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特表2024-510671腫瘍により誘導される再分極に対して抵抗性を有するヒトマクロファージ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】腫瘍により誘導される再分極に対して抵抗性を有するヒトマクロファージ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240301BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240301BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20240301BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240301BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240301BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C12N5/0786
C12N5/0735
A61P35/00
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557732
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2022056819
(87)【国際公開番号】W WO2022194930
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】21163800.2
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21190989.0
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516355139
【氏名又は名称】テクニスチェ ユニベルシタト ドレスデン
(71)【出願人】
【識別番号】505074285
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ レチャーチェ シャーティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】513210666
【氏名又は名称】ユニベルシテ デクス マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D‘AIX-MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】523353502
【氏名又は名称】インセルム(アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジーヴェケ
(72)【発明者】
【氏名】クララ ヤナ ルイ エレンドナー
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ファブレット
(72)【発明者】
【氏名】サンドリン サラジン
(72)【発明者】
【氏名】ラマー コッズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、がん療法での使用のためのヒトマクロファージであって、染色体の遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含み、そして、腫瘍により誘導されるリプログラミングに抵抗性を有する、及び/又は抗腫瘍活性を示す、前記マクロファージに関する。本発明のヒトマクロファージは、M2極性化を促進する環境で、例えばM-CSF及び/又はIL4及び/又はIL13の存在下で培養された後ですら、M1マクロファージの典型的マーカー、例えばMHCクラスIIタンパク質の存在を実証する。本発明は又、本発明のヒトマクロファージのコレクション、医薬におけるそれらの使用に関し、特にがん療法、好ましい例として固形腫瘍の治療等でのそれらの使用に関する。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する、がん治療での使用のための、前記マクロファージ。
【請求項2】
50 ng/ml M-CSFへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、請求項1に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項3】
M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍高いことであり、該少なくとも1つのmRNAは、HLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DPA1、HLA-DQA1、RXFP2、CD74、CD38、CD2、IL18、及びIL23Aからなるリストから選ばれる、請求項2に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項4】
M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現と比べて、少なくとも10倍低いことであり、該少なくとも1つのmRNAは、RNASE1、CD28、LYVE1、FCGBP、F13A1、QPCT、CCL7、及びRNF128からなるリストから選ばれる、請求項2又は3に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項5】
前記マクロファージは、前記表面マーカーHLA-DRA及び/又はHLA-DPA1及び/又はHLA-DQA1及び/又はCD74及び/又はCD2に陽性である、請求項1~4いずれか1項に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項6】
前記マクロファージは、前記表面マーカーCD28及び/又はLYVE1及び/又はSTAB1及び/又はLILRB5に陰性である、請求項1~5いずれか1項に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項7】
前記変異は欠失であり、前記遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択される遺伝子である、請求項1~6いずれか1項に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項8】
両アレル性欠失を含む、染色体上に位置する前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、請求項1~7いずれか1項に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項9】
両アレル性欠失を含む、染色体上に位置する前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、請求項1~7いずれか1項に記載の使用のためのヒトマクロファージ。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションであって、該ヒトマクロファージの数は少なくとも1,000,000個である、がん治療での使用のための、前記ヒトマクロファージのコレクション。
【請求項11】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞であって、該遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択され、かつ、該変異は欠失である、前記ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
【請求項12】
MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、請求項11に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
【請求項13】
MAF及びMAFBが両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、請求項12に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
マクロファージは可塑的な細胞であり、その表現型は、マクロファージが遭遇する環境の刺激に依存する。マクロファージが細菌成分又はIFNγ等の炎症性サイトカインに曝された場合、マクロファージはその殺菌性及び殺腫瘍性を増強し、高レベルの炎症誘発性サイトカインを産生する。この活性化状態は、M1又は古典的活性化マクロファージと呼ばれている(O'Shea及びMurrayの文献、2008;Gordonの文献、2003)。対照的に、マクロファージがIL-13、IL-4、又はM-CSF等の免疫抑制性サイトカインで刺激されると、典型的にはIL-10の産生を含み、組織のリモデリング及び修復、並びに血管新生を促進する抗炎症性表現型を示す(Murray及びWynnの文献、2011;Mantovaniらの文献、2002)。この活性化状態は、M2又はオルタナティブ活性化マクロファージと呼ばれている。
【0002】
興味深いことには、マクロファージは腫瘍微小環境内で最も豊富な細胞である。臨床的証拠並びに実験的証拠から、腫瘍関連マクロファージ(TAM)は腫瘍の進行及び腫瘍悪性化を促進し(Mantovaniらの文献、1992;Condeelis及びPollardの文献、2006;Mantovaniらの文献、2006)、その存在は低い生存率と相関している(Qian及びPollardの文献、2010)。実際、TAMは腫瘍の血管新生、腫瘍の細胞浸潤及び転移を促進し、抗腫瘍免疫反応を抑制することによって、がんの発達を支援している(Condeelis及びPollardの文献、2006;Pollardの文献、2004)。幾つかのがん及びその細胞浸潤は、サイトカインカクテルをその環境に提供してM2マクロファージ極性化をもたらすことが報告されている(Nevalaらの文献、2009)。従って、TAMは明らかにM2表現型に類似する(Balkwillらの文献、2005)。
【0003】
Bartらの文献、2021では、様々な障害におけるマクロファージリプログラミングへのアプローチを再調査し、ヒト疾患におけるマクロファージを標的とするアプローチの潜在的な意味合いと困難性について論じている。特に、低分子化合物、及びサイトカイン、ナノベクター、抗体、核酸、又はウイルスベクターにより、腫瘍関連マクロファージをM2様表現型ではないようにリプログラムする様々な試みについて論じている。
【0004】
投与前にM1表現型へ極性化させたマクロファージが、がん等の疾患治療のために試験されてきた。しかし、M1表現型は安定ではなく、投与されたマクロファージは腫瘍微小環境によりM2様表現型へ再分極される可能性がある。
【0005】
従って、腫瘍により誘導される再分極に対して抵抗性を有するヒトマクロファージは、細胞治療のために非常に望ましい。
【0006】
Klichinskyらの文献、2020は、CAR(CAR=キメラ抗原受容体)での遺伝子操作ヒトマクロファージを用いて、腫瘍に対するヒトマクロファージの貪食活性を誘導した。彼らは、キメラ抗原受容体を発現するアデノウイルスベクターを導入すると、ヒトマクロファージを炎症誘発性(M1)様表現型とすることを観察した。CAR改変マクロファージは抗腫瘍活性を示すことが報告された。この活性が、遺伝子操作マクロファージのキメラ抗原受容体によって又は炎症誘発性表現型によって、どの程度まで媒介されたかは不明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アデノウイルスDNAは、形質導入された細胞のゲノム内に組み込まれず、細胞分裂中に複製されない。組織マクロファージは、特定条件下ではインビボで自己複製できることが知られているので、アデノウイルスベクターを担持するヒトマクロファージの炎症誘発性表現型は、その子孫では失われ、従って経時的に失われることが予測される。その上、形質導入された細胞中にウイルスベクター配列が存在すると、その細胞を細胞治療に使用する場合、複雑な制御問題及び安全性問題を引き起こす。
【0008】
本発明は、そのゲノムDNAの特異的変異を原因としたM2表現型への再分極に対して抵抗性を有するマクロファージを提供することにより、従来技術の課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
本発明は、染色体の遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージであって、腫瘍により誘導されるリプログラミングに抵抗性を有する、及び/又は抗腫瘍活性を示す、前記マクロファージに関する。本発明のヒトマクロファージは、M2極性化を促進する環境で、例えばM-CSF及び/又はIL4及び/又はIL13の存在下で培養された後ですら、M1マクロファージの典型的マーカー、例えばMHCクラスIIタンパク質の存在を実証する。
【0010】
好ましい変異は、M-CSFシグナル伝達に関与する遺伝子、例えば転写因子(複数可)MAF及び/又はMAFBをコードする遺伝子、の(一部の)欠失である。
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、染色体の遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むマクロファージのコレクションは、たとえCARのような腫瘍細胞を標的とする分子が存在しなくても、インビボで、確立された腫瘍の退縮を誘導できることを見出した。示された表現型特徴は、これらのマクロファージが腫瘍により誘導される再分極に対しての不応性である。本発明のヒトマクロファージは、M1極性化を示す1以上のマーカー(複数可)、例えばマクロファージの表面上のMHCクラスIIタンパク質の(増加した)存在、並びに/又は、MHCクラスII遺伝子の(上昇した)発現、並びに/又は、(上昇した)RXFP遺伝子発現、並びに/又は、(上昇した)GBP1遺伝子発現、並びに/又は、(増加した)IL18分泌、並びに/又は、(増加した)IL23分泌、並びに/又は(増加した)IL15分泌、並びに/又は、CD28及び/若しくはLYVE1等のM2表面マーカーの不存在、並びに/又は、RNF128遺伝子発現の不存在を、M2極性化を促進する環境の存在下ですら、示すことができる。
【0012】
従って、本発明は又、本発明のヒトマクロファージのコレクション、医薬におけるそれらの使用に関し、特にがん療法、好ましい例として固形腫瘍の治療等でのそれらの使用に関する。
【0013】
正常ヒト染色体上に位置する遺伝子における特定の機能喪失変異のおかげで、腫瘍微小環境による腫瘍関連マクロファージへ転換されることへの抵抗性を有するヒトマクロファージを特定することは、腫瘍形成促進性の腫瘍関連マクロファージに転換されないマクロファージが望まれている、固形腫瘍療法等に限定されない、全てのマクロファージベースの細胞治療にとって有意義であろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
(図面)
図1図1は、Maf-DKOマクロファージの養子細胞移入は、インビボで腫瘍増殖を抑制することを示す。(a)実験手順の代表的スキーム。(b)第27日に得られた原発性腫瘍からの生物発光(ルシフェラーゼ活性)の定量化。(c)腹腔内のID8腫瘍細胞の定量化。(**:p≦0.007)。UN:未処置マウス;WT:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;BM-DKO:骨髄由来の、MafB及びc-Maf二重欠損マクロファージで処置したマウス。
図2図2は、Maf‐DKOマクロファージの養子細胞移入が、インビボで、確立された腫瘍成長を逆転させたことを示す。(a)実験手順の代表的スキーム。(b)第27日に得られた原発性腫瘍からの生物発光(ルシフェラーゼ活性)の定量化。(c) ID8腫瘍細胞のゲーティング戦略及び定量化。(*:p≦0.04)。UN:未処置マウス;WT-BMDM:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;BM-DKO:骨髄由来の、MafB及びc-Maf二重欠損マクロファージで処置したマウス。
図3図3は、腹水中の細胞内容物を示す。(a)腫瘍担持マウスの腹膜細胞由来のCD8 T細胞及びNK細胞に対するゲーティング戦略。(b)発がんイニシエーション後第27日の、未処置マウス(点線、小丸)、WT-BMDM処置マウス(実線、三角形)、及びMaf-DKO処置マウス(破線、四角形)の腹腔内の腹膜細胞によるCD8α発現を示す柱状図。(c)腹膜マクロファージのゲーティング戦略。(d)腹膜マクロファージにおけるMHCクラスII発現。(e)腹膜マクロファージによるMHCII発現の平均蛍光強度。(**:p≦0.007)。UN:未処置マウス;WT:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;Maf-DKO:MafB及びc-Maf二重欠損マクロファージで処置したマウス。
図4図4は、Maf-DKO処置したマウスから選別されたマクロファージは、インビボで、M1活性化されたマクロファージに似ていることを示す。(a)NOS2、(b)C2TA、(c)IL-6、(d)IL-12、及び(e)IL-10のリアルタイムPCR分析のために、腫瘍担持マウスの選別されたCD11b+腹膜細胞から、全mRNAを単離した。(*:p≦0.04)。データはn=5の平均値で示した。UN:未処置マウス;WT:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;Maf-DKO:MafB及びc-Mafダブルダブルノックアウトマクロファージで処置したマウス。
図5図5は、Maf-DKOマクロファージは、WTマクロファージよりも、M1刺激に対して感受性が高く、M2刺激に対して高い抵抗性を示す。全mRNAを、(a)IL-6、(b)IL-10、(c)C2TA、(d)アルギナーゼ、及び(e)NOS2のリアルタイムPCR分析のために、培養したマクロファージから単離し、化合物A、B、C、及びDで刺激した。Maf-DKOマクロファージは水玉模様の縦棒で示し、WTマクロファージは横縞模様の縦棒で示す。
図6図6は、Maf-DKOマクロファージが、インビトロで、腫瘍によって再教育されないことを示す。細胞上清を採取し、LPSでの刺激に対する(a)IL-6及び(b)TNFαの産生を、ID8腫瘍細胞上清の不存在下(黒色棒)又は存在下(格子模様の棒)において分析した。SNは上清を表す。
図7図7は、Maf‐DKOマクロファージが、インビボで、確立されたメラノーマ増殖を逆転させたことを示す。(C57Bl6マウスでのB16メラノーマ細胞の転移実験)(a)実験手順の代表的スキーム。マクロファージを腫瘍発生の7日後に注射した。(b)肺を摘出し、写真を撮影した。(c)肺表面の拡大鏡で視認可能な転移性コロニーの数をカウントし、中央値を分析に使用した。結果は各グループのマウス5匹から得た。(*:p≦0.04;**:p≦0.007;***:p≦0.0005)。UN:未処置マウス;WT:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;Maf‐DKO:MAFB及びc-Maf二重欠損マクロファージで処置したマウス。
図8図8は、MAF DKO細胞が、B16メラノーマに対する保護において、他の白血球も又動員することを示す。(Rag2γcノックアウトマウスでのB16メラノーマ細胞の転移実験)(a、b)実験手順の代表的スキーム。(a)ではマウスを、腫瘍イニシエーション直後にマクロファージ処置し(結果は8c及び8e参照)、(b)ではマウスに、腫瘍確立後にマクロファージを注射した(結果は8d及び8f参照)。(c、d)肝臓を摘出し、写真を撮影し(写真は、代表的な肝臓で撮影し、生物発光とは異なる白色光である)、生物発光も又記録した。(e、f)(a)及び(b)で処置したマウスの表面の拡大鏡で視認可能な転移性コロニーの数をカウントし、中央値を分析に使用した。結果は各グループのマウス5匹から得た。(*:p≦0.04)。B16:未処置マウス;W:野生型由来の骨髄マクロファージで処置したマウス;Maf‐DKO:DKOマクロファージで処置したマウス。
図9図9は、ドキシサイクリン誘導でCas9を発現するヒトiPS細胞株において、CRISPR/Cas9を介してMAF及びMAFBを欠損させるワークフローを示す。工程1:MAFを標的とするsgRNAを発現するベクターでのリポフェクタミン・トランスフェクションを行う。工程2:ドキシサイクリン(Dox)処置によりCas9を誘導する。工程3:細胞選別によりレポーター陽性のsgRNA発現細胞を単離して、単一細胞コロニーを得る。工程4:MAF KOクローンを選択する。工程5:選択したMAF KO iPS細胞クローンを使用して、MAFBを標的とするsgRNAで工程1~4を繰り返して、MAFBを次にノックアトする。
【0015】
図10図10は、ヒトMAF及びMAFBの遺伝子構造であって、両方の遺伝子の5’及び3’UTRにおけるCRISPR/Cas9標的部位の位置、並びに、得られたインデルを示す。ヒトMAF遺伝子には、選択的スプライシングによって生成される短いアイソフォーム及び長いアイソフォームがあるが、長いアイソフォームの有意性は知られていない。我々は、MAF遺伝子のエクソン1をノックアウトした。ヒトMAFBは単一エクソン遺伝子である。各配列ブロックの最初の行は野生型遺伝子座を指し、次の行はCRISPR/Cas9編集によって生成されたインデルを指す。MAFでは1つのクローンのみが単離され(両方のアレルのインデルを示す)、MAFBでは、3つの単離されたクローンのインデルを示す(C1、C2、C3:クローン1、クローン2、クローン3)。配列ブロック中、開始コドン及び停止コドンは太字で表し、ゲノムの標的配列には下線を付した。プロトスペーサーの位置は、開始コドン又は終止コドン近くの黒実線として示す。
【0016】
図11図11(a)は、ヒトMAF/MAFB DKO iPS細胞の核型分析を示す。(b)は、ヒトMAF/MAFB DKO iPS細胞由来マクロファージの核型分析を示す。両方の発生段階のDKO細胞は正常な核型を示す。
図12図12は、ヒトMAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージと類似する機能性マクロファージであることを示す。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージをM-CSF及びGM-CSFで7日間培養した後、様々な機能アッセイを行った:ラテックスビーズの貪食、100 ng/ml LPSで一晩刺激後の活性酸素種(ROS)生成に関する染色、アクリジンオレンジでのリソソーム染色、Magic RedキットでのカテプシンB活性。
図13図13は、ヒト野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージが、M-CSF及びGM-CSFで7日間培養した後に主要マクロファージマーカーを発現することを示す。細胞を、DAPI陰性、CD45+/CD11b+である細胞についてプレゲートした。点線はFMO(蛍光マイナス1)対照であり、黒実線は染色された細胞を示す。野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージは、CD14(LPS結合)、CD33(骨髄特異的シアロアドヘシン分子)、CD64(高親和性Fc受容体結合IgG型抗体)を同程度に発現する。MAF-DKOは、CD206(マンノース受容体)を低レベルで発現した。野生型iPS細胞由来マクロファージとは対照的に、HLA-DRはMAF-DKOマクロファージ上で明確に検出可能である。
図14図14は、ヒトMAF-DKOマクロファージはMAF又はMAFBを発現しないことを示す。(14左図)野生型マクロファージ、MAFシングルKOマクロファージ、又はMAF-DKOマクロファージの3つのクローンから抽出されたRNAのRT-qPCR分析を示す。y軸は、対照条件である野生型(WT)に対して標準化した、表示した遺伝子(MAF黒色、MAFB白色)の相対的発現を示す。(14右図)野生型マクロファージ、MAFシングルKOマクロファージ、又はMAF-DKOマクロファージの3つのクローンから抽出されたタンパク質ライセートのウエスタンブロット分析を示す。WTは「野生型」、n.d.は「検出されず」、GRB2は「ロードした対照」を表す。
図15図15は、ヒト野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージのインビボ移植スキームを示す。同数の野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージ(投与あたり2×106~4×106)を、動物あたり1μg M-CSFと一緒に、週1回、4週の間、気管内移植した。最終移植から4週間後、動物を分析した。タイムライン上の点はそれぞれ1回の移植を示し、次の移植まで1週間の間隔を置いた。
図16図16は、ヒトMAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージと比べて、PAP表現型のレスキューの改善を示したことを示す。(a)BCAアッセイによって測定したBAL液中のタンパク質濃度。(b)ELISAによって測定したBAL液中のマウスサーファクタントプロテインD(mSPD)の濃度。(c)ELISAによって測定したBAL液中のヒトGM-CSFの濃度。
図17図17は、WTマクロファージ及びDKOマクロファージの間で差次的に発現された遺伝子の火山プロットを示す。iPS細胞由来マクロファージをM-CSF及びGM-CSFで7日間培養し、次に2時間のみM-CSFにシフトさせた。ディープシークエンシングによって特定した差次的に発現された遺伝子を示す。X軸は変化の程度を示し、Y軸は統計的有意性を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
(参照文献)
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書で使用される場合の「染色体」は、通常のヒト染色体46本の1本である。「染色体上に位置する遺伝子」は、染色体外にない遺伝子である。
【0019】
用語「遺伝子」は、RNAをコードする又は1以上のタンパク質若しくは酵素の全部若しくは一部を含む、アミノ酸の特定配列をコードするDNA配列を意味し、例えば制御性DNA配列、例えば遺伝子が発現する条件を決定するプロモーター配列を含むことも含まないこともある。「プロモーター」又は「プロモーター配列」は、1つの細胞内でRNAポリメラーゼに結合して、下流(3'方向)コード配列の転写を開始することのできるDNA調節領域である。構造遺伝子ではない幾つかの遺伝子は、DNAからRNAに転写されることもあるが、アミノ酸配列には翻訳されない。他の遺伝子は、構造遺伝子の制御因子として、又はDNA転写の制御因子として、機能することもある。特に、用語「遺伝子」は、タンパク質をコードするゲノム配列、即ち制御因子、プロモーター、イントロン及びエクソン配列を含む配列を意図してもよい。
【0020】
本発明の文脈において、用語「変異体」及び「変異」は、遺伝物質、即ちゲノムDNAにおける検出可能な変化を意味する。変異は、1以上のヌクレオチドの欠失、挿入、又は置換を含む。変異は、遺伝子のコード領域(即ちエクソン)内、イントロン内、又は遺伝子の制御領域(例えば、エンハンサー、応答エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、プロモーター)内で発生し得る。一般に、変異は、対象によって発現される核酸又はポリペプチドの配列を、対照集団内で発現される対応する核酸又はポリペプチドと比較することによって特定される。変異が遺伝子コード配列内にある場合、その変異は、遺伝子産物内の1のアミノ酸を別のアミノ酸に置換する「ミスセンス」変異でもよく、又はあるアミノ酸コドンを終止コドンに置換する「ナンセンス」変異でもよい。変異は又、エクソン-イントロンスプライシングのためのシグナルが生成され又は破壊されて、それによって構造が変化した遺伝子産物を生じるスプライシング部位で発生してもよい。本発明の文脈においての変異は、サイレントではなく、即ち、変異は、少なくともそのヌクレオチド配列(その遺伝子産物が機能性RNAである場合)若しくはアミノ酸配列(その遺伝子産物がタンパク質である場合)の変化をもたらし、その遺伝子産物を非機能化するか、又はRNAレベルでのその遺伝子産物の発現を少なくとも80%減少させる。好ましい変異は、例えば全遺伝子の欠損であって、遺伝子発現を消滅させる。
【0021】
本明細書で使用される場合、RNAレベルでのその遺伝子の発現が、対応する野生型における遺伝子発現と比べて、定量RT-PCRによる測定で少なくとも80%減少している場合に、遺伝子発現は「阻害されている」。好ましくはRNAレベルでの遺伝子の発現は、少なくとも90%、例えば少なくとも95%減少している。
【0022】
本明細書で使用される場合、その遺伝子の発現が、q-PCRによりRNAレベルで検出不能である場合に、遺伝子発現が「消滅している」。qPCRにおいて「発現」されたmRNAが検出可能レベルで存在すると、それは(a)S字形蛍光曲線を生じ、その曲線は(b)少なくとも38PCRサイクル以内、好ましくは少なくとも36PCRサイクル以内に平坦域に達し、そして、(c)予測長のPCR産物、即ちゲノムDNA由来ではなく未処置RNA中間体由来でもない、成熟mRNA由来のPCR産物に対応する長さのPCR産物、を生成するであろう。好ましくは、mRNAの発現は、qPCR実験を3回繰り返して、これら3つの基準により確認できる。
【0023】
本明細書で使用される場合の「変異誘発」は、それにより生物の遺伝情報を意図的に変化させて変異を生じさせる、実験プロセスである。本明細書における変異誘発の好ましい方法は、部位特異的エンドヌクレアーゼに基づく方法である。
【0024】
本明細書で使用される場合の「部位特異的エンドヌクレアーゼ」は、ポリヌクレオチド鎖内のリン酸ジエステル結合を、二本鎖DNA分子の中間(エンド)部分の非常に特異的なヌクレオチド配列でのみ切断する酵素であり、この配列は、ヒト標的細胞の特異的遺伝子操作を可能とするために、ヒトゲノム全体内で好ましくは一か所だけに生じる配列である。ヒト標的細胞における遺伝子操作に通常使用される部位特異的エンドヌクレアーゼの例は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びCRISPR/Cas9系である。
【0025】
本明細書で使用される場合の用語「発現」は、その文脈に応じて、ポリペプチド若しくはタンパク質の遺伝子発現、又は、例えばmiRNA若しくはlncRNA等のポリヌクレオチドの遺伝子発現を指し得る。ポリヌクレオチドの発現は、例えば、当業者に周知の方法を用いてRNA転写産物レベルの産生を測定することにより決定することができる。タンパク質又はポリペプチドの発現は、例えば、当業者に周知の方法を用いて、そのポリペプチドに特異的に結合する抗体(単数若しくは複数)を用いたイムノアッセイによって決定することができる。
【0026】
本明細書で使用される場合の「mRNAの発現」は、遺伝子発現の転写レベルに関する。
【0027】
本発明では、公知の方法を遺伝子発現等を検出するために使用できる。1つの細胞内又は細胞のコレクション内のmRNAレベルを定量的に検出する方法の例には、例えばPCRベースの方法(リアルタイムPCR、定量PCR)、及びDNAマイクロアレイ分析が含まれる。更に、mRNAレベルは、新世代シークエンシング法と呼ばれる方法によりリード数をカウントすることで定量的に検出できる。mRNAの発現レベルの決定に使用される代表的な方法、条件、及び材料は、本開示の実験セクションに記載した。mRNAの発現を決定するための好ましい方法は、前記の「消滅している発現」で説明したように、qPCRである。
【0028】
当業者は、その検体の種類及び状態並びにその他を考慮し、それらに適した公知の方法を選択することにより、前述の検出方法により検出するためにmRNA又は核酸cDNAを調製できる。本発明のヒトマクロファージ内の遺伝子発現レベルを野生型マクロファージの同一の遺伝子の発現レベルと比べる場合、mRNAレベルで科学的に意味のある比較を可能とするために、その他は同一の条件下、即ち、両方の種類のマクロファージは同一の様式で培養して処置して比較する。
【0029】
本明細書で使用される場合の「アレル(対立遺伝子)」は、同一のヒト遺伝子の2つのコピーのうちの1つを指す。遺伝子の2つのコピーは、2つの相同な染色体上にそれぞれ1つ存在し、同一であることも、又は、その個々の配列がわずかに異なることもある。従って、用語「アレル」は、通常は、2本の相同な染色体上の同じ相当箇所にある同一のヒト遺伝子の同一バージョンも含むために、本明細書では通常の用法とは若干異なって用いられる。2倍体細胞内では、所与の遺伝子の2つのアレルは、1対の相同な染色体上の対応する遺伝子座を占める。
【0030】
本明細書で使用される場合の「アレル」又は「遺伝子」は、そのアレル又は遺伝子を非機能化させる手順の後に、その遺伝子又はアレルがコードするタンパク質の更なる発現が検出されない場合、非機能であるとされる。つまり、新たなタンパク質は、非機能化されたアレル又は遺伝子から発現されない。最終的には、非機能化されたアレル又は遺伝子がコードするタンパク質は、非機能化アレルのみからなる細胞からなる細胞集団内では検出不能となる。前記遺伝子又はアレルがコードするタンパク質が検出不能となるまでの時間は、その遺伝子のタンパク質及びmRNAのターンオーバーの動態に依存する。
【0031】
本明細書で使用される場合の用語「欠失」は、DNA配列の一部が、野生型参照配列と比較して失なわれていることを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合の「エクソン」は、RNAスプライシングによってイントロンが除去された後、その遺伝子によって産生される最終的な成熟RNAの一部をコードする遺伝子のいずれか一部である。用語「エクソン」は、遺伝子内のDNA配列及びRNA転写産物内の対応する配列の両方を指す。RNAスプライシングでは、イントロンが除去され、エクソンが互いに共有結合して、成熟メッセンジャーRNAを生成する一部となる。
【0033】
本明細書で使用される場合の用語「染色体再構成」は、ネイティブ染色体の構造変化を伴う染色体異常である。通常、染色体再構成は、DNAの二重らせんが2つの異なる位置で切断され、その後、その切断された末端が再結合して、その染色体又はそれ(複数可)が切断される前の染色体とは異なる遺伝子順序の、新たな染色体遺伝子の構成が生じることによって起こる。このような変化には、1本の染色体内又は2本の染色体間で、10,000塩基対を超える大きな欠失、遺伝子重複、遺伝子逆位、及び転座等の、幾つかの異なる種類の事象が含まれ得る。
【0034】
本明細書で使用される場合の用語「核型分析」は、サンプル由来の細胞内の染色体の分析である。当業者は、染色体を染色し、顕微鏡を用いて細胞サンプルの細胞内の染色体のサイズ、形状、及び数を検査する。通常、染色したサンプルの写真を撮って、染色体の配置を示す。核型は、生物の染色体数、並びに、それら染色体が、光学顕微鏡下でどのように見えるか、特に、染色体の長さ、それら染色体内のセントロメアの位置、染色した染色体のバンドパターン、性染色体間の差異、及びその他の物理的特徴等、を示す。
【0035】
本明細書で使用される場合の用語「ガイドRNA」は、CRISPR/Cas9 DNA編集系での文脈で使用される「ガイドRNA」に関する。ガイドRNAは、CRISPR-Cas9系に対する特異性を標的配列へ付与する。ガイドRNAは短いノンコーディングRNA配列であり、最初にCas9酵素に結合し、その次にガイドRNA配列が塩基対形成を介して複合体をDNA上の特定の位置にガイドし、そこでCas9がエンドヌクレアーゼとして作用し、標的DNA鎖を切断する。ガイドRNAの例は、(a)合成トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)及び合成CRISPR RNA(crRNA)( crRNAは目的の遺伝子標的部位を特定するように設計される)、並びに(b)crRNA及びtracrRNAの両方を単一のコンストラクト内に組み込む単一ガイドRNA(sgRNA)である。
【0036】
用語「MAF」はヒトMAF転写因子を示す。MAF及び他のMafファミリーメンバーは、互いに、並びにFos及びJunと共に、ホモ二量体及びヘテロ二量体を形成し、これはAP-1タンパク質が互いに対を形成する公知の能力と一致している(Kerppola及びCurranの文献(1994);Kataoka、K.らの文献(1994))。MAFホモ二量体が結合するDNA標的配列は、MAF応答エレメント(MARE)と称され、それぞれコアTRE(T-MARE)又はCRE(C-MARE)パリンドロームを含む、13bp又は14bpのエレメントである。しかし、MAFは又、これらのコンセンサス部位から分岐したDNA配列であって、コンポジットAP-1/MARE部位及びATリッチ5'伸長を有するMAREハーフ部位を含む配列にも結合し得る(Yoshidaらの文献、2005)。MAFは幾つかのプロモーターからの転写を刺激すると共に、また他のプロモーターの転写を抑制することが示されている。MAFは又、インターロイキン4(IL-4)の組織特異的転写を活性化するその能力のために(Kimらの文献、1999)、Tヘルパー2(Th2)細胞の分化を誘導することが示されている(Hoらの文献、1996)。更に又、骨髄系細胞株内でのMAFの過剰発現はマクロファージの分化を誘導する(Hegdeらの文献、1999)。ヒトMAFの遺伝子は16番染色体上16q23.2に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 4094として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、MAFの遺伝子を79,593,838~79,600,737の相補鎖上に特定している。
【0037】
用語「MAFB」はヒトMAFB転写因子を示す。この遺伝子は様々な細胞種(水晶体上皮細胞、膵臓の内分泌細胞、表皮細胞、軟骨細胞、神経細胞、及び造血細胞、特にマクロファージを含む)内で発現され、そのカルボキシ末端領域に典型的なbZipモチーフを含むタンパク質をコードしている。bZipドメイン内では、MAFBはMAFだけでなく他のMaf関連タンパク質とも広範囲な相同性を共有する。MAFBはそのロイシン反復構造を通してホモ二量体を形成し、Maf認識エレメント(MARE)パリンドローム、コンポジットAP-1/MARE部位又はATリッチ5'伸長を有するMAREハーフ部位に特異的に結合できる(Yoshidaらの文献、2005)。更に、MAFBはそのジッパー構造を通してMaf又はFosとヘテロ二量体を形成できるが、Jun又は他のMafファミリーメンバーとは形成できない(Kataokaらの文献、1994)。MAFBは又、kreisler、kr又は(「Kreisler Mafロイシンジッパー1」の)KrmI1という名で公知であり、その理由は、kreisler変異マウスにおけるX線誘発された染色体の微細逆位が、組織特異的に後脳の発達におけるMAFBの発現を消失させ、kreisler表現型の原因となるからである(Cordesらの文献、1994)(Eichmannらの文献、1997)。造血系において、MAFBは骨髄性系統で選択的に発現し、多能性前駆細胞からマクロファージへの骨髄細胞分化中に、順次アップレギュレートされる。実際、この誘導は単球分化及びマクロファージ分化におけるMAFBの重要な役割を反映する。従って、形質転換したニワトリ骨髄芽球中(Kellyらの文献、2000、Bakriらの文献、2005)、及びヒト造血(hematopoetic)前駆細胞中(Gemelliらの文献、2006)のMAFBの過剰発現は、前駆細胞の増殖を阻害し(Tillmannsらの文献、2007)、マクロファージの形成を促進し(Kellyらの文献、2000、Bakriらの文献、2005、Gemelliらの文献、2006)、その一方でMAFBの優勢な負のバージョンはこのプロセスを阻害する(Kellyらの文献、2000)。マウスの単球及びマクロファージ内でMafBとMafとの組合せが欠損すると、増殖が延長される(Azizの文献、2009、Soucieの文献、2016)。それと共に、このことは、MAFB誘導は造血細胞における単球プログラムの特異的かつ重要な決定因子であり、分化された単球及びマクロファージ内の細胞周期停止に重要であることを示す。
【0038】
ヒトMAFBの遺伝子は20番染色体上20q12に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 9935として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、MAFBの遺伝子を40685848~40689236の相補鎖上に特定している。
【0039】
本明細書で使用される場合のIL-4は、ヒトインターロイキン4に関する。IL-4がコードするタンパク質は、活性化T細胞によって産生される多面発現性サイトカインである。IL-4は129アミノ酸からなる糖タンパク質であり、分子量は約20 kDaである。IL-4はインターロイキン4受容体のリガンドである。インターロイキン4受容体は又、IL13とも結合し、このことはこのサイトカイン及びIL13の多くの重複している機能に寄与しているであろう。IL4は組織修復に重要なサイトカインであり、炎症誘発性1型サイトカインの作用を相殺すると考えられる。
【0040】
ヒトIL-4の遺伝子は5番染色体上5q31.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3565として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。細胞培養実験には、130 AAを含む15.1 kDaの球状タンパク質、Preprotech社由来の組換えヒトIL-4(カタログ番号200-04)を用いた。ヒトTF-1細胞増殖アッセイにおける比活性は、少なくとも5×106 U/mgであった。
【0041】
IL-4のシグナル伝達は、その受容体との相互作用を通して生じる。IL-4とその受容体との相互作用は、受容体の二量体化及び活性化を生じる。活性化された受容体は、受容体サブユニットに会合するJAK1及びJAK3を活性化する。活性化されたJAKは、チロシン残基をリン酸化し、受容体の細胞質側末端は次に、STAT6を含む多くのアダプター又はシグナル伝達分子の結合部位として働く。活性化されたSTAT6は二量体化し、核内移行し、IL-4に応答する遺伝子を転写活性化する。
【0042】
本明細書で使用される場合のIL-13は、ヒトインターロイキン13に関する。IL-13がコードするタンパク質は、様々な免疫細胞によって産生されるサイトカインであり、例えば、主に活性化されたTh2細胞によって産生されるが、それだけでなく、CD4細胞、NKT細胞、マスト細胞、好塩基球、及び好酸球によっても産生される。IL-13は、IgE合成、杯細胞の過形成、粘液分泌過多、気道過敏性、線維化、及びキチナーゼアップレギュレーションにおける中心的な制御因子である。
【0043】
ヒトIL-13の遺伝子は5番染色体上5q31.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3596として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0044】
本明細書で使用される場合のARG-1は、ヒトアルギナーゼ1に関する。アルギナーゼは、アルギニンのオルニチン及び尿素への加水分解を触媒する。この遺伝子がコードするI型アイソフォームは、サイトゾル酵素であり、正常な生理的条件下で、主に肝臓内で尿素サイクルの構成要素として発現される。しかし、ARG1は又、主に腫瘍関連マクロファージで見られる免疫抑制シグナルでもある。免疫抑制的表現型へと極性化されたマクロファージは、ARG1を発現する。
【0045】
ヒトARG-1の遺伝子は6番染色体上6q23.2に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 383として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0046】
本明細書で使用される場合のIL-10は、ヒトインターロイキン10に関する。IL-10は、主に単球及びマクロファージによって産生され、リンパ球によって産生される程度は低いサイトカインである。このサイトカインは、免疫制御及び炎症において多面発現性効果を有する。IL-10は、マクロファージにおける、Th1サイトカイン、MHCクラスII、及び共刺激分子の発現をダウンレギュレートする。このサイトカインはNF-κB活性を阻害して、JAK-STATシグナル伝達経路の制御に関与することができる。IL-10の高発現が、腫瘍関連マクロファージで認められる。免疫抑制的表現型へと極性化されたマクロファージは、IL-10を発現する。IL-10発現は、進行腫瘍ステージの予測因子として、全生存期間の悪化と関連すると報告されている。
【0047】
ヒトIL-10の遺伝子は1番染色体上1q32.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3586として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0048】
本明細書で使用される場合のIL-6は、ヒトインターロイキン6に関する。IL-6がコードするタンパク質は、炎症及びB細胞の成熟において機能するサイトカインである。更に、コードされたタンパク質は、自己免疫疾患又は感染症の人々の発熱を誘導できる内因性パイロジェンであることが示された。このタンパク質は、急性及び慢性の炎症部位で主に産生され、そこで血清中に分泌され、インターロイキン6受容体αを介した転写性の炎症反応を誘導する。
【0049】
ヒトIL-6の遺伝子は7番染色体上7p15.3に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3569として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0050】
本明細書で使用される場合のCXCL10は、CXCモチーフケモカインリガンド10に関する。CXCL10がコードするタンパク質は、CXCサブファミリーのケモカイン、及び、受容体CXCR3のリガンドである。このタンパク質とCXCR3との結合は、単球、ナチュラルキラー細胞、及びT細胞の遊走刺激、並びに接着分子発現の調節を含む多面発現性効果を生じる。
【0051】
ヒトCXCL10の遺伝子は4番染色体上4q21.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3627として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0052】
本明細書で使用される場合のC2TA(CIITA)は、クラスII主要組織適合性複合体トランスアクチベーターに関する。C2TAは、1つの酸性転写活性化ドメイン、4つのロイシンリッチ反復、及び1つのGTP結合ドメインを備えたタンパク質である。このタンパク質は核内に位置し、クラスII主要組織適合性複合体遺伝子転写の正の制御因子として働き、これらの遺伝子の発現の「マスター制御因子」と称される。
【0053】
ヒトC2TAの遺伝子は16番染色体上16p13.13に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 4261として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0054】
本明細書で使用される場合のTNFは、腫瘍壊死因子に関する。TNFは、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属する多機能性の炎症誘発性サイトカインである。このサイトカインは主にマクロファージによって分泌される。TNFは、その受容体TNFRSF1A/TNFR1及びTNFRSF1B/TNFBRに結合して、それにより機能することができる。このサイトカインは、細胞の増殖、分化、アポトーシス、脂質代謝、及び凝固を含む幅広い範囲の生物学的プロセスの制御に関与している。
【0055】
ヒトTNFの遺伝子は6番染色体上6p21.33に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID7124として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。
【0056】
本明細書で使用される場合のM-CSFは又、CSF1とも呼ばれ、ヒトコロニー刺激因子1に関する。M-CSFは、マクロファージの産生、分化、増殖、及び機能を制御するサイトカインである。このタンパク質の様々な活性アイソフォームが、膜結合ホモ二量体又は細胞外ジスルフィド結合ホモ二量体として確認され、膜結合型前駆体のタンパク質分解性切断によって生成されると考えられる。
【0057】
ヒトM-CSFの遺伝子は1番染色体上1p13.3に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID1435として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20210226による。細胞培養実験には、HEK293細胞内で産生された38 kDaのホモ二量体、Gibco社由来の組換えヒトM-CSF(カタログ番号PHC9501)を用いた。M-NSF60細胞の用量依存的増殖によって決定されたED50は、最大で5 ng/mlであった。
【0058】
本明細書で使用される場合のMHCIIは、主要組織適合性複合体(MHC)分子のクラスIIに関するものであり、通常は、樹状細胞及びマクロファージを含む単核食細胞、並びにB細胞等のプロフェッショナル抗原提示細胞上でのみ見出される。MHC IIは、エンドサイトーシスによる細胞外タンパク質由来であって、MHCクラスIの場合のようなサイトゾルタンパク質由来ではないペプチドを、T細胞に提示する。
【0059】
ヒトでは、MHCクラスIIタンパク質複合体は、ヒト白血球抗原遺伝子複合体(HLA)によってコードされる。MHCクラスIIに対するHLAは、HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DQ,及びHLA-DRである。
【0060】
HLA-A又は「ヒト白血球抗原1」は、HLAクラスI重鎖パラログに属するタンパク質に関する。このクラスI分子は、重鎖及び軽鎖(β-2-ミクログロブリン)からなるヘテロ二量体である。重鎖は膜内に固定されている。クラスI分子は、免疫系における中心的役割を果たしており、小胞体内腔へ移行されたサイトゾルペプチドを、それらが細胞傷害性T細胞により認識されるように提示する。HLA-Aは、ほぼ全ての細胞内で発現される。その重鎖は約45 kDaであり、その遺伝子は8つのエクソンを含む。エクソン1はリーダーペプチドをコードし、エクソン2及び3は、両方ともペプチドに結合するα1ドメイン及びα2ドメインをコードし、エクソン4はα3ドメインをコードし、エクソン5は膜貫通領域をコードし、エクソン6及び7は細胞質側末端をコードする。エクソン2及びエクソン3における多型は、それぞれのクラス1分子のペプチド結合特異性の原因となる。これらの多型解析は、骨髄移植及び腎臓移植のためにルーチン的に行われている。6,000を超えるHLA-Aアレルが報告されている。ヒトHLA-Aの遺伝子は6番染色体上6p22.1に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3105として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。このリファレンスは、HLA-Aの遺伝子を29942532~29945870のコード鎖上に特定している。
【0061】
HLA-Bは、HLAクラスI重鎖パラログに属するタンパク質に関する。数百のHLA-Bアレルが報告されている。ヒトHLA-Bの遺伝子は6番染色体上6p21.33に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3106として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。
【0062】
HLA-DRはHLAクラスIIに属する二量体型タンパク質である。このHLAクラスII分子は、共に膜内に固定されている、α鎖(HLA-DRA等)及びβ鎖(HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、又はHLA-DRB5等)からなるヘテロ二量体である。HLA-DRは、細胞外タンパク質由来のペプチドを提示することで、免疫系における中心的役割を果たしている。このクラスII分子は抗原提示細胞内で発現される。α鎖は実質的に不変であるため、個体内におけるHLA-DRの組成の可変性は、3つの異なるDRβ遺伝子座(HLA-DRB1及び、DRB3、DRB4又はDRB5アレルのうちの2つ)由来のβ鎖と対となるα鎖の能力に由来する。DR分子内のβ鎖は、ペプチド結合の特異性を決定する本質的に全ての多型を含む。特に数百のDRB1アレルが報告されており、幾つかのアレルは特定の疾患又は病状に関連して頻度が増大する。これらのアレルは、集団内におけるHLA-DRの組成の可変性の原因であり、ある個体がHLA-DRB1に関してホモ接合型(即ち、父親と母親が同一のHLA-DRB1アレルを有する)であることもあるが、一般に大多数の個体はHLA-DRB1に関してヘテロ接合型である。ヒトHLA-DRB1の遺伝子は6番染色体上6p21.32に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 31223として詳細に記述されている。配列及び位置情報は、アノテーションリリース109.20201120(2020年12月9日現在)、ゲノム・リファレンス・コンソーシアム・ヒト・ビルド38・パッチリリース13のリファレンス配列アセンブリGCF_000001405.39による。
【0063】
HLA-DQはHLAクラスIIに属する二量体型タンパク質である。このHLAクラスII分子は、共に膜内に固定されている、α鎖(HLA-DQA1等)及びβ鎖(HLA-DQB1等)からなるヘテロ二量体である。HLA-DQは、細胞外タンパク質由来のペプチドを提示することで、免疫系における中心的役割を果たしている。このクラスII分子は抗原提示細胞内で発現される。α鎖及びβ鎖の両方共、個体間で大きく変動するため、HLA-DQA1及びHLA-DQB1の両方に関して多数のアレルが報告されている。MHCクラスII抗原提示受容体として、DQは2つのタンパク質サブユニット、α(DQA1遺伝子産物)及びβ(DQB1遺伝子産物)を含む二量体であるDQヘテロ二量体として機能する。これらの受容体は2つの異なるDQハプロタイプのα+βセット(母系染色体由来及び父系染色体由来からなる1セット)から生成される。片方の親由来の-A-B-及び他方の親由来の-a-b-のハプロタイプを有する場合、そのヒトは2つのαアイソフォーム(A及びa)並びに2つのβアイソフォーム(B及びb)を生成する。その場合、4つの僅かに異なる受容体ヘテロ二量体(より単純にはDQアイソフォーム)が生成可能となる。2つのアイソフォームがシス-ハプロタイプ対(AB及びab)であり、そして、2つのアイソフォームがトランス-ハプロタイプ対(Ab及びaB)である。このようなヒトは、これらの遺伝子に関してダブルヘテロ接合体であり、DQでは最も一般的な状況である。-A-B-及び-A-b-ハプロタイプを有するヒトの場合、2つのDQ(AB及びAb)しか生成できない。しかし、A-B-及び-A-B-ハプロタイプを持つヒトはDQアイソフォームABしか作れず、ダブルホモ接合体と呼ばれる。ヒトHLA-DQA1の遺伝子は6番染色体上6p21.32に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3117として詳細に記述されている。ヒトHLA-DQB1の遺伝子も又、6番染色体上6p21.32に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3119として詳細に記述されている。
【0064】
HLA-DPも又、HLAクラスIIに属する二量体型タンパク質である。このHLAクラスII分子は、共に膜内に固定されている、α鎖(HLA-DPA1等)及びβ鎖(HLA-DPB1等)からなるヘテロ二量体である。HLA-DPも又、細胞外タンパク質由来のペプチドを提示することで、免疫系における中心的役割を果たしている。HLA-DPの場合も、HLA-DQについての説明と同様である。α鎖及びβ鎖の両方共、個体間で変動するため、HLA-DPA1及びHLA-DPB1の両方に関して幾つかのアレルが報告されている。HLA-DQについて説明されたように、HLA-DPは2つの異なるHLA-DPハプロタイプのα+βセット(母系染色体由来及び父系染色体由来からなる1セット)から生成される。ヒトは、DPでは最も一般的な状況であるHLA-DPA1及びHLA-DPB1のダブルヘテロ接合体であることもあり、シングルホモ接合体であることもあり、そして、HLA-DPのダブルホモ接合体であることもある。ヒトHLA-DPA1の遺伝子は6番染色体上6p21.32に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3113として詳細に記述されている。ヒトHLA-DPB1の遺伝子も又、6番染色体上6p21.32に位置し、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3115として詳細に記述されている。
【0065】
本明細書で使用される場合のCD2は、その文脈に応じて、CD2遺伝子、又は、CD2タンパク質の細胞外部分(LFA-2としても知られる)である表面マーカーとしてのCD2に関する。CD2遺伝子は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 914として詳細に記述されている。
【0066】
本明細書で使用される場合のCD28は、その文脈に応じて、CD28遺伝子、又は、CD28タンパク質の細胞外部分である表面マーカーに関する。CD28遺伝子は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 940として詳細に記述されている。
【0067】
本明細書で使用される場合のCD38は、その文脈に応じて、CD38遺伝子、又は、CD38タンパク質の細胞外部分(ADPRC1としても知られる)である表面マーカーに関する。CD38遺伝子は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 952として詳細に記述されている。
【0068】
本明細書で使用される場合のCD64は、その文脈に応じて、CD64遺伝子、又は、FCGR1A(Fcガンマ受容体Ia)の細胞外部分である表面マーカーに関する。FCGR1Aは、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 2209として詳細に記述されている。
【0069】
本明細書で使用される場合のCD74は、その文脈に応じて、CD74遺伝子、又は、CD74タンパク質の細胞外部分(HLADGとしても知られる)である表面マーカーに関する。CD74遺伝子は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 972として詳細に記述されている。
【0070】
本明細書で使用される場合のC5AR1は、その文脈に応じて、C5AR1遺伝子、又は、C5AR1タンパク質の細胞外部分(CD88としても知られる)である表面マーカーに関する。C5AR1遺伝子は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 728として詳細に記述されている。
【0071】
本明細書で使用される場合のCD70は、その文脈に応じて、CD70遺伝子、又は、CD70タンパク質の細胞外部分である表面マーカーに関する。CD70は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 970として詳細に記述されている。
【0072】
本明細書で使用される場合のCD206は、その文脈に応じて、CD206遺伝子、又は、マンノース受容体C1型の細胞外部分である表面マーカーに関する。CD206は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID4360として詳細に記述されている。
【0073】
本明細書で使用される場合のCD163は、その文脈に応じて、CD163遺伝子、又は、CD163タンパク質の細胞外部分である表面マーカーに関する。CD163は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 9332として詳細に記述されている。
【0074】
本明細書で使用される場合のIL15は、その文脈に応じて、IL15遺伝子、又は、分泌された形態のIL15タンパク質、活性化サイトカインであるインターロイキン15、に関する。IL15は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3600として詳細に記述されている。
【0075】
本明細書で使用される場合のIL18は、その文脈に応じて、IL18遺伝子、又は、分泌された形態のIL18タンパク質、活性化サイトカインであるインターロイキン18に関する。IL18は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3606として詳細に記述されている。
【0076】
本明細書で使用される場合のIL23Aは、その文脈に応じて、IL23A遺伝子、又は、ヘテロ二量体型サイトカインIL23のサブユニットとしてのIL23Aに関する。この文脈において、IL23Aは分泌された活性化サイトカインであるインターロイキン23として検出可能である。IL23Aは、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 51561として詳細に記述されている。
【0077】
本明細書で使用される場合のRXFP2は、その文脈に応じて、RXFP2遺伝子、又は、RXFP2タンパク質の細胞外部分、リラキシンファミリーペプチド受容体2である表面マーカーに関する。RXFP2は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 122042として詳細に記述されている。
【0078】
本明細書で使用される場合のLYVE1は、その文脈に応じて、LYVE1遺伝子、又は、LYVE1タンパク質の細胞外部分、リンパ管ヒアルロナン受容体1である表面マーカーに関する。LYVE1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 10894として詳細に記述されている。
【0079】
本明細書で使用される場合のSTAB1は、その文脈に応じて、STAB1遺伝子、又は、STAB1タンパク質の細胞外部分、スタビリン1(スカベンジャー受容体としての役割が可能なため、SCARH2とも呼ばれる)である表面マーカーに関する。STAB1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 23166として詳細に記述されている。
【0080】
本明細書で使用される場合のLILRB5は、その文脈に応じて、LILRB5遺伝子、又は、LILRB5タンパク質の細胞外部分、白血球免疫グロブリン様受容体B5である表面マーカーに関する。LILRB5は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 10990として詳細に記述されている。
【0081】
本明細書で使用される場合のRNASE1は、その文脈に応じて、RNASE1遺伝子、又は、RNASE1タンパク質の分泌された形態、リボヌクレアーゼAファミリーメンバー1に関する。RNASE1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 6035として詳細に記述されている。
【0082】
本明細書で使用される場合のF13A1は、その文脈に応じて、F13A1遺伝子、又は、F13A1タンパク質の分泌された形態、凝固因子XIIIのサブユニットに関する。F13A1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 2162として詳細に記述されている。
【0083】
本明細書で使用される場合のQPCTは、その文脈に応じて、QPCT遺伝子、又は、QPCTタンパク質の分泌された形態、グルタミニルシクラーゼに関する。QPCTは、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 25797として詳細に記述されている。
【0084】
本明細書で使用される場合のCCL7は、その文脈に応じて、CCL7遺伝子、又は、CCL7タンパク質の分泌された形態、ケモカインCCL7に関する。CCL7は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 6354として詳細に記述されている。
【0085】
本明細書で使用される場合のRNF128は、その文脈に応じて、RNF128遺伝子、又は、RNF128タンパク質、GRAILとしても知られるE3ユビキチンリガーゼに関する。RNF128は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 79589として詳細に記述されている。
【0086】
STAT6は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 6778として詳細に記述されている。
【0087】
IRF4は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 3662として詳細に記述されている。
【0088】
PPARγは、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 5468として詳細に記述されている。
【0089】
KLF4は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 9314として詳細に記述されている。
【0090】
C/EPBβ(CEBPB)は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 1051として詳細に記述されている。
【0091】
GATA3は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 2625として詳細に記述されている。
【0092】
JMJD3(KDM6B)は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 23135として詳細に記述されている。
【0093】
SOCS2は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 8835として詳細に記述されている。
【0094】
SOCS1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 8651として詳細に記述されている。
【0095】
AKT1は、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 207として詳細に記述されている。
【0096】
FCGBPは、NCBI遺伝子データベースに遺伝子ID 8857として詳細に記述されている。
【0097】
マウスで行われた実験の文脈での遺伝子の言及は、示されたヒト遺伝子名に対応するマウス遺伝子に関する(例えば、実施例1~8に記載されたマウス実験の文脈における「IL-6」の言及は、マウスIL-6に関する)。
【0098】
本明細書で使用される場合の負の制御因子は、RNAポリメラーゼのプロモーター領域への結合を妨害し、エンハンサーの活性を阻害し、又は活性化転写因子の活性を阻害し、その結果、標的遺伝子、例えばC2TAの転写の減少をもたらす遺伝子産物、特にポリペプチドである。
【0099】
CD8+T細胞(細胞傷害性Tリンパ球、又はCTLとも呼ばれる)は胸腺内で発生してT細胞受容体を発現する。それらは、通常1つのCD8α鎖及び1つのCD8β鎖からなる、二量体型共受容体CD8を発現する。CD8+T細胞は、全ての有核細胞上に存在するMHCクラスI分子によって提示されるペプチドを認識する。CD8+T細胞は、ウイルス及び細菌を含む細胞内病原体に対する免疫防御、並びに腫瘍モニタリングのために非常に重要である。
【0100】
NK細胞はナチュラルキラー細胞又は大顆粒リンパ球(LGL)としても知られ、自然免疫系にとって重要な細胞傷害性リンパ球の一種である。NK細胞は、CD56の存在及びCD3の不存在(CD56+、CD3-)によって特定可能である。NK細胞は、適応免疫反応における細胞傷害性T細胞の機能と類似の機能を持つ自然免疫細胞である。NK細胞は、ウイルス感染細胞に対して感染後約3日程度で作用して迅速な応答を提供し、かつ、腫瘍形成に対して応答する。NK細胞は、ストレスを受けて抗体及びMHCが存在しない細胞を認識し、殺傷する能力を有する。MHC Iマーカーを失っている有害細胞は、他の免疫細胞、例えばTリンパ球細胞によっては検出されず破壊されないため、この役割は重要である。
【0101】
細胞、例えばCD8+T細胞及び/又はNK細胞の、腫瘍に対する「動員」は、マウスモデル、例えばヒト化マウスモデルにおいて、腫瘍塊を抽出し、細胞を分離して、例えば適切な染色後にFACSによって、腫瘍塊に関連するCD8+T細胞及び/又はNK細胞の数を分析することにより検査できる。前記細胞を腫瘍に動員できる処置(本発明のマクロファージの注入等)は、そのような処置のない適切な対照と比較した場合、腫瘍塊検体の細胞数において該細胞がより高い割合を占める状態を経時的に生じる。
【0102】
本明細書で使用される場合の用語「増殖性細胞」は、細胞分裂可能な細胞を指す。ある細胞が、少なくとも1,000個の「増殖性細胞」の集団が、適切な培養条件下で8日後に、細胞数が少なくとも4倍増加する場合、即ち、n(192時間)/n(0時間)(ここで、nは表示された時点での細胞集団の細胞総数である)が少なくとも4.00である場合、その細胞は増殖性細胞である。
【0103】
本明細書で使用される場合の用語「分化したヒト細胞」は、細胞種が変化せず、細胞分裂の際ですら、同一の細胞種の2つの細胞を生じる細胞である。これは、成体の全ての細胞種に分化可能な「万能性細胞」及び数種類の近縁の細胞種に分化可能な「寡能性細胞」とは対照的である。
【0104】
本明細書で使用される場合の「骨髄系細胞」は、リンパ球系ではなく、赤血球系-巨核球系でもなく、そして、骨髄系ではない系統の可能性を有する多系統前駆細胞でもない、造血系起源の細胞をいう。
【0105】
本明細書で使用される場合のiPS細胞「人工万能性幹細胞」は、体細胞のリプログラミングにより得られる万能性を有する細胞を意味する。京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のRudolf Jaenischらのグループ、ウィスコンシン大学のJames Thomsonらのグループ、ハーバード大学のKonrad Hochedlingerらのグループを含む幾つかのグループが、このような人工万能性幹細胞の作成に成功している。人工万能性幹細胞は、免疫学的拒絶も倫理的問題もない理想的な万能性細胞として大きな注目を集めている。例えば、国際公開WO2007/069666には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が報告されている。又、この文献には、体細胞の核初期化による人工万能性幹細胞を作成する方法が記載されており、その方法は、前述の核初期化因子を体細胞と接触させる工程を含む。
【0106】
「単球」は、末梢血の単核食細胞である。単球は、直径10~30μmのサイズ範囲でかなり多様である。その核の細胞質に対する比率は、2:1~1:1の範囲である。核は多くの場合、帯状(馬蹄形)又は腎臓形(腎臓形状)である。単球は、それ自体で折り重なって、脳回状の回旋を示すこともある。核小体は視認不能である。クロマチンパターンは微細で、スケイン様綛状に配列されている。細胞質は豊富であって、ギムザ染色で多数の微細なアズール親和性顆粒を含む青灰色として現れ、すりガラス外観を呈する。液胞が存在することもある。更に好ましくは、特異的表面抗原の発現を用いて、細胞が単球細胞であるか否かを判定する。ヒト単球細胞の表現型マーカーには、CD11b、CD11c、CD33、CD45、及びCD115が含まれる。一般に、ヒト単球細胞は、CD9、CD11b、CD11c、CDw12、CD13、CD15、CDw17、CD31、CD32、CD33、CD35、CD36、CD38、CD43、CD45、CD49b、CD49e、CD49f、CD63、CD64、CD65s、CD68、CD84、CD85、CD86、CD87、CD89、CD91、CDw92、CD93、CD98、CD101、CD102、CD111、CD112、CD115、CD116、CD119、CDw121b、CDw123、CD127、CDw128、CDw131、CD147、CD155、CD156a、CD157、CD162、CD163、CD164、CD168、CD171、CD172a、CD180、CD131a1、CD213a2、CDw210、CD226、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、任意でCD4、CD14、CD16、CD40、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD62L、CD74、CD141、CD142、CD169、CD170、CD181、CD182、CD184、CD191、CD192、CD194、CD195、CD197、CD206、CX3CR1を発現する。特に排除されない限り、本明細書で使用される場合の「単球」は用語「マクロファージ」を含む。
【0107】
「樹状細胞(DC)」は、インビボ、インビトロ、エクスビボに、又はホスト若しくは対象内に存在する、又は、造血幹細胞、造血前駆細胞、若しくは単球に由来することもある抗原提示細胞である。樹状細胞及びその前駆体は、例えば脾臓、リンパ節等の様々なリンパ器官から、並びに、骨髄及び末梢血から単離することができる。DCは、樹状細胞本体から多方向に伸びる薄いシート(膜状仮足)を有する特徴的な形態を持つ。DCはMHCクラスI分子及びMHCクラスII分子の両方を恒常的に発現し、それらはそれぞれCD8+T細胞及びCD4+T細胞にペプチド抗原を提示し、ナイーブT細胞を活性化することができる。更に、ヒト皮膚及び粘膜のDCは又、CD1遺伝子ファミリー、MHCクラスI関連分子も発現し、それは微生物の脂質又は糖脂質抗原を提示する。DC膜は又、T細胞の接着を可能にする分子(例えば、細胞接着分子-1若しくはCD54)、又はB7-1及びB7-2(それぞれCD80及びCD86としても知られる)等のT細胞活性化を共刺激する分子を豊富に含む。一般に、DCは、CD85、CD180、CD187、CD205、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、並びにCD206、CD207、CD208、及びCD209をサブセットとして発現する。特別に排除されない限り、本明細書で使用される場合の「樹状細胞」は用語「マクロファージ」に含まれる。
【0108】
本明細書で使用される場合の「マクロファージ」は、マクロファージ、単球、及び樹状細胞を含む。しかし、好ましくは、本明細書で使用される場合の「マクロファージ」は、狭義のマクロファージである。マクロファージは、貪食性を示す細胞である。マクロファージの形態は、異なる組織間、並びに、正常な状態及び病的な状態の間では異なり、全てのマクロファージが形態だけで特定できるわけではない。しかし、ほとんどのマクロファージは、円形核又は切れ込みが入った核、発達したゴルジ装置、豊富なエンドサイトーシス系液胞、リソソーム、及びファゴリソソーム、並びに、襞又は微絨毛で覆われた形質膜を持つ大細胞である。自然免疫及び適応免疫におけるマクロファージの主要な機能は、老化細胞又はアポトーシス細胞、微生物、及び新生物性細胞の貪食及びそれに続く分解、サイトカイン、ケモカイン、及びその他の可溶性メディエーターの分泌、並びに、その表面上で外来抗原(ペプチド)をTリンパ球に対して提示することである。マクロファージは、哺乳類生物の骨髄中の多能性前駆細胞、骨髄系共通前駆細胞、及び顆粒球-単球前駆細胞に由来し、最終的に更なる前駆細胞段階を経て単球へ発達した後、末梢血流に流入する。多葉核を持つ好中球とは異なり、単球は腎臓形の核を持ち、更なる分化及び活性化中は大細胞体を呈する。その生涯を通じて、単球の一部は毛細血管内皮に付着し、内皮から全ての器官に移動し、一部はその器官の組織常在型マクロファージ又は樹状細胞に分化できる(下記参照)。単球由来以外にも、組織常在型マクロファージは又、最終的な血球新生が確立する前の卵黄嚢の初期原始マクロファージ前駆細胞から、胚の様々な造血部位の赤血球系マクロファージ前駆細胞(EMP)から、又は、胚性造血幹細胞由来の胎児性単球から発生し得る。これらの胚由来のマクロファージは、成体期まで存在し、成人の造血幹細胞及び単球由来の投入とは関係なく長期間維持される。例えばリンパ節及び脾臓等のリンパ系組織ではマクロファージが特に豊富である一方で、組織常在型マクロファージは、本質的に体内の全ての器官内に存在する。幾つかの器官内では、マクロファージは表1にまとめた特別な名前を持つ。
【0109】
(表1:組織常在型マクロファージの例)
【表2】
【0110】
マクロファージの更なる例は、尿細管周囲マクロファージ及び精巣間質マクロファージ、心臓由来の心臓マクロファージ、脂肪組織由来の脂肪組織マクロファージ、腸由来の大腸マクロファージ及び小腸マクロファージ、骨格筋マクロファージ、関節由来の滑膜マクロファージ、動脈外膜マクロファージ、動脈内膜マクロファージ、血管関連マクロファージ、膵臓常在型マクロファージ、髄膜マクロファージ、胸膜マクロファージ、並びに大網マクロファージである。
【0111】
本発明の文脈では、マクロファージは、前記記載のいずれかのマクロファージから選択し得る。好ましくは、マクロファージは、ミクログリア、組織球、ホフバウアー細胞、メサンギウム細胞、クッパー細胞、腹腔マクロファージ、肺胞マクロファージ、上皮又は皮膚マクロファージ、辺縁帯リンパ腫マクロファージ、金属親和性マクロファージ、赤脾髄マクロファージ、白脾髄マクロファージ、及び破骨細胞からなる群から選択し得る。マクロファージは又、本明細書中に記載されるような、インビトロ分化プロトコルに沿ったヒトiPS細胞に由来してもよい。
【0112】
マクロファージは、サイトカインの重要な供給源である。機能的に、多数の産物は下記幾つかの群に分けられる:(1)前炎症性応答を仲介する、即ち更なる炎症細胞の動員を助けるサイトカイン(例えば、IL-1、II-6、TNF、CCケモカイン及びCXCケモカイン、例えばIL-8、及び単球走化性タンパク質1);(2)T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を仲介するサイトカイン(例えば、IL-1、IL-12、IL-15、IL-18);(3)マクロファージ自身がフィードバック効果を発揮するサイトカイン(例えば、IL-1、TNF、IL-12、IL-18、M-CSF、IFNα/β、IFNγ);(4)マクロファージをダウンレギュレートする及び/又は炎症停止を助けるサイトカイン(例えば、IL-10、TGFβ);(5)創傷治癒若しくは組織幹細胞をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、EGF、PDGF、bFGF、TGFβ)、若しくは血管増殖をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、VEGF)、又は神経細胞をサポートするために重要なサイトカイン(例えば、神経栄養因子、キニン)。マクロファージによるサイトカインの産生は、LPS等の微生物産物によって、1型ヘルパーT細胞との相互作用によって、又はプロスタグランジン、ロイコトリエン及び、最も重要には、他のサイトカイン(例えばIFNγ)を含む可溶性因子によって、作動できる。一般に、ヒトマクロファージは、CD11c、CD11b、CD14、CD18、CD26、CD31、CD32、CD36、CD45RO、CD45RB、CD63、CD68、CD71、CD74、CD87、CD88、CD101、CD115、CD119、CD121b、CD155、CD156a、CD204、CD206、CDw210、CD281、CD282、CD284、CD286を発現し、及びCD163、CD169、CD170、MARCO、FOLR2、LYVE1をサブセットとして発現する。活性化されたマクロファージは更に、CD23、CD25、CD69、CD105、並びにHLA-DR、HLA-DP、及びHLA-DQを発現できる。
【0113】
本明細書で使用される場合に、マクロファージが、M-CSF(又はM-CSF並びにIL-4及び/若しくはIL-13の組合せサイトカイン)によるM2極性化に抵抗性を有するとは、マクロファージ(単数若しくは複数)の長期培養が、M1極性化マクロファージの特徴全部の喪失に至らない場合、特にM1極性化マクロファージの通常の特徴全部の喪失に至らない場合である。本明細書で使用される場合のM1極性化マクロファージの特徴は、HLAクラスII遺伝子、例えばHLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DPB2、HLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DQA1、HLA-DQB1のアップレギュレートされた発現、並びに/又は、RXFP2、CD74、CD38、CD2、IL18、及び/若しくはIL23Aのアップレギュレートされた発現、並びに/又はIL18、IL15、及び/若しくはIL23のアップレギュレートされた分泌、並びに/又はRNASE1、PPBP、CD28、LYVE1、FCGBP、F13A1、QPCT、CCL7、及び/若しくはRNF128のダウンレギュレートされた発現、並びに/又はPPBP、CCL7、RNASE1、F13A1、QPCT、及び/若しくはFCGBPのダウンレギュレートされた分泌、のいずれか1つであり得る。M1マクロファージは又、表面マーカーが発現する若しくは発現しない、並びに/又は、発現表面マーカー及び/又は非発現表面マーカーのパターンにより特徴付けられる。本明細書で使用される場合のM1マクロファージの通常の特徴の更なる例は、MHC II陽性、CD74陽性、CD2陽性、LYVE1陰性、CD28陰性、STAB1陰性、及び/又はLILRB5陰性でもよい。
【0114】
「表面マーカー」は、細胞の形質膜外側にアクセス可能に存在し、かつ1の特定細胞種又は限られた数の細胞種に特異的であり、そのためそれら細胞種の「マーカー」である分子、典型的にはタンパク質又は炭水化物構造体である。ヒトマクロファージ上の表面マーカーの例は、CD11c、CD11b、CD14、CD16、CD18、CD26、CD31、CD32、CD33、CD36、CD45RO、CD45RB、CD63、CD64、CD68、CD71、CD74、CD87、CD88、CD101、CD115、CD119、CD121b、CD155、CD156a、CD163、CD169、CD170、CD204、CD206、CDw210、CD281、CD282、CD284、CD286、MARCO、FOLR2、CX3CR1、及びLYVE1である。
【0115】
FACS試験において、表面マーカーに特異的な抗体で染色した場合に特異的な蛍光シグナルを生じる場合、その細胞は表面マーカー「陽性」である。FACSの原理はHoward M. Shapiro著「実用的フローサイトメトリー(Practical flow Cytometry)」第4版に詳細に説明されている。FACS試験では、細胞のコレクションが通常複数の蛍光抗体で染色され、それぞれの抗体は異なる表面マーカーと選択的に結合し、異なる蛍光色素を持つ。これにより、FACS試験での適切なゲーティング戦略による異成分細胞コレクション内の特定の細胞種を選択可能となる。次に、表面マーカー特異的抗体による特異的蛍光シグナルを、一次元柱状図プロットで検証するが、これは通常、全抗体での染色の柱状図を、表面マーカー特異的抗体のみを除いたミックス抗体での染色の柱状図(いわゆる「FMO」又は「蛍光マイナス1」シグナル)と比較する。この2つの柱状図が異なり、全抗体ミックスでの染色がFMO対照より強い蛍光を生成する等で異なる場合は、試験した細胞コレクションは試験した細胞表面マーカーに対して陽性である。柱状図の視覚的外観において、これは、全抗体ミックスでの染色の蛍光ピークが、FMO対照と比較して、より高い蛍光値へシフトしていることを意味する。好ましくは、2つの柱状図(片方が全抗体で、もう片方がFMO)は、最大で70面積%(曲線下面積)、例えば最大で50面積%、例えば最大で25面積%重複する。
【0116】
サイトカイン、例えばIL18及び/又はIL15の「分泌」は、免疫生化学的方法で、細胞培養物の上清中のサイトカインの出現を定性的に及び/又は定量的に測定することによって決定できる。例えば2つの例として挙げられるのは、ELISAベースの方法又はビーズベースの多重アッセイ、例えばLuminex技術である。簡単に説明すると、細胞増殖に使用される培地を、細胞のコレクションに添加する前、及び、サイトカイン分泌を試験する細胞をその中で培養した後に、試験する特定のサイトカインの存在に関して分析する。その培地中で培養された細胞によりサイトカインが「分泌」されるとは、培養期間中に上清中のサイトカイン濃度が上昇し、このサイトカイン濃度の上昇が3回連続して行った別々の測定によって確認した場合である。IL6は、例えば、Meso Scale Diagnostics社のMeso Scale discovery immunoassay「V-PLEXヒトIL-6キット」により、0.1 pg/mlで又はそれ未満の濃度で検出できる。CXCL10は、例えばPerkin Elmer社のLANCE UltraヒトCXCL10検出キットにより、5 pg/mlで又はそれ未満の濃度で検出できる。
【0117】
用語「貪食細胞」及び「食細胞」は、本明細書では互換的に使用され、貪食が可能な細胞を指す。異なる主要なカテゴリーのプロフェッショナル食細胞、狭義のマクロファージ、単球、及び樹状細胞、並びに多形核白血球(好中球)を含む単核食細胞が存在する。しかし、「非プロフェッショナル」貪食細胞も又、エフェロサイトーシスに参加することが公知である。このエフェロサイトーシスとは、それによりプロフェッショナル食細胞及び非プロフェッショナル食細胞が、迅速かつ効率的な方法でアポトーシス細胞を処分するプロセスである。
【0118】
本明細書で使用される場合の用語「前駆細胞」は、幹細胞の子孫であって、更に分化して特定の細胞種を生成することができる細胞に関する。ヒトの身体全体には多くの種類の前駆細胞が存在する。それぞれの前駆細胞は、同一の組織又は器官に属する細胞にしか分化できない。一部の前駆細胞は、最終的に1種の標的細胞にしか分化しない一方、別の前駆細胞は複数の細胞種に分化する可能性を持つ。このように前駆細胞は、ヒトの組織及び器官、血液、並びに中枢神経系において、成熟細胞の生成に関与する中間細胞種である。造血前駆細胞は、血液細胞の生成における中間細胞種である。造血前駆細胞は造血幹細胞から発生する未成熟細胞であり、最終的には10を超える異なる種類の成熟血液細胞の1つへ分化する。
【0119】
本明細書で使用される場合の用語「CD34+多能性前駆細胞」は、CD34表面抗原を発現している幹細胞富化された造血前駆細胞集団であって、マクロファージ、単球、又は樹状細胞ではないものである。
【0120】
本明細書で使用される場合の用語「単芽球」は、血球新生プロセスにおいて骨髄性前駆細胞から分化した、骨髄中のコミットされた前駆細胞に関する。それらは成熟して単球となり、次にマクロファージに成長できる。
【0121】
本明細書で使用される場合の用語「細胞のコレクション」は、少なくとも10,000個の生細胞である細胞に関する。
【0122】
本明細書で使用される場合の用語、細胞の「増殖」は、適切な実験条件において細胞を培養し、培養細胞の有糸分裂により生細胞の数を増大させるプロセスである。
【0123】
本明細書で使用される場合の用語「曝された後」は、細胞を特定の薬剤、例えばサイトカインの継続的な存在下で、示された時間の間培養し、その後直ちに試験することを意味する。
【0124】
本明細書で使用される場合の用語「遺伝子組換え」細胞は、バイオテクノロジー法を用いてその細胞のDNAが改変された細胞に関する。例えば、細胞のDNAがCRISPR/Cas9 DNA編集系の使用によって操作され、その操作によって細胞のDNAに検出可能な変化が残された細胞は、遺伝子組換え細胞である。
【0125】
本明細書で使用される場合の用語「適切な培養条件下」は、本発明の貪食細胞が増殖可能な条件をいう。培養は、通常は、適切な増殖因子を補充した細胞培養培地中で、適切な温度で、適切に制御された雰囲気下で行われる。RPMI培地(RPMIは、その名をRoswell Park Memorial Institute社に由来し、ヒトリンパ球の培養にしばしば使用される培地である。)に10 % FBS(PAA-GE Healthcare社、A15-101)を補充し、100単位/mlペニシリン、100 ug/mlストレプトマイシン(サーモフィッシャー社、番号15140122)、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、1 mMピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャー社、番号11360-039)、50 ng/ml M-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)、及び示された場合には50 ng/ml GM-CSF(Peprotech社、番号300-03)を、実施例3に記載のように補充したものが適切な培養培地である。培養は通常、37 ℃、及び5% CO2、21 % O2で行う。
【0126】
本明細書で使用される場合の用語「活性酸素種」は、酸素を含み、細胞内で他の分子と容易に反応する不安定な分子に関する。通常、活性酸素種は、フリーラジカルである。活性酸素種は、免疫細胞の微生物の侵襲に対する殺傷応答成分として公知である。
【0127】
本明細書で使用される場合の用語「活性化」は、外部刺激が細胞に変化を誘導して、それによってその細胞を活性化できる現象に関する。例えばマクロファージは、インターフェロン-γ(IFN-γ)等のサイトカイン、及び細菌性エンドトキシン、例えばリポ多糖類(LPS)によって活性化し得る。活性化されたマクロファージは多くの変化を生じ、それにより侵入細菌又は感染細胞の殺傷が可能となる。それらは、他の細胞に毒性効果を有する有毒な化学物質及びタンパク質を放出する。活性化されたマクロファージは巨大化し、代謝が亢進し、リソソームタンパク質レベルが上昇し、そして微生物を貪食して殺傷する能力が高まる。活性化されたマクロファージは又、プロテアーゼ、好中球走化性(chemotatic)因子;一酸化窒素及び超酸化物等の活性酸素種;腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン1及びインターロイキン8(IL-1及びIL-8)等のサイトカイン、エイコサノイド、並びに増殖因子を放出する。これら活性化されたマクロファージの産物は、炎症の特徴である、ある種の組織破壊を生じ得る。
【0128】
本明細書で使用される場合の用語「接着性」は、固体基質、例えば組織培養フラスコの底に付着する接着性細胞の性質に関する。対照的に、懸濁性細胞は、培養培地中に懸濁され、浮遊して増殖するので機械的又は化学的に取り出す必要はない。
【0129】
本明細書で使用される場合の「膜状仮足」は、細胞の前縁にある突出部である。それは、準2次元アクチン網を含む。糸状仮足は、膜状仮足内の指様構造であり、膜状仮足の先端を越えて広がるため、そこから伸長する。
【0130】
「精製」及び「単離」は、ポリペプチド又はヌクレオチド配列に言及する場合、他の生物学的高分子の実質的な不在下で、示された分子が存在することを意味する。「細胞又は細胞の集団」に言及する場合、この用語は、他の細胞又は細胞集団の実質的な不在下で、その細胞又は細胞集団が存在することを意味する。本明細書で使用される場合の用語「精製された」は、好ましくは重量又は数で少なくとも75%、更に好ましくは重量又は数で少なくとも85%、更に好ましくは重量又は数で少なくとも95%、及び最も好ましくは重量又は数で少なくとも98%の、同じ種類の生物学的高分子又は細胞が存在することを意味する。特定のポリペプチドをコードする「単離された」核酸分子は、対象ポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指すが、しかしこの分子は、組成物の基本的特徴に悪影響を与えない幾つかの追加的塩基又は部分を含み得る。
【0131】
本明細書で使用される場合の用語「腫瘍」、「腫瘍細胞」、「がん」、及び「がん細胞」は、細胞増殖の制御の著しい喪失(即ち、細胞分裂の調節解除、並びに/又は、正常な組織編成及び構造の破壊/無視により特徴付けられる異常増殖表現型を呈するような、相対的に自律的な増殖を示す細胞を指す。腫瘍細胞は悪性又は良性であり得るが、がん細胞は悪性である。「転移性細胞又は組織」は、その細胞が近位及び遠位の身体構造に浸潤し、定着し、そして破壊できることを意味する。
【0132】
本明細書で使用される場合の「固形腫瘍」は、非血液系腫瘍である。固形腫瘍は、良性(「がん」ではない)又は悪性(がん)でもよい。固形腫瘍の異なる種類は、それを形成する細胞種にちなんで命名される。固形腫瘍の例は、肉腫、癌腫、及びリンパ腫であるが、白血病(血液がん)は一般的に固形腫瘍を形成しない。
【0133】
本明細書で使用する場合の用語「対象」は、ヒトを指す。
【0134】
本発明の文脈での用語「治療する」又は「治療」は、本明細書で使用される場合、この用語を適用する疾患若しくは病状、又はその疾患若しくは病状の1以上の症状を、逆転させる、緩和する、進行を阻害する、又は予防することを意味する。
【0135】
本明細書で使用される場合の用語「キメラ抗原受容体」は、細胞外認識ドメイン(例えば抗原特異的ターゲッティング領域)、膜貫通ドメイン、及び1以上の細胞内シグナル伝達ドメインの融合体である。細胞外認識ドメインによる抗原関与の際に、CARの細胞内シグナル伝達部分は、免疫細胞内で、例えば細胞溶解性分子の放出等の活性化関連応答を開始して、腫瘍細胞死等を誘導することができる。
【0136】
本明細書で使用される場合の用語「エクスビボ」は、生体の外側を意味する。
【0137】
本明細書で使用される場合の用語「インビトロ」は、生体の外側であって実験室環境内を意味する。例えば、「インビトロ」培養される細胞は、制御され、多くの場合は人工培地中で培養される。
【0138】
本明細書で使用される場合の「自家由来」は、個体自身の細胞を称する用語である。例えば、自家由来輸血では、その患者自身の血液が採血され、その体内へ再注入される。
【0139】
本明細書で使用される場合の「同種他家」は、個体自身の細胞ではないヒト細胞を称する用語である。例えば、同種他家の幹細胞移植は、その患者自身の身体由来の幹細胞を使用する自家由来幹細胞移植とは異なる。
【0140】
全ての数値表記、例えば、pH、温度、時間、濃度、及び分子量は、範囲を含めて、0.1刻みで変化する(+)又は(-)近似値である。常に明示されているわけではないが、全ての数値表記は、その前に用語「約」があることを理解されたい。同様に、常に明示されているわけではないが、本明細書に記載した試薬は単なる例示であること、及びそのような試薬の均等物は当分野で公知であることも理解されたい。
【0141】
本発明は、本明細書に記載された特定の材料及び方法に限定されないことを理解されたい。又、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろうことを理解されたい。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形の言及をも含む。他に明記しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。次の参考文献は、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を当業者に提供し、本明細書で他に明記しない限り、昇順の優先順位でランク付けされている:Singletonらの文献、「微生物学及び分子生物学の辞書(Dictionary of Microbiology and Molecular Biology)」(第3版、2006)、「ゲノム用語小辞典(The Glossary of Genomics Terms)」JAMA. 2013;309(14):1533-1535、「(Janewayの免疫生物学(Janeway’s免疫生物学)」第9版、並びに、「実用的フローサイトメトリー(Practical Flow Cytometry)」第4版、H.M. Shapiro編。
【0142】
本明細書で挙げられた全ての文献は、その刊行物に記載され、本発明に関連して使用し得る、細胞株、プロトコル、試薬、及びベクターを説明し、かつ開示する目的で挙げられている。本明細書のいかなる内容も、先行発明によるそのような開示よりも、本発明が先行する権利がないと認めるものとして解釈されるべきではない。
【0143】
(詳細な説明)
本発明は、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する前記マクロファージに関する。本発明のマクロファージは抗腫瘍形成性であり、そのためマクロファージ細胞療法、特に抗がん療法に有用である。
【0144】
特に、本発明のヒトマクロファージは、M-CSF及びIL-4の組合せにより、並びに/又は、M-CSF及びIL-4及びIL-13の更なる組合せにより、M2極性化に抵抗性を有する。
【0145】
M2極性化に抵抗性を有するとは、例えば、本発明のヒトマクロファージが、M-CSF及び/又はIL-4及び/又はIL-13へ、24時間、特に48時間、例えば72時間以上曝された後ですら、M1マクロファージの通常の特徴を有することを意味する。例えば、マクロファージは、50 ng/ml M-CSF及び/若しくは20 ng/ml IL-4へ、24時間、又は更に、例えば50 ng/ml M-CSF及び/若しくは20 ng/ml IL-4へ48時間、例えば72時間曝されでもまだ、M1マクロファージの通常の特徴を少なくとも1つ含み得る。好ましい本発明のマクロファージは、50 ng/ml M-CSF及び40 ng/ml IL-4及び20 ng/ml IL-13の組合せへ24時間曝された後、及び特に48時間、又は更に72時間曝された後ですら、少なくとも1つの、例えば少なくとも2、3、4、又は更には5つのM1マクロファージの通常の特徴(複数可)を示す。
【0146】
本発明のヒトマクロファージは、その遺伝子発現プロファイルにより特徴付けることができる。M1マクロファージの通常の特徴は、例えばHLA-DRA遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DRA mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DRA mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0147】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、HLA-DRB5遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DRB5 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DRB5 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0148】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、HLA-DPA1遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DPA1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DPA1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0149】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、HLA-DQA1遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DQA1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DQA1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0150】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、RXFP2遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のRXFP2 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRXFP2 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0151】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、CD74遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のCD74 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD74 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、又は更に少なくとも16倍高い。
【0152】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、CD70遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のCD70 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD70 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、又は更に少なくとも16倍高い。
【0153】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、CD38遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のCD38 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD38 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、又は更に少なくとも16倍高い。
【0154】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、IL15遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のIL15 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL15 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも2倍高く、例えば少なくとも2.5倍高い。
【0155】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、IL18遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のIL18 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL18 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも6倍高い。
【0156】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、IL23A遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のIL23A mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL23A mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも6倍高い。
【0157】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、APOBEC3A遺伝子の発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のAPOBEC3A mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるAPOBEC3A mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも5倍高い。
【0158】
本発明のヒトマクロファージの、好ましい通常の特徴は、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB5遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、及びHLA-DQB1遺伝子の発現である。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の前記遺伝子に対応するそれぞれのmRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高い。
【0159】
本発明のヒトマクロファージの、好ましい通常の特徴は、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB5遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、RXFP2遺伝子、及びCD74遺伝子の発現である。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の前記遺伝子に対応するそれぞれのmRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍高い。
【0160】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、RNASE1遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のRNASE1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRNASE1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。「64倍低い」とは、本発明のヒトマクロファージ中のRNASE1 mRNAのコピー数が、対応する野生型マクロファージ中のRNASE1 mRNAのコピー数のたった1/64であることを意味する。
【0161】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、CD28遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のCD28 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD28 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0162】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、LYVE1遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のLYVE1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるLYVE1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0163】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、C5AR1遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のC5AR1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるC5AR1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、更に少なくとも25倍低い。
【0164】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、FCGBP遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のFCGBP mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるFCGBP mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0165】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、F13A1遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のF13A1 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるF13A1 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0166】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、QPCT遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のQPCT mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるQPCT mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0167】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、DUSP6遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のDUSP6 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるDUSP6 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも6倍低い。
【0168】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、CCL7遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のCCL7 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCCL7 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍低い。
【0169】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、RNF128遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のRNF128 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRNF128 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0170】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば、IL10遺伝子のダウンレギュレートされた発現でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のIL10 mRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL10 mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0171】
本発明のヒトマクロファージの、好ましい通常の特徴は、RNASE1遺伝子、CD28遺伝子、及びLYVE1遺伝子のダウンレギュレートされた発現である。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の前記遺伝子に対応するそれぞれのmRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現よりも、例えば少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0172】
本発明のヒトマクロファージの、別の好ましい通常の特徴は、一方でのHLA-DRA遺伝子、HLA-DRB5遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、及びHLA-DQB1遺伝子のアップレギュレートされた発現、並びに、もう一方でのRNASE1遺伝子、CD28遺伝子、及びLYVE1遺伝子のダウンレギュレートされた発現である。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の前記アップレギュレートされた遺伝子に対応するそれぞれのmRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現よりも、少なくとも4倍高く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、又は更に少なくとも32倍高く、一方、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の前記ダウンレギュレートされた遺伝子に対応するそれぞれのmRNAの発現レベルは、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現よりも、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、例えば少なくとも16倍、少なくとも32倍、又は更に少なくとも64倍低い。
【0173】
本発明のヒトマクロファージの、他の好ましい通常の特徴は、少なくとも10倍アップレギュレート(それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるそれぞれのmRNAの発現と比べて)された、下記遺伝子組合せ:組合せ(A)HLA-DRA及びRXFP2、組合せ(B)HLA-DRA及びCD74、組合せ(C)HLA-DOA及びRXFP2、組合せ(D)HLA-DOA及びCD74、組合せ(E)HLA-DPA1及びRXFP2、組合せ(F)HLA-DPA1及びCD74、組合せ(G)HLA-DRA及びRXFP2及びCD74、組合せ(H)HLA-DOA及びRXFP2及びCD74、並びに、組合せ(I)HLA-DPA1及びRXFP2及びCD74、の発現である。
【0174】
本発明のヒトマクロファージの、他の好ましい通常の特徴は、少なくとも50倍ダウンレギュレート(それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージにおけるそれぞれのmRNAの発現と比べて)された、下記遺伝子組合せ:組合せ(m)RNASE1及びLYVE1、組合せ(n)RNASE1及びFCGBP、組合せ(o)RNASE1及びCD28、組合せ(p)RNASE1及びF13A1、組合せ(q)RNASE1及びRNF128、組合せ(r)LYVE1及びCD28、組合せ(s)LYVE1及びFCGBP、組合せ(t)LYVE1及びF13A1、組合せ(u)LYVE1及びRNF128、組合せ(v)CD28及びF13A1、並びに、組合せ(w)CD28及びRNF128、の発現である。
【0175】
本発明のヒトマクロファージの、他の好ましい通常の特徴は、下記に記載された組合せでの組合せのような1つの遺伝子組合せのアップレギュレートされた発現及び他の1つの遺伝子組合せのダウンレギュレーションである:Am(すぐ上に記載されているA及びm、即ちHLA-DRA及びRXFP2の両方(A)の少なくとも10倍アップレギュレートされた発現と、RNASE1及びLYVE1の両方(m)の少なくとも50倍ダウンレギュレートされた発現との組合せである)、An、Ao、Ap、Aq、Ar、As、At、Au、Av、Aw、Bm、Bn、Bo、Bp、Br、Bq、Bs、Bt、Bu、Bv、Bw、Vm、Cn、Co、Cp、Cq、Cr、Cs、Ct、Cu、Cv、Cw、Dm、Dn、Do、Dp、Dq、Dr、Ds、Dt、Du、Dv、Dw、Em、En、Eo、Ep、Eq、Er、Es、Et、Eu、Ev、Ew、Fm、Fn、Fo、Fp、Fq、Fr、Fs、Ft、Fu、Fv、Fw、Gm、Gn、Go、Gp、Gq、Hr、Hs、Ht、Hu、Hv、Hw、Im、In、Io、Ip、Iq、Ir、Is、It、Iu、Iv、及びIw。
【0176】
本発明のヒトマクロファージは、サイトカイン及び/又は酵素の培養培地への、それら分泌のプロファイルにより特徴付けられてもよい。或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばIL23Aの分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるIL23Aの分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるIL23Aの分泌よりも、例えば少なくとも3倍高く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、6倍、又は更に8倍高い。
【0177】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばIL18の分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるIL18の分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるIL18の分泌よりも、例えば少なくとも3倍高く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、6倍、又は更に8倍高い。
【0178】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばIL15の分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるIL15の分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるIL15の分泌よりも、例えば少なくとも2倍高く、例えば少なくとも3倍、例えば少なくとも4倍高い。
【0179】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばRNASE1のダウンレギュレートされた分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるRNASE1の分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるRNASE1の分泌よりも、例えば少なくとも3倍低く、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも7倍、10倍、又は更に30倍低い。
【0180】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばFCGBPのダウンレギュレートされた分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるFCGBPの分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるFCGBPの分泌よりも、例えば少なくとも3倍低く、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも7倍、10倍、又は更に30倍低い。
【0181】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばCCL7のダウンレギュレートされた分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるCCL7の分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるCCL7の分泌よりも、例えば少なくとも3倍低く、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも7倍、10倍、又は更に20倍低い。
【0182】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えばIL10のダウンレギュレートされた分泌でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージによるIL10の分泌は、それ以外は均等な培養条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージによるIL10の分泌よりも、例えば少なくとも3倍低く、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも7倍、10倍、又は更に30倍低い。
【0183】
本発明のヒトマクロファージの、別の好ましい通常の特徴は、従って、一方でのIL18及び/又はIL23Aのアップレギュレートされた分泌、並びに、RNASE1及び/又はFCGBP及び/又はIL10及び/又はCCL7のダウンレギュレートされた分泌である。
【0184】
本発明のヒトマクロファージは又、その細胞表面マーカーにより特徴付けられてもよい。或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーMHC IIの存在でもよく、又は、更に具体的にはHLAクラスIIタンパク質、例えばHLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、及びHLA-DQB1からなる群から選択されるタンパク質の存在でもよく、そして、特に本発明のマクロファージの表面上のHLA-DRAの存在でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上の、抗体アクセス可能なMHC IIタンパク質、例えばHLA-DRAの数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上の、抗体アクセス可能なMHC IIタンパク質の数よりも、例えば少なくとも3倍多く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、8倍、又は更に10倍多い。
【0185】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーCD74の存在でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のCD74の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のCD74の数よりも、例えば少なくとも3倍多く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、6倍、又は更に8倍多い。
【0186】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーCD70の存在でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のCD70の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のCD70の数よりも、例えば少なくとも3倍多く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、6倍、又は更に8倍多い。
【0187】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーCD2の存在でもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のCD2の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のCD2の数よりも、例えば少なくとも3倍多く、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも5倍、6倍、又は更に8倍多い。
【0188】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーCD28のダウンレギュレーションでもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のCD28の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のCD28の数よりも、例えば少なくとも2倍少なく、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍、8倍、又は更に10倍少ない。
【0189】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーLYVE1のダウンレギュレーションでもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のLYVE1の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のLYVE1の数よりも、例えば少なくとも2倍少なく、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍、8倍、又は更に10倍少ない。
【0190】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーSTAB1のダウンレギュレーションでもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のSTAB1の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のSTAB1の数よりも、例えば少なくとも2倍少なく、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍、8倍、又は更に10倍少ない。
【0191】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーLILRB5のダウンレギュレーションでもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のLILRB5の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のLILRB5の数よりも、例えば少なくとも2倍少なく、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍、8倍、又は更に10倍少ない。本発明の目的のために、免疫染色アッセイにおけるシグナル強度を、特定種の細胞表面マーカー数を表すものとして採用した。
【0192】
或いは、又は追加的に、M1マクロファージの通常の特徴は、例えば細胞表面マーカーCD163のダウンレギュレーションでもよい。特に、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージの細胞表面上のCD163の数は、それ以外は均等な培養条件及び及び免疫染色条件で試験したそれ以外は同一の野生型マクロファージの細胞表面上のCD163の数よりも、例えば少なくとも2倍少なく、例えば少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍、8倍、又は更に10倍少ない。本発明の目的のために、免疫染色アッセイにおけるシグナル強度を、特定種の細胞表面マーカー数を表すものとして採用した。
【0193】
特に好ましい本発明のヒトマクロファージは、表面マーカーMHC II、CD70、及びCD74の少なくとも1つ、好ましくは2つ、又は3つ全てが陽性であるが、表面マーカーCD28、LYVE1、STAB1、CD163及びLILRB5の少なくとも1つ、好ましくは2つ、例えば3、4、又は5つ全てが陰性である。
【0194】
好ましい表面マーカーの組合せは、HLA-DR及びCD74に陽性だが、LYVE1に陰性;HLA-DR及びCD70に陽性だが、LYVE1に陰性;HLA-DR及びCD74に陽性だが、CD28に陰性;HLA-DR及びCD70に陽性だが、CD28に陰性;HLA-DR及びCD74に陽性だが、CD163に陰性;HLA-DR及びCD70に陽性だが、CD163に陰性;HLA-DR及びCD70に陽性だが、STAB1に陰性;HLA-DR及びCD74に陽性だが、STAB1に陰性;HLA-DR及びCD70に陽性だが、LILRB5に陰性;HLA-DR及びCD74に陽性だが、LILRB5に陰性;LYVE1及びSTAB1に陰性だが、HLA-DRに陽性;LYVE1及びSTAB1に陰性だが、CD70に陽性;LYVE1及びSTAB1に陰性だが、CD74に陽性;LYVE1及びCD163に陰性だが、HLA-DRに陽性;LYVE1及びCD163に陰性だが、CD70に陽性;LYVE1及びCD163に陰性だが、CD74に陽性;LYVE1及びLILRB5に陰性だが、HLA-DRに陽性;LYVE1及びLILRB5に陰性だが、CD74に陽性;LYVE1及びLILRB5に陰性だが、CD70に陽性である。
【0195】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む本発明のヒトマクロファージは又、前記遺伝子発現マーカーのいずれかの組合せ、特に前記好ましい遺伝子発現マーカーのいずれかの組合せであって、前記分泌プロファイル、特に前記好ましい分泌プロファイルを有する、前記組合せにより特徴付けられてもよい。
【0196】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む本発明のヒトマクロファージは又、前記遺伝子発現マーカーのいずれかの組合せ、特に前記好ましい遺伝子発現マーカーのいずれかの組合せであって、前記表面マーカー、特に前記好ましい表面マーカープロファイルを有する、前記組合せにより特徴付けられてもよい。
【0197】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む本発明のヒトマクロファージは又、前記分泌プロファイルのいずれかの組合せ、特に前記好ましい分泌プロファイルのいずれかの組合せであって、前記表面マーカー、特に前記好ましい表面マーカープロファイルを有する、前記組合せにより特徴付けられてもよい。
【0198】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む本発明のヒトマクロファージは又、前記遺伝子発現プロファイルのいずれかの組合せ、特に前記好ましい前記遺伝子発現プロファイルのいずれかの組合せであって、前記表面マーカー、特に前記好ましい表面マーカープロファイルを有し、前記分泌プロファイル、特に前記好ましい分泌プロファイルを有する、前記組合せにより特徴付けられてもよい。
【0199】
本発明のヒトマクロファージは、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む。変異は、遺伝子を非機能化することができ、及び/又は遺伝子発現を阻害することも、更には遺伝子発現を消滅させることもできる。
【0200】
変異は、挿入又はフレームシフトでも良い。しかし、好ましい変異は、欠失、例えばプロモーター、エクソン、又はスプライス部位内の欠失である。数塩基対のみの小欠失でも遺伝子機能への効果を有することがあるが、好ましくは欠失は、少なくとも50塩基対、例えば少なくとも100塩基対、少なくとも200塩基対、少なくとも500塩基対、又は、更に少なくとも1,000塩基対の欠失である。
【0201】
好ましい本発明のヒトマクロファージは、少なくとも2つの異なる変異を含み、好ましくはその2つの変異は、少なくとも2つの異なる遺伝子内の欠失である。
【0202】
前述の通り、本発明は、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する前記マクロファージに関する。本発明は、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む細胞のための新たな選択可能な表現型であって、そのためにスクリーニング可能となり、その結果、その変異がマクロファージをM-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するものとする未知の遺伝子を特定可能とする、前記表現型を提供する。従って、遺伝子の性質は、その遺伝子の両アレル変異が所望の表現型を生成するならば、特に制限されない。しかし、好ましい本発明のヒトマクロファージは、M-CSF、IL-4、IL-10及び/又はTGFB1仲介型の、C2TAのダウンレギュレーションに関与する遺伝子、例えば負の制御因子、そして特にC2TAの負の転写制御因子中に両アレル変異を有する。好ましくは遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択され、そして特に、STAT6、IRF4、TMEM106A、MAFB、及びMAFからなる群から選択される。
【0203】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む好ましい本発明のヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージは、変異した遺伝子がMAFBであるマクロファージである。MAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。MAF及び/又はMAFB以外の転写因子が更に削除された場合、マクロファージ機能が損なわれる可能性があり、又は、人工万能性幹細胞のマクロファージへの分化が不可能となるかもしれない。例えば、Buchrieserらは、転写因子RUNX1又はSPI1の欠失を有する人工万能性幹細胞は、iPS細胞由来マクロファージへ分化できないことを示した。
【0204】
変異した遺伝子がMAFBである、好ましい本発明のヒトマクロファージは又、欠失の性質及びサイズにより特徴付けることもできる。例えば、全ての欠失はMAFBのエクソン部分にあっても良い。例えば、欠失は、それぞれ50塩基対を超え、例えばそれぞれ少なくとも100塩基対、又はそれぞれ少なくとも250塩基対でも良い。例えば、MAFB遺伝子の又はその遺伝子内の欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えばそれぞれ500塩基対~3,000塩基対、特に700塩基対~2,000塩基対でも良い。変異した本発明の遺伝子がMAFBである、好ましい本発明のヒトマクロファージは、1以上の、例えば全ての、これら欠失を示し得る。
【0205】
変異した遺伝子がMAFBである、好ましい本発明のヒトマクロファージは又、特定の染色体中の欠失位置により特徴付けることもできる。例えば、MAFB欠失は、好ましくはヒト22番染色体上40685000~40690000、例えば40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300の領域内である。
【0206】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む好ましい本発明のヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージは、変異した遺伝子がMAFであるマクロファージである。MAFは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAFは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAFは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。
【0207】
変異した遺伝子がMAFである、好ましい本発明のヒトマクロファージは又、欠失の性質及びサイズにより特徴付けることもできる。例えば、全ての欠失はMAFのエクソン部分にあっても良い。例えば、欠失は、それぞれ50塩基対を超え、例えばそれぞれ少なくとも100塩基対、又はそれぞれ少なくとも250塩基対でも良い。例えば、MAF遺伝子の又はその遺伝子内の欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えばそれぞれ500塩基対~3,000塩基対、特に700塩基対~2,000塩基対でも良い。変異した本発明の遺伝子がMAFである、好ましい本発明のヒトマクロファージは、1以上の、例えば全ての、これら欠失を示し得る。
【0208】
変異した遺伝子がMAFである、好ましい本発明のヒトマクロファージは又、特定の染色体中の欠失位置により特徴付けることもできる。例えば、MAF欠失は、好ましくはヒト16番染色体上79593000~79602000、例えば79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900の領域内である。
【0209】
染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む好ましい本発明のヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージは、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが、好ましくは少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されているマクロファージである。本発明者らは、ヒト細胞中のMAFB及びMAF遺伝子発現の阻害は、マウス細胞よりも驚くほど困難であることを実証したが、その理由の1つは、二重欠損細胞に対する遺伝学的アプローチがヒト細胞の選択肢で取れないからである。CRISPR/Cas9ベースでのアプローチにおける遺伝子当り1つのガイドRNAの使用は、過去に他の遺伝子の遺伝子発現を不活性化する多くの成功例を提供しているが(例えばChuらの文献(2016))、CRISPR/Cas9アプローチでMAFB遺伝子及びMAF遺伝子のそれぞれに1つのガイドRNAを使用して小さな欠失を作成することによってMAFB遺伝子及びMAF遺伝子の両方を非機能化させる幾つかの試みでは、インビトロで増殖が観察される細胞は得られなかった。驚くべきことに、遺伝子当り2つのガイドRNAの使用が、少なくとも50塩基対の大きな欠失を発生させ、増殖する貪食細胞を提供することに成功した。これらの細胞は、非腫瘍形成性であるという追加的な利点を有した。MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。
【0210】
MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルが非機能化されている、好ましい本発明のヒトマクロファージは又、欠失の性質及びサイズにより特徴付けることもできる。例えば、全ての欠失はMAFB遺伝子及びMAF遺伝子のエクソン部分にあっても良い。例えば、欠失は、それぞれ50塩基対を超え、例えばそれぞれ少なくとも100塩基対、又はそれぞれ少なくとも250塩基対でも良い。例えば、MAFB遺伝子及びMAF遺伝子の又はそれら遺伝子内の欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えばそれぞれ500塩基対~3,000塩基対、特に700塩基対~2,000塩基対でも良い。安定したM1極性化を有する本発明のヒトマクロファージは、1以上の、例えば全ての、これら欠失を示し得る。
【0211】
安定したM1極性化を有する好ましい本発明のヒトマクロファージは又、特定の染色体中の欠失位置により特徴付けることもできる。例えば、MAFB欠失は、好ましくはヒト22番染色体上40685000~40690000、例えば40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300の領域内である。例えば、MAF欠失は、好ましくはヒト16番染色体上79593000~79602000、例えば79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900の領域内である。
【0212】
M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する本発明のヒトマクロファージは、細胞操作によって作成してもよい。本発明のヒトマクロファージが由来し得る細胞は、ヒトマクロファージに発達する前駆細胞である細胞、例えば、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系又はCD34+多能性前駆細胞;並びに、髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系又はCD34+前駆細胞、からなる群から選択される細胞でもよい。M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する、本発明のヒトマクロファージは又、マクロファージに由来、特に肺胞マクロファージ又は脂肪組織由来のマクロファージ等、比較的容易に入手可能なマクロファージに由来してもよい。本発明のヒトマクロファージが由来してもよい好ましい細胞は、ヒトiPS細胞である。本発明のヒトマクロファージが由来してもよい別の好ましい細胞は、CMP(骨髄系共通前駆細胞)である。本発明のヒトマクロファージが由来してもよい別の好ましい細胞は、GMP(顆粒球/マクロファージ前駆細胞)である。
【0213】
ヒト人工万能性幹細胞の作成は、現在当分野で充分に確立されている。例えば、Isogaiらの文献(2018)は、ヒト血液単球からのiPS細胞の作成を記載している。Fusaki N.らの文献(2009)は、改変したセンダイウイルスでのヒトiPS細胞株の産生を記載している。特に、ヒト人工万能性幹細胞をマクロファージ分化の出発材料として使用する場合、MAF及び/又はMAFBが、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子(複数可)であることが好ましい。或いは、MAF及び/又はMAFBが両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子であることが好ましい。或いは、MAF及び/又はMAFBが、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子であることが好ましい。遺伝子が更に削除された場合、マクロファージ機能は損なわれる可能性があり、又は、人工万能性幹細胞のマクロファージへの分化が不可能となるかもしれない。
【0214】
遺伝子の両アレル変異のためのヒト単核食細胞は又、白血球のアフェレーシス及びエルトリエーションにより得ることができるヒト初代血液単球から、又は培養条件が当分野で周知の単球由来マクロファージから、得ることができる。ヒトマクロファージは又、気管支肺胞洗浄から得ることも、臍帯血から得られたCD34+造血幹細胞及び前駆細胞、末梢血又は骨髄から動員された幹細胞を、当分野で周知の分化プロトコルを用いて分化させることにより得ることもできる。
【0215】
Cas9及びgRNAは、当分野で周知の、公的に販売されているDNA発現プラスミド(例えば、Santa Cruz社Sc-418922、https://www.scbt.com/de/p/control-crispr-cas9-plasmid)により発現できる。DNA発現プラスミドは、エレクトロポレーション又は当分野で周知の脂質ベースのトランスフェクションプロトコルによって、ヒト単核食細胞標的細胞内に導入できる。Cas9及びgRNAは又、エレクトロポレーションによってリボ核/タンパク質複合体として標的細胞内に導入できる。Cas9/gRNAを介した遺伝子編集が、その方法を用いて単核食細胞で実証されており(Zhangらの文献(2020);Wangらの文献(2018);Freundらの文献(2020))、マクロファージに分化するヒトCD34+造血幹細胞及び前駆細胞で実証されている(Scharenbergらの文献(2020))。標的遺伝子、例えばMAFB遺伝子及びMAF遺伝子は又、操作される部位を標的とするリコンビナーゼを使用して削除可能であり(Lansingらの文献(2020);Karpinskiらの文献(2016))、これは、当分野で公知の方法、例えばタンパク質、コードmRNA又はDNA発現プラスミドのエレクトロポレーションによって導入可能であり、単核食細胞内の遺伝子編集のために使用されている(Shiらの文献(2018))。
【0216】
Gonzalez F.らの文献(2014)は、AAVS1遺伝子座へのドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセットの導入に基づく、ヒト万能性幹細胞の迅速で、多重化可能で、かつ誘導性ゲノム編集のためのiCRISPRプラットフォームを記載している。この戦略は、誘導性Cas9発現カセットを、多種多様な、自己作成した又は公的に入手可能なヒトiPS細胞株に導入するために使用できる。このように操作した細胞株は次に、選択した遺伝子、例えばMAF及び/又はMAFBをターゲッティングするために使用できる。
【0217】
MAF及びMAFBの両方が非機能化された本発明のヒトマクロファージは、非腫瘍形成性であることが判明した。核型分析は、これらは46本の染色体を含み、それらの染色体はいずれも染色体再構成を示さないことを示した。従って、これらの細胞はマクロファージベースの細胞治療に有用である。
【0218】
本発明のヒトマクロファージは、上述のM2誘導因子、例えばM-CSF及び/又はIL-4の存在下で培養されたとしても、好ましくはM1様表現型を維持する。好ましくは、ヒトマクロファージは、下記に挙げる25のM1表現型マーカーの少なくとも2つ、例えば少なくとも4つ、少なくとも6つ、少なくとも8つ、少なくとも10、少なくとも15、又は全てを維持する。好ましいM1表現型マーカーは、それぞれ、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける対応する遺伝子の発現レベルと比べて、HLA-DRA遺伝子の少なくとも4倍高い発現、HLA-DRB5遺伝子の少なくとも4倍高い発現、HLA-DPA1遺伝子の少なくとも4倍高い発現、HLA-DQA1遺伝子の少なくとも4倍高い発現、HLA-DQB1遺伝子の少なくとも4倍高い発現、RXFP2遺伝子の少なくとも4倍高い発現、CD74遺伝子の少なくとも4倍高い発現、CD38遺伝子の少なくとも4倍高い発現、CD2遺伝子の少なくとも4倍高い発現、IL18遺伝子の少なくとも4倍高い発現、IL23A遺伝子の少なくとも4倍高い発現;それぞれ、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける対応する遺伝子の発現レベルと比べて、RNASE1遺伝子の少なくとも4倍低い発現、CD28遺伝子の少なくとも4倍低い発現、LYVE1遺伝子の少なくとも4倍低い発現、FCGBP遺伝子の少なくとも4倍低い発現、STAB1遺伝子の少なくとも4倍低い発現、LILRB5遺伝子の少なくとも4倍低い発現、F13A1遺伝子の少なくとも4倍低い発現、QPCT遺伝子の少なくとも4倍低い発現、RNF128遺伝子の少なくとも4倍低い発現、CCL7遺伝子の少なくとも4倍低い発現;それぞれ、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける対応するタンパク質の分泌レベルと比べて、IL-18の少なくとも3倍高い分泌、IL23の少なくとも3倍高い分泌;それぞれ、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける対応するタンパク質の分泌レベルと比べて、RNASE1の少なくとも3倍低い分泌、FCGBPの少なくとも3倍低い分泌、F13A1の少なくとも3倍低い分泌、CCL7の少なくとも3倍低い分泌;細胞表面マーカーHLA-DRAの存在、細胞表面マーカーHLA-DRB5の存在、細胞表面マーカーHLA-DPA1の存在、細胞表面マーカーHLA-DPB1の存在、細胞表面マーカーHLA-DQA1の存在、細胞表面マーカーHLA-DQB1の存在、細胞表面マーカーCD64の存在、細胞表面マーカーCD70の存在、細胞表面マーカーCD2の存在、細胞表面マーカーCD74の存在、細胞表面マーカーRXFP2の存在、細胞表面マーカーCD28の不存在、細胞表面マーカーLYVE1の不存在、及び細胞表面マーカーCD163の不存在、からなる群から選択することができる。
【0219】
これらマーカーは、インビトロ腫瘍細胞の存在下ですら維持可能である。
【0220】
本発明は又、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージのコレクションであって、該ヒトマクロファージはM-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する、前記ヒトマクロファージのコレクションに関する。このような細胞のコレクションは、下記で「本発明のヒトマクロファージのコレクション」と称されることもある。本発明のヒトマクロファージのコレクションは、好ましくは多数の細胞のコレクションであり、例えば細胞数は少なくとも100,000、少なくとも1,000,000、例えば少なくとも10,000,000、例えば少なくとも100,000,000である。
【0221】
本発明のヒトマクロファージのコレクションは、CD8T細胞及び/又はNK細胞を、インビボで腫瘍に対して動員可能であると記載できる。驚くべきことに、本発明のヒトマクロファージのコレクションは、既にインビボで確立された腫瘍、例えば、腹膜内で、肺内で、又は肝臓内で確立された腫瘍の塊を縮小できる。好ましくは本発明のヒトマクロファージのコレクションは、確立された腫瘍の退縮を誘導する。
【0222】
本発明のヒトマクロファージのコレクションは又、ヒトマクロファージの機能的特徴により特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるマクロファージは、貪食可能であることにより特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、活性化されると活性酸素種を産生できることにより特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、そのリソソーム内で検出可能なプロテアーゼ活性により特徴付けることができる。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、脂質取り込みが可能なことにより特徴付けることができる。
【0223】
本発明のコレクションに含まれるヒトマクロファージは、1以上の、例えば全ての、これら機能的特徴を示し得る。
【0224】
本発明のヒトマクロファージのコレクションは、形態的特徴付け可能なヒトマクロファージを含むことにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、顕微鏡下で大きな空胞化細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、接着性形態を有する細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。例えば、コレクションに含まれるヒトマクロファージは、膜状仮足及び/又は糸状仮足を特徴とする細胞として現れることにより特徴付けられてもよい。コレクションに含まれるヒトマクロファージは、1以上の、例えば全ての、これら形態的特徴により特徴付けることができる。
【0225】
本発明のヒトマクロファージのコレクションに含まれるヒトマクロファージは、細胞治療薬としての医学的使用を意図される。従って、ヒトマクロファージは、非腫瘍形成性であることにより特徴付けることができる。例えば、本発明のヒトマクロファージのコレクションは、46本の染色体のみを有する細胞からなることにより特徴付けることができる。例えば、本発明のヒトマクロファージのコレクションは、染色体再構成された染色体を有する細胞の不存在により特徴付けることができる。これらの特徴は、例えば、コレクションに含まれる充分な数の細胞、例えば少なくとも30個の細胞、少なくとも40個の細胞、又は少なくとも50個の細胞の核型分析によって決定することができる。本発明のヒトマクロファージの腫瘍形成性を評価する試験では、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスの肺中への少なくとも8×106細胞の気管内注入は、その動物の肺に視認可能な腫瘍の形成を生じなかったことを観察した。従って、本発明のヒトマクロファージのコレクションは、免疫無防備状態にしたhuPAPマウスの肺に移植しても、4週間後に動物の肺を検査した時に、腫瘍を形成していないことにより特徴付けることができる。
【0226】
本発明のヒトマクロファージのコレクションは又、コレクション中で所望の細胞数が達成されるまで、適切な条件下で増殖させることもできる。枯渇的増殖期後に、得られたヒト貪食細胞のコレクションは、そのような増殖によって取得可能であり、例えば上記疾患の治療用の、医薬に使用することもできる。
【0227】
本発明は又、がん治療、特にがんは固形腫瘍である治療、での使用のための、本発明のヒトマクロファージ及び/又は本発明のヒトマクロファージのコレクションに関する。本発明者らは驚くべきことに、M2極性化に関与している染色体の遺伝子、例えばMAFB及び/又はMAFの両方のアレルに少なくとも1つの変異が生じることにより、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージが作成可能であり、本発明のマクロファージは、直接的及び間接的な抗腫瘍活性を有することを発見した。
【0228】
ヒトマクロファージ及び/又はヒトマクロファージのコレクションを細胞治療として使用する場合、マクロファージは、治療される患者に関して自家由来でもよい。自家由来設定の場合、マクロファージは、好ましくは、骨髄系共通前駆細胞又は顆粒球/マクロファージ前駆細胞由来である。しかし、好ましくは、ヒトマクロファージ及び/又はヒトマクロファージのコレクションは、治療される患者に関して同種他家である。同種他家設定の場合、マクロファージは人工万能性幹細胞株由来が好ましい。人工万能性幹細胞株がHLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1に関してホモ接合型である幹細胞株は、レシピエント患者との免疫適合性がより高いため、特に有用である。これは、HLA遺伝子ヘテロ接合型である細胞株よりも、HLA遺伝子ホモ接合型である細胞株とHLA-適合するレシピエントを見つけるのが容易だからである。HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1遺伝子の組合せは、遺伝子組換え並びに環境要因による外部圧力によりランダムではないために連鎖不均衡が生じる。Taylorらの文献(2012)によると、2010年WHOのHLA命名規則報告書を参照すると、21種のHLA-A、44種のHLA-B、及び15種のHLA-DRB1のスプリット特異性があり、合計13860のHLA組合せが生じる。これらのHLA組合せは、いずれか特定の国の住民間に均等に分布しているわけではなく、ホモ接合型ドナーの幾つかのHLA組合せは、他国の住民内よりも、より多数の適合可能性レシピエントとのHLA適合を生じる。例えば、英国住民内で最も多くの適合可能なレシピエントが見つかる2つのホモ接合型HLA組合せは、HLA-A1、HLA-B8、HLA-DRB1-17(3)及びHLA-A2、HLA-B44(12)、HLA-DRB1-4である。従って、人工万能性幹細胞株がHLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1のホモ接合型であって、HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1組合せが、欧州連合の住民、米国の住民、中国の住民、及び日本の住民からなる群から選択される集団内で最も頻繁な組合せ10種中の一つである場合に、そのようなiPS細胞株が好ましい。
【0229】
本発明は又、本発明のヒトマクロファージ及び/又は本発明のヒトマクロファージのコレクションをがん罹患ヒト対象に投与することを含む、がん罹患ヒト対象の治療方法に関する。
【0230】
目的とする特定の医学的使用に応じて、本発明のヒトマクロファージ及び/又は本発明のヒトマクロファージのコレクションに含まれるヒトマクロファージは、更に遺伝子組換えされてもよい。
【0231】
本発明は又、本発明のヒトマクロファージのコレクションを含む医薬組成物を提供する。細胞治療のための医薬として許容し得る送達方法及び製剤は、当分野では説明されている。細胞は、医薬として許容し得るキャリア、例えば緩衝液、例えば、約20%ヒト血清アルブミンを補充したPBS若しくはPBS/EDTA、又はクエン酸塩血漿、又はPlasmalyte-A pH 7.4(Baxter社、約2% HSAを補充)中に、懸濁することができる。本発明のマクロファージ用の医薬として許容し得るキャリアは、細胞の生存に適合性がある。キャリアは、生理学的濃度のNaClを含み得る。
【0232】
本発明は又、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する、本発明のマクロファージを生成する方法であって、
(a)ヒトiPS細胞において、染色体上に位置する選択された標的遺伝子の両方のアレル内に少なくとも1つの変異を生じる工程;
(b)単一細胞由来のコロニーを単離する工程;
(c)単一細胞由来のコロニーをマクロファージへ分化する工程;
(d)M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージのコロニーを特定する工程を含む、前記方法に関する。
【0233】
前記のように、好ましい変異は、50塩基対を超える欠失である。このような場合、二本鎖切断は、通常、部位特異的エンドヌクレアーゼ又はリコンビナーゼ、例えば少なくとも2つのガイドRNAと組合せたCas-9によって引き起こされる。
【0234】
好ましくは、変異工程(a)のための標的細胞は、iPS細胞、単球、又はマクロファージであり、特に標的細胞は、iPS細胞;血液単球;臍帯血由来の、単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;骨髄由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞;成人血液由来の動員された単芽球、骨髄系若しくはCD34+多能性前駆細胞、例えば骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、マクロファージ/樹状細胞前駆細胞、又は共通単球前駆細胞;髄外造血由来の単球、単芽球、骨髄系若しくはCD34+前駆細胞;肺胞マクロファージ;並びに脂肪組織マクロファージからなる群から選択される。工程(a)の標的細胞のための好ましい1例は、ヒト人工万能性幹細胞である。工程(a)の標的細胞のための他の好ましい例は、骨髄系共通前駆細胞又は顆粒球/マクロファージ前駆細胞である。
【0235】
選択した標的遺伝子内に両アレル変異、例えば標的遺伝子の両方の染色体コピー内に少なくとも50塩基対の欠失、を有する細胞、例えばiPS細胞(例えばMAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルに欠失を有するiPS細胞)を選択した後、それらを通常は(実施例11に詳述したマクロファージへ分化後のiPS細胞の場合)適切な培地内で、例えばM-CSFの存在下で培養する。iPS細胞由来マクロファージの培養条件の例は実施例11に記載されている。
【0236】
次に、マクロファージのコロニーを、M1マクロファージの典型的な1以上のマーカーの存在について試験できる。好ましくは、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージのコロニーは、表面マーカーの存在及び/又は不存在によって特定され、例えば、細胞表面マーカーHLA-DRAの存在、細胞表面マーカーHLA-DRB5の存在、細胞表面マーカーHLA-DPA1の存在、細胞表面マーカーHLA-DPB1の存在、細胞表面マーカーHLA-DQA1の存在、細胞表面マーカーHLA-DQB1の存在、細胞表面マーカーCD64の存在、細胞表面マーカーCD74の存在、細胞表面マーカーCD70の存在、細胞表面マーカーCD28の不存在、細胞表面マーカーLYVE1の不存在、細胞表面マーカーCD163の不存在、からなるリストから選ばれる、少なくとも4、少なくとも6、又は少なくとも8の特徴によって特定される。
【0237】
或いは又は追加的に、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージのコロニーは、タンパク質の分泌及び/又は分泌の不存在によって特定可能であり、例えば、IL18の分泌、IL23の分泌、RNASE1分泌の不存在、FCGBP分泌の不存在、F13A1分泌の不存在、CCL7分泌の不存在、PPBP分泌の不存在、からなるリストから選ばれる、少なくとも4、少なくとも6、又は少なくとも8の特徴によって特定される。
【0238】
本発明は又、マクロファージを腫瘍細胞による再分極に抵抗性を有するものとする遺伝子を特定するためのスクリーニング方法であって、
(a)iPS細胞の染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む、該iPS細胞のコレクションを作成する工程;
(b)単一細胞由来のコロニーを単離する工程;
(c)単一細胞由来のコロニーをマクロファージへ分化する工程;
(d)40 ng/ml IL-4及び50 ng/ml M-CSFの組合せへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を含む、マクロファージのコロニーを特定する工程;
(e)変異した遺伝子を特定する工程、
を含む、前記方法に関する。
【0239】
スクリーニングのための好ましい出発細胞は、ヒトiPS細胞であり、工程(d)における目的のコロニーを特定する好ましい手段は、本発明のマクロファージ作成方法に関して上述の通りの、表面マーカーの存在及び/又は不存在の試験である。
【0240】
本発明は又、染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異、特に少なくとも1つの欠失を含む、ヒト人工万能性幹細胞、又は、ヒト胚性幹細胞、又は、ヒト骨髄系共通前駆細胞、又は、ヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞、特にヒト人工万能性幹細胞であって、該遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択され、特にSTAT6、IRF4、TMEM106A、MAFB及びMAFからなる群から選択され、そして最も好ましくは、MAF及びMAFBからなる群から選択されるものに関する。その例は、ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞又はヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞、特にヒト人工万能性幹細胞であって、MAFBの両方のアレル及び/又はMAFの両方のアレルが、例えば少なくとも50塩基対の、欠失により非機能化されているものである。本発明者らは驚くべきことに、MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレル欠失により非機能化されている幹細胞は、それらがヒトプロフェッショナル食細胞へ分化可能であるために、プロフェッショナル貪食細胞の作成における、そして特にマクロファージの作成における、有用な中間体であることを見出した。好ましくは、本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞、又はヒト骨髄系共通前駆細胞、又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞における全ての欠失は、エクソンDNAを含む。
【0241】
特に欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対、例えばそれぞれ少なくとも250塩基対である。
【0242】
例えば、欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対、例えば500塩基対~3,000塩基対、又は600塩基対~1,500塩基対である。本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞、又はヒト骨髄系共通前駆細胞、又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞内の、特にヒト人工万能性幹細胞内の、MAFB欠失及び/又はMAF欠失の好ましい位置は、本発明のヒト貪食細胞のために上述した通りである。好ましくは、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択される遺伝子は、該人工万能性幹細胞、又は胚性幹細胞、又はヒト骨髄系共通前駆細胞、又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞内の、特にヒト人工万能性幹細胞内の、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である。
【0243】
MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子であることが好ましい。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である。或いはMAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である。
【0244】
本発明は又、本発明のヒト貪食細胞の生成のための、特にヒトマクロファージの作成のための、ヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞、又はヒト骨髄系共通前駆細胞、又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞の使用、特にヒト人工万能性幹細胞の使用に関する。
【0245】
本発明は又、本発明のヒトマクロファージを含む組成物の作成のための、本発明のヒト人工万能性幹細胞、又はヒト胚性幹細胞、又はヒト骨髄系共通前駆細胞、又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞の使用、特にヒト人工万能性幹細胞の使用に関する。
【0246】
本発明は更に、次の実施態様に関する。
1. 染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージであって、M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有する、好ましくは該ヒトマクロファージは樹状細胞ではなく、更に好ましくは該ヒトマクロファージは樹状細胞でも単球でもない、前記マクロファージ。
2. M-CSF及びIL-4の組合せによるM2極性化に抵抗性を有する、条項1に記載のヒトマクロファージ。
3. M-CSF及びIL-4及びIL-13の組合せによるM2極性化に抵抗性を有する、条項1又は2に記載のヒトマクロファージ。
4. 50 ng/ml M-CSFへ24時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項1~3いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
5. 50 ng/ml M-CSFへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項4に記載のヒトマクロファージ。
6. 20 ng/ml IL-4へ24時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項1~5いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
7. 20 ng/ml IL-4へ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項6に記載のヒトマクロファージ。
8. 40 ng/ml IL-4及び50 ng/ml M-CSFの組合せへ24時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項1~7いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
9. 40 ng/ml IL-4及び50 ng/ml M-CSFの組合せへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項8に記載のヒトマクロファージ。
10. 最後の2時間はGM-CSFが存在しないM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項1~9いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
11. 最後の6時間はGM-CSFが存在しないM1マクロファージの通常の特徴を有する、条項10に記載のヒトマクロファージ。
12. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍高いことであり、該少なくとも1つのmRNAは、HLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DPA1、HLA-DQA1、RXFP2、CD74、CD38、CD2、IL18、及びIL23Aからなるリストから選ばれる、条項4~11いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
13. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一のmRNAの発現と比べて、少なくとも6倍高い、条項12に記載のヒトマクロファージ。
14. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも3つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも3つのmRNAの発現と比べて、少なくとも4倍高いことであり、該少なくとも3つのmRNAは、HLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DPA1、HLA-DQA1、RXFP2、CD74、CD38、CD2、IL18、及びIL23Aからなるリストから選ばれる、条項4~11いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
15. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも3つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも3つのmRNAの発現と比べて、少なくとも6倍高い、条項14に記載のヒトマクロファージ。
16. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも6つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも6つのmRNAの発現と比べて、少なくとも4倍高いことであり、該少なくとも6つのmRNAは、HLA-DRA、HLA-DRB5、HLA-DPA1、HLA-DQA1、RXFP2、CD74、CD38、CD2、IL18、及びIL23Aからなるリストから選ばれる、条項4~11いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
17. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも6つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも6つのmRNAの発現と比べて、少なくとも6倍高い、条項16に記載のヒトマクロファージ。
18. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DRB5 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DRB5 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍高い、条項12~17いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
19. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DPA1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DPA1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍高い、条項12~18いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
20. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DQA1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DQA1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍高い、条項12~19いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
21. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中のHLA-DRA mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるHLA-DRA mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍高い、条項12~20いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
22. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、前記HLA-DRA遺伝子、前記HLA-DRB5遺伝子、前記HLA-DPA1遺伝子、前記HLA-DPB1遺伝子、前記HLA-DQA1遺伝子、及び前記HLA-DQB1遺伝子のそれぞれの発現であって、該HLA-DRA遺伝子、該HLA-DRB5遺伝子、該HLA-DPA1遺伝子、該HLA-DPB1遺伝子、該HLA-DQA1遺伝子、及び該HLA-DQB1遺伝子の発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現と比べて、それぞれ少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍高いことである、条項4~11いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
23. M1マクロファージの通常の特徴は、前記RXFP2遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、RXFP2 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRXFP2 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、又は、更に少なくとも16倍高い、条項4~22いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
24. M1マクロファージの通常の特徴は、前記CD74遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、CD74 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD74 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、又は、更に少なくとも16倍高い、条項4~23いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
25. M1マクロファージの通常の特徴は、前記CD38遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、CD38 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD38 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、又は、更に少なくとも16倍高い、条項4~24いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
26. M1マクロファージの通常の特徴は、前記CD2遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、CD2 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD2 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍、例えば少なくとも8倍、又は、更に少なくとも16倍高い、条項4~25いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
27. M1マクロファージの通常の特徴は、前記IL18遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、IL18 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL18 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍上昇し、例えば少なくとも6倍高い、条項4~26いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
28. M1マクロファージの通常の特徴は、前記IL23A遺伝子の発現であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、IL23A mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるIL23A mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍上昇し、例えば少なくとも6倍高い、条項4~27いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
29. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける該mRNAの発現と比べて、少なくとも10倍低いことであり、該少なくとも1つのmRNAは、RNASE1、CD28、LYVE1、FCGBP、F13A1、QPCT、CCL7、及びRNF128からなるリストから選ばれる、条項4~28いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
30. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、前記少なくとも1つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一のmRNAの発現と比べて、少なくとも50倍低い、条項30に記載のヒトマクロファージ。
31. 前記M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも3つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも3つのmRNAの発現と比べて、少なくとも10倍低いことであり、該少なくとも3つのmRNAは、RNASE1、CD28、LYVE1、FCGBP、F13A1、QPCT、CCL7、及びRNF128からなるリストから選ばれる、条項4~28いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
32. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも3つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも3つのmRNAの発現と比べて、少なくとも50倍低い、条項31に記載のヒトマクロファージ。
33. M1マクロファージの通常の特徴は、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも6つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも6つのmRNAの発現と比べて、少なくとも10倍低いことであり、該少なくとも6つのmRNAは、RNASE1、CD28、LYVE1、FCGBP、F13A1、QPCT、CCL7、及びRNF128からなるリストから選ばれる、条項4~28いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
34. 前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の少なくとも6つのmRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおける同一の少なくとも6つのmRNAの発現と比べて、少なくとも50倍低い、条項33に記載のヒトマクロファージ。
35. M1マクロファージの通常の特徴は、前記RNASE1遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、RNASE1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRNASE1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~34いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
36. M1マクロファージの通常の特徴は、前記CD28遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、CD28 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCD28 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~35いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
37. M1マクロファージの通常の特徴は、前記LYVE1遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、LYVE1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるLYVE1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~36いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
38. M1マクロファージの通常の特徴は、前記FCGBP遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、FCGBP mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるFCGBP mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~37いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
39. M1マクロファージの通常の特徴は、前記F13A1遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、F13A1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるF13A1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~38いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
40. M1マクロファージの通常の特徴は、前記QPCT遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、QPCT mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるQPCT mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~39いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
41. M1マクロファージの通常の特徴は、前記CCL7遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、CCL7 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるCCL7 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも32倍低い、条項4~40いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
42. M1マクロファージの通常の特徴は、前記C5AR1遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、C5AR1 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるC5AR1 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、又は、更に少なくとも25倍低い、条項4~41いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
43. M1マクロファージの通常の特徴は、前記RNF128遺伝子の発現の減少であって、前記染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージ中の、RNF128 mRNAの発現が、それ以外は同一の野生型マクロファージにおけるRNF128 mRNAの発現と比べて、少なくとも4倍低く、例えば少なくとも8倍、少なくとも16倍、少なくとも32倍又は、更に少なくとも64倍低い、条項4~42いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
44. M1マクロファージの通常の特徴は、IL23Aの分泌である、条項4~43いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
45. M1マクロファージの通常の特徴は、IL18の分泌である、条項4~44いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
46. M1マクロファージの通常の特徴は、IL18及びIL23Aの分泌である、条項4~45いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
47. M1マクロファージの通常の特徴は、RNASE1のダウンレギュレートされた分泌である、条項4~46いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
48. M1マクロファージの通常の特徴は、FCGBPのダウンレギュレートされた分泌である、条項4~47いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
49. M1マクロファージの通常の特徴は、RNASE1及びFCGBPのダウンレギュレートされた分泌、並びにIL18及びIL23Aのアップレギュレートされた分泌である、条項4~48いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
50. 前記表面マーカーHLA-DRAに陽性である、条項1~49いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
51. 前記表面マーカーHLA-DPA1に陽性である、条項1~50いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
52. 前記表面マーカーHLA-DQA1に陽性である、条項1~51いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
53. 前記表面マーカーHLA-DRB5に陽性である、条項1~52いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
54. 前記表面マーカーCD74に陽性である、条項1~53いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
55. 前記表面マーカーCD2に陽性である、条項1~54いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
56. 前記表面マーカーCD28に陰性である、条項1~55いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
57. 前記表面マーカーLYVE1に陰性である、条項1~56いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
58. 前記表面マーカーSTAB1に陰性である、条項1~57いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
59. 前記表面マーカーLILRB5に陰性である、条項1~58いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
60. 前記表面マーカーHLA-DRに陽性であるが、前記表面マーカーCD28及びLYVE1に陰性である、条項1~59いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
61. 前記表面マーカーHLA-DR及びCD74に陽性であるが、前記表面マーカーCD28、LYVE1、STAB1、及びLILRB5に陰性である、条項1~60いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
62. 前記変異は、前記遺伝子を非機能化する、条項1~61いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
63. 前記変異は、遺伝子発現を阻害する、条項1~61いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
64. 前記変異は、遺伝子発現を消滅させる、条項1~61いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
65. 前記変異は欠失である、条項1~64いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
66. 前記欠失は、プロモーター、エクソン、又はスプライス部位にある、条項65に記載のヒトマクロファージ。
67. 前記欠失は、少なくとも50塩基対の欠失である、条項65又は66に記載のヒトマクロファージ。
68. 少なくとも2つの異なる変異を含む、条項1~67いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
69. 前記変異は、少なくとも2つの異なる遺伝子内の欠失である、条項68に記載のヒトマクロファージ。
70. 前記変異は、挿入又はフレームシフトである、条項1~64又は68いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
71. 前記遺伝子は、M-CSF、IL-4、IL-10、及び/又はTGFB1仲介型のC2TAのダウンレギュレーションに関与する遺伝子である、条項1~70いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
72. 前記遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARγ、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBβ、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、及びAKT1からなる群から選択される、条項1~71いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
73. 前記遺伝子は、C2TA転写の負の制御因子をコードする、条項の1~72いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
74. 前記遺伝子はMAFBである、条項の1~73いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
75. 前記変異は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内の変異である、条項74に記載のヒトマクロファージ。
76. 前記変異は、ヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内の変異である、条項75に記載のヒトマクロファージ。
77. MAFBは、少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている条項74~76いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
78. 前記欠失は、少なくとも100塩基対の欠失である、条項77に記載のヒトマクロファージ。
79. 前記欠失は、少なくとも250塩基対の欠失である、条項77又は78に記載のヒトマクロファージ。
80. 前記欠失は、100塩基対~10,000塩基対の欠失である、条項77~79いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
81. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対の欠失である、条項80に記載のヒトマクロファージ。
82. 更に遺伝子MAF中の変異を含む、条項74~81いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
83. 前記MAF中の変異は欠失である、条項82に記載のヒトマクロファージ。
84. 前記遺伝子はMAFである、条項1~73いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
85. 前記変異は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内の変異である、条項84に記載のヒトマクロファージ。
86. 前記変異は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内の変異である、条項85に記載のヒトマクロファージ。
87. MAFは、少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている条項84~86いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
88. 前記欠失は、少なくとも100塩基対の欠失である、条項87に記載のヒトマクロファージ。
89. 前記欠失は、少なくとも250塩基対の欠失である、条項87又は88に記載のヒトマクロファージ。
90. 前記欠失は、100塩基対~10,000塩基対の欠失である、条項88又は89に記載のヒトマクロファージ。
91. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対の欠失である、条項90に記載のヒトマクロファージ。
92. 更に遺伝子MAFB中の変異を含む、条項84~91いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
93. 前記MAFB中の変異は欠失である、条項92に記載のヒトマクロファージ。
94. 前記2つの遺伝子はMAFB及びMAFである、条項69に記載のヒトマクロファージ。
95. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルは、少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、条項94に記載のヒトマクロファージ。
96. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項95に記載のヒトマクロファージ。
97. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項94~96いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
98. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項94~96いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
99. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項94~98いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
100. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対である、条項94~99いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
101. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項94~100いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
102. 前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内である、条項101に記載のヒトマクロファージ。
103. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項94~102いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
104. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内である、条項103に記載のヒトマクロファージ。
105. 非腫瘍形成性である、条項1~104いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
106. 46本の染色体を有する、条項1~105いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
107. 染色体再構成を伴う染色体を含まない、条項1~106いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
108. 少なくとも2つの、例えば少なくとも4つの、M1表現型マーカーの発現を、腫瘍細胞の存在下で、インビトロで維持する、条項1~107いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
109. 両アレル性欠失を含む、染色体上に位置する前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項1~108いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
110. 両アレル性欠失を含む、染色体上に位置する前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項1~109いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
111. 両アレル性欠失を含む、染色体上に位置する前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む該転写因子コード遺伝子である、条項1~110いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
112. MAF及び/又はMAFBが、両アレル性欠失を含む唯一の前記転写因子コード遺伝子(複数可)である、条項1~111いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
113. MAF及び/又はMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の前記タンパク質をコードしている遺伝子(複数可)である、条項1~112いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
114. MAF及び/又はMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の前記遺伝子(複数可)である、条項1~113いずれか1項に記載のヒトマクロファージ。
115. 染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージのコレクションであって、T細胞及び/又はNK細胞を、インビボで腫瘍に対して動員可能である、前記ヒトマクロファージのコレクション。
116. 前記腫瘍は、腹膜内で確立された腫瘍である、条項115に記載のヒトマクロファージのコレクション。
117. 前記腫瘍は、肺内で確立された腫瘍である、条項115に記載のヒトマクロファージのコレクション。
118. 前記腫瘍は、肝臓内で確立された腫瘍である、条項115に記載のヒトマクロファージのコレクション。
119. 染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒトマクロファージのコレクションであって、確立された腫瘍の退縮を、インビボで誘導する、前記ヒトマクロファージのコレクション。
120. 条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
121. 前記ヒトマクロファージの数は少なくとも1,000,000個である、条項115~120いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
122. 前記ヒトマクロファージの数は少なくとも10,000,000個、例えば少なくとも100,000,000個である、条項121に記載のヒトマクロファージのコレクション。
123. 前記マクロファージの数が適切な培養条件下で少なくとも10倍増大可能である、条項115~122いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
124. 前記マクロファージの数が適切な培養条件下で少なくとも20倍増大可能である、条項115~123いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
125. 医薬品としての使用のための、条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージ、及び/又は条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
126. がん治療での使用のための、条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージ、及び/又は条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
127. 前記がんは固形腫瘍である、条項126に記載の使用のための、条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージ、及び/又は条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクション。
128. 前記マクロファージは、治療される患者に関して自家由来である、条項125~127いずれか1項に記載の医薬品としての使用のためのヒトマクロファージ、及び/又は該ヒトマクロファージのコレクション。
129. 前記マクロファージは、治療される患者に関して同種他家である、条項125~127いずれか1項に記載の医薬品としての使用のためのヒトマクロファージ、及び/又は該ヒトマクロファージのコレクション。
130. 条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージ、及び/又は条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションをがん罹患ヒト対象に投与する、がん罹患ヒト対象の治療方法。
131. 前記マクロファージは治療される患者に関して自家由来である、条項130に記載の治療方法。
132. 前記マクロファージは治療される患者に関して同種他家である、条項130に記載の治療方法。
133. 前記マクロファージは人工万能性幹細胞株由来である、条項125~129いずれか1項に記載の医学的使用、又は条項130~132いずれか1項に記載の治療方法。
134. 前記人工万能性幹細胞株はHLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1のホモ接合型である、条項133に記載の治療方法。
135. 前記HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRB1の組合せは、欧州連合の住民、米国の住民、中国の住民、及び日本の住民からなる群から選択される住民内で最も頻繁な組合せ10個中の一つである、条項132に記載の医学的使用又は治療方法。
136. 条項1~114いずれか1項に記載のヒトマクロファージ、及び/又は条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションを生成する方法であって、
(a)ヒトiPS細胞において、染色体上に位置する選択された標的遺伝子の両方のアレル内に少なくとも1つの変異を生じる工程;
(b)単一細胞由来のコロニーを単離する工程;
(c)単一細胞由来のコロニーをマクロファージへ分化する工程;
(d)M-CSF誘導されたM2極性化に抵抗性を有するマクロファージのコロニーを特定する工程を含む、前記方法。
137. 工程(d)において、マクロファージのコロニーは、50 ng/ml M-CSFへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を含むことで特定される、条項136に記載の方法。
138. 工程(d)において、マクロファージのコロニーは、40 ng/ml IL-4及び50 ng/ml M-CSFの組合せへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を含むことで特定される、条項136に記載の方法。
139. M1マクロファージの通常の特徴は、HLA-DRA遺伝子の上昇した発現である、条項136~138いずれか1項に記載の方法。
140. M1マクロファージの通常の特徴は、IL18及びIL23Aの分泌である、条項136~139いずれか1項に記載の方法。
141. M1マクロファージの通常の特徴は、前記マクロファージは、前記表面マーカーHLA-DRA及びCD74に陽性であるが、前記表面マーカーCD28及びLYVE1に陰性である、条項136~140いずれか1項に記載の方法。
142. マクロファージを腫瘍細胞による再分極に抵抗性を有するものとする遺伝子を特定するためのスクリーニング方法であって、
(a)iPS細胞の染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含む、該iPS細胞のコレクションを作成する工程;
(b)単一細胞由来のコロニーを単離する工程;
(c)単一細胞由来のコロニーをマクロファージへ分化する工程;
(d)40 ng/ml IL-4及び50 ng/ml M-CSFの組合せへ48時間曝された後にM1マクロファージの通常の特徴を含む、マクロファージのコロニーを特定する工程;
(e)変異した遺伝子を特定する工程、
を含む、前記方法。
143. 工程(d)において、マクロファージのコロニーは、IL18及びIL23Aを分泌することで特定される、条項142に記載の方法。
144. 工程(d)において、マクロファージのコロニーは、前記表面マーカーHLA-DRA及びCD74に陽性であるが、前記表面マーカーCD28及びLYVE1に陰性であることで特定される、条項142~143いずれか1項に記載の方法。
145. 染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞であって、該遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択され、かつ、該変異は欠失である、前記ヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
146. 前記遺伝子は、STAT6、IRF4、TMEM106A、MAFB、及びMAFからなる群から選択される、条項145に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
147. 前記遺伝子は、MAF及びMAFBからなる群から選択される、条項145又は146に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
148. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルは、欠失、特に少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、条項145~147いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
149. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項145~148いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
150. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項145~149いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
151. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項145~150いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
152. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項145~151いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
153. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対である、条項145~152いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
154. 前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項145~153いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
155. 前記遺伝子は両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項145~154いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
156. 前記遺伝子はMAFBであり、前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項145~155いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
157. 前記MAFB欠失はヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内である、条項156に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
158. 前記遺伝子はMAFであり、前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項145~155いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
159. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内である、条項158に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
160. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項156~159いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
161. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項156~159いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
162. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項156~159いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞。
163. ヒト貪食細胞の生成のための、条項145~162いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞の使用。
164. 前記ヒト貪食細胞はヒトマクロファージである、条項163に記載の使用。
165. 前記ヒトマクロファージは非腫瘍形成性であり、エクスビボで適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができる、条項164に記載の使用。
166. 条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションの作成のための、条項145~165いずれか1項に記載のヒト人工万能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞の使用。
167. 染色体上に位置する遺伝子の両方のアレルに少なくとも1つの変異を含むヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞であって、該遺伝子は、STAT6、IRF4、PPARg、MAFB、MAF、KLF4、C/EPBb、GATA3、JMJD3、SOCS2、SOCS1、TMEM106A、及びAKT1からなる群から選択され、かつ、該変異は欠失である、共通の前記ヒト骨髄性前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
168. 前記遺伝子は、STAT6、IRF4、TMEM106A、MAFB、及びMAFからなる群から選択される、条項167に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
169. 前記遺伝子は、MAF及びMAFBからなる群から選択される、条項167又は168に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
170. MAFBの両方のアレル及びMAFの両方のアレルは、欠失、特に少なくとも50塩基対の欠失により非機能化されている、条項167~169いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
171. 全ての欠失はエクソンDNAを含む、条項167~170いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
172. 前記欠失は、それぞれ少なくとも100塩基対である、条項167~171いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
173. 前記欠失は、それぞれ少なくとも250塩基対である、条項167~172いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
174. 前記欠失は、それぞれ100塩基対~10,000塩基対である、条項167~173いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
175. 前記欠失は、500塩基対~3,000塩基対、例えば600塩基対~1,500塩基対である、条項167~174いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
176. 前記遺伝子は、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項167~175いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
177. 前記遺伝子は両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項167~176いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
178. 前記遺伝子はMAFBであり、前記MAFB欠失は、ヒト22番染色体上40685000~40690000領域内である、条項167~177いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
179. 前記MAFB欠失はヒト22番染色体上40685200~40689800、例えば40685400~40689600、例えば40685600~40689400、そして特に40685700~40689300領域内である、条項178に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
180. 前記遺伝子はMAFであり、前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593000~79602000領域内である、条項167~179いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
181. 前記MAF欠失は、ヒト16番染色体上79593200~79601500、例えば79593400~79601100、そして特に79593600~79600900領域内である、条項180に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
182. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の転写因子コード遺伝子である、条項178~181いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
183. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一のタンパク質コード遺伝子である、条項178~181いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
184. 前記遺伝子はMAF及びMAFBであり、MAF及びMAFBは、両アレル性欠失を含む唯一の遺伝子である、条項178~181いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞。
185. ヒト貪食細胞の生成のための、条項167~184いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞の使用。
186. 前記ヒト貪食細胞はヒトマクロファージである、条項185に記載の使用。
187. 前記ヒトマクロファージは非腫瘍形成性であり、エクスビボで適切な培養条件下で少なくとも4個の孫細胞を生じることができる、条項186に記載の使用。
188. 条項167~184いずれか1項に記載のヒト骨髄系共通前駆細胞又はヒト顆粒球/マクロファージ前駆細胞の作成のための、条項115~124いずれか1項に記載のヒトマクロファージのコレクションの使用。
【0247】
本発明の実施は、他に明記しない限り、当業者の範囲内である、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を使用する。このような技術は、例えば「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第4版(Sambrookらの文献、2012);「実験免疫学ハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」(Weirの文献、1997);「分子生物学ショートプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」(Ausubelの文献、2002);「ポリメラーゼ連鎖反応:原理、応用及び問題処理(Polymerase Chain Reaction:Principles, Applications and Troubleshooting)」(Babarの文献、2011);「現在の免疫学プロトコル(Current Protocols in Immunology)」(Coliganの文献、2002)等の文献で詳述されている。これらの技術を、本発明の作成及び実施において考慮することができる。
【0248】
当業者であれば、本明細書に記載された本発明が、具体的に記載されたもの以外の変形及び改変が可能であることを認識するであろう。本発明は、その思想若しくはその本質的な特徴から逸脱することなく、そのような変形及び改変を全て含むことを理解されたい。本発明は又、本明細書で個別に又はまとめて、言及又は示された、工程、特徴、組成物、及び化合物の全て、並びに、該工程若しくは特徴のいずれか及び全ての組み合せ、又は任意の2つ以上を含む。従って、本開示は、示された全ての態様を考慮されるべきであり、限定的なものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、そして、均等の意味及び範囲内に入る全ての変更はその中に包含されることが意図される。
【0249】
本明細書全体を通じて様々な参考文献が引用されており、それらそれぞれは参照により本明細書にその全体として組み込まれている。
【0250】
上記説明は、下記実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、そのような実施例は本発明を実施する方法の例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0251】
(実施例)
Azizらの文献、2009は、マウスにおいてMafB及びc-Mafの組み合せの欠乏は、単球及びマクロファージを含む全ての系統が生成可能であるため、血球新生に悪影響を及ぼさないことを示した(Azizらの文献、2009)。その代わり、その欠失は、分化された表現型又は機能の欠損なしに、マウス成熟マクロファージの増殖期間を延長可能にした(Azizらの文献、2009)。
【0252】
我々は、ID8卵巣腫瘍モデル又はB16メラノーマ腫瘍モデルにおけるMaf-DKOマクロファージの役割を調査した。そのために、腫瘍担持マウスをMaf-DKOマウスマクロファージで処置して、マウスMaf-DKOマクロファージが初期の腫瘍増殖及び腫瘍増殖の確立を阻害することを示した。更に、我々のインビトロ結果は、Maf-DKOマクロファージがM1様表現型を持ち、通常のM2刺激によってはM2様表現型へ再分極されないことを実証した。重要なことであるが、腫瘍細胞も又、マウスMaf-DKOマクロファージを再分極させない。
【0253】
我々は次に、ヒトMAF/MAFB DKOマクロファージを作成した。インビトロ実験で、マウスMaf-DKOマクロファージと同様に、ヒトMAF/MAFB DKOマクロファージは、安定したM1様表現型を持ち、通常のM2刺激又は腫瘍細胞によってはM2様表現型へ再分極されないことを確認した。MAF/MAFB DKOマクロファージは、我々の知る限り、染色体の遺伝子の両方のアレルの機能喪失変異により、腫瘍により誘導される再分極に抵抗性を示すヒトマクロファージの最初の例である。更に一般的には、このことは、M2誘導に必要な染色体の遺伝子の両方のアレルの機能喪失変異により、安定した抗腫瘍分極の状態にあるヒトマクロファージが、細胞治療、例えば腫瘍細胞治療に有用であることを示す。
【0254】
(マウスMafB/c-Maf DKOマクロファージ)
(材料及び方法)
マウス:全ての実験に、雌マウス(C57BL/6又はRag2γcノックアウト)、6~8週齢を使用した。マウスはCIML(マルセイユ・ルミニー免疫学センター(Centre d'Immunologie de Marseille Luminy))で、フランス及び欧州連合の指令に従い特定病原体除去条件下で飼育されたものである。
【0255】
細胞株:マウス卵巣がん細胞株ID8及びB16メラノーマ細胞株を、10 %ウシ胎児血清(FCS)、1 %ペニシリン及びストレプトマイシンを補充したDMEM培地で、37℃、5 % CO2下で培養した。細胞はトリプシンで週2回継代した。
【0256】
マウスマクロファージの作成:マウスマクロファージは、野生型マウス又はMafダブルノックアウトマウスの骨髄由来であり、DMEM培地で10~12日間、補充は10% FBS、10~50 ng/ml rMCSF又は20 % M-CSF L929細胞馴化IMDM/0.5FCS培地(LCM社)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、50 ug/mlペニシリン/ストレプトマイシン、5%CO2下、37℃で培養した。Maf-DKO初代細胞株(血液から選別(Azizらの文献、2009))を、2日ごとに部分的培地交換して4日ごとに継代した。
【0257】
腫瘍担持マウス内へのマクロファージの養子細胞移入:6~8週齢C57BL/6雌マウスに5×106 ID8-Luc細胞を腹腔内(i.p.)注射した。マウスは直ちにマクロファージ処置するか、又は、マクロファージ移入前に14日間腫瘍を確立させた。5×106個のWTマクロファージ又はMaf-DKOマクロファージを、マウスにi.p.移入したが、移入は、4回連続でそれぞれ第0日、2日、4日、及び6日、又は、第14日、16日、18日、及び20日で繰り返し、直後処置又は遅延処置を行った。腫瘍進行を評価するため、第27日にマウスを切開後、ID8細胞をフローサイトメトリーでカウントし、細胞ライセート中のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0258】
100μl PBS中の1×105個のB16-F10(又はB16-Luc)細胞を、眼に静脈(i.v.)注射した。上述のとおり、マウスは1×106マクロファージで直後処置又は第7日腫瘍発生後のいずれかで処理した。マクロファージ処置は、連続して4回繰り返した。腫瘍注入後第14日にマウスを犠牲にし、肺及び肝臓を摘出した。肺及び肝臓の表面視認可能な転移性コロニー数をカウントした。
【0259】
生物発光画像作成:Berthold technologies 社のNight-Owlにより、生物発光画像作成を実施した。マウスにルシフェリン溶液(マウス1匹あたり3mg)をi.p.注射し、発光ピークが得られるまで(10分間)画像化を行った。全光束値を、目的の解剖学的領域から得た。データを、相対光単位(RLU)光子放出/s/mm2として示した。画像は、(ID8モデルでは)第0~第27日間又は(B16モデルでは)第0~第14日間の腫瘍発生の動態を撮像した。
【0260】
ルシフェラーゼアッセイ:ルシフェラーゼアッセイを、promega社のルシフェラーゼアッセイシステム(TB281)を用いて実施した。簡単に説明すると、細胞を1×PBSで洗浄し、該システムに含まれている細胞溶解緩衝液20μlで溶解した。次に、細胞を100μlのルシフェラーゼアッセイ試薬中に懸濁させ、発生した光をルミノメーターで測定した。
【0261】
腹腔由来細胞の単離:犠牲にした後、10mlのPBSで腹腔内を洗浄することにより、腹腔浸出液から細胞を得た。赤血球溶解緩衝液で5分間、室温でインキュベートして、赤血球を除去した。マルチカラーフローサイトメトリーを用いて、腹腔内の細胞含有量を評価した。全集団の遺伝子発現はqPCRで評価した。
【0262】
フローサイトメトリー分析:細胞懸濁液をFACS緩衝液(2mM EDTA及び0.5%FCSを含むPBS1X)に再懸濁した。全てのサンプルを、1:100 CD16/32(2.4G2、BD PharMingen社)でブロックしてから、CD45、CD11b(M1/70)、F4/80、CD3e、Ly6G(1A8)、NK1.1、CD19、CD8α、及びMHCIIに対する抗体で、氷上で表面染色した。細胞の絶対数は、絶対数獲得前に、各サンプルに20μlの較正済みマイクロビーズ懸濁液を加えることにより測定可能であった。フローサイトメトリー分析及び細胞選別は、LSRII及びFACSAria(Becton Dickinson社)で行った。
【0263】
M1/M2インビトロ刺激:200,000個のWT BMDMマクロファージ又はMaf-DKOマクロファージを、20 ng/mlのマウス組換えM-CSF(rMCSF)を含むDMEM培地内でインキュベートした。次に、細胞を100 ng/ml LPS(8時間)若しくは100 ng/ml IFNγ(8時間)、又は20 ng/ml IL-4で24時間刺激した。マクロファージ刺激を、ID8の馴化培地由来の上清50%存在又は非存在下で行なう。72時間培養後にID8の馴化培地を回収した。表示時点後に、上清を採取してCBAによりサイトカイン産生を評価し、細胞をRLTにより溶解して遺伝子発現をQPCRにより評価した。条件を下表に要約する。
【表3】
【0264】
RNA抽出及び逆転写:腹膜細胞全集団、CD11b+CD45+Lin-選別マクロファージ、又はインビトロ刺激されたマクロファージを、上述の時点で回収した。細胞をPBSで洗浄し、β-MEを含むRLT緩衝液中で溶解した。RNAを、Qiagen RNeasyミニキット(Qiagen Biotech社)を製造者の指示に従って使用して抽出した。RNA量をNanoDropにより測定した。
【0265】
各サンプルのRNA 500 ngを逆転写に使用した。ヌクレアーゼフリー滅菌水に、1μlのOligodt(500μg/ml)、1μlのdNTPミックス(それぞれ10mM)を加えて、最終体積12μlとした。この混合物を65℃に加熱してRNA変性させ、急速冷却して変性形態を維持させた。簡単な遠心分離後、4μlのファーストストランド緩衝液(5×)、2μlの0.1M DTT、及び1μlのRNaseOut(40単位/μl、Invitrogen社由来)を添加した。この混合物を42℃で2分間インキュベート後、1μlのSuper-ScriptII逆転写酵素(200単位、Invitrogen社由来)を添加した。次に、混合物を42℃で50分間インキュベートした。逆転写酵素を、70℃で15分間加熱して不活化した。
【0266】
定量的PCR:cDNAを1:10に希釈し、希釈したcDNA 2μlを使用して定量的PCRを実施した。SyberGreen(Applied Biosciences社)2Xマスターミックスを使用して、製造者の指示に従いQPCRを実施した。QPCRに使用するプライマーを下表に列記する。
【0267】
CBA:サイトカイン・ビーズ・アレイ:サイトカインを、BD Biosciences社「マウス炎症性CBA」キット、カタログ番号552364及びCanto IIを製造者の指示に従って使用して分析した。サンプルの上清は、希釈せずに分析した。
【0268】
統計分析:全ての実験は三連で実行し、代表データを示す。結果は、GraphPad prismソフトウェアを使用して、スチューデントのT検定を使用して、統計的有意性について試験したものである。
【0269】
(結果)
(実施例1)
(MafB及びc-Mafダブルノックアウトマクロファージは、腫瘍の初期増殖を抑制する。)
我々は以前、MafB及びc-Mafのダブルノックアウト(Maf-DKO)マウスマクロファージが、M-CSF刺激を受けると、機能喪失又は悪性の形質転換無しにエクスビボで永久に増殖できることを示した(Azizらの文献、2009)。TAMの生態におけるMafB及びc-Mafの役割を評価するために、マウスMaf-DKOマクロファージ処置したID8卵巣腫瘍細胞の発達を検査した。最初に、腫瘍確立の初期段階におけるマクロファージの役割を調査した。
【0270】
ID8マウス卵巣表面上皮細胞株は、ヒト卵巣がん用の同系のマウスモデルとしてしばしば使用される。ホタルルシフェラーゼを発現したID8がん細胞を、野生型C57BL6マウスに第0日にi.p.注射し、そのマウスを第0、1、2、3日に、野生型骨髄由来マクロファージ(WT)若しくはMaf-DKO骨髄由来マクロファージ(BM-DKO)のいずれかで処置し、又は、未処置のままとした(図1a)。腫瘍の進行は、養子細胞移入後第0日~27日間の示された日数で、生物発光画像作成によりインサイチュで評価した(データ示さず)。未処置の腫瘍担持マウスは、放出された光子の定量化によって評価されるように、第4~27日に悪性腹水を発症する。同様に、WT骨髄由来マクロファージ(WT-BMDM)で処置した腫瘍担持マウスは、実験期間中にID8腫瘍を発症する。対照的に、骨髄由来Maf-DKOマクロファージ(DKO-BMDM)で処置したマウスは、腫瘍誘導後第27日に腫瘍量の有意な減少を示す。次に、腹膜細胞を溶解してルシフェラーゼアッセイを実施し、腹水中のルシフェラーゼレベルを定量した(図1b)。DKO-BMDM処置群(正方形)は、WT処置群又は未処置群(黒点)と比べてルシフェラーゼレベルが有意に低かった。次に、腫瘍担持マウスの腹膜における腫瘍細胞集団の絶対数を調査した。そのために、図1cに示すように腹膜細胞のフローサイトメトリー分析を実施した。ID8細胞は高いSSC値でありCD45陰性(CD45-)であった。腫瘍細胞数の定量化は、未処置マウス及びWT処置マウスの腹膜ではID8細胞の数が増加していることを示したが、マウスをDKO-BMDMマクロファージで処置すると、この数は有意に減少した。従って、Maf-DKOマクロファージは腹膜腫瘍量を減少させることができた。
【0271】
(実施例2)
(MafB及びc-Maf DKOマクロファージは、確立された腫瘍の退縮を誘導する。)
進行した腫瘍におけるMaf-DKOマクロファージの役割を評価するために、ID8-ルシフェラーゼ腫瘍細胞をC57BL6マウスに第0日にi.p.注射した(図2a)。第14日には、これらのマウスは腹水が悪性で腫瘍が確立されたことが、生物発光により視認可能であった(データ示さず)。次に、WT-BMDM、DKO-BMDM又は血液DKOを2日間隔で4回、養子細胞移入した(図2a)。前述のように、腫瘍の進行は第0~27日の間、表示した日にインサイチュ生物発光画像作成により評価した。放出された光子の生物発光定量化により、未処置の腫瘍担持マウスは第27日に非常に悪性の腹水を有することが示された(データ示さず)。同様に、WT-BMDMで処置したマウスは、第27日に強力な腹膜腫瘍を発症した(データ示さず)。対照的に、DKOマクロファージで処置したマウスは、第27日に著しく減少した生物発光シグナル、従って著しく減少した腫瘍量を示した(データ示さず)。更なる分析のために、第27日にマウスを犠牲にし、ルシフェラーゼアッセイ及びフローサイトメトリーにより腫瘍量を定量した。ルシフェラーゼレベルは、未処置マウスの腹膜細胞が高く、WT-BMDM処置マウスでは更にわずかに高かった(図2b、黒点)が、これは高レベルの腹膜腫瘍量を反映している。一方、DKOマクロファージで処置したマウスは、ルシフェラーゼレベルの減少を示し、これは腫瘍量の減少を反映する(図2b、四角、右列)。腫瘍細胞数の減少を確認するため、フローサイトメトリーにより腹腔内のID8細胞の絶対数を分析した。前述と同様に、ID8細胞をSSChi CD45-細胞として特定した(図2c)。未処置マウス(図2c、左パネル)及びWT-BMDM処置マウスがID8細胞の高い割合を示した一方、Maf-DKO処置マウスは有意に減少したID8細胞の割合を示した(図2c、右パネル)。これらのデータは、Maf-DKOマクロファージが腫瘍と闘い、確立された腫瘍塊すら減少できることを示す。
【0272】
(実施例3)
(腹水の細胞組成)
一般に、腫瘍は、増殖する悪性腫瘍の腫瘍間質に寄与する様々な免疫系細胞から構成されている(Kerkar及びRestifoの文献、2012)。白血球サブセット(例えばT細胞、NK細胞等)が腫瘍発生中に動員されたか否かを決定するため、腫瘍担持マウスの腹水のフローサイトメトリー分析を第27日に実施した。腹膜洗浄液を回収し、腫瘍間質内で最も代表的な細胞であるNK細胞、CD8 T細胞、顆粒球、及びマクロファージを標的とする抗体カクテルで細胞染色した(Kerkar及びRestifoの文献、2012)。
【0273】
最初に、第21日は発がんイニシエーション後であって確立された腫瘍への戦略を使用していたが(図2a)、図3aに示すように、腹膜白血球分画中にマクロファージ以外に、NK細胞及びT細胞、例えばCD8 T細胞を検出できた。これらの細胞集団は、実施例1のようにマウスを直ちにマクロファージで処置した場合には検出されなかった(データ示さず)。未処置マウス又はWT-BMDM処置マウスの腹膜内には、CD8 T細胞の浸潤はほとんど観察されなかった(図3b、丸及び三角形)。しかし、Maf-DKOマクロファージで処置したマウスは、CD8 T細胞集団の有意な増加を示した(図3b、四角形)。更に、Maf-DKO処置マウスでは、未処置マウス又はWT-BMDM処置マウスに比べて、NK細胞の動員が多いことが観察された。これらの結果は、CD8 T細胞及びNK細胞が、Maf-DKOマクロファージにより仲介される腫瘍量減少に関連している可能性を示唆する。
【0274】
次に、CD11b及びF4/80マーカーに基づき、マクロファージの腹膜集団を検査した(図3c)。未処置、WT-BMDM処置、及びMaf-DKO処置の腹腔は、マクロファージで満ちていたが、マクロファージの割合はこの3群間で差はなかった(データ示さず)。従って、先行の、マクロファージ集団内でのMHCIIレベルは変動し、腫瘍を抑制するマクロファージ内では高く、腫瘍を促進するマクロファージ内では低いことを示唆していた研究報告(Wangらの文献、2011)に基づき、マクロファージ集団の活性化状態は異なる可能性があり、それはMaf-DKO処置したマウスの腫瘍塊の減少に関する我々の前記結果を説明するかもしれない、との仮説を立てた。この仮説を検証するため、異なるマクロファージ活性化マーカー(CD80、CD86、CD69、及びMHCII)で腹膜細胞を染色した。Maf-DKO処置マウス由来のマクロファージは全てMHCII+であり(図3d、四角形)、一方、未処置又はWT-BMDM処置マウス由来のマクロファージはごく小さい分画のみがMHCII+であった(図3d、丸及び三角形)ことが観察された。更に、Maf-DKOマクロファージ処置マウスのマクロファージにおけるMHCII+の平均蛍光強度は、未処置マウス又はWT-BMDM処置マウスの、低MHCIIであるMHCII+マクロファージのものと比べて高く(図3e)、このことは、Maf-DKOマクロファージが高MHCIIであることを示唆する。我々のデータは、高MHCIIであるTAMは腫瘍抑制に関係し(Maf-DKOマクロファージの場合)、その一方で低MHCIIのマクロファージは腫瘍促進に関係する(WTマクロファージの場合)ことを示す。
【0275】
(実施例4)
(MafB及びc-Mafの欠乏は、インビボで古典的マクロファージ活性化を導く。)
腫瘍浸潤白血球による、炎症誘発性サイトカイン「対」抗炎症性サイトカインの産生は、腫瘍に対する免疫反応の制御に重要な役割を果たす(Balkwill及びMantovaniの文献、2001)。古典的には、活性化マクロファージ(M1)は、細胞傷害性の炎症誘発性表現型(高IL-12、IL-6、IFNγ、NOS2)を示す一方で、代替的に、活性化マクロファージ(M2)は、IL-10又はアルギナーゼの産生を増加させることにより、免疫反応及び前炎症性反応を抑制する(O'Shea及びMurrayの文献、2008)(Gordonの文献、2003)(Murray及びWynnの文献、2011)(Mantovaniらの文献、2002)。マクロファージの表現型をインビボで解析するために、腫瘍担持マウス(前述と同様に処置したもの)から腹膜マクロファージ(CD11b+Lin-)を選別した。NOS2、C2TA(MHC IIトランスアクチベーター)、IL-6、IL-12、及びIL-10のmRNAレベルを、リアルタイムRTPCRで測定した。
【0276】
Maf-DKO処置マウス由来のCD11b+細胞(図4、縞模様)は、WT処置マウス又は未処置対照マウス由来のもの(それぞれ水玉及び黒色)とは違い、非常に上昇したNOS2、CIITA(C2TA)、及びIL-6 mRNAレベル、並びにIL-12 mRNAレベルを示した(図6a~6d)。対照的に、WT処理マウス由来のCD11b+細胞は、CD11b+選別Maf-DKOマクロファージ細胞と比べて、高いIL-10発現を示す(図6e)。これらの結果をまとめると、Maf-DKOマクロファージは、腫瘍細胞によるM2表現型へのインビボ再教育に対して不応性であることを示す。
【0277】
(実施例5)
(Maf-DKOマクロファージは、インビトロでより強力な古典的M1活性化を示す。)
マクロファージの表現型に関する我々のインビボ結果は、腫瘍担持マウスにおいて、Maf-DKOマクロファージがM1マクロファージに最も類似していることを示す。Maf-DKOマクロファージを更に特徴付けるために、マクロファージ(WT又はMaf-DKO)を公知のM1刺激(LPS、IFNγ)又はM2刺激(IL-4)のいずれかで刺激するインビトロ実験を行った。次に細胞を溶解して、リアルタイムQPCRにより遺伝子発現を測定した。
【0278】
予測されたように、LPSによる刺激でIL-6発現が検出され(図5a)、そしてIL-6 mRNAレベルはWTマクロファージと比べてMaf-DKOマクロファージで非常に高かった(図5a図5ではDKO が水玉であり、WTは縞模様であることに注意)。C2TA(MHCII遺伝子の正の制御因子、M1マーカーである)の発現は、IFNγ、LPSによる刺激で、及び程度は低いがIL-4による刺激でも、WTマクロファージ(図5b縞模様)と比較して、Maf-DKOマクロファージで増加し(図5b水玉模様)、これはMaf-DKOマクロファージの別のM1様表現型の表示である。NOS2の発現も同様に、LPS又はIFNγによる刺激で、WTマクロファージと比較して、Maf-DKOマクロファージで増強された(図5c)。対照的に、M2遺伝子の発現のモニタリングでは、(IL-4及びLPSによる刺激で)IL-10が(図5d)、そしで(IL-4による刺激で)アルギナーゼ(図5e)が、WTマクロファージにおいて高度に発現されるが、Maf-DKOマクロファージでは発現されないことが観察された。これらの結果は、Maf-DKOマクロファージは、古典的なマクロファージ活性化と同様に、M1刺激に対して感受性であるが、M2刺激に対しての感受性は、あったとしてもはるかに低いことを示唆した。
【0279】
(実施例6)
(Maf-DKOマクロファージは、インビトロでの腫瘍細胞による再教育に不応性である。)
次に、我々はMaf-DKOマクロファージがインビトロで腫瘍によって教育され得るか否かを調査した。そのために、ID8上清を含む培地内でWTマクロファージ又はMaf-DKOマクロファージのいずれかを培養することにより、疑似インビボ環境を作成した。CBAにより炎症性サイトカインの産生を確認した(項目「材料及び方法」を参照)。IL-6を、LPSによる刺激で、WTマクロファージ及びMaf-DKOマクロファージの両方によって産生させた(図6aの黒色柱)。WTマクロファージによるIL-6産生レベルは、ID8腫瘍細胞の上清の存在下で劇的に減少した一方、同一条件でMaf-DKOマクロファージによって産生されたレベルは高いままであった(図6a、格子模様の柱)。IL-6と同様に、TNFαは、ID8-SN不存在下でWTマクロファージ及びMaf-DKOマクロファージの両方によって産生される(図6b黒色柱)が、ID8-SNの存在下では、Maf-DKOマクロファージは依然として大量のTNFαを産生する一方で、WTマクロファージはTNFα産生の大幅な減少を示すことが明らかになった(図6b、格子模様の柱)。これらの結果は、Maf-DKOマクロファージがM1様マクロファージであって、腫瘍微小環境によるリプログラミングに対して不応性でありかつ抵抗性を有する一方で、WTマクロファージは腫瘍によってリプログラムされ得ることを示唆する。
【0280】
(実施例7)
(Maf-DKOマクロファージはメラノーマの発生を阻害する。)
別の第二の腫瘍モデルにおけるMaf-DKOマクロファージの抗腫瘍活性を調べるために、これらのマクロファージの、B16メラノーマ発生に対する効果を検査した。実験用転移モデルとして、B16を使用した。B16メラノーマは、転移及び固形腫瘍形成研究のモデルとして、研究に使用されるマウス腫瘍細胞株である。B16腫瘍細胞(1×105)を、C57BL6マウスに後眼窩注射で静脈内(i.v.)移入したところ、肺内に腫瘍が発生した。次にマウスにMaf-DKOマクロファージ、WTマクロファージを注射するか、又は未注射のままにした。マウスは、腫瘍確立後(図7a)にのみ、異なる種類のマクロファージで処置した。第14日にマウスを犠牲にすると、転移性腫瘍が直径1~3mmの黒色色素のコロニーとして現れており、互いに融合する傾向がみられた。腫瘍コロニーの定量化により確認されるように(図7c左パネル)、B16腫瘍細胞が未処置マウスの肺内で膨大な数の腫瘍結節を形成したことが示された(図7b左カラム)。Maf-DKOマクロファージ(図7b右パネル及び7c右カラム)は、未処置対照マウスと比べて腫瘍形成を強く減少させ、かつWT処置マウス(図7b中央パネル及び7c中央カラム)よりも強い効果を示した。従って、MafB及びc-Mafのマクロファージ内不存在は、肺転移を減少させる。
【0281】
これらデータをまとめると、Maf-DKOマクロファージが、予防的及び治療的設定において、腫瘍モデルに関係なく腫瘍発生を抑制できることを示す。
【0282】
(実施例8)
(T細胞、NK細胞、及びB細胞も又、B16メラノーマに対する防御に関与している。)
T細胞、B細胞、及びNK細胞等の他の免疫細胞の、抗腫瘍メカニズムへの寄与の可能性を評価するために、T細胞、B細胞、及びNK細胞を欠損しているRag2γcノックアウトマウスを使用した。ホタル・ルシフェラーゼが発現したB16腫瘍細胞を1×105個、マウスに静脈内注射することにより開始した。注射処理直後(図8a)又は腫瘍確立後である第7日(図8b)に、マウスをMaf-DKOマクロファージ、WTマクロファージを連続4回処置するか、又は未処置のままにした。生物発光画像作成及び腫瘍結節の定量化を使用して、腫瘍増殖をモニタリングした。第14日の生物発光画像化によって証明されたように、全てのマウスに腫瘍が発生する。腫瘍は、WTマウスにおけるB16発生に関する我々の結果(実施例7)と比較すると、肺及び肝臓内に局在化しており、この両方の器官内で転移性コロニー数が増加したことが示された(データは肝臓のみを示す:図8c~8f)。未処置マウス及びWT処置マウスの肺及び肝臓両方で、B16腫瘍細胞が強く浸潤していることが示された(肝臓のデータを示す。図8c)。重要なことは、Maf-DKOマクロファージで直ちに処置したマウスは、WT処置マウス(左パネル)又は未処置マウス(図示せず)と比較して、肝臓転移のかなりの減少を示した(図8c、右パネル)ことである。このMaf-DKOが仲介した腫瘍縮小は、転移性結節の定量化によって確認された(図8e、水玉模様の柱)。しかし、腫瘍確立マウスでは、Maf-DKOマクロファージ及びWTマクロファージの両方での処置後の肺にわずかな腫瘍縮小のみしか観察されなかった。更に又、この第2グループのマウスでは肝臓転移の減少は観察されず(図8d、8f)、これはエフェクター免疫細胞(NK細胞、T細胞、及びB細胞)がMaf-DKO抗腫瘍効果に関与していることを示唆する。これらのデータは、Maf-DKOマクロファージが、腫瘍発生の初期段階での腫瘍成長及び転移を阻害する直接的な効果、並びに、他の免疫細胞と協力することにより持続的に腫瘍抑制する間接的な効果の両方を有し、その結果上記の治療的役割を達成することを示す。
【0283】
(マウス実験の検討)
本研究では、腫瘍増殖の防止におけるMaf-DKOマクロファージの役割の証拠を提供した。WTマクロファージではなく、Maf-DKOマクロファージを腫瘍担持マウス(ID8卵巣癌腫又はB16メラノーマ)に移入すると、初期腫瘍量及び確立された腫瘍量の両方が大幅に減少し(図1、2、及び7)、かつ、マウスの生存率が増大することが示された。更に、Maf-DKOマクロファージの抗腫瘍活性は、M-CSFとの長期間維持では低下しなかった(血液由来で増殖され、長期間培養維持されたMaf-DKO細胞は、骨髄由来のMaf-DKO細胞と同等の抗腫瘍活性を示した)。
【0284】
いかなる理論にも拘束されることは意図しないが、Maf-DKO腫瘍阻害のまだ未知のメカニズムは、おそらく直接的及び間接的の両方である。Rag2γcノックアウトマウス(T細胞、B細胞、及びNK細胞を欠損しているもの)での結果は、Maf-DKOマクロファージが、WTマクロファージとは異なり、インビボでの腫瘍存在下であっても、腫瘍の縮小を達成するために他の免疫細胞と継続的に協力していることを示唆する。更に、T細胞、例えばCD8 T細胞、及び程度は低いがNK細胞が、Maf-DKO養子細胞移入後の初期時点で、確立された腫瘍担持マウスの腹腔に動員されることが示された(図3a、3b)。これらの結果をまとめると、Maf-DKOマクロファージが、T細胞、例えばCD4T細胞若しくはCD8T細胞の活性化、又はNK細胞の活性化を通じて、同様に腫瘍増殖を阻害する可能性があることを示唆する。更に又、Maf-DKO処置マウスのマクロファージが、WT処置マウスの腹膜マクロファージと比べて、「高」MHC IIであることが示された。重要なことには、最近の研究で、TAMにおける「高」MHC IIから「低」MHC IIへの変動が、マウスの腫瘍進行を仲介することが実証されている(Wangらの文献、2011)。又、別の研究で、CD169+マクロファージが、食細胞へのその能力を介した抗腫瘍免疫反応、及び、細胞傷害性T細胞への腫瘍細胞ペプチドの交差提示を引き起こすことが示された(Asanoらの文献、2011)。まとめると、これらのデータ及び我々の結果は、Maf-DKO抗腫瘍活性は、腫瘍ペプチド提示を介してT細胞を一部作動させてそれらを活性化させる可能性があることを示唆する。
【0285】
Maf-DKOマクロファージ又はWTマクロファージとID8腫瘍細胞の共培養に関する予備的なインビトロ結果では、より多くの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出が示され(データは示さず)、その場合、腫瘍細胞がMaf-DKOマクロファージと共培養されると、Maf-DKOマクロファージと接触してより多くのID8細胞溶解が起きると主張されている。これは、少なくともインビトロでは、Maf-DKOマクロファージが腫瘍細胞に対して直接的な殺傷効果を有することを示す。
【0286】
先の文献は、ID8細胞との共培養では、IL-10発現の増加、及びIL-12の減少によってマクロファージがM2様表現型に分極させことを示唆する(Hagemannらの文献、2006)。エクスビボでのMaf-DKO処置マウスでTAMのプロファイルをモニタリングすると、Maf-DKOマクロファージはWTマクロファージと比べて安定したM1様マクロファージであることが示された。更に、我々は、IL-6、C2TA、NOS2、アルギナーゼ、及びIl-10 のmRNA発現レベルの測定により、インビトロでMaf-DKOマクロファージの表現型を分析した。Maf-DKOマクロファージは、NOS2、C2TA、及びIL-6のアップレギュレート、並びに、アルギナーゼ及びIL-10のダウンレギュレートに基づき、M1刺激(LPS及びIFNγ)に対してより感受性が高く、その一方で、WTマクロファージはM2刺激(IL-4)に対してより感受性が高く、反対の発現プロファイルを提示することが示された。
【0287】
更に又、Maf-DKOマクロファージを腫瘍細胞の馴化培地(ID8-SN)でインビトロ処理しても、その表現型はM1からM2に切り替わらなかった。
【0288】
これらの実験は、抗腫瘍免疫反応の駆動におけるMaf-DKOマクロファージの役割の証拠を提供する。このことは、がん細胞治療に新たな道を開くものである。
【0289】
(ヒトMAF/MAFB DKOマクロファージ)
ヒト人工万能性幹細胞の生成方法は当技術分野で周知である。ヒトiPS細胞株を、健康な白人新生児男児の陰茎包皮から得た皮膚線維芽細胞から作成した。リプログラミングを、POU5F1、SOX2、KLF4、及びMYCを含む非組み込み型センダイウイルスを用いて行った(Fusaki N.らの文献、(2009))。HIV1、HIV2、B型肝炎ウイルス、及びC型肝炎ウイルス、並びにマイコプラズマウイルスのスクリーニングは陰性であった。核型検査で正常な46(X,Y)核型が示された。基本的にGonzalezらの文献(2014)に記載のとおりに、この細胞株に対し、ドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセットを、TALEN仲介遺伝子ターゲッティングによってAAVS1遺伝子座に導入し、細胞株BIHi001-A-1を調製した。
【0290】
(実施例9)
(ダブルノックアウト(DKO)細胞のヒトiPS細胞からの作成)
(a)iPS細胞の培養
iPS細胞を、ビトロネクチンコートした(サーモフィッシャー社、番号A14700)組織培養プレート上のStemFlex培地(サーモフィッシャー社、番号A3349401)中、フィーダーフリー条件下、37℃、5 % CO2の正常酸素圧条件下で培養した。60~80 %培養密度に達した時点で、細胞をReLeSR(Stem Cell Technologies社、番号05872)で継代し、継代翌日に10μMのROCK阻害剤Y-27632(biomol社、番号Cay10005583)の存在下で維持した。iPS細胞の単細胞懸濁液を、Accutase(Merck Millipore社、番号SF006)でのインキュベーションにより得た。
【0291】
(b)ゲノム編集
CRISPR/Cas9系を使用して、ヒト細胞中のMAF(遺伝子ID:4094、373アミノ酸)及びMAFB(遺伝子ID:9935、323アミノ酸)のコード配列を削除した。この目的のために、AAVS1遺伝子座に組み込まれたドキシサイクリン誘導性Cas9発現カセット(BIHi001-A-1、https://hpscreg.eu/cell-line/BIHi001-A-1;iBCRT Cas9v1-3G-Kl.16とも呼ばれる)を有する、健康ドナー由来のiPS細胞株を、公開されたプロトコル(Yumluの文献(2017))に従って、MAF及びMAFBをターゲットとするsgRNA発現プラスミド(pU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpA、Addgene ID 86985、https://www.addgene.org/86985/)でトランスフェクトした。
【0292】
完全なCDSを削除するために、配列設計のためのCrispRGoldプログラム(https://crisprgold.mdc-berlin.de/Chuらの文献(2016))を使用して、各遺伝子の開始コドンの少なくとも20 nt上流の5'UTR及び終止コドンの少なくとも20 nt下流の3'UTRの配列をターゲットとする、遺伝子あたり2個のsgRNAを設計した。各遺伝子の2個のsgRNAが、FACSによるトランスフェクト細胞の陽性選択のための蛍光レポーター遺伝子(Venus、YFP社由来)も同様にコードするsgRNA発現ベクターpU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpAから共に発現された。
【0293】
【表4】
(表1:MAF及びMAFB CDSのCRISPR/Cas9仲介欠損のためのsgRNA及びプロトスペーサー配列)
標的特異的な20ヌクレオチド長のプロトスペーサーの位置を、sgRNA配列内に「N」でマークする。表示されたプロトスペーサー配列を持つ pU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpA から発現されたsgRNAのゲノム標的配列は、MAF及びMAFBのUTR(未翻訳領域)の5'UTR及び3'UTRにそれぞれ位置する。
【0294】
【化1】
【0295】
リポフェクタミン3000(サーモフィッシャー社、番号L3000001)を使用して、BIHi001-A-1をpCAG-mTrex2-bpA(Addgene社 ID 86984、https://www.addgene.org/86984/)とともにsgRNA発現ベクターでトランスフェクトし、インデル形成性を増強した。本明細書全体で「WT」又は「野生型」と記載された対照細胞を、プロトスペーサー配列を挿入せずにpU6-(BbsI)sgRNA_CAG-venus-bpAを使用することを除き、同一方法で処理した。トランスフェクトしたBIHi001-A-1細胞を、1μg/mlのドキシサイクリンヒクラート(Sigma-Aldrich社、番号D9891)で処理してCas9発現を誘導し、その後sgRNA保有ベクターからVenusレポーター遺伝子を発現する細胞をFACS単離した。選別した細胞を低密度で播種し、単一細胞由来のコロニーを単離した。トランスフェクションの第1回で、MAFを標的とするsgRNAを使用し、PCR及び編集された遺伝子座のサンガーシークエンシングを使用してMAF CDSの全長欠失についてコロニーをスクリーニングした(図9)。細胞は、前記のようにiPS細胞用条件下で培養した。
【0296】
MAF KO iPS細胞にMAFB標的化sgRNAを使用した第2回トランスフェクションを行った後、得られたコロニーのPCR及びシークエンシングを行った。3つのMAF/MAFB DKO(MAF-DKO)iPS細胞クローンが単離された(クローン1、2、3)。ゲノム標的領域及び編集されたMAF及びMAFB遺伝子座を図10に示す。
【0297】
(実施例10)
(MAF/MAFB DKO iPS細胞の特性評価)
3つの単離されたMAF-DKO iPS細胞クローンを核型分析によって解析した。核型分析は、従来の細胞遺伝学分析(Gバンド解析)によって行った。簡単に説明すると、細胞を100 ng/mlコルセミドで2.5時間、37℃、5% CO2下でブロックし、0.075 M KClを使用して膨張させ、3:1のメタノール:氷酢酸で固定した。中期染色体をカバーガラス上に拡げ、ギムザ染色で染色した。サンプルあたり20個の中期スプレッドを分析した。全てのクローンは、正常な外観及び核型を有していた(図11)。
【0298】
(実施例11)
(iPS細胞からマクロファージへの誘導分化)
iPS細胞からマクロファージへの誘導分化は、以前に公開されたプロトコルに従った(Buchrieserの文献、2017)。野生型又はMAF-DKO iPS細胞の単一細胞懸濁液を、12,500細胞/ウェル密度で超低付着性U字底96ウェルプレート(Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174925)に播種し、50 ng/ml BMP-4(R&D Systems社、番号314-BP)、20 ng/ml SCF(R&D Systems社、255-SC)、50 ng/ml VEGF(Peprotech社、AF-100-20A)、及び10 μM Y-27632を補充したStemFlex培地(サーモフィッシャー社、番号A3349401)からなるEB培地に再懸濁して、胚様体(EB)を生成した。96ウェルプレートを100 gで3分間遠心分離し、底の細胞を採取し、37℃、5% CO2で4日間載置した。1日後及び2日後、EB培地の半分を新たに調製したEB培地と交換した。
【0299】
(野生型及びMAF-DKO EBは、サイズ又は形態では区別できなかった。)
4日後、EBを手動選択し、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、0.055 mM 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich社、番号M6250)、100 ng/ml ヒトM-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)、25 ng/ml ヒトIL-3(R&D Systems社、番号203-IL)を補充したX-VIVO 15(Lonza社、番号BE02-060F)からなるEB分化培地に再懸濁し、超低付着性6ウェル組織培養プレート(8 EB/ウェル)又は90 mm組織培養用ディッシュ(24 EB/ディッシュ;Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174932及び番号174945)に播種した。培養培地の3分の2を5日ごとに新鮮な分化培地と交換した。EBからの単球/マクロファージの産生はEB播種後約15日目に開始され、懸濁性細胞を回収、カウントし、フローサイトメトリー又はEdU取り込みアッセイによる免疫表現型判定に使用した。
【0300】
更なる実験のために、EB培養物の上清から回収した細胞を、10 % FBS(PAA-GE Healthcare社、A15-101)を補充し、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(サーモフィッシャー社、番号15140122)、2 mM GlutaMAX(サーモフィッシャー社、番号35050038)、1 mM ピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャー社、番号11360-039)、50 ng/ml M-CSF(サーモフィッシャー社、番号PHC9504)を補充したRPMI中で最終マクロファージ分化のために再プレートし、超低付着性12ウェル組織培養プレート(Nunclon Sphera、サーモフィッシャー社、番号174931、番号174932)及び50 ng/ml GM-CSF(Peprotech社、番号300-03)に、37℃、5% CO2で播種した。細胞を、ノイバウエル血球計算盤を使用して手動で、又はCASYセルカウンター(OMNI Life Science社)を使用して自動的にカウントした。
【0301】
MAF及びMAFBの欠失は骨髄細胞分化能に影響を及ぼさず、野生型EBと同様に、MAF-DKO EBはEB播種後約15日で、EB分化培地に単球/マクロファージの放出を開始した。MAF-DKO懸濁性細胞は生存しており、50 ng/ml M-CSF及びGM-CSFを含む分化培地にプレーティングした後、野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージの両方がビーズを貪食し、ROSを産生し、そしてリソソーム及びカテプシン活性陽性に染色される、成熟マクロファージ表現型を示した(図12)。
【0302】
(実施例12)
(最終マクロファージ分化後のMAF/MAFB DKO細胞の特性評価)
フローサイトメトリーのために、実施例11に記載のEB分化培養物から得て、最終マクロファージ分化条件下で7日間増殖させた再播種細胞を、FcRブロッキング試薬(Miltenyi社、番号130-059-901)で4℃で15分間ブロックし、洗浄し、表2の抗体で4℃で30分間染色した。細胞を、LSRFortessa(BD社)血球計算器で記録し、FlowJo(BD社)で分析した。
【0303】
【表5】
(表2:免疫表現型判定に使用した抗体)
【0304】
フローサイトメトリー(図13)又は組織染色によって評価したCD45、CD11b、CD33、CD14、及びCD64の形態又は免疫表現型に関して、野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージの間に大きな違いは観察されなかった。CD206発現は、MAF-DKOマクロファージでは低かった。驚くべきことに、野生型iPS細胞由来のマクロファージはその表面に検出可能なHLA-DRを有さない一方、MAF-DKOマクロファージではHLA-DRが強く発現した。
【0305】
(MAF-DKOマクロファージを、MAF及びMAFBタンパク質及びmRNA発現について試験した。)
RNeasyミニキット(Qiagen社、番号74104)を使用して野生型細胞及びMAF-DKO細胞からRNAを抽出し、次にHigh Capacity Reverse Transcription キット(Applied Biosystems社、番号4368814)を使用してcDNAを合成した。qPCRを、TB Green Premix Ex Taq(Tli RNase plus、Takara社、番号RR420L)を使用して実行した。qPCR産物を2%アガロースゲル上に展開した。ウェスタンブロット法では、野生型タンパク質及びMAF-DKOタンパク質を、Laemmli緩衝液で細胞を溶解することにより抽出した。ライセートをQIAshredder(Qiagen社、番号79656)で清澄化し、変性させ、そして電気泳動(SDS-PAGE)用のポリアクリルアミドゲルにロードし、続いてセミドライブロッティングを行った。ブロットをミルク5 %のTBST溶液でブロックし、抗MAFB抗体(Sigma社、番号HPA005653)又は抗MAF抗体(Sigma社、番号HPA028289)とインキュベートし、次に二次抗体、抗ウサギIgG-HRPとインキュベートし、続いてECL(商標)Prime Western Blot検出試薬(GE Healthcare Amersham(商標)社、番号RPN2232)とインキュベートした。
【0306】
重要なことであるが、野生型iPS細胞由来マクロファージは、MAF及びMAFB両方のmRNA及びタンパク質をそれぞれ発現した一方で、MAF-DKOマクロファージは、MAF及びMAFBの発現がmRNA及びタンパク質レベルで陰性であった(図14)。
【0307】
(実施例13)
(MAF-DKOマクロファージは、ヒト化マウスモデルにおいて機能し、肺胞タンパク症を治療する。)
MAF-DKOマクロファージのインビボ機能を試験するために、ヒトの肺疾患である肺胞タンパク症(PAP)の動物モデルであるhuPAPと呼ばれるマウス系統(公称:C;129S4-Rag2tm1.1Flv Csf2/ Il3tm1.1(CSF2,IL3)Flv Il2rgtm1.1Flv/J;JAX # 014595)を選んだ。huPAP系統は、ヒト細胞の移植用に設計された免疫不全マウス系統である。マウスGM-CSF発現の欠如により、その肺には肺胞マクロファージが存在せず、そのためマウスは肺胞タンパク症の兆候、例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)によって得られた流体の高いタンパク質含有量、それにより生じる高い濁度、を示す。マウスGM-CSFの代わりに、huPAPはヒトGM-CSF(及びIL-3)を発現し、移植されたヒト細胞による肺胞マクロファージの再構成だけでなく、肺胞タンパク症表現型のレスキューも可能にする。従って、このモデルは、ヒトマクロファージのインビボ機能を研究するための有用なツールである。
【0308】
我々は、同数(1回の移植あたり2×106~4×106)の野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージ(EB分化培地に再懸濁後15日~25日でEB培養物から採取した)を、動物あたり1μg M-CSFと一緒にhuPAPマウスに気管内移植し(図15)、細胞生着及びPAPのレスキューの両方をチェックした。対照マウスには、同じ体積のPBS(細胞再懸濁緩衝液)を与えた。
【0309】
野生型のMAF-DKOマクロファージ両方のHuPAPレシピエントは、それぞれ移植後は迅速に回復し、PBS処置又は未処置の動物と比べて異常な行動を示さなかった(データ示さず)。全ての動物に野生型マクロファージ又はMAF-DKOマクロファージを4回移植し、それぞれの移植は1週間の間隔をあけた。動物を最後の移植から4 週間後に分析した。
【0310】
巨視的検査では、肺組織内にも他の器官にも腫瘍は観察されず、これはMAF-DKOマクロファージが、明瞭な染色体異常なしに正常な核型を維持している事実と一致する(図11)。
【0311】
我々は、MAF-DKOマクロファージが、野生型マクロファージよりもhuPAPマウスへの良好な生着を示したこと、及び、野生型マクロファージによるそれぞれのレスキューよりもやや優れている、気管支肺胞洗浄液の濁度、タンパク質濃度、SP-Dレベルの低下により実証されるような、PAP表現型のレスキューの改善を見出した(図16)。更に又、最後の処置から4週間後に移植マウスから単離された野生型マクロファージ及びMAF-DKOマクロファージは、ビーズを貪食し、ROSを産生し、リソソーム及びカテプシン活性陽性に染色され、そして脂質を貪食可能でもあった。
【0312】
(実施例14)
基本的に実施例11に記載のとおりにEB分化培養物から得たIPS細胞由来のMAF-DKOマクロファージ及びWTマクロファージを、EB播種後20日目に、懸濁液中の細胞を収集することによって回収した。ウェル当たり500,000個の細胞を6ウェルプレート(ウェル当たり培地3ml)に再プレートした後、M-CSF及びGM-CSFの存在下で最終分化のために5日間維持した(基本的に実施例11に記載の通り、培地の一部分を隔日で新鮮な培地と交換)。第5日に、細胞を採取し、NuNCLON 12ウェルプレート中の完全培地(実施例11に記載のとおりM-CSF及びGM-CSFを含む)にウェル当たり100,000細胞で再プレートし、更に2日間維持した(ウェルあたり培地2ml)。懸濁性細胞採取後7日目に、培地を新鮮な完全培地(M-CSF及びGM-CSFを、両方とも50 ng/ml含む)に交換した。次に、培地交換の2時間後に細胞を回収し、10,000個のDAPI陰性、CD45陽性、C11b陽性である細胞を選別してLRT plus細胞溶解緩衝液処理し、RNAをRNeasyマイクロキット(Quiagen社、カタログ番号74034)で抽出した。続いて、Picelliらの文献、(2013) Nature Methods 10:1096-1098に詳細に記載されているように、遺伝子発現パターンの差異をRNAseqによって、10,000個の細胞から単離されたRNAを、シーケンス深度ライブラリあたり3,800万断片で分析した。ヒトリファレンス(hg38)に対する断片のアラインメントは、GSNAP(v2020-12-16;[Thomas D.らの文献(2005) Bioinformatics 21:1859-1875]、[Thomas D.らの文献(2010) Bioinformatics 26:873-881])、及びEnsembl遺伝子アノテーション98([Howeらの文献(2021) NAR vol. 49(1):884-891])を使用して行い、スプライス部位を検出した。ユニークにアラインされた断片を、featureCounts(2.0.1;[Liaoらの文献、(2014)「featureCounts:リード配列をゲノムの特徴に割り当てるための効率的な汎用プログラム(featureCounts:an efficient general purpose program for assigning sequence reads to genomic features)」]及び同じEnsemblアノテーションのサポートを使用してカウントした。それと同時に、配列決定されたライブラリに、RNA-SeQC(1.1.8;[DeLucaらの文献、(2012) Bioinformatics 28.11:1530-1532.])により、それぞれのライブラリ内のリード配列のエキソン分布、イントロン分布、及び遺伝子分布及びrRNA比率に関する品質管理を行った。ライブラリサイズに基づく生の断片数の正規化、及び2つの条件(DKOで2時間及びWTで2時間)間の差次的発現の試験は、DESeq2(v1.24.0;[Loveらの文献(2014)Genome Biology, 15, 550])、並びにIHW(1.12.0;[Ignatiadisらの文献(2016)Nature Methods. doi:10.1038/nmeth.3885;及びIgnatiadis N, Huber Wの文献(2017)「誤検出率制御による共変数利用重み付け多重検定(Covariate-powered weighted multiple testing with false discovery rate control)」arXiv. doi:arXiv:1701.05179])、Rのパッケージ(3.6.3;[R Core Teamの文献(2020)「R:統計的計算のための言語及び環境(R:A language and environment for statistical computing)」R Foundation for Statistical Computing、ウィーン、オーストリア、URL https://www.R-project.org/])を使用して実行した。補正p値(padj)<0.05及び/又はlog2FoldChange>0.58若しくは<-0.58を持つ遺伝子は、差次的に発現するとみなした。
【0313】
遺伝子発現パターンのMAF-DKOマクロファージ及びWTマクロファージの間の差異は、図17に示す火山プロットで可視化されるように、劇的である。下表に示すように、WTマクロファージと比べて、表示されているM1マーカーはDKOマクロファージで強くアップレギュレートされる一方、表示されているM2マーカーは、最終分化工程でM-CSFが50 ng/mlの濃度で存在していたにもかかわらず、強くダウンレギュレートされた。これは、ヒトMAF-DKOマクロファージがマウスMAF-DKOマクロファージと本質的に同一の極性化表現型を有することを示し、従って本質的にマウスMAF-DKOマクロファージと同様の抗腫瘍形成性があることが予測される。
【0314】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
図16c
図17
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024510671000001.app
【国際調査報告】