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特表2024-510728改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20240304BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20240304BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240304BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20240304BHJP
   A01H 5/08 20180101ALI20240304BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240304BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240304BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20240304BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/29
A01H6/82
A01H5/10
A01H5/08
A01H1/00 Z
A01H5/00 Z
A01H5/00 A
A01H1/00 A
C12Q1/6895 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554882
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2021057590
(87)【国際公開番号】W WO2022199812
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521511818
【氏名又は名称】エンザ・ザデン・ベヘール・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テレサ・マリア・モントロ・ポンソダ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ヴィレム・デ・クラケル
(72)【発明者】
【氏名】イローナ・ヘルトラウダ・マリア・ブロールセン
(72)【発明者】
【氏名】イリャ・ローベーク
(72)【発明者】
【氏名】マリーケ・イケマ
(72)【発明者】
【氏名】ファウスト・ロドリゲス・サンチェス
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030AD09
2B030CA05
2B030CA14
4B063QA05
4B063QA13
4B063QQ04
4B063QQ43
4B063QQ44
4B063QR32
4B063QR73
(57)【要約】
本発明は、改善された昆虫抵抗性、より具体的にはコナジラミ又はダニ抵抗性を有するトマト植物であって、アセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ酵素をコードするSlAT2遺伝子及びAPETALA2エチレン応答性転写因子をコードするAP2e遺伝子を含む、トマト植物に関する。本発明は更に、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物を準備するための方法、及び昆虫抵抗性トマト植物を提供するためのAP2e遺伝子と組み合わせたSlAT2遺伝子の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物であって、配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)、及び配列番号5と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするAPETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)の組合せを含み、SlAT2及びAP2e遺伝子の前記組合せは、遺伝子の前記組合せを含まないトマト植物と比較して、C29H48O15及びC36H62O15アシル糖含量の増加をもたらす、トマト植物。
【請求項2】
テトラアシル(S4)糖及びトリアシル(S3)糖を含み、植物中のテトラアシル(S4)糖とトリアシル(S3)糖との比(S4:S3)が少なくとも1、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも1.7である、請求項1に記載のトマト植物。
【請求項3】
SlAT2遺伝子をコードするゲノム領域が配列番号1を含み、AP2e遺伝子をコードするゲノム領域が配列番号4を含む、請求項1又は2に記載のトマト植物。
【請求項4】
SlAT2遺伝子が配列番号3で表されるタンパク質配列をコードし、AP2e遺伝子が配列番号6で表されるタンパク質配列をコードする、請求項1から3のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項5】
C29H48O15のアシル糖含量が、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも150μg/gであり、及び/又はC36H62O15のアシル糖含量が、植物葉のFWに対して少なくとも125μg/gである、請求項1から4のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項6】
遺伝子の前記組合せを含まないトマト植物と比較して、C28H46O15、C34H58O15及びC35H60O15からなる群から選択される1つ又は複数のアシル糖含量の増加を更に有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項7】
C28H46O15のアシル糖含量が、植物葉のFWに対して少なくとも10μg/gであり、及び/又はC34H58O15のアシル糖含量が、植物葉のFWに対して少なくとも15μg/gであり、及び/又はC35H60O15のアシル糖含量が、植物葉のFWに対して少なくとも12.5μg/gである、請求項1から6のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項8】
寄託物NCIMB 43748から入手可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項9】
ダニ、好ましくはハダニ(ナミハダニ)に対して更に抵抗性である、請求項1から8のいずれか一項に記載のトマト植物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のトマト植物の種子、果実又は植物部分。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物を提供するための方法であって、コナジラミ感受性トマト植物を準備する工程、及び
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)、及び配列番号5と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするAPETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)の組合せを準備し、SlAT2及びAP2e遺伝子の前記組合せは、遺伝子の前記組合せを含まないトマト植物と比較して、C29H48O15及びC36H62O15アシル糖含量の増加をもたらすことを含むそのゲノムを突然変異させる工程、を含む方法。
【請求項12】
改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物を準備するための方法であって、
a)コナジラミに感受性のトマト植物を、請求項1から9のいずれか一項に記載のトマト植物と交配する工程、
b)SlAT2遺伝子及びAP2e遺伝子を含む、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物を選択する工程、
を含む方法。
【請求項13】
改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物の選択がC29H48O15及び/又はC36H62O15アシル糖含量の決定によるものであり、C29H48O15のアシル糖含量が、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも150μg/gであり、及び/又はC36H62O15のアシル糖含量が、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも125μg/gである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
トマト植物に昆虫抵抗性を提供するための2つのゲノム領域の組合せであって、1つのゲノム領域がアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)をコードする配列番号1を含み、第2のゲノム領域がAPETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)をコードする配列番号4を含む、2つのゲノム領域の組合せ。
【請求項15】
トマト植物に昆虫抵抗性を提供するための2つの遺伝子の組合せであって、1つの遺伝子が配列番号3を含むアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ(SlAT2)タンパク質をコードし、第2の遺伝子が配列番号6を含むAPETALA2eエチレン応答性転写因子(AP2e)をコードする、2つの遺伝子の組合せ。
【請求項16】
コナジラミ抵抗性トマト植物を提供するための、トマト植物における請求項14又は15に記載の2つのゲノム領域又は2つの遺伝子の組合せの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された昆虫抵抗性、より具体的にはコナジラミ又はダニ抵抗性を有するトマト植物であって、アセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ酵素をコードするSlAT2遺伝子及びAPETALA2エチレン応答性転写因子をコードするAP2e遺伝子を含む、トマト植物に関する。本発明は更に、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物を準備するための方法、及び昆虫抵抗性トマト植物を提供するためのAP2e遺伝子と組み合わせたSlAT2遺伝子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コナジラミはコナジラミ科(Aleyrodidae)に属し、通常、植物の葉の背軸側を食害する。1500種以上が報告されており、特に温暖な気候や熱帯気候、及び温室内において、コナジラミは温暖な気候における作物保護や温室条件下で栽培される作物において大きな問題となり、世界中で毎年莫大な経済的損失をもたらしている。コナジラミ種の多くはサイズが非常に小さいため、温室内での防除が難しく、温室内のコナジラミの個体群を放置すると、急速に圧倒的な数になる。コナジラミに関連する被害は、植物の活力や収量の低下、早枯れ、葉の白化、落葉等、作物の質と量を低下させる。シルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミ(Bemisia tabaci))は、現在最も重要な農業有害生物の1つであるコナジラミの一種である。
【0003】
数種のコナジラミは、非常に数が多い場合、単に樹液を吸うだけで作物にある程度の損失を与えることもあるが、彼らが与える主な害は間接的なものである。作物の有害生物として重要なのは、媒介者としての役割と、200種類以上の植物ウイルスを含む植物の病気の伝染である。更に、コナジラミは植物の師部に穿刺して食害を行い、有毒な唾液を導入し、植物の全体的な膨圧を低下させる。コナジラミは大量の甘露を分泌し、煤病のような有害な菌類の感染を助長する。コナジラミは大量に集まるため、感受性植物はすぐに圧倒される可能性がある。
【0004】
ネオニコチノイド系、有機塩素系、及び有機リン系化合物等の殺虫剤は広く使用されており、コナジラミを防除する効果的な方法である。しかし、殺虫剤の連続適用はコナジラミの抵抗性の発達を生じさせる。更に、より環境にやさしい生物学的な方法も提案されており、例えば、自然の捕食者や捕食寄生者(例えば、クサカゲロウの幼虫を使用)を使用してコナジラミの感染を防除したり、植物を洗浄して植物上の有害生物の数を減らしたりする方法である。しかし、これらの方法も有害生物に対する最適な解決策とはならず、コナジラミの防除は依然として困難である。
【0005】
特にトマト(トマト(Solanum lycopersicum))やトウガラシ(カプシカム属(Capsicum spp.))では、コナジラミの感染が問題となっている。トマトは13種を含むナス属(Solanum)トマト節(Lycopersicon)に分類され、そのうちトマトは栽培用トマトである一方で、他の12種は野生近縁種である。トウガラシ属には25種があり、そのうち栽培されているのはトウガラシ(C. annuum)、C.キネンセ(C. chinense)、キイロトウガラシ(C. baccatum)、ロコトトウガラシ(C. pubescens)、キダチトウガラシ(C. frutescens)の5種である。トマト及びトウガラシは栽培化された結果、遺伝的多様性が失われ、有害生物による攻撃等、非生物的ストレス及び生物学ストレスを受けやすくなった。現在までのところ、コナジラミに抵抗性のトマト及びピーマンは栽培されていない。これまでにも、トマトやピーマンの野生近縁種におけるコナジラミ抵抗性を見つけるために、いくつかの研究が行われてきた。トマトのいくつかの野生近縁種(S.ペンネリイ(S. pennellii)、S.ハブロカイテス(S. habrochaites)、S.ペルビアナム(S. peruvianum)、S.ピンピネリフォリウム(S. pimpinellifolium))は、栽培種よりも抵抗性が強いことが知られている。
【0006】
抗生作用は、植物が昆虫の成長と生存に悪影響を及ぼす抵抗性メカニズムの1つである。コナジラミの抗生作用に寄与するトマトの特徴として最も顕著なものの1つがトリコームであり、トリコームとは、腺毛のような植物の細かい突起物や付属物である。その機能は、植物の代謝産物を分泌することであり、植物の成長及び発達、並びにストレス応答に関する多様な機能を持つテルペノイド、フェニルプロパノイド、フラボノイド、メチルケトン、アシル糖等を含む。例えば、モノ及びセスキテルペン、メチルケトン、並びにアシル糖は、トマトのコナジラミ抵抗性に関連することが知られている二次代謝産物である。腺トリコームはコナジラミ抵抗性において重要な役割を果たしているように見えるが、実は決定的なのはトリコーム内の化合物である。特定のトリコーム(タイプIVトリコーム)の存在とコナジラミ抵抗性との間に高い相関関係が見出され、これまでの研究から、コナジラミ抵抗性は多くの遺伝子が関与するいくつかのメカニズムに基づいており、複雑なプロセスであることが示された。栽培用トマトにコナジラミ抵抗性を導入する努力は成功しておらず、新たなアプローチと抵抗性ソースを検討する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を考慮すると、1つの改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物、より具体的には、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物について当技術分野における必要性が存在する。更に、改善された昆虫抵抗性を有する植物、より具体的にはコナジラミに対する改善された抵抗性を有するトマト植物を提供するための方法について当技術分野における必要性が存在する。
【0008】
本発明の目的は、とりわけ、当技術分野における上記の必要性に対処することである。本発明のこの目的は、とりわけ、添付の特許請求の範囲に概説された本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
具体的には、上記の目的は、とりわけ、第一の態様によれば、本発明により、改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物であって、配列番号2と少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)、及び配列番号5と少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするAPETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)の組合せを含み、SlAT2及びAP2e遺伝子の前記組合せは、遺伝子の前記組合せを含まないトマト植物と比較して、C29H48O15及びC36H62O15アシル糖含量の増加をもたらす、トマト植物によって達成される。更に好ましくは、SlAT2遺伝子は配列番号2のcDNAをコードし、AP2e遺伝子は配列番号5のcDNAをコードする。
【0010】
本発明のトマト植物、好ましくはトマト植物は改善された昆虫抵抗性を有し、植物はAP2e遺伝子と組み合わせたSlAT2遺伝子を含む。APETALA2(AP2)遺伝子ファミリー(AP2/エチレン応答性エレメント結合因子(ERF)遺伝子ファミリー又はERF/AP2遺伝子ファミリーとも呼ばれることがある)は、トマト植物におけるAP2/ERFと呼ばれるDNA結合タンパク質の大きな遺伝子ファミリー(>100+遺伝子)を規定する。AP2遺伝子は、ホルモン調節、花部分裂組織器官の同一性の確立、花部器官の調節と成長、及び発達、更には環境刺激に対する様々な応答やストレス応答等、様々な機能を果たしている。更に、様々な異なるAP2遺伝子が、植物の種子発生過程におけるヘキソースのスクロースに対する比の変化をもたらすこと、AP2タンパク質が系内の糖の量を調節し、これらの様々な糖を用いた当該植物における輸送、形づくり、及びシグナル伝達に関与することが知られている。驚くべきことに、AP2e遺伝子と組み合わせたSlAT2遺伝子は、特定のアシル糖の一種であるC29H48O15(S4:C17アシルスクロース)及び/又はC36H62O15(S4:C24アシルスクロース)の産生を促進し、制御すること、並びにこれらのアシル糖の特異的な産生増加は、植物における高レベルの昆虫抵抗性と関連していることが見出された。SlAT2遺伝子はアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ酵素をコードし、AP2e遺伝子はアシル糖の産生制御に関与するAPETALA2eエチレン応答性転写因子をコードする。AP2eは異なるタイプのアシル糖の一般的な量の産生能力に関係する一方、SlAT2は植物の昆虫抵抗性に影響する特定のアシル糖の産生を促進するようである。AP2eは、生合成経路とトリコームの形成に関与する遺伝子のスイッチを入れることによって、産生されるアシルスクロースの総量に影響を与えるが、SlAT2は最終的に産生されるアシルスクロースの種類に強い影響を与える。活性型SlAT2酵素は、すでに3つのアシル基を持つアシルスクロースに、更にアセチル基を付加する役割を担っている。この結果、トリアシルスクロースを犠牲にしてテトラアシルスクロースの量が増加し、トマト植物で観察されるように昆虫抵抗性が改善される。これは、SlAT2とは異なるSlATタイプの酵素によって触媒される一連の反応の追加の工程であり、異なるアシルCoトランスフェラーゼは、最初のスクロース分子にアシル鎖を3つまでしか付加しないため、昆虫抵抗性には間接的にしか寄与しない。
【0011】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、テトラアシル(S4)糖及びトリアシル(S3)糖を含み、植物中のテトラアシル(S4)糖とトリアシル(S3)糖との比(S4:S3)が少なくとも1、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも1.7である、トマト植物に関する。実験は、アシル糖の種類が、トマト植物にコナジラミ抵抗性を付与するために極めて重要であることを示す。AP2e遺伝子を含み、アシル糖を産生する植物は、必ずしもコナジラミに対して抵抗性を示さないことが観察された。しかし、植物がSlAT2遺伝子も有している場合、その植物は改善された昆虫抵抗性を示し、これは、ほとんどがトリアシルスクロース(S3)を蓄積した感受性植物と比較して、高レベルのテトラアシル(S4)スクロース、例えば、多いC29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)に関連していることが示された。
【0012】
AP2e遺伝子と組み合わせてSlAT2遺伝子を含んでいない植物と比較して、本発明のトマト植物は、C29H48O15及び/又はC36H62O15アシル糖含量が増加している。アシル糖はトリコーム滲出物であり、より具体的には、C29H48O15(S4:C17アシルスクロース)及びC36H62O15(S4:C24アシルスクロース)アシル糖はタイプIVトリコーム滲出物であり、トマト植物における昆虫に対する抵抗性を引き起こす。AP2eはトリコームの発達及びアシル糖の産生の両方に関与している。AP2e遺伝子を含むトマト植物は、葉の表面と茎にタイプIVトリコームが増加する。トマトのトリコーム滲出液の多く(約90%)はアシル糖を含み、そのうち70を超える化合物が知られている。トマトで産生されるアシル糖は、様々な組合せのアシル基からなり、アシル基は鎖長の異なる脂肪族酸に由来し、グルコースやスクロースの水酸基にエステル化されたものである。アシル鎖は主に短鎖から中鎖長の脂肪族酸で、分岐鎖か直鎖のいずれかである。トマトでは、アシル糖の主要な短いアシル鎖は酢酸(C2)又は分岐鎖アミノ酸由来、すなわち2-メチル-プロパン酸(C4)及び3-メチル-ブタン酸(C5)であることが示されている。より長いアシル基は、おそらく脂肪酸のβ酸化生成物に由来する。しかし、特定のアシル糖の存在と存在量は抵抗性植物と感受性植物で大きく異なり、特にC29H48O15及びC36H62O15アシル糖含量は昆虫抵抗性植物で高い。これらのアシル糖は粘着性のある物質であり、接着剤のトラップとして働き、また昆虫、より具体的にはコナジラミに対して毒性もあるため、植物の昆虫抵抗性が改善される。更に、コナジラミだけでなく他の穿孔吸引昆虫(pierce-sucking insects)も、これらの特定のアシル糖の存在下では葉への定着を避ける。
【0013】
好ましい実施形態によれば、本発明はトマト植物に関し、コナジラミは、ミカンクロトゲコナジラミ(Aleurocanthus woglumi)(ミカンクロトゲコナジラミ)、タマナコナジラミ(Aleyrodes proletella)(タマナコナジラミ)、タバココナジラミ(シルバーリーフコナジラミ)、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)(オンシツコナジラミ)、好ましくはオンシツコナジラミ及び/又はタバココナジラミからなる群から選択される1つ又は複数である。
【0014】
本発明の好ましい実施態様によれば、上記で詳述した本発明の植物は、本質的に生物学的プロセスによってのみ得られる植物ではない。
【0015】
本発明のゲノム領域又は断片は、遺伝子移入によりトマト植物に導入することができるが、本発明のゲノム断片のヌクレオチド配列は既知であるため、例えば、これらのゲノム断片を酵母において人工的に構築し、その後感受性トマトゲノムと組換えることができる。或いは、これらのゲノム領域又は断片をロングレンジPCR増幅によって増幅し、得られた増幅断片をホウレンソウ細胞に単一工程で形質転換し、又は一連の形質転換で最終的に本発明のトマト植物を得ることができる。また、本発明のゲノム断片は、完全に又は部分的に後に再構成され、例えば制限消化後にゲル又はカラムから単離され、その後トマト細胞に形質転換され得る。更に、ゲノム中の突然変異、欠失又は挿入は、EMS突然変異誘発、及び/又はCRISPR技術によって得ることができる。更に或いは、目的のゲノム断片を(強力な)プロモーター下でベクターに導入することもできる。その後、感受性植物をベクターで形質転換し、目的の配列を発現させることにより抵抗性を得ることができる。これらの技術は、当業者にとって容易に利用可能である。本発明のゲノム断片を含む人工染色体の構築もまた、本発明の文脈において企図される。
【0016】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、SlAT2遺伝子をコードするゲノム領域が配列番号1と少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、AP2e遺伝子をコードするゲノム領域が配列番号4と少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、トマト植物に関する。配列番号1及び配列番号4は、それぞれのプロモーターエレメントを含む、それぞれSlAT2及びAP2e遺伝子を含むゲノム領域である。と少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0017】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、SlAT2遺伝子が配列番号3で表されるタンパク質配列をコードし、AP2e遺伝子が配列番号6で表されるタンパク質配列をコードする、トマト植物に関する。
【0018】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、SlAT2遺伝子が配列番号2のコード配列をコードし、AP2e遺伝子が配列番号5のコード配列をコードする、トマト植物に関する。
【0019】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、C29H48O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも150μg/g、好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも200μg/g、より好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも250μg/gであり、及び/又はC36H62O15のアシル糖含量は植物葉のFWに対して少なくとも125μg/g、好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも175μg/g、より好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも250μg/gである、トマト植物に関する。新鮮質量(FW)とは、植物又は植物の一部、この場合は植物の葉の収穫時の質量である。バイオアッセイの実験は、特許請求されたアシル糖濃度において、平均40%以上のコナジラミ死亡率の抵抗性レベルが観察されることを示す。
【0020】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、2021年3月18日にNCIMB Ltd社、Ferguson Building、Craibstone Estate、Bucksburn、Aberdeen AB21 9YA、Scotlandの寄託物NCIMB 43748から入手可能である、トマト植物に関する。
【0021】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、SlAT2遺伝子及びAP2e遺伝子を含まない植物と比較して、C28H46O15、C34H58O15及びC35H60O15からなる群から選択される1つ又は複数のアシル糖含量の増加を更に有する、トマト植物に関する。アシルスクロース化合物C29H48O15、C36H62O15、C28H46O15、C34H58O15、C35H60O15の次に、2つの付加的な糖C33H56O15及びC37H64O15は、抵抗性トマト植物では、それらの感受性トマト植物と比較して(顕著ではないが)高濃度で存在することがわかった。
【0022】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、C28H46O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも10μg/g、好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも15μg/g、より好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも20μg/gであり、及び/又はC34H58O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも15μg/g、好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも20μg/g、より好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも25μg/gであり、及び/又はC35H60O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも12.5μg/g、好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも15μg/g、より好ましくは植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも20μg/gである、トマト植物に関する。
【0023】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、ダニ、好ましくはハダニ(ナミハダニ(Tetranychus urticae))に対して更に抵抗性である、トマト植物に関する。
【0024】
本発明は、第2の態様によれば、本発明のトマト植物の種子、果実又は植物部分に関する。
【0025】
本発明は、更なる態様によれば、改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物を提供するための方法であって、コナジラミ感受性トマト植物を準備する工程、及び
- 配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)、及び配列番号5と少なくとも95%の配列同一性を有するcDNA配列をコードするAPETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)の組合せを準備し、SlAT2及びAP2e遺伝子の前記組合せは、遺伝子の前記組合せを含まないトマト植物と比較して、C29H48O15及びC36H62O15アシル糖含量の増加をもたらすことを含むそのゲノムを突然変異させる工程、を含む方法に関する。
【0026】
本発明は、更なる態様によれば、改善されたコナジラミ抵抗性を有するトマト植物を準備するための方法であって、
a)コナジラミに感受性のトマト植物を、定義された本発明のコナジラミ抵抗性トマト植物と交配する工程、
b)SlAT2遺伝子及びAP2e遺伝子を含む、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物を選択する工程、を含む方法に関する。改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物の選択は、C29H48O15及び/又はC36H62O15アシル糖含量の決定に基づいて行うことができ、C29H48O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも150μg/g、好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも200μg/g、より好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも250μg/gであり、及び/又はC36H62O15のアシル糖含量は植物葉のFWに対して少なくとも125μg/g、好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも175μg/g、より好ましくは植物葉のFWに対して少なくとも250μg/gである。更に、コナジラミ抵抗性トマト植物の選択は、本明細書において配列番号1から配列番号6として同定されるSlAT2及びAP2eの特異的配列(cDNA、gDNA又はタンパク質配列)の決定又は同定によっても行うことができる。
【0027】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、改善された昆虫抵抗性を有するトマト植物の選択はC29H48O15及び/又はC36H62O15アシル糖含量の決定によるものであり、C29H48O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも150μg/gであり、及び/又はC36H62O15のアシル糖含量は、植物葉の新鮮質量(FW)に対して少なくとも125μg/gである、方法に関する。
【0028】
本発明は、更なる態様によれば、トマト植物に昆虫抵抗性を提供するための2つのゲノム領域の組合せであって、1つのゲノム領域は、アセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SlAT2)をコードする配列番号1を含み、第2のゲノム領域は、APETALA2eエチレン応答性転写因子遺伝子(AP2e)をコードする配列番号4を含む、2つのゲノム領域の組合せに関する。
【0029】
本発明は、更なる態様によれば、トマト植物に昆虫抵抗性を提供するための2つの遺伝子の組合せであって、1つの遺伝子は、配列番号3を含むアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ(SlAT2)タンパク質をコードし、第2の遺伝子は、配列番号6を含むAPETALA2eエチレン応答性転写因子(AP2e)をコードする、2つの遺伝子の組合せに関する。
【0030】
本発明は、更なる態様によれば、コナジラミ抵抗性トマト植物を提供するための、トマト植物における上記で定義した2つのゲノム領域又は2つの遺伝子の組合せの使用に関する。
【0031】
本発明は、以下の実施例及び図において更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明によるトマト植物(トマト)の葉(A及びB)並びに昆虫感受性トマト植物(トマト)の葉(C及びD)を示す図である。両方のトマト植物は、コナジラミの感染が促進された商業的温室においてコナジラミの感染に曝された。本発明の植物の葉にはコナジラミの感染がないのに対し、昆虫感受性トマト植物の葉は明らかにコナジラミに感染している。図Eは、昆虫感受性トマト植物(S)及び本発明によるトマト植物(R)の葉を示す。コナジラミが生きており、S植物の葉の表面にいるのに対し、R植物ではコナジラミは死んでおり、葉の表面にはいないことが明らかである。
図2A】トマト植物におけるアシル糖の濃度の増加に対するコナジラミ(WF)の死虫数の割合を示す図である。2Aのグラフは、死んだコナジラミの数とアシル糖C29H48O15の濃度との間に直線関係があることを示す。
図2B】トマト植物におけるアシル糖濃度の増加に対するコナジラミ(WF)の死虫数の割合を示す図である。2Bのグラフは、C36H62O15アシル糖の用量反応を示す。特定のアシル糖の両者は、コナジラミの生存に負の影響を及ぼすことがわかる。
図2C】トマト植物におけるアシル糖濃度の増加に対するコナジラミ(WF)の死虫数の割合を示す図である。一方、C32H54O15(2Cのグラフ)のような植物に存在する他のアシル糖はそれ自体はコナジラミに影響を与えない。新鮮質量(FW)とは植物の質量のことで、この場合は植物の葉の収穫時のFWである。このバイオアッセイは、植物の葉に含まれるアシル糖のレベルが、コナジラミの死亡率として観察される抵抗性のレベルに直接影響することを示す。
図3】LC-MSを重ね合わせたクロマトグラムで、昆虫抵抗性植物(赤色のピーク)、中間抵抗性植物(オレンジ色のピーク)、感受性植物(緑色のピーク)の様々なアシル糖の存在と相対濃度を示す図である。赤色で標識されたアシル糖化合物は、昆虫抵抗性の植物に高濃度で存在し、植物の昆虫抵抗性に重要な役割を果たしていると考えられている。緑色で標識されたアシル糖は、主に感受性植物に存在する。この分析から、昆虫抵抗性が改善された植物は、高レベルのC29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)アシル糖と関連していると結論づけることができる。更に、C27H46O14(S3:C15)、C32H56O14(S3:C20)、C33H58O14(S3:C21)、C34H60O14(S3:C22)、及びC39H68O15(S4:C27)のアシル糖含量には、植物の昆虫抵抗性に関連する有意な変化は観察されなかった。
図4-1】SlAT2のゲノム領域(gDNA)、コード配列(cDNA)及びタンパク質配列(それぞれ、配列番号1から3)、並びにAP2eのgDNA、cDNA及びタンパク質配列(それぞれ、配列番号4から6)を示し、AP2eと組み合わせたSlAT2が、トマト植物においてコナジラミ抵抗性を提供することを示す図である。
図4-2】図4-1の続きである。
図4-3】図4-2の続きである。
図4-4】図4-3の続きである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0033】
切り取られた葉のバイオアッセイ
ビニールハウスで栽培した約50のトマト植物の上部から、少なくとも12週齢の植物(トマト)の長さ約4cmの若い葉を切り取った。葉柄を栄養アガロースゲルの入った試験管に入れた。葉の向軸側を上にして試験管をガラスシャーレの壁面に水平に置き(ブルタックを使用)、中程度の高さで、葉の向軸側と背軸側の両方で葉とシャーレとの間に空間ができるようにした。それぞれのシャーレにコナジラミ25匹を接種し、CO2で3秒間麻酔した。
【0034】
24~48時間後、死んだコナジラミの数とともに、向軸面又は背軸面のコナジラミの数を計数した。それぞれの植物を2回試験し、生存していたコナジラミ(葉の向軸及び背軸部分から摂食していたコナジラミと、シャーレ内でまだ飛び回っていたコナジラミ)の数と死んだコナジラミの数を比較して、死んだコナジラミの割合を算出した。特定のアシルスクロースとコナジラミの死亡率との相関分析から、特定のアシルスクロース分子の違いは、コナジラミに対する抵抗性/感受性に異なる役割を果たすことが明らかになった。図2にコナジラミ(WF)の死亡率と植物体中のアシルスクロース含量を比較して示したように、主にC29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)のアシル糖が抵抗性に高い影響を与えている。また、抵抗性との関連を示したその他のアシル糖化合物は、C28H46O15(S4:C16)、C34H58O15(S4:C22)、C35H60O15(S4:C23)、C33H56O15(S4:C21)、及びC37H64O15(S4:C25)アシル糖である。
【0035】
液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)によるトマト中のアシル糖含量の分析
葉表面のLC-MSによる化学分析を、本発明による昆虫抵抗性トマト植物、中間抵抗性植物、及び感受性植物(すべてトマト)を含む一連のトマト植物について行った。植物は、10本の腋芽まで成長させ、第3又は第4の頂葉から対向する2枚の葉小片(3×3×3cm)を10mlのガラスバイアルに入れた。内部標準物質(オクタアセチルスクロース、10mg/l)を含むメタノール2mlを加え、バイアルを15秒間振盪した。葉小片を取り出し、300μlのメタノール抽出物をLCバイアルに移し、Agilent 6230 TOF質量分析計を連結させたAgilent 1290 Infinity II UHPLCを用いて分析した。
【0036】
1μLの抽出物を注入し、Agilent ZORBAX RRHD Eclipse Plus C18カラムで、50℃、移動相流速0.3mL/分で分離した。移動相は、水+0.1%ギ酸(A)及びアセトニトリル+0.1%ギ酸(B)を含み、A:Bのグラジエントは、60:40から45:55まで6分、10:90まで8分、60:40まで3分であった。分子は325eV(ポジティブモード)でイオン化し、1スペクトル/秒で50~1500ミューの範囲で検出した。抽出物は主にアシル糖を含み、質量分析計ではナトリウム付加物として検出された。
【0037】
個々のアシル糖は、MassHunter Qualitative Analysisソフトウェア(Agilent社)を使用して、クロマトグラフィーのピークを構成する母イオンに基づいて分子式を計算することにより同定した。ここで分子式は、炭素、水素、酸素原子が母イオンを形成し、H+、Na+、及びK+と組み合わせ、ギ酸付加物を現し、更に二重結合当量(DBE)の範囲を1~10とすることで制約を受けた。母イオンの正確な質量とDBEの組合せにより、アシル糖分子の基本構造、骨格部分、アシル鎖の数、アシル鎖を形成する炭素原子の総数、を推定することができる。アシル糖の量は、MassHunter Quantitative Analysis Software(Agilent社)を使用してクロマトグラムのピーク積分を行い、個々のアシル糖の総ピーク面積を内部標準(オクタアセチルスクロース)のピーク面積と比較することにより算出した。
【0038】
LC-MSでは、上述の切り取られた葉のバイオアッセイで得られた結果と同等の結果が得られた。特定のアシル糖が昆虫抵抗性に関与していることを示す更なる証拠は、LC-MSクロマトグラムプロット、図3から導くことができる。昆虫抵抗性植物(赤色)、中間抵抗性植物(オレンジ色)、感受性植物(緑色)のメタノール葉浸漬の個々のクロマトグラムを重ね合わせた。赤色で標識されたアシル糖化合物は、コナジラミに対して高い抵抗性を示した植物に高濃度で存在する。対照的に、コナジラミに感受性を示した植物では、LC-MSによってこれらの特定のアシル糖は検出されなかったか、或いは低濃度しか検出されなかった。更に、コナジラミに感受性の植物に関しては、主に存在するアシル糖が緑色で標識されており、注目すべきことに抵抗性植物には存在しないか、低濃度であった。この分析から、昆虫抵抗性が改善された植物は、C29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)アシル糖が多いことに関連していると結論づけることができる。C27H46O14(S3:C15)、C32H56O14(S3:C20)、C33H58O14(S3:C21)、C34H60O14(S3:C22)、及びC39H68O15(S4:C27)のアシル糖含量には、植物の昆虫感受性及び昆虫抵抗性において有意な変化は観察されなかった。
【0039】
遺伝子型解析、SlAT2及びAP2eのマッピング
トマト植物におけるアシル糖の産生は、植物における高レベルの昆虫抵抗性と関連している。重要なことは、どのタイプのアシル糖が昆虫抵抗性に必要なのかを知ることである。マーカー分析による抵抗性トマト植物集団(トマト)の遺伝子型データを調べると、マーカーM8とM5(Table 1(表1))を用いて、(C36H62O15)(S4:C24)及び(C29H48O15)(S4:C17)アシルスクロースの産生と明確に相関するQTLを同定した。
【0040】
簡単に説明すると、タイプIVトリコームによって産生されるアシル糖の量に関連するゲノム領域が、参照ゲノムSL2.40に基づいて6番染色体上にマッピングされた。昆虫抵抗性に関連するアシル糖産生に関与する領域は、位置43250794bpから43259933bpの間に位置することが決定された。マーカーM5は、産生されるアシル糖の量(Table 1(表1))と100%関連している。参照ゲノムSL2.40とin silico予測解析(ITAG 2.3)に基づいて、1つの遺伝子Solyc06g075510.2は、APETALA2エチレン応答性転写因子(AP2e)をコードする詳細マップされた領域に位置する。
【0041】
更に、アシル糖の種類が、トマト植物にコナジラミ抵抗性を付与するために極めて重要である。AP2e遺伝子を含み、アシル糖を産生する植物は、必ずしもコナジラミに対して抵抗性を示さないことが観察された。感受性植物と抵抗性植物のアシル糖プロフィールを比較すると、昆虫抵抗性が改善された植物は、ほとんどがトリアシルスクロース(S3)を蓄積する感受性植物と比較して、高レベルのテトラアシル(S4)スクロースC29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)に関連していると結論づけられた。マーカーM8はアシル糖の種類と100%関連しており(Table 1(表1))、1番染色体上に1つの特異的な配列がマップされ、この配列はアシルトランスフェラーゼのBAHDファミリーのメンバー、より具体的にはアセチルCoA依存性アシルトランスフェラーゼ酵素SlAT2をコードしており、アシルスクロースをアセチル化することができ、C29H48O15(S4:C17)及びC36H62O15(S4:C24)の産生に関与している。
【0042】
機能的SlAT2遺伝子の塩基配列を決定した結果、プロモーター領域を含むゲノム配列(配列番号1)が得られた。配列番号1、すなわちAP2eと組み合わせた機能的SlAT2を含む植物は、配列番号1を含まない植物と比較して、S4/S3比が増加し、コナジラミに対して高い抵抗性を有し、これらの植物は、コナジラミに対する感受性をもたらすS4糖を産生することができない。配列番号1は、本発明のコナジラミ抵抗性植物のプロモーター領域を含むSlAT2遺伝子を含むゲノム配列を示す。配列番号2は、配列番号3のSlAT2タンパク質をコードする、本発明の植物のSlAT2のコード配列を示す。配列番号4は、本発明のコナジラミ抵抗性植物のプロモーター領域を含むAP2e遺伝子のゲノム配列を示す。配列番号5は、配列番号6のAP2eタンパク質をコードする、本発明の植物のAP2eのコード配列を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
AP2e遺伝子と組み合わせたSlAT2は、C29H48O15(S4:C17アシルスクロース)及び/又はC36H62O15(S4:C24アシルスクロース)のような特定のタイプのアシル糖の産生を特異的に促進及び制御し、より一般的にはテトラアシル化(S4)糖とトリアシル化(S3)糖の比率を増加させることが判明した。AP2e(マーカーM5)+SlAT2(マーカーM8)の組合せは、コナジラミ抵抗性に必要なS4:C17及びS4:C24アシルスクロースレベルを増加させる。M5及びM8マーカーを用いて、AP2e遺伝子の存在及びSlAT2遺伝子の有無、ホモ/ヘテロ接合体について、いくつかのトマト植物を選抜した。植物体あたりの総アシル糖含量(グラム植物新鮮質量(gFW)あたりのμg)を決定し、並びに具体的には特異的アシル糖C29H48O15(S4:C17アシルスクロース)及びC36H62O15(S4:C24アシルスクロース)の存在、テトラアシル化(S4)スクロースとトリアシル化(S3)スクロースの比率、及びコナジラミに対する抵抗性を決定した。SlAT2の遺伝子型は、S4:C17及びS4:C24アシルスクロースの産生並びにS4/S3比の増加と共分離し、コナジラミ抵抗性レベルと関連している、Table 2(表2)参照。
【0045】
【表2】
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
【配列表】
2024510728000001.app
【国際調査報告】