(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】関心対象のタンパク質を精製するための方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/18 20060101AFI20240305BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C07K1/18 ZNA
C12N15/10 112Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552273
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2022054912
(87)【国際公開番号】W WO2022180264
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523324797
【氏名又は名称】エクスプレス バイオロジクス
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドーカン マルク
(72)【発明者】
【氏名】ルドン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA11
4H045DA83
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA21
4H045GA23
(57)【要約】
グラム陰性菌の培養物から関心対象の生体分子(タンパク質、DNA)を精製するための方法であって、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを使用して内毒素を除去すること、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを使用して内毒素を除去すること、及び細菌性夾雑物の特異的浸出のためのクロマトグラフィーにおいて8.0~9.0のpH及び2.5M~3Mの塩の濃度を有する溶液を使用することを含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌培養物から内毒素を含有する関心対象の生体分子を精製するための方法であって、
-溶液中で前記関心対象の生体分子のコンディショニングを行う工程と、
-クロマトグラフィー工程であって、
i.前記関心対象の生体分子は、支持体に結合され、
ii.前記支持体に結合された前記関心対象の生体分子は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液で洗浄され、次いで、前記支持体に結合された前記関心対象の生体分子がポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない溶液で洗浄され、及び
iii.前記支持体に結合された前記関心対象の生体分子は、溶出される、
クロマトグラフィー工程と、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記関心対象の生体分子がDNAであり、
少なくとも2カラム体積の、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む前記洗浄溶液が前記支持体に適用され、
少なくとも2カラム体積の、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない溶液を含む前記洗浄溶液が溶出前に適用され、
前記洗浄溶液は10~60mS/cm、好ましくは40mS/cm~60mS/cm、さらにより好ましくは50~60mS/cmの伝導度を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
関心対象のタンパク質を含む細菌培養物から当該関心対象のタンパク質を精製するための方法であって、
(a)溶液中で前記関心対象のタンパク質のコンディショニングを行う工程と、
(b)保持されるべき第1の画分中の前記関心対象のタンパク質と、除去されるべき1つ以上の画分中の夾雑物とを回収するための一連の精製工程であって、前記夾雑物は内毒素を含む、一連の精製工程と、
を含み、
内毒素を除去することは、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液を添加する工程を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記一連の精製工程は、陰イオン交換樹脂を用いる捕捉クロマトグラフィー及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む、ことを特徴とする請求項3に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項5】
陰イオン交換樹脂を使用する第1の捕捉クロマトグラフィー、及び、次いで第2の疎水性相互作用クロマトグラフィーを行い、
前記第1のクロマトグラフィー及び前記第2のクロマトグラフィーは、それぞれ搭載工程、洗浄工程及び溶出工程を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項6】
内毒素を除去することは、前記第1のクロマトグラフィー及び/又は前記第2のクロマトグラフィーの前記洗浄工程中に行われる、ことを特徴とする先行する請求項3~5のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項7】
前記内毒素は、0.01%~1%(w:v)、好ましくは0.05~0.5%(w:v)、好ましくは0.1~0.2%(w:v)、例えば約0.15%(w:v)のポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの濃度を使用して除去される、ことを特徴とする先行する請求項3~6のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項8】
前記第1のクロマトグラフィー及び/又は前記第2のクロマトグラフィーの内毒素は、前記カラム体積の1~10倍の体積、好ましくは前記カラム体積の約5倍の体積で除去される、ことを特徴とする先行する請求項3~7のいずれかに記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項9】
前記関心対象のタンパク質は、配列番号1である、ことを特徴とする先行する請求項3~8のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項10】
前記関心対象のタンパク質は、グラム陰性菌の細胞膜周辺腔中に分泌される、ことを特徴とする先行する請求項3~9のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項11】
陰イオン交換樹脂を使用する前記捕捉クロマトグラフィーは、強交換体を有する、ことを特徴とする先行する請求項3~10のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項12】
前記疎水性相互作用クロマトグラフィーは、フェニル型のものである、ことを特徴とする先行する請求項3~11のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項13】
疎水性支持体を使用する前記クロマトグラフィーの前記搭載及び/又は洗浄工程は、8~9のpHで、及び/もしくは2~3Mの塩の濃度の存在下で行われ、並びに/又は、0.1g/L~5g/L、好ましくは0.3~2g/Lの搭載比を有する、請求項12に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項14】
前記疎水性相互作用クロマトグラフィーの前記溶出工程は、105mS/cm未満、好ましくは80mS/cm未満及び/又は40mS/cm超の電気伝導度を有する溶液を用いて行われる、ことを特徴とする請求項12又は13に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項15】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーの前記搭載工程は、2.5~3.5g/L(タンパク質重量:体積)の搭載比で行われ、並びに/又は、前記溶出工程は、前記搭載及び/又は洗浄工程の間に使用される電気伝導度より大きい又は2倍の電気伝導度を有する溶液を使用して行われる、ことを特徴とする先行する請求項3~14のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項16】
Mustang(登録商標)Q、Mustang(登録商標)E、又は、Sartobind(登録商標)Q、又は、Sartobind(登録商標)STIC陰イオン交換膜を通過させる工程をさらに含む、ことを特徴とする先行する請求項3~15のいずれか一項に記載の関心対象のタンパク質を精製するための方法。
【請求項17】
滅菌ろ過工程をさらに含む、ことを特徴とする先行する請求項3~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組成物から内毒素を除去するための、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの使用。
【請求項19】
除去されるべき内毒素を含む前記組成物は、DNA(プラスミド)、mRNA及びペプチド、好ましくはペプチドから選択される関心対象の生体分子をさらに含む、ことを特徴とする請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記組成物は、薬学的用途、好ましくは、治療的ワクチン接種などのワクチン接種のためのものである、ことを特徴とする請求項18又は19に記載の使用。
【請求項21】
前記内毒素の含有量(EU)は、当初のEU量に対して20%に、好ましくは10%に、5%に、2%に、好ましくは1%以下に低減される、ことを特徴とする先行する請求項18~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
フェニル基を有する疎水性支持体上のクロマトグラフィーカラムからの細菌性夾雑物の特異的な浸出のための、8.0~9.0のpH及び2.5M~3Mの塩の濃度を有する洗浄溶液の使用。
【請求項23】
前記洗浄溶液は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルをさらに含む、ことを特徴とする請求項22に記載の使用。
【請求項24】
陰イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは強陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して細菌性夾雑物LivKから関心対象の生体分子を分離するための、7.5~8.5、好ましくは8.0±0.2のpH及び12.0mS/cm以下、好ましくは10mS/cm未満、及び/又は7mS/cm超の伝導度を有する溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラム陰性菌を発酵させることによって得られる関心対象のタンパク質を精製すること、特にフェノール系溶媒を使用せずに内毒素を精製することに関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性菌からタンパク質を発酵させることは、現在、容易さ及びコストの観点から使用されている。
【0003】
しかし、これらの細菌は、「内毒素」としても知られる、除去が困難であるリポ多糖型成分を合成する。
【0004】
これらの成分が、患者に投与されることが意図されるタンパク質に付随される場合、特に、例えば治療的ワクチン接種において大量が投与されなければならない場合、より大量の内毒素を患者に同時に投与することを意味するので、これらの成分は特に問題である。
【0005】
グラム陰性菌によって合成された関心対象のタンパク質が精製されるのを可能にする、Triton(登録商標)X-100などのフェノール系界面活性剤を使用するクロマトグラフィー及び洗浄の様々な方法が開発されている。
【0006】
しかし、これらの方法は、内毒素を十分に除去しないか、又は、環境問題を意味するフェノール系界面活性剤を使用することを伴うか、あるいは、あまり効果的ではないMustang(登録商標)もしくはSartobind(登録商標)などの膜を使用して特定のクロマトグラフィーが追加されることを伴うか、もしくは必要とする。
【0007】
“Detergents for nucleic acid purification in anion exchange chromatography”Research Disclosure,2021,ISSN 0474-4353は、内毒素を含有するDNAを精製するための、還元されたTriton X-100を含む種々の界面活性剤の特性を静的モードで比較する。処理後、0.4内毒素単位(EU)/μgのプラスミドが残存し、これはTriton X-100で洗浄された場合の0.30未満と比較して高い値であり、他の界面活性剤は、より良好な精製を可能にする。
【0008】
米国特許出願公開第2003/041346号明細書は、Triton X-114による分配を伴う酵素P450oxを精製するための方法における還元型Triton X-100の使用を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/041346号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“Detergents for nucleic acid purification in anion exchange chromatography”Research Disclosure,2021,ISSN 0474-4353
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、細菌培養物(例えば、グラム陰性、場合によりグラム陽性)から内毒素を含有する関心対象の生体分子を精製するための方法であって、
溶液中で関心対象の生体分子のコンディショニング(conditioning)を行う工程と、
クロマトグラフィー工程であって、
(i)関心対象の生体分子が支持体に結合され、
(ii)支持体に結合された関心対象の生体分子がポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液で洗浄され、次いで、支持体に結合された関心対象の生体分子がポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない溶液で洗浄され、及び
(iii)支持体に結合された関心対象の生体分子が溶出される、
クロマトグラフィー工程と、
を含む、方法である。好ましくは、関心対象の生体分子は、DNA、RNA又はタンパク質である。
【0012】
好ましくは、0.01%~1%(w:v)、好ましくは0.05~0.5%(w:v)、好ましくは0.1~0.2%(w:v)、例えば約0.15%(w:v)のポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルが、この分子を含む洗浄工程中に使用される。
【0013】
有利には、生体分子を結合するための支持体はクロマトグラフィーであり、好ましくは、このクロマトグラフィーは、搭載工程、洗浄工程及び溶出工程を含む。
【0014】
好ましくは、この方法では、クロマトグラフィーは陰イオン交換樹脂を使用する。
【0015】
好ましくは、内毒素は、0.01%~1%(w:v)、好ましくは0.05~0.5%(w:v)、好ましくは0.1~0.2%(w:v)、例えば約0.15%(w:v)のポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの濃度を使用して除去される。
【0016】
好ましくは、クロマトグラフィーの内毒素は、カラム体積の2倍~20倍の体積、好ましくはカラム体積(CV)の約5倍の体積で除去される。
【0017】
したがって、典型的には、少なくとも2カラム体積(CV)、好ましくは少なくとも3CV、好ましくは2~10CV又は3~7CV、好ましくは約5CVの、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液がクロマトグラフィーに適用され、続いて、少なくとも2カラム体積(CV)、好ましくは少なくとも3CV、好ましくは2~10CV又は3~7CV、好ましくは約5CVの、界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテル)を含まない洗浄溶液が適用される。
【0018】
これにより、内毒素含有量(EU)を、この工程の前のEU量に対して、20%、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、又はさらにより好ましくは2%以下、好ましくは1%以下に低下させることができる。
【0019】
実際には、関心対象の生体分子がプラスミドである場合、関心対象の生体分子はカラム、例えば陰イオン交換樹脂上に搭載され、次いで、プラスミドがカラムに結合されるように、界面活性剤を含まず、適切なイオン強度を有する溶液中で平衡化され、例えば、イオン強度は、有利には、10~60mS/cmである(塩は、有利には、実質的にNaClであり、塩は、関心対象の生体分子の結合を確実にするが、可能な限り夾雑物の結合を少なくするように添加され、洗浄及び溶出を単純化しながら良好な結合能力を提供するので、20、30、40、さらには50mS/cmの最小値が好ましく、特に40~60mS/cmの値の範囲(さらには50~60mS/cm)が特に好ましい)。
【0020】
典型的には、2~10CV、例えば3~7CVのこのような溶液がカラムに適用される。次に、界面活性剤なしで洗浄する前に、界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシル)が濃縮された同じ溶液がカラムに適用され(上記のように、典型的には2~10CV、例えば3~7CV)、次いで、例えば、さらにはるかに濃縮された生理食塩水溶液、例えば1mol/リットルのNaClを適用することによって溶出する。
【0021】
有利には、溶出は、50~60mS/cmの伝導度を有するこの(又はある)溶液が1mol/リットルのNaClを含む溶液によって徐々に置き換えられる勾配を適用することによって起こる。これにより、プラスミドの再現性のある溶出及び迅速な放出を確保する。このような勾配は、線形又は非線形でよい。
【0022】
本発明の関連する態様は、関心対象のタンパク質を含む細菌培養物(例えば、グラム陰性、場合によりグラム陽性)から関心対象のタンパク質を精製するための方法であって、
(a)溶液中で関心対象のタンパク質のコンディショニングを行う工程と、
(b)保持されるべき第1の画分中の関心対象のタンパク質と、除去されるべき1つ以上の画分中の夾雑物とを回収するための一連の精製工程であって、夾雑物は内毒素を含む、一連の精製工程と、
を含み、
内毒素を除去することは、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液を添加する工程を含む、方法である。
【0023】
好ましくは、この方法の一連の精製工程は、陰イオン交換樹脂を使用する捕捉クロマトグラフィー(capture chromatography)及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィーを含み、有利には陰イオン交換樹脂を使用する第1の捕捉クロマトグラフィーと、次いで第2の疎水性相互作用クロマトグラフィーとが行われ、これらの第1のクロマトグラフィー及び第2のクロマトグラフィーは、それぞれ搭載工程、洗浄工程及び溶出工程を含む。
【0024】
有利には、内毒素は、第1のクロマトグラフィー及び/又は第2のクロマトグラフィーの洗浄工程中に除去され、各クロマトグラフィーは、有利には、搭載工程、洗浄工程及び溶出工程を含む。
【0025】
好ましくは、内毒素は、0.01%~1%(w:v)、好ましくは0.05~0.5%(w:v)、好ましくは0.1~0.2%(w:v)、例えば約0.15%(w:v)のポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの濃度を使用して除去される。
【0026】
好ましくは、第1のクロマトグラフィー及び/又は第2のクロマトグラフィーの内毒素は、カラム体積の1~10倍の体積、好ましくはカラム体積の約5倍の体積で除去される。
【0027】
この方法は、関心対象のタンパク質が配列番号1である場合、及び/又は、関心対象のタンパク質がグラム陰性菌の細胞膜周辺腔内に分泌される場合に特に有利である。
【0028】
好ましくは、この方法では、陰イオン交換樹脂を使用する捕捉クロマトグラフィーは強交換体を有し、及び/又は、疎水性相互作用クロマトグラフィーはフェニル型のものである。
【0029】
好ましくは、疎水性支持体を使用するクロマトグラフィーの搭載及び/又は洗浄工程は、8~9のpHで、及び/又は2~3Mの塩の濃度の存在下で行われ、及び/又は0.1g/L~5g/L、好ましくは0.3~2g/Lの搭載比を有する。
【0030】
好ましくは、疎水性相互作用クロマトグラフィーの溶出工程は、105mS/cm未満、好ましくは80mS/cm未満及び/又は40mS/cm超の電気伝導度を有する溶液を用いて行われる。
【0031】
好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィーの搭載工程は、2.5~3.5g/L(タンパク質重量:体積)の搭載比で行われ、並びに/又は前記溶出工程は、前記搭載及び/又は洗浄工程中に使用される電気伝導度より大きい、あるいは、2倍の電気伝導度を有する溶液を使用して行われる。
【0032】
好ましくは、この精製は、Mustang(登録商標)Q、Mustang(登録商標)E又はSartobind(登録商標)Q又はSartobind(登録商標)STIC陰イオン交換膜を通過させる工程及び/又は滅菌ろ過工程をさらに含む。
【0033】
本発明の別の関連する態様は、好ましくは、DNA(プラスミド)、(m)RNA及びペプチド、好ましくはペプチド、から選択される関心対象の生体分子をさらに含む組成物中の内毒素を除去するための、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの使用である。
【0034】
これは、関心対象の生体分子を含むこの組成物の薬学的使用、好ましくは、治療的ワクチン接種などのワクチン接種に有利である。
【0035】
本発明の別の関連する態様は、フェニル基を使用する疎水性支持体を使用するクロマトグラフィーカラムからの細菌性夾雑物の特異的浸出のための、8.0~9.0のpH及び2.5M~3Mの塩の濃度を有する洗浄溶液の使用である。
【0036】
好ましくは、この洗浄溶液は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルをさらに含む。
【0037】
本発明の別の関連する態様は、陰イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは強陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して細菌性夾雑物LivKから関心対象の生体分子を分離するための、7.5~8.5、好ましくは8.0±0.2のpHと、12.0mS/cm以下、好ましくは10mS/cm未満、及び/又は7mS/cm超の伝導度とを有する溶液の使用である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
多数の関心対象の生体分子、例えばペプチドが、グラム陰性菌を発酵させることによって産生され、産生において、例えば、関心対象のペプチドは細胞膜周辺腔への標的化配列に接合され、成熟ペプチドの回収を簡略化する。微生物における発酵に対するこのアプローチ又は他のアプローチに伴う固有の問題の1つは、内毒素(EU)の存在であり、これは、少なくとも許容され得る閾値まで、内毒素が除去されなければならないことを意味する。「Triton(登録商標)」のようなフェノール系界面活性剤を使用することは、EUの含有量を低下させる。しかし、このアプローチは環境問題を引き起こす。本発明者らは、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルが、Triton(登録商標)X-100のフェノール(芳香族)基とは異なり、不飽和中心構造を基礎としているが、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルは有利に使用され得るのに対して、他の非フェノール系界面活性剤はEUを効果的に除去しないか、又は下流の問題を引き起こすことを特定した。
【0039】
したがって、本発明は、グラム陰性菌培養物から関心対象の生体分子(タンパク質)を精製するための方法に関する。この方法は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルで洗浄することによってEUを除去することを含む。1つの特に有利なタンパク質は、CRM 197(配列番号1)である。このタンパク質は、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)の細胞膜周辺腔に分泌される。しかし、本発明は、(例えば、細胞膜周辺腔に標的化されない、細胞質の、分泌型の、他のグラム陰性宿主細胞によって、さらには同じく内毒素を産生する他の微生物において発酵された)他の手段によって得られた配列番号1に、又は他のタンパク質、さらには患者に注射され得るような細菌中で産生された他の生体分子、例えば、DNA(例えば、プラスミド)又はRNA(例えば、メッセンジャーRNA)に適用する。
【0040】
関心対象のタンパク質は、細胞膜周辺腔内で発現される場合、有利には浸透圧ショックを引き起こすことによって回収されてもよく、浸透圧ショックは、周辺質内容物を放出させ、したがって、なお細胞内に捕捉されている大量の夾雑細菌産物が容易に分離されることを可能にする。
【0041】
好ましくは、本方法は、関心対象のタンパク質(例えば、配列番号1)を緩衝溶液中で回収する予備工程を含む。
【0042】
有利には、この精製方法は、一連のクロマトグラフィー工程、好ましくは陰イオン交換樹脂を使用する捕捉クロマトグラフィー及び/又は疎水性支持体を使用するクロマトグラフィー(疎水性相互作用クロマトグラフィー)を含む。
【0043】
好ましくは、各クロマトグラフィー工程は、搭載工程、洗浄工程及び溶出工程を含む(それぞれが含む)。
【0044】
これにより、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの存在下での洗浄と、一方又は両方のクロマトグラフィー洗浄工程、すなわち、陰イオン交換樹脂を使用する捕捉クロマトグラフィー及び/又は疎水性支持体を使用するクロマトグラフィー(疎水性相互作用クロマトグラフィー)、とを、組み合わせることが可能になる。
【0045】
したがって、関心対象のタンパク質がクロマトグラフィーカラムに搭載される場合、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液による洗浄工程は、特定の工程を追加することなく、EUの大部分、さらにはEUのほとんどすべてが浸出されることを可能にする。
【0046】
好ましくは、一連のクロマトグラフィー工程は、陰イオン交換樹脂を使用する第1の捕捉クロマトグラフィー、次いで疎水性支持体を使用する第2のクロマトグラフィー(疎水性相互作用クロマトグラフィー)の順に行われる。
【0047】
有利には、(クロマトグラフィー工程の一方又は両方の洗浄工程中に使用される)ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテル含有量は、0.01%~0.75%(w:v)、好ましくは0.05~0.3%(w:v)、好ましくは0.1~0.2%(w:v)、例えば約0.15%(w:v)である。
【0048】
好ましくは、方法全体を通じて、特に洗浄及び/又はEU除去工程中に、フェノール系溶媒は使用されない。
【0049】
好ましくは、内毒素のこの除去は、カラム体積(CV)の1~20倍、好ましくは2~10CV、又は3~7CV、好ましくは約5CVの(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む)洗浄溶液の体積を用いて行われる。
【0050】
有利には、この内毒素除去工程の後には、同じ溶液であるが、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない溶液を用いる洗浄工程が続く。体積は、1~10CV、例えば約5CVが好ましい。
【0051】
本発明者らは、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含む溶液の適用、次いで、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない溶液の適用を組み合わせて、関心対象のタンパク質(配列番号1)がこの界面活性剤を含まない溶液中で溶出されるように、(i)コスト及び(ii)洗浄時間の観点での帰結にもかかわらず、このような高い値を選択した。
【0052】
ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルは280nmでTriton X100の比吸光度特性を有さないので、界面活性剤を含まない溶液で必要とされる洗浄体積の計算は、事前試験において行われる。事前試験では、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルがTriton X-100によって置き換えられ、すべての他のパラメータは一定である。280nmでの吸光度をモニターすることは、Triton X-100の脱着を示し、これは、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの脱着のために必要とされる体積の指標を与える。事前試験は繰り返されることは意図されていないので、大きな経済的問題を表すものではない。
【0053】
これにより、EU含有量を、この工程前のEU量に対して20%、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、又はさらにより好ましくは2%以下、好ましくは1%以下に低下させることができる。
【0054】
この方法は、関心対象のタンパク質が、(関心対象のタンパク質の重量:総タンパク質重量)65%以上、好ましくは70%以上、好ましくは73%以上、好ましくは75%以上の純度で得られることも可能にする。
【0055】
この方法は、(ゲノムDNA重量:タンパク質重量、すなわち精製された関心対象のタンパク質)5ng/mg以下、好ましくは2ng/mg以下、好ましくは1ng/mg以下のゲノムDNAの残存量を有する組成物中で、関心対象のタンパク質が得られることも可能にする。
【0056】
本方法では、樹脂上に担持されたQ(第四級アミン)及びDEAE(ジエチルアミノエチル)官能基などのいくつかの種類の陰イオン交換樹脂が使用される。例えば、特に精製されるタンパク質が配列番号1のものである場合、(ポジティブモードでの)強「Q」交換樹脂の使用に成功した。
【0057】
陰イオン交換樹脂は、20~150μm、好ましくは40~120μm、好ましくは60~110μmのビーズサイズを有し得る。樹脂の性質は、精製されるタンパク質に従って選択され、適合される。
【0058】
陰イオン交換樹脂を使用する捕捉クロマトグラフィーの搭載工程は、5.0~11.0、好ましくは7.0~10.0、好ましくは8.0~9.0のpHで行われ得る。精製されるタンパク質が配列番号1のタンパク質である場合、搭載工程は、好ましくは7.0~10、例えば8.0~9.0のpHで行われる。
【0059】
搭載工程のために使用される溶液は、好ましくは2.0~15.0mS(ミリシーメンス)/cm、好ましくは5.0~10.0mS/cmの電気伝導度を有する。溶液の電気伝導度は容易に測定され、必要であれば、塩化ナトリウムなどの塩を添加することによって、あるいは、脱塩水で希釈することによって、調整される。
【0060】
好ましくは、搭載工程は、1~8g/L、好ましくは2~5g/L、好ましくは3~4g/Lの搭載比を含む組成物を使用して行われる。3.3g/Lの搭載量で良好な結果が得られ、特に、このような搭載量は、夾雑タンパク質LivKの保持を制限することを可能にした。
【0061】
洗浄工程(上記参照)は、好ましくは、搭載工程の電気伝導度と同じ電気伝導度及び同じpHを有する溶液を用いて行われる。したがって、電気伝導度は、好ましくは、2.0~15.0mS(ミリシーメンス)/cm、好ましくは5.0~10.0mS/cmである。
【0062】
溶出工程は、好ましくは、搭載工程の電気伝導度の2倍よりも大きく、及び/又は、9.0~20.0mS/cm、好ましくは12.0~17.0mS/cmの電気伝導度を有する溶液を用いて行われる。
【0063】
疎水性支持体を使用するクロマトグラフィー(疎水性相互作用クロマトグラフィー)は、フェニル、ブチル及びヘキシルから選択される疎水性基で誘導体化された異なる樹脂を使用して実施される。フェニル650M樹脂を使用して良好な結果が得られた。搭載のためのpHは、好ましくは5.0~11.0、好ましくは7.0~10.0、好ましくは8.0~9.0である。配列番号1の場合、樹脂は、好ましくは、650Mフェニル樹脂などのフェニル樹脂であり、pHは好ましくは7~10、好ましくは8.0~9.0である。
【0064】
好ましくは、疎水性樹脂(疎水性相互作用クロマトグラフィー)を使用する搭載工程は、0.5~6M、好ましくは2~3Mの塩(例えば、塩化ナトリウム)の濃度を使用して行われる。特に、精製されるタンパク質が配列番号1であり、疎水性樹脂がフェニル型のもの(650Mフェニル)である場合、2.0~3.0Mなどの高い塩濃度で良好な結果が得られた。
【0065】
好ましくは、疎水性樹脂の搭載比は、0.1g/L~5g/L、好ましくは0.3~2g/Lである。
【0066】
精製されるタンパク質が配列番号1、及び/又は、細胞膜周辺腔で発現されるタンパク質である場合、疎水性クロマトグラフィーの洗浄工程は、有利には、高いpH(8.0~9.0、例えば8.5)並びに高い塩濃度(2.3~3M NaCl、例えば約2.6M NaCl)で、大きな体積(例えば、5~20CV(カラム体積)、例えば、約15CV)を使用して行われる。これは、細胞膜周辺腔のタンパク質LivKを浸出させるが、配列番号1、あるいは、細胞膜周辺腔で発現される関心対象の別のタンパク質を浸出させないことを可能にする。さらに、陰イオン交換クロマトグラフィーの場合と同様に、長時間の洗浄は、そのコストにもかかわらず、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含むサブ工程と、それに続く、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まないサブ工程を挿入することを可能にし、この界面活性剤を含まない溶液中で関心対象のタンパク質が溶出されるようにする。
【0067】
クロマトグラフィー工程の後、あるいは、2つのクロマトグラフィー工程の間でも、溶液は膜を通してろ過されてよい。疎水性相互作用クロマトグラフィーの後に、「MustangE」膜(カートリッジ)が使用され、これは内毒素含有量を(さらに)低下させる。しかし、本発明者らは、一方又は両方のクロマトグラフィー中の洗浄により、臨床使用に適合するEU含有量を有する組成物が得られることを可能にするので、この工程は通常必要ではないことを認めた。
【0068】
最後に、有利には、患者に注射され得る組成物を得るために、0.22μmの多孔度を有するフィルタを使用する(最終)滅菌ろ過工程が実行される。
【0069】
本発明の関連する態様は、上記精製方法を実施することによって得られた関心対象のタンパク質を含む、哺乳動物、特にヒトに(あるいは、イヌに、又はウマに、又はウサギに、又はラクダ類に、又はサルに)注射され得る組成物である。
【0070】
本発明は、上述の態様に決して限定されず、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく修正が加えられ得ることを理解されたい。
【実施例】
【0071】
実施例1 関心対象のタンパク質の精製
配列番号1のタンパク質は、細胞膜周辺腔内の配列番号1の量を最大化するために、例えば2021年2月26日に出願された特許出願BE2021/5137号に記載されているように、制御された条件下で、細胞膜周辺腔中の標的化ペプチドの制御下において、大腸菌(Escherichia coli)の株を用いた発酵によって産生された。
【0072】
配列番号1を抽出するために選択された抽出方法は、浸透圧ショックを伴うものであり、膜又は細胞質夾雑物(ある種のプロテアーゼを含むタンパク質、内毒素及び残留DNA)の放出を最小限に抑えながら、タンパク質が周辺質区画から高い収率で抽出されることを可能にした。
【0073】
抽出条件は、高張緩衝液中への細胞の最初の再懸濁後と、これに続く、低張溶液中への希釈を連続して含む。実験条件(高張緩衝液及び低張緩衝液の性質及び比)はバッチモードにて小規模で試験され、次いで連続管型反応装置に移された。
【0074】
液体クロマトグラフィーにおいて一般的に見られる条件下で沈殿が存在しないことを確認するため、及び/又は操作上の限界を定めるために、増加する生理食塩水濃度において、周辺質区画から抽出されたタンパク質、より具体的には配列番号1の溶解度を試験した。配列番号1は、pH8.5において、0~3Mの範囲のNaCl中で沈殿の兆候を示さないことが示された。この工程のために、本発明者らは、既に約30%の純度で配列番号1を得ることに成功した;すべてのタンパク質の染色、試料の2倍連続希釈物(successive 2 in 2 dilutions)を用いるSDS PAGE。
【0075】
次に、異なるクロマトグラフィー支持体が試験された。陰イオン交換体の中で、強及び弱交換体(Q及びDEAE官能基)、異なる種類のマトリックス(アガロース、メタクリラート)、構造(ビーズ及び拡がった構造)及び物理化学的条件(搭載画分のpH及び伝導度)を試験した。溶出のための2つの塩濃度を比較することによって、増加する疎水性を有する5つのマトリックス(フェニル、ブチル及びヘキシル官能基)も試験した。
【0076】
他の樹脂より配列番号1を結合する能力が大きいために、樹脂Capto Q及びフェニル650Mを選択し、次いで動的モードで検証した。クロマトグラフィーパラメータ(pH、伝導度、樹脂の体積当たりの搭載されたタンパク質の量)を改良するために、これらの試験を使用した。
【0077】
2段階クロマトグラフィー法を実施して、95%を超える高い収率及び純度で関心対象のタンパク質を得るために、精製列を開発した。この研究は、スクリーニング中に選択した2種類の樹脂について行った。
【0078】
1.陰イオン交換樹脂による捕捉。
2.疎水性樹脂でのポリッシング(polishing)。
【0079】
最適なクロマトグラフィー順序、すなわち収率、純度並びに操作時間の間の妥協点を確立するために、陰イオン交換樹脂を用いた配列番号1の精製に影響を及ぼし得る様々な因子を研究し、スクリーニング結果と比較した。この方法が工業的条件を代表する条件下で再現され得ることを確認するために、スケールの拡大も試験した。
【0080】
得られた結果は、最良の条件を選択することによって捕捉工程を最適化することを可能にした。
【0081】
樹脂:Capto Q強交換体(DEAEより優れている)、90μmビーズ、較正の点で正常。較正された樹脂(Jetted)と比較してクロマトグラフィーの分離能がより低いにもかかわらず、これらの選択肢は、配列番号1を結合する高い能力を維持した。10、12、15及び20cmという4つのカラム高さが試験され、12cmの高さが好ましく、4つの直径(1.6;2.6;10及び14cm)が試験され、検討される精製の規模には14cmの直径が好ましかった。
【0082】
搭載:樹脂搭載工程の物理化学的条件、すなわち3.0~9.0mS/cmの伝導度及び8.5のpHが試験された。これらの条件により、ある種の色素及び宿主タンパク質の結合を回避しながら、タンパク質は、樹脂への結合のために必要とされる高密度の負電荷をその表面上に露出させることを可能にした(ポジティブモード)。配列番号1と、関心対象のタンパク質と同様に等電点及び疎水性を有する周辺質タンパク質であるタンパク質LivK(pI5.2対5.9)との間での結合部位についての競合を作出するために、搭載比も3.3g/Lの樹脂(わずかな過搭載;2.5g/l及び4.2g/lも試験された)に、流速は90cm/hに設定した。この競合は、この宿主タンパク質の結合を制限する。
【0083】
洗浄:洗浄工程は、pH8.5、及び、7.0mS/cmで、300cm/hの流速で、10CV又は15CV(カラム体積;5及び20CVも試験された)の体積の緩衝液(この緩衝液は、0.15%(w:v)ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含むことがある;下記参照)により特徴づけられた。目的は、搭載直後に、内毒素を含む、樹脂に結合されていない不純物の大部分を除去することであった。
【0084】
溶出:この工程は、樹脂に結合された不純物の共溶出を最小限に抑えながら、関心対象のタンパク質を脱離させることを目的とした。タンパク質LivKの一部はなお樹脂上に存在し、配列番号1と共溶出する傾向を有したので、溶出は2段階で起こった。第1の工程は、300cm/hの流速で、洗浄工程の溶液の伝導度(例えば、9mS/cm)と同様の伝導度の溶液による、pH8.0での長時間15CV洗浄からなった。LivKのわずかな搭載差により、LivKは、配列番号1を溶出するために使用される伝導度よりわずかに低い伝導度で溶出することを可能にした。配列番号1自体の溶出はアイソクラティックであり(勾配溶出も試験された)、300cm/hで、(9.0~20.0mS/cmの値が試験された)洗浄溶液の電気伝導度よりもはるかに高い電気伝導度により、pH8.5で実行された。したがって、本発明者らは、溶出された配列番号1から、高分子量及び低分子量を有するタンパク質(SDS PAGE分析)、並びに、ほとんどの色素及び内毒素が除去されていることを認めた。
【0085】
表1:Capto Qを使用したイオン交換クロマトグラフィーによる、CRM(配列番号1)溶出工程の前に適用された第1の溶出緩衝液に対して使用された異なるパラメータの影響の比較。
【表1】
注:LivK/CRM比は、溶出された画分の比である(下記参照)。
【0086】
スケールアップ:異なる床形状(樹脂床の高さ、カラム直径)に対する異なるタイプの支持体(HiScale及びAxichromカラム)について、また、異なる充填技術(動的軸圧縮又はDAC、圧縮(consolidation)速度を増加させる)も用いて、精製列のスケールアップを研究した。上記のように、バイオリアクタから5Lの培養物を産生することに匹敵するものを処理するために、14cmの直径に対して、樹脂の高さは12cmに決定した。すなわち1.846Lの樹脂体積である。選択された充填方法は、移動相として水を使用することにより、圧縮工程中に流速を増加させることからなった。このプロトコルにより、この樹脂に対する製造業者の基準を満たす性能基準(分離能及び非対称性)を得ることが可能になった。様々な溶液の電気伝導度は測定することが容易であり、NaClを添加することによって、あるいは、希釈によって適合される。電気伝導度は、使用されたすべての溶液に対して正確に設定された。この工程のために、本発明者らは、配列番号1の純度を80%に増加させることに成功した;すべてのタンパク質の染色、試料の2倍連続希釈物を用いるSDS PAGE。最良の条件下で71%の収率が得られた。
【0087】
フェニル650M疎水性支持体を用いたポリッシング工程の開発
最適なクロマトグラフィー順序、すなわち収率、純度並びに操作時間の間の妥協点を確立するために、疎水性支持体を用いた配列番号1の精製に影響を及ぼし得る様々な因子を研究し、スクリーニング結果と比較した。この方法が工業的条件を代表する条件下で再現され得ることを確認するために、スケールの拡大も試験した。
【0088】
異なるクロマトグラフィーパラメータを試験し、最適化した。3つの床高さ(10cm、18.5cm及び20cm)及び4つの直径(1.6cm~14cm)が試験された。高さ18.5cm及び直径14cmの値が、検討される産生の規模にとって好ましいものであった。
【0089】
樹脂:疎水性樹脂、65μmの較正されていないビーズ。スクリーニング中にこの樹脂を選択し、Capto Qと比較して低い結合能力を考慮してポリッシング工程に置いた。
【0090】
搭載:樹脂搭載工程の物理化学的条件は、8.5のpH及び2.6MのNaCl濃度であった;2.2、2.4、2.8及び3Mの値が試験された。これらの条件により、ある種の色素及び宿主タンパク質の結合を回避しながら、タンパク質が、樹脂への結合のために必要とされる疎水性基を露出させること(ポジティブモード)を可能にした。
【0091】
0.5g/L及び1.5g/Lなどの異なる比が試験された。高い精製収率を維持するために、搭載比を0.8g/L(非常にわずかな過搭載)に設定した。60cm/時及び150cm/時など、いくつかの流速を試験した。
【0092】
洗浄:配列番号1の脱離を最小限に抑えながらLivKの結合を不安定化するために、洗浄工程は、pH8.5及び2.6MのNaCl濃度での長時間の15CV洗浄からなり、この緩衝液は、0.15%(w:v)ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含んでもよい。以下を参照されたい。搭載と同じNaCl濃度及び流速を試験した。4つの洗浄体積:5CV、10CV、15CV及び20CVを試験した。15CVが最良の結果を与えた。
【0093】
溶出:この工程は、樹脂に結合された不純物の共溶出を最小限に抑えながら、関心対象のタンパク質を脱離させることを目的とした。小さな体積(1CV)の溶出を可能にし、これは、配列番号1の純度に対してのみならず、クロマトグラフィーの期間及びその後の限外ろ過工程に対しても正の影響を及ぼしたので、試験された異なる伝導度の中で、高い伝導度ジャンプを有するpH8.5での均一濃度溶出が選択された。実際には、155mS/cm~60mS/cm未満の多数の溶出溶液を試験した。
【0094】
この工程のために、本発明者らは、配列番号1の純度を98%に増加させることに成功した;すべてのタンパク質の染色、試料の2倍連続希釈物を用いるSDS PAGE。最良の条件下で、配列番号1の77%の回収率が得られた。
【0095】
スケールアップ:異なる床形状(樹脂床の高さ、カラム直径)に対する異なるタイプの支持体(HiScale及びAxichromカラム)上で、また、異なる充填技術(動的軸圧縮、圧縮流速を増加させる)も用いて、精製列のスケールアップを研究した。2つのサブバッチでバイオリアクタから5Lの培養物を産生することに匹敵するものを処理するために、14cmの直径に対して、樹脂の高さを18.5cmに決定した。すなわち2.846Lの樹脂体積である。選択された充填方法は、移動相として水を使用することによって、圧縮工程中に極めて高い一定した流速(約450cm/h)を使用することからなった。このプロトコルにより、この樹脂に対する製造業者の基準を満たす性能基準(分離能及び非対称性)を得ることが可能になった。しかし、スケールアップは、150cm/hの動作流速が保持されることを可能にしなかった:高い塩濃度を有する溶液が樹脂床を通過されたときの、樹脂床の崩壊を回避するために、動作流速は、60cm/hに下げられた。
【0096】
タンパク質を調製(formulate)するために、異なる多孔度(30、50及び70kDa)を有する限外ろ過膜を試験した。
【0097】
限外ろ過法の第1の工程は、関心対象のタンパク質を約4.5mg/mLに濃縮することからなり、第2の工程は、濃縮された残留液を10倍大きい体積の調製緩衝液で透析ろ過することからなった。関心対象のタンパク質(配列番号1)のより良好な保持のために、30kDa中空糸を選択した。
【0098】
方法中の剪断係数を制限するので、20L/m2/hに設定された動作流速が方法全体に適用された。0.16m2の中空糸は、3~4時間にわたって、バイオリアクタ内で5Lの培養物に相当するタンパク質量を調製した。
【0099】
(クロマトグラフィーカラムの洗浄工程中における;上述)内毒素の除去。
結果は、試験された少なくとも3つの条件に対して、内毒素を除去するのに良好な効率を示した:
Capto Q;搭載後、0.15%v/vポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルで洗浄工程を実施し、3つの連続工程に分けられる:
5CV緩衝液(pH及び伝導度、上記参照;例えば、3.0~9.0mS/cm)。この工程の目的は、搭載直後に、樹脂に結合されていない不純物の大部分を除去することであった。
【0100】
5CVの同じ緩衝液+1.5%ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテル。ここで、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルは、内毒素を極めて著しく低下させる(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルでの洗浄なしでの>1000EU/mgと比較して、配列番号1の溶出画分中で<1EU/mg)、すなわち、この界面活性剤なしでの同じ工程と比較して3Log又はそれより多く低下させることによって、内毒素を除去した。さらに、この界面活性剤を使用することは、樹脂への関心対象のタンパク質の結合を妨害しなかった。
【0101】
5CVの同じ緩衝液、但し、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルなし。この工程は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを除去した。実際には、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの除去は、吸光度モニタリングの事前試験において評価され、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルの代わりにTriton X-100が存在したことを除いて、すべての条件は同じであり、これにより280nmでのモニタリングを可能にした。
【0102】
フェニル650M;Capto Qと同様:
高い伝導度、例えば150~200mS/cm及びpH8.5の5CVの緩衝液。この工程の目的は、搭載直後に、樹脂に結合されていない不純物の大部分を除去することであった。
【0103】
5CVの、150~200mS/cm及びpH8.5の緩衝液+1.5%ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテル。ここで、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルは、内毒素を極めて著しく低下させる(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルでの洗浄なしでの>1000EU/mgと比較して、配列番号1の溶出画分中で<1EU/mg)ことによって、内毒素を除去した。さらに、この界面活性剤を使用することは、樹脂への関心対象のタンパク質の結合を妨害しなかった。
【0104】
5CVの、150~200mS/cm及びpH8.5の緩衝液。この工程は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを除去した(280nmでの吸光度モニタリングによる事前試験;上記参照)。
【0105】
イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性相互作用クロマトグラフィーの両方に対して、Brij 35、Tween 20又はTween 80(試験された範囲:0.016~3%;w:v)などの他の界面活性剤が試験された。しかし、これらの界面活性剤は、内毒素の除去にあまり効果的でなかったか、あるいは、大規模使用に適合しなかった。
【0106】
本発明者らはまた、Mustang Eマトリックスを通してろ過することによって内毒素を除去する代替方法を試みた:この種類のマトリックスは、そのコーティング中に、内毒素に対して高い親和性を有する第4級アンモニウム基を含有する。配列番号1は、試験された条件(pH、伝導度、流速)下で、この種類の支持体とほとんど又は全く親和性を有しなかった。この工程は、限外ろ過調製(formulation)後、あるいは、Capto Qを用いた精製後に配置された場合、精製収率に有意に影響を及ぼすことなく、同じ内毒素除去効率を示した(ろ過後16EU/mg)。10mlのフィルタは、バイオリアクタ中で5Lの培養物に相当する精製された産物の量を処理した。しかし、この代替手段は、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを使用するのと同じ程度には効果的でなかったが、補足手段として使用されてよい。
【0107】
実施例2.関心対象のプラスミドの精製
50L発酵槽中で、関心対象のプラスミドを含有する大腸菌(E.coli)細胞は流加モードで高密度に培養され、250mgを超える関心対象のプラスミドを合成した。
【0108】
細胞懸濁液がアルカリ溶解に供され、続いて中和及び沈殿に供された。
【0109】
次いで、混合物が一連のろ過に供されて大きな破片を除去し、次いで限外ろ過に供されて低分子量の夾雑物を除去した。
【0110】
NaClを含む溶液A(ここでは、TRIS緩衝液によって、pHは約8.5に設定されるが、樹脂が正に帯電したままであり、DNAが負に帯電したままである限り、他のpH値が可能である)で平衡化されたTMAE樹脂に、後者のろ過の残留液を結合させ、50~60mS/cmの伝導度を有する(本発明者らは、より低い値が可能であることを認めた)ようにした。次に、カラム体積の5倍の同じ溶液Aがカラムに適用され、次いで、カラム体積の5倍の、0.15%(重量基準)のポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルをさらに含む同じ溶液Aが適用され、最後に、カラム体積の5倍の、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルシクロヘキシルエーテルを含まない同じ溶液Aが適用された後、溶液B(1mol/l NaCl、pH8.5)の勾配で溶出した:50~60mS/cmの伝導度を有する上記の溶液Aの100%から始まり、上記溶液Bの100%で終わる10CV線形勾配、次いで、2CVの溶液Bのみ。溶出は、例えば非線形勾配を使用して、異なって行われてもよい。
【0111】
次いで、プラスミドを含む画分がろ過工程に供された。
【0112】
実験によれば、開始時の内毒素含有量は、350EU/mgプラスミドから460EU/mgプラスミドまで変動し、5EU/mgプラスミドの値まで、最良の場合には、1EU/mgプラスミド未満の値まで容易に低下された。
【配列表】
【国際調査報告】