IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 深▲セン▼市貝特瑞納米科技有限公司の特許一覧 ▶ パナソニックエナジー株式会社の特許一覧

特表2024-510685複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
<>
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図1
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図2
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図3a
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図3b
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図4
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図5a
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図5b
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図6
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図7
  • 特表-複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240304BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240304BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240304BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240304BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240304BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516734
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2022076861
(87)【国際公開番号】W WO2023155141
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】202210142540.8
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521125006
【氏名又は名称】深▲セン▼市貝特瑞納米科技有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 友元
(72)【発明者】
【氏名】楊 順毅
(72)【発明者】
【氏名】張 弘旭
(72)【発明者】
【氏名】宋 雄
(72)【発明者】
【氏名】厳 武渭
(72)【発明者】
【氏名】羅 亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 峻
(72)【発明者】
【氏名】守田 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】四宮 拓也
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB12
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA21
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
【要約】本発明は、正極材料の分野に関する。一般式:Li(NiCo1-b(式中、0.9≦a≦1.10、x+y+z=1、0.8≦x≦0.99、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1、0≦b≦0.1、RはAl及び/又はMnを含み、Mは金属元素を含む。)で表される活物質と、前記活物質の表面に分布しており、リン酸化合物を含む被覆層と、を有する複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供する。前記複合正極材料は、粒子硬度Csが50MPa以上であり、且つCs10/Cs50≧0.7(ここで、Cs10は、粒径がD10の粒子の硬度であり、Cs50は、粒径がD50の粒子の硬度である。)を満たす。本発明で提供する複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池により、被覆均一性を向上し、被覆量を正確に制御し、リチウム電池のレート特性及びサイクル安定性を向上し、製造コストを低減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li(NiCo1-b(式中、0.9≦a≦1.10、x+y+z=1、0.8≦x≦0.99、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1、0≦b≦0.1、RはAl及び/又はMnを含み、Mは金属元素を含む。)で表される活物質と、
前記活物質の表面に分布しており、リン酸化合物を含む被覆層と、を有する複合正極材料であり、
前記複合正極材料は、粒子硬度Csが50MPa以上であり、且つCs10/Cs50≧0.7(ここで、Cs10は、粒径がD10の粒子の硬度であり、Cs50は、粒径がD50の粒子の硬度である。)を満たすことを特徴とする複合正極材料。
【請求項2】
以下の条件a~cのうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の複合正極材料。
a.前記Li(NiCo1-b中のMは、Mg、Sr、Ca、Ba、Ti、Zr、Mn、Y、Gd、W、Nb、La及びMoから選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記活物質の(003)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I003と(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I104との比は、1.25以上である;
c.前記活物質に含まれるLiイオンは、結晶格子のLiサイトへの占有率が、98%以上である。
【請求項3】
以下の条件a~eのうちの少なくとも1つを満たす、請求項1又は2に記載の複合正極材料。
a.前記リン酸化合物は、LiPO及びLiXPO(式中、Xは、Na、K、Al、Sr、Zr、B、Mg、Ca、Co、及びWから選ばれる少なくとも1つを含む。)から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記被覆層中のリン酸化合物の含有量は、前記活物質の質量に対して0.05wt%~1.5wt%である;
c.前記複合正極材料の粉体導電率は、0.001S/cm~0.1S/cmである;
d.前記複合正極材料の比表面積は0.2m/g~2.0m/gである;
e.前記複合正極材料の平均粒径は3μm~20μmである。
【請求項4】
主成分、副成分及びリチウム化合物を混合した後に焼結し、焼結生成物を得る工程であって、前記主成分は、NiCoO、NiCo(OH)又はNiCoOOH(以上の各式中に、x+y+z=1,0.8≦x≦0.99,0≦y≦0.15,0≦z≦0.1)から選ばれる少なくとも1つを含み、前記副成分は、Mの酸化物、Mの水酸化物又はMのリン酸塩から選ばれる少なくとも1つを含み、Mは金属元素を含み、RはAl及び/又はMnを含む工程と、
前記焼結生成物を破砕、洗浄、ろ過し、活物質ケーキを得る工程と、
霧化方式でリン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液と前記活物質ケーキを用いて被覆処理を行い、複合正極材料を得る工程であって、前記複合正極材料は、活物質と前記活物質の表面に分布している被覆層とを有し、前記被覆層は、リン酸化合物を含む工程と、を含むことを特徴とする複合正極材料の製造方法。
【請求項5】
以下の条件a~dのうちの少なくとも1つを満たす、請求項4に記載の製造方法。
a.前記リチウム化合物の添加量を、前記主成分中のNi、Co及びRのモル含有量の総和とLiのモル含有量との比が1:(0.9~1.10)になるようにする;
b.前記焼結生成物を得る焼結条件として、酸素含有雰囲気下、650℃~850℃に加熱して5h~20h焼結する;
c.前記主成分の平均粒径は3μm~20μmである;
d.前記リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1つを含む。
【請求項6】
以下の条件a~dのうちの少なくとも1つを満たす、請求項4に記載の製造方法。
a.前記洗浄温度は10℃~40℃、前記洗浄時間は10min~60minである;
b.前記洗浄溶剤の使用量は、焼結生成物(g)/洗浄溶剤の使用量(L)=500g/L~2000g/Lを満たす;
c.前記ろ過時間は30min~150minであり、前記活物質ケーキの含水量は5wt%以下である;
d.前記ろ過は加圧ろ過及び吸引ろ過から選ばれる少なくとも1つを含む。
【請求項7】
霧化被覆法でリン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液と前記活物質ケーキを用いて被覆処理を行う前に、さらに
リン源及び可溶性リチウム化合物を水溶液に溶解し、リン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液を得る工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
以下の条件a~eのうちの少なくとも1つを満たす、請求項7に記載の製造方法。
a.前記リン源は、HPO、HPO、HPO、LiPO、KPO、BPO、NHPO、(NHHPO、Zr(HPO、NaHPO、SrHPO、BaHPO、Ba(PO、MgHPO、Ca(HPO、Al(HPO、CoHPO又はHP(W10・nHO(式中、n≧1)から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記可溶性リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩素酸リチウム、及び酢酸リチウムから選ばれる少なくとも1つを含む;
c.前記被覆溶液において、前記リチウムイオンとリン酸イオンのモル比は、(0~10):1である;
d.前記リン源中のリン酸イオンの質量は、活物質ケーキに対して0.05wt%~1.5wt%である;
e.前記リン源及び前記可溶性リチウム化合物の合計質量は、前記被覆溶液に対して1.5wt%~45wt%である。
【請求項9】
以下の条件a~bのうちの少なくとも1つを満たす、請求項4~7のいずれか一項に記載の製造方法。
a.前記霧化方式は超音波霧化及び高圧霧化から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記被覆処理の過程中で、被覆温度を50℃~100℃、保温時間を5min~60minに制御する。
【請求項10】
前記被覆処理後、さらに
前記複合正極材料を乾燥し、乾燥温度を150℃~210℃、保温時間を10h~24hに制御する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項11】
正極シート、負極シート、セパレータ、非水電解液及び外装ケースを含むリチウムイオン電池であって、
前記正極シートは、集電体と、前記集電体に塗布された請求項1~3のいずれか一項に記載の複合正極材料、又は請求項4~10のいずれか一項に記載の複合正極材料の製造方法で製造した複合正極材料と、を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極材料の技術分野に関し、具体的には、複合正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、出力が高く、サイクル寿命が長く、環境汚染が少ない等の利点を持つため、電気自動車及び消費者向け電子製品に幅広く適用されている。リチウム電池のレート特性、熱安定性及びサイクル安定性を向上させることは、常に開発者の研究方向である。従来の高ニッケル正極材料は、長期サイクル後、粒子がクラッキングして内部構造が直接露出しやすいため、正極材料の長期サイクル安定性を損ない、リチウム電池のレート特性を損なうことがよくある。
また、従来の正極材料の製造方法としては、例えば、液相中で被覆材料を混合することが挙げられるが、液相法の場合には、正極材料の表面構造を破壊しやすく、材料のLi/Niミキシングが多く、構造安定性が悪く、そして被覆材料が溶液と共に流失しやすいため、被覆量の制御は困難である。また、固相被覆法も挙げられるが、固相被覆により得られた正極材料は、残留リチウムが多いため、正極材料の加工性能に影響を与え、被覆も不均一である問題がある。
【0003】
したがって、被覆均一性を向上し、さらにリチウム電池のレート特性及びサイクル安定性を向上し、製造コストを低減することができる複合正極材料及びその製造方法を提供することは急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記事情に鑑みて、本発明は、被覆均一性を向上し、被覆量を正確に制御可能で、リチウム電池のレート特性及びサイクル安定性を向上し、製造コストを低減することができる複合正極材料、その製造方法、及びリチウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様によれば、
一般式:Li(NiCo1-b(式中、0.9≦a≦1.10、x+y+z=1、0.8≦x≦0.99、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1、0≦b≦0.1、RはAl及び/又はMnを含み、Mは金属元素を含む。)で表される活物質と、
前記活物質の表面に分布しており、リン酸化合物を含む被覆層と、を有する複合正極材料を提供する。
前記複合正極材料は、粒子硬度Csが50MPa以上であり、且つCs10/Cs50≧0.7(ここで、Cs10は、粒径がD10の粒子の硬度であり、Cs50は、粒径がD50の粒子の硬度である。)を満たす。
【0006】
上記した技術案において、前記活物質の表面に分布している被覆層がリン酸化合物を含むことにより、正極材料に低インピーダンス、高レート、高い熱安定性、優れたサイクル安定性を有させるだけでなく、被覆改質により、小粒子の表面欠陥が修復され、Li/Niミキシングが少なくなり、粒子硬度が大幅に向上することができる。
【0007】
第1態様の一実施形態では、前記複合正極材料は、以下の条件a~cのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記Li(NiCo1-b中のMは、Mg、Sr、Ca、Ba、Ti、Zr、Mn、Y、Gd、W、Nb、La及びMoから選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記活物質の(003)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I003と(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I104との比は、1.25以上である;
c.前記活物質に含まれるLiイオンは、結晶格子のLiサイトへの占有率が、98%以上である。
【0008】
第1態様の一実施形態では、前記複合正極材料は、以下の条件a~eのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記リン酸化合物は、LiPO及びLiXPO(Xは、Na、K、Al、Sr、Zr、B、Mg、Ca、Co、Wから選ばれる少なくとも1つを含む。)から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記被覆層中のリン酸化合物の含有量は、前記活物質の質量に対して0.05wt%~1.5wt%である;
c.前記複合正極材料の粉体導電率は、0.001S/cm~0.1S/cmである;
d.前記複合正極材料の比表面積は0.2m/g~2.0m/gである;
e.前記複合正極材料の平均粒径は3μm~20μmである。
なお、本発明において、「粒径」とは、粒子の最大直線長さを指し、つまり、粒子の周縁における2つの点の間の最大直線距離である。
本発明において、「D10」とは、粒子の累積粒度分布において小粒子側から10個数%に達する時の粒径を指し、つまり、粒径がD10以下の粒子の数量が全部粒子の数量に対して10%である。
本発明において、「D50」とは、粒子の累積粒度分布において小粒子側から50個数%に達する時の粒径を指し、つまり、粒径がD50以下の粒子の数量が全部粒子の数量に対して50%である。
【0009】
本発明の第2態様によれば、
主成分、副成分及びリチウム化合物を混合した後に焼結し、焼結生成物を得る工程であって、前記主成分は、NiCoO、NiCo(OH)又はNiCoOOH(以上の各式中に、x+y+z=1,0.8≦x≦0.99,0≦y≦0.15,0≦z≦0.1)から選ばれる少なくとも1つを含み、前記副成分は、Mの酸化物、Mの水酸化物又はMのリン酸塩から選ばれる少なくとも1つを含み、ここで、Mは金属元素を含み、RはAl及び/又はMnを含む工程と、
前記焼結生成物を破砕、洗浄、ろ過して活物質ケーキを得る工程と、
霧化方式によりリン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液と前記活物質ケーキとを用いて被覆処理を行い、複合正極材料を得る工程であって、前記複合正極材料は、活物質と前記活物質の表面に分布している被覆層とを有し、前記被覆層は、リン酸化合物を含む工程と、を含む複合正極材料の製造方法を提供する。
【0010】
本技術案では、霧化被覆法を採用することにより、従来の液相被覆法中の溶液に溶解した被覆物のろ過による損失を回避することができ、被覆量の精度を向上することができる上に、固相被覆に比べて、被覆均一性及び反応活性を向上することができる。霧化被覆の過程中で、リン酸塩被覆溶液は、マイクロ・ナノ構造の液滴を形成し、このような液滴は、より高い吸着性を有し、活物質との混合過程中において、反応活性を向上させることができ、被覆物が活物質(リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物)の空孔に均一に嵌め込まれやすく、活物質の表面欠陥を修復し、均一被覆になり、粒子硬度を向上し、活物質の一次粒子の表面に高リチウムイオン伝導率を有するネットワークを形成し、これにより活物質のインピーダンスを顕著に低減し、活物質の電気化学的性能を最適化することができる。そして、複合正極材料における小粒子の比表面積がより大きく、洗浄過程中により多くの表面欠陥を形成できるため、大粒子と比べて小粒子の粒子硬度がより低いが、噴霧されたリン酸塩で被覆されることにより、Cs10/Cs50≧0.7を満たすように、小粒子の硬度を大幅に向上させることができ、これによって、電極シートの製造過程中に、小粒子は、より高い耐圧強度を示し、電極シートの圧縮密度を向上し、電池のエネルギー密度も向上することができる。
【0011】
第2態様の一実施形態では、前記方法は、以下の条件a~dのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記リチウム化合物の添加量を、前記主成分中のNi、Co及びRのモル含有量の総和とLiのモル含有量との比が1:(0.9~1.10)となるようにする;
b.前記焼結生成物を得る焼結条件として、酸素含有雰囲気下、650℃~850℃に加熱して5h~20h焼結する;
c.前記主成分の平均粒径は3μm~20μmである;
d.前記リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1つを含む。
【0012】
第2態様の一実施形態では、前記方法は、以下の条件a~dのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記洗浄温度は10℃~40℃であり、前記洗浄時間は10min~60minである;
b.前記洗浄溶剤の使用量は、焼結生成物(g)/洗浄溶剤の使用量(L)=500g/L~2000g/Lを満たす;
c.前記ろ過時間は30min~150minであり、前記活物質ケーキの含水量は5wt%以下である;
d.前記ろ過は、加圧ろ過及び吸引ろ過から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0013】
第2態様の一実施形態では、霧化被覆法によりリン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液と前記活物質ケーキとを用いて被覆処理を行う前に、前記方法は、
リン源及び可溶性リチウム化合物を水溶液に溶解し、リン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液を得る工程をさらに含む。
【0014】
第2態様の一実施形態では、前記方法は、以下の条件a~eのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記リン源は、HPO、HPO、HPO、LiPO、KPO、BPO、NHPO、(NHHPO、Zr(HPO、NaHPO、SrHPO、BaHPO、Ba(PO、MgHPO、Ca(HPO、Al(HPO、CoHPO、又はHP(W10・nHO(式中、n≧1)から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記可溶性リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩素酸リチウム、及び酢酸リチウムから選ばれる少なくとも1つを含む;
c.前記被覆溶液において、前記リチウムイオンとリン酸イオンとのモル比は、(0~10):1である;
d.前記リン源中のリン酸イオンの質量は、活物質ケーキに対して0.05wt%~1.5wt%である;
e.前記リン源及び前記可溶性リチウム化合物の合計質量は、前記被覆溶液に対して1.5wt%~45wt%である。
【0015】
第2態様の一実施形態では、前記方法は、以下の条件a~bのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記霧化方式は、超音波霧化及び高圧霧化から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記被覆処理の過程中で、被覆温度を50℃~100℃、保温時間を5min~60minに制御する。
【0016】
第2態様の一実施形態では、前記被覆処理後に、前記方法は、
前記複合正極材料を乾燥し、乾燥温度を150℃~210℃、保温時間を10h~24hに制御する工程をさらに含む。
【0017】
本発明の第3態様によれば、正極シート、負極シート、セパレータ、非水電解液及び外装ケースを含むリチウムイオン電池であって、
前記正極シートは、集電体と、前記集電体に塗布された上記第1態様に記載の複合正極材料、又は上記第2態様に記載の複合正極材料の製造方法で製造した複合正極材料と、を含むリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、少なくとも以下の有益な効果を奏しうる。
【0019】
本発明に係る複合正極材料は、活物質の表面に被覆層が分布しており、前記活物質の結晶化度が高く、正極材料の導電性能を向上するのに寄与できる。また、活物質の表面と活物質との間の隙間がリン酸化合物で充填又は被覆されることにより、活物質の導電性を顕著に向上させることができ、正極材料に低インピーダンス、高レート、高い熱安定性、優れたサイクル安定性を兼ねさせるだけでなく、被覆改質された複合正極材料は、粒子表面における欠陥が修復され、粒子硬度が向上され、材料の加工性能の向上にも寄与できる。
【0020】
本発明に係る複合正極材料の製造方法は、霧化被覆法を採用することにより、従来の液相被覆法中の溶液に溶解した被覆物のろ過による損失を回避することができ、被覆量の精度を向上することができる上に、固相被覆に比べて、被覆均一性及び反応活性を向上することができる。霧化被覆の過程中で、リン酸塩被覆溶液は、マイクロ・ナノ構造の液滴を形成し、このような液滴は、より高い吸着性を有するため、活物質との混合過程中において、反応活性を向上させることができ、そして被覆物は活物質(リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物)の空孔に均一に嵌め込まれやすく、活物質の表面欠陥を修復し、均一被覆になり、粒子硬度を向上し、活物質の一次粒子の表面に高リチウムイオン伝導率を有するネットワークを形成し、これにより活物質のインピーダンスを顕著に低減し、活物質の電気化学的性能を最適化することができる。さらに、本発明にかかる製造方法は、簡単であり、量産が可能であり、コストを低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例で使用した複合正極材料の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施例1で製造した複合正極材料のSEM画像である。
図3a】本発明の実施例1で製造した複合正極材料の局所領域のSEM画像である。
図3b】本発明の実施例1で製造した複合正極材料のエネルギー分散型X線分析によるリンの元素マッピングである。
図4】本発明の比較例1で製造した複合正極材料のSEM画像である。
図5a】本発明の比較例1で製造した複合正極材料の居所領域のSEM画像である。
図5b】本発明の比較例1で製造した複合正極材料のエネルギー分散型X線分析によるリンの元素マッピングである。
図6】本発明の実施例1と比較例1でそれぞれ製造した複合正極材料で製造した電池の容量維持率の比較図である。
図7】本発明の実施例1と比較例1でそれぞれ製造した複合正極材料で製造した電池の直流内部抵抗の比較図である。
図8】本発明の実施例1と比較例1でそれぞれ製造した複合正極材料で製造した電池のインピーダンスの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下は、本発明の好ましい実施形態や実施例を説明する。なお、当業者にとって、本発明の原理や主旨から逸脱せずに、いくつかの改良及び変更を実行することができ、これらの改良及び変更も本発明の保護範囲内にあると認識される。
【0023】
本発明の第1態様により、活物質と、前記活物質の表面に分布している被覆層とを有する複合正極材料であって、
前記活物質は、一般式:Li(NiCo1-b(式中、0.9≦a≦1.10、x+y+z=1、0.8≦x≦0.99、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1、0≦b≦0.1、RはAl及び/又はMnを含み、Mは金属元素を含む。)で表され、前記被覆層は、リン酸化合物を含有する、複合正極材料を提供する。前記複合正極材料は、粒子硬度Csが50MPa以上であり、且つCs10/Cs50≧0.7(ここで、Cs10は、粒径がD10の粒子の硬度であり、Cs50は、粒径がD50の粒子の硬度である。)を満たす。
【0024】
好ましくは、Mはドーピング元素を含み、Mg、Sr、Ca、Ba、Ti、Zr、Mn、Y、Gd、W、Nb、La及びMoから選ばれる少なくとも1つを含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態として、前記活物質の(003)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I003と(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I104との比は、1.25以上であり、具体的には、1.25、1.26、1.27、1.28、1.29、1.30、1.32、1.35、1.4等であってもよく、ここで限定されない。前記活物質の特定の結晶面に対応するX線回折ピークの強度比が大きいほど、活物質の結晶化度が高くなり、正極材料の導電性能を向上するのに有利であることが理解される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態として、前記活物質に含まれるLiイオンは、結晶格子のLiサイトへの占有率(以下、「LiイオンのLiサイト占有率」と略称することもある。)が、98%以上である。なお、本発明に記載される「LiイオンのLiサイト占有率」とは、活物質結晶格子のLi層におけるLiサイトを占有するLiイオンの数の、全部Liサイトの数に対する比率を意味する。LiイオンのLiサイト占有率が高いほど、活物質の放電容量が強くなることが理解される。活物質のLiイオンのLiサイト占有率が低い場合、LiサイトでのLiイオンが少なくなり、Ni、Co、AlがLiサイトに存在し、Li/Niミキシングが生じやすく、活物質の結晶構造に欠陥が生成しやすく、活物質の放電容量及びサイクル特性が低下することがある。また、Liイオンは結晶構造から離れると、炭酸リチウム等の形態で存在する可能性があり、ガス発生を引き起こし、電池の安全性に影響を与える恐れがある。
【0027】
本発明において、活物質の表面は、リン酸化合物で被覆されており、リン酸化合物によって活物質のイオン伝導率を高くすることができる。活物質の表面、及び活物質同士の間の隙間は、リン酸化合物で充填又は被覆されることにより、活物質のイオン伝導率を顕著に向上させることができ、正極材料に低インピーダンス、高レート、高い熱安定性、及び優れたサイクル安定性を兼ねさせることができることが理解される。
【0028】
好ましくは、前記リン酸化合物は、LiPO及びLiXPO(Xは、Na、K、Al、Sr、Zr、B、Mg、Ca、Co、Wのうちの少なくとも1種を含み、前記リン酸金属塩化合物に由来する。)のうちの少なくとも1種を含む。
【0029】
好ましくは、前記被覆層中のリン酸化合物の含有量は、前記活物質の質量に対して0.05wt%~1.5wt%であり、具体的には、0.05wt%、0.08wt%、0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%、0.8wt%、1.0wt%、1.2wt%又は1.5wt%等であってもよく、勿論、上記範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。
【0030】
好ましくは、前記複合正極材料の平均粒径は、3μm~20μmであり、具体的には、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm又は20μm等であってもよく、勿論、上記範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。複合正極材料の粒径を上記範囲内に制御することにより、正極材料の構造安定性、熱安定性及び長期サイクル安定性を向上するのに寄与できる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態として、複合正極材料の20kN/cm加圧下での粉体導電率は、0.001S/cm~0.1S/cmである。この場合、複合正極材料の充放電容量が確保される。
【0032】
本発明の好ましい実施形態として、複合正極材料の比表面積は、0.2m/g~2.0m/gである。具体的には、0.2m/g、0.5m/g、0.7m/g、0.9m/g、1.1m/g、1.3m/g、1.5m/g、2.0m/g等であってもよい。発明者らは、研究を重ねた結果、複合正極材料の比表面積を上記範囲内に制御すると、該正極材料から製造したリチウム電池のサイクル特性を向上するのに有利であることが分かった。
【0033】
本発明の第2態様により、図1に示されるように、下記工程S10~S30を含む複合正極材料の製造方法を提供する。
【0034】
<工程S10>
該工程S10において、主成分、副成分及びリチウム化合物を混合した後に焼結し、焼結生成物を得る。
【0035】
本発明の好ましい実施形態として、前記主成分は、NiCoO、NiCo(OH)、又はNiCoOOH(各式中、x+y+z=1、0.8≦x≦0.99、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1、RはAl及び/又はMnを含む。)から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0036】
NiCoO、NiCo(OH)、及びNiCoOOH中のNiのモル含有量は、0.8≦x≦0.99であり、前記xの値の範囲は、具体的に、0.8、0.82、0.84、0.86、0.88、0.9、0.92、0.94、0.96、0.98または0.99等であってもよい。
NiCoO、NiCo(OH)、及びNiCoOOH中のCoのモル含有量は、0≦y≦0.15であり、前記yの値の範囲は、具体的に、0、0.01、0.02、0.05、0.06、0.08、0.1、0.11、0.12、0.14または0.15等であってもよい。
NiCoO、NiCo(OH)、及びNiCoOOH中のRのモル含有量は、0≦z≦0.1であり、前記zの値の範囲は、具体的に、0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09または0.1等であってもよい。
【0037】
具体的には、前記主成分の平均粒径は、3μm~20μmであり、具体的には、3μm、5μm、7μm、9μm、10μm、12μm、14μm、15μm又は20μm等であってもよく、無論、上記範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。発明者らは、研究を重ねた結果、主成分の平均粒径を3μm~20μmの範囲内に制御する場合、活物質の粒径を効果的に制御することができ、活物質がサイクル過程中でクラッキングするという問題を回避でき、活物質の構造安定性、熱安定性及び長期サイクル安定性を向上するのに有利であることが分かった。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記副成分は、Mの酸化物、Mの水酸化物又はMのリン酸塩から選ばれる少なくとも1つを含み、前記Mは金属元素である。
【0039】
本発明の一実施形態において、前記リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1つである。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記主成分中のNi、Co及びRのモル含有量の総和とLiのモル含有量との比は、1:(0.9~1.10)であり、具体的には、1:0.9、1:0.95、1:0.96、1:0.97、1:0.98、1:0.99、1:1.00、1:1.01、1:1.02、1:1.05、1:1.06、1:1.07、1:1.08、1:1.09又は1:1.10等であってもよく、無論、上記範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。上記比が小さすぎると、Liが過剰になり、材料表層にLiMO相を形成することを招き、活性Liの含有量が低下して容量が低下するとともに、サイクル過程中でガス発生を引き起こしやすくなる。上記比が大きすぎる場合、Li/Niミキシングが深刻になり、結晶格子におけるLi空孔が多くなり、NiがLi層に入り、金属層がミキシングされ、その結果、材料構造の安定性の低下、材料の劣化、サイクル特性の低下を招く恐れがある。
【0041】
本発明の一実施形態において、焼結生成物は、活物質であり、前記焼結生成物を得る条件としては、酸素含有雰囲気で650℃~850℃に加熱して5h~20h焼結することであり、十分に焼結することにより、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が得られる。
【0042】
具体的には、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物の表面でのリチウム化合物中のリチウム含有量は、対応する複合酸化物の総量に対して0.6wt%以下であり、すなわち、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物の表面でのリチウム化合物中のリチウムは、既に複合酸化物の内部に移動した。表面でのリチウム含有量を少なくすることで、正極材料のサイクル過程中でのガス発生現象を抑制することができる。
【0043】
好ましくは、酸素含有雰囲気中の酸素含有量は、99%以上であり、各金属元素を十分に酸化させることが可能である。
【0044】
好ましくは、前記焼結温度は、具体的に、650℃、680℃、700℃、720℃、750℃、780℃、800℃、820℃又は850℃等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。好ましくは、焼結温度は、700℃~800℃である。
【0045】
好ましくは、焼結時間は、具体的に、5h、7h、9h、11h、13h、15h、17h、19h、20h等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。好ましくは、焼結時間は、8~15hである。
【0046】
本発明の一実施形態において、活物質の(003)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I003と(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度I104との比は、1.25以上であり、具体的には、1.25、1.26、1.27、1.28、1.29、1.30、1.32、1.35、1.40等であってもよく、ここで限定されない。上記活物質の特定の結晶面に対応するX線回折ピークの強度比が大きいほど、活物質の結晶化度が高くなり、正極材料の導電性能を向上するのに有利であることが理解される。
【0047】
本発明の好ましい実施形態として、前記活物質のLiイオンは、結晶格子中のLiサイトへの占有率(LiイオンのLiサイト占有率)は、98%以上である。なお、LiイオンのLiサイト占有率は、活物質結晶格子のLi層においてLiサイトを占有するLiイオンの数の、全部Liサイトの数に対する比率を意味する。LiイオンのLiサイト占有率が高いほど、活物質の放電容量が強くなることが理解される。活物質のLiイオンのLiサイト占有率が低い場合、LiサイトでのLiイオンが少なくなり、Ni、Co、AlがLiサイトに存在し、Li/Niミキシングが生じやすいだけでなく、Liイオンは結晶構造から離れ、炭酸リチウムなどの形態で存在する可能性がある。LiイオンのLiサイト占有率を向上することで、材料中のLi/Niミキシングを効果的に抑制でき、活物質の構造安定性を顕著に向上し、安全性を向上することができる。
【0048】
<工程S20>
該工程S20において、焼結生成物を破砕、洗浄、ろ過し、活物質ケーキを得る。
【0049】
具体的な一例として、洗浄溶媒は水であり、洗浄温度は10℃~40℃であり、洗浄時間は10min~60minである。具体的には、洗浄時間は10min、20min、30min、40min、50min又は60min等であってもよく、洗浄温度は10℃、20℃、25℃、30℃、35℃又は40℃等であってもよい。
【0050】
好ましくは、洗浄溶媒の使用量は、溶媒1リットルあたりに含まれる焼結生成物の質量で示される場合、500g/L~2000g/Lである。具体的には、洗浄溶剤の使用量は、500g/L、600g/L、700g/L、800g/L、900g/L、1000g/L、1200g/L、1400g/L、1500g/L、1800g/L又は2000g/L等であってもよく、ここで限定されない。前記ろ過時間は、30min~150minであり、具体的には、30min、50min、60min、80min、100min、120min又は150min等であってもよい。
【0051】
好ましくは、洗浄温度は20℃~30℃、洗浄溶媒の使用量は800g/L~1500g/L、洗浄時間は20min~40min、前記ろ過時間は60min~120minである。焼結生成物を十分に洗浄すれば、焼結生成物の表面に付着した炭酸リチウム、水酸化リチウム等の不純物を除去することができることが理解される。洗浄が不十分である場合、複合正極材料の表面でのリチウム含有量が高くなり、電池のサイクル過程中で、表面上の残留リチウムが電解液と反応してガスを発生し、電池の安全性に影響を与える恐れがある。
【0052】
好ましくは、ろ過して得られた前記活物質ケーキの含水量は、5wt%以下である。好ましくは、活物質ケーキの含水量を1wt%以下にすることで、水分による活物質性能への影響を低減することができる。
【0053】
好ましくは、工程S20の前に、前記方法は、
リン源及び可溶性リチウム化合物を水溶液に溶解し、リン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液を得る工程をさらに含む。
【0054】
好ましくは、前記リン源は、HPO、HPO、HPO、LiPO及びリン酸金属塩化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0055】
好ましくは、前記リン酸金属塩化合物は、KPO、BPO、NHPO、(NHHPO、Zr(HPO、NaHPO、SrHPO、BaHPO、Ba(PO、MgHPO、Ca(HPO、Al(HPO)3、CoHPO、又はHP(W10・nHO(式中、n≧1)から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0056】
好ましくは、前記可溶性リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩素酸リチウム、及び酢酸リチウムから選ばれる少なくとも1つを含む。好ましくは、前記可溶性リチウム化合物は、水酸化リチウムである。
【0057】
好ましくは、前記被覆溶液において、前記リチウムイオンとリン酸イオンとのモル比は、(0~10):1であり、具体的には、0:1、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1又は10:1等であってもよく、無論、上記範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。リチウムイオンの含有量が高すぎると、材料の表面における残留リチウムが多すぎることになり、リン酸根の含有量が高すぎると、材料被覆層が厚すぎることになり、材料の容量、レート特性に影響を与える恐れがある。好ましくは、前記リチウムイオンとリン酸イオンとのモル比は、(0~5):1である。
【0058】
本発明の一実施形態において、前記リン源中のリン酸イオンの質量は、活物質ケーキに対して0.05wt%~1.5wt%であり、具体的には、0.05wt%、0.08wt%、0.10wt%、0.2wt%、0.3wt%、0.5wt%、0.8wt%、1.0wt%、1.2wt%、1.3wt%又は1.5wt%等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。リン源中のリン酸イオンの含有量が高すぎると、活物質表面でのリン酸塩被覆物が過剰になり、材料容量を低下させることがある。好ましくは、前記リン源中のリン酸イオンの質量は、活物質ケーキに対して0.1wt%~1wt%である。
【0059】
本発明の一実施形態において、リン源及び可溶性リチウム化合物の合計質量は、前記被覆溶液に対して1.5wt%~45wt%であり、具体的には、1.5wt%、5wt%、8wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、30wt%、35wt%、40wt%又は45wt%等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。
【0060】
さらに、前記被覆溶液に占める前記リン源の質量割合は、1.5wt%~30wt%であり、具体的には、1.5wt%、5wt%、8wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%又は30wt%等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。前記被覆溶液に占める前記可溶性リチウム化合物の質量割合は、0wt%~15wt%であり、具体的には、0wt%、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%、12wt%又は15wt%等であってもよく、上記範囲内の他の値であってもよい。
【0061】
<工程S30>
該工程S30において、霧化方式によりリン酸イオン及びリチウムイオンを含有する被覆溶液と前記活物質ケーキとを用いて被覆処理を行い、複合正極材料を得る。
【0062】
本発明の一実施形態において、前記霧化方式は、超音波霧化及び高圧霧化から選ばれる少なくとも1つを含む。霧化により活物質を被覆するのは、従来の液相被覆法に比べて、被覆溶液中のリン源及び/又は可溶性リチウム化合物の損失を減少することができ、被覆材料の被覆量の精度を向上することができ、また、従来の固相被覆法に比べて、被覆均一性及び反応活性を向上することができることが理解される。
【0063】
被覆中に、被覆溶液が霧化されてマイクロ・ナノ構造の液滴を形成し、このような液滴は、より高い吸着性を有し、活物質と混合する時、活物質との反応活性がより高く、活物質の空孔に均一に嵌め込まれるか又は浸入し、活物質の表面欠陥を修復し、均一被覆効果を奏し、活物質の一次粒子の表面に高リチウムイオン伝導率を有するネットワークを形成し、これにより活物質のインピーダンスを顕著に低減し、活物質の電気化学的性能を最適化することができる。
【0064】
前記被覆処理の過程中で、被覆温度を50℃~100℃に制御し、具体的には、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃又は100℃等であってもよく、ここで限定されない。段階的な昇温過程中において、被覆溶液と活物質ケーキを混合し、乾燥させて、被覆物と活物質を十分に反応させることができ、これにより被覆物と活物質との反応活性を向上させ、被覆効果を向上することができる。
【0065】
前記被覆処理中に、保温時間を5min~60minに制御し、具体的には、5min、10min、15min、20min、25min、30min、35min、40min、45min、50min又は60min等であってもよく、ここで限定されない。
【0066】
好ましくは、工程S30後に、前記方法は、
前記複合正極材料を乾燥させ、乾燥温度を150℃~210℃、保温時間を10h~24hに制御する工程をさらに含む。
【0067】
本発明の一実施形態において、前記乾燥温度は、具体的に、150℃、155℃、160℃、165℃、170℃、175℃、180℃、185℃、190℃、195℃、200℃又は210℃等であってもよく、ここで限定されない。保温時間は、具体的に、10h、12h、14h、15h、17h、18h、19h、20h、22h又は24h等であってもよく、ここで限定されない。
【0068】
本発明の一実施形態において、乾燥後の複合正極材料の含水量は、0.04wt%以下である。これにより、複合正極材料中の水分を低下させ、複合正極材料の加工性能を向上させることができる。
【0069】
なお、本発明において、被覆-乾燥の過程中で、段階的な昇温方式を採用し、霧化液噴射速度、混合装置の回転数、温度などのプロセスパラメータを制御することにより、被覆材料と活物質を十分に混合、乾燥させ、反応活性を向上し、被覆均一性を向上することができる。
【0070】
本発明によれば、霧化被覆法を採用することにより、従来の液相被覆法中の溶液に溶解した被覆物のろ過による損失を回避することができ、被覆量の精度を向上することができることに加えて、固相被覆法に比べて、被覆均一性及び反応活性を向上することもできる。霧化被覆の過程中で、リン酸塩被覆溶液は、マイクロ・ナノ構造の液滴を形成し、このような液滴がより高い吸着性を有し、活物質の混合過程中において、反応活性を向上することができ、被覆物は、活物質(リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物)の空孔に均一に嵌め込まれやすく、活物質の表面欠陥を修復し、均一被覆効果を奏し、活物質の一次粒子の表面に高リチウムイオン伝導率を有するネットワークを形成し、これにより活物質のインピーダンスを顕著に低減し、活物質の電気化学的性能を最適化することができる。
【0071】
本発明の第3態様により、正極シートと、負極シートと、セパレータと、非水電解液と、外装ケースとを有するリチウムイオン電池であって、
前記正極シートは、集電体と前記集電体に塗布された上記複合正極材料、又は上記複合正極材料の製造方法で製造した正極材料とを含む、リチウムイオン電池をさらに提供する。
【実施例
【0072】
以下、複数の実施例により本発明をさらに説明する。ただし、本発明の実施例は、以下の具体的な実施例に限定されない。本発明の主旨を変えない範囲内で、適宜に変更を行って実施することも可能である。
【0073】
<実施例1>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.88Co0.09Al0.03を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物10kgと水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.88Co0.09Al0.03活物質ケーキを得た。
LiOH・HO 40.0gを水300mlに溶解し、そしてNHPO70.0gを添加し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.88Co0.09Al0.03を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸リチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が11.3μm、比表面積が0.75m/g、粉体導電率が0.056S/cmであった。
図2は、本実施例で製造した複合正極材料のSEM画像である。図3aは、本実施例で製造した複合正極材料の局所領域のSEM画像であり、図3bは、本実施例で製造した複合正極材料のエネルギー分散型X線分析によるリンの元素マッピングである。
【0074】
<実施例2>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)とLiOH・HOとZr(OH)との混合物を得た。ここで、ZrとNi、Co、Alの合計とのモル比は0.005:1であった。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物Li(Ni0.88Co0.09Al0.030.995Zr0.005を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物(g)と水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、Li(Ni0.88Co0.09Al0.030.995Zr0.005活物質ケーキを得た。
LiOH・HO 40.0gを水300mlに溶解し、そしてNHPO70.0gを添加し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLi(Ni0.88Co0.09Al0.030.995Zr0.005を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸リチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が11.6μm、比表面積が0.64m/g、粉体導電率が0.068S/cmであった。
【0075】
<実施例3>
Li/NiCoAlのモル比が1:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が5.0μmのNi0.99Co0.01(OH)とLiOH・HOとZr(OH)とTi(OH)の混合物を得た。ここで、Zr、Tiの合計とNi、Coの合計とのモル比は0.005:1であり、ZrとTiとのモル比は3:2であった。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、660℃で混合物を焼結し、焼結時間を8hとし、焼結生成物Li(Ni0.99Co0.020.995Zr0.003Al0.002を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を4.5μm~5.5μmに制御した。
焼結生成物(g)と水(L)を用いて濃度2000g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を10℃とし、洗浄時間を10minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、Li(Ni0.99Co0.020.995Zr0.003Ti0.002活物質ケーキを得た。
LiOH・HO 30.0gを水300mlに溶解し、そしてSrHPO40.0gとNHPO10gを添加し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸ストロンチウムリチウムで被覆されたLi(Ni0.99Co0.020.995Zr0.003Ti0.002を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸ストロンチウムリチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が5.2μm、比表面積が0.83m/g、粉体導電率が0.045S/cmであった。
【0076】
<実施例4>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が15.0μmのNi0.80Co0.15Al0.05(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気で、800℃で混合物を焼結し、焼結時間を15hとし、焼結生成物LiNi0.80Co0.15Al0.05を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を14.0~16.0μmに制御した。
焼結生成物(g)と水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を30℃とし、洗浄時間を60minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.80Co0.15Al0.05活物質ケーキを得た。
LiOH・HO 30.0gを水300mlに溶解し、そしてZr(HPO・HO 49.0gを添加し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸ジルコニウムリチウムで被覆されたLiNi0.80Co0.15Al0.05を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸ジルコニウムリチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が15.3μm、比表面積が0.92m/g、粉体導電率が0.057S/cmであった。
【0077】
<実施例5>
Li/NiCoMnAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.06Mn0.03Al0.03(OH)と、LiOH・HOと酢酸リチウムの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.88Co0.06Mn0.03Al0.03を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物(g)と水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.88Co0.06Mn0.03Al0.03活物質ケーキを得た。
PO50.0gを水250mlに溶解し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.88Co0.06Mn0.03Al0.03を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸リチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が11.9μm、比表面積が1.01m/g、粉体導電率が0.082S/cmであった。
【0078】
<実施例6>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.91Co0.04Al0.05(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.91Co0.04Al0.05を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物(g)と水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.91Co0.04Al0.05活物質ケーキを得た。
PO50.0gを水250mlに溶解し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.91Co0.04Al0.05を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸リチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が11.6μm、比表面積が1.13m/g、粉体導電率が0.039S/cmであった。
【0079】
<実施例7>
Li/NiCoMnのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.83Co0.11Mn0.06(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、760℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.83Co0.11Mn0.06を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物10kgと水(L)を用いて濃度1000g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を20minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.83Co0.11Mn0.06活物質ケーキを得た。
PO60.0gを水250mlに溶解し、撹拌して被覆溶液を得た。
活物質ケーキ10kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.83Co0.11Mn0.06を複合正極材料として得た。
本実施例で製造した複合正極材料は、活物質と、前記活物質の表面におけるリン酸リチウム被覆層とを含んだ。前記複合正極材料は、平均粒径が11.5μm、比表面積が0.65m/g、粉体導電率が0.060S/cmであった。
【0080】
<比較例1>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.88Co0.09Al0.03を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物10kgと水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.88Co0.09Al0.03活物質ケーキを得た。
LiNi0.88Co0.09Al0.03活物質ケーキを窒素ガス雰囲気下に置いて180℃で乾燥させ、乾燥時間を20hとし、LiNi0.88Co0.09Al0.03を正極材料として得た。
図4は、本比較例で製造した複合正極材料のSEM画像である。図5aは、本比較例で製造した複合正極材料の局所領域のSEM画像であり、図5bは、本比較例で製造した複合正極材料のエネルギー分散型X線分析によるリンの元素マッピングである。
【0081】
<比較例2>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.88Co0.09Al0.03を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
焼結生成物10kgと水(L)を用いて濃度1300g/Lのスラリーを調製し、LiOH・HO 40.0g、NHHPO70.0gを順次添加して洗浄し、洗浄温度を20℃とし、洗浄時間を15minとし、洗浄後のスラリーを加圧ろ過し、加圧ろ過時間を1hとし、LiNi0.88Co0.09Al0.03活物質ケーキを得た。
活物質ケーキを取り出し、窒素ガス雰囲気下、180℃で乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.88Co0.09Al0.03を正極材料として得た。
【0082】
<比較例3>
Li/NiCoAlのモル比が1.04:1になるように各原料を高速ミキサーで混合し、粒子の平均粒径が11.0μmのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)とLiOH・HOの混合物を得た。
酸素含有量が99%以上の雰囲気、740℃で混合物を焼結し、焼結時間を10hとし、焼結生成物LiNi0.88Co0.09Al0.03を得た。焼結生成物は、気流式粉砕機で材料の平均粒径を10.0~12.0μmに制御した。
LiOH・HO 40.0gを水300mlに溶解し、そしてNHHPO70.0gを添加し、撹拌して被覆溶液を得た。
焼結生成物LiNi0.88Co0.09Al0.0310kgをVCミキサーに入れて300rpmの回転数でミキサーを起動し、ミキサーの給油温度を80℃とし、同時に被覆溶液を霧化して40mL/minの噴射速度でミキサーに噴射し、全ての被覆溶液をミキサーに噴射完了した後、引き続き15min混合した。次に、ミキサーの給油温度を180℃に上昇し、窒素ガス雰囲気で引き続き乾燥し、乾燥時間を20hとし、リン酸リチウムで被覆されたLiNi0.88Co0.09Al0.03を複合正極材料として得た。
【0083】
(測定方法)
マルバーン「マスターサイザー2000」レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて正極材料に対して粒径分析を行い、その粒径分布及び平均粒径を測定した。
島津ダイナミック超微小硬度計を用いて複合正極材料の粒子硬度を測定した。
【0084】
Micromeritics TriStar II 3020自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて正極材料の比表面積を測定した。具体的には、一定質量の正極材料の粉末を秤量し、真空中で加熱して脱ガス処理を完全に行い、表面に吸着されたものを除去した後、窒素ガス吸着法により、吸着された窒素の量から粒子の比表面積を算出した。
【0085】
FT-8100シリーズの四探針法粉体抵抗測定装置を用いて正極材料の粉体導電率を測定した。具体的には、一定質量の正極材料の粉末を秤量し、20kN/cmの圧力下で粉体を押し固め、上記四探針粉体抵抗測定装置で材料の粉体導電率を測定した。
【0086】
[2032型コイン電池の製造]
各実施例で製造された正極、導電性カーボン、ポリフッ化ビニリデンを96:2:2の割合でN-メチルピロリドンに添加し、撹拌してスラリーを得、アルミニウム箔に塗布して乾燥させた後に正極シートとし、リチウムシートを負極とし、2032型コイン電池を製造した。
【0087】
[放電容量、サイクル特性、レート性能の測定]
LAND電池測定システムを用い、25℃、2.5V~4.3Vで電気性能テストを行った。初回充放電サイクルにおいて、0.1Cの電流で4.3Vまで充電してから0.1Cの電流で2.5Vまで放電した。その後、充放電サイクルを繰り返して行い、50サイクル容量維持率を記録した。各充放電サイクルにおいて、0.5Cの電流で4.3Vまで充電してから1Cの電流で2.5Vに放電した。
【0088】
[DCR測定]
Arbin電池測定システムを用い、25℃、2.5V~4.3Vで電気性能テストを行った。初回充放電サイクルにおいて、0.5Cの電流で4.3Vまでに充電してから1Cの電流で2.5Vまで放電した。放電開始から10秒後の電圧降下値を電流値で割って、DCRの数値を算出した。
【0089】
[EIS測定]
マルチチャンネルポテンショスタット(Bio-Logic;VMP3)を用い、1MHz~1mHzの周波数下、100%SOC、25℃で2032型コイン電池に対して電気化学インピーダンス測定を行った。
【0090】
[SEM測定]
Hitachi S4800走査型電子顕微鏡を用いて、材料の表面モフォロジーを測定した。
【0091】
[EDS分析]
Hitachi S4800走査型電子顕微鏡を用いて、材料の表面に対して
エネルギー分散型X線分光器で元素マッピングを行った。
【0092】
[LiイオンのLiサイト占有率の測定]
CuKα線での粉末X線回折測定により、得られた正極材料を同定し、正極材料のX線回折パターンを得てリートベルト解析によりLiイオンのLiサイト占有率を算出した。リートベルト解析には、以下の方法を採用した。
結晶構造モデルを構築し、該結晶構造モデルにより取得されたX線回折パターンと、実際に測定されたX線回折パターンとをフィッティングし、該結晶構造モデルの格子定数パラメータを調整することによって2者のX線回折パターンを相互にマッチさせ、この場合で取得された格子定数データによりLiイオンのLiサイト占有率を算出した。
【0093】
[(003)結晶面に対応するX線回折ピーク/(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度比]
CuKα線での粉末X線回折測定により、得られた正極材料を同定し、正極材料のX線回折パターンを得てリートベルト解析によりLiイオンのLiサイト占有率を算出した。リートベルト解析には、以下の方法を採用した。
結晶構造モデルを構築し、該結晶構造モデルにより取得されたX線回折パターンと、実際に測定されたX線回折パターンとをフィッティングし、該結晶構造モデルの格子定数パラメータを調整することによって2者のX線回折パターンを相互にマッチさせ、この場合で取得された(003)、(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度により算出した。
【0094】
図2図4から分かるように、実施例1においてろ過ケーキをリン酸塩で被覆してなるサンプルの表面は、明らかに被覆層を有したのに対して、比較例1において被覆処理を行わず、より滑らかな表面を有した。
【0095】
図3b、図5bから分かるように、同じ被覆量で、実施例1においてろ過ケーキをリン酸塩で被覆してなるサンプルは、リン含有量がより多くかつ均一に分布したのに対して、比較例1において被覆処理を行わなかった。
【0096】
図6図8に示すように、実施例1のサンプルは、表面のリン酸リチウム被覆効果がより優れたため、より高いサイクル特性、より低い直流内部抵抗を有し、より低いインピーダンスを有する。
【0097】
【表1】
【0098】
表1(測定結果)に示される実験データの対比により、ろ過ケーキをリン酸塩で被覆してなるサンプルは、より優れた粒子硬度、放電容量、サイクル特性、及びレート性能を有する。
【0099】
実施例1及び比較例1のLiイオンのLiサイト占有率及び(003)、(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度比の実験データから分かるように、ろ過ケーキをリン酸塩で被覆してなるサンプルは、より高いLiイオンのLiサイト占有率及びより高い(003)、(104)結晶面に対応するX線回折ピークの強度比を有し、このため、ろ過ケーキをリン酸塩で被覆してなるサンプルは、Li/Niミキシングがより低く、より高い構造安定性及びより高い粒子硬度を有する。
【0100】
比較例2において、液相被覆法を採用し、一部のリン源と可溶性リチウム化合物は溶液と共に流失し、材料表面の被覆量を制御しにくく、これにより被覆前後の材料の比表面積の差が大きく、材料構造の安定性に影響を与えた。
【0101】
比較例3において、製造中に、焼結生成物を洗浄しないため、最後に製造した正極材料の表面における残留リチウムが高くなり、電池の直流内部抵抗及びインピーダンスが増大し、材料の容量及びレート特性に影響を与えた。
【0102】
以上で、好適な実施例を参照しながら本発明を開示したが、これらの内容は、特許請求の範囲を限定するものではない。当業者が本発明の主旨を逸脱せずに種々の可能な変更や変形を行うことができる。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲に限定される範囲に準じるべきである。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
【国際調査報告】