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特表2024-510741カチオン性ポリビニルアルコール変性ポリマー粒子を含有する水性分散体及び該分散体を含有する水性電着コーティング材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】カチオン性ポリビニルアルコール変性ポリマー粒子を含有する水性分散体及び該分散体を含有する水性電着コーティング材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20240304BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 129/14 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20240304BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20240304BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C08G59/18
C09D5/00 Z
C09D163/00
C09D129/04
C09D129/14
C09D5/44
C08G18/62 012
C08G59/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555560
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2022053880
(87)【国際公開番号】W WO2022189111
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21161745.1
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】レセル,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】フランメ,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ジェッテマイアー,ヤニネ
(72)【発明者】
【氏名】ベンニンク,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ウルバン,ノエル
(72)【発明者】
【氏名】ゴイティンク,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プルツィビラ,ジルケ
【テーマコード(参考)】
4J034
4J036
4J038
【Fターム(参考)】
4J034DA01
4J034DB03
4J034DK02
4J034DP17
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA02
4J034RA07
4J036AA05
4J036CA03
4J036CA13
4J036CB05
4J036CB20
4J036CD01
4J036DA10
4J036DC18
4J036DC26
4J036FB06
4J036JA04
4J038CE021
4J038CE061
4J038DB001
4J038DG262
4J038GA11
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA12
4J038NA17
4J038NA26
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、カチオン性ポリビニルアルコール変性ポリマー粒子を含む水性分散体、前記分散体を含有する水性電着コーティング材料、及び前記水性電着コーティング材料を用いて少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造する方法に関する。水性分散体は、少なくとも1つのポリビニルアルコールポリマー鎖を含む中間体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物と反応させることによって調製することができる。前記水性分散体を含む水性コーティング組成物は、表面粗さ及び付着性及び析出特性に悪影響を及ぼすことなく、膜形成中のレベリング特性の改善及び基材の縁部保護の改善をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)であって、前記水性分散体(AD)が、
a) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
b) 工程(a)で得られた中間体(I1)の前記水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
c) 任意に、前記水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
d) 任意に、工程(c)で得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
によって得られ、
工程a)及び/又は工程b)及び/又は工程c)で少なくとも1つの酸が存在する、水性分散体。
【請求項2】
化合物(C1)が、少なくとも2つのエポキシド基、特に少なくとも3つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-1)を、少なくとも1つのアミン基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-2)と反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つの遊離イソシアネート基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-3)とさらに反応させることによって得られる、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールポリマーが、ビニルアルコールと、好ましくはビニルアセテート、ビニルアセタール、エチレン及び/又はプロピレンから選択される少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーである、請求項1又は2に記載の水性分散体。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールポリマーが、50~99.9モル%、好ましくは60~99.9モル%、より好ましくは70~99モル%、非常に好ましくは80~99モル%のビニルアルコール画分を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールポリマーが、DIN 53015:2018-07に準拠して水中4質量%の濃度で決定して、少なくとも2mPa*s、好ましくは2~60mPa*s、より好ましくは10~60mPa*s、さらにより好ましくは30~50mPa*s、非常に好ましくは45~49mPa*sの20℃における粘度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールポリマーが、70~100モル%、好ましくは70~95モル%、非常に好ましくは86~89モル%の加水分解度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項7】
前記水溶液(C2a-i)が、5~15質量%のポリビニルアルコールポリマー、好ましくは5~10質量%のポリビニルアルコールポリマー、及び85~95質量%、好ましくは90~95質量%の水を、各場合とも水溶液(C2a-i)の総質量に対して含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項8】
少なくとも1つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-1)と、少なくとも1つの芳香族基及び少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-2)とを、少なくとも1つの溶媒S2の存在下で反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基及び少なくとも1つの遊離第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミン(C3-3)とさらに反応させることにより、化合物(C3)が得られる、請求項1から7のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項9】
前記少なくとも1つの酸が、有機酸から、好ましくはカルボン酸から、非常に好ましくは酢酸から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項10】
前記ポリマー粒子が、DIN EN ISO22412:2018-09に準拠して決定して、100~1,000nm、好ましくは100~700nm、より好ましくは100~600nm、非常に好ましくは100~400nmの平均粒径(z平均)を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項11】
前記水性分散体(AD)が、カチオン性ポリマー粒子を15~40質量%、好ましくは20~30質量の総量で、各場合とも水性分散体(AD)の総質量に対して含有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項12】
カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)を調製する方法であって、以下の工程:
(1) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
(2) 工程(1)で得られた中間体(I1)の前記水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
(3) 任意に、前記水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
(4) 任意に、工程(3)の後に得られた前記分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
を含み、
工程(1)及び/又は工程(2)及び/又は工程(3)で少なくとも1つの酸が存在する、方法。
【請求項13】
以下の成分、
(A) 請求項1から11のいずれか一項に記載の少なくとも1つの水性分散体(AD)、又は請求項12に記載の方法により調製された少なくとも1つの水性分散体(AD)、
(B) 水性分散体(AD)に含有されるカチオン性ポリマー粒子とは異なる、少なくとも1つのさらなるバインダーB、
(C) 任意に少なくとも1つの架橋剤(CL)、
(D) 少なくとも1つの顔料、
(E) 任意に少なくとも1つの添加剤、及び
(F) 任意に少なくとも1つの触媒
を含む、水性電着コーティング材料(ECM)。
【請求項14】
少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための方法であって、以下の工程:
(a) 基材を請求項13に記載の水性電着コーティング材料(ECM)と少なくとも部分的に接触させる工程、
(b) 任意に、工程(b)で形成された塗膜を水溶液ですすぐ工程、
(c) 工程(a)の後又は任意の工程(b)の後に形成された塗膜を硬化させる工程、及び
(d) 任意に、少なくとも1つのさらなるコーティング層を適用しそして前記コーティング層を硬化させる工程
を含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって得られた少なくとも部分的にコーティングされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性ポリビニルアルコール変性ポリマー粒子を含む水性分散体、前記分散体を含有する水性電着コーティング材料、及び前記水性電着コーティング材料を用いて少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造する方法に関する。水性分散体は、少なくとも1つのポリビニルアルコールポリマー鎖を含む中間体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物と反応させることによって調製することができる。前記水性分散体を含む水性コーティング組成物は、膜形成中のレベリング特性を改善し、基材の縁部保護を改善し、表面粗さ及び付着性及び析出特性に悪影響を及ぼさない。
【背景技術】
【0002】
自動車部門における通常の要件は、製造に使用される金属構成部品を腐食から保護しなければならないことである。達成されるべき腐食防止に関する要件は非常に厳しく、それは特に、製造業者が長年にわたる錆の穿孔に対する保証を与えることが多いためである。このような腐食防止は通常、構成部品又はその製造に使用される基材を、少なくとも1つの目的に適したコーティング、典型的には電析コーティングでコーティングすることにより達成される。
【0003】
電析プロセスは、アノード又はカソードでよい。典型的には、コーティングされる物品は、カソードとして機能する。電析プロセスは、コーティング樹脂の基材への移行効率が高いこと、そして有機溶媒が使用される場合には、その濃度が低いことから、経済的及び環境的にも有利である。電着被覆組成物及びプロセスの別の利点は、適用されたコーティング組成物が、種々の金属基材上に、形状又は構成に関わらず、統一的且つ連続的な層を形成することである。これは、コーティングを防食コーティングとして自動車の車体などの不規則な表面を有する基材上に適用するときに、特に有利である。金属基材のすべての部分に形成された均一で連続したコーティング層は、最大の防食効果を提供する。
【0004】
電着コーティング浴は、典型的には、イオン安定化を有するエポキシ樹脂などの膜形成材料の水性分散体又はエマルジョンを含む。分散体は、典型的には、水又は水と有機共溶媒との混合物などの連続液体媒体中の1つ以上の微細に分割された固体、液体、又はそれらの組み合わせの2相系である。エマルジョンは、液体媒体、好ましくは水又は水と種々の共溶媒との混合物中の液滴の分散体である。よってエマルジョンは分散体の一種である。
【0005】
自動車用又は工業用用途では、電着被覆組成物は、自己架橋性樹脂を使用するか、又は架橋剤を含めることによって、硬化性組成物となるように配合される。電析の間に、イオン帯電樹脂を含有するコーティング組成物は、帯電させた樹脂を中に分散させた電着コーティング浴中に基材を沈め、次いで基材と反対電荷の極、例えば、ステンレス鋼電極の間に電位を適用することによって、導電性基材上に析出される。帯電したコーティング粒子を導電性基材にめっき又は析出させ、それからコーティングされた基材を加熱してコーティングを硬化させる。
【0006】
好適な自動車用金属には、冷間圧延鋼(「CRS」)、電気亜鉛めっき鋼(「EGS」)、溶融亜鉛めっき鋼(「HDG」)、ガルバニール(galvanneal)(焼鈍した溶融亜鉛めっき鋼)、アルミニウム及びアルミニウム合金、及び他の亜鉛合金被覆金属が含まれる。電着被覆の金属表面への付着性を向上させるため、金属は典型的には、リン酸亜鉛化成コーティングで処理される。
【0007】
カソード電着コーティング組成物に関する継続的な問題は、基材の縁部保護又は縁部被覆率の欠如であった。前記縁部保護は、通常、縁部被覆率と、塗布後に形成される塗膜表面の良好な流動性/レベリング性との妥協である。当該技術分野において、カチオン性エポキシミクロゲルを電着コーティング組成物中に使用して縁部被覆率を改善することは、特にASM(自動車供給金属)市場における高い膜構築(膜厚(film build))の電着コーティングについて知られている。なぜなら、これらミクロゲルの存在は溶融粘度を著しく増加させ、それによって基材の縁部から離れて適用されたコーティング組成物の流動を低減させるからである。しかしながら、この溶融粘度の著しい増加は、基材上に適用されたコーティング組成物の十分なレベリングをもはや提供せず、従ってコーティング表面が粗くなる。
【0008】
当該技術分野において、水溶性ポリビニルアルコールポリマーを水性電着コーティング組成物に添加して縁部保護性を高めることも知られている。この理論に束縛されることを望むものではないが、ポリビニルアルコールポリマーの存在は、析出後の組成物中に存在する無機顔料の凝集をもたらし、それによって縁部も覆う基材に近い高粘性層が形成されると考えられている。しかしながら、前記粘性層によって達成される縁部被覆率は非常に低く、所望の縁部保護を達成するには必ずしも十分ではない。
【0009】
よって有利であるのは、バインダーとして水性電着コーティング材料中に使用することができ、基材の縁部でより高い膜厚をもたらし、ひいては縁部保護の改善につながるポリマー樹脂であろう。同時に、前記バインダーは、適用されたコーティング材料の良好な流動性/レベリング特性を達成するために、コーティング表面で十分な低粘性の溶融層を提供すべきである。しかしながら、縁部保護の改善は、電着コーティング材料の貯蔵安定性又は析出プロセスに悪影響を及ぼしてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の目的は、水性電着コーティング材料に組み込むことができ、より高い電着コーティング材料の膜厚を基材の縁部にもたらし、ひいては縁部被覆率を改善する、ポリマー樹脂を提供することである。さらに、水性電着コーティング材料から得られた硬化層は、十分な表面平滑性と基材への付着性を有するべきである。さらに、水性電着コーティング材料は、高い貯蔵安定性、適切な粒径、濾過性及び電気化学的析出性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、特許請求の範囲に記載の主題によって、及び以下の記述に記載するその主題の好ましい実施形態によって実現される。
【0012】
従って、本発明の第一の主題は、カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)であり、前記水性分散体(AD)は、
a) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
b) 工程(a)で得られた中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
c) 任意に、水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
d) 任意に、工程(c)で得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
によって得られ、
工程a)及び/又は工程b)及び/又は工程c)で少なくとも1つの酸が存在する。
【0013】
上記で特定した水性分散体(AD)は、以下に本発明の水性分散体とも称され、よって本発明の主題である。本発明の水性分散体の好ましい実施形態は、以下の記述から、及び従属請求項から明らかである。
【0014】
従来技術に照らして、当業者にとって意外であり予測できなかったのは、本発明の基礎となる目的が、ポリビニルアルコールポリマーをカチオン性エポキシミクロゲルに共有結合させることによって達成できたことである。カチオン性エポキシミクロゲルに共有結合したポリビニルアルコールポリマーが、顔料に富む層に対する物理的なアンカー機能として作用し、それによってカチオン性ミクロゲルが前記層に固定されて、基材の縁部において高い膜厚をもたらす。さらに、アンカー機能により、形成されたコーティング層の内部にカチオン性ミクロゲルが保持されて、低粘度の溶融層を有する一定の成層がコーティング表面に形成される。前記成層は、良好な流動性及びレベリング特性のために必要なものである。ポリビニルアルコールポリマーで機能化したカチオン性エポキシミクロゲルは、水性分散体として配合することができ、そしてバインダーとして水性電着コーティング組成物に何ら困難なく組み込むことができる。前記機能化したミクロゲルの組み込みは、塗膜及び硬化コーティング層の付着性及び電着コーティング組成物の析出特性に悪影響をもたらさない。
【0015】
本発明のさらなる主題は、カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)を調製する方法であり、前記方法は以下の工程:
(1) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
(2) 工程(1)で得られた中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
(3) 任意に、水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
(4) 任意に、工程(3)の後に得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
を含み、
工程(1)及び/又は工程(2)及び/又は工程(3)で少なくとも1つの酸が存在する。
【0016】
本発明の別の主題は、以下の成分、
(A) 少なくとも1つの本発明の水性分散体(AD)、又は本発明の方法により調製された少なくとも1つの水性分散体(AD)、
(B) 水性分散体(AD)に含有されるカチオン性ポリマー粒子とは異なる、少なくとも1つのさらなるバインダーB、
(C) 少なくとも1つの架橋剤(CL)、
(D) 少なくとも1つの顔料、
(E) 任意に少なくとも1つの添加剤、及び
(F) 任意に少なくとも1つの触媒
を含む水性電着コーティング材料である。
【0017】
本発明のさらに別の主題は、少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造する方法であって、前記方法は以下の工程:
(a) 基材を本発明の水性電着コーティング材料(ECM)と少なくとも部分的に接触させる工程、
(b) 水性電着コーティング材料から塗膜を形成する工程、
(c) 任意に、工程(b)で形成された塗膜を水溶液(b)ですすぐ工程、
(d) 工程(b)又は任意に(c)の後に得られた塗膜を硬化させる工程、及び
(e) 任意に、少なくとも1つのさらなるコーティング層を適用し、そして前記コーティング層を硬化させる工程
を含む。
【0018】
本発明の最後の主題は、本発明の方法によって得られた少なくとも部分的にコーティングされた基材である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ある特定の特徴変数を決定するために、本発明の文脈において用いられる測定方法は、実施例のセクションで見出すことができる。明らかに別段の指示がない限り、これらの測定方法は、それぞれの特徴変数を決定するために用いられる。本発明の文脈において、有効な公定期間の任意の指示なく、公定基準について引例する場合、引例は、黙示的に、出願日に有効である基準の版であり、又はその時点で任意の有効な版がない場合には最新の版である。
【0020】
本発明の文脈において報告するあらゆる膜厚は、乾燥膜厚として理解されるべきである。従ってこれは各場合とも硬化膜の厚さである。よって、コーティング材料が特定の膜厚で適用されると報告する場合、これはコーティング材料が硬化後に記載の膜厚になるように適用されることを意味する。
【0021】
本発明の文脈において明らかにされるあらゆる温度は、基材又はコーティングされた基材が置かれている部屋の周囲温度として理解されるべきである。従って、基材自体が当該温度を有することが要求されるのを意味するものではない。
【0022】
本発明の水性分散体:
本発明の水性分散体は、カチオン性ポリマー粒子を含有し、該粒子中でポリマーは比較的小さな個別の粒子、又は個別のミクロ粒子の形態で存在する。前記ミクロ粒子は、好ましくは少なくとも部分的に分子内架橋している。後者は、粒子内に存在するポリマー構造が、三次元ネットワーク構造を有する典型的な巨視的ネットワークに対応することを意味する。
【0023】
カチオン性ポリマー粒子は、好ましくは、分枝架橋系と巨視的架橋系の間にある構造を表し、従って、ネットワーク構造を有し且つ好適な有機溶媒に可溶である巨大分子の特性と、不溶性の巨視的ネットワークとを組み合わせる。従って、架橋したポリマーの画分は、例えば、水と任意の有機溶媒を除去した後に固体ポリマーを分離し、その後、分子内架橋していないポリマー画分を抽出した後に決定することしかできない。ここで利用される現象は、本来は好適な有機溶媒に可溶であるミクロゲル粒子が、単離後もその内部ネットワーク構造を保持し、そして固体中で巨視的ネットワークのように振る舞うというものである。
【0024】
「水性」という表現は、この文脈では当業者に知られている。これは基本的に、分散媒体として有機溶媒(溶媒とも呼ばれる)を専ら又は主として含むのではなく、分散媒体としてかなりの割合の水を含む系を指す。有機溶媒の最大量に基づいて及び/又は水の量に基づいて定義される水性の特徴の好ましい実施形態を、以下に述べる。
【0025】
水性分散体(AD)は、ポリビニルアルコールポリマー基を含む中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させることにより得られる。水で希釈すると、ブロックされた第一級アミノ基は脱ブロックされ、このようにしてカチオン性ポリマー粒子が得られる。前記カチオン性ポリマー粒子は、水中でのカチオン性粒子の分散を促進するために、少なくとも1つの酸で少なくとも部分的に中和される。
【0026】
中間体(I1)の水性分散体:
ポリビニルアルコールポリマー基を含む中間体(I1)の水性分散体は、(a)ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)を、遊離イソシアネート基及びエポキシ基を含有する化合物(C1)と反応させるか、又は(b)有機溶媒中のポリビニルアルコールポリマーの分散体(C2a-ii)を、化合物(C1)と反応させ、その後、調製した中間体(I1)を水中に分散させることによって、調製することができる(工程(a))。特に好ましくは、中間体(I1)の水性分散体は、代替の(a)によって、すなわちポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)を化合物(C1)と、特に以下に詳細に記載する少なくとも1つの酸の存在下で反応させることによって調製する。これらの中間体(I1)から調製された水性分散体(AD)を水性電着コーティング材料に使用すると、表面粗さが低減され、前記水性電着コーティング材料でコーティングされた基材の縁部被覆率が改善される。
【0027】
好ましい化合物(C1)は、厳密に1つの遊離イソシアネート基及び厳密に2つのエポキシド基を含有する。このような化合物(C1)は、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して300~700g/当量、好ましくは350~650g/当量、より好ましくは400~600g/当量、さらにより好ましくは450~550g/当量、非常に好ましくは500~530g/当量のエポキシ当量(EEW)を有する。
【0028】
水性中間体(I1)の調製に有用な好適な化合物(C1)は、少なくとも2つのエポキシド基、特に少なくとも3つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-1)を、少なくとも1つのアミン基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-2)と反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つの遊離イソシアネート基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-3)とさらに反応させることにより、得ることができる。
【0029】
特に好ましくは、化合物(C1-1)は、プロポキシル化ペンタエリスリトールとエピクロロヒドリンとの反応生成物である。
【0030】
好適なアミン基含有化合物(C1-2)は、第二級アミン、好ましくはC~C10ジアルキルアミン、より好ましくはC~Cジアルキルアミン、非常に好ましくはCジアルキルアミンから選択してよい。
【0031】
少なくとも2つの遊離イソシアネート基を含有する化合物(C1-3)は、好ましくは、脂環式、脂肪族-脂環式、芳香族、脂肪族-芳香族及び/又は脂環式-芳香族ジイソシアネート、記載のジイソシアネートの二量体及び三量体、及びそれらの混合物、好ましくは脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、2,4-又は2,6-ジイソシアナト-1-メチルシクロヘキサン、及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、非常に好ましくはイソホロンジイソシアネートから選択される。
【0032】
化合物(C1-1)、(C1-2)及び(C1-3)は、1:5:5~1:1:1、好ましくは1:3:3~1:1:1、非常に好ましくは1:1:1のモル比で反応させてよい。
【0033】
本発明の文脈において、用語「ポリビニルアルコールポリマー」は、一般式(I)のポリマービルディングブロックを含むランダムコポリマー又はブロックコポリマー、又は一般式(I)のポリマービルディングブロックからなるホモポリマーを指す:
-[-C(R)-C(R)(OH)-]- (I)。
【0034】
ポリビニルアルコールポリマーは本発明によれば有利であり、従って好ましく用いられる。式(I)のポリマービルディングブロックは、先頭から先頭へ又は先頭から末尾へ連結していてもよい。有利には、式(I)のポリマービルディングブロックのかなりの大部分は、先頭から末尾へ連結されている。
【0035】
式(I)中の残基Rは、水素原子、又は置換された又は非置換のアルキル、シクロアルキル、アルキルシクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリール、アルキルアリール、シクロアルキルアリール、アリールアルキル又はアリールシクロアルキル基から選択される。
【0036】
好適なアルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、アミル、ヘキシル、及び2-エチルヘキシルである。好適なシクロアルキル基の例は、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルである。好適なアルキルシクロアルキル基の例は、メチレンシクロヘキサン、エチレンシクロヘキサン、及びプロパン-1,3-ジイルシクロヘキサンである。
【0037】
好適なシクロアルキルアルキル基の例は、2-、3-及び4-メチル-、-エチル-、-プロピル-及び-ブチルシクロヘキシ-1-イルである。好適なアリール基の例は、フェニル、ナフチル、及びビフェニリルである。好適なアルキルアリール基の例は、エチレン-及びプロパン-1,3-ジイル-ベンゼンである。好適なシクロアルキルアリール基の例は、2-、3-及び4-フェニルシクロヘキシ-1-イルである。好適なアリールアルキル基の例は、2-、3-及び4-メチル-、-エチル-、-プロピル-及び-ブチルフェン-1-イルである。好適なアリールシクロアルキル基の例は、2-、3-及び4-シクロヘキシルフェン-1-イルである。
【0038】
上記の基Rは置換されていてよい。この目的のために、電子求引性又は電子供与性の原子又は有機基を使用してよい。好適な置換基の例は、ハロゲン原子、特に塩素又はフッ素、ニトリル基、ニトロ基、部分的又は完全にハロゲン化された、特に塩素化及び/又はフッ素化された、アルキル、シクロアルキル、アルキルシクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリール、アルキルアリール、シクロアルキルアリール、アリールアルキル及びアリールシクロアルキル基であり、上記に例示したもの、特にtert-ブチル、アリールオキシ、アルキルオキシ及びシクロアルキルオキシ基、特にフェノキシ、ナフトキシ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブチルオキシ又はシクロヘキシルオキシ、アリールチオ、アルキルチオ及びシクロアルキルチオ基、特にフェニルチオ、ナフチルチオ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ又はシクロヘキシルチオ、ヒドロキシル基、及び/又は第一級、第二級及び/又は第三級アミノ基、特にアミノ、N-メチルアミノ、N-エチルアミノ、N-プロピルアミノ、N-フェニルアミノ、N-シクロヘキシルアミノ、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N,N-ジプロピルアミノ、N,N-ジフェニルアミノ、N,N-ジシクロヘキシルアミノ、N-シクロヘキシル-N-メチルアミノ又はN-エチル-N-メチルアミノを含む。
【0039】
基Rが主に水素原子を含む場合、すなわち、他の基Rがわずかな程度でしか存在しない場合、本発明によれば有利である。本発明の文脈において、用語「わずかな程度」とは、有利に変化し、ポリビニルアルコールポリマーの性能特性、特に水への溶解性のプロファイルを損なわないか、或いは完全に変化させない程度を意味する。基Rが水素原子のみを含む場合、すなわち、式(I)のポリマービルディングブロックが仮想ポリビニルアルコールから誘導される場合に、特別に有利な結果となる。よってこれらのポリマービルディングブロックを含有するポリビニルアルコールポリマーが、特に好ましく使用される。
【0040】
一般式(I)のポリマービルディングブロックの他に、本発明により使用するためのポリビニルアルコールポリマーは、特に、一般式(II)
-[-C(R)-C(R)(OC(O)R)-] (II)
のポリマービルディングブロックをさらに含む。
【0041】
一般式(II)において、基Rは、残基Rに関連して上記に示したような定義を有し、水素原子がここでも特別に有利であり、従って特に好ましく用いられる。
【0042】
基Rは、1~10個の炭素原子を有するアルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、アミル、ヘキシル、又は2-エチルヘキシルであり、特に好ましくはメチルである。よって一般式(II)の特に好ましいポリマービルディングブロックは、ビニルアセテートから誘導される。ポリマービルディングブロックIIは、先頭から先頭へ又は先頭から末尾へ連結していてもよい。有利には、一般式(II)のポリマービルディングブロックの大部分は、先頭から末尾へ連結している。
【0043】
一般式(I)及び(II)のビルディングブロックを含むポリビニルアルコールポリマーは、本発明内で特に好ましく使用される。
【0044】
ポリビニルアルコールポリマーは、慣用且つ既知のエチレン性不飽和モノマー、例えば以下をさらに含んでよい。
- 酸基を実質的に含まない(メタ)アクリル酸エステル、
- 分子当たり少なくとも1つのヒドロキシル基を持ち、実質的に酸基を含まないモノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸又は他のアルファ、ベータ-オレフィン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルであって、酸でエステル化されたアルキレングリコールから誘導されるか、又はアルファ、ベータ-オレフィン性不飽和カルボン酸とアルキレンオキシドとを反応させることによって得ることができるもの、
- 対応する酸アニオン基に変換可能な少なくとも1つの酸基を1分子中に持つモノマー、
- 分子内に5~18個の炭素原子を有するアルファ-分枝モノカルボン酸のビニルエステル、
- アクリル酸及び/又はメタクリル酸と、1分子当たり5~18個の炭素原子を有するアルファ-分枝モノカルボン酸のグリシジルエステルとの反応生成物、
- 環式及び/又は非環式オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブト-1-エン、ペント-1-エン、ヘクス-1-エン、シクロヘキセン、シクロペンテン、ノルボルネン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン及び/又はジシクロペンタジエン、特にエチレン、
- (メタ)アクリルアミド、
- エポキシド基を含有するモノマー、例えばエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、
- ビニル芳香族炭化水素、
- ニトリル、
- ビニル化合物、特にビニルハライド及び/又はビニリデンジハライド、N-ビニルピロリドン又はビニルエーテル、及び
- アリル化合物、特にアリルエーテル及びアリルエステル。
【0045】
これらモノマーが使用される場合、これらモノマーは、ポリビニルアルコールポリマー中にわずかな程度でしか存在しないが、この用語はここでも上記で説明した意味で使用される。これらモノマーのうち、非環式オレフィン、特にエチレン及びプロピレン、特にエチレンは特別な利点をもたらすので、必要に応じて好ましく使用される。
【0046】
有利には、ポリビニルアルコールポリマーは、100~20,000、好ましくは200~15,000、特に好ましくは300~12,000、及び特に400~10,000の重合度を有する。
【0047】
ポリビニルアルコールポリマー中の一般式(I)のポリマービルディングブロックの量は、有利には50~99.9モル%、より好ましくは60~99.9モル%、さらにより好ましくは70~99モル%、及び非常に好ましくは80~99モル%である。
【0048】
本発明の文脈において、一般式(I)及び(II)の特に有利なポリマービルディングブロックを含むポリビニルアルコールポリマーは、非常に特別な利点をもたらすので、本発明によれば非常に特に好ましく使用される。これらのポリビニルアルコールポリマーは、当業者には略してポリビニルアルコールとも呼ばれる。
【0049】
既知のように、ポリビニルアルコールは直接重合プロセスからは入手できないが、代わりにポリビニルアセテートの加水分解によるポリマー類似反応によって調製される。特に有利な商業的に慣用のポリビニルアルコールは、10,000~500,000Da、好ましくは15,000~320,000Da、及び特に20,0000~300,000Daの分子量を有する。
【0050】
特に好ましくは、ポリビニルアルコールポリマーは、DIN 53015:2018-07に準拠して水中4質量%の濃度で決定して、少なくとも2mPa*s、好ましくは2~60mPa*s、より好ましくは10~60mPa*s、さらにより好ましくは30~50mPa*s、非常に好ましくは45~49mPa*sの20℃における粘度を有する。
【0051】
好ましいポリビニルアルコールポリマーは、70~100モル%、好ましくは70~95モル%、非常に好ましくは86~89モル%の加水分解度を有する。
【0052】
水溶液(C2a-i)は、好ましくは、5~15質量%のポリビニルアルコールポリマー、好ましくは5~10質量%のポリビニルアルコールポリマー、及び85~95質量%、好ましくは90~95質量%の水を、各場合とも水溶液(C2a-i)の総質量に対して含有する。特に好ましくは、水溶液(C2a-i)は、5又は10質量%のポリビニルアルコールポリマー及び90~95質量%の水を、各場合とも水溶液(C2a-i)の総質量に対して含有する。
【0053】
化合物(C1)は、化合物(C2a-i)と1:10~10:1、好ましくは1:10~2:1、非常に好ましくは1:10~1:1の比で反応させてよく、各比は化合物(C1)及び(C2a-i)の固形分含量に対するものである。
【0054】
中間体(I1)の水性分散体が、先に記載した代替の(b)によって調製される場合、分散体(C2a-ii)は、好ましくは、50~60質量%のポリビニルアルコールポリマー及び40~50質量%の少なくとも1つの有機溶媒S1を、各場合とも分散体(C2a-ii)の総質量に対して含有する。
【0055】
この点に関して、好適な有機溶媒S1は、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール、炭化水素及びそれらの混合物、好ましくはケトン、非常に好ましくはメチルイソブチルケトンから選択される。
【0056】
化合物(C1)は、化合物(C2a-ii)と1:20~1:10、好ましくは1:17~1:15の質量比で反応させてよい。
【0057】
化合物(C3):
中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる(工程(b))。特に好ましくは、前記反応中に少なくとも1つの酸が存在する。
【0058】
好適な化合物(C3)は、少なくとも1つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-1)を、少なくとも1つの芳香族基及び少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-2)と、少なくとも1つの溶媒S2の存在下で反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基及び少なくとも1つの遊離第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミン(C3-3)とさらに反応させることによって、得ることができる。
【0059】
好ましい化合物(C3-1)は、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して、100~300g/当量、より好ましくは150~250g/当量、非常に好ましくは170~200g/当量のエポキシ当量(EEW)、及び/又はDIN EN ISO12058-1:2018-11に準拠して決定して、30,000~50,000mPa*s、非常に好ましくは35,000~37,000mPa*sの20℃における粘度を有する。
【0060】
好適な化合物(C3-2)は、少なくとも1つのヒドロキシル基、好ましくは両方のヒドロキシル基が、少なくとも1つの芳香族部位に直接結合している化合物から選択される。特に好ましくは、化合物(C3-2)はビスフェノールAから選択される。
【0061】
化合物(C3-1)及び(C3-2)の間の反応を促進するために、少なくとも1つの触媒を使用することが有利である。特に好ましい触媒は、トリフェニルホスフィンである。
【0062】
化合物(C3-1)及び(C3-2)を反応させて得られた生成物は、好ましくは、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して800~2,000g/当量、より好ましくは900~1,500g/当量、非常に好ましくは980~1,100g/当量のエポキシ当量(EEW)を有する。
【0063】
化合物(C3-1)、(C3-2)及び(C3-3)は、10:6:1~7:4:1のモル比で反応させてよい。
【0064】
化合物(C3-1)と(C3-2)との反応中に存在する少なくとも1つの溶媒S2は、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アルコール、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール及びそれらの混合物、好ましくはアルコール、非常に好ましくはフェノキシプロパノール及び/又はイソブタノールから選択してよい。
【0065】
ポリアミン(C3-3)は、120~130g/当量のアミン当量を有する。アミン当量は、例えば、実施例のセクションに記載のように決定することができる。用語「ポリアミン」は、本発明の文脈において、少なくとも2つの第一級アミン基及び少なくとも1つの第二級アミン基を含む化合物を指す。前記アミン基は、遊離アミン基として存在してよく、又はブロックされた形態で存在してもよい。ブロックされたアミノ基は、既知のように、遊離アミノ基に存在する窒素上の水素残基がブロック剤との反応によって置換されたものである。このようなブロックされたアミノ基は、遊離アミノ基で可能な縮合反応又は付加反応にはもはや関与できない。これらの反応は、ブロック剤を除去して遊離アミノ基を生成した後にのみ可能となる。従って、この原理は、ポリマー化学の分野で同様に知られているキャップされたイソシアネート又はブロックされたイソシアネートの原理に類似している。
【0066】
特に好ましくは、ポリアミン(C3-3)は、ポリアミン(A)を少なくとも1つのブロック剤(BA)と反応させることによって得られる。特に好ましくは、ポリアミンの第一級アミノ基は、それ自体既知の少なくとも1つのブロック剤、例えばケトン及び/又はアルデヒドでブロックされる。第一級アミンをこのようなブロック剤と反応させると、水の放出に伴ってケチミン及び/又はアルジミンが生成する。前記ケチミン及び/又はアルジミンは、もはや如何なる窒素-水素結合も含有せず、これは典型的な縮合反応又はアミノ基とさらなる官能基、例えばイソシアネート基との付加反応が起こらないことを意味する。
【0067】
この種のブロックされた第一級アミン、例として、例えばケチミンを調製するための反応条件は知られている。よって例として、このようなブロッキングは、第一級アミンと、アミンの溶媒として同時に機能する過剰なケトンとの混合物に、熱を導入することにより行ってよい。形成された反応の水は、好ましくは反応中に除去して、可逆的なブロッキングの逆の反応(脱ブロック)が起こる可能性を防ぐ。
ブロックされた第一級アミノ基の脱ブロックのための反応条件も、それ自体既知である。例えば、ブロックされたアミンを水相へ単純に移すことは、水によって加えられる濃度圧力が存在する結果、平衡を脱ブロック側に戻すのに十分であり、それによって、水の消費に伴い遊離第一級アミノ基及び遊離ケトンが生成される。
【0068】
好適なブロック剤(BA)は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン又はそれらの混合物、好ましくはメチルエチルケトン及び/又はメチルイソブチルケトンから選択してよい。好ましいブロック剤はケトンであり、特にこのようなケトンは、化合物(C3-1)及び(C3-2)の反応生成物の溶媒として使用することができる。ケトンでブロックされた対応する第一級アミンの調製が過剰のケトンで特に良好な効果で進行することは、既に上記で示した。従って、ブロック化のためにケトンを使用することにより、ブロックされたアミンに対して対応する好ましい調製手順を使用することが可能であり、コストのかかる不便な残留ブロック剤の除去が必要ない。代わりに、ポリアミン(C3-3)の調製中に得られた溶液は、ポリアミン溶液(C3-3)中に存在する残留ブロック剤(BA)を除去することなく、化合物(C3)の調製に直接使用することができる。
【0069】
さらに、ケトン及び/又はアルデヒド、より具体的にはケトンによる好ましいブロッキング、及びそれに伴うケチミン及び/又はアルジミンの調製は、第一級アミノ基が選択的にブロックされるという利点がある。存在する第二級アミノ基は明らかにブロックされず、従って遊離のままである。その結果、2つのブロックされた第一級アミノ基だけでなく、1つ又は2つの遊離第二級アミノ基も含有するポリアミン(C3-C)を、遊離第二級アミノ基及び第一級アミノ基を含有する対応するポリアミン(A)から、前述の好ましいブロック反応によって容易に調製することができる。
【0070】
ポリアミン(C3-3)は、2つの第一級アミノ基及び少なくとも1つの第二級アミノ基を含有するポリアミン(A)の第一級アミノ基をブロックすることによって調製してよい。最終的に好適なのは、それ自体既知であり、2つの第一級アミノ基及び少なくとも1つの第二級アミノ基を有する、あらゆる脂肪族、芳香族、又は芳香脂肪族(混合脂肪族-芳香族)ポリアミン(A)である。これは、記載のアミノ基だけでなく、脂肪族、芳香族、又は芳香脂肪族基自体が存在してもよいことを意味する。例えば、第二級アミノ基の末端基として位置する一価の基、又は2つのアミノ基の間に位置する二価の基が可能である。本発明の文脈における「脂肪族」という用語は、芳香族ではないあらゆる有機基を指す。例えば、記載のアミノ基と同様に存在する基は、脂肪族炭化水素基、換言すれば、炭素及び水素のみからなり、且つ芳香族ではない基であってもよい。これらの脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝状、又は環状であってよく、飽和又は不飽和であってよい。これらの基は、もちろん、環状及び直鎖状又は分枝状部位の両方を含んでいてよい。脂肪族基がヘテロ原子を含有することも可能であり、より具体的には、エーテル基、エステル基、アミド基及び/又はウレタン基などの架橋基の形態である。可能な芳香族基も同様に知られており、これ以上の説明は必要ない。
【0071】
好ましくは、ポリアミン(C3-3)は3つ又は4つのアミノ基を持ち、これらの基はブロックされた第一級アミノ基からなる及び遊離第二級アミノ基からなる群から選択される。特に好ましいポリアミン(C3-3)は、2つのブロックされた第一級アミノ基、1つの第二級アミノ基、及び脂肪族飽和炭化水素基からなるものである。「ブロックされた第一級アミノ基」という用語は、本発明において、ポリアミン(A)中に存在するあらゆる第一級アミノ基の少なくとも95モル%が、先に挙げたブロック剤(BA)との反応によってブロックされている場合に使用される(IR分光法によって決定可能。実施例のセクション参照)。
【0072】
第一級アミノ基のブロッキングによってポリアミン(C3-3)を調製できる好ましいポリアミン(A)の例は、ジエチレントリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルアミン、ジプロピレン-トリアミン、N1-(2-(4-(2-アミノエチル)ピペラジン-1-イル)エチル)エタン-1,2-ジアミン(1つの第二級アミノ基、ブロッキングのための2つの第一級アミノ基)、トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン(2つの第二級アミノ基、ブロッキングのための2つの第一級アミノ基)及びそれらの混合物であり、非常に好ましくはジエチレントリアミンからである。
【0073】
前述のように、ポリアミン(C3-3)を、化合物(C3-1)及び(C3-2)の反応から得られる生成物(以下、生成物(C3-1/2)と記す)と反応させる。よって化合物(C3)の調製は、生成物(C3-1/2)のエポキシド基とポリアミン(C3-3)の遊離第二級アミノ基との付加反応による、生成物(C3-1/2)とポリアミン(C3-3)との反応を伴う。この反応はそれ自体既知であり、その後、化合物(C3)からのエポキシド基の開環により、ポリアミン(C3-3)がポリマー(C3-1/2)に結合する。よって化合物(C3)の調製において、遊離又はブロックされた第一級又は第二級アミノ基を有する如何なる他のアミンも使用しないのが好ましいことは、容易に明らかであろう。化合物(C3)は、バルク又は溶液中で既知の確立された技術により、特に好ましくは有機溶媒中の(C3-1/2)と(C3-3)との反応により、調製することができる。前記溶媒は、一般的に使用される有機溶媒から、好ましくはイソブタノール及びメチルイソブチルケトンから選択される。
【0074】
水性分散体(AD):
中間体(I1)の水性分散体を化合物(C3)と反応させた後、得られた分散体を水溶液で希釈することができる(工程(c))。前記水溶液は、少なくとも1つの酸及び/又は補助剤、例えば典型的な乳化剤及び保護コロイドを含有することができる。
【0075】
工程(a)及び/又は(b)及び/又は(c)に存在する少なくとも1つの酸は、好ましくは有機酸から選択される。好適な有機酸は、例えば、カルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸である。好ましくは、カルボン酸が使用される。好適なカルボン酸の例には、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸、リンゴ酸、及び酒石酸が含まれる。特に好ましくは、酢酸が工程(a)及び/又は(b)及び/又は(c)で使用される。
【0076】
さらに、水性分散体(AD)中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去することができる。少なくとも1つの有機溶媒の除去は、例として、室温に対してわずかに上昇させた、例えば30~60℃の温度での減圧蒸留など、任意の既知の方法で行ってよい。
【0077】
水性分散体(AD)中に存在するカチオン性ポリマー粒子は、好ましくは、DIN EN ISO22412:2018-09に準拠して決定して、100~1,000nm、より好ましくは100~700nm、さらにより好ましくは100~600nm、非常に好ましくは100~400nmの平均粒径(z平均)を有する。
【0078】
水性分散体(AD)中のカチオン性ポリマー粒子の割合は、好ましくは15~40質量%、非常に好ましくは20~30質量%であり、これは各場合とも水性分散体(AD)の総質量に対するものである。この割合は、例えば、実施例のセクションに記載のように水性分散体(AD)の固形分含量を介して決定することができる。
【0079】
水性分散体中の水の総量は、好ましくは60~85質量%、非常に好ましくは70~80質量%であり、これは各場合とも水性分散体(AD)の総質量に対するものである。
【0080】
水性分散体(AD)中のカチオン性ポリマー粒子及び水の総割合は、好ましくは少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも95質量%、非常に好ましくは少なくとも98質量%であり、これは各場合とも水性分散体の総質量に対するものである。カチオン性ポリマー粒子及び水の割合は、粒子の量(例えば、前述のように固形分含量によって決定される)と水の量を合計することによって決定することができる。有機溶媒などのさらなる成分の割合が低いにもかかわらず、水性分散体(AD)は高い貯蔵安定性を示す。さらに、前記分散体(AD)中に存在する溶媒の量が少ないため、水性電着コーティング材料の全体的なVOCを著しく増加させることなく、電着コーティング材料を配合するのに必要な有機溶媒の追加画分を添加することができる。
【0081】
水性分散体を製造するための本発明の方法
本発明のさらなる側面は、カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)を調製する方法であり、前記方法は以下の工程:
(1) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
(2) 工程(1)で得られた中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
(3) 任意に、水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
(4) 任意に、工程(3)の後に得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
を含み、
工程(1)及び/又は工程(2)及び/又は工程(3)で少なくとも1つの酸が存在する。
【0082】
本発明の方法において使用される化合物及び本発明の方法によって行われる工程の好ましい実施形態に関して、本発明の水性分散体(AD)が参照される。従って本発明の水性分散体について述べてきたことは、本発明の方法のさらなる好ましい実施形態に関しても準用される。
【0083】
本発明の水性電着コーティング組成物:
本発明の水性分散体(AD)は、水性電着コーティング材料の調製に使用される。よって本発明のさらなる側面は、水性電着コーティング材料(ECM)であり、これは以下の成分、
(A) 少なくとも1つの本発明の水性分散体(AD)、又は本発明の方法により調製された少なくとも1つの水性分散体(AD)、
(B) 水性分散体(AD)に含有されるカチオン性ポリマー粒子とは異なる、少なくとも1つのさらなるバインダーB、
(C) 任意に少なくとも1つの架橋剤(CL)、
(D) 少なくとも1つの顔料、
(E) 任意に少なくとも1つの添加剤、及び
(F) 任意に少なくとも1つの触媒
を含む。
【0084】
本発明の文脈における「水性電着コーティング材料(ECM)」とは、好ましくは、電着コーティング材料が、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%の水の割合を、各場合とも存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の総量に対して含むことを意味すると理解されるべきである。水の割合は、好ましくは70~100質量%、より具体的には75~100質量%、非常に好ましくは80~100質量%であり、これは各場合とも存在する溶媒の総量に対するものである。
【0085】
水性分散体(AD):
電着コーティング材料は、好ましくは、前述の水性分散体(AD)を0.5~20質量%、より好ましくは1~15質量%、さらにより好ましくは1.5~10質量%、非常に好ましくは2~4質量%の総量で、各場合とも水性電着コーティング材料(ECM)の総質量に対して含む。
【0086】
水性分散体(AD)中のカチオン性粒子とは異なるバインダーB:
用語「バインダー」とは、本発明の意味において、且つDIN EN ISO4618(ドイツ版、日付:2007年3月)と一致して、好ましくは、膜の形成に関与する本発明の組成物の不揮発性画分を指し(組成物中の任意の顔料及びフィラーを除く)、そしてより具体的には、膜の形成に関与するポリマー樹脂を指す。不揮発性画分は、実施例のセクションに記載の方法によって決定してよい。
【0087】
バインダーBは、自己架橋性及び/又は外部架橋性であってよい。自己架橋性バインダーBは、それ自身及び/又は自己架橋性バインダーB中の相補的な反応性官能基と熱による架橋反応を起こすことができる反応性官能基を含有する。対照的に、外部架橋性バインダーBは、架橋剤CL中の相補的な反応性官能基と熱による架橋反応を起こすことができる反応性官能基を含有する。外部架橋性バインダーBの好適な反応性官能基は、ヒドロキシル基、チオール基、及び第一級及び第二級アミノ基、特にヒドロキシル基である。架橋剤CL、又は自己架橋性バインダーの場合はバインダーBに存在する好適な相補的な反応性官能基は、ブロックされたイソシアネート基、ヒドロキシメチレン基及びアルコキシメチレン基、好ましくはメトキシメチレン基及びブトキシメチレン基、及び特にメトキシメチレン基である。ヒドロキシル基を有する外部架橋性バインダーの使用が好ましい。
【0088】
本発明の電着コーティング材料中の少なくとも1つのバインダーBの量は、特に、水性媒体中のその溶解性及びその分散性、及びそれ自体又は架橋剤CLとの架橋反応に関するその官能性によって導かれ、従って、当業者がその一般的な技術知識に基づいて容易に決定できる。好ましくは、少なくとも1つのバインダーBは、電着コーティング材料(ECM)の固形分含量に対して50~90%質量の総量で存在する。
【0089】
少なくとも1つのバインダーBは、好ましくは、潜在的カチオン性基及び/又はカチオン性基を含有する。中和剤及び/又は四級化剤によってカチオンに変換できる好適な潜在的カチオン性基の例は、第一級、第二級又は第三級アミノ基、第二級スルフィド基又は第三級ホスフィン基、特に第三級アミノ基又は第二級スルフィド基である。好適なカチオン性基の例は、第一級、第二級、第三級又は第四級アンモニウム基、第三級スルホニウム基又は第四級ホスホニウム基、好ましくは第四級アンモニウム基又は第三級スルホニウム基であるが、特に第四級アンモニウム基である。潜在的カチオン性基のための好適な中和剤の例は、無機及び有機酸、例えば硫酸、塩酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸又はクエン酸、特にギ酸、酢酸又は乳酸である。
【0090】
潜在的カチオン性基又はカチオン性基を含有する好適なバインダーBの例は、第一級、第二級、第三級又は第四級アミノ基又はアンモニウム基及び/又は第三級スルホニウム基を含有し、且つ好ましくは20~250mgKOH/gの間のアミン価及び300~10,000ダルトンの質量平均分子量を有する樹脂である。特に、アミノ(メタ)アクリレート樹脂、アミノエポキシ樹脂、末端二重結合を有するアミノエポキシ樹脂、第一級及び/又は第二級ヒドロキシル基を有するアミノエポキシ樹脂、アミノポリウレタン樹脂、アミノ含有ポリブタジエン樹脂又は変性エポキシ樹脂-二酸化炭素-アミン反応生成物を使用する。
【0091】
或いは、バインダーBは、アニオン性基及び/又は潜在的アニオン性基を含んでよい。中和剤によってアニオンに変換できる好適な潜在的アニオン性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基、特にカルボン酸基である。好適なアニオン性基の例は、カルボキシレート基、スルホネート基又はホスホネート基、特にカルボキシレート基である。潜在的アニオン性基のための好適な中和剤の例は、例えば、アンモニア、アンモニウム塩、例えばアンモニウムカーボネート又はアンモニウムヒドロゲンカーボネート、及びアミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリフェニルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどである。
【0092】
中和剤の量は、一般に、バインダーBの潜在的カチオン性基又は潜在的アニオン性基の1~100当量、好ましくは50~90当量が中和されるように選択される。
【0093】
アニオン析出可能な電着被覆材料のための好適なバインダーB1の例は、ドイツ特許出願DE2824418A1から公知である。それらは好ましくは、ポリエステル、エポキシ樹脂エステル、ポリ(メタ)アクリレート、マレエート油又はポリブタジエン油であり、300~10,000ダルトンの質量平均分子量、及び35~300mgKOH/gの酸価を有する。
【0094】
特に好ましい水性コーティング材料(ECM)はカソード析出可能であり、それ故、前述のカチオン性基を有する少なくとも1つのバインダー(B)を含む。
【0095】
任意の架橋剤CL
本発明の水性電着コーティング材料(ECM)は、成分(b)として、少なくとも1つの架橋剤CLを含んでよい。好ましくは、少なくとも1つの外部架橋性バインダーBを、少なくとも1つの架橋剤CLと組み合わせて使用する。特に好ましくは、潜在的カチオン性基又はカチオン性基を含有する少なくとも1つの外部架橋性バインダーBを、少なくとも1つの架橋剤CLと組み合わせて使用する。
【0096】
好適な架橋剤CLには、好適な相補的な反応性官能基を含有する、あらゆる慣用且つ既知の架橋剤が含まれる。架橋剤CLは、好ましくは、ブロックされたポリイソシアネート、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、及びポリエポキシドからなる群から選択される。架橋剤CLは、より好ましくは、ブロックされたポリイソシアネート及び高反応性メラミン-ホルムアルデヒド樹脂からなる群から選択される。特に好ましくは、ブロックされたポリイソシアネートを使用する。
【0097】
ブロックされたポリイソシアネートCAは、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族及び/又は芳香族に結合したイソシアネート基を含有する慣用且つ既知のポリイソシアネートから調製することができる。1分子当たり2~5個のイソシアネート基を有し、そして100~10,000mPa*s、好ましくは100~5,000mPa*s、及び特に100~2,000mPa*s(23℃)の粘度を有するポリイソシアネートの使用が好ましい。さらに、ポリイソシアネートは、親水性又は疎水性に変性されてもよい。
【0098】
好適なポリイソシアネートには、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートとの混合物が含まれる。ここでは、モノマーポリイソシアネート、ポリイソシアネートのダイマー又はトリマーだけでなく、オリゴマーポリイソシアネート又はポリマーポリイソシアネートも使用することが可能である。好ましいイソシアネートは、そのモノマー構成成分が約3~約36個、より具体的には約8~約15個の炭素原子を含有するものである。このような好適なモノマーポリイソシアネートの例は、ジイソシアネート、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、エチルエチレンジイソシアネート、メチルトリメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,2-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、トルエン2,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及び4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンである。イソシアネート官能価がより高いポリイソシアネート、例えば、トリス(4-イソシアナトフェニル)メタン、2,4,4’-トリイソシアナトジフェニルメタン、又はビス(2,5-ジイソシアナト-4-メチルフェニル)メタンも使用することができる。これらのポリイソシアネートは、ダイマー又はトリマーの形態で使用してよく、又はオリゴマーポリイソシアネート又はポリマーポリイソシアネートのビルディングブロックとしても役立ち得る。さらに、ポリイソシアネートの混合物も利用することができる。
【0099】
ブロックされたポリイソシアネートCAの調製に好適なブロック剤の例は、以下である:
- フェノール、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、tert-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、この酸のエステル又は2,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、
- ラクタム、例えばε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム又はβ-プロピオラクタム、
- 活性メチレン系化合物、例えばジエチルマロネート、ジメチルマロネート、メチル又はエチルアセトアセテート又はアセチルアセトン、
- アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、グリコール酸、グリコールエステル、乳酸、乳酸エステル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、アセトシアノヒドリン、1,4-シクロヘキシル-ジメタノール又はプロパンジオール、
- メルカプタン、例えばブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、tert-ブチルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、2-メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール又はエチルチオフェノール、
- 酸アミド、例えばアセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトアミド、ステアラミド又はベンズアミド、
- イミド、例えばスクシンイミド、フタルイミド又はマレイミド、
- アミン、例えばジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン又はブチルフェニルアミン、
- イミダゾール、例えばイミダゾール又は2-エチルイミダゾール、
- 尿素、例えば尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素又は1,3-ジフェニル尿素、
- カルバメート、例えばフェニルN-フェニルカルバメート又は2-オキサゾリドン、
- イミン、例えばエチレンイミン、
- オキシム、例えばアセトンオキシム、ホルマルドキシム、アセタールドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、ジアセチルモノキシム、ベンゾフェノンオキシム又はクロロヘキサノンオキシム、
- 亜硫酸の塩、例えば重亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸カリウム、
- ヒドロキサム酸エステル、例えばベンジルメタクリロヒドロキサメート(BMH)又はアリルメタクリロヒドロキサメート、又は
- 置換されたピラゾール、イミダゾール又はトリアゾール、及び
- 1,2-ポリオール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、及び1,2-ブタンジオール、
- 2-ヒドロキシエステル、例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、
及びこれらブロック剤BAの混合物。
【0100】
本発明の電着コーティング材料中の上記架橋剤CLの量は、特に、先に記載した水性分散体(AD)及びバインダーB中に存在するカチオン性ポリマー粒子との架橋反応に関するそれら架橋剤の官能性によって導かれ、従って、当業者がその一般的な技術知識に基づいて容易に決定してよい。好ましくは、少なくとも1つの架橋剤CLは、電着コーティング材料(ECM)の全固形分含量に対して15~30質量%の総量で存在する。
【0101】
顔料
本発明の水性電着コーティング材料(ECM)は、少なくとも1つの顔料をさらに含む。顔料は、好ましくは、慣用且つ既知の着色顔料、効果顔料、導電性顔料、磁気シールド顔料、蛍光顔料、体質顔料、及び防食顔料からなる群から選択される。含量の総量は、各場合とも水性電着コーティング材料(ECM)の総質量に対して、好ましくは0.1~30質量%の範囲、又は0.5~20質量%の範囲、より好ましくは1.0~15質量%、非常に好ましくは1.5~10質量%、及びより具体的には2~5質量%の範囲、又は2~4質量%の範囲、又は2~3.5質量%の範囲である。
【0102】
添加剤:
本発明の電着コーティング材料(ECM)は、少なくとも1つの慣用の添加剤をさらに含んでよい。「添加剤」という表現は、水性電着コーティング材料(ECM)中の分子的に独立した単位としての、及び特に、バインダー、樹脂などに反応的に組み込まれた成分としてではない、物質の存在を定義するものである。好適な添加剤には、フィラー、例えばカルシウムスルフェート、バリウムスルフェート、シリケート、例えばタルク又はカオリン、シリカ、酸化物、例えばアルミニウムヒドロキシド又はマグネシウムヒドロキシド、ナノ粒子、有機フィラー、例えばテキスタイル繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維又は木粉、フリーラジカル捕捉剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、消泡剤、乳化剤、特に非イオン性乳化剤、例えばアルコキシル化アルカノール及びポリオール、フェノール及びアルキルフェノール又はアニオン性乳化剤、例えばアルコキシル化アルカノール及びポリオール、フェノール及びアルキルフェノールのアルカンカルボン酸、アルカンスルホン酸及びスルホ酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、湿潤剤、例えばシロキサン、フッ素化合物、カルボン酸モノエステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸及びそのコポリマー、又はポリウレタン、付着促進剤、レベリング剤、膜形成助剤、例えばセルロース誘導体、難燃剤、有機溶媒、熱架橋に関与できる低分子量、オリゴマー及び高分子量の反応性希釈剤、特にポリオール、例えばトリシクロデカンジメタノール、デンドリマーポリオール、高分枝ポリエステル、メタセシスオリゴマー又は分子中に8個を超える炭素原子を有する分枝アルカンに基づくポリオール、抗クレーター剤、ポリビニルアルコールポリマー及びそれらの混合物が含まれる。添加剤の総量は、水性電着コーティング材料(ECM)の総質量に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.1~15質量%、非常に好ましくは0.1~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%、及びより具体的には0.1~2.5質量%である。
【0103】
触媒:
本発明の電着コーティング材料(ECM)は、少なくとも1つの架橋触媒をさらに含んでよい。好適な触媒は、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、鉄又はマンガンの有機塩及び無機塩及び錯体であり、好ましくは、無機塩及び有機塩、及びビスマス及びスズの錯体である。好ましいスズ触媒は、ジブチルスズオキシド又はジブチルスズジラウレートから選択される。
【0104】
ビスマスの好ましい無機塩には、亜硝酸ビスマスが含まれる。
【0105】
ビスマスの好ましい有機塩及び錯体は、ビスマスサブサリチレート、ビスマスラクテート、ビスマスエチルヘキサノエート及びビスマスジメチロールプロピオネートから選択される。特に好ましくは、ビスマスサブサリチレート(CBi)又はビスマスサブニトレートが架橋触媒として使用される。
【0106】
本発明の電着コーティング材料はその固形分に対して、好ましくは、0.05~5質量%、より好ましくは0.1~4質量%、及び特に0.2~4質量%の総量の触媒、特にビスマスサブサリチレートを含有する。
【0107】
水性電着コーティング(ECM)の調製
本発明の電着コーティング材料は、上記の構成成分(A)、(B)及び(D)、及び任意に(C)、(E)及び(F)を混合し均質化することによって、慣用且つ既知の混合技術及び装置、例えば撹拌タンク、撹拌ミル、押出機、混練装置、ウルトラタラックス(登録商標)、インラインディゾルバー、スタティックミキサー、マイクロミキサー、歯車式分散器、圧力解放ノズル及び/又はマイクロ流動化器などを用いて、調製される。特に好ましくは、水性分散体(AD)をバインダーB及び任意に架橋剤CLと混合してから、顔料ペースト及びさらなる添加剤を加える。顔料及びビスマス含有触媒は、好ましくは、顔料ペースト又は顔料製剤の形態で電着コーティング材料に組み込まれる(Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,N.Y.、1998年、「Pigment preparations」、第452頁参照)。
【0108】
本発明の水性分散体(AD)及び水性分散体(AD)を製造するための本発明の方法について述べてきたことは、本発明の水性電着コーティング組成物のさらなる好ましい実施形態に関しても準用される。
【0109】
少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための本発明の方法:
本発明の水性電着コーティング材料(ECM)は、導電性基材、例えば金属基材を少なくとも部分的にコーティングするのに使用することができる。導電性基材は、好ましくは自動車車両又はその一部を含む。
【0110】
よって本発明のさらなる主題は、基材を本発明の水性電着コーティング材料と接触させ、前記材料から膜を形成し、そして形成された膜を硬化させることによって、少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための方法である。この方法は、形成された膜をすすぎ、硬化した電着コーティング材料上に少なくとも1つのさらなるコーティング層を適用することをさらに含むことができる。
【0111】
工程(a):
本発明の方法の工程(a)において、基材を、本発明の水性電着コーティング材料(ECM)と少なくとも部分的に接触させる。本発明の意味における「接触」とは、水性電着コーティング材料を基材に適用することをいう。電着コーティング材料(ECM)の基材への適用、又は基材上の塗膜の生成は、以下のように理解される:電着コーティング材料(ECM)を、該材料から生成される塗膜が基材上に配置されるように適用するが、必ずしも基材と直接接触している必要はない。よって、塗膜と基材との間に他の層を存在させることができる。例えば、転換コーティング、例えば亜鉛ホスフェートコーティングが、基材と硬化した電着コーティング層との間に配置されてもよい。この適用は、例えば、基材を水性電着コーティング材料に浸す、又は基材上に前記材料を噴霧又はロール適用することによって、達成することができる。好ましくは、基材を当該材料に浸すことによって適用を達成する。
【0112】
好ましくは、工程(a)における基材のコーティングは、このコーティング材料の基材表面への電気泳動的(electrophoretic)、好ましくはカタフォレティック(cataphoretic)析出によって行う。これは、好ましくは、本発明の電着コーティング材料(ECM)を含有する浸漬コーティング浴に、基材を少なくとも部分的に、好ましくは完全に導入し、基材と少なくとも1つの対電極との間に電圧を印加することによって達成される。この場合、対電極は、浸漬コーティング浴中に配置されてよい。代替的又は追加的に、対電極は、浸漬コーティング浴とは別に、例えば、アニオンに対して透過性のあるアニオン交換膜を介して存在してもよい。この場合、浸漬コーティング中に形成されたアニオンは、コーティング材料から膜を通って陽極液に輸送され、浸漬コーティング浴のpHを調節又は一定に保つことを可能とする。対電極は、好ましくは浸漬コーティング浴とは別である。アノードとカソードの間の電流の通過は、カソード上、すなわち基材上にしっかりと付着した塗装膜の析出を伴う。
【0113】
本発明の方法の工程(a)は、好ましくは、25~35℃の範囲の温度、及び120~350Vの電圧、好ましくは140~300Vの電圧で行う。電圧は、記載した期間中、一定に保ってよい。しかしながら代替的に、析出期間中、電圧は先に挙げた最小値及び最大値の範囲内で異なる値を採用してもよく、例えば、析出電圧の最小から最大まで行き来し、又は傾斜的に又は段階式に上昇してもよい。本発明の方法の工程(a)において、好ましくは、本発明の水性電着コーティング材料(ECM)を用いた基材の完全なコーティングを、基材表面全体への完全な電気泳動的、好ましくはカタフォレティック析出により、行う。
【0114】
本発明の方法の工程(a)において、本発明の水性電着コーティング材料(ECM)は、好ましくは、得られた硬化した電着被覆膜が5~70μm、より好ましくは10~60μm、特に好ましくは20~50μmの範囲の乾燥膜厚を有するように適用される。
【0115】
任意の工程(b):
工程(b)において、工程(a)で形成された塗膜を水溶液ですすいでよい。一実施例では、水溶液は主に水を含有するが、少量のさらなる添加剤も含有してよい。別の実施例では、水溶液は、水性電着コーティング材料(ECM)から得られた限外濾液からなる。任意の工程(b)を実施することにより、工程(a)の後に存在する少なくとも部分的にコーティングされた基材上の過剰の水性電着コーティング材料(ECM)を浸漬コーティング浴中に再利用することができる。
【0116】
工程(c):
本発明の方法の工程(c)において、工程(a)又は(b)の後に、基材上に本発明の水性電着コーティング材料(ECM)を少なくとも部分的に適用して得られた塗膜を、硬化させる。
【0117】
電着塗膜の硬化は、そのような膜がすぐに使用できる状態、すなわち、それぞれの塗膜が提供された基材を意図した通りに輸送、貯蔵及び使用できる状態への変換を意味すると理解される。より具体的には、硬化した塗膜は、もはや軟質でも粘着性でもないが、固体塗膜として調整されており、硬化条件にさらに暴露しても、その特性、例えば硬度又は基材への付着性などに如何なるさらなる顕著な変化も起こさない。
【0118】
本発明の方法の工程(c)は、好ましくは、焼き付けにより、工程(a)又は(b)の後、好ましくはオーブンで行う。ここで硬化は、好ましくは、100~250℃、より好ましくは130~190℃の範囲の基材温度で行う。工程(c)は、好ましくは、10~30分、より好ましくは15分の持続時間にわたって行う。
【0119】
任意の工程(d):
工程(c)でコーティング層を硬化させた後、少なくとも1つのさらなるコーティング層を、硬化したコーティング層上に適用してよい。得られた電着被覆は、次いでサーフェーサー、又はストーンチップ耐性プライマー、及び無色のトップコート材料で、或いは代替的に、ベースコート材料及びクリアコート材料で、ウェット・オン・ウェット技術によってオーバーコートすることができる。サーフェーサー膜又はストーンチップ耐性プライマー膜及び無色のトップコート膜は、好ましくはそれぞれ個別に焼き付けされる。ベースコート膜及びクリアコート膜は、好ましくは一緒に焼き付けされる。この手順により、傑出した性能特性を有するマルチコート塗装系が得られる。
【0120】
本発明の水性分散体(A)、本発明の水性分散体(AD)を製造するための本発明の方法、及び本発明の水性電着コーティング組成物(ECM)について述べてきたことは、少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための本発明の方法のさらなる好ましい実施形態に関しても準用される。
【0121】
本発明のコーティングされた基材:
本発明のさらなる主題は、本発明の方法によって得ることができた少なくとも部分的にコーティングされた導電性基材である。
【0122】
本発明の水性分散体(AD)、該水性分散体(AD)を製造するための本発明の方法、本発明の水性電着コーティング材料(ECM)及び少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための本発明の方法について述べてきたことは、本発明によるコーティングされた基材のさらなる好ましい実施形態に関しても準用される。
【0123】
1. カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)であって、前記水性分散体(AD)が、
a) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
b) 工程(a)で得られた中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
c) 任意に、水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
d) 任意に、工程(c)で得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
によって得られ、
工程a)及び/又は工程b)及び/又は工程c)で少なくとも1つの酸が存在する、水性分散体。
【0124】
2. 化合物(C1)が、厳密に1つの遊離イソシアネート基及び厳密に2つのエポキシド基を含有する、節1による水性分散体。
【0125】
3.化合物(C1)が、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して300~700g/当量、好ましくは350~650g/当量、より好ましくは400~600g/当量、さらにより好ましくは450~550g/当量、非常に好ましくは500~530g/当量のエポキシ当量(EEW)を有する、節1又は2による水性分散体。
【0126】
4. 化合物(C1)が、少なくとも2つのエポキシド基、特に少なくとも3つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-1)を、少なくとも1つのアミン基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-2)と反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つの遊離イソシアネート基を含有する少なくとも1つの化合物(C1-3)とさらに反応させることによって得られる、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0127】
5. 化合物(C1-1)が、プロポキシル化ペンタエリスリトールとエピクロロヒドリンとの反応生成物である、節4による水性分散体。
【0128】
6. 化合物(C1-2)が、第二級アミン、好ましくはC~C10ジアルキルアミン、より好ましくはC~Cジアルキルアミン、非常に好ましくはCジアルキルアミンから選択される、節4又は5による水性分散体。
【0129】
7. 化合物(C1-3)が、脂環式、脂肪族-脂環式、芳香族、脂肪族-芳香族及び/又は脂環式-芳香族ジイソシアネート、記載のジイソシアネートの二量体及び三量体、及びそれらの混合物、好ましくは脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、2,4-又は2,6-ジイソシアナト-1-メチルシクロヘキサン、及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)、非常に好ましくはイソホロンジイソシアネートから選択される、節4から6のいずれかによる水性分散体。
【0130】
8. 化合物(C1-1)、(C1-2)及び(C1-3)を、1:5:5~1:1:1、好ましくは1:3:3~1:1:1、非常に好ましくは1:1:1のモル比で反応させる、節4から7のいずれかによる水性分散体。
【0131】
9. ポリビニルアルコールポリマーが、ビニルアルコールと、好ましくはビニルアセテート、ビニルアセタール、エチレン及び/又はプロピレンから選択される少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーである、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0132】
10. ポリビニルアルコールポリマーが、50~99.9モル%、好ましくは60~99.9モル%、より好ましくは70~99モル%、非常に好ましくは80~99モル%のビニルアルコール画分を有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0133】
11. ポリビニルアルコールポリマーが、DIN 53015:2018-07に準拠して水中4質量%の濃度で決定して、少なくとも2mPa*s、好ましくは2~60mPa*s、より好ましくは10~60mPa*s、さらにより好ましくは30~50mPa*s、非常に好ましくは45~49mPa*sの20℃における粘度を有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0134】
12. ポリビニルアルコールポリマーが、70~100モル%、好ましくは70~95モル%、非常に好ましくは86~89モル%の加水分解度を有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0135】
13. 水溶液(C2a-i)が、5~15質量%のポリビニルアルコールポリマー、好ましくは5~10質量%のポリビニルアルコールポリマー、及び85~95質量%、好ましくは90~95質量%の水を、各場合とも水溶液(C2a-i)の総質量に対して含有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0136】
14. 化合物(C1)を化合物(C2a-i)と1:10~10:1、好ましくは1:10~2:1、非常に好ましくは1:10~1:1の比で反応させ、各比が化合物(C1)及び(C2a-i)の固形分含量に対するものである、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0137】
15. 分散体(C2a-ii)が、50~60質量%のポリビニルアルコールポリマー及び40~50質量%の少なくとも1つの有機溶媒S1を、各場合とも分散体(C2a-ii)の総質量に対して含有する、節1から12のいずれかによる水性分散体。
【0138】
16. 有機溶媒S1が、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール、炭化水素及びそれらの混合物、好ましくはケトン、非常に好ましくはメチルイソブチルケトンから選択される、節15による水性分散体。
【0139】
17. 化合物(C1)を化合物(C2a-ii)と1:20~1:10、好ましくは1:17~1:15の質量比で反応させる、節1から12及び15から16のいずれかによる水性分散体。
【0140】
18. 少なくとも1つのエポキシド基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-1)と、少なくとも1つの芳香族基及び少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの化合物(C3-2)とを、少なくとも1つの溶媒S2の存在下で反応させ、そして得られた生成物を、少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基及び少なくとも1つの遊離第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミン(C3-3)とさらに反応させることにより、化合物(C3)が得られる、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0141】
19. 化合物(C3-1)を化合物(C3-2)と少なくとも1つの触媒、特にトリフェニルホスフィンの存在下で反応させる、節18による水性分散体。
【0142】
20. 化合物(C3-1)及び(C3-2)を反応させて得られた生成物が、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して800~2,000g/当量、好ましくは900~1,500g/当量、非常に好ましくは980~1,100g/当量のエポキシ当量(EEW)を有する、節18又は19による水性分散体。
【0143】
21. 化合物(C3-1)、(C3-2)及び(C3-3)を、10:6:1~7:4:1のモル比で反応させる、節19から20のいずれかによる水性分散体。
【0144】
22. 化合物(C3-1)が、DIN EN ISO3001:1999-11に準拠して決定して、100~300g/当量、好ましくは150~250g/当量、非常に好ましくは170~200g/当量のエポキシ当量(EEW)を有する、節18から21のいずれかによる水性分散体。
【0145】
23. 化合物(C3-1)が、DIN EN ISO12058-1:2018-11に準拠して決定して、30,000~50,000mPa*s、好ましくは35,000~37,000mPa*sの20℃における粘度を有する、節18から22のいずれかによる水性分散体。
【0146】
24. 化合物(C3-2)が、少なくとも1つのヒドロキシル基、好ましくは両方のヒドロキシル基が少なくとも1つの芳香族部位に直接結合している化合物から選択される、節18から23のいずれかによる水性分散体。
【0147】
25. 化合物(C3-2)がビスフェノールAから選択される、節18から24のいずれかによる水性分散体。
【0148】
26. 少なくとも1つの溶媒S2が、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アルコール、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール及びそれらの混合物、好ましくはアルコール、非常に好ましくはフェノキシプロパノール及び/又はイソブタノールから選択される、節18から25のいずれかによる水性分散体。
【0149】
27. ポリアミン(C3-3)が120~130g/当量のアミン当量を有する、節18から26のいずれかによる水性分散体。
【0150】
28. ポリアミン(C3-3)が、ポリアミン(A)を少なくとも1つのブロック剤(BA)と反応させることによって得られる、節18から27のいずれかによる水性分散体。
【0151】
29. ポリアミン(A)が、ジエチレントリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、N1-(2-(4-(2-アミノエチル)ピペラジン-1-イル)エチル)エタン-1,2-ジアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン及びそれらの混合物から、好ましくはジエチレントリアミンから選択される、節28による水性分散体。
【0152】
30. 少なくとも1つのブロック剤(BA)が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン又はそれらの混合物、好ましくはメチルエチルケトン及び/又はメチルイソブチルケトンから選択される、節28又は29による水性分散体。
【0153】
31. 少なくとも1つの酸が、有機酸から、好ましくはカルボン酸から、非常に好ましくは酢酸から選択される、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0154】
32. ポリマー粒子が、DIN EN ISO22412:2018-09に準拠して決定して、100~1,000nm、好ましくは100~700nm、より好ましくは100~600nm、非常に好ましくは100~400nmの平均粒径(z平均)を有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0155】
33. 水性分散体(AD)が、カチオン性ポリマー粒子を15~40質量%、好ましくは20~30質量の総量で、各場合とも水性分散体(AD)の総質量に対して含有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0156】
34. 水性分散体(AD)が、水を60~85質量%、好ましくは70~80質量%の総量で、各場合とも水性分散体(AD)の総質量に対して含有する、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0157】
35. 水性分散体(AD)中のカチオン性ポリマー粒子及び水の総割合が、少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも95質量%、非常に好ましくは少なくとも98質量%であり、これは各場合とも水性分散体の総質量に対するものである、先行する節のいずれかによる水性分散体。
【0158】
36. カチオン性ポリマー粒子を含む水性分散体(AD)を調製する方法であって、以下の工程:
(1) 中間体(I1)の水性分散体の調製を、少なくとも1つの遊離イソシアネート基及び少なくとも2つのエポキシド基を含有する化合物(C1)と、
(i) ポリビニルアルコールポリマーの水溶液(C2a-i)、又は
(ii) ポリビニルアルコールポリマーの有機溶媒S1中の分散体(C2a-ii)とを反応させ、その後続いて中間体(I1)を水中に分散させること
によって行う工程、
(2) 工程(1)で得られた中間体(I1)の水性分散体を、少なくとも1つのエポキシド基及び少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基を含む化合物(C3)と反応させる工程、
(3) 任意に、水性分散体を水溶液で希釈する工程、及び
(4) 任意に、工程(3)の後に得られた分散体中に存在する有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、
を含み、
工程(1)及び/又は工程(2)及び/又は工程(3)で少なくとも1つの酸が存在する、方法。
【0159】
37. 以下の成分、
(A) 節1から35のいずれかによる少なくとも1つの水性分散体(AD)、又は節36に記載の方法により調製された少なくとも1つの水性分散体(AD)、
(B) 水性分散体(AD)に含有されるカチオン性ポリマー粒子とは異なる、少なくとも1つのさらなるバインダーB、
(C) 任意に少なくとも1つの架橋剤(CL)、
(D) 少なくとも1つの顔料、
(E) 任意に少なくとも1つの添加剤、及び
(F) 任意に少なくとも1つの触媒
を含む、水性電着コーティング材料(ECM)。
【0160】
38. 少なくとも1つの水性分散体(AD)が、0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1.5~10質量%、非常に好ましくは2~4質量%の総量で、各場合とも水性電着コーティング材料(ECM)の総質量に対して存在する、節37による水性電着コーティング材料。
【0161】
39. 少なくとも部分的にコーティングされた基材を製造するための方法であって、以下の工程:
(a) 基材を節37又は38による水性電着コーティング材料(ECM)と少なくとも部分的に接触させる工程、
(b) 任意に、工程(b)で形成された塗膜を水溶液ですすぐ工程、
(c) 工程(a)の後又は任意の工程(b)の後に形成された塗膜を硬化させる工程、及び
(d) 任意に、少なくとも1つのさらなるコーティング層を適用しそして前記コーティング層を硬化させる工程
を含む方法。
【0162】
40. 節39に記載の方法によって得られた少なくとも部分的にコーティングされた基材。
【実施例
【0163】
本発明を、有用な実施例の使用によって、さらにより詳細に説明するが、これらの有用な実施例に決して限定されない。さらに、実施例における用語「部」、「%」、及び「比」は、別段の指示がなければ、「質量部」「質量%」及び「質量比」それぞれを示す。
【0164】
1.測定の方法
1.1 固形分含量(固形分、不揮発性画分)
別段の記載がない限り、固形分含量(固形分の割合、固体状態5の含量、不揮発分の割合とも呼ばれる)は、DIN EN ISO3251:2019-09に準拠し、130℃又は180℃で30分間、サンプルの開始質量を1.0gとして測定した。
【0165】
1.2 エポキシ当量
エポキシ当量は、DIN EN ISO3001:2019-08に準拠して測定した。
【0166】
1.3 粘度の測定
化合物C3の粘度を、23℃で剪断速度5,000s-1又は10,000s-1を使用し、DIN EN ISO3219:1994-10及びDIN53019-2:2001-02に準拠して、Brookfield CAP000+粘度計、コーンプレート形、コーンCAP03を用いて測定した。
【0167】
1.4. アミン等価質量
アミン等価質量(溶液)は次のように確認した:分析試料を室温で氷酢酸に溶解し、氷酢酸中の0.1N過塩素酸に対してクリスタルバイオレットの存在下で滴定した。試料の初期質量と過塩素酸の消費量から、アミン等価質量(溶液)、すなわち過塩素酸1モルを中和するのに必要な塩基性アミンの溶液の質量を求めた。
【0168】
1.5. 第一級アミノ基のブロッキングの程度
第一級アミノ基のブロッキングの程度は、IR分光分析により、Nexus FT IRスペクトロメーター(Nicolet社製)を用いて、IRセル(d=25m、KBr窓)を補助とし、吸収極大3310cm-1で、使用したアミンの濃度系列及び25℃で1166cm-1の吸収極大(内部標準)の標準化に基づいて測定した。
【0169】
1.6 平均粒径(z平均)
水性分散体(AD)に含有されるカチオン性粒子の平均粒径(z平均)は、DIN EN ISO22412:2018-09に準拠して測定した。
【0170】
1.7 塩噴霧試験(SST)
コーティングの耐食性は、塩噴霧試験によって測定した。塩噴霧試験は、調査対象のコーティングされた基材についてDIN EN ISO9227NSS(日付:2012年9月)に準拠して行った。調査対象の試料を、温度35℃のチャンバー内に504時間又は1008時間の間継続して収容し、pHを6.5~7.2の範囲に制御した5%濃度の塩化ナトリウム溶液からミストを生成した。調査対象の試料にミストが堆積し、試料は腐食性の塩膜で覆われた。
【0171】
DIN EN ISO9227NSSに準拠した塩噴霧試験の前に、調査対象試料のコーティングにブレードの切り込みで基材まで切れ目を入れると、DIN EN ISO9227NSS塩噴霧試験中に基材が切れ目ラインに沿って腐食するので、試料をDIN EN ISO4628-8(03-2013)の腐食性浸食のレベルについて調査することができる。腐食が進行した結果、試験中に多かれ少なかれコーティングが浸食される。浸食の程度(単位mm)が、コーティングの腐食に対する耐性を示す指標である。
【0172】
さらに以下に示す各評価結果は、3つの個々の試験結果の平均である。各個別の試験結果は、個別のパネル(すなわちコーティングされた試験基材)により生成された。個別のパネルが7つの個別の穴を呈した場合、穴の縁部保護に関する1つの個別パネルの個別の試験結果自体は、7つの個別の穴の分析平均である。
【0173】
1.8 VDA気候変化試験
VDA気候変化試験は、基材上のコーティングの耐食性を判定するのに使用し、そしてDIN EN ISO11997-1:2018-01(以下VDA1という)に準拠して5又は10のいわゆるサイクルで、又はVDA233-102(2013年6月)に準拠して12のいわゆるサイクルで(以下VDA2という)で実施した。
【0174】
試験対象のコーティングが穴のある金属基材上に存在する場合、これらの穴は、比較的多数の縁部/縁部ゾーンを有する現実の金属基材をシミュレートする。また、如何なる前処理及びコーティングプロセスを開始する前にも、例えばサンディング又は磨き仕上げのような後処理がされていない縁部を有する穴を有する基材の場合、これらの基材は、コーティング、ひいては腐食縁部保護の点でさらにより困難である。これらの穴の縁部の腐食の程度(「穴の縁部の腐食」又は「縁部の腐食」とも呼ばれる)は、気候変化試験後の穴の縁部の腐食の程度/部分を観察することによって視覚的に評価する(0~5までの評価スケール、「5」は100%の腐食(穴の縁部全体が腐食している)、そして「0」は0%の腐食を意味する)。
【0175】
気候変化試験を行う前に、試験対象の試料のコーティングにナイフで基材まで切れ目を入れると、気候変化試験中に基材が切れ目に沿って腐食するので、DIN EN ISO4628-8(03-2013)に準拠して試料の膜下腐食の程度を試験することができる。腐食が進むと、コーティングが試験中に多かれ少なかれ浸潤される。浸食(単位mm)の程度が、コーティングの耐食性を示す指標となる(いわゆるスクライブ腐食性)。
【0176】
さらに以下に示す各評価結果は、3つの個々の試験結果の平均である。各個別の試験結果は、個別のパネル(すなわちコーティングされた試験基材)により生成された。個別のパネルが7つの個別の穴を呈した場合、穴の縁部保護に関する1つの個別パネルの個別の試験結果自体は、7つの個別の穴の分析平均である。
【0177】
1.9 表面粗さ
表面粗さは、DIN EN10049:2014-03に準拠して測定した。
【0178】
1.10 膜構築
膜構築はDIN EN ISO2178:2016-11に準拠して測定した。
【0179】
2. カチオン性ポリマー粒子の水性分散体(AD)の調製
2.1 ポリビニルアルコールポリマーの溶液を用いた本発明のカチオン性ポリマー粒子の水性分散体(AD1)~(AD6)の調製
2.1.1 化合物(C1)の調製
33.6部の液状エポキシ樹脂(エポキシ当量(EEW)=220~230g/当量)を反応器に添加し、反応器の内容物を50℃に加熱した。その後、5.1部のジアルキルアミンを撹拌しながら添加し、得られた反応生成物(RP1)のエポキシ当量(EEW)が380g/当量を超えるまで、50℃でさらに1時間撹拌を続けた。
【0180】
別の反応器で50部のメチルイソブチルケトン及び11.2部のイソホロンジイソシアネートを混合し、混合物を撹拌しながら70℃に加熱した。その後、反応生成物RP1を撹拌しながら1.5時間かけて添加し、そして70℃で1時間撹拌を続けて、495~520g/当量の範囲のエポキシ当量(EEW)及び49~50質量%の固形分含量を有する化合物(C1)を得た。
【0181】
2.1.2 ポリビニルアルコールポリマーの様々な水溶液(C2a-i)の調製
様々な水溶液を、以下の一般的な手順に従って調製した(ポリビニルアルコールポリマー及び水の量は表1を参照):ポリビニルアルコールポリマー(PVA)(株式会社クラレから商品名「Mowiol」で市販されている)の各量を、激しく撹拌しながら、水の第一部分にゆっくりと加えた。その後、溶液を80℃に加熱し、水の第二部分を加えた。得られたポリビニルアルコールポリマーの水溶液を20℃に冷却した。
【0182】
【表1】
【0183】
2.1.3 中間体(I1)の様々な水性分散体の調製
中間体(I1)の様々な水性分散体を、以下の一般的な手順に従って調製した(量については表2を参照):項目2.1.1の通りに調製した化合物(C1)の各量を、項目2.1.2の通りに調製したポリビニルアルコールポリマー水溶液の各量に、20℃で撹拌しながら10分間かけて分散させた。撹拌を20℃で30分間続けた後、酢酸の各量を5分間かけて20℃で添加した。添加終了後、撹拌をさらに2時間続け、それぞれの中間体(I1)を得た。
【0184】
【表2】
【0185】
2.1.4 ポリアミン(C3-3)の調製
ポリアミン(C3-3)は、ジエチレントリアミン(BASF SE社製)とメチルイソブチルケトンとの反応から、メチルイソブチルケトン中110~140℃で、水を共沸除去することによって調製した。アミン等価質量(溶液)を124g/当量に調整するのは、メチルイソブチルケトンを用いた希釈によって行った。第一級アミノ基の98.5%のブロッキングは、3310cm-1における残留吸収に基づくIR分光法によって決定した。
【0186】
2.1.5 化合物(C3)の調製
13.3部の液状エポキシ樹脂(EEW=184~189g/当量)、6.1部のビスフェノールA及び2.2部のフェノキシプロパノールを反応器中で混合し、150℃に加熱した後、0.036部のトリフェニルホスフィンを添加した。反応器の内容物を130℃に冷却し、得られた反応生成物のEEWが1,000g/当量を超えるまで撹拌を続けた(必要に応じて、トリフェニルホスフィンをさらに添加してEEWを得た)。その後、混合物を9.4部のイソブタノールで希釈し、105℃に冷却した後、項目2.1.4の通りに調製した2.2部のポリアミン(C3-3)を30分かけて添加した。得られた化合物(C3)の粘度(メトキシ-2,1-プロパノール中の35%溶液)は、503mPa*sであった。
【0187】
2.1.6 様々な水性分散体(AD1)~(AD6)の調製
様々な水性分散体(AD1)~(AD4)を、以下の一般的な手順に従って調製した(量については表3を参照):中間体(I1-1)~(I1-6)の水性分散体及び酢酸の各量を、項目2.1.5の通りに調製した化合物C3の33.2質量%に、撹拌しながら添加した。最後に、混合物を各量の水で希釈し、それぞれの水性分散体(AD)を得た。
【0188】
【表3】
【0189】
2.2 有機溶媒中のポリビニルアルコールポリマーの分散体を用いた本発明のカチオン性ポリマー粒子の水性分散体(AD7)の調製
2.2.1 有機溶媒中のポリビニルアルコールポリマーの分散体(C2b-ii)の調製
ポリビニルアルコールポリマーのメチルイソブチルケトン中の60質量%分散体は、300グラムのポリビニルアルコールポリマー(株式会社クラレから商品名「Mowiol」で市販されている)を200グラムのメチルイソブチルケトン中に80℃で激しく撹拌しながら分散させることによって、調製した。
【0190】
2.2.2 中間体(I1)の水性分散体の調製
項目2.1.1の通りに調製した30グラムの化合物(C1)を、項目2.2.1で調製した500グラムの分散体に80℃で撹拌しながら30分かけて添加した。撹拌を80℃で3時間続けた後、メチルイソブチルケトンを蒸発によって除去した。125グラムの得られた生成物を、20℃で2375グラムの水に激しく撹拌しながら分散させ、温度を80℃に上げた。撹拌を80℃でさらに3時間続け、中間体(I1)の水性分散体を得た。
【0191】
2.2.3 化合物(C3)の調製
13.3部の液状エポキシ樹脂(EEW=184~189g/当量)、6.1部のビスフェノールA及び2.2部のフェノキシプロパノールを反応器中で混合し、150℃に加熱した後、0.036部のトリフェニルホスフィンを添加した。反応器の内容物を130℃に冷却し、得られた反応生成物のEEWが1,000g/当量を超えるまで撹拌を続けた(必要に応じて、トリフェニルホスフィンをさらに添加してEEWを得た)。その後、混合物を9.4部のイソブタノールで希釈し、105℃に冷却した後、項目2.1.4の通りに調製した2.2部のポリアミン(C3-3)を30分かけて添加した。得られた化合物(C3)の粘度(メトキシ-2,1-プロパノール中の35%溶液)は、473mPa*sであった。
【0192】
2.2.4 水性分散体(AD7)の調製
項目2.2.2の通りに調製した22.0部の中間体(I1)の水性分散体及び0.379部の酢酸の混合物を、項目2.2.3の通りに調製した33.2部の化合物C3に撹拌しながら添加した。最後に、混合物を44.4部の水で分散させ、22.9%の固形分含量及び321nmの平均粒径(z平均)を有する水性分散体を得た。
【0193】
2.3 カチオン性ポリマー粒子の水性分散体比較例(AD-C)の調製
13.3部の液状エポキシ樹脂(EEW=184~189g/当量)、6.1部のビスフェノールA及び2.2部のフェノキシプロパノールを反応器中で混合し、150℃に加熱した後、0.036部のトリフェニルホスフィンを添加した。反応器の内容物を130℃に冷却し、得られた反応生成物のEEWが1,000g/当量を超えるまで撹拌を続けた。その後、混合物を3.7部のイソブタノールで希釈し、105℃に冷却した後、項目2.1.4の通りに調製した2.2部のポリアミン(C3-3)を30分かけて添加した。得られた混合物を5.4部のイソブタノール及び22部の水で希釈した。その後、0.38部の酢酸を添加し、混合物を44.4部の水及び0.34部のイソブタノールに分散させて、およそ22質量%の固形分含量及びおよそ100nmの平均粒径(z平均)を有する水性分散体を得た。
【0194】
3. 水性電着コーティング組成物の調製
カソード析出性電着被覆材料としての試験のために、水性バインダー分散体(BD)、顔料ペースト、上記の各水性分散体(AD)及び任意に項目2.1.2の通りに調製したポリビニルアルコールポリマーの水溶液PVA-1を、以下の表4に従って組み合わせた。ここでの手順は、バインダー分散体(BD)を初期装填として導入し、そしてこれを脱イオン水で希釈することであった。その後、撹拌しながら、それぞれの水性分散体(AD)を加えた。その後、顔料ペーストと任意の水溶液PVA-1を撹拌しながら導入した。すべての場合において安定した水性電着コーティング組成物が得られた。
【0195】
【表4】
【0196】
4. コーティングされた基材の調製
試験パネルとして、様々な基材、すなわち基材S1(脱脂した裸鋼)、S2(リン酸塩処理組成物(Gardobond(登録商標)GB26S 6800 OC)で前処理した鋼基材)及びS3(リン酸塩処理組成物(Gardobond(登録商標)GB26S 6800 OG)で前処理した亜鉛めっき鋼基材)を使用した。前記基材を電着コーティング材料でコーティングする前に、錫スニップを用いて基材S1の縁部でストリップを切り取った。基材S2及びS3の前処理前に、前記基材に7個の個別の穴を穿孔した。これらの穴及びその縁部はそれぞれサンディング又は磨き仕上げしておらず、それぞれ現実の基材のサンディング/磨き仕上げしていない縁部に類似したものであった。
【0197】
項目3の通りに調製した電着コーティング材料ECM-1~ECM-8を、それぞれ室温で24時間撹拌しながらエージングした。次いで、電着被覆材料を、カソードとして接続された基材S1~S3上に32~33℃の浴温度で2~3分以内にそれぞれ析出させ、脱イオン水ですすぎ、そしてオーブン中175℃(オーブン温度)で25分間(オーブン時間)焼き付けた。基材S1の場合、140~160Vの析出電圧を使用し、一方で基材S2及びS3の電着コーティング材料は、140~260Vを使用して析出させた。
【0198】
5. 結果
項目4の通りに調製した硬化した電着コーティング材料の耐食性、特に縁部耐食性、表面粗さ及び膜構築を、上記の項目1.7~1.10に記載の通りに測定した。結果を以下の表5~7に示す。
【0199】
【表5】
【0200】
【表6】
【0201】
【表7】
【0202】
6. 結果の考察
様々な量の共有結合したポリビニルアルコールポリマー基を含むカチオン性樹脂を含有する本発明の水性分散体(AD)(ECM-2及びECM-4~ECM-8)の使用は、本発明の分散体(AD)を含まないコーティング材料(ECM-1及びECM-3)と比較すると、前記水性分散体を含む水性コーティング材料でコーティングされた基材の表面粗さの低減、及び同等の又はさらに改善さえされた縁部腐食保護を得た(表5~表7参照)。この理論に束縛されることを望むものではないが、カチオン性エポキシミクロゲルに共有結合したポリビニルアルコールポリマーが、顔料に富む層に対する物理的なアンカー機能として作用し、それによってカチオン性ミクロゲルが前記層に固定されて、基材の縁部において高い膜厚が得られたと考えられる。さらに、アンカー機能により、形成されたコーティング層の内部にカチオン性ミクロゲルが保持されて、コーティング表面に低粘度の溶融層を有する一定の成層が形成される。前記成層は、良好な流動性及びレベリング特性のために必要なものである。
【国際調査報告】