(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】体内の不規則組織の封止および固定メカニズムならびにその封止および固定方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558340
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 IL2022050324
(87)【国際公開番号】W WO2022201158
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523358998
【氏名又は名称】シンビオシス シー.エム.リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Symbiosis C.M.LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】バーグ,シラ
(72)【発明者】
【氏名】シャフリール,ロエイ
(72)【発明者】
【氏名】ベン ヨセフ,エラン
(72)【発明者】
【氏名】エリシャ,エラド
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097BB04
4C097BB08
4C097BB09
4C097CC05
4C097CC12
4C097CC18
4C097SB02
4C097SB09
(57)【要約】
本開示は、弁を置換することを目的とする人工弁を受け入れる支持構造体、人工弁システム、天然組織と人工インプラントとの間を封止する方法、人工弁を埋め込むためのキット、および支持構造体とともに使用される媒体に関する。この技法は、インプラント構造体に様々な生体構造との高い適合性を提供するとともに、最適な封止および組織固定を可能にし、したがって、個人化された弁置換処置を実現する。この技法は、人工器官を必要とする様々な複雑な生体構造を最適に封止し固定するための正確な装着を提供する。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放キャビティを規定し、複数の整形可能要素および複数の拡張可能な補強要素を受け入れることができる可撓性保持要素を備え、それによって、前記複数の整形可能要素および前記複数の拡張可能な補強要素が前記可撓性保持要素内に完全に封入されることにより、高度に圧縮可能な可撓性の動的支持構造体を作成する、人工弁を受け入れるための支持構造体。
【請求項2】
前記可撓性保持要素がインシチューで整形することができる、請求項1に記載の支持構造体。
【請求項3】
前記可撓性保持要素が、前記複数の整形可能要素を充填すると主に径方向に拡張できる弾性材料で作られる、請求項1または2に記載の支持構造体。
【請求項4】
前記可撓性保持要素が、前記支持構造体を天然組織に自己固定できるようにする粗いテクスチャを有する外表面を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項5】
前記外表面が、メッシュ状パターンまたはドット状パターンまたはグリッド状パターンを規定する、請求項4に記載の支持構造体。
【請求項6】
前記外表面が迅速な内皮増殖を促進する材料で作られる、請求項4または5に記載の支持構造体。
【請求項7】
前記可撓性保持要素が、滑らかで線形的な血流を可能にするとともに血栓形成および乱流を防ぐ材料で作られる、前記開放キャビティと連結する内表面を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項8】
前記可撓性保持要素が少なくとも1つの非血栓形成性の布メッシュ部分を備える、請求項5から7のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項9】
前記複数の整形可能要素がそれぞれ、前記支持構造体を天然組織に自己固定し封止するため、インシチューでサイズおよび形状を調整可能であるように構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項10】
前記少なくとも1つの整形可能要素がそれぞれ、可撓性を維持するとともに心臓周期に合わせた動きを可能にしながら僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁に対する最適な封止および組織固定を可能にする少なくとも1つの充填材料を使用して、インシチューで別個にまたは同時に充填することができる、請求項9に記載の支持構造体。
【請求項11】
前記少なくとも1つの充填材料が、患者の生体構造にしたがってインシチューで充填する間、偏心した拡幅および拡張を可能にする、固有の可撓特性を有する、請求項10に記載の支持構造体。
【請求項12】
少なくとも1つの充填材料が、ガス、液体、ゲル、粉末、細粒、またはそれらの任意の組み合わせのうち少なくとも1つの形態である、少なくとも1つの流体を含む、請求項11に記載の支持構造体。
【請求項13】
前記複数の拡張可能な補強要素が、前記支持構造体を自己固定し安定化させるように構成され動作可能である、請求項1から12のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項14】
前記拡張可能な補強要素の一部が、各整形可能要素を径方向に拡張させる、整形可能要素の上または上方に位置付けられる、請求項13に記載の支持構造体。
【請求項15】
前記補強要素の1つが、前記開放キャビティの固定の内寸を規定し、弁輪レベルで安定性を維持するように構成され動作可能である、請求項13または14に記載の支持構造体。
【請求項16】
前記複数の拡張可能な補強要素の少なくともいくつかが、形状または直径の少なくとも1つを含む同じ物理的性質を有する、請求項13から15のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項17】
前記複数の拡張可能な補強要素の少なくともいくつかが、形状または直径の少なくとも1つを含む異なる物理的性質を有する、請求項13から16のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項18】
前記少なくとも整形可能要素および前記複数の補強要素がそれぞれ、患者の生体構造にしたがって、前記支持構造体と天然組織との間に少なくとも270度の封止を提供する構成を有する、請求項9から17のいずれか一項に記載の支持構造体。
【請求項19】
前記少なくとも整形可能要素および前記複数の補強要素がそれぞれ、患者の生体構造にしたがって、前記支持構造体と天然組織との間に実質的に360度の封止を提供する閉ループ構成を有する、請求項18に記載の支持構造体。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の支持構造体と、前記支持構造体と結合される複数の人工弁とを備え、前記複数の人工弁尖が一方向弁として構成され動作可能である、人工弁システム。
【請求項21】
前記複数の人工弁が前記支持構造体に予め固定され取り付けられる、請求項20に記載の人工弁システム。
【請求項22】
前記複数の人工弁が前記支持構造体に統合される、請求項20に記載の人工弁システム。
【請求項23】
天然組織と人工インプラントとの間を封止する方法であって、
経心尖または経中隔処置を介して天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと、複数の整形可能要素を有する可撓性の折り畳まれた支持構造体を前進させ展開することと、
前記可撓性支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素にインシチューで充填材料を充填することと、
前記可撓性支持構造体の外表面を拡大することと、
患者の生体構造にしたがって前記可撓性支持構造体の最終外形を形成することによって、前記天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁と前記可撓性支持構造体との間の封止を作成することと
を含む、方法。
【請求項24】
前記可撓性支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素にインシチューで充填材料を充填することが、複数の整形可能要素を別個にまたは同時にインシチューで充填することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記支持構造体を前記天然組織に自己固定することをさらに含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
人工弁を埋め込むためのキットであって、
滅菌バリアを提供することができる容器と、
前記容器内に受け入れられる滅菌カテーテルであって、遠位端および近位端を有する滅菌カテーテルと、
前記滅菌カテーテルの前記遠位端に取外し可能に結合された前記容器内に受け入れられる滅菌人工弁であって、請求項1から20のいずれか一項に記載の可撓性の折り畳まれた支持構造体と結合される複数の人工弁尖を含む、滅菌人工弁と、
前記可撓性の折り畳まれた支持構造体を充填し、前記滅菌人工弁を天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと展開することができる充填材料と
を備える、キット。
【請求項27】
前記可撓性の折り畳まれた支持構造体に取外し可能に結合される注入デバイスであって、患者の生体構造にしたがって前記可撓性支持構造体を充填し整形することができる注入デバイスをさらに備える、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記注入デバイスが、複数のルーメンを有するマルチルーメン送達構造体を備え、前記マルチルーメン構造体の1つのルーメンが充填材料を注入するように構成され、前記ルーメンが、前記可撓性の折り畳まれた支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素に接続される少なくとも1つの注入ポートを備える、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
少なくとも1つの注入ポートが、閉鎖することができる一方向ポートとして構成される、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記可撓性の折り畳まれた支持構造体が、前記充填材料の少なくとも一部を予め充填することができる、請求項26から29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
前記充填材料が、液体に暴露されると前記可撓性の折り畳まれた支持構造体内で膨張することができる高浸透圧薬を含む、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記滅菌人工弁が、組み合わされた永久弁として構成される複数のプリフィックスされた人工弁尖を備え、前記複数のプリフィックスされた人工弁尖が、前記可撓性の折り畳まれた支持構造体内に受け入れられる、請求項26から31のいずれか一項に記載のキット。
【請求項33】
前記複数の人工弁尖が前記可撓性の折り畳まれた支持構造体に予め固定され取り付けられる、請求項26から32のいずれか一項に記載のキット。
【請求項34】
前記複数の人工弁尖が前記可撓性の折り畳まれた支持構造体に統合される、請求項26から33のいずれか一項に記載のキット。
【請求項35】
人工弁を受け入れる支持構造体とともに使用される媒体であって、前記支持構造体を天然組織に自己固定できるようにする粗いテクスチャで作られた外表面と、滑らかで線形的な血流を可能にするとともに血栓形成および前記弁を通る乱流を防ぐことができる材料で作られた反対側の内表面と、を備える、媒体。
【請求項36】
前記反対側の内表面が開放キャビティを規定する、請求項35に記載の媒体。
【請求項37】
前記外表面が、メッシュ状パターンまたはドット状パターンまたはグリッド状パターンを規定する、請求項35または36に記載の媒体。
【請求項38】
前記外表面が迅速な内皮増殖を促進する材料で作られる、請求項35から37のいずれか一項に記載の媒体。
【請求項39】
整形する際に前記支持構造体の主に径方向の拡張を可能にする、弾性材料で作られる、請求項35から38のいずれか一項に記載の媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体内の不規則組織の封止および固定メカニズム、ならびに不規則な解剖学的構造体の封止および固定方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な解剖学的構造体には多数の機能上の利益があるが、疾病過程によってかかる構造体の修復または置換の必要が生じたとき、複雑さによって、適合する人工器官を開発するのが著しく困難になることがある。かかる非常に複雑な構造体の好例は、どちらもばらつきがある輪郭および境界を有する、2つの房室心臓弁、つまり僧帽弁と三尖弁である。非対称の鞍様の形状であることに加えて、弁構造体およびその三次元構成に関して、患者ごとのばらつきが大きいことが知られている。僧帽弁置換に関する現行のアプローチとしては、ユニバーサル形状の、予め整形され、予めサイズ決めされた、弁インプラントの外科的置換が挙げられる。経カテーテルデバイスも、ユニバーサルのプリフィックスされた構造体およびサイズに基づく。
【発明の概要】
【0003】
上記に関連する可変性を克服するため、当該分野において、組織および隣接する解剖学的構造体の損傷を最小限に抑えながら様々な生体構造に適合して最適な封止および組織固定を可能にするインプラント構造体を提供することが必要とされている。本願において請求する主題の技法は、僧帽弁などの人工器官を必要とする複雑な解剖学的部位に対して最適に封止し固定する正確な装着を提供する。より具体的には、本願において請求する主題の技法は、不規則な生体構造をリアルタイムで封止し固定するメカニズムを提供する。
【0004】
本開示の第1の態様によれば、僧帽弁および/または三尖弁、ならびに/あるいは大動脈弁および肺動脈弁などの半月弁を置換することを目的とする、人工弁を受け入れる支持構造体が提供される。支持構造体は、弁の弁輪生体構造と汎用の(即ち、丸い対称的な市販の)生体弁および/または合成弁との間のメディエータ/スペーサ/アダプタ/ドッキングステーションとして構成されてもよく、可撓性材料をリアルタイムで(即ち、弁の置換中に)整形することによって、支持構造体自体を患者の弁生体構造に受け入れる。この支持構造体は、様々な複数の弁生体構造と適合する可撓性の動的構造体を作成し、弁輪生体構造にしたがって形を成してもよい。
【0005】
いくつかの実施形態では、支持構造体は人工弁尖を受け入れ、したがって完全に機能する弁を作成することができる。支持構造体は、開放キャビティを規定し、複数の整形可能要素を受け入れることができる可撓性保持要素と、複数の拡張可能な補強要素とを備え、それによって、複数の整形可能要素および複数の拡張可能な補強要素が可撓性保持要素内に完全に封入されることにより、高度に圧縮可能な可撓性の動的支持構造体を作成する。可撓性保持要素は、複数の整形可能要素を充填すると主に径方向に拡張できる程度まで弾性がある材料で作られてもよい。これに関連して、「可撓性材料」という用語は、弾性の物理的性質および熱可塑性を有する変形範囲、ならびにプラスチックの物理的性質を有する変形範囲を有するように特に構成された、弾塑性材料を指すことが注目されるべきである。「可撓性構造体」という用語は、いずれの物理的生体構造にも適応できるように構成された構造体全体の機械的性質、ならびに破損することなく簡単に曲げる能力、または曲がる能力を指す。可撓性は、可撓性保持要素の異なる部分、ならびに可撓性および動的構造体全体にわたって可変であってもよい。例えば、可撓性保持要素は、異なる可撓性をそれぞれ有する3つの部分に分割されてもよい。「圧縮可能な構造体」という用語は、圧縮され(即ち、折り畳まれ)サイズおよび/または体積が低減されるように構成された、構造体全体の機械的性質を指す。複数の拡張可能な補強要素は、長時間にわたって構造体全体の安定性をもたらす。複数の整形可能要素は、1つの区画が他の区画に接続された複数の区画を有する1つの独立した全体ユニットとして、またはいくつかの別個のユニットとして構成されてもよい。
【0006】
上述したように、本願において開示する主題は、僧帽弁および/または三尖弁、ならびに/あるいは大動脈弁および/または肺動脈弁などの半月弁などの弁の低侵襲性経カテーテル置換に関する。本願において開示する主題の支持構造体は、経心尖または経中隔アプローチを介して天然僧帽弁上へと展開することができる。しかしながら、本開示の技法は、僧帽弁および/または三尖弁の置換に限定されず、他のあらゆる漏出または狭窄している半月弁などの心臓弁の治療、心房もしくは心室中隔欠損または動脈管開存症などの先天性心臓欠陥の閉鎖および封止、あるいは他のあらゆる動静脈瘻または短絡、ならびに最適な左心耳封止および閉鎖にも使用されてもよい。さらに、本願において請求する主題の封止および固定技法は、心房、肺静脈、腎動脈など、複雑な蛇行性の解剖学的構造体のアブレーション処置において、最適な組織付着に適用可能であってもよい。加えて、この概念は、整形外科インプラント、形成外科手術、神経外科手術、軟組織外科手術などに適用可能であってもよい。インシチューの患者特異的な人工器官の装着および封止の概念に対するさらなる応用も適用されてもよい。
【0007】
本願において開示する主題は、折り畳まれた対称または非対称の支持構造体を含む。支持構造体が展開され、蛍光透視法および/または心エコー検査法などの適切なイメージングモダリティを介してその適正位置が確認されると、支持構造体は、インシチューで患者の生体構造にしたがって、ガスの形態の好適な材料(ヘリウム、二酸化炭素、もしくはその他など)、液体の形態の好適な材料(食塩水、注射用水、リバースサーマルゲルなどの可能な硬化性を有する液体ポリマー化合物、ヒドロゲル、医療等級のシリコーン、もしくは他の流体など)、または他の任意の好適な材料(任意の種類の生体マトリックス、高浸透圧性の細粒など)であって、可撓性を維持するとともに心臓周期との調和した動きを可能にする材料の少なくとも1つを含む、最適な生体適合性材料を充填される。より具体的には、可撓性保持要素はインシチューで整形することができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、可撓性保持要素は、支持構造体を天然組織に自己固定できるようにする粗いテクスチャを有する外表面を有する。外表面は、メッシュ状パターン、ドット状パターン、またはグリッド状パターンなど、任意の可能なパターンを規定してもよい。外表面は、迅速な内皮増殖を促進する材料で作られてもよい。可撓性保持要素は、滑らかで線形的な血流を可能にするとともに血栓形成および乱流を防ぐ材料で作られる、開放キャビティと連結する内表面を有してもよい。可撓性保持要素は、少なくとも1つの非血栓形成性の布メッシュ部分を備えてもよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、複数の整形可能要素はそれぞれ、支持構造体を天然組織に自己固定し封止するため、インシチューでサイズおよび形状を調節可能であるように構成される。少なくとも1つの整形可能要素はそれぞれ、僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁に対する最適な封止および組織固定を可能にしながら、可撓性を維持するとともに心臓周期に合わせた動きを可能にする少なくとも1つの充填材料を使用して、インシチューで別個にまたは同時に充填することができる。充填材料は、患者の生体構造にしたがってインシチューで充填する間、偏心した拡幅および拡張を可能にする、固有の可撓特性を有してもよい。少なくとも1つの充填材料は、少なくとも1つのガス、液体、ゲル、粉末、細粒、またはそれらの任意の組み合わせの形態である、少なくとも1つの流体を含んでもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、複数の拡張可能な補強要素は、支持構造体を自己固定し安定化させるように構成され動作可能である。拡張可能な補強要素のいくつかは、各整形可能要素を径方向に拡張させる、整形可能要素の上または上方に位置付けられてもよい。補強要素の1つは、開放キャビティの固定の内寸を規定してもよく、弁輪レベルで安定性を維持するように構成され動作可能である。これに関連して、補強要素は腰部(弁輪レベル)でのみ固定の半径でデバイスを維持することが注目されるべきである。布および整形可能要素によって、心房および心室レベルで主に外側の拡張が可能になるが、内側の拡張も可能になる。したがって、内側の拡張は、漏出に対してより広く行き渡るこれらのレベルで、生体弁とデバイスとの間の封止に寄与してもよい。さらに、この内側の拡張は生体弁を歪ませない(拡張は、接触するようになる構造体に適合し、本質的に攻撃的ではないように構成された、整形可能要素によるものであるため)。
【0011】
複数の拡張可能な補強要素の少なくともいくつかは、形状もしくは直径の少なくとも一方を含む、同じまたは異なる物理的性質を有してもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、少なくとも整形可能要素および複数の補強要素はそれぞれ、患者の生体構造にしたがって、支持構造体と天然組織との間に少なくとも270度の封止を提供する構成を有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、少なくとも整形可能要素および複数の補強要素はそれぞれ、患者の生体構造にしたがって、支持構造体と天然組織との間に実質的に360度の封止を提供する閉ループ構成を有する。
【0014】
本発明の別の広範な態様によれば、上記に規定したような支持構造体と、支持構造体と結合された複数の人工弁尖とを備え、複数の人工弁尖が一方向弁として構成され動作可能である、人工弁システムが提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、複数の人工弁尖は、支持構造体に予め固定され取り付けられる。あるいは、複数の人工弁尖は支持構造体に統合される。
【0016】
本発明の別の広範な態様によれば、天然組織と人工インプラントとの間を封止する方法が提供される。方法は、経心尖または経中隔処置を介して天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと、複数の整形可能要素を有する可撓性の折り畳まれた支持構造体を前進させ展開することと、可撓性支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素にインシチューで充填材料を充填することと、可撓性支持構造体の外表面を拡大することと、患者の生体構造にしたがって可撓性支持構造体の最終外形を形成することによって、天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁と可撓性支持構造体との間の封止を作成することと、を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、可撓性支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素にインシチューで充填材料を充填することは、複数の整形可能要素を別個にまたは同時にインシチューで充填することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、支持構造体を天然組織に自己固定することを含む。
【0019】
本発明の別の広範な態様によれば、滅菌バリアを提供することができる容器と、容器内に受け入れられる滅菌カテーテルであって、遠位端および近位端を有する滅菌カテーテルと、滅菌カテーテルの遠位端に取外し可能に結合された容器内に受け入れられる滅菌人工弁であって、上記に規定したような可撓性の折り畳まれた支持構造体と結合された複数の人工弁尖と、可撓性の折り畳まれた支持構造体を充填し、滅菌人工弁を天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと展開することができる充填材料とを含む滅菌人工弁、を備える、人工弁を埋め込むためのキットが提供される。
【0020】
いくつかの実施形態では、キットはさらに、可撓性の折り畳まれた支持構造体に結合される注入デバイスを含む。注入デバイスは、患者の生体構造にしたがって、充填に使用される材料、および可撓性支持構造体を注入するのに使用される。
【0021】
いくつかの実施形態では、注入デバイスは、複数のルーメンを有するマルチルーメン送達構造体を備え、マルチルーメン構造体の1つのルーメンは充填材料を注入するように構成され、ルーメンは、可撓性の折り畳まれた支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素に接続される少なくとも1つの注入ポートを備える。
【0022】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの注入ポートは、閉鎖することができる一方向ポートとして構成される。
【0023】
いくつかの実施形態では、可撓性の折り畳まれた支持構造体は、充填材料の少なくとも一部を予め充填することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、充填材料は、液体に暴露されると可撓性の折り畳まれた支持構造体内で膨張することができる高浸透圧薬を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、滅菌人工弁は、組み合わされた永久弁として構成される複数のプリフィックスされた人工弁尖を備え、複数のプリフィックスされた人工弁尖は、可撓性の折り畳まれた支持構造体内に受け入れられる。
【0026】
いくつかの実施形態では、複数の人工弁尖は、可撓性の折り畳まれた支持構造体に予め固定され取り付けられる。あるいは、複数の人工弁尖は可撓性の折り畳まれた支持構造体に統合される。
【0027】
本発明の別の広範な態様によれば、人工弁を受け入れる支持構造体とともに使用される媒体であって、支持構造体を天然組織に自己固定できるようにする粗いテクスチャで作られた外表面と、滑らかで線形的な血流を可能にするとともに血栓形成および弁を通る乱流を防ぐことができる材料で作られた反対側の内表面と、を備える、媒体が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態では、反対側の内表面は開放キャビティを規定する。
【0029】
いくつかの実施形態では、外表面は、メッシュ状パターン、ドット状パターン、またはグリッド状パターンを規定する。
【0030】
いくつかの実施形態では、外表面は迅速な内皮増殖を促進する材料で作られる。
【0031】
いくつかの実施形態では、媒体は、整形する際に支持構造体の主に径方向の拡張を可能にする、弾性材料で作られる。媒体(即ち、布)は、天然弁輪に向かう拡張を大部分は可能にするように構成することができる。
【0032】
本明細書で開示する主題をより良く理解し、実際にどのように実施されてもよいかを例証するため、次に、実施形態について、非限定例のみを用いて添付画面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の可能な構成を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の1つの整形可能要素の異なる可能な構成を示す上面図である。
図2D~
図2Fは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の可能な構成を示す等角図である。
【
図3】
図3A~
図3Dは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の内側要素の異なる可能な構成を示す概略内側正面図である。
【
図4】
図4A~
図4Dは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の異なる可能な構成を示す概略断面図である。
【
図5】
図5A~
図5Dは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、人工弁を受け入れる支持構造体とともに使用されてもよい媒体の可能な構成を示す側面図であり、
図5A1~
図5D1は、
図5A~
図5Dの媒体の拡大図である。
【
図6】
図6Aは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、僧帽弁内の展開された支持構造体の可能な構成を示す房室斜視図である。
図6B~
図6Dは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、僧帽弁を示す心房斜視図(
図6B)、僧帽弁内の展開された予め整形された支持構造体の可能な構成を示す心房斜視図(
図6C)、僧帽弁内の展開された整形された支持構造体の可能な構成を示す心房斜視図(
図6D)である。
図6E~
図6Fは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、三尖弁内の展開された予め整形された支持構造体の可能な構成示す斜視図(
図6E)、三尖弁内の展開された整形された支持構造体の可能な構成を示す斜視図(
図6F)である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、人工弁システムの可能な構成を示す様々な概略図である。
【
図8】
図8は、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、天然組織と人工インプラントとの間を封止する方法の主要ステップを示すブロック図である。
【
図9】
図9は、本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、人工弁を埋め込むためのキットを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本願において開示する広範な態様による、人工弁を受け入れるための展開された固定および封止支持構造体100の概要を示す
図1を参照する。支持構造体100は、開放キャビティを規定し、複数の整形可能要素104と複数の拡張可能な補強要素106を受け入れることができる可撓性保持要素102を備え、それによって、複数の整形可能要素104および複数の拡張可能な補強要素106が可撓性保持要素102内に完全に封入されることにより、高度に圧縮可能な可撓性の動的支持構造体を作成する。具体的な非限定例では、支持構造体100は、折り畳まれた対称または非対称の砂時計構造体として構成されてもよい。可撓性保持要素102は、支持構造体の要素間を接続し、互いに保持するように構成され動作可能であり、それにより、高度に圧縮可能な可撓性の動的構造体を作成する。可撓性の動的構造体は、必要に応じて、心筋のねじれおよび組織修復に合わせた調節が可能である(例えば、動的構造体は可撓性のままであり、したがって処置後の生体構造の変化に適合する)。可撓性保持要素102は、環状ケーシング(即ち、リング状の可撓性ケーシング)として構成されてもよく、メッシュ状パターンを有する生体適合性および非血栓形成性の布で作られてもよい。少なくとも1つの整形可能要素104はそれぞれ、支持構造体を天然組織に自己固定し封止するため、インシチューでサイズおよび形状を調節可能であるように構成される。特に、複数の整形可能要素104は、患者の生体構造にしたがって支持構造体フレームの弁周囲漏出防止およびリアルタイム整形を行うように構成される。より具体的には、複数の整形可能要素104は、生物学的に安全、不活性、耐久性、および非血栓形成性の任意の好適な充填材料を用いてインシチューで充填し整形することができる、拡張可能なスリーブとして構成されるので、漏出がある場合に害が生じない。充填材料またはその一部は、挿入前の折り畳まれた支持構造体内に存在してもよい。充填プロセスは、支持構造体を最終整形するためのモールドとして患者の組織を使用して、患者の特定の生体構造にしたがって支持構造体100を整形し、弁周囲漏出を最小限に抑える個人化された正確な封止メカニズムとして作用する。整形可能要素104を充填する間、各整形可能要素104の外径は増加し、その最終外形を天然弁生体構造にしたがってインシチューで形成する。充填材料は、オペレータによって制御されるインシチュー充填の間の偏心した拡幅および拡張を可能にする、固有の可撓性を規定する。これにより、患者の弁生体構造にしたがって支持構造体外壁を正確に整形し、天然弁と支持構造体との間に最大限のシールを作成し、隣接する解剖学的構造体への損傷を最小限に抑えながら弁周囲漏出を最小限に抑えることができるようになる。複数の拡張可能な補強要素106は、可撓性保持要素102に巻き込まれ/可撓性保持要素102を用いて埋め込まれ、不規則な管状構造体(例えば、僧帽弁)にわたって支持構造体100を安定化させて足場として作用することを目的とする。複数の拡張可能な補強要素106は、支持構造体100の固定の内寸を維持し、したがって弁空間が損なわれることを回避する。整形可能要素104は、前方に(例えば、中隔に向かって)、後方に(例えば、自由壁に向かって)拡張し、その心房および心室両方の側において天然弁輪を巻き込む一方で、心房腔もしくは壁および/または心室腔もしくは壁を犠牲にして拡張することを回避する(特に、左心室流出路閉塞を回避する)ことができる。複数の拡張可能な補強要素106は、ニチノール(または他の任意の適合性材料)で作られてもよい。複数の拡張可能な補強要素106は、可撓性の動的構造体を安定させるための環状腰部108を生成する。支持構造体100の構造的特性により、腰部108を形成して、天然弁輪をそのすべての側で固定し巻き込むことが可能になる。
【0035】
いくつかの実施形態では、支持構造体の内径壁は、弁の前外側および後内側と直接接触する壁よりも剛直であって、前外側-後内側方向でのみ拡張を可能にして、腰部形成および最大限の封止を促進する。支持構造体の内径壁は、充填圧力に対してより剛直で耐久性が高くてもよく、固定の内径が可能になり、したがって、弁輪の両側において同心の拡張および内腔容積の損失が回避される。追加のニチノール(または他の任意の好適な材料)の支持体が、さらなる補強のため、支持構造体内壁に追加されてもよい。
【0036】
本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の1つの整形可能要素の異なる可能な構成の上面図を示す、
図2A~
図2Cを参照する。上述したように、整形可能要素は、任意の特定の幾何学的構成に限定されない閉ループ要素である。整形可能要素は、様々な形状、サイズ、または幅を有してもよい。複数の整形可能要素の各整形可能要素は、互いに異なっても同一であってもよい。整形可能要素は非対称形状を有してもよい。
【0037】
場合によっては、不規則な解剖学的構造体が重要な解剖学的構造体(即ち、僧帽弁の後方にある左心室流出路)の近くに配置されており、したがってこれらの構造体を無傷のままにすることの重要性が強調される。この理由から、本願において開示する主題の整形可能要素は、繊細な構造体を回避しながら特定のベクトルでの径方向拡張のみを可能にしてもよい。
図2Aの非限定例に示されるように、整形可能要素は、円形部分および楕円形部分(D字形状)を含む非対称形状を有してもよい。あるいは、
図2Bの非限定例に示されるように、整形可能要素の形状は、円形/楕円形部分を外側に曲げる膨らみを規定してもよい。整形可能要素が楕円形部分および膨らみ部分を含む対称形状を有する、
図2Cに示される構成によって、整形可能材料の後方部分が半剛性であってもよく、したがって可撓性材料がこの特定のベクトルで拡張するのを不可能にすることにより、270度の封止を提供することができる。整形可能要素のこの270度の封止によって、構造体と天然組織との間の最適な封止効果が容易になるとともに、隣接する解剖学的構造体との接触および/または隣接する解剖学的構造体に対する損傷が回避される。
【0038】
本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体の可能な構成の等角図を示す、
図2D~
図2Fを参照する。より具体的には、展開された支持構造体全体の外形図が
図2Dに示されている。可撓性保持要素によって取り囲まれた内側要素、整形可能要素、および拡張可能な補強要素の断面図を示す、展開された支持構造体の断面図が、
図2Eに示されている。
図2Fは、整形可能要素および拡張可能な補強要素を含むが可撓性保持要素は含まない、展開された支持構造体全体の外形図を示している。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体200A~200Dにおける異なる要素の可能な構成の内部正面図を示す、
図3A~
図3Dを参照する。複数の拡張可能な補強要素206A、206A’、206B、206B’、206C、および206C’、ならびに整形可能要素204Aおよび204Bは、可撓性保持要素202に巻き込まれる/可撓性保持要素202を用いて埋め込まれる。具体的な非限定例では、複数の拡張可能な補強要素206A、206B、および206Cはそれぞれ、弁輪の安定性をもたらす半開または閉ループ構成を有してもよい。
図3A~
図3Dに示されるように、複数の拡張可能な補強要素206A、206A’、206B、206B’、206C、および206C’は、異なるもしくは同一の形状および/または直径および/または幅を有してもよい。この具体的な非限定例では、複数の拡張可能な補強要素206A、206B、および206Cは、ニチノールなどの任意の剛直および可撓性材料で作られた、3つの可撓性閉ループまたは半開円形要素206A、206B、および206C(即ち、心房、弁輪、および心室)として構成されてもよい。この具体的な非限定例では、閉ループまたは半開円形要素は、可撓性および形状適合性を可能にする、206A、206Cに示されるようなステント状パターン、または206A’、206B、206C’に示されるような正弦パターンを有してもよい。このように、複数の拡張可能な補強要素206A、206A’、206B、206B’、206C、および206C’は、生体弁の開放によって加えられる径方向力に応答して(例えば、ステント状もしくは正弦のパターンによって)その直径を拡張させることができるので、一方では安定性を、また相対的可撓性を可能にする。
【0040】
具体的な非限定例では、心房リング206Aまたは206A’は整形可能要素204Aの上方に配置されて、膨張中に弁輪に向かって圧縮することを可能にし、したがって、全体的な膨張を低減するとともに心房レベルで弁の周縁境界に向かう径方向の拡張を促進する。心室リング206Cまたは206C’は整形可能要素204Bの下方に配置されて、膨張中に弁輪に向かって圧縮することを可能にし、したがって、全体的な膨張を低減するとともに心室レベルで弁の周縁境界に向かう径方向の拡張を促進する。したがって、この例では、心房リング206Aまたは206A’、および心室リング206Cまたは206C’は、各整形可能要素204Aおよび204Bを径方向で拡張させるように構成される。環状リング/腰部206Bまたは206B’は、2つの整形可能要素204Aおよび204Bの間に配置され、1つまたは複数の要素を備えてもよい。複数の整形可能要素204Aおよび204Bは、(例えば、心房および心室レベルで)支持構造体200A~200Dの遠位端上にそれぞれ受け入れられる、2つの拡張可能な布スリーブとして構成されてもよい。2つの拡張可能な布スリーブ204Aおよび204Bは、UV光、追加の液体もしくは非液体ポリマーとの反応、温度などの異なる化学反応に応答して物理的状態が変化する、生理的液体、ガス、リバースサーマルゲル、ヒドロゲル、高浸透性の細粒、医療等級のシリコーン、液体ポリマーなど、任意の可撓性材料または可撓性充填材料を含んでもよい。しかしながら、本開示は特定の充填材料のいかなる使用にも限定されない。
【0041】
本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、支持構造体400A~400Dの可能な異なる構成の断面図を示す、
図4A~
図4Dを参照する。これらの図は、一方の側では複数の拡張可能な補強要素406A、406A’、406B、406B’、406C’、および406C、ならびに複数の整形可能要素404Aおよび404Bを被覆し、他方の側では露出した複数の拡張可能な補強要素406A、406A’、406B、406B’、406C’、および406C、ならびに複数の整形可能要素404Aおよび404Bを被覆する、可撓性保持要素402を示す、支持構造体400A~400Dの断面図を示している。複数の拡張可能な補強要素406A、406A’、406B、406B’、406C’、および406Cは、足場として構成されてもよく、ならびに/あるいはより良好な組織の自己固定および位置安定性のため、心房内、心室内、または弁の両方の側において周囲組織内で固定されるように作られた、露出した鋭い縁部を有してもよい。複数の整形可能要素404Aおよび404B、ならびに可撓性保持要素402は、上述したのと同じ特性を有してもよい。
【0042】
本開示の別の広範な態様によれば、人工弁を受け入れる支持構造体とともに使用される媒体が提供される。媒体は、上述したような支持構造体とともに、または他の任意の市販の支持構造体および/または人工弁とともに使用されてもよい。本発明者らは、粗いテクスチャで作られた外表面と、滑らかで線形的な血流を可能にする材料で作られた反対側の内表面とを有する媒体を使用することによって、支持構造体を天然組織に自己固定することができ、ならびに血栓形成および弁を通る乱流を防止できることを見出している。可撓性保持要素は、支持構造体の外壁を規定し、支持構造体を天然組織に自己固定するとともに迅速な上皮化を可能にする著しい摩擦のため、粗いテクスチャを有する外表面を有してもよい。この形質は、環状の半線維組織に微細な損傷を生成し、それによって迅速な上皮化をさらに促進するために適用されてもよい。特に、天然組織と接触するようになる媒体の外部表面/外表面は、複数のニット状の相互接続されたループ、特に噛み合わされた編地もしくは織地、またはそれらの任意の組み合わせなど、迅速な内皮増殖を促進するとともに残留物漏出を低減または防止するような材料で構成されたメッシュ素材で作られ、またそのような形で構築されてもよい。編地メッシュはさらに、可撓性構造体の外表面を実質的に取り囲む管状壁を備えてもよい。編地または織地メッシュは、編組、交絡、静電紡糸、および/または1つもしくは複数の試薬への多孔質モールドの浸漬など、任意の商業的に利用可能な技法を使用して作られてもよい。メッシュは単層または多層であってもよく、各層は異なるテクスチャおよび/または構造体を有しても(もしくは有さなくても)よい。例えば、編地/織地/編組/静電紡糸メッシュの少なくとも一部分は、複数のフィラメントを備えてもよい単繊維に基づく。メッシュの少なくとも一部分は、強度、耐久性、弾性、抗菌性などのために追加材料と混合されてもよい、ポリウレタン繊維などのエラストマー材料で構成されてもよい。さらに、具体的な非限定例では、メッシュ素材は、アミン基および/またはヒドロキシ基結合を介してプラズマポリマーに付着させることによって、細胞付着促進材料で被覆されてもよい。媒体の反対側の内表面は開放キャビティを規定してもよい。
【0043】
本願において開示する主題のいくつかの実施形態による、媒体500A~500Dの可能な構成の斜視図を示す、
図5A~
図5Dを参照する。
図5A1~
図5D1はそれぞれ、媒体500A~500Dの外表面の拡大部分である。媒体500A~500Dは、同じまたは異なる布部分で作られてもよく、各部分は支持構造体の異なる部分を取り囲んでもよい。図面に示されるように、媒体500A~500Dは、
図5D1に示されるようなメッシュ布ライニングとして構成されてもよい。しかしながら、媒体500A~500Dはかかる構成に限定されない。加えてまたは別の方法として、媒体500A~500Dの外表面は、迅速な内皮増殖を促進し、残留物漏出を低減または防止するように構成される、様々な繊維パターンの配置(例えば、異なる軸線に)を規定してもよい。例えば、繊維パターンの配置は、
図5A1に示されるようなグリッド状パターン502A、
図5B1に示されるような粗目状パターン502B、
図5C1に示されるようなドット状パターン502C、または
図5D1に示されるようなメッシュ状パターン502Dを含んでもよい。
【0044】
媒体502が本願において開示する主題の支持構造体とともに使用される場合、媒体502は、充填材料が心房または心室(弁輪の近位側もしくは遠位側)を犠牲にして拡張しないような形で、可撓性保持要素500(例えば、メッシュ素材スリーブ)内の整形可能要素500を変性する際に、主に径方向の拡張を可能にする、ポリウレタン、スパイダーシルクなど、特定の弾性を有する少なくとも1つの材料で作られてもよい。上述したように、充填材料は、少なくとも1つのガス、液体、ゲル、粉末、細粒、またはそれらの任意の組み合わせの形態である、少なくとも1つの流体を含んでもよい。充填材料は、固有の可撓的性質、長時間(少なくとも10年間)にわたる安定性を有してもよく、ヒドロゲルなど、生体適合性および非血栓形成性であるべきである。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態による、展開された支持構造体1の可能な構成の房室斜視図を示す
図6Aを参照する。複数の拡張可能な補強要素および複数の整形可能要素はこの図では示されない。この図は、僧帽弁内における展開された支持構造体1の機能的位置付けを示している。上述したように、本願において開示する主題の支持構造体は、支持構造体によって規定される開放キャビティに受け入れられる、任意の種類の別個の人工または生体弁とともに使用されてもよい。支持構造体はそのため、人工器官または生体人工器官を天然組織に対して最終的に封止し自己固定する、特注の環状腰部として作用する。
【0046】
図8に関連して以下でさらに詳述するような、僧帽弁内において展開された支持構造体1の段階的な整形プロセスを示す、
図6B~
図6Dを参照する。より具体的には、
図6Bは、僧帽弁の心房図を示し、
図6Cは、展開後(整形前)の僧帽弁内で展開された予め整形された支持構造体1を示している。
図6Dは、リアルタイムでの僧帽弁の不規則な生体構造に対する封止メカニズムおよび固定を示す、僧帽弁内における整形後の展開された支持構造体1を示している。展開された支持構造体1と僧帽弁との間に十分かつ最適な封止を提供するのが可能であることが、図面に示されている。
【0047】
三尖弁内において展開された支持構造体1の段階的な整形プロセスを示す、
図6E~
図6Fを参照する。より具体的には、
図6Eは、展開後(整形前)の三尖弁内で展開された予め整形された支持構造体1を示している。
図6Fは、リアルタイムでの三尖弁の不規則な生体構造に対する封止メカニズムおよび固定を示す、三尖弁内における整形後の展開された支持構造体1を示している。展開された支持構造体1の独自の構成によって、図面に示されるように、支持構造体を天然組織に自己固定し封止するため、複数の整形可能要素がそれぞれインシチューでサイズおよび形状を調節可能であることにより、僧帽弁ならびに三尖弁に対する十分かつ最適な封止および組織固定ができるようになる。本願において開示する主題の支持構造体1は、これら2つの非限定例に示されるような任意の不規則な生体構造に嵌合することが可能である。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態による、人工弁システム800における可能な構成の異なる図を示す、
図7A~
図7Dを参照する。
図7Aは、弁尖802が本願において開示する主題の支持構造体804と結合されて、統合された人工弁システム800を提供する、人工弁システム800の斜視図を示している。
図7B~
図7Dはそれぞれ、その側面図、上面図、および断面図を表している。弁尖802は、任意の市販の弁尖であってもよく、展開し整形すると、支持構造体804と組み合わされた永久弁として直ぐ機能することができる。弁尖802は、展開前は支持構造体804内に隠れていてもよい。弁尖802は、埋め込まれた生体(またはプリントされたバイオマトリックス、生物学的に不活性なポリマーなど、他の任意の材料の)弁尖として構成されてもよい。この構成によって、独立したスタンドアロン型であって、弁空間内で展開され整形されると十分に機能する人工弁である、人工弁システム800を提供することができる。
【0049】
弁尖は次のように構成されてもよい。
(i)弁尖は、支持構造体に予め固定/プリフィックスされ、取り付けられてもよく、展開すれば使用できる状態であってもよい。
図7A~
図7Dに示されるような弁尖に、浸透性ウシ/ブタ心膜(または他の)組織が使用されてもよい。
(ii)弁尖は、生体(または他の)マトリックスから作成された統合生体弁尖として構成されてもよい。
(iii)市販の生体弁尖は、封止および固定腰部として支持構造体を使用して、システムに統合されてもよい。
【0050】
別の広範な態様によれば、本願において開示する主題は、人工弁を埋め込むためのキットに関する。キットは、滅菌バリアを提供することができる容器と、容器内に受け入れられる滅菌カテーテルであって、遠位端および近位端を有する滅菌カテーテルと、滅菌カテーテルの遠位端に取外し可能に結合された容器内に受け入れられる滅菌人工弁であって、可撓性の折り畳まれた支持構造体と結合された複数の人工弁尖を含む滅菌人工弁と、可撓性の折り畳まれた支持構造体を変性し整形することができる整形/充填材料と、を備える。支持構造体を僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと整形する際、滅菌人工弁を支持構造体の内側リム内へと送達し展開することができる。僧帽弁輪の間に位置付けられ封止されて、支持構造体および人工弁は次に、異なるイメージングモダリティによって確認されてもよい。キットは、可撓性の折り畳まれた支持構造体に取外し可能に結合される注入デバイスを備えてもよい。注入デバイスは、複数のルーメンを有するマルチルーメン送達構造体を備えてもよく、マルチルーメン構造体の1つのルーメンは充填材料を注入するように構成される。ルーメンは、可撓性の折り畳まれた支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素に接続される少なくとも1つの注入ポートを備える。整形材料はしたがって、注入デバイスの注入ポートを通って前進して、支持構造体(少なくとも1つの注入ポートを含む)内に直接達し、均質な形で注入されてもよい。展開および正確な整形が完了し、経食道心エコー検査法(TEE)および蛍光透視法によって最大限の封止が確認されると、注入デバイスは分離されてもよく、ポートは漏出しないように封止される。例えば、注入ポートは、支持構造体内の水圧の増加によって(または整形材料の漏出を制御する他の任意の閉鎖および封止メカニズムによって)影響を受ける一方向ポートとして構成されてもよい。あるいは、支持構造体は、任意の種類の液体に暴露されると支持構造体内で拡張する、高浸透圧薬を予め充填されてもよい。液体ポリマーまたはゼラチン質材料が充填材料として使用された場合、消耗およびシステムの詰まりを低減するため、充填材料の注入は、支持構造体の近傍でのみ穿孔され注入される非浸透性の閉止されたカプセルの形であってもよい。あるいは、支持構造体は、任意の種類の液体に暴露されると支持構造体内で拡張する、高浸透圧薬を予め充填されてもよい。
【0051】
キット寸法は、特定のアプローチ(経心尖、経中隔など)にしたがって適合することができる。特定の弁または生体構造の位置にしたがって、他のアプローチが適用されてもよい。
【0052】
本開示の別の広範な態様によれば、人工デバイスを複雑または不規則な解剖学的構造体(心臓弁など)に埋め込む、特注の(即ち、患者特異的な)新規の封止および固定メカニズムをインシチューで形成する方法が提供される。この方法によって、イメージング下においてリアルタイムで、天然組織と支持構造体との間の封止を作成し、弁周囲漏出を最小限に抑える、患者自身の弁(または他の)生体構造にしたがって、支持構造体外壁を正確に整形/装着して、することが可能になる。
【0053】
天然組織と人工インプラントとの間を封止する方法600の主なステップを示すフローチャートを示す、
図8を参照する。方法600は、602で、天然僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁上へと、複数の整形可能要素(弁尖を有するもしくは有さない)を有する可撓性の折り畳まれた支持構造体を、経心尖または経中隔アプローチを介して前進させ展開することを含む。本願において開示する主題の折り畳まれた支持構造体は、真空下で圧縮された形でカテーテルに折り込まれる。支持構造体は、インシチューで別個にまたは同時に充填されて、僧帽弁および/または三尖弁および/または半月弁への最適な封止および組織固定を可能にするように構成される複数の整形可能要素を備えてもよい。
【0054】
以下は、支持構造体の展開が段階的である特定の処置の非限定例であり、支持構造体全体が一度に展開されるのではなく、整形可能要素が逐次的ステップで展開される。大腿静脈の穿孔が実施され、導入器シースが静脈に挿入される。蛍光透視および/または経食道心エコー検査法(TEE)のガイダンス下で、経中隔穿刺が実施されて、鼠径部から心臓の左心房へのアクセスが可能になる。次に、剛性ワイヤが天然僧帽弁(MV)を通して左心室(LV)心尖部へと挿入されてもよい。経中隔穿刺(TSP)キットが次に回収されてもよく、支持構造体送達構造体はワイヤを越えてLV心尖部へと挿入されてもよい。LV心尖部に位置付けられると、遠位側の整形可能要素のみが露出し、次に(部分的に圧着されて)MVに向かって回収されてもよい。次に遠位側の整形可能要素が展開されてもよく、次に支持構造体がさらに弁輪に向かって回収されてもよく、環状腰部はMV環状部レベルでも露出する。この段階で、安定性が試験されてもよい。確認されると、近位側の整形可能要素が展開される。少なくとも1つの整形可能要素は次に、604で、インシチューで充填材料を用いて整形されて、可撓性支持構造体の外表面を増大させ、患者の生体構造にしたがって最終外形状を形成して、天然弁と可撓性支持構造体との間の封止も作成する。より具体的には、支持構造体が安定し、イメージングモダリティ(TEEおよび/または蛍光透視法)下で適正に位置付けられると、整形材料は、流体媒体の注入/化学反応によって体積を増加させる。この段階で、整形可能要素は、MV弁輪の天然生体構造と相互作用し、適応的な封止を実現する、最適な拡張ポイント(オペレータによって制御され、可逆的であってもよい)に達する。
【0055】
いくつかの実施形態では、方法600は、606Aの整形において、可撓性の折り畳まれた支持構造体内に受け入れられる、複数のプリフィックスされた人工弁尖を解放することを含んでもよい。弁尖は永久弁として構成される。あるいは、方法600は、606Bにおける置換弁の展開を含んでもよい。このように、正確で患者特異的な封止メカニズムを用いて市販の人工弁の経カテーテル埋込みができるようになる。これは、患者の特有の生体構造をモールドとして使用して、指定場所に既に置かれた状態で、支持構造体をインシチューで最終整形することによって達成される。支持構造体送達構造体の回収、および人工弁の挿入は、支持構造体の送達および展開に使用されるのと同じガイドワイヤを使用して達成されてもよい。人工弁は、支持構造体腰部を参照して正確な場所を評価しながら位置付けられてもよい。イメージングモダリティ下で人工弁の位置が確認されると、人工弁は展開され、安定性、封止、および機能性(即ち、支持構造体と人工弁との間の弁周囲漏出、高勾配、左心室流出路閉塞(LVOTO)、弁尖癒合)に関して試験される。
【0056】
いくつかの実施形態では、方法600は、602で可撓性の折り畳まれた支持構造体を前進させ展開する前に、608Aで、可撓性の折り畳まれた支持構造体を送達システム(即ち、注入デバイス)に結合することと、608Bで、処置の終了時に、可撓性の折り畳まれた支持構造体を送達システム(即ち、注入デバイス)から分離することと、を含んでもよい。処置の最終ステップは、人工弁の送達システムの回収、GWの回収、および大腿静脈閉鎖を含む。
【0057】
人工弁を埋め込むためのキット700の主要な機能的要素を示すブロック図を示す、
図9を参照する。キット700は、滅菌バリアを提供することができる容器702と、容器702内に受け入れられる滅菌カテーテル704と、滅菌カテーテルの遠位端に取外し可能に結合された容器702内に受け入れられる滅菌人工弁706とを備える。滅菌人工弁706は、上述したような可撓性の折り畳まれた支持構造体と結合される複数の人工弁尖を含む。複数の人工弁尖は、可撓性の折り畳まれた支持構造体内に受け入れられてもよく、永久弁として機能するプリフィックスされた人工弁尖として構成されてもよい。複数の人工弁尖は、可撓性の折り畳まれた支持構造体に予め固定され取り付けられてもよい。あるいは、複数の人工弁尖は可撓性の折り畳まれた支持構造体に統合されてもよい。整形材料708は、固有の可撓的性質、安定性、および長時間(少なくとも10年間)にわたる持久性を有してもよく、生体適合性および非血栓形成性であるべきである。整形材料708は、液体に暴露されると可撓性の折り畳まれた支持構造体内で膨張することができる高浸透圧薬を含んでもよい。可撓性の折り畳まれた支持構造体は、整形材料708の少なくとも一部を予め充填することができる。いくつかの実施形態では、キット700はさらに、可撓性の折り畳まれた支持構造体に取外し可能に結合される注入デバイス710を含む。注入デバイス710は、患者の生体構造にしたがって可撓性支持構造体を充填し整形することができる。任意に、注入デバイス710はまた、特定の場所で可撓性の折り畳まれた支持構造体を正確に展開することができてもよい。注入デバイス710は、複数のルーメンを有するマルチルーメン送達構造体712を備えてもよく、マルチルーメン構造体の1つのルーメンは充填材料を注入するように構成される。ルーメンは、可撓性の折り畳まれた支持構造体の少なくとも1つの整形可能要素に接続される少なくとも1つの注入ポートを備える。注入ポートは、(例えば、増加した水圧が適用されると)閉止することができる一方向ポートとして構成されてもよい。充填が完了し、正確な位置付けが得られると、注入デバイス710を分離することができる。
【国際調査報告】