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特表2024-510764スターリングクーラを有するNMR磁石システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】スターリングクーラを有するNMR磁石システム
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20240304BHJP
   F25B 9/14 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
F25B9/00 H ZAA
F25B9/14 520Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557104
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 IB2022052289
(87)【国際公開番号】W WO2022195458
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】17/201,297
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510263283
【氏名又は名称】ブルカー バイオスピン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランク ローキーン
(72)【発明者】
【氏名】フランク デッカー
(57)【要約】
NMR磁石システムは、システムの筐体内に延びて冷媒容器を取り囲むコールドシールドを冷却するコールドヘッドを有するスターリングクーラを使用する。システムは、クーラとコールドシールドとの間に位置し、クーラから冷媒に浸された磁気コイルへの振動の伝達を低減するダンパーを有してよい。ダンパーは、受動的であってもよいし、加速度センサを用いてクーラの振動を補償する能動的なダンパーを駆動するアクティブ緩衝システムの一部であってもよい。補償装置は、振動によって引き起こされる信号歪みの記憶された特性を使用してよく、クーラからのトリガ信号に応答して、磁気コイルのボア内のNMRプローブによってサンプルに供給される励起信号、またはプローブによって検出されるサンプルからのFID信号に補償を適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴(NMR)磁石システムであって、
ネックチューブを有する筐体と、
筐体内に位置し、かつ、液体ヘリウムに浸された磁気コイルを含むヘリウム容器と、
前記ヘリウム容器を取り囲むコールドシールドと、
クーラのコールドヘッドが前記筐体内に延び、かつ、熱結合を介して熱的に前記コールドシールドに接続されるように、前記ネックチューブに取り付けられたスターリングクーラと、を備える、NMR磁石システム。
【請求項2】
前記磁気コイルは、400~500MHzの等価磁場強度を生成する、請求項1に記載のNMR磁石システム。
【請求項3】
前記スターリングクーラは、80Kにおいて少なくとも30Wの冷却パワーを提供する、請求項1または2に記載のNMR磁石システム。
【請求項4】
前記スターリングクーラは、10Hzを超える周波数において動作する、請求項1~3の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項5】
前記熱結合は、前記スターリングクーラを前記コールドシールドから機械的に隔離する可撓性の熱伝導性要素を含む、請求項1~4の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項6】
前記NMR磁石システムは、室温ボアを中心としたz軸を有する垂直NMR磁石システムであり、前記スターリングクーラのコンプレッサ軸は前記z軸に対して平行に配向されている、請求項1~5の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項7】
前記スターリングクーラと前記コールドシールドとの間に位置し、前記スターリングクーラから前記磁気コイルへの振動伝達を低減するダンパーをさらに含む、請求項1~6の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項8】
前記ダンパーは、アクティブ緩衝システムの一部であり、かつ、能動的に駆動されて前記クーラの動きを補償する、請求項7に記載のNMR磁石システム。
【請求項9】
前記コールドシールドに対する前記スターリングクーラの動きを検出し、かつ、前記ダンパーを能動的に駆動するために用いられる信号を前記アクティブ緩衝システムに供給する、前記スターリングクーラに取り付けられた加速度センサをさらに含む、請求項8に記載のNMR磁石システム。
【請求項10】
前記NMR磁石システムの室温ボアに挿入されるNMRプローブであって、前記プローブは、前記磁石ボア内のサンプルにRF励起信号を供給し、かつ、前記サンプルからの自由誘導減衰(FID)信号を検出し、前記スターリングクーラから伝達される機械的振動が前記励起信号およびFID信号の何れか一方または双方において歪みを誘発する、前記NMRプローブと、
前記励起信号および/またはFID信号に前記歪みを打ち消す補償を適用する補償装置と、をさらに備える、請求項1~9の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項11】
前記補償装置は、前記歪みの表現が記憶されたデータ記憶要素を含む、請求項10に記載のNMR磁石システム。
【請求項12】
前記励起信号は、数値制御発振器(NCO)を用いて生成され、前記補償を前記励起信号に適用することは、記憶された前記歪みの表現を前記NCOの入力として供給することを含む、請求項11に記載のNMR磁石システム。
【請求項13】
前記補償を前記FID信号に適用することは、前記FID信号を、記憶された前記歪みの表現が組み込まれた発振器信号と共に周波数ミキサに入力することを含む、請求項11に記載のNMR磁石システム。
【請求項14】
前記スターリングクーラは、前記スターリングクーラの動きの状態を示す周期的なトリガ信号を生成し、前記トリガ信号は、前記補償装置によって受信され、前記補償を前記励起信号および/またはFID信号に適用する際に使用される、請求項10に記載のNMR磁石システム。
【請求項15】
NMR分光計であって、
ネックチューブを有する、磁石システムの筐体と、
前記筐体内に位置する冷媒容器と、
前記容器内に位置する冷媒に浸された磁気コイルと、
前記冷媒容器を取り囲むコールドシールドと、
クーラのコールドヘッドが前記筐体内に延び、かつ、熱結合を介して熱的に前記コールドシールドに接続されるように、前記ネックチューブに取り付けられたスターリングクーラと、
前記磁石システムの筐体の室温ボアに挿入されるNMRプローブであって、前記プローブは、前記ボア内のサンプルにRF励起信号を供給し、かつ、前記サンプルからの自由誘導減衰(FID)信号を検出し、前記スターリングクーラから伝達される機械的振動が前記励起周波数およびFID信号の何れか一方または双方において歪みを誘発する、前記NMRプローブと、
前記励起信号およびFID信号の一方または双方に前記歪みを打ち消す補償を適用する補償装置と、を備えるNMR分光計。
【請求項16】
前記補償装置は、前記歪みの表現が記憶されたデータ記憶要素を含む、請求項15に記載のNMR分光計。
【請求項17】
前記励起信号は、数値制御発振器(NCO)を用いて生成され、前記補償を前記励起信号に適用することは、記憶された前記歪みの表現を前記NCOの入力として供給することを含む、請求項16に記載のNMR分光計。
【請求項18】
前記補償を前記FID信号に適用することは、前記FID信号を、記憶された前記歪みの表現が組み込まれた発振器信号と共に周波数ミキサに入力することを含む、請求項16に記載のNMR磁石システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般にNMR磁石システムの分野に関し、より具体的には、そのようなシステムを用いた能動冷却の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]核磁気共鳴(NMR)磁石システムは、生体分子科学者にとって必須のツールである。経時的に、NMR磁石システムは、訓練を受けた人員による定期的な液体極低温体の補充を要する。また、極低温移動中は機器が不安定になるため、NMR磁石システムを動作させることができない。さらに、磁石を超伝導に適した温度まで冷却するために必要なヘリウムのコストは、経時的に上昇傾向にある。このようなシステムにおけるヘリウムの枯渇を部分的に克服するために、近年、いわゆる2段式パルスチューブ冷却装置(PTR)が使用されている。第1段はNMR磁石システムのコールドシールドに接続される一方、温度の低い第2段はヘリウム蒸気を介してNMR磁石のヘリウム容器に熱的に結合される。PTRは一定の冷却パワーを提供する。NMR磁石システムの動作条件を一定に保つため、ヘリウムを加熱する電気ヒータが使用されることもある。
【0003】
[0003]等価磁場強度が400MHzまたは500MHzである低コストのNMR磁石システムでは、1段のパルスチューブ冷却装置によるコールドシールドの能動冷却が使用され得る。これらのNMR磁石システムは、液体窒素のための容器を有さない。これらのNMR磁石システムにおいて使用されるPTRは、80Kの温度において30Wを超える冷却パワーを供給する。機能的な原理に起因して、PTRは、PTRのコールドヘッドの動作のために高圧を供給する外部コンプレッサを要する。コンプレッサの消費電力は高く(数kWのレンジ)、防音も必須である。その上、PTRは、訓練を受けた人員による定期的な部品点検が必要であり、これは運転の総費用を大幅に増加させる。さらに、PTRの動作周波数は1~2Hzのレンジであり、これにより、それらの周波数と当該周波数の高調波においてNMR磁石システムに機械的振動を誘発する。NMR磁石システムは、10Hz以下の機械的振動に特に敏感であることが示されている(例えば、非特許文献1を参照)。特に、NMR磁石システムのz軸(磁石ボアの軸)に垂直な方向の振動は、z方向に沿った振動よりも10倍高いノイズをNMR信号に誘発する。
【0004】
[0004]スターリングクーラは、コンプレッサ軸に沿って内部コンプレッサを駆動するスターリングクーラと、コンプレッサに対して非同期にディスプレーサ軸に沿って移動するディスプレーサとを備える。スターリングクーラの振動は、主にコンプレッサ軸方向およびディスプレーサ軸方向に発生するが、これらの2軸は平行または同軸であってもよい。インラインコンプレッサ、パラレルコンプレッサ、交差配向(cross-oriented)コンプレッサといった、スターリングクーラのコールドヘッドおよびコンプレッサの異なる配向を有するコンプレッサが実現または提案されている。低振動のセットアップも存在するが、コンプレッサの対称な配置が必要である(例えば、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ben-Dov, et al., “NMR sensitivity to floor vibration,” Journal of the Acoustical Society of America 123.5 (2008), 3813-3813.
【非特許文献2】Penswick, L., et al., “High-capacity and efficiency Stirling cycle cryocooler,” Cryocooler, Vol. 18, 2014.
【発明の概要】
【0006】
[0005]上記の要件および制約は、全体的な所有コストが低く、かつ、NMR測定の影響が最小なNMR磁石システムのコールドシールドのためのクーラの必要性を明示する。
【0007】
[0006]500ワット未満のモータ電力で80Kにおいて30Wを供給するスターリングクーラが商業的に利用可能であるため、シールド冷却は容易に達成可能である。スターリングクーラが故障するまでの期間は最大10年である。したがって、スターリングクーラをコールドシールド冷却のために使用するNMR磁石システムは、訓練を受けた人員による整備をほとんど必要としない。スターリングクーラは、典型的には、10Hzを超える機械的な周波数において動作する。この周波数は、PTRよりもNMR測定への影響が少ないであろうから、より良い結果につながる。
【0008】
[0007]本発明に従って、ネックチューブを有する筐体と、ハウジング内に位置し、かつ、磁気コイルを含むヘリウム容器と、を有する核磁気共鳴(NMR)システムが提供される。コールドシールドがヘリウム容器を取り囲み、クーラのコールドヘッドが筐体内に延びるように、スターリングクーラがネックチューブに取り付けられる。コールドヘッドは熱結合を介してコールドシールドに熱的に接続される。
【0009】
[0008]例示的な実施形態において、磁気コイルは、400~500MHzの等価磁場強度を発生する。スターリングクーラは、例えば、80Kの温度において少なくとも30Wの冷却パワーを提供し得る。好ましい一実施形態において、クーラは、10Hzを超える機械的周波数において動作する。熱結合は、可撓性の熱伝導性手段、特に、スターリングクーラをコールドシールドから機械的に隔離する銅撚線ワイヤのセットを含み得る。この実施形態の1つのバージョンにおいて、ワイヤは、クーラとコールドヘッドとの間の振動伝達を最小化する、クーラとコールドシールドとの間の弾性接続を提供する剛性および配向を有する。例示的な実施形態において、NMR磁石システムは、室温ボアを中心とするz軸を有する垂直NMR磁石システムであり、スターリングクーラのコンプレッサ軸はz軸に平行である。
【0010】
[0009]別の実施形態において、スターリングクーラは、スターリングクーラからNMR磁石システムへの機械振動の伝達をさらに低減するダンパーを備えたNMR磁石システムに搭載される。ダンパーは、機械的振動を受動的に減少させるために変形可能な弾性要素を備えてよい。別の実施形態では、加速度センサがスターリングクーラに取り付けられて、スターリングクーラの動きが測定される。この構成において、ダンパーは、加速度センサから受信した信号によって能動的に駆動されて反対の動きを行う。
【0011】
[0010]さらに別の実施形態では、スターリングクーラの動きの状態を示す周期的なトリガ信号を生成するスターリングクーラを有するNMR磁石システムが提供される。例えば、トリガ信号はクーラの動作サイクルごとに1回生成される。システムは、NMR磁石システムの室温ボアに挿入されるNMRプローブを有する配置において使用されてよく、プローブは、RF励起信号を磁石ボア内のサンプルに供給し、サンプルからの自由誘導減衰(FID)信号を検出する。この実施形態では、スターリングクーラからのトリガ信号を受信し、歪みを打ち消す補償を励起信号および/またはFID信号に適用する補償装置も提供される。
【0012】
[0011]補償装置は、歪みの表現が記憶されたデータ記憶要素を含み得る。励振信号は、数値制御発振器(NCO)を使用して生成されてよく、励振信号へ補償を適用することは、記憶された歪みの表現をNCOへの入力として提供することを伴ってよい。これは、励起信号において誘発された歪みを打ち消すオフセットを提供する。FID信号へ補償を適用することは、記憶された歪みの表現が組み込まれた発振器信号と共にFID信号を周波数ミキサに入力することを含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】[0012]図1は、本発明に係る、磁石システムのコールドシールドを冷却するスターリングクーラを使用するNMR磁石システムを示す図である。
図2】[0013]図2は、スターリングクーラのNMR磁石システムへの搭載の詳細を示す図である。
図3A】[0014]図3Aは、NMRプローブからの歪みの無い自由誘導減衰(FID)信号のグラフである。
図3B】[0015]図3Bは、図3Aと同様に、歪みを受けていないFID信号の一定周波数を示すグラフである。
図4A】[0016]図4Aは、スターリングクーラの動作からの振動によって歪みを受けているFID信号のグラフである。
図4B】[0017]図4Bは、図4Aと同様に、FID信号の歪みを受けた周波数特性を示すグラフである。
図5】[0018]クーラ動作に起因した歪み特性がルックアップテーブルからRF信号に組み込まれたアナログRF信号の生成を示す模式的なグラフである。
図6】[0019]図6は、NMRプローブ信号および検出されたFID信号においてクーラ動作に起因した歪みの存在を補償するために使用され得る歪み補償装置を模式的に示す図である。
図7A】[0020]図7Aは、クーラ動作に起因した歪みを有する信号の周波数特性、および、その信号を一定周波数のミキシング信号にミキシングした結果を示すグラフである。
図7B】[0021]図7Bは、クーラ動作に起因した歪みを有する信号の周波数特性、および、その信号を歪み補償特性が導入されたミキシング信号にミキシングした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0022]図1は、スターリングクーラ7を有するNMR磁石システム1を示す。NMR磁石システムは、筐体2と、ヘリウム容器4内の磁気コイル3と、を備える。ヘリウム容器は、コールドシールド5によって取り囲まれ、コールドシールド5は保持ロッド11によって筐体に固定される。ヘリウム容器は、幾つかの保持チューブの1つであり得る保持チューブ10に接続され、保持チューブは、ヘリウム容器4内のヘリウムガスが外部の収集チャンバ(不図示)へ通過し得る通路を提供する。保持チューブ10はまた、磁石をチャージする外部電源に磁気コイル3を接続するために、またヘリウム容器4にヘリウムを補充するためにも使用される。さらに、これらは、ヘリウム容器4を構造的に支持し、筐体2に対して適切な位置に保持する助けとなる。スターリングクーラ7は、NMR磁石システムのネックチューブ6に取り付けられる。コールドシールド5とネックチューブ6との間の熱接触が熱結合8によって提供され、熱結合はまた、スターリングクーラのコールドシールドからの機械的な隔離を提供する。z軸に沿った室温ボア9は、NMR磁石システムの磁気中心へのアクセスを提供する。サンプル(不図示)付きのNMRプローブが、サンプルのNMRスペクトルを測定するために室温ボアに挿入されてよい。
【0015】
[0023]動作において、コールドシールドによって囲まれた内部空間だけでなく筐体2も真空になる。ヘリウム容器4は、4.2Kの温度において液体ヘリウムによって満たされる。液体ヘリウムの蒸発によって、超電導が維持されるように磁気コイルの冷却が実現される。蒸発したヘリウムは、保持チューブ10を通過するパイプ(不図示)を介して大気圧において外部コンテナに収集される。ヘリウム容器4を取り囲むコールドシールド5は、スターリングクーラによって冷却され、かつ、80Kを下回る温度に維持されてNMR磁石システムに入射する熱放射を吸収する。80Kにおいて30Wのスターリングクーラの冷却パワーを有するこの構成は、400~500MHzのNMR磁石システムに適する。高い磁場強度を有するNMR磁石システムは、熱質量が大きく、サイズが大きいため、30Wのスターリングクーラによっては適切に補償できない、より多くの熱放射を受ける。スターリングクーラ7は、約50Hzの機械的周波数において動作する。つまり、1秒間に50回の機械的サイクルを繰り返す。スターリングクーラからNMRコイルへの機械的振動の伝達は、熱結合8の適切な設計、例えば銅撚線ワイヤによって低減される。
【0016】
[0024]NMR磁石システム1は、室温ボア9内のサンプルの位置におけるあらゆる磁場の変動が、測定されるNMR信号の変動をもたらすため、機械的な振動に敏感である。熱結合8による機械的な隔離にもかかわらず、50Hzの振動が磁気コイルに依然として伝達され得る結果、室温ボア9内のサンプルの位置において磁場に50Hzの変動が生じ得る。NMR信号線の高調波は、元の信号線に対して50Hzの複数の周波数間隔において発生し得るため、アーチファクトによって測定スペクトルが歪み得る。50Hzのスターリングクーラを使用する大きな利点は、NMR磁石システムが10Hzを超える外部機械振動に対して低感度なことである。PTRは、1Hzの倍数のレンジにおいて高調波を発生し、NMR信号に与える影響が大きいため、PTRを磁気コイルから切り離すこと、および、室温ボア9に挿入したNMRプローブを切り離すことがより難しくなる。
【0017】
[0025]z軸に沿った垂直NMR磁石システムの振動感度が低いため、図1に示すように、スターリングクーラ軸12をNMR磁石システムのz軸と平行に配置することが有利である。本実施形態において、スターリングクーラ軸12は、クーラのコンプレッサが往復運動する軸に対応し、クーラのディスプレーサが移動する軸にも対応し得る。複数のコンプレッサを有するスターリングクーラの場合、コンプレッサがコールドヘッドに対して対称に配置され同期して動作する条件において、この位置合わせはそれほど重要ではない。
【0018】
[0026]スターリングクーラは、冷却能力を大きく変えずに、その動作周波数を微調整できる。このようにして、クーラの動作周波数を磁石システムの共振周波数またはその高調波から離れるようにする、例えば50Hzから48Hzに変更することにより、NMR磁石システムの振動共鳴が防止され得る。本明細書において説明するシステムは、(図面に示すように)垂直な室温ボアを有するNMR磁石システムと同様に、水平な室温ボアを有するNMR磁石システムにも使用できる。
【0019】
[0027]図2は、本発明の特定の実施形態におけるスターリングクーラの搭載の詳細を示す。NMR磁石システムとスターリングクーラ7との間にダンパー15が挿入される。第1の変形例において、ダンパーは、機械的振動を受動的に低減するために変形可能な弾性要素を備える。第2の変形例では、加速度センサ16がスターリングクーラ7に取り付けられ、磁石システムに対する相対的なその動きが測定される。この変形例において、ダンパー15は、加速度センサから受信した信号によって能動的に駆動され、初期の相対的な動きを補償する逆の動きを実施する。
【0020】
[0028]本発明の代替的な実施形態において、スターリングクーラ7のようなクーラがNMR分光計に与える影響は、分光計で使用される信号において直接に補償される。図3Aは、NMR分光計からの、歪みを受けていない自由誘導減衰(FID)出力信号を示す。単一周波数の位相変化は、図3Bに示すように、微分が一定の周波数に対応する経時的な線形勾配によって与えられる。これは、サンプルにとって安定した磁場であることを示す。しかし、スターリングクーラ7の動作は、図4Aに示すように、NMR信号に歪みの影響を与え得る。この図において、クーラの動作サイクルは、破線によって示され、FID信号と重ねられている。クーラの動作は、歪みを受けていない信号の線形勾配に対するFID信号の位相変化の偏差として現れる歪みを引き起こす。経時的な位相変化は、図4Bに示すように、時間に対する周波数の変化として表すことができる。
【0021】
[0029]この誤差に対処するため、測定された周波数歪み特性が、歪みの影響を補償するNMR励起信号の周波数の調整に使用されてよい。周波数歪み特性は、好ましくは、狭帯域のNMRサンプル、すなわち、1本のシャープな共鳴線(長いFIDと等価)を有し、信号対雑音比の高いサンプル(例えば、HO、典型的にはDOと混合されたもの)を用いて測定することが可能である。特に、歪み特性は、ルックアップテーブルに保存されてよく、使用されているNMRパルス列の周波数において、および、検出されたFID信号のダウンミキシングにおいて、対応する変化をもたらすために使用されてよい。
【0022】
[0030]図5に示すのは、図の下部に沿ったスターリングクーラの動作周期を示す模式図である。冷却サイクルそれぞれの開始時に、クーラは、トリガ信号をNMR分光計に送信し、トリガ信号は、周波数補正のデジタル表現を、それが格納されているルックアップテーブル50から出力するために使用される。この値(「周波数制御ワード」と称される)は、サンプルを分光分析するための所望のパルス列を表す周波数制御ワードと共に、デジタルダイレクト合成器(DDS)54の数値制御発振器(NCO)52に入力される。NCO52は、2つの制御ワードを組み合わせた入力から、所望のRFパルス列を表すデジタル情報のデータストリームを生成するが、周波数歪みによる位相変化を有する。DDS54は、適切なフィルタ(不図示)と共に、正弦波ルックアップテーブル(LUT)56およびデジタル-アナログ変換器(DAC)58を用いることによって、NCO52からのデータをアナログRF信号に変換する。
【0023】
[0031]システム全体の模式図が図6に示される。図の上部には、図5のNCO52と同じように動作するNCO60を示す。正弦波ルックアップテーブル62およびDAC64は、周波数歪みによって変化した、所望のRFパルス列を表すアナログ周波数信号を出力する。ただし、最近のNMR分光計では、検出周波数が非常に高く、DACによって直接には生成できない。そのため、DAC64の出力は、局部発振器(LO)68の出力周波数と共にミキサ66に入力される。このミキシングステップにより、低周波数のアナログ信号が、アナログRF信号にアップコンバートされ、増幅器70において増幅され、分光計の磁石ボア69内に位置するサンプルを励起するために使用される。
【0024】
[0032]サンプルからのFID信号は、増幅器67によって検出され増幅される。この高周波信号は、LO66の出力と共にミキサ65に入力され、ADC変換に利用可能なかなり低い周波数にダウンミキシングされる。この低周波数のFID信号は、アナログ-デジタル変換器(ADC)63によってデジタル化され、デジタルミキサ61に導かれる。デジタルミキサ61は、他の入力として、NCO70および正弦波LUT72によって生成されたデジタル低周波信号を受信する。このデジタルミキシングステップは、低周波デジタルFID信号をゼロ周波数に低減する。しかし、FID信号にもまた周波数歪みが含まれるため、ダウンミキシングは、NCO60と同様に、周波数歪みによって生成されたオフセット信号を入力の1つとして有するNCO70の出力を用いて行われる。NCOからの低周波信号にはこのオフセットが存在するため、ミキサの出力は、周波数歪みの影響が除去されたゼロ周波数のFID信号となる。
【0025】
[0033]励振信号およびFID信号の双方に対して行われたミキシングの効果は、図7Aおよび図7Bによって実証され、それぞれは、2つの異なる信号をミキシングした後の周波数対時間特性の結果を示す。図7Aでは、着目信号(励起信号またはFID信号の何れか)が点線で示され、クーラ動作によって生じた周波数歪みを有することが示される。この例において、ミキシング信号は破線で描かれており、一定の周波数である。その結果、実線で示される出力信号もまた周波数歪みを示す。同様の表現が図7Bに示されており、着目信号(点線)はやはり周波数歪みを有するが、この例ではミキシング信号(破線)も同じ周波数歪みを有する。その結果、出力信号(実線)は周波数歪みを示していない。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
【手続補正書】
【提出日】2023-10-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴(NMR)磁石システムであって、
ネックチューブを有する筐体と、
筐体内に位置し、かつ、液体ヘリウムに浸された磁気コイルを含むヘリウム容器と、
前記ヘリウム容器を取り囲むコールドシールドと、
クーラのコールドヘッドが前記筐体内に延び、かつ、熱結合を介して熱的に前記コールドシールドに接続されるように、前記ネックチューブに取り付けられたスターリングクーラと、を備える、NMR磁石システム。
【請求項2】
前記磁気コイルは、400~500MHzの等価磁場強度を生成する、請求項1に記載のNMR磁石システム。
【請求項3】
前記スターリングクーラは、80Kにおいて少なくとも30Wの冷却パワーを提供する、請求項1または2に記載のNMR磁石システム。
【請求項4】
前記スターリングクーラは、10Hzを超える周波数において動作する、請求項1~3の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項5】
前記熱結合は、前記スターリングクーラを前記コールドシールドから機械的に隔離する可撓性の熱伝導性要素を含む、請求項1~4の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項6】
前記NMR磁石システムは、室温ボアを中心としたz軸を有する垂直NMR磁石システムであり、前記スターリングクーラのコンプレッサ軸は前記z軸に対して平行に配向されている、請求項1~5の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項7】
前記スターリングクーラと前記コールドシールドとの間に位置し、前記スターリングクーラから前記磁気コイルへの振動伝達を低減するダンパーをさらに含む、請求項1~6の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項8】
前記ダンパーは、アクティブ緩衝システムの一部であり、かつ、能動的に駆動されて前記クーラの動きを補償する、請求項7に記載のNMR磁石システム。
【請求項9】
前記コールドシールドに対する前記スターリングクーラの動きを検出し、かつ、前記ダンパーを能動的に駆動するために用いられる信号を前記アクティブ緩衝システムに供給する、前記スターリングクーラに取り付けられた加速度センサをさらに含む、請求項8に記載のNMR磁石システム。
【請求項10】
前記NMR磁石システムの室温ボアに挿入されるNMRプローブであって、前記NMRプローブは、前記室温ボア内のサンプルにRF励起信号を供給し、かつ、前記サンプルからの自由誘導減衰(FID)信号を検出し、前記スターリングクーラから伝達される機械的振動が前記励起信号およびFID信号の何れか一方または双方において歪みを誘発する、前記NMRプローブと、
前記励起信号および/またはFID信号に前記歪みを打ち消す補償を適用する補償装置と、をさらに備える、請求項1~9の何れか1項に記載のNMR磁石システム。
【請求項11】
前記補償装置は、前記歪みの表現が記憶されたデータ記憶要素を含む、請求項10に記載のNMR磁石システム。
【請求項12】
前記励起信号は、数値制御発振器(NCO)を用いて生成され、前記補償を前記励起信号に適用することは、記憶された前記歪みの表現を前記NCOの入力として供給することを含む、請求項11に記載のNMR磁石システム。
【請求項13】
前記補償を前記FID信号に適用することは、前記FID信号を、記憶された前記歪みの表現が組み込まれた発振器信号と共に周波数ミキサに入力することを含む、請求項11に記載のNMR磁石システム。
【請求項14】
前記スターリングクーラは、前記スターリングクーラの動きの状態を示す周期的なトリガ信号を生成し、前記トリガ信号は、前記補償装置によって受信され、前記補償を前記励起信号および/またはFID信号に適用する際に使用される、請求項10に記載のNMR磁石システム。
【請求項15】
核磁気共鳴(NMR分光計であって、
ネックチューブを有する、磁石システムの筐体と、
前記筐体内に位置する冷媒容器と、
前記冷媒容器内に位置する冷媒に浸された磁気コイルと、
前記冷媒容器を取り囲むコールドシールドと、
クーラのコールドヘッドが前記筐体内に延び、かつ、熱結合を介して熱的に前記コールドシールドに接続されるように、前記ネックチューブに取り付けられたスターリングクーラと、
前記磁石システムの筐体の室温ボアに挿入されるNMRプローブであって、前記NMRプローブは、前記室温ボア内のサンプルにRF励起信号を供給し、かつ、前記サンプルからの自由誘導減衰(FID)信号を検出し、前記スターリングクーラから伝達される機械的振動が前記励起信号およびFID信号の何れか一方または双方において歪みを誘発する、前記NMRプローブと、
前記励起信号およびFID信号の一方または双方に前記歪みを打ち消す補償を適用する補償装置と、を備えるNMR分光計。
【請求項16】
前記補償装置は、前記歪みの表現が記憶されたデータ記憶要素を含む、請求項15に記載のNMR分光計。
【請求項17】
前記励起信号は、数値制御発振器(NCO)を用いて生成され、前記補償を前記励起信号に適用することは、記憶された前記歪みの表現を前記NCOの入力として供給することを含む、請求項16に記載のNMR分光計。
【請求項18】
前記補償を前記FID信号に適用することは、前記FID信号を、記憶された前記歪みの表現が組み込まれた発振器信号と共に周波数ミキサに入力することを含む、請求項16に記載のNMR分光計
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
[0002]核磁気共鳴(NMR)磁石システムは、生体分子科学者にとって必須のツールである。経時的に、NMR磁石システムは、訓練を受けた人員による定期的な液体極低温体の補充を要する。また、極低温移動中は機器が不安定になるため、NMR磁石システムを動作させることができない。さらに、磁石を超伝導に適した温度まで冷却するために必要なヘリウムのコストは、経時的に上昇傾向にある。このようなシステムにおけるヘリウムの枯渇を部分的に克服するために、近年、いわゆる2段式パルスチューブ冷却装置(PTR)が使用されている。第1段はNMR磁石システムのコールドシールドに接続される一方、温度の低い第2段はヘリウム蒸気を介してNMR磁石システムのヘリウム容器に熱的に結合される。PTRは一定の冷却パワーを提供する。NMR磁石システムの動作条件を一定に保つため、ヘリウムを加熱する電気ヒータが使用されることもある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
[0032]サンプルからのFID信号は、増幅器67によって検出され増幅される。この高周波信号は、LO68の出力と共にミキサ65に入力され、ADC変換に利用可能なかなり低い周波数にダウンミキシングされる。この低周波数のFID信号は、アナログ-デジタル変換器(ADC)63によってデジタル化され、デジタルミキサ61に導かれる。デジタルミキサ61は、他の入力として、NCO70および正弦波LUT72によって生成されたデジタル低周波信号を受信する。このデジタルミキシングステップは、低周波デジタルFID信号をゼロ周波数に低減する。しかし、FID信号にもまた周波数歪みが含まれるため、ダウンミキシングは、NCO60と同様に、周波数歪みによって生成されたオフセット信号を入力の1つとして有するNCO70の出力を用いて行われる。NCOからの低周波信号にはこのオフセットが存在するため、ミキサの出力は、周波数歪みの影響が除去されたゼロ周波数のFID信号となる。
【国際調査報告】