(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】高圧電荷状態制御および/または断片化のための質量分光測定方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20240301BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20240301BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240301BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240301BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H01J49/06 300
H01J49/24
H01J49/02 200
H01J49/00 540
H01J49/00 500
H01J49/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557725
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 IB2022052719
(87)【国際公開番号】W WO2022201096
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ル ブランク, イブ
(57)【要約】
本明細書に説明されるシステムおよび方法は、フロントエンド高圧イオンガイド内の多価イオンの電荷状態制御を提供する。質量分光計システムは、約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバを備えている。少なくとも1つのイオンガイドが、第1の真空チャンバ内に配置され、少なくとも1つのイオンガイドは、中心縦軸に沿って延びる複数のロッドを備えている。コントローラが、イオンガイドを通したイオンの伝送中、イオンの同位体分布を実質的に維持するように電子脱離による電荷低減の可能性を減らすためのRF電圧信号のより低い振幅を伴う第1の動作モードと、イオンガイドを通して伝送されているイオンからの電子脱離の可能性を増やすためのRF電圧信号のより高い振幅を伴う第2の動作モードとにおいて、イオンガイドを交互に動作させるように、複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を調節するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分光計システムであって、前記システムは、
約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバであって、前記第1の真空チャンバは、高圧イオン化チャンバ内のイオン源によって発生させられた複数のイオンを受け取るように構成された入口開口と、出口開口との間に延びており、前記出口開口は、前記複数のイオンのうちの少なくとも一部を前記第1の真空チャンバから前記第1の真空チャンバに対してより低い圧力に維持された第2の真空チャンバに伝送するように構成されている、第1の真空チャンバと、
前記入口開口と前記出口開口との間の前記第1の真空チャンバ内に配置された少なくとも1つのイオンガイドであって、前記少なくとも1つのイオンガイドは、前記入口開口に隣接して配置された近位端から遠位端まで中心縦軸に沿って延びている複数のロッドを備え、前記複数のロッドは、前記中心縦軸から間隔を置かれ、内部容積を画定するように構成され、前記内部容積内で、前記入口開口を通して受け取られた前記複数のイオンは、ガスの流動によって同伴されている、少なくとも1つのイオンガイドと、
前記イオンガイドに結合された電力供給源であって、前記電力供給源は、前記イオンを前記内部容積内で半径方向に閉じ込めるためのRF電圧信号を前記複数のロッドに提供するように構成されている、電力供給源と、
前記電力供給源に動作可能に結合されたコントローラと
を備え、
前記コントローラは、前記複数のロッドに提供される前記RF電圧信号の振幅を調節することによって、前記イオンガイドを通した伝送中に前記複数のイオンの同位体分布が実質的に維持される第1の動作モードと、前記イオンガイドを通して伝送されている前記複数のイオンが電子脱離を受ける可能性がより高い第2の動作モードとにおいて、前記イオンガイドを交互に動作させるように構成され、前記第1の動作モードにおける前記RF電圧信号の振幅は、前記第2の動作モードにおける前記RF電圧信号の振幅より小さい、
システム。
【請求項2】
前記イオン源は、負イオンモードで動作する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数のイオンは、オリゴヌクレオチドを備えている、請求項1-2のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の動作モードにおける前記RF電圧信号の最大値は、210V
p-pである、請求項1-3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2の動作モードにおける前記RF電圧信号の最大値は、約300V
p-pである、請求項1-4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1の動作モードにおける前記RF電圧信号は、約200V
p-p以下であり、前記第2の動作モードにおける前記RF電圧信号は、約250V
p-p以上である、請求項1-5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記複数のイオンは、アニオンを備えている、請求項1-6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数のイオンは、前記イオンガイドから1つ以上の下流質量分析器に伝送され、検出器が、前記複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zを検出するように構成され、前記第1の動作モードにおいて、前記複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zは、前記イオンガイドから伝送される前記複数のイオンを実質的に断片化することなしで、検出される、請求項1-7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数のイオンは、前記イオンガイドから1つ以上の下流質量分析器に伝送され、検出器が、前記複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zを検出するように構成され、前記第2の動作モードにおいて、前記1つ以上の下流質量分析器は、前記検出器による検出のための1つ以上の生成イオンを前記複数のイオンから発生させるように構成されている、請求項1-8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記1つ以上の下流質量分析器は、衝突セルを備え、前記第2の動作モードは、前記衝突セル内の前記複数のイオンの衝突誘発解離の衝突エネルギーを減らすために有効である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記第1の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の前記複数のイオンからの電子脱離の可能性は、前記第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の前記複数のイオンからの電子脱離の可能性より小さい、請求項1-10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の前記複数のイオンの断片化の可能性は、前記第1の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の前記複数のイオンの断片化の可能性より大きい、請求項1-11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
フリーラジカル種の集団が、前記第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中、前記複数のイオンから発生させられる、請求項1-12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1の真空チャンバ内の圧力は、約1~10Torrの範囲内である、請求項1-13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記第2の真空チャンバ内の圧力は、約3mTorr~約15mTorrの範囲内である、請求項1-14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記イオン化チャンバ内の圧力は、約760Torrである、請求項1-15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
質量分光計を動作させる方法であって、前記方法は、
約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバの入口を通して、イオン源によって発生させられた複数のイオンを受け取ることと、
前記第1の真空チャンバ内に配置されたイオンガイドを通して、前記複数のイオンを伝送することであって、前記イオンガイドは、前記入口に隣接して配置された近位端から遠位端まで中心縦軸に沿って延びている複数のロッドを備え、前記複数のロッドは、前記中心縦軸から間隔を置かれ、内部容積を画定するように構成され、前記内部容積内で、前記入口を通して受け取られた前記複数のイオンは、ガスの流動によって同伴されている、ことと、
前記複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を調節することによって、前記イオンガイドを通した伝送中、前記複数のイオンの同位体分布が実質的に維持される第1の動作モードと、それを通して伝送されている前記複数のイオンが電子脱離を受ける可能性がより高い第2の動作モードとにおいて、前記イオンガイドを交互に動作させることであって、前記第1の動作モードにおける前記RF電圧信号の振幅は、前記第2の動作モードにおける前記RF電圧信号の振幅より小さい、ことと、
前記複数のイオンのうちの少なくとも一部を前記第1の真空チャンバの出口を通して、前記第1の真空チャンバに対してより低い圧力に維持された第2の真空チャンバに伝送することと
を含む、方法。
【請求項18】
ほぼ大気圧において、前記複数のイオンを発生させることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の動作モードにおける前記RF電圧信号は、約200V
p-p以下であり、前記第2の動作モードにおける前記RF電圧信号は、約250V
p-p以上である、請求項17-18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の動作モードにおいて、前記イオンガイドを通して伝送された前記複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zは、前記イオンガイドからの伝送後、前記複数のイオンを実質的に断片化することなしで、検出される、請求項17-19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の動作モードにおいて、1つ以上の下流質量分析器は、1つ以上の生成イオンを前記複数のイオンから発生させるように構成されている、請求項17-20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容がその全体として本明細書に組み込まれる2021年3月24日に出願された米国仮出願第63/165,614号の優先権を主張する。
【0002】
本教示は、質量分光測定を対象とし、より具体的に、質量分光計の下流区分の中への伝送に先立つフロントエンド高圧イオンガイド内のイオンの電荷状態および/または断片化を制御する方法およびシステムを対象とする。
【背景技術】
【0003】
質量分光測定は、定量的および定質的用途の両方を伴うサンプル中の分子の質量/電荷比(m/z)を測定するための分析技法である。例えば、質量分光測定は、試験物質中の未知の化合物を識別し、特定の分子中の元素の同位体組成物を決定し、その断片化を観察することによって、特定の化合物の構造を決定し、および/または試験サンプル中の特定の化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0004】
質量分光測定は、典型的に、イオン源を使用して、サンプル分子をイオンに変換し、1つ以上の質量分析器を使用して、そのm/zに基づいて、イオン化された分子を分離および検出することを伴う。大気圧イオン源を利用する、大部分の従来の質量分光計システムに関して、イオンは、入口オリフィスを通過し、第1の真空チャンバ内に配置されたイオンガイドに入り、イオンガイドにおいて、イオンは、衝突冷却され、イオンガイドの中心軸に沿って半径方向に集束させられ、次いで、イオンビームとして、質量分析器が配置された後続のより低圧の真空チャンバの中に移送される。実験に応じて、イオン源によって発生させられるイオンは、無傷で検出され得るか(概して、MSと称される)、または、代替として、タンデムMS(MS/MSまたはMS2とも称される)におけるように、断片化を受け得、それによって、選択された前駆体イオンの断片化から結果として生じる生成イオンが、加えて、または代替として、検出され得る。
【0005】
MSにおけるように正確な質量を無傷イオンに割り当てるために、および/またはMS/MSにおけるように所望の前駆体イオンを選択するために、従来のシステムは、概して、イオン源からm/zベースの分析を実施する質量分析器が配置されたより低圧の真空チャンバに、修正を伴わずに、イオン源によって発生させられたイオンを伝送することを試みる。
【0006】
比較的に高圧で動作するイオンをフロントエンドイオンガイド内のイオンの修正を防止および/または制御する必要性が、残っている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(例えば、化学イオン化、エレクトロスプレーによる)大気圧におけるイオン化は、サンプル中の分子をイオン化する高度に効率的手段である。例えば、大気圧および負イオンモードで動作するイオン源を介したオリゴヌクレオチド等の大分子のイオン化は、多くの場合、種々の電荷状態において、多価アニオンをもたらす。本教示の種々の側面では、本明細書に説明されるシステムおよび方法は、高圧フロントエンドイオンガイドを通したその伝送中、そのようなイオンへの修正の制御を提供することができる。当業者によって理解されるであろうように、着目分析物の特定の種は、その特定の種の種々のイオン化された分子中の同位体の存在に起因して、各電荷状態において、m/zの同位体分布を示し得ることが公知である。しかしながら、本出願人は、高圧イオンガイド内のより高い電荷状態における特定の分析物種の1つ以上の電子の非意図的脱離が、その種のより低い電荷状態イオンの定量化に収差をもたらし得ることを発見した。特に、フロントエンドイオンガイド内のイオンからの電子脱離は、イオンの有効質量を減らさず、それによって、イオン種の同位体分布の分析を歪ませずに、イオンの電荷を減らすと考えられる。本教示の種々の側面によると、本明細書に説明されるシステムおよび方法は、フロントエンド高圧イオンガイド内の多価種からの電子脱離を制御および/または防止するように構成される。本教示のある側面は、イオン源によって発生させられるイオンの同位体分布を実質的に維持するように、電荷低減の可能性を減らすようにイオンガイドのロッドに提供されるRF信号の振幅の制御を提供する。高圧イオンガイド内の電荷低減およびそのための制御機構の本出願人の発見に付け加えて、本教示の種々の側面は、加えて、または代替として、高圧イオンガイドのロッドに提供されるRF信号振幅が、イオンガイドを通して伝送されているイオンからの電子脱離をもたらす可能性がより高いように動作させられ得る動作モードを提供する。従来のシステムは、概して、修正を伴わずに、イオン源によって発生させられるイオンを質量分析器に伝送するように試みるが、高圧上流領域内の電荷低減プロセスの本出願人の認識および特性評価は、イオンの既知の制御された修正を可能にする。本明細書に議論されるように、そのような方法およびシステムは、高圧領域内のラジカルアニオンの意図的形成(およびさらに断片化)を可能にし得、それは、MS/MSにおけるように、イオン構造に関するさらなる情報を提供するために利用され得る。
【0008】
種々の側面では、本教示によるシステムは、約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバを備え、第1の真空チャンバは、高圧イオン化チャンバ内のイオン源によって発生させられた複数のイオンを受け取るように構成された入口開口と、複数のイオンのうちの少なくとも一部を第1の真空チャンバから第1の真空チャンバに対してより低い圧力に維持された第2の真空チャンバに伝送するように構成された出口開口との間に延びている。少なくとも1つのイオンガイドが、入口開口と出口開口との間の第1の真空チャンバ内に配置され、少なくとも1つのイオンガイドは、入口開口に隣接して配置された近位端から遠位端まで中心縦軸に沿って延びている複数のロッドを備え、複数のロッドは、中心縦軸から間隔を置かれ、内部容積を画定するように構成され、内部容積内で、入口開口を通して受け取られる複数のイオンが、ガスの流動によって同伴される。イオンガイドに結合された電力供給源は、複数のイオンがイオンガイドを横断するにつれて、イオンの電荷状態および/または断片化を制御するように、イオンを内部容積内で半径方向に閉じ込めるためのRF電圧信号を複数のロッドに提供するように構成されることができる。例として、ある側面では、電力供給源に動作可能に結合されたコントローラは、(例えば、自動的に、またはユーザの指示下で)イオンガイドを通した伝送中、該複数のイオンからの電子脱離の可能性を減らすように、複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を減らすように構成されることができる。そのような側面では、RF電圧信号の制御は、イオン源によって発生させられるイオンの同位体分布を実質的に維持し、それによって、イオン化された分子の質量または識別のより正確な決定(例えば、MSにおけるように)および/または1つ以上の下流質量分析器によって断片化されるべきイオンの選択(例えば、MS/MSにおけるように)を可能にし得る。
【0009】
ある側面では、コントローラは、代替として、または加えて、前記イオンガイドを通した伝送中、該複数のイオンからの電子脱離の可能性を増やすように、複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を増大させるように構成されることができる。そのような側面では、それから電子が脱離されたイオンは、MS/MSにおけるように、イオンガイド自体内または下流質量分析器内で断片化を受け得る。
【0010】
本教示のある側面では、コントローラは、第1の動作モードと、第2の動作モードとにおいて、イオンガイドを交互に動作させるように、複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を調節するように構成されることができる。例えば、RF電圧信号は、第1の動作モードにおいて前記イオンガイドを通した伝送中、複数のイオンの同位体分布を実質的に維持すように、または第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中、イオンを電子脱離を受けさせる可能性を増やすように調節され得、第1の動作モードにおけるRF電圧信号の振幅は、第2の動作モードにおけるRF電圧信号の振幅より小さい。
【0011】
複数のイオンは、様々な分析物から発生させられることができる。非限定的例として、いくつかの側面では、複数のイオンは、オリゴヌクレオチドを備え得る。ある側面では、イオン源は、負イオンモードで動作し得、複数のイオンは、アニオンであり得る。
【0012】
上で記載したように、RF電圧信号の振幅は、第1の動作モードにおいて、第2の動作モードのそれに対してより低くあり得る。非限定的例として、イオン源によって発生させられるイオンの同じ予期されるm/z範囲に関して、第1の動作モードにおけるRF電圧信号は、約200Vp-p以下であり得、第2の動作モードにおけるRF電圧信号は、約250Vp-p以上であり得る。ある側面では、第1の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、210Vp-pであり得、および/または第2の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、約300Vp-pであり得る。例えば、各動作モードにおいて、イオンガイドのロッドに印加されるRF電圧信号の選択された振幅は、本教示によると、イオンガイドから伝送されるイオンのm/zに依存し得る(例えば、着目分析物のより高い予期されるm/z範囲は、両方の動作モードにおいて、より高い振幅を余儀なくし得る)が、RF信号の振幅は、第1の動作モードにおいて、イオンガイドの中に伝送されるイオンのための同じm/z範囲に関して、第2の動作モード(例えば、最大で300Vp-p)に対して、より低くあり得る(例えば、最大で210Vp-p)。
【0013】
複数のイオンを分析するために使用される質量分析器は、本教示の種々の側面によると、様々な構成を有することができ、様々な様式で動作するように構成されることができる。例として、ある側面では、複数のイオンは、前記イオンガイドから、1つ以上の下流質量分析器に伝送され得、検出器が、該複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zを検出するように構成され得る。ある側面では、該複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zは、例えば、実質的に、第1の動作モードにおいて、前記イオンガイドから伝送される該複数のイオンを断片化することなしで、MSにおけるように、イオン源によって発生させられるにつれて、検出され得る。代替として、第2の動作モードにおいて、1つ以上の下流質量分析器は、MS/MSにおけるように、検出器による検出のための1つ以上の生成イオンを該複数のイオンから発生させるように構成され得る。いくつかの関連側面では、例えば、1つ以上の下流質量分析器は、衝突セルを備え得、その中で複数のイオンは、衝突誘発解離によって、断片化され得る。そのような側面では、第2の動作モードは、第1の動作モードにおいて該イオンを解離させるために要求される衝突エネルギーに対して、該衝突セル内の該複数のイオンの衝突誘発解離の衝突エネルギーを減らすために有効であり得る。
【0014】
本教示による種々の側面では、第1の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の該複数のイオンからの電子脱離の可能性は、第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の該複数のイオンからの電子脱離の可能性より小さくあり得る。加えて、ある側面では、電子脱離は、第2の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中、複数のイオンの断片化を生じさせ得る。例えば、第2の動作モードにおける該複数のイオンの断片化の可能性は、第1の動作モードにおける前記イオンガイドを通した伝送中の該複数のイオンの断片化の可能性より大きくあり得る。
【0015】
種々の側面では、第2の動作モードにおける電荷低減は、イオンガイド内にラジカルイオンの形成をもたらし得る。例えば、第2の動作モードにおいて、フリーラジカル種の集団が、第2の動作モードにおいて、イオンガイドを通した伝送中、該複数のイオンから発生させられる可能性がより高くあり得る。
【0016】
上で議論されるように、フロントエンドイオンガイドが、約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバ内に配置され得、第1の真空チャンバに対してより低い圧力に維持された第2の真空チャンバに複数のイオンを伝送するように構成され得る。例として、第1の真空チャンバ内の圧力は、約1~10Torrの範囲内であり得る。ある側面では、第2の真空チャンバ内の圧力は、約3mTorr~約15mTorrの範囲内であり得る。イオン化チャンバ(例えば、それからイオンが、イオンガイドの入口の中に伝送される)内の圧力は、約760Torrであり得る。
【0017】
種々の側面では、本教示による質量分光計を動作させる方法が、提供され、方法は、約500mTorrを上回る圧力に維持された第1の真空チャンバの入口を通して、イオン源によって発生させられた複数のイオンを受け取ることを含む。該複数のイオンは、第1の真空チャンバ内に配置されたイオンガイドを通して伝送され得、イオンガイドは、入口に隣接して配置された近位端から遠位端まで中心縦軸に沿って延びている複数のロッドを備え、複数のロッドは、中心縦軸から間隔を置かれ、内部容積を画定するように構成され、内部容積内で、入口を通して受け取られる複数のイオンが、ガスの流動によって同伴される。方法は、前記イオンガイドを通した伝送中、該複数のイオンの同位体分布が実質的に維持される第1の動作モードと、それを通して伝送されている複数のイオンが電子脱離を受ける可能性がより高い第2の動作モードとにおいて、イオンガイドを交互に動作させるように、複数のロッドに提供されるRF電圧信号の振幅を調節することも含み得、第1の動作モードにおけるRF電圧信号の振幅は、第2の動作モードにおけるRF電圧信号の振幅より小さい。複数のイオンのうちの少なくとも一部は、第1の真空チャンバの出口を通して、第1の真空チャンバに対してより低い圧力に維持された第2の真空チャンバに伝送され得る。ある側面では、複数のイオンは、ほぼ大気圧において、発生させられ得る。
【0018】
第1および/または第2の動作モードにおいて複数のロッドに印加されるRF電圧信号は、本教示の種々の側面による様々な値を有することができる。例として、第1の動作モードにおけるRF電圧信号は、約200Vp-p以下であり得、第2の動作モードにおけるRF電圧信号は、約250Vp-p以上であり得る。いくつかの側面では、第1の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、210Vp-pであり得、および/または第2の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、約300Vp-pであり得る。
【0019】
種々の側面では、第1の動作モードにおけるイオンガイドを通して伝送される該複数のイオンのうちの少なくとも一部のm/zは、前記イオンガイドからの伝送後、実質的に、該複数のイオンを断片化することなしで、検出され得る。
【0020】
種々の側面では、1つ以上の下流質量分析器は、第2の動作モードにおいて、1つ以上の生成イオンを該複数のイオンから発生させるように構成され得る。ある関連側面では、方法はさらに、該1つ以上の生成イオンのm/zを検出することを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
当業者は、下記に説明される図面が例証目的のためだけのものであることを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【0022】
【
図1A】
図1A-Bは、多価分析物の種々の電荷状態の例示的同位体分布を描写する。
【
図1B】
図1A-Bは、多価分析物の種々の電荷状態の例示的同位体分布を描写する。
【0023】
【
図2】
図2A-Cは、多価分析物の種々の電荷状態の他の例示的同位体分布を描写する。
【0024】
【
図3】
図3は、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による例示的質量分光計システムの略図である。
【0025】
【
図4】
図4A-Cは、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による
図1のシステムの一部を追加の詳細において図式的に描写する。
【0026】
【
図5A】
図5A-Cは、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による高圧イオンガイドを通して伝送される多価アニオンのMSモードにおける例示的質量スペクトルを描写する。
【
図5B】
図5A-Cは、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による高圧イオンガイドを通して伝送される多価アニオンのMSモードにおける例示的質量スペクトルを描写する。
【
図5C】
図5A-Cは、本出願人の教示の種々の実施形態の側面による高圧イオンガイドを通して伝送される多価アニオンのMSモードにおける例示的質量スペクトルを描写する。
【0027】
【
図6】
図6は、従来の高圧イオンガイドおよび本出願人の教示の種々の実施形態の側面に従って動作させられる高圧イオンガイドを通して伝送される多価アニオンのMS/MSモードにおける例示的質量スペクトルを描写する。
【0028】
【
図7】
図7は、従来の高圧イオンガイドおよび本出願人の教示の種々の実施形態の側面に従って動作させられる高圧イオンガイドを通して伝送される多価アニオンのMS/MSモードにおける例示的質量スペクトルを描写する。
【0029】
【0030】
【
図9】
図9は、本出願人の教示の種々の側面による本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
明確化のために、以下の議論が、そうすることが便宜または適切であるときは常に、ある具体的詳細を省略しながら、本願の教示の実施形態の種々の側面を詳述するであろうことを理解されたい。例えば、代替実施形態における同様のまたは類似する特徴の議論は、若干略記され得る。周知の構想または概念も、簡潔にするために、あまり詳しく議論されないこともある。当業者は、本願の教示のいくつかの実施形態が、全ての実装において具体的に説明される詳細のうちのあるものを要求しないこともあり、それが、実施形態の徹底的な理解を提供するためにのみ本明細書に記載されることを認識するであろう。同様に、説明される実施形態が、本開示の範囲から逸脱することなく、共通の一般的知識に従って、改変または変形を受けやすくあり得ることが明白であろう。実施形態の以下の詳細な説明は、いかなる様式でも本出願人の教示の範囲を限定すると見なされるものではない。
【0032】
本明細書に使用されるように、用語「約」および「実質的に等しい」は、例えば、実世界における測定または取り扱い手順を通して、これらの手順における故意ではない誤差を通して、組成物または試薬の製造、源、または純度における差異を通して、および同等物を通して起こり得る数値量における変動を指す。典型的に、本明細書に使用されるような用語「約」および「実質的に」は、記載される値または値の範囲または完全な条件または状態を10%上回ることまたは下回ることを意味する。例えば、約30%または30%に実質的に等しい濃度値は、27%~33%の濃度を意味し得る。用語は、そのような変動が従来技術によって実践された既知の値を包含しない限り、当業者によって同等であるとして認識されるであろう変動も指す。
【0033】
正確な質量を無傷イオン種に割り当てるために、分離および検出のために質量分析器に伝送されるときのイオン種への任意の修正は、把握されるべきであるか、または制御されるべきである。そのような修正を考慮しないことは、予期されるイオンの同位体プロファイル合致を通した種の不適切な割当、または新しいまたは異なる種として解釈され得る多価イオン信号の逆畳み込みアーチファクトにつながり得る。
【0034】
従来の実践に従って実施されるMSによって検出されるような大気圧イオン化を受ける分析物に関するデータは、
図1A-Bに描写される。特に、
図1A-Bは、負イオンスプレーモードで動作させられる、TurboV
TMイオン源を使用した、大気圧における44-ヌクレオチド配列(ACCACGAAAGCAAGAAAAAGAAGTTCGTTTCGGAAGAGACAG)のイオン化に続く質量スペクトルを描写する。イオンは、大気圧イオン化チャンバから高真空の下流質量分析器に伝送されるにつれてイオンをイオンビームに集束させるために従来使用されるような高圧フロントエンドイオンガイドを含むトリプルTOF(登録商標)6600+システム上でMSを使用して分析された。
図1Aのスペクトルは、オリゴヌクレオチドの中への1つ以上の同位体の組み込みに起因する異なるm/zにおける各個々のピークを伴う-8電荷を示す質量分析器に伝送されるイオンを表す。ピークの高さは、各検出されたm/zにおけるオリゴヌクレオチドイオンの相対量を示唆し、それによって、同位体分布をもたらす。
図1Bは、同様に、従来のMSシステムに従って検出される-12電荷を示す、オリゴヌクレオチドアニオンの検出された同位体分布を描写する。
図1Aおよび1Bのスペクトルに追加される垂直線は、オリゴヌクレオチド成分元素の天然同位体存在度に照らして、特定のm/zにおいて予期される量を表す。着目すべきこととして、理論的同位体分布は、-8および-12電荷状態に関して同じである。
図1Aは、-8電荷状態における検出同位体分布と理論的同位体分布との間の容認可能対応を示すが、-12電荷状態に関して検出された同位体分布は、理論的分布からかなり変動させられている。すなわち、
図1Bに示されるように、検出された同位体分布は、より低いm/z(すなわち、左)に向かってかなりシフトしている。理論的分布の最小の予期されるm/zより低いm/zにおいて検出されたピークは、異なる種として正しくなく解釈され得る(
図1Bの左側の図から分かるように)一方、
図1Bの右側は、各m/zにおいて、天然同位体分布によって予期されるよりかなり低い量を示す。
【0035】
ここで
図2A-Cを参照すると、任意の特定の理論によって拘束されるわけではないが、本願の発明者らは、多価アニオンの同位体分布におけるそのようなシフトが、分析物が、イオン源によるイオン化中、陽子交換を受け、質量分析器に伝送されることに先立って1つ以上の電子を喪失することから生じ得ると仮定した。特に、これらの仮説質量スペクトルは、MSによって分離および検出されるような仮説分析物[M]のイオン化に続く、同位体分布への電荷低減の潜在的影響を実証する。
【0036】
図2Aは、-4電荷状態[M-4H]
4-のこれらのアニオンが、修正を伴わずに、質量分析器に伝送された場合の仮説同位体分布を描写する。示されるように、アニオン[M-4H]
4-は、約400m/zを示し、4つの黒色バーは、400m/z、400.25m/z、400.5m/z、および400.75m/zにおける4つの同位体を示す。-3電荷状態(すなわち、[M-3H]
3-)を有するイオン源によって発生させられるイオンは、-4電荷状態イオンのそれと同じ相対的同位体分布を示すであろうことが予期されるであろう。この分布は、
図2Bにおける黒色バーによって示され、それは、[M-4H]
4-に対して[M-3H]
3-におけるより低い電荷(すなわち、-3)および追加の陽子の質量を考慮するときの
図2Aの-4電荷状態アニオンの種々のm/zに対応する-3電荷状態(すなわち、533.67m/z、534m/z、534.33m/z、および534.67m/z)における同じ4つの同位体を描写する。
【0037】
図2Bは、加えて、533.33m/z、533.67m/z、534m/z、および534.33m/zにおける4つの白色バーを含む。4つの白色バーイオンのm/z間の相対的分布は、
図2B(および
図2A)における黒色バーのものに対応するが、m/zの識別は、同じではない。例えば、
図2Bにおける白色バーの最低m/z(すなわち、533.33m/z)は、
図2Bの黒色バー内には存在しない。さらに、
図2Bにおける黒色バーの最高m/z(すなわち、534.67m/z)は、白色バーでは欠けている。着目すべきこととして、533.33m/zは、電子を喪失した[M-4H]
4-アニオンの質量(すなわち、[M-4H]
3-・であり、ここで、ドットは、ラジカルイオンを表す)に対応する。電荷および質量の両方に影響を及ぼす、イオン化中に生じる陽子交換と異なり、イオン源から質量分析器へのこれらのイオンの伝送中の電子喪失は、イオンの質量を実質的に減らさずに、電荷状態を-4から-3まで減らすであろう。
図2Bにおける白色バーの各々は、したがって、質量分析器においてそのm/zに従って分析されることに先立って、[M-4H]
3-・まで電荷が減少したイオン源によって発生させられる-4電荷状態アニオン[M-4H]
4-を表す。
【0038】
しかしながら、約534m/zにおいて、MSを介して-3電荷状態を実際に分析すると、検出器は、
図2Cに示されるように、5つのm/z:533.33m/z([M-4H]
3-・のみ、白色バー);533.67m/z、534m/z、および534.33m/z([M-4H]
4および[M-4H]
3-・、灰色バー);および、534.67m/z([M-4H]
4のみ、黒色バー)を識別するであろう。
図2Cにおける灰色バーの高さは、各m/zにおける
図2Bにおける黒色バーと白色バーとの合計高を反映する。要するに、
図2Cの同位体分布における左方(すなわち、より低いm/zに向かった)シフトの上記の理論的説明は、
図1Bに描写される同位体分布における歪みを裏付けると考えられる。さらに、多価イオンが、質量分析器に到着することに先立って電荷が減少したことを認知していない場合、
図2Cにおける最低533.33m/zの存在は、別の同位体が-3電荷状態において存在すると考えること、または、このアーチファクトが約534m/zを示す異なる分析物のイオンを表すと考えることにつながり得る。さらに、電荷が減少したアニオン[M-4H]
3-・の検出は、各予期されるm/zにおける
図2Cにおける[M-3H]
3-eの非電荷低減同位体の量を歪ませる。例えば、400.25m/zは、
図2Aにおける最も集中した400m/zの量の約60%であるが、
図2Bにおける対応する534.00m/zは、最も集中した533.67m/zの約55%にすぎない。
【0039】
電荷低減によって引き起こされるそのような潜在的誤差の認識に従って、本出願人は、驚くべきことに、本教示の種々の側面によると、電荷低減の可能性が、イオンがイオン源と下流質量分析器との間で伝送されるフロントエンド高圧イオンガイドのロッドに印加されるRF電圧の振幅の制御を通して、調節され得ることを発見した。概して、フロントエンドイオンガイドのロッドに印加されるRF信号は、従来、単に、中間圧力チャンバを通して伝送されるとき、イオンをイオンビームに集束させるために利用されている。しかしながら、本教示の種々の側面によるシステムおよび方法は、上流イオンガイドのロッドに印加されるRF振幅電圧を減少させ、それにもかかわらず、上流イオンガイドにおける電荷状態修正および/またはその中の多価種の断片化を減らしながらイオンビームの適切な伝送を確実にすることによって、m/z忠実性を維持することに役立ち得る。そのような電荷が減少した種によって引き起こされるアーチファクトを減らすことによって、本教示は、イオン化されたサンプル中に存在する無傷分析物のより正確なデータ逆畳み込みおよび特性評価を可能にすることができる(例えば、MSにおいて検出されるように)。
【0040】
さらに、従来のフロントエンドイオンガイドは、概して、イオン源によって発生させられるイオンを質量分析器が配置される真空チャンバに修正を伴わずに伝送することを試みるが、本教示は、従来、下流質量分析器に委託されていた制御された修正の追加の方法を可能にする。例えば、電荷状態を制御するための本明細書に説明される方法およびシステムの種々の側面は、高圧イオンガイド内の多価イオンから電子脱離の可能性を増やすために利用されることができる。ある例示的側面では、本明細書に説明されるシステムおよび方法は、上流イオンガイドのロッドに印加されるRF振幅電圧を増やすことができ、それは、高圧イオンガイド内のイオンの断片化および/またはラジカルイオン種の形成をもたらし得る。例えば、高圧領域内に形成される、ラジカルイオンが、下流衝突セル内で解離するための減少したエネルギーを要求し得、および/または、断片化をラジカルイオン内のより多くのまたは異なる部位において生じさせ得、それは、種々のイオン断片の識別(例えば、MS/MSにおいて検出されるような)に基づいて、全体的分析物構造の再構成を補助し得ることが発見された。
【0041】
図3は、比較的に高圧のフロントエンドイオンガイドにおいて、イオンの改良された電荷状態制御を提供し得る本教示の種々の側面による質量分光計システム100を図式的に描写する。示されるように、例示的質量分光計システム100は、イオンをイオン化チャンバ14内で発生させるためのイオン源104と、上流区分16と、下流区分18とを備えていることができる。上流区分16は、イオン源104から受け取られるイオンの初期処理を実施するように構成され、カーテンプレート30および1つ以上のイオンガイド106、108等の種々の要素を含む。下流区分18は、1つ以上の質量分析器110、114と、衝突セル112と、検出器118とを含む。1つ以上の電力供給源195、197に動作可能に接続されたコントローラ193は、本明細書のいずれかに議論されるように、上流区分16内のイオンからの電子脱離の可能性を調節するように、イオンガイド106に印加されるRF信号を制御することができる。そのような電荷状態制御は、概して、イオンガイド106(例えば、Qjetイオンガイド)に適用されるように、
図1の例示的システム100を参照して説明されるであろうが、本教示による電荷状態制御は、約500mTorrを上回る圧力で動作する任意の上流イオンガイド内で実施され得ることを理解されたい。
【0042】
イオン源104は、イオンを発生させるための任意の公知または以降開発されるイオン源であることができ、本教示に従って修正される。本教示とび使用のために好適なイオン源の非限定的例は、とりわけ、大気圧化学イオン化(APCI)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、持続イオン源、パルス状イオン源、マトリクス-支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)イオン源、電子衝撃波イオン源、化学イオン化源、または光イオン化イオン源を含む。加えて、
図1に示されるように、システム100は、サンプルをイオン源104に提供するように構成されたサンプル源102を含むことができる。サンプル源102は、当技術分野において公知の任意の好適なサンプル入口システムであることができる。例として、イオン源104は、様々なサンプル源(サンプル源に送達(例えば、圧送)される流体サンプルを含むリザーバ、液体クロマトグラフ(LC)カラム、キャピラリー電気泳動デバイス、およびキャリア液体中へのサンプルの注入を介することを含む)から流体サンプルを受け取るように構成されることができる。
図3に描写される例では、イオン源104は、エレクトロスプレー電極を備え、それは、サンプル源102に流動的に結合された毛細管を備えていることができ(例えば、1つ以上の導管、チャネル、管類、パイプ、毛細管チューブ等を通して)、毛細管は、少なくとも部分的にイオン化チャンバ14の中に延び、液体サンプルをその中に放出する出口端で終端する。
【0043】
1つ以上の電力供給源は、正のイオンモード(サンプル中の分析物は、プロトン化され、概して、分析されるべきカチオンを形成する)または負イオンモード(サンプル中の分析物は、脱プロトン化され、概して、分析されるべきアニオンを形成する)のいずれかにおいて、分析物をイオン化するために適切な電圧を伴う電力をイオン源104に供給することができる。示されるように、例えば、システム100は、RF、AC、および/またはDC成分を有する電位をシステム100の種々の構成要素に印加するように、コントローラ193によって制御され得るRF電力供給源195とDC電力供給源197とを含む。さらに、イオン源104は、ネブライザ支援または非ネブライザ支援であることができる。いくつかの実施形態では、イオン化は、例えば、イオン源から放出された液体の溶解を促進するために、イオン化チャンバを加熱するための加熱器の使用によっても促進されることができる。
【0044】
図3を継続して参照すると、イオン源104から放出されたサンプル中に含まれる、分析物は、イオン化チャンバ14内でイオン化されることができ、イオン化チャンバ14は、カーテンプレート30によって、上流区分16から分離されている。カーテンプレート30は、カーテンプレート開口31を画定することができ、カーテンプレート開口31は、上流区分16と流体連通する。
図3に示されないが、システム100は、種々の他の構成要素を含むことができる。例えば、システム100は、(例えば、N
2の)カーテンガス流動をシステム100の上流区分16に提供する、カーテンガス供給源(図示せず)を含むことができる。カーテンガス流動は、質量分光計システム100の下流区分18を清浄に保つことを補助することができる(例えば、大中性粒子を脱クラスタ化および空にすることによって)。例えば、カーテンガスの一部は、カーテンプレート開口31からイオン化チャンバ14の中に流動し、それによって、カーテンプレート開口31を通した液滴および/または中性分子の進入を防止することができる。
【0045】
イオン化チャンバ14は、圧力P
0に維持されることができ、それは、大気圧または実質的に大気圧であることができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、イオン化チャンバ14は、大気圧より低い圧力に減圧されることができる。イオン源104によって発生させられるイオンは、概して、真空チャンバ121、122、141に向かって、
図3における矢印11によって示される方向に、進行する。
【0046】
イオン源104によって発生させられるイオンは、概して、真空チャンバ121、122、141に向かって、
図3における矢印11によって示される方向に、進行する。最初に、これらのイオンは、下流部分18内のさらなるm/zベースの分析のために、上流区分16の要素(例えば、カーテンプレート30、イオンガイド106、およびイオンガイド108)を通して連続的に伝送され、細く高度に集束させられたイオンビームをもたらすことができる(例えば、システム100の中心縦軸に沿って)。イオン源104によって発生させられるイオンは、上流区分16に入り、質量分析器が配置された高真空チャンバ141を上回る高圧を有する1つ以上の中間真空チャンバ121、122および/またはイオンガイド106、108を横断する。真空チャンバ121の圧力(P
1)は、約500mTorr~約10Torrに及ぶ圧力に維持されることができるが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。例えば、いくつかの側面では、第1の真空チャンバ121は、約500mTorrを上回る圧力に維持されることができる。ある実装では、第1の真空チャンバは、約0.5Torr~約10Torrの範囲内の圧力に維持されることができる。同様に、真空チャンバ122は、第1の真空チャンバ121(すなわち、P
1)のそれより低い圧力(P
2)に減圧されることができる。例えば、第2の真空チャンバ122は、約3~15mTorrの圧力に維持されることができるが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。
【0047】
そのような高圧は、概して、他の分子との衝突の増したリスクに起因して、m/zベースの分離のために好適ではないと見なされる。したがって、フロントエンドガイドは、従来、イオンが下流高真空区分18に伝送されるとき、ガス動態と無線周波数場との組み合わせを使用して、単に、衝突冷却およびイオンビームへのイオンの半径方向集束を提供するために利用されている。実際、イオン源104によって発生させられるイオンへの制御されない修正は、概して、MS分析および/またはMS/MS前駆体の選択中に下流質量分析器内で実施されるm/zベースの分離における収差を回避するためにイオン源104によって発生させられるイオンのm/zを保存するための高圧フロントエンドイオンガイドにおいて望ましくない。しかしながら、
図4A-Cを参照して下記に議論されるように、イオンガイド106は、四重極ロッド組を備えているRFイオンガイドであることができ、RFイオンガイドは、イオンが中間圧力チャンバ121を通して伝送されるとき、イオンを衝突冷却および半径方向に集束させるだけではなく、所望の動作モードに応じて、RF電圧信号の振幅を調節することによって、イオンの電荷状態の制御された修正を提供し得るようにさらに構成されている。
【0048】
イオンガイド106は、イオンガイド108等の後続イオン光学系(また、本明細書では、「Q0」と称される)に、イオンレンズ107(また、本明細書では、「IQ0」と称される)を通して、イオンを輸送する。イオンは、イオンガイド106から、イオンレンズ107内の出口開口を通して伝送されることができる。イオンガイドQ0 108は、RFイオンガイドであることができ、四重極ロッド組を備えていることができる。このイオンガイドQ0 108は、イオンを後続光学系(例えば、IQ1レンズ109)を通してシステム100の下流区分18に送達することに先立って、中間圧力領域を通してイオンを移送するように、第2の真空チャンバ122内に位置付けられることができる。
【0049】
四重極ロッド組Q0 108を通過するイオンは、レンズIQ1 109を通して、下流区分18内の隣接する四重極ロッド組Q1 110の中に入る。Q0 108からレンズIQ1 109の出口開口を通して伝送された後、イオンは、隣接する四重極ロッド組Q1 110に入ることができ、Q1 110は、イオンガイド106チャンバ121およびイオンガイドQ0 108チャンバ122のそれより低く維持され得る圧力に減圧され得る真空チャンバ141内に据え付けられることができる。例えば、真空チャンバ141は、約1×10-4Torr以下の(例えば、約5×10-5Torr)圧力に維持されることができるが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。当業者によって理解されるであろうように、四重極ロッド組Q1 110は、着目イオンおよび/または着目イオンの範囲を選択するように動作させられ得る従来の伝送RF/DC四重極質量フィルタとして動作させられることができる。例えば、四重極ロッド組Q1 110は、質量分解モードにおける動作のために好適なRF/DC電圧を提供されることができる(例えば、1つ以上の電圧供給源195/197によって)。理解されるはずであるように、質量分析器Q1 110の物理的および電気的性質を考慮すると、印加されるRFおよびDC電圧のためのパラメータは、これらのイオンが、殆ど混乱させられずにQ1 110を横断し得るように、Q1 110が選定されるm/z比の伝送窓を確立するように選択されることができる。しかしながら、窓の外側に該当するm/z比を有するイオンは、四重極内で安定軌道を達成せず、四重極ロッド組Q1 110を横断することを防止されることができる。この動作モードは、Q1 110のための1つの可能な動作モードにすぎないことを理解されたい。例として、Q1 110と衝突セルq2 112との間のレンズIQ2 111は、四重極ロッド組Q1 110がイオントラップとして動作させられ得るように、Q1 110よりはるかに高いオフセット電位に維持されることができる。そのような様式において、入り口レンズIQ2 111に印加される電位は、Q1 110内に捕獲されたイオンが、例えば、イオントラップとしても動作させられ得る衝突セルq2 112の中に加速されるように、選択的に低くされる(例えば、質量選択的に走査される)ことができる。
【0050】
四重極ロッド組Q1 110を通過するイオンは、レンズIQ2 111を通して、隣接する四重極ロッド組q2 112の中に通過することができ、それは、示されるように、加圧されたコンパートメント内に配置されることができ、約1mTorr~約10mTorrの範囲内の近似的圧力において、衝突セルとして動作するように構成されることができるが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。好適な衝突ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)が、ガス入口(図示せず)を経由して提供され、イオンビーム内のイオンを熱運動化および/または断片化することができる。例として、MS/MSでは、四重極ロッド組Q1 110が、q2 112内における生成イオンへの断片化のために、m/zの選択された範囲を示す前駆体イオンをq2 112に伝送するように動作させられることができる。MSモードでは、q2 112のロッドに印加されるRFおよびDC電圧のためのパラメータは、q2がそれを通して殆ど混乱させずにこれらのイオンを伝送するように選択されることができる。
【0051】
四重極ロッド組q2 112によって伝送される、イオンは、隣接する四重極ロッド組Q3 114の中に通過することができ、Q3は、上流でIQ3 113によって、下流で出口レンズ115によって境を限られている。当業者によって理解されるであろうように、四重極ロッド組Q3 114は、衝突セルq2 112のものに対して、減少した動作圧力、例えば、約1×10-4Torr未満(例えば、約5×10-5Torr)で動作させられることができるが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。当業者によって理解されるであろうように、四重極ロッド組Q3 114は、イオンが混乱させられずにそれを通過することを可能にするために、いくつかの様式で(例えば、走査RF/DC四重極として、線形イオントラップとして、またはRF専用イオンガイドとして)動作させられることができる。Q3 114を通した処理または伝送に続き、イオンは、検出器118の中に出口レンズ115を通して伝送されることができる。検出器118は、次いで、本明細書に説明されるシステム、デバイス、および方法に照らして、当業者に公知の様式で動作させられることができる。当業者によって理解されるであろうように、本明細書の教示に従って修正された任意の公知の検出器が、イオンを検出するために使用されることができる。
【0052】
便利のために、質量分析器110、114および衝突セル112は、細長いロッド組を有する(例えば、4つのロッドを有する)四重極であるように、本明細書に説明されるが、当業者は、これらの要素が他の好適な構成を有することができることを理解するはずである。1つ以上の質量分析器110、114が、全て非限定的例としてであるが、トリプル四重極、線形イオントラップ、四重極飛行時間、オービトラップ、または他のフーリエ変換質量分光計のいずれかであることができることも理解されたい。例えば、トリプルTOF(登録商標) 6600+質量分光計システムを用いて取得される
図1および
図5-8に描写される例示的データを参照して議論されるように、
図3のQ3は、飛行時間質量分析器と置換され得る。
【0053】
図4A-Cは、
図3のイオンガイド106を追加の詳細において描写する。
図4Aに示されるように、入口開口31を通して、第1の真空チャンバ121に入る、イオン源104によって発生させられるイオン26は、一般に、米国特許出願第11/315,788号(米国特許第7,259,371号)(その教示全体が、参照することによって本明細書に説明される)に詳細に説明されるように、超音速自由噴流膨張34と称される、ガスの超音速流動によって同伴され得る。第1の真空チャンバ121は、入口開口31の下流に位置する、出口開口32を備えていることができる。イオンガイド106は、入口開口31と出口開口32との間に位置付けられる。出口開口32は、追加のイオンガイドまたは質量分析器を格納し得る次または第2の真空チャンバ122から第1の真空チャンバ121を分離するチャンバ間開口であることができる。
【0054】
第1の真空チャンバ121内の圧力(P
1)は、ポンプ42によって、維持されることができ、電力供給源195は、本明細書のいずれかに議論されるように、イオンガイド106の種々の構成要素に接続され、イオン30の少なくとも一部を半径方向に閉じ込めること、集束させることを提供し、イオン30の少なくとも一部の電荷制御を提供することができる。
図4Cに最良に示されるように、イオンガイド106は、所定の断面を伴う四重極ロッド106a-dの組であることができ、イオンガイド106の軸方向長に沿って延び内部容積37を画定する参照文字D(また、
図4Aに示される)によって示されるような直径を伴う内接円形によって特徴付けられる。イオン26は、概して、脱溶媒和を実施し、望ましくない微粒子が真空チャンバ121に入ることを遮断するために、当技術分野において公知のオリフィス-カーテンガス領域を最初に通過することができるが、明確性の目的のために、それは、
図3-4に示されない。四重極ロッド組106を形成する、ロッド106a-dの各々は、RF電力供給源に結合されることができ、中心軸の対向側のロッドは、一緒にロッド対を形成し、実質的に同一のRF信号が印加される。すなわち、ロッド対106a、cは、第1のRF電力供給源に結合されることができ、第1のRF電力供給源は、第1の周波数および第1の位相において、第1のRF電圧を第1の対のロッドに提供する。他方では、ロッド対106b、dは、第2のRF電力供給源に結合されることができ、第2のRF電力供給源は、第2の周波数(第1の周波数と同じであることができる)であるが第1の対のロッド106a、cに印加されるRF信号と位相が反対である第2のRF電圧を提供する。イオンガイド106のロッド106a-dは、概して、本明細書では、四重極(例えば、4つのロッド)と称されるが、複数の細長いロッドは、任意の他の好適な多極構成、例えば、六重極、八重極等であることができることを理解されたい。
【0055】
イオン26の少なくとも一部が、入口および出口開口31と32との間で、半径方向に閉じ込められ、集束させられ、伝送され得る方法を理解することに役立つために、ここで、
図4Bが参照される。名目上の高圧P
0領域(例えば、
図3のイオン化チャンバ14)から有限背景圧力P
1の領域121の中へのガスの断熱膨張は、超音速自由ガス噴流34の非制限膨張(超音速自由噴流膨張としても知られる)を形成する。入口開口31は、オリフィスまたはノズルを通したガスの膨張が、局所的音速に対する流速の比率に基づいて、2つの異なる領域に分割され得る場所であり得る。高圧P
0領域では、オリフィスまたはノズルの近傍の流速は、局所的音速より低い。この領域では、流動は、亜音速と見なされ得る。ガスが、入口開口31から背景圧力P
1の中に膨張するにつれて、流速は、増加する一方、局所的音速は、減少する。流速が音速に等しい境界は、音速表面と呼ばれる。この領域は、超音速領域、より一般に、超音速自由噴流膨張と称される。開口の形状は、音速表面の形状に影響を及ぼす。開口31が、薄いプレートとして画定され得るとき、音速表面は、P
1圧力領域に向かって外に曲げられ得る。収束-発散ダクトを慣習的に備えている理想的に成形されるノズルの使用は、平坦であり、ノズルの出口にある音速表面を生じさせることができる。収束部分はまた、面取り部表面28によって好都合に画定されることができる一方、第1の真空チャンバ121の容積は、発散部分を画定することができる。
【0056】
収束-発散ダクトの最小エリア場所は、多くの場合、スロート29と称される。最小エリアまたはスロート29の直径は、
図4B上で参照文字D
0を使用して示される。スロート29を通過するガスの速度は、直径D
0を通したガスの絶対圧力比が、0.528以下のとき、「塞がれた(choked)」または「限定された」状態になり、局所的音速を達成し、音速表面を生じさせる。超音速自由噴流34において、ガスの密度は、単調に減少し、高圧P
0領域からのガスのエンタルピーは、方向性流動(directed flow)に変換される。ガス動態温度は、降下し、流速は、局所的音速のそれを超える(故に、用語「超音速膨張」)。
【0057】
図4Bに示されるように、膨張は、同心バレル衝撃波46を備え、Machディスク48として知られる、垂直衝撃波によって終端されることができる。イオン26が、入口開口31を通して、第1の真空チャンバ121に入るにつれて、それらは、超音速自由噴流34内に同伴され、バレル衝撃波46の構造は、その中にガスおよびイオンが膨張する、領域を画定するので、事実上、入口開口31を通過するイオン26の全ては、バレル衝撃波46の領域に閉じ込められる。概して、Machディスク48の下流のガスは、再膨張し、一次バレル衝撃波46および一次Machディスク48と比較して、あまり明確に定義されない、一連の1つ以上の後続バレル衝撃波およびMachディスクを形成し得ることが理解される。しかしながら、後続バレル衝撃波およびMachディスク内に閉じ込められたイオン26の密度は、一次バレル衝撃波46および一次Machディスク48内に同伴されたイオン26と比較して、対応して、減少させられ得る。
【0058】
超音速自由噴流膨張34は、概して、典型的に、
図4Bに示されるように、最広部品に位置する、バレル衝撃波直径D
bと、入口開口31から(より精密に、音速表面を生じさせる入口開口31のスロート29から)測定されるようなMachディスク48の下流位置X
mとによって特徴付けられることができる。D
bおよびX
m寸法は、例えば、論文Ashkenas,H,.and Sherman,F.S,.ni deLeeuw,.J H,.Editor of Rarefied Gas Dynamics,Fourth Symposium IV,volume 2,Academic Press,New York,1966,p.84によって説明されるように、入口開口のサイズ(すなわち、直径D
0)、イオン源P
0における圧力、および真空チャンバ121内の圧力P
1から計算されることができ、
【数1】
【数2】
式中、P
0は、上で説明されるように、入口開口31の上流のイオン源領域14の周囲の圧力であり、P
1は、開口31の下流の圧力である。例えば、入口開口31の直径が約0.6mmであり、下流真空チャンバ121内の圧力が約2.6Torrであるように好適な圧送速度を伴い、P
0が約760Torr(大気)である場合、式(1)から、バレル衝撃波D
bの所定の直径は、4.2mmであり、Machディスク48は、式(2)から計算されるように、入口開口31のスロート29の約7mm下流に位置する。
【0059】
入口開口31のスロート29の下流で膨張する超音速自由噴流膨張34およびバレル衝撃波構造46は、イオン26を移送し、イオン26がイオンガイド106の容積37内に十分に存在するまで、それらの初期膨張を閉じ込める効果的方法であり得る。ガスおよびイオン26が全て、バレル衝撃波46内およびその周囲の超音速自由噴流34の領域に閉じ込められるという事実は、イオンガイド106が自由噴流膨張34全体またはほぼ全体を受け取るように設計される場合、イオン26の大きい割合が、最初に、容積37内に閉じ込められ得ることを意味する。加えて、イオンガイド106は、Machディスク48がイオンガイド106の容積37内にあり得るような場所に位置付けられることができる。イオンガイド106を入口開口31の下流に、かつ自由噴流膨張34の直径Dbの全てを本質的に含む位置に位置決めすることによって、より大きい入口開口31が、使用されることができ、したがって、より高い真空チャンバ121圧力P1が、イオン26を開口31と32との間に半径方向に閉じ込め、集束させることにおいて高効率を維持しながら、使用され、それによって、第2の真空チャンバ122の中へより多くのイオンを可能にする。
【0060】
バレル衝撃波46の直径Dbが、約4.2mmであり、入口開口31のスロートから測定されるMachディスク48の位置Xmが、約7mmである上で説明される例では、所定のイオンガイド106の断面(この事例では、直径Dの内接円)は、超音速自由ガス噴流34内の閉じ込められたイオン26の全てまたは本質的に全てがイオンガイド106の容積37内に含まれるために、約4mmであることができる。7mmを上回るイオンガイド106のための適切な長さが、効果的RFイオン半径方向閉じ込めが達成され得るように、選定されることができる。これは、真空圧送容量を増やす必要性、したがって、より大きいポンプに関連付けられたコストを伴わずに、最大感度をもたらし得る。
【0061】
式(1)および(2)によると、イオンガイド106を含む真空チャンバ121内の圧力P1は、超音速自由噴流34構造の特性評価に寄与することができる。圧力P1が、例えば、低すぎる場合、バレル衝撃波46の直径Dbは、大きく、イオンガイド106は、超音速自由噴流膨張34によって同伴されたイオン26を閉じ込めることができない。故に、イオンガイド106のロッド106a-dに印加されるRF電圧は、イオン26がイオンガイド106の内部容積37の中に伝送されるので、従来、そのようなイオン喪失を防止するように十分に高く設定される。400m/z以上のイオンに関して、例えば、約300Vp-pのRF電圧を従来の上流イオンガイドに印加し、封じ込め、したがって、実質的に100%イオン伝送効率を確実にすることが一般的である。
【0062】
しかしながら、上で議論されるように、従来のシステムは、非意図的に、下流質量分析器に到着することに先立って、イオンに電荷低減を受けさせ得る。しかしながら、本出願人は、イオンガイド106のロッド106a-dに印加されるRF電圧の振幅を減少させることによって、多価種の電荷低減の可能性を減少させることが可能であることを発見した。例えば、ここで
図5A-Cを参照すると、20個のチミン塩基(PolyT-20)を備えている20-ヌクレオチド配列のサンプルが、Q3が飛行時間質量分析器によって置換される実質的に
図3に示されるようなものであるフロントエンドイオンガイドQjetを有するトリプルTOF(登録商標)6600+質量分光計システムを利用して、イオン化およびMS検出を受けさせられた。
図5A-Cの各々では、上側スペクトルは、-8電荷状態においてイオン化されたPolyT-20の検出されたm/z(約751.6m/z)を表す一方、下側スペクトルは、-8電荷状態におけるイオン化された分子の天然同位体存在度に従って予期される理論的スペクトルを表す。特に、
図5Aを参照すると、スペクトルは、フロントエンドイオンガイドQjetに印加されるRF電圧の振幅が275V
p-pに設定された状態で発生させられた。検出された同位体分布の左方m/zシフトが観察され、予期しないm/zにおけるイオンの存在も明白に観察される。
図2A-Cを参照して上で議論されるように、本出願人は、そのようなシフトが、質量分析器へのその伝送中、-8電荷状態に電荷が減少したより高い電荷状態イオンの検出から生じると仮定した。
図5Bは同様に、RF振幅225V
p-pがフロントエンドイオンガイドQjetに印加された状態の検出されたスペクトル内の左方シフトを描写するが、シフトは、
図5Aのそれほど実質的ではない。最後に、
図5Cは、RF振幅が180V
p-pまで減らされたときの-8電荷状態のスペクトルを描写する。示されるように、
図5Cにおける検出されたスペクトルは、予期される理論的スペクトルとほぼ同じである。すなわち、
図5A-Cは、フロントエンドイオンガイドに印加されるRF振幅を減少させることが、電子脱離を通した電荷低減の可能性を減らすために有効であり得ることを実証する。
【0063】
逆に言えば、本教示に照らして、
図5A-Cに例示されるように、フロントエンドイオンガイドに印加されるRF電圧の振幅を増大させることが、電荷が減少したイオンの形成の可能性を増やすために有効であり得ることを理解されたい。電子脱離は、例えば、同位体分布に収差を引き起こすため、MSにおいて好ましくないこともあるが、本出願人は、ラジカル電荷低減種の形成が、それにもかかわらず、MS/MS分析に利益をもたらし得ることを見出した。非限定的例として、本教示は、高圧領域内に形成されるラジカルイオンが、下流衝突セル内で解離するために、減少したエネルギーを要求し得、および/または、高圧領域内に形成されるラジカルイオンが、断片化がラジカルイオン内のより多いまたは異なる部位において生じることを引き起こし得ることを提供する。ここで
図6を参照すると、2つの質量スペクトルが、描写される。上側パネルは、オリゴヌクレオチド配列(mG*mG*rC*rA*rU*rG*rA*rG*rC*rU*mU*mC*)をイオン化し、イオンを195V
p-pで動作するフロントエンドイオンガイドを通して伝送し、Q1内の選択された-5前駆体(約807m/z)をq2内で15eVにおける衝突誘発解離を受けさせることによって発生させられるスペクトルを表す。同じプロセスは、フロントエンドイオンガイドに印加されるRF電圧の振幅が290V
p-pまで増やされることを除き、下側パネルのスペクトルを発生させるためにも実施される。上側および下側パネルを比較すると、当業者は、イオンガイドを増大したRF振幅において動作させると、非常により多くの断片イオンが生じさせられることを理解するであろう。実際、実質的にいかなる断片も、上側パネルに示されない。
【0064】
図7も、実質的に
図6を参照して上で議論されるような同じオリゴヌクレオチド配列から発生させられる、2つのスペクトルを描写する。しかしながら、
図7の上側パネルは、解離エネルギーが25eVまで増やされ、それが、195V
p-pのRF振幅を印加されたフロントエンドイオンガイドを通して伝送される-5電荷状態イオンから断片イオンを発生させるために十分であったという点で、
図6のそれと異なる。
図7の下側パネルに示されるように、フロントエンドイオンガイド内の増加したRF振幅(すなわち、290V
p-p)を受けさせられた-5電荷状態イオンの断片化を達成するために、より少ないエネルギー(すなわち、15eV)が印加されただけではなく、より多数の多価断片が、
図7の上側パネルのそれに対して増加したRF振幅を受けるイオンから生じさせられた。MS/MSが、多価イオンに対して実施されたので、発生させられる断片イオンは、-1から、最大で前駆体イオンの電荷状態(この例示的データでは、-5)に及ぶ電荷を有するであろう。CIDが、
図7の上側パネルにおけるように、低値(195V
p-p)におけるRFを用いて実施されるとき、断片イオンの大部分は、1価であり、スペクトルは、より高い電荷状態のいずれも有しないであろう。しかしながら、MS/MSが、290V
p-pに設定されるRFを用いて実施されると、多数の断片イオンは、選択された前駆体イオンと同程度に高い電荷(この例示的データでは、-5)を運ぶであろう。
【0065】
図8A(
図7の上側パネルに対応する)および
図8B(下側パネルに対応する)に示されるように、これらの断片のさらなる分析は、-5電荷状態イオンも、より完全な配列情報を前提として、電荷低減を受けることを実証する。CIDが、
図7および
図8Aの上側パネルにおけるように、195V
p-pに設定されるRFを用いて、-5電荷状態イオンに対して実施されると、発生させられる断片イオンの大部分は、1価であり、主として、b-、w-、およびy-断片イオンから、限定された配列確認を提供する(水分損失を含む)。しかしながら、
図7および
図8Bの下側パネルにおけるように、290V
p-pにおけるRFを用いて発生させられる-5電荷状態イオンのCIDスペクトルに関して、より高い配列包括度が、両方がいくつかの電荷状態において検出されるw-イオンおよびその相補的d-イオンの形成とともに取得され、したがって、信頼度を増やす。
【0066】
上記に照らして、
図1のシステム100は、例えば、下流質量分析器110、114によって実施されるべきイオンの分析に応じて、2つの異なる動作モードで交互に動作し、フロントエンド高圧イオンガイド106を通して伝送される所与の質量のイオンの電荷低減の可能性を制御することができることを理解されたい。例として、第1の動作モードにおいて、コントローラ193は、(例えば、自動的に、またはユーザの指示下で)イオンからの電子脱離の可能性を減らし、それによって、イオン源104によって発生させられるイオンの同位体分布をより正確に維持し、特定の同位体の相対的量および質量のより正確な決定を可能にする(例えば、MSにおけるように)ように、RF電圧信号を複数のロッド106a-dに提供するように電力供給源195を構成することができる。代替として、第2の動作モードにおいて、コントローラ193は、第1の動作モードにおけるRF電圧信号より高い異なるRF電圧信号をロッド106a-dに提供し、それによって、イオンからの電子脱離の可能性を増やすように、電力供給源195を構成することができ、それは、MS/MSを実施するとき、
図6-8を参照して上で議論されるように、電荷が減少したイオンの断片化を改良し得る。本教示の種々の側面によると、第1の動作モードにおいて、イオンガイド106に印加されるRF信号の振幅は、約200V
p-p未満であり、第2の動作モードにおいて、約250V
p-p上回ることができる。ある側面では、第1の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、210V
p-pであり得、第2の動作モードにおけるRF電圧信号の最大値は、約300V
p-pであり得る。
【0067】
本教示の種々の側面によると、本明細書に説明される例示的イオンガイドは、質量分光計システムの様々なフロントエンド場所に配置されることができることも理解されたい。例えば、特に、
図3-4に関して説明されるようなイオンガイド106は、イオン化チャンバ14の下流の第1のイオンガイドであるように描写されるが、本教示は、イオン化チャンバと、質量分析器が配置された高真空チャンバとの間の中間圧力に維持される様々な公知または以降開発されるイオンガイドに適用されることができることを理解されたい。非限定的例として、イオンガイドは、Qjet(登録商標)イオンガイドの従来の役割において、二重Qjetの1組のロッドとして、またはQjet(登録商標)イオンガイドとQ0との間の中間デバイス(例えば、典型的Qjet(登録商標)イオンガイドと典型的Q0集束イオンガイドとの間の圧力において、数百mTorrs内の圧力で動作させられる)としての役割を果たすことができる。
【0068】
図9は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム900を図示するブロック図である。コンピュータシステム900は、情報を通信するためのバス922または他の通信機構と、情報を処理するためにバス922と結合されるプロセッサ920とを含む。コンピュータシステム900は、プロセッサ920によって実行されるべき命令を記憶するために、バス922に結合されたランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ924も含む。メモリ924は、プロセッサ920によって実行されるべき命令の実行中、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム900は、プロセッサ920のための静的情報および命令を記憶するために、バス922に結合された読み取り専用メモリ(ROM)926または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光学ディスク等の記憶デバイス928は、情報および命令を記憶するために提供され、バス922に結合される。
【0069】
コンピュータシステム900は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス922を介して、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ930に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス932は、情報およびコマンド選択をプロセッサ920に通信するために、バス922に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ920に通信し、ディスプレイ930上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御934である。この入力デバイスは、典型的に、デバイスが平面において位置を規定することを可能にする2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)における2自由度を有する。
【0070】
コンピュータシステム900は、本教示を実施することができる。本教示のある実装と一貫して、結果は、メモリ924内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ920が実行することに応答して、コンピュータシステム900によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス928等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体から、メモリ924に読み取られ得る。メモリ924内に含まれる命令のシーケンスの実行は、本明細書に説明されるプロセスをプロセッサ920に実施させる。代替として、有線回路網が、本教示を実装するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路網およびソフトウェアの任意の特定の組み合わせに限定されない。例えば、本教示は、種々の実施形態による約100mTorrを上回る動作圧力において、フロントエンドイオンガイドを動作させる方法を実施するために、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施され得る。
【0071】
種々の実施形態では、コンピュータシステム900は、ネットワークを横断して、コンピュータシステム900のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続され、ネットワーク化システムを形成することができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公衆ネットワークを含むことができる。ネットワーク化システムでは、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、他のコンピュータシステムにサービス提供することができる。データを記憶およびサービス提供する1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオでは、サーバまたはクラウドと称され得る。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。サーバまたはクラウドに、およびそれからデータを送信および受信する他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称され得る。
【0072】
本明細書に使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、実行のために命令をプロセッサ920に提供することに関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む、多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス928等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ924等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス922を備えているワイヤを含む、同軸ケーブル、銅ワイヤ、および光ファイバを含む。
【0073】
コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH(登録商標)-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはそれからコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0074】
コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の形態は、実行のために、1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ920に搬送することに関わり得る。例えば、命令は、最初は、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリ内にロードし、モデムを使用して、電話回線を経由して、命令を送信することができる。コンピュータシステム900にローカルのモデムは、データを電話回線上で受信し、赤外線送信機を使用し、データを赤外線信号に変換することができる。バス922に結合された赤外線検出器は、赤外線信号で搬送されるデータを受信し、データをバス922上に設置することができる。バス922は、データをメモリ924に搬送し、それから、プロセッサ920は、命令を読み出し、実行する。メモリ924によって受信された命令は、随意に、プロセッサ920による実行の前または後のいずれかで、記憶デバイス928上に記憶され得る。
【0075】
本教示の種々の実装の本明細書における説明は、例証および説明の目的のために提示されている。これは、網羅的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能であり、または本教示の実践から入手され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独において、実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向両方のプログラミングシステムを用いて実装され得る。
【0076】
本明細書で使用される見出しは、編成目的のみのためのものであり、限定として解釈されるべきではない。本出願人の教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本出願人の教示がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替、修正等を包含する。
【国際調査報告】