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特表2024-510906重症筋無力症の治療的又は予防的処置用のワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】重症筋無力症の治療的又は予防的処置用のワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240305BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240305BHJP
   C07K 14/245 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P21/04
A61K39/39
C07K14/245 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552272
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2022054909
(87)【国際公開番号】W WO2022180262
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】2021/5140
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523324801
【氏名又は名称】クラヴァ ウロープ
(71)【出願人】
【識別番号】523324845
【氏名又は名称】アヴェランジェ ニコラ
(71)【出願人】
【識別番号】523324856
【氏名又は名称】ユベルティ ステファーヌ
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アヴェランジェ ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ユベルティ ステファーヌ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC07
4C085CC21
4C085CC31
4C085DD32
4C085DD41
4C085DD51
4C085DD86
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF24
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA31
4H045FA72
4H045GA10
4H045GA21
(57)【要約】
複数のペプチドエピトープにカップリングされた、配列番号1である担体タンパク質を含む、重症筋無力症を処置するための医薬組成物、対応するペプチドエピトープ、及びコンジュゲートの合成の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、配列番号5及びこれら2つを混合したものから選択されるペプチドエピトープを含む、ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択される1つ以上のペプチドエピトープを含む医薬組成物であって、
前記ペプチドエピトープは、配列番号1の1つ以上の遊離-NH2残基に共有結合的にカップリングされている、ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5を含む複数の前記ペプチドのうちの1つは、配列番号1のいくつかの遊離-NH2残基にカップリングされている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5を含む複数の前記ペプチドのうちの1つは、配列番号1の少なくとも4、5、6、7、又は8個の遊離-NH2残基にカップリングされている、ことを特徴とする請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5を含む複数の前記ペプチドのうちの1つは、配列番号1の20、19、18、17、16、又は15個未満の遊離-NH2残基にカップリングされている、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記カップリングは、ヘテロ二官能性架橋剤により実行される、ことを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記カップリングは、アミン基及びスルフィドリル基に対して反応性である架橋剤、好ましくはスルホ-N-γ-マレイミドブチリル-オキシスルホスクシンイミドエステル(sulpho-GMBS)によって実行される、ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
好ましくはヒト(Homo sapiens)、イヌ(Canis vulgaris)、ウマ(Equus caballus)、及びラクダ科のファミリー(ラクダ(Camelus)属)からなる群から選択される、患者の免疫化用である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
重症筋無力症の処置に使用される、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
10~1000マイクログラムの配列番号3、及び/又は、10~1000マイクログラムの配列番号5を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物、あるいは、
配列番号2又は配列番号3にカップリングされた30~3000マイクログラムの配列番号1、及び/あるいは、配列番号4又は配列番号5にカップリングされた30~3000マイクログラムの配列番号1を含む、ことを特徴とする請求項2~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
ワクチンアジュバントをさらに含む、ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
配列番号2又は配列番号3の8位のトリプトファン残基は化学的に修飾されていない、ことを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
配列番号2又は配列番号3の8位のトリプトファン残基は、そのインドール基の遊離炭素上で、好ましくは2,4,6-トリメトキシベンジル基によりアルキル化される、ことを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
重症筋無力症の処置又は予防に用いられる医薬品を製造する方法であって、
配列番号1である担体タンパク質を得る工程と、
前記担体タンパク質を、ヘテロ二官能性架橋剤によって活性化して、複数の-NH2基を、前記ヘテロ二官能性架橋剤と反応させる工程と、
活性化された前記担体タンパク質を、組み込まれていない前記架橋剤から分離する工程と、
活性化された前記担体タンパク質を、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択されるペプチドエピトープの1つと接触させて、前記ペプチドエピトープを、前記架橋剤によって活性化された前記担体タンパク質と反応させる工程と、
いくつかのペプチドエピトープにカップリングされた前記担体タンパク質を、未反応の基質及び反応副生成物から分離する工程と、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記架橋剤は、-NH2基及び-SH基に対して反応性であり、
前記ペプチドエピトープは、配列番号3又は配列番号5である、
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドエピトープにコンジュゲートされた前記担体タンパク質を凍結乾燥する工程をさらに含む、ことを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
いくつかのエピトープにカップリングされた前記担体タンパク質を、バッファを含む水溶液中に溶解させて、前記水溶液の指定されたpHを確実にする工程をさらに含む、ことを特徴とする請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原受容体模倣物による免疫化(ワクチン接種)による重症筋無力症の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
重症筋無力症(MG)は、骨格筋の弱化及び消耗の状態により特徴づけられる神経筋障害である。
【0003】
この疾患の根本原因は、(シナプス後)神経筋接合部のレベルでのアセチルコリン受容体数の減少である。この疾患は、前記受容体の特異的抗体による免疫系の攻撃によって引き起こされる。実際、前記抗体は、受容体に結合すると、細胞表面にて受容体数を減少させる。前記抗体はまた、アセチルコリンを結合する受容体の能力を引き下げて、シナプス後の筋膜に損傷を引き起こすこともある。前記抗体はIgGクラスであり、Tリンパ球に依存する。
【0004】
MGの臨床症状の発現は、神経筋接合部での病原性抗体の存在と相関している。
【0005】
今日まで、残念ながら治療法はほとんどない。治療法は、最初に、徴候を軽減することを目的とする。しかし、そのような治療法は煩わしく、長期間にわたって厳密なプロトコルが必要である。それらの治療法の有効性は多くの場合、部分的なものに過ぎず、これは、患者の生活様式になおも影響があることを意味する。
【0006】
MGの理想的な処置は、免疫応答の病原性構成要素、すなわちアセチルコリン受容体に対する抗体の選択的破壊からなる。
【0007】
これに関連して、抗原受容体模倣物による治療的ワクチン接種(免疫化)が有望である。
【0008】
欧州特許第2004217号明細書は、そのようなアプローチを記載している。アセチルコリン受容体の2つの相補ペプチドは、それらの-NH2末端を介してグルタルアルデヒドによって担体タンパク質キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にカップリングされている。ペプチドの一方は、病原性抗体、及びBリンパ球に基づく免疫応答を中和するような、患者による抗イディオタイプ抗体の生成を目的とし、他方のペプチドは、Tリンパ球に基づく応答を中和することを目的とする。したがって、これらの2つのペプチドは、相乗的応答をもたらす。
【0009】
しかし、臨床的応答は、有望ではあるが、更なる改善から利益を得るであろう。
【0010】
国際公開第2016/184963号パンフレットは、この疾患に対して有効なワクチンを生成することを目指して、AIDSウイルスの糖タンパク質gp41に由来する短い親水性ヘキサペプチドをタンパク質CRM-197又はKLH上にグラフトすることを記載している。架橋は、直接的に、又はヘテロ二官能性剤によって実行される。いくつかの理論上のペプチド/CRM-197比が言及されているが、とりわけより複雑な、あるいは、より親水性が低いペプチドについては、前記実施を記載している完全な例はない。
【0011】
欧州特許出願公開第2659906号明細書は、アルファ-シヌクレインのエピトープを記載しており、そしてまたCRM-197担体タンパク質又はKLHを示唆しているが、CRM-197上へのペプチドエピトープのカップリングについては記載していない。
【0012】
相補ペプチドによる免疫化(ワクチン接種)に基づくアプローチは、高い抗体力価が必要とされるため、担体タンパク質及びアジュバントによって引き起こされ得る有害な作用によって、さらに複雑化される。
【0013】
潜在的な各組成物は、適切な動物モデルにおいて付加的に試験されなければならず、これは複雑かつ高価であり、さらに倫理的な問題を提起するため、この種の研究は、その唯一の目的が新しい組成物のスクリーニングであるならば、不可能である。齧歯類で行われた研究は、誘導された筋無力症への治療効果を得るために双方のペプチドを投与する必要なしに、担体タンパク質にカップリングされた一方又は他方の相補ペプチドの有効性を示したが、生来の筋無力症を患うイヌでは、前述の2つのペプチドの相乗効果が特定されて、迅速かつ持続的な治療効果を得るのに不可欠であると判断された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第2004217号明細書
【特許文献2】国際公開第2016/184963号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第2659906号明細書
【発明の概要】
【0015】
本発明の第1の態様は、配列番号3、配列番号5及び/又はこれら2つを(相乗的に)混合したものから選択されるペプチドエピトープを含む医薬組成物である。
【0016】
これ以外にも、バリアントに従えば、本発明の一態様は、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択される1つ以上のペプチドエピトープを含む医薬組成物であり、この(これらの)ペプチドエピトープは、配列番号1の1つ以上の遊離-NH2残基に共有結合的にカップリングされている。
【0017】
有利には、一方では配列番号2もしくは配列番号3、及び/又は他方では配列番号4もしくは配列番号5を含む複数のペプチドのうちの1つが、配列番号1のいくつかの遊離-NH2残基に、好ましくは配列番号1の少なくとも4、5、6、7又は8個の遊離-NH2残基に、且つ/又は配列番号1の20、19、18、17、16又は15個未満の遊離-NH2残基にカップリングされている。
【0018】
好ましくは、カップリングは、ヘテロ二官能性架橋剤、有利にはアミン基及びスルフィドリル基に対して反応性である架橋剤、好ましくはsulpho-GMBSによって実行された。
【0019】
好ましくは、この医薬組成物は、好ましくはヒト(Homo sapiens)、イヌ(Canis vulgaris)、ウマ(Equus caballus)、及びラクダ科のファミリー(ラクダ(Camelus)属)からなる群から選択される、患者の免疫化(ワクチン接種)のためのものであり、有利には、好ましくはヒト患者における重症筋無力症の処置に用いられる。
【0020】
好ましくは、10~1000マイクログラム(好ましくは50~750マイクログラム、有利には100~500マイクログラム)の配列番号3、及び/又は、10~1000マイクログラム(好ましくは50~750マイクログラム、有利には100~500マイクログラム)の配列番号5(仮に配列番号3及び5のペプチドが担体タンパク質にカップリングされるとしても、値は「エピトープ当量」で表される)、あるいは、配列番号2もしくは配列番号3にカップリングされた50~3000マイクログラムの配列番号1、及び/又は、配列番号4もしくは配列番号5にカップリングされた50~3000マイクログラムの配列番号1が、ヒト(MG)患者内に注射される。
【0021】
好ましくは、(MGに対する免疫化/ワクチン接種に用いられる)この医薬組成物はさらに、アジュバントを含む。
【0022】
この医薬組成物において、配列番号2又は配列番号3の8位のトリプトファン残基は、化学修飾されていない。これ以外にも、前記残基は、そのインドール基の遊離炭素上で、好ましくは2,4,6-トリメトキシベンジル基により、アルキル化されている。
【0023】
本発明の一態様は、重症筋無力症の処置又は予防に用いられる医薬品の製造の方法であって、
配列番号1である担体タンパク質を得る工程と、
担体タンパク質(配列番号1)を、ヘテロ二官能性架橋剤によって活性化して、複数の-NH2基を、二官能性架橋剤と反応させる工程と、
活性化された担体タンパク質を、組み込まれていない架橋剤から分離する工程と、
活性化された担体タンパク質を、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択されるペプチドエピトープの1つと接触させて、当該ペプチドエピトープを、架橋剤によって活性化された担体タンパク質と反応させる工程と、
いくつかのペプチドエピトープにカップリングされた担体タンパク質を、未反応の基質及び反応副生成物から分離する工程と
を含む、方法である。
【0024】
好ましくは、この方法において、架橋剤は、-NH2基及び-SH基に対して反応性であり、ペプチドエピトープは、配列番号3又は配列番号5である。
【0025】
好ましくは、この方法はさらに、ペプチドエピトープにコンジュゲートされた担体タンパク質を凍結乾燥する工程、及び/又は、指定されたpHバッファを含む水溶液中に、いくつかのエピトープにカップリングされた担体タンパク質を溶解させる工程を含む。
【0026】
有利には、このバッファは、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、又は8.5のpHを確実にする。上記の値は、好ましくは目標値±0.2、さらにより好ましくは±0.1であり、あるいは、目標値にさらに近い。従って、pH3.0は、好ましくは、2.9よりも大きく、且つ、3.1より小さいpHを意味する。好ましいバッファpHは、酢酸pH4.5、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸pH6.5、ビス-トリスpH6.0、CHES(2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタン酸)pH9.5、クエン酸pH3.2(又は4.0もしくは5.5)、イミダゾールpH8、グリシンpH3.0(すなわちグリシン-HCl)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)pH7.5、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)pH6.2、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)pH7.0、PIPPS(ピペラジン-N,N’-ビス(3-プロパンスルホン)酸)pH3.7、及びリン酸pH5.0からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
患者における重症筋無力症(MG)の抗原受容体を模倣するペプチド(抗原受容体模倣物、ARM)による免疫化(ワクチン接種)による処置の有効性を高めるために、本発明者らは、ペプチドエピトープ、とりわけ疎水性でもあるペプチドエピトープと組み合わせて通常は用いられない担体タンパク質、配列番号1を用いるという直感を持った。
【0028】
配列番号1上への配列番号2及び4のペプチドのグラフトは、特に、これらのペプチドとコンジュゲート(カップリング)されたときの配列番号1の溶解特性の過度の変化に起因して、非常に複雑であった。上記変化を克服するための選択肢は、特定の溶媒を用いることができない、あるいは、その濃度を制限しなければならないため、医薬組成物の場合は制限される。例えば、アセトニトリルは、凍結乾燥工程がある場合、爆発の危険性があるので、50%以上の濃度で用いられることができない。
【0029】
しかし、初期のつまずきにも拘わらず、本発明者らは最終的に、これら全ての困難を克服するカップリング(コンジュゲーション)方法を得ることに成功した。本発明者らは、配列番号1、特に配列番号3及び配列番号5の分子上にいくつかのペプチドエピトープをグラフト(カップリング、コンジュゲート)することに成功した。
【0030】
従って、本発明の第1の態様は、配列番号3、配列番号5、及び/又はこれら2つの混合物を含む医薬組成物である。
【0031】
関連する態様は、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択される1つ以上のペプチドエピトープを含む医薬組成物であり、これらのペプチドエピトープは、配列番号1の1つ以上の遊離NH2残基上に共有結合的にコンジュゲート(カップリング)されている。
【0032】
有利には、複数のペプチドエピトープのうちの1つが、配列番号1のいくつかの遊離NH2残基、例えば配列番号1の少なくとも4、5、6、7又は8個の遊離NH2残基、好ましくは配列番号1の20、19、18、17、16、15又は14個未満の遊離NH2残基上にコンジュゲート(カップリング)されている。
【0033】
好ましくは、カップリングは、とりわけいくつかのペプチドエピトープがカップリングされた場合に、ヘテロ二官能性架橋剤によって実行された。
【0034】
好ましくは、カップリングは、アミン基及びスルフィドリル基に対して反応性である架橋剤、有利にはsulpho-GMBSによって実行された。その場合、カップリングされることとなるペプチドエピトープは、配列番号3又は配列番号5であった。実際には、配列番号3のエピトープが、配列番号1の1つの分子にカップリングされ、配列番号5のエピトープが、配列番号1の別の分子にカップリングされたが、バリアントでは、2つのエピトープが、配列番号1の同じ分子上にカップリングされた。
【0035】
この医薬組成物は、例えばMGの処置に用いられ、好ましくはヒト(Homo sapiens)、イヌ(Canis vulgaris)、ウマ(Equus caballus)、及びラクダ科のファミリー(ラクダ(Camelus)属)からなる群から選択される、患者のワクチン接種に有利である。
【0036】
有利には、配列番号2もしくは配列番号3、及び/又は配列番号4もしくは配列番号5にカップリングされた、30~3000マイクログラム、好ましくは150~2000マイクログラム、有利には300~1500マイクログラムの配列番号1が、注射により(ヒト)患者に投与される。
【0037】
実際には、これらの値は、患者に応じて適合され、且つ/又はペプチドエピトープの相対含量の関数として正規化され、カップリング価が高いほど、コンジュゲートの注射がより少量になることを意味する。
【0038】
有利には、患者は、(配列番号2又は3及び/あるいは配列番号4又は5とコンジュゲートされている)配列番号1の注射を経時的に数回、例えば数週間後の2回目の注射、続いて数週間後の3回目の注射を受け、あるいは、経時的にさらに多くの注射を受ける。
【0039】
10~1000、好ましくは50~750、例えば100~500マイクログラムの配列番号2又は配列番号3を用いて、並びに、10~1000、好ましくは50~750、例えば100~500マイクログラムの配列番号4又は配列番号5を用いて、良好な結果が得られた。これらのペプチドエピトープは、配列番号1に共有結合的にカップリングされている(コンジュゲートされている)。
【0040】
有利には、医薬組成物は、アジュバント、例えばエマルジョン、CpG単位を有するオリゴヌクレオチド、及びアルミニウム塩、と用いられるか、あるいは、組み合わされる。好ましいアジュバントは、エマルジョン(水中油型及び油中水型)、又はCpG単位を有するオリゴヌクレオチドである。
【0041】
好ましくは、医薬組成物は、患者へのその投与を考慮して、指定されたpHを確実にするバッファを含む水溶液中にあるか、又はそのような水溶液中にあるようになる。
【0042】
このバッファpHは、有利には、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、又は8.5である。上記の値は、好ましくは目標値±0.2、さらにより好ましくは±0.1であり、あるいは、目標値にさらに近い。従って、pH3.0は、好ましくは、2.9よりも大きく、且つ、3.1より小さいpHを意味する。
【0043】
好ましいバッファpHは、酢酸pH4.5、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸pH6.5、ビス-トリスpH6.0、CHES(2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタン酸)pH9.5、クエン酸pH3.2(又は4.0もしくは5.5)、イミダゾールpH8、グリシンpH3.0、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)pH7.5、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)pH6.2、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)pH7.0、PIPPS(ピペラジン-N,N’-ビス(3-プロパンスルホン)酸)pH3.7、及びリン酸pH5.0からなる群から選択される。
【0044】
好ましくは、これらのpHバッファの酸/塩基は、5~50mM、好ましくは20~50mMの濃度にて用いられる。pH値は、好ましくは±0.2の範囲内である。従って、「pH5.0」は、厳密に5.0のpHが好ましいとしても、4.8~5.2を意味する(本実施例ではpHの範囲を説明する)。有利には、好ましくはアルギニン及びグルタミン(それぞれ50mM)、トリメチルアミンN-オキシド(500mM)、Tween(登録商標)20(1%;w:v)、トレハロース(500mM)、及びグリセロール(20%;v:v)から選択される添加剤が、pHバッファと組み合わされる。
【0045】
この医薬組成物において、配列番号2又は配列番号3の8位のトリプトファン残基は、必ずしも化学修飾されていなくてよい。
【0046】
しかし、有利には、配列番号2又は配列番号3の8位のトリプトファン残基は、欧州特許第2004217号明細書のように、そのインドール基の遊離炭素上で、例えば2,4,6-トリメトキシベンジル基によりアルキル化されている。
【0047】
本発明の関連する態様は、MGの処置又は予防に用いられる医薬品の製造の方法であって、
配列番号1である担体タンパク質を得る工程と、
前記担体タンパク質を、ヘテロ二官能性架橋剤によって活性化して、複数の-NH2基を、前記二官能性架橋剤と反応させる工程と、
活性化された担体タンパク質を、組み込まれていない架橋剤から分離する工程と、
前記活性化された担体タンパク質を、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択されるペプチドエピトープの1つと接触させて、前記ペプチドエピトープを、架橋剤によって活性化されたこの担体タンパク質と反応させる工程と、
いくつかのペプチドエピトープにカップリングされた担体タンパク質を、未反応の基質及び反応副生成物から分離する工程と、
場合によっては、いくつかのペプチドエピトープにカップリングされた担体タンパク質を、水溶液の指定されたpHを確実にするバッファを含む当該水溶液に入れる工程と,
を含む、方法である。
【0048】
このバッファpHは、有利には、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0又は8.5である。上記の値は、好ましくは目標値±0.2、さらにより好ましくは±0.1であり、あるいは、目標値にさらに近い。従って、pH3.0は、好ましくは、2.9よりも大きく、且つ、3.1より小さいpHを意味する。好ましいバッファpHは、酢酸pH4.5、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸pH6.5、ビス-トリスpH6.0、CHES(2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタン酸)pH9.5、クエン酸pH3.2(又は4.0もしくは5.5)、イミダゾールpH8、グリシンpH3.0(すなわちグリシン-HCl)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)pH7.5、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)pH6.2、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)pH7.0、PIPPS(ピペラジン-N,N’-ビス(3-プロパンスルホン)酸)pH3.7、及びリン酸pH5.0からなる群から選択される。
【0049】
医薬組成物に関する本発明の態様について上述したように、pH値は、好ましくは±0.2の範囲内である。従って、「pH5.0」は、厳密に5.0のpHが好ましいとしても、4.8~5.2を意味する(本実施例ではpHの範囲を説明する)。
【0050】
有利には、好ましくはアルギニン及びグルタミン(それぞれ50mM)、トリメチルアミンN-オキシド(500mM)、Tween(登録商標)20(1%;w:v)、トレハロース(500mM)、及びグリセロール(20%;v:v)から選択される添加剤が、pHバッファと組み合わされる。
【0051】
好ましくは、この方法において、架橋剤は、-NH2基及び-SH基に対して反応性であり、ペプチドエピトープは、配列番号3又は配列番号5である。
【0052】
有利には、とりわけ有機溶媒が用いられた場合、この方法はさらに、ペプチドエピトープにコンジュゲートされた担体タンパク質の凍結乾燥の最終工程を含む。前記方法が有機溶媒なしで実行される場合、凍結乾燥工程は好ましくない。
【0053】
従って、本発明はまた、この方法によって得ることができる、配列番号1にカップリングされた配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5からなる群(好ましくは、配列番号3又は配列番号5)から選択されるペプチドエピトープに関する。
【0054】
有利には、この方法によって得られる、配列番号1にカップリングされた配列番号3、及び配列番号1にカップリングされた配列番号5の双方が、MGを患う患者に投与される。
【0055】
本発明の他の特徴及び利点は、以下に記載する非限定的な説明及び実施例を参照することによって理解される。
【実施例
【0056】
本発明は、上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に記載した範囲内のまま多くの変更が可能である。
【0057】
実施例1:配列番号1及び配列番号2~4のペプチドの合成
配列番号1は、大腸菌(Escherichia coli)の特定の株の発酵によって得られた。タンパク質(成熟体、配列番号1)が周辺質腔内に分泌されるように配列が修飾された。タンパク質は、例えば、2021年2月26日に出願されたベルギー特許出願第2021/5137号明細書に記載されるものに従って得られた。タンパク質は、例えば2021年2月26日に出願されたベルギー特許出願第2021/5138号明細書に記載されるように、濾過及びクロマトグラフィによって回収且つ精製される。用いられた試薬はいずれも、動物起源でない。得られるタンパク質は、臨床用途に適合する純度のものである。
【0058】
配列番号2、3、4及び5のペプチドが、固相合成によって得られた。しかし、他の合成方法、又は発酵方法も可能である。実際には、ペプチドのC末端がポリマー支持体に固定されて、ペプチド鎖が形成されてから、カップリングサイクルを繰り返すことによってN末端まで伸長される。組み込まれることとなるアミノ酸のカルボキシ末端は、活性化されてから、樹脂に固定されたペプチドのアミノ末端にカップリングされた。アミノ基は、Fmoc基によって保護され、そして他の潜在的に反応性の官能基は、他の基によって保護される。伸長されることとなるペプチドにアミノ酸がグラフトされる際には、過剰なアミノ酸を除去して洗浄工程を経た後に、ピペリジンを加えることによってFmoc基が切断される。樹脂の切断、及びアミノ酸の側鎖の官能基の脱保護は、トリフルオロ酢酸(TFA)を加えることによって実行される。
【0059】
特定の場合において、配列番号2又は配列番号4のトリプトファン残基は、アミド-TmobをTFAに加えることによって、インドール基上でアルキル化される。
【0060】
樹脂の切断、脱保護、精製(例えば逆相HPLC)、並びに、濾過(0.45μm)後、ペプチドが、質量分析(MALDI-TOF)及びHPLCによって分析された。HPLCの工程は、水(0.1%TFA)の、アセトニトリル勾配(0.1%TFA)との混合、及びUV検出(215及び280nm)によって毎回実行される。純度は、90%超、さらには95%超でなければならない。実際に、本発明者らは、純度97%以上のペプチドを得た。
【0061】
実施例2:グルタルアルデヒドに対するEDCによるカップリング。
最初に、本発明者らは、欧州特許第2004217号明細書に記載される方法を用いてカップリングを実行しようとしたが、KLHの代わりに、配列番号1上にカップリングされることとなる配列番号2及び配列番号4のペプチドに適用した。
【0062】
この種のカップリングは機能するように見えるが、実際には満足できるものではない。実際、本発明者らは、得られた分子を精製又は滅菌するのが困難であり、バッチごとに均一性が欠如していることを観察した。1つの考えられる説明は、ペプチドがカップリングされると、未修飾タンパク質の親水性が過剰に変換されて、担体タンパク質が下流の処理に使用できなくなるというものである。従って、配列番号1のタンパク質は担体として有用であるが、この有用性は、ペプチドエピトープのカップリングの状況でははっきりしない。
【0063】
しかし、本発明者らは、それにもかかわらず、別のカップリング剤、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)(例えばPierceから入手可能)を選択することによってこの困難を克服しようと試みた。これは、カルボキシル基を第一級アミンにカップリングさせる薬剤である。EDCは、カルボキシル基と反応して、反応中間体O-アシルイソ尿素を形成する。この中間体がアミンと反応しなければ、加水分解を起こし、カルボキシル基を再生する。
【0064】
この目的のために、本発明者らは、1つの工程でカップリングする方法、並びに、2つの工程でカップリングする方法を開発した。
【0065】
1つの工程での方法、例えばグルタルアルデヒドに基づく方法では、担体タンパク質(配列番号1)、EDC、及び配列番号2又は配列番号4のエピトープが、磁気撹拌されながら同じ容器内で一緒に収集された後、沈殿物が回収され、Sephadex(商標)G50により精製されて、凍結乾燥される。
【0066】
2つの工程での方法では、最初にEDCと接触させることによって配列番号1を活性化して、配列番号2又は配列番号4のエピトープが添加され、その後に、分離、精製、並びに、凍結乾燥が行われる。
【0067】
グルタルアルデヒドに関して、反応生成物は、まだ使用不可能な凝集体(収率損失と同義)、及び、溶液中の配列番号1のかなりの部分(反応しなかった(又は、反応したが不十分であった)タンパク質、すなわち第2の収率損失と同義)が残っていても、使用可能である。さらに、カップリングの有効性は、バッチごとにかなり異なり、コンジュゲートの溶解度は並程度、又は不十分ですらあり、このためにさらに、濾過による滅菌を複雑にしている。
【0068】
収率は、1つの工程での方法の場合、並程度であった(配列番号2のグラフト化については12%、配列番号4のグラフト化については30%)。しかしながら、収率は、カップリングが2つの工程(配列番号4を伴う配列番号1)で実行される場合、例えば60%に増大する。配列番号1対配列番号2又は配列番号1対配列番号4モル分布比は、1つの工程でのカップリング方法については2未満であり、2つの工程でのカップリング方法については2超である。
【0069】
実施例3:GMBSを用いた、ペプチドとのCRM197タンパク質のカップリング。
本発明者らは、25mgのCRM197担体タンパク質(配列番号1)を2.5mlの水溶液中に溶解させた。担体タンパク質は、臨床用途に適合するバッチ由来のものであり、エンドトキシン含量は検出限界未満である。
【0070】
本発明者らは、19mgのsulpho GMBS(Pierce;リファレンス22324;N-γ-マレイミドブチリル-オキシスルホスクシンイミドエステル)を秤量してから、2.5mlのコンジュゲーション培地(100mMのリン酸緩衝生理食塩水、PBS、及び10mMのエチレンジアミン四酢酸、EDTA)及び2.5mlのCRM溶液を加えた。この混合液は磁気撹拌により4℃にて1時間撹拌される。
【0071】
本発明者らは、PBSバッファ(pH7.2)で平衡化したSephadex(商標)G50のカラムを通過させ、280nmでの配列番号1の回収をモニターすることによって、活性化された配列番号1を精製した。
【0072】
本発明者らは、280nmにて吸収ピークを有する画分(CRMタンパク質-GMBS)を、配列番号3(25mg、DMSO中に溶解)を含有するボトルに移して、磁気撹拌によって4℃にて2時間撹拌した。配列番号1と配列番号3との間で形成されたコンジュゲートが沈殿する。遠心分離後、ペレットはアセトニトリル中に溶解される。
【0073】
本発明者らは、1mlの1Mシステインを加えて、30分間撹拌した。
【0074】
本発明者らは、50ml Falcon(登録商標)チューブに反応混合液を移した。遠心分離後、ペレットは分離されて、水:アセトニトリル混合液(70:30 w:w)中に入れられる。
【0075】
本発明者らは、Sephadex(商標)G50カラムで精製を実行して、280nmでの吸収を再度モニターした。
【0076】
本発明者らは、精製されたコンジュゲートを凍結乾燥した。
【0077】
上記の工程は全て、後の臨床用途に適合する条件で実行された。次いで、臨床用途を目的とした安定性の研究が行われた。-20℃及び+5℃の温度にて貯蔵した粉末は、数ヶ月間安定なままである。これは、促進老化(25℃でのストレス)に少なくとも14日間耐える(化学的残留物又は二次構造の分解を評価するため、SDS-PAGE、MALDI-TOF、キャピラリー電気泳動、不変(unchanged)、及び赤外線(FTIR)による測定)。
【0078】
分析は、配列番号1が、配列番号3のペプチドと非常に支配的に反応したことを明らかにする。収率64%が得られた。良好な収率に加えて、配列番号1と配列番号3間のモル比は8よりも大きい。このカップリング収率について、13の値も記録された。さらに高い比率も得られたが、その犠牲としてカップリング収率は低くなった(例えば36及び47%)。
【0079】
実際には、ヘテロ二官能性剤とカップリングさせる方法は、とりわけ2つの工程で実行される場合、100μgの配列番号1に対して50μgを超えるペプチドのカップリング速度を可能にする。
【0080】
配列番号3又は5のいくつかのペプチドにカップリングされた配列番号1(下記参照)は、(例えば電気泳動によって)容易に分化される。なぜなら、10個のペプチドがカップリングされているならば、その分子量は、58kDaから約78kDaまで変化するか、あるいは、より多くの、例えば、13もしくは14個のペプチドが配列番号1の1つの分子にカップリングされているならば、約90kDaに変化するからである。
【0081】
実施例4:
配列番号5のペプチドについても、同じプロトコルが使用されて、非常に良好なカップリング収率及び非常に高いモル比となる。
【0082】
実施例5:
実施例3のペプチド(182μg、又は配列番号3の60μgと同等)は、実施例4のペプチド(182μg、又は配列番号5の60μgと同等)と組み合わされる。アジュバントは、この混合物又はプラセボに加えられる。有効成分又はプラセボは、MGを患うヒト患者のコホートに二重盲検状態で注射される。実際には、3回の連続注射が実行される(1、5、及び13週目)。次いで、同じプロトコルが、患者の第2のコホートのために設計されるが、さらに多くの活性成分を伴う。最後に、処置の長期忍容性及び有効性を評価するために、この研究は「オープン」条件で継続される。毎注射時に、患者は、いかなる副作用についても綿密に監視され、最初は病院において高レベルで、次いで自宅で監視される。免疫原性アッセイ用の血液試料が採取される。
【0083】
生成されたデータは、処置の良好な忍容性(有効成分は、プラセボよりも多くの副作用を引き起こさない)及び有効性があると結論付けることができる。
【配列表】
2024510906000001.app
【国際調査報告】