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特表2024-510636TACI-Fc融合タンパク質を用いたIgA腎症の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】TACI-Fc融合タンパク質を用いたIgA腎症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240301BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240301BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240301BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240301BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240301BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P13/12
A61K47/68
C07K14/705 ZNA
C07K16/00
C07K19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557036
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 CN2022111112
(87)【国際公開番号】W WO2023016444
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202110915873.5
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520087262
【氏名又は名称】レメゲン シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】REMEGEN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.58 Beijing Middle Road, Yantai Development Zone, Yantai District, China(Shandong)Pilot Free Trade Zone, Yantai, Shandong 264006 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】房 健民
(72)【発明者】
【氏名】王 文祥
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA16
4C076AA22
4C076AA24
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC17
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA53
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA81
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、TACI-Fc融合タンパク質を用いたIgA腎症の治療薬、用量スキーム、投与間隔及び投与方法に関する。結果によると、治療群の患者の尿中タンパク質レベルはベースラインと比較して有意に低下し、プラセボ群と比較した場合の差が統計的に有意であることが分かった。また、治療群とプラセボ対照群との間には臨床試験の幾つの副次的終点においても有意差があった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgA腎症を有する患者に、
(i)TACI細胞外領域、或いは、Blys及び/又はAPRILに結合するその断片と、
(ii)ヒト免疫グロブリンの定常領域と、
を含むTACI-Fc融合タンパク質を治療有効量で投与することを含むことを特徴とする、IgA腎症の治療方法。
【請求項2】
前記TACI細胞外領域或いはBlys及び/又はAPRILに結合するその断片が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト免疫グロブリンの定常領域は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むか、又は配列番号2と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト免疫グロブリンの定常領域が、配列番号2の部位3、8、14、15、17、110、111及び173のうちの1つ又は複数の部位に対応するアミノ酸の修飾を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記修飾がアミノ酸の置換、欠失又は挿入であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記置換が、P3T、L8P、L14A、L15E、G17A、A110S、P111S及びA173Tからなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト免疫グロブリンの定常領域が、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト免疫グロブリンがIgG1であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記TACI-Fc融合タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記TACI-Fc融合タンパク質がテリタシセプト(Telitacicept)であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記TACI-Fc融合タンパク質が、毎回に160~240mg、好ましく160mg又は240mgの範囲内の投与量で投与されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記TACI-Fc融合タンパク質は、1ヶ月間に2~4回使用され、かつ/又は約2~50週間継続投与されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記TACI-Fc融合タンパク質が、皮下注射、筋肉注射、経口又は静脈の投与経路で投与されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記IgA腎症が原発性IgA腎症であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者にTACI-Fc融合タンパク質を含む医薬組成物を投与することを含む方法であって、前記医薬組成物が薬学に許容される担体をさらに含む、IgA腎症の治療方法。
【請求項16】
IgA腎症患者を治療するための医薬品の作製におけるTACI-Fc融合タンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgA腎症を治療するための医薬品、用量スキーム、投与間隔及び投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IgA腎症(即ち、免疫グロブリンa腎病、IgA Nephropathy、IgAN)は、免疫複合体に起因した糸球体腎炎であり、血尿、タンパク尿及び様々な割合の進行性腎不全として現れる。この病気の発症機構は非常に複雑であり、遺伝、環境及び免疫要素が共同してIgA腎症の発生を決定すると考えられているが、主に、様々な要因により、異常にグリコシル化されたポリIgA1分子が腎臓のメサンギウムに過剰に沈着し、メサンギウムの炎症反応及び補体の過剰な活性化が誘発され、それにより疾患が進行すると考えられている。患者は最終的に腎不全又は末期腎臓疾患を発症し、50%ぐらいの患者が透析又は腎臓移植を必要とする。フロスト&サリバンによると、全世界のIgA腎症患者数が2015年の880万人から2020年の930万人(中国220万人を含む)に増加した。全世界のIgA腎症患者の総数は、2025年に970万人(中国230万人を含む)、2030年に1020万人(中国240万人を含む)に達すると推定されている。従って、IgA腎症治療の分野には世界中で巨大な臨床的ニーズがある。
【0003】
しかしながら、IgA腎症に対して承認された有効な治療法や生物薬剤は世界中にもまだない。現在の標準治療法は、腎-アンジオテンシン-アルドステロン系の遮断及び免疫抑制であり、チコステロイドを包含し、重篤な毒副反応を伴うことが多い。2021年07月20日まで、IgA腎症の臨床研究段階にある新しい生物薬剤は世界中で11しかない(表1参照)。
【0004】
【表1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、中国であれ全世界であれ、IgA腎症治療の分野には、巨大な臨床的ニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
臨床データを詳細に分析したところ、本発明で提供されるTACI-Fc融合タンパク質によりIgA腎症の癌患者を治療する際に顕著な技術的効果が生じる。
具体的には、本発明は、前記IgA腎症の患者にTACI-Fc融合タンパク質を治療有効量で投与することを含む、IgA腎症の治療方法を提供する。前記TACI-Fc融合タンパク質は、
(i)TACI細胞外領域或いはBlys及び/又はAPRILに結合するその断片と、
(ii)ヒト免疫グロブリンの定常領域とを含む。
【0007】
さらに、前記TACI細胞外領域或いはBlys及び/又はAPRILに結合するその断片は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
さらに、前記ヒト免疫グロブリンの定常領域は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むか、又は配列番号2と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0009】
さらに、前記ヒト免疫グロブリンの定常領域は、配列番号2の部位3、8、14、15、17、110、111及び173のうちの1つ又は複数の部位に対応するアミノ酸の修飾を含む。前記修飾は、好ましくはアミノ酸の置換、欠失又は挿入である。
【0010】
さらに、前記置換は、P3T、L8P、L14A、L15E、G17A、A110S、P111S及びA173Tからなる群より選択される。
さらに、前記ヒト免疫グロブリンの定常領域は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む。
【0011】
さらに、前記ヒト免疫グロブリンはIgG1である。
【0012】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質は、アミノ酸配列が配列番号4に示される。
【0013】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質はテリタシセプト(Telitacicept)である。
【0014】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質は、投与量が毎回160~240mgの範囲である。いくつかの具体的な実施形態において、前記TACI-Fc融合タンパク質は、投与量が毎回160mgである。他の具体的な実施形態において、前記TACI-Fc融合タンパク質は、投与量が毎回240mgである。
【0015】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質は、1ヶ月間に2~4回使用される。
【0016】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質は、約2~50週間継続投与される。
【0017】
さらに、前記TACI-Fc融合タンパク質は、皮下投与、筋肉注射、経口投与又は静脈投与の投与経路より投与される。
【0018】
さらに、前記IgA腎症は原発性IgA腎症である。
【0019】
さらに、前記患者は成人患者又は小児患者である。
【0020】
また、本発明は、患者にTACI-Fc融合タンパク質を含む医薬組成物を投与することを含むIgA腎症の治療方法に関する。ただし、前記医薬組成物が薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0021】
また、本発明は、IgA腎症患者を治療するための医薬品の作製におけるTACI-Fc融合タンパク質の使用に関する。
【0022】
本発明について実施された臨床研究の結果により、テリタシセプト治療群は患者の尿中タンパク質レベルがベースラインと比較して有意に低下し、プラセボ群と比較した差が統計的に有意であったことが分かった。また、臨床試験の複数の副次的終点においても、治療群とプラセボ対照群との間に有意な差があった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、eGFRの経時変化を示す。
図2図2は、UACRの経時変化を示す。
図3図3は、尿中赤血球計数の経時変化を示す。
図4図4は、IgAレベルの経時変化を示す。
図5図5は、IgGレベルの経時変化を示す。
図6図6は、IgMレベルの経時変化を示す。
図7図7は、Bリンパ球(CD19+)計数の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、当業者によって理解されるのと同じ意味を有する。この分野の定義及び用語について、当業者なら、具体的にCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel)を参照すればよい。
【0025】
本発明は、IgA腎症の治療におけるTACI-Fc融合タンパク質(「TACI-免疫グロブリン融合タンパク質」とも呼ばれ、本発明において互換的に使用できる)の使用を提供する。本発明に係る患者は、ヒトなどの哺乳動物であることが好ましく、成人又は子供であるより好ましい。
【0026】
本発明で提供されるTACI-免疫グロブリン融合タンパク質は、1)TACI細胞外ドメイン或いは又はBlyS及び/又はAPRILに結合可能なその断片と少なくとも部分的に同じのドメインを含むポリペプチドと、2)ヒト免疫グロブリンの定常領域とを含む。米国特許第5,969,102号、第6,316,222号及び第6,500,428号、ならびに米国出願第09/569,245号及び第09/627,206号(その内容は参照のために本明細書に組み込まれる。)には、TACIの細胞外ドメイン、及びTACIリガンドと相互作用可能なTACI細胞外ドメインの特定の断片について記載されていて、TACIリガンドにはBlyS及びAPRILが含まれる。公開番号CN101323643Aの中国特許には、TACI細胞外ドメインの13~118番目のアミノ酸断片を含むTACI-Fc融合タンパク質が記載されている。
【0027】
本発明における用語「TACI」、即ち、膜貫通活性化因子とカルシウム調節リガンド相互因子(transmembrane activator and CAML interactor)は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバーの1つとして知られている。本発明における用語「BLys」は、Bリンパ球刺激因子(B lymphocyte stimulator)を指し、膜結合型及び可溶性型の2つの形態で存在するTNFリガンドスーパーファミリーのメンバーの1つであり、骨髓細胞の表面に特異的に発現され、Bリンパ球の増殖及び免疫グロブリンの産生を選択的に刺激するものである。本発明における用語「APRIL」(a proliferation-inducing ligand)は、腫瘍壊死因子(TNF)類似体であり、体内の原始B細胞及びT細胞の増殖を刺激し、B細胞の蓄積を促進して脾臓の含有量を増加させることができる。APRILは、TACI、BCMAに特異的に結合することができ、結合すると、APRILがB細胞に結合するのを阻止し、そしてAPRILによって刺激された原始B細胞の増殖反応を抑制することができる。また、APRILは、BLysと競合して受容体(BCMA、TACI)に結合することができる。
【0028】
本発明における用語「免疫グロブリン」とは、抗体活性を有する動物タンパク質を指し、ヒト免疫グロブリンであることが好ましい。いくつかの実施形態において、「免疫グロブリン」はIgG、IgM、IgE、IgD又はIgAであってもよく、IgGであることが好ましく、IgG1、IgG4であることがより好ましい。
【0029】
本発明における用語「ヒト免疫グロブリンの定常領域」とは、特にヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域を指す。ある実施形態において、前記「ヒト免疫グロブリンの定常領域」は、完全なヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域である。他の具体的な実施形態において、前記「ヒト免疫グロブリンの定常領域」は、「完全なヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域」の一部のアミノ酸配列を有する断片、即ち、「ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域の断片」である。ヒト免疫グロブリンIgG1を例とすると、「完全なヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域」は、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。「ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域の断片」は、様々な構造の組み合わせを有することができ、例えば、以下に限定されないが、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、ヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列、CH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とCH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とCH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、ヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列とCH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、ヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列とCH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とCH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列とCH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、CH1ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列とCH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列、ヒンジ領域の完全又は一部のアミノ酸配列とCH2ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列とCH3ドメインの完全又は一部のアミノ酸配列を包含する。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、「ヒト免疫グロブリンの定常領域」とは、特にヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域の断片を指し、ヒンジ領域の一部のアミノ酸配列とCH2ドメインの完全なアミノ酸配列とCH3ドメインの完全なアミノ酸配列を含むことが好ましい。いくつかの好ましい実施形態において、本発明に係る「ヒト免疫グロブリンの定常領域」は、例として、配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列、又はその同一性配列を含む。
【0030】
本発明で提供されるTACI-免疫グロブリン融合タンパク質は、免疫グロブリン部分が、好ましくIgG1である。本発明において、IgG1重鎖定常領域は、CH2及びCH3領域を含有するIgG1 Fc断片であることが好ましく、野生型IgG1 Fc断片であってもよく、変異されたIgG1 Fc断片であってもよい。
【0031】
別の選択的な実施形態として、本発明で提供される免疫グロブリンの定常領域には、置換(即ち、変異)、付加(即ち、挿入)又は欠失(即ち、削除)などの1つ又は複数のアミノ酸の変化を導入することができる。
【0032】
本発明における用語「治療有効量」は、薬物の一般的に使用される用量を指し、臨床で一般的に使用される有効用量範囲であり、最小有効量と最大投与量の間の量であるのが一般である。最小有効量とは、薬物により薬理効果を引き起こせるのに最小用量を指す。最大投与量とは、治療量の最大量、すなわち安全な薬品使用の限界を指し、最大投与量を超えると中毒が発生する恐れがある。
【0033】
本発明における用語「テリタシセプト」(中国語で「泰愛」とも呼ばれ、本発明において互換的に使用できる)は、TACI-Fc融合タンパク質であり、そのINN名がTelitaciceptであり、そのアミノ酸配列が配列番号4に示されるか、又はhttps://extranet.who.int/soinn/mod/page/view.php?id=137&inn_n=10932を参照のこと。
【0034】
本発明で使用されるアミノ酸の3文字のコード及び1文字のコードは、J.biol.chem,243,p3558(1968)に記載されている通りである。アミノ酸部位の番号付け方法としては、Kabat番号付け、EU番号付け、順序番号付けなど様々であるが、本発明においては、アミノ酸部位の番号付け方法として「順序番号付け」法を採用し、例えば、本発明における「配列番号2の部位3、8、14、15、17、110、111又は173」とは、配列番号2の3番目のアミノ酸、8番目のアミノ酸などを指す。本発明における「P3T」とは、配列番号2の3番目のアミノ酸配列を元の「P」から「T」に変異させることを意味する。また、L8P」とは、配列番号2の8番目のアミノ酸配列を元の「L」から「P」に変異させることを意味する。この例のように類推する。
【0035】
本発明の用語「医薬組成物」とは、特に、TACI-Fc融合タンパク質を含む製剤を指し、様々な形態とすることができ、例えば、注射可能な溶液又は懸濁液であってもよく、液体担体に溶解するのに適した溶液又は懸濁液の注射前固体形態(例えば、防腐剤を含む無菌水を再調製するための凍結乾燥組成物)であってもよく、局所投与に用いられるように例えば軟膏、クリーム又は粉末として作製されてもよく、経口投与に用いられるように作製されてもよく、錠剤、カプセル、スプレー、又はシロップ(選択的にフレーバー付き)としてもよい。典型的には、注射可能な液体溶液又は懸濁液として作製されてもよく、液体担体に溶解するのに適した溶液又は懸濁液の注射前固体形態として作製されてもよい。
【0036】
本発明のTACI-Fc融合タンパク質又は医薬組成物は、任意の経路を介して投与することができる。投与経路には、経口投与、静脈注射、筋肉内注射、動脈内注射、髓内注射、腹腔内注射、髓腔内注射、心脳内、経皮、経皮、外用、皮下、鼻腔内、腸内、舌下、膣内又は直腸経路などが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明で提供されるTACI-Fc融合タンパク質又はその医薬組成物は、凍結乾燥、無菌、溶液の形態で作製及び貯蔵される。本発明における用語「治療」は、所定の疾患又は病気に関連する。「治療」には、疾患又は病気の進行を阻止するように該疾患又は病気の抑制、疾患又は病気を退行させるように該疾患又は病気の軽減、或いは、疾患又は病気の症状を軽減、予防又は治療するように該疾患又は病気に起因した症状の軽減が含まれるが、これらに限定されない。
【実施例
【0038】
以下、本発明の実施形態について実施例と合わせて詳細に説明するが、以下の実施例が本発明を説明するために使用され、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことは、当業者なら理解するであろう。
【0039】
実施例1 テリタシセプトを用いてIgA腎症患者を治療する第II相の臨床試験
【0040】
一、人員選択基準
1)病理学的生検によりIgA腎症と診断されたこと
【0041】
2)年齢が18歳以上70歳以下の男性或いは女性
【0042】
3)スクリーニング期間中、訪問1及び訪問2は24時間尿中タンパク質が0.75g/24h以上であることを少なくとも1回満たし、かつ訪問3は24時間尿中タンパク質が0.75g/24h以上であったこと
【0043】
4)測定された糸球体濾過率又は推算されたGFR(CKD-EPI式を使用)が35mL/min per 1.73m2を超えたこと
【0044】
5)ランダム化前に被検者がACEI/ARB薬を含む基本治療レジメンを12週間受けていて、ACEI/ARB薬の用量(最大耐容範囲内)がランダム化前の4週間以内に安定していたこと
【0045】
二、試験グループわけ
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
三、終点指標
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
四、統計的方法及び解析データ集団
連続変数を平均値、標準偏差、中央値、最小値及び最大値で記述し、計数及び等級資料を頻度数及びパーセンテージで記述した。すべての統計検定に両側検定を採用し、pが0.05以下(p≦0.05)になる場合は、検定された差が統計的に有意であると考えられた。治療効果解析には最大の解析対象集団(FAS)と治験実施計画書に適合した対象集団(PPS)の2つのデータ集団を採用し、安全性解析には安全性データの解析対象集団(SS)のデータ集団を採用した。
【0050】
この研究の最大の解析対象集団(FAS)には合計44例の被検者が含まれ、ただし、プラセボ群に14例、テリタシセプト160mg群に16例、テリタシセプト240mg群に14例があった。安全性データの解析対象集団(SS)データはFAS集団と同じであった。治験実施計画書に適合した対象集団(PPS)には、自発的に抜けたプラセボ群における2例の被検者が除外され、最終的に42例の被検者が含まれ、ただし、プラセボ群に12例、テリタシセプト160mg群に16例、テリタシセプト240mg群に14例があった。
【0051】
五、主要な結果
(1)主治療効果の指標分析
24週間の投薬後、プラセボ群は被検者の平均24時間尿中タンパク質レベルが基本的に変化せず、0.03g/24h(2.62%)の減少を示し、テリタシセプト240mg群は被検者の投薬前後での平均尿中タンパク質が0.89g/24h(49.29%)低下し、テリタシセプト160mg群は被検者の投薬前後での平均尿中タンパク質が0.32g/24h(24.71%)低下した。テリタシセプト240mg群には、24時間尿中タンパク質がベースラインレベルに対して低下した被検者が13例(92.86%)であり、その中の3例の被検者は低下量が最も大きく、それぞれ1.89g/24h、1.77g/24h及び1.54g/24h低下した。テリタシセプト160mg群には、24時間尿中タンパク質が24週間の投薬後にベースラインレベルに対して低下した被検者が11例(68.75%)であり、その中の1例の被検者は低下量が最も大きく、24時間尿中タンパク質レベルがベースラインに対して1.40g/24h低下した。
【0052】
(2)副次的治療効果の指標分析
A.推算糸球体濾過率(eGFR)の経時分析
24週間の投薬後、テリタシセプト160mg群及びテリタシセプト240mg群は被検者の推算糸球体濾過率(eGFR)の平均レベルがそれぞれ4.32mL/min/1.73m2及び2.33mL/min/1.73m2上昇したが、プラセボ群は平均レベルが5.70mL/min/1.73m2低下した。分散分析(ANOVA)の結果、テリタシセプト160mg群、テリタシセプト240mg群はプラセボ群と比較して、被検者のeGFRの変化の群間の差が統計的に有意であり、pがそれぞれ0.002、0.015であった。各群の被検者のeGFRの経時変化を図1に示す。
【0053】
B.尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の経時分析
本試験では、UACRは選択的なデータとして収集され、過程で合計37例の被検者のUACRデータ(プラセボ群13例、テリタシセプト160mg群14例、テリタシセプト240mg群10例)を収集した。図2に示すように、投与期間中、2つのテリタシセプト治療群はUACR平均レベルが持続的な低下状態を示した。ANOVA分析の結果、2つのテリタシセプト投薬群の被検者のUACRの低下とプラセボの被検者のUACRの変化との群間の差は統計的に有意(p≦0.05)であることが確認された。投薬12週目、16週目及び20週目に、2つのテリタシセプト投薬群の被検者とプラセボ群の被検者の間には、24時間尿中タンパク質の変化に統計学的な差があった。ベースラインレベルと比較して、24週間の投薬後、テリタシセプト160mg群及びテリタシセプト240mg群は、被検者のUACR平均値がそれぞれ347.81mg/g及び627.55mg/g低下し、プラセボ群は被検者のUACR平均値が16.77mg/g低下した。
【0054】
C.尿中赤血球計数の経時分析
投薬前後での各群は尿中赤血球数がほとんど変動しなかった。ANOVA分析の結果、各群間には被検者の尿中赤血球の変化に統計学的な差がなかった。各群の被検者の尿中赤血球計数の経時変化を図3に示す。
【0055】
D.免疫グロブリンA(IgA)の経時分析
テリタシセプト投薬群は、被検者の免疫グロブリンA(IgA)レベルが投薬開始から投薬24週目まで継続的に低下していた。投薬8週目から、2つのテリタシセプト治療群とプラセボ群との間には、被検者の免疫グロブリンA(IgA)の群間の差が統計的に有意になり、p<0.001であり、このように投薬24週目まで続いた。ベースラインと比較すると、24週間の投薬後、プラセボ群の被検者のIgA平均レベルはわずかに変化し、0.01g/Lの低下(低下率1.11%)を示したが、テリタシセプト160mg群の被検者のIgA平均レベルは1.48g/L(45.75%)低下し、テリタシセプト240mg群の被検者のIgA平均レベルは1.17g/L(15.83%)低下した。各群の被検者のIgA平均レベルの経時変化を図4に示す。
【0056】
E.免疫グロブリンG(IgG)の経時分析
投与後、テリタシセプト投薬群は被検者の免疫グロブリンG(IgG)レベルが継続的に低下していた。ANOVA分析の結果、2つのテリタシセプト投薬群はプラセボ群と比較して、免疫グロブリンG(IgG)変化の違いが4週目から統計的に有意になり、p<0.001であり、このように投薬24週目まで続いた。24週間の投薬後、ベースラインと比較して、プラセボ群の被検者のIgGレベルはほとんど変化せず、平均値が0.10g/L(0.22%)上昇し、テリタシセプト160mg群の被検者のIgGレベルは3.00g/L(26.16%)低下し、テリタシセプト240mg群の被検者のIgGレベルは2.56g/L(24.55%)低下した。各群の被検者のIgA平均レベルの経時変化を図5に示す。
【0057】
F.免疫グロブリンM(IgM)の経時分析
テリタシセプト投薬群は、被検者の免疫グロブリンM(IgM)レベルが投薬開始から継続的に低下していた。テリタシセプト投薬群とプラセボ群との間には変化値の統計学的な差が投薬8週間から投薬24週目まで続いた。ベースラインレベルと比較して、投薬24週目に、プラセボ群の被検者のIgM平均レベルは基本的に変化せず、0.03g/L(0.63%)の増加を示した。テリタシセプト160mg群は被検者のIgM平均レベルが0.76g/L(64.28%)低下し、テリタシセプト240mg群は平均レベルが0.62g/L(65.34%)低下した。統計分析の結果、2つのテリタシセプト投薬群とプラセボ群との間にはIgM変化の違いが8週目から統計的に有意(p<0.001)になり、この統計学的な差は投薬24週目まで続いた。各群の被検者のIgA平均レベルの経時変化を図6に示す。
【0058】
G.Bリンパ球(CD19 + )計数の経時分析
24週間の投薬後、ベースラインに対して、プラセボ群は被検者の平均Bリンパ球(CD19+)レベルが0.32個/μl(1.18%)低下し、テリタシセプト160mg群は被検者の平均Bリンパ球(CD19+)が108.36個/μl(26.23%)減少し、テリタシセプト240mg群は被検者の平均Bリンパ球(CD19+)が36.72個/μl(21.40%)減少した。全試験中にわたって、テリタシセプト240mg群とプラセボ群とを比較すると、被検者のBリンパ球(CD19+)計数は、群間の差が統計的に有意ではなかった(p>0.05)。投薬20週目及び24週目に、テリタシセプト160mg群とプラセボ群とを比較すると、被検者のBリンパ球(CD19+)計数は、群間の差が統計的に有意(p≦0.05)であった。具体的な変化を図7に示す。
【0059】
H.安全性評価
本研究により、テリタシセプトはIgA腎症患者の治療において安全性が良好であることが明らかになった。試験中、死亡例や有害反応(AE)による試験中止例はなく、自己都合(計画通りに投与を受けることができなかった)で早期に抜けた2例の被検者を除いた残りの被検者はすべて予定通り投与を完了した。各群間の有害事象発生率(TEAE)、重篤な有害事象(SAE)及び重篤な有害反応(SADR)発生率は群間の差が統計的に有意ではなかった(P>0.05)。ADR発生率の群間の差は統計的に有意(p<0.05)であった。ただし、投薬群の被検者の有害反応(ADR)は主に注射部位反応であり、強度が3級以下であった。
【0060】
このように、試験データは、24週間の投薬後、テリタシセプト240mg群及びテリタシセプト160mg群は被検者の24時間尿中タンパク質レベルがベースラインよりも低下したことを示した。テリタシセプト240mg群は被検者の平均24時間尿中タンパク質が0.89g/24h(49.29%)減少し、テリタシセプト160mg群は被検者の平均24時間尿中タンパク質が0.32g/24h(24.71%)減少した。投薬16週目から24週目にかけて、テリタシセプト240mg群はプラセボ群と比較して、被検者の尿中タンパク質レベルの低下の違いが統計的に有意であった。投薬16週目から20週目にかけて、テリタシセプト160mg群はプラセボ群の被検者と比較して、被検者の24時間尿中タンパク質の低下の違いが統計的に有意であった。投薬前後、2つのテリタシセプト投薬群の被検者は、長期腎臓指標の推算糸球体濾過率(eGFR)の平均値が上昇し、免疫グロブリン(IgA、IgG及びIgM)の平均レベルが有意に低下した。プラセボ群と比較した場合、上記の指標変化の群間の差は同様に統計的に有意であった。ただし、今まで、IgA腎症に対する標的治療薬として認められている薬剤がまだないため、陽性薬剤の臨床データを使って水平比較を行うことができなかった。ところが、本研究で得られた結果は、同時期の大半のIgA治療薬の臨床試験データよりも優れている。従って、本研究により、テリタシセプト240mg/週及びテリタシセプト160mg/週がIgA腎症治療に有効であることが明らかになった。
【0061】
また、本試験のデータにより、テリタシセプトはIgA腎症の治療中に安全性が良好であることも明らかになった。試験中には、重大な有害事象、有害事象により試験から抜けた被検者、死亡はなかった。
【0062】
上記の結果は、テリタシセプト治療群の患者の尿中タンパク質レベルは、ベースラインよりも有意に低下し、プラセボ群と比較した場合の差が統計的に有意であったことを示した。さらに、治療群とプラセボ対照群との間には臨床試験の幾つの副次的終点においても有意差があった。上記の結果と分析から見ると、本研究により、テリタシセプト(240mg/週)及びテリタシセプト(160mg/週)はIgA腎症の治療中に有効性と良好な安全性を持っていることが明らかになった。
【0063】
なお、上記の説明は、好ましい実施形態にすぎず、例示だけとして用いられ、本発明を実施するために必要な特徴の組み合わせを限定するものではない。提供されるタイトルは、本発明の様々な実施形態を限定することを意味するものではない。「含有する」、「含む」及び「含まれる」などの用語は、限定することを意味するものではない。さらに、特に断りがない限り、名詞が数字で修飾されていない場合、その複数のものが包含されている。用語「又は」、「或いは」は「及び/又は」を意味する。本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0064】
本明細書で言及されたすべての刊行物及び特許は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明に記載された方法及び組み合わせに対して行った様々な修飾及び変形は、当業者にとって明らかである。具体的な好ましい実施形態を通じて本発明を説明したが、保護が要求される本発明がこれらの具体的な実施形態に不適切に限定されるべきではないことを理解されたい。実際には、当業者にとって自明になる、本発明を実施するために述べたモードの様々な変形は、本願の特許請求の範囲内に包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】