(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】10L/分を上回る移送ガス流量を伴う微分移動度分光計/質量分光計インターフェース
(51)【国際特許分類】
G01N 27/624 20210101AFI20240301BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240301BHJP
H01J 49/10 20060101ALN20240301BHJP
【FI】
G01N27/624
H01J49/00 310
H01J49/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557724
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2022052625
(87)【国際公開番号】W WO2022201038
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コービー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カン, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー, ブラッドレー ビー.
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA02
2G041GA25
2G041GA29
(57)【要約】
微分移動度分光測定を実施する方法およびシステムが、本明細書に提供される。本教示の種々の側面によるシステムおよび方法は、約10L/分を上回るドリフトガス体積流量において、微分移動度分離を提供し、約10L/分を上回るドリフトガス体積流量は、DMSベースの分析においてこれまで報告され、従来使用されるそれらより実質的に高い。一実施形態において、方法は、少なくとも1つの着目イオン種の伝送を実質的に調節せずに、少なくとも1つの着目イオン種のための微分移動度分離の分解能を調節することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微分移動度分光計において、イオンを分析する方法であって、前記方法は、
微分移動度分光計の入口を通して、約10L/分を上回る流量においてドリフトガスを導入することと、
前記ドリフトガスが前記微分移動度分光計を通して前記イオンを移送しているとき、前記微分移動度分光計を使用して、前記ドリフトガス中のイオンに対して微分移動度分離を実施することと
を含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの着目イオン種の伝送を実質的に調節せずに、前記少なくとも1つの着目イオン種のための前記微分移動度分離の分解能を調節することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記入口を通した前記ドリフトガスの前記流量は、前記調節ステップ中、実質的に維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
スロットルガスは、前記調節ステップ中、前記微分移動度分光計の出口に提供されない、請求項2-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記入口の断面積を調節し、前記微分移動度分光計内のイオンの滞留時間を調節することをさらに含む、請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
約0.5mm~約20mmの範囲内であるように前記入口の直径を調節することをさらに含む、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記入口の直径は、約5mmまで調節可能である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記微分移動度分光計は、分析間隙によって分離された平行プレート電極を備え、前記入口は、前記分析間隙の断面積に対して調節可能である、請求項1-7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記入口を通したドリフトガスの前記流量は、約10L/分~約30L/分の範囲内である、請求項1-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微分移動度分光計の出口は、少なくとも1つの質量分光計を含む真空チャンバの入口に対してシールされ、前記方法は、前記微分移動度分光計の前記出口を通して質量分光計の入口の中に移送されるイオンに対して質量分光測定を実施することをさらに含む、請求項1-9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記微分移動度分光計の出口と、前記少なくとも1つの質量分光計を含む前記真空チャンバの前記入口との間にガスを追加することまたは除去することによって、少なくとも1つの着目イオン種のための前記微分移動度分離の分解能を調節することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
システムであって、前記システムは、
入口および出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置され、固定距離だけ互いに分離された少なくとも2つの平行プレート電極であって、前記2つの電極間の体積は、分析間隙を画定し、イオンが、前記入口から前記出口に向かって前記分析間隙を通して移送される、少なくとも2つの平行プレート電極と、
RFおよびDC電圧を前記平行プレート電極のうちの少なくとも1つに提供し、電場を発生させるための電圧源であって、前記電場は、移動度特性に基づいて選択されたイオン種を通すためである、電圧源と、
約10L/分を上回る流量で前記入口を通して流動するガスを供給するためのドリフトガス供給源と
を備えている、システム。
【請求項13】
前記入口は、前記筐体の中への前記ドリフトガスの横断を可能にするための開口を備えている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記開口の断面積は、調節可能である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記開口は、実質的に、前記分析間隙の断面積未満、それに等しい、またはそれを上回る面積を示すように調節可能である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記入口の直径は、3.5mmを上回るように、調節可能である、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記入口の直径は、約0.5mm~約20mmであるように調節可能である、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
前記開口は、少なくとも1つの電極プレートを通して延び、前記少なくとも1つの電極プレートは、前記平行プレート電極から電気的に分離されている、請求項13-17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
スロットルガス供給源は、スロットルガスを前記筐体の前記出口に追加するために提供されていない、請求項12-18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
スロットルガス供給源が、スロットルガスを前記筐体の前記出口に追加するために提供されている、請求項12-18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記スロットルガスに対する調節は、前記微分移動度分光計内の滞留時間を修正するように構成されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記分析間隙の断面積は、約20mm
2である、請求項12-21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
ドリフトガス流量の方向に沿った前記分析間隙の長さは、約30mmを上回る、請求項12-22のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記出口は、少なくとも1つの質量分光計を含む真空チャンバの入口に対してシールされている、請求項12-23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
カーテンチャンバであって、前記筐体は、前記カーテンチャンバ内に配置されている、カーテンチャンバと、
カーテンガスの流動を前記カーテンチャンバの中に提供するためのカーテンガス供給源と
をさらに備え、
前記カーテンガス流量は、前記ドリフトガス流量の前記流量を上回る流量で提供されている、請求項12-24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記カーテンガスの一部は、前記カーテンプレート内の開口から流出し、残りは、前記ドリフトガスを形成する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記ドリフトガスは、化学調整剤およびガスの混合物のうちの少なくとも1つを備えている、請求項12-26のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容が、その全体として本明細書に組み込まれる2021年3月23日に出願された米国仮出願第63/164,727号の優先権を主張する。
【0002】
(分野)
本教示は、概して、質量分光計に結合され得る微分移動度分光計(DMS)の中に、イオンを導入する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
質量分光測定(MS)は、定質的および定量的用途の両方について試験物質の元素組成物を決定するための有力な分析技法である。典型的MSワークフローでは、サンプルは、イオンに変換され、それは、次いで、イオンの質量/電荷比における差異に起因して、電気および/または磁場によって分離されることができる。イオンと背景分子との間の望ましくない衝突(したがって、イオンの可能な断片化)を回避するために、高分解能MSは、典型的に、減少する動作圧力を有する多段階を通して、これらのイオンを移送し、最終段階は、多くの場合、10-5Torr以下程度の低さである。
【0004】
MSは、非常に低動作圧力において、それらの質量/電荷比に基づいて、イオンを分離するが、イオン移動度ベースの分析技法は、代わりに、比較的に高圧ガスを通して、それらの移動度における差異に基づいて、イオンを分離および分析する。そのような技法の一例は、イオン移動度分光計(IMS)を利用し、IMSでは、イオン分離は、一定電場を受けさせられながら、イオン種の断面に基づいて生じる。イオンがIMSのドリフト領域を通して移送されるにつれて、イオン種は、イオン種の特徴的な衝突断面に起因するドリフトガス分子と特定の相互作用を示し、それによって、異なるドリフト速度をもたらし、種々のイオン種の各々に関するドリフト時間における検出可能差異を最終的にもたらす。別の公知のイオン移動度ベースの技法は、微分移動度分光測定であり、微分移動度分光測定では、微分移動度分光計(DMS)は、アルファパラメータに基づいてイオンを分離し、アルファパラメータは、電場の変動する強度におけるイオン移動度係数における差異に関連する。DMSでは、多くの場合、分離電圧(SV)と称されるRF電圧が、ドリフト管を横断してドリフトガス流量のそれと垂直な方向に印加される。所与の種のイオンは、高電場部分中と低電場部分中との移動度における差異に起因して、RF波形の各サイクル中、移送チャンバの軸から特徴的な量だけ半径方向に離れるように移動する傾向にある。一般に、補償電圧(CoV)と称されるDC電位が、DMSに印加され、SVのそれに対する平衡静電力を提供する。CoVは、1つ以上の着目イオン種のドリフトを優先的に防止するように、調整されることができる。用途に応じて、CoVは、特定の微分移動度を伴うイオン種のみを通すための固定値に設定され、ことができる一方、残りのイオン種は、電極に向かってドリフトし、中性にさせられる。代替として、サンプルが連続してDMSの中に導入されるとき、CoVが固定SVに関して走査される場合、DMSが異なる微分移動度のイオンを伝送するので、移動度スペクトルが、生じさせられることができる。公知の微分移動度分光計の例は、米国特許第8,084,736号(特許文献1)および第9,835,588号(特許文献2)(その教示は、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる)に説明される。
【0005】
イオン移動度技法は、サンプルを分析するために、それら自身で使用され得るが、DMSは、質量分光計とインターフェース接続され、フロントエンド直交分離方法としての役割を果たし、改良された効率および/または分析力をDMS-MSシステムに提供し得る。例えば、インラインLC-MSにおけるクロマトグラフ分離は、分析物の種々の種がLCカラムから微分溶出し、溶出液がイオン源に移送されるので、典型的に、数分を要求するが、サンプルのDMS分離は、例えば、1秒未満で実施され得る。このDMS-MS組み合わせは、DMSの大気圧、ガス相、および連続的イオン分離能力を利用し、全て非限定的例としてであるが、プロテオミクス、ペプチド/タンパク質配座、薬物動態、代謝分析、微量レベル爆発物検出、および石油監視を含むサンプル分析の多数の領域をより良くし得る。
【0006】
質量分光測定に先立って、微分移動度分光測定を利用するための改良された方法およびシステムの必要性が、残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8,084,736号明細書
【特許文献2】米国特許第9,835,588号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本教示は、微分移動度分光測定のための改良された方法およびシステムを対象とする。
【0009】
従来の方法およびシステムは、概して、DMS分析の選択性または感度のいずれかを向上させるために、DMS内のイオンの滞留時間を調節する。感度は、DMSの伝送効率(例えば、検出またはさらなる分析のために、DMSによって伝送される着目イオンのパーセンテージ)に関連する一方、選択性は、異なるイオン種を区別または分解するためのDMSの能力を指す。米国特許第8,084,736号に説明されるように、DMS内のイオンの滞留時間を増加させることは、より長い持続時間にわたって、ドリフトガス中のイオンをDMS電場にさらすことによって、イオン種の分離の分解能を増加させる傾向にあることが観察されている。しかしながら、そのような改良された選択性は、増加した滞留時間が、DMS電極上での所望および望ましくないイオンの両方の中性化に起因して、減らされた伝送効率をもたらすので、かなりの犠牲が伴うことも、従来認識されている。このトレードオフに照らして、種々の技法が、ユーザが分解能および伝送効率の所望の組み合わせに従ってDMSを「調整」することを可能にするために開発されている。例として、前述の米国特許第8,084,736号は、「スロットルガス」の使用を開示しており、それは、DMSと下流検出器または質量分光計との間に提供され、増加した分解能が所望されるとき、DMSを通したドリフトガスの流動を抑制または減速させ得る:「いくつかの実施形態では、したがって、ある程度の制御を微分移動度分光計を通したガス流量に提供するために、追加されるスロットルガスの量を精密に制御することが可能であって・・・[中略]、それによって、感度と選択性との間のトレードオフを制御することが望ましくあり得る」(Col.5,1.26-32)。米国特許第9,835,588号に説明される別の公知のデバイスは、調節可能噴流注入器入口を提供し、入口の開口サイズが、滞留時間、したがって、選択性と伝送効率との間のトレードオフを制御する:「有限制御が、追加のガス流量(スロットルガス等)または吸引力/真空を提供する必要性を要求せずに、例えば、米国特許第8,084,736号において達成されるものと類似方式において、分解能と感度との間で維持されることができる・・・」。
【0010】
上で説明されるような従来のDMSベースのシステムおよび方法は、DMS内の滞留時間を調節するとき、改良された分解能と増加した伝送率との相いれない目標間で選定することを要求し得るが、本教示の発明者らは、驚くべきことに、DMSの分解能が、これまで報告され、従来使用されているものより実質的に高いドリフトガス流量で動作させることによって(およびスロットルガスを使用せずに)、伝送効率を実質的に低下させずに、向上させられることができることを発見した。このように、従来の知識と対照的に、本教示によるDMSは、したがって、最小限の損失を伴って(望ましくないイオンが遮断されながら)、広範囲の着目イオンを伝送する「イオンスクラバ」モードと、1つ以上の特定の着目イオン種が、ピーク分解能が増加するにつれて伝送効率に実質的影響を及ぼさずに、比較的に狭い移動度ピーク幅を示し得る「高分解能」モードとの間で切り替えられ得る。
【0011】
本教示の種々の側面によると、微分移動度分光計において、イオンを分析する方法が、提供され、方法は、微分移動度分光計の入口を通して、約10L/分を上回る流量でドリフトガスを導入することと、ドリフトガスがイオンをそれを通して移送するにつれて、微分移動度分光計を使用して、ドリフトガス中のイオンに対して微分移動度分離を実施することとを含む。種々の側面では、方法は、少なくとも1つの着目イオンのための伝送を実質的に調節せずに、該少なくとも1つの着目イオン種のための微分移動度分離の分解能を調節することをさらに含み得る。
【0012】
種々の関連側面では、入口を通したドリフトガスの流量は、該調節ステップ中、実質的に維持され得る。加えて、いくつかの側面では、スロットルガスは、該調節ステップ中、該微分移動度分光計の出口に提供される必要はないだけではなく、提供されない。
【0013】
ある側面では、分解能は、微分移動度分光計内のイオンの滞留時間を調節することによって、調節され得る。例として、方法は、入口の断面積を調節し、微分移動度分光計内のイオンの滞留時間を調節することを含み得る。ある側面では、入口の断面積を減少させることは、微分移動度分光計内のイオンの滞留時間を減少させるために有効であり得る一方、入口の断面積を増加させることは、微分移動度分光計内のイオンの滞留時間を増加させるために有効であり得る。
【0014】
入口は、本教示に従って、例えば、DMSのサイズ(例えば、分析間隙のサイズ、電極の幾何学形状、着目イオン種の移動度)に応じて、様々なサイズに調節され得る。いくつかの例示的側面では、入口の直径は、約0.5mm~約20mmに調節可能であり得る。例えば、入口は、約3.5mmを上回る直径を示すように調節され得る。いくつかの側面では、入口は、約5mmの直径に調節され得る。種々の例示的側面では、微分移動度分光計は、分析間隙によって分離された平行プレート電極を備え得、入口は、分析間隙の断面積に実質的に等しい面積を示すように調節可能である。
【0015】
上で記載したように、DMSの入口を通したドリフトガスの体積流量は、約10L/分を上回り得る。種々の側面では、ドリフトガス供給源が、体積流量が約10L/分~約30L/分の範囲内(例えば、約16L/分)であるように、ドリフトガスをDMSの入口に供給するために提供されることができる。
【0016】
種々の側面では、DMSによって分離される、イオンは、直接(例えば、DMSの出口において、検出器によって)、検出されることができる、またはさらなる分析を受け得る。例として、質量分光測定が、微分移動度分光計の出口を通して質量分光計の入口の中に伝送されるイオンに対して実施され得る。
【0017】
本教示の種々の側面によると、微分移動度分光測定を実施するためのシステムが、提供され、システムは、入口および出口を有する筐体を備えている。少なくとも2つの平行プレート電極が、筐体内に配置され得、固定距離だけ互いに分離され得、2つの電極間の体積は、分析間隙を画定し、それを通してイオンは、入口から出口に向かって移送される。電圧源が、RFおよびDC電圧を平行プレート電極のうちの少なくとも1つに提供し、電場を発生させ得、電場は、移動度特性に基づいて選択されたイオン種を通し得る。システムは、約10L/分を上回る流量で入口を通して流動するガスを供給するためのドリフトガス供給源をさらに備え得る。
【0018】
種々の側面では、入口は、筐体の中へのドリフトガスの横断を可能にするための開口を備え得る。ある側面では、開口のサイズは、例えば、固定サイズ開口を有する入口を異なるサイズ開口を有する別の入口で置換することによって、選択され得る。加えて、または代替として、開口の断面積は、調節可能であり得る。例えば、開口は、分析間隙の断面積に実質的に等しい面積を示すように調節され得る。種々の側面では、開口の断面積は、分析間隙の断面積より小さい、それを上回る、またはれと均等であるように調節されることができる。種々の側面では、入口の直径は、約0.5mm~約20mmに調節可能であり得る。例えば、入口は、約3.5mmを上回る直径を示すように調節され得る。いくつかの側面では、入口は、約5mmの直径に調節され得る。
【0019】
ある側面では、開口は、少なくとも1つの電極プレートを通して延び得、少なくとも1つの電極プレートは、平行プレート電極から電気的に分離される。ある側面では、電極プレートは、例えば、異なるサイズの開口が所望される場合、置換され得る。
【0020】
本明細書に議論されるように、本教示のある側面は、少なくとも1つの着目イオン種のための微分移動度分離の分解能が、該少なくとも1つの着目イオン種の伝送率を実質的に調節せずに、調節され得ることを提供する。ある側面では、システムは、入口を通したドリフトガスの体積流量を実質的に一定に維持し得るが、DMS内のイオンの線形速度は、例えば、DMSへの入口のサイズに応じて、増加または減少させられ得る。そのような側面では、滞留時間は、例えば、スロットルガスを使用せずに、変動させられ得る。故に、ある側面では、スロットルガス供給源は、スロットルガスを筐体の出口に追加するために提供されない。他の実施形態では、入口開口は、一定に保たれ得、移送ガス流量は、スロットルガスを提供し、移送ガスの体積流量を減らすことによって、調節され得る。
【0021】
DMSは、様々な構成およびサイズを有することができる。上で記載したように、例えば、DMSは、その長さに沿って、固定距離だけ互いに分離された少なくとも2つの平行プレート電極を備えていることができる。ある側面では、分析間隙の断面積は、約20mm2であり得る。加えて、または代替として、ある側面では、ドリフトガス流量の方向に沿った分析間隙の長さは、約30mmを上回り得る(例えば、約60mm)。
【0022】
種々の側面では、筐体の出口は、少なくとも1つの質量分光計を含む真空チャンバの入口に対してシールされ得る。種々の実施形態では、追加のスロットルガスチャンバが、微分移動度分光計と質量分光計入口との間に提供され得る。関連側面では、ガスが、スロットルガスチャンバに追加またはそれから除去され、微分移動度分光計を通した体積流量を変化させ得る。
【0023】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴は、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
当業者は、以下に説明される図面が例証目的にすぎないことを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【0025】
【
図1】
図1は、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による例示的微分移動度分光計の略図である。
【0026】
【
図2】
図2は、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による別の例示的微分移動度分光計の略図である。
【0027】
【
図3】
図3は、多様なサイズの入口開口を伴う
図2のそれのような微分移動度システムの性能を描写する。
【0028】
【
図4】
図4は、多様なサイズの入口開口を伴い、種々のドリフトガス体積流量条件下にある
図2のそれのような微分移動度システムを通して移送される種々の化合物の平均イオン伝送率を描写する。
【0029】
【
図5】
図5は、化合物レセルピンに関する
図4の結果を描写する。
【0030】
【
図6】
図6は、多様なサイズの入口開口を伴う16L/分のドリフトガス流量において、
図2のそれのような微分移動度システムを通して移送される種々の化合物のピーク幅(分解能を示す)を描写する。
【0031】
【
図7】
図7は、多様なサイズの入口開口を伴う16L/分のドリフトガス流量において、
図2のそれのような微分移動度システムを通して移送される種々の化合物の強度(感度を示す)を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
明確にするために、以下の議論は、そうすることが便宜的または適切である場合、ある具体的詳細を省略しながら、本出願人の教示の実施形態の種々の側面を詳説するであろうことを理解されたい。例えば、代替実施形態における同様または類似特徴の議論は、幾分、簡略化され得る。周知のアイディアまたは概念も、簡潔にするために、さらに詳細に議論されないこともある。当業者は、本出願人の教示のいくつかの実施形態が、実施形態の完全な理解を提供するためだけに本明細書に記載される全ての実装において具体的に説明される詳細のあるものを要求しないこともあることを認識するであろう。同様に、説明される実施形態は、本開示の範囲から逸脱することなく、共通一般的知識に従って改変または変形例を被り得ることが明白であろう。以下の実施形態の詳細な説明は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定するものと見なされない。
【0033】
本明細書で使用されるように、用語「約」および「実質的に等しい」は、例えば、実際の世界における測定または取り扱い手順を通して、これらの手順における不注意による誤差を通して、製造、源、または組成物または試薬の純度における差異を通して、および同等物を通して生じ得る数値量の変動を指す。典型的に、本明細書で使用されるような用語「約」および「実質的に」は、述べられた値または値の範囲または完全な条件または状態より10%多いまたはより少ないことを意味する。例えば、約30%または30%に実質的に等しい濃度値は、27%~33%の濃度を意味することができる。本用語はまた、そのような変動が先行技術によって実践される既知の値を包含しない限り、均等物と当業者によって認識されるであろう、変動を指す。
【0034】
本教示の種々の側面によるシステムおよび方法は、約10L/分を上回るドリフトガス体積流量において、微分移動度分離を提供し、それは、DMSベースの分析においてこれまで報告され、従来使用されるものより実質的に高い。さらに、従来の微分移動度分析は、概して、感度または選択性のうちの他方を向上させるとき、減じた感度または選択性のうちの一方を容認しなければならないが、本教示の種々の側面によるシステムおよび方法は、意外にも、約10L/分を上回るドリフトガス体積流量において、伝送効率における実質的な犠牲なしに、DMSベースの分析の分解能を増加させることができる。そのような高いドリフトガス流量で動作することによって、本教示によるシステムおよび方法は、驚くべきことに、DMS電極における中性化を通して、所望のイオンの実質的損失を伴わずに、DMS内の着目イオンの滞留時間を増加させることが可能である(さらに、スロットルガスを使用せずに)。
【0035】
図1は、本出願人の教示の種々の側面による微分移動度分光測定を実施するための例示的システム100の実施形態を図式的に描写する。示されるように、システム100は、2つの平行電極130を包囲する筐体120を備え、2つの平行電極130は、固定距離だけ分離され、分析間隙132をそれらの間に画定する。筐体120は、入口120aと、出口120bとを有し、イオン102は、入口120aに入り、電極130間の分析間隙132を通して流動し、出口120bから出て行き得る。
図1に示されないが、出口120bは、例えば、下流真空チャンバに対してシールされることができ、下流真空チャンバは、伝送されたイオンのさらなる処理(例えば、質量分析)のために出口120bまたは1つ以上の質量分析器要素を通して伝送されるイオン種を直接検出するための検出器を格納する。このように、微分移動度分離は、DMSベースの分析のためにこれまで報告されるそれらの流量より実質的に高い10L/以上の体積流量で分析間隙132を通して流動するドリフトガス内で移送されるイオン102に対して実施され得る。
【0036】
電極130は、様々なサイズおよび構成を有することができるが、示されるように、概して、その長さに沿って、一定断面サイズおよび形状を有する分析間隙132を画定するように、固定距離だけ分離される。非限定的例として、分析間隙132は、少なくとも0.25mm(例えば、約1mm)の高さ(すなわち、電極132間の距離)、少なくとも5mm(例えば、約20mm)の幅、および約30mmを上回る(例えば、約60mm)長さを示すことができる。分析間隙132は、したがって、全て非限定的例としてであるが、約1.25mm2~20mm2を上回る範囲内のドリフトガス流動の方向に対して垂直である、断面積と、約37.5mm3~1200mm3を上回る範囲内の体積とを示し得る。
【0037】
筐体120の入口120aも、様々なサイズおよび構成を有することができるが、
図1に示されるように、概して、開口122aを提供し、イオン102は、それを通して分析間隙132に入ることができる。本教示の種々の側面によると、イオン102が筐体の中に入る開口は、分析間隙132の断面形状と同じまたは異なり得る円形、スリット形状、または任意の他の好適な形状であり得る。開口122aは、下記に議論されるように、可変サイズを示し得るが、
図1に描写される例示的入口120aは、固定断面サイズの円形開口122aを備え得、少なくとも10L/分のドリフトガスが、それを通して流動することができる。非限定的例として、円形開口122aは、約0.5mm~5mmを上回る範囲内の直径を有し得、それは、約0.8mm
2~20mm
2を上回る面積を表し、それは、分析間隙132の断面積より小さいことも、等しいことも、大きいこともある。非円形開口も、同様に、類似面積を示すことができる。いくつかの特定の側面では、円形開口122aは、従来のDMSシステムにおいて使用される3.5mmを上回る直径を示し得る。例えば、米国特許第9,835,588号は、伝送効率が、本教示に従って説明されるような約10L/分を実質的に下回るドリフトガスの体積流量では、開口が2.25mmの直径を超えて拡大するにつれて、連続的に減少することを示唆する。筐体120は、セラミック等の絶縁材料から成り得る一方、入口120a(または開口122aを包囲するその一部)は、伝導性コーティングを伴う種々の金属またはセラミック等の伝導性材料であろうことが当業者に明白であろう。開口122aは、レンズ内に形成され得、レンズは、非限定的例として、筐体120上にろう付けされることができる。
【0038】
分析間隙132を通過するイオンは、電極130によって発生させられる可変電場を受け、電極130は、分離電圧(SV)および補償電圧(CoV)を電極130に供給するために、コントローラ106の制御下で動作する1つ以上の電力供給源104a、bに結合され得る。電極130は、同じ識別子(130)を使用して本明細書に説明されるが、電極は、別個のRFおよび/またはDC電位が2つの電極の各々に別個に伝送され得、それによって、対の電極が異なる電極として個々に動作するように構成されることができることを理解されたい。さらに、当業者は、イオンが電極130の長さに沿って分析間隙132を通して横断するとき、SVおよびCoVが、異なるイオン移動度特性を有するイオンを分離し得ることを理解するであろう。例えば、電極130に印加される非対称RF電圧であり得るSVは、分析間隙132を横断して、ドリフトガス流量のそれと垂直な方向に電場を発生させる。SVの高電場部分中と低電場部分中との異なるイオン種の移動度における差異に起因して、所与の種のイオンは、RF波形の各サイクル中、特徴的な量だけ、電極130に向かって、またはそれから離れるように移動する傾向にある。DC電位であり得るCoVが、DMSに印加され、SVのそれに対する平衡静電力を提供し得る。CoVは、特定のイオンに対する安定軌道を優先的復元するように調整されることができ、それによって、特定のイオンが、分析間隙132の全長を横断し、出口120bから出て行くであろう。用途に応じて、CoVは、固定値に設定されることができ、特定の微分移動度範囲内の1つ以上の種は、電極130上で中性化されずに、分析間隙132を横断し、出口120bから出て行き得る。イオン102が筐体入口120aを通して連続して導入されるとき、CoVが固定SVのために走査される場合、異なる微分移動度のイオンが分析間隙132の長さを横断するので、移動度スペクトルが発生させられ得ることも理解されたい。当業者によって理解されるであろうように、微分移動度分光計は、例えば、実質的に全てのイオンが、正味半径方向力を経験せずに、それを通して伝送されるように、SVおよびCoVをゼロに設定することによって、「透明」モードで動作するように制御されることもできる。
【0039】
示されるように、筐体120は、カーテンチャンバ110内に配置され、カーテンチャンバ110は、カーテンプレート112によって画定される。カーテンプレート112は、筐体120の入口と連通する開口部112aを含む。カーテンガス供給源114が、導管114aによって、カーテンチャンバ110に流動的に接続され、カーテンガスをカーテンチャンバ110に供給する。
図1の矢印によって示されるように、カーテンチャンバ110内のカーテンガスの圧力は、開口部112aから外へのカーテンガス流出および筐体120の入口120aの中へのカーテンガス流入の両方を提供することができ、流入は、イオン102を分析間隙132を通して出口120bに搬送するドリフトガスとなる。いくつかの側面では、電圧が、好適な源からカーテンプレート112に印加され、カーテンプレート112と筐体120への入口120aとの間の間隙を横断するイオン102を推進することができる。筐体120に入ると、イオン102は、ドリフトガス中でそれに沿って掃引され、平行電極130に印加される非対称電圧は、イオン移動度特性に基づいて、イオンの分離を引き起こす。イオン102およびドリフトガスは、分析間隙132に沿って出口120bまで進行し続け、イオンは、さらなる処理を受けさせられ得る。そのようなデバイスの例示的例は、検出器、質量フィルタ、質量分光計、ラマンまたはIR等の他のタイプの分光計、および別のDMSシステム、高電場非対称波形イオン移動度分光計、およびイオン移動度分光計デバイス等の他の移動度ベースのデバイスを含む。
【0040】
本教示の種々の側面によると、カーテンガス供給源114は、選択された圧力および/または体積流量において、カーテンガスを供給することができ、それによって、分析間隙132を通したドリフトガス流量は、約10L/分を上回る体積流量(例えば、約10L/分~約30L/分の範囲内、約16L/分、それは、上で記載したように、DMSベースの分析のためにこれまで報告され、従来使用されるものより実質的に高い)に維持され得る。示されるように、筐体120は、カーテンガスが、筐体入口120aのみを用いて、入り、平行電極130を越えて流動し得、筐体出口120bのみを用いて、筐体120から出て行き得るように構成される。本明細書のいずれかに議論されるように、筐体120の出口120bは、比較的に低圧領域(例えば、
図1に示されない、真空チャンバ)に対してシールされ得、それによって、この低圧領域からの吸引力は、本明細書で議論される高い体積流量においてドリフトガスを筐体120の中におよび分析間隙132を通して引くことを補助するために有効である。例えば、出口120bは、質量分光計の真空入口であり得る。そのような事例では、カーテンチャンバ110内のカーテンガスの圧力は、大気圧(例えば、約760Torr)またはその近傍に維持されることができる一方、真空チャンバは、30Torr未満の圧力、または非限定的例として、約6Torrの圧力に維持されることができる。DMSシステム100が、質量分光計を出口120bの下流に含むとき、例えば、米国特許第8,084,736号、第8,513,600号、および第9,171,711号(その全ては、参照することによって本明細書に組み込まれる)に説明されるように、追加のスロットルガスチャンバが、DMS電極130の出口120bとMS入口との間に含まれ得ることも、当業者に明白であろう。例として、ガスが、スロットルガスチャンバに追加され(例えば、スロットルガス供給源を介して)、またはそれから除去され、電極130を通した体積流量を変化させ得る。加えて、または代替として、入口120aに先立った領域内の圧力が、ドリフトガスが出口120bから「引っ張られる」のではなく、本明細書で議論される高い体積流量で分析間隙132を通して「押される」ようにするために増やされることができることを理解されたい。非限定的例として、入口120aに先立つ領域内の圧力は、760Torrを上回ることができる。
【0041】
カーテンガス供給源114が、例えば、流動コントローラおよび弁によって決定された流量において、カーテンガス導管114aを介して、任意の純粋または混合組成物カーテンガスをカーテンガスチャンバに提供することができることが、当業者によって理解されるであろう。非限定的例として、カーテンガスは、空気、O2、He、N2、CO2、SF6、または任意のそれらの組み合わせであることができる。さらに、システム100はまた、調整剤試薬をカーテンガスに供給するための調整剤供給源(図示せず)を含むことができ、調整剤試薬は、SVの高電場部分および低電場部分中に、イオンに微分的に密集させる。当業者によって理解されるであろうように、調整剤供給源は、固体、液体、またはガスのリザーバであることができ、リザーバを通して、カーテンガスが、カーテンチャンバ110に送達される。一例として、カーテンガスは、液体調整剤供給源を通して泡立てられることができる。代替として、調整剤液体またはガスは、調整剤を既知の率でカーテンガスの中に分注するために、例えば、LCポンプ、シリンジポンプ、または他の分注デバイスを通して、計測してカーテンガスの中に入れられることができる。例えば、調整剤は、選択された濃度の調整剤をカーテンガス中に提供するように、ポンプを使用して導入されることができる。調整剤供給源は、非限定的例として、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、水、メタノール、イソプロパノール、塩化メチレン、臭化メチレン、または任意のそれらの組み合わせを含む任意の調整剤を提供することができる。随意に、カーテンガス導管114aおよび/またはカーテンチャンバ110は、カーテンガスおよび調整剤の混合物を加熱し、カーテンガス中の調整剤の割合をさらに制御するために、加熱器(図示せず)を含むことができる。カーテンチャンバ110内のカーテンガスが、調整剤を含み得るとき、筐体120を通して移送されるドリフトガスも、調整剤を備え得る。
【0042】
イオン102は、イオン源から提供され、カーテンチャンバ入口112aを介して、カーテンチャンバ110の中に放出されることができる。当業者によって理解されるであろうように、イオン源は、事実上、当技術分野において公知の任意のイオン源であることができ、例えば、とりわけ、連続イオン源、パルス化イオン源、大気圧化学イオン化(APCI)源、エレクトスプレーイオン化(ESI)源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)イオン源、グロー放電イオン源、電子衝突イオン源、化学イオン化源、または光イオン化源を含む。
【0043】
上で記載したように、例示的システム100は、加えて、その動作を制御するためのコントローラ106を備えていることができる。一例として、コントローラ106は、情報を処理するためのプロセッサを含むことができる。コントローラ106は、データおよびプロセッサによって実行されるべき命令等を記憶する(例えば、データベースまたはライブラリ内に)ためのデータ記憶装置(図示せず)も含む。データ記憶装置(図示せず)は、プロセッサによって実行されるべき命令の実行中、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。
【0044】
コントローラ106は、ディスプレイ(例えば、情報をコンピュータユーザに表示するためのブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD))等の出力デバイスおよび/または情報およびコマンド選択をプロセッサに通信するための英数字および他のキーおよび/またはカーソル制御を含む入力デバイスに動作可能に関連付けられることもできる。本教示のある実装に一貫して、コントローラ106は、例えば、データ記憶装置(図示せず)内に含まれるか、または記憶デバイス(例えば、ディスク)等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体からメモリの中に読み込まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを実行することができる。本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに限定されない。
【0045】
ここで
図2を参照すると、本教示の種々の側面による別の例示的システム200が、描写される。システム200は、
図1のシステム100に類似する(同様の要素は、同様の識別子を有する)が、筐体220の入口が、噴流注入器電極220aを備え、それを通して入口開口222aが延びているという点で異なる。
図2に示されるように、伝導性噴流注入器電極220aは、種々の電気信号が、下記に議論されるように、噴流注入器プレート220aに印加され得るように、カーテンプレート212と平行プレート電極230との間に位置付けられ、電源(例えば、電源204a、bまたは別個の電源(図示せず))に結合され得る。噴流注入器電極220aは、
図2では、単一プレート電極として描写されるが、多電極入口を形成するように、筐体入口が互いに絶縁された2つ以上の電極からも成り得ることを理解されたい。
【0046】
噴流注入器電極220aは、開口222aまたは出口220bを通して以外の分析間隙232の中へのガスの流入またはそれから外へのガスの流出を防止するように、筐体220にシール係合され得る。平行プレート電極230に印加される電圧が噴流注入器電極220aにも印加されることを防止するために、噴流注入器電極220aは、
図2に示されるように、例えば、絶縁材料224によって、平行プレート電極230から電気的に絶縁され得る。非限定的例として、噴流注入器電極220aは、伝導性プレートを備え得、それは、筐体220および/または平行プレート電極230のフロントエンドを形成する、非伝導性セラミックホルダにろう付けされ得る。噴流注入器電極220aは、伝導性コーティングを伴うセラミック等の非伝導性材料からも製造され得る。代替として、絶縁材料224は、噴流注入器電極220aが、筐体220にシール係合されたままであり、噴流注入器開口222aまたは出口220bを通して以外、筐体220からのガスの流動を防止する限り、静止した空隙と置換され得る。
【0047】
噴流注入器電極220aの開口222aは、任意のサイズまたは形状であることができるが、本教示のある側面は、ガス流量動態および/またはイオン漏斗作用に起因してカーテンプレート開口部212aに入るイオンの分析間隙232の中への伝送を増加させるために、開口222aが分析間隙232の断面積より小さい面積を示し得ることを提供する。例えば、いくつかの側面では、噴流注入器電極220aは、カーテンプレート開口部212aを通して通過後のイオンによって経験されるフリンジ場の発散効果(例えば、筐体220上へのイオン衝突をもたらし得る)を減らすことによって開口222aを通した伝送を増加させるために、平行プレート電極230と類似するまたは異なるDC電位において動作させられることができる。さらに、当業者は、中心軸からある距離で分析間隙232に入るイオンが、中心軸からのそれらの変位へのCoVの影響に起因して、電極230において中性化される可能性がより高くあり得ることを理解するであろう。すなわち、特定のイオン種を伝送するように選択されるSV/CoVの組み合わせは、それにもかかわらず、そのイオンの初期半径方向位置付けが、分析間隙232に入るとき、あまりに中心から外れている場合、その種のイオンを伝送することに失敗し得る。任意の特定の理論によって拘束されるわけではないが、より小さい開口222a(分析間隙232の断面に対して)は、狭窄から結果として生じるガス流量のより高い線形速度に起因して、イオン初期位置付けを改善するようにイオンをより分析間隙232の中心のほうに向かわせ、それによって、電極230を通したイオン輸送を潜在的に改善し得ると考えられる。加えて、多電極入口構成では、補足的な周期的/高調波RF/AC電場が、入口電極間に発生させられ、イオンを開口222aの中心に向かってさらに集束させ、それによって、イオン注入の効率をさらに増加させ得る。
【0048】
本教示の種々の側面によると、開口222aのサイズは、例えば、分析間隙内のイオンの滞留時間を制御し、システム200の選択性を調節するように選択されることができる。例として、入口開口222aの断面積を増加させることは、イオンの線形速度を減速させ、それによって、イオンが分析間隙232内の微分移動度電場を受ける持続時間を増加させるために有効であり得る。当業者は、本教示に照らして、例えば、所与の体積流量(例えば、10L/分)に関して、開口222aおよび分析間隙232を通したイオンおよび移送ガスの線形速度が、開口222aの面積が増加するにつれて減少することを理解するであろう。同様に、開口222aの面積を減少させることは、イオンおよび移送ガスの線形速度が所与の体積流量に関して増加するにつれて、分析間隙232内のイオンの滞留時間を減少させ得ることを理解されたい。
【0049】
いくつかの実施形態では、開口222aのサイズは、例えば、第1の噴流注入器電極220aを除去し、それを異なるサイズの開口を有する別の噴流電極220aで置き換えることによって、選択され得る。加えて、または代替として、本教示のいくつかの側面は、筐体220の入口が、原位置で調節されることが可能であるサイズを有する開口222aを備えていることを提供する。故に、所望の滞留時間を達成するために、種々の噴流注入器電極を置き換えるのではなく、開口222a自体が、非限定的例として、虹彩絞り制御システムを使用して、変動させられるように構成されることができる。虹彩絞り流動制御システムは、概念上、カメラに入る光の量を制御するためのカメラレンズ内の開口システムに類似することを理解されたい。そのような側面では、虹彩は、流動経路の周囲に円周方向に配置される、複数のフィンガ(例えば、3つ以上の)を備えていることができ、それらは、流動経路の内外に移動し、ドリフトガスの流動を妨害または遮断解除するように制御されることができる。概して、利用されるフィンガが多いほど、形成される開口は、より円形となるが、増加した複雑性を引き換えにする。
【0050】
ある側面では、開口222aは、約0.5mm~約20mmの範囲内(例えば、約5mm)であるように制御され得る調節可能直径を示すことができる。開口の断面積は、分析間隙232の断面積より小さいように、それを上回るように、またはその均等であるように調節されることができる。例えば、5mmの直径の開口は、分析間隙232の断面積にほぼ等しい断面積を示し得、間隙高さは、1mmであり、間隙幅は、20mmである。上記に照らして、本教示のいくつかの側面によるシステムは、最小限の損失を伴って(望ましくないイオンが遮断されながら)、広範囲の着目イオンを伝送するための「イオンスクラバ(ion scrubber)」として動作するために、比較的に小径開口222aを利用し得る一方、より大きい直径開口222aは、1つ以上の特定の着目イオン種が互いに分解され得る「高分解能」分析を提供するために使用され得る。しかしながら、従来の知識と対照的に、本明細書に説明されるシステムは、ピーク分解能が増加するにつれて、伝送効率に実質的影響を及ぼさずに、そのような増加した選択性を提供し得る。さらに、本教示によるシステムおよび方法は、公知のDMSシステムにおいて使用されるものより実質的に高いドリフトガス体積流量を利用するので、ガス速度の結果として生じる増加はさらに、発散フリンジ場へのイオンの露出時間を減らし、したがって、イオン伝送をさらに改良し得る。
【実施例】
【0051】
本出願人の教示の驚くべき結果は、以下の例を参照して、さらにより完全に理解され得、それは、分解能が、約10L/分を上回るドリフトガス体積流量に関して、伝送効率を実質的に減少させられずに、向上させられ得ることを意外にも実証する。これらの例は、例示にすぎないと見なされ、本出願人の教示の他の実施形態は、本明細書の検討および本明細書に開示される本教示の実践から当業者に明白となるであろうことが意図される。
【0052】
図2に示されるような微分移動度システムの性能が、約16L/分のドリフトガス体積流量において、3.5mm、4.0mm、4.5mm、および5.0mmの直径を有する入口開口(例えば、開口222a)を用いて試験された。DMSセルは、1mm間隙高、20mm幅、および63mm長さを有していた。ピーク幅に及ぼされる種々のSV条件下のこれらの多様なサイズの開口の影響は、
図3に描写される。これらの4つの構成のうち、3.5mmの直径を有する開口は、最も広いピーク幅(例えば、SV=2,000VにおいてFWHM約5.5V)を示し、それは、開口の直径が増加するにつれて、徐々に減少した。5mmの直径を有する開口は、最も狭いピーク幅(例えば、SV=2,000VにおいてFWHM約3.7V)をもたらし、それによって、改良された分解能を示した。このデータは、開口サイズが減少するにつれて、10L/分を上回る上昇された流量で動作させられるシステムでは、より強いガスビームが、発生させられ、したがって、全体的滞留時間を減らし、DMS分析の分解能を減少させる(すなわち、ピークを広げる)ことを示唆する。換言すると、このデータは、開口サイズを増加させることが、滞留時間を増加させ、分解能を増加させることを実証する。
【0053】
図4は、3.5mm、4.0mm、4.5mm、および5.0mmの入口開口直径を有する
図2に示されるような4つの微分移動度システムを通した21個の異なる化合物の混合物の平均相対的イオン伝送率を描写するが、ドリフトガス体積流量が、3L/分から16L/分に変動させられる。データは、以下の表にも提示される。
【表1】
【0054】
当技術分野において、DMS内の滞留時間を増加させることは、
図3を参照して上で議論されるように、増加した分解能をもたらす可能性が高いであろうことが、これまで認識されているが、また、一般に、滞留時間のそのような増加は、感度と選択性との間のトレードオフに起因して、伝送効率の減少をもたらすであろうと考えられている。
図4に示されるように、ドリフトガス流量が約10L/分未満である、条件下では、伝送効率は、概して、従来の考えに従って、開口サイズが増加するにつれて減少した。しかしながら、ドリフトガス流量が少なくとも約10L/分である、条件下では、
図4は、意外にも、イオン伝送が、開口サイズおよび滞留時間が増加するにつれて、実質的に減少させられないことを実証する。データは、10L/分を上回るガススループットに関し、移送ガス流量が増加すると、信号が10%未満減少するように実質的に減少した可変噴流注入器入口直径を伴う信号損失が測定されたことを示す。
【0055】
図5は、化合物レセルピンに関する
図4の実験の結果のみを描写する。示されるように、5.0mmの入口開口直径におけるレセルピンイオンの相対的伝送は、10L/分以上で試験された各流量に関して、3.5mmにおける強度の少なくとも90%であった一方、伝送率は、同じ入口開口減少にわたって、7L/分、4L/分、および2L/分のそれぞれの流量において、約80%、67%、および45%まで減らされた。
【0056】
図6および7は、それぞれ、
図2のそれに類似し、16L/分のドリフトガス体積流量を伴って、3.5mm、4.0mm、4.5mm、および5.0mmの入口開口直径を有する微分移動度システムを通して伝送された21個の異なる化合物のピーク幅および強度を描写する。
図6および7を比較すると、16L/分のドリフトガス流量において、大部分の化合物に関して、開口サイズが増加するにつれて、分解能は、増加した(すなわち、ピーク幅が減少した)一方、伝送効率(すなわち、強度)は、実質的に不変のままであったことを理解されたい。データは、以下の表にも提示される。
【表2】
【0057】
一緒に、
図3-7は、DMSセルを通して、約10L/分を上回る体積ガス流量で動作するとき、伝送率の実質的損失を伴わずに、調節可能ピーク幅(分解能)を達成するための実質的かつ予測されない能力を実証する。任意の特定の理論によって拘束されるわけではないが、そのような高い体積流量は、DMS電極の入口フリンジ場への露出を減らし、したがって、イオン損失を減らすために十分にドリフトガス速度を増加させると考えられる。高分解能において最大伝送率の近傍に維持することは、低ガススループットを伴う以前のDMSデバイスに優る主要利益であることが、当業者に明白であろう。いくつかの条件下では、それは、調節可能分解能の必要性を排除し得る(すなわち、大きな伝送率不利益が存在しないので、常時、高分解能を維持する)。
【0058】
本明細書で使用される見出しは、編成目的のみのためのものであり、限定として解釈されるべきではない。本出願人の教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本出願人の教示がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替、修正等を包含する。
【国際調査報告】