(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】組織処理方法及び組織処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
G01N1/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555166
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2022056261
(87)【国際公開番号】W WO2022189594
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】102021105932.1
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500113648
【氏名又は名称】ライカ ビオズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】ホーペルマン、ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】アフマド、ハニザー
(72)【発明者】
【氏名】ウルブリッヒ、ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ティーレ、ヘンドリック
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AD32
2G052AD52
2G052FA09
2G052FA10
2G052JA08
(57)【要約】
【課題】各工程間の移行を適切に可能にすること。
【解決手段】少なくとも1つの生物組織(105)の組織処理方法。該方法は、少なくとも1つの液(110、120、130、140)を用いた少なくとも1つの組織の処理、少なくとも1つの液(110、120、130、140)における濃度変化率の測定、及び、測定された濃度変化率に依存する処置の実行を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生物組織(105)の組織処理方法であって、
少なくとも1つの液(110、120、130、140)を用いた少なくとも1つの組織の処理、
前記少なくとも1つの液(110、120、130、140)における濃度変化率の測定、及び、
測定された濃度変化率に依存しての処置の実行
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記処理は、前記少なくとも1つの組織(105)の少なくとも部分的な着色を含むこと
を特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記少なくとも1つの組織(105)の処理は、順次、以下の工程:
少なくとも1つの固定液(110)を用いた前記少なくとも1つの組織(105)の固定、その際、前記少なくとも1つの組織(105)は硬化される、
極性非水性の交換溶媒(120)を用いた液交換、その際、水は前記少なくとも1つの組織(105)から排除され、前記交換溶媒(120)によって置換される、
とりわけ前記交換溶媒(120)よりも極性がより小さい有機溶媒を含む清澄液(130)を用いた清澄化、その際、前記少なくとも1つの組織(105)中の前記交換溶媒(120)は前記清澄液(130)によって置換される、及び、
含浸剤(140)を用いた前記少なくとも1つの組織(105)の含浸、その際、前記少なくとも1つの組織(105)中の前記清澄液(130)は前記含浸剤(140)によって置換される、
の1つ又は2つ以上を目的に適うよう定められた順序で含むこと、
前記固定液(110)及び/又は前記交換溶媒(120)及び/又は前記清澄液(130)及び/又は前記含浸剤(140)中における濃度変化率の測定は、夫々の使用中に実行されること、及び、
測定された濃度変化率の少なくとも1つに依存して少なくとも1つの処置が実行されること
を特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の方法において、
前記処置は、濃度変化率が予め設定可能な閾値を下回る場合における、当該方法工程中に濃度変化率が測定された夫々の方法工程の終了、及び、夫々次の方法工程への移行を含むこと
を特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の方法において、
前記方法は、更に、
液中における、とりわけ請求項3を引用する場合における前記固定液(110)及び/又は前記交換溶媒(120)及び/又は前記清澄液(130)及び/又は前記含浸剤(140)中における、少なくとも1つの絶対濃度の測定、及び、
測定された絶対濃度が予め設定可能な閾値に達した場合における、夫々の液(110、120、130、140)の交換の実行
を含むこと
を特徴とする、方法。
【請求項6】
組織処理装置であって、
前記組織処理装置(100)は、
前記組織処理装置(100)において使用される液(110、120、130、140)中の濃度及び/又は濃度変化率を測定するよう構成された少なくとも1つのセンサ(107)、及び、
前記組織処理装置(100)を請求項1~5の何れかに記載の方法を実行するよう構成する手段
を備えること
を特徴とする、組織処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の組織処理装置において、
前記センサ(107)は、液(110、120、130、140)中の音速及び/又は液(110、120、130、140)の音響インピーダンス及び/又は液(110、120、130、140)の温度及び/又は液(110、120、130、140)の化学的及び/又は電気化学的及び/又は電気的挙動及び/又は液(110、120、130、140)の光学特性に基づいて、濃度及び/又は濃度変化率を測定するよう、構成されていること
を特徴とする、組織処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの生物組織の組織処理方法及びそのために使用可能な組織処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
組織処理装置は、例えば病理学的検査の実行が望まれる生物組織をこの検査のために調製するために使用されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE 10 2009 038 481 A1
【特許文献2】DE 10 2008 054 071 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、その種の処理装置はDE 10 2009 038 481 A1又はDE 10 2008 054 071 A1に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に応じ、独立請求項の特徴を有する組織処理方法及び組織処理装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
有利な形態は従属請求項並びに以下の説明の対象である。
【0007】
詳細には、少なくとも1つの生物組織の本発明による組織処理方法は、少なくとも1つの液(流体)を使用して少なくとも1つの組織を処理すること、少なくとも1つの液中の濃度変化率(変化速度)を測定する(求めるないし決定する)こと、及び、測定された濃度変化率に依存して(応じて)処置を実行すること、を含む。かくして、それぞれの処理工程の適切な終了を決定すること(濃度変化率が減少するにつれて、組織の化学的変化は一層少なくなる)、及び、相応の処置を実行する(開始する)ことができる。たとえば、その処置として、その処理工程の終了を表示するために信号を出力することができ、又は、後続の処理工程を自動的に開始することができる。
【0008】
とりわけ、処理は、少なくとも1つの組織を少なくとも部分的に着色(染色)することを含むことができる。そのため、過剰な着色を回避することができ、これにより、検査されるべき組織特徴の検出性(識別性)にプラスの効果がもたらされる。
【0009】
代替的に又は付加的に、少なくとも1つの組織の処理は、順次、以下の工程:少なくとも1つの固定液を用いて少なくとも1つの組織を固定すること、その際、少なくとも1つの組織は硬化される、極性非水性の交換溶媒を用いて液交換すること、その際、水は少なくとも1つの組織から排除され、交換溶媒によって置換される、とりわけ交換溶媒よりも極性がより小さい有機溶媒を含む清澄液を用いて清澄(化)すること、その際、少なくとも1つの組織中の交換溶媒は清澄液によって置換される、及び、含浸剤を用いて少なくとも1つの組織を含浸すること、その際、少なくとも1つの組織中の清澄液は含浸剤によって置換される、の1つ又は2つ以上を、目的に適うよう定められた順序で、含み、固定液及び/又は交換溶媒及び/又は清澄液及び/又は含浸剤中における濃度変化率の測定は、夫々の使用中に実行され、及び、測定された濃度変化率(複数)の少なくとも1つに依存して少なくとも1つの処置が実行されることができる。これにより、組織試料(複数)において、サイズ、形状又はその他の特性に依存することなく、一定の調製品質を達成することが可能になる。また、これにより、組織へのそれぞれの液の過剰な又は不十分な侵入は確実に回避される。
【0010】
処置は、とりわけ、濃度変化率が予め設定可能な閾値を下回る場合において、当該方法工程中に濃度変化率が測定された夫々の方法工程を終了すること、及び、夫々次の方法工程へ移行することを含むことができる。これにより、試料調製の大幅な自動化が可能になる。
【0011】
例えば、濃度変化率の閾値は、[それぞれの種の絶対濃度に関し、]20、10、5、又は2%/分未満とすることができる。このように小さな変化率の場合、組織処理の全体的な品質への重大な影響は最早予期することはできない。代替的に又は付加的に、閾値は、試料サイズが可変でも(異なっても)一定の処理条件を保証するために、少なくとも1つの組織のサイズ、質量又は体積に依存して(基づいて)決定されることができる。また、要求が高い場合には小さい閾値が選択され、品質に対する要求がより低い場合にはより大きい閾値(およびこれに伴ってより短い処理時間)が選択されるよう、品質に対する要求を加えることも有利に可能である。なお、観察される濃度変化は典型的には指数関数に従うため、閾値を倍増(二倍化)しても通常は処理時間は半減しない(半分にならない)ことに注意すべきである。
【0012】
有利な実施形態(複数)では、本方法は、更に、液中において、とりわけ固定液及び/又は交換溶媒及び/又は清澄液及び/又は含浸剤中において、少なくとも1つの絶対濃度を測定すること、及び、測定された絶対濃度が予め設定可能な閾値に達した場合に、夫々の液の交換を実行(開始)することを含む。これによって、1つ又は2つ以上の流体の最小品質を確保することができ、そのため、本方法は、品質低下を受忍することなく、液の利用に関して経済的に最適化されることができる。
【0013】
ここで強調すべきは、上記の処理工程(複数)のそれぞれが本質的に同様の複数の個別工程を含むこともできることである。例えば、液交換は、それぞれの交換溶媒中の複数の、例えば2、3、4、5又は6以上の順次的な(に配置された)浴によって行われることができる。同様のことが上記の他の処理工程にも当てはまる。
【0014】
典型的には、固定液は、水溶液中に1~4%のホルムアルデヒドを含有し、自家重合に対抗するために0.5~2%のメタノールで安定化されている。更に、固定液は、リン酸塩緩衝液(例えば、リン酸二水素カリウム及び/又はリン酸水素二ナトリウム二水和物1~12g/1000mL)を含有することができる。
【0015】
交換溶媒は、典型的には、アルコール含有量が10~99.9%である単純アルコール(例えばエタノール及び/又はイソプロパノール)と水の混合物を含有する。液ないし媒体交換中、通常は、脂質とりわけ脂肪およびスフィンゴ脂質(とりわけセラミド)及びリポタンパク質が組織から溶出される。とりわけ最初の液交換工程の終わり頃には、これらの物質は交換溶媒の1~15%の合計割合になり得る。
【0016】
清澄液は、典型的には、キシレン及び/又は他の芳香族炭化水素(例えばトルエン)及び単純アルコール(交換溶媒にも含有されている1つ又は2つ以上のアルコール)を含有し、清澄液中の芳香族種の割合は10~99.9%である。
【0017】
含浸剤としては、通常、清澄液に含有される芳香物質を含有し得る組織学的パラフィンが使用され、含浸剤中のパラフィンの割合は70~99.9%である。
【0018】
濃度及び割合についての全ての情報(ないしデータ)は夫々検討される混合物の体積に関するものである。典型的には、これらの濃度は、単一の処理工程の複数の浴から後続の浴(複数)へ進むにつれて増大し得る。
【0019】
本発明による組織処理装置は、組織処理装置で使用される液の濃度及び/又は濃度変化率を測定するよう構成(適合化)された少なくとも1つのセンサと、組織処理装置を上記の方法を実行するよう構成する手段とを含む。そのため、組織処理装置は、対応する方法について説明した利点(複数)から目的に適うよう相応に利益を受け、及び、その逆もまた同様である。
【0020】
センサは、液中の音速及び/又は液の音響インピーダンス及び/又は液の温度及び/又は液の化学的及び/又は電気化学的及び/又は電気的挙動及び/又は液の光学特性に基づいて濃度及び/又は濃度変化率を測定するよう、構成されることが好ましい。これらは、液の濃度又はその変化率について正確な結論を引き出すことができる格別に適切なパラメータである。
【0021】
本発明の更なる利点および実施形態は明細書及び添付の図面から明らかになる。
【0022】
上記の特徴および以下において更に説明されるべき特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれの場合に示される組み合わせだけでなく、他の組み合わせ又は単独でも使用可能であることは理解される。
【0023】
本発明は、一実施例を用いて図面において模式的に示されており、以下において図面を参照して説明される。ここで、繰り返しを避けるために、装置の構成要素を参照する図面参照符号は、当該装置において実行される方法工程を参照するためにも使用され、及び、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の組織処理装置の一例の有利な一形態の模式図。
【
図2】本発明の枠内において液中で起こり得るような典型的な濃度推移(曲線)の例。
【実施例】
【0025】
図1には、本発明による組織処理装置の一例の有利な一形態が模式的に示されており、全体として符号100で示されている。
【0026】
組織処理装置100は、1つ以上の生物組織又は試料105を受容し及び少なくとも1つの有機的液(流体)で充填するために適合化されかつ構成された少なくとも1つのレトルト(容器)103を含む。とりわけ、レトルトは、ステンレス鋼、アルミニウム及び他の金属、ポリエチルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)及びその他の適切なプラスチックおよびガラスからなる群からの1つ又は複数の材料を含むことができる。
【0027】
更に、組織処理装置100は、濃度及び/又は濃度変化率、及び/又は、濃度ないし濃度変化率を測定するために使用可能な他のパラメータを測定するよう構成されたセンサ107を有する。この目的のために、センサ107は、当該センサ107がレトルト103の内容に関して1つ又は2つ以上のそれぞれのパラメータを検出できるように、配置されている。例えば、センサ107は、レトルト103の壁に配置されること、又は、レトルト103の内部空間内へ突設されることができる。
【0028】
例えば、センサは、試験されるべき液の音速及び/又はインピーダンスを検出する装置とすることができる。これらのパラメータは、母液(Matrixfluessigkeit)内における種々の化学種の濃度によって変化し、非常に正確に測定可能である。尤も、他のタイプのセンサもセンサ107として使用可能であり、とりわけ濃度測定を可能にするセンサ(例えばpH電極、分光計等)が使用可能である。
【0029】
このように測定されたパラメータから、組織処理装置の計算ユニット150は、レトルト内の濃度ないし濃度変化率を決定する(求める)ことができる。濃度ないし濃度変化率の決定(計算)は、幾つかの実施形態では、センサ107において完全に(完結的に)実行することも可能であり、例えば、例えば集積回路、マイクロプロセッサ又はその他のデータ処理のために好適な装置の形で提供可能なセンサの専用計算ユニットを用いて実行可能である。
【0030】
濃度変化率は、絶対濃度を求め(測定し)、その時間的変化(推移)の評価と関連付けることによっても求める(決定する)ことができる。そのために、例えば、適切にフィルタ処理及び/又は平滑化処理された時間的濃度変化(濃度の時間変化)の導関数を形成することができる。実際の濃度を求める(測定する)ことなく濃度変化率を評価する(決定する)ことも可能であり得る。なぜなら、このために原理的には、センサ107によって生成されるセンサ信号の生データ推移(変化)も考慮できるからである。センサ信号が一定であれば、その基礎となる濃度も一定であるため、その変化率はゼロに等しい。これに対し、センサ信号の変化率が大きい場合、濃度変化率も大きいと推定(判断)することができる。
【0031】
レトルト103の内部の局所的な濃度の差異は、センサ107の測定値の変動を回避するために、例えば撹拌機(不図示)を用いて適切に完全に混合することによってなくすことができる。
【0032】
組織の界面での(受動的)試薬交換を促進するために、レトルト103、従って、投入された液は加熱することができる。これは、ブラウン分子運動を強化し、それによって、最終的に組織105への侵入を規定する対応する拡散速度を増大する。
【0033】
図2には、本発明の枠内において液中で生じ得るような典型的な濃度変化(複数)が、濃度-時間グラフの形で単純化されて示されかつc(A)及びc(B)が付記されている。この場合、横軸は時間軸を形成し、縦軸にはそれぞれの濃度が表示されている。両濃度曲線c(A)及びc(B)の互いに対する位置及びスケーリングは、単に説明を目的としたものであり、関係する種のそれぞれの絶対濃度又は相対濃度について結論を導き出す(決定する)ことを許すものではないことを明確に留意すべきである。とりわけ、軸交点は各軸のゼロ値と一致する必要はないことに留意すべきである。これに対し、両方の濃度推移c(A)及びc(B)の内部の相対的変化は正しく示されている:種Aは、関係する液に含有されかつ処理される組織内へ導入され、かくして、夫々の方法工程の進行中、平衡が確立されるまで、液の内部におけるその濃度が減少する要素(成分)である。他方、種Bは、組織105の内部に存在するか又は形成され、かつ、夫々の方法工程中に組織から液中へ移行し、そのため、液中におけるその濃度が方法工程中に、組織105及び液中の濃度がほぼ等しくなるか又は平衡が確立されるまで、増大し続ける化合物である。濃度変化c(A)およびc(B)の両方において漸近的な変化(推移)が得られる。なぜなら、濃度変化の駆動力、即ち組織105とその周囲の液との間の濃度差は時間の経過とともに減少するからである。問題の濃度差が小さくなればなるほど、濃度差を減少させる対応する正味の拡散速度も一層小さくなり、その結果、それぞれの濃度曲線c(A)、c(B)の傾きが減少する。
【0034】
組織処理装置ないし組織処理装置100において具現化(実行)可能な本発明の一方法の有利な一形態の運転時、組織試料105は、液(流体)の形での複数の異なる処理媒体110、120、130、140に順次的に曝されるが、図示の例では、まず、組織を硬化するために役立つ固定液110が適用される。例えば、そのために、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、他のアルデヒド、アセトン又はアルコール性固定剤及びそれらの溶液及び/又は混合物が使用可能である。通常は、このために、3.7%ホルマリン溶液(リン酸塩で中性pHに緩衝された3.7%ホルムアルデヒド水溶液)が使用される。この場合、固定液110を同じ試料105に1回又は複数回適用することが可能である。組織がこの固定液、例えば上記のホルマリン溶液中に導入されると、溶液のホルムアルデヒド濃度は始めのうちは時間の経過とともに減少する。なぜなら、組織は固定液を吸収、消費するからである(タンパク質の架橋)。そのような濃度の減少c(A)は、上述のように、
図2に模式的に示されている。
【0035】
固定110の後に、交換溶媒120による液交換の1つ又は複数の工程が続く。このために、組織試料105は交換溶媒中に浸漬され(又は固定液がレトルトから除去されかつ交換溶媒がレトルトに導入され)、その結果、交換溶媒120は試料105を完全に覆う。これにより、場合によってはなおも存在する水が試料105から排除され、脂肪が溶解され、固定液110の残留物が洗い流される。従って、交換溶媒120の主成分の濃度は上記の濃度曲線c(A)と同様に減少し、他方、交換溶媒120中における組織105から溶解ないし排出される種(脂肪、水、固定液110)の濃度は、
図2に示す濃度曲線c(B)に従って増大する。交換溶媒としては、とりわけ、エタノール、メタノール、イソプロパノール及び他の脂肪族及び非脂肪族アルコール並びにそれらの混合物が、例えば70%エタノールが、考慮される。重要なことは、使用される交換溶媒120と水との混和性ないしは使用される交換溶媒120中における水の比較的大きい溶解性である。液交換もまた、複数の工程、例えば2つ、3つ、4つ、5つの又は10もしくは20までの工程で実行可能であるが、コストを削減し、それにも拘らず高品質な加工を達成するために、より前の工程におけるよりもより後の工程においてより高純度の交換溶媒120を使用することが好ましい。とりわけ、液交換の最終工程の交換溶媒120は無水とすることができる。
【0036】
一実用例:予めホルマリン溶液110(水96.3vol%)に浸漬されていた組織105が第2工程において例えば70%エタノール120中に配される。ここで、組織105の水は周囲のエタノール120と交換される。これにより、組織105の周囲の交換溶媒120中のエタノール濃度(c(A))は減少する。これは若干の時間t[s]後には更には減少しない。組織105は、その際、交換溶媒120と実質的に同一のエタノール濃度を有する。センサ107は、上で説明したように、この実質的に漸近的な濃度減少c(A)を検出する。交換溶媒120の濃度が安定したとき、例えばレトルト103からポンプで汲み上げられるかないしは交換される。
【0037】
例えばエタノール120中に配された組織105も、時間の経過とともに、逆に、試薬中に物質を、例えば脂肪及び特定のタンパク質を放出する。これらの放出された成分の物質量(
図2の濃度曲線c(B))が更には増加しなくなると、ある時間t[s]後に完全な組織浸潤が生じていると推察することができる。センサはその際この量の増加を監視し、本(反応)系は引き続き次のプロセス(処理)工程を開始できる。これはとりわけ液交換の最初の工程で良好に検出されることができる。なぜなら、これらの物質はその後量的に(相当量)溶出され、それに応じてこれらの物質の濃度変化は最早期待できないからである。
【0038】
図示の例では、[交換溶媒]120との液交換後、組織105の清澄化(Klaeren)が行われるが、その際、組織105の内部の交換溶媒120を置換する清澄液130が使用される。清澄液としては、とりわけ、イソプロパノール、クロロホルム、キシレン、トルエン及び他の芳香族炭化水素化合物並びにそれらの混合物及び非水性溶液を使用することができる。この場合もまた、使用される交換溶媒120の清澄液130における混和性ないし溶解性(溶解度)が重要である。清澄化の場合にも複数の工程、例えば2、3、4又は5以上の工程が可能であり、この場合、清澄化の複数の異なる工程は(同一性、純度及び/又は混合比の観点から)それぞれ異なる清澄液130を用いて実行されることができる。とりわけ、清澄化の早期の工程(複数)では比較的高い極性を有する清澄液130を、清澄化のより後の工程ではより低い極性を有する清澄液を使用することができる。これにより、夫々、従前の又はその後に使用される液とのより良い混和性が得られる。
【0039】
次に、含浸剤140による組織105の含浸が行われる。とりわけ、含浸剤としては、種々の分岐型及び/又は非分岐型アルカンと適切な添加剤との混合物を使用することができる。この場合、組織105及び冷却された含浸剤140の複合体の薄切片化を可能にするために、20℃未満及び-70℃超の温度で、とりわけ-20℃超の温度でも、十分な強度(安定性)を有する固体を形成する含浸剤は格別に好ましい。
【0040】
そのような方法の本発明による一形態では、上記の工程(複数)の少なくとも1つにおいて、対応する液110、120、130、140の濃度変化率が求められる(測定される)。このために、センサ107が使用される。例えば、液交換中に、それぞれの交換溶媒120中の水の濃度変化を求める(測定する)ことができる。この濃度変化率は、
図2を参照して既に説明したように、平衡濃度が確立されるまで各工程の過程で自然に減少する。平衡濃度の確立後は、更なる濃度変化は最早期待できず、そのため、濃度変化率(
図2の各濃度曲線c(A)、c(B)の傾き)はゼロに低下する。従って、濃度変化率は(ある)プロセス工程の事実上の終了を検出するために使用することができる。変化率がとりわけゼロの近くにあり得る予め設定された閾値を下回る場合、それぞれの工程は終了したと見なすことができる。そして、好ましくは、組織処理装置の使用者にその都度次の工程を開始することを促す信号が出力されるか、又は、例えばレトルト103内に現に存在する液を次の工程に使用される別の液と交換することによって、次の工程が自動的に開始される。
【0041】
実用上、濃度変化率は(例えば商又は差を取ることによって)現に求めた測定値とその直前に求めた測定値とを比較するようにして、求めることも可能である。比較結果に応じて、濃度変化率のための閾値が到達されたとみなすことができる。例えば、1からの小さな距離を有する(1に近い)商又は0からの小さな距離を有する(0に近い)対応する差は、相応の指標として使用することができる。
【0042】
これに関連していえば、すべての工程が同じレトルト103において実行されることが可能であり、そのため、例えば、先の液の除去及び後の液の充填のためにレトルトに夫々流出口及び流入口を設けることができる。そのような形態(複数)では、処理された組織105の操作は必要ではなく、そのため、組織105への損傷のリスクは最小限に抑えられる。代替的形態(複数)では、複数の工程の各々が夫々の専用のレトルト103で実行されることができ、そのような形態(複数)では、例えば、組織105を受容するためにケージを使用することができるが、ケージは、組織105とそれぞれの液とを接触させるために、その都度夫々のレトルト103へもたらされることができる。
【0043】
濃度ないしその変化率の監視(モニタリング)は、一般的に、夫々の液中に存在するすべての化合物、例えば、液中に溶解又は懸濁しているガス、夫々の液の主成分及び/又は組織105から液中に移動した物質に関係し得る。
【0044】
いずれにせよ、濃度変化率がゼロに傾く(近づく)場合、それぞれのプロセス工程の終了を推定(予期)できるため、絶対濃度の求め(測定)は必要ない。このことは、すでに説明したように、著しくより単純なデータ処理の利点をもたらす。なぜなら、場合によっては、夫々の液及び分析されるべき化合物に対するセンサ107の較正は行わないことが可能であり、センサ信号のそれぞれの濃度への換算(変換)不要になるからである。濃度変化率の評価のためには、その都度、生信号の考慮だけで十分である。いずれにせよ、その都度予期されるべき絶対的濃度変化を考慮するためには、複数の異なるプロセス工程について種々の閾値(複数)が必要となる。例えば、液交換の第1工程では、その最後の工程における場合よりも、顕著により大きい濃度変化率を見込むことができる。なぜなら、液交換の終わり頃には、試料の内部に既にほぼ純粋な交換溶媒120が存在しており、従って、組織105と交換溶媒120との間の濃度差は比較的小さいからである。
【0045】
濃度変化率のこの監視は前に説明した方法工程(複数)の各々に適用可能であり、そのため、全体的に組織処理の大幅な自動化が可能になる。従来、試料サイズが種々異なると必要となる処理時間も夫々非常に異なり、これらは経験的に求め(決定し)なければならないという問題がある。本発明の枠内において、濃度変化率を監視することによって、その都度最適な処理時間が自動的に得られ、かくして、同じ処理品質が保証される。
【0046】
典型的には、プロセスの進行に関し濃度変化率から信頼性のある予測を導き出すことができるためには、組織の体積対使用される液の体積の比率が1:1~1:50の範囲を離れるべきではないであろう。組織体積が液体積に比べて小さすぎる場合、濃度変化率は十分な精度で検出されないことがあり得る。
【0047】
冒頭で述べたように、濃度変化率のこの種の監視は、生物組織105の他の処理を制御するためにも使用可能である。例えば、特定の組織部分の着色は、着色溶液中の着色物質濃度の監視によって、監視及び制御可能である。なぜなら、この場合も、濃度変化率は減少し続けるからである。
【0048】
更に、夫々のプロセス工程の具体的形態に依存することなく(から独立に)、(1つの)プロセス工程で使用(消費)される物質についての溶液ないし液からの減少(枯渇)は、それぞれのプロセス工程の開始時の変化率が予め設定可能な閾値よりも小さいということによって、確認(判断)することができる。とりわけ、ある液の過度に小さい濃度を表す閾値は、処理される組織105の試料サイズに依存することがあり得る。なぜなら、試料サイズが小さい場合、小さい濃度変化率を予期できるからである。プロセス工程の終了を決定するために使用される閾値にも同様のことが妥当し得る。従って、プロセス工程の開始時に濃度変化率が予め設定可能な閾値を下回ることは、例えば、関係する液の交換を実行させるか又はその誘因をもたらし得る。
【0049】
ここで強調すべきことは、特徴(複数)及びそれらのそれぞれの利点は、本発明の範囲を逸脱することなく、示された組み合わせだけでなく、他の組み合わせ及び場合により単独の状態でも実現可能であることである。
【0050】
【国際調査報告】