(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(54)【発明の名称】地熱エネルギーを使用した発電のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
F03G 4/00 20060101AFI20240301BHJP
F03G 4/04 20060101ALI20240301BHJP
F01K 27/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
F03G4/00 521
F03G4/04
F03G4/00 531
F01K27/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559713
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 CA2022050454
(87)【国際公開番号】W WO2022198336
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523367314
【氏名又は名称】ジオジェン テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GEOGEN TECHNOLOGIES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホッグ,マシュー
【テーマコード(参考)】
3G081
【Fターム(参考)】
3G081BA02
3G081BA06
3G081BA07
3G081BA08
3G081BA11
3G081BB01
3G081BC15
3G081BD00
(57)【要約】
地熱発電システムが開示されている。このシステムは、坑井内で作動するように構成された坑内タービンと、タービンによって駆動されるように構成された坑内発電機を含む。流路は、タービンを通る作動流体の流れを促進する。流路は、作動流体が地表から離れる方向に流れることを可能にする供給部と、作動流体が地表に向かう方向に流れることを可能にする戻り部とを有する。地表構造物は、作動流体を、流路を通して循環させるために、供給部および戻り部と流体連通している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑井内の作動流体の流れから電力を発生させる地熱システムであって、
内側通路、外側通路、および内側通路と外側通路との間に位置し、内側通路を外側通路と流体連通させるトウを有する坑内同軸流路、
坑内同軸流路内に位置するタービン発電機、および、
作動流体を閉ループで同軸流路に循環させるために、内側通路および外側通路と流体連通する地表構造物、を含むシステム。
【請求項2】
坑内同軸流路が、地表から離れる方向への作動流体の流れを促進する供給部と、地表に向かう方向への作動流体の流れを促進する戻り部とを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
タービン発電機が、作動流体の柱の重力位置エネルギーにより供給部を流下する作動流体により駆動されるように構成された液圧タービンを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記タービン発電機が、地層から採取された熱エネルギーにより前記戻り部を上昇する作動流体によって駆動されるように構成されたガスタービンを含む、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項5】
地層から採取された熱エネルギーにより、作動流体が戻り部において密度変化を受け、作動流体を戻り部まで吸い上げるための熱サイフォンを閉ループ内に提供することを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記供給部が前記内側通路によって提供され、前記戻り部が前記外側通路によって提供される、請求項2から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記供給部が前記外側通路によって提供され、前記戻り部が前記内側通路によって提供される、請求項2から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記坑内同軸流路に配置された1つまたは複数のクロスオーバーを含み、前記1つまたは複数のクロスオーバーの各々は、前記内側通路と前記外側通路との間で前記供給部および前記戻り部を切り替えるように構成されている、請求項2から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記1つ以上のクロスオーバーの各々が、前記供給部において前記内側通路を前記外側通路に流体接続する第1の組のコネクタと、前記戻り部において前記外側通路を前記内側通路に流体接続する第2の組のコネクタとを含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
地表構造物の閉ループ内に配置された第2のタービン発電機を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記内側通路は、内壁によって画定され、前記内壁は、前記内側通路と前記外側通路との間の熱交換を促進するための熱伝導性材料で作られた部分を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記内側壁は、前記内側通路と前記外側通路との間の熱交換を防止するために、熱絶縁材料で作られた部分を含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
坑内同軸流路が外壁によって画定され、外壁が熱伝導性材料で形成され、外通路と地層との間の熱交換を促進する、請求項1から12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
内側通路の断面積が外側通路の断面積よりも大きい、請求項1から13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
外側通路の断面積が内側通路の断面積よりも大きい、請求項1から13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
作動流体が、地表の温度および圧力では液相であり、坑内の温度および圧力では戻り部において気相である、請求項1から15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
作動流体が、-20℃から+20℃の間の特定の液体温度および5000kPa未満の対応する特定の液体圧力で液相にあり、150℃未満の特定の気体温度および4000kPaを超える対応する特定の気体圧力で気相にある、請求項1から16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
作動流体が、CO
2、SO
2、およびNH
3のうちの1つ以上を含む、請求項1から17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
作動流体が、0.15モルパーセントまでのC
2H
6、C
2H
4、C
2H
2を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
作動流体が、NO
2、N
2O、およびN
2O
4のうちの1つ以上を含む、請求項1から17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
作動流体が、可逆的化学反応を起こし、坑内条件と比較して地表条件に基づいてシフトする平衡点を有する冷媒を含む、請求項1から20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
坑井内で作動するように構成された坑井内タービン、
坑井内で作動し、タービンによって駆動されるように構成された坑井内発電機、および
タービンを駆動するために作動流体をタービンを通して導くための流路であって、流路は、作動流体が地表から遠ざかる方向に流れるように構成された供給部と、作動流体が地表に向かう方向に流れるように構成された戻り部とを含む連続流路であり、供給部と戻り部は坑井内に位置するように構成されている、流路、を含む地熱発電システム。
【請求項23】
タービンが戻り部内に配置されたガスタービンである、請求項22に記載の地熱発電システム。
【請求項24】
タービンが供給部内に配置された液体タービンである、請求項23に記載の地熱発電システム。
【請求項25】
液体タービンが、インパルスタービン、反応タービン、またはテスラタービンを含む、請求項24に記載の地熱発電システム。
【請求項26】
タービンが、軸流膨張機、スクリュー膨張機、容積膨張機、またはピストン膨張機を含む、請求項22から25のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項27】
坑内発電機が軸流発電機である、請求項22から26のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項28】
地熱発電システムは、坑井内に複数のタービンを含む、請求22から27のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項29】
システムは、タービン発電機ユニット間で複数の再熱サイクルを可能にするために、単一の熱回路内で動作する複数のタービンと発電機から構成されていることを特徴とする請求項28に記載の地熱発電システム。
【請求項30】
垂直区間と水平区間を有する水平井戸内に配置されるように構成され、タービンが垂直区間の底部または水平区間内に配置されるように構成されていることを特徴とする請求項22から27のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項31】
システムが、60℃から150℃の間の最大坑内温度で作動するように構成されている、請求項22から30のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項32】
地熱発電システムが、1つの発電機に接続された対向する水路の同じ深さに配置された 2つのタービンで構成されていることを特徴とする、請求項22から31のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項33】
タービンが流路の戻り部に配置され、地熱発電システムは、作動流体が戻り部に沿って流れる際に、タービンに到達する前に作動流体が超臨界状態から気体状態に変化するように作動流体の流れを制御するように構成されている、請求項22から27のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項34】
供給部は、液体タービンの後まで供給流が気化し始めないように、戻り部から熱的に絶縁されていることを特徴とする請求項24に記載の地熱発電システム。
【請求項35】
供給部は、ガスタービンの前の水平部分内で熱的に断熱されており、作動流体は、地表の戻り部の端部に達するまで非液体状態のままであることを特徴とする請求項23に記載の地熱発電システム。
【請求項36】
戻り部の断面積が送り部分の断面積よりも大きい、請求項22から35のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項37】
坑井が枯渇した石油・ガス層内にあり、坑井と地層との間の流体および圧力の連通を防ぐために坑井が再シールされている、請求項22から36のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項38】
供給部は、作動流体の圧力を低下させるように構成された1つ以上の圧力降下部品を含む、請求項22から37のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項39】
1つ以上の圧力降下部品は、水平部分の前に坑井の垂直部分の底部に向かって配置されていることを特徴とする請求項38に記載の地熱発電システム。
【請求項40】
1つまたは複数の圧力降下部品は、膨張弁、チョーク、および液体タービンのうちの1つまたは複数から構成されることを特徴とする請求項38または39に記載の地熱発電システム。
【請求項41】
供給部は、いずれかの流路に設置されたタービンの前後400mまで、戻り部から熱的に絶縁されていることを特徴とする請求項22から40のいずれか1項に記載の地熱発電システム。
【請求項42】
発電のための方法であって、
作動流体を、地表の供給部と戻り部の間に延びる連続的な坑内流路に導き、作動流体が流路の第1の部分を通って導かれるにつれて、作動流体の温度と圧力が上昇するステップ、
作動流体をタービンに通した後、作動流体を流路の第二の部分を通して導き、作動流体が流路の第二の部分を通して導かれるにつれて作動流体はさらに温度上昇するステップ、および、
作動流体を流路の第3の部分を通して導き、作動流体が流路の第三の部分を通して地表に熱サイフォンで戻されるステップ、を含む方法。
【請求項43】
作動流体が、地表での初期温度、タービンを通過する前の中間温度、およびタービンを通過した後の最高温度を有する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
最高温度と中間温度との差が、中間温度と初期温度との差よりも大きい、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
流路を通って導かれる作動流体が、流路の第1の部分で液相にあり、作動流体が、流路の第2の部分で気相に遷移する、請求項42から44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
作動流体が液相のN
2O
4であり、流路の第2の部分で吸熱可逆化学反応を起こして気相のNO
2になる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
ライナーを坑井に挿入することにより坑内流路を形成することを含む、請求項42から46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
ライナーを坑井に挿入する前に、ナノ粒子と充填剤を含む潤滑剤で坑井を事前調整することを含み、潤滑剤がライナーと坑井の間の空間を占める、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
坑内地熱資源の熱供給可能性に基づいて、流路を通る作動流体の流量を制御することを含む、請求項42から48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
作動流体の温度が地層からの熱により上昇する、請求項42から49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
本明細書に記載されているような、新規かつ発明的な特徴、特徴の組み合わせ、または特徴のサブコンビネーションを有するシステム。
【請求項52】
本明細書に記載される、任意の新規かつ発明的なステップ、動作、ステップおよび/または動作の組み合わせ、またはステップおよび/または動作のサブ組み合わせを有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、地熱エネルギー生産に関し、特に、地表との温度差が中程度の水圧破砕された油井およびガス井における地熱エネルギー生産に関する。
【0002】
(関連出願)
本出願は、2021年3月26日に出願され、『APPARATUS AND METHODS FOR PRODUCING ELECTRICITY FROM GEOTHERMAL ENERGY』と題された米国特許出願第63/166440号の優先権を主張する。米国においては、本出願は、2021年3月26日に出願され、『APPARATUS AND METHODS FOR PRODUCING ELECTRICITY FROM GEOTHERMAL ENERGY』と題された米国特許出願第63/166440号の米国特許法第119条に基づく利益を主張する。米国特許出願第63/166440号は、あらゆる目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
石油貯留層は、一般的に地熱貯留層として適していないと考えられている。なぜなら、高温の層であればあるほど、石油およびガスは移動してしまい、水しか含まれていない可能性が高く、または、仮にそれらが移動できなかった場合でも、過熱されてサワーガスに転換している可能性があるからである。したがって、典型的な石油貯留層およびガス貯留層またはシェール貯留層の地熱勾配は、従来のまたは典型的な地熱貯留層よりも、はるかに低い。地熱勾配が低いということは、同じ熱に到達するために、坑井をより深く掘らなければならず、その熱を地表に汲み上げるまたは循環させるために、より多くのエネルギーを使わなければならないことを意味する。これが、多くの油井およびガス井が、石油およびガスが枯渇した後の地熱への転換に適さない主な理由の1つである。他の理由は、典型的なタイトオイルおよびガス、またはシェール井は、従来の地熱に必要な流量を維持するために十分な浸透性を有していないことである。
【0004】
さらに、典型的な油井およびガス井の坑径は、熱流量ではなく炭化水素流量を想定して設計されている。多くの油井およびガス井の坑径が典型的には小さいことによって、熱を抽出するために流体を地表に持ち上げることが経済的でないほどに流量が制限され、発電量が揚水コストをカバーできない。
【0005】
代わりに、油井およびガス井の生産が停止した後、その坑井は通常放棄される。孔の中の鋼鉄および機器、または坑井の部品は、回収されずに現場に残される。坑井は、セメントで充填され、地表で封鎖される。さらに、適切に放棄されない使用済み坑井に関する問題が高まっている。これは、政府にとって大きな財政的責任であり、かつ環境と安全にとって重大なリスクである。
【0006】
枯渇した油井およびガス井のような、中温から低温の地熱資源を使用して発電するためのシステムおよび方法に対するニーズが、依然として存在する。中温から低温の単一の坑井(すなわち、流体の注入と返送のための同じ坑井)に組み込み可能な地熱システムに対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様は、坑井内の作動流体の流れから電力を生成する地熱システムを提供する。このシステムは、坑内同軸流路、流路内に設置されたタービン発電機、および作動流体を供給するための地表構造物を含む。坑内流路は、内側流路と、外側流路と、内側流路と外側流路との間に位置し、内側流路を外側流路と流体連通させるトウ部とを有する。地表構造は、作動流体を同軸流路を通して閉ループで循環させるために、内側通路および外側通路と流体連通している。
【0008】
下降孔(ダウンホール)同軸流路は、地表から遠ざかる方向への作動流体の流れを促進する供給部と、地表に向かう方向への作動流体の流れを促進する戻り部とから構成することができる。タービン発電機は、作動流体の柱の重力位置エネルギーにより供給部を流れる作動流体によって駆動されるように構成された水力タービンで構成されてもよい。タービン発電機は、地層から採取された熱エネルギーによって戻り部を上昇する作動流体によって駆動されるように構成されたガスタービンを含んでいてもよい。地層から採取された熱エネルギーは、閉ループ内に熱サイフォンを提供するために、作動流体が戻り部において密度変化を受ける原因となる場合がある。
【0009】
いくつかの実施形態では、供給部は内側通路によって提供され、戻り部は外側通路によって提供される。他の実施形態では、供給部は外側通路によって提供され、戻り部は内側通路によって提供される。システムは、任意に、坑内同軸流路に配置された1つ以上のクロスオーバーを含むことができる。1つ以上のクロスオーバーの各々は、内側通路と外側通路との間で供給部と戻り部とを切り替えるように構成されることがある。例えば、1つ以上のクロスオーバーの各々は、供給部において内側通路を外側通路に流体接続する第1組のコネクタと、戻り部において内側通路を外側通路に流体接続する第2組のコネクタとから構成することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、システムは、地表構造の閉ループ内に位置する第2のタービン発電機を含む。いくつかの実施形態では、内側通路は内壁によって画定される。内側壁は、内側通路と外側通路との間の熱交換を促進するために、熱伝導性材料で作られた部分を含むことができる。内側壁は、内側通路と外側通路との間の熱交換を防止するために、熱絶縁性材料で作られた部分を含むことができる。いくつかの実施形態では、坑内同軸流路は、外壁によって画定される。外壁は、外側通路と地層との間の熱交換を促進するために、熱伝導性材料で作られてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、内側通路の断面積は、外側通路の断面積よりも大きい。他の実施形態では、外側通路の断面積は内側通路の断面積よりも大きい。
【0012】
いくつかの実施形態では、作動流体は有機流体である。流体は、地表の温度及び圧力で液相にあり、坑内の温度及び圧力で戻り部において気相にある場合がある。例えば、流体は、-20℃と20℃の間の特定の液体温度及び5000kPa未満の対応する特定の液体圧力で液相にあり、150℃未満の特定の気体温度及び4000kPaを超える対応する特定の気体圧力で気相にある。作動流体は、CO2、SO2 、およびNH3のうちの1つ以上を含んでいてもよい。作動流体は、0.15モルパーセントまでのC2H6、C2H4 、C2H2を含んでいてもよい。作動流体は、NO2、N2O、およびN2O4の混合物を含む場合がある。作動流体は、坑内条件と比較して地表条件に基づいて平衡点がシフトする可逆的な化学 反応を起こす冷媒で構成することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、地熱発電システムを提供する。この地熱発電システムは、坑井内で作動するように構成された坑井タービンと、坑井内で作動し、タービンに よって駆動されるように構成された坑井発電機と、タービンを駆動するために作動流体をタービンに通すための流路とを含む。流路は、作動流体が地表から離れる方向に流れるように構成された供給部と、作動流体が地表に向かう方向に流れるように構成された戻り部とを含む連続流路である。供給部と戻り部は、坑井内に収まるように構成されている。
【0014】
いくつかの実施形態では、タービンは、戻り部内に配置されたガスタービンである。いくつかの実施形態では、タービンは、供給部内に配置された液体タービンである。いくつかの実施形態では、システムは、坑井内に複数のタービンを含む。いくつかの実施形態では、システムは、タービン発電機ユニット間で複数の再加熱サイクルを可能にするために、単一の熱回路内で動作する複数のタービンおよび発電機から構成される。いくつかの実施形態では、システムは、垂直部分と水平部分とを有する水平坑井内に配置されるように構成され、タービンは、垂直部分の底部に向かって、または水平部分内に配置されるように構成される。システムは、60~150℃の最大坑内温度で作動するように構成することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、タービンは、反応(リアクション)タービン、インパルスタービン、またはテスラタービンを含む。タービンは、本書で説明する他のタイプのタービンで構成されてもよい。いくつかの実施形態では、地熱発電システムは、1 つの発電機に接続された対向する流路に、同じ全体的な測 定深度に配置された 2 つのタービンで構成されている。いくつかの実施形態では、タービンは、流路の戻り部に位置し、地熱発電システムは、作動流体が戻り部に沿って流れ、タービンに到達する前に超臨界状態から気体状態に変化するように、作動流体の流れを制御するように構成されている。幾つかの実施形態では、供給部は、液体タービンの後及び/又はガスタービンの前の水平部分内まで供給流が気化し始めないように、戻り部から熱的に絶縁され、作動流体は、地表の戻り部の端部に到達するまで非液体状態のままである。いくつかの実施形態において、坑井は、枯渇した油ガス層内にあり、坑井は、坑井と地層との間の流体および圧力の連通を防止するために再シールされる。いくつかの実施形態において、供給部は、作動流体の圧力を低下させるように構成された1つ以上の圧力降下構成要素を含む。いくつかの実施形態では、圧力降下コンポーネントは、水平部分の前に坑井の垂直部分の底部に向かって配置される。圧力降下コンポーネントは、膨張弁、チョーク弁、および液体タービンのうちの1つまたは複数から構成され得る。
【0016】
本発明の別の態様は、電力を生成する方法を提供する。この方法は、作動流体を、地表の供給部と戻り部の間に延びる連続的な下降孔流路に導くことを含む。作動流体が流路の第1の部分を流下するにつれて、作動流体の温度と圧力が上昇する。作動流体は次にタービンを通過して圧力を下げ、動力を発生する。タービンを通過した後、作動流体は流路の第2部分に導かれ、そこで温度がさらに上昇する。作動流体は、熱サイフォン効果により、流路の第3の部分を通って地表に戻る。
【0017】
作動流体は、地表における初期温度、タービンを通過する前の中間温度、及びタービンを通過した後の流路の第2の部分における最高温度を有することができる。いくつかの実施形態では、最高温度と中間温度との差は、中間温度と初期温度との差よりも大きい。いくつかの実施形態では、流路を導かれた作動流体は液相であり、作動流体は流路の第2の部分で気相に遷移する。例えば、作動流体は、液相ではN2O4であり、流路の第2の部分で吸熱可逆化学反応を起こして気相ではNO2になる。
【0018】
いくつかの実施形態では、本方法は、ライナーを坑井に挿入することによって坑内流路を形成することを含む。いくつかの実施形態では、坑井は、ライナーを坑井に挿入する前に、ナノ粒子および充填剤を含む潤滑剤で事前調整され、潤滑剤はライナーと坑井との間の空間を占める。いくつかの実施形態では、本方法は、坑内地熱資源の熱供給能力に基づいて、流路を流れる作動流体の流量を制御することを含む。坑内地熱資源は、作動流体が流路を流れる際に、その温度を上昇させるように作動流体を加熱することがある。
【0019】
本発明の付加的な態様は、以下の説明を考慮すれば明らかになるであろう。
【0020】
発明の様々な目的、特徴および利点は、添付図面に示される本発明の特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、地熱発電システムの例示的な実施形態を模式的に示す図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aの地熱発電システムと共に使用されるクロスオーバーの分解透視図である。
【
図1C】
図1Cは、下降孔蓄積器の一実施形態を模式的に示す図である。
【0022】
【
図2A】
図2Aは、地熱発電システムの他の例示的な実施形態を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの地熱発電システムと共に使用されるタービンを模式的に示す断面図である。
【0023】
【
図3A】
図3A-3Dは、地熱発電システムの他の様々な実施形態を模式的に示す図である。
【
図3B】
図3A-3Dは、地熱発電システムの他の様々な実施形態を模式的に示す図である。
【
図3C】
図3A-3Dは、地熱発電システムの他の様々な実施形態を模式的に示す図である。
【
図3D】
図3A-3Dは、地熱発電システムの他の様々な実施形態を模式的に示す図である。
【0024】
【
図4】
図4は、坑井の構成例で使われる地熱発電システムの一実施形態を模式的に示す図である。
【0025】
【
図5A】
図5Aは、理想的な地熱発電システムの一実施形態のブロック図である。
【0026】
【
図5C】
図5Cは、地熱発電システムの一実施形態のブロック図である。
【0027】
【
図5E】
図5Eは、地熱発電システムの別の例示的な実施形態のブロック図である。
【0028】
【
図5G】
図5Gは、地熱発電システムの他の例示的な実施形態のブロック図である。
【0029】
【
図6A】
図6Aは、シミュレーション実験で作成された坑井の熱貯留層モデルを示す図である。
【
図6B】
図6Bは、水平断面における坑井の熱プロファイルを示す図である。
【
図6C】
図6C-6Eは、
図6Aのモデルを使用して実施されたシミュレーション実験から得られた様々な結果を示す図である。
【
図6D】
図6C-6Eは、
図6Aのモデルを使用して実施されたシミュレーション実験から得られた様々な結果を示す図である。
【
図6E】
図6C-6Eは、
図6Aのモデルを使用して実施されたシミュレーション実験から得られた様々な結果を示す図である。
【0030】
【
図7A】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7B】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7C】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7D】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7E】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7F】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図7G】
図7A-7Gは、地熱発電システムで使用されるタービンの位置と数についてシミュレーション実験を行った、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【0031】
【
図8A】
図8A-8Bは、地熱発電システムで使用される作動流体に関するシミュレーション実験で研究された、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図8B】
図8A-8Bは、地熱発電システムで使用される作動流体に関するシミュレーション実験で研究された、地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【0032】
【
図9A】
図9A-9Bは、
図5Aに示す理想的なシステムをモデル化した地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【
図9B】
図9A-9Bは、
図5Aに示す理想的なシステムをモデル化した地熱発電システムの様々な構成例を示す図である。
【0033】
【
図10】
図10は、強化型地熱発電サイクルに基づく発電方法の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に続く説明およびそこに記載される実施形態は、本発明の原理の特定の実施形態の例の説明のために提供される。これらの例は、説明の目的で提供されるものであり、これらの原理および本発明を限定するものではない。
【0035】
(はじめに)
本技術は、典型的には枯渇した油井およびガス井のような、単一の非活動坑井(例えば、水平坑井)を地熱発電設備に変換するシステムおよび方法に関する。本明細書で説明されるシステムは、坑井に後付けされるものであってもよく、また、作動流体が地下で気化し、地表または地表付近で凝縮するように設計されるものであってもよい。本明細書で説明されるシステムは、地下に挿入するための流路内に配置された1つまたは複数のタービンおよび発電機を含むものであってもよい。1つまたは複数のタービンおよび1つまたは複数の発電機は、運転中、発電に最適な地下深度に配置される。
【0036】
説明を容易にする目的で、(本明細書で使用される)用語「タービン」は、流体の流れからエネルギーを抽出する圧力解放装置および/または回転機械装置を指す。このような装置には、ガスタービン、液体タービン、インパルスタービン、ペルトン水車タービン、フランシス型タービン、水力発電型インパルスタービンまたは反応タービン、容積式タービン、圧力降下タービン、テスラタービン、ブレードおよび/またはベーンを有するタービン、ピストン膨張器(エキスパンダー)、ターボ膨張器、チョークのような流量制限器、膨張弁、インペラ、スターリングエンジンタービン、往復圧力降下機構、および形状記憶合金のアクチュエータ、ピストン、往復装置、または弁、のうちの1つまたは複数を含むものであってもよい。
【0037】
説明を容易にする目的で、(本明細書で使用される)「発電機」という用語は、タービンによって採取されたエネルギー(例えば、機械エネルギー)を別の形態のエネルギー(例えば、電気エネルギー)に変換する装置を指す。このような装置には、永久磁石モータ発電機、リニア発電機、軸流発電機のうちの1つ以上が含まれる。このような装置は、タービンによって採取されたエネルギーを直流電気または交流電気に変換するように設計または他の方法で構成されるものであってもよい。このような装置は、場合によっては、5kWと300kWの間の電力を発生するように構成され得る。
【0038】
本明細書で説明するタービンと発電機は、別体の構成要素であってもよいし、一体に形成された構成要素であってもよい。例えば、熱電発電機(例えば、管(チューブ)状であり、管内の冷たい流体が環状空間よりも高い圧力であり、管がジュール・トムソン効果を引き起こすために十分に狭く、圧力損失によって流体が冷却される)を使用して流体の流れを電気に変換することは、本発明の範囲内である。本明細書では、1つまたは複数のタービンおよび1つまたは複数の発電機を総称して「タービン発電機」と呼ぶことがある。
【0039】
本技術は、電気を生産するための広範囲の坑井構成に対応することができる。生産可能な電力量は、坑井の位置、温度プロファイル、深さ、およびサイズに依存し得る。典型的な例として、意図的に掘削されたものではない、枯渇した水平油井およびガス井を地熱資源に転換するために、本技術を組み込むことができる。このような油井およびガス井は、一般的に放棄され、地熱源として再利用されることは稀である。このような枯渇井戸は、北米だけでも何千もある。既存の井戸を改修することで、掘削コストを削減し、地熱プロジェクトに関連する資源リスクを低減し、これらの井戸を放棄する必要性を軽減することができる。あるいは、本技術は、地熱資源から発電する目的で掘削された井戸をサポートするために、適応させることもできる。
【0040】
本技術は、典型的には、閉ループシステムを使用する。閉ループシステムにおいて、作動流体(例えば、有機流体)を、それを通して循環させ、タービンを直接駆動することができる。このような閉ループシステムにおいては、システムと(地表または地下のいずれにおいても)周囲環境との間の物質移動は最小限であるか、または基本的に存在しない。閉ループシステムへの熱移動または閉ループシステムからの熱移動は、閉ループバリアを通って移動する熱である。閉ループバリアは、坑井に物理的バリアを設置するか、またはセメントまたはエポキシのようなバインダーで坑井を周囲の地層から密閉することによって、下降孔に形成することができる。流路(例えば、同軸流路および/または連続単一ループ)は、閉ループバリア内および地上の地表構造物内に設けられる。電気は、連続モードおよび/または貯蔵・解放モード(すなわち、圧力の蓄積が可能であり、タービンを通じて解放される)で、システムによって生成することができる。
【0041】
地熱資源から電気を生産することを意図した場合、従来の技術では、熱を地表に運び、地上の熱エネルギーの一部を直接プロセスまたは二流体プロセスで電気に変換する必要があった。
【0042】
対照的に、本技術は、発電機を熱源に持ち込むものであり、これによって、例えば、熱エネルギーが電気に変換される前に作動流体から失われる熱量を減少させ、流体を地表に持ち上げることから失われるエネルギー量を減少させ、および/または、圧力勾配が坑井内の作動流体の下降孔圧力を増加させる結果として、電力を生成するために利用可能なエネルギー量を増加させることができる。本技術は、発電機およびタービンを地下に含めることにより、流体柱の下方に生じる重量勾配によって生じる圧力差からエネルギーを生成することができる。発生した圧力のエネルギーの一部を電気に変換することができる。これは、エネルギーを取り出す前に、加熱された流体を地表に持ち上げる必要があり、流体の重さが寄生的なエネルギーコストとなる可能性がある他の地熱システムとは対照的である。さらに、ガスタービンを横切る作動流体の膨張は、流体の温度を下げる吸熱過程である。
システム内への伝導による熱伝達の速度は、作動流体と周囲の地下地層との間の温度差に影響されるため、熱源の近くにおいて、タービンおよび発電機を下降孔に(地下での作動流体の圧力降下を可能にするために)設けることで、システム内に伝達可能な熱量を増加させることができる。
【0043】
(設計上の考慮事項)
システムの設計または構成は、坑井の深さ、坑井の直径、坑井の水平側方部分の長さ、坑井内の温度勾配、地表温度の変動、および/または所望の運転モードのうちの1つ以上に依存し得る。変え得るまたは設計され得るシステムの態様または特徴には、システムの作動流体、戻り部の寸法に対する供給部の寸法(例えば、同軸流路設計における環状部直径に対する管状部直径の比)、システムと周囲の地層との間の絶縁量、供給部と戻り部との間の絶縁量、下降孔のタービンの数、地表のタービンの数、システム内の流体流路の構成(例えば、同軸流路における「クロスオーバー」の使用、クロスオーバーの数、クロスオーバーの深さなど)、および1つまたは複数のタービンの深さ、が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
ほとんどの設計バリエーションでは、タービンは閉ループ内のどこかに配置され、パワー出力を提供するために流路内の所望の位置または最適な位置に配置される。以下により詳細に説明するように、1つまたは複数のタービンは、坑井の水平部分、坑井の垂直部分、および/または地表に配置されるものであってもよい。異なる構成は、例えばシステムの発電量の最大化とシステムの設置および修理の容易化との間に、異なるトレードオフを有する。
【0045】
坑井を改修するためのシステムを設置するために、地表で液化し、地下で気化/膨張する(すなわち、密度が低くなる)作動流体が選択される。作動流体は、可逆的な化学反応を起こす流体、および/または、化学的エネルギーの貯蔵および輸送メカニズムを通じてシステムのエネルギー出力を高める流体であってもよい。作動流体は、以下に詳述するように、様々な物質の混合物であってもよい。
【0046】
場合によっては、地下の作動流体の熱伝達ポテンシャルを推定し、その推定に基づいて閉ループシステム内のタービン発電機の数および位置を指定することができる。生成される電力を増加または最大化するために、他の設計シナリオが評価されるものであってもよい。
【0047】
例えば、作動流体が坑井の底で超臨界状態にある場合がある。このような場合、作動流体は、気化しないにもかかわらず、熱サイフォンを促進するために、温度が上昇するにつれて十分な密度変化を起こす必要がある。密度の変化は圧力の変化に対応する。作動流体の密度は、深さとともに増加し、タービンまたは膨張弁の前後で、圧力が減少するにつれて減少する。
【0048】
別の例として、熱サイフォンの流量は、地表温度の影響を受けることがある。地表と底孔との間の温度差が比較的小さい場合、地表と底孔との間の圧力差は比較的小さくなり、それによって生成される電力量が低下する。そのため、システムは、温度の可変範囲で作動するように設計または他の方法で構成されるものであってもよい。日中暑すぎると流量が低下し、熱サイフォンが停止する危険性がある。この場合、様々な条件下での運転を容易にするために、作動流体が調整されるものであってもよい。
【0049】
システムは、貯蔵・解放動作モードを含むように設計することもできる。システムのいくつかの実施形態では、出力調整可能(dispatchable)発電が可能であってもよい。貯蔵・解放動作モードは、作動流体の温度が上昇するにつれて、閉ループの地下部分において圧力および温度が上昇することを可能にするために、弁を使用するものであってもよい。例えば、より重い作動流体(例えば、一定流量の擬似定常段階で確立される温度よりも、気化するために地下でのより長い滞留時間を必要とする作動流体)を、日中の数時間、下降孔に蓄積し、その後、翌日まで6~12時間発電するために、日が沈んだ後に解放することができる。
【0050】
次に、図を参照して、本技術の様々な態様を説明する。説明の目的で、図に描かれた構成要素は必ずしも縮尺通りに描かれていない。代わりに、本発明の様々な態様の機能に対する構成要素の様々な寄与を強調することに重点が置かれている。この説明の過程で、多くの代替可能な特徴が紹介される。当業者の知識と判断に従って、そのような代替的特徴は、本技術の異なる実施形態に到達するために様々な組み合わせで置換され得ることが理解されるであろう。
【0051】
(垂直内側通路ガスタービンの構成)
図1Aは、例示的な実施形態に従う地熱発電システム100を示している。システム100は、発電機101と、流路110に設置された1つ以上のタービン102とを含む。発電機101は、タービン102に機械的に連結され、タービン102によって運転される。流路110は、タービン102を駆動するために、タービン102を通る作動流体の流れを容易にし、または方向付けるのに役立つ。流路110は、供給部111、戻り部112、および供給部111と戻り部112との間に位置するトウ部109(すなわち、折り返し部)を有する。供給部111および戻り部112は、流路110内で作動流体の流れを概ね対向する方向に導くことを容易にするか、または支援する。トウ部109は、供給部111を戻り部112と流体連通させる。作動流体は、地表構造物150によって供給部111に供給されるものであってもよい。作動流体は、戻り部112を通って地表構造物150に戻るものであってもよい。地表構造物150は、システム100の一部であってもよい。
【0052】
流路110は、供給部111の長さに対応する流路長を有し、これは一般に戻り部112の長さと同じである。流路110は、典型的には、1.5kmから10kmの範囲の流路長を有するが、坑井の大きさによってはこの範囲外の長さも可能である。
【0053】
作動中、流路110(および、その中に支持された発電機101とタービン102)は、坑井120内に挿入されるか、または坑井120内に形成される。坑井は、
図1Aに示されているような水平坑井であってもよく、または他の種類の坑井であってもよい。流路110は、流路110を地層129から隔離するケーシング118内に形成され得る(すなわち、ケーシング118aは、圧力シールを保持することができる)。ケーシング118は、坑井120に挿入されるライナーハンガーであってもよく、ライナーハンガーを含むものであってもよい。例えば、改修の場合、ケーシング118は、既存のケーシングと新たに挿入されるライナーとの組み合わせであってもよい。本明細書では、ケーシング118は、流路110の外壁とも呼ばれる場合がある。外壁118は、流路110の全長を通じて一定の直径を有する必要はない。
【0054】
流路110が坑井120内に形成される場合、供給部111は、作動流体の地表128から遠ざかる方向への流れを容易にするか、または方向付けるのを助け、戻り部112は、作動流体の地表128に向かう方向への流れを容易にするか、または方向付けるのを助ける。供給部111および戻り部112は、
図1Aに示されているように、同じ坑井120内に配置されてもよいが、これは必須ではない。
【0055】
流路110は、坑内で作動流体を封じ込めるように構成された閉鎖流路であってもよい(すなわち、流路110は、地層129との流体交換を促進しない)。流路110は、連続流路であってもよい。流路110は、地表128の単一の開口と坑内の単一の折り返し点との間の単一の連続した坑井120内に設けられるものであってもよい(例えば、流路110は、地表下で複数のサブ坑井に分岐または分岐される必要はない)。流路110は、地表128における供給と戻りとの間に延びる連続流路であってもよい。連続流路は、様々な部分を有することができる。例えば、連続流路は、供給部に近接して位置する第1の部分と、リターンに近接して位置する第3の部分と、第1の部分と第3の部分との間に位置する第2の部分とを有することができる。
【0056】
空間110aは、坑内の流路110(すなわち、ケーシング118と地層129との間の連続空間)を取り囲むことができる。空間110aは、水性流体、セメントなどで充填されてもよい。空間110aは、区分けされていてもよい(すなわち、一部分の流体または物質は、別の流体とは異なる流体であってもよい)。例えば、空間110aは、上部にセメントを充填し、下部に水を充填してもよい。
【0057】
水平坑井の場合、坑井120は、地表128に近い垂直区間121と、地表128から遠い水平区間123を有する。垂直部分121は厳密に垂直である必要はない。水平部分123は厳密に水平である必要はない。例えば、垂直部分121と水平部分123は、その間に65°から85°の角度を形成してもよい。別の例として、垂直部分121と地表128は、その間に65°から85°の角度を形成してもよい。坑井によっては、垂直部分121は少なくとも1kmの長さになる。坑井によっては、垂直部分121の長さは5km以下である。坑井によっては、水平部分123の長さは少なくとも500m(例えば1km以上)である。一部の坑井では、水平部分123は5km以下となる。
【0058】
水平坑井の場合、垂直部分121と水平部分123をつなぐ部分は、本明細書ではヒール部122と呼ぶことがある。坑井120の地表128から最も遠い点は、本明細書ではトウ部124部と呼ぶことができる。流路110が坑井に挿入されると、流路110も垂直部分、水平部分、ヒール部、およびトウ部(すなわち、流路の地表から最も遠い部分)を有する。
【0059】
一般的に、地熱システムの地層 129 の温度は、深さとともに(例えば、直線的に)上昇する。したがって、温度は、垂直区間 121 では長さとともに変化するが、水平区間 123 ではそれほど変化しない。水平部分123は、垂直部分121におけるより大きな温度勾配と比較して、比較的均一な温度を有する坑井120の最も高温の部分となる。垂直部分121および水平部分123周辺の地層129の温度は、時間の経過とともに低下する可能性がある。水平部分123周辺の地層129の温度は、ヒールからトウまで対称的でない場合がある。例示的に、システム100は、坑井の最下点124における地層129の温度が比較的中程度(例えば、150℃以下)であっても発電するように運転され得る。
【0060】
流路110は、供給部111および戻り部112をそこに提供するために、様々な方法で設計されるか、または他の方法で構成され得る。流路110は、典型的には、坑井120のサイズに関連して、供給部111および戻り部112の断面流路面積を最大にするように設計される。例えば、坑井120の内部断面積が約100m2である場合、流路110は、合計が約100m2になる断面流面積を有する供給部111および戻り部112を提供するように設計され得る。供給部および戻り部 111、112 の断面積の相対的な大きさは、流路 110 内で望ましい流体圧力勾配プロフィールを提供するように設計されるか、または他の方法で構成される。
【0061】
いくつかの実施形態では、流路110は、流路110の直径を横切って流路110を供給部111と戻り部112とに分割する仕切りを含んでいる。他の実施形態では、流路110は、内壁117によって分離された内側通路113及び外側通路114を有する同軸流路である。このような実施形態では、外側通路114は、内壁117及び外壁118によって画定される環状であってもよく、内側通路113は、内壁117によって画定される丸みを帯びた又は円形の断面を有する管状であってもよい。内側通路113は、外側通路114の流路軸と概ね整列した流路軸を有することができる。外壁118は管状であってもよい。外壁118は、場合によっては4インチから7インチの範囲の直径を有することがある。
【0062】
図1Aに描かれている例示的な実施形態では、内側通路113は、主として供給部111として作用するように構成されており、外側通路114は、主として戻り部112として作用するように構成されている(/すなわち、以下でより詳細に説明されるクロスオーバー間の部分を除いて)。流路トウ109は、流路110の遠位端(/すなわち、地表128から最も遠い端)に位置し、外壁118の端と流路110の端壁によって規定される。流路トウ109は、内側通路113と外側通路114との間の流体連通を促進する。
【0063】
このような構成により、外側通路114は、外側壁118を通して地層129と熱交換し(/すなわち、外側壁118は、空間100aを満たす流体の物質を通して地層129と熱交換する)、内側通路113は、内側壁117を通して外側通路114と熱交換する。例示的に、このような構成により、内側通路113と外側通路114とを隔てる壁の熱伝導率(/すなわち、熱伝導性材料または断熱性材料を使用する)の影響を受けて熱伝達を行うことができる。このような構成は、流体の流れに対して比較的大きな断面積を提供することもできる。これは、地層温度が中程度の小さな坑井120において重要であり得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、内壁117は、流路110の第1の部分に沿って供給部111と戻り部112との間の熱交換を促進するために部分的に熱伝導性材料で作られ、流路110の第2の部分に沿って供給部111と戻り部112との間の熱交換を制限するために部分的に熱絶縁材料で作られる。断熱材は、熱伝達を低減するように設計されるか、または作動流体の設計選択に対応し、流体が流路110内の不適切な位置で凝縮または気化するのを防止するように、外側通路114を地層129(特に地表付近)から断熱するように他の方法で構成され得る。断熱は、真空キャビティ(例えば、真空断熱チューブ(VIT))又は他の適切な手段を用いて実施することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、内壁の断熱部117は、8W/K・m2 から10W/K・m2 の範囲の全体的な熱伝達率を有することができる。いくつかの実施形態では、断熱部分は、坑井の全垂直深度の少なくとも半分を覆う。例えば、断熱部は少なくとも1kmをカバーすることができる。いくつかの実施形態では、断熱部は水平部123に位置する(例えば、戻り流が
図1Aに示すように外側通路114を通っている場合)。
【0066】
内側通路113は地層129と直接熱接触しないので、システム100は、熱伝達を制御するために、内壁117と外壁118との間の様々なセグメントに配置されたクロスオーバー部分115を含むことができる。簡潔にするために、クロスオーバー部分115は、本明細書ではクロスオーバーとも呼ばれることがある。クロスオーバー115は、内壁117と外壁118との間の選択部分に配置され、供給部111と戻り部112とを、内側通路113と外側通路114との間(/すなわち、閉ループシステムの異なる深さ)で移動させる。クロスオーバー115の使用により、作動流体の供給部111と戻り部112は、流路110の内側通路113と外側通路114の間で入れ替わることができる。これにより、望ましい温度勾配および/または圧力勾配を形成して、システム100内に熱サイフォンを設定し、および/またはシステム100内の熱伝達を最適化することができる。
【0067】
クロスオーバー115の位置は、坑井の温度プロファイル、作動流体の組成、および地表温度範囲のうちの1つ以上に基づいて設計または他の方法で選択することができる。場合によっては、地表128に到達する前に作動流体がタービン102の下流の流体に凝縮しないように位置を選択することができる。
【0068】
例えば、第1のクロスオーバー115aは、供給部111において内側通路113から外側通路114への作動流体の移動を容易にするために、発電機101およびタービン102の上方に配置されてもよく、第2のクロスオーバー116bは、供給部111において外側通路114から内側通路113に戻る作動流体の移動を容易にするために、発電機101およびタービン102の下方に配置されてもよい。第1のクロスオーバー115aもまた、戻り部112において、内側通路113から外側通路114への作動流体の移動を促進する。第2クロスオーバー115bもまた、戻り部112における外側通路114から内側通路113への作動流体の移動を促進する。
【0069】
図1Bは、クロスオーバー115の例示的な実施形態を示す。クロスオーバー115は、作動流体の供給流と戻り流を、内側通路114と内側通路113との間で移動させるように構成されている。流路110の内側通路113と外側通路114とを接続する。クロスオーバー115は、供給部において内側通路113と外側通路114とを流体的に接続する第1組のコネクタと、戻り部において内側通路113と外側通路114とを流体的に接続する第2組のコネクタとを含むことができる。
【0070】
図1Bに示される例では、クロスオーバー115は、内側通路113に配置された内側通路遮断板141と、外側通路114に配置された外側通路遮断板142とを有する。内側通路遮断板141は、内側通路113内の流れが内側通路113内で継続するのを防止する。外側通路遮断板142は、外側通路114内の流れが外側通路114内で継続するのを阻止する。
【0071】
図1Bに描かれた実施例では、内側通路阻止板141は、内側通路113の円形断面に適合する形状の円形断面を有する。外側通路遮断板142は、外側通路114の環状断面に適合する形状の環状断面を有する。外側通路遮断板142は、環状部の周りに円周方向に間隔をあけて配置された一連の外側通路孔142a、142bを含む。各外側通路孔142a、142bは、コネクタを介して内壁117の対応する内壁孔144a、144bに接続されている。
図1のBの例では、コネクターは、相互誘導されたチューブ143a、143bである。チューブ143a、143bは、流体が内側通路113と外側通路114との間で交換されることを可能にする。
【0072】
図1Bに描かれた実施例では、外側通路遮断板142は、供給部111を流れる流体が外側通路114から内側通路113に導かれることを可能にするための第1組の外側通路孔142aと、戻り部112を流れる流体が外側通路114から内側通路113に導かれることを可能にするための第2組の外側通路孔142aとを含む。クロスオーバー115の他の設計も本発明の範囲内で可能である。
【0073】
図1Aに戻ると、比較的低温の作動流体供給流が、ポンプ136によって内側通路113に液相で導入される。ポンプ136は、システム100が短期エネルギー貯蔵のために使用される場合、始動中に、または作動流体の圧力を増加させるために採用され得る。ポンプ136は、作動流体が上下に流れる際の熱プロファイルを確立するために使用することができる。例えば、作動流体の流量、圧力、温度(すなわち、熱絶縁)、および組成は、供給流体が坑井120の底部に到達するまで気化せず、戻り流体が地表に到達できるように(すなわち、作動流体の戻り流は、上昇する途中で液化しないか、または、重力によって坑井120の下方に逆流しないように少量の液体を運ぶ程度に十分な速度で移動している、供給部111を下降する流体は、浮力によって流体が逆流するように密度が減少する程度に十分に加熱されない、および/または、流体の前方の圧力降下が最小抵抗の経路である、など)。作動流体は、水平部123を通って水平に流れ始めるヒール122に達するまで、流路110の垂直部121を通って下方に流れる。作動流体は、以下により詳細に説明されるように、垂直部分121を通って下方に移動する際に、内側通路113および/または外側通路114の両方を通って流れてもよい。
【0074】
流路110のトウ部109に到達すると、作動流体は内側通路113から外側通路114に移動する。
図1Aに描かれているように、水平部分123における作動流体の還流は、同軸流路110の外側通路114を通る(すなわち、
図1Aの矢印で示されているように)。これにより、水平部分123を流れる作動流体は、空間100a内に含まれる物質を介して形成物129によって直接加熱される。作動流体が加熱されると、作動流体は膨張し、地表128に向かって移動する。対照的に、内側通路113を通って地表128から離れる方向に流れるより密度の高い作動流体は、外側通路114から部分的に絶縁され、それにより、システム100内に熱サイフォンを設定し、作動流体を地表128の上方に戻すのを助ける(すなわち、熱サイフォンは、地層129の熱と地表128の冷却義務が作動流体の密度に影響を与えることによって生じる)。
【0075】
いくつかの実施形態では、内側通路113の端部(すなわち、トウ部109の直接またはその前)は、蓄積器130(例えば、
図1Cを参照)のように作用することができる数百メートルのライナーを含む。そのような実施形態において、蓄積器130は、ある適度な流体の滞留時間差から生じる密度および圧力差の結果として、自然対流混合を提供することができる。蓄積器130の長さは、坑井120の水平部分124の長さに基づいて設計またはその他の方法で構成することができる。例えば、蓄積器130の長さは、坑井120の水平部分123の長さが2kmである場合、1kmまでとすることができる。蓄積器130は、水平ライナーの内側に形成することもできるし、ライナーから数百メートル離れて、流路120の端部を2つの半円筒状の流路に分割する分割部131に形成することもできる。
【0076】
図1Aに描かれている例示的な実施形態では、発電機101およびタービン102は、流路110の垂直部分121に配置されている。発電機101およびタービン102は、垂直部分121の底部付近に位置してもよい(例えば、発電機101および/またはタービン102は、地表128よりもヒール部123に近接してもよい)。これは、作動流体がタービン102に到達したときに、作動流体が依然として十分に高温である(/すなわち、より浅い深さの空間100aに含まれる物質を介して、より低温の地層129によって冷却されていない)ことを保証するのに役立ち得る。内側通路113を下降する低温の作動流体を、外側通路114を上昇する高温の作動流体から断熱するために、内側壁117に断熱材を設けてもよい。
【0077】
図1Aに描かれているように、タービン102は、同軸流路110の内側通路113内に配置されることがある。タービン102は、内側通路113内の地表128に向かって流れる気体作動流体によって駆動される場合がある。例示的に、システム100内の内側通路113にタービン102を配置することで、外側通路114にタービン102を配置するよりもシステム100の構造物を単純化できる場合がある。作動流体が坑井120の底部124で超臨界状態にある実施形態では、タービン102は、作動流体が超臨界状態から気体状態に遷移する(/すなわち、液体状態から気体状態への有意な密度変化がある)深さより上の流路110内の位置で、内側壁117または外側壁118(またはその両方)によって支持され得る。
【0078】
本明細書では、超臨界状態の流体を超臨界流体(SCF)と呼ぶこともある。)SCFは、液相と気相が存在しない臨界点以上の温度と圧力にあるが、流体を圧縮して固体にするのに必要な圧力以下の流体である。
【0079】
タービン102が地表128の下に配置されることにより、システム100は、電気に変換するための追加のエネルギー源を利用することができる。例えば、流体勾配または摩擦力による圧力損失を部分的に取り戻すことができる。すなわち、作動流体が坑井120の底部から頂部へ流れる際に生じる圧力損失の一部は、タービン102を横切る圧力損失が地下で取られる場合、保存され得る。本明細書の他の箇所でより詳細に説明するように、作動流体の密度は、坑井120の底部および/または地表128に向かう途中で、場合によっては相変化を介して変化させることができ、これによりシステム100内の熱サイフォン効果を高めることができる。
【0080】
内側通路ガスタービンを容易にするために、システム100は、内側通路113と外側通路114との間で作動流体を移動させるための2つ以上のクロスオーバー115を含むことができる。
図1Aの例示的な実施形態では、第1のクロスオーバー115aがタービン102の上方に配置され、第2のクロスオーバー115bがタービン102の下方に配置されている。このような実施形態では、タービン102を出る作動流体の圧力は、液体を脱落させることなく気体として地表128に流れるのに十分高いはずである。同様に、地下タービン102を横切る圧力降下によって、地表128に到達する前に過剰量の流体が凝縮してはならない。
【0081】
タービン102を通過した後、内側通路113内の作動流体は、第1のクロスオーバー115aを通って外側通路114に流れ込み、外側通路114を通って地表128に向かって上昇し続ける。場合によっては、戻り作動流体は、供給作動流体が坑井120の垂直部分121に下降するにつれて、より低温の供給作動流体(/すなわち、内側通路113を流れる作動流体)を部分的に加熱することができる。これにより、供給流体は、水平部分123の手前で予熱できるように、温度と圧力が上昇する。同様に、供給流体および低温の地表地層129は、戻り流体を冷却するので、戻り流体が液体状態に戻るために地表128で必要とする冷却が少なくなる。
【0082】
戻る流体は、発電機101から地表128まで上昇する際、通常、全体的にまたは主に気体状態である。場合によっては、流体内に少量の液体が形成されることがある。そのような場合でも、気体の速度が十分に高ければ、液体は地表に運ばれる。
【0083】
あるいは、作動流体を坑内で凝縮させることもできる。そのような場合、作動流体は、再注入のために地表構造物150で処理される必要はない。すなわち、再注入は、流路110の近位端(/すなわち、地表128に近い流路110の端)において坑内で行われる可能性がある。
【0084】
双方向の環状流を有する単一の閉ループ井戸内に熱サイフォンを生成するためには、内側通路113と外側通路114との間の熱交換と温度差を注意深く管理する必要がある場合がある。システム100内で熱サイフォン効果を促進する温度差は、供給部111を流れる作動流体と戻り部112を流れる同じ作動流体との間の熱の差である。熱サイフォン効果を促進するために、システム100は、タービン102または追加の膨張弁を横切る圧力降下を促進するように設計されている。
【0085】
いくつかの実施形態では、システム100は、作動流体の圧力を低下させる1つ以上の補助圧力降下構成要素を含む。補助圧力降下コンポーネントは、水平部分123の前に、坑井の垂直部分121の底部に向かって配置されてもよい。圧力降下コンポーネントは、作動流体を冷却し、作動流体における熱捕集能力の増加を促進するように構成される場合がある。圧力降下部材は、膨張弁、チョーク弁などで構成することができる。供給作動流体の圧力を低下させることにより、作動流体が形成により加熱される際の気化を促進することができる。
【0086】
図1Aの例示的な実施形態では、第1のクロスオーバー115aの上の流路110の部分は、内側通路113と外側通路114との間の熱交換を可能にするように構成されている。例えば、第1のクロスオーバー115aの上の内壁117の部分は、鋼のような熱伝導性材料で作られてもよい。同様に、第2クロスオーバー115bより下の内壁117の部分は、内側通路113と外側通路114との間の熱交換を可能にするように構成されている。例えば、第2クロスオーバー115bより下方の内壁117の部分は、形成部129から(間隔100aに含まれる物質を介して)流路120への熱伝達を増加させるために、鋼のような熱伝導性材料で作られてもよい。
【0087】
一方、タービン102に隣接する内壁117の部分は、内側通路113と外側通路114との間の熱交換を防止するように構成されている。例えば、タービン102に隣接する内壁117の部分は、内側通路113と外側通路114との間の熱交換を防止するために、熱的に断熱された材料(例えば、真空キャビティ内壁又は非金属材料で作られた内壁)で作られてもよい。内側通路113と環状の外側通路114との間の断熱材は、タービン102および発電機101の上流側および/または下流側に100m~400m(例えば、150m、200m、250m、300m、350m)の距離にわたって延びていてもよい。幾つかの実施形態では、内側通路113と外側通路114との間の断熱材は、地表128の下1.5kmまでの深さまで、及び/又は作動流体が臨界点以上に加熱及び/又は加圧されるまで延在することができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、システム100は、流路110内の望ましい位置に配置された多数の逆止弁116a、116bを含み、一方向の流れは許容されるが逆方向の流れは阻止されるようにする。これは、作動流体の流れの方向性を制御して熱 サイフォンを促進するのに役立つ。
図1Aに描かれているように、逆止弁116bは、内側通路113と外側通路114との間のトウ部109に配置されてもよい。逆止弁116bは、地層129からの熱が作動流体を内側通路113を後方に押し上げることによって外側通路114内に過剰な圧力が高まるのを防ぐのを助けることができる。別の逆止弁116aは、タービン102に隣接して(すなわち、タービン102に隣接する外側通路114内に)配置され、供給流が流路120内へ下降し続けることを確実にすることができる。逆止弁116a、116bは、流路120の水平部分123(すなわち、最も高温の部分)をシールして、水平部分123内の圧力上昇を促すことができる。
【0089】
図示的に、
図1Aに示すシステム100の構成例は、単一のタービン102が比較的低温の地層129(例えば、70℃~150℃)から十分な量のエネルギーを生成できるように設計されている。定常状態では、システム100は、作動流体を冷却するため、またはタービン102を駆動するために作動流体を流路110を通して移動させるために電力を使用する必要がない。その代わりに、作動流体は、重力の力によって流路110を流れ落ち、坑内からの熱によって上昇する。すなわち、作動流体は液体として流路110を流れ、坑内で吸熱反応を起こして気化し、作動流体の圧力変化により流路110を上昇する。
【0090】
(地表構造物)
いくつかの実施形態では、システム100は、能動的な冷却を行うことなく(例えば、冷凍又は電力の支出を行うことなく)、地表温度条件で作動流体を液化するように設計又はその他の方法で構成される。そのような実施形態において、受動的冷却、空気ファン冷却、フィン冷却、または地表地熱冷却は、熱サイフォンを維持するのに十分な速さで流体を凝縮させるために、熱伝達速度を増加させるためにシステム100によって実施されるいくつかの例示的な方法である。例えば、システム100は、加熱流路から受け取ったガスを凝縮させるために、地表近くの比較的浅い深さ(例えば、200m 以下)に埋設された冷却流路の形をした地熱冷却ループで構成することができる。加えて、システム100は、地表から最初の数百メートルの深さでの冷却を促進するように構成され得る。これは、地表で非絶縁熱伝導性(例えば金属)流路を使用することによって促進され得る。別の例として、システム100は、JT(ジュール・トムソン)効果を利用して、流路110の上部または下部で冷却を誘導してもよい。システム100は、JT効果を誘発するように構成されたスロットルを含んでいてもよい。絞りは、流路110内の狭窄部、弁、または多孔性プラグから構成されてもよい。
【0091】
作動流体が地表 128 に流れるとき、外壁 118 を通して地層 129 と熱交換し、内壁 117 を通って流下するより低温の作動流体と熱交換することによって冷却することができる。これにより、作動流体が地表128の上方に到達するまで、液体の脱落を遅らせることができる。地表128で必要とされる冷却義務の量は、地表128まで流れる気体とともに運ばれない液体を脱落させることなく、坑井120の垂直部分121での冷却を利用することによって減少させることができる。
【0092】
図1Aに示す例示的な実施形態では、システム100の地表構造150は、外側通路114に結合された戻り配管132と、内側通路113に結合された供給配管131とを含む。戻り配管132は、坑内流路110の戻り部112から気相作動流体を受け取る。供給配管131は、液相作動流体を流路110の供給部111(例えば、
図1Aの例示的実施形態における内側通路113)に注入または供給する。
【0093】
地表構造物150は、ガス状作動流体の冷却及び液化を容易にするために、供給配管131と戻り配管132との間に配置された容器133から構成される。容器133は、熱を大気に受動的に分配するための熱交換面を含んでいてもよい。容器133は、作動流体が供給部111に戻る途中で凝縮するように配置された単一の分離器および/または地表配管から構成されてもよい。あるいは、容器133は、2つ以上の分離器から構成されてもよい。例えば、容器133は、戻り流体用の第1の分離器と、注入前の流体用の第2の分離器とを含むことができる。容器133は、オプションとして、2つの分離器の間に配置され、通常の熱サイフォン運転ではオフまたはバイパスされるポンプ/コンプレッサーを含むことができる。例示的に、地表128の上方で異なる圧力で作動する2つの分離器を提供することは、作動流体が地表128に流れるときに、より大きな圧力差を作り出すことによって、システム100の熱サイフォンを強化することを可能にする。
【0094】
いくつかの実施形態では、地表構造物150は、地表128の上方に位置する第2の容器を含む。第2の容器は、システム100に障害が発生した場合に、地表上の作動流体の体積を保持することを可能にすることができる。地熱配管システムから圧縮性作動流体を出し入れし、流量を調整することで、所望の出力が得ら れるようにするためである。
【0095】
戻り配管132上には、流路110の戻り部の背圧を制御できるようにするための弁134が設けられている。背圧弁134は、冷却容器133内の作動流体の状態(例えば、作動流体の温度)に基づいて、制御装置135(例えば、PI制御装置)によって制御され得る。いくつかの実施形態では、地表構造物150は、背圧弁134に加えて、または背圧弁134に代えて、地表タービン(図示は省略する)を含む。
【0096】
作動流体が所与の周囲地表温度に対して凝縮する圧力は、システム100の地表圧力を支配する(例えば、より高い圧力は、より高い温度での凝縮を可能にするが、システムを駆動する利用可能な圧力差を低下させる)。地表上の比較的高温の期間中、地表温度が閾値温度以下に下がるまで、システム100はアイドル状態のままであることがある。
【0097】
地表構造物150は、作動流体の熱プロファイルが擬似定常状態に達することを可能にするために所望される流量を確立するための起動ポンプ136を含むことができる。
図1Aに示される例示的な実施形態では、ポンプ136は、供給配管111に並列に接続され、ポンプ136が使用されるかどうかは、供給配管のどの並列脚が使用されるかを決定するバイパス弁137によって制御され得る。
【0098】
地表構造物150はまた、作動流体蓄積器を含むことができる(例えば、蓄積器130が坑内にある実施形態)。
【0099】
(複数のガスタービン構成)
図2Aは、別の実施形態例による地熱発電システム 200 を示している。システム 200 は、システム 100 に関して上述したものと同様の地表構造物 150 と、地表 128 の下に位置する複数のタービン 102 を含んでいる。例えば、システム 200 は、図 2A に描かれているように、坑井 120 の水平部分 123 で作動する 2 つの坑内タービン 102a、102b を含むことができる。システム200はまた、地表128の上方に位置するタービン102、および/または垂直部121に位置するタービン(図示せず)を含んでもよい。タービン102の数は、所与の全体的な圧力降下に対してシステム100の出力を最適化するように選択することができる。より高い圧力降下を誘導するため、または同じ全体的圧力降下に対してより多くの熱を採取するために、より多くのタービン102を使用することができる。
【0100】
各タービン 102a、102b は、それぞれの発電機 101a、101bに機械的に連結されて、それぞれの発電機 101a、101bを作動させることができる。あるいは、2つのタービンを1つの発電機と対にし、例えば、1つのタービンを発電機の上方に配置し、1つのタービンを発電機の下方に配置して、タービンと発電機の間の駆動軸および軸受にかかるスラスト力のバランスをとるようにしてもよい。
【0101】
システム200は、タービン102a、102bを駆動するためにタービン102a、102bを通る流体の流れを促進するための流路210を含む。タービン102a、102bは、(/すなわち、ハウジングに包まれるのではなく)戻り部212に直接露出され得るブレードおよび他のワークから構成される。流路210は、内壁217によって画定された内側通路213と、内壁217及び外壁218によって画定された外側通路214とを有する同軸流路であってもよい。
【0102】
いくつかの実施形態では、外側通路214は、スリーブ(外壁218)に通され、坑井120に挿入されるチューブ(内壁217)によって画定される。このような実施形態では、スリーブは、最初に坑井120内に設置されることができる。次いで、チューブおよびその中に支持されたすべての構成要素を、一つのユニットとして坑井120内に降下させることができる。構成部品(例えば、タービン102、発電機101など)を交換または修理するために、チューブストリング全体を引っ張って、地表128で構成部品にアクセスすることができる。この設計により、水路 210 全体を分解することなく、構成部品にアクセスし、保守することができる。
【0103】
他の実施形態では、坑井は、外壁218を画定するためにセメントで密閉され得る。セメントは、例えば、地層129の開いた穿孔に(すなわち、セメントスクイーズプロセスにおいて)圧送され得る。このような実施形態では、坑井自体が流路210の外壁218を部分的に画定し得る。
【0104】
図2A の実施形態例では、複数のタービン 102 が直列に接続されている。このような実施形態では、タービン102は、数百メートル以上互いに離間していてもよい。このような実施形態では、タービン102の各々は、単一のタービンを有する設計(例えば、
図1A参照)と比較して、タービン当たりの圧力損失が比較的低いため、タービン当たり比較的少量の電力を採取する。つ以上のタービン102を有する実施形態では、作動流体は、各タービン102に入るときに過熱され、その後、流体がタービンを通過することによって生じる各小圧力降下の後に再加熱される。したがって、坑井の水平断面123に対応する流路210内の位置(すなわち、流路が坑井120に挿入されているとき)にタービン102を配置し、温度が比較的高く、作動流体がタービン102間から移動する際に再加熱されるようにすることが望ましいことがある。
【0105】
例示的に、モジュール設計は、再加熱のために十分な間隔を空けてタービン 102 を端から端まで接続することを可能にする。各タービン102が、少なくとも25kWの電力を供給するために対応する発電機を作動させることができる場合、複数のタービン(例えば、6つ以上のタービン)を支持するために、より長い井戸が望ましい場合がある。
【0106】
図2Aに示された例示的な実施形態では、各タービン102は、外側通路214内の作動流体の流れによって駆動されるように構成されている。この構成では、供給部211は、注入部(インジェクション)からトウ部209まで流路210の内側通路213にあり、戻り部212は、トウ209から地表128まで流路210の外側通路214にある。流路210のトウ209では、作動流体が内側通路213から外側通路214に移動して地表に戻る。各タービン102は、内側通路213を通って逆方向に流れる作動流体を許容する中空ロータ/シャフトを備えた外側通路タービンであってもよい。この構成では、クロスオーバーは必要ない。クロスオーバーは流れを制限する可能性があるため、クロスオーバーを省略することで、システム 200 の流量をシステム 100 よりも増加させることができる。
【0107】
他の実施形態では、システム200の一部のタービン102は、外側通路114の供給部111および内側通路113の戻り部112を流れる作動流体によって駆動される場合がある。他の実施形態では、システム200は、全体的な熱伝達を強化することができるクロスオーバーを含むことができる(例えば、強化が追加の圧力降下と比較して良好なトレードオフである場合)。
【0108】
図1Aの例示的な実施形態と同様に、逆止弁216a、216bは、作動流体が供給部211に逆流するのを防止するために、流路210の供給部211内の内側通路213のトウ部およびヒール部に設けることができる。
【0109】
地表条件(例えば、容器 133 の分離器内の温度と圧力、および周囲温度)を考慮すると、流体がタービン 102 を通過する前に流体を気化させるために、孔の下方に圧力降下が必要となる。圧力降下は、膨張弁、チョーク、または狭いパイプの長さによって作り出すことができる。この圧力降下は、液相または濃厚相の超臨界流体に適したタービン 102 によっても作り出すことができる。タービン102は、内側通路213を流れる液体作動流体が流体の重量によって回転するように設計またはその他の方法で構成することができる。
【0110】
地表構造物の地熱配管システムは、地表 128 でポンプ136 を作動させ、坑内の圧力をコントロールすることで、エネルギー貯蔵に使うことができる。坑内の流体が加熱されるのに十分な時間が与えられた後、需要の高い時間帯に、その流体を電気に戻すことができる。
【0111】
図2Bは、流路210の外側通路212に配置されたガスタービン102の例示的な構造物を示す。ガスタービン102は、作動流体の還流によって駆動されるブレード241を有する(/すなわち、矢印によって示されるように)。作動流体は、周囲の地層129によって流路210の外壁218を通して加熱される。
図2Bに示すように、ブレード241は、内側通路211を通る作動流体の供給流を可能にするために、流路210の内側壁217の外側で外側通路212の周りに配置される。
【0112】
図2Bに描かれているように、タービン102は発電機101の軸受245に機械的に結合されていてもよい。磁石246は、固定子として内側通路211に固定されてもよい。コイル244は、軸受245に取り付けられるか、または軸受245に装着される。この構成により、コイル244はタービン214のタービンブレード241とともに移動することができる。
【0113】
他の実施形態では、システム200は、静止コイル244に対して磁石246を移動させるタービン102を駆動するように設計されるか、または他の方法で構成され得る。他の実施形態では、発電機101は、反対方向に動くように構成された(/すなわち、それぞれが内側通路および外側通路のそれぞれの流れによって駆動される)磁石246およびコイル244から構成される。
【0114】
他の実施形態では、システム200は、内側通路213と外側通路214の両方に同時に配置されたタービン102で構成される場合がある。これらのタービン102は、逆同期に回転し、単一の発電機101に対して作動することができる。例えば、システム200は、液体タービンに(流体の流れ方向に対して)時計回りの回転を促す時計回りフローダウン流路210を形成し、ガスタービンに(流体の流れ方向に対して)時計回りの回転を促す時計回りフローアップ流路210を形成するように構成してもよい。このような構成では、2つのタービンは互いに反対方向に回転する。タービン102は、ターボエキスパンダタービンであってもよく、流路210を流下する液体作動流体が液体タービンを駆動し、上昇する蒸気またはガス作動流体がガスタービン(例えば、ファンブレードを有するタービン)を駆動し、2つのタービンが組み合わされて単一の発電機101を作動させる。あるいは、液体タービンが発電機101の外極コイルを駆動し、ガスタービンが発電機101の電機子コイルを駆動してもよい。このような実施形態は、発電機101の相対速度を増加させることができる。
【0115】
直流電力は、システム 200 の坑内で生成され、地表128 で交流に変換される場合がある。下降孔で直流電力を生成することにより、異なるRPMで独立して回転する異なるタービンからの交流電力を同期させる必要性を低減することができる。発電機の出力電力を同期させる必要がないため、複数の発電機101から地表128に発電された電力を送るために単一のケーブルを使用することができる。
【0116】
(逆流式垂直内側通路ガスタービン)
図3Aは、別の例示的な実施形態による地熱発電システム300 を示している。地熱発電システム 300 は、これまでの実施形態と同様の地表構造物 150 を含んでいる。最初の実施形態のシステム 100 と同様に、システム 300 は、坑井の垂直部分の内側通路に配置されたタービン 302 と発電機 301 から構成されている。しかしながら、システム300では、クロスオーバーの使用を避けるために流れ方向が反転される。作動流体は、地表128で流路310の外側通路に注入され、外側通路でトウ部309まで移動し、流路310の内側通路を通って地表128に戻る。システム300では、作動流体は、以前の実施形態のように戻り部312を通って移動する際に地層219によってではなく、流路310の供給部311を通って移動する際に地層129によって加熱される(/すなわち、外壁318が地層129と作動流体との間の熱伝導を促進する)。
【0117】
システム300は、流体が供給部311を通って逆流するのを防止するための1つ以上の逆止弁を含むことができる。例えば、システム300は、作動流体の膨張によって流体がタービン302を通って内壁317によって画定された内側通路312を上昇することにより、熱サイフォンが正しい方向に流れることを確実にするために、
図3Aに描かれているように供給部311の垂直部分に配置された逆止弁316aを含むことができる。逆止弁316は、エネルギー貯蔵として、または発送可能な方法で運転されるシステムにとって特に望ましい場合がある。逆止弁316は、供給部311の環状断面に適合するように環状に形成されていてもよい。
【0118】
例示的に、システム 300 は比較的簡単に構築することができる。システム300では、流路はクロスオーバーによって阻害されず、垂直部分の中央に取り付けられたタービン302および発電機301は、流路310から独立して取り外し、設置することができる。
【0119】
(その他の構成)
図3B は、別の実施形態例による地熱発電システム400 を示している。これまでの実施形態とは異なり、システム 400 は、流路 410 の供給部 411 内に配置された液体タービン 402 から構成されている。システム400では、発電機401は、流路410の内側通路よりも狭くてもよい。作動流体は、タービン402を通過する前に発電機401の周りを流れてもよく、発電機401が中央流路を有する場合には発電機401を通って流れてもよい。
【0120】
液体タービン402は、坑井120の垂直部分121の底部に向かって配置される。供給流体は、同軸流路410の内側通路411に導かれる。流体は、クロスオーバーを通過することなく、タービン402を通って直接流れる。液柱の圧力は、タービン402の駆動を助けることができる。
【0121】
図2Aに示された実施形態と同様に、作動流体は、内側通路を通ってトウ409まで通過し、そこで反転して外側通路を通って流路を上昇する。戻り流体は、地表128に向かって流れる際に地層によって加熱される。システム400は、オプションとして、供給部411の垂直部分に位置する逆止弁416aと、トウ部に位置する逆止弁416bとを含むことができ、熱サイフォンが液体を正しい方向に流れるようにする(/すなわち、膨張が液体をタービンを通して内側通路を上るようにする)。
【0122】
システム300と同様に、システム400は比較的簡単に構築することができる。システム 400 では、流路はクロスオーバーによって阻害されることはなく、垂直部分の中央に取り付 けられたタービン 402 と発電機 401 は、流路410 の他の構成要素とは独立に取り外し、設置することができる。
【0123】
図3Cは、他の例示的な実施形態による地熱発電システムを示している。図 3C に示すシステムは、一般的にシステム 400 と同じように構成されている。図 3C に示されるシステムでは、タービン 420 は供給部に位置し、発電機 401 は戻り部に位置する。発電機401は、作動流体が発電機401の周囲を流れるのに十分な空間があれば、供給部に配置することもできる。
【0124】
図3D は、別の実施形態例による地熱発電システムを示している。図 3D に示されたシステムは、一般的にシステム 400 と同じように構築されている。図 3Dに示されたシステムでは、タービン 422 は供給部にあり、発電機 401 は戻り部にある。発電機401は、作動流体が発電機401の周囲を流れるのに十分なスペースがあれば、供給部に配置することもできる。
【0125】
図4は、別の実施形態例による地熱発電システムを示している。この実施形態では、坑井は、地下で交差する 2 本の別々に掘削された坑井の間に伸びている。この坑井は、既知の地熱資源に 2 本の専用坑井を掘るか、あるいは 1 本の坑井を再利用し、第 1 の坑井と地下で交差するように第 2 の坑井を掘ることで作ることができる。
【0126】
(熱力学)
本技術のいくつかの実施形態では、発電のために、強化された地熱発電サイクル(すなわち、有機ランキンサイクルを応用した熱力学的プロセス)を利用している。この新しいサイクルは、地熱システムや、熱の流入と流出を垂直方向に大きく分離したシステムに適用できる。具体的には、このサイクルは、地熱発電の経済性、適用性を改善し、効率を高めることができる。
【0127】
本書で説明するシステムは、発電用の坑内発電機に結合された少なくとも 1 つの坑内タービンを含む閉ループ地 熱配管システムを形成するように設計または他の方法で構成されている。タービンは、地層から採取された熱エネルギー(すなわち、地熱エネルギー)及び/又は流体柱の重力ポテンシャル エネルギーによって、少なくとも部分的に坑内で駆動される。例 えば、本書で説明するシステムは、既存の坑井(例えば、シェール開発に典型的な、地熱資源が以前は開発 を正当化するのに十分でなかった、枯渇した、あるいは活動していない複数の水圧破砕された油井およびガス井) で運転することができ、通常の運転ではポンプを使う必要がなく、そして/あるいは、地表から発電する従来の廃熱シス テムと比較して、作動流体の圧力をより高いレベルまで上げることができる。例えば、本明細書に記載されるシステムは、作動流体の圧力を超臨界状態まで上昇させることができ、および/または、作動流体が坑井の最高温度にある坑井の水平部分に達すると、作動流体を加熱することができる。作動流体の圧力、ひいてはシステムの重力位置エネルギーは、坑井の深さの関数である。
【0128】
強化された地熱発電サイクルは、ランキンサイクルに比べて、寄生的なエネルギー損失(機械的にシス テムに圧力を加えることによる損失)が少ない。通常のランキンサイクルでは、発電エネルギー量は以下のようになる。
発電電力量=(抽出地熱エネルギー)*(電力への変換効率)-(ポンプの電気エネルギー)*(圧力への変換効率)
一方、強化型地熱サイクルの発電量は以下の通りである。
発電エネルギー=(抽出地熱エネルギー)*(電気への変換効率)+(冷却流体柱の位置エネルギー)*(電気への変換効率)
本明細書に記載されたシステムは、作動流体の圧力を上げるためにエネルギーを費やすのではなく、サイクルの地表または上部に凝縮した後の自然な圧力上昇を利用する。
【0129】
図5A は、理想的な地熱発電システムのブロック図である。点「1」では、作動流体はシステム内で最も低い圧力で液相にある。流体柱の一番下にある点「2」では、流体は重力によって圧力が上昇している。作動液は、ポイント「3」に到達する前にタービンを通過し、加熱器/気化器に入ると圧力が低下する。ポイント「4」で、流体は気化されるか、十分に加熱されて密度が下がる。その後、流体はポイント「5」に到達するまで、熱サイフォン効果により垂直部分を上昇する。点「5」の後、流体は点「1」に戻る前に冷却器/凝縮器に入る。
【0130】
図5Bは、
図5Aに示されたシステムに関連して上述されたプロセスに対応する温度エントロピー図を示す。本質的に、このサイクルは密度エンジンであり、1つの閉ループシステム内の2つのカラム間の密度の正味差は、流体の重力位置エネルギーにより(例えば、利用可能な正味揚程に応じて)タービンを駆動する。これは廃熱サイクルではなく、垂直距離で隔てられた2点間の温度差を利用するように設計されたサイクルである。このサイクルにはポンプは必要ない。その代わり、サイクルは重力と熱サイフォン効果によって駆動される。
図5Aおよび
図5Bに関連して上述した理想的なケースでは、流体は重力と熱シフォン効果によって駆動される。5Aおよび5Bに関連して上述した理想的なケースでは、流体はタービンを通過する前に加熱されない。流体はタービンの下流で加熱され、改良型ランキンサイクルとして気化するか、改良型ブレイトンサイクルとして密度を大幅に下げる。理想的な場合、システムの最高温度はタービンの下流にある。流体はサイクルの最上流で凝縮する。理想的なケースでは、サイクルの下部と上部の間に熱伝達はなく、流体は過熱されない。
【0131】
図5A プロセスの応用例としては、地熱資源の開発、あるいは高層ビルからの廃熱回収などがある。サイクルの効率は、与えられた流量に対して、システムの高さによって変化する。このサイクルは、低エンタルピーの地熱資源に適している。ここで説明するシステムでは、坑井を下る流体の予熱はほとんどなく(例えば、同軸の場合、下る流体は高断熱チューブを通り、上る流体は地層と熱的に接触している環状空間を通る)、流体が坑井を上る際に地層と多少の熱交換をする。流体の熱プロファイルが地熱勾配と同様であれば、交換される熱量はわずかである。
【0132】
図5Cは、例示的な実施形態による地熱発電システムのブロック図である。図 5C に示されたシステムは、図 1A に示されたシステム 100 と同様である。図 1A のタービン 102 と同様に、タービン 502 は、作動流体の還流経路に位置し、坑井の垂直部分の底部近傍で、ヒール部と水平部分の上方に位置する。
【0133】
図5Dは、図 1A のシステムに対応する地熱発電サイクルの温度エントロピー図である。
図5Dにおいて、点 「1」は、温度が低く、流体が液相にある流路への作動流体の注入(すなわち、重力および/またはおそらくはベンチュリー効果による自然流)に対応している。点「2」は、水平坑井のヒール部に相当し、そこでは、流体が坑井の垂直部分を下降するにつれて、いくらかの加熱が発生している。点「3」は、流体が最高温度にある流路の戻り部の点に対応する。
図5Dに描かれているように、作動流体は、点「2」と点「3」の間の地層によって加熱され、トウ部へ流れ、ヒール部へ戻る結果、圧力降下が発生する。点「2」と点「3」の間では、温度とエントロピーが全体的に上昇する。流体は液体から気体へと相変化する。最後に、気相の流体はさらに加熱されて超臨界状態になり、温度が急激に上昇する。気相流体の圧力は、流体が地表に向かって戻るにつれて低下する。したがって、流体は、圧力が低下する結果、超臨界流体から気体へと切り替わる可能性がある(吸熱プロセス)。点「3」と点「4」の間で、流体は電気を発生させるための地下タービン発電機を通過する。点「4」は、流体がタービンを通過し、急激な圧力低下と温度低下を起こした、タービンを過ぎた流路の戻り部の点に相当する。点「5」は、ガスが冷えて飽和ガスになった地表に相当する。点「6」は、流体が凝縮段階を通過した後であり、ここで飽和ガスは液体に戻される。
図5Dに示されているように、凝縮は、地表圧力における作動流体の沸点に対応する一定の温度で起こり得る。分離器は、液体をガスから分離し、坑井下への再注入のために液体流体をポイント「1」に戻す。
【0134】
図5Eは、別の実施形態例による地熱発電システムのブロック図である。この例示的な実施形態では、戻り部と供給部の密度差が発電を駆動する。このプロセスは、図 3B に示したタイプのシステムにも適用可能である。
図5Eに示すシステムは、作動流体の供給流の経路に配置された液圧タービンを含む。液圧タービンは、重力位置エネルギーによる作動流体の流れから電気を生成することができる。システムの最高温度はタービンの下流にある。採取された地熱エネルギーの主な目的は、作動流体の密度を変化させること、および/または作動流体を地表に戻 すために熱サイフォンを駆動することである。
【0135】
図5Fは、
図1Cのシステムの温度エントロピー図である。
図5Fにおいて、点「1」は、温度が低く、流体がその液相にある、流路への作動流体の注入(/すなわち、重力および/または場合によってはベンチュリー効果による自然流)に対応する。点「2」は、流体が坑井の垂直部分を下降する際にいくらかの加熱が発生した、坑井の垂直部分の底部に対応する。点「3」は、水力タービンを通過した流体がタービンを通過し、急激な圧力低下と温度低下が発生した、水力タービンを過ぎた流路の供給部の点に対応する。点「4」は、水平坑井のトウ部に相当し、流体が戻り部を通って流れ、坑井の水平部分を通って垂直部分を上昇する準備が整うにつれて、さらなる加熱が発生した場所である。点「5」は、ガスが冷えて飽和ガスとなった地表に相当する。点「4」と点「5」の間で、作動流体の温度は、システムの最上部に戻る際に温度と圧力の降下を受ける。温度降下は、以下の1つ以上によって引き起こされる。すなわち、(i)流下する作動流体と交換される熱、(ii)流体温度が地層129の温度より高い場合、地層129に拒絶される熱、および(iii)ジュール・トンプソン効果による熱交換であり、ここでは圧力の低下および/または流体の相変化が周囲のエネルギーを吸収する。点「6」は、流体が凝縮段階を通過した後であり、そこでは飽和ガスが液体に戻される。
【0136】
図5Gは、他の例示的な実施形態による地熱発電システムのボック図である。図 5G に示されるシステムは、
図4に示されるシステム 400 と、図 2A に示されるシステム 200 の組み合わせに類似している。
図5Gに示すシステムは、作動流体の供給流の経路に位置する液圧タービンと、作動流体の戻り流の経路に位置するガスタービンとを含む。
図5Gに示すシステムでは、液圧タービンとガスタービンの両方が坑井の水平部分に配置されている。
【0137】
図5Hは、図 1G システムの温度エントロピー図を示す。図 5H において、点「1」は、温度が低く、流体が液相にある流路への作動流体の注入(重力および/または場合によってはベンチュリー効果による自然流)に対応する。点「2」は、水平坑井のヒールに相当し、そこでは、流体が坑井の垂直部分を下降するにつれて、いくらかの加熱が発生している。点「3」は、流体がタービンを通過し、圧力と温度の低下が発生した、水力タービンを過ぎた流路の供給部の点に対応する。点「4」は、流体が戻り部を通って流れ、坑井の垂直部分を再び上昇する準備ができたため、さらなる加熱が発生した水路の水平部分のトウ部に対応する。点「4a」は蒸気タービンの直前である。点「5」は、蒸気タービンを過ぎた流路のヒール部に相当し、ここで流体はタービンを通過し、第二の圧力と温度降下が発生した。点「6」は、ガスが冷却されて飽和ガスとなった地表に相当する。点「7」は、流体が凝縮段階を通過した後であり、飽和ガスが液体に戻ったところである。
【0138】
上述したような地熱発電のサイクルを作り出すために、作動流体の組成を変えることができる。すなわち、作動流体の組成は、冷却されると地表で凝縮して液体になり、液体として流下し、坑井の 水平部分で気化し、発電機を作動させるためにタービンを通過し、気体として地表に逆流するように、注意深く選 択および/または微調整することができる。同じ閉ループシステム内に、流路の上部と下部との間で比較的一定の圧力(摩擦による損失を差し引く)で熱伝達を促進する2つの垂直流体流路を組み込むことにより、本明細書に記載のシステムは、そこを流れる作動流体に受動的に相変化を引き起こし、坑内に配置された発電機を作動させるタービンを駆動することができる。本明細書に記載のシステムは、システム内の最高温度が達成されるタービンの下流に十分な熱流入を収容するように設計されており、作動流体が地表に戻る際に流路の戻り部で気化する(または十分に加熱されて密度が大幅に低下する)ようになっている。閉ループ水力発電サイクルにおいて、水の代わりに圧縮性流体を利用することにより、本明細書に記載されたシステムは、坑井を下降する流体の重力位置エネルギーから電気を生成し、流体を地表に戻すために坑内の地熱エネルギーに頼ることができる。これは、低エンタルピーの地熱資源から電気を生成する、特に効果的な方法である。
【0139】
(地熱発電サイクルの応用例)
上述した強化型地熱発電サイクルの様々な実施形態は、地熱井から電力を生成するための応用例を持 っている。図 10 は、強化型地熱発電サイクルに基づく発電方法 1000 の一例を示すフローチャートである。
【0140】
方法1000は、ブロック1100において、供給部と地表の戻り部との間に延びる連続的な下降孔流路に作動流体を導くことから始まる。作動流体は、流路の第1の部分(/すなわち、供給部に比較的近接した部分)を流れる。作動流体が流路の第1部分を流れるにつれて、その温度と圧力は中間温度と中間圧力まで上昇する。場合によっては、作動流体がブロック1200の坑内タービンを通過する前の温度上昇(/すなわち、中間温度と作動流体の初期温度との差)は小さい。作動流体がブロック1200の坑内タービンを通過すると、その圧力が低下し、タービンに連結された発電機から電力が発生する。ブロック1200においてタービンを通過した後、作動流体の温度は、作動流体が流路の第2の部分を通って進行するにつれてさらに上昇する。例えば、作動流体は、流路の第2の部分を通って進行する際に地層から熱を吸収することができる。流路の第2部分は、場合によっては坑井の水平部分に相当する。作動流体は,流路のこの第二の部分(タービンを通過した後)で最高温度に達する。最高温度に達した後、作動流体は、ブロック1300において、流路の第3の部分(/すなわち、戻り口に比較的近接した部分)を通って地表に戻される。作動流体は、熱サイフォン効果により、流路の第3の部分を通って地表に戻される。
【0141】
坑内流路の構成、流路内に配置されるタービンの数、及び/又はタービンの位置に応じて、作動流体は、流路の様々な部分を通って進行するにつれて異なる挙動を示す場合がある。例えば、最高温度と中間温度との間の差は、流路の最初の部分が地層から熱的に絶縁されている場合には、中間温度と初期温度との間の差よりも大きくなる可能性がある。別の例として、作動流体は、流路の第1の部分を液相として流下し、流路の第2の部分で気相に遷移してから、熱サイフォン効果によって流路の第3の部分を流下することができる。いくつかの実施形態では、作動流体は液相のN2O4であり、流路の第2部分で吸熱可逆化学反応を起こし、気相のNO2になる。
【0142】
典型的な有機ランキンサイクルは、システム容積に対する流量比が、本明細書のシステムで採用されている方法およびプロセスよりも高くなる。本明細書のシステムにおける流量は、設計された汲み上げ流量ではなく、温度勾配、坑井の直径、および/または深さによって決定される。温度差は熱サイフォン効果を生み出し、流れる流体中のエネルギーの一部は電気として利用される。伝導性熱伝達の結果として受動的対流流量を採用することにより、坑井の最深部と地表の間の温度差は時間と共に変化する。システムは、作動流体を1日に複数回(例えば、10~20回)循環させるように流量を制御するように構成することができる。流量は、坑井の水平部分への伝導による熱伝達が、貯留層だけでなく作動流体も流路を流れる擬似定常状態に達することができるように、低く定常的なものとすることができる。
【0143】
場合によっては、本明細書に記載のシステムおよび方法は、凝縮を促進するために地表における圧力を増加させる手段を含む。地表における背圧を増加させることは、全体的な流量を減少させ、その結果、より少ない電力を生成する。一旦冷却された作動流体の温度が高すぎて作動流体が凝縮できない場合には、より高い圧力が必要となる場合がある。
【0144】
本書で説明するシステムのいくつかの実施形態は、最大 500kW の電力を生産するように運転される。地熱発電は、坑井の掘削にかかる費用が高いため、そのような小さな出力では経済的に設置できないのが一般的である。同様に、油田やガス田のような低品位の熱貯留層は、一般的に温度が 100℃以下であり、かつ/または深すぎて、流体を地表に経済的に送り返すことができない。ある深さから比較的低温の水を汲み上げるのに必要なエネルギーは、従来の地熱システムを不経済なものにしている。
【0145】
(作動流体)
本技術は、閉ループの地熱システムに作動流体を循環させることで発電する。作動流体は、地表にできるだけ多くの熱をもたらすことよりも、むしろ発電量を向上させるために選択される。従って、作動流体の熱容量は、密度、気化熱、凝縮エンタルピーのような特性よりも重要ではない。作動流体は、気体として地表に戻ることができる流体、気体速度で持ち上げることができる少量の液体を伴う気体、またはSCFであるべきである。作動流体は、地表で液体に凝縮できるものでなければならない。
【0146】
作動流体は、主に有機流体であっても、完全に有機流体であってもよい。作動流体のベース組成として使用するのに適した有機流体の例としては、プロパン、エタン、メタン、CO2、より重い炭化水素、R143aのような冷媒などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。坑内地熱システムは、場合によっては単一の流体を使うこともある。単一の流体は、異なる化学物質の混合物であることもある。この混合物は、通常、液体状態で混和性がある。混合液は、閉ループシステムの機能を維持または向上させるために、季節ごと、あるいは地熱資源が枯渇するごとに調整される。相変化材料は、作動流体の凝縮や気化を促進するために、閉ループ内に含まれることもある。その他の添加物も、作動流体の相挙動を高めるために含まれることがある。
【0147】
いくつかの実施形態では、作動流体は、CO2およびN2のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態において、作動流体は、メタン、エタン、プロパン、ブタンおよびペンタンのうちの1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、作動流体はメタノールを含む。いくつかの実施形態において、作動流体は非水性物質を含む。いくつかの実施形態において、作動流体は、CO2と1種以上の炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン)とを含む。いくつかの実施形態において、作動流体はエチレン、エテン、エチレン、プロピレン、プロペン、フルオロエタン、ギ酸メチル、ベンゼン、ジメチルエーテル、トルエン、R22、R123、R125、R134a、イソブタン、メチルアミン、ヘリウム、CH3Cl、CHCl3、CH3F、CHFCl2、R-1132a、R-13B1、R-12B2、またはこれらの混合物のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、作動流体は、N2、NO2、N2O4、N2O、NH3、SO2、SO、SO3、O2、または他の既知の冷媒または冷媒混合物(それらの混合物を含む)、のうちの1つ以上を含む。例えば、作動流体は、システム内を循環する際に可逆的な化学反応を起こす冷媒であるか、またはそれを含むものであってもよい。冷媒の平衡点は、坑内条件と比較して地表条件に基づいてシフトする。いくつかの実施形態では、作動流体は、前述の物質のいずれかの組合せを含む。
【0148】
一部の実施形態では、作動流体は水溶液である。いくつかの実施形態では、作動流体は、多くとも5重量%の水である。
【0149】
一部の実施形態では、作動流体は、坑内温度および圧力(すなわち、坑井のトウ部における温度および圧力)では気体であり、地表温度および圧力では液体である。いくつかの実施形態では、作動流体は、坑内温度および圧力(すなわち、坑井のトウ部における温度および圧力)では超臨界流体であり、地表温度および圧力では液体である。例えば、作動流体は、-20℃から+20℃の間の特定の液体温度で、対応する特定の液体圧力が5,000kPa未満(例えば、地表)で液相である。別の例として、作動流体は、150℃未満の特定の気体温度で、対応する特定の気体圧力が4,000kPaを超える気相にある場合がある(例えば、坑内)。別の例として、作動流体は、100℃未満の特定の気体温度で、4,000kPaを超える特定の気体圧力に対応する気相にある場合がある。別の例として、作動流体は 4,000 kPa を超える臨界圧力を有する。作動流体は、示された範囲の全体にわたって示された状態にある必要はない。地表圧力は、作動流体が地表で確実に液化するように制御することができる。
【0150】
同様に、坑内圧力は、地表圧力および/または流体の重量による圧力に基づいて制御することができる。流体の重量による圧力は、5,000~12,000kPa/kmの速度で増加する可能性がある。例えば、地表の圧力が2,000kPaで坑井の深さが1.5kmの場合、作動流体の重量は10,000kPa/kmの圧力を加えるので、坑底の圧力は約17,000kPaになる。
【0151】
これらの静圧の考慮に加えて、作動流体の流量は、坑井内の特定の地点における坑内圧力を調整することによっても制御することができる(すなわち、流量自体、流路の断面積の変化、および圧力を付加または除去するポンプまたはタービンの構成による)。つまり、地表の圧力、流量、および作動流体は、作動流体が地表では液体であり、坑井内の特定 の位置では気体であるように選択することができる。
【0152】
液相が比較的濃い流体は、坑井内の流路を流下する際に、その勾配を通じてより多くの圧力を発生させる傾向がある。液相が比較的濃い流体はまた、坑井の水平部分において、地表に戻る際に気化できるように流体を十分に高い温度に加熱するために、より高い熱流束を必要とする傾向がある。さらに、流体の重力が軽いほど、流体の沸点は低くなる。沸点が低いということは、地表で利用可能な冷却義務を考えると、作動流体を凝縮させるためにより高い地表操作圧力が必要となることを意味する。
【0153】
異なる作動流体は、異なる質量流量および体積流量をもたらす。本書で説明するシステムは、既存の坑井の特性および熱伝達の熱力学的可能性(地層の温度、深さ、地表積)を考慮した上で、供給路と戻り流路の間の可能な限り高い熱流入と密度差、および最も高い質量流量を提供する作動流体を選択することによって、出力を最適化することができる。坑井の流量は、予測される挙動につながる圧力降下を誘発するために十分に高くする必要があり、したがって熱サイフォンを開始するために起動ポンプが必要となる場合がある。この効果は、坑井への利用可能な熱流束の割合によっても釣り合わされる。地表温度の(24時間のおよび季節的な)変化の結果として、設計流量範囲が存在する可能性がある。
【0154】
流量、流体組成、坑井の設計パラメータ、タービンの位置と数、地表温度の相互依存性により、 変数の 1 つがその設計ポイントに正確に達していなくても、システムが異なる効率で運転できる冗長性が ある。地表が高温で、地表の作動圧力が上昇している場合、発電を可能にするのに十分な圧力降下を誘導するために、流体を高い速度で供給することが望ましい場合がある。そうでない場合は、坑井を地表から遮断して流体の流れを止めることができる。そうすることで、坑内圧力が上昇し、オンラインに戻したときにサージが発生する可能性がある。
【0155】
坑内弁は、エネルギー貯蔵運転モードを提供する一つの方法である。地表の流体貯蔵と地下の容積を組み合わせてエネルギー貯蔵を提供することもできる。短期的なエネルギー貯蔵は、坑井の最上部で流れを止め、地層を再加熱し、圧力を高め、作動流体を擬似定常状態温度に相対的に過熱し、最大に達するまで、貯蔵されたエネルギーを放出し、定常状態出力を上回る短期的なパワーサージを作り出すことによって達成されるかもしれない。
【0156】
エネルギー貯蔵は、作動流体の組成を季節ごとに調整できるようにすることで、出力と発電効率 を向上させることができる。地表温度が低いほど、理論的には装置により多くの電力を発生させることができるが、流体組成によって制限される可能性がある(例えば、冬にはエタンのような流体で軽くし、夏にはプロパンのような流体で重くする)。
【0157】
(制御)
設計は、坑井の構成によって決定される。坑井の特性には、総測定深度、総垂直深度、水平横方向の長さ、地表温度範囲(日および季節)、坑内温度プロフ ァイル(温度勾配)、垂直方向の地層を通る熱流束、水平横方向の熱流束、(水圧破砕刺激によって形成された高透 過性の流路の結果として増加した地層内の対流熱伝達)、坑井の長さに沿った内径、および坑井の以前の完成設計が含まれる。
【0158】
システムは、生産可能な電力量を増やすように設計される。システムは、坑井内の断熱材を最小化し、地表冷却器の容量を最小化するように設計される。所与の坑井に対して、システムの設計パラメータは以下の一つ以上を含む。それらは、
- 液体組成、
- 流体勾配の影響、必要な気化エネルギー、流量、
- 流体の圧力勾配の下降と上昇、および比率、
- 気化エネルギー率、
- 流量、
- 気圧(地表圧力)動作範囲、
- 最低気温(地表温度)、
- 最高気温(地表温度)、
- 地表結露冷却能力、
- 動作モード(連続、または貯蔵・解放)、
- タービンの位置、
- タービンの数、
- クロスオーバーの数と位置、
- 流体間の熱伝達を制御するための内側通路に沿った断熱材、および
- 温度変動を考慮した出力容量係数、である。
【0159】
これらのパラメータは、以下のパラメータの1つ以上を改善および/または最適化するように調整することができる。それらは、
- 採取される熱量、
- 質量流量、
- 電力出力、
- 効率、
- 実行時間、および、
- メンテナンス・スケジュール、である。
【0160】
流体の組成は圧力勾配を変化させ、地下の最大圧力と地熱配管システム全体に影響を与える。熱サイフォン効果によって作られる利用可能な流動圧力の総量は、坑井が流れる速度、冷たい流体がヒートシンクに導入される熱容量、気化エンタルピー、流量を制御する。熱流束は、発電量にシステムの効率をかけたものに直接関係する。効率が高ければ電気量が多いとは限らない。
【0161】
地下で気化する場合、流体はタービンおよび/または膨張弁に入る前に超臨界状態になることがあり、そのため実際には気化しないことがある。液体と気体の密度に対する超臨界流体の密度は、可能な熱サイフォンが確立できるかどうかを決定するのに役立つ。作動流体を制御することで、超臨界流体が気化する時点を制御することができる。
【0162】
特定の坑井で自己保持型熱サイフォンを確立できない場合、ポンプを使用してケーシングの下側の面圧を上昇させ、流れを刺激することができる。ポンプは、地表の状況に応じて制御することができる。例えば、坑井の上部と底部の温度差が小さい場合にのみポンプを使用することができる。ポンプは、地表ポンプおよび/または地表からわずかに下(例えば、地表から約10~20メートル下)に垂下するインラインポンプで構成することができる。
【0163】
動作条件(例えば地表の温度、圧力など)に応じて、各タービンは、場合によっては互いに独立にオン・オフ することができる。システムの最上部にあるタービンは、地表の温度が変化した場合、そして/あるいは地熱資源が枯渇した初期、 あるいはシャットダウン期間の直後に、利用可能な余剰熱を回収するために、システムを制御するために使われ る。
図6F に示されるように、この期間は何年も続くが、短時間の運転停止に対応して、数時間で終わることも可能である。
【0164】
システムは、作動流体の状態を受動的に制御するために膨張弁を使用することができる。膨張弁は、静的チョークまたは動的チョークのいずれかと考えることができ、地表ポンプを使用して始動時に最小速度が達成されると、一定の圧力降下を提供するようにサイズ設定される。始動時に流体速度が増加すると、チョークを横切る圧力降下は最終的に作動流体を気化させるのに十分な圧力降下となり、その後再加熱され、タービンを通過する。膨張弁は、垂直部分の最深部と内部チューブの端部との間の、下向きに流れる地下に設置される。膨張弁の機能は、タービンまたは一連のタービンによって提供される。
【0165】
適切な流量が達成され、システムが所定の圧力および温度の動作範囲、または坑井の長さに沿った温度プロファイルに達すると、起動ポンプは停止することができ、流量は熱サイフォン効果によって維持される。これには最大12時間かかる。熱の減少は、所定の温度と圧力プロファイルではなく、むしろ、戻りから供給へのシステム内の熱伝達と、熱サイフォン効果を確立するための全タービンにわたる圧力降下である。
【0166】
ポンプは、システムの動揺時、貯蔵・解放動作モード、または設計範囲外での動作に使用することができる。
【0167】
タービンは坑内の発電機に連結され、発電機は電気ケーブルで地上に接続される。単一のタービンのセットアップにおける電力は、交流または直流である。直流電力を発生させるマルチタービン構成では、地表まで1本の電線で移動するために電力源を同期させる必要はない。
【0168】
(オプション)
もう一つの実施形態として、本書で説明するシステムは、地熱ユニットが貯蔵・解放動作モードで動作 するように構成された太陽光発電設備と組み合わせることが可能であり、それによって太陽光発電設備におけ るバッテリーの必要性を減らすことができる。この実施形態は、日中の太陽光発電の出力が高く、送電網に供給されるために生じるダックカーブの問題を軽減するのに役立つ。同様に、地熱は太陽エネルギーの量が少ないときに稼働し、補完的なエネルギー源を提供することができる。また、地熱発電システムの断続的な運転は、地熱資源の坑口付近の熱を補充し、全体的な発電量を増加させたり、現在発電に経済的とは考えられていない低いエンタルピーの地熱資源(100℃以下)でシステムを経済的にしたりすることができる。
【0169】
貯蔵・解放動作モードは、地下の圧力が通常の/予想される運転圧力よりも高くなることを可能にする。また、地層の再加熱により地下の流体が加熱されることを可能にする。また、圧縮空気エネルギー貯蔵と同様に、圧縮可能な流体を加圧することができる。日中の太陽光の流入は、地表のポンプに電力を供給し、地下の圧力を上昇させる。日没後、圧力は解放され、エネルギーに変換される。
【0170】
外側通路の中には、作動流体が地表に戻るときに冷却と凝縮を助けるため、あるいは地表温度が浅い地熱資源温度より低いときに作動流体の加熱を助けるために、地下に伸びるフィン付き金属製の固定具がある可能性がある。
【0171】
流体が外側通路を下るとき、再生油井と地熱配管システムの外側との間の坑井流体と熱交換する。また、内側通路を上昇する流体とも熱交換する。設計の一部として、熱伝導を制限するために、内側通路に断熱材が必要な場合もある。
【0172】
クロスオーバーは、元々内側の通路にあった流体が外側の通路に流れるように、そして/あるいは元々外 側の通路にあった流体が内側の通路に流れるようにするためのものである。複数のクロスオーバーは、外側通路の流体が地層と熱交換できるようにクロスオーバーが必要とされる場合があるため、坑井の設計を最適化するのに役立つ場合がある。
【0173】
上述した例示的な態様に加えて、本発明を以下の実施例において説明するが、これらは本発明の理解を助けるために記載されたものであり、その後に続く特許請求の範囲において定義される本発明の範囲をいかなる意味においても限定するものと解釈されるべきではない。
【0174】
(例)
本発明者らは、本明細書に記載のタイプのシステムに関してシミュレーション研究を行った。
【0175】
(例1:熱プロファイルのモデリング)
本発明者らによって実施された最初のシミュレーション研究では、水平坑井内の熱流入を予測するために熱貯留層モデルが作成された。
図6Aは、本発明者らによって作成された坑井の熱貯留層モデルを示している。このモデルでは、坑井の深さは約2500m、総測定深度は約3900m、垂直部分の内径は約150mm、水平部分の内径は約100mmである。外壁と内壁が坑井内に配置され、同軸流路をシミュレートする。外壁の直径は垂直部で約90mm、水平部で約55mmであり、内壁の直径は垂直方向で約62mm、水平方向で約45mmである。このモデルでは、作動流体は純粋なCO
2である、地表注入圧力は4.5MPa、地表注入温度は9.87℃、坑内最高温度は坑井断熱材のトウ部で85℃である。
【0176】
図6Bは、長期間経過した後の水平断面における坑井の熱プロファイルを示す(/すなわち、作動流体によって採取された熱と、貯留層を通して供給された熱の擬似定常状態を示す)。
図6Bに示すように、温度は地層に近いほど高く、坑井の中心に近いほど低い。温度プロファイルはまた、水平部分の一端から他端まで対称ではない。
【0177】
図6C~
図6Eは、
図6Aに示したシミュレーションの結果である。
図6Cは、チューブを下にして注入する場合と、アニュラスを下にして注入する場合とで、同じシステムの熱プロファイルが異なることを示している。
図6Dは、例示的な2つの下降孔タービンの実施形態(例えば、
図4Bに描写され、
図7Dのプロセスモデルを代表するような)の熱プロファイルを示す。
図6Dに示されるように、供給流路と戻り流路との間の熱伝達は、地層と閉ループシステムの外壁との間の熱伝達と比較して比較的速い。地表付近の断熱材は、供給流路が浅い地熱資源によって加熱される一方で、戻り流路が供給流路から過冷却されるのを防いでいる。タービンの両側 400m 以内の内側の管に断熱材を入れることで、流体が他の流路で冷却されることなく、より高い温度でタービンに入ることができる。
図6Eは、地層の熱伝導率を変化させた場合の、坑口付近の温度の時間的変化を示している。流量の変動は、温度ドローダウンと採取熱量に影響する。最初の年および始動直後は、熱出力が高くなる。従って、設計流量を経時的に変化させることが望ましい。
【0178】
(例2:タービンの構成)
本発明者らによって実施された第2のシミュレーション研究において、本明細書に記載されたタイプのシステムが、システムの様々な構成に設けられた様々なタービンの出力を評価するために、ソフトウェアを使用してモデル化された。シミュレーション研究では、冷たい作動流体が、圧力4.5MPa、温度9.87℃で様々なシステムの流路に供給された。作動流体は純CO
2である。シミュレーションされた井戸の寸法は、
図6Aでシミュレーションされたシステムの上記寸法と同じである。システムへの熱伝達もまた、
図6Aからの熱プロファイルモデリングから導出され、すべての研究で同じです。すべての研究で、地表に戻る流体は、地表エキスパンダの下流で4.75MPaの純粋な蒸気です。
【0179】
図7Aは、最初のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第 1 のシミュレーションは、地表上に配置された 1 基のタービンで構成されるシス テムに対して実施された。シミュレーションの結果、タービンで生成された電力は約 61kW であった。
【0180】
図7Bは、第2のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第 2 のシミュレーションは、水路の垂直供給部に配置された単一のタービンで構成されるシステムで実施された。シミュレーションの結果、タービンで生成された電力は約100kW であった。
【0181】
図7C は、第3のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第3のシミュレーションは、水面上に配置されたガスタービンと、水路の垂直供給部に配置された水力タービンとから構成されるシステムで実施された。シミュレーションの結果、水力タービンで生成された電力は約79kW、地表タービンで生成された電力は約45kWであった。
【0182】
図7D は、第4のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第4のシミュレーションは、流路の垂直戻り部に配置されたガスタービンと、流路の垂直送り部分に配置された油圧タービンとを含むシステムで実施された。シミュレーションの結果、油圧タービンで生成された電力は約63kW、ガスタービンで生成された電力は約57kWであった。
【0183】
図7E は、第5のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第5のシミュレーションは、地表に設置された第1のガスタービンと、流路の垂直戻り部に設置された第2のガスタービンと、流路の垂直送り部分に設置された油圧タービンとを含むシステムで実行された。シミュレーションの結果、油圧タービンで発生した電力は約38kW、坑内ガスタービンで発生した電力は約60kW、地表ガスタービンで発生した電力は約22kWであった。
【0184】
図7A~
図7Eに示す構成によるシミュレーション結果は、同じヒートパイプシステムが、地表タービ ンだけよりも坑内タービンだけでより多くの出力を生成し、マルチタービン構成が総出力の増加に役立つことを示唆している(例えば、
図7E を参照)。
【0185】
図7Fは、第6のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第6のシミュレーションは、流路の水平戻り部に配置された単一タービンから構成されるシステムに対して実施された。シミュレーションの結果、9MPa の圧力降下に対してタービンで生成された電力は約63kW であった。「水平上昇(3)」の下流でシステムに伝達された熱の合計は約386kWである。
【0186】
図7Gは、第7のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。第7のシミュレーションは、水路の水平戻り部に直列に配置された3台のガスタービンで構成されるシステムで実施された。シミュレーションの結果、第1タービン(トウ部に最も近いタービン)で生成された出力は約19kW、第2タービンで生成された出力は約22kW、第3タービンで生成された出力は約26kWであった。シミュレーションの結果、作動流体の温度は、第1タービンを通過する前に約70℃、第2タービンを通過する前に約76℃、第3タービンを通過する前に約76℃まで上昇し、合計約67kWとなった。各タービン間の圧力降下は約3MPaで、合計圧力降下は約9MPaである。「水平上昇(3)」の下流でシステムに伝達される熱の合計は約400kWである。
【0187】
図7Fおよび
図7Gに示す構成によるシミュレーション結果は、複数のタービンを使用す ることで、同じ全体的な圧力損失で電気出力を増加させることができる利点を示している。また、シミュレーション結果は、複数のタービンを使用することで、同じヒートパイプシステムから採取できる熱エネルギーの量が増加することを示している。
【0188】
(例3:作動流体の選択)
本発明者らによって実施された第3のシミュレーション研究において、出力に対する流体選択の影響を評価するために、本明細書に記載されたタイプのシステムがソフトウェアを使用してモデル化された。シミュレーション研究では、冷たい作動流体が4.5MPaの圧力と9.87℃の温度で流路に供給された。坑内最高温度は60.5℃~61℃に設定した。
【0189】
図8A は、第1のシミュレーションにおけるシステムの構成を示す。最初のシミュレーションは、水路の垂直供給部に配置された水力タービンで構成され、~61 kW を生成するシステムで実施された。シミュレーションは、最高温度60℃の坑井で作動流体として1.0M CO2を使用して実施された。シミュレーションの結果、液圧タービンで約65kWの出力が得られたが、作動流体はシステム内で循環できず、戻り部の最上部の圧力はわずか3.6MPaであった。
【0190】
図8Bは、システム内への全体的な熱伝達がほぼ同じで、生成される電力が同じである、第2のシミュレーショ ンにおけるシステムの構成を示す。第2のシミュレーションは、水路の垂直供給部に配置された水力タービンで実施され、約60 kW を生成した。異なる点は、このシミュレーションは、最高温度が約60℃の坑井で作動流体として0.9M CO
2と0.1Mエタンの混合物を使用して実行され、坑内温度が低いにもかかわらず、流体は地表まで循環することができたことである。
【0191】
(例 4:理想的な強化熱力学サイクル)
本発明者らによって実施された第4のシミュレーション研究において、
図5Aに関連して説明されたタイプのシステムが、出力を評価するためのソフトウェアを使用してモデル化された。
図9Aは、シミュレートされたシステムの構成を示す。シミュレートされたシステムは、垂直分離が5~1000メートルの間で変化し、作動流体としてR123を使用する。作動流体の温度は 20℃、地表圧力は 76kPa に設定されている。流量は0.1kg/s、下降パイプの内径は18mm、上昇パイプの内径は76mmに設定されている。流体は加熱器で気化し、冷却器で凝縮する。加熱器/気化器と冷却器/凝縮器の垂直方向の離隔は次表に示されている。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0192】
表1からわかるように、加熱器と冷却器の間の垂直分離が大きくなるにつれて、システム効率は上昇する。システムへの熱エネルギーは、4つのケースすべてを通じてほぼ一定ですが、垂直分離が大きくなるにつれてタービン出力が増加する。垂直離隔がゼロに近づくにつれて、システムは可能な最大カルノー効率に近づくが、垂直離隔が大きくなるにつれて、カルノー効率のより小さな割合を達成できるようになる。システム全体の効率は深さとともに増加し、サイクルによって必要とされる寄生仕事はほとんどなく、これは他のタイプのサイクルとは異なる。
図5Aのサイクルのようなサイクルは、十分な深さのある低エンタルピーの地熱利用において、他の熱力学サイク ルよりも高い効率をもたらす可能性がある。
【0193】
次に
図9Bを参照すると、理想化されたプロセスモデルは、改良型ブレイトンサイクルでもある。
図9Bに示すセットアップを用いて実施されたシミュレーションでは、作動流体は超臨界CO
2であり、圧力は 13MPa、温度はサイクルの最上部で 30℃である。加熱器と冷却器の間の垂直距離は1500メートルである。流量は0.75kg/s、下降パイプの内径は50mm、全体の熱伝達率は8W/m
2 K、地熱勾配は30℃/kmである。上昇パイプの内径は155mm、全体の熱伝達率は8W/m
2 K、地熱勾配は30℃/kmである。加熱器出口温度は60℃である。シミュレーションの結果、出力は約1.6kW、サイクルの最下部で得られる熱量は46kWであった。
【0194】
本書で使用されている例は、説明のためのものである。地熱エネルギーを使用して電気を生産するための装置や方法について本明細書で議論した原理は、他のシステムおよび装置にも適用することができる。本明細書で述べられている原理から逸脱することなく、異なる構成および用語を用いることができる。例えば、これらの原則から逸脱することなく、ステップ、装置、構成要素、モジュールなどを追加、削除、変更、配置換えすることができる。
【0195】
(用語の解釈)
文脈上明らかにそうでないことが要求されない限り、本明細書および特許請求の範囲全体を通して「含む」などは、排他的または網羅的な意味とは対照的に、包括的な意味で解釈される。「接続された」、「結合された」、またはその変形は、2つ以上の要素間の直接的または間接的な接続または結合を意味する。本明細書を説明するために使用される場合、「ここ」、「上」、「下」、および類似の語は、本明細書全体を指しており、本明細書の特定の部分を指すものではない。2つ以上の項目のリストに関する「または」は、リスト内の項目のいずれか、リスト内の項目のすべて、およびリスト内の項目の任意の組み合わせという、この語の解釈のすべてを対象とする。単数形の単語は、適切な複数形の意味も含む。
【0196】
上記で構成要素に言及する場合、特に断らない限り、その構成要素への言及は、本発明の図示された例示的な実施形態において機能を実行する開示された構造物と構造的に等価でない構成要素を含め、説明された構成要素の機能を実行する(すなわち、機能的に等価である)任意の構成要素をその構成要素の等価物を含むと解釈されるべきである。
【0197】
本明細書では、システム、方法、および装置の具体的な例を、説明のために記載した。これらは例示に過ぎない。本明細書で提供される技術は、上述した例示のシステム以外のシステムにも適用することができる。本発明の実施において、多くの変更、修正、追加、省略、および並べ替えが可能である。本発明は、特徴、要素、および/または動作を等価な特徴、要素、および/または動作で置き換えること、異なる実施形態からの特徴、要素、および/または動作を混合して合わせること、本明細書に記載された実施形態からの特徴、要素、および/または動作を他の技術の特徴、要素、および/または動作と組み合わせること、および/または記載された実施形態からの特徴、要素、および/または動作を組み合わせることを省略すること、によって得られる変形を含む、当業者には明らかであろう記載された実施形態の変形を含む。
【0198】
本発明は、その好ましい実施形態および好ましい使用に関して記載および図示されているが、当業者によって理解されるように、本発明の完全な意図された範囲内で修正および変更がなされ得るので、本発明はこれらの図示および図示のように限定されるものではない。
【国際調査報告】