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特表2024-510815ナトリウムイオン電池用の電解質組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用の電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240304BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240304BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240304BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240304BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/054
H01M10/0568
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558606
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2022057478
(87)【国際公開番号】W WO2022200343
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21305354.9
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】519226908
【氏名又は名称】コレージュ・ド・フランス
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サティヤ・マリヤッパン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マリー・タラスコン
(72)【発明者】
【氏名】フセイン・ヒヤジ
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ16
5H029DJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ12
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明は、溶媒に溶解した少なくとも1種のナトリウム塩、及び添加剤の組合せを含む電解質組成物であって、- 前記溶媒が、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸メチル、4-フルオロトルエン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ジ-フルオロエチレンカーボネート、エチルジフルオロアセテート、並びにジグリムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含み、- 添加剤の組合せが少なくとも、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TMSPi)及びスクシノニトリル(SN)を含む、電解質組成物に関する。本発明はまた、Naイオン電池における前記電解質組成物の使用、及びそれを備えるNaイオン電池にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解した少なくとも1種のナトリウム塩、及び添加剤の組合せを含む電解質組成物であって、
- 前記溶媒が、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸メチル、4-フルオロトルエン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ジ-フルオロエチレンカーボネート、エチルジフルオロアセテート、並びにジグリムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含み、
- 添加剤の組合せが、少なくとも、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TMSPi)及びスクシノニトリル(SN)を含む、
電解質組成物。
【請求項2】
TMSPiの量が、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~10質量%の範囲である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
SNの量が、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.1~5質量%の範囲である、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
添加剤の組合せが、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン及びジフルオロ(オキサラト)ホウ酸ナトリウム(NaODFB)を含む群において選択される少なくとも1種の追加の添加剤を更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
NaODFBの量が、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~10質量%の範囲である、請求項4に記載の電解質組成物。
【請求項6】
炭酸ビニレンの量及び/又は炭酸ビニルエチレンの量が、各々、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.1~10質量%の範囲である、請求項4又は5に記載の電解質組成物。
【請求項7】
添加剤の組合せが、TMSPi、SN、NaODFB及び炭酸ビニレンを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
前記溶媒が、少なくとも第1及び第2の化合物の混合物であり、前記第1の化合物が、炭酸エチレンであり、前記第2の化合物が、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル及びプロピオン酸エチル、ジグリム、並びに1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルからなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項9】
少なくとも2種の化合物の前記混合物が、好ましくは1:1の体積比の、炭酸エチレン及び炭酸プロピレンの混合物である、請求項8に記載の電解質組成物。
【請求項10】
溶媒が、第3の化合物を更に含み、前記第3の化合物が、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル及びプロピオン酸エチル、ジグリム、並びに1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルからなる群から選択される、請求項9に記載の電解質組成物。
【請求項11】
前記第3の化合物が、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、ジグリム及び炭酸ジエチルからなる群から選択される、請求項10に記載の電解質組成物。
【請求項12】
前記溶媒が、少なくとも第1及び第2の組成物の混合物であり、前記第1の組成物は、炭酸エチレン及び/又は炭酸プロピレンであり、前記第2の組成物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル及びプロピオン酸エチル、ジグリム、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から7に記載の電解質組成物。
【請求項13】
ナトリウム塩が、好ましくは別のナトリウム塩、例えば、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ビス(フルオロスルホニル)イミドナトリウム(NaFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(NaTFSI)、フルオロスルホニル-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(NAFTFSI)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドナトリウム(NaBETI)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)及びそれらの混合物のうちの1つと混合した、NaPF6であり、有利には、NaPF6の割合が、ナトリウム塩の総質量の50~99質量%の範囲である、請求項1から12のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項14】
Naイオン電池における非水性液体電解質としての、請求項1から13のいずれか一項に記載の電解質組成物の使用であって、好ましくは、充電の最初のサイクルが25℃~70℃の温度で実施される、使用。
【請求項15】
- 少なくとも1つの正極活物質及び集電体を備える少なくとも1つの正極、
- 負極活物質を備える少なくとも1つの負極、並びに
- 非水性液体電解質に含浸された少なくとも1つのセパレーターであって、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレーター
を備え、
前記非水性液体電解質が請求項1から13のいずれか一項に記載の通りの電解質組成物である、Naイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン電池用の電解質組成物、及びナトリウムイオン電池における非水性液体電解質としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン(Naイオン)技術は、リチウムと比較したナトリウムの高い天然存在度及び低いコストに起因して、とりわけ定地型エネルギー貯蔵分野における、次世代電池の有望な代替候補である。これにより、この10年間にわたって、最適化されたNaイオン電池システム用の新しい優れた電極材料を開発するナトリウムイオン電池の種々の成分に対する研究が盛んに行われている。ポリアニオン、例えばNa3V2(PO4)2F3、又は層状、例えば、O3 NaNi0.5Mn0.5O2及びP2 Na0.67Mn0.5Fe0.5O2化合物のいずれかに基づく2種類の技術が出現しており、前者はパワーレート、サイクル寿命及び比エネルギーの点で最も機能する。
【0003】
しかしながら、実地適用のためには、界面、すなわち固体電解質界面(SEI)及びカソード電解質界面(CEI)の性質及び安定性に強く依存する他の特徴、例えば、様々な温度/気候条件での動作、安全性、自己放電及び耐久性が満足されなくてはならない。このため、使用される電解質の性質に対する徹底的な研究が必要である。初期段階では、研究者は、単にLi塩をナトリウム塩に変更することによって、Liイオン技術に使用されてきたものの単純な外挿を使用することができるであろうと安直に考える。しかしこれは、Li+と比較してNa+の酸性度がより穏やかであることから、Na由来SEI/CEIを構成するNaベースの有機/無機生成物の溶解性は、Li対応物の溶解性と比較して異なっていることを考慮していなかった。
【0004】
そのような事柄に照らして、本発明者らは、1mol/L NaPF6電解質を含む、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)及び炭酸ジメチル(DMC)の伝統的な混合物をベースとするNa3V2(PO4)2F3/硬質炭素(C)セルが、室温で極めて良好に機能するが、55℃においてサイクル及び自己放電の点で不良な性能を示すことを経験した。
【0005】
本発明者らが開発した1つの解決法は、EC-PC及びNaPF6の混合物をベースとする特定の電解質を組み込むことであり、これに、少数の添加剤:ジフルオロ(オキサレート)ホウ酸ナトリウム(NaODFB)、スクシノニトリルN≡C-(CH2)2-C≡N(SN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及び炭酸ビニレン(VC)を添加した。
【0006】
しかしながら、この電解質はいくつかの欠点、例えば、不十分な濡れ性のために市販のポリオレフィンセパレーターと共に使用することができないこと、高粘度及びセル電力供給能の減少(高抵抗性SEI)を有する。
【0007】
市販ポリオレフィンセパレーターを湿らせることを目的として、本発明者らは、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)をベースとする別の特定の電解質に1mol/L NaPF6を組み込み、これに以下の添加剤:NaODFB、VC及びトリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TMSPi)を添加した。
【0008】
しかしながら、市販のセルにおいて使用した場合、サイクル時にセル圧力の連続的な上昇が観察され、セルの回路遮断デバイス(CID)の破壊及びセルの故障につながった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これらの欠点を取り除くことである。
【0010】
本発明の目的は、パワーレート、サイクル寿命及び比エネルギーの点でより良好な性能を示す一方、良好な濡れ特性を維持し、減圧形成を引き起こす、Naイオン電池用の電解質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、溶媒に溶解した少なくとも1種のナトリウム塩、及び添加剤の組合せを含む電解質組成物であって、
- 前記溶媒が、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸メチル、4-フルオロトルエン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ジ-フルオロエチレンカーボネート、エチルジフルオロアセテート、並びにジグリムからなる群から選択される成分を少なくとも含み、
- 添加剤の組合せが、少なくとも、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TMSPi)及びスクシノニトリル(SN)を含む、
電解質組成物に関する。
【0012】
本発明者らは、スクシノニトリルを組み合わせることが、安定なCEIを形成することによって正極の保護を補助し、電解質溶媒の酸化を低減し、それによって、気体副生成物の形成を低減して、サイクル時の圧力上昇の問題が克服されることを予想外に見出した。更に、本発明の電解質組成物は、パワーレート、サイクル寿命及び/又は比エネルギーの点でより良好な性能を示す一方、良好な濡れ特性を維持する。
【0013】
本発明のある実施形態によると、TMSPiの量は、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~10質量%の範囲である。特に、TMSPiの量は、やはりナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~5質量%、好ましくは0.1~1質量%の範囲であってもよく、更により好ましくは、TMSPiの量は、およそ0.2質量%である。
【0014】
そのような知見に制限されることを望むことなく、スクシノニトリルは、遷移金属酸化物表面への化学吸着されたニトリル分子の単層の形成によって、又は酸化分解によってのいずれかで、正極の不動態化に寄与すると考えられる。
【0015】
本発明の実施形態によると、スクシノニトリルの量は、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.1~5質量%の範囲である。特に、スクシノニトリルの量は、やはりナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、1~5質量%、好ましくは2~4質量%の範囲であってもよく、より好ましくは、スクシノニトリルの量は、およそ3質量%であってもよい。
【0016】
本発明の実施形態によると、添加剤の組合せは、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン及びジフルオロ(オキサラト)ボレート(NaODFB)、並びにそれらの混合物を含む又はそれらからなる群において選択される少なくとも1種の追加の添加剤を更に含む。
【0017】
NaODFBは、負極で還元分解を受け、その不動態化につながるフィルム形成添加剤である。NaODFBの分解生成物は、SEI組成物に効率的に寄与し、負極での寄生反応に対する保護を提供すると考えられる。
【0018】
NaODFBの量は、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~10質量%の範囲であってもよい。好ましくは、NaODFBの量は、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、0.05~5質量%の範囲であり、特に、0.05~1質量%の範囲であってもよい。ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対しておよそ0.5質量%のNaODFBの量が、特に好ましい。
【0019】
本発明の電解質組成物への炭酸ビニレンの添加は、炭酸ビニレンとTMSPiとの間の相乗効果に起因して、電解質性能を更に強化しうる。その他、炭酸ビニレンは、エラストマーの形成を介したDMCの分解を最小にし、正極に移動する可溶性種の量を限定するのを補助することができる。
【0020】
とりわけ、炭酸ビニレンの量及び/又は炭酸ビニルエチレンの量は、各々、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.1~10質量%の範囲である。特に、炭酸ビニレンの量及び/又は炭酸ビニルエチレンの量は、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、1~5質量%の範囲である。特に、炭酸ビニレンの量及び/又は炭酸ビニルエチレンの量は、各々、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、2~5質量%の範囲である。更には、炭酸ビニレンの量及び/又は炭酸ビニルエチレンの量は、各々、ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して、3質量%である。
【0021】
本発明の特定の実施形態によると、添加剤の組合せは、TMSPi、SN、NaODFB及び炭酸ビニレンを含む。
【0022】
本発明の実施形態によると、溶媒は、少なくとも第1及び第2の化合物の混合物であり、前記第1の化合物は、炭酸エチレンであり、前記第2の化合物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、プロピオン酸エチル及び酢酸メチル、ジグリム、並びに1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルからなる群から選択される。
【0023】
とりわけ、第2の化合物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル及び炭酸プロピレンからなる群から選択される。特に、第2の化合物は、炭酸ジメチル又は炭酸プロピレンである。
【0024】
第1の化合物の第2の化合物に対する体積比は、1:20~20:1、とりわけ1:9~5:1の範囲であってもよい。特に、体積比は、およそ1:1である。
【0025】
特定の実施形態では、少なくとも2種の化合物の混合物は、好ましくは1:1の体積比の、炭酸エチレン及び炭酸プロピレンの混合物である。
【0026】
好ましくは、溶媒は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、プロピオン酸エチル及び酢酸メチル、ジグリム、並びに1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルからなる群から選択される第3の化合物を更に含む。
【0027】
特に、前記第3の化合物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、カルボン酸エステル、例えば、プロピオン酸エチル及び酢酸メチル、ジグリム、並びに炭酸ジエチルからなる群から選択される。
【0028】
第1の化合物及び第2の化合物の第3の溶媒に対する体積比は、1:1:1~1:1:20の範囲であってもよい。特に、第1、第2及び第3の化合物は、1:1:1、1:1:8又は1:1:2の体積比に従って混合される。
【0029】
好ましくは、溶媒は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、カルボン酸エステル、例えば、プロピオン酸エチル及び酢酸メチル、ジグリム、並びに1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルからなる群から選択される第4の化合物を更に含む。
【0030】
特に、前記第4の化合物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、カルボン酸エステル、例えば、プロピオン酸エチル及び酢酸メチル、ジグリム、並びに炭酸ジエチルからなる群から選択される。
【0031】
好ましい溶媒ミックスは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル及び酢酸メチルを含む。
【0032】
第1、第2及び第3の化合物の第4の化合物に対するそれぞれの体積比は、1:1:1.84:0.16~1:1:30:20の範囲であってもよい。
【0033】
本発明の別の実施形態では、溶媒は、直鎖状及び環状カーボネートの混合物である。好ましくは、溶媒は、少なくとも第1及び第2の組成物の混合物であり、前記第1の組成物は、炭酸エチレン及び/又は炭酸プロピレンであり、前記第2の組成物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル及びプロピオン酸エチル、ジグリム、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0034】
特に、第2の組成物は、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、カルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル及びプロピオン酸エチル、並びにジグリムからなる群から選択される。
【0035】
好ましい実施形態では、第1の組成物は、炭酸エチレン及び炭酸プロピレンの混合物である。この場合、炭酸エチレンの炭酸プロピレンに対する体積比は、好ましくは、1:1である。
【0036】
第1の組成物の第2の組成物に対する体積比は、1:20~5:1の範囲であってもよく、好ましくは、1:20~1:1である。好ましくは、電解質組成物の粘度を低減するために、第2の組成物(直鎖状カーボネート)の体積は、第1の組成物(環状カーボネート)のうちの1種よりも高い。
【0037】
別の実施形態では、溶媒は、20個未満の炭素原子、好ましくは、10個未満の炭素原子を有してもよいカルボン酸エステル、例えば、酢酸メチル又はプロピオン酸エチルを含む。4種の添加剤の存在とは無関係に、共溶媒として酢酸メチルを有する電解質組成物は、バルク伝導性に関して利益を提供し、抵抗性の低い界面を有し、低いインピーダンスを示す。これは、とりわけ、低温(零度以下)サイクル、並びに高電力性能(例えば、10分間充電の約84%)又は良好なレート能に有益である。特に、酢酸メチルを使用して、一部の炭酸ジメチルを置き換えることが有利であることも見出された。
【0038】
ナトリウム塩は、Naイオン電池に適した非水性電解質において一般に使用される塩の中から選択されてもよい。ナトリウム塩の例としては、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ビス(フルオロスルホニル)イミドナトリウム(NaFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(NaTFSI)、フルオロスルホニル-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(NAFTFSI)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドナトリウム(NaBETI)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、及びそれらの混合物のうちの1つを挙げることができる。
【0039】
特に、ナトリウム塩は、好ましくは別のナトリウム塩と混合された、NaPF6、例えば、上記のもののうちの1種、特にNaFSI、NaTFSI及びNaFTFSIである。他の塩に関するNaPF6の割合は、好ましくは、50~99質量%の範囲である。
【0040】
好ましくは、他のナトリウム塩は、電解質溶媒及び塩の総質量に対して、0.5~15質量%、好ましくは、1~10質量%、特に2~4質量%(例えば、およそ3質量%)の量で存在する。
【0041】
電解質組成物中のナトリウム塩の濃度は、約0.1~3.0mol/L、好ましくは約0.5~2.0mol/Lの範囲であってもよい。
【0042】
本発明の特定の実施形態として、電解質組成物は、
- 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、
- 1mol/Lの濃度のNaPF6
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.5質量%の量のNaODFB、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.2質量%の量のTMSPi、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量の炭酸ビニレン、
ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のスクシノニトリル
を含む。
【0043】
本発明の特定の実施形態として、電解質組成物は、
- 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、
- 1mol/Lの濃度のNaPF6
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.5質量%の量のNaODFB、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して1質量%の量のTMSPi、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のビニレン、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のスクシノニトリル
を含む。
【0044】
本発明の特定の実施形態として、電解質組成物は、
- 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、
- 1mol/Lの濃度のNaPF6
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.5質量%の量のNaODFB、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.2質量%の量のTMSPi、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のビニレン、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のスクシノニトリル
を含む。
【0045】
本発明の特定の実施形態として、電解質組成物は、
- 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸エチルメチル、
- 1mol/Lの濃度のNaPF6
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.5質量%の量のNaODFB、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.2質量%の量のTMSPi、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のビニレン、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のスクシノニトリル
を含む。
【0046】
本発明の特定の実施形態として、電解質組成物は、
- 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、
- 1mol/Lの濃度のNaPF6
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.5質量%の量のNaODFB、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して0.2質量%の量のTMSPi、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のビニレン、
- ナトリウム塩及び溶媒の総質量に対して3.0質量%の量のスクシノニトリル
を含む。
【0047】
本発明はまた、Naイオン電池中の非水性液体電解質としての、上に定義した通りの電解質組成物の使用に関する。好ましい実施形態では、充電の最初のサイクルは、25℃~70℃、特に55℃の温度で実施される。とりわけ、第1の充電に使用される温度は、より安定なSEIを得るために、後続の充電に使用される温度以上、好ましくはそれよりも高い。
【0048】
最後に、本発明は、
- 少なくとも1つの正極活物質及び集電体を備える少なくとも1つの正極、
- 負極活物質及び集電体を備える少なくとも1つの負極、並びに
- 非水性液体電解質に含浸された少なくとも1つのセパレーターであって、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレーター
を備える、Naイオン電池であって、
前記非水性液体電解質が、上に定義した通りの電解質組成物である、Naイオン電池に関する。
【0049】
正極活物質は、ナトリウムイオンを可逆的に挿入することが可能な物質であり、酸化物、例えば、NaxMO2(式中、Mは、Ni、Co、Mn、Fe、Cr、Ti、Cu、Zn、V、Al及びMgを含む群から選択される少なくとも1種の金属元素を表す)の中、並びにリン酸塩、例えば、NaTi2(PO4)3、Na3V2(PO4)3、Na3V2(PO4)2F3、Na2MnP2O7、Na2MnPO4F、Na1.5VPO4.8F0.7及び/又はNaV1-xCrxPO4Fの中から選択されうる。これらの正極活物質の中でも、NVPFとも呼ばれるNa3V2(PO4)2F3、Na2/3Mg1/3Mn2/3O2及びそれらの混合物が、特に好ましい。
【0050】
正極活物質に加えて、正極は、ポリマー結合剤及び任意選択で電子伝導剤を更に含んでもよい。
【0051】
好適なポリマー結合剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、セルロース繊維、セルロース誘導体、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジアセチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びそれらの混合物を挙げることができる。これらの結合剤の中でも、PVdFが好ましい。
【0052】
伝導剤は、カーボンブラック、Super Pカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、天然若しくは合成グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、気相成長カーボンファイバー、又はそれらの混合物であってもよい。
【0053】
正極の総質量に対する割合は、好ましくは、
- 正極活物質: 80~98質量%
- 電子伝導剤: 1~10質量%
- ポリマー結合剤: 1~10質量%
である。
【0054】
負極に使用される負極活物質は、炭素材料、特に、硬質炭素、軟質炭素、カーボンナノファイバー又はカーボンフェルト、アンチモン、スズ及びリンの中から選択されうる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によると、負極活物質は、炭素材料であり、前記負極は、正極について上で挙げたものと同じポリマー結合剤の中から、好ましくは、PVdF又はセルロース誘導体結合剤から選択されうるポリマー結合剤を更に含む。
【0056】
正極について言及した通り、負極は、正極について上で挙げたものと同じ伝導剤の中から選択されうる伝導剤を更に含んでもよい。
【0057】
正極及び/又は負極はまた、集電体を備えてもよい。
【0058】
正極及び/又は負極の集電体は、電子伝導材料、より詳細には、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、鉄及びそれらの合金からなる群から選択されうる金属材料を含んでもよい。
【0059】
セパレーターは、ポリプロピレン及び/若しくはポリエチレンを含む従来のポリマーベースのセパレーター、例えば、Celgard(登録商標)セパレーター、又はガラスファイバー、例えば、Whatman(登録商標)ホウケイ酸ガラスファイバーセパレーター、又はセルロースベースのセパレーター、例えば、Dreamweaver(登録商標)不織ナノファイバーセパレーターであってもよい。
【0060】
本発明によるNaイオン電池は、電解質によって分離された2つの電極(すなわち、1つの正極及び1つの負極)を備える単一電気化学セルを備えてもよく、又は直列にアセンブルされた複数の化学セルで構成されてもよく、又は並列にアセンブルされた複数の化学セルで構成されてもよく、又は2つのアセンブリータイプの組合せで構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備えるNaイオン電池についての、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。図1Aは、0℃で実施される。図1Bは、25℃で実施される。図1Cは、55℃で実施される。図1A図1B及び図1Cについて、左側のグラフは、試験プロトコルの最初の10サイクルを表し、右側のグラフは、試験プロトコルの最後の10サイクルを表す。各々の左側のグラフでは、両矢印は、低及び高容量値(図1A:83.3mAh.g-1;図1B:96.1mAh.g-1;図1C:104mAh.g-1)間のデルタを表す。
図2】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備えるNaイオン電池についての、様々な温度(℃)における放電容量(%)を表す図である。各温度について、左側のバーは、自己放電前の(n-1)回目のサイクルの放電容量(Qn-1)を表し、中央のバーは、自己放電時の放電容量(n回目のサイクル、Qn)を表し、右側のバーは、自己放電後の(n+1)回目のサイクルの放電容量(Qn+1)を表す。
図3】サイクルの関数としての放電容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)を表す図である。ひし形記号は、55℃で得られた結果を表す。白抜きの丸形記号は、25℃で得られた結果を示す。六角形記号は、0℃で得られた結果を表す。
図4】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備えるNaイオン電池についてのSEIの安定性の影響を表す図である。図4A及び図4Bは、2つの条件、25℃(図4A)及び55℃(図4B)で実施したサイクリックボルタモグラム(y軸:電流(アンペア)及びx軸:電位(ボルトvs Ag+/Ag))であり、実線は、1.7~0ボルトvs Na+/Na(-1~-2.7ボルトvs Ag+/Agに対応する)の範囲の電圧により、100mV/秒で実施した最初の5サイクルを表す。点線は、1.7Vで5分間の自己放電後、6回目のサイクルを表す。図4Cは、サイクルの関数としての放電容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)を表す。ひし形記号は、最初のサイクルを55℃で実施し、25℃で得られた結果を表す。白抜きの丸形記号は、すべて(最初及び後続)のサイクルについて、25℃で得られた結果を表す。
図5】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備えるNaイオン電池について(図5A)及び非水性液体電解質として電解質組成物EC1(比較)を備えるNaイオン電池について(図5B)の、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。結果は、55℃で得られる。図5A及び図5Bの両方において、実線は、最初の10サイクルを表し、点線は、4.3Vでの自己放電後の放電曲線(n回目のサイクル)を表し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表す。
図6】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備える2種類のNaイオン電池についての容量(正極活物質の質量に基づき、図6AではmAh.g-1図6BではmAh)の関数として電圧(V)の展開を示す図である。結果は、55℃で得られる。図6Aは、図1Cに対応する。図6Bは、18650セルに対応する。左側のグラフは、自己放電前の試験プロトコルの最初の10サイクルを表し、右側のグラフは、4.3Vで1週間の自己放電後の試験プロトコルの12~21サイクルを表す。図6Bの左側のグラフの両矢印は、低及び高容量値間のデルタ(最初の10サイクルについて945mAh、及び12~21サイクルについて915mAh)を表す。
図7】非水性液体電解質として本発明による電解質組成物EC3を備える2種類のNaイオン電池についての容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。結果は、25℃で得られる。図7Aは、図1Bに対応する。図7Bは、18650セルに対応する。左側のグラフは、自己放電試験前の試験プロトコルの最初の10サイクルを表し、右側のグラフは、4.3Vで1週間の自己放電後の試験プロトコルの12~21サイクルを表す。図7Bの各グラフの両矢印は、低及び高容量値間のデルタ(最初の10サイクルについて850mAh、及び12~21サイクルについて840mAh)を表す。
図8】Naイオン電池Na-B3(図8A)、Na-B4(図8B)、Na-B2(図8C)、Na-B5(図8D)及びNa-B6(図8E)についての、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。結果は、55℃で得られる。各図において、実線は、最初の10サイクル(1~(n-1)サイクル)を表し、点線は、4.3Vで1週間の自己放電後のサイクルnにおける放電曲線を表し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表す。
図9】Naイオン電池Na-B7(図9A)及びNa-B2(図9B)についての、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)を示す図である。結果は、55℃で得られる。各図で、実線は、最初の10サイクルを表し、点線は、自己放電試験後の放電曲線(n回目のサイクル)を表し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表す。
図10】Naイオン電池Na-B8(図10A)、Na-B9(図10B)、Na-B10(図10C)、Na-B11(図10D)及びNa-B12(図10E)についての、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。結果は、55℃で得られる。各図において、実線は、最初の10サイクルを表し、点線は、自己放電試験後の放電曲線(n回目のサイクル)を表し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表す。
図11】充電/放電のサイクルの関数としての、電解質溶液EC1(白抜きの四角、比較)及びEC3(塗りつぶしの丸、本発明)を有するNaイオン18650セル内部の圧力の展開を示す図である。データは、対応する18650セルを55℃でサイクルさせることによって収集した。
図12】25℃における電解質溶液EC4を有するSwagelok型セル(図12A)及び電解質溶液EC1を有するSwagelok型セル(図12B)についてのサイクル時間(分)の際の気体の量(相対存在量)を示す図である。図12A及び図12Bの上側パネルは、時間(分)の関数としての電圧(V)の展開を表す。図12A及び図12Bの下側の3つのパネルは、時間(分)の関数としての様々な気体の相対存在量を示す:H2(76.2;46.2)、CO2(67.5;222)、POF3(いずれの場合もほぼゼロ)、エチレン(C2H4)(7.1;17.4)、及びフルオロトリメチルシラン(Me3SiF)(5;15)。矢印は、右側のY軸を有する曲線を示す。
図13】55℃における電解質溶液EC2を有するSwagelok型セル(図13A)及び電解質溶液EC3を有するSwagelok型セル(図13B)についてのサイクル時間(分)の際の気体の量(相対存在量)を示す図である。図13A及び図13Bの上側パネルは、時間(分)の関数としての電圧(V)の展開を表す。図13A及び図13Bの下側の3つのパネルは、時間(分)の関数としての様々な気体の相対存在量を示す:H2(105.3;82.3)、CO2(1196.4;297)、POF3(なし;100)、C2H4(2.3;4.3)、及びフルオロトリメチルシラン(Me3SiF)(なし;43)。矢印は、右側のY軸を有する曲線を示す。
図14】実施例5の円筒形18650セルについての、25℃でのC1-D1及びC/10-D/10サイクル(10回のC1サイクル毎に1回のC/10サイクル)の、サイクル数の関数としての放電容量(mAh)を示す図である。挿入グラフは、セルをC/10:D/10レートでサイクルさせた、サイクル10及び2000についての、容量(mAh)の関数としての電圧(V)の展開を示す。
図15】実施例6の円柱形18650セルについて、最初は55℃でC10-D10サイクルレート(最初の100サイクル)、次いで、25℃で1C-1Dレートでの、サイクル数の関数としての放電容量(mAh)を示す図である。
図16】種々の電解質組成物及び実施例7に記載される従来技術組成物のインピーダンスデータを示す図である。
図17】実施例17のセルについての、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す図である。実線は、自己放電試験前の(n-1)回目のサイクルを表し、点線は、4.3Vでの自己放電後の放電曲線(n回目のサイクル)を示し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表し、このとき、nは10である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0062】
(実施例1)
電解質組成物の調製
1.EC-PC-DMC混合物の調製
4つの電解質組成物(EC1~EC4)を、
- 溶媒: 1:1:1の体積(v/v)比の炭酸エチレン(EC)-炭酸プロピレン(PC)-炭酸ジメチル(DMC)、
- 塩: 1MのNaPF6、及び
- 添加剤
を混合することによって調製した。
【0063】
組成物EC1~EC4の添加剤を、以下の表に示す(単位は、溶媒及び塩の総質量に対する質量%):
【0064】
【表1】
【0065】
EC1~EC9は、添加剤の質量を各電解質溶液に適合して、本明細書の以下で記載するのと同じ方法に従って調製した。
【0066】
EC3について詳述すると、1mLのEC(Dodochem(登録商標)社)、1mLのPC(Dodochem(登録商標)社)及び1mLのDMC(Dodochem(登録商標)社)を、バイアルに添加し、混合した。溶媒の質量は、3.59g(1.32g EC+1.2g PC+1.07g DMC)であった。続いて、0.504gのNaPF6(Stella(登録商標)社)を、1Mの濃度に達するまで添加した。次いで、この混合物の総質量は、4.1gとなった。これに従って、123mgのスクシノニトリル(Aldrich(登録商標)社)、123mgの炭酸ビニレン(Aldrich(登録商標)社)、21mgのNaDFOB(Aldrich(登録商標)社)及び8mgのTMSPi(Aldrich(登録商標)社)を更に添加した。スクシノニトリルは、室温でワックス状の固体であり(融点およそ60℃)、これを、まず70℃に加熱して、パスツールピペットを使用して抽出するのに適切な質量とした。
【0067】
2.他の電解質混合物の調製
他の電解質溶液も調製した(EC10~EC14)。これらの電解質溶液は、下記表に示す通り、EC3と同じ添加剤及び塩を含むが、異なる溶媒組成物を有する。EC10~EC14は、EC3について上で記載したのと同じ方法で、ただし適当な溶媒(Sigma Aldrich(登録商標)社製の炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル及びジグリム)を用いて調製した。
【0068】
【表2】
【0069】
(実施例2)
Naイオン電池に対する電気化学性能
1.2032型コインセルの調製
電解質組成物EC1及びEC3、EC5~EC14の電気化学性能を、以下の構成を有するコインセルにおいて試験した。
【0070】
正極は、Na3V2(PO4)2F3(NVPF、質量負荷:12.6mg/cm2)を、ポリフッ化ビニリデン(PVdF、3.0質量%)及びカーボンブラック(3.0質量%)と混合することによって調製した。得られた混合物を、N-メチルピロリジン(NMP)に分散させて、均質なスラリーを形成し、次いでこれを、アルミニウム箔製の集電体上にキャストした。正極を120℃で乾燥し、次いで、ロール機によってプレスした。
【0071】
負極は、硬質炭素(質量負荷6.1mg/cm2)をPVdF(3.0質量%)及びカーボンブラック(3.0質量%)と混合することによって調製した。得られた混合物を、N-メチルピロリジン(NMP)に分散させて、均質なスラリーを形成し、次いでこれを、アルミニウム箔製の集電体上にキャストした。正極を120℃で乾燥し、次いで、ロール機によってプレスした。
【0072】
正極及び負極を、直径13mmの円形ディスクに切り出し、真空(100mbar未満)下80℃で24時間乾燥した。セパレーター(ガラスファイバーセパレーターWhatman(登録商標)、GF/D)を、15~16滴のEC1及びEC3、EC5~EC14からの1種の電解質組成物に浸す。次いで、2032型コインセルを、アルゴン雰囲気中、正極缶に、正極、セパレーター、負極、圧力をもたらすための金属ディスク、均質圧力をもたらすための金属スプリングを積層することによってアセンブルし、負極缶で封止した。このとき、水及び酸素含有量は、1ppm未満である。電解質組成物EC1及びEC3、EC5~EC14を含有する2032型コインセルは、それぞれ、Naイオン電池Na-B1~Na-B12に対応し、対応を下記表に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
2.自己放電及びサイクル試験手順
全プロセスを、固定温度(55/25/0℃)、2.0~4.3Vの電圧範囲で実施した。
【0075】
試験手順は以下のステップを含んだ:
1.アセンブルした後、Na3V2(PO4)2F3/硬質炭素フルセルNa-B1~Na-B12を、C/5(1C=128mA.g-1)で10サイクルにわたって充電-放電した。10回目のサイクルを、下記目的のn-1回目のサイクルと考える。他のサイクルに使用した温度が何であれ、最初のサイクルは55℃で実施される。
【0076】
2.セルを、4.3Vに充電し(充電の100%段階(SoC))、次いで、電流を印加することなく、電圧をモニタリングして7日間静置し、続いて、セルを2.0Vに放電させた。この全サイクルを、自己放電サイクルといい、下記目的のn回目のサイクルと考える。
【0077】
3.次いで、セルを、C/5で更に10サイクルにわたって充電及び放電し、これを回復と呼んだ。この回の最初のサイクルを、下記目的のn+1回目のサイクルと考える。
【0078】
2032型コインセルの容量(Q)は、n-1回目のサイクル、n回目のサイクル及びn+1回目のサイクルの終了(放電)時に計算する。比((Qn-1-Qn)*100)/Qn-1は、コインセルの自己放電に対する容量損失(パーセンテージ)を示す。コインセルの回復容量(パーセンテージ)は、比(Qn+1*100)/Qn-1として計算する。
【0079】
3.Naイオン電池Na-B2の電気化学性能
温度0℃、25℃及び55℃におけるNaイオン電池Na-B2の充電/放電曲線は、図1A及び図1Bに表される。
【0080】
示される通り、温度0℃及び25℃において、サイクル1~10及びサイクル12~21についての充電/放電曲線は、互いに重なる。したがって、回復容量は、ほぼ100%である。したがって、これらの温度において、正極及び負極における寄生反応が存在しないことを示す容量の低下はなく、したがって、安定な固体電解質界面(SEI)及びカソード電解質界面(CEI)の形成が示される。
【0081】
温度55℃において、完全SoCでの1週間の静置期間により、3%のわずかな容量損失しか引き起こされない。これにより、高温などの極端な条件でさえSEIの特筆すべき安定性が確認され、これは、副反応を最小にし、したがって、活物質(電解質、電極材料など)の消費を防止するのに寄与する。
【0082】
図2は、様々な温度(0℃、25℃及び55℃)についての様々な時点(自己放電前(Qn-1)、自己放電時(Qn)及び自己放電後(Qn+1))におけるNaイオン電池Na-B2の放電容量(パーセンテージ)を示す。0℃及び25℃において、Naイオン電池Na-B2は、自己放電中の非常に低い容量損失(3%)、及び1週間の自己放電後に100%の容量回復能(Qn+1)を示す。55℃において、Naイオン電池Na-B2は、自己放電中の低い容量損失(10%)、及び非常に良好な容量回復(97%)を示す。
【0083】
Naイオン電池NA-B2の放電容量の値は、図3に示される。予想した通り、温度が上昇すると、Naイオン電池Na-B2の放電容量の値は増加する。サイクル1~10及び12~21の間、この値は、様々な温度で実に安定である(0℃でわずかな減少)。サイクル11(自己放電)では、すべての温度について放電容量は減少を示し、これは次いで、サイクル12で、サイクル9での放電容量値に増加し(0℃及び25℃)、又は次いで、サイクル12で、サイクル9での放電値に完全に増加する(55℃)。これは、図2に示す放電容量パーセンテージを反映している。
【0084】
高温(室温~70℃)で最初のサイクルを実施する重要性は、図4により示される。図4A及び図4Bは、25℃及び55℃で実施したNaイオン電池のサイクリックボルタモグラムを示す。実線は、最初の5サイクルを示し、このとき、最初のサイクルにおける強いレドックスピークの出現(25℃で-0.005V及び55℃で-0.010V)、及び電流値がほぼゼロである後続サイクルにおけるその消滅によって、安定なSEIの形成が観察される。結果として、表面は、25℃及び55℃の両方の条件において、最初のサイクル中に不動態化される。自己放電の6回目のサイクルは、興味深いことに、これらの条件について異なる結果を示す。強い減少ピーク(最初のサイクルと同じ値)が25℃で出現する一方、55℃ではピーク値がなく、対照的に電流値はほぼゼロである。この結果は、不動態化層が、25℃よりも55℃で形成された場合に、安定性がより良好であることを示している。図4Cは、最初のサイクルで使用した異なる温度(25℃対55℃)からの自己放電終了時回復能に対するSEIの安定性の影響を示す。この図に示される通り、放電容量は、最初のサイクルが55℃で実施された場合、自己放電(Qn)時及び自己放電(Qn+1)後により高くなる。
【0085】
まとめると、これらの結果は、Naイオン電池Na-B2により、電池が使用される公称温度(0℃及び25℃)並びに高温(55℃)で非常に良好なサイクル性能を達成することが可能であることを示している。
【0086】
次いで、本発明者らは、55℃でのNaイオン電池Na-B1(比較)及びNa-B2(本発明)の間の電気化学性能を比較した(図5)。示される通り、自己放電後の容量回復は、Na-B1について91%である一方、この値は、Na-B2については97%である。したがって、EC1の添加剤の組合せにスクシノニトリルを追加することにより、予想外により高い容量保持能につながる。
【0087】
本発明者らはまた、いずれも電解質組成物EC3を含有する、2032コイン型セル及び18650セルの間の電気化学性能も比較した(組成については実施例3を参照されたい)。両方の場合に試験手順を適用した(18650セルの場合、1C=約1200mAh.g-1)。55℃における充電/放電曲線は、図6に表される。示される通り、サイクル性能は非常に類似しており、いずれの場合も、自己放電後の容量回復は97%である。図7は、比較した25℃での電気化学性能を示す。ここでもまた、サイクル性能は非常に類似しており、いずれの場合も、自己放電後の容量回復は97%である。まとめると、これらの結果は、電解質組成物EC3により、異なるセル型において、電池が使用される公称温度(25℃)及び高温(55℃)で、非常に良好なサイクル性能を達成することが可能であることを示している。
【0088】
4.本発明のNaイオン電池(Naイオン電池Na-B2~Na-B6)の電気化学性能に対するNaODFB量の影響
本発明者らは、2032型コインセル中の様々な量のNaODFB、及び電気化学性能に対するそれらの影響を試験した。Naイオン電池Na-B2~Na-B6の電気化学性能は、図7に表される。各Naイオン電池についての容量損失及び回復容量は、下記表に示される(NaODFB増加量によってランク付けた)。
【0089】
【表4】
【0090】
これらの結果から、Naイオン電池Na-B2~NB6すべてが、非常に良好な電気化学性能を示し、NaODFBの量を、0.3質量%を超えて増加させても、容量損失及び回復容量に対する影響はほとんどないと結論することができる。更に、本発明者らは、0.5質量%のNaODFBが、電解質配合物に必要な最適量であることを見出した。実際、より少量のNaODFBを使用すると、SEIの形成の効率が低くなり(例えば、0.1%NaODFBを含むNa-B3)、より大量のNaODFBを使用すると、より濃SEIの成長に起因してセルインピーダンスが増加する。
【0091】
5.本発明のNaイオン電池(Naイオン電池Na-B2及びNa-B8)の電気化学性能に対するスクシノニトリルの量の影響
本発明者らは、2032型コインセル中の様々な量のスクシノニトリル、及び電気化学性能に対するそれらの影響を試験した。Naイオン電池Na-B2及びNa-B8の電気化学性能は、図9に表される。各Naイオン電池についての容量損失及び回復容量は、下記表に示される。
【0092】
【表5】
【0093】
この結果から、3質量%のスクシノニトリルを使用すると、より良好な電気化学性能が得られる。
【0094】
6.本発明のNaイオン電池(Naイオン電池Na-B8~Na-B12)の電気化学性能に対する直鎖状カーボネートの影響
本発明者らは、異なる直鎖状カーボネート又はNaイオン電池の電解質組成物についてDMC(Na-B10)との様々な比を有する様々な溶媒組成物を試験した。Naイオン電池Na-B8~Na-B12の電気化学性能は、図10に表される。Naイオン電池Na-B8~Na-B12についての容量損失及び回復容量は、下記表に示される。
【0095】
【表6】
【0096】
Naイオン電池Na-B8~Na-B12は、非常に良好なサイクル性能を達成した。
【0097】
(実施例3)
気体形成研究
1.市販の18650セルでの圧力研究
莫大量の電極活物質及び電解質の使用は、2032コインセル又はSwagelok型セルと比較して、18650セルにおける大量の気体副生成物の生成の主な理由である(下記を参照されたい)。したがって、18650セルは、サイクル時の圧力変化に従って特に使用される。
【0098】
電解質溶液EC1(比較)及びEC3(本発明)を、Na3V2(PO4)2F3カソード及び事前固化した硬質炭素アノードで構成されるNaイオン18650セル(TIAMAT)に組み込んだ。Na3V2(PO4)2F3及び硬質炭素の質量負荷は、2032コイン型セルに使用したものとまったく同じ、つまり、Na3V2(PO4)2F3およそ12mg/cm2、及び硬質炭素およそ6mg/cm2であり、正活物質対負活物質の質量比は2:1であった。18650セルにおいて使用される活物質の総量は、およそ9.5gのNa3V2(PO4)2F3(2032コインセル中およそ15mg)である。正極及び負極を、アルミニウム箔の両側でコーティングし、それらは、それらを物理的に分離するCelgardセパレーターを使用して一緒に巻く。セパレーターと共に巻かれた電極を、次いで、直径18mm及び長さ65mmのサイズの円筒形缶中に入れ、研究対象の電解質を充填する。ほぼ6gの電解質を、各セルに使用し、蓋を使用して缶を封止する。
【0099】
18650セルにおける圧力分析を、サイクル時の圧力変化に従う光学繊維を18650セル中に配置した自製の実験設定において実施する。充電及び放電のサイクルを、2.0~4.3Vの電圧範囲で、55℃で進行した。
【0100】
本発明者らは、サイクル中のセル内部の圧力を測定した。これは図11に報告される。この図に示される通り、EC1を含むNaイオンセル内部の圧力は、サイクル時に終始増加し、10サイクル後に大きく展開した。およそ55サイクル後に圧力は16バールに達し、セルの回路遮断デバイス(CID)の破壊を引き起こした。これとは対照的に、EC3を含むNaイオンセル内部の圧力は、最初の5サイクル以内におよそ3バールへの低い増加を有し、そこで、サイクル時に、あったとしても非常に少ない圧力展開しか有さない平坦域に達した。これらの結果は、単に、本発明の電解質が市販のセル内部で低レベルの圧力を維持することが可能であることを示している。
【0101】
本発明者らは、質量分析と連結したガスクロマトグラフィーによって、電解質溶液EC1の使用によるこの圧力増加に関与するガスを研究した。見出された主なガスはCO2及びフルオロメチルシラン(TMSPi反応の副生成物)であった。
【0102】
2.気体副生成物の形成の分析データ
本発明者らは、添加剤の様々な組合せを試験し、サイクル中の気体副生成物の形成のレベルを比較した。この目的で、電解質溶液EC1、EC2、EC3及びEC4を、すべての形成ガスを研究するために質量分析器に直接接続した自製のSwagelok型セル中で使用した。正極及び負極は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)結合剤(比85:15の活物質及び伝導性炭素の混合物に10質量%)を使用した自立フィルムであった。セルをC/10レート(1C=128mAh.g-1)でサイクルさせた。電気化学質量分析による分析の結果は、図12及び図13に表される。
【0103】
図12は、25℃における電解質溶液EC1を含むSwagelok型セル及び電解質溶液EC4を含むSwagelok型セルにおけるガス放出を示す。EC1及びEC4電解質組成物は、EC4が、スクシノニトリルを更に含む点でのみ異なる。この図に示される通り、形成された気体副生成物の全量はEC3で減少し、気体副生成物の減少におけるスクシノニトリルの影響を示している。
【0104】
図13は、55℃における電解質組成物EC2を含むSwagelok型セル及び電解質組成物EC3を含むSwagelok型セルにおける気体副生成物を比較した。EC2及びEC3電解質溶液は、EC3が添加TMSPiスクシノニトリルを含む点で互いに異なる。この図に示される通り、各気体副生成物の量は、EC3が使用された場合に減少する。この結果は、スクシノニトリルとTMSPiとの間に相乗効果があり、これは、気体副生成物の形成を減少させることを示している。
【0105】
まとめると、図12及び図13は、スクシノニトリル又はTMPSiを除去することにより、気体副生成物形成のレベルが増加したこと、及びこれらの2種の成分の組合せが、気体副生成物のレベルを減少させるために必要であることを示している。
【0106】
(実施例4)
本発明の電解質組成物の濡れ性
電解質の濡れ特性を評価するために、3層PP/PE/PPフィルム(Celgard(登録商標)セパレーター)に対する電解質EC3の接触角測定を、KRUSS DSA100デバイスを使用することによって、10秒以内に実施した。最初に、PP/PE/PPセパレーターをガラス基材上に平に設置した。次いで、10μLの電解質を、セパレーターの表面上に設置した。最後に、KRUSS DSA100デバイスのカメラで、セパレーター上の液体を撮像し、接触角を分析した。
【0107】
明らかに、EC3は、PP/PE/PPセパレーターを完全に湿らせることができる。
【0108】
(実施例5)
25℃における円筒形セル18650
円筒型18650セルをアセンブルした。この目的で、それぞれ正極及び負極としてNa3V2(PO4)2F3(NVPF)及び硬質炭素(HC)を有するドライセル(可逆容量900mAh、高エネルギーセル)を、TIAMAT社、Franceから得、電解質組成物EC12で充填した(実施例1を参照されたい)。セルを高エネルギー密度のために使用した。
【0109】
セルを、2~4.25Vの電位ウィンドウ内、1C-1D(1C=128mAh/g)レートで、25℃でサイクルさせた。セルの最大利用可能容量を確認するために、10サイクル毎に、サイクルレートをC/10:D/10サイクルに遅延させた。1C及びC/10について測定した容量保持は、いずれも図14に示され、挿入グラフは、セルをC/10:D/10レートでサイクルさせたサイクル10及びサイクル2000についての電気化学プロファイルを示している。
【0110】
電解質EC12を使用してこれらの18650セルで観察されたデータは、コインセルで観察された結果と同等である。2000サイクル後の87%容量保持(C/10サイクルにおける)は、電解質EC12の安定性を示している。更に、サイクル時、セル中の圧力上昇は観察されず、電流遮断デバイス(CID)の破壊は観察されなかった。
【0111】
(実施例6)
55℃での18650セル一時サイクル
今回は比較的低負荷電極(最大可逆容量:700mAh)の別の18650ドライセルを、TIAMAT社、Franceから得、EC12電解質組成物で充填した。セルを、55℃で2サイクルにわたって配合し、次いで、55℃で100サイクルにわたってC/10レートでサイクルさせて、分解を増加させた。高温でのサイクル後、セルを25℃にし、1C-1Dレートでサイクルさせた。
【0112】
電解質の分解を促進するため、最初の100サイクルは厳しい条件(55℃、及び低レートC/10)で実施した。なお、図15に示される通り、セルは、55℃で、及び25℃で2000サイクルを超える長いサイクルの際も、実に安定な容量を示した(2500サイクル時点で80%)。これは、正極及び負極の両方における安定な界面の形成、したがって、長いサイクルの間の安定なサイクル性能を示している。
【0113】
(実施例7)
カルボン酸エステルの使用
本発明による電解質組成物を、同じ相対量の添加剤及びEC3の塩、並びに4%又は20%(溶媒ミックスの総体積に基づくv/v)の酢酸メチル(MA)並びに炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)及び炭酸ジメチル(DMC)を含む溶媒の混合物を使用して、調製した。溶媒混合物のそれぞれの体積比が、
EC/PC/DMC/MA=25:25:46:4であるものをEC15と呼び;
EC/PC/DMC/MA=25:25:30:20であるものをEC16と呼ぶ。
【0114】
インピーダンスデータを、10℃、25℃、40℃及び55℃の温度で測定した。インピーダンス測定を、正極及び負極としてそれぞれNa3V2(PO4)2F3及び硬質炭素を使用するコイン型2032セルで実施した。インピーダンス分析計を搭載したバイオロジックMPG-2サイクラーを、この目的のために使用し、測定を、ポテンショ電気化学インピーダンス分光法(PEIS)を使用して、実施した。10mV正弦波振幅の単一の正弦波入力電圧信号を使用して、界面をプロービングし、出力信号を測定する。10kHz~100mHzの周波数範囲を、対数尺度で10当たり6点を記録することによって、分析に使用する。同様の測定を、
- 添加剤を含まないEC-PC-DMC(1:1:1)中1M NaPF6の従来技術の電解質組成物;及び
- MAを含まない本発明のEC12の別の組成物
について実施した。
【0115】
得られたインピーダンスグラフは図16に示される。
【0116】
(実施例8)
ナトリウム塩の混合物:NaPF6及びNaTFSI
この例では、ナトリウム塩は、NaPF6及びNaTFSIの混合物である。電解質組成物は、電解質溶媒及び塩の総質量に対して3質量%の量で存在するNaTFSIの存在を除いて、EC12に対応する。Na3V2(PO4)2F3及び硬質炭素をそれぞれ正極及び負極として使用して、コイン型セルをアセンブルした。セルを55℃でサイクルさせ、自己放電のために充電状態で1週間、55℃で維持した。図17は、容量(正極活物質の質量に基づくmAh.g-1)の関数としての電圧(V)の展開を示す。
【0117】
実線は、自己放電試験前の(n-1)回目のサイクルを表し、点線は、4.3Vで自己放電後の放電曲線(n回目のサイクル)を示し、破線は、(n+1)回目の回復サイクルを表し、このとき、nは10である。9回目のサイクルのほぼ86.3%容量が、4.3Vで1週間の自己放電後に保持され、続く回復サイクルで、95%容量が回復する。
【0118】
示される通り、自己放電後の容量回復は95%であり、これは、NaTFSIを、提案される電解質組合せに追加の塩として添加することができることを示している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】