオンターゲット活性を測定した。NGS分析の結果、いずれのガイドも高いインデル形成活性を示した(図2)。
【0176】
OMNI-50ガイド組成物による編集のC3発現への効果を評価するために、電気穿孔から7日後に、全RNAをHepG2細胞から抽出し、C3のmRNAレベルを、qRT-PCRで測定した。その結果、C3 mRNAのレベルへのわずかな効果のみが認められたため、C3の発現が保存されていることが示された(図3)。
【0177】
C3遺伝子座におけるHDRの実行可能性を検証するために、相同アーム長が500ヌクレオチド(配列番号7054)、800ヌクレオチド(配列番号7053)及び927ヌクレオチド(配列番号7052)の3つの構築物をクローニングした。相同アームを、「g11」ガイド分子の切断部位に配置した。ポリAテールを有するGFPをコードする配列を、HDR鋳型のレポーター遺伝子として使用した。32ヌクレオチド長のスプライスアクセプター部位を、GFP配列の上流に付加した(図4)。この場合、スプライス部位の配列は、pmaxGFPベクター(Lonza)から得たが、他のスプライス配列も使用できた。この特定のHDR鋳型の挿入を概念実証として行い、これはC3内因性タンパク質の発現を妨げる。「終止」コドンの使用を回避し、かつC3タンパク質発現を可能にするために、P2Aペプチド配列を使用して、他のドナー鋳型もデザインできた。
【0178】
OMNI-79 V5570ヌクレアーゼとC3標的化「g11」ガイド分子、又はGFP HDR鋳型を、AAV DJウイルス粒子にパッケージングした。HepG2細胞に、各AAV粒子を10感染多重度(MOI)で感染させた。処理の72時間後と15日後に、GFPの発現について、細胞をフローサイトメトリーで分析した(図5及び図6)。GFP分泌は、プレートリーダーで評価した(図7)。DNA抽出の72時間後に、NGSで編集レベルを分析した。ヌクレアーゼとガイド分子に感染させた細胞の編集の割合は、42.24±4.4%であった。編集レベルとHDR率の間には相関があり、HDRが非常に効率的であることを示している。
【0179】
GFP蛍光は、細胞培地でも検出され(図7)、HDR鋳型の正しい組込みとスプライシングが示された。
【0180】
同様のHDRレベルは、電気穿孔とHDR鋳型のAAV送達によるOMNI-50ヌクレアーゼとC3標的化「g11」ガイドでのRNP編集でも実証された(図8及び図9)。RNPのみで処理した細胞の編集レベルは、53.6±1.05%であった。
【0181】
【表2】
【0182】
【表3】
【0183】
参考文献
1. Ahmad and Allen (1992) “Antibody-mediated Specific Binging and Cytotoxicity of Lipsome-entrapped Doxorubicin to Lung Cancer Cells in Vitro”, Cancer Research 52:4817-20.
2. Anderson (1992) “Human gene therapy”, Science 256:808-13.
3. Anzalone et al. (2019) “Search-and-replace genomme editing without double-strand brakes or donor DNA”, Nature 576, 149-157.
4. Basha et al. (2011) “Influence of Cationic Lipid Composition on Gene Silencing Properties of Lipid Nanoparticle Formulations of siRNA in Antigen-Presenting Cells”, Mol. Ther. 19(12):2186-200.
5. Behr (1994) Gene transfer with synthetic cationic amphiphiles: Prospects for gene therapy”, Bioconjuage Chem 5:382-89.
6. Blaese (1995) “Vectors in cancer therapy: how will they deliver”, Cancer Gene Ther. 2:291-97.
7. Blaese et al. (1995) “T lympocyte-directed gene therapy for ADA-SCID: initial trial results after 4 years”, Science 270(5235):475-80.
8. Buchschacher and Panganiban (1992) “Human immunodeficiency virus vectors for inducible expression of foreign genes”, J. Virol. 66:2731-39.
9. Burstein et al. (2017) “New CRISPR-Cas systems from uncultivated microbes”, Nature 542:237-41.
10. Chang and Wilson (1987) “Modification of DNA ends can decrease end-joining relative to homologous recombination in mammalian cells”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:4959-4963.
11. Chung et al. (2006) “Agrobacterium is not alone: gene transfer to plants by viruses and other bacteria”, Trends Plant Sci. 11(1):1-4.
12. Coelho et al. (2013) “Safety and efficacy of RNAi therapy for transthyretin amyloidosis” N. Engl. J. Med. 369, 819-829.
13. Collias and Beisel (2021) “CRISPR technologies and the search for the PAM-free nuclease”, Nature Communications 12, 555.
14. Crystal (1995) “Transfer of genes to humans: early lessons and obstacles to success”, Science 270(5235):404-10.
15. Dillon (1993) “Regulation gene expression in gene therapy” Trends in Biotechnology 11(5):167-173.
16. Dranoff et al. (1997) “A phase I study of vaccination with autologous, irradiated melanoma cells engineered to secrete human granulocyte macrophage colony stimulating factor”, Hum. Gene Ther. 8(1):111-23.
17. Dunbar et al. (1995) “Retrovirally marked CD34-enriched peripheral blood and bone marrow cells contribute to long-term engraftment after autologous transplantation”, Blood 85:3048-57.
18. Ellem et al. (1997) “A case report: immune responses and clinical course of the first human use of ganulocyte/macrophage-colony-stimulating-factor-tranduced autologous melanoma cells for immunotherapy”, Cancer Immunol Immunother 44:10-20.
19. Gao and Huang (1995) “Cationic liposome-mediated gene transfer” Gene Ther. 2(10):710-22.
20. Haddada et al. (1995) “Gene Therapy Using Adenovirus Vectors”, in: The Molecular Repertoire of Adenoviruses III: Biology and Pathogenesis, ed. Doerfler and Boehm, pp. 297-306.
21. Han et al. (1995) “Ligand-directed retro-viral targeting of human breast cancer cells”, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 92(21):9747-51.
22. Hu et al. (2018) “Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity”, Nature 556(7699):57-63.
23. Inaba et al. (1992) “Generation of large numbers of dendritic cells from mouse bone marrow cultures supplemented with granulocyte/macrophage colony-stimulating factor”, J Exp Med. 176(6):1693-702.
24. Jinek et al. (2012) “A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity,” Science 337(6096):816-21.
25. Johan et al. (1992) “GLVR1, a receptor for gibbon ape leukemia virus, is homologous to a phosphate permease of Neurospora crassa and is expressed at high levels in the brain and thymus”, J Virol 66(3):1635-40.
26. Judge et al. (2006) “Design of noninflammatory synthetic siRNA mediating potent gene silencing in vivo”, Mol Ther. 13(3):494-505.
27. Kohn et al. (1995) “Engraftment of gene-modified umbilical cord blood cells in neonates with adnosine deaminase deficiency”, Nature Medicine 1:1017-23.
28. Kremer and Perricaudet (1995) “Adenovirus and adeno-associated virus mediated gene transfer”, Br. Med. Bull. 51(1):31-44.
29. Macdiarmid et al. (2009) “Sequential treatment of drug-resistant tumors with targeted minicells containing siRNA or a cytotoxic drug”, Nat Biotehcnol. 27(7):643-51.
30. Malech et al. (1997) “Prolonged production of NADPH oxidase-corrected granulocyes after gene therapy of chronic granulomatous disease”, PNAS 94(22):12133-38.
31. Miller et al. (1991) “Construction and properties of retrovirus packaging cells based on gibbon ape leukemia virus”, J Virol. 65(5):2220-24.
32. Miller (1992) “Human gene therapy comes of age”, Nature 357:455-60.
33. Mitani and Caskey (1993) “Delivering therapeutic genes - matching approach and application”, Trends in Biotechnology 11(5):162-66.
34. Nabel and Felgner (1993) “Direct gene transfer for immunotherapy and immunization”, Trends in Biotechnology 11(5):211-15.
35. Nishimasu et al. (2018) “Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space”, Science 361(6408):1259-1262.
36. Remy et al. (1994) “Gene Transfer with a Series of Lipphilic DNA-Binding Molecules”, Bioconjugate Chem. 5(6):647-54.
37. Sentmanat et al. (2018) “A Survey of Validation Strategies for CRISPR-Cas9 Editing”, Scientific Reports 8:888, doi:10.1038/s41598-018-19441-8.
38. Sommerfelt et al. (1990) “Localization of the receptor gene for type D simian retroviruses on human chromosome 19”, J. Virol. 64(12):6214-20.
39. Van Brunt (1988) “Molecular framing: transgenic animals as bioactors” Biotechnology 6:1149-54.
40. Vigne et al. (1995) “Third-generation adenovectors for gene therapy”, Restorative Neurology and Neuroscience 8(1,2): 35-36.
41. Walton et al. (2020) “Unconstrained genome targeting with near-PAMless engineered CRISPR-Cas9 variants”, Science 368(6488):290-296.
42. Weissman and Kariko (2015) “mRNA:Fulfilling the promise of gene therapy”, Molecular Therapy (9):1416-7.
43. Wilson et al. (1989) “Formation of infectious hybrid virion with gibbon ape leukemia virus and human T-cell leukemia virus retroviral envelope glycoproteins and the gag and pol proteins of Moloney murine leukemia virus”, J. Virol. 63:2374-78.
44. Yu et al. (1994) “Progress towards gene therapy for HIV infection”, Gene Ther. 1(1):13-26.
45. Zetsche et al. (2015) “Cpf1 is a single RNA-guided endonuclease of a class 2 CRIPSR-Cas system” Cell 163(3):759-71.
46. Zuris et al. (2015) “Cationic lipid-mediated delivery of proteins enables efficient protein based genome editing in vitro and in vivo” Nat Biotechnol. 33(1):73-80.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024510604000001.app
【国際調査報告】