(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】皮膚の色素沈着の治療を意図した化粧品組成物及び当該組成物を使用する治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/70 20060101AFI20240301BHJP
A61B 18/02 20060101ALI20240301BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240301BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240301BHJP
A61K 31/02 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K8/70
A61B18/02
A61Q19/00
A61P17/00
A61K31/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556513
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022056600
(87)【国際公開番号】W WO2022194810
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517245626
【氏名又は名称】クライオノヴ・ファルマ
【氏名又は名称原語表記】CRYONOVE PHARMA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】マラン、ドニ
(72)【発明者】
【氏名】アントン、ジャン-クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C083
4C160
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC011
4C083AC171
4C083AC811
4C083AC812
4C083CC02
4C083EE16
4C160JJ09
4C160MM22
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA07
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA89
(57)【要約】
本発明は、皮膚の色素沈着の治療のために表皮に適用することを意図した化粧品組成物であって、1~7回用量の、沸点が-196℃~-19℃である噴霧低温流体を含み、各用量が、0.048mL~0.56mLで測定される、化粧品組成物、当該組成物のインサイチュ調製のための方法、及び当該組成物を使用する美容治療方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の色素沈着の治療のために表皮に適用することを意図した化粧品組成物であって、0.048mL~0.56mLで測定される用量の、沸点が-196℃~-19℃である噴霧低温流体を含み、前記用量が、1~7回の噴霧を含むシーケンスによって得られる微小体積の前記流体からなることを特徴とする、化粧品組成物。
【請求項2】
前記用量が、単回噴霧を含むシーケンスによって得られる0.08mLの微小体積の1,1-ジフルオロエタンからなることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項3】
前記用量が、それぞれ0.064mL及び0.176mLを含む、2回の連続噴霧のシーケンスによって得られる微小体積の1,1-ジフルオロエタンからなることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項4】
皮膚の色素沈着の治療のために表皮に適用することを意図した化粧品組成物であって、0.048mL~3.92mLで測定される用量の、沸点が-196℃~-19℃である噴霧低温流体を含み、前記用量が、各々0.40mL~0.56mLを含む7回の連続噴霧のシーケンスによって得られる微小体積の1,1-ジフルオロエタンからなることを特徴とする、化粧品組成物。
【請求項5】
前記用量が、各々0.048mL~0.144mLを含む4回の連続噴霧のシーケンスによって得られる微小体積の1,1-ジフルオロエタンからなることを特徴とする、請求項4に記載の化粧品組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化粧品組成物を調製するための方法であって、1~7回用量の、沸点が-196℃~-19℃である低温ガスのインサイチュ製剤を含み、0.1mL/秒~2.0mL/秒の流量での前記ガスの連続噴霧のシーケンス(EC)によるものであり、前記噴霧のそれぞれの持続時間が、0.01秒~1秒であることを特徴とする、方法。
【請求項7】
沸点が-196℃~-19℃である加圧低温流体カートリッジ、及び電子タイミングシステムによって制御され、前記カートリッジからの前記流体の膨張を確実にするソレノイド弁と、前記表皮上への前記流体の噴出及び噴霧を確実にするスプレーノズルとを備える装置による、皮膚の色素沈着の美容治療のための方法であって、持続時間が0.01秒~1秒である前記流体の連続噴霧のシーケンスを前記表皮上で行って、0℃~14℃の目標温度範囲内で、その温度の一連の1~7回の振動を生成し、その総持続時間が、2.1秒~250秒であり、前記シーケンスが、各噴霧の間に、50℃/秒~170℃/秒の温度降下速度での急激な冷却段階と、それに続く20℃~34℃のより緩慢な加温段階とを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記振動の各々の持続時間が、0.2秒~3秒であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記表皮を冷却する前記段階が、29℃~37℃の初期温度から少なくとも15℃の勾配によって行われることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記低温ガスが、1,1-ジフルオロエタン(その沸点は、(1.013バールである1気圧の常圧下で)-24.7℃である)、メトキシメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ブタン/プロパン混合物(それぞれ、(1.013バールである1気圧の常圧下で)-196℃、-24℃、-26.3℃及び-19℃(前記混合物の割合に依存する)の沸点を有する)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記シーケンスが、0.1秒の持続時間にわたる0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの単回噴霧によって実施され、その結果、14℃の目標表皮温度が達成されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記シーケンスが、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの4回の連続噴霧によって実施され、各噴霧が、0.06秒~0.18秒からなる持続時間を有し、その結果、各噴霧後に14℃の目標表皮温度が達成されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記シーケンスが、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの2回の連続噴霧によって実施され、各噴霧が、それぞれ、0.22秒及び0.08秒からなる持続時間を有し、その結果、各噴霧後に12℃の目標表皮温度を達成されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記シーケンスが、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの7回の連続噴霧によって実施され、各噴霧が、0.5秒~0.7秒からなる持続時間を有し、その結果、各噴霧後に0℃の目標表皮温度が達成されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
皮膚の色素沈着を治療するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の化粧品組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品の分野に適用され、より具体的には、低温流体を含む化粧品組成物、並びに当該組成物を用いて低温で皮膚の色素沈着を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温物理学は、一般に、ダークスポットを排除するために化粧品に使用される。シミとも呼ばれるダークスポットは、顔、手、肩又は腕などの日光に曝された皮膚領域に現れる様々なサイズの小さな皮膚斑点である。ダークスポットは、良性の美容変形であると考えられ、見苦しいことが多い。それらは、一般的に、皮膚へのクリームの適用を含む美容方法によって、又は低温物理学によって治療される。
【0003】
従来の低温治療方法は、例えば、低温流体(液体窒素、ジメチルエーテル、ジフルオロエタン、テトラフルオロエタンなど)を1回以上の凍結/解凍サイクルで氷点下の温度で表皮に局所的に噴霧する噴霧装置によって実施される。
【0004】
非常に短い期間のシーケンスで非常に正確な零下温度に到達することによって、他の細胞に対していかなる有害な影響も生じることなく、ダークスポットなどの皮膚の色素沈着の原因である細胞(メラノサイト)のみを除去するように、いわゆる細胞選択作用を発揮することが可能である。細胞選択作用のこの方法は、特にケラチノサイトを保存することを可能にする。なぜなら、そのような細胞は、メラノサイトよりも低温に対して感受性が低いからである。
【0005】
より詳細には、色素沈着の細胞選択治療は、非常に急速な凍結とそれに続くゆっくりとした加温とを含む一連のサイクルからなる低温シーケンスによって得られ、その間、メラノサイトの破壊作用が延長される。
【0006】
実際、一般に、表皮の温度を零下温度まで非常に急激に低下させると、細胞組織が凝固する前であっても、細胞内水分の微結晶化が起こり、これが構造タンパク質及び酵素系の膜変化及び変性の両方を引き起こし、このような状態は、細胞に対する有害な影響(機械的衝撃による細胞溶解)をもたらす。
【0007】
これらのサイクル中に、浸透圧ショックと呼ばれる別の現象が起こる。数回の連続サイクルの形態での、温度の非常に急激な低下とそれに続くゆっくりとした加温は、細胞外水分の結晶化を引き起こし、その後、細胞外及び細胞内要素(イオンを含む)の濃度を変化させて濃度勾配を引き起こす。したがって、細胞内液は、冷却段階中(又は直後)に細胞外培地に向かって移動し、次いで、加熱段階中に細胞内区画に再び再合流し、これは、サイクルに基づいて連続して数回生じる。最終的に、細胞はもはやこれらの液体の動きを管理することができなくなり、浸透圧ショックが細胞溶解を引き起こす。
【0008】
より正確には、非常に急速な冷却段階の間に、氷微結晶が細胞外培地中に形成されることが見出される。その結果、細胞外培地と細胞内培地との間に濃度勾配が形成され、したがって、細胞内培地から細胞外培地へ水が移動する。次いで、セルの体積を減少する。表皮の温度を冷却した後、+34℃までの温度上昇が続き、したがって、温度低下とは異なり、緩慢な現象(典型的には10~100℃/分)である。この段階の間、細胞外微結晶は融解し、このとき、細胞外培地と細胞内区画との間の勾配を逆転させる形態で新しい現象が生じる。実際、細胞外培地中に大量に存在する水は、この勾配を補うために細胞に大量に入り、細胞内浮腫を引き起こし、細胞の膨張及びその膜の破裂をもたらす。次いで、微結晶の形成によってではなく、細胞脱水/再水和機構によって、細胞溶解の現象が再び行われる。これが浸透圧ショックと呼ばれるものである。
【0009】
ダークスポットの細胞選択治療の実施を意図した特許出願である、国際公開第2016/113305号に記載されているような低温装置がある。この装置は、表皮の温度を-5℃~-20℃に低下させて数秒間維持し、次いで温度をゆっくり上昇させて溶解、すなわちメラノサイトを破壊し、したがってダークスポットを除去することを目的とした低温流体の制御された噴霧(100分の1秒以内)を確実にする。
【0010】
この目的のために、装置は、特定の物理的特性を有する加圧低温ガスカートリッジと、自動タイミング手段に結合されることによってカートリッジからの正確な用量の低温ガスの送達を確実にするスプレーノズルと、決定された皮膚領域にわたって正確かつ均一な方法でガス流を集中させ、拡散させ、適用するように意図されたノズルと、を備える。このようなノズルは、特に、フランス特許第3076200(A1)号に記載されている。
【0011】
表皮に対する低温の影響は、特に論文[Bunsho Kao et al.Evaluation of Cryogen Spray Cooling Exposure on In Vitro Model Human Skin.Lasers in Surgery and Medicine 34:146-154(2004)]によって既に広く研究され、分析されており、この文献は、非常に急速な凍結によって生じる機械的衝撃によって、メラニン形成細胞の内外に氷微結晶が形成され、細胞壁が破壊され、細胞が死滅することを示している。
【0012】
細胞内培地と細胞外培地との間の浸透圧勾配の差による浸透圧ショックもまた、メラノサイトの溶解を引き起こす。続いて、平均細胞再生時間に対応する2~4週間の期間内に、生体は、色素沈着が完全に消失するまで、細胞要素及びメラニンを徐々に除去する。
【0013】
GAGE et al.[Gage AA et al.Effect of varying freezing and thawing rates in experimental cryosurgery.Cryobiology.1985 Apr;22(2):175-82]の研究を含む他の科学的研究は、異なる零下温度範囲で表皮に対して行われた凍結療法試験の結果を有する。これらの試験に通常使用されるプロトコールは、急速凍結段階及び緩慢解凍段階を含む。観察された細胞損傷は、氷結晶の形成によるものであり、解凍段階後の血液微小循環の不全に関連する。実際に、血液循環の破裂は、表皮細胞から生存の機会を奪うので、短い冷却段階が優先される。
【0014】
組織切片は、0~-4℃の温度を適用した後、7日間のメラノサイトの生存率を示した。-4℃未満の温度では、低温の適用から1週間後に、メラノサイトに細胞損傷が現れ、色素は観察されない。
【0015】
-4℃~-7℃では、ある種の細胞は表皮の深層で依然として生存しているが、メラノサイトはもはや存在しない。メラノサイトの脱凝集は数日間起こり、メラニンは断片化され、次にメラノサイトは深層から消失する。実際、電子顕微鏡生検の観察によって示されるように、メラニンを含有するメラノソームは、隣接するケラチノサイトによって貪食され、その酵素は膜を消化する。
【0016】
-7℃~-30℃では、メラノサイトもメラニンもそれ以上観察されない。しかしながら、皮膚の生理的な(自然な)色素沈着に向けた再色素沈着は、-4℃~-30℃の温度範囲の低温を適用した4ヶ月後に生じる。実際、治療された領域の再色素沈着は、治療された領域の周辺に存在するメラノサイトから行われる。
【0017】
表皮に適用される温度が-40℃に下がると、メラノサイト及びメラニンの完全な消失が観察される。次いで、皮膚の永久的な色素脱失が目撃される。
【0018】
研究[Har-Shai Y et al.Effect of skin surface temperature on skin pigmentation during contact and intralesional cryosurgery of keloids.JEADV 2007,21,191-198]は更に、メラノサイトが-4℃を超える温度に曝された場合にのみ、メラノサイトが生存可能なままであることを明記している。実際に、-4℃~-7℃で、色素を含有する顆粒(メラニンを含有するメラノソーム)の溶解が観察され、続いて、メラノサイト及びケラチノサイト(表皮の深層、したがって基底層に近い)におけるメラニンの酵素消化の開始が観察される。
【0019】
RAIDAN et al.[Raidan M.et al.Effect of Cooling to Low Temperatures on Viability of Human Skin Keratinocytes at Different Stages of Differentiation.Cell and Tissue Biology,2010,Vol.4,No.6,pp.1-10]は、-10℃~-70℃の温度範囲の低温によって処理されたケラチノサイトの細胞生存率研究を行った。ケラチノサイトの保存は、これらの細胞が表皮の全ての層を再形成する能力を有するので必須である。
【0020】
これらの研究から、ケラチノサイトの破壊が-35℃未満の温度で起こり、メラノサイトが非常に有意に除去されることが明らかになる。したがって、-5℃~-20℃の温度の作用は、細胞選択性の原理に従って、ケラチノサイトを損傷することなく、メラニン及びメラノサイトに作用することを可能にする。
【0021】
BURGE et al.[Burge SM et al.Pigment changes in human skin after cryotherapy.Cryobiology,1986,23:422-432]は、治療される創傷を超えて1~5mmのマージンにわたって-196℃で液体窒素を噴霧することによって皮膚を短時間5秒間冷却した後、低色素沈着が持続すること、及び低温の適用を15秒間延長すると、ケラチノサイト中のメラノソームが完全に消失することを示している。
【0022】
ANDREWS[Andrews MK et al.Cryosurgery for common skin conditions.Am fam physician,2004,69(10):2365-2373]においては、液体窒素噴霧は、4mm~5mmの表皮深さで-50℃の温度に達することを可能にする。したがって、これらの著者らは、低色素沈着が、メラノサイトの数の減少、メラノソームの数の産生の減少、又はメラノソームのケラチノサイトへの移動の遮断に起因し得ると仮定し、凍結療法が表皮制御を変化させると結論付けている。
【0023】
更に、GAGE AA et al.(1985)は、-50℃未満の温度が組織の壊死をもたらし、他方で、-15℃を超える凍結温度では、使用される解凍プログラムにかかわらず組織が生存可能なままであることを示した。しかしながら、彼らは、細胞内脱水を引き起こす大きな氷結晶が形成されるので、5~7分の間の組織の緩慢な解凍も有害であることも観察した。
【0024】
したがって、-15℃~-50℃の温度に急速凍結(30秒~2分)し、その温度を維持(3分間)した後、緩慢に解凍(5~7分)することを含む方法は、表皮に対する最も攻撃的な実験スキームを表す。
【0025】
逆に、急速解凍(2分未満)は、-15℃~-24℃の間での緩慢な凍結(3分)の後に続く場合、壊死の完全な不在を伴って使用されるプログラムにかかわらず、より少ない壊死をもたらす。
【0026】
更に、臨床研究がATTIA et al.によって[Attia EAS et al.Cryotherapy versus phenol chemical peeling for Solar lentigines:a clinical,histologic,immunohistochemical and ultrastructural study.J Egypt women.Dermatol SOC,2010,7:87-96,2010]、液体窒素で治療された手の甲に化学線黒子を有する20人の患者に行われた。創傷が凍結するまで、3~5秒の冷却サイクルが行われた。治療の3週間後に行われた生検は、凍結療法が皮膚色素沈着を減少させることを示す。この結果は、メラノサイトの数の減少、並びにメラノサイト及び角化細胞におけるメラニン顆粒の大きさ及び凝集の減少によるものであり、組織切片及び電子顕微鏡によって裏付けられる。
【0027】
したがって、結果が上に示されているこれらの以前の研究に照らして、当業者は、皮膚の色素沈着を治療することを意図し、したがって、ケラチノサイトを保存しながらメラノサイトを除去することを目的とする低温法の最適な有効性が、-5℃~-20℃の表皮の温度範囲内であることをそこから推論することができる。
【0028】
しかしながら、これらの研究は全て、表皮が零下温度になると、表皮制御が変化し、同時に炎症プロセス又は重度の刺激が生じることも示している。
【0029】
更に、非常に低い温度での低温流体の表皮への適用は、同様にメラノサイト以外の細胞を破壊する危険性も有する。このリスクは、メラニン形成の調節において本質的な役割を果たすケラチノサイトに関して特に重大である。これらの副作用は全て、皮膚の色素沈着の美容治療に関連して問題となる。なぜなら、これらは、主要な副作用、すなわち適用時、色素沈着治療後の疼痛、炎症、痂皮形成、浮腫、水膨れ、低色素沈着、瘢痕化などを生じるからである。
【0030】
しかしながら、本発明の開発に関連して行われた実験は、予想され得る用量依存的効果(適用される低温流体の量に依存する)とは対照的に、到達した温度(目標温度又は到達温度と呼ばれる)の関数としてのメラノサイトの死亡率曲線は、全てが用量依存的ではないいくつかの部分から形成され、そのうちの1つは特に0℃~+10℃の温度範囲にわたって安定であることを明らかにした(
図1参照)。
【0031】
例として、室温(23℃)の環境における通常の開始温度(34℃)から表皮に-10℃の目標温度(EC-10と称されるシーケンス)に達することを可能にする噴霧低温ガスの用量の適用と、0℃の温度(EC00と称されるシーケンス)に達することを可能にする用量の適用との間でメラノサイトの生存率を比較すると、この生存率は全く異なる(EC00と呼ばれるシーケンスの低温ガスの用量が低い)ことが予想されるのに対し、変わらないことが観察された。
【0032】
加えて、これらの実験は、表皮の約0℃を超える目標温度でメラノサイトの生存率を低下させることが可能であったことを示した(
図1参照)。一例として、表皮上で+12℃の温度を達成することを可能にする用量のガスがメラノサイトに適用される場合、メラノサイトの生存率は、対照群(対照群として機能する未処理メラノサイト)と比較して40%減少する。
【0033】
更に、約0℃を超える目標温度での試験はまた、いくつかの連続的な温度変動が、単一の変動と比較して、メラノサイトの生存率の低下を増加させることを可能にすることを明らかにした(
図2参照)。
図2は、細胞に生じた温度振動の数の関数としてのメラノサイトの生存率を示す。+14℃の目標温度では、1回の振動(1osc)に供されたメラノサイトは、74.1%に減少する生存率を有するのに対して、4回の連続振動に供されたメラノサイトは、それらの生存率が44%に減少する。したがって、そのような振動は、表皮の表面でその温度の振動を生成するように意図された選択された低温ガスの連続噴霧のシーケンスによって、適用することができる。
【0034】
最後に、表皮の他の構成細胞(ケラチノサイト)に対して、実験は、0℃を超える温度範囲内の振動が、零下温度範囲内の単一の低温ガスの適用と比較して、特定の刺激マーカーに対してより少ない効果を引き起こす一方で、ケラチノサイトの生存率において同一の減少を引き起こすことを示した(
図3参照)。したがって、マーカー(IL-1β)が考慮される場合、一連の4回の連続的な振動で+14℃の標的表皮温度を達成することを可能にする極低温ガスの用量の適用から生じる刺激作用は、零下温度を達成することを可能にする用量で観察される刺激作用よりも小さく、これは同じレベルのケラチノサイト生存率に当てはまる。同様に、刺激は、ケラチノサイトによって誘導される死亡率に直接関連するので、生存率の同一の減少について、刺激は同一であると考えられ得た。
【0035】
したがって、決定された数の低温ガスの連続噴霧(表皮において温度振動を生成する)に関連付けられた0℃を超える温度範囲における標的表皮温度は、共同して、色素沈着の起源における細胞の死亡率に影響を及ぼすことが分かる。
【0036】
実際に、本発明の開発に関連して行われた実験の結果は、先行する研究の結論に反して、これらの細胞の生存率が、0℃を十分に上回る目標温度(例えば、一連の1~4回の振動について+14℃)で有意に低減されることを示す。しかしながら、膜の破裂及び細胞溶解を引き起こす機械的衝撃について知られている主な原因を構成する氷結晶の形成は、0℃を超える温度では明らかに起こり得ない。同様に、浸透圧ショックも、細胞外培地中に氷結晶が形成されない限り、出現するとは考えられず、これは0℃を超える温度では明らかに不可能である。
【発明の概要】
【0037】
これに関連して、本発明は、従来の方法によって提起された技術的な問題を解決し、技術的な先入観を克服することを可能にする。実際に、本発明は、考察中の先行技術の推奨に反して、表皮を0℃を超える温度範囲に維持しながら、非常に短い期間の表皮の温度の一連の変動によって特徴付けられる低温かつ細胞選択的な美容治療を使用することによって、メラノサイトの生存率の大幅な減少及びケラチノサイトによって生じるより低い刺激(したがって、皮膚の色素沈着の効果的な除去)を得ることが可能であることを示す。
【0038】
この目的は、本発明によれば、皮膚の色素沈着の治療のために表皮に適用することを意図した化粧品組成物であって、1~7回用量の、沸点が-196℃~-19℃である噴霧低温流体を含み、各用量が、0.048mL~0.56mLで測定されることを特徴とする、化粧品組成物によって達成される。
【0039】
本発明は、この化粧品組成物の4つの特定の製剤を選択し、その効果はより特に有利である。
【0040】
したがって、第1の製剤によれば、本発明の組成物は、0.08mLの噴霧1,1-ジフルオロエタンの単回用量を含む。
【0041】
第2の製剤によれば、組成物は、4回用量の噴霧1,1-ジフルオロエタンを含み、各用量は0.048mL~0.144mLである。
【0042】
第3の製剤によれば、組成物は、2回用量の噴霧1,1-ジフルオロエタンを含み、用量はそれぞれ、0.064mL及び0.176mLである。
【0043】
第4の製剤によれば、組成物は、7回用量の噴霧1,1-ジフルオロエタンを含み、各用量は0.40mL~0.56mLである。
【0044】
本発明の別の目的は、皮膚の色素沈着の治療のために表皮に適用することを意図した化粧品組成物を調製するための方法であって、1~7回用量の、沸点が-196℃~-19℃である低温ガスのインサイチュ製剤を含み、0.1mL/秒~2.0mL/秒の流量での当該ガスの連続噴霧のシーケンス(EC)によるものであり、噴霧のそれぞれの持続時間が、0.01秒~1秒であることを特徴とする、方法である。
【0045】
本発明の更なる目的は、加圧低温流体カートリッジ、及び電子タイミングシステムによって制御され、当該カートリッジからの流体の膨張を確実にするソレノイド弁と、表皮上への流体の噴出及び噴霧を確実にするスプレーノズルとを備える装置による、皮膚の色素沈着の美容治療のための方法であって、当該流体の連続噴霧のシーケンスを表皮上で行って、0℃を超える温度範囲内で、その温度の一連の振動を生成し、その総持続時間が、2.1秒~250秒であり、各々が、50℃/秒~170℃/秒の温度降下速度での急激な冷却段階と、それに続くより緩慢な加温段階とからなることを特徴とする、方法である。
【0046】
したがって、本発明の治療方法によれば、表皮の温度を目標温度(例えば、表皮が最初は34℃であるのに対して+14℃から)まで低下させるために表皮上に非常に短い持続時間にわたって適用される噴霧低温ガスの第1の用量を含む化粧品組成物が調製される。次いで、その温度を放置してその初期値(又はより低い値であるが依然として20℃以下)まで上昇させ、この操作を、任意選択的に、噴霧流体の新たな用量を表皮に適用することによって数回(最大7回)繰り返す。しかしながら、表皮に連続的に適用される全ての用量が必ずしも同一であるわけではない。
【0047】
全ての場合において、用量は、表皮の温度が0℃未満に低下しないように決定される。したがって、これらの動作の各々は、表皮の温度の振動に対応する。本発明は、メラノサイトの生存率が、振動及び最大4回の連続振動の振動数に依存することを示した。
【0048】
本方法の有利な特徴によれば、各噴霧の持続時間は0.01秒~1秒である。
【0049】
別の特徴によれば、振動の各々の持続時間は、2.1秒~3秒である。
【0050】
好ましくは、振動を加温する段階は、20℃~34℃の温度上昇に対応する。
【0051】
本発明の治療方法の好ましい実施形態によれば、一連の表皮温度の連続的な振動の数は、1~7である。
【0052】
本発明によれば、表皮の温度は、0℃~14℃の目標温度に冷却されることが規定されている。
【0053】
更に、表皮を冷却する段階は、29℃~37℃の初期温度から少なくとも15℃の勾配に従って行われる(この温度範囲は、外部環境の関数として、個人ごとの表皮の温度の差をカバーするため)。
【0054】
更に別の特徴によれば、低温流体は、沸点が-196℃~-19℃であるガスである。
【0055】
好ましくは、低温ガスは、1,1-ジフルオロエタン(その沸点は、(1.013バールである1気圧の常圧下で)-24.7℃である)、メトキシメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ブタン/プロパン混合物(それぞれ、(1.013バールである1気圧の常圧下で)-196℃、-24℃、-26.3℃及び-19℃(当該混合物の割合に依存する)の沸点を有する)からなる群から選択される。
【0056】
美容治療プロセスの特定の変形形態によれば、当該シーケンスは、14℃の目標表皮温度を達成するように、0.1秒間の持続時間にわたる0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの単回噴霧によって実施される。
【0057】
したがって、34℃から+14℃の温度への単一の振動を実行することを可能にするシーケンスでは、表皮の温度の降下と、その後の+20℃の温度への上昇とを含む振動の総持続時間は、2.1秒である。
【0058】
本方法の第1の変形形態によれば、当該シーケンスは、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの4回の連続噴霧によって実施され、各噴霧は、各噴霧後に14℃の目標表皮温度を達成するように、0.06秒~0.18秒の持続時間を有する。
【0059】
本方法の第2の変形形態によれば、当該シーケンスは、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの2回の連続噴霧によって実施され、各噴霧は、各噴霧後に12℃の目標表皮温度を達成するように、0.22秒~0.08秒の持続時間を有する。
【0060】
本方法の第3の変形形態によれば、当該シーケンスは、0.8mL/秒での1,1-ジフルオロエタンの7回の連続噴霧によって実施され、各噴霧は、各噴霧後に0℃の目標表皮温度を達成するように、0.5秒~0.7秒の持続時間を有する。
【0061】
本方法のこの第3の変形形態は、各噴霧後に0℃の目標表皮温度を達成し、続いて温度を少なくとも20℃に上昇させるように、3.9秒の噴霧の累積持続時間中に実施される。
【0062】
したがって、本発明の化粧品組成物に入る低温流体の用量は、連続的に噴霧され、皮膚に、より正確には表皮に、規則的な非常に近い間隔で適用される。このような噴霧のシーケンスは、皮膚を冷却する突然の段階をもたらし、その後、より緩慢な加温段階をもたらす休止が続く。したがって、これらの連続する段階は、本発明の意味の範囲内で、化粧品組成物の噴霧のシーケンスに対応する表皮の温度の一連の振動をもたらす。この噴霧シーケンスは、マイクロ噴霧(又はパルス)からなり、休止を間に挟んだ低温ガスの多くの用量を形成する。例えば、噴霧シーケンスEC14/4oscは、それぞれの持続時間が以下の表2に示されている休止が続く4回の噴霧を含む。
【0063】
したがって、シーケンスは、所与の数の低温流体噴霧及び表皮温度の対応する数の振動によって特徴付けられる。これらの振動は互いに独立しており、各振動自体は、一方では、開始温度(表皮は一般に34℃である)と、表皮のより低いが依然として0℃を超える温度(目標温度と呼ばれる)との間の温度勾配によって、他方では、低温流体の適用から生じる速度が具体的には50℃/秒~170℃/秒である温度降下機構によって画定される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して以下の開示を読むことによって明らかになり、以下に詳述される。
【
図1】本発明の様々な実施形態を示すグラフであり、異なるシーケンスに従って適用された温度の関数としてメラノサイトの死亡率の変動を示す。
【
図2】いくつかの振動に従って適用された目標温度(+14℃)の関数としてのメラノサイトの生存率の変動を有する本発明の様々な実施形態を示すグラフである。
【
図3】同じレベルの生存率を達成することを可能にする2つのシーケンス、零下温度範囲(-16℃)に位置するシーケンス(EC16)及び0℃を超える温度範囲(+14℃)に位置する他のシーケンス(EC14)に供されたケラチノサイトについての刺激の(IL-1β)マーカーの経時的変化を示すグラフである。
【
図4】一連の振動の形態の時間の関数としての温度の変化を伴う、本発明の美容治療方法の優先的シーケンスを表すグラフである。
【
図5】本発明の治療方法の実施のための噴霧の優先的シーケンス(上の図)に関連して、時間の関数としての表皮の温度の変化(下の部分の曲線)をそれぞれ表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
より明確にするために、同一又は類似の要素は、説明及び図面において同一の参照符号によって識別される。
【0066】
当然のことながら、本発明の組成物の実施形態、及び本発明の美容治療方法の様々な実施は、上記及び下記の図によって示されており、非限定的な例としてのみ与えられている。他のものを提案するために様々な様式を提案し、組み合わせることが可能であることが明示的に規定されている。
【0067】
本発明は、皮膚の色素沈着の美容及び低温治療の分野に関し、特に、表皮に現れるいわゆるダークスポットの除去に関する。
【0068】
一般に、科学文献の分析は、この皮膚の色素沈着の原因であるメラノサイトの細胞破壊又は「溶解」が-4℃未満の温度で得られることを明らかにしている。
【0069】
更に、ほとんどの刊行物は、零下温度範囲でメラノサイトの細胞死をもたらす機構に関する。これは、液体窒素(-196℃)中で細胞を凍結する段階を伴う低温生物学プロセスにおける浸透圧ショックの場合である。
【0070】
公知の方法では、細胞膜の破裂を引き起こす氷結晶の形成に続いて、機械的衝撃及び/又は浸透圧ショックが起こる。したがって、これらの影響は、零下温度範囲内でのみ現れる。
【0071】
加えて、多くの科学刊行物は、約0℃を超える温度範囲内で温度を低下させても(最大0℃であっても)細胞生存率に影響しないことを強調している(General Guide for Cryogenically Storing Animal Cell Cultures,Corning)。
【0072】
他の研究は、細胞生存率のわずかな減少が0℃を超える温度で観察され得ることを示しているが、しかしながら、これらの研究は、この結果が長期間(数日間)にわたってのみ得られ得ることを明記している。しかしながら、これらの条件は、シーケンスの実施中に非常に短い期間(数秒)にわたって0℃を超える温度で細胞を低温流体に曝露することのみを必要とする美容治療よって、この目的を準瞬間的に達成することを目的とする本発明によって求められる目標に適合しない。
【0073】
約20~25℃で、ほとんどの細胞は生存することができ、少なくとも3日若しくは4日間、又はそれ以上にわたって増殖及び代謝することさえできる。しかしながら、曝露時間が十分に延長される場合、穏やかな低温への曝露中(しかし、数日後)に死滅する細胞が存在する一方で、他の細胞は生存したままであり、優生学的温度で再インキュベートされる場合、再び増殖し得る。実際に、多くの細胞は、+4℃~+5℃の領域で、24~48時間の範囲であり得る期間生存する。次いで、それらは、最適温度で再配置される場合、潜伏時間の延長以外の他の明らかな損傷を受けない。それらは、それらの増殖を再開するのがより緩慢になる。
【0074】
ある方法論的規則に従うならば、非常に多様な細胞型を+4℃で6~9週間保持することが効果的に可能である。(a)細胞は冷却時に良好な状態でなければならない。(b)それらは基材に接着しなければならない。(c)それらは通常の培地で培養されなければならない。(d)培地は、4℃での保存期間中に交換すべきではない;(e)培地は、優生学的温度に戻った後の数日間は交換してはならない。これらの条件は全て本発明者らの実験で観察された。
【0075】
したがって、先行技術に照らせば、メラノサイトが、0℃を超える温度で、メラノサイトの生存率の熱閾値から遠く離れた温度で短時間保持されただけである一方で、メラノサイトの有意な死亡率が観察されたと考える理由はない。
【0076】
したがって、実験(インビトロでの細胞培養)が、メラノサイトの死亡率に対する異なる温度(+10、+5、0、-5、-10、-15及び16℃)の効果を決定するために、本発明に関連して行われた。シーケンスは、テストベンチ(例えば、-5℃の目標温度に達するためにEC-5と称される)から開発された。対照群の細胞を+23℃で試験した。治療の24時間後、細胞死亡率を、タンパク質の発現をアッセイすることによって定量化した(
図1参照)。
【0077】
これらの実験の結果は、温度の関数としてのメラノサイトの死亡率の変動が、予想され得ることに反して、研究された温度の全範囲にわたって必ずしも線形ではないことを示した。
【0078】
より正確には、
図1のグラフによって表される、温度の関数としての死亡率の曲線は、3つの部分に分かれている。第1の部分は線形で増加し、シーケンスEC16(-16℃)、EC-15(-15℃)及びEC-10(-10℃)を含み、第2の部分は線形であるがプラトーの形態であり、シーケンスEC-05(-5℃)、EC0(0℃)、EC+05(+5℃)及びEC+10(+10℃)を含み、第3の部分は再び線形で増加し、EC+10からEC+20(+20℃)の範囲のシーケンスを含む。
【0079】
EC+10シーケンスについての死亡率は、対照群について得られた死亡率と非常に異なることが観察された。これらの結果は、正の表皮温度であっても、非常に短い時間のシーケンス(30秒未満)で異なる現象が起こることを示している。
【0080】
加えて、細胞生存率の改変は、非常に低い温度勾配、例えば、+15℃~+10℃(すなわち、実験条件が実験中に細胞を約23℃の温度に置く細胞培養での実験の場合、8℃の勾配)で生じる。
【0081】
これらの結果を確認するために、より高い温度範囲(+20℃~-15℃)で追加の実験を行った。
【0082】
これらのデータは、適用される低温流体の用量の影響をより正確に観察するために、到達した目標温度が互いにより近いシーケンスについて、メラノサイトの死亡率に対する温度の効果を示す研究によって完成された。
【0083】
これらの観察により、特にEC16シーケンス(零下温度を誘導するシーケンス)で遭遇する任意の炎症プロセス、刺激及び一過性の色素沈着(炎症プロセスに続く色素沈着)を可能な限り制限する目的で、表皮の温度を0℃を超える温度に維持しながら表皮の温度を突然低下させることを可能にする低温ガス噴霧シーケンスを設計することが可能になった。
【0084】
加えて、これまでに試験された範囲(例えば、+37~+23℃)を超えて、0℃を超える温度範囲内で10℃の勾配に従って細胞温度を低下させても、細胞の破壊は生じなかったことが観察された。実際に、メラノサイト及びケラチノサイトのインキュベーション温度(+37℃)をより低い温度(+23℃)にすると、細胞の生存率が変化しないことが観察された。したがって、これらのデータは、+20~+10℃の範囲にわたって行われた研究の結果とは反対である。
【0085】
+37℃から+23℃及び+23℃から+10℃の温度変化をそれぞれ示す実験は、両方の温度勾配において高い変化率で行われたので、表皮の温度の変化率は相互作用しない。低温物理学では、3つの温度降下機構が一般に区別される。緩慢な降下は、実質的に5℃/分の低下に対応するが、急速な降下は25℃/分で生じ、いわゆる超急速降下は100℃/分で生じる。
【0086】
本発明の化粧品組成物の適用様式は、
図4に示されるように、皮膚と接触して、(T0)で示される開始温度(一般に34℃)から(T1)で示される目標温度へのその温度の超急速降下、又は勾配(T0-T1)を引き起こすことが意図された低温流体の連続噴霧のシーケンスを含む。この温度低下は、所与の期間又は持続時間(t)で、したがって特定の速度又は機構(C1で示される)で行われる。
【0087】
2つの連続した噴霧の間の比較的短い休止時間のために、表皮の温度は、この間隔において自然に上昇する傾向がある。したがって、この温度の降下は、所与の合計時間(t1)にわたって(T2、T3、T4...)の間に位置する表皮の温度範囲内の一連の(n)振動(すなわち、温度の周期的変動)を伴う。これらの温度は全て0℃を超えるであり、これらの振動は均一又は不規則な周期を有し得る。
【0088】
メラノサイトの生存率の約40%の低減を得ることを可能にするシーケンスの第1の例は、4に等しい振動(したがって、噴霧)の数(n)を有するパラメータの以下の値からなる。
T0:+23.3℃
T1:+14.5℃
T2:+15.2℃
T3:+15.0℃
T4:+14.3℃
t1=15秒
【0089】
更に、追加の研究により、表皮の温度振動の数(n)もまた、メラノサイトの死亡率の増加に寄与することが確認された。したがって、本発明の美容治療は、一連の1~7回の振動を含み得ることが規定されている。したがって、噴霧の所与のシーケンスは、複数の振動に対応し、それぞれの持続時間及び振幅は変動し得る。
【0090】
本発明の化粧品組成物に使用される流体の低温特性、並びにこの組成物をインサイチュで調製するために想定される装置の機能性により、実験室において、23℃(細胞培養物が取り扱われるときの細胞培養物の温度である)から-15.8℃への温度降下を0.6秒で、すなわち76℃/秒又は4560℃/分の速度で行うことが可能になる。したがって、これは超急速冷却である。
【0091】
しかしながら、例えば5℃~10℃の勾配であるが、零下温度に達することのない表皮の温度の低下が、メラノサイトの有意な死亡率及びダークスポットの消失を生じ得ると考える理由はなかった。
【0092】
その結果、本発明の美容治療方法は、表皮の細胞の温度を急勾配(例えば、8℃)で急激に低下させる一方で、これらの細胞を0℃を超える温度範囲に維持するために、上述の装置を用いて低温流の用量を送達することからなる。
【0093】
しかしながら、この方法は、表皮の温度を0℃未満に低下させるリスクを有するであろう低温流体の単一かつ高い瞬間用量を適用することによって行われるのではなく、むしろ、選択された製剤に応じて、いくつかの用量、典型的には1~7回用量を介して行われ、これらの用量は、非常に短い持続時間の連続噴霧のシーケンスを介して表皮に送達及び適用される。したがって、このシーケンスは、0℃を超える温度範囲内に留まりながら表皮の温度の振動を生じさせ、これにより、予想外に、メラノサイトの生存率を低下させ、したがって皮膚の色素沈着を治療することが可能になる。
【0094】
本発明の開発の範囲内で行われた他の試験は、タンパク質アッセイによるケラチノサイトの生存率の測定に実験バイアスが存在することを示した。実際に、これらの試験の結果は、特定の温度(特に+05℃の温度)について、ケラチノサイトの生存率の低下を示した。
【0095】
この低下は、文献に記載されているケラチノサイトの生存限界(-35℃)と一致しない。したがって、これらの試験は、この結果を説明しようとするものであり、化粧品組成物中に存在する低温流体の表皮への適用後に2つの仮定が置かれた。
【0096】
第1の仮説によれば、単層ケラチノサイトの分離と、培地中、したがってリンス培地中の生存細胞の出現が起こり、ペトリ皿中の生存メラノサイト数の「機械的」減少による実験的偏りが生じる。
【0097】
第2の仮説によれば、メラノサイトを静止状態にすることは、対照群に対してバイアスを誘導することによってそれらのタンパク質産生を停止させ、生存率はタンパク質濃度から計算される。
【0098】
本発明の範囲内のより広範な研究が、リンス培地中の生存ケラチノサイトの存在又は非存在を確認するために行われた。これらの研究は、リンス培地中の非常に少量のケラチノサイトの存在を実証することを可能にし、したがって、最初の仮説を破棄することにつながった。更に、結果は、顕微鏡観察によって、生存細胞を有するケラチノサイトの単層の存在を明確に示す。しかし、この単層の顆粒状の外観は、細胞の静止形態を示唆し、したがって第2の仮説を強化する。
【0099】
本発明の実施によって得られるこれらの最後の驚くべき非常に有利な結果は、ケラチノサイト(及び、適切な場合、他の細胞)の静止を引き起こすこと、及び他の可能な適用を考慮することを可能にする。
【0100】
したがって、温度勾配の重要性も、細胞生存率の閾値(+37℃)へのその近接性も、表皮の0℃を超える温度範囲内でのみ進行するという事実も、温度の低下速度も、振動の数も、低温流体への曝露の非常に短い持続時間も、当業者に、そのような美容治療が表皮上の皮膚の色素沈着の有意な低減をもたらすと結論付けることができなかった。
【0101】
したがって、要約すると、本発明は、表皮への即時適用のための低温流体の連続噴霧を含む非常に短い噴霧シーケンス(典型的には0.01秒~1秒の持続時間)によってその用量(微小体積)がインサイチュで製剤化される化粧品組成物を提案する。
【0102】
したがって、一連の超急速な温度低下とそれに続く温度の短い上昇(各下降曲線及び上昇曲線は、温度の振動を形成する)によって、この組成物は、制御された様式で、これらの温度低下中に表皮を0℃を超える温度範囲に維持しながら、15℃を超える温度勾配に従って、最初は34℃である表皮の温度(したがってメラノサイトの温度)を周期的に低下させることを可能にする。
【0103】
もちろん、噴霧の持続時間、その回数、その頻度及びその間の休止は、使用される低温流体の性質、使用されるソレノイド弁の流量及び他の重要なパラメータに依存する。理論的には、休止と交互に行われる噴霧を含むシーケンスの持続時間は、0.01秒~206秒(7回の噴霧の場合)であるが、好ましくは3.9秒未満である。全ての場合において、各噴霧後の温度上昇に起因して、シーケンスの持続時間が噴霧時間よりも長くなることは明らかである。本発明によれば、選択された各シーケンスに対する一連の振動の持続時間は、2.1秒~250秒になるように規定される。
【0104】
本発明の化粧品組成物のインサイチュ調製を意図した適切な装置は、特定の物理的特性を有する加圧低温ガスカートリッジと、自動タイミング手段に結合されることによってカートリッジからの正確な用量の低温ガスの送達を確実にするスプレーノズルと、決定された皮膚領域にわたって正確かつ均一な様式でガス流を集中させ、拡散させ、適用することを意図したノズルと、を備える。
【0105】
皮膚色素沈着に関して所望の美容的結果を得ることを可能にする本発明の治療方法の好ましい実施形態の1つは、34℃の表皮の通常の開始温度から、低温流体の4回の連続的な噴霧によって得られる+14℃の表皮の温度を目標とすることからなるシーケンス(EC14と称される)を含む。
【0106】
したがって、このシーケンスは、表皮温度の一連の4回の振動を含む。このシーケンスでは、使用される低温装置に組み込まれたソレノイドバルブ(EV)の開放持続時間(噴霧持続時間に正確に対応する)は、以下の表1に示されるものである。
【0107】
【0108】
この表1では、「0」と称されるソレノイド弁の位置は、ガスを通過させないソレノイド弁の密閉閉鎖位置に対応し、一方、状態「1」は、低温ガスの膨張及び噴出のための開放位置に対応する。したがって、表1から、噴霧段階は、ここでは0.06秒(第2、第3及び第4の噴霧)~0.1秒(第1の噴霧)であり、振動の持続時間は2~3秒であることが明らかになる。
【0109】
ソレノイド弁の各開放のガスパルスの体積は、ソレノイド弁の出口における低温ガスのdev(偏差)の平均を基準として取ることによって、表1(上)及び表2(下)に与えられる開放持続時間に基づいて計算され得る。
【0110】
したがって、投与量、言い換えれば、表皮に適用され、所望の美容効果を得ることを可能にする低温流体の用量は、(シーケンス中に噴霧される流体の連続体積と組み合わせて)1,1-ジフルオロエタンガスによる0.08mL(単回噴霧、したがって単一の振動によるシーケンスEC14の場合)から3.50mL(同じガス及び7回の振動によるシーケンスEC00の場合)の範囲である。この結果は、表皮の開始温度+34℃から常に開始し、目標温度(0℃)に到達し、次いで少なくとも+20℃の温度に上昇し、合計7回行い、0.8mL/秒の平均ソレノイド弁出力流量を使用することによって得られる。より一般的には、これらの用量は、使用される低温流体の性質(したがって、その沸点)、並びにソレノイド弁の脱出流(したがって、その構造特性)及びその開放持続時間の関数である。
【0111】
1~4と称される噴霧(5回の試験にわたって平均化された)後に得られた表皮の低い(すなわち目標)がまだ0を超える温度は、各々12.1℃、13.6℃、13.6℃、次いで13.0℃であり、温度は各振動で20℃を超えて上昇する(
図4及び
図5参照)。
【0112】
本発明の美容治療方法の実施の他の例は、様々な噴霧シーケンスで以下の表2に詳述されている。(EC)と称されるこれらのシーケンスでは、1,1-ジフルオロエタンガスとともに使用される低温装置に組み込まれたソレノイド弁(EV)の開放期間(秒単位)は、0.8mL/秒のソレノイド弁の流量に関連付けられる。
【0113】
以下の表2において、各シーケンス(EC)は、目標温度及び振動数を示すコードに関連付けられている。シーケンスは、ソレノイド弁(EV)が閉鎖位置にある状態で開始する。項(Pu)は、ソレノイド弁の開放の持続時間に対応し、したがって、所与の時間及び0.8mL/秒に設定された流量での噴霧に対応する。項(Pa)は、2つの噴霧の間のソレノイド弁の閉鎖時間に対応する。この時間は、20℃を超える表皮の温度の自然な上昇をもたらす休止(Pa)に対応する。シーケンスEC14/4を
図3及び5に示す。
【0114】
本発明の開発により、噴霧シーケンスの最適化に関する多数の実験が行われた。これらのシーケンスを、特にメラノサイト及びケラチノサイトの細胞生存率に対するそれらの発生率を決定するために、細胞培養モデルで試験した。刺激の主なマーカーも測定した。
【0115】
これらの実験の第1の目的は、細胞選択的シーケンス、すなわち、ケラチノサイトを保存しながらメラノサイトの生存率を低下させることによってメラノサイトにのみ作用するシーケンスを選択することであった(性能の概念)。
【0116】
第2の目的は、刺激マーカーにおいて可能な限り低い変動を生じたシーケンスを決定することであった(リスクの概念)。要約すると、性能/リスク比が最適であったシーケンスを選択した。
【0117】
これらの実験中に試験したシーケンスのうち、4つのシーケンスが最適な性能/リスク比を有していた。これらは、表2に明示的に記載されているEC+14/1osc、EC+14/4osc、EC+12/2osc及びEC00/7oscと称されるシーケンスである。これらのシーケンスは、排気流量が0.8mL/秒であるソレノイド弁を用いて行われた。したがって、低温ガスの各用量は、噴霧の持続時間にこの流量を乗じた積に対応する。
【0118】
試験された他のシーケンスの中で、変形形態(例えば、シーケンスEC+14/3osc)は、この最適比に近く、本発明の範囲内に入ると考えられなければならない。一般に、EC+14/1oscとEC00/7oscとの間の全てのシーケンスは、0℃を超える目標温度及び振動数の両方の観点から、本発明の化粧品組成物の製剤にとって興味深い。本発明の化粧品組成物で治療された表皮に対して行われた他の研究は、これらの結果を確認する。
【0119】
【国際調査報告】