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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】コラーゲンIVバイオインク
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240304BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500440
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 AU2022050247
(87)【国際公開番号】W WO2022192966
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2021900794
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519238934
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(71)【出願人】
【識別番号】523353786
【氏名又は名称】サウス・イースタン・シドニー・ローカル・ヘルス・ディストリクト
【氏名又は名称原語表記】South Eastern Sydney Local Health District
(71)【出願人】
【識別番号】504003260
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・ウーロンゴン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF WOLLONGONG
【住所又は居所原語表記】Northfields Avenue, Wollongong, NSW 2522, Australia
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨウ,ジンジン
(72)【発明者】
【氏名】サットン,ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】オーバーマス,モーガン
(72)【発明者】
【氏名】ロヴィク,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ワランス,ゴードン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB19
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、組織及び細胞などの生物学的標的に薬剤を送達するのに好適な組成物、並びに/又は細胞の成長及び/若しくは増殖を促進することができる組成物、並びにそれらを製造するための方法に関する。具体的には、IV型コラーゲンを含む印刷可能なコラーゲンバイオインクが、角膜再生のために、内皮細胞又は上皮細胞などの哺乳動物細胞を含む架橋コラーゲンゲルを生成するために使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、
-1つ以上の架橋剤と、を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の架橋剤が、光によって活性化することができる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、フィブリノーゲン及び/又はトロンビンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、哺乳動物細胞を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞を含むか、又はそれからなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記哺乳動物細胞が、神経細胞、上皮細胞、光受容体細胞、ミュラー細胞、内皮細胞のうちのいずれか1つ以上を含む、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記哺乳動物細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
前記内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項12】
培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、前記イオン及びアミノ酸を含む培養培地を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
(i)前記成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)及び/若しくは線維芽細胞成長因子(FGF)を含み、かつ/又は
(ii)前記ビタミンが、リボフラビンを含み、かつ/又は
(iii)前記マトリックスタンパク質が、I型コラーゲンを含み、かつ/又は
(iv)前記マトリックスタンパク質が、ラミニンを含む、請求項12又は13に記載
の組成物。
【請求項15】
前記イオンが、前記組成物中に含まれるイオン性塩の成分である、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記IV型コラーゲンが、中和されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、
(i)6~24mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.1Mのナトリウムイオン、及び0.01~0.05Mのカルシウムイオン、又は
(ii)3~15mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.08Mのナトリウムイオン、及び0.015~0.03Mのカルシウムイオン、又は
(iii)4~12mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.07Mのナトリウムイオン、及び0.018~0.02Mのカルシウムイオンを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、
(i)24mg/ml未満のIV型コラーゲンと、
(ii)0.04Mを超えるナトリウムイオンと、
(iii)0.008Mを超えるカルシウムイオンと、を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
組成物を調製する方法であって、前記方法が、
(i)
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-1つ以上の架橋剤と、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン、及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、を含む、溶液を提供することと、
(ii)前記溶液を表面に適用することと、
(iii)前記1つ以上の架橋剤を活性化することと、を含む、方法。
【請求項20】
前記溶液を表面に適用することが、層を形成し、ステップ(ii)及び(iii)が、複数回繰り返され、各層が、先行する層の上に適用される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ以上の架橋剤が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(iii)における前記活性化することが、前記1つ以上の架橋剤を活性化することができる光を適用することを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
組成物を調製する方法であって、前記方法が、
(i)
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-1つ以上の架橋剤と、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン、及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、を含む、溶液を提供することと、
(ii)前記溶液を表面に適用することであって、前記溶液が、前記表面に適用する前に少なくとも2つの成分に分けられる、適用することと、を含む、方法。
【請求項25】
(iii)少なくとも1つの成分にフィブリノーゲンを添加して、配合物(a)を形成するステップと、
(iv)少なくとも1つの成分にトロンビンを添加して、配合物(b)を形成するステップと、
(v)配合物(a)と(b)とを合わせて、ゲルを形成するステップと、を更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記溶液及び/又は前記組成物に哺乳動物細胞を添加することを更に含む、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞を含むか、又はそれからなる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞が、神経細胞、上皮細胞、光受容体細胞、ミュラー細胞、内皮細胞のうちのいずれか1つ以上を含む、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項32】
前記溶液が、培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、請求項19~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記溶液が、前記イオン及びアミノ酸を含む培養培地を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(i)前記成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)及び/若しくは線維芽細胞成長因子(FGF)を含み、かつ/又は
(ii)前記ビタミンが、リボフラビンを含み、かつ/又は
(iii)前記マトリックスタンパク質が、I型コラーゲンを含み、かつ/又は
(iv)前記マトリックスタンパク質が、ラミニンを含む、請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記イオンが、混合物中に含まれるイオン性塩の成分である、請求項19~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記IV型コラーゲンが、中和されている、請求項19~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
請求項19~36のいずれか一項に記載の方法によって得られた、又は得ることができ
る、組成物。
【請求項38】
組織の表面を密封する方法であって、前記方法が、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物を前記組織に適用することを含む、方法。
【請求項39】
薬剤を組織に送達する方法であって、前記方法が、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物を前記組織に適用することを含む、方法。
【請求項40】
細胞を培養する方法であって、前記方法が、前記細胞を、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物に適用することを含む、方法。
【請求項41】
前記細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
組織の表面を密封する際に使用するための、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項45】
組織へ薬剤を送達する際に使用するための、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
細胞を培養する際に使用するための、請求項1~18又は37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
前記細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項47に記載の使用。
【請求項50】
組成物を調製するための、キット、パッケージ又はデバイスであって、前記キットが、
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、
-1つ以上の架橋剤と、を含む、キット、パッケージ又はデバイス。
【請求項51】
IV型コラーゲン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、及び1つ以上の架橋剤を含む、キット、パッケージ又はデバイスの使用であって、
-6~24mg/mlの前記IV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mの前記ナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mの前記カルシウムイオンと、
-前記1つ以上の架橋剤と、を含む、組成物を調製するための、使用。
【請求項52】
前記組成物が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、請求項50に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は請求項51に記載の使用。
【請求項53】
前記1つ以上の架橋剤が、光によって活性化することができる、請求項50若しくは52に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は請求項51若しくは52に記載の使用。
【請求項54】
前記光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光を含む、請求項53に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
【請求項55】
前記組成物が、上皮細胞及び/又は内皮細胞を更に含む、請求項50若しくは52~54のいずれか一項に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は請求項51~54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項56】
前記上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、請求項55に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
【請求項57】
前記内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項55に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
【請求項58】
前記組成物が、培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、請求項50若しくは52~57のいずれか一項に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は請求項51~57のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照による組み込み
本出願は、2021年3月18日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2021/900794号の優先権を主張し、その全内容は相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、生物学及び医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、組織及び細胞などの生物学的標的に薬剤を送達するのに好適な組成物、並びに/又は細胞の成長及び/若しくは増殖を促進することができる組成物、並びにそれらを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
生体組織に対する外傷の場合、又は疾患が組織変性をもたらす事例では、従来のアプローチは、好適なドナーからの移植により当該組織を再構築することを試みることである。より最近では、バイオエンジニアリングは、生体組織の置換のための代替手段を提供している。バイオエンジニアリングにより、移植前の合成代替組織の作製が可能になる。追加的又は代替的に、細胞ベースの療法には、培養細胞に適切な成長因子を注入することが含まれ、それによって、組織をその場で再生することができる。後者の方法は、技術的に単純であるという利点を有し、修復中の生物学的組織、例えば、角膜組織の形状が重要である場合、機能の回復に特に有用である。
【0004】
角膜は、眼の保護カバーの透明な成分である。それは、光が瞳孔を通過することを可能にし、眼の光学系の主要な屈折要素である。角膜は、外側上皮、ボーマン層、実質、デスメ膜、及び内側内皮の5つの層からなる。角膜実質は、角膜の全体の厚さの約90%を占め、主にコラーゲンから構成されている。
【0005】
角膜失明は、世界中で2番目に多い失明の原因である。角膜失明の原因には、トラコーマ、オンコセルカ症、ハンセン病、新生児眼炎、及び眼球乾燥症などの疾患、並びに眼外傷、角膜潰瘍、及び従来の眼科薬の使用から生じる合併症などの他のプロセスが含まれる。
【0006】
角膜損傷は、オーストラリアにおいて最も一般的な眼の緊急事態の症状を示し、全ての症例の約75%が角膜内の異物又は擦過傷の存在に起因している。これらの損傷だけで、オーストラリアの人口に年間1億5,500万ドルを超える費用がかかると推定されており、効果的に治療されなければ、感染症及び瘢痕化をもたらし、永久的な視覚障害につながる可能性がある。
【0007】
軽度の場合、損傷した角膜は正常な治癒経路を介して再生することができる。しかしながら、他の場合には、角膜の正常な治癒機構が不十分であり、角膜融解、角膜血管新生、透明性の喪失、感染症、瘢痕化、及び失明の時点までの視力低下につながり得る治癒しない欠陥の形成をもたらす。
【0008】
角膜内皮疾患は、組織修復及び/又は再生のための改善された組成物及び方法から利益を得るであろう角膜に影響を与える状態の一例である。角膜内皮疾患の外科的治療は、層状移植の使用によって近年進化しているが、この手術は技術的に困難なままであり、貴重なドナーの角膜組織を利用する。認識された合併症には、ドナー組織の亜脱臼が含まれる。
【0009】
角膜損傷に対する現在の治療法には、抗生物質、アイパッド、縫合糸及び外科用接着剤が含まれ、これらは、軽微な問題に役立つ場合がある。しかしながら、それらは、痛みの緩和、感染症、及び/又は瘢痕組織の発達を含む、より高度な状況で発生する問題に適切に対処していない。感染症は重大な合併症を表し、多くの場合、入院を必要とする。重度の角膜損傷によく見られる瘢痕化は、永久的な視力喪失をもたらす可能性がある。このような場合、角膜移植は視力リハビリテーションのための唯一の選択肢であるが、ドナー角膜の不足が世界中に存在している。
【0010】
上述の問題の多くは、角膜損傷及び疾患に限定されず、他の身体組織の損傷及び/又は劣化の場合にも優勢である。
【0011】
組織修復及び/若しくは再生のため、並びに/又は組織及び細胞などの生物学的標的への薬剤の効果的な送達のための改善された組成物及び方法に対する必要性が存在している。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、組織修復及び/若しくは再生、並びに生物学的標的への薬剤の送達のための現在の組成物及び/又は方法に関連する問題のうちの少なくとも1つを軽減する。角膜の文脈において、本発明者らは、IV型コラーゲンを含むバイオインクが、細胞、例えば、水晶体上皮細胞と適合性があること、並びに/又は角膜内皮細胞の成長及び/若しくは増殖を支持することを驚くべきことに見出した。追加的に、本発明のバイオインクは、透明、架橋可能及び/又は印刷可能であり、機械的強度及び柔軟性などの特性に起因して、様々なサイズのゲル及び/又は足場を作製するために使用され得る。
【0013】
更に、本発明のバイオインクは、組織及び細胞などの生物学的標的への様々な薬剤の送達を支持することができ、その適用を角膜に関連するものを超えて広範囲の標的に拡張することができる。
【0014】
限定されないが、本明細書に記載の組成物及び方法は、一般に、薬剤(例えば、細胞、薬物及び/又は他の物質)を生物学的標的(例えば、組織、膜、細胞)に送達するために有用であり、例えば、角膜組織を含む、組織修復及び/又は再生に適用を見出され得る。
【0015】
本発明は、少なくとも部分的に、以下の実施形態に関する。
【0016】
実施形態1.組成物であって、
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、
-1つ以上の架橋剤と、を含む、組成物。
実施形態2.組成物が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、実施形態1に記載の組成物。
実施形態3.1つ以上の架橋剤が、光によって活性化することができる、実施形態1又は2に記載の組成物。
実施形態4.光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光である、実施形態3に記載の組成物。
実施形態5.組成物が、フィブリノーゲン及び/又はトロンビンを含む、実施形態1に記載の組成物。
実施形態6.組成物が、哺乳動物細胞を更に含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態7.哺乳動物細胞が、ヒト細胞を含むか、又はそれからなる、実施形態6に記載の組成物。
実施形態8.哺乳動物細胞が、神経細胞、上皮細胞、光受容体細胞、ミュラー細胞、内皮細胞のうちのいずれか1つ以上を含む、実施形態6又は7に記載の組成物。
実施形態9.哺乳動物細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、実施形態6~8のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態10.上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、実施形態8又は9に記載の組成物。
実施形態11.内皮細胞が、角膜内皮細胞である、実施形態8又は9に記載の組成物。
実施形態12.培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態13.組成物が、イオン及びアミノ酸を含む培養培地を含む、実施形態12に記載の組成物。
実施形態14.
(i)成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)及び/若しくは線維芽細胞成長因子(FGF)を含み、かつ/又は
(ii)ビタミンが、リボフラビンを含み、かつ/又は
(iii)マトリックスタンパク質が、I型コラーゲンを含み、かつ/又は
(iv)マトリックスタンパク質が、ラミニンを含む、実施形態12又は13に記載の組成物。
実施形態15.イオンが、組成物中に含まれるイオン性塩の成分である、実施形態1~14のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態16.IV型コラーゲンが、中和されている、実施形態1~15のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態17.組成物が、
(i)6~24mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.1Mのナトリウムイオン、及び0.01~0.05Mのカルシウムイオン、又は
(ii)3~15mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.08Mのナトリウムイオン、及び0.015~0.03Mのカルシウムイオン、又は
(iii)4~12mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.07Mのナトリウムイオン、及び0.018~0.02Mのカルシウムイオンを含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態18.組成物が、
(i)24mg/ml未満のIV型コラーゲンと、
(ii)0.04Mを超えるナトリウムイオンと、
(iii)0.008Mを超えるカルシウムイオンと、を含む、実施形態1~17のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態19.組成物を調製する方法であって、方法が、
(i)
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-1つ以上の架橋剤と、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン、及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、を含む、溶液を提供することと、
(ii)溶液を表面に適用することと、
(iii)1つ以上の架橋剤を活性化することと、を含む、方法。実施形態20.溶液を表面に適用することが、層を形成し、ステップ(ii)及び(iii)が、複数回繰り
返され、各層が、先行する層の上に適用される、実施形態19に記載の方法。
実施形態21.1つ以上の架橋剤が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、実施形態19又は20に記載の方法。
実施形態22.ステップ(iii)における活性化することが、1つ以上の架橋剤を活性化することができる光を適用することを含む、実施形態19~21のいずれか1つに記載の方法。
実施形態23.光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光を含む、実施形態22に記載の方法。
実施形態24.組成物を調製する方法であって、方法が、
(i)
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-1つ以上の架橋剤と、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン、及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、を含む、溶液を提供することと、
(ii)溶液を表面に適用することであって、溶液が、表面に適用する前に少なくとも2つの成分に分けられる、適用することと、を含む、方法。
実施形態25.
(iii)少なくとも1つの成分にフィブリノーゲンを添加して、配合物(a)を形成するステップと、
(iv)少なくとも1つの成分にトロンビンを添加して、配合物(b)を形成するステップと、
(v)配合物(a)と(b)とを合わせて、ゲルを形成するステップと、を更に含む、実施形態24に記載の方法。
実施形態26.溶液及び/又は組成物に哺乳動物細胞を添加することを更に含む、実施形態19~25のいずれか1つに記載の方法。
実施形態27.哺乳動物細胞が、ヒト細胞を含むか、又はそれからなる、実施形態26に記載の方法。
実施形態28.哺乳動物細胞が、神経細胞、上皮細胞、光受容体細胞、ミュラー細胞、内皮細胞のうちのいずれか1つ以上を含む、実施形態26又は27に記載の方法。
実施形態29.哺乳動物細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、実施形態26~28のいずれか1つに記載の方法。
実施形態30.上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、実施形態28又は29に記載の方法。
実施形態31.内皮細胞が、角膜内皮細胞である、実施形態28又は29に記載の方法。
実施形態32.溶液が、培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、実施形態19~31のいずれか1つに記載の方法。
実施形態33.溶液が、イオン及びアミノ酸を含む培養培地を含む、実施形態32に記載の方法。
実施形態34.
(i)成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)及び/若しくは線維芽細胞成長因子(FGF)を含み、かつ/又は
(ii)ビタミンが、リボフラビンを含み、かつ/又は
(iii)マトリックスタンパク質が、I型コラーゲンを含み、かつ/又は
(iv)マトリックスタンパク質が、ラミニンを含む、実施形態32又は33に記載の方法。
実施形態35.イオンが、混合物中に含まれるイオン性塩の成分である、実施形態19~34のいずれか1つに記載の方法。
実施形態36.IV型コラーゲンが、中和されている、実施形態19~35のいずれか1つに記載の方法。
実施形態37.実施形態19~36のいずれか1つに記載の方法によって得られた、又は得ることができる、組成物。
実施形態38.組織の表面を密封する方法であって、方法が、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物を組織に適用することを含む、方法。
実施形態39.薬剤を組織に送達する方法であって、方法が、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物を組織に適用することを含む、方法。
実施形態40.細胞を培養する方法であって、方法が、細胞を、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物に適用することを含む、方法。
実施形態41.細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、実施形態40に記載の方法。
実施形態42.上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、実施形態41に記載の方法。
実施形態43.内皮細胞が、角膜内皮細胞である、実施形態41に記載の方法。
実施形態44.組織の表面を密封する際に使用するための、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態45.組織へ薬剤を送達する際に使用するための、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態46.細胞を培養する際に使用するための、実施形態1~18又は37のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態47.細胞が、上皮細胞及び/若しくは内皮細胞を含むか、又はそれらからなる、実施形態46に記載の使用。
実施形態48.上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、実施形態47に記載の使用。
実施形態49.内皮細胞が、角膜内皮細胞である、実施形態47に記載の使用。
実施形態50.組成物を調製するためのキット、パッケージ又はデバイスであって、キットが、
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、
-1つ以上の架橋剤と、を含む、キット、パッケージ又はデバイス。
実施形態51.IV型コラーゲン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、及び1つ以上の架橋剤を含む、キット、パッケージ又はデバイスの使用であって、
-6~24mg/mlのIV型コラーゲンと、
-0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンと、
-1つ以上の架橋剤と、を含む、組成物を調製するための、使用。
実施形態52.組成物が、0.01~0.1mgのリボフラビンを含む、実施形態50に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は実施形態51に記載の使用。
実施形態53.1つ以上の架橋剤が、光によって活性化することができる、実施形態50若しくは52に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は実施形態51若しくは52に記載の使用。
実施形態54.光が、UV光、青色光、緑色光、又は白色光を含む、実施形態53に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
実施形態55.組成物が、上皮細胞及び/又は内皮細胞を更に含む、実施形態50若しくは52~54のいずれか1つに記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は実施形態51~54のいずれか1つに記載の使用。
実施形態56.上皮細胞が、水晶体上皮細胞である、実施形態55に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
実施形態57.内皮細胞が、角膜内皮細胞である、実施形態55に記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は使用。
実施形態58.組成物が、培養培地、成長因子、ホルモン、マトリックスタンパク質、糖タンパク質、ビタミン、ナトリウムイオン又はカルシウムイオン以外のイオン、イオン源、フィブロネクチン、アミノ酸、抗生物質、麻酔剤、第XIII因子、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬のうちのいずれか1つ以上を更に含む、実施形態50若しくは52~57のいずれか1つに記載のキット、パッケージ若しくはデバイス、又は実施形態51~57のいずれか1つに記載の使用。
【0017】
定義
本出願で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数の参照を含む。例えば、「成分」という用語は、複数の成分も含む。
【0018】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」を意味する。「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの単語「含む(comprising)」の変形は、対応して変化した意味を有する。したがって、例えば、成分「A」を「含む」組成物は、成分「A」から排他的になり得るか、又は1つ以上の追加の成分(例えば、成分「B」及び/又は成分「C」)を含み得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ウシ、ウマ、ヒツジ、霊長類、鳥類及びげっ歯類の種を含む、経済的、社会的又は研究上重要な任意の動物を含む。したがって、「対象」は、例えば、ヒトなどの哺乳動物、又は非ヒト哺乳動物であり得る。
【0020】
本明細書で使用される場合、「組織」という用語は、組織の成分である細胞及び組織から形成される臓器の両方を包含すると理解されるであろう。
【0021】
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、材料を送達するための任意の送達システムを指す。そのような送達システムは、ある場所から別の場所への反応試薬(例えば、適切な容器内のラベル、参照試料、支持材料など)及び/又は支持材料(例えば、緩衝液、アッセイを実施するための書面による指示など)の保管、輸送、又は送達を可能にするシステムを含む。例えば、キットは、関連する反応試薬及び/又は支持材料を含む、箱などの1つ以上の筐体を含み得る。
【0022】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、引用された数値に関して使用される場合、引用された数値及び引用された数値の±10パーセント以内の数値を含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、「複数」という用語は、2つ以上を意味する。ある特定の態様又は実施形態では、複数は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、又はそれ以上、並びにそれらの中で導出可能な任意の数値、及びそれらの中で導出可能な任意の範囲を意味することができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、数値の範囲に関して使用される場合、「間」という用語は、範囲の各エンドポイントでの数値を包含する。例えば、0.008Mから0.4Mの間の濃度を有するカルシウムイオンは、濃度0.008Mを有するカルシウムイオン及び濃
度0.4Mを有するカルシウムイオンを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「より多い」という用語は、数値に関して使用される場合、「より多い又は等しい」を意味すると理解されるであろう。例えば、0.018Mより多いカルシウムイオンは、0.018Mのカルシウムイオンの濃度及び0.018Mより多いカルシウムイオンの全ての濃度を包含する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「未満」という用語は、数値に関して使用される場合、「未満又は等しい」を意味すると理解されるであろう。例えば、15mg/ml未満のIV型コラーゲンは、15mg/mlの濃度のIV型コラーゲン及び15mg/ml未満の全ての濃度のIV型コラーゲンを包含する。
【0027】
本明細書で使用される場合、IV型コラーゲンを説明するために使用される場合、「中和された」という用語は、コラーゲン溶液のpHが6.7~7.6であることを意味すると理解されるであろう。例えば、「中和された」IV型コラーゲンは、6.8~7.5、又は6.9~7.4、又は7.0~7.3、又は6.9~7.2などのpHを有することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「培養する(culturing)」という用語は、細胞の文脈で使用される場合、細胞の成長及び/又は増殖を促進することを意味すると理解されるであろう。「培養する(culture)」及び「培養する(cultures)」などの「培養する(culturing)」という単語の変形は、対応して変化した意味を有する。したがって、例えば、細胞を「培養する」方法は、細胞のサイズ及び数の両方の増加を促進する方法を意味すると理解されるであろう。
【0029】
本明細書で使用される場合、「架橋」という用語は、コラーゲンに関して使用される場合、分子内及び分子間共有結合の増加を意味すると理解されるであろう。「架橋された」及び「架橋している」などの「架橋」という単語の変形は、対応して変化した意味を有する。いくつかの事例では、「架橋している」コラーゲンは、コラーゲン原線維における線維内及び線維間共有結合の増加を意味すると理解されるであろう。
【0030】
本明細書における先行技術文書の任意の説明、又はそれらの文書から導出されたか、若しくはそれらの文書に基づく本明細書における記述は、文書又は導出された記述が、関連技術の一般的な知識の一部であることを認めるものではない。
【0031】
説明の目的のために、本明細書で参照される全ての文書は、特に明記されない限り、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
ここで、本発明の好ましい実施形態は、付属の図面を参照して、例としてのみ説明される。
【0033】
図1】3分の時点から開始して3分間、UV光(1A)又は青色光(1B)に曝露したcol-4溶液のレオロジー試験データを示すグラフを提供する。図1Aは、G’及びG’’によって決定されるゲル化点を示す、col-4溶液(12mg/mL)のUVレオロジー試験の結果を提供する。図1Bは、G’及びG’’によって決定されるゲル化点を示す青色光(400~500nm)に曝露したときのcol-4溶液(12mg/mL)のレオロジー試験の結果を提供する。
図2】温度、速度、流量、及び先端直径などの最適化された印刷パラメータを使用して、col-4の印刷された格子の代表的な画像を提供する。
図3】カバースリップ上に平らなcol-4膜を生成するために使用されるプロセスの代表的な図を提供する。図3Cは、図3Bのスタンドとして使用されるカバースリップの代わりに紙とともに使用されるセットアップの例を提供し、高さを変化させる別の方法を示す。
図4】異なるタイプのcol-4足場の代表的な画像を提供する。図4Aは、細胞を培養し、角膜内皮シートを作製するために使用することができるガラスカバースリップ上に作製された薄膜(50μm)を示す。図4Bは、厚いゲル(5mm)を示す。
図5】肉眼的(上)及び顕微鏡的(下)の両方で見られるcol-1生体材料とcol-4生体材料と間の透明度の差を示す代表的な画像を提供する。
図6】曝露の1週間後の水晶体上皮細胞の形態に対するcol-1及びcol-4の厚い(1mm)ゲル及び薄い(50μm)膜の効果を示す代表的な画像を提供する。α-SMA(赤色)は、上皮細胞からの上皮から間葉(EMT)を経た細胞である、筋線維芽細胞に特徴的な細長いアクチンストレス繊維についてのマーカーである。これらの細長い筋線維芽細胞は、主にcol-1条件で存在するように見えるが、col-4条件は、より高い濃度(最小12mg/mL)及び厚さ(最小1mm)のcol-4条件で見られる細胞境界及び石畳形態のマーカーである、ベータ-カテニン(緑色)によって強調される上皮表現型を保持する。全ての画像は40倍の倍率で撮影した。
図7】対照画像に示されるように、標準的な培養方法(コーティングされたプラスチックウェル上)と比較して、col-4膜上で培養された角膜内皮細胞(不死化細胞株)の代表的な画像を提供する。拡大を1週間にわたってモニタリングし、示される画像は、0日目(D0)、播種後1日目、4日目(D4)及び6日目(D6)、観察の最終日の細胞を表す。col-4は、対照画像と比較した場合、細胞の拡大及び正常な形態を示した。全ての画像は10倍の倍率で撮影した。
図8】対照条件(B、D、F)及びcol-4膜(A、C、E)上で成長させた場合の両方において、3つの異なる細胞マーカー、ZO-1、Ki-67及びNaK-ATPase(α1)で染色した角膜内皮細胞の代表的な画像を提供する。核(青色)をHoeschtで染色する。全ての画像は20倍の倍率で撮影した。
図9】標準的な培養方法(col-1でコーティングされたウェル上)と比較して、col-4膜上で培養された一次内皮細胞の代表的な画像を提供する。0日目(D0)、3日目(D3)、及び6日目(D6)から示された代表的な画像で1週間にわたって画像を撮影した。全ての画像は10倍の倍率で撮影した。
図10】col-4/ラミニン膜をピンセットを使用して拾い上げ、移動させ得ることが容易であることによって示されるcol-4/ラミニン膜の機械的強度を示す代表的な画像を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者らは、構造化された形態で組織への適用を容易にし得る機械的及び構造的特性を有するIV型コラーゲンを使用して、印刷可能なコラーゲンバイオインクを開発した。本発明のバイオインクは、細胞、例えば、水晶体上皮細胞と適合することができ、かつ/又は角膜内皮細胞の成長及び/若しくは増殖を支持することができる。本発明の組成物を使用して、二次元又は三次元(押し出し)バイオプリント技術を使用して、コラーゲンゲルを組織(例えば、眼)に適用することができる。組成物は、生物学的標的(例えば、臓器、組織、細胞)に薬剤を送達する手段を提供することができる。角膜への適用に好適であるが、本明細書に記載の組成物は、例えば、構造支持体、生存細胞、及び他の因子を提供することによって、組織修復及び/又は再生、並びに薬剤の送達の分野における多数の用途のためのプラットフォームを提供する。
【0035】
当該技術分野では、置換組織及び/又は置換細胞を提供することによって、組織修復及び/又は再生を支援し得る有効なコラーゲン由来のバイオインクが必要とされている。本明細書に記載の組成物は、IV型コラーゲンに基づく 本発明の組成物は、多様な範囲の
成長因子及び他の薬剤を送達するための理想的な薬剤でもある。本明細書に記載の組成物は、インビボ組織を模倣し、細胞が定着するための足場として、かつ/又は条件の操作を通じて機能し、細胞自体が周囲のマトリックスを再生するように促す生体材料を利用し得る。眼組織への適用に対するそれらの適合性の文脈において、本発明者らは、例えば、透明性を維持し、依然として多孔質であり、角膜細胞及び成長因子の浸潤、移動及び/又は増殖を可能にするのに十分な生体適合性でありながら、治療中の組織(例えば、角膜)の構造的完全性を具現化することができるマトリックスを作製することの難しさに対処した。
【0036】
損傷した組織の栄養必要量を提供することと、損傷した組織(例えば、角膜などの眼組織)の構造的、機械的、及び物理的要件を満たすこととの間のバランスは、本発明が生じた時点で存在する問題であった。本発明は、様々な生物学的標的に薬剤を送達するための改善された組成物及び方法を提供する。任意の特定の用途に限定されることなく、組成物は、組織修復及び/又は再生に使用することができる。
【0037】
生体剤の送達のための組成物
本発明は、組織及び細胞などの生物学的標的に薬剤を送達するのに好適な組成物を提供する。組成物はまた、組織修復及び/又は再生にも使用され得る。
【0038】
組成物は、基礎足場材料を利用して、生物学的標的(例えば、組織、膜、細胞、臓器)への適用時に構造的支持を提供し、生物学的標的への薬剤の送達を容易にすることができる。
【0039】
足場は、コラーゲン足場であり得る。これらは、例えば、組成物中のIV型コラーゲンの使用を介して生成され得る。使用されるIV型コラーゲンは、その天然に存在する対応物と比較して、修飾されていなくてもよい。修飾されたIV型コラーゲンも使用されてもよい。いくつかの実施形態では、修飾は、コラーゲン繊維の端部にある。
【0040】
本発明の組成物は、任意選択で、イオン及び/又は1つ以上のイオン源を更に含み得る。好適なイオンの非限定的な例としては、カルシウムイオン及びナトリウムイオンが挙げられる。好適なイオン源の非限定的な例としては、カルシウム(例えば、塩化カルシウム)及びナトリウム(例えば、塩化ナトリウム)を含む化合物が挙げられる。カルシウムイオン及びナトリウムイオンは、本発明の組成物中に一緒に又は個々に存在し得る。
【0041】
本発明者らは、本発明の組成物のためのIV型コラーゲン、ナトリウムイオン及び/又はカルシウムイオンの最適な相対濃度を特定しており、それらのうちのいくつかは、本出願の実施例及び特許請求の範囲に記載されている。開示されるIV型コラーゲン、ナトリウムイオン及び/又はカルシウムイオンの相対濃度は、例示的なものに過ぎないことが理解されるであろう。
【0042】
組成物は、6~24mg/mlのIV型コラーゲン、0.04~0.15Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンを含み得る。組成物は、1~20mg/mlのIV型コラーゲン、0.07~0.5Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンを含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、1~20mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.25Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.1Mのカルシウムイオンを含み得る。組成物は、3~15mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.25Mのナトリウムイオン及び/又は0.008~0.4Mのカルシウムイオンを含み得る。組成物の成分についての他の可能な範囲には、3~15mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.1Mのナトリウムイオン、及び/又は0.01~0.05Mのカルシウムイオンが含まれる。いくつかの実施
形態では、組成物は、4~12mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.08Mのナトリウムイオン及び/又は0.015~0.03Mのカルシウムイオンを含み得る。代替的に、組成物は、5~10mg/mlのIV型コラーゲン、0.06~0.07Mのナトリウムイオン及び/又は0.018~0.02Mのカルシウムイオンを含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、15mg/ml未満のIV型コラーゲン並びに0.06Mより多いナトリウムイオン及び/又は0.018Mより多いカルシウムイオンを含み得る。
【0043】
本発明の組成物は、1つ以上の架橋剤を更に含み得る。好適な架橋剤の非限定的な一例は、リボフラビンである。リボフラビンは、0.01~0.5%(w/v)の濃度で存在し得る。リボフラビンは、約0.01~0.1mgの量で存在し得る。いくつかの実施形態では、存在するリボフラビンの量は、0.01、0.1mg、又はこれらの値の間の任意の量である。UV光又は青色光などの光を使用して、リボフラビンを活性化し、組成物を架橋することができる。当業者は、他の好適な架橋剤及び/又は光源、例えば、ローズベンガル染料及び緑色光を認識しており、これらの両方が角膜へのいくつかの適用のために承認されている。いくつかの実施形態では、ローズベンガルは、光架橋剤として使用され、緑色光によって活性化される。代替的に、ローズベンガルが光架橋剤として使用され、白色光によって活性化される。いくつかの実施形態では、0.01~0.5%(w/v)のローズベンガルが光架橋のために使用される。更なる実施形態では、コラーゲンバイオインクをローズベンガル及び好適な光源と架橋することによって提供される組成物が着色されるであろう。いくつかの実施形態では、色はピンクであろう。これらの着色された組成物は、組織内のコラーゲン代謝をモニタリングするため、又はコラーゲン活性の追跡を必要とする他の用途のために使用され得る。他の実施形態では、架橋剤は、フィブリノーゲン及び/又はトロンビンを含み得る。
【0044】
組成物は、細胞を更に含み得る。細胞は、例えば、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞、イヌ細胞、ネコ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ウマ細胞、ヤギ(caprine)細胞、ヤギ(hircine)細胞、マウス細胞、ウサギ細胞、ハムスター(cricetine)細胞、イタチ細胞、又はそれらの任意の組み合わせ)であってもよい。利用される細胞の種類は、概して、組成物が使用される特定の目的に依存するであろう。例えば、細胞は、組成物が投与される組織と同じ種類であってもよい(例えば、中心及び/若しくは末梢角膜上皮、眼球及び/若しくは眼瞼結膜上皮、眼瞼結膜間質、並びに/又は眼瞼縁のものを含む眼表面細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、メルケル細胞、及びランゲルハンス細胞を含むが、これらに限定されない皮膚細胞、並びにニューロン及びグリア細胞を含むが、これらに限定されない神経組織細胞)。他の例としては、上皮細胞、角膜実質細胞、神経細胞、光受容体細胞、ミュラー細胞、及び内皮細胞が挙げられる。内皮細胞は、原発性内皮細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、造血幹細胞、骨髄幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、皮膚幹細胞、筋肉幹細胞、脂肪幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、細胞は、神経細胞であり得る。好適な上皮細胞の非限定的な一例は、水晶体上皮細胞である。好適な内皮細胞の非限定的な例は、角膜内皮細胞である。組成物の細胞は、自己由来(すなわち、組成物を受け取ることを意図した所与の対象からの自己由来、又は同種異系(すなわち、ドナー由来)であり得る。
【0045】
本発明の組成物は、必須アミノ酸及び/又は非必須アミノ酸を含んでもよい。好適な必須アミノ酸の非限定的な例としては、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、システイン、チロシン、ヒスチジン、及びアルギニンが挙げられる。
【0046】
本発明の組成物は、フィブロネクチン、麻酔剤、抗生物質、ホルモン(例えば、インス
リン)、成長因子(例えば、ヒト上皮成長因子(hEGF)、血小板由来成長因子、血管内皮成長因子、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子、形質転換成長因子[ベータを含む]、及び結合組織成長因子)、フィブリン安定化因子(例えば、第XIII因子)、マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン[I型コラーゲンなど]、ラミニン、インテグリン)、ビタミン(例えば、ビタミンC、リボフラビン)、糖タンパク質(例えば、トランスフェリン)、ウシ(Bovine)胎仔血清(FBS)、ウシ(Calf)胎仔血清(FCS)、ヒト血清、血小板溶解物、ヒト血小板溶解物、治療薬、並びにそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない追加の成分(例えば、薬剤)を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、イオン及びアミノ酸を含む培養培地を含む。好適な増殖因子の非限定的な例としては、血管内皮増殖因子(VEGF)及び線維芽細胞増殖因子(FGF)が挙げられる。ビタミンは、アスコルビン酸塩(ビタミンC)及び/又はリボフラビンであり得る。マトリックスタンパク質は、I型コラーゲン、及び/又はラミニンを含み得るが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の組成物は、水及び/又は培養培地(例えば、DMEM、DMEM/F-12、MEM、CnT-PR)を含む他の好適な成分を含み得る。培養培地は、例えば、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン塩酸塩、L-アスパラギン-H2O、L-アスパラギン酸、L-システイン塩酸塩-H2O、L-シスチン2HCl、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-ヒスチジン塩酸塩-H2O、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシン塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、L-バリン、ビタミン、ビオチン、塩化コリン、D-カルシウムパントテン酸、葉酸、ナイアシンアミドピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩、ビタミンB12、i-イノシトール、無機塩、塩化カルシウム(CaCl2)(無水)、硫酸銅(CuSO4-5H2O)、硝酸鉄(Fe(NO3)3”9H2O)、硫酸鉄(FeSO4-7H2O)、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(MgSO4)(無水)、塩化カリウム(KCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、塩化ナトリウム(NaCl)、無水リン酸ナトリウム二塩基(Na2HPO4)、リン酸ナトリウム一塩基(NaH2PO4-、硫酸亜鉛(ZnSO4-7H2O)、他の成分、D-グルコース(デキストロース)、ヒポキサンチンNa、リノール酸、リポ酸、プトレシン2HCl、ピルビン酸ナトリウム、チミジン、又はそれらの任意の組み合わせのうちの任意の1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、イオンは、組成物中に含まれるイオン塩の成分として提供される。
【0048】
組成物の非限定的な特性には、以下のうちの1つ以上が含まれる。
-非ニュートンせん断薄化流体特性により、組成物の粘度は、せん断速度が増加するにつれて低下し得る。いくつかの実施形態では、組成物の粘度は、室温で0.01及び1000Pa.sの範囲内であり得る。
-光の透過率から生じる視覚を妨げることなく、又は実質的に妨げることなく、例えば、400~700nmの視覚的色範囲で90%を超える光学的透明度。
-印刷後に形状/構造を維持又は実質的に維持する能力を備えた2D及び/又は3D印刷(例えば、バイオ印刷/押し出し印刷)に対する適合性。
-印刷プロセス中に組成物内の細胞の生存率を維持しながら印刷することに対する適合性。
-生細胞を含むか否かにかかわらず、二次元又は三次元構造で提供される能力。
-細胞の成長を維持及び/又は促進する能力(例えば、上皮細胞(例えば、水晶体上皮細胞)、角膜実質細胞、神経細胞、及び内皮細胞(例えば、角膜内皮細胞)などの初代ヒト細胞の拡大成長を維持及び/又は促進する能力)。
-スフェロイドオルガノイドの形成を促進する能力。
-経時的な細胞による分解の能力(例えば、2~7日)。
-経時的な細胞生存率の維持(例えば、34℃で7日)。
-組織、臓器、膜(例えば、哺乳動物及びヒトの組織、臓器、膜)を含む、様々な表面に付着する能力。
【0049】
組成物の調製
一般に、本発明の組成物は、複数の異なる調製物を合わせることによって調製することができる。凍結乾燥されたウシIV型コラーゲンが、組成物の調製において使用され得る。追加的又は代替的に、ヒトコラーゲンが使用され得る。イオン及び組成物の他の成分を添加する前に、IV型コラーゲンは中和され得る。当業者は、様々な緩衝液を使用して、コラーゲンを生理学的pHに保ち、溶解性を維持することができることを認識するであろう。
【0050】
いくつかの実施形態では、本発明は、組成物の調製のためのデバイス及び/又はキットを提供する。デバイス及び/又はキットは、使用まで本発明の組成物を形成するために必要な異なる調製物の分離を容易にし得る。
【0051】
デバイス及びキットは、例えば、第1及び第2の区画を分離する障壁の除去、並びに/又は一方若しくは両方の区画の密封若しくは壁を穿刺することなどによって、2つの区画化された調製物の混合を容易にする手段を提供する成分を更に備え得る。当業者は、この目的のために様々な配置が行われ得ることを容易に理解するであろう。
【0052】
追加的又は代替的に、デバイス及びキットは、デバイス又はキットからの調製物の放出中又は放出後に、2つの区画化された調製物の混合を確実にするように構成され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、デバイス及びキットは、組成物の生成に使用される追加の成分(例えば、血小板溶解物、イオン、アミノ酸、細胞、抗生物質、成長因子、フィブリン安定化因子、麻酔剤など)を含む追加の区画を含み得る。デバイス又はキットは、これらの追加の成分を互いとの、及び/又は組成物の他の成分との混合を容易にするように構成され得る。
【0054】
デバイス及びキットは、デバイス又はキットから成分を放出する前、放出中、又は放出直後に、分離された成分の混合を容易にすることができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、組成物はバイオインクであり、デバイスは三次元(3D)プリンタ(例えば、押し出しプリンタ)である。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、架橋剤は、リボフラビンである。更なる実施形態では、リボフラビンは、UV光又は青色光によって活性化され得る。IV型コラーゲン並びにナトリウム及び/又はカルシウムイオンを含有し得る溶液は、一列に押し出され得、UV光又は青色光が適用され得る。追加の列が、架橋剤及び光の適用によって架橋される構造を形成するために、第1の列の上に適用され得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、架橋は、15分未満、14分未満、13分未満、12分未満、11分未満、10分未満、9分未満、8分未満、7分未満、6分未満、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、又は1分未満で生じる。使用される光源は、3mW/cmの365nm UV、10mW/cmの青色光、又は組織培養フードUVランプであり得る。
【0058】
架橋剤は、ローズベンガルであり得る。いくつかの実施形態では、ローズベンガルは、緑色光によって活性化される。更なる実施形態では、ローズベンガルは、白色光によって活性化される。なお更なる実施形態では、架橋は、15分未満、14分未満、13分未満
、12分未満、11分未満、10分未満、9分未満、8分未満、7分未満、6分未満、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、又は1分未満で生じる。使用される光源は、100mw/cmの白色光であり得る。当業者は、光源及びパラメータが特定の適用に従って変化することができることを認識するであろう。
【0059】
本発明のコラーゲンゲルは、適用に応じて様々な厚さを有してもよく、例えば、ゲルの厚さは50μm~3mmであってもよい。
【0060】
組成物の適用
本発明者らは、標的組織及び細胞への薬剤の送達、並びに組織の修復及び/又は再生のための組成物を、バイオ印刷に非常に好適な特性を有するように開発した。本発明の組成物は、薬剤(例えば、天然成長因子、薬物、ナノ粒子、及び/若しくは細胞)の送達を必要とする適用、並びに/又は個々の生物学的表面の固定のために、並びに/又は組織培養方法において使用され得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、組成物は、組織シーラント及び/又は生物学的構造のための固定剤として機能することができる。それらは、組織に構造的及び/又は栄養的支持を提供することができる。追加的又は代替的に、組成物は、標的組織中に存在する組成物及び/又は細胞の成分として提供され得るものを含む、標的細胞型の成長を促進することができる。組成物は、細胞の培養に有用であり得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、コラーゲンバイオインクをローズベンガル及び好適な光源と架橋させることによって提供される組成物は着色される。いくつかの実施形態では、コラーゲン組成物はピンクであってもよい。これらの着色された組成物は、組織内のコラーゲン代謝をモニタリングするため、又はコラーゲン活性の追跡を必要とする他の用途のために使用され得る。
【0063】
組成物が適用され得る組織の型に関して制限は存在しないが、本発明者らは、組成物が、細胞、例えば、水晶体上皮細胞と適合性があること、並びに/又は角膜内皮細胞の成長及び/若しくは増殖を支持し得ることを実証した。
【0064】
例えば、組成物は、本明細書において、角膜内皮細胞の成長及び/又は増殖を支持するのに有効であることが実証される。これらの実施形態では、組成物は、角膜内皮細胞の増殖及び/又は移動を促進するために使用され得る。組成物は、例えば、細胞単層が形成されると、組成物を部分的又は完全に生分解することができる、角膜上皮細胞の多方向成長及び/又は層化を支持し得る。
【0065】
したがって、本発明は、様々な薬剤を生物学的標的に送達するための方法を提供する。標的は、例えば、中心及び/若しくは末梢角膜上皮の組織、眼球及び/若しくは眼瞼結膜上皮、眼瞼結膜間質、デスメ膜並びに/又は眼瞼縁を含む、眼組織内又はその周辺に位置し得る。
【0066】
広範に説明されている本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に開示されている本発明に対して多数の変形及び/又は変更を行うことができることは、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点において例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【実施例
【0067】
ここで、本発明を、特定の実施例を参照して説明するが、これらは、いかなる形でも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0068】
実施例1:室温(RT)で架橋することができる可溶性IV型コラーゲン(col-4)溶液の調製及び特性付け
col-4粉末(6mg/mLの最低濃度)を0.1Mの酢酸中に溶解し、次いで5MのNaOH及び27.4mg/mLのCaClで中和して、6.7~7.4の最終pHにした。これらのステップを室温で実施した。溶液が中和されたら、最初に使用したcol-4の90μLごとに0.1~0.2mgのリボフラビンを添加し、col-4/リボフラビン溶液を更にボルテックスし、それぞれ30秒及び1分間遠心分離することによって溶解させた。6mg/mL~24mg/mLの範囲のcol-4濃度を試験した。
【0069】
I型コラーゲン(col-1)の使用と比較して、col-4の方法は、表1に示すように、必要な5MのNaOHのわずか半分以上を使用する。
【表1】
【0070】
カルシウムイオンの添加により、透明で中和されたcol-4溶液が生成された。得られた液体を、直ちに光架橋することができるか、又は少なくとも1週間後に使用するために-30℃で保存することができる。溶液は、少なくとも1時間後に使用するために室温に保つことができる。リボフラビンを含まない中和されたcol-4は、架橋特性の変化なしに少なくとも1週間後に使用するために30℃で保存することができる。6mg/mL~24mg/mLの範囲のcol-4溶液を試験した。光架橋及びすすぎ後の6~18mg/mLのcol-4溶液は、透明構造として残った。しかしながら、架橋及びすすぎ後の24mg/mLのcol-4溶液は、粉々に溶解し、その3D構造を保持することができなかった。
【0071】
光架橋及びレオロジー試験
レオロジー試験では、100μLのcol-4溶液をレオメーターの底板上に中心的にピペットした。平行板を使用して、液滴を凝結させ、拡散させて、底板領域を完全に覆った。レオメーターを3分間安定させた。液体をUVA又は青色光(400~500nm)のいずれかに3分間曝露した。ゲル化点は、G’>G’’のときに決定され、溶液が弾性よりも粘性になったことを示した。
【0072】
レオロジー試験は、最初のG’(粘性の測定値)がG’’(弾性の測定値)よりも低いことを実証し、溶液が最初はより液体/水様であったことを示した。365nm(UV波長)及び400~500nm(青色光)についてのフィルターを使用した。365nm(UV)下でのゲル化開始点は、溶液が光に曝露されてから10.24秒以内に生じ、完全な架橋時間は約3分であった(図1A)。400~500nm(青色光)下でのゲル化開始点がほぼ即座に生じたことは、曝露から1分後に完全な架橋が生じたため、青色光下での架橋時間がより速いことを示している(図1B)。完全な架橋時間は、図1A及び1B
の点線で示されている。使用したUV光及び青色光の両方は、3mW/cmの電力であった。結果は、青色光下での架橋時間がより速いことを示しているが、青色光下で達成された平均G’は442Paであり、810PaでのUV下で達成されたものよりも弱かった(図1)。
【0073】
印刷適性試験
col-4の印刷適性を評価するために、University of WollongongのTRICEP施設でEdu3Dプリンタを使用して孔径試験を行った。col-4溶液を、シリンジ先端を通して押し出し、青色光(405nmの波長)への曝露下で9×9mmの2層格子として印刷した。温度、インクの流量、及び印刷速度を含む複数のパラメータを調整して、バイオインクとしてcol-4を印刷するための最適な設定を決定した。印刷適性は、格子内に見える6つの孔の内部周囲(L)及び面積(A)を計算することによって決定した。次に、L及びAについての平均値を以下の式に入れた:Pr=L/16A。値が1に近いほど、バイオインクがより印刷可能であると決定された。
【0074】
温度、速度、流量及び先端直径を含む、異なるパラメータを、Edu3Dプリンタで試験した。最適なパラメータは、22℃(RT)の温度、0.8mm/分の流量(押し出されるバイオインクの量を示す)、150mm/分の印刷速度、及び直径0.26mmの25GAの先端を通る押し出しであると決定した。これらの条件下での印刷適性は、0.99であると決定された。この値は、構造がその形状を良好に保持することを示し、印刷可能であると指定することができる1に非常に近かった(図2A/B)。
【0075】
様々な厚さを有するcol-4足場の生成
架橋する能力は、様々な厚さを有するcol-4足場の生成を可能にした。様々な量の溶液を使用して、異なる形状/型を作製した。
【0076】
コラーゲンゲルの生成
5mm厚のゲルを生成するために、上記のようにcol-4溶液を作製した。1mLシリンジ(5mmの直径を有する)から先端を切断することによって型を作製した。シリンジ内のプランジャーも、平らになるように切断し、パラフィルムで覆った。改良されたシリンジを、blu-tackによって直立させて、UV又は青色光の下に直接立たせた。シリンジのプランジャーは、添加された溶液が5mm厚のゲルに架橋することを可能にするために、上部より5mm下に設定した。シリンジ内の空間を充填するために、90μLのcol-4溶液が必要であった。シリンジ内のcol-4溶液をUV/青色光に10分間曝露して、全体の厚さを通して架橋を確実にした。様々な直径のシリンジを用いたこの方法を使用して、異なる厚さ及び寸法のゲルを作製することができる。
【0077】
コラーゲン膜の生成
約50μm厚及び13mmの直径のcol-4膜を生成するために、25μLのcol-4溶液(図3A)を13mmの円形ガラスカバースリップ上にピペットした。ガラスカバースリップは、col-4溶液についての支持基部として機能した。col-4はまた、ワックスとポリオレフィンとの混合物であるポリスチレン又はパラフィルムなどのプラスチック上で架橋され得る。図3B/Cに示すように、ガラスカバースリップを支持基部として使用した場合、次にパラフィルム包装された透明ポリスチレンプレートを液滴の上に配置した。この溶液を拡散させて領域を満たし、UVA光(3mW/cmの電力、カバースリップ試料の3cm上)を使用して光架橋した。架橋後、col-4膜を、透明になるまでPBS中で2×15分間洗浄した。スタンドの高さ及び支持基部(例えば、ガラスカバースリップ又は紙)の面積を調整することによって、膜の厚さ及び直径を容易に調整することができる。
【0078】
上記の方法は、角膜内皮シート及び厚いゲルを作製するために培養実験に使用され得る薄い膜の作製を可能にした。上記のコラーゲンゲルを作製するための成形方法を使用して、厚いcol-4足場を生成することができ、例えば、5mm厚のcol-4の円筒形の足場を生成することができる(図4A)。膜を生成するための上記の方法を使用して、様々な膜厚を生成することができ、1つの例は、50μmの膜であった(図4B) 得られた膜構造を、基部支持材料、例えば、ガラスカバースリップに取り付けた(図4B)。これらの結果は、col-4光架橋性溶液を使用して、全ての形状及び形態の構造を生成できることを示した。
【0079】
col-4膜の透明性試験
University of WollongongのAIIM施設にあるColorQuest XEを透明性試験のために使用した。この機械は、黒いプレートを通して光透過率を測定することによって標準化した。col-4膜(約50μm厚)を、機械にロードした透明カバースリップに付着させ、総光透過率を測定した。
【0080】
3つの試料の平均光透過率は、90.4%であり、これは、自然な角膜光透過率と一致した。カバースリップから分離した1つの試料は、91.13%の光透過率を有することが見出され、カバースリップが材料の光透過率を著しく変化させなかったことを実証した。対照的に、同じように調製及び試験した3つのcol-1の試料は、86.2%の平均光透過率を有した。これらの透明度の違いは、col-1及びcol-4生体材料を比較するときに、肉眼的及び顕微鏡的にも見ることができる。(図5
【0081】
細胞適合性
水晶体細胞及び角膜内皮細胞の両方を使用して、col-4膜の上で細胞を培養することによって、col-4溶液の細胞適合性を評価した。
【0082】
col-4膜上の水晶体上皮細胞
出生後ラットから初代水晶体上皮(その天然膜に付着した、水晶体嚢)を外植片として採取することによって水晶体上皮細胞を得た。この手順では、眼を安楽死させたラットから除去し、視神経を介して後方に引き裂き、水晶体を除去した。水晶体の後側を決定し、水晶体嚢を引き裂き、水晶体赤道まで剥離した。水晶体上皮を含む水晶体嚢の前側は、より厚い組織片として可視化され、水晶体線維細胞塊として単離し、除去し、廃棄した。次いで、この水晶体上皮シートを、ピンセットを使用して縁に圧力を加えることによって(外植片を形成するために)皿に押さえつけ、M99培地(pH7.2に調整し、アムホテリシンB(250μg/mL)、ウシ血清アルブミン(1mg/mL)、Pen/Strep(10,000U/mLのペニシリン及び10,000μg/mLのストレプトマイシン)及びL-グルタミン(68.4mM)を補充した、アール塩、L-グルタミン及び重炭酸ナトリウムを含むM199濃縮物中で培養した。col-4の薄膜及び厚いゲルの両方を作製して、水晶体細胞に対するコラーゲン量の異なる効果を試験した。50μmの薄膜及び1mm厚のゲルを上記のように作製した。これらのコラーゲン膜/ゲルを外植片の上部にピン止めすることによって、水晶体上皮をcol-4に曝露し、したがって、上皮細胞をコラーゲンに直接曝露した。対照状態は、水晶体上皮外植片がいずれのコラーゲンにも曝露されなかった状態として定義した。
【0083】
col-1薄膜及び厚いゲルも生成し、対照群として使用した。水晶体上皮細胞を、上記のように、それらがcol-4に曝露されたのと同じ方法でcol-1に曝露させた。
【0084】
1週間の観察の後、コラーゲンを除去し、水晶体外植片を10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)(10分)で固定し、すすぎ(3×5分)、免疫染色まで70%のエタノール中に保存した。水晶体上皮外植片を、ベータ-カテニン(上皮細胞膜マーカー)及びα-
SMA(間葉細胞マーカー)で染色した。この免疫染色を、角膜内皮シート染色と比較して異なるように行った。外植片を室温でPBS/BSA中で3×5分間洗浄して水和させ、PBS/BSA/Tween-20中で透過させた(3×5分間)。外植片をPBS/BSA中で2×5分間すすいだ。過剰な緩衝液を除去して、外植片上に液体の薄膜を作製した。60μLの3%の正常ヤギ血清(NGS)を外植片に適用し、ブロックのために室温で30分間静置させた。3%のNGS中で希釈した一次抗体を外植片に適用した。外植片を加湿チャンバ内で4℃で一晩インキュベートした。外植片をPBS/BSA中で3×5分間すすいだ。二次抗体をPBS/BSA中で希釈し、外植片に添加した。外植片を、暗い加湿チャンバ内で2時間インキュベートした。外植片をPBS/BSA中で3×5分間すすいだ後、皿に1mLのHoechst(PBS/BSA中で希釈した)を5分間添加した。最終的な2×5分のPBS/BSA洗浄を行い、その後、10%のPBS/グリセロールを有するカバースリップで外植片を取り付けた。
【0085】
col-1と比較してcol-4に曝露したときの水晶体上皮細胞の生体適合性には、有意差があった。col-1に曝露された水晶体上皮細胞は、筋線維芽細胞に形質転換された。これらの筋線維芽細胞は細長い細胞であり、α-SMAで染色すると、間葉細胞(白内障に見られる病理学的細胞に特有である)のマーカーである明確なアクチンストレス線維を示した。対照的に、水晶体上皮細胞の完全性のマーカーである、ベータ-カテニンで染色したcol-4に曝露した細胞(水晶体嚢の通常の構成要素)は、上皮細胞境界の周りに強い膜染色を示した(図6)。この染色は、細胞がより高い濃度のcol-4;12mg/mL及び18mg/mLの条件に曝露された条件で特に顕著であった。Hoechstを使用して核をカウンターラベル付けした(青色、図6)この効果はまた、より多くの量のcol-4、すなわち、厚い(1mm)ゲルを適用した条件に曝露するとより大きくなった。
【0086】
結論として、12mg/mLのcol-4の最小濃度は、水晶体上皮細胞を維持するために必要であったが、この同じ濃度のcol-1は、水晶体上皮細胞を筋線維芽(白内障)細胞に形質転換させる。
【0087】
col-4膜上での角膜内皮細胞の培養
上述したコラーゲン膜を生成するための方法を使用して、透明な50μm厚のcol-4膜を生成した。不死化角膜内皮細胞株(B4G12)を、5%のFCS培地(Nutrient Mixture Ham’s F12と培地199との1:1の混合物、5%のFCS、20μg/mLのアスコルビン酸、10ng/mLのFGF-2並びに10,000U/mLのペニシリン及び10,000μg/mLのストレプトマイシン)及び5%のhPL培地(同じ成分であるが、5%のFCSが5%のhPLに置換された)中で、col-4膜上で(1×10細胞の細胞密度で)培養した。
【0088】
ドナー角膜縁から受け取った初代内皮細胞も、col-4膜上で培養した。残りのデスメ膜を角膜縁から解離し、片を500μLのコラゲナーゼA(2mg/mL)中に4時間配置して消化した。消化後、チューブを190gで、20℃で5分間遠心分離した。コラゲナーゼを取り除き、100μLのTrypLE(トリプシン溶液)と交換した。試料チューブを37℃の水浴中に10分間配置し、途中で撹拌した。400μLのM5(維持培地-ヒト内皮SFM、5%のFCS、及び1%のPen/Strep)培地を添加して、TrypLEを不活性化した。溶液を以前のように遠心分離した。細胞ペレットを乱すことなく上清を除去し、次いで75μLのM5培地を添加した。細胞を再懸濁し、col-4膜(以前は12ウェルプレートに配置された)上にピペットし、37℃で45分間付着させた。細胞付着後、500μLのM5培地をウェルに添加した。翌日、M5培地をM4培地(増殖培地-5%のFCS培地と同じ混合物)に置き換えた。
【0089】
比較では、標準的な方法を使用して、12ウェルプレートのプラスチックウェルをcol-1溶液(20mMの酢酸中で1:20に希釈したcol-1溶液)でコーティングすることを伴って細胞を培養した。消化後、細胞を次いで、これらのコーティングされたウェル上に、対照条件下で播種した。
【0090】
角膜内皮細胞(細胞株及び初代細胞の両方)が完全なコンフルエンスに達すると、細胞を角膜内皮細胞マーカー:ゾニューラオクルディン-1(ZO-1)及びNaK-ATPaseについて免疫染色した。角膜内皮細胞によって分泌される細胞外マトリックスタンパク質であるラミニン(β1)及び細胞増殖マーカーであるKi-67も染色して、細胞の活性を調べた。免疫染色は、最初にシートを4%のパラホルムアルデヒドに固定することによって行った。固定後、シートを染色するまで1×PBS中に保存した。染色するとき、0.5%のTriton X/PBSを最初に使用して、シートを室温で15分間インキュベートした。次いで、シートを、ブロックするために、室温で30分間、5%のBSA/PBS中でインキュベートした。一次抗体を適用し、一晩静置させて4℃でインキュベートした。一次抗体(1%のBSA/PBS中で希釈した)を除去し、シートを1×PBS中で3×5分間洗浄した。二次抗体(1%のBSA/PBS中で希釈した)及びHoechst(1:1000で希釈した)をシートに添加し、静置させて暗い加湿チャンバ内で室温で2時間インキュベートした。シートを1×PBS中で3×5分間洗浄し、カバースリップ上の20%のPBS/グリセロールを使用してマウントした。
【0091】
col-4膜上で培養した角膜内皮細胞株は、2282細胞/mmの平均密度で、コーティングされたプラスチックウェル表面上で標準的な方法で培養した細胞と比較して、3784細胞/mmの平均密度を達成した(図7)。col-4と対照との間の細胞密度の相違についての理由は、拡大するために細胞面積の相違を提供したことであった。対照条件では、1×10個の細胞が、13mmのcol-4膜と比較して有意に大きな面積を有する12ウェルプレートのウェル上で拡大した。また、col-4膜上の細胞は、角膜内皮細胞に特徴的な明確な六角形の形状を示す(図7)。
【0092】
免疫染色結果は、col-4上の細胞が、強力な内皮マーカーZO-1(密着結合の細胞境界マーカー)及びNa+K-ATPase(ナトリウム-カリウムポンプのマーカー)を発現したことを示した(図8)。Ki-67による強力な染色が検出され、これは細胞増殖を示した(図8)。
【0093】
初代内皮細胞はまた、図9に示すように、col-1でコーティングされたウェル(対照)上で細胞を成長させた標準的な培養方法と比較して、col-4膜上でも良好に増殖した。col-4上で成長させた細胞は、より多くの幹様特性を保持した対照群において、線維芽細胞様細胞と比較して、六角形の形態を有する内皮細胞の良好なパッチに拡大するように見えた。したがって、col-4膜は、限られた増殖能力を有する患者からの初代内皮細胞の成長を促進するようである。
【0094】
他の分子についての担体としてのcol-4溶液
col-4バイオインクは、他の分子の添加によって修飾することができる。ラミニン(別の細胞外マトリックスタンパク質)を例として使用した。添加されたラミニンは、マウス肉腫基底膜由来であり、また、角膜内皮細胞を成長させるために培養ウェルで使用されるコーティング溶液の成分としても使用される。10μLのラミニン(ストック:10μg/mL)を90μLのcol-4溶液(12mg/mL)に添加し、その結果、ラミニンの最終濃度が1μg/mLであるようにした。通常のコーティング溶液内では、ラミニンは、コンドロイチン硫酸の溶液内で約1μg/mLである。上記のように溶液を架橋した。リボフラビンの添加後、90μLのcol-4溶液を新しいエッペンドルフチューブに移した。事前に解凍した10μLのラミニン(最初は-20℃で保存した)をcol
-4溶液に添加した。新しい溶液を20秒間ボルテックスし、5秒間遠心分離した。コラーゲン-ラミニン膜は、上記の方法を使用して作製した。洗浄後に作製した透明膜を、使用するまで4℃で保存した。
【0095】
ラミニンの組み込みにより、col-4溶液は架橋可能なままであり、得られた膜は、ヒトの眼によって観察されるように、正常な透明度を保持した。同様の機械的強度は、col-4のみの膜と比較して、col-4/ラミニン膜についても観察された(図10)。この強度は、col-4のみの膜にも見られる特徴である、ピンセットによる膜の容易な取り扱いを通して観察可能であった。これは、開発されたcol-4インクが他の分子を担持する可能性を有し、依然として架橋可能なままであることを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】