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特表2024-510834質量分析計用の広範囲の電子衝撃イオン源
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】質量分析計用の広範囲の電子衝撃イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 41/04 20060101AFI20240304BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20240304BHJP
   H01J 49/24 20060101ALI20240304BHJP
   H01J 27/20 20060101ALI20240304BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
H01J41/04
H01J49/14 700
H01J49/24
H01J27/20
H01J49/00 310
H01J49/00 360
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558659
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 US2022020293
(87)【国際公開番号】W WO2022203898
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/165,412
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520435429
【氏名又は名称】インフィコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァノニ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァグナー ヨヘン
(57)【要約】
質量分析計用の広範囲のイオン源は、第一の部分と、前記第一の部分の下流に配置された第二の部分と、を含む。前記第一の部分は、アノードと、前記アノードに近接して配置され、前記アノードに対して所定の位置に固定された第一のフィラメントと、を含む。前記第一のフィラメントは、処理チャンバーの圧力に曝露される。第一の電子反射電極は、少なくとも部分的に円形の形状を有する。前記第二の部分は、管状アノードと、前記管状アノードを取り囲む第二のフィラメントと、開口部を画定する抽出レンズと、イオンを体積に伝導するフォーカスレンズと、を含む。
【選択図】図1B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計システムにおいて広範囲のイオン源を使用して、高圧レベルでプロセスガス組成を測定し、低圧レベルで残留ガスを測定する方法であって、
質量分析計を低圧下での動作モードに設定するステップと、
第一のフィラメント電流を使用して第一のフィラメントを所定の放出電流に加熱するステップと、
残留ガス組成を測定するステップと、
真空システムと前記質量分析計システムの清浄度をチェックするステップと、
前記第一のフィラメントへの前記第一のフィラメント電流をオフにするステップと、
前記質量分析計を高圧条件下での動作モードに設定するステップと、
第二のフィラメント電流を使用して第二のフィラメントを所定の放出電流に加熱するステップと、
プロセスガスの組成を測定するステップと、
前記プロセスガスの清浄度をチェックするステップと、
プロセスによって作成された生成物の存在を監視するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第二のフィラメントへの前記第二のフィラメント電流をオフにするステップと、
前記質量分析計の設定を低圧条件下での前記動作モードに戻すステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一のフィラメント及び前記第二のフィラメントのうちの一方は、オープンイオン源の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のフィラメント電流は、前記第二のフィラメント電流と同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アノードを含む第一の部分であって、
前記アノードに近接して配置され、前記アノードに対して所定の位置に固定され、処理チャンバーの圧力に曝露される第一のフィラメントと、
少なくとも部分的に円形の形状を有する第一の電子反射電極と、
を含む、第一の部分と、
前記第一の部分の下流に配置され、管状アノードを含む第二の部分であって、
前記管状アノードを取り囲む第二のフィラメントと、
開口部を画定する抽出レンズと、
イオンを体積に伝導するように構成されたフォーカスレンズと、
を含む、第二の部分と、
を含む、質量分析計用の広範囲のイオン源。
【請求項6】
前記管状アノードは、複数の電子入口開口部を画定する、請求項5に記載の広範囲のイオン源。
【請求項7】
前記第一のフィラメント及び前記第二のフィラメントの少なくとも一方は、コイルを含む、請求項5に記載の広範囲のイオン源。
【請求項8】
前記コイルは、レニウムを含む、請求項7に記載の広範囲のイオン源。
【請求項9】
前記管状アノードと前記抽出レンズとの間にシールを形成するように構成された少なくとも1つのセラミック絶縁体を更に含む、請求項5に記載の広範囲のイオン源。
【請求項10】
質量分析計システムにおいて広範囲のイオン源を使用して、プロセスガス組成及び残留ガスを測定する方法であって、
アノードと、前記アノードに近接して配置され、前記アノード及び電子反射電極に対して所定の位置に固定され、処理チャンバーの圧力に曝露される第一のフィラメントと、を含むように、前記広範囲のイオン源の第一の部分を構造化するステップと、
前記第一のフィラメントを第一の所定の放出電流に加熱して、低圧条件下で残留ガス組成を測定するステップと、
前記第一の部分の下流に配置され、
管状アノードと、
前記管状アノードを取り囲む第二のフィラメントと、
開口部を画定する抽出レンズと、
イオンを体積に伝導するように構成されたフォーカスレンズと、
を含むように、前記広範囲のイオン源の第二の部分を構造化するステップと、
前記第二のフィラメントを第二の所定の放出電流に加熱して、高圧条件下でプロセスガスの組成を測定するステップと、
プロセスによって作成された生成物の存在を監視するステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
真空システムと前記質量分析計システムの清浄度をチェックするステップと、
前記プロセスガスの清浄度をチェックするステップと、
を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第一のフィラメント及び前記第二のフィラメントのうちの一方は、オープンイオン源の一部である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
複数の電子入口開口部を画定するように前記管状アノードを構造化するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第一のフィラメント及び前記第二のフィラメントの少なくとも一方をコイルとして構造化するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記コイルは、レニウムを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記管状アノードと前記抽出レンズとの間にシールを形成するように少なくとも1つのセラミック絶縁体を構造化するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照/優先権主張)
本願は、2021年3月24日に出願され、同じ発明の名称を有する共有の仮特許出願第63/165,412号に関連しており、優先権を主張するものである。前記出願の全ての内容は、参照により組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般的には、質量分析計用のイオン源に関し、特に、高圧及び低圧で動作可能な広範囲の電子衝撃イオン源に関する。
【背景技術】
【0003】
電子衝撃イオン源は、残留ガス分析計の標準である。電子衝撃イオン源は、多くの利用可能な異なる構成があり、(1)オープンイオン源(OIS)と(2)クローズドイオン源(CIS)という2つのカテゴリに分類されることが多い。
【0004】
オープンイオン源は、真空環境に直接曝露されており、ガスがイオン化領域に容易に到達できるようにするコンダクタンス(可能な限り高いコンダクタンス)を有する。オープンイオン源は、イオンを大量に生成するため、高い感度を示す。オープンイオン源の真空環境への直接曝露は、フィラメントの寿命と平均自由行程長の考慮により、オープンイオン源の最大圧力を約1E-3mbarに制限する。オープンイオン源は、プロセスガス、チャンバー壁からの脱離ガス、質量分析計自体によって放出されたガスなど、真空環境内の全てのガスをイオン化する。低圧では、プロセスガスは、残留ガス成分と重なる可能性があるため、定量化が困難になる。プロセスガス中の存在量が少なく、残留ガス中に存在する成分についても同様である。
【0005】
一方、クローズドイオン源は、プロセスガスの圧力が質量分析計の最大許容圧力よりも高い場合、及び/又は、分析対象のガス成分が残留ガス成分と重なる場合に使用される。クローズドイオン源を備えるシステムでは、イオン源の感知体積と質量分析計の真空チャンバーの残りの部分との間に圧力差を生成するために、別個のポンピングシステムが必要となる。クローズドイオン源の真空コンダクタンスは、1L/sであり、極端な場合には0.1L/sである。フィラメントと分析領域は、差動ポンピングによって低圧に保持されるため、イオン源のイオン化領域は、1E-3mbarを超える圧力で動作されてもよい。これにより、このようなイオン源を、例えば、半導体ツールのスパッタプロセスに直接接続することができる。しかしながら、クローズドイオン源の欠点は、オープンイオン源に比べて、感度が低いか、又は最小検知分圧(MDPP)が低いことである。低いコンダクタンスを得るために、フィラメントによって生成された電子の一部のみがイオン化体積に入ることができるように、電子入口開口部を小さく保持する必要がある。また、クローズドイオン源は、オープンイオン源に比べて、イオン化体積が小さい。
【0006】
前述の問題に対する解決策は、圧力が大きく変化する単一の真空システムに2つの完全な質量分析計システムを設けることである。しかしながら、分析計の2つのフィラメントを切り替えるには、第一のフィラメントを停止し、第二のフィラメントを起動する必要がある。これにより、第一のフィラメントの停止と第二のフィラメントの起動との間にデッドタイムが生じる。あるいは、バルブを使用して適応減圧できる質量分析計システムは、単一の真空システムに設けられてもよい。しかしながら、これらのバルブは、バルブの真空コンダクタンスが限られているため、ベース圧力では問題がある。
【0007】
これらは、質量分析に現在使用されているオープンイオン源及びクローズドイオン源に関連する問題の一部にすぎない。
【発明の概要】
【0008】
現在使用されているイオン源は、高圧範囲又は低圧範囲で動作する。これに対して、開示されたイオン源は、低圧範囲及び高圧範囲の両方で動作することができる。低圧範囲での高い感度の結果として、低圧プロセスステップの検出限界が改良される。
【0009】
広範囲の電子衝撃イオン源(広範囲のイオン源)の一実施形態は、プロセス体積又は処理チャンバー内に配置された1つ以上のフィラメントを含み、高い収量(yield)の電子がイオン化体積に到達する。1つ以上の追加のフィラメントが質量分析計の差動ポンピング体積内に配置される。広範囲のイオン源の動作は制御されて、現在の圧力条件に対して、正しいイオン源モードを選択する。
【0010】
質量分析計システムにおいて広範囲のイオン源を使用して、高圧レベルでプロセスガス組成を測定し、低圧レベルで残留ガスを測定する方法の一実施形態は、質量分析計を低圧下での動作モードに設定するステップと、第一のフィラメント電流を使用して第一のフィラメントを所定の放出電流に加熱するステップと、残留ガス組成を測定するステップと、を含む。真空システムと前記質量分析計の清浄度をチェックし、第一のフィラメント電流をオフにする。次に、前記質量分析計を高圧条件下での動作モードに設定し、第二のフィラメント電流を使用して第二のフィラメントを所定の放出電流に加熱し、プロセスガス組成を測定する。前記プロセスガスの清浄度をチェックし、プロセスに対して、このプロセスによって作成された生成物(product)の存在を監視する。
【0011】
一実施形態では、前記広範囲のイオン源は、前記処理チャンバーと前記質量分析計体積との間で1000倍の圧力降下を確立するためにのみ、0.1L/sのコンダクタンスを有する。この減圧は、イオン形成チャンバー内の2×0.5mmの小さな孔を電子注入に使用し、1つの1mmの孔をイオン抽出に使用するだけで達成される。直径が0.5mmの孔は、イオン形成チャンバーへの電子束を劇的に制限する。イオン形成チャンバーの他側には、追加の圧力降下が発生しないようにプロセスへの大きな開口部がある。この大きな開口部の前に追加のフィラメントが取り付けられる。このフィラメントからの電子は、イオン化体積に制限なく到達できるため、このフィラメントから放出されるほぼ全ての電子は、所望の体積のイオンを生成する。
【0012】
質量分析計用の広範囲のイオン源の一実施形態は、アノードと、前記アノードに近接して配置され、前記アノードに対して所定の位置に固定された第一のフィラメントと、を含む第一の部分を含む。前記第一のフィラメントは、処理チャンバーの圧力に曝露され、第一の電子反射電極は、少なくとも部分的に円形の形状を有する。第二の部分は、前記第一の部分の下流に配置され、管状アノードと、前記管状アノードを取り囲む第二のフィラメントと、開口部を画定する抽出レンズと、イオンを体積に伝導するように構成されたフォーカスレンズと、を含む。
【0013】
質量分析計システムにおいて広範囲のイオン源を使用して、プロセスガス組成及び残留ガスを測定する方法の一実施形態は、アノードと、前記アノードに近接して配置され、前記アノード及び電子反射電極に対して所定の位置に固定された第一のフィラメントと、を含むように、前記広範囲のイオン源の第一の部分を構造化するステップを含む。前記第一のフィラメントは、処理チャンバーの圧力に曝露される。前記第一のフィラメントを第一の所定の放出電流に加熱して、低圧条件下で残留ガス組成を測定する。前記第一の部分の下流に配置されるように、また管状アノードと、前記管状アノードを取り囲む第二のフィラメントと、開口部を画定する抽出レンズと、イオンを体積に伝導するように構成されたフォーカスレンズと、を含むように、前記広範囲のイオン源の第二の部分を構造化する。前記第二のフィラメントを第二の所定の放出電流に加熱して、高圧条件下でプロセスガスの組成を測定する。プロセスによって作成された生成物を監視する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
上記で簡単に要約した本発明のより具体的な説明は、実施形態を参照することによって行うことができ、これらの実施形態の一部は、添付の図面に示されている。しかしながら、添付図面は、本発明の典型的な実施形態のみを示しており、したがって、本発明は他の同様に有効な実施形態を認め得るので、その範囲を限定するものとみなされないことに留意されたい。したがって、本発明の本質及び目的を更に理解するために、以下の詳細な説明を図面と併せて参照することができる。
【0015】
図1A】質量分析計内に配置された広範囲のイオン源の一実施形態の断面図を概略的に示す。
図1B】質量分析計内に配置された広範囲のイオン源の一実施形態の断面図を概略的に示す。
図2A】広範囲のイオン源の一実施形態の頂部斜視図を示す。
図2B図2Aの広範囲のイオン源の一実施形態の側面斜視図を示す。
図3A】広範囲のイオン源を少なくとも部分的に支持するように構成されたフランジの一実施形態の頂部斜視図を示す。
図3B図3Aのフランジの底部斜視図を示す。
図3C】フランジに結合するように構成された電気コネクタの一実施形態の斜視図を示す。
図4A】質量分析アセンブリの一実施形態で使用される広範囲のイオン源の一実施形態を概略的に示す。
図4B】質量分析アセンブリで使用される広範囲のイオン源の一実施形態を概略的に示す。
図4C】質量分析アセンブリで使用される広範囲のイオン源の一実施形態を概略的に示す。
図5A】低圧モードで動作するときに、第一のイオン源供給部及び第二のイオン源供給部によって広範囲のイオン源内に生成された電位の一例を示す。
図5B】高圧モードで動作するときに、第一のイオン源供給部及び第二のイオン源供給部によって広範囲のイオン源内に生成された電位の一例を示す。
図6】クローズドイオン源のみを使用してサンプルを分析した後に生成された例示的なスペクトルを示す。
図7】広範囲のイオン源を使用して実質的に同じサンプルを分析した後に生成された例示的なスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の議論は、質量分析計用の広範囲の電子衝撃イオン源の様々な実施形態に関する。本明細書に記載されるバージョンは、本明細書に詳述される特定の発明概念を具体化する例であることが理解されるであろう。そのため、その他の変形及び修正は、当業者には容易に明らかになるであろう。また、添付図面に関して適切な参照枠を提供するために、この議論全体を通じて特定の用語が使用されている。「上部」、「下部」、「前方」、「後方」、「内部」、「外部」、「前」、「後」、「頂部」、「底部」、「内側」、「外側」、「第一の」、「第二の」などの用語は、特に示されている場合を除き、これらの概念を限定することを意図したものではない。本明細書で使用される「約」又は「およそ」という用語は、請求又は開示された値の80%~125%の範囲を指し得る。図面に関しては、それらの目的は、質量分析計用の広範囲の電子衝撃イオン源の顕著な特徴を説明することであり、特に縮尺どおりに提供されていない。
【0017】
開示された広範囲のイオン源は、1つ以上のフィラメントをプロセス圧力に直接曝露し、1つ以上のフィラメントを差動ポンピング真空ハウジング内に配置することにより、オープンイオン源とクローズドイオン源の利点を組み合わせている。図1A図3Cを参照すると、質量分析計10の一部の断面の概略図が示され、広範囲のイオン源100が第一の端部102及び第二の端部102を有する。図示のように、広範囲のイオン源100は、一般的には、第一の端部101に第一の部分200を含み、第二の端部102に第二の部分300を含む。
【0018】
図1A図2Bを参照すると、広範囲のイオン源100の第一の部分200は、オープン軸方向イオン源として作用する。第一の部分200は、一般的には、フィラメント206(又はカソード)と、反射電極208とを含むアノード202を含む。図示のように、アノード202は、複数の開口部を画定するグリッドを少なくとも部分的に含んでもよく、フィラメント206は、反射電極208を備えたコイル状レニウムフィラメントを含んでもよい。フィラメント206は、1つ以上の固定部材210に結合されてもよく、固定部材210は、反射電極208がフィラメント206又はその大部分を取り囲むようにフィラメント206をアノード202及び反射電極208に対して所定の位置に固定する。図示のように、アノード202及び反射電極208は、一般的に円形の形状を形成してもよい。固定部材210は、セラミック絶縁体などの支持体に結合される1つ以上のコネクタピン212に保持又は結合されてもよい。一実施形態では、固定部材210は、固定部材210をコネクタピン212に結合できるようにする孔又はループなど、1つ以上の固定構造211を画定してもよい。フィラメント206は、処理チャンバー12(図1B)の圧力に曝露されるように配置される。
【0019】
引き続き図1A図2Bを参照すると、広範囲のイオン源100の第二の部分300は、複数の電子入口孔を画定する管状アノード302を含む。管状アノード302は、フランジ16の前側16aからフランジ16の後側16bまで延びている。一実施形態では、電子入口孔の直径は、およそ0.5mmであってもよい。第二のフィラメント304(カソード)は、管状アノード302を少なくとも部分的に取り囲んでいる。図示のように、第二のフィラメント304は、広範囲のイオン源100の第二の端部102に向かって配置されている。第二の部分300は、直径がおよそ1mmの孔又は開口を画定する抽出レンズ306と、四重極質量分析計18の体積又はチャンバーにイオンを伝導するフォーカスレンズ308とを更に含む。第二の部分300の構成要素のうちの1つ以上は、差動ポンピングチャンバー14内に少なくとも部分的に配置されてもよい。図1Bに示すように、広範囲のイオン源100は、第一の部分200の少なくとも一部が第一の端部101に配置され、第二の部分300の少なくとも一部が第二の端部102に配置されるように、広範囲のイオン源の軸線Wに沿って延びている。図3A~Cは、広範囲のイオン源100の一実施形態を支持するために使用されてもよいフランジ16’の一例を示す。本実施形態では、フランジ16’は、広範囲のイオン源100の構成要素又は四重極質量分析計18若しくは差動ポンピング真空チャンバー14内に配置された他の構成要素の通信及び/又は制御のための機器を収容できる1つ以上の貫通開口部17を画定する。一実施形態では、機器は、配線、配管、又はその他の通信及び/又は制御のための手段を含んでもよい。図示のように、電気コネクタ50は、広範囲のイオン源の第一の部分200との電気的接続を確立するために使用されてもよい。
【0020】
1つ以上のセラミック絶縁体は、第一の部分200及び/又は第二の部分300の構成要素に隣接して配置されてもよい。図1A図3Cに示すように、セラミック絶縁体150は、第二の部分300の管状アノード302と真空チャンバー14のフランジ16との間にシールを形成するように配置される。別のセラミック絶縁体152は、管状アノード302と抽出レンズ306との間にシールを形成するように配置されてもよい。セラミック絶縁体154は、更に、第一の部分200の他の構成要素をフランジ16及び/又は広範囲のイオン源100の他の構成要素から絶縁するように配置されてもよい。
【0021】
図4Aに示す一実施形態では、第一の部分200の1つ以上の構成要素は、おのコントローラを使用して制御されてもよく、第二の部分300の1つ以上の構成要素は、別個の第二のセットのコントローラによって制御されてもよい。例えば、第一のセットのコントローラは、四重極質量分析計のものと類似又は同一あってもよく、フィラメント206、反射電極208及びアノード202などの第一の部分200の構成要素を動作させるために使用されてもよい。同様に、第二のセットのコントローラは、四重極質量分析計のものと類似又は同一であってもよく、フィラメント304、管状アノード302、抽出レンズ306及びフォーカスレンズ308などの第二の部分300の1つ以上の構成要素を動作させるために使用されてもよい。第一の部分200のフィラメント206の動作中に、第二の部分300の供給パラメータは、それらの動作パラメータとは異なるパラメータに設定される必要がある。同様に、広範囲のイオン源の第二の部分300を使用してサンプル分析を行う場合、第一の部分200のパラメータは、それらの動作/分析パラメータとは異なるパラメータに設定される。これらの調整は、手動で行われてもよく、第一のセット及び第二のセットのコントローラを使用するソフトウェアコマンドによって行われてもよい。一実施形態では、第一のセット及び第二のセットのコントローラは、第一の部分200の構成要素及び第二の部分300の構成要素に対してプリセット設定を記憶することを可能にすることができるため、第一の部分200及び第二の部分300のそのような「非動作パラメータ」は、第一のセット及び第二のセットのコントローラによって事前にプログラムされ、記憶されてもよい。
【0022】
広範囲のイオン源100を含む四重極質量分析計の別の実施形態は、図4Bに示される。本実施形態では、図3Aに示すフランジ16と類似であってもよい別のフランジ16’が処理チャンバー12内に配置される。フランジ16’は、第一の部分200のための接続部(大気配線)209が処理チャンバー12からイオン源供給部250に送り出すことができるように、1つ以上のフィードスルー17’を含む。第二の部分300に供給する接続部(大気配線)309は、四重極ベースフランジ19Bに画定された1つ以上のフィードスルー20を介して別のイオン源供給部350に渡ってもよい。真空配線は、四重極ロッドシステム400(概略的に図示)に沿ってイオン供給部300まで配置されている。
【0023】
広範囲のイオン源100を含む四重極質量分析計のまた別の実施形態は、図4Cに示される。本実施形態では、フランジ16は、図3Aに示すような1つ以上のフィードスルー17を含む。第一の部分200のための接続部209は、フランジ16の1つ以上のフィードスルー17を通過して、イオン源供給部250に至ることができる。第二の部分300のための接続部309は、フランジ16を通過する必要がなく、第二の部分300を別のイオン源供給部350に接続する。本実施形態では、イオン源供給部250、350への両方の接続部209、309は、四重極ベースフランジ19Cを通過してもよい。接続部209、309は、真空配線及び/又は広範囲のイオン源100を動作させるために必要な他の配線であってもよい。他の実施形態では、接続部209、309は、広範囲のイオン源100が設けられる異なる装置の幾何学的形状及び/又は装置が配置される空間の構成に適応するために、別々に稼働されるか又は設けられてもよい。
【0024】
図5Aは、「低圧」モードで動作する広範囲のイオン源100を備えた質量分析計10の一実施形態のパラメータの一例を示す。本実施形態では、質量分析計10は、第一の部分200の構成要素を制御する第一のセットのコントローラと、第二の部分300の構成要素を制御する第二のセットのコントローラとを有する。別個のコントローラセットに加えて、第一の部分200及び第二の部分300は、それぞれ別個のイオン源供給部250、350を有することもできる(図4)。図示のように、フィラメント(又はカソード)206は、カソード電位にあり、最大3.7A(保護電流)の電流によって加熱されて電子を放出する。電子は、広範囲のイオン源100の第一の端部101にあるアノード202に移動する。図示のように、アノード202は、電位「イオンリファレンス1」にある。フィラメント206からアノード202への電子電流は、所定の値、この場合は2.0mA(放出電流)に調節される。電子との衝突から生じる正イオンは、イオン源供給部350に対して設定された電位によって加速され、質量分析計に集束される。
【0025】
2つの別個の質量分析計を使用して低圧(開始条件)でガス組成をチェックするために、オープンイオン源を備えた質量分析計を起動する。電子がフィラメントからアノードに向かって放出されるように、電流を使用してフィラメントを加熱する。電子電流を所定の放出電流に安定化する。残留ガス組成の測定を行い、システムの清浄度をチェックする。また、改良された検出限界を備えたヘリウムリークテストを実行してもよい。圧力が1E-3mbarを超える任意のガスを導入する前に、質量分析計、特にフィラメント電流をシャットダウンする。圧力が1E-3mbarよりも高いガス組成をチェックするために、クローズドイオン源を備えた質量分析計を起動し、フィラメントをフィラメント電流で加熱する。次に、フィラメントからアノードに向かう電子放出をチェックし、この電流を、事前に定義された放出電流に安定化する。プロセスガス組成の測定を行い、プロセスガスの清浄度とこのプロセスによって作成された生成物をチェックする。フィラメント電流を含む質量分析計をシャットダウンし、システムは、再び低圧分析に切り替える準備ができている。
【0026】
単一の質量分析計を備えたシステムでは、低圧下でのガス組成のチェックは、例えば、図5Aに示すような低圧設定下で質量分析計を起動することによって始まる。図5Bの「IS 716A」について示されるような所定のフィラメント電流を使用してフィラメントを加熱する。フィラメントからアノードへの電子放出をチェックし、所定の放出電流に安定化する。残留ガス組成の測定を行い、システムの清浄度をチェックする。測定が完了すると、質量分析計をシャットダウンする。高圧ガス(1E-3mbarを超える)がシステムに導入されるときに、質量分析計、特にフィラメント電流を動作させると、質量分析計が損傷する可能性がある。例えば、質量分析計のフィラメントが損傷すると、損傷したフィラメントを交換するために質量分析計全体をシャットダウンする必要がある。単一の質量分析計を備えたシステムを使用して高圧のガス組成をチェックするために、IS 716Bについて図5Bに示されるような高圧設定(又は高圧モード)で質量分析計を起動する。IS 716Bについて図5Bに示されるような所定のフィラメント電流を使用してフィラメントを加熱する。フィラメントからアノードに向かう電子放出をチェックし、所定の放出電流値に安定化する。プロセスガス組成の測定を行い、プロセスガスの清浄度をチェックする。システムに対して、また、このプロセスによって作成された生成物についてもチェックする。熱フィラメントが低圧モードで測定される残留ガス組成に影響を与える可能性があるため、測定が完了した後に、低圧モードに戻すことが望ましい場合には、フィラメントをオフにする。フィラメントが起動されたままであったり、加熱状態にあったりすると、低圧モードへの切り替えによって損傷することはない。
【0027】
図6及び図7は、クローズドイオン源の感度と比較して、開示された広範囲のイオン源100の感度を示す。図6及び図7に示す2つのスペクトルは、分析チャンバー内及び処理チャンバー内で5E-6mbarの圧力でほぼ同一のガス組成で取得される。図6及び図7の両方のスペクトルに対して、1800VのSEM電圧が使用される。残留ガスのピークは、プロトタイプのセットアップにおいて広範囲のイオン源100の軸方向部分を配線するための不完全真空互換構成要素に起因する。広範囲のイオン源100の強度は、クローズドイオン源の強度よりも約20倍高い。ファラデー測定に対して、以下の感度を測定した。
感度(クローズドイオン源のみ)=2.2E-6A/mbar
感度(広範囲のイオン源)=4.0E-5A/mbar
【0028】
広範囲のイオン源の改良された感度により、処理チャンバー内の低圧での検出限界がより良好になる。広範囲のスペクトルは、質量数185及び187m/eのフィラメントから蒸発したレニウムからの追加のピークを示す。これらのピークは、高質量範囲の質量スケールの校正に使用されてもよい。
【0029】
本発明は、特定の例示的な実施形態を参照して特に示され、説明されてきたが、当業者であれば、本明細書及び図面によって裏付けられる本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、細部の様々な変更が可能であることが理解されよう。また、例示的な実施形態が特定の数の要素を参照して説明されている場合、例示的な実施形態は、特定の数よりも少ない又は多い要素を利用して実施できることが理解されよう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
【国際調査報告】