(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池で使用するための無機材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240304BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240304BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240304BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240304BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240304BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240304BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240304BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240304BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240304BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240304BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240304BHJP
C01B 39/24 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0566
H01M10/052
C01B39/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558559
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2022021072
(87)【国際公開番号】W WO2022203979
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,シャン
(72)【発明者】
【氏名】シェパード,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユンクイ
(72)【発明者】
【氏名】ボータン,アナトリー
【テーマコード(参考)】
4G073
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD21
4G073CZ05
4G073GA01
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA14
4G073UA06
4G073UA20
4G073UB60
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
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5H029AL07
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5H050CB03
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5H050DA09
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5H050EA23
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
カソードとして作用する活物質および集電体を有する正極と、アノードとして作用する活物質および集電体を有する負極と、非水電解液と、正極と負極の間に配置されたセパレータとを含む、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための負極。負極は、負極内部に分散された無機添加剤、または、負極にコーティングとして塗布された無機添加剤を含み、前記無機添加剤は、セルに存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素のうちの1種類以上を吸収する、Si:Al比が1~50の範囲である1種類以上のゼオライトの形態である。1つ以上のセルを筐体内で組み合わせて、リチウムイオン二次電池を形成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための負極であって、
前記電気化学セルでアノードとして作用することができる活物質と、
前記活物質と接触している集電体と、
前記電気化学セルに存在する水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1種類以上を吸収する無機添加剤であって、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)との比が約1~約50の範囲である1種類以上のゼオライトである前記無機添加剤と、を含む、負極。
【請求項2】
前記無機添加剤は、前記活物質の少なくとも一部の中に分散されているか、前記活物質の表面の一部に塗布されるコーティングの形態である、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記1種類以上のゼオライトは、CHA、CHI、FAU、LTAおよびLAUからなる群から選択される骨格を有する、請求項1または2に記載の負極。
【請求項4】
前記無機添加剤は、前記電気化学セルの動作時における前記アノードの膨張を抑える、請求項1~3のいずれか1項に記載の負極。
【請求項5】
前記コーティングは、厚さが5.0マイクロメートル~30マイクロメートルの範囲である、請求項2に記載の負極。
【請求項6】
前記コーティングは、
CHA、CHI、FAU、LTAおよびLAUからなる群から選択される骨格を有する、前記1種類以上のゼオライトと、
有機バインダーまたは無機バインダーと、を含み、前記バインダーは、前記コーティングの総質量に対して、1%~10%の質量比で存在する、請求項2または5に記載の負極。
【請求項7】
前記バインダーは有機バインダーであり、前記有機バインダーは、アクリル、アルキド、フェノール、ビニル-アクリル、ビニルアセテート/エチレン(VAE)、ポリウレタン、ポリエステル、メラミン樹脂、エポキシ、フルオロポリマー、シラン、シリコーンまたはそれらの混合物からなる群から1つとして選択される、請求項6に記載の負極。
【請求項8】
前記無機添加剤は、板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有する粒子を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の負極。
【請求項9】
前記無機添加剤は、粒度(D
50)が約0.05マイクロメートル(μm)~約5マイクロメートル(μm)の範囲である粒子を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の負極。
【請求項10】
前記無機添加剤は、表面積が約10m
2/g~約1000m
2/gの範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載の負極。
【請求項11】
前記無機添加剤は、細孔容積の範囲が0.1~2.0cc/gである、請求項1~10のいずれか1項に記載の負極。
【請求項12】
前記無機添加剤は、前記無機添加剤の総重量に対して6wt.%未満の濃度のナトリウム(Na)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の負極。
【請求項13】
前記無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が前記無機添加剤の総重量に対して約0.1wt.%~約20wt.%のリチウムイオン交換ゼオライトである、請求項1~12のいずれか1項に記載の負極。
【請求項14】
前記無機添加剤は、K、Mg、Cu、Ni、Zn、Fe、Ce、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiからなる群から選択される1種類以上のドーピング元素を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の負極。
【請求項15】
前記活物質は、グラファイト、リチウムチタン酸化物、金属ケイ素または金属リチウムを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の負極。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の前記負極を含む、電気化学セル。
【請求項17】
前記電気化学セルでカソードとして機能することができる活物質と、前記活物質と接触している集電体を含む正極と、
前記負極と前記正極との間に入れられており、前記負極と前記正極の両方と接触し、前記正極と前記負極との間でのイオンの可逆的な流れを助ける前記非水電解液と、
前記アノードおよび前記電解液の一部を、前記カソードおよび残りの前記電解液から分離するように前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、をさらに含み、
前記セパレータは、前記セパレータを通るイオンの前記可逆的な流れに対して透過性がある、請求項16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含み、
前記負極は、グラファイト、リチウムチタン酸化物、金属ケイ素または金属リチウムを含み、
前記セパレータは、ポリマー膜であり、
前記非水電解液は、前記正極と前記負極との間を流れ、前記セパレータを通る前記イオンがリチウムイオンであるように、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である、請求項17に記載の電気化学セル。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか1項に記載の1つ以上の電気化学セルを含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、2019年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/928,523号、2019年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/928,518号ならびに2019年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/928,511号に対して、米国特許法第119(e)に基づく出願日の利益を主張する、指定国として米国が含まれて英語で公開された2020年10月30日出願の国際出願PCT/US2020/058093号の国内段階として、2021年3月23日に出願された米国特許出願第17/278,685号の一部継続出願である、2021年3月24日に出願された米国特許出願第17/210,598号の優先権を主張するものであり、これらの出願の内容全体を本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、広義には、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための、トラップ剤または添加剤などの無機材料に関する。特に、本開示は、リチウムイオン二次電池で使用されるセルの電解液、あるいはセパレータで、1つ以上の電極(正極または負極)にある無機トラップ剤または添加剤としてのゼオライトの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術の記載は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成しない場合もある。リチウムイオン電池とリチウムイオン二次電池の主な違いとして、リチウムイオン電池が一次セルを含む電池を表し、リチウムイオン二次電池が二次セルを含む電池を表すことがあげられる。「一次セル」という用語は、容易にあるいは安全な充電ができない電池セルをいい、「二次セル」という用語は、充電可能な電池セルをいう。本明細書で使用する場合、「セル」とは、電極と、セパレータと、電解液とを含む電池の基本的な電気化学的単位をいう。これに対して、「電池」とは、例えば1つ以上のセルなどのセルの集合体をいい、筐体と、電気的接続と、場合によっては制御および保護用の電子機器とを含む。
【0004】
リチウムイオン(例えば一次セル)電池は充電できないため、現在の耐用寿命は約3年であり、それを過ぎると価値がなくなってしまう。そのように寿命が限られていても、リチウムイオン二次電池よりリチウム電池の方が、多くの容量を提供することができる。リチウム電池では、電池のアノードとして金属リチウムが使用されており、複数の他の材料を使ってアノードを形成することができるリチウムイオン電池とは異なる。
【0005】
リチウムイオン二次セル電池の重要な利点のひとつに、効果がなくなるまでに何度も充電できることがあげられる。リチウムイオン二次電池が何度も充放電サイクルを繰り返すことができるのは、生じる酸化還元反応の可逆性による。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、多くの携帯型電子機器(携帯電話やノートパソコンなど)、電動工具、電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵などのエネルギー源として広く利用されている。
【0006】
動作時、リチウムイオン二次電池は通常1つ以上のセルを含み、これには、負極、非水電解液、セパレータ、正極ならびに、各々の電極に対する集電体が含まれる。これらの構成要素はいずれも、ケース、エンクロージャ、パウチ、袋、円筒状のシェルなど(一般に電池の「筐体」と呼ばれるもの)に封入されている。セパレータは通常、マイクロメートルサイズの孔があるポリオレフィン系の膜であり、正極と負極との間の物理的な接触を防ぐとともに、電極間でのリチウムイオンの移動を可能にしている。それぞれの電極とセパレータとの間には、リチウム塩の溶液である非水電解液が入れられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動作している間、電池のクーロン効率すなわち電流効率と放電容量が比較的一定に維持されることが望ましい。クーロン効率とは、電池内で電子が移動する際の充電効率を表す。放電容量とは、電池から取り出せる電気量を表す。リチウムイオン二次電池は、水分(水など)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)などに長時間さらされることで、容量および/または効率が低下することがある。実際、もとの可逆容量の20%以上が失われたり、不可逆的になったりすると、リチウムイオン二次電池の寿命が著しく制限される場合がある。リチウムイオン二次電池の充電可能容量や全体としての寿命を延ばすことができれば、交換時のコストが削減され、廃棄やリサイクルのための環境リスクが低減される可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示をよく理解することができるようにするために、添付の図面を参照しながら、例示として与えられる様々な形態について説明する。各図面の構成要素を必ずしも縮尺通りに示していない場合もあるが、そのような場合には本発明の原理を説明することに重点をおいている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、無機添加剤が正極の一部を形成している、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次セルの概略図である。
【0010】
【
図1B】
図1Bは、無機添加剤が負極の一部を形成している、本開示の教示内容に従って作製した別のリチウムイオン二次セルの概略図である。
【0011】
【
図1C】
図1Cは、無機添加剤がセパレータのコーティングを形成している、本開示の教示内容に従って作製したさらに別のリチウムイオン二次セルの概略図である。
【0012】
【
図1D】
図1Dは、無機添加剤が電解液に分散された、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次セルのさらに別の概略図である。
【0013】
【
図2A】
図2Aは、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを作製するために
図1A~
図1Dの二次セルを積層した状態を示している。
【0014】
【
図2B】
図2Bは、無機添加剤がさらに筐体の内壁にコーティングを形成している、
図2Aのリチウムイオン二次電池の概略図である。
【0015】
【
図3A】
図3Aは、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次電池の概略図であり、
図1A~
図1Dの二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
【0016】
【
図3B】
図3Bは、無機添加剤がさらに筐体の内壁にコーティングを形成している、
図3Aのリチウムイオン二次電池の概略図である。
【0017】
【
図4】
図4は、本開示に従って作製した、コーティングのあるセパレータの表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【0018】
【
図5】
図5は、従来のセパレータを有するセルと、本開示に従って作製した、コーティングのあるセパレータを有するセルについて、サイクル数の関数として測定した正規化放電容量を示すグラフである。
【0019】
【
図6】
図6は、従来のセパレータを有するセルと、本開示に従って作製した、コーティングのあるセパレータを有するセルについて、サイクル数の関数として測定したクーロン効率を示すグラフである。
【0020】
本明細書で説明する図面は例示だけを目的としたものであり、いかなる形でも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示またはその適用もしくは使用を限定することを何ら意図したものではない。例えば、構造要素とその使用を一層完全に説明するために、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に従って製造および使用されるゼオライトを、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セルと組み合わせて説明する。限定ではなくリチウムイオン電池で使用される一次セルなどの他の電気化学セルをはじめとする他の用途において、このような無機材料を添加剤として取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。本明細書および図面を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部品および特徴を示すことを理解されたい。
【0022】
本開示の目的で、本明細書では、「約」および「実質的に」という語を、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定時の限界やばらつき)に起因する測定可能な値および範囲に関して使用する。
【0023】
本開示の目的で、要素での「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現を同義に使用しており、これらの表現が同じ意味を持つ場合もある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの表現を、要素の最後に接尾辞「(s)」を付して表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の金属」、「1種類以上の金属」および「金属(s)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0024】
本開示は主に、リチウムイオン二次電池の筐体内に存在するか形成されるようになり得る水分(H2O)、遊離遷移金属イオン(TMn+)および/またはフッ化水素(HF)などの有害な種を吸収することができるとともに、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)との比が約1~約50の範囲または約2~約50の範囲である1種類以上のゼオライトを含む、本質的に当該ゼオライトからなる、あるいは当該ゼオライトからなる無機材料を提供するものである。これらの有害な種を除去すると、電解液、セパレータ、正極および負極のうちの少なくとも1つに無機材料を適用した場合の電池のカレンダー寿命およびサイクル寿命が長くなる。この無機材料を、リチウムイオン二次電池の筐体の内壁に塗布してもよい。
【0025】
上述したような問題に対処するために、無機材料が、電池の筐体内に存在する有害な種に対するトラップ剤またはスカベンジャーとして作用する。この無機材料は、筐体の中に含まれるリチウムイオンおよび有機輸送媒体を含む非水電解液の性能に影響を与えることなく、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的かつ効果的に吸収することで、上記の目的を達成する。正極に対する添加剤、負極に対する添加剤、非水性電解液に対する添加剤ならびに、セパレータ、負極、正極に塗布されるコーティング材料のうちの少なくとも1つとして、リチウムイオン二次電池またはその中の各セルに多機能無機粒子を導入してもよい。
【0026】
図1A~
図1Dを参照すると、二次リチウムイオンセル1は主に、正極10と、負極20と、非水電解液30と、セパレータ40とを備える。正極10は、セル1のカソード5として機能する活物質と、カソード5に接触している集電体7とを含み、セル1が充電している時にカソード5からアノード15にリチウムイオン45が流れるようになっている。同様に、負極20は、セル1のアノード15として機能する活物質と、アノード15と接触する集電体17とを含み、セル1が放電している時にアノード15からカソード5へリチウムイオン45が流れるようになっている。カソード5と集電体7との接触ならびにアノード15と集電体17との接触には、独立に、直接接触または間接接触が選択されてもよく、あるいは、アノード15またはカソード5と、対応する集電体17、7とが直接的に接触する。
【0027】
非水電解液30は、負極20と正極10との間に入れられており、それらの両方と接触すなわち流体連通している。この非水電解液30によって、正極10と負極20との間でのリチウムイオン45の可逆的な流れが助けられる。正極10と負極20との間にはセパレータ40が配置され、このセパレータ40が、電解液30の一部およびアノード15を、残りの電解液30およびカソード5から分離するようになっている。セパレータ40は、このセパレータ40を通るリチウムイオン45の可逆的な流れに対して透過性がある。
【0028】
このまま
図1A~
図1Dを参照すると、カソード5、アノード15、電解液30、セパレータ40のうちの少なくとも1つには、セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)ならびに他の有害な種のうちの1つ以上を吸収する無機添加剤50A~50Dが含まれる。あるいは、無機添加剤50A~50Dは、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的に吸収する。この無機添加剤50A~50Dは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)との比が約1~約50の範囲、あるいは約2~約50の、あるいは約1~約25、あるいは約1~約20の範囲、あるいは約2~約15の範囲である1種類以上のゼオライトであるように選択されてもよい。
【0029】
本開示の一態様によれば、無機添加剤50A~50Dは、正極50A(
図1A参照)、負極50B(
図1B参照)、セパレータ50C(
図1C参照)または電解液50D(
図1D参照)の少なくとも一部の中に分散されていてもよい。また、無機添加剤50A~50Dは、負極50B、正極50Aまたはセパレータ50Cの表面の一部に塗布されたコーティングの形態であってもよい。
【0030】
本開示の無機添加剤は、CHA、CHI、FAU、LTAまたはLAU骨格を有する異なる種類のゼオライトから選択される少なくとも1つまたは組み合わせを含む。二次セル内に存在する無機添加剤の量は、無機添加剤が存在する各コンポーネント、すなわち正極、負極または電解液の総重量に対して、最大10wt.%、あるいは最大5wt.%、あるいは0.01wt.%~5wt.%、あるいは0.1wt.%~5wt.%であってもよい。二次セルの負極、正極またはセパレータにコーティングとして塗布される無機添加剤の量は、電気化学セル内に存在する無機添加剤の量に対して最大で100%であってもよく、あるいは少なくとも90%、あるいは、5%より多く最大で100%であってもよい。
【0031】
無機添加剤は、負極の活物質内に分散されていてもよいし、活物質の表面に塗布されるコーティングに取り込まれていてもよい。無機添加剤が存在すると、電気化学セルの動作時におけるアノードの膨張を抑えることによって、負極の安定性をさらに高めることができる。コーティングの塗布には、任意のどのようなコーティング技術を使用してもよい。このようなコーティング技術のいくつかの例として、ブラシコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、フローコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティングなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
無機添加剤を含むコーティングの厚さは、0.10マイクロメートル(μm)~約50マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは約0.25μm~約40μm、あるいは約0.50μm~約30μm、あるいは約1μm~約25μm、あるいは10μm未満、あるいは7μm未満、あるいは5μm未満、あるいは3μm未満、あるいは0.5マイクロメートル~10マイクロメートルであってもよい。
【0033】
本開示の一態様によれば、活物質の表面に製剤を塗布した後に溶媒が蒸発し、それによってその表面に無機添加剤の層が残るように、コーティングを形成するのに使用される製剤の組成物には、有機溶媒中に分散された無機添加剤が含まれていてもよい。溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、グルシオール(glcyol)またはアルコールを含むがこれらに限定されるものではない、公知の有機液体であってもよい。あるいは、数例をあげると、溶媒は、ナフサまたはメチルイソブチルケトン(MIBK)である。
【0034】
本開示の別の態様によれば、コーティング製剤の組成物には、活物質の表面に対する無機添加剤の接着性を高めるおよび/またはコーティング用の成膜成分を提供するバインダー材料が含まれていてもよい。このバインダー材料は、有機バインダーであってもよいし、無機バインダーであってもよい。有機バインダーのいくつかの例としては、アクリル、アルキド、フェノール、ビニル-アクリル、ビニルアセテート/エチレン(VAE)、ポリウレタン、ポリエステル、メラミン樹脂、エポキシ、フルオロポリマー、シラン、シリコーンまたはそれらの混合物を含む1種類以上の合成樹脂または天然樹脂であるオリゴマーおよびポリマーがあげられるが、これらに限定されるものではない。あるいは、有機バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリ酢酸ビニル(PVA)である。無機バインダーのいくつかの例として、シロキサン、シリケートまたは液体ガラスがあげられるが、これらに限定されるものではない。バインダー材料は、コーティングの総質量に対して、0wt.%~約20wt.%、あるいは、約1wt.%~15wt.%、あるいは、約1wt.%~10wt.%、あるいは、約1wt.%~5wt.%の範囲、あるいは、15wt.%未満、あるいは、10wt.%未満の量で存在すればよい。
【0035】
望ましい場合、コーティング製剤には、着色剤、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、繊維、カップリング剤、混和剤、可塑剤、潤滑剤、UV安定剤、充填剤、難燃剤、殺生物剤、界面活性剤または分散剤および/または所望の機能もしくは特性を付与する他の薬剤など、コーティングにおいて従来使用されている1種類以上の追加の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0036】
コーティング製剤中に存在する無機添加剤、溶媒、バインダー材料および他の任意の添加剤については、好ましくは粒子の凝集を最小限に抑えつつ均質な分散液を形成することができる任意の公知の従来技術を使用して、一緒に添加して混合すればよい。利用される分散技術としては、手で撹拌するほか、超音波発生装置、ペイントシェーカー、高剪断ミキサー、プラネタリーミキサーまたはマグネチックスターラーを使用することがあげられるが、これらに限定されるものではない。一般に、液体中に分散される無機添加剤の量は、分散液の総重量に対して、約1.0wt.%~65wt.%の範囲、あるいは約5wt.%~50wt.%、あるいは約9wt.%~約40重量%である。
【0037】
ゼオライトは、Tが最も一般的にはケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)であるTO4四面体単位の繰り返しで構成される結晶性または準結晶性のアルミノケイ酸塩である。これらの繰り返し単位は、互いに結合し、内部に分子レベルの大きさの空洞および/またはチャネルを含む結晶性の骨格または構造体を形成する。このように、アルミノケイ酸塩ゼオライトでは、少なくとも酸素(O)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の原子が、骨格構造に組み込まれている。ゼオライトは、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)が酸素原子を共有して相互に結合した結晶骨格を有するため、結晶骨格中に存在するSiO2:Al2O3(SAR)の比率によって特徴付けられることがある。
【0038】
本開示の無機添加剤は、チャバザイト(骨格表記は「CHA」)、キアベナイト(CHI)、フォージャサイト(FAU)、リンデタイプA(LTA)、ラウモンタイト(LAU)の骨格トポロジーを示す。骨格表記とは、ゼオライトの骨格構造を定義する国際ゼオライト学会(International Zeolite Associate(IZA))が定めたコードを表す。したがって、例えば、チャバザイトとは、ゼオライトの主結晶相が「CHA」であるゼオライトを意味する。
【0039】
ゼオライトの結晶相または骨格構造を、X線回折(XRD)データによって解析してもよい。しかしながら、XRDの測定値は、ゼオライトの成長方向、構成元素の比率、吸着物質や欠陥などの存在、XRDスペクトルにおける各ピークの強度比またはポジショニングのずれなど、様々な要因の影響を受ける可能性がある。したがって、IZAが提供する定義に記載された各ゼオライトの骨格構造の各々のパラメータについて測定された数値に、10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下のずれがあっても、予想される許容範囲内である。
【0040】
本開示の一態様によれば、本開示のゼオライトには、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたはそれらの混合物が含まれていてもよい。あるいは、ゼオライトは合成ゼオライトである。なぜなら、そのようなゼオライトは、SAR、結晶子の大きさ、結晶子のモルフォロジーの点で他のゼオライトより均一性が高く、不純物(例えば、アルカリ土類金属)が少なく凝集していないためである。
【0041】
無機添加剤50A~50Dは、板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有するか、このようなモルフォロジーを示す、複数の粒子を含んでもよい。あるいは、このモルフォロジーは、大部分が球状である。これらの粒子は、平均粒度(D50)が約0.01マイクロメートル(μm)~約15マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは約0.05マイクロメートル(μm)~約10マイクロメートル(μm)、あるいは約0.05μm~約5μm、あるいは約0.05μm~約3μm、あるいは0.05マイクロメートル(μm)~約7.5マイクロメートル(μm)、あるいは1マイクロメートル(μm)~約5マイクロメートル(μm)、あるいは0.05μm以上、あるいは1mμ以上、あるいは5μm未満であってもよい。当技術分野で知られている走査型電子顕微鏡(SEM)または他の光学的イメージング法またはデジタルイメージング法を使用して、無機添加剤の形状および/またはモルフォロジーを決定してもよい。平均粒度と粒度分布の測定については、例えば、ふるい分け、顕微鏡検査、コールター計数、動的光散乱または粒子画像分析など、従来のどのような技術を用いて実施してもよい。あるいは、平均粒度とそれに対応する粒度分布の決定には、レーザー粒子分析装置を使用する。
【0042】
また、無機添加剤50A~50Dは、表面積が約2m2/g~約5000m2/gの範囲、あるいは約5m2/g~約2500m2/g、あるいは約10m2/g~約1000m2/g、あるいは約25m2/g~約750m2/gであってもよい。無機添加剤50A~50Dの細孔容積は、約0.05cc/g~約3.0cc/gの範囲、あるいは0.1cc/g~約2.0cc/gであってもよい。無機添加剤の表面積および細孔容積の測定を達成するには、顕微鏡検査、小角X線散乱、水銀ポロシメトリー、BET分析を含むがこれらに限定されるものではない、公知のどのような技術を用いてもよい。あるいは、BET分析を使用して、表面積および細孔容積を決定する。
【0043】
無機添加剤50A~50Dは、無機添加剤の総重量に対して、6wt.%未満、あるいは約5wt.%未満、あるいは約0.01wt.%~6.0wt.%、あるいは約0.05wt.%~6wt.%、あるいは約0.05wt.%~約3.0wt.%、あるいは、0.25wt.%を超え、かつ4wt.%未満の濃度のナトリウム(Na)を含んでもよい。無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が無機添加剤の総重量に対して約0.05wt.%~約25wt.%、あるいは約0.1wt.%~約20wt.%、あるいは、約0.2wt.%~約15wt.%のリチウムイオン交換ゼオライトであってもよい。望ましい場合、無機添加剤には、K、Mg、Cu、Ni、Zn、Fe、Ce、Li、Na、Al、Mn、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiから選択される1種類以上のドーピング元素が含まれていてもよい。あるいは、1種類以上のドーピング元素は、K、Mg、Cu、Ni、Zn、Fe、Ce、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiから選択される。
【0044】
正極10および負極20の活物質は、リチウムイオン二次電池においてこの機能を果たすことが知られているどのような材料であってもよい。正極10に用いられる活物質としては、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩があげられるが、これらに限定されるものではない。正極10に使用することができる活物質のいくつかの例としては、LiCoO2、LiNi1-x-yCoxMnyO2(x+y≦2/3)、zLi2MnO3・(1-z)LiNi01-x-yCoxMnyO2(x+y≦2/3)、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4およびLiFePO4があげられるが、これらに限定されるものではない。また、負極15に用いられる活物質としては、グラファイト、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12など)、金属ケイ素または金属リチウムのうちの1種類以上があげられるが、これらに限定されるものではない。あるいは、負極で使用するための活物質は、比容量が1マグニチュード大きいことから、金属ケイ素または金属リチウムである。正極10および負極20の両方における集電体7、17は、例えばカソードにアルミニウム、アノードに銅など、リチウム電池の電極に使用されることが当技術分野で知られている任意の金属で作られていてもよい。また、正極10および負極20におけるカソード5およびアノード15は、一般に2つの異種活物質で構成されている。
【0045】
非水電解液30は、酸化/還元プロセスを助け、リチウムイオンがアノード15とカソード5との間を流れるための媒体を提供するために用いられる。非水電解液30は、リチウム塩を有機溶媒に入れた溶液であってもよい。リチウム塩のいくつかの例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)があげられるが、これらに限定されるものではない。これらのリチウム塩は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機溶媒と溶液を形成していてもよい。電解液の具体例としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物(EC/DEC=50/50vol.)にLiPF6を加えた1モル溶液があげられる。
【0046】
セパレータ40は、アノード15とカソード5とが接触しないようにして、リチウムイオンがセパレータを通って流れるようにする。セパレータ40は、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのブレンドなどの半結晶構造を有するポリオレフィンベースの材料ならびに、マイクロポーラスなポリ(メチルメタクリレート)がグラフトされたポリエチレン、シロキサンがグラフトされたポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブを含むがこれらに限定されるものではない、ポリマー膜であってもよい。
【0047】
本開示の別の態様によれば、1つ以上の二次セルを組み合わせて、リチウムイオン二次電池を製造してもよい。そのような電池75Aの例を、
図2Aおよび
図2Bに示す。図中、
図1A~
図1Dの二次セルを4つ積層し、さらに大きな単一の二次セルを形成して、これをカプセルに入れて電池75Aを製造している。
図3Aおよび
図3Bには、電池75Bの別の例を示す。図中、
図1A~
図1Dの二次セルを4つ積むか並べて直列に配置し、各々のセルを個別に収容した状態で大容量の電池75Bを製造している。リチウムイオン二次電池75A、75Bは、物理的保護と環境保護の両方の目的で、内側に二次セル1をカプセル化したり封入したりする内壁を有する筐体60も含む。
図2A/
図2Bおよび
図3A/
図3Bに示す電池75A、75Bには
図1A~
図1Dの二次セルが4つ取り入れられているが、電池75A、75Bにはセルがいくつ含まれていてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。また、電池75A、75Bは、無機添加剤が正極(50A、
図1A)、負極(50B、
図1B)、セパレータ(50C、
図1C)または電解液(50D、
図1D)に取り込まれた1つ以上のセルを含んでもよい。実際、例えば50A、50B、50Cまたは50Dなど、すべてのセルに同じように無機添加剤が取り込まれていてもよい。望ましい場合、電池75A、75Bの少なくとも1つのセルに無機添加剤50A~50Dが取り入れられているかぎり、電池75A、75Bには、無機添加剤50A~50Dが取り入れられても含まれてもいないセルが1つ以上含まれていてもよい。
【0048】
筐体60を構成するにあたって、当技術分野でそのような使い方が知られている材料であれば、どのような材料を使用してもよい。リチウムイオン電池は通常、3通りの主なフォームファクタまたは幾何学形状すなわち、円筒形、多面体またはソフトパウチに収容される。円筒形電池の筐体60は、アルミニウム、スチールなどで作られていてもよい。多面体の電池は通常、円筒形ではなく直方体形の筐体60を含む。ソフトパウチの筐体60は、様々な形状と大きさに形成することができる。これらの軟質の筐体は、アルミニウム箔でできたパウチの内側、外側またはその両方にプラスチックをコーティングして構成されたものであってもよい。また、軟質の筐体60は、ポリマータイプのケースであってもよい。筐体60に用いられるポリマー組成物は、リチウムイオン二次電池に従来から用いられている公知のポリマー材料であれば、どのような材料でもよい。数ある例の中でも具体的な例としては、内側にポリオレフィン層、外側にポリアミド層を含むラミネートパウチを使用することがあげられる。軟質の筐体60については、筐体60が電池75内の二次セル1を機械的に保護するように設計する必要がある。
【0049】
ここで
図2Bおよび
図3Bだけを参照すると、無機添加剤50Eは、筐体60の内壁の表面の少なくとも一部に塗布されるコーティングとしても含まれていてもよい。望ましい場合、筐体60の内壁に塗布された無機添加剤50Eを、二次セル1の1つ以上に無機添加剤50A~50Dを含むようにした上で併用してもよいし、個別には無機添加剤50A~50Dを含まない二次セルと別々に併用してもよい。
【0050】
様々な要因が、リチウムイオン二次電池の劣化の原因になり得る。これらの要因の1つとして、非水電解液中に、様々な有害な種が存在することがあげられる。これらの有害な種としては、水分(例えば、水または水蒸気)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)があげられる。
【0051】
電解液中の水分には、主に、製造時に残ったものと有機電解液の分解によって発生するものがある。乾燥した環境が望ましいとはいえ、電池または電池セルの製造時に水分が存在するのを完全に排除することはできない。また、電解液中の有機溶媒は、特に高温での動作時に分解してCO2およびH2Oを生じる傾向がある。この水(H2O)がLiPF6などのリチウム塩と反応して、フッ化リチウム(LiF)やフッ化水素(HF)が発生する可能性がある。不溶性のフッ化リチウム(LiF)は、アノードまたはカソードの活物質の表面に堆積して、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。この固体電解質界面(SEI)は、場合によってはリチウムイオンの(デ)インターカレーションを減少または遅延させ、活物質の表面を不活化することで、レート能力の低下および/または容量の損失をもたらす。
【0052】
さらに、フッ化水素(HF)が存在すると、遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極を攻撃し、活物質とは組成的に異なる遷移金属化合物と水がさらに生じる場合がある。水が存在して反応物として作用すると、生じる反応が周期的になり得ることから、電解液や活物質が継続的に悪影響を受ける場合がある。加えて、形成される遷移金属化合物が不溶性で電気化学的に不活性な場合がある。これらの遷移金属化合物が正極の表面に存在することで、SEIが形成される場合がある。一方、可溶性の遷移金属化合物は、電解液に溶解して遷移金属イオン(TMn+)になる場合がある。これらの遊離遷移金属イオン、例えば、Mn2+やNi2+は、アノードに向かって移動することができ、アノードでSEIとして堆積して様々な異なる反応を引き起こす場合がある。これらの反応によって、電極の活物質や電解液中のリチウムイオンが消費される場合があり、こうした反応もリチウムイオン二次電池の容量損失の原因となり得る。
【0053】
本開示で提供する具体例は、本発明の様々な実施形態を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で説明されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0054】
評価方法1-無機添加剤の遷移金属カチオントラップ能力
【0055】
Mn2+、Ni2+およびCo2+に対する吸蔵能力に関する無機添加剤の性能を、有機溶媒すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol)中で測定する。
【0056】
有機溶媒中におけるMn2+、Ni2+、Co2+に対する無機添加剤のトラップ能力を、ICP-OESにより分析する。有機溶媒については、過塩素酸マンガン(II)、過塩素酸ニッケル(II)、過塩素酸コバルト(II)をそれぞれ1000ppm含むように調製する。粒子状の無機添加剤を総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、Mn2+、Ni2+およびCo2+の濃度の低下を測定する。
【0057】
評価方法2-無機添加剤のHF捕捉能力
【0058】
非水電解液すなわち、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に1MのLiPF6を加えた溶液における、無機添加剤のHF捕捉能力を、フッ化物ISE計によって分析する。電解液については、100ppmのHFを含むように調製する。粒子状の無機添加剤を総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、溶液中のF-の減少を測定する。
【0059】
以下は、水分が残ったリチウムイオン電池での反応である。
LiPF6+H2O→HF+LiF↓+H3PO4
LiMO2+HF→LiF↓+M2++H2O
であり、ここで、Mは遷移金属を表す。
【0060】
その結果、電解液中のHFを減少させるために、無機添加剤がHFと残留水分とを同時に消費することで反応の連鎖を断ち切る。
【0061】
評価方法3-セパレータ
【0062】
単層ポリプロピレン膜(Celgard(登録商標) 2500, Celgard LLC, North Carolina)を用いてセパレータを作製する。性能を比較するために、無機添加剤を含むセパレータと含まないセパレータを作製する。無機添加剤を含むスラリーをセパレータに二面コーティングする。スラリーは、10~50wt.%の無機添加剤粒子を脱イオン(DI)水に分散させたものである。固形分全体に対するポリマーバインダーの質量比は、1~10%である。コーティングは、乾燥前の厚さが5~15μmである。コーティング付きのセパレータの厚さは、25~45μmである。コーティング付きのセパレータを、直径19mmの丸い円盤に打ち抜く。
【0063】
評価方法4-コインセルのサイクリング
【0064】
無機添加剤を電気化学的な状況で評価するために、コインセル(2025型)を作製する。外装ケーシング、スペーサー、スプリング、集電体、正極、セパレータ、負極、非水電解液を含むコインセルを作製する。
【0065】
正極で使用する膜を作製するために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のn-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などの活物質(AM)とカーボンブラック(CB)粉末とを分散させることによって、スラリーを形成する。AM:CB:PVDFスラリーの質量比は、90:5:5である。いずれの場合も、このスラリーをアルミニウム膜にブレードコーティングする。乾燥およびカレンダー処理後、形成された各正極膜の厚さを測定すると、50~150μmの範囲内になる。これらの正極膜を、それぞれ直径12mmの円盤状に打ち抜く。活物質は質量負荷が5~15mg/cm2の範囲である。
【0066】
負極として、リチウム金属箔(厚さ0.75mm)を直径12mmの丸い円盤状に切り出す。
【0067】
電池の性能試験について本明細書でさらに説明するように、上述した正極および負極、評価方法3で説明したようなセパレータ、電解液としてエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に1MのLiPF6を加えた溶液を使用して、2025型のコインセルを作製する。各セルについて、C/5レートで2回のフォーメーションサイクルの後、25℃でC/2の電流負荷、3~4.3Vでサイクルする。
【実施例】
【0068】
実施例1
【0069】
無機添加剤として、Liでイオン交換したFAU型のY型ゼオライトを使用する。粒度を測定すると、D10、D50、D90がそれぞれ0.27、0.43、3.76μmである。表面積は640m2/g、細孔容積は0.23cc/gである。SARは3.6で、無機添加剤は0.35wt.%のNa2Oと6.36wt.%のLi2Oを含有する。
【0070】
遷移金属カチオンに対するトラップ能力試験では、無機添加剤は、EC/DMC中のNi2+、Mn2+、Co2+をそれぞれ63%、77%、84%減少させた。また、無機添加剤は、電解液中のHFを30%捕捉した。
【0071】
Y型ゼオライトをCelgard(登録商標) 2500セパレータにコーティングするために、Y型ゼオライト粉末とPVA溶液でスラリーを作製する。無機粉末とポリマーバインダーの重量比は12.5:1である。スラリーの固形分負荷は20%である。このスラリーを二面コーティングする。厚さはコーティング層1つあたり7.5μmである。コーティングされたセパレータのSEM画像を
図4に示す。
【0072】
一度目のフォーメーションサイクルでは、従来の裸のポリプロピレン製セパレータを用いたセルは、放電容量149.6mAh/g、クーロン効率86.1%を示す。対照的に、本開示のコーティング付きのセパレータを用いたセルは、放電容量145.8mAh/g、クーロン効率81.2%を示す。各セルのクーロン効率は、初期充放電サイクル後に99.5%を上回る。C/5での充放電を100サイクル行った後、コーティング付きのセパレータを用いたセルでは0.5%前後の容量損失しか生じないのに対し、コーティングのない従来のセパレータを用いたセルでは約2%の低下が見られる。コーティング付きのセパレータを用いたセルのクーロン効率は約1%落ちるのに対し、コーティングのない従来の裸のポリプロピレンセパレータを用いたセルで観察される劣化は3%である。この放電容量とクーロン効率の低下を、サイクルの関数として、それぞれ
図5および
図6に詳しく示す。
図5では、放電容量を正規化した値で示している。
【0073】
本明細書では、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で実施形態を説明したが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりしてもよいことが想定されており、また、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0074】
本開示に照らして、当業者であれば、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を使用してもよい。
【0075】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示したものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図していない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な形態で、様々な改変を施して本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内であり、特許請求の範囲が公正かつ適法に、衡平に与えられる範囲に従って解釈される。
【国際調査報告】