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  • 特表-発酵製品製造用の乳酸菌組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】発酵製品製造用の乳酸菌組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240305BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551194
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2022054480
(87)【国際公開番号】W WO2022180071
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】21159643.2
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21185317.1
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】イェスパ ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ソニャ ブロク
(72)【発明者】
【氏名】キム イプ サアアンスン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB15
4B065BC02
4B065CA42
(57)【要約】
本発明は、1つ以上の新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を含む組成物、および、例えば甘みを強くした乳製品などの発酵製品を製造するための前記組成物の使用に関する。本発明は、新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株自体にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
a)配列番号2の57位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC;
b)配列番号4の47位に相当する位置にあるガラクトキナーゼ;
c)配列番号6または14の242位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
d)配列番号8の164位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
e)配列番号10の28位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサー;および
f)配列番号12の268位に相当する位置にあるグルコースキナーゼ
から成る群より選択されるコード化タンパク質中に変化を引き起こす変異を有する、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む組成物。
【請求項2】
前記コード化タンパク質中の変化が、以下:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;
(b)配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;
(c)配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(d)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;
(e)配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;および
(f)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換
である、請求項2に記載の組成物。
【請求項3】
前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株が、以下(a)DSM 33719またはその変異体もしくは変種;
(b)DSM 33720またはその変異体もしくは変種;または
(c)DSM 33762、またはその変異体または変種。
である、請求項1~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が
(a)DSM 33720、DSM 33719、およびDSM 33762;
(b)DSM 32227およびDSM 33762;または
(c)DSM 33719およびDSM 32227
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ラクトバチルス属に属する1つ以上の菌株をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
混合物または部品キットとして、以下:
(a)DSM 33720またはその変異体もしくは変種、DSM 33719またはその変異体もしくは変種、DSM 33762またはその変異体もしくは変種、またはそれらの任意組み合わせ;および
(b)ラクトバチルス属に属する菌株
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
発酵製品の製造方法であって、請求項1の(a)~(f)から成る群より選択されたコード化タンパク質中に変化を引き起こす変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を用いて、基質を発酵させることを含む方法。
【請求項8】
前記基質が乳基質である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7~8のいずれか一項に記載の方法により得られる発酵製品。
【請求項10】
請求項1の(a)~(f)からなる群より選択されたコード化タンパク質中に変化を引き起こす変異を有する、1種以上のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む発酵製品。
【請求項11】
発酵製品の製造のための、請求項1の(a)~(f)からなる群より選択されたコード化タンパク質中に変化を引き起こす変異を有する、1種以上のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株の使用。
【請求項12】
請求項1の(a)~(f)から成る群より選択されたコード化タンパク質中に変化を引き起こす変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株。
【請求項13】
前記コード化タンパク質中の変化が、
(а)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;
(b)配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;
(c)配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(d)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;
(e)配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;および
(f)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換
である、請求項12に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
【請求項14】
前記コード化タンパク質中の変化が、
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;および配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(b)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;および配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;または
(c)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換
である、請求項12~13のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
【請求項15】
前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、
(a)DSM 33719またはその変異体もしくは変種;
(b)DSM 33720またはその変異体もしくは変種;または
(c)DSM 33762またはその変異体または変種
である、請求項12~14のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、1つ以上の新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む組成物、および、例えば甘味が増した乳製品などの発酵製品を製造するための前記組成物の使用に関する。本発明はまた、新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株自体にも関する。
【背景技術】
【0002】
純粋な発酵乳製品は、発酵中に乳酸菌によって乳糖(ラクトース)が乳酸に変換される結果として、酸っぱさまたは酸味が知覚される。したがって、かような乳製品は、より甘い味を求める顧客の要望に応えるために、果物、蜂蜜、砂糖、または人工甘味料を添加して甘くすることが多々ある。
【0003】
食品業界では、ここ20年間にわたって広がった過体重と肥満の問題を克服するために、低カロリーでありながら甘味をもつ食品に対する需要がますます増加している。甘味は通常、満足感を与えると考えられ、糖やその他の物質の存在によって生み出される。糖の知覚力は大きく異なっている。ショ糖(スクロース)を100の基準として使用した場合、乳糖(ラクトース)の甘味は16、ガラクトースの甘味は32、ブドウ糖(グルコース)の甘味は74である〔Godshall (1988). Food Technology 42(ll): 71-78〕。従って、ブドウ糖(グルコース)は、ほぼ同じレベルのカロリーを持ちながら、乳糖よりも4倍以上甘く感じられる。
【0004】
発酵食品に含まれる砂糖は、より低いカロリー摂取量で甘味を提供できるアスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリンなどの甘味料にしばしば置き換えられている。しかしながら、人工甘味料の使用は好ましくない味を引き起こす可能性があり、いくつかの研究は人工甘味料の摂取が空腹感の増強、アレルギー、癌などの不利益と関連していることを示しており、消費者が天然甘味料のみを含んでいるか、できれば追加の甘味料を含まない発酵乳製品を好む一因となっている。したがって、自然の(本来の)甘味が増した発酵乳製品の開発には特別な課題がある。
【0005】
発酵乳製品の酸性度(酸度)は、存在する乳酸菌と発酵乳製品の製造に使用されるプロセスパラメータに大きく依存している。
【0006】
乳糖は乳中の主要な炭素源であるため、二糖である乳糖の発酵が乳酸菌で広く研究されている。多くの生物種では、乳糖は取り込まれた後、β-ガラクトシダーゼによってグルコースとガラクトースに分解される。グルコースは、グルコキナーゼによってグルコース-6-リン酸へとリン酸化され、エムデン・マイヤーホフ・パルナス経路(解糖)を介して、ほとんどの乳酸菌によって発酵される。
【0007】
ストレプトコッカス・サーモフィルス〔Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌(S. thermophilus)とも称される〕は、好熱性乳酸発酵に商業的に最も広く使用されている乳酸菌の1つであり、この微生物は通常、混合スターター培養物の一部として使用されており、混合スターター培養物の他の成分はラクトバチルス属(Lactobacillus sp.;乳酸桿菌)であり、ヨーグルトの場合はラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus(L. bulgaricus);ブルガリア菌)、スイスタイプのチーズの場合はラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus (L. helveticus);ヘルベチカス菌)である。
【0008】
多くの国におけるヨーグルトの法的定義では、ブルガリア菌(L. bulgaricus)と並んでサーモフィルス菌(S. thermophilus)が必要とされる。他の国では、アシドフィルス菌(L. acidophilus)とともにサーモフィルス菌(S. thermophilus)が必要である。それらのすべての種は、ヨーグルトの重要な風味成分であるアセトアルデヒドを望ましい量で産生する。
【0009】
乳糖とショ糖は、それらの構成要素の単糖よりも、サーモフィルス菌によって容易に発酵される。
【0010】
過剰なガラクトースの存在下では、サーモフィルス菌を使用すると、乳糖分子のグルコース部分のみが発酵され、発酵乳製品中にガラクトースが蓄積する。高い酸濃度が発酵を制限するヨーグルトでは遊離ガラクトースが残存するが、スイスチーズ製造の初期段階で生成された遊離ガラクトースは、後にヘルベチカス菌(L. helveticus)によってさらに発酵を受ける。
【0011】
しかしながら、サーモフィルス菌(S. thermophilus)のガラクトース発酵性菌株は、数人の研究者によって報告されており(Hutkins他(1986) J. Dairy Sci. 69(1): 1-8; Vaillancourt他 (2002) J. Bacteriol . 184(3): 785-793)、国際公開第2011/026863号公報(Chr. Hansen)には、ガラクトース発酵性であるS.サーモフィルス株を取得する方法が記載されている。その後、本出願人セーホーエル.ハンセン(Chr. Hansen)は、いくつかの刊行物において他のガラクトース発酵性菌株について発表している。
【0012】
食品業界の要件を満たすためには、グルコースの排出によって直接余分なカロリーを摂取せずに、発酵製品にさらに自然な甘味(本来の甘味)を提供する、新しい菌株、特にサーモフィルス菌(S. thermophilus)株を提案することが重要になってきている。ガラクトース菌株は、より遅い酸性化プロファイルをしばしば示すことが観察されており、従って、ガラクトースを発酵できる急速酸性化株か、またはガラクトース発酵性株と共にうまく機能する急速酸性化株を提供することが、業界の必須課題である。急速な酸性化は、発酵時間を短縮することができることから、プロセスの経済性および/または微生物種間の相互作用を向上させる可能性がある。テクスチャー改善特性はガラクトース発酵性株でも影響を受ける場合があるため、テクスチャー改善特性が高められたガラクトース発酵性株、またはガラクトース発酵株と共にうまく機能するテクスチャー改善特性が高められた菌株を開発することも望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の目的は、本発明によって達成され、特に、本発明は、サーモフィルス菌(S. thermophilus)株の1つ以上の新規ガラクトース発酵性株を含む組成物に向けられる。新規ガラクトース発酵性サーモフィルス菌株は、グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子中、ガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子中、ホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子中および/またはガラクトースをコードするgalR遺伝子中に1つ以上の突然変異を含む。これらの新規サーモフィルス菌株は、ガラクトースを発酵する能力に加えて、単独で適用した場合、そして/または他のサーモフィルス菌株および/またはラクトバチルス菌株と組み合わせて適用した場合に、発酵の間に急速な酸性化、低pHへの酸性化および/またはテクスチャー改善特性の向上を示す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、一態様では、本発明は、以下から成る群より選択される1つ以上の遺伝子中に変異を有する、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む組成物に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【0015】
本発明のさらなる態様は、以下から成る群より選択される1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子
または本発明にかかる組成物を用いて、基質を発酵させることを含む、発酵製品の製造方法に関する。
【0016】
したがって、本発明の一態様は、本発明の方法によって得られる発酵製品に関する。
【0017】
本発明のさらなる一態様は、発酵製品の製造のための、以下から成る群より選択される1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株の使用に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【0018】
重要なことに、本発明の一態様は、以下から成る群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、DSM 33762株およびDSM 33762の母株の、乳酸性化プロファイルを示す。
【0020】
図2図2は、DSM 33720株の乳酸性化プロファイルを示す。
【0021】
図3図3は、DSM 33719株の実験室適応進化の過程を示す。
【0022】
図4図4は、DSM 33719株およびDSM 33719の母株の、乳酸性化プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の概要をより詳細に説明する前に、一連の用語と取り決め(convention)を定義する。
【0024】
「属」という用語は、ウェブサイト:www.ncbi.nlm.nih.gov/taxonomyにて定義されている属を意味する。本明細書で使用される場合の細菌の「株」とは、増殖または繁殖させても遺伝的に変化しないままである細菌を指す。同一の細菌が多数重複して含まれる。
【0025】
本文脈において、「変異体(ミュータント)」または「変異株」という用語は、例えば遺伝子工学、放射線および/または化学的処置によって本発明の株(または母株)から誘導された株、または誘導することができる株、として理解されるべきである。変異体は、該変異体が誘導される元の菌株と機能的に等価の変異体、例えば、実質的に同じ特性または改善された特性(例えば、粘度、ゲル硬度、マウスコーティング性(後味の滑らかさ)、風味、後酸性化(post acidification)、酸性化速度、および/またはファージ堅牢性に関して)を有する変異体であることが好ましい。かかる変異体は本発明の一部である。特に、「変異体」という用語は、本発明の菌株に、エタンメタンスルホン酸(EMS)またはN-メチル-N′-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)などの化学変異原、UV光による処理を含む、従来使用されている任意の突然変異誘発処理を施すことによって得られた菌株、または自然突然変異体を指す。変異体は、数回の突然変異誘発処理(単回処理は、1回の突然変異誘発工程に続くスクリーニング/選択工程として理解すべきである)を受けていてもよいが、現在のところ、それは20回以下、または10回以下、または5回以下の処理(またはスクリーニング/選択工程)であることが好ましい。現在好ましい変異体では、細菌ゲノム中のオリゴヌクレオチドの5%未満、または1%未満、またはさらに0.1%未満が、母株と比較して別のヌクレオチドで置き換えられているか、または欠失している。当業者に明らかであるように、本発明の変異体は母株であることもできる。
【0026】
本文脈において、「変種(バリアント)」または「変種株」という用語は、本発明の菌株と機能的に同等である菌株、例えばテクスチャー、酸性化速度、粘度、ゲル硬度、マウスコーティング性(後味の滑らかさ)、風味、後酸性化、および/またはファージ堅牢性など、実質的に同じかまたは改善された特性もしくは特徴を有する菌株として理解されるべきである。そのような変種は、適切なスクリーニング技術を用いて同定することができ、かかる変異体は本発明の一部である。
【0027】
本発明の目的上、2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、ニードルマン・ビュンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman & Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定され、これは、できればバージョン3.0.0以降のEMBOSSパッケージ〔EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、分子生物学のユーザのために開発されたオープンソースの解析用ソフトウェアパッケージ;Rice他 (2000) Trends in Genetics 16: 276-277〕、のNeedleプログラムにおいて実装される。使用されるオプションのパラメータは、ギャップ・オープン・ペナルティ10、ギャップ拡張ペナルティ0.5、およびEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。「最長同一性」というラベルが表示されたNeedleの出力(-no Briefオプションを使用して取得される)が、同一性パーセントとして使用され、次のように計算される:
【0028】
(同一残基数×100)/(アライメントの長さ-アライメント内のギャップの総数)
【0029】
本明細書および特許請求の範囲では、アミノ酸残基について従来の一文字表記および三文字表記が使用される。参照を容易にするために、本発明の変異体および変種におけるアミノ酸変化は、以下の命名法を使用して記載される:親酵素中のアミノ酸残基;位置;置換されたアミノ酸残基という順序。この命名法によれば、例えば、30位のアラニン残基のグリシン残基への置換は、Ala20GlyまたはA20Gとして示される。同じ位置のアラニンの欠失は、Ala20*またはA20*として示される。追加のアミノ酸残基(例えばグリシン)の挿入は、Ala20AlaGlyまたはA20AGとして示される。連続したアミノ酸残基(例えば、20位のアラニンと21位のグリシンの間)の欠失は、Δ(Ala20-Gly21)またはΔ(A20-G21)として示される(Δ:DELTA)。親酵素配列が、かかる位置での挿入の番号付けに使用される酵素配列と比較して欠失を含む場合(例えば、欠失位置20のアラニン)は、*20Alaまたは*20Aとして示される。複数の突然変異はプラス記号またはスラッシュで区切られる。例えば、アラニンとグルタミン酸をそれぞれグリシンとセリンへと置換する20位と21位の2つの変異は、A20G+E21SまたはA20G/E21Sとして示される。特定の位置のアミノ酸残基が2つ以上の代替アミノ酸残基で置換される場合、これらの残基はカンマまたはスラッシュで区切られる。例えば、20位のアラニンがグリシンまたはグルタミン酸により置換された場合、A20G,EもしくはA20G/E、またはA20G,A20Eとして示される。いかなる特定の修飾も示唆することなく修飾に適した位置が本明細書で同定される場合、その位置に存在するアミノ酸残基を任意のアミノ酸残基により置換することができると理解されるべきである。したがって、例えば、20位のアラニンの修飾が言及されるけれども特定はされない場合、アラニンは欠失するか、または他のアミノ酸残基(すなわち、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、Vのいずれか1つ)に置換され得る。
【0030】
本発明の文脈において、遺伝子中の突然変異(遺伝子変異)は、生物の表現型の変化をもたらす、生物のゲノムのヌクレオチド配列中の変化として理解されるべきであり、その変更は、ヌクレオチドの欠失、別のヌクレオチドによるヌクレオチド置換、ヌクレオチドの挿入、またはフレームシフトでありうる。本発明の文脈において、欠失は、生物のゲノムのヌクレオチド配列の1つ以上のヌクレオチドの除去をもたらす遺伝子変異として理解されるべきである。挿入は、ヌクレオチド配列への1つ以上のヌクレオチドの付加として理解されるべきである。置換(または点変異)は、ヌクレオチド配列中の或るヌクレオチドが別のヌクレオチドによって置換される遺伝子変異として理解されるべきである。フレームシフトは、ヌクレオチド配列内の3で割り切れない数のヌクレオチドの挿入または欠失によって引き起こされる遺伝子変異として理解されるべきであり、その結果、解読枠が変化し、元の解読枠からの翻訳とは完全に異なる翻訳をもたらす。終止コドンの導入は、未熟な終止コドンをもたらす、DNA配列中の点変異として理解されるべきである。コード化タンパク質の基質への結合の阻害は、タンパク質の触媒部位への基質の結合の防止を担っているタンパク質配列の変化をもたらす、ヌクレオチド配列中の任意の変異として理解されるべきである。さらに、ノックアウト変異は、生物のゲノムからの全遺伝子もしくは全転写解読枠(ORF)などの遺伝子の除去または欠失をもたらす遺伝子変異として理解されるべきである。
【0031】
本明細書および特許請求の範囲では、ヌクレオチドの常用の一文字記号が、アミノ酸命名法について上記に記載したのと同様の原理に従って使用される。
【0032】
配列を整列(アラインメント)させ、それらの配列の間の配列同一性の程度を決定するためのアルゴリズムは、当技術分野でよく知られている。本発明の目的上、標準パラメータを適用して、https://blast.ncbi.nlm.nih.govにおいて米国国立生物工学情報センター(NCBI)によって提供されるようなblastnプログラムを使用してヌクレオチド配列をアライメントするためのプロセスを実行することができる。
【0033】
酸性化プロファイルは、実施例1に開示されているように測定される。
【0034】
せん断応力は、実施例4に開示されているように測定される。
【0035】
バチルス属の菌株に関して、「CFU」という用語は、嫌気条件下、37℃で3日間インキュベートしたときのMRS寒天プレート上での増殖(コロニーを形成する)によって決定されるコロニー形成単位を意味する。MRS寒天培地の組成は次の通りである(g/L):
バクトプロテオースペプトンNo.3:10.0
バクトビーフエキス:10.0
バクト酵母エキス:5.0
ブドウ糖:20.0
モノオレイン酸ソルビタン複合体:1.0
クエン酸アンモニウム:2.0
酢酸ナトリウム:5.0
硫酸マグネシウム:0.1
硫酸マンガン:0.05
リン酸水素二カリウム:2.0
バクト寒天:15.0
Milli-Q水:1000mL。
【0036】
pHを5.4または6.5に調整:L.ラムノサス(L. rhamnosus)、L.カゼイ(L. casei)およびL.パラカゼイ(L. paracasei)についてはpHを6.5に調整する。その他すべてのラクトバチルス菌種(乳酸桿菌)については、pHを5.4に調整する。特に、L.デルブルエッキー亜種ブルガリカス(L. delbrueckii subsp. bulgaricus;ブルガリア菌)、L.アシドフィルス(L. acidophilus;アシドフィルス菌)、およびL.ヘルベティカス(L. helveticus;ヘルベチカス菌)については、pHを5.4に調整する。L.ラムノサス、L.カゼイおよびL.パラカゼイについては、pHを6.5に調整する。
【0037】
サーモフィルス菌に関して、「CFU」という用語は、好気条件下で、37℃で3日間インキュベートしたときのM17寒天プレート上での増殖(コロニーを形成する)によって決定されるコロニー形成単位を意味する。M17寒天培地の組成は次のとおりである(g/L):
トリプトン:2.5g
肉のペプシン消化物:2.5g
大豆ミールのパパイン消化物:5.0g
酵母エキス:2.5g
肉エキス:5.0g
乳糖:5.0g
グリセロリン酸ナトリウム:19.0g
硫酸マグネシウム・7HO:0.25g
アスコルビン酸:0.5g
寒天:15.0g
Milli-Q水:1000mL。
pHは最終pH7.1±0.2(25℃)に調整。
【0038】
本明細書で使用する場合の「変異がグルコキナーゼタンパク質を不活化する」という用語は、「不活化グルコキナーゼタンパク質」をもたらす変異、すなわち、細胞内に存在すると、その正常な機能を発揮できないグルコキナーゼタンパク質をもたらす変異、並びに該グルコキナーゼタンパク質の形成を妨げるかまたは該グルコキナーゼタンパク質の分解を引き起こす変異を指す。特に、不活化グルコキナーゼタンパク質は、機能的グルコキナーゼタンパク質と比較して、グルコースからグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進することができないか、または著しく低下した速度でグルコースからグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進するタンパク質である。機能的グルコキナーゼタンパク質をコードする遺伝子と比較して、そのような不活化グルコキナーゼタンパク質をコードする遺伝子は、遺伝子の転写解読枠(ORF)中に変異を含み、前記変異には、限定されるものではないが、欠失、フレームシフト変異、終止コドンの導入、またはアミノ酸置換を引き起こしてタンパク質の機能的性質を変化させる変異、または遺伝子の転写もしくは翻訳を減少または廃止するプロモーター変異が含まれる。
【0039】
本明細書で使用される「機能的グルコキナーゼタンパク質」という用語は、細胞内に存在すると、グルコースのグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進するグルコキナーゼタンパク質を指す。
【0040】
本明細書で使用する「変異菌」または「変異株」は、野生型DNAには存在しない、そのゲノム(DNA)中に1つ以上の変異を含む天然(自然発生的、天然に存在する)変異菌または誘発変異菌を指す。「誘発変異体」とは、化学的変異誘発剤、紫外線またはガンマ線などでの処置のような人為的処置によって突然変異が誘発された細菌のことを指す。対照的に、「自然発生的変異体」または「天然に存在する変異体」は、人為的に変異誘発されていない。本明細書において、変異菌は、非GMO(非遺伝子組換え生物)、すなわち、組換えDNA技術によって改変されていない。
【0041】
本明細書で使用する「細胞へのグルコースの輸送を減少させる変異」という用語は、細胞の環境においてグルコースの蓄積をもたらす、グルコースの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子中の突然変異を指す。サーモフィルス菌株の培地中のグルコースレベルは、当業者に知られている方法によって容易に測定することができる。
【0042】
本明細書で使用する「グルコーストランスポーター(糖輸送体)を不活化する変異」という用語は、「不活化グルコーストランスポーター」をもたらす変異、すなわち、細胞内に存在すると、その通常の機能を発揮することができないグルコーストランスポータータンパク質をもたらす変異、並びにグルコーストランスポータータンパク質の形成を妨げるか、またはグルコーストランスポータータンパク質の分解を引き起こす変異を指す。
【0043】
本明細書で使用する「機能的グルコーストランスポータータンパク質」という用語は、細胞内に存在すると、細胞膜を通るグルコースの輸送を促進するグルコーストランスポーター(糖輸送体)タンパク質を指す。「グルコース欠損」という用語は、本発明の文脈において、細胞増殖または細胞生存力の維持のための(エネルギー)供給源としてグルコースを消費する能力を部分的にまたは完全に失っている乳酸菌(LAB)を特徴付けるために使用される。グルコース代謝の各々の欠損は、例えば、グルコース取込みに関与するグルコキナーゼタンパク質および/またはグルコーストランスポータータンパク質の発現もしくは活性を阻害するまたは不活性化する遺伝子中の変異によって引き起こされ得る。
【0044】
グルコース代謝に欠陥のあるLABは、炭水化物源として乳糖を利用して増殖するときに、培地中のグルコース濃度を上昇させうる。グルコースの増加は、グルコース欠損LABのグルコース分泌によって引き起こされる。培地中のグルコース濃度の増加は、例えばDionexTM(商標)CarboPacTM(商標)PA20の3×150mmカラム(Thermo Fisher Scientific社製、製品番号060142)を使用したHPLC分析によって測定することができる。
【0045】
「グルコース陽性」という用語は、本発明の文脈において、細胞増殖または細胞生存力の維持のための供給源としてグルコースを使用する能力を部分的にもしくは完全に維持しているLABを特徴付けるために使用される。
【0046】
本発明者らは、驚くべきことに、産業界のニーズを満たすいくつかのサーモフィルス菌株を同定した。1または複数の新規ガラクトース発酵性株は、乳基質中の混合(スターター)培養物の一部として適用した場合に、例えば改善されたレオロジー特性(例えばテクスチャー)を示す。同様に、1または複数の新規ガラクトース発酵性株は、単独でまたは乳基質中の混合培養物の一部として適用した場合に、例えば改善された酸性化特性(例えば酸性化速度)を示す(実施例1~2)。また、1または複数の新規ガラクトース発酵性菌株は、その母株と比較して、発酵培地をより低いpHにまで酸性化することができ、これは例えば実施例2において見ることができる。
【0047】
新規サーモフィルス菌株は、例えばヨーグルトの(スターター)培養物などの乳製品(スターター)培養物に使用して、最終製品の甘みの向上およびせん断応力などのレオロジーパラメータを改善する能力を有する。レオロジーは、製品の官能的品質と密接に関係があり、従って最終製品におけるレオロジーと味覚との相互作用が最も重要なものとなる。また、新規サーモフィルス菌株は、酸性化プロファイルが改善されているため、発酵時間を短縮することが可能である。
【0048】
組成物
従って、本発明の一態様は、以下から成る群より選択される1または複数の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む組成物に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【0049】
一実施形態では、前記変異が、以下から成る群より選択されるコード化タンパク質の変化を引き起こす:
a)配列番号2の57位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC;
b)配列番号4の47位に相当する位置にあるガラクトキナーゼ;
c)配列番号6または14の242位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
d)配列番号8の164位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
e)配列番号10の28位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサー;および
f)配列番号12の268位に相当する位置にあるグルコースキナーゼ。
【0050】
さらなる実施形態では、変異は以下のとおりである:
(a)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(b)配列番号3の139位に相当する位置におけるGからAへの置換;
(c)配列番号5または13の726位に相当する位置におけるAからCへの置換;
(d)配列番号7の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(e)配列番号9の82位に相当する位置におけるCからTへの置換;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
【0051】
さらなる一実施形態では、コード化タンパク質の変化は次のとおりである:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;
(b)配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;
(c)配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(d)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;
(e)配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;および
(f)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
【0052】
特定の実施形態では、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株は、以下の変異を含む:
(a)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;配列番号3の139位に相当する位置におけるヌクレオチドGからAへの置換;および配列番号5または13の726位に相当する位置におけるヌクレオチドAからCへの置換;
(b)配列番号5または13の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;および配列番号7の82位に相当する位置におけるヌクレオチドCからTへの置換;または
(c)配列番号9の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
【0053】
アミノ酸プロファイルの観点から、当該ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株は、コード化されるタンパク質中に以下の変化を含むと考えられる:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;配列番号4の47位におけるIleからValへの置換;配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(b)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;または
(c)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
【0054】
特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は以下である:
(a)DSM 33719またはその変異体もしくは変種;
(b)DSM 33720またはその変異体もしくは変種;または
(c)DSM 33762またはその変異体もしくは変種。
【0055】
上記(a)~(f)に開示されるサーモフィルス菌株および変異の更なる詳細については、下記、すなわち「新規ストレプトコッカス・サーモフィルス変異体」と称する部に見ることができる。
【0056】
本発明の組成物は、いくつかの形態で提供され得る。それは粉末、ペレットまたは錠剤であることができる。該組成物は凍結形態、乾燥形態、凍結乾燥形態、または液体形態であることができる。従って、一実施形態では、該組成物は、凍結、乾燥、凍結乾燥、または液体の形態である。
【0057】
本発明の組成物は、凍結保護剤、凍結防止剤、抗酸化剤、栄養素、増量剤、香料、またはそれらの混合物をさらに含んでもよい。該組成物は、好ましくは、凍結保護剤、凍結防止剤、抗酸化剤および/または栄養素のうちの1つまたは複数、より好ましくは凍結保護剤、凍結防止剤および/または抗酸化剤、最も好ましくは凍結保護剤または凍結防止剤、またはその両方を含む。凍結保護剤および任意の凍結防止剤などの保護剤の使用は、当業者に知られている。適切な凍結保護剤または凍結防止剤には、単糖、二糖、三糖、および多糖類〔グルコース、マンノース、キシロース、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリン、デンプンおよびアラビアゴム(アカシア)など〕、ポリオール類(エリスリトール、グリセロール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、スレイトール、キシリトールなど)、アミノ酸(プロリン、グルタミン酸など)、複合物質(スキムミルク、ペプトン、ゼラチン、酵母エキスなど)、および無機化合物(例えばトリポリリン酸ナトリウム)が含まれる。
【0058】
一実施形態では、本発明にかかる組成物は、イノシン-5′-一リン酸(IMP)、アデノシン-5′-一リン酸(AMP)、グアノシン-5′-一リン酸(GMP)、ウラノシン-5′-一リン酸(UMP)、シチジン-5′-一リン酸(CMP)、アデニン、グアニン、ウラシル、シトシン、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、キサンチン、ヒポキサンチン、オロチジン、チミジン、イノシン、および任意のかかる化合物の誘導体から選択された1または複数の凍結保護剤を含んで成ることができる。適切な抗酸化剤としては、アスコルビン酸、クエン酸およびその塩、ガレート、システイン、ソルビトール、マンニトール、マルトースが挙げられる。適切な栄養素としては、糖、アミノ酸、脂肪酸、ミネラル、微量元素、ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンCなど)が挙げられる。当該組成物は、必要に応じて、増量剤(ラクトース、マルトデキストリンなど)および/または着香料をはじめとして追加の物質を含んでもよい。
【0059】
本発明の一実施形態では、凍結保護剤は、その凍結保護性に加えてブースター効果を有する剤または同剤の混合物である。
【0060】
「ブースター効果」という表現は、凍結保護剤が発酵または変換を行う予定の培地に接種されたときに、解凍または再構成された(スターター)培養物に、該凍結保護剤が、高められた代謝活性(ブースター効果)を付与する状況を記述するために使用される。生存能力と代謝活性とは同義の概念ではない。市販の凍結または凍結乾燥された培養物は、代謝活性のかなりの部分を失っている可能性があるけれども、自身の生存能力を保持することができる。例えば、培養物は、たとえ短期間の間であっても貯蔵保管された場合、それらの酸生成(酸性化)活性を失う可能性がある。したがって、生存能力とブースター効果は、異なるアッセイによって評価する必要がある。生存能力は、コロニー形成単位の測定などの生存能力アッセイによって評価される一方、ブースター効果は、培養物の生存能力に対する解凍または再構成された培養物の関連代謝活性を定量化することによって評価される。「代謝活性」という用語は、培養物の脱酸素活性、その酸生成活性、すなわち例えば乳酸、酢酸、ギ酸および/またはプロピオン酸の生成、またはその代謝産物の生成活性、例えばアセトアルデヒド、(α-アセトラクテート、アセトイン、ジアセチルおよび2,3-ブチレングリコール(ブタンジオール))などの芳香化合物の生成活性を指す。
【0061】
一実施形態において、本発明の組成物は、原材料の重量%(w/w)として測定される、0.2%~20%の凍結保護剤または同剤の混合物を含有するかまたは含んで成る。しかしながら、重量%で0.2%から15%、0.2%から10%、0.5%から7%、および1%から6%の範囲の量、例えば凍結した原材料の重量%(w/w)として測定される凍結保護剤または同剤の混合物を2重量%~5重量%の範囲内で含む量で、凍結保護剤または同剤の混合物を添加することが好ましい。好ましい実施形態では、培養物は、原材料の重量%(w/w)として測定される凍結保護剤または同剤の混合物を約3重量%含有する。凍結保護剤の約3%の量は、100mM範囲の濃度に相当する。本発明の実施形態の各態様について、範囲は、記載された範囲の増分であり得ることを認識すべきである。
【0062】
本文脈上、「x%からy%」という用語は、端点を包含することを意味し、よって「xを含むx%からyを含むy%まで」という意味に等しい。
【0063】
さらなる態様では、本発明の組成物は、細菌細胞、例えばサーモフィルス菌の種に属する細胞、例えば(実質的な)ウレアーゼ陰性菌細胞のためのブースター(例えば、成長ブースターまたは酸性化ブースター)としてのアンモニウム塩〔例えば有機酸のアンモニウム塩(例えばギ酸アンモニウムおよびクエン酸アンモニウム)〕を含有するまたは含んで成る。「アンモニウム塩」、「ギ酸アンモニウム」などの用語は、塩の供給源またはイオンの組み合わせとして理解されるべきである。例えば「ギ酸アンモニウム」または「アンモニウム塩」の「供給源(または単に源ともいう)」という用語は、細胞の培養物に添加すると、ギ酸アンモニウムまたはアンモニウム塩を供給する化合物または化合物の混合物を指す。いくつかの実施形態では、アンモニウム源は、アンモニウムを増殖培地に放出するが、他の実施形態では、アンモニウム源は代謝されてアンモニウムを生成する。いくつかの好ましい実施形態では、アンモニウム源は外因性である。いくつかの特に好ましい実施形態では、アンモニウムは乳基質によって供給されない。もちろん、アンモニウム塩の代わりにアンモニアを加えてもよいことは理解すべきである。従って、アンモニウム塩という用語は、アンモニア(NH)、NHOH、NH などを含む。
【0064】
一実施形態では、本発明の組成物は、増粘剤および/または安定剤、例えばペクチン(例えばHMペクチン、LMペクチン)、ゼラチン、CMC、大豆繊維/大豆ポリマー、デンプン、加工デンプン、カラギーナン、アルギン酸塩、およびグアーガムを含んでもよい。
【0065】
微生物が多糖(EPSなど)を産生し、これが酸性化乳(いわゆる酸乳)製品に濃厚な/粘り気のあるテクスチャーを生じさせるような一実施形態では、酸性化乳製品は、増粘剤および/または安定剤、例えばペクチン(HMペクチン、LMペクチンなど)、ゼラチン、CMC、大豆繊維/大豆ポリマー、デンプン、加工デンプン、カラギーナン、アルギン酸塩、グアーガムなどの添加を実質的に含まずに、または完全に含まずに製造される。実質的に不含有とは、製品が0重量%~20重量%(w/w)(例えば、0%~10%、0%~5%、または0%~2%、または0%~1%)の増粘剤および/または安定剤を含んでいると理解すべきである。
【0066】
以前に開示されたように、微生物種間の相互作用が重要である。増殖の観点からのみならず、レオロジー特性(例えばテクスチャー)および味覚発生の観点も等しく重要である。
【0067】
1つの重要な実施形態では、組成物は、DSM 33719、DSM 33719変異体、DSM 33719変種、DSM 33720、DSM 33720変異体、DSM 33720変種、DSM 33762、DSM 33762変異体、DSM 33762変種を含んで成る群より選択された、1種以上のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む。
【0068】
好ましい実施形態では、組成物は
(a)DSM 33720、DSM 33719およびDSM 33762;
(b)DSM 32227およびDMS 33762;または
(c)DSM 33719およびDSM 32227
を含む。
【0069】
実施例4と5から理解できるように、それらの菌株の組み合わせを、発酵製品におけるテクスチャーと酸性化プロファイルについて試験した。
【0070】
組成物は、以下を含む混合物または部品キットとして提供することができる:
(a)DSM33720またはその変異体もしくは変種、DSM33719またはその変異体もしくは変種、DSM33762またはその変異体もしくは変種、またはその任意組み合わせから成る群より選択されたサーモフィルス菌株;および
(b)ラクトバチルス属に属する菌株。
【0071】
該組成物は、以下を含む混合物であってもよいし部品キット(kit-of-parts)としてであってもよい:(a)以下の遺伝子変異:(i)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換および配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換、および/または(ii)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換および配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換、および/または(iii)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換を含むサーモフィルス菌株と、(b)ラクトバチルス属に属する1つ以上の菌株。
【0072】
一実施形態では、上記(i)がDSM 33762またはその変異体もしくは変種であり、上記(ii)がDSM 33720またはその変異体もしくは変種であり、そして/または上記(iii)がDSM 33719またはその変異体もしくは変種である。
【0073】
例えばヨーグルトの製造に用いる場合、該組成物は好ましくはラクトバチルス属(乳酸桿菌)に属する1つ以上の株を含む。ラクトバチルス属の1つ以上の菌株は、ラクトバチルス・デルブルエッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus;ブルガリア菌)、ラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ラクチス(Lactobacillus delbrueckii subsp lactis;乳酸菌)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus;アシドフィルス菌)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei;カゼイ菌)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ亜種パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei subsp. Paracasei;パラカゼイ菌)、およびラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)、ラクチプランティバチルス・プランタルム亜種プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum subsp. Plantarum)およびラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus;ヘルベチカス菌)から成る群より選択されうる。
【0074】
本発明の好ましい実施形態では、ラクトバチルス菌株はラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus;ブルガリア菌)、ラクチプランティバチルス・プランタルム亜種プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum subsp. Plantarum)およびラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus;アシドフィルス菌)から成る群より選択される。
【0075】
特定の実施形態では、本発明のラクトバチルス菌株は、ブルガリア菌(L. bulgaricus)である。ブルガリア菌は、その生物体が混合スターター培養物の一部として一般に用いられている、市販の乳発酵用に汎用される乳酸菌である。
【0076】
特定の実施形態では、ラクトバチルス・デルブリュエッキィ亜種ブルガリカス菌がDMS28910またはその変異体もしくは変種である。
【0077】
本発明の一実施形態では、本発明のラクトバチルス菌株はグルコース欠損株である。本発明の別の実施形態では、本発明のラクトバチルス菌株はグルコース陽性である。
【0078】
よって、好ましい実施形態では、本発明の組成物および/または混合物もしくは部品キットは、サーモフィルス菌株DSM 32227および/またはDSM 33762と、ラクトバチルス種に属する菌株とを含む。よって、好ましい実施形態では、該組成物および/または混合物もしくは部品キットは、サーモフィルス菌株DSM 33719および/またはDSM 32227と、ラクトバチルス種に属する菌株とを含む。好ましい実施形態では、該組成物および/または混合物もしくは部品キットは、サーモフィルス菌株DSM 33720とラクトバチルス種に属する菌株とを含む。
【0079】
本発明の組成物は、プロバイオティクス菌を含んでもよい。プロバイオティクス菌株は、発酵の前後に添加することができる。発酵前に添加する場合、プロバイオティクス菌株は、発酵性細菌として働くこともできる。
【0080】
「プロバイオティクス菌」という用語は、消費者の健康増進効果を達成する目的で消費者に適切な量で投与される生存細菌(生菌)を指す。プロバイオティクス菌は、摂取後に胃腸管の環境を生きぬくことができ、消費者の腸でコロニーを形成する能力をもつ。
【0081】
ラクトバチルス属(Lactobacillus)の分類法が2020年に改正されたことは理解されよう。新しい分類法は、Zheng他(2020)中に開示されており、別段何も指摘しない限り、本明細書にまとめられる。本発明の目的上、下表は、本発明に関連する一部のラクトバチルス種の新旧の名称の一覧を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
本発明の特定の実施形態では、本発明にかかるプロバイオティクス菌株は、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus;アシドフィルス菌)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei;パラカゼイ菌)、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei;カゼイ菌)、ラクトバチルス・デルブルエッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)、ラクチプランティバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)、リモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reuteri;ロイテリ菌)およびラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)などのラクトバチルス属の細菌、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレビ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)、ビフィドバクテリウム・デンチウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アンギュラタム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・マグナム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)およびビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)などのビフィドバクテリウム属の細菌から成る群より選択される。
【0084】
本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクスのラクトバチルス属株は、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus;アシドフィルス菌)、ラクチカセイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei;パラカゼイ菌)、ラクチカセイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei;カゼイ菌)、ラクトバチルス・デルブルエッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)、ラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)、リモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reuteri;ロイテリ菌)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)から成る群より選択される。
【0085】
本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、DSM 13241として寄託されたラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)(LA-5(登録商標))である。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌のラクトバチルス菌株は、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株とラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lactibacillus paracasei;パラカゼイ菌)株である。本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、ATCC 53103として寄託されたラクチカゼイバチルス・ラムノサスLGG(登録商標)株である。本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、ATCC 55544として寄託されたラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(lacticaseibacillus paracasei)CRL431株である。本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌のビフィドバクテリウム株は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)、ビフィドバクテリウム・デンチウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(Bifodobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アンギュラタム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・マグナム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)から成る群より選択される。本発明の特定の実施形態では、プロバイオティクス菌のビフィドバクテリウム・プロバイオチクス(Bifidobacterium probioticus)株は、DSM 15954として寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)BB-12(登録商標)株である。
【0087】
上記の混合物または部品キットは、プロバイオティクス菌などであるがこれに限定されない他の乳酸菌とさらに組み合わせることができる。一実施形態では、少なくとも1つの乳酸菌は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)(例:BB-12(登録商標))、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)(例:LA-5(登録商標))、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)(例:LGG(登録商標))およびそれらの任意組み合わせなどのビフィドバクテリウム属から成る群より選択される。どのビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)および/またはラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)を適用するかは、その用途と生産すべき食品に依存する。
【0088】
対照的に、1つ以上の菌株を含む「部品キット」という表現は、それらの菌株または菌株の培養物が物理的に離れているが、一緒に使用されることが意図されていることを意味する。よって、サーモフィルス菌株とラクトバチルス菌株の各菌株または培養物は、別個の箱または小袋に入っている。一実施形態では、サーモフィルス菌株と、ラクトバチルス・デルブリュエッキー亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus;ブルガリア菌)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophillus;アシドフィルス菌)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei;カゼイ菌)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei;パラカゼイ菌)および/またはリモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reutei;ロイテリ菌)株のようなラクトバチルス菌株とから成る菌株および菌株の培養物は、同一の形態の下にあり、すなわち、凍結形態、ペレットもしくは凍結ペレットの形態、粉末形態、例えば乾燥または凍結乾燥形態である。
【0089】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、10~1012 CFU(コロニー形成単位)/gのサーモフィルス菌株、例えば10~1011 CFU/g、例えば10~1010 CFU/g、または10~10 CFU/gのサーモフィルス菌株を含む。
【0090】
特定の実施形態では、該組成物は、10~1012 CFU/gのラクトバチルス菌、10~1011 CFU/g、例えば10~1010 CFU/g、または例えば10~10 CFU/gのラクトバチルス菌株をさらに含む。
【0091】
特定の実施形態では、該組成物は、10~1012 CFU/g、10~1011 CFU/g、10~1010 CFU/g、または10~10 CFU/gのブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus)、アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophillus)、カゼイ菌(Lacticaseibacillus casei)、パラカゼイ菌(Lacticaseibacillus paracasei)および/またはロイテリ菌(Limosilactobacillus reutei)の各株を含む。
【0092】
サーモフィルス菌、ブルガリア菌、アシドフィルス菌、カゼイ菌、パラカゼイ菌および/またはラムノサス菌のようなラクトバチルス菌およびラクチカゼイバチルス菌、並びに他の乳酸菌は、発酵乳製品等のための乳業など、様々な食品の生産において、技術的な目的を果たすスターター培養物として汎用されている。従って、別の好ましい実施形態では、該組成物はスターター培養物として適している。
【0093】
該組成物は、ヨーグルトスターター培養物などのスターター培養物(または簡潔にスターターとも称する)であってもよい。
【0094】
該組成物および/またはスターター培養物は、凍結、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、空気乾燥(風乾)、トレイ乾燥、または液体形態であり得る。典型的には、組成物および/またはスターター培養物の貯蔵安定性は、低水分活性を有する製品を配合することによって延長することができる。水分活性(Aw)を制御することにより、製品に対する水分移動の影響を予測して調整することが可能である。従って、本明細書の乾燥組成物の水分活性(Aw)は、0.01~0.8の範囲、好ましくは0.05~0.4の範囲内であることが好ましいだろう。
【0095】
「発酵製品の製造方法」および「新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株」と称する部に開示された態様および実施形態は、本明細書の当部分に等しく関連することは理解されるだろう。特に、「新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株」と称する部のもとでの本発明の特定の菌株に関する開示は、本明細書の当部分に適用可能であることは当業者に明白であるだろう。
【0096】
発酵製品の製造方法
「乳」という用語は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、バッファローまたはラクダのような任意の哺乳動物を搾乳することによって得られる乳汁分泌物として理解すべきである。好ましい実施形態では、乳は牛乳である。
【0097】
「乳基質」という用語は、本発明の方法に従って発酵に供することができる任意の生乳および/または加工乳原材料であることができる。よって、有用な乳基質としては、限定されるものではないが、タンパク質を含む任意の乳製品または乳様製品、例えば全脂乳もしくは低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、還元粉乳、コンデンスミルク、乾燥乳、ホエー、ホエーパーミエート、乳糖、乳糖の結晶化からの母液、ホエータンパク質濃縮物、またはクリームなどの溶液/懸濁液が含まれる。明らかに、乳基質は、任意の動物由来製品、例えば実質的に純粋な哺乳動物乳、または還元粉乳であることができ、または乳基質は一部は植物材料由来であってもよい。好ましくは、乳基質中のタンパク質の少なくとも一部は、(i)哺乳動物乳中に天然に存在するタンパク質、例えばカゼインやホエータンパク質、または(ii)植物乳中に天然に存在するタンパク質である。しかしながら、タンパク質の一部は乳中に天然に存在しないタンパク質であってもよい。
【0098】
発酵前に、乳基質は、当業界で既知の方法に従って均質化(ホモジナイズ)および低温殺菌することができる。
【0099】
本明細書で使用される「均質化」とは、可溶性懸濁液または乳濁液を得るための強力な混合を意味する。発酵前に均質化を行う場合、乳脂肪がもはや乳から分離しないように、乳脂肪をより小さなサイズに分散させるために実施することができる。これは、乳を、高圧にて小さな穴(オリフィス)に強制的に通過させることによって達成することができる。
【0100】
本明細書で使用される「低温殺菌」とは、微生物などの生存している有機体の存在を低減または排除するための乳基質の処理を意味する。好ましくは、低温殺菌は、特定の温度を特定の時間維持することによって達成される。通常、特定の温度は加熱によって達成される。有害菌などの一定の細菌を殺菌または不活化するために、温度および持続時間を選択することができる。その後、急冷工程が続く場合がある。
【0101】
発酵乳製品の製造に使用される発酵工程は周知であり、当業者は、温度、酸素、微生物の量と特徴、並びに処理時間などの、適切な処理条件を選択する方法を知っている。明らかに、発酵条件は、本発明の達成を助けるように、すなわち固体または液体形態の乳製品または非乳製品(発酵乳製品)などの発酵製品を得るために選択される。
【0102】
本明細書中で用いる場合の「発酵乳製品」という用語は、食品または飼料製品の調製が乳酸菌による乳基質の発酵を伴う場合の食品または飼料製品を指す。本明細書中で用いる場合の「発酵乳製品」は、限定されるものではないが、ヨーグルトやチーズなどの製品を含む。サーモフィルス菌とブルガリア菌を用いた発酵によって調製されるチーズの例としては、モッツアレラチーズとピザチーズが挙げられる(Hoier他(2010)、The Technology of Cheesemaking、第2版、Blackwell Publishing、Oxford;166-192)。好ましくは、発酵乳製品はヨーグルトである。
【0103】
本文脈において、「スターター培養物」(または単にスターターとも称する)という用語は、様々な食品、飼料および飲料などの発酵製品の調製における、発酵工程の開始を支援するための1種以上の細菌株(乳酸菌株など)の調製物(組成物)である培養物を意味する。
【0104】
本文脈において、「ヨーグルトのスターター培養物」は、少なくとも1つのL.ブルガリカス(ブルガリア菌)株および/またはL.アシドフィルス(アシドフィルス菌)株と、少なくとも1つのS.サーモフィルス(サーモフィルス菌)株とを含む、細菌培養物である。本明細書によれば、「ヨーグルト」とは、乳基質にブルガリア菌および/またはアシドフィルス菌のようなラクトバチルス菌株とサーモフィルス菌株とを含む組成物を植菌してそれを発酵させることにより得られる発酵乳製品を指す。
【0105】
本発明の更なる面は、発酵製品の製造方法であって、以下の群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子
または本発明の組成物を用いて基質を発酵させることを含む方法に関する。
【0106】
基質は乳基質であるのが好ましいだろう。乳基質は、動物由来の基質であってもよいが、乳基質は純粋に動物由来である必要はなく、植物由来の基質を更に含んでもよい。発酵製品は、食品であることができ、同様に乳製品であってもよい。
【0107】
製造される製品に応じて、基質は乳基質であってもよい。乳基質は、ヨーグルト、バターミルク、またはケフィアなどの発酵乳製品が最終製品である場合に特に好ましい。
【0108】
乳基質は、動物由来の製品であっても植物由来の製品であってもよい。従って、一実施形態では、発酵製品は乳製品などの食品である。乳製品は、限定されないがヨーグルト、バターミルクおよびケフィアなどの発酵乳製品、または限定されないがフレッシュチーズまたはパスタフィラータなどのチーズから成る群より選択することができる。
【0109】
発酵製品および/または食品それ自体が発酵中に生成される酸や風味を含んでいるとしても、発酵製品および/または乳製品が、果実濃縮物、シロップ、プロバイオティクス菌株もしくは培養物、着色剤、増粘剤、着香剤、保存剤およびそれらの混合物から成る群より選択された成分を含むことが望ましい場合がある。
【0110】
同様に、発酵前、発酵中および/または発酵後に、酵素を基質、例えば乳基質に添加してもよく、かかる酵素は、タンパク質を架橋できる酵素、トランスグルタミナーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、ラクターゼ、キモシン、レンネットおよびそれらの混合物から成る群より選択される。
【0111】
一実施形態では、発酵製品は、撹拌型製品、固定型製品、または飲用製品の形態であってもよい。
【0112】
本発明の明らかに別の態様は、本発明の方法によって得られる発酵製品に関する。本発明の一態様は、従って、以下の群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を含む発酵食品に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【0113】
また、本発明の一態様は、発酵製品の製造のための、以下の群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株の使用に関する:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。発酵製品は、乳製品または乳様製品などの食品であることができる。
【0114】
「組成物」および「新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株」と称する題目の部に開示される態様および実施形態は、本明細書の当該部分と等しく関連しうることは認識されるだろう。特に、「新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株」のもとでの本発明の特定の菌株に関する開示は、本明細書の当該部分に適用可能であり、これは当業者にも明白であろう。
【0115】
新規ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株
本発明は、驚くべきことに、以下の群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を見出した:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
【0116】
当該サーモフィルス菌株は、配列番号1、3、5、7、11および/または13に対して少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、サーモフィルス菌株は、配列番号1、3、5、7、11および/または13に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0117】
従って、アミノ酸レベルでは、前記変異が、以下から成る群より選択されたコード化タンパク質中の変化を引き起こすことがさらに期待され得る:
a)配列番号2の57位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC;
b)配列番号4の47位に相当する位置にあるガラクトキナーゼ;
c)配列番号6または14の242位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
d)配列番号8の164位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼ;
e)配列番号10の28位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサー;および
f)配列番号12の268位に相当する位置にあるグルコースキナーゼ。
【0118】
galK遺伝子は、ガラクトース代謝のLeloir経路の1つの酵素でありα-ガラクトースをガラクトース-1-リン酸に変換する酵素であるガラクトキナーゼをコードする。
【0119】
pgm遺伝子は、β-グルコース-1-リン酸(G1P)からグルコース-6-リン酸(G6P)への可逆反応を変換する酵素であるホスホグルコムターゼをコードする。
【0120】
galR遺伝子は、転写レベルでストレプトコッカス属のガラクトースオペロンを調節するガラクトースオペロンリプレッサーをコードする。
【0121】
本発明の使用の特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は、ガラクトース発酵性であり、かつグルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列中に変異を担持しており(より具体的には、配列番号11中の805位に相当する位置に)、ここで前記変異がグルコキナーゼタンパク質を不活性化するか、または該遺伝子の発現に負の効果を有する。
【0122】
好ましい態様では、前記変異がグルコキナーゼタンパク質の活性(グルコースからグルコース-6-リン酸へのリン酸化速度)を少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%低下させる。
【0123】
グルコキナーゼ活性は、Pool他(2006. Metabolic Engineering 8; 456-464)により記載されたようなグルコキナーゼ酵素測定法により決定することができる。
【0124】
本発明の使用の特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は細胞中へのグルコースの輸送を減少させる変異を担持している。特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は、グルコーストランスポーターの一成分をコードする遺伝子中に突然変異を担持しており、その変異がグルコーストランスポーターを不活性化するかまたは該遺伝子の発現に対して負の効果を有する。
【0125】
より特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は、PTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC(グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIICManタンパク質とも称され、それら2つの用語は本明細書中で互換的に用いられる)のDNA配列中に変異を担持しており、ここで前記変異は、IICManタンパク質を不活性化するかまたは該遺伝子の発現に対して負の効果を有する。好ましい実施形態では、前記変異は、かかる変異を持たない細胞に比較した場合に、細胞中へのグルコースの輸送を少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%減少させる。
【0126】
前記細胞中へのグルコースの輸送は、Cochu他(2003)Appl. Environ Microbiol. 69(9); 5423-5432)により記載されたグルコース取込みアッセイにより測定することができる。
【0127】
好ましくは、サーモフィルス菌株は、グルコーストランスポーター(糖輸送体)の一成分をコードする遺伝子中に変異を有しており、その変異がグルコーストランスポータータンパク質を不活性化するかまたは該遺伝子の発現に対して負の効果を有する。
【0128】
前記成分は、グルコースの輸送にとって重要であるグルコーストランスポータータンパク質の任意成分であることができる。例えば、サーモフィルス菌のグルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系の任意成分の活性化が、グルコーストランスポーターの機能の不活性化を引き起こすだろう。
【0129】
特に、不活性化されたグルコーストランスポータータンパク質は、機能的なグルコーストランスポータータンパク質に比較したとき、原形質膜を通過するグルコースの輸送を促進することができないか、または原形質膜を通過するグルコースの輸送を有意に低減した速度で促進するタンパク質である。かかる不活性化されたグルコーストランスポータータンパク質をコードする遺伝子は、機能的なグルコーストランスポータータンパク質をコードする遺伝子に比較して、該遺伝子の転写解読枠(ORF)中に突然変異を含んでおり、ここで前記突然変異として、限定されるものではないが、欠失、フレームシフト変異、終止コドンの導入、またはアミノ酸置換をもたらす変異であって、該タンパク質の機能的性質を変更するような変異、または該遺伝子の転写もしくは翻訳を減少させるかまたは廃止するプロモーター変異を含むことができる。
【0130】
好ましい実施形態では、前記変異は、グルコーストランスポータータンパク質の活性(グルコースの輸送速度)を少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%減少させる。グルコーストランスポーター活性は、Cochu他(2003、Appl. Environ. Microbiol. 69 (9); 5423-5432)により記載されたようなグルコース取込みアッセイによって測定することができる。
【0131】
特定の実施形態では、サーモフィルス菌株は、1.0E06~1.0E07 CFU/mLの濃度で9.5%B乳(B-milk)に接種し、そして40℃で20時間増殖させたときに、9.5%B乳中のグルコースの量を、少なくとも5mg/mLに増加させることができる。
【0132】
本発明の使用の特定の実施形態では、サーモフィルス菌DSM 33719株および/またはDSM 33762株は、1.0E06~1.0E07 CFU/mLの濃度で、0.05%ショ糖を含む9.5%B乳中に接種し、そして40℃で20時間増殖させたときに、9.5%B乳中のグルコースの量を少なくとも5mg/mLに増加させることができる。
【0133】
本文脈上、9.5%B乳とは、低脂肪スキムミルク粉末を用いて、9.5%の乾燥重量レベルに還元し、そして99℃で30分間低温殺菌した後、40℃に冷まして作られた加熱処理乳である。
【0134】
本発明のより好ましい実施形態では、変異株は、少なくとも4mg/mL、少なくとも5mg/mL、少なくとも6mg/mL、少なくとも7mg/mL、少なくとも8mg/mL、少なくとも9mg/mL、少なくとも10mg/mL、少なくとも11mg/mL、少なくとも12mg/mL、少なくとも13mg/mL、少なくとも14mg/mL、少なくとも15mg/mL、少なくとも20mg/mL、または少なくとも25mg/mLへのグルコース量の増大をもたらす。
【0135】
更なる実施形態では、サーモフィルス菌DSM 33719株および/またはDSM 33762株は、1種以上の追加の乳酸菌株と共に1.0E06~1.0E08 CFU/mLの濃度に接種し、そして40℃で20時間増殖させたとき、0.1%ショ糖、4%タンパク質(スキムミルク粉で調整)および1.5%脂肪(9%クリームを用いて脂肪分1.5%の乳に調整)を含む乳基質中のグルコースの量を、少なくとも5mg/mLに増加させることができる。本発明のより好ましい実施形態では、グルコースの量は、少なくとも4mg/mL、少なくとも5mg/mL、少なくとも6mg/mL、少なくとも7mg/mL、少なくとも8mg/mL、少なくとも9mg/mL、少なくとも10mg/mL、少なくとも11mg/mL、少なくとも12mg/mL、少なくとも13mg/mL、少なくとも14mg/mL、少なくとも15mg/mL、少なくとも20mg/mL、または少なくとも25mg/mLに増加される。
【0136】
本明細書中で使用するときの「細胞中へのグルコースの輸送を減少させる変異」という用語は、細胞の周囲環境にグルコースの蓄積を引き起こす、グルコースの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子中の変異を指す。
【0137】
サーモフィルス菌株の培地中のグルコースのレベルは、当業者に周知の方法により容易に測定することができる。
【0138】
サーモフィルス菌株が、配列番号2、4、6、8、10および/または12に対して少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含んで成ることは理解されよう。好ましくは、サーモフィルス菌株は、配列番号2、4、6、8、10および/または12に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含んで成る。
【0139】
特定の実施形態では、核酸レベルでの変異は、以下のものである:
(a)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(b)配列番号3の139位に相当する位置におけるGからAへの置換;
(c)配列番号5または13の726位に相当する位置におけるAからCへの置換;
(d)配列番号7の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(e)配列番号9の82位に相当する位置におけるCからTへの置換;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
【0140】
特定の実施形態では、コード化タンパク質は、以下のものである:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;
(b)配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;
(c)配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(d)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;
(e)配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;および
(f)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
【0141】
好ましい実施形態では、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株は、以下の変異を含む:
(d)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;配列番号3の139位に相当する位置におけるヌクレオチドGからAへの置換;および配列番号5または13の726位に相当する位置におけるヌクレオチドAからCへの置換;
(e)配列番号5または13の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;配列番号7の82位に相当する位置におけるヌクレオチドCからTへの置換;または
(f)配列番号9の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
【0142】
好ましい実施形態では、当該ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、コード化タンパク質中に以下の変化を含む:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;配列番号4の47位におけるIleからValへの置換;および配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(b)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;および配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;または
(c)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
【0143】
【表2】
【0144】
同定された菌株は全て寄託されている。好ましい実施形態では、本発明は以下のサーモフィルス菌株に関する:
(a)DSM 33719またはその変異体もしくは変種;
(b)DSM 33720またはその変異体もしくは変種;または
(c)DSM 33762またはその変異体もしくは変種。
【0145】
好ましい実施形態では、本発明は、サーモフィルス菌株DSM 33719またはその変異体もしくは変種、サーモフィルス菌株DSM 33720またはその変異体もしくは変種、および/またはサーモフィルス菌株DSM 33762またはその変異体もしくは変種に関する。本発明のさらに好ましい実施形態では、変異株が天然の変異体または誘発変異体である。
【0146】
産業界における利用可能性を保証するため、DSM 33719の変異体もしくは変種は、DSM 33719と同じまたは類似の特徴(例えば酸性化プロファイルやテキスチャー改善特性など)を示すことが企図される。同様に、DSM 33720の変異体もしくは変種は、DSM 33720と同じまたは類似の特徴(例えば酸性化プロファイルやテキスチャー改善特性など)を示すことが企図される。同様に、DSM 33719の変異体もしくは変種は、DSM 33719と同じまたは類似の特徴(例えば酸性化プロファイル)を示すことが企図される。
【0147】
産業界における利用可能性を保証するため、DSM 33719の変異体もしくは変種はDSM 33719と同じまたは類似の特徴(例えば酸性化プロファイルやテキスチャー改善性質など)を示すことが企図される。同様に、33720の変異体もしくは変種は、例えばDSM 33720と同じまたは類似の特徴(例えば酸性化プロファイルやテキスチャー改善特性など)を示すことが企図される。
【0148】
一実施形態では、DSM 33719の変異体もしくは変種は、配列番号1、3および/または5に対して少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、DSM 33719の変異体もしくは変種は、配列番号1、3および/または5に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0149】
一実施形態では、DSM 33720の変異体もしくは変種は、配列番号7および/または9に対して少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、DSM 33720の変異体もしくは変種は、配列番号7および/または9に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0150】
DSM 33762の変異体もしくは変種は、配列番号11に対して少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、DSM 33762の変異体もしくは変種は、配列番号11に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0151】
一実施形態では、DSM 33719の変異体もしくは変種は、配列番号1、3および/または5に対して少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましくは、DSM 33719の変異体もしくは変種は、配列番号1、3および/または5に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0152】
一実施形態では、DSM 33720の変異体もしくは変種は、配列番号7および/または9に対して少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましくは、DSM 33720の変異体もしくは変種は、配列番号7および/または9に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0153】
一実施形態では、DSM 33762の変異体もしくは変種は、配列番号11に対して少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましくは、DSM 33762の変異体もしくは変種は、配列番号11に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0154】
上記で言及したように、甘みを加える性質を有する新規サーモフィルス菌株を開発することは産業界において必要とされている。よって、好ましい実施形態では、本発明に係るサーモフィルス菌株は、ガラクトース発酵性である。
【0155】
本文脈上、本明細書で定義される「ガラクトース発酵性」という用語は、少なくとも10細胞/mLの量で菌株を接種したときに、2%ガラクトースを含むM17培地(ガラクトースは唯一の炭水化物として添加される)中で37℃にて16時間インキュベーション後に、pHが少なくとも1.0の値だけ低減されることを意味する。
【0156】
一部の菌株は、ガラクトース発酵性でかつグルコース発酵性でありうる。これは、例えば、それがグルコースとガラクトースの両方を発酵できるようなDSM 33720の場合である。DSM 33720は、グルコースが細胞の外側に全く輸送されないかまたは限定的な程度にだけ輸送されるような変異を担持している。従って、グルコースは、別のガラクトース発酵性菌株を用いた時と同じ程度には発酵製品中に蓄積されない。従って、DSM 33720は、軽度の甘みを加える性質を有する菌株である。
【0157】
「甘みを加える性質を有する菌株」、「発酵乳製品中に望ましいグルコースの蓄積を提供できる菌株」および「食品の自然な甘みを強くする性質を有する菌株」という用語は、本明細書中で、乳製品の発酵において本発明の菌株を使用することの有利な局面を特徴づけるために互換的に用いられる。
【0158】
本発明の一実施形態では、DSM 33720、DSM 33762およびDSM 33719と、1つ以上の追加の乳酸菌とを含む組成物(混合培養物)の添加により、製造される発酵製品について300秒-1(s-1)で測定したときに45 Pa、50 Pa、60 Pa、70 Pa、80 Pa、90 Pa、または100 Paを超える応力を生じる。このような応力は、官能評価パネル(sensory pannel)によって好ましいとされる感覚的な粘り気/口内のとろみ感(mouth thickness)と似ているため、望ましいだろう。せん断応力は、実施例4に記載のとおりに測定される。
【0159】
本発明のサーモフィルス菌株(1または複数)は、2-デオキシグルコース耐性である。本明細書中サーモフィルス菌に関して用いられる「2-デオキシグルコース耐性」という用語は、特定の変異菌株が、20mMの2-デオキシグルコースを含有するM17培地のパネル上で画線培養したとき、40℃にて20時間インキュベーション後にコロニーへと増殖する能力を有することによって定義される。培地中の2-デオキシグルコースの存在は、非変異株の増殖を抑制する一方、変異株の増殖には影響を与えないかまたは有意には影響を与えないだろう。よって、選択目的で、2-デオキシグルコースを選択工程に適用することができる。
【0160】
一実施形態では、サーモフィルス菌DSM 33720株は、菌株を高ガラクトース発酵性にする変異を担持している。
【0161】
「組成物」および「発酵製品の製造方法」という題目を有する部に開示された態様および実施形態は、本明細書のこの部と等しく関連付けられることは理解されよう。
【0162】
本発明を説明する文脈(特に下記の特許請求の範囲の文脈)における用語「a」、「an」、「the」および同様の冠詞の使用は、特に断らない限り、単数形と複数形の両方を含むものと解釈されるべきである。「含む」、「有する」、「包含する」および「含有する」という用語は、特に断りのない限り、制限のない(open-ended)用語(すなわち、「含んでいるがそれに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個別に参照する簡略的な方法として作用することを単に意図しており、個別の各値は、あたかもそれが本明細書に個別に言及されているかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書中に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書で提供されるあらゆる例、または例示的な文言(例えば「など」)の使用は、単に本発明をより良く理解することを目的としており、別段の主張がない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書のいかなる文言も、特許請求の範囲に記載されていない要素を本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0163】
本明細書における明らかに以前公表された文書のいかなるリストまたは議論も、必ずしも該文書が技術の現状の一部であること、または一般的な通常の知識であることの承認であるとして解釈すべきではない。
【0164】
本発明の所与の態様、特徴、またはパラメータに関する選好、オプションおよび実施形態は、文脈上別段の指示がない限り、本発明の他のすべての局面、特徴およびパラメータに関するあらゆる選択、オプションおよび実施形態と組み合わせて開示されたものと見なされるべきである。これは、本明細書に記載の方法によって得られる最終組成物の一部となり得る、マイクロカプセル化された細菌培養物およびそのすべての特徴の説明に特に当てはまる。本発明の実施形態および特徴はまた、以下の項目で概説され、また、以下の非限定的実施例によっても説明される。
【0165】
微生物寄託と専門的ソリューション
本出願人は、下記の表に記載した寄託微生物のサンプルが、特許が付与される日まで、専門家だけが利用できるように維持することを要求する。
【0166】
【表3】
【実施例
【0167】
材料および方法
【0168】
【表4】
【0169】
無菌的に添加された炭素源:
ラクトース:20g/L
グルコース:20g/L、25g/Lまたは50g/L
ガラクトース:20g/L、25g/Lまたは50g/L。
【0170】
当技術分野で知られているように、M17培地は、サーモフィルス菌の増殖に適していると考えられている。当業者は、本文脈において、M17濃縮物が様々な供給業者からかつ特定の供給業者に依存せずに供給され、本明細書と関連する着目の細胞について(標準的な測定の不確実性の範囲内で)、本発明に関連する2-デオキシグルコース耐性に関する同じ結果が得られることを理解する。
【0171】
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)DSM 33762株は2-デオキシグルコース耐性変異株であり、DSM 33720株は高ガラクトース発酵性株であり、どちらも同じガラクトース発酵性母株(MS-1)から誘導された。DSM 33719は、高ラクトース発酵性でかつグルコース分泌性の母株(MS-2)に由来する、高速グルコース分泌性株である。
【0172】
乳酸性化プロファイルおよび炭水化物分析
B乳を基質として使用した。B乳は、蒸留水で再構成され、99℃で30分間殺菌され、その後30℃に冷ました9.5%(w/v)の乾燥重量レベルの脱脂粉乳から構成される。
【0173】
酸性化は、CINAC従来技術ハードウェアとソフトウェアを使って、またはiCINACシステム(AMSアライアンス製)を使って追跡した。このシステムは、乳酸発酵の酸性化活性をモニタリングするために開発され、電極を使ってpHと温度の変化を同時に追跡し記録することができる。
【0174】
炭水化物の含有量は、HPLC分析を使って調べた。40℃で約20時間の酸性化後に、酸性化したB乳のアリコートを収集した。炭水化物の量はg/Lで表す。
【0175】
実施例1-増加したグルコース排出を有するストレプトコッカス・サーモフィルスのグルコースキナーゼ変異体を単離するための2-デオキシグルコースの使用
変異体を単離するために 単一コロニーの増殖から得られたMS-1細胞を、10mLの2%ラクトース含有M17ブロス中に植菌し、40℃で一晩増殖させた。
【0176】
翌日、培養物を、2%ガラクトースおよび30mMの2-デオキシグルコースを含むM17寒天プレートに段階希釈で播種し、40℃で20時間インキュベートした。耐性コロニーは、最初に選択に使用したのと同じタイプの寒天プレート上に再度画線した。2%ラクトース、2%ガラクトースまたは2%グルコースのいずれかを含む新鮮なM17ブロスに生存菌を植菌し、増殖を測定した。選択された変異体の中で、DSM 33762が同定された。この分離株は、乳中で増殖させるとグルコースを分泌し(図1)、ゲノム配列決定によりグルコキナーゼをコードする遺伝子中の変異を同定した。
【0177】
図1から、DSM 33762が、MS-1と比較してより緩慢な酸性化プロファイルを示すことが明らかである。さらに、DSM 33762の炭水化物分析は、MS-1により調製した発酵乳に比較して、ラクトースの含有量が減少したのに対し、ガラクトースとグルコースの両方の分泌が増加することを示している。
【0178】
実施例2-ガラクトース含有培地上でより迅速な増殖速度を有するストレプトコッカス・サーモフィルスの変異体を単離するための、適応実験室進化法の使用
適応実験室進化法(ALE)を使用して、ガラクトースを唯一の炭水化物(糖)源として含む培地中での増殖速度が母株と比較して速い、ガラクトース発酵性変異株を作出した。
【0179】
ALEはMS-1の3つの並行培養物を用いて実施した。それらの培養物を、5%ガラクトース+2%カゼイン水解物を含むM17培地中で4週間増殖させた。ALEは、本質的にTroy E. Sandberg、Michael J. Salazar、Liam L. Weng、Bernhard O. Palsson、Adam M. Feist、"The emergence of adaptive laboratory evolution as an efficient tool for biological discovery and industrial biotechnology"、Metabolic Engineering、第56巻、2019年、1-16頁(Sandberg他、2019)に記載されているプロトコルに従って実施した。
【0180】
適応させた培養物は、増殖速度の改善について毎週試験した。これは、適応培養物のアリコートをALE法に使用したのと同じ培地中で直接試験し、次に適応培養物の希釈物をガラクトース含有M17寒天プレートで平板培養することによって実行した。これらのプレートから単一コロニーを精製し、ガラクトース+カゼイン水解物を含むM17培地で最適化された能力について試験した。分離株の大部分は、MS-1と比較して増殖速度の大幅な向上を示した。DSM 33720は3週間のALE後に分離された。
【0181】
乳中で、DSM 33720はテクスチャーを大幅に改善し、酸性化速度が速いことが分かった(図2)。
【0182】
実施例3-ガラクトースおよびラクトース含有培地上でより迅速な増殖速度を有するサーモフィルス菌のグルコース分泌性変異株を単離するための、適応実験室進化法(ALE)の使用
国際公開WO2013/160413公報に記載されているように、MS-2は、二重変異(glcK、Glu/Man PTS)のため、高グルコース分泌量を有する株である。しかし、そのような変異体は、乳中ではしばしば緩慢な能力を示すため、ALEを使用して、より高速な誘導体を単離しようと試みた。MS-2の3つの並行培養物を、5%ガラクトース+2%カゼイン水解物を含有するM17培地中で3週間増殖させた。4週目に、培地を2.5%ガラクトース+2.5%ラクトース+2%カゼイン水解物を含有するM17に交換した。ALEは、本質的にSandberg他(2019)に記載されているプロトコルに従って実施した。
【0183】
図3のグラフは、より迅速な増殖が達成されるまで毎日1回または毎日数回、培養液を希釈して再増殖させた場合の全4週間にわたる増殖を表す。低い基底の増殖速度から開始して、4週間後には増殖速度が大幅に増加した。4週間後、希釈した培養物を各3つの並行培養物から平板培養し、これらの寒天プレートから単コロニーを選択した。DSM 33719は、図3中の灰色の曲線(培養物3)から得られる1つの分離株である。
【0184】
図4は、DSM 33719の結果を示す。DSM 33719による酸性化は、MS-2およびより低いpHに酸性化されたDSM 33719と比較して、はるかに高速であった。発酵乳の炭水化物分析により、DSM 33719が高速である理由が判明した。グルコース分泌は半分に減少し、DSM 33719がペプチド(カゼイン水解物)上での増殖に良好に適応したことも観察された。DSM 33719のさらなる分析により、特にカゼイン水解物が添加された場合または前培養物においてより速い酸性化を示すことに加えて、DSM 33719が混合培養物の一部である場合、改善されたテクスチャーを乳に付与することも判明した(実施例4を参照)。
【0185】
実施例4-異なる組合せと比率の菌株を用いて発酵させた乳の酸性化と炭水化物分析
【0186】
【表5】
【0187】
本出願人セーホーエル・ハンセン(Chr. Hansen)が販売するヨーグルトスターター培養物のPlemium 1.0およびYF-L904は、参考として実験に含められた。
【0188】
発酵前に、2つの異なる乳基質を製造した。脱脂粉乳とショ糖を乳に添加し、その後撹拌せずに2時間水和し、均質化後、80℃以上で1分間の低温殺菌を行った。
【0189】
乳基質1は、0.1%ショ糖、4%タンパク質(脱脂粉乳で調整)および1.5%脂肪(1.5%脂肪乳を9%クリームで調整)を含んでいた。乳基質2は、5%ショ糖、4%タンパク質(脱脂粉乳で調整)、および1.5%脂肪(1.5%脂肪乳を9%クリームで調整)を含んでいた。
【0190】
乳基質を200mLの哺乳瓶に移した。その瓶に、B乳に溶解した冷凍ペレット(F-DVS)から調製した100倍希釈液を植菌した。各菌株について、個別の希釈液を調製した。ブレンドを配合するために、数個の菌株を異なる比率と容量で、1本のCINACボトルに植菌した。ブレンドの最終植菌量は、1E+6~1E+8 CFU/mLに相当した。
【0191】
培養物2で使用したDSM 33762を除いて、すべての菌株はF-DVSから作成された最初の希釈液からした。DSM 33762植菌材料(種菌)の調製のために、4%ショ糖および過剰のカゼインペプトンを含む1mLのM-17 BK培地に、DSM 33762のスクラップを播種し、43℃で少なくとも18時間インキュベートした。
【0192】
播種したボトルを水浴に入れ、43℃に加熱した。
【0193】
混合物が最終pH4.55に達するまで、CINACハードウェアおよびソフトウェアを使用して、従来技術に従ってpHを43℃でモニタリングした。発酵乳の均質ゲルを獲得するために、各ボトルを撹拌し、マイクロ・アプリケーション・プラットフォーム(MAP)で25℃および2バール(bar)で処理した。このMAPは、酪農場で使用される従来技術の後処理ユニット(PTU)と同等の、小型の実験室規模の装置である。
【0194】
発酵乳サンプルは、HPLCを使用した炭水化物分析用に、1g±0.5gを10mL遠心分離管中に秤量することにより調製した。2mLの氷冷96%エタノールを加え、サンプルを激しく混合し、HPLCで分析するまで-50℃に置いた。
【0195】
発酵乳サンプルの入った哺乳瓶は、テクスチャー分析(レオロジー)を行う前に5℃で7日間保管した。レオロジー測定のために、サンプルをボブカップに移し、せん断応力を分析した。
【0196】
せん断応力は、アントンパール社のASCレオメーター、モデルDSR502を使用して測定した。この方法では、10-3-1から300s-1まで進み、その後10-3-1に戻る、サンプルの回転変形に基づく回転ステップを使用する。対応するせん断応力が測定される。これらの結果では、流動曲線から1つのせん断速度(300s-1)が抽出された。サンプルは測定前に13℃に1時間置いた。各サンプルをスプーンで下から上に向かって5回穏やかに撹拌して、均一なサンプルを確保した。レオロジーカップを標線まで満たし、サンプルマガジンに配置した。サンプルは2つの別々のヨーグルトカップを使用して2回測定された。測定は+7日目に実施され、測定温度は13℃に設定された。サンプルは測定当日まで5℃で保存した。
【0197】
【表6】
【0198】
試験は乳基質1を用いて実施した。培養物3および培養物4の結果は、異なるブレンド、即ち、例えば8種類の培養物3ブレンドの各々は同じ菌株を含有するが、その量と比率が異なる。
【0199】
発酵時間、テクスチャー、グルコースレベルは、培養物/ブレンドに依存する。培養物3と培養物4は、最高のテクスチャー向上特性のスターター培養物Plemium 1.0の1つと同等の優れたテクスチャーを提供するが、培養物1は発酵乳製品のテクスチャーがはるかに低かった。ブレンド変種間の菌株の比率が異なると、発酵時間、テクスチャー、またはグルコースレベルなどに変動が生じうる。従って、培養物とブレンドの組成は、最終的な発酵製品に必要な特定のニーズに応じて調整することができる。
【0200】
【表7】
【0201】
上記表は、培養物1および培養物2(ブレンド1~6)を用いて得られた結果を示している。ブレンド1~6は、同じ菌株を異なる量と比率で含有する、6つのブレンド変種である。培養物2では、培養物1と比較して2つの乳基質で同様のテクスチャーが得られることがわかる。同時に、培養物2を用いた場合、発酵時間が短縮され、グルコース濃度が低くなった。
【0202】
実施例5-ブレンド中の菌株の比率を変化させると発酵乳製品の特性が変化する
実施例4に記載したように発酵乳を製造し、分析した。
【0203】
【表8】
【0204】
【表9】
【0205】
【表10】
【0206】
培養物4のブレンド変種(S03b、S03およびP07)における菌株の比率が異なると、発酵時間、テクスチャー(300 1*s(s-1)のせん断応力)、およびグルコースレベルが変動する。乳基質1と乳基質2の両方において、各ブレンド変種は培養物1と比較してテクスチャーが優れていた。乳基質2では、培養物4ブレンド変種は培養物1と比較してより速い発酵を示した。従って、培養物/ブレンドの特徴は、個々の菌株の特性と菌株の存在量によって決定され、異なる発酵製品をもたらす。従って、培養物/ブレンドの組成は、最終発酵製品の特定のニーズに対処するように調整することができる。
【0207】
項目
[項目Y1]以下から成る群より選択される1つ以上の遺伝子に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む組成物:
(a)配列番号1の169位に相当する位置にあるPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするmanM遺伝子;
(b)配列番号3の139位に相当する位置にあるガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子;
(c)配列番号5または13の490位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(d)配列番号7の726位に相当する位置にあるホスホグルコムターゼをコードするpgm遺伝子;
(e)配列番号9の82位に相当する位置にあるガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalR遺伝子;および
(f)配列番号11の805位に相当する位置にあるグルコースキナーゼをコードするglcK遺伝子。
[項目Y2]前記変異が、以下から成る群より選択される、コード化タンパク質の変化をもたらす、項目Y1に記載の組成物:
a)配列番号2の57位に相当する位置のPTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC;
b)配列番号4の47位に相当する位置のガラクトキナーゼ;
c)配列番号6または14の242位に相当する位置のホスホグルコムターゼ;
d)配列番号8の164位に相当する位置のホスホグルコムターゼ;
e)配列番号10の28位に相当する位置のガラクトース・オペロン・リプレッサー;および
f)配列番号12の268位に相当する位置のグルコースキナーゼ。
[項目Y3]前記変異が以下である、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(b)配列番号3の139位に相当する位置におけるGからAへの置換;
(c)配列番号5または13の726位に相当する位置におけるAからCへの置換;
(d)配列番号7の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(e)配列番号9の82位に相当する位置におけるCからTへの置換;
(f)配列番号11の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
[項目Y4]前記コード化タンパク質の変化が以下である、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;
(b)配列番号4の47位に相当する位置におけるIleからValへの置換;
(c)配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(d)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;
(e)配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;および
(f)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
[項目Y5]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株が以下の変異を含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)配列番号1の169位に相当する位置におけるCからTへの置換;配列番号3の139位に相当する位置におけるヌクレオチドGからAへの置換;および配列番号5または13の726位に相当する位置におけるヌクレオチドAからCへの置換;
(b)配列番号5または13の490位に相当する位置におけるCからTへの置換;および配列番号7の82位に相当する位置におけるヌクレオチドCからTへの置換;または
(c)配列番号9の805位に相当する位置におけるGからTへの置換。
[項目Y6]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、前記コード化タンパク質に以下の変異を含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)配列番号2の57位に相当する位置におけるProからLeuへの置換;配列番号4の47位におけるIleからValへの置換;配列番号6または14の242位に相当する位置におけるGluからAspへの置換;
(b)配列番号8の164位に相当する位置におけるProからSerへの置換;および配列番号10の28位に相当する位置におけるLeuからPheへの置換;または
(c)配列番号12の268位に相当する位置におけるGlyからCysへの置換。
[項目Y7]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が以下である、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)DSM 33719またはその変異体もしくは変種;
(b)DSM 33720またはその変異体もしくは変種;または
(c)DSM 33762、またはその変異体または変種。
[項目Y8]前記組成物が、DSM 33719、DSM 33719変異体、DSM 33719変種、DSM 33720、DSM 33720変異体、DSM 33720変種、DSM 33762、DSM 33762変異体、DSM 33762変種を含む群から選択される1または複数のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物。
[項目Y9]前記組成物が以下を含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)DSM 33720、DSM 33719、およびDSM 33762;または
(b)DSM 33719およびDSM 32227。
[項目Y10]ラクトバチルス属に属する1種以上の菌株をさらに含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物。
[項目Y11]1つ以上のラクトバチルス菌株が、以下から成る群から選択される、項目Y10に記載の組成物:ラクトバチルス・デルブルエッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus;ブルガリア菌)、ラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ラクチス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus;アシドフィルス菌)、ラクトカセイバチルス・カゼイ(Lactocaseibacillus casei;カゼイ菌)、ラクトカセイバチルス・パラカゼイ亜種パラカゼイ(Lactocaseibacillus paracasei subsp. paracasei;パラカゼイ菌)、ラクトカセイバチルス・ラムノサス(Lactocaseibacillus rhamnosus)、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus farmentum)、ラクチプランティバチルス・プランタルム亜種プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum subsp. Plantarum)、およびラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus;ヘルベチカス菌)。
[項目Y12]ラクトバチルス・デルブルエッキーが、ラクトバチルス・デルブルエッキー亜種ブルガリカスDSM 28910株またはその変異体もしくは変種である、項目Y9~Y10のいずれか一項に記載の組成物。
[項目Y13]混合物としてまたは部品キットとして以下を含む、前項目のいずれか一項に記載の組成物:
(a)DSM 33720またはその変異体もしくは変種、DSM 33719またはその変異体もしくは変種、DSM 33762またはその変異体もしくは変種、またはそれらの任意の組み合わせから成る群から選択されるサーモフィルス菌株(S. thermophilus);および
(b)ラクトバチルス属に属する菌株。
[項目Y14]前記組成物がスターター培養物である、前項目のいずれか一項に記載の組成物。
[項目Y15]前記組成物が、凍結、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、風乾、トレイ乾燥、または液体の形態である、前項目のいずれか一項に記載の組成物。
[項目Z1]項目Y1の(a)~(f)から成る群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を用いて基質を発酵させることを含む、発酵製品の製造方法。
[項目Z2]前記基質が乳基質である、項目Z1に記載の方法。
[項目Z3]前記乳基質が動物由来である、項目Z1~Z2のいずれか一項に記載の方法。
[項目Z4]前記乳基質が植物由来の基質をさらに含む、項目Z1~Z3のいずれか一項に記載の方法。
[項目Z5]前記発酵製品が食品である、項目Z1~Z4のいずれか一項に記載の方法。
[項目Z6]前記食品が乳製品である、項目Z1~Z3のいずれか一項に記載の方法。
[項目Z7]前記乳製品が、発酵乳製品(例えば、ヨーグルト、バターミルクまたはケフィア)またはチーズ(例えば、フレッシュチーズまたはパスタフィラータ)から成る群より選択される、項目Z6に記載の方法。
[項目Z8]発酵製品が、果実濃縮物、シロップ、プロバイオティクス菌株または培養物、着色剤、増粘剤、香味料、防腐剤、防腐剤およびそれらの混合物から成る群より選択される成分をさらに含む、項目Z1~Z7のいずれか一項に記載の方法。
[項目Z9]発酵前、発酵中および/または発酵後に酵素が基質に添加され、その酵素が、タンパク質を架橋できる酵素、トランスグルタミナーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、キモシン、レンネット、ラクターゼおよびそれらの混合物から成る群より選択される、項目Z8に記載の方法。
[項目Z10]前記発酵製品が、撹拌型、固定型、または飲用型の形態である、項目Z1~Z9のいずれか一項に記載の方法。
[項目Q1]項目Z1~Z10のいずれか一項に記載の方法により得られる発酵製品。
[項目Q2]前記発酵製品が食品である、項目Q1に記載の発酵製品。
[項目Q3]前記食品が乳製品である、項目Q1~Q2のいずれか一項に記載の発酵製品。
[項目P1]項目Y1の(a)~(f)から成る群より選択された1つ以上の遺伝子中に変異を有する1種以上のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株を含む発酵製品。
[項目P2]前記発酵製品が食品である、項目P1に記載の発酵製品。
[項目P3]前記食品が乳製品である、項目P1に記載の発酵製品。
[項目W1]発酵製品の製造のための、項目Y1の(a)~(f)から成る群より選択される1つ以上の遺伝子に変異を有する、1つ以上のサーモフィルス菌(S. thermophilus)株の使用。
[項目W2]前記発酵製品が食品である、項目W1に記載の使用。
[項目W3]前記食品が乳製品である、項目W1~W2のいずれか一項に記載の使用。
[項目X1]項目Y1の(a)~(f)から成る群より選択される1つ以上の遺伝子に変異を有する、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌株。
[項目X2]
[項目X3]ガラクトース発酵性である、項目X1~X2のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
[項目X4]2-デオキシグルコース耐性である、項目X1~X3のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
[項目X5]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、細胞へのグルコースの輸送を減少させる変異を担持している、項目X1~X4のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
[項目X6]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、1.0E06~1.0E07 CFU/mLの濃度で9.5%B乳中に接種し、そして40℃で20時間増殖させた場合、9.5%B乳中のグルコース量を少なくとも5mg/mLまで増加させる、項目X1~X5のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
[項目X7]前記ストレプトコッカス・サーモフィルス菌株が、1.0E06~1.0E07 CFU/mLの濃度で0.05%ショ糖含有9.5%B乳に接種し、そして40℃で20時間増殖させた場合、0.05%ショ糖含有9.5%B乳中のグルコースの量を、少なくとも5mg/mLまで増加させる、項目X1~X5のいずれか一項に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株。
【0208】
配列番号1:PTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIICをコードするManM遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号2:PTSマンノース/グルコース/フルクトースサブユニットIIC(ManM)のアミノ酸配列
配列番号3:ガラクトキナーゼをコードするgalKのヌクレオチド配列
配列番号4:ガラクトキナーゼ(GalK)のアミノ酸配列
配列番号5:ホスホグルコムターゼをコードするpgmのヌクレオチド配列
配列番号6:ホスホグルコムターゼ(Pgm)のアミノ酸配列
配列番号7:ホスホグルコムターゼをコードするpgmのヌクレオチド配列
配列番号8:ホスホグルコムターゼ(Pgm)のアミノ酸配列
配列番号9:ガラクトースオペロンリプレッサーをコードするgalRのヌクレオチド配列
配列番号10:ガラクトースオペロンリプレッサー(GalR)のアミノ酸配列
配列番号11:グルコースキナーゼをコードするglcKのヌクレオチド配列
配列番号12:グルコースキナーゼ(GlcK)のアミノ酸配列
配列番号13:ホスホグルコムターゼをコードするpgmのヌクレオチド配列
配列番号14:ホスホグルコムターゼ(Pgm)のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024510896000001.app
【国際調査報告】