(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】被覆された金属体切断物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 25/02 20060101AFI20240304BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240304BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240304BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20240304BHJP
C07C 9/15 20060101ALI20240304BHJP
C07C 5/03 20060101ALI20240304BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240304BHJP
【FI】
B01J25/02 Z
B01J37/04 101
B01J37/08
B01J37/06
C07C9/15
C07C5/03
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558658
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022056426
(87)【国際公開番号】W WO2022200085
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マイケ ロース
(72)【発明者】
【氏名】モニカ ベアヴァイラー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ゲットリンガー
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ポス
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB03A
4G169BB03B
4G169BB05C
4G169BC02C
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC16C
4G169BC31A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169CB02
4G169CB07
4G169CB21
4G169CB41
4G169CB62
4G169CB77
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA09
4G169EA10
4G169EC03X
4G169EC04X
4G169EC05X
4G169EC30
4G169FB07
4G169FB27
4G169FB29
4G169FB58
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4G169FB78
4G169FB80
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC11
4H006BA09
4H006BA18
4H006BA21
4H006BE20
4H039CA19
4H039CB10
(57)【要約】
本発明は金属体切断物の製造方法であって、金属体を準備すること、引き続き金属含有粉末を施与すること、熱処理して合金を形成すること、および合金化された金属体を、分離、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、およびウォータージェット切断の群から選択される方法を使用して分割することを含む、前記方法に関する。熱処理における温度プロファイルは、金属体と金属含有粉末との間の接触表面で合金形成が起きることを可能にするが、同時に前記金属体内部に合金化されていない領域を残す。本発明はさらに、合金化された金属体の分割に引き続き、浸出剤で処理して触媒活性な金属体を得る方法に関する。金属体切断物を製造するための本発明の分割方法の使用は、特に活性な触媒をもたらす。本発明はさらに、本発明の方法によって得られた触媒の、化学変換における使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階:
(a) 金属体Aを準備する段階、
(b) 金属含有粉末MPを金属体Aに施与して、金属体AXを得る段階、
(c) 金属体AXを熱処理して、金属体Aの金属部分と前記金属含有粉末MPとの間で合金形成を達成し、金属体Bを得る段階、
(d) 前記金属体Bを分割して、金属体切断物MZを得る段階
を含む方法であって、
段階(d)における前記金属体Bの分割は、以下の群:
分離、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、ウォータージェット切断
から選択される分割方法を用い、
且つ、金属体AXの熱処理における最高温度は680~715℃の範囲内であり、
且つ、680~715℃の温度範囲での熱処理の合計時間は5~240秒であり、
且つ、金属体Aはニッケル、コバルト、コバルト・ニッケル合金、ニッケル・鉄合金、ニッケル・クロム合金または銅製であり、
且つ、前記金属含有粉末MPは粉末状のアルミニウム、粉末状のクロム、アルミニウムとクロムとの粉末状の合金、またはそれらの組み合わせを含み、
且つ、段階(a)において使用される金属体は、金属フォーム体、金属ネット、金属不織布、金属ニット、または金属メッシュである、前記方法。
【請求項2】
金属体Aがニッケルまたはコバルトからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属含有粉末MPが粉末状のアルミニウムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属体Bの分割方法が、以下のリスト: せん断切断、ナイフ切断、バイト切断、劈開、傷付けおよび破砕、のこ引き、ウォータージェット切断から選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
段階(a)において使用される金属体が金属フォーム体である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
段階(a)において使用される金属フォーム体が、100~20000m
2/m
3、好ましくは1000~6000m
2/m
3のBET比表面積を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
段階(a)において使用される金属フォーム体が多孔率0.50~0.95を有する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
得られる金属体切断物MZの少なくとも半分は、切断表面積(CA)の体積(V)に対する比R=CA/VがR>0.5である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下の段階:
(e) 金属体切断物MZを浸出剤で処理して、触媒活性な金属体Kを得る段階
をさらに含む、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
金属体切断物MZの浸出剤での処理を、5分~8時間の範囲内の時間の間、20~120℃の範囲内の温度で実施し、前記浸出剤は1質量%~30質量%のNaOH濃度を有するNaOH水溶液である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
以下の段階:
(f) 前記触媒活性な金属体Kを、Mo、Pt、Pd、Rh、Ru、Cuから選択される助触媒元素またはそれらの混合物でポストドーピングする段階
をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法によって得られる金属体切断物MZ。
【請求項13】
請求項9から11までのいずれか1項に記載の方法によって得られる触媒活性な金属体K。
【請求項14】
化学変換のための、請求項13に記載の触媒活性な金属体Kの使用。
【請求項15】
前記化学変換が、水素化、異性化、水和、水素化分解、還元的アミノ化、還元的アルキル化、脱水素、酸化および転位から選択される、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属体切断物の製造方法であって、金属体を準備すること、引き続き金属含有粉末を施与すること、熱処理して合金を形成すること、および合金化された金属体を、分離(severing)、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、およびウォータージェット切断の群から選択される方法を使用して分割することを含む、前記方法に関する。本発明はさらに、金属体切断物の製造に引き続き浸出剤で処理する方法に関する。この種の方法についての1つの使用分野は触媒の製造である。合金形成を金属フォームの上部層に限定することを可能にする熱処理のための温度レジームに加えて、本発明の方法の特徴は本発明の分割方法を使用して金属体切断物を製造し、特に有利な特性を有する触媒をもたらすことである。本発明はさらに、本発明の方法によって得られ、例えば支持体および構造要素として、および触媒技術において使用される金属体、および化学変換における本発明の方法によって得られた触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化された金属フォーム体の製造方法は先行技術、例えば国際公開第2019057533号(WO2019057533A1)から公知である。そこでは、金属粉末がフォーム形態の金属体に施与され、続いて熱処理されて、フォーム形態の金属体と金属粉末とが接触する領域で合金を形成する。国際公開第2019057533号は、フォーム形態の金属体および金属粉末のために選択できる多数の金属および金属の組み合わせ、およびさらに合金形成のための熱処理の実施についての一般的な詳細、およびニッケルフォーム上でのアルミニウム粉末の処理についてのいくつかの具体例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、とりわけ、合金形成のための熱処理条件に関して、および金属体切断物を製造するための分割方法に関して、国際公開第2019057533号の技術的教示とは異なる。
【0005】
合金形成のための熱処理条件は、合金形成の程度に影響を及ぼす。高温での熱処理は金属体のより深い領域における合金形成をもたらす一方で、より低い温度での熱処理は金属体の上部領域における合金形成のみをもたらし、金属体の内部に合金化されていない領域が残る。金属体における合金化されていない領域の残存は相応の金属体の多くの用途において非常に重要なので、これを確実にする方法についての必要性がある。本発明の方法はこの必要性を満たす。
【0006】
本発明に関連して行われた実験的研究は、金属体切断物を製造するために使用される分割方法が、得られる触媒の特性に影響を及ぼすことを示す。不適切な分割方法が用いられると、この結果はとりわけ、得られる触媒の活性に悪影響を及ぼす。多くの実用上の用途のためには高活性な触媒が必要とされるので、その製造のために適した方法についての必要性がある。本発明の方法はこの必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明
本発明の方法は以下の段階:
(a) 金属体Aを準備する段階、
(b) 金属含有粉末MPを金属体Aに施与して、金属体AXを得る段階、
(c) 金属体AXを熱処理して、金属体Aの金属部分と金属含有粉末MPとの間で合金形成を達成し、金属体Bを得る段階、
(d) 前記金属体Bを分割して、金属体切断物MZを得る段階
を含み、
段階(d)における前記金属体Bの分割は、以下の群:
分離、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、ウォータージェット切断
から選択される分割方法を用い、
且つ、金属体AXの熱処理における最高温度は680~715℃の範囲内であり、
且つ、680~715℃の温度範囲での熱処理の合計時間は5~240秒であり、
且つ、金属体Aはニッケル、コバルト、コバルト・ニッケル合金、ニッケル・鉄合金、ニッケル・クロム合金または銅製であり、
且つ、前記金属含有粉末MPは粉末状のアルミニウム、粉末状のクロム、アルミニウムとクロムとの粉末状の合金、またはそれらの組み合わせを含み、
且つ、段階(a)において使用される金属体は、金属フォーム体、金属ネット、金属不織布、金属ニット、または金属メッシュである。
【0008】
本発明の方法は、合金形成が金属体の上部層に限定されて、合金化されていない領域が金属体の中央領域に残ることを可能にする。それらの合金化されていない領域の存在はとりわけ、得られた金属体の化学的および機械的安定性に影響する。
【0009】
本発明の方法の段階(a)において使用される金属体は、金属フォーム体、金属ネット、金属不織布、金属ニット、または金属メッシュである。
【0010】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は金属フォーム体である。
【0011】
本発明の方法の段階(a)において使用される金属体は、ニッケル、コバルト、コバルト・ニッケル合金、ニッケル・鉄合金、ニッケル・クロム合金または銅製である。
【0012】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体はニッケル製である。
【0013】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体はニッケル製の金属フォーム体である。
【0014】
本発明の方法の段階(a)において使用される金属体は、任意の所望の形状、例えば立方体、立方体状、円筒形などを有し得る。
【0015】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は立方体状である。
【0016】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体はニッケル製の立方体状の金属フォーム体である。
【0017】
本発明に関連して、金属フォーム体はフォーム形態の金属体を意味すると理解される。フォーム形態での金属体は、例えばウルマン工業化学百科事典、「金属フォーム」の章、2021年7月15日オンライン出版、DOI: 10.1002/14356007.c16_c01.pub2に記載されている。原則的に、種々の形態学的特性(細孔サイズおよび形状、層厚、面積密度、幾何学的表面積、多孔率など)を有する金属フォームが適している。金属フォームAは好ましくは400~1500g/m2の範囲内の密度、400~3000μm、好ましくは400~800μmの細孔サイズ、および0.5~10mm、好ましくは1.0~5.0mmの範囲内の厚さを有する。製造は自体公知の方式で行うことができる。例えば、有機ポリマー製のフォームを金属成分で被覆し、次いで熱分解によってポリマーを除去して金属フォームを得ることができる。金属またはその前駆体で被覆するために、有機ポリマー製のフォームを金属含有溶液または懸濁液と接触させることができる。これは例えば噴霧または浸漬によって行うことができる。化学気相堆積(CVD)を用いた堆積も可能である。例えば、ポリウレタンフォームを金属で被覆し、次いでそのポリウレタンフォームを熱分解することができる。フォームの形態における成形体を製造するために適したポリマーフォームは好ましくは、100~5000μm、より好ましくは450~4000μm、および特に450~3000μmの範囲内の細孔サイズを有する。適したポリマーフォームは好ましくは、5~60mm、より好ましくは10~30mmの層厚を有する。適したポリマーフォームは好ましくは、300~1200kg/m3の密度を有する。比表面積は好ましくは100~20000m2/m3、より好ましくは1000~6000m2/m3の範囲内である。多孔率は好ましくは0.50~0.95の範囲内である。
【0018】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、100~20000m2/m3、好ましくは1000~6000m2/m3のBET比表面積を有する金属フォーム体である。
【0019】
さらに好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、フォームの壁を形成する金属層の厚さが10~100μmの範囲である金属フォーム体である。フォームの壁を形成する金属層の厚さは、フォームの断面上での標準的な顕微鏡検査によって特定できる。
【0020】
さらに好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、多孔率0.50~0.95を有する金属フォーム体である。
【0021】
本発明の方法の段階(a)において金属体として使用される金属ネットとして、相応の金属製の通常市販されているネットを使用できる。好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、メッシュの幅が50~500μmの範囲である金属ネットである。
【0022】
本発明の方法の段階(a)において金属体として使用される金属ニットとして、相応の織り合わせられた金属糸製の通常市販されているニットを使用できる。好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、糸の太さが50~500μmの範囲である金属ニットである。
【0023】
本発明の方法の段階(a)において金属体として使用される金属メッシュとして、相応の編まれた金属糸製の通常市販されているメッシュを使用できる。好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、糸の太さが50~500μmの範囲である金属メッシュである。
【0024】
金属不織布は市販されている。それらは典型的には、最初に一緒にプレスされた後に焼結される短い金属繊維からなる。本発明の方法の段階(a)において金属体として使用される金属不織布として、相応の金属繊維製の通常市販されている不織布を使用できる。好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、50~500μmの範囲の太さを有する繊維製の金属不織布である。
【0025】
金属含有粉末MPは、本発明の方法の段階(b)において様々な方法で、例えば金属体Aと金属含有粉末MPの組成物とを、圧延または浸漬によって接触させることによって、または金属含有粉末MPの組成物を噴霧、散布または注入することによって施与することによって、施与され得る。このために使用される金属含有粉末MPの組成物は、懸濁液または粉末形態であってよい。
【0026】
本発明の方法の段階(b)において金属含有粉末MPの組成物を金属体Aに実際に施与する前に、好ましくは金属体Aを結合剤で予め含浸する。その含浸は例えば結合剤を噴霧するかまたは金属体Aを結合剤中に浸漬することによって実施できるが、それらの選択肢に限定されない。これが行われたら、そのように準備された金属体Aに金属含有粉末MPの組成物を施与できる。
【0027】
代替的に、結合剤と金属含有粉末MPの組成物とを1つの段階で施与することが可能である。このために、金属含有粉末MPの組成物を施与前に、それ自体液体の結合剤中に懸濁させるか、または金属含有粉末MPの組成物と結合剤とを補助液F中に懸濁させる。
【0028】
結合剤は、100~400℃の温度範囲内の熱処理によってガス状の生成物に完全に変換され得る組成物であり、且つ金属体上での金属含有粉末MPの組成物の付着を促進する有機化合物を含む。前記有機化合物は好ましくは以下の群: ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチレングリコール、それらの化合物の混合物から選択される。PEIが特に好ましい。ポリエチレンイミンの分子量は好ましくは10000~1300000g/molの範囲内である。ポリエチレンイミン(PEI)の分子量は好ましくは700000~800000g/molの範囲内である。
【0029】
補助液Fは金属含有粉末MPの組成物と結合剤との懸濁液を形成できなければならず、且つ100~400℃の温度範囲内の熱処理によってガス状の生成物に完全に変換されなければならない。補助液Fは好ましくは以下の群: 水、エチレングリコール、PVPおよびそれらの化合物の混合物から選択される。補助液が使用される場合、結合剤は典型的には水中に1質量%~10質量%の範囲内の濃度で懸濁され、続いてこの懸濁液に金属含有粉末MPの組成物を懸濁させる。
【0030】
本発明の方法の段階(b)において使用される金属含有粉末MPは、粉末状の金属成分と同様に、流動性または耐水性を高めることを助ける添加物も含有し得る。そのような添加物は、100~400℃の温度範囲内の熱処理によってガス状の生成物に完全に変換されなければならない。本発明の方法の段階(b)において使用される金属含有粉末MPは、以下の群: 粉末状のアルミニウム、粉末状のクロム、アルミニウムとクロムとの粉末状の合金、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の粉末状の金属成分を含む。好ましくは、本発明の方法の段階(b)において使用される金属含有粉末MPは、単独の金属成分として(i)アルミニウム粉末、または(ii)クロム粉末、または(iii)粉末状のアルミニウムと粉末状のクロムとの混合物、または(iv)アルミニウムとクロムとの粉末状の合金のいずれかを含む。より好ましくは、本発明の方法の段階(b)において使用される金属含有粉末MPは、単独の金属成分として粉末状のアルミニウムを含む。さらに好ましい実施態様において、本発明の方法の段階(b)において使用される金属含有粉末MPは粉末状のアルミニウムである。
【0031】
金属含有粉末MPの組成物は好ましくは80質量%~99.8質量%の範囲内の金属成分含有率を有する。ここで、金属成分の粒子が5μm以上且つ200μm以下の粒子サイズを有する組成物が好ましい。金属成分の粒子の95%が5μm以上且つ75μm以下の粒子サイズを有する組成物が特に好ましい。前記組成物は、元素形態の金属成分の他に、酸化された形態の金属成分も含有する場合がある。この酸化された部分は典型的には酸化化合物、例えば酸化物、水酸化物および/または炭酸塩の形態である。酸化された部分の質量による割合は、典型的には金属粉末組成物の総質量の0.05質量%~10質量%の範囲内である。
【0032】
金属体AXの総質量における施与された金属含有粉末MPの質量の割合は、典型的には5質量%~60質量%の範囲である。本発明の好ましい実施態様において、金属体AXの総質量における施与された金属含有粉末MPの質量の割合は、10質量%~50質量%の範囲、より好ましくは20質量%~40質量%の範囲である。
【0033】
本発明の方法の段階(c)において、熱処理を行って1つ以上の合金の形成を達成する。合金形成を金属フォームの上部領域に限定し且つ合金化されていない領域を金属フォームの内部に残すためには、比較的厳密な温度管理が必要である。
【0034】
本発明の方法の段階(c)において、金属体AXを熱処理し、金属体Aの金属部分と金属含有粉末MPとの間での合金形成を達成して、金属体Bが得られ、金属体AXの熱処理における最高温度は680~715℃の範囲内であり、且つ680~715℃の温度範囲での熱処理の合計時間は5~240秒である。
【0035】
熱処理は典型的には金属体AXを徐々に加熱し、引き続き室温に冷却することを含む。熱処理は不活性ガス下または還元条件下で行われる。還元条件は、水素と、反応条件下で不活性である少なくとも1つのガスとを含むガス混合物の存在を意味すると理解され、適した例は50体積%のN2と50体積%のH2とを含有するガス混合物である。使用される不活性ガスは好ましくは窒素である。加熱は例えばベルト炉において実施できる。適した加熱速度は10~200K/分、好ましくは20~180K/分の範囲内である。熱処理の間、温度を典型的にはまず室温から約300~400℃に高め、この温度で約2~30分の間、湿分および有機成分を被覆物から除去し、その後、温度を680~715℃の範囲内まで高めて、金属体AXの金属部分と金属含有粉末MPの組成物との間で合金形成を行い、その後、前記金属体を、温度約200℃でのガス環境と接触させることにより急冷する。
【0036】
本発明に従って必要とされる金属について、合金形成を金属体の上部領域に限定し、且つ合金化されていない領域を内部に残すためには、段階(c)における金属体AXの熱処理における最高温度が680~715℃の範囲内であること、および680~715℃の温度範囲での熱処理の合計時間が5~240秒であることも必要である。熱処理の時間は最高処理温度のレベルをある程度補償でき、逆もまた然りであるが、金属体の上部領域における合金形成を達成する一方で同時に金属フォームの内部で合金化されていない領域を残す実験の頻度は、熱処理における最高温度が680~715℃の温度範囲外であり且つ/または680~715℃の温度範囲での熱処理の時間が5~240秒の範囲外である場合に急激に減少することが判明した。最高温度が高すぎ、且つ/または金属体が最高温度の領域に長く留まりすぎると、これは合金形成が金属体の最も低い深さまで進行して、合金化されていない領域が残らないことを引き起こしかねない。最高温度が低すぎ、且つ/または金属体が最高温度の領域に十分に長く留まっていないと、合金形成が全く開始しない。本発明に従って必要とされる金属以外の材料が金属体Aおよび金属含有粉末MPについて選択される場合、これは同様に、680~715℃の温度範囲で5~240秒の時間の熱処理にかかわらず、合金形成が得られないか、または合金化されていない領域がフォームの内部に残らないことのいずれかをもたらしかねない。
【0037】
好ましい実施態様において、金属フォームBの質量の金属フォームAの質量に対する比V、V=m(金属フォーム体B)/m(金属フォーム体A)は、1.1:1~1.5:1の範囲内である。さらに好ましい実施態様において、金属フォームBの質量の金属フォームAの質量に対する比V、V=m(金属フォーム体B)/m(金属フォーム体A)は、1.2:1~1.4:1の範囲内である。
【0038】
好ましい実施態様において、段階(a)において使用される金属体は、フォームの壁を形成する金属層の厚さが10~100μmの範囲である金属フォーム体である。この実施態様において、さらに、段階(c)の熱処理後に得られる合金層の厚さは3~30μmの範囲内である。フォームの壁を形成する金属層の厚さ、および任意にその上に存在する合金層の厚さは、フォームの断面上での標準的な顕微鏡検査によって特定できる。
【0039】
本発明の方法の段階(d)において、金属体Bを分割して、金属体切断物MZが得られ、これは以下の群: 分離、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、ウォータージェット切断から選択される分割方法を使用して行われる。
【0040】
本発明に関連して行われた実験的研究は、金属体の分割のために使用される方法が、それによって得られる触媒の特性に影響を及ぼすことを示す。分離、幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工、およびウォータージェット切断の群からの分割方法を選択することが、特に有利な特性を有する触媒が得られることを可能にすることが判明した。
【0041】
本発明のための適した分割方法は、以下の規格において定義される:
- 以下の方法を含む、2013年8月発行のDIN 8588-0に準拠する分離:
・ せん断切断
・ ナイフ切断
・ バイト切断
・ 劈開
・ 引き裂き
・ 破砕
- 以下の方法を含む、2003年9月発行のDIN 8589-1~8589-9に準拠する幾何学的に定義された切刃を用いた機械加工:
・ 旋盤加工(DIN 8589-1)
・ 穿孔、座ぐり/深座ぐり、リーマ仕上(DIN 8589-2)
・ フライス加工(DIN 8589-3)
・ 平削り、形削り(DIN 8589-4)
・ ブローチ削り(DIN 8589-5)
・ のこ引き(DIN 8589-6)
・ 細かいやすり加工、粗いやすり加工(DIN 8589-7)
・ ブラシ状器具を用いた機械加工(DIN 8589-8)
・ きさげ加工、チゼル掘り(DIN 8589-9)
- 2010年発行のSN214001に準拠するウォータージェット切断。
【0042】
金属体Bの分割方法は好ましくは以下のリストから選択される:
・ せん断切断
・ ナイフ切断
・ バイト切断
・ 劈開
・ 傷付けおよび破砕
・ のこ引き
・ ウォータージェット切断。
【0043】
特に好ましくは、金属体Bはナイフ切断によって分割される。
【0044】
本発明と関連して得られる実験結果はさらに、本発明による分割方法の選択は、金属体切断物MZが切断表面積(CA)の体積(V)に対する比R=CA/VがR>0.5である場合、それによって得られる触媒の特性に特に有利な影響を及ぼすことを示す。
【0045】
ここで、切断表面積(CA)は、本発明の方法の段階(d)における分割によって作り出される金属体切断物の表面の部分に関する。ここで、金属で満たされていなかった金属体内の隙間が完全に金属で満たされ、つまり、例えばフォーム内の細孔が完全に満たされ、且つ本発明の方法の段階(d)における分割によって作り出された金属体切断物の表面はそれぞれの切断面において滑らかであると仮定される。
【0046】
Vは金属体切断物の体積に関し、ここでも、金属で満たされていなかった金属体切断物内の隙間が金属で完全に満たされ、つまり、例えばフォーム内の細孔が完全に満たされると仮定される。
【0047】
切断表面積(CA)の体積(V)に対する比R=CA/Vは、1/長さの次元を有するが、ここでは単純化のために無次元数として表される。
【0048】
本発明の好ましい実施態様において、分割段階(d)において得られる金属体切断物MZの少なくとも半分は、切断表面積(CA)の体積(V)に対する比R=CA/VがR>0.5である。本発明の特に好ましい実施態様において、分割段階(d)において得られる金属体切断物MZの90%より多くは、切断表面積(CA)の体積(V)に対する比R=CA/VがR>0.5である。
【0049】
さらなる態様において、本発明はさらに、以下の段階(e): 金属体切断物MZを浸出剤で処理して、触媒活性な金属体Kを得る段階を有する方法を含む。浸出剤での金属体切断物MZの処理は、施与された金属含有粉末MPの組成物の金属成分、並びに金属フォーム体の金属部分と金属含有粉末MPの組成物との間の合金を少なくとも部分的に溶解することにより、金属体からそれらを除去するために役立つ。典型的には浸出剤での処理は、施与された金属含有粉末MPの組成物の金属成分、および金属体の金属部分と金属含有粉末MPの組成物との間の合金の総質量の30質量%~70質量%を金属体から除去する。本発明の方法の段階(e)における浸出剤での金属体切断物MZの処理後、施与された金属含有粉末MPの組成物の金属成分の割合は、触媒活性な金属体Kの総質量の3質量%~30質量%である。使用される浸出剤は典型的にはNaOH、KOH、LiOHまたはそれらの混合物の塩基性水溶液であるが、従来技術から公知のRaney(登録商標)型触媒のための他の浸出剤も使用できる。浸出剤での処理における温度は典型的には20~120℃の範囲内である。浸出剤での処理時間は典型的には5分~8時間の範囲である。金属成分の適切な選択は、浸出剤での処理の結果として得られる金属体が例えば国際公開第2019057533号内に開示される触媒として使用されることを可能にする。
【0050】
好ましい実施態様において、金属体切断物MZの浸出剤での処理は、5分~8時間の範囲内の時間の間、20~120℃の範囲内の温度で実施され、浸出剤は1質量%~30質量%のNaOH濃度を有するNaOH水溶液である。
【0051】
触媒活性な金属体Kはいくつかの実施態様において、さらなる段階(f)において、さらなる金属によるポストド-ピングによって改質されることができ、助触媒元素とも称されるそれらのドーピング元素は好ましくは遷移金属から選択される。ポストドーピングのために、金属体を好ましくは施与されるべきドーピング元素の水溶液で処理する。金属体を損傷しないために、ドーピング溶液は典型的には≧4を有する。施与されるべきドーピング元素の溶液に化学的に還元性の成分を添加して、金属体上で溶解されたドーピング元素の還元析出を引き起こすことができる。改質のために好ましいドーピング元素は、Mo、Pt、Pd、Rh、Ru、Cuまたはそれらの混合物の群から選択される。適したドーピング方法は例えば国際公開第2019/057533号、20~25ページに記載される。
【0052】
段階(e)において活性化され、および任意に段階(f)においてポストドーピングされた金属体を、触媒として直ちに使用するか、または保管することができる。表面酸化プロセスおよび関連する触媒活性の低下を防ぐために、金属体は活性化後に好ましくは水中で保管される。
【0053】
さらなる態様において、本発明はさらに、本発明の方法の1つによって得られる金属体を包含する。
【0054】
本発明の方法の1つによって得られる、活性化され且つ任意にドーピングされた金属体は、有機化合物の触媒による多数の化学反応、特に例えば水素化、異性化、水和、水素化分解、還元的アミノ化、還元的アルキル化、脱水素、酸化、脱水および転位のための、および特に水素化反応のための触媒として使用され得る。本発明の触媒は原則的にRaney(登録商標)型金属触媒によって触媒される全ての水素化反応のために非常に適している。本発明の触媒の好ましい使用は、カルボニル化合物、オレフィン、芳香環、ニトリルおよびニトロ化合物の選択的水素化方法である。具体例は、カルボニル基の水素化、ニトロ基のアミンへの水素化、ポリオールの水素化、ニトリルのアミンへの水素化、例えば脂肪族ニトリルの脂肪族アミンへの水素化、アルコールの脱水、還元的アルキル化、オレフィンのアルカンへの水素化、およびアジドのアミンへの水素化である。カルボニル化合物における水素化における使用が特に好ましい。
【0055】
従って、さらなる態様において、本発明は、本発明の方法の1つによって得られる、活性化され且つ任意にドーピングされた金属体の、化学変換のための、好ましくは水素化、異性化、水和、水素化分解、還元的アミノ化、還元的アルキル化、脱水素、酸化、脱水および転位から選択される化学変換のための触媒としての使用を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】ナイフ切断によって得られた触媒およびレーザー切断によって得られた触媒の触媒活性を示す図である。
【実施例】
【0057】
1. 金属粉末組成物の金属体への施与
40gの結合剤溶液(水溶液中で2.5質量%のポリエチレンイミン)をまず、ニッケル製であり且つ単位面積あたりの質量1000g/m2および平均細孔サイズ580μmを有する2つの平坦な形態の金属フォーム体(製造元: AATM、1.9mm×300mm×860mm)の各々の上に噴霧した。これに引き続き直ちに前記金属体に、乾燥粉末状のアルミニウム(粒子サイズd99=90μm)を、3質量%の粉末状のCeretan(登録商標)-7080ワックス(融点140~160℃の範囲内)との混合物において施与した(約400g/m2)。
【0058】
2. ワックス成分の溶融および再固化
次いで、両方の金属フォーム体をラボ用オーブン内で160℃に加熱し、次いで冷却して室温に戻した。
【0059】
3. 合金形成のための熱処理
次いで、両方の金属フォーム体を窒素雰囲気下で焼結ベルト炉(製造元: Sarnes)内で合金形成のための熱処理に供した。この処理において、炉を室温から715℃へと、15分間にわたって加熱した。680℃~715℃の温度範囲における熱処理の合計時間は120秒であった。次いで、200℃での窒素雰囲気と接触させることによって金属フォームを急冷した。
【0060】
4. 金属体の分割
焼結された金属フォーム体をその後、金属体切断物へと分割した。これは、レーザーを用いて不活性ガス(N2)下で金属フォーム体の1つを切断することによって行われた。このために、Trumpfによって製造された、最大出力5kWを有するNd:YAGレーザーが使用された。不活性ガス(N2)に加えて、冷却ガス(N2)を用いて金属フォームのか焼を防止した。レーザーを使用して金属フォーム体から4mm×4mmの片を切り出した。これにより、寸法4mm×4mm×1.9mm(長さ、幅、高さ)を有する金属フォーム体切断物がもたらされた。
【0061】
他の金属フォーム体はナイフを使用して切断された。これは、まず金属フォーム体を一方向に、1つの軸上で複数の回転ナイフを用いて切断し、歯の代わりに幅4mmの金属体ストリップを有する櫛状構造を作り出すことによって行われた。次いで、それらの金属体ストリップを、1つの軸上で4mmの間隔で回転ナイフを用いて交差するように切断した。これにより、寸法4mm×4mm×1.9mm(長さ、幅、高さ)を有する金属フォーム体切断物がもたらされた。
【0062】
5. 活性化
次の段階で金属フォーム体切断物を、浸出剤での処理を通じて活性化した。このために、金属間相内に存在するアルミニウム部分を、NaOH水溶液(10質量%)での処理によって金属間相から浸出させた(金属フォーム体切断物の懸濁液をNaOH水溶液(10質量%)中で室温から55℃へと30分間にわたって加熱し、その後、温度を55℃で30分間保持した)。次いで、アルカリを除去し、金属フォーム体切断物を水で約1時間洗浄して、活性化された触媒が得られた。
【0063】
6. 活性の測定
次いで、活性化された触媒をそれらの活性に関して調査した。このために、レーザー切断によって得られた触媒をナイフ切断によって得られた触媒と比較した。
【0064】
1つの攪拌槽反応器内での1-ヘキセンのn-ヘキサンへの水素化を試験した。反応の推移をH2消費に基づいて監視した。
【0065】
条件:
63g 1-ヘキセン
250g イソプロパノール
1.5g 触媒
7.5bar H2
30℃
1500rpm。
【0066】
結果:
ナイフ切断によって得られた触媒では、レーザー切断によって得られた触媒よりも著しくより急速に水素化が進行した。結果を
図1に示す: ナイフ切断触媒(丸)、レーザー切断触媒(三角)。
【0067】
縦座標: 活性[mlH2/(分×g触媒)]
横座標: 時間(1つの時間単位は5分に相応する)。
【0068】
7. 他の結果:
コバルト製の金属フォーム体を用い、それ以外は上記で示されたニッケル製の金属フォーム体を用いた実験に相応する実験は定性的に同じ結果をもたらした: ナイフ切断によって得られた触媒では、レーザー切断によって得られた触媒よりも著しくより急速に水素化が進行した。
【国際調査報告】