IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティーの特許一覧

特表2024-510931新規結合親和性を有するポリペプチド構築物およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】新規結合親和性を有するポリペプチド構築物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240305BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/866 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240305BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20240305BHJP
   A61K 38/03 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240305BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240305BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/85 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/866 Z
C12N15/867 Z
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C12N5/0783
C12N5/0781
A61K38/03
A61K39/00 H
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553050
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022018529
(87)【国際公開番号】W WO2022187367
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/156,026
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】シン-ヘン チョウ
(72)【発明者】
【氏名】ダイアン ツェン
(72)【発明者】
【氏名】クリスタル エル.マッコール
(72)【発明者】
【氏名】マーク エム.デイビス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA41
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB271
4C085AA02
4C085BB01
4C085CC03
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本開示は、一般にポリペプチド構築物に関し、特に特定の同族の抗原に対する結合親和性を有するT細胞受容体(TCR)構築物に関する。本開示はさらに、この構築物を生成するのに有用な組成物および方法、ならびにポリペプチド構築物によって認識される同族の抗原を発現する細胞に関連する病気を診断、予防、かつ/あるいは治療する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む構築物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのCDRは、配列番号1~56からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのCDRは、配列番号57~106からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する、請求項1に記載の構築物。
【請求項4】
前記構築物は、一本鎖構築物または二本鎖構築物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項5】
前記構築物は、(a)T細胞受容体(TCR);(b)抗体;および(c)(a)または(b)の機能的誘導体または断片からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項6】
前記構築物は、互いに作動可能に連結されたTCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCR構築物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項7】
前記構築物は、配列番号1~106から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するCDR3βをそのβ鎖内に含むTCR構築物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項8】
前記構築物はさらに、CDR3α配列をそのα鎖内に含む、請求項7に記載の構築物。
【請求項9】
前記構築物は、抗原結合断片(Fab)、一本鎖可変断片(scFv)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHドメイン、VLドメイン、VHHドメイン、二重特異性抗体、またはそれらのいずれかの機能的断片からなる群から選択される抗体構築物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物をコードする核酸配列を含む組換え核酸。
【請求項11】
前記核酸配列は、異種核酸配列に作動可能に連結されている、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
前記核酸の分子はさらに、発現カセットまたはベクターとして構成されている、請求項10~11のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項13】
前記ベクターは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターである、請求項12に記載の核酸。
【請求項14】
前記ウイルスベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス、またはレトロウイルスに由来する、請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物;および/または
b)請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸を含む、遺伝子操作細胞。
【請求項16】
前記遺伝子操作細胞は真核細胞である、請求項15に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項17】
前記真核細胞は哺乳動物細胞である、請求項16に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項18】
前記哺乳動物細胞はヒト細胞である、請求項17に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項19】
前記細胞は免疫細胞である、請求項15~18のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項20】
前記免疫細胞は、B細胞、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、好塩基球、好酸球、好中球、樹状細胞、マクロファージ、調節T細胞、ヘルパーT細胞(TH)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、記憶T細胞、γδT細胞、その他のT細胞、造血幹細胞、または造血幹細胞前駆体である、請求項19に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項21】
前記免疫細胞はリンパ球である、請求項20に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項22】
前記リンパ球は、Tリンパ球またはTリンパ球前駆体である、請求項21に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項23】
前記Tリンパ球は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項22に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項24】
前記Tリンパ球は、ナイーブCD8+T細胞、中心記憶CD8+T細胞、エフェクター記憶CD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹記憶T細胞、およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞である、請求項22~23のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項25】
前記Tリンパ球は、ナイーブCD4+T細胞、中心記憶CD4+T細胞、エフェクター記憶CD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹記憶T細胞、およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である、請求項22~23のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞。
【請求項26】
遺伝子操作細胞を生成する方法であって、
a)タンパク質発現が可能な宿主細胞を提供する工程;および
b)提供された宿主細胞に請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸を形質導入して、遺伝子操作細胞を生成する工程を含む、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法により生成された遺伝子操作細胞。
【請求項28】
請求項15~25および27のいずれか一項に記載の少なくとも1つの遺伝子操作細胞および培地を含む、細胞培養物。
【請求項29】
薬学的に許容可能な担体、および
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物;
b)請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸;および/または
c)請求項15~25および27のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞を含む、医薬組成物。
【請求項30】
請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸および薬学的に許容可能な担体を含む、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記組換え核酸は、ウイルスカプシドまたは脂質ナノ粒子中にカプセル化されている、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記組成物は、請求項15~25および27のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞を含む、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項33】
それを必要とする対象の病気を予防かつ/あるいは治療する方法であって、
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物;
b)請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸;
c)請求項15~25および27のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞;および/または
d)請求項29~32のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む組成物を、前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項34】
前記病気は、免疫チェックポイント阻害に関連する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記方法は、チェックポイント阻害免疫療法を目的とする、請求項33~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記チェックポイント阻害免疫療法は、抗PD1チェックポイント療法または抗PD1-L1チェックポイント療法である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記病気は、腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、非小細胞がん、腺扁平上皮がん、小細胞肺がん、大細胞がん、肺の神経内分泌がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、未分化非小細胞がん、他の非特定の非小細胞がん、肺扁平上皮がん、細気管支肺胞上皮がん、肉腫様がん、多形がん、がん肉腫、肺芽腫、原発不明の転移性がん、原発性肺リンパ上皮腫様がん、および肺の良性新生物からなる群から選択される肺がんに関連する、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん、カルチノイド腫瘍、多形がん、唾液腺がん、腺扁平上皮がん、肉腫様がん、および未分類がんからなる群から選択されるNSCLCである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記NSCLCは、ステージIのNSCLCまたはステージIIのNSCLCを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記癌は、非転移性がん、転移性がん、多剤耐性がん、または再発性がんである、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記投与される組成物は、前記対象での腫瘍の成長または癌の転移を阻害する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記病気は、ウイルス感染に関連する悪性腫瘍である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記病気は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)による感染に関連する悪性腫瘍である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記悪性腫瘍は、EBV感染に関連し、かつホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、上咽頭がん、胃がん、移植後リンパ増殖性疾患、Bリンパ増殖性疾患、T/NKリンパ増殖性疾患、T/NKリンパ腫/白血病、平滑筋肉腫、およびリンパ上皮腫様がんからなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記対象は哺乳動物である、請求項33~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記哺乳動物はヒトである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物を、第1の治療法として個別に、あるいは少なくとも1つの追加の治療法と組み合わせて対象に投与する、請求項33~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの追加の治療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、または手術からなる群から選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの追加の治療法は、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗CD40抗体、抗DR5抗体、抗CD1d抗体、抗TIM3抗体、抗SLAMF7抗体、抗KIR受容体抗体、抗OX40抗体、抗HER2抗体、抗ErbB-2抗体、抗EGFR抗体、セツキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ペムブロリズマブ、放射線療法、単回照射、分割照射、焦点照射、全臓器照射、IL-12、IFNα、GM-CSF、キメラ抗原受容体、養子移入T細胞、抗癌ワクチン、および腫瘍溶解性ウイルスからなる群から選択される、請求項47~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記第1の治療法および前記少なくとも1つの追加の治療法は、伴に施用される、請求項47~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記第1の治療法は、前記少なくとも1つの追加の治療法と同時に施用される、請求項47~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記第1の治療法および前記少なくとも1つの追加の治療法は、連続して施用される、請求項47~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記第1の治療法は、前記少なくとも1つの追加の治療法の前に施用される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記第1の治療法は、前記少なくとも1つの追加の治療法の後に施用される、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記第1の治療法は、前記少なくとも1つの追加の治療法の前および/または後に施用される、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記第1の治療法および前記少なくとも1つの追加の治療法は、交互に施用される、請求項47~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記第1の治療法および前記少なくとも1つの追加の治療法は、単一の処方内で伴に施用される、請求項47~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
それを必要とする対象の病気を診断、予防、かつ/あるいは治療するキットであって、システムは、
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物;
b)請求項10~14のいずれか一項に記載の組換え核酸;
c)請求項15~25および27のいずれか一項に記載の遺伝子操作細胞;および/または
d)請求項29~32のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項59】
請求項1に記載の構築物を得る方法であって、
a)健康障害に関連する複数のT細胞受容体(TCR)を識別する工程;
b)識別されたTCRのそれぞれに存在するCDR3βの配列を決定する工程;
c)b)で決定されたCDR3β配列を含む構築物を生成する工程を含む、方法。
【請求項60】
CDR3β配列によって共通に認識される1つ以上の同族の抗原を識別する工程をさらに含む、請求項59に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許の相互参照
本出願は、2021年3月3日に出願された米国仮特許出願第63/156,026号に対する優先権を主張し、任意の図面を含みその開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の支援による研究開発に関する陳述
本発明は、米国国立癌研究所から授与された助成金番号第U54 CA232568-01号に基づき政府から支援を受けて実施された。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、一般に免疫学の分野に関し、特に特定の抗原に対する結合親和性を有するポリペプチド構築物に関する。本開示はまた、そのような構築物を生成するのに有用な組成物および方法、ならびにこのポリペプチド構築物が認識する同族の抗原を発現する細胞に関連する健康障害の診断、予防、および/または治療の方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
ここ近年では、固形腫瘍患者を治療するための免疫チェックポイントの阻害およびT細胞に基づく免疫療法を広範に活用するには、癌内でのT細胞の特異性についてより深い理解が必要とされている。例えば、最近になってT細胞受容体(TCR)が免疫療法の有望な手法として出現しており、いくつかの製薬会社やバイオテクノロジー会社が実施した臨床試験が話題になっている。TCRは、治療能力および診断能力を持つことが明らかになってきて、かつ抗体分子と同様に修飾することができる。特に特定の抗原に対するTCRの親和性により、養子免疫療法などの種々の治療手段の価値を高めることができる。
【0005】
しかしながら、癌を治療する免疫療法が広範に使用されているにも拘らず、癌内のT細胞の特異性についての概括的な理解は限定的である。例えば、抗原特異性はT細胞機能の重要な決定因子ではあるが、TCRの多様性およびヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子の多型性がもたらす課題が、腫瘍浸潤T細胞が認識する全ての範囲の抗原を理解する上に大きな障害となっている。さらに、T細胞の形態およびレパートリーを解析するために単細胞配列決定技術を用いる高度な技術が利用可能であるにも拘らず、腫瘍浸潤T細胞の大部分の特異性は、全ての固形腫瘍において未知なままである。このことは主に、多型性が高いヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子に関連して種々のTCRレパートリーを解析する手段が存在しないことによる。例えば、次世代配列決定技術により多数のTCRの配列決定が比較的容易かつ安価になってきているものの、主要な問題として、これらの非常に大規模なレパートリーをどのように解析できるのかが議論の中心となっている。この問題は、同じペプチド-MHC(主要組織適合抗原)特異性に対して、潜在的なTCR配列が数百個または数千個で存在する可能性があることに基づいている。
【0006】
従って腫瘍浸潤T細胞の特異性の解明は、T細胞の内在性因子がどのように腫瘍免疫系での相互作用を形成し、かつ如何に癌に対するT細胞応答の利用を目的とする治療に影響を及ぼすかを理解するために重要なことである。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、一般に免疫学の分野に関する。より具体的には、特定の抗原に対する結合親和性を有する新規ポリペプチド構築物を本明細書に提供する。本開示はまた、そのようなポリペプチド構築物を生成するのに有用な組成物および方法、ならびにこのポリペプチド構築物が認識する同族の抗原を発現する細胞に関連する疾患の診断、予防、および/または治療の方法を提供する。特にさらに本明細書に開示されるポリペプチド構築物を発現するように遺伝子操作され、かつ癌細胞などの目的の細胞に対して誘導されるリンパ球T細胞などの組換え細胞を提供する。
【0008】
一側面では、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む種々の構築物を本明細書に提供する。
【0009】
本開示の構築物の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号1~56からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号18に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号57~106からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号64に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、構築物は一本鎖構築物または二本鎖構築物である。実施態様によっては、構築物は、(a)T細胞受容体(TCR);(b)抗体;および(c)(a)または(b)の機能的誘導体または断片からなる群から選択される。実施態様によっては、構築物は、互いに作動可能に連結されたTCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCR構築物である。実施態様によっては、構築物は、配列番号1~106から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するCDR3βをそのβ鎖内に含むTCR構築物である。実施態様によっては、CDR3βは、配列番号1~56から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、CDR3βは、配列番号18に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、CDR3βは、配列番号57~106から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、CDR3βは、配列番号64に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。実施態様によっては、構築物は、さらにCDR3α配列をそのα鎖内に含む。
【0010】
実施態様によっては、本明細書に開示の構築物は、抗原結合断片(Fab)、一本鎖可変断片(scFv)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHドメイン、VLドメイン、VHHドメイン、二重特異性抗体、またはそれらのいずれかの機能的断片からなる群から選択される抗体構築物である。
【0011】
別の側面では、本発明の構築物をコードする核酸配列を含む核酸である組換え核酸を本明細書に提供する。
【0012】
本開示の核酸の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、核酸配列は、異種核酸配列に作動可能に連結される。実施態様によっては、核酸分子はさらに、発現カセットまたは発現ベクターとして構成される。実施態様によっては、ベクターは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターである。実施態様によっては、ウイルスベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス、またはレトロウイルスに由来する。
【0013】
別の側面では、本開示のいくつかの実施態様は、(a)本開示の構築物および/または(b)本開示の組換え核酸のうちの1つ以上を含む遺伝子操作細胞に関する。本開示の細胞の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、遺伝子操作細胞は真核細胞である。実施態様によっては、真核細胞は哺乳動物細胞である。実施態様によっては、哺乳動物細胞はヒト細胞である。実施態様によっては、細胞は免疫細胞である。実施態様によっては、免疫細胞は、B細胞、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、好塩基球、好酸球、好中球、樹状細胞、マクロファージ、調節T細胞、ヘルパーT細胞(TH)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、記憶T細胞、γδT細胞、その他のT細胞、造血幹細胞、または造血幹細胞前駆体である。
【0014】
実施態様によっては、免疫細胞はリンパ球である。実施態様によっては、リンパ球はTリンパ球またはTリンパ球前駆体である。実施態様によっては、Tリンパ球はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。実施態様によっては、Tリンパ球は、ナイーブCD8+T細胞、中心記憶CD8+T細胞、エフェクター記憶CD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹記憶T細胞、およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞である。実施態様によっては、Tリンパ球は、ナイーブCD4+T細胞、中心記憶CD4+T細胞、エフェクター記憶CD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹記憶T細胞、およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である。
【0015】
関連する側面では、本開示のいくつかの実施態様は、本開示の少なくとも1つの遺伝子操作細胞および培地を含む細胞培養物に関する。
【0016】
別の側面では、本明細書に開示のいくつかの実施態様は、遺伝子操作細胞を生成する方法に関し、この方法には、(a)タンパク質発現が可能な宿主細胞を提供する工程;および(b)提供された宿主細胞に本開示の組換え核酸を形質導入して、遺伝子操作細胞を生成する工程が含まれる。従って関連する側面では、本開示の方法によって生成される遺伝子操作細胞もまた本明細書に提供される。さらなる関連する側面では、本開示のいくつかの実施態様は、本開示の少なくとも1つの遺伝子操作細胞および培地を含む細胞培養物に関する。
【0017】
一側面では、本明細書には種々の医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、および(a)本開示の構築物;(b)本開示の組換え核酸;および/または(c)本開示の遺伝子操作細胞のうちの1つ以上を含む。
【0018】
本開示の医薬組成物の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、この組成物は、本開示の組換え核酸および薬学的に許容可能な担体を含む。実施態様によっては、組換え核酸はウイルスキャプシドまたは脂質ナノ粒子中にカプセル化される。実施態様によっては、この組成物は、本開示の遺伝子操作細胞および薬学的に許容可能な担体を含む。
【0019】
別の側面では、本開示のいくつかの実施態様は、それを必要とする対象での疾患を予防かつ/あるいは治療する方法に関し、この方法は、(a)本開示の構築物;(b)本開示の組換え核酸;(C)本開示の遺伝子操作細胞;および(d)本開示の医薬組成物のうちの1つ以上を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0020】
それを必要とする対象での疾患を予防かつ/あるいは治療する本開示の方法の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、この疾患は免疫チェックポイント阻害に関連する。実施態様によっては、この方法はチェックポイント阻害免疫療法である。実施態様によっては、このチェックポイント阻害免疫療法は、抗PD1チェックポイント療法または抗PD1-L1チェックポイント療法である。実施態様によっては、この疾患は、肺がんに関連し、かつ腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、非小細胞がん、腺扁平上皮がん、小細胞肺がん、大細胞がん、肺の神経内分泌がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、未分化非小細胞がん、他の非特定の非小細胞がん、肺扁平上皮がん、細気管支肺胞上皮がん、肉腫様がん、多形がん、がん肉腫、肺芽腫、原発不明の転移性がん、原発性肺リンパ上皮腫様がん、および肺の良性新生物から選択される。実施態様によっては、肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん、カルチノイド腫瘍、多形がん、唾液腺がん、腺扁平上皮がん、肉腫様がん、および未分類がんからなる群から選択されるNSCLCである。実施態様によっては、このNSCLCには、ステージIのNSCLCまたはステージIIのNSCLCが含まれる。実施態様によっては、この癌は、非転移性がん、転移性がん、多剤耐性がん、または再発性がんである。実施態様によっては、投与される組成物は、対象での腫瘍の成長または癌の転移を阻害する。
【0021】
実施態様によっては、本明細書にはそれを必要とする対象でのウイルス感染に関連する悪性腫瘍である疾患を予防かつ/あるいは治療する方法を提供する。実施態様によっては、この疾患は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)による感染に関連する悪性腫瘍である。実施態様によっては、この悪性腫瘍は、EBV感染に関連し、かつホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、上咽頭がん、胃がん、移植後リンパ増殖性疾患、Bリンパ増殖性疾患、T/NKリンパ増殖性疾患、T/NKリンパ腫/白血病、平滑筋肉腫、およびリンパ上皮腫様がんからなる群から選択される。
【0022】
それを必要とする対象での疾患を予防かつ/あるいは治療する方法の実施態様によっては、この対象は哺乳動物である。実施態様によっては、この哺乳動物はヒトである。実施態様によっては、組成物を、第1の治療法(単独療法)として個別に、あるいは少なくとも1つの追加の治療法と組み合わせて対象に投与する。実施態様によっては、この少なくとも1つの追加の治療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、または手術からなる群から選択される。実施態様によっては、この少なくとも1つの追加の治療法は、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗CD40抗体、抗DR5抗体、抗CD1d抗体、抗TIM3抗体、抗SLAMF7抗体、抗KIR受容体抗体、抗OX40抗体、抗HER2抗体、抗ErbB-2抗体、抗EGFR抗体、セツキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ペムブロリズマブ、放射線療法、単回照射、分割照射、焦点照射、全臓器照射、IL-12、IFNα、GM-CSF、キメラ抗原受容体、養子移入T細胞、抗癌ワクチン、および腫瘍溶解性ウイルスからなる群から選択される。実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は伴に施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法と同時に施用される。実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は連続して施用される。実施態様によっては、第1の治療は、少なくとも1つの追加の治療の前に施用される。実施態様によっては、最初の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法の後に施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法の前および/または後に施用される。実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は交互に施用される。実施態様によっては、第1の治療法および少なくとも1つの追加の治療法は、単一の処方内で伴に施用される。
【0023】
別の側面では、本開示のいくつかの実施態様は、本明細書に開示の方法を実行するためのキットに関する。いくつかの実施態様は、それを必要とする対象での疾患を診断、予防、かつ/あるいは治療する方法のためのキットに関し、このキットは、本開示の構築物;本開示の組換え核酸;本開示の遺伝子操作細胞;および本開示の医薬組成物のうちの1つ以上を含む。
【0024】
別の側面では、本明細書には、疾患の予防および/または治療のための本開示の構築物;本開示の組換え核酸;本開示の遺伝子操作細胞;医薬組成物のうちの1つ以上の使用を提供する。実施態様によっては、この疾患は増殖性障害である。実施態様によっては、この増殖性障害は癌である。実施態様によっては、この疾患は感染症に関連する悪性腫瘍である。実施態様によっては、この感染症は細菌感染症またはウイルス感染症である。
【0025】
別の側面では、本明細書には、健康障害を治療するための薬剤の製造において本開示の構築物、本開示の組換え核酸、本開示の遺伝子操作細胞、または本開示の医薬組成物のうちの1つ以上の使用を提供する。実施態様によっては、この障害は増殖性障害である。実施態様によっては、この増殖性障害は癌である。実施態様によっては、この障害は感染症に関連する悪性腫瘍である。実施態様によっては、この感染症は細菌感染症またはウイルス感染症である。
【0026】
さらに別の側面では、本明細書に開示の構築物を得るための種々の方法を本明細書に提供し、この方法には、(a)健康障害に関連する複数のT細胞受容体(TCR)を識別する工程;(b)識別されたTCRのそれぞれに存在するCDR3βの配列を決定する工程;(c)(b)で決定されたCDR3β配列を含む構築物を作製する工程を含み、この構築物は、1つ以上の同族の抗原に結合できる。実施態様によっては、この障害は増殖性疾患である。実施態様によっては、この方法はさらに、CDR3β配列によって共通に認識される1つ以上の抗原を識別する工程を含む。
【0027】
前述の概要は例示のみを目的としており、いかなる限定をも意図するものではない。本明細書に説明する例示的な実施態様および特徴に加えて、本開示のさらなる側面、実施態様、目的、および特徴が、図面、詳細な説明、および特許請求の範囲により完全に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1A~1Cに、肺がん患者からのTCR CDR3β配列を有する特異性群を確証するために実施された実験の結果を概略的に纏める。図1Aは、GLIPH2(Grouping of Lymphocyte Interactions by Paratope Hotspots;GLIPH、抗原結合部位ホットスポットによるリンパ球相互作用のグループ分け)アルゴリズムによるTCR特異性の推測に含まれる4つの工程の概略図を示す。工程1には、T細胞受容体のCDR3β配列の取得が含まれる。この工程では、テキサス大学MDアンダーソン癌センター(MDACC)集団からの778,938個のCDR3β配列をGLIPH2解析の入力値として使用した。工程2には、複数の患者からのCDR3β配列内の短配列モチーフの検出を含む。これらの共通モチーフは、HLA分子に負荷された抗原ペプチドとの直接的な会合に関与すると予測される。この工程では、複数の評価基準によって66,094個の特異性群を確証した(図3Aも参照)。工程3には、4,226個のクローン増幅された特異性群の確証が含まれる。特定の特異性群の推測には複数の限界条件が用いられ、その条件には、a)Vβ遺伝子の濃縮、b)異なるCDR3β配列の最小数=3、c)患者の最小数=3、d)クローン増幅されたCDR3βクローン型の濃縮、およびe)HLA対立遺伝子の濃縮が含まれる。工程4には、435個のクローン増幅され腫瘍が濃縮した特異性群の確立が含まれる。
図1B図1Bには、肺がんで腫瘍が濃縮した特異性群の関連性を示す。腫瘍由来の最も増幅の進んだCDR3β配列は、435個の腫瘍が濃縮した特異性群に属していたが、健全な提供者およびCOPD患者の肺組織由来のCDR3β配列はその群には属さなかった。この傾向は、第2のNSCLC集団の腫瘍によって検証された(TRACERx(TRAcking Cancer Evolution through therapy (Rx);療法による癌成長の追跡))集合体、n=202、検証確認)。対応t検定では、***はp<0.001;*はp<0.05を示し、NSは有意差無しを示す。
図1C図1Cには、インフルエンザウイルス(Flu、赤色)、エプスタイン・バーウイルス(EBV、緑色)、およびサイトメガロウイルス(CMV、青色)の各抗原を含むHLA四量体由来のCDR3β配列で注釈付けられた396個の特異性群のネットワーク解析を示す。各点は1つの特異性群であり、2つの特異性群を繋ぐ辺は同一のCDR3β配列の存在を示す。
図2A図2A~2Cに、抗PD1治療に応答する患者内で増幅したウイルス特異性CD8+T細胞のクローンを示すように実施された実験の結果を概略的に纏める。図2Aは、患者M1(左側)および患者M2(右側)の末梢血中の治療前および治療後のCDR3βクローン頻度の比較を示す。ウイルス抗原を認識すると推測されるCDR3βクローンを強調表示している。
図2B図2Bには、ウイルス四量体であるCDR3β配列(2~4列目、四量体の抗原およびHLA対立遺伝子)により注釈付けられた患者M1またはM2(6列目、患者ID)からの治療後の増幅したCDR3βクローン(5列目、CDR3β配列)を含む特異性群を示す。A*02:01またはB*35:01対立遺伝子の濃縮を示す(最終の2列、超幾何分布検定からのp値を示す)。患者M2由来の2つのEBV関連の増幅クローンのCDR3α/β配列を底部に示す。
図2C図2Cには、TCR27-Jurkat細胞株(CDR3β:CASSTGDSNQPQHF;配列番号64、頂部の図)およびTCR28-Jurkat細胞株(CDR3β:CASSARTGELFF;配列番号18、底部の図)を形成して、図2Bに示すようにB*35との関連で予測されたEBV抗原に対するそれらの反応性を試験したことを示している。TCR27- Jurkat細胞およびTCR28-Jurkat細胞を、指定のペプチド(各図の上部に表示)で刺激したT2-B*35細胞とともに共培養した。活性化の水準をCD69の発現によって定量した。これらの実験では、対照のペプチドとして配列:LPFDFTPGY(配列番号107)を用いた。
図3A図3Aは、特異性推測の経路を示し、この図はMDアンダーソン癌センター(MDACC)からの178人のHLA型NSCLC患者での利用可能なデータを概略的に纏める。
図3B図3Bには、隣接の肺組織由来の低い比率のTCRクローン型が、腫瘍が濃縮された特異性群に分類されることを示している。MDACCのNSCLC集団(n=178の試料、左側)およびTRACERx集団(n=63の試料、右側)に属する患者の隣接の肺組織からの上位20個の最も増幅したCDR3βクローン型の比率を、図1Bと同様に435個の腫瘍が濃縮された特異性群に属する患者に対して定量した(%、log10変換)。残りのCDR3βクローン型(Non-exp;増幅無し)についても同一の解析を実施した。NDは、統計的に有意差が無かったことを示す。
図3C図3Cは、10個の指定の四量体により注釈色分けされた71個のクローン増幅された特異性群をネットワークに表示している。
図3D図3Dには、HLA四量体配列を用いるTCR特異性群のコンピューター検証を概略的に纏める。左側から右側へ、図1Cと同様に色分けされた71個のクローン増幅された特異性群のネットワーク解析を示し;2個の大きなインフルエンザ(Flu)関連の共同体(赤色)は丸で囲まれ、この特異性群のCDR3βメンバーは、赤色のフォントで強調表示された過去に報告した短モチーフ「RS」および「GxY」によって強調表示され;ヒートマップは、(「RS」モチーフを有する)Flu関連特異性群(行)の個別のCDR3βメンバー(列)、および丸で囲まれた共同体内の特異性群間の共通CDR3βメンバーの水準を示し;表には、5個のFlu特異性の四量体配列で注釈付けられた短「RS」モチーフ(太字)を含む「SIRSS%E」特異性群の例を示し(底部)、かつ腫瘍由来の異なるCDR3βメンバーの数およびVβ遺伝子の使用を示す(頂部)。
図3E図3Eには、指定の四量体(キー)で注釈付けられた394個の特異性群が、図1Cと同様に共通CDR3β配列を通して別個の共同体に組織化されたことを示す。辺の密集度は、連結された任意の2個のノード間での共通CDR3β配列の数を示している。
図3F図3Fは、図3Eと同様の共同体のプロットを示す。辺の色は、四量体由来の配列(異なる色で標識、E)が定義する同一の特異性(赤色)または異なる特異性(青色)を有する特異性群の間での共通CDR3β配列を表す。全ての連結(n=634)のうちの588個(の辺)(92.74%)が赤色で標識される。
図3G図3Gは、図3Cと同様に71個のクローン増幅された特異性群を示す。辺の色は、四量体由来配列が定義する同一の特異性(赤色)または異なる特異性(青色)を有する特異性群(図3C)の間での共通CDR3β配列を表す。全ての連結(n=92)のうちの92個(の辺)(100%)が赤色で標識される。
図4A図4A~4Bに、CMV、Flu、およびEBVを認識すると推測されるCDR3β配列の結果が、腫瘍肺と非罹患肺との間のそれらの分布に差異を示さないことを概略的に纏める。図4Aは、複数の患者をポアソン検定で比較することにより、腫瘍肺と非罹患肺の全体にわたって、CMV(青色)、Flu(赤色)、またはEBV(緑色)に対して推測される特異性を有するCDR3β配列の相対分布を示す火山プロットである。y軸はポアソン検定の負のlog10変換されたp値を示し、x軸は腫瘍肺と(隣接の)非罹患肺との間のlog2変換された倍率差(T/N)を示している。
図4B図4Bは、GLIPH2によってEBV、CMV、またはFluからの抗原を認識すると推測される、腫瘍肺(右側)または非罹患肺(左側)でのクロ-ン型の全体頻度を示す。各点は患者であり、全体頻度はlog10変換値として示される(第1四分位数と第3四分位数は、それぞれ25番目の百分位数と75番目の百分位数を示す)。
図5図5は、組み合わせた単細胞TCR-Seq手順および単細胞RNA-Seq(scRNA-seq)手順の概略図である。CD45+CD3+T細胞を、スタンフォード大学でのNSCLC患者からの肺腫瘍試料の単細胞懸濁液から選別した。単細胞TCR-Seqは、過去の説明(Han et al., 2014. Nat. Biotechnol. 32, 684)のようにネステッドマルチプレックスPCRを用いて実行した。単細胞RNseqは、その方法の詳細として、修正を加えた過去の方法(Picelli et al., 2014. Nat. Protoc. 9, 171)に従って実行した。TCRレパートリーは、単細胞TCR-Seq経路から、かつscRNA-seqデータから統合されて、GLIPH2解析用のトレーサー(TraCeR)アルゴリズム(Stubbington et al., 2016. Nat. Methods 13, 329)を用いて再構成した。
図6A図6Aは、抗PD1療法で治療されたNSCLC患者M1(頂部の図)およびM2(底部の図)からの治療前および治療後のCTスキャン画像を示す。腫瘍を赤い矢印で強調表示している。
図6B-6C】図6Bは、T2(174個のCEM.T2)細胞に、WTヒトHLA-B* 35:01の全長コード配列をコードするレンチウイルスベクターを形質導入したことを示す。細胞をピューロマイシンで選択して、過去に報告(Takamiya et al., 1994. Int Immunol. Vol. 6, 255)された対照のペプチド「LPFDFTPGY」(配列番号107)の有無によって、表面B*35発現をFACSによって定量した。図6Cは、ポアソン検定による腫瘍肺(T)と隣接の肺(N)との間の66,094個の共通特異性群の比較を示す火山プロットである。y軸は、ポアソン検定の負のlog10変換されたp値を表し、x軸は、腫瘍肺と隣接の肺の間のlog2変換された倍率差(T/N)を表す。点のサイズはクローン増幅の水準を表す。図2Bと同様に病原菌関連四量体であるCDR3β配列で注釈付けられた特異性群(n=11)は、増幅されたクローンのそれぞれのCDR3β配列(図2Bの5列目)に従って強調表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の詳細な説明
本開示は一般に、特に健康障害の診断、予防、および/または治療のための組成物および方法に関する。より具体的には、本明細書では、特定の同族の抗原に対する結合親和性を有する新規ポリペプチド構築物を提供する。本開示はまた、そのようなポリペプチド構築物を生成するのに有用な組成物および方法、ならびにこのポリペプチド構築物によって認識される同族の抗原を発現する細胞に関連する疾患を診断、予防、かつ/あるいは治療する方法を提供する。特にさらに、本明細書に開示のポリペプチド構築物を発現するように遺伝子操作されて、癌細胞などの目的の細胞に対して誘導されるリンパ球T細胞などの組換え細胞を提供する。以下でさらに詳しく考察するように、本開示は、肺がんでの新規の共通腫瘍抗原を識別するためのバイオインフォマティクスと抗原スクリーニングを組み合わせた手法を説明する。実施態様によっては、開示された手法は、GLIPHアルゴリズム(パラトープホットスポットとのリンパ球の相互作用のグループ分け)改良版、すなわちGLIPH2(文献[23]および[24])を実行し、全体水準で共通抗原に対するT細胞特異性を推測する。178人のHLA型肺がん患者由来のTCRレパートリーを用いて、GLIPH2により、定義されたHLA環境で共通の腫瘍抗原を認識すると推測される400個を超える特異性群を特定した。続いてその後の分析を、推測されるHLA-B*35の制約による分析により実行し、これにより2個の特定の特異性群、すなわちTCR27およびTCR28の優先順位が決定された。以下でさらに詳細に説明するように、追加の分析により、特異性群TCR27が抗原識別のための以下のモチーフを保有することが明らかになった:「STGD%NQP」、「%TGDSNQP」、「ST%DSNQP」、「STG%SNQP」、および「S%GDSNQP」であり、ここで「%」は種々のアミノ酸を示す(Gee et al., 2018)。TCR27の特異性群の非限定的なCDR3β配列の例として、例えば配列表に配列番号57~106として提供される配列が挙げられる。TCR28の特異性群は、「SARTG%」、「S%RTGE」、「SAR%GE」、「SA%TGE」、および「SART%E」のモチーフを保有する。TCR28の特異性群の非限定的なCDR3β配列の例として、例えば配列表に配列番号1~56として提供される配列が挙げられる。
【0030】
上記の考察のように、固形腫瘍の患者を治療するための免疫チェックポイントの阻害およびT細胞に基づく免疫療法の広範な使用には、癌内でのT細胞の特異性へのより深い理解が必要とされる。しかしながら、単細胞の配列決定技術を用いるT細胞の形態およびレパートリーを解析するために高度な技術が利用可能であるにも拘らず、腫瘍浸潤T細胞の大部分の特異性は、全ての固形腫瘍において依然として不明のままである。近年では、これまでに報告されてきた少数の腫瘍浸潤性T細胞の特異性は、変異抗原、非変異(共通)抗原、およびウイルス抗原を認識するT細胞を含む。免疫チェックポイント阻害の時代になってから、最近では変異抗原(例えばネオアンチゲン)に注目が集まっている。ネオアンチゲンとは一種の「改変された自己」抗原のことを指すので、この部類の抗原を認識するT細胞は、活動的な表現型を示し、かつ腫瘍内で活発に応答することが示されている。非変異腫瘍抗原には、正常組織の相対物内で発現される分化抗原(黒色腫関連抗原など)、あるいは発現が免疫特権部位、生殖系列組織、または胚に限定される自己抗原が含まれる。養子T細胞療法によるこれらの形態の腫瘍抗原を標的とする例は数多く存在している。さらに、ウイルス(HPV、EBV、メルケル細胞ポリオーマウイルスなど)に対する特異性を有するT細胞もまた、ウイルス関連の癌の研究の焦点となっている。
【0031】
対照的に、固形腫瘍での他の形態のT細胞特異性の役割は依然として解明されていない。例えば多数の報告として、肺がんでのインフルエンザウイルス(Flu)やサイトメガロウイルス(CMV)に対して特異的なT細胞など、腫瘍内のウイルス特異的T細胞の存在について説明されてきた。しかしこのようなウイルスが肺がんやその他の固形腫瘍の発癌性に役割を担うという直接的な証拠は無いために、これらのウイルスは主に腫瘍免疫応答とは無関係であると仮定されて、「傍観者(bystander)細胞」と呼ばれることが多い。以下にさらに詳細に説明するように、本明細書に記載の実験データにより、癌細胞および病原菌由来の特定のCD8+T細胞の部類およびそれらの交差反応性の抗原が同定された。この知見は、ウイルスや他の病原菌から防御するために広範なT細胞レパートリーを維持することが交差反応性に依存する可能性があるという仮説に一致している。自己の抗原に特異的なT細胞は、健康な個体の末梢血内に検出されていて、胸腺内で切り出されているもののクローン的に摘出されてはいないが、ウイルスや他の病原菌に対する免疫学的な「盲点」を回避できる可能性がある。癌細胞は組織学的にその起源の組織に類似しかつ自己抗原を発現できるために、一部の腫瘍浸潤T細胞が遍在的に発現された非変異の自己抗原に実際に特異的であるという可能性を調査する実験が計画されている。腫瘍微小環境内のT細胞特異性の包括的な解析および詳細な特性評価は、表現型の特性解析を超えるT細胞応答の基本的な理解を提供でき、かつ免疫系が腫瘍、正常組織、および病原菌を如何に認識するかについての重要な見識をもたらす。
【0032】
腫瘍浸潤T細胞の大部分が依然未知であるのは、高度に多型性のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子に関連して多様なTCRレパートリーを分析する手法が存在しないことが主な要因である。例えば、次世代配列決定技術により多数のTCRの配列決定が比較的容易かつ安価になってきているが、これらの非常に大規模なレパートリーを如何に分析可能とするのかが主要な中心課題となっている。
【0033】
このことは、同一のペプチド-MHC特異性において、可能性のあるTCR配列が数百または数千で存在し得るためである。GLIPHアルゴリズム(Glanville et al., 2018)、および最近ではその改良版(GLIPH2;Huang et al, 2020)が開発されてきていて、T細胞の抗原特異性を全身にわたって解析して、CDR3β配列に基づいて単独でT細胞の特異性を推測できるようになってきた。これらのアルゴリズムは、多数の配列を迅速に分析し、それらをTCR特異性群(単に特異性群とも呼ぶ)に解析し、可能性のあるMHC対立遺伝子の制約を予測できる。以下でさらに詳細に説明するように、GLIPH2を用いて、外科的に切除可能な疾患を有する178人のHLA型の非小細胞肺がん(NSCLC)患者からの778,938個の異なるTCRβのCDR3配列(CDR3β配列とも呼ぶ)を解析した。合計で4,300個の信頼性の高い特異性群をまず導出した。それらのうち、449個では、非罹患の肺組織に比較して腫瘍が濃縮されていることが判明した。また、患者内の全ての腫瘍浸潤T細胞レパートリーの最大35%が共通の抗原特異性を有すると推測されることも判明した。続いて特定のHLAの環境で既知のウイルス抗原を認識すると予測される新規のクローン型を特定することによって、選択された特異性群が検証されて、これらの予測が実験的に確認された。次いで腫瘍が優先的に濃縮され、HLA-B*35に関連して抗原を認識すると推測される2個の特異性群を優先付けした。表現型としては、これらの交差反応性CD8+T細胞は、エフェクター細胞形態を取り、それにより活性化NK細胞に見られるいくつかの遺伝子を発現し、枯渇マーカーであるPD-1またはCD39は発現しなかった。要約すると、本明細書に説明される実験データは、腫瘍に浸潤するT細胞が交差反応して腫瘍抗原および病原菌由来抗原を認識する可能性があるという直接的な証拠を提供する。
【0034】
以下により詳細に説明するように、本明細書に開示の実験データは、共通の腫瘍抗原およびそれらを認識するT細胞を見出す新規の手法を確立する。特に、本明細書に提示のいくつかの実験データは、抗PD-1治療に対して臨床応答を示す患者ではクローン増幅されたEBV特異性のCDR3β配列を示している。このことは、病原菌の交差反応性が腫瘍形成とT細胞免疫の間の相互作用において重要な機能となる可能性があることを示唆している。全体として、本明細書に開示のデータは、ヒトの癌での共通のT細胞特異性を包括的に分析し、かつ酵母ディスプレイライブラリーを用いて特定の抗原を同定するための汎用的な手法を提示している。このデータは、肺がんでのさらなるT細胞研究のための資料源として役立つだけでなく、見掛けでは「無作為な」ウイルス特異的T細胞の一部が腫瘍微小環境に集合する理由を説明でき、この集合が腫瘍形成に寄与する可能性がある道筋を示唆する。
【0035】
標的の癌、例えば肺がん内の新規の共通腫瘍抗原を見出す手法の非限定的なワークフローは、一般的に、ヒト肺がんでのT細胞特異性の状況の包括的な解析から開始する。バイオインフォマティクスの手法であるGLIPH2を使用して、178人の患者からの778,938個のCDR3β配列を解析し、かつ449個の腫瘍が濃縮された特異性群を構築した。HLA-B*35に関連して推測された特異性を有するそのようなTCRを2個識別した。本明細書に開示のようにT細胞抗原の識別のためのプラットフォームは、2種の技術を融合している。第1の技術として、GLIPH2アルゴリズムは、HLA制約の正確な予測によって全体的なT細胞特異性の普遍的な推測を実行する。GLIPH2アルゴリズムに関するさらなる情報は、Huang et al., Nat Biotechnol, 2020に見出すことができ、その記載内容は参照により組み込まれる。共通特異性およびHLA状況の推測を用いて、下流での抗原の検出のための疾患に関連するTCRの候補を優先付ける。第2の技術として、酵母ディスプレイライブラリーの豊富な多様性により、抗原の同定が大幅に容易となり、交差反応性の抗原の検出が可能になる。哺乳動物細胞内に構築された他のMHC/ペプチドライブラリーとは異なり、以下に説明する実験で用いられた酵母ディスプレイライブラリーには、108個を超える無作為に並べ替えられたペプチド配列が組み込まれている。過去には、HLA制約の不確実性により、酵母ディスプレイライブラリーを用いる抗原同定の成功は限定的であった。本明細書に説明の研究では、抗原に対して酵母ライブラリーを選別する前に、GLIPH2アルゴリズムを用いて候補のTCRの正確なHLA状況を推測することにより、この制約を克服できる。
【0036】
上述の考察のように、腫瘍浸潤T細胞の特異性を明確にすることは、どのようにT細胞固有因子が腫瘍免疫系の相互作用を形成し、かつ癌に対するT細胞応答の利用を目的とする治療に影響を及ぼすかを理解するために重要なことである。腫瘍免疫回避のメカニズムとしてのT細胞枯渇に関する現状での理解の補完として、本明細書に説明の研究は、自己抗原に対するT細胞の特異性もまた役割を果たすことを実証している。特定の理論に束縛されるものではないが、過去の研究により自己腫瘍に対する腫瘍浸潤T細胞の反応性が低いことが観察された理由は、自己抗原に対するT細胞の特異性によって部分的には説明されると考えられている。
【0037】
さらに、環境病原菌への免疫学的曝露が腫瘍に対する免疫応答に影響を及ぼす可能性があるという概念は過去に理論化されているが、そのメカニズムについて十分な理解は進んでいない。19世紀後半と早くに、William Coleyは癌患者の治療のためにColey毒素と呼ばれる混合細菌ワクチンを開発し、ある程度の成功を収めた。現代では、カルメット・ゲラン桿菌(BCG;Bacillus Calmette-Guerin)が早期膀胱がんへの免疫療法として日常的に用いられている。最近になって、腸内微生物叢が癌での免疫療法の応答性の重要な決定因子であることが示されている。膵臓がんでは、手術後の生存期間が最長の患者では特有の微生物叢が観察されている。これらの種々の例での作用機序には自然免疫系の細胞型が関与している可能性があるが、腫瘍と病原菌の両方を認識する交差反応性のT細胞が重要な役割を果たすように思われる。さらに、肺は呼吸器の病原菌に曝されているので、これらの抗原と腫瘍抗原との間の相互作用は、肺がんに対する適応免疫応答を理解する上に特に重要であると考えられる。
【0038】
本明細書に説明の実験結果は、腫瘍内のT細胞特異性を腫瘍特異的傍観者細胞または病原菌特異的傍観者細胞として分類することが、T細胞抗原認識の全ての可能性を完全に捉えていないことを実証している。以下でさらに詳しく説明するように、腫瘍内のT細胞はまた、腫瘍抗原と病原菌由来抗原の両方に対して交差反応的である可能性があり、従って腫瘍内のT細胞の特異性のより詳細な理解を助けることになる。この特定の部類のTCRを見出すための開示の手法はまた、さらなる腫瘍抗原を検出するための新規な方法となる。このことは、交差反応性のT細胞が腫瘍抗原や病原菌由来抗原をどのように認識するかをより深く理解することが、細胞療法、チェックポイント療法、癌に対するワクチン戦略の進歩に役立つ可能性があるためである。本明細書で開示の実験データは、環境病原菌との個体の遭遇が癌に対する適応免疫応答を形成できることを示していて、このことは患者での免疫療法を改善するために利用できる発想に繋がる。
【0039】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で用いる全ての技術用語、表記法、およびその他の科学用語または専門用語は、本開示が関連する当業者が通常理解する意味を有することを意図している。場合によっては、一般に理解される意味を有する用語を、明確化のために、および/または容易に参照できるように本明細書で定義しており、本明細書でのその定義の包含を、当技術分野で一般に理解される内容に対し実質的な差異を示すとは必ずしも解釈すべきではない。本明細書に記載または参照される技術および手順の多くは、周知のものであり、かつ従来からの方法を用いて当業者によって普通に使用されている。
【0040】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈に明白に別段の指示がない限り複数形の引用を含む。例えば、用語「1つの細胞(a cell)」には、1つ以上の細胞(one or more cells)を含み、またそれらの混合物も含む。「Aおよび/またはB」は、本明細書では、「A」、「B」、「AまたはB」、ならびに「AおよびB」の全てを含むように用いられる。
【0041】
本明細書で使用される用語「約」は、「おおよそ」というその通常の意味を有する。近似の程度が文脈から明らかでないのなら、「約」は、提示された数値を含む全ての場合に、提示された数値の±10%以内、または最も近い有効数字に四捨五入されていることを意味する。範囲が指定される場合には、これら範囲には境界の数値が含まれる。
【0042】
本明細書で使用される用語「投与」および「投与する」は、限定はされないが、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内、および局所、またはそれらの組合せの各投与を含む投与経路による生体活性組成物または製剤の送達を指す。この用語には、限定はされないが、医療専門家による投与および自己投与が含まれる。
【0043】
用語「細胞」、「細胞培養物」、「細胞株」は、特定対象の細胞、細胞培養物、または細胞株を指すだけでなく、培養中の移入または継代の回数に関係なく、その細胞、細胞培養物、または細胞株の後代または潜在的な後代も指す。当然のことではあるが、全ての後代が親細胞と正確に同一ではない。このことは、特定の修飾が、変異(例えば意図的な変異または偶発的な変異)または環境の影響(例えばメチル化または他の後成的修飾)のいずれかにより、後代が実際には親細胞と同一ではない可能性があるように後続の世代で起こっているからであり、この特定の修飾は、後代が元々の細胞、細胞培養物、または細胞株と同一の機能を保持している限りは、本明細書で使用される用語の範囲内に依然含まれる。
【0044】
本開示の対象の構築物、核酸、細胞、または組成物の「有効な」、「治療上有効な」、または「薬学的に有効な」量または数という用語は、一般に、組成物などが存在しない場合に対して指定の目的を達成する(例えば、それが投与される効果を達成する、疾患を予防または治療する、微生物感染を阻害する、あるいは健康障害の1つ以上の症状を軽減する)ために十分な構築物、核酸、細胞、または組成物の量または数を指す。有効量または有効数の例は、疾患の1つ以上の症状の治療、予防、または軽減に寄与するのに十分な量または数であり、これを治療有効量と呼ぶこともできる。1つ以上の症状の「軽減」は、一般に症状の重症度または頻度の低減、または1つ以上の症状の排除を意味する。構築物、核酸、細胞、または組成物の正確な量または数は、治療の目的に依存し、かつ公知の技術を用いて当業者なら確定可能である(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992);Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999);Pickar, Dosage Calculations (1999);およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照)。
【0045】
本明細書で使用される用語「作動可能に連結された」は、2つ以上の要素、例えばポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の物理的または機能的な連結を指し、これにより、それら要素が意図された様式で作動することを可能とする。例えば、用語「作動可能に連結された」は、本明細書に記載の直交性DNA標的配列、または核酸構築物もしくは操作された応答要素中のプロモーター配列の環境で使用される場合には、直交性DNA標的配列およびプロモーターが、転写因子またはRNA重合酵素によるそれぞれの結合が転写に影響を及ぼすことが可能となるように、タンパク質またはRNAをコードする目的のポリヌクレオチドから適切な空間および距離でフレーム内に存在することを意味する。当然のことであるが、作動可能に連結された要素は、連続していてもよく、連続していなくてもよい。
【0046】
ポリペプチド構築物の環境での「作動可能に連結された」とは、構築物の指定の活性を提供するためのアミノ酸配列(例えば、異なる区画、部分、またはドメイン)間の物理的連結(例えば、直接的または間接的な連結)を指す。本開示では、本開示の構築物の領域またはドメインは、細胞内での構築物の適切な折畳み、加工、標的化、発現、結合、および他の機能特性を保持するように機能的に連結されていてもよい。特に明記しない限り、本開示の構築物の区画、部分、およびドメインは、相互に機能的に連結される。本明細書に開示の構築物の作動可能に連結された区画、部分、およびドメインは、連続していてもよく、連続していなくてもよい(例えば、リンカーを介して互いに連結されている)。
【0047】
本明細書で2つ以上の核酸またはタンパク質の環境で使用される用語「同一性百分率」は、以下に説明するデフォルトパラメータを用いるBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて測定されて、または手動の整列処理および外観検査により測定されて、同一である2つ以上の配列または部分配列、あるいは同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸の特定の百分率(例えば、比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大の一致性を得るために比較しかつ整列させた場合に、特定の領域にわたって約60%の配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性)を有する2つ以上の配列または部分配列に関連する。例えば、NCBIウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)を参照。このような配列は「実質的に同一」と言える。この定義はまた、配列の相補体にも関連し、あるいは配列の相補体に適用されてもよい。この定義はまた、欠失および/または付加を有する配列を含み、ならびに置換を有する配列を含む。配列同一性は、GCSプログラムパッケージ(Devereux et al, Nucleic Acids Res. 12:387, 1984)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul et al., J Mol Biol 215:403, 1990)などの公開技術および広く利用可能なコンピュータプログラムを用いて計算できる。配列同一性は、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター(1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)のGenetics Computer Groupの配列解析ソフトウェアパッケージなどの配列解析ソフトウェアをそのデフォルトパラメータとともに用いて測定できる。
【0048】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容可能な賦形剤」は、対象への目的の化合物の投与のための薬学的に許容可能な担体、添加剤、または希釈剤を提供する任意の適切な物質を指す。従って「薬学的に許容可能な賦形剤」は、薬学的に許容可能な希釈剤、薬学的に許容可能な添加剤、および薬学的に許容可能な担体と呼ばれる物質を包含してもよい。本明細書で使用される用語「薬学的に許容可能な担体」には、限定はされないが、薬学的な投与に適合性のある生理食塩水、溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などが含まれる。補助的な活性化合物(例えば、抗生物質およびさらなる治療薬剤)をまたこの組成物に組み込んでもよい。
【0049】
本明細書で使用される「対象」または「個体」には、ヒト(例えばヒト個体)およびヒト以外の動物などの動物が含まれる。実施態様によっては、「対象」または「個体」は、医師による治療中の患者である。従って対象は、問題の疾患(例えば癌)および/または疾患の1つ以上の症状を有する、それを有するリスクのある、あるいはそれを有する疑いのあるヒト患者または個体であってもよい。対象はまた、診断時またはその後に問題の疾患のリスクがあると診断された個体であってもよい。用語「非ヒト動物」には、全ての脊椎動物が含まれ、例えば哺乳動物、例えばマウスなどの齧歯類、非ヒト霊長類、およびヒツジ、イヌ、ウシなどの他の哺乳動物、ニワトリ、および両生類、爬虫類などの非哺乳動物が含まれる。
【0050】
本明細書で使用される用語「ベクター」は、別の核酸分子を転移または輸送できる核酸分子または配列を指す。移入された核酸分子は一般に、ベクター核酸分子に連結、例えばその分子内に挿入される。一般にベクターは、適切な制御要素と会合すると複製が可能となる。用語「ベクター」には、クローニングベクターおよび発現ベクター、ならびにウイルスベクターおよび組み込みベクターが含まれる。「発現ベクター」は、調節領域を含むベクターであり、それにより生体外および/または生体内でDNA配列および断片を発現できる。ベクターは、細胞内での自律複製を誘導する配列を含んでもよく、あるいは宿主細胞DNAへの組み込みを可能とするのに十分な配列を含んでもよい。有用なベクターとして、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとして、例えば、複製欠損のレトロウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。実施態様によっては、ベクターは遺伝子送達ベクターである。実施態様によっては、ベクターは、細胞内に遺伝子を移入するための遺伝子送達媒体として使用される。
【0051】
当然のことであるが、本明細書に説明される本開示の側面および実施態様は、側面および実施態様を「含む(comprising)」、それら「からなる(consisting of)」、およびそれら「から本質的になる(consisting essentially of)」を含む。本明細書で使用される「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含む(containing)」、または「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義であり、包括的または開放的であり、かつ記載されていないさらなる要素、方法、工程を排除しない。本明細書で使用される「からなる」は、請求される組成物または方法に特定されていない要素、工程、または成分を排除する。本明細書で使用される「本質的にからなる」は、請求される組成物または方法の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を及ぼさない材料または工程を排除しない。特に組成物の成分の説明または方法の工程の説明において、本明細書での用語「含む」のいずれの記載も、記載された成分または工程から本質的になる、またそれからなるこれらの組成物および方法を包含すると理解される。
【0052】
数値の範囲が提示される場合に、本明細書に開示される全ての範囲が、あらゆるかつ全ての可能な部分範囲およびその部分範囲の組合せを包含することを当業者は分かっている。列挙されるいずれの範囲も、同一の範囲を少なくとも二等分、三等分、四等分、五等分、十等分などに分割されることが十分に示されかつ可能であることを容易に認識できる。非限定的な例として、本明細書に説明される範囲はそれぞれ、三分割の底部、三分割の中央部、三分割の頂部などに容易に分割できる。また当業者は分かっているように、「最大~」、「少なくとも~」、「~を超える」、「~未満」などの全ての語句は、記載された数字を含み、続いて上記の説明のように部分範囲に分割できる範囲を指す。最後に当業者は分かっているように、範囲にはそれぞれ個々の構成要素が含まれる。従って、例えば1~3個の項目を有する群は、1個、2個、または3個の項目を有する群を指す。同様に1~5個の項目を有する群は、1個、2個、3個、4個、または5個の項目を有する群を指し、その他の群も同様である。本明細書では、特定の範囲をその数値の前に用語「約」を付けて示している。本明細書では用語「約」を、その用語が前に付く正確な数字、ならびにその用語が前に付く数字に近い数字、あるいはおおよそのその数字であることに文字通りの裏付けを提供するために使用する。ある数字が具体的に記載された数字に近い数字であるか、あるいはおおよそのその数字であるか否かを判断する際には、それに近い数字あるいはその近似の記載されない数字が提示される文脈では、その記載されない数字は、具体的に記載された数字に対して実質的な同等性を提供する数字であるとしてもよい。
【0053】
例えば(a)、(b)、(i)などの見出しは、単に明細書および特許請求の範囲を読み易くするために示されている。明細書または特許請求の範囲での見出しの使用は、工程または要素がアルファベット順または数字順で実行されることを必要とせず、あるいはそれらが示される順序で実行されることを必要としない。
【0054】
明確にするために、別の実施態様の文脈に説明される本開示の特定の特徴は、単一の実施態様に組み合わせて提供されてもよいことが分かっている。逆に簡潔にするために、単一の実施態様の文脈に説明される本開示の種々の特徴はまた、個別に、または任意の適切な部分的な組合せで提供されてもよい。本開示に関連する実施態様の全ての組合せが、本開示によって具体的に包含され、あらゆる組合せが個別に明示的に開示されているかのように本明細書に開示されている。さらに、様々な実施態様およびそれらの要素の全ての部分的組合せもまた、本開示によって具体的に包含され、あらゆるそのような部分的組合せが本明細書に個別に明示的に開示されているかのように本明細書に開示されている。
【0055】
T細胞受容体
TCRは、免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質であり、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変タンパク質と会合している。TCRおよび抗体は、種々の部類の抗原(リガンド)を認識するように進化した分子である。TCRは、抗原提示細胞(APC)または任意の有核細胞(例えば、赤血球細胞を除く身体中の全てのヒト細胞)の表面上の主要組織適合性複合体(MHC)の産物の関連で提示される抗原ペプチドの認識を担う抗原特異的分子である。対照的に、抗体は一般に可溶性抗原または細胞表面抗原を認識し、MHCによる抗原の提示を必要としない。この系は、細胞内で短いペプチドに加工され、細胞内MHC分子に結合し、かつペプチド-MHC複合体(pepMHC)として表面に送達される、(ウイルスや細菌のタンパク質を含む)細胞によって発現される細胞内抗原の全体列を認識する潜在的な能力を、TCRを介してT細胞に付与する。この系により、実質的に任意の外来タンパク質(変異した癌抗原またはウイルスタンパク質など)あるいは異常に発現したタンパク質がT細胞の標的として機能できることになる。
【0056】
一般にTCRはαβおよびγδの形態で存在し、これらは構造的に類似しているが、全く異なる解剖学的な位置および機能を有する。天然ヘテロ二量体αβ TCRの細胞外部分は、一般に2つのポリペプチドであるα鎖およびβ鎖からなり、それらペプチドのそれぞれは、膜近位の定常ドメインと膜遠位の可変ドメインを有する。定常ドメインと可変ドメインのそれぞれには、鎖内ジスルフィド結合が含まれる。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似する高度に多型性のループを含み、フレームワーク配列内に埋め込まれ、そのうちの1つはCDR3と呼ばれる超可変領域である。数種類のα鎖可変(Vα)領域と数種類のβ鎖可変(Vβ)領域が存在し、それらはCDR1配列およびCDR2配列であるフレームワークおよび部分的に定義されたCDR3配列によって区分される。TCR遺伝子治療の使用により、いくつかの現状の障害を克服する。例えば、患者自身のT細胞に望ましい特異性を付与し、短期間で十分な数のT細胞を生成して、T細胞の枯渇を回避することができる。さらにTCRを、中心記憶T細胞または幹細胞の特徴を備えるT細胞に形質導入することができ、これにより転移時により優れた持続性と機能を確保できる。さらにTCR-遺伝子操作T細胞を、化学療法または放射線照射によってリンパ球減少症となった癌患者に注入でき、それにより効率的な生着を可能として免疫抑制を阻害する。
【0057】
本開示の組成物
以下により詳細に説明するように、本開示の一側面は、特定の同族の抗原に対する結合親和性を有する新規のポリペプチド構築物に関する。さらに、このようなポリペプチド構築物をコードする組換え核酸、ならびに本明細書に開示されるポリペプチド構築物を発現するように遺伝子操作され、かつ癌細胞などの目的の細胞に対して誘導される組換え細胞を提供する。
【0058】
A.本開示の構築物
一側面では、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む種々の構築物を本明細書に提供する。
【0059】
本開示の構築物の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。実施態様によっては、構築物は、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのCDRを含む。実施態様によっては、構築物は、配列番号6の配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのCDRを含む。実施態様によっては、構築物は、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の配列同一性を有する少なくとも1つのCDRを含む。実施態様によっては、構築物は、配列番号6の配列に対して少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の配列同一性を有する少なくとも1つのCDRを含む。
【0060】
本明細書に開示の構築物のCDR配列は、修飾、例えば変異されていてもよい。CDR配列の修飾の非限定的な例として、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個以下のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、または挿入が挙げられる。実施態様によっては、本明細書に開示の構築物の少なくとも1つのCDRは、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して100%の同一性を有する配列を含み、配列中の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個のアミノ酸残基は、異なるアミノ酸残基によって置換される。実施態様によっては、本明細書に開示の構築物の少なくとも1つのCDRは、配列番号6の配列に対して100%の同一性を有する配列を含み、配列中の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個のアミノ酸残基は、異なるアミノ酸残基によって置換される。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して100%の同一性を有する配列を含み、配列中の1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸残基は、異なるアミノ酸残基によって置換される。実施態様によっては、少なくとも1つのCDRは、配列番号18の配列に対して100%の同一性を有する配列を含み、配列中の1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸残基は、異なるアミノ酸残基によって置換される。
【0061】
当業者は、結合親和性を、2つの分子、例えば抗体またはその機能的断片と抗原の間の非共有結合的相互作用の強度の尺度として一般に使用できることが分かっている。場合によっては、結合親和性を用いて一価の相互作用(固有活性)を説明できる。2つの分子間の結合親和性は、解離定数(KD)の測定によって定量できる。次いでKDは、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore)を用いて、複合体の形成および解離の速度の測定によって決定できる。一価の複合体の会合および解離に対応する速度定数を、それぞれ会合速度定数ka(またはkon)および解離速度定数kd(またはkoff)と呼ぶ。KDは、式:KD=kd/kaによってkaおよびkdに関連付けられる。解離定数の値は、周知の方法によって直接決定でき、複雑な混合物であっても、Caceciら(1984, Byte 9: 340-362)に記載の方法などによって算出できる。例えばKDは、WongおよびLohman(1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5428- 5432)によって開示の分析法などの二重フィルターニトロセルロースフィルター結合測定法を用いて設定されてもよい。標的抗原に対する本開示の遺伝子操作抗体の結合能力を評価するその他の標準分析法は、当技術分野で知られており、例えば、ELISA、ウェスタンブロット、RIA、および流動細胞計測分析、ならびに本明細書の他の部分に例示される他の測定法が挙げられる。抗体の結合動態および結合親和性はまた、例えばBiacore(登録商標)システムまたはKinExAを用いる表面プラズモン共鳴(SPR)などの当技術分野で知られる標準測定法によって評価できる。実施態様によっては、標的抗原に対する本明細書に開示の構築物の結合親和性は、Frankelら(Mol. Immunol, 16: 101-106, 1979)に説明されるスキャチャード法によって評価できる。
【0062】
実施態様によっては、本開示の構築物は、(a)TCR;(b)抗体;または(c)(a)または(b)の機能的誘導体または断片であってもよい。当業者であれば、用語「その機能的断片」または「その機能的誘導体」は、その断片または誘導体が由来する野生型分子と共通の定量的および/または定性的生体活性を有する分子を指すことを容易に分かっている。例えば、抗体の機能的断片または機能的誘導体は、その機能的断片または機能的誘導体が由来する抗体と同じエピトープに結合する本質的に同一の能力を保持する断片または誘導体である。例えばエピトープに結合できる抗体は、N末端および/またはC末端で切詰められていてもよく、そのエピトープ結合活性の保持性は、当業者には既知の測定法を用いて評価される。
【0063】
実施態様によっては、構築物は、互いに作動可能に連結されたTCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCR構築物である。実施態様によっては、TCRα鎖およびTCRβ鎖は互いに共有結合している。実施態様によっては、TCRα鎖およびTCRβ鎖は、非共有結合様式で互いに連結されている。実施態様によっては、TCRα鎖およびTCRβ鎖は、ポリペプチドリンカーを介して互いに共有結合している。実施態様によっては、ポリペプチドリンカーは切断可能なリンカーである。実施態様によっては、ポリペプチドリンカーは自己タンパク質分解ペプチドを含む。実施態様によっては、自己タンパク質分解ペプチドは、カルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼ(ヒューリン)、ブタテスコウイルス-1 2A(P2A)、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A)、ゾセア・アシグナウイルス2A(T2A)、細胞質多角体病ウイルス2A(BmCPV2A)、軟化病ウイルス2A(BmIFV2A)、またはそれらの組み合せに由来する1つ以上の自己タンパク質分解切断部位を含む。実施態様によっては、TCRα鎖およびTCRβ鎖は、P2A切断部位を介して互いに共有結合している。本開示は、単鎖TCR構築物および多鎖TCR構築物の両方を提供する。実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、単鎖αもしくはβ分子、またはγおよびδ分子として、あるいはα鎖とβ鎖、またはγ鎖とδ鎖の両方から構成される二本鎖構築物として提供されてもよい。
【0064】
実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、単鎖TCR(scTCR)として提供されてもよい。scTCRは、第1のTCR鎖(例えばα鎖)の可変領域のポリペプチド、および第2のTCR鎖(例えばβ鎖)全体(全長)のポリペプチドを含んでもよく、あるいはその逆であってもよい。実施態様によっては、ポリペプチドは互いに直接結合している。実施態様によっては、scTCRは、必要に応じて2つ以上のポリペプチドを共に結合する1つ以上のリンカーを含んでもよい。実施態様によっては、リンカーは、例えば化学架橋剤などの合成化合物リンカーであってもよい。市販の適切な架橋剤の非限定的な例として、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)(BS3)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(DSP)、ジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(DTSSP)、エチレングリコールビス(コハク酸スクシンイミジル)(EGS)、エチレングリコールビス(コハク酸スルホスクシンイミジル)(スルホ-EGS)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、酒石酸ジスルホスクシンイミジル(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、およびビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)が挙げられる。
【0065】
実施態様によっては、リンカーは、本明細書に記載のように、2つの単鎖を共に結合するペプチドリンカーであってもよい。実施態様によっては、ペプチドリンカー配列の長さおよびアミノ酸組成を、互いに対してポリペプチドの配向および/または近接性を変化させるように最適化して、本明細書に開示の構築物(例えばTCR構築物)の所望の活性を達成することができる。
【0066】
本開示による構築物はまた、少なくとも2つのscTCR分子を含む多量性複合体の形態で提供でき、scTCR分子はそれぞれ、少なくとも1つのビオチン部分、または他の相互接続分子/リンカーに融合され、scTCRはビオチン-ストレプトアビジン相互作用によって相互接続されて、前記多量性複合体の形成を可能にする。多量性TCRの生成のために当技術分野で知られる類似の手法もまた想定され、本開示内に含まれる。従って、3個以上の本開示のscTCRを含む高次の多量性複合体もまた提供される。
【0067】
融合ポリペプチドを生成する適切な方法は、当技術分野では知られていて、例えば組換え法を含む。実施態様によっては、本開示の構築物、TCR(およびその機能的断片およびその機能的誘導体)、およびポリペプチドは、α鎖とβ鎖を連結する、および/またはγ鎖とδ鎖を連結するリンカーペプチドを含む単一タンパク質として発現されてもよい。これに関して、本開示の構築物、TCR(およびその機能的断片およびその機能的誘導体)、およびポリペプチドは、本開示のTCRの可変領域のアミノ酸配列を含み、さらにリンカーペプチドを含んでもよい。実施態様によっては、リンカーペプチドは、宿主細胞中の構築物またはTCR(その機能的断片および機能的誘導体を含む)の発現を効果的に促進してもよい。原理的に、リンカーペプチドは任意の適切なアミノ酸配列を含んでもよい。単鎖TCR構築物のためのリンカー配列は、当技術分野では周知である。実施態様によっては、このような単鎖構築物はさらに、1つまたは2つの定常ドメイン配列を含んでもよい。リンカーペプチドを含む構築物が宿主細胞によって発現されると、リンカーペプチドもまた切断され、分離したα鎖とβ鎖、かつ分離したγ鎖とδ鎖が生成できる。
【0068】
実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、少なくとも1つのTCRαもしくはγおよび/またはTCRβもしくはδの可変ドメインを含む。一般に、TCR構築物には、TCRα可変ドメインとTCRβ可変ドメインの両方が含まれ、あるいはTCRγ可変ドメインとTCRδ可変ドメインの両方が含まれる。実施態様によっては、TCR構築物は、αβ/γδヘテロ二量体を含む、あるいは単鎖形式であってもよい。実施態様によっては、養子療法での融合体、すなわちαβまたはγδヘテロ二量体TCRは、例えば、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方を有する全長鎖として形質導入されてもよい。必要に応じて、それぞれの定常ドメインの残基の間に導入されたジスルフィド結合が存在してもよい。
【0069】
実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、単鎖αもしくはβ、またはγおよびδの各分子として、あるいはα鎖およびβ鎖、またはγ鎖およびδ鎖の両方から構成される二本鎖構築物として提供される。従って実施態様によっては、TCR構築物は、配列番号1~106から選択される配列に対して少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の配列同一性を有するCDR3βをそのβ鎖中に含む単鎖TCR構築物である。さらなるまたは別の実施態様では、TCR構築物はさらに、CDR1および/またはCDR2ドメイン配列を含んでもよい。実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、少なくとも1つのCDR配列、好ましくは3つのCDR配列、すなわちCDR1、CDR2、およびCDR3を全て含む。
【0070】
実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、α鎖とβ鎖の両方、またはγ鎖とδ鎖の両方から構成される二本鎖構築物として提供される。従って実施態様によっては、本開示のTCR構築物は、α鎖とβ鎖の両方を含む二本鎖構築物として提供され、そのβ鎖は配列番号1~106から選択される配列に対して、少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の配列同一性を有するCDR3βを含む。実施態様によっては、TCR構築物はさらに、そのα鎖にCDR3α配列を含む。
【0071】
上記の概説のように、実施態様によっては、本開示の構築物は、本明細書に記載の抗原に特異的に結合する抗体構築物またはその機能的断片の骨格内に提供してもよい。抗体構築物は、当技術分野で知られている任意の種類の免疫グロブリンであってもよい。例えば抗体構築物は、任意のアイソタイプ、例えばIgA、IgD、IgE、IgG、IgMなどであってもよい。抗体構築物は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。抗体構築物は、天然起源の抗体、例えばヒト細胞などの哺乳動物から単離および/または精製された抗体であってもよい。あるいは抗体構築物は、遺伝子操作された抗体、例えばヒト化抗体またはキメラ抗体であってもよい。抗体構築物は、単量体または重合体の形態であってもよい。実施態様によっては、本明細書に開示の構築物は、抗原結合断片(Fab)、単鎖可変断片(scFv)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHドメイン、VLドメイン、VHHドメイン、二重特異性抗体、またはそれらのいずれかの機能的断片からなる群から選択される抗体構築物である。
【0072】
B.核酸
一側面では、本明細書に、発現カセットなどの本開示の構築物をコードするヌクレオチド配列を含む種々の核酸分子、および例えば宿主細胞内での構築物の生体内発現または生体外無細胞発現を可能にする調節因子配列などの異種核酸配列に作動可能に連結されるこれらの核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0073】
用語「核酸分子」および「ポリヌクレオチド」は、本明細書では互換的に用いられ、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、および核酸類似体を含むDNA分子またはRNA分子を含む核酸分子などのRNA分子およびDNA分子の両方を指す。核酸分子は、二本鎖または一本鎖(例えば、センス鎖またはアンチセンス鎖)であってもよい。核酸分子には、非従来型のヌクレオチドまたは修飾型のヌクレオチドが含まれてもよい。本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド配列」および「核酸配列」は、互換的にポリヌクレオチド分子の配列を指す。本明細書に開示のポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列は、参照によりWIPO標準ST.25(1998)、付録2、表1~6に組み込まれる37 CFR §1.82)に説明されているヌクレオチド塩基およびアミノ酸の標準文字略語を使用して示されている。
【0074】
本開示の核酸分子は、一般に約0.5 Kb~約50 Kb、例えば約0.5 Kb~約20 Kb、約1 Kb~約15 Kb、約2 Kb~約10 Kb、または約5 Kb~約25 Kb、例えば約10 Kb~15 Kb、約15 Kb~約20 Kb、約5 Kb~約20 Kb、約5 Kb~約10 Kb、または約10 Kb~約25 Kbである核酸分子を含む任意の長さの核酸分子であってもよい。実施態様によっては、本開示の核酸分子は、約1.5 Kb~約50 Kb、約5 Kb~約40 Kb、約5 Kb~約30 Kb、約5 Kb~約20 kb、または約10 Kb~約50 Kb、例えば、約15 Kb~30 Kb、約20 Kb~約50 Kb、約20 Kb~約40 Kb、約5 Kb~約25 Kb、または約30 Kb~約50 Kbである。
【0075】
本明細書に開示の実施態様によっては、本開示の核酸分子は、配列番号1~106からなる群から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む構築物をコードするヌクレオチド配列を含む。実施態様によっては、構築物は一本鎖構築物または二本鎖構築物である。実施態様によっては、構築物は、(a)TCR;(b)抗体;(c)(a)または(b)の機能的誘導体または断片からなる群から選択される。実施態様によっては、構築物は、互いに作動可能に連結されたTCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCR構築物である。実施態様によっては、構築物は、配列番号1~106から選択される配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するCDR3βをそのβ鎖中に含むTCR構築物である。実施態様によっては、構築物はさらに、CDR3α配列をそのα鎖に含む。
【0076】
実施態様によっては、ヌクレオチド配列は、発現カセットまたは発現ベクターに組み込まれる。当然のことであるが、発現カセットは一般に、生体内および/または生体外で受容細胞内にコード配列の適切な転写および/または翻訳を指示するためのコード配列および十分な調節情報を含む遺伝物質の構築物を含む。一般に発現カセットは、所望の宿主細胞を標的とするためのベクターおよび/または個体に挿入されてもよい。従って実施態様によっては、本開示の発現カセットは、本明細書に開示の構築物のコード配列を含み、その発現カセットは、プロモーターなどの発現制御要素、および場合によってはコード配列の転写または翻訳に影響を及ぼす他の核酸配列のいずれかまたは組合せに作動可能に連結される。
【0077】
実施態様によっては、ヌクレオチド配列は発現ベクターに組み込まれる。当業者には当然のことであるが、用語「ベクター」は、一般に宿主細胞間の伝達のために設計された組換えポリヌクレオチド構築物を指し、ベクターは、形質転換の目的、例えば宿主細胞への異種DNAの導入に使用できる。従って実施態様によっては、ベクターは、挿入された区画の複製を引き起こすように別のDNA区画が挿入され得る、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどのレプリコンであってもよい。実施態様によっては、発現ベクターは組込みベクターであってもよい。
【0078】
実施態様によっては、発現ベクターはウイルスベクターであってもよい。当業者には分かっているが、用語「ウイルスベクター」は、典型的には核酸分子の転移または細胞のゲノムへの組み込みを促進するウイルス由来の核酸要素を含む核酸分子(例えば転移プラスミド)、あるいは核酸転移を媒介するウイルス粒子のいずれかを指すように広く用いられている。ウイルス粒子には、典型的には核酸に加えて種々のウイルス成分が含まれ、場合によっては宿主細胞成分も含まれる。用語「ウイルスベクター」は、核酸を細胞に移入できるウイルスあるいはウイルス粒子のいずれか、または移入された核酸自体を指す場合がある。ウイルスベクターおよび転移プラスミドには、主にウイルスに由来する構造的および/または機能的遺伝要素が含まれる。実施態様によっては、ウイルスベクターは、バキュロウィルスベクター、レトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターである。用語「レトロウイルスベクター」は、主にレトロウイルスに由来する構造的および機能的遺伝要素またはその一部を含むウイルスベクターまたはプラスミドを指す。用語「レンチウイルスベクター」は、レトロウイルスの属であるレンチウイルスに主に由来するLTRを含む、構造的および機能的遺伝要素またはその一部を含むウイルスベクターまたはプラスミドを指す。
【0079】
従って、本明細書に開示の構築物のいずれかをコードする1つ以上の核酸分子を含むベクター、プラスミド、またはウイルスをさらに本明細書に提供する。この核酸分子は、ベクター内に含まれてもよく、例えばベクターによって形質転換/形質導入された細胞内でのそれらの発現を誘導することができる。真核細胞および原核細胞での使用に適するベクターは、当技術分野では知られており、市販されている、あるいは当業者によって容易に調製される。
【0080】
DNAベクターは、従来からの形質転換技術または形質移入技術を介して真核細胞に導入できる。細胞を形質転換または形質移入するための適切な方法は、Sambrookら(2012, supra)および他の標準的な分子生物学実験マニュアルから知見でき、例えばリン酸カルシウム形質移入、DEAEデキストラン媒介形質移入、形質移入、マイクロインジェクション、陽イオン性脂質媒介形質移入、電気穿孔、形質導入、スクレープ・ローディング、衝撃導入、ヌクレオポレーション、流体力学ショック、および感染などである。
【0081】
本開示に使用できるウイルスベクターには、例えば、バキュロウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、およびウシパピローマウイルスベクターが挙げられる(例えば、Gluzman (Ed.), Eukaryotic Viral Vectors, CSH Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照)。例えば、本明細書に開示されるキメラ受容体は、哺乳類細胞などの真核細胞(例えば、COS細胞、NIH 3T3細胞、またはHeLa細胞)内で産生されてもよい。これらの細胞は、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection;Manassas, VA)などの多くの供給元から入手できる。発現系を選択する際には、成分が相互に互換性があることを確認するように注意する必要がある。当業者であれば、そのような判断が可能である。さらに、発現系の選択に手引きが必要な場合は、当業者は、P. Jonesの「Vectors: Cloning Applications”, John Wiley and Sons, New York, N.Y., 2009」を参照できる。
【0082】
提供される核酸分子は、天然起源の配列、または天然起源の配列とは異なる配列を含んでもよいが、遺伝暗号の縮重により、抗体などの同一のポリペプチドをコードする。これらの核酸分子は、RNAまたはDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、またはホスホアミダイト系の合成によって生成されるような合成DNA)、またはこれらの種類の核酸内のヌクレオチドの組合せまたは修飾から構成されてもよい。さらに、核酸分子は二本鎖であっても一本鎖であってもよい(例えば、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれか)。
【0083】
核酸分子は、ポリペプチド(例えば抗体)をコードする配列に限定されず、コード配列(例えばキメラ受容体のコード配列)の上流または下流にある非コード配列の一部または全部をまた含んでもよい。分子生物学の当業者なら、核酸分子を単離するための日常的な手順に精通している。それら核酸分子は、例えば、制限エンドヌクレアーゼによるゲノムDNAの処理によって、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実施によって生成できる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合に、これら分子は、例えば生体外転写によって生成できる。
【0084】
別の側面では、本明細書に開示される少なくとも1つの遺伝子操作細胞および培地を含む細胞培養物を本明細書に提供する。一般にこの培地は、本明細書に記載の細胞を培養するための任意の適切な培地であってもよい。上述の多種多様な細胞および種を形質転換する技術は、当技術分野では知られており、技術文献および科学文献に述べられている。従って、本明細書に開示の少なくとも1つの遺伝子操作細胞を含む細胞培養物もまた、本出願の範囲内である。細胞培養物を生成および維持するのに適する方法およびシステムは、当技術分野では知られている。
【0085】
C.遺伝子操作された細胞および細胞培養物
本開示の組換え核酸は、例えばヒトTリンパ球などの細胞に導入されて、核酸分子を含む遺伝子操作細胞を生成できる。従って本開示のいくつかの実施態様は、遺伝子操作細胞を生成する方法に関し、この方法は、(a)タンパク質発現が可能な宿主細胞を提供する工程;および(b)提供された宿主細胞に本開示の組換え核酸を形質導入して、遺伝子操作細胞を生成する工程を含む。本開示の核酸分子の細胞への導入は、例えば、ウイルス感染、形質移入、接合、プロトプラスト融合、リポフェクション、電気穿孔、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈着、ポリエチレンイミン(PEI)媒介形質移入、DEAEデキストラン媒介形質移入、リポソーム媒介形質移入、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈着、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達などの当業者には既知の方法によって達成できる。
【0086】
従って実施態様によっては、核酸分子を、当技術分野では既知のウイルスまたは非ウイルス送達媒体によって宿主細胞に導入して、遺伝子操作細胞を生成できる。例えば核酸分子は、遺伝子操作細胞のゲノム中に安定的に組み込まれるか、エピソームとして複製させるか、あるいは一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして遺伝子操作細胞内に存在させることができる。従って実施態様によっては、核酸分子は、エピソーム単位として組換え宿主細胞内で維持されかつ複製される。実施態様によっては、核酸分子は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして遺伝子操作細胞内に存在する。実施態様によっては、核酸分子は、遺伝子操作細胞のゲノム内に安定的に組み込まれる。安定な組み込みは、古典的な無作為ゲノム組換え技術を用いて、あるいはガイドRNA指向性CRISPR/Cas9ゲノム編集、NgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute;ナトロノバクテリウム・グレゴリイ・アルゴノート)を用いるDNA誘導型エンドヌクレアーゼゲノム編集、またはTALEN(transcription activator-like effector nucleases;転写活性化エフェクターヌクレアーゼ)ゲノム編集などのより高精度の技術を用いて達成できる。
【0087】
核酸分子は、ウイルスキャプシドまたは脂質ナノ粒子内にカプセル化でき、または電気穿孔などの当該技術分野では既知のウイルスまたは非ウイルス送達手段および方法によって送達できる。例えば、細胞への核酸の導入は、ウイルス形質導入によって達成されてもよい。非限定的な例では、バキュロウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)を遺伝子操作して、ウイルス形質導入を介して標的細胞に核酸を送達できる。いくつかのAAV血清型が報告されていて、既知の血清型は全て、複数の多様な組織型の細胞に感染する可能性がある。AAVは、毒性を示すことなく生体内で幅広い種および組織に形質導入することができ、比較的穏やかな自然免疫応答および適応免疫応答を生成する。
【0088】
レンチウイルス由来のベクター系はまた、ウイルス形質導入を介する核酸送達および遺伝子治療にも有用である。レンチウイルスベクターは、遺伝子送達媒体として以下のいくつかの魅力的な特性を提供する:(i)宿主ゲノムへの安定的なベクターの組込みによる持続的な遺伝子送達;(ii)分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力;(iii)重要な遺伝子治療および細胞治療の標的細胞型を含む広範な組織指向性;(iv)ベクター形質導入後のウイルスタンパク質の非発現性;(v)多シストロン含有配列またはイントロン含有配列などの複雑な遺伝要素を送達する能力;(vi)潜在的により安全な組込み部位の特性;および(vii)ベクターの操作および生成のための比較的容易なシステム。
【0089】
実施態様によっては、宿主細胞は、例えば、宿主細胞のゲノムの一部に相同な核酸配列を含む相同組換え用のウイルスベクターまたはベクターであってもよい、あるいは目的のポリペプチドを発現するための発現ベクターであってもよい本開示のベクター構築物などを用いて遺伝子操作(例えば、形質導入、形質転換、または遺伝子導入)されてもよい。宿主細胞は、形質転換されていない細胞、あるいは少なくとも1つの核酸分子により既に形質導入されている細胞のいずれかであってもよい。
【0090】
実施態様によっては、遺伝子操作細胞は、原核細胞または真核細胞である。実施態様によっては、細胞は生体内にある。実施態様によっては、細胞は生体外にある。実施態様によっては、細胞は試験管内にある。実施態様によっては、遺伝子操作細胞は真核細胞である。実施態様によっては、遺伝子操作細胞は動物細胞である。実施態様によっては、動物細胞は哺乳動物細胞である。実施態様によっては、動物細胞はヒト細胞である。実施態様によっては、細胞は非ヒト霊長類細胞である。実施態様によっては、遺伝子操作細胞は、免疫系細胞、例えばB細胞、単球、NK細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、好塩基球、好酸球、好中球、樹状細胞、マクロファージ、制御性T細胞、ヘルパーT細胞(TH)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、記憶T細胞、γδT細胞、別のT細胞、造血幹細胞、または造血幹細胞前駆体である。
【0091】
実施態様によっては、免疫系細胞はリンパ球である。実施態様によっては、リンパ球はTリンパ球である。実施態様によっては、リンパ球はTリンパ球前駆体である。実施態様によっては、Tリンパ球はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。実施態様によっては、Tリンパ球はCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞である。本明細書に開示の組成物および方法に適するCD8+T細胞傷害性リンパ球の非限定的な例として、ナイーブCD8+細胞、中心記憶CD8+T細胞、エフェクター記憶CD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹記憶T細胞、およびバルクCD8+T細胞が挙げられる。実施態様によっては、Tリンパ球はCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である。適切なCD4+Tヘルパーリンパ球として、限定はされないが、ナイーブCD4+T細胞、中心記憶CD4+T細胞、エフェクター記憶CD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹記憶T細胞、およびバルクCD4+T細胞が挙げられる。
【0092】
上記の概説のように、本開示のいくつかの実施態様は、本開示の遺伝子操作細胞を生成する種々の方法に関し、これらの方法は、(a)タンパク質発現が可能な宿主細胞を提供する工程;および(b)提供された宿主細胞に本開示の組換え核酸を形質導入して、遺伝子操作細胞を生成する工程を含む。遺伝子操作細胞を生成する本開示の方法の非限定的な実施態様の例は、以下の特徴のうちの1つ以上をさらに含んでもよい。実施態様によっては、細胞は、対象から得られた試料に対して実施される白血球除去によって得られ、細胞は生体外で形質導入される。実施態様によっては、組換え核酸は、ウイルスキャプシドまたは脂質ナノ粒子内にカプセル化される。実施態様によっては、これらの方法はさらに、生成された細胞を単離かつ/あるいは精製する工程を含む。従って、本明細書に開示の方法によって生成される遺伝子操作細胞もまた、本開示の範囲内である。
【0093】
別の側面では、本明細書に開示の少なくとも1つの遺伝子操作細胞および培地を含む細胞培養物を本明細書に提供する。一般に培地は、本明細書に記載の細胞を培養するための任意の適切な培地であってもよい。上述の多種多様な細胞および種を形質転換する技術は当技術分野では知られており、技術文献および科学文献に説明されている。従って、本明細書に開示の少なくとも1つの遺伝子操作細胞を含む細胞培養物もまた、本出願の範囲内である。細胞培養物を生成および維持するのに適する方法およびシステムは、当技術分野では知られている。
【0094】
E.医薬組成物
本開示の構築物、核酸、遺伝子操作細胞、および/または細胞培養物を、医薬組成物などの組成物に組み込んでもよい。このような組成物は一般に、本明細書に提供されかつ説明される構築物、核酸、遺伝子操作細胞、および/または細胞培養物のうちの1つ以上、および担体などの薬学的に許容可能な賦形剤を含む。実施態様によっては、本開示の医薬組成物は、癌などの疾患を治療、予防、改善するために、あるいは疾患の発症を軽減または遅延させるために処方される。
【0095】
従って本開示の一側面は、薬学的に許容可能な担体、ならびに(a)本開示の構築物;(b)本開示の組換え核酸;および(c)本開示の遺伝子操作細胞のうちの1つ以上を含む医薬組成物に関する。実施態様によっては、医薬組成物は、(a)本開示の構築物および(b)薬学的に許容可能な担体を含む。実施態様によっては、医薬組成物は、(a)本開示の組換え核酸および(b)薬学的に許容可能な担体を含む。実施態様によっては、組換え核酸は、ウイルスカプシドまたは脂質ナノ粒子内にカプセル化される。実施態様によっては、本開示の医薬組成物は、(a)本開示の遺伝子操作細胞および(b)薬学的に許容可能な担体を含む。
【0096】
注射用途に適する医薬組成物には、(水溶性の場合には)滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液を即時に調製するための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与では、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)BASF, Parsippany, N.J.)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。全ての場合に組成物は無菌性である必要があり、容易に注射可能な程度に液体とする必要がある。製造および保管の条件の下で安定である必要があり、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保護される必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用によって、分散液の場合には要求される粒子サイズの保持によって、かつドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤の使用によって維持してもよい。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成できる。多くの場合に、組成物中に等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、および/または塩化ナトリウムを含むことが一般的である。注射可能な組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含有させて引き起こすことができる。
【0097】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて、上に列記した成分のうちの1つまたは組合せとともに必要量の活性化合物を適切な溶媒中に組み込み、続いて濾過滅菌して調製してもよい。一般に分散液は、基本の分散媒および上に列記した成分からの必要となる他の成分を含む滅菌媒体中に活性化合物を組み込んで調製される。無菌注射用溶液を調製するための無菌粉末の場合に、その好ましい調製方法は、事前に無菌濾過したその溶液からの活性成分と任意の追加の所望の成分との粉末を得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0098】
本開示の方法
本明細書に説明の治療用組成物、例えば、構築物、核酸、遺伝子操作細胞、および医薬組成物のうちのいずれか1つの投与を用いて、癌、免疫疾患、および慢性感染症などの当該疾患の治療において対象を治療できる。実施態様によっては、本明細書に説明の構築物、核酸、遺伝子操作細胞、および医薬組成物は、増殖性疾患や細菌感染症などの健康障害を予防する方法、および/またはそれを罹患している対象、それを罹患していると疑われる対象、またはそれを発症するリスクが高いと思われる対象を治療する方法で使用する治療薬中に組み込んでもよい。増殖性疾患の例としては、限定はされないが、血管新生疾患、転移性疾患、腫瘍形成性疾患、腫瘍性疾患、および癌が挙げられる。実施態様によっては、増殖性疾患は癌である。
【0099】
従って一側面では、本開示のいくつかの実施態様は、それを必要とする対象での疾患を予防かつ/あるいは治療する方法に関し、この方法は、(a)本開示の構築物;(b)本開示の組換え核酸;(c)本開示の遺伝子操作細胞;および(d)本開示の医薬組成物のうちの1つ以上を含む組成物を対象に投与する工程を含む。実施態様によっては、組成物は、(a)本開示の構築物;(b)本開示の組換え核酸;(c)本開示の遺伝子操作細胞;および/または(d)本開示の医薬組成物の治療上有効な量または数を含む。
【0100】
実施態様によっては、本開示の医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。本開示の組換えポリペプチドは、経口または吸入によって投与されてもよいが、非経口経路を通して投与される可能性がより高い。非経口の投与経路の例としては、例えば、静脈内、皮内、皮下、経皮(局所)、経粘膜、および直腸内の各投与が挙げられる。非経口投与に用いられる溶液または懸濁液には、以下の成分が含まれてもよい:注射用水、生理食塩水、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝液;および塩化ナトリウムやブドウ糖などの張度調整剤。pHは、一塩基性および/または二塩基性リン酸ナトリウム、塩酸、または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整してもよい(例えば、7.5などの約7.2~7.8のpHへの調整)。非経口製剤は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアル内に封入してもよい。
【0101】
本開示の対象となるその組換えポリペプチドの用量、毒性、および治療効力は、細胞培養物または実験動物での標準的な医薬的手順によって決定されてもよく、例えばLD50(集団の50%の致死量)およびED50(集団の50%の治療有効用量)を決定してもよい。毒性効果と治療効果の間の用量比を治療指数とし、それを比:LD50/ED50として表すことができる。一般的には、高い治療指数を示す化合物が適している。有毒な副作用を示す化合物を使用することはできるが、非感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑えてそれにより副作用を低減するために、その化合物を影響を受ける組織部位に対し標的化する送達システムを設計するように注意を払う必要がある。
【0102】
細胞培養測定および動物研究から得られるデータは、ヒトへの使用時の用量範囲の処方を組む際に用いることができる。この化合物の投与量は、毒性が殆どまたは全く無いED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。この用量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動させてもよい。本開示の方法で用いられる任意の化合物での治療有効量は、まず細胞培養測定から推定できる。用量は、細胞培養で決定されるIC50(例えば、症状の最大の半分の阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルで処方されてもよい。このような情報を用いて、ヒトでの有用な用量をより高精度に決定できる。血漿中濃度は、例えば高速液体クロマトグラフ法によって測定されてもよい。
【0103】
本開示の対象となる組換えポリペプチドの治療有効量(例えば有効用量)は、選択されるポリペプチドに依存する。例えば、(患者の体重1 kg当たりで)約0.001~0.1 mg/kgの範囲の単回用量を投与してもよく、実施態様によっては、約0.005、0.01、または0.05 mg/kgを投与してもよい。実施態様によっては、600,000 IU/kgを投与する(IUは、リンパ球増殖バイオ測定法によって決定でき、国際単位(すなわちIU)で表される)。この組成物を、1日当たり1回以上から1週当たり1回以上の間で投与してもよい。当業者は、限定はされないが、対象の疾患の重症度、過去の治療歴、全般的な健康状態、および/または年齢を含む特定の要因が、対象を効果的に治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を及ぼす可能性があることを分かっている。さらに、本開示の対象となる組換えポリペプチドの治療有効量での対象の治療は、単一の治療を含んでもよく、あるいは一連の治療を含んでもよい。実施態様によっては、組成物を8時間毎に5日間投与し、その後2~14日間、例えば9日間を休薬期間とし、その後さらに8時間毎に5日間投与する。
【0104】
対象への遺伝子操作細胞の投与
実施態様によっては、本明細書に開示の治療方法は、そのような治療を必要とする対象に有効量または有効数の遺伝子操作細胞を投与する工程を含む。この投与工程は、当該技術分野での注入送達の任意の方法を用いて達成できる。例えば、遺伝子操作細胞は、個体の血流中に直接注入してもよく、あるいはその他の方法で個体に投与してもよい。
【0105】
実施態様によっては、本明細書に開示の方法は、所望の効果を生じるように所望の部位に導入された細胞の部分的な局在化をもたらす方法または経路によって、遺伝子操作細胞を対象に投与する工程を含み、ここで用語「投与する」は、「導入する」、「注入する」、および「移植する」という用語と同じ意味で使用される。遺伝子操作細胞またはそれらの分化した後代は、投与された細胞または細胞成分の少なくとも一部が生存し続ける個体内の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与されてもよい。対象への投与後の細胞の生存期間は、最短で数時間、例えば24時間、数日であってもよく、最長で数年、さらには個体の寿命、すなわち長期の生着であってもよい。
【0106】
予防的に提供される場合に、本明細書に説明の遺伝子操作細胞は、治療される疾患または病気の任意の症状に先立って対象に投与されてもよい。従って実施態様によっては、遺伝子操作細胞集団の予防的投与は、疾患または病気の症状の発生を防止する。
【0107】
いくつかの実施態様で治療的に提供される場合に、遺伝子操作細胞は、疾患または病気の症状または兆候の発症時に、例えば疾患または病気の発症時に(またはその後に)提供される。
【0108】
本明細書に説明の種々の実施態様で使用するために、本明細書に開示の遺伝子操作細胞の有効量または有効数は、少なくとも102個の細胞、少なくとも5×102個の細胞、少なくとも103個の細胞、少なくとも5×103個の細胞、少なくとも104個の細胞、少なくとも5×104個の細胞、少なくとも105個の細胞、少なくとも2×105個の細胞、少なくとも3×105個の細胞、少なくとも4×105個の細胞、少なくとも5×105個の細胞、少なくとも6×105個の細胞、少なくとも7×105個の細胞、少なくとも8×105個の細胞、少なくとも9×105個の細胞、少なくとも1×106個の細胞、少なくとも2×106個の細胞、少なくとも3×106個の細胞、少なくとも4×106個の細胞、少なくとも5×106個の細胞、少なくとも6×106個の細胞、少なくとも7×106個の細胞、少なくとも8×106個の細胞、少なくとも9×106個の細胞、またはそれらの倍数であってもよい。遺伝子操作細胞は、1人以上の提供者に由来してもよく、自己由来の供給源から得られてもよい。実施態様によっては、遺伝子操作細胞は、治療を必要とする対象に投与する前に培養物中で増殖される。
【0109】
実施態様によっては、所定の方法または経路による遺伝子操作細胞組成物(例えば、本明細書に説明の細胞のいずれかに従う複数の遺伝子操作細胞を含む組成物)の個体への送達は、所望の部位でのその細胞組成物の少なくとも部分的な局在化をもたらす。遺伝子操作細胞を含む組成物は、個体での効果的な治療をもたらす任意の適切な経路によって投与することができ、例えばこの投与により、組成物の少なくとも一部、例えば少なくとも1×103個の細胞を所望の部位に一定期間に亘って送達する場合に、個体内の所望の位置への送達がもたらされる。投与の方式には、注射、注入、および点滴注入が含まれる。「注射」には、限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内、ならびに胸骨内の注射および注入が含まれる。実施態様によっては、この経路は静脈内である。細胞の送達では、注射または注入による送達が標準的な投与方式である。
【0110】
実施態様によっては、遺伝子操作細胞は、例えば注入または注射によって全身投与される。例えば、遺伝子操作細胞の集団は、標的部位、組織、または器官に直接投与されるのではなく、個体の循環系に入り込み、それにより代謝や他の類似の生体プロセスを受けるように投与される。
【0111】
疾患または病気の治療のための本明細書に提供の組成物のいずれかを含む治療の効力は、医療専門家によって決定できる。但し当業者は、疾患の兆候、症状、またはマーカーのうちのいずれか1つまたは全てが改善または軽減される場合には、治療は有効であると見做されることを分かっている。効力はまた、入院または医療介入の必要性の低減によって評価されるような対象の悪化の抑制(例えば、疾患の進行が停止するまたは少なくとも遅延する)によって測定できる。これらの指標を測定する方法は当業者には知られており、かつ/あるいは本明細書に説明されている。治療は、対象または動物(いくつかの非限定的な例では、ヒトまたは哺乳動物を含む)での疾患の任意の治療を含み、かつ(1)疾患を阻止すること、例えば症状の進行を停止または遅延させること;または(2)疾患を軽減すること、例えば症状の退行を引き起こすこと;および(3)症状の発症の見込みを予防または低減することを含む。
【0112】
上述の考察のように、遺伝子操作細胞の治療有効数とは、癌などの疾患の治療もしくは管理での治療上の利益を促進するまたは提供するのに十分な遺伝子操作細胞の数を指し、あるいは疾患を患っている、疾患を患っている疑いがある、または疾患のリスクがあるなどの対象に投与する場合に、疾患に関連する1つ以上の症状を遅延させるまたは低減するのに十分な遺伝子操作細胞の数を指す。実施態様によっては、有効数には、疾患の症状の発症を予防または遅延させる、疾患の症状の経過を変える(例えば、限定はされないが、疾患の症状の進行を遅延させる)、あるいは疾患の症状を逆転させるのに十分な数が含まれる。実施態様によっては、有効数には、個体での腫瘍増殖または癌の転移を阻害するのに十分な数が含まれる。実施態様によっては、有効数には、サイトカイン産生を増加させ、癌細胞または感染細胞を阻害する(例えば死滅させる)のに十分な数が含まれる。
【0113】
本開示の方法の実施態様によっては、個体は哺乳動物である。実施態様によっては、哺乳動物はヒトである。実施態様によっては、個体は、癌などの増殖性障害または増殖性疾患に関連する病気を患う、あるいはそれを患っている疑いがある。用語「癌」は一般に、無統制の増殖性、不死性、転移能、急速な成長および増殖速度、および特定の特徴的な形態学的特性などの癌を引き起こす、細胞に典型的な特徴を保有する細胞の存在を指す。癌細胞は、多くの場合に凝集して腫瘍になることがよく観察されるが、そのような細胞は動物対象内に単独で存在してもよく、あるいは白血病細胞などの非腫瘍形成性癌細胞であってもよい。従って用語「癌」は、固形腫瘍、軟部組織腫瘍、または転移性病変との関連を包含してもよい。本明細書で使用される用語「癌」には、前悪性癌ならびに悪性癌が含まれる。実施態様によっては、癌は、固形腫瘍、軟組織腫瘍、または転移性病変である。
【0114】
本開示の組成物および方法による治療に適する病気の例としては、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、および感染症疾患に関連する病気が挙げられる。実施態様によっては、増殖性障害は癌である。本開示の組成物および方法によって適切に診断、予防、かつ/あるいは治療できる癌の例には、肺がんが含まれる。原則として、本明細書に開示の組成物および方法によって適切に診断、予防、かつ/あるいは治療できる肺がんについては、特別な限定は無い。適切な肺がんの例として、腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、非小細胞がん、腺扁平上皮がん、小細胞肺がん、大細胞がん、肺の神経内分泌がん、非小細胞肺がん(NSCLC)が挙げられる。本明細書に開示の組成物および方法によって適切に診断、予防、かつ/あるいは治療できるさらなる肺がんとして、限定はされないが、未分化非小細胞がん、特に特定されない非小細胞がん、肺扁平上皮がん、細気管支肺胞上皮がん、肉腫様がん、多形がん、がん肉腫、肺芽腫、原発不明の転移がん、原発性肺リンパ上皮腫様がん、および肺の良性新生物が挙げられる。実施態様によっては、癌はNSCLCである。実施態様によっては、肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん、カルチノイド腫瘍、多形性がん、唾液腺がん、腺扁平上皮がん、肉腫様がん、および未分類がんからなる群から選択されるNSCLCである。実施態様によっては、NSCLCは扁平上皮がんである。実施態様によっては、NSCLCは腺がんである。実施態様によっては、NSCLCは大細胞がんである。実施態様によっては、NSCLCはステージIのNSCLCを含む。実施態様によっては、NSCLCは、ステージIIのNSCLCを含む。
【0115】
実施態様によっては、癌は、多重薬剤耐性がんまたは再発がんである。本明細書に開示の組成物および方法は、非転移性がんおよび転移性がんの両方に適すると考えられる。従って実施態様によっては、癌は非転移性がんである。他の実施態様によっては、癌は転移性がんである。実施態様によっては、対象に投与される組成物は、対象での癌の転移を阻害する。実施態様によっては、投与される組成物は、対象での腫瘍増殖を阻害する。
【0116】
別の側面では、それを必要とする対象での病気の予防および/または治療を支援する方法を本明細書に提供し、この方法は、本明細書に開示の1つ以上の構築物、組換え核酸、遺伝子操作細胞、または医薬組成物を含む第1の治療法を対象に施用する工程、および少なくとも1つの追加の治療法を対象に施用する工程を含み、この第1の治療法および少なくとも1つの追加の治療法は、一緒に対象の病気を予防かつ/あるいは治療する。実施態様によっては、この方法は、本明細書に開示の有効数の遺伝子操作細胞を含む第1の治療法を対象に施用する工程を含み、この遺伝子操作細胞は病気を治療する。
【0117】
本開示の組成物および方法による治療に適する病気のさらなる例として、免疫チェックポイント阻害に関連する病気が挙げられる。これらの例では、本開示の方法は、チェックポイント阻害の免疫療法であってもよい。実施態様によっては、チェックポイント阻害免疫療法は、例えばPD-1/PD-L1、CTLA-4、IDO、TIM3、LAG3、TIGIT、BTLA、VISTA、ICOS、KIR、およびCD39などのチェックポイント受容体の1つ以上の阻害剤の使用を含む。実施態様によっては、チェックポイント受容体は、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGIT、およびVISTAからなる群から選択される阻害性チェックポイント受容体である。実施態様によっては、チェックポイント受容体は、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOS、およびCD137からなる群から選択される刺激性チェックポイント受容体である。実施態様によっては、チェックポイント阻害免疫療法には、抗PD1チェックポイント療法が含まれる。実施態様によっては、チェックポイント阻害免疫療法には、抗PD1-L1チェックポイント療法が含まれる。
【0118】
以下により詳細に説明するように、本開示の種々の構築物は、ウイルス病原菌に由来する抗原に結合できる。本開示の実施態様によっては、微生物感染に関連する悪性腫瘍を診断、予防、かつ/あるいは治療する方法を本明細書に提供する。実施態様によっては、悪性腫瘍は細菌感染症に関連する。
【0119】
実施態様によっては、ウイルス感染に関連する悪性腫瘍を診断、予防、かつ/あるいは治療する方法を本明細書に提供する。実施態様によっては、この悪性腫瘍は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)による感染に関連しており、元々はバーキットリンパ腫との関連を通して知見されたが、その後は著しく広範囲のリンパ増殖性病変、およびB細胞、T細胞、およびNK細胞由来の悪性リンパ腫と関連付けられている。本明細書に開示の組成物および方法を用いて適切に診断、予防、かつ/あるいは治療できるEBV関連悪性腫瘍の例には、ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、上咽頭がん、胃がん、移植後リンパ球増殖性疾患、およびBリンパ増殖性疾患が挙げられる。本明細書に開示の組成物および方法を用いて適切に診断、予防、かつ/あるいは治療できるさらなるEBV関連悪性腫瘍には、限定はされないが、T細胞リンパ増殖性疾患、NK細胞リンパ増殖性疾患、NK細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、NK細胞リンパ腫、T細胞白血病、平滑筋肉腫、およびリンパ上皮腫様がんが挙げられる。
【0120】
追加の治療法
上記の考察のように、本開示の実施態様よっては、対象での病気を予防あるいは治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に開示の組成物を単一療法(例えば単剤療法)として対象に投与する工程を含む。さらに本開示の実施態様によっては、この組成物は、第1の治療法として個別に、または少なくとも1つの追加の治療法、例えば少なくとも1、2、3、4、または5種の追加の治療法と組み合わせて対象に投与される。本開示の組成物と組み合わせて施用される適切な治療法として、限定はされないが、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、および手術が挙げられる。
【0121】
本明細書に開示の方法との組合せに適する治療法の非限定的な例には、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗CD40抗体、抗DR5抗体、抗CD1d抗体、抗TIM3抗体、抗SLAMF7抗体、抗KIR受容体抗体、抗OX40抗体、抗HER2抗体、抗ErbB-2抗体、抗EGFR抗体、セツキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、およびペムブロリズマブが挙げられる。本明細書に開示の方法との組合せに適する追加の治療法には、限定はされないが、単回線量放射線、分割放射線、焦点放射線などの放射線療法、および全体臓器照射が挙げられる。また本明細書に開示の方法との組合せに適するものとして、IL-12、IFNα、GM-CSF、キメラ抗原受容体、養子移入T細胞、抗癌ワクチン、および腫瘍溶解性ウイルスが挙げられる。
【0122】
実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は伴に施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法と同時に施用される。実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は、連続して施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法の前に施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法の後に施用される。実施態様によっては、第1の治療法は、少なくとも1つの追加の治療法の前および/または後に施用される。実施態様によっては、第1の治療法と少なくとも1つの追加の治療法は交互に施用される。実施態様によっては、第1の治療法および少なくとも1つの追加の治療法は、単一の処方内で伴に施用される。
【0123】
さらに別の側面では、本明細書に開示の構築物を得る種々の方法を本明細書に提供し、この方法は、(a)健康障害に関連する複数のTCRを識別する工程;(b)識別されたそれぞれのTCRに存在するCDR3βの配列を決定する工程;および(c)(b)で決定されたCDR3β配列を含む構築物を生成する工程を含む。実施態様によっては、この方法はさらに、CDR3β配列によって共通に認識される1つ以上の同族の抗原を識別する工程を含む。実施態様によっては、病気は増殖性疾患に関連する。実施態様によっては、増殖性疾患は癌である。実施態様によっては、癌は肺がんである。実施態様によっては、病気はウイルス感染に関連する悪性腫瘍である。実施態様によっては、病気は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)による感染に関連する悪性腫瘍である。実施態様によっては、病気は免疫チェックポイント阻害に関連する。
【0124】
キット
また本明細書に説明の方法を実施する種々のキットを本明細書に提供する。特に本開示の実施態様によっては、対象での病気を診断するキットを提供する。いくつかの他の実施態様は、それを必要とする対象での病気を予防するキットに関する。いくつかの他の実施態様は、それを必要とする対象での病気を治療する方法のためのキットに関する。例えば実施態様によっては、本明細書に提供かつ説明される構築物、組換え核酸、遺伝子操作細胞、または医薬組成物のうちの1つ以上を含み、ならびにそれらを製造および使用するための書面による説明書を含むキットを提供する。
【0125】
実施態様によっては、本開示のキットはさらに、提供された構築物、組換え核酸、遺伝子操作細胞、または医薬組成物のうちのいずれか1つを個体に投与するのに有用な1つ以上の手段を含む。例えば実施態様によっては、本開示のキットはさらに、提供された構築物、組換え核酸、遺伝子操作細胞、または医薬組成物のうちのいずれか1つを個体に投与するのに用いられる(充填済みの注射器を含む)1つ以上の注射器および/または(充填済みのカテーテルを含む)カテーテルを含む。実施態様によっては、キットは、所望の目的、例えば、それを必要とする対象での病気を診断、予防、または治療するためのその他のキットの成分と同時にまたは順次に投与できる1つ以上の追加の治療薬剤を有してもよい。
【0126】
上記のキットのいずれかはさらに、1つ以上の追加の試薬を含んでもよく、その追加の試薬は以下から選択してもよい:希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、対照試薬、対照発現ベクター、陰性対照構築物、陽性対照構築物、および構築物の生体外生成に適する試薬。
【0127】
実施態様によっては、キットの成分は、別個の容器内に存在してもよい。他の実施態様によっては、キットの成分は、単一の容器内に組み合わせてもよい。
【0128】
実施態様によっては、キットはさらに、本明細書に開示の方法を実行するキットの成分の使用のための説明書を含んでもよい。例えばキットは、キット内の医薬組成物および剤形に関する情報を含む添付文書を含んでもよい。一般にその情報は、患者および医師が封入された医薬組成物および剤形を効果的かつ安全に使用するのに役に立つ。例えば本開示の組合せに関する以下の情報が、添付文書内に提供されてもよい:薬物動態、薬物力学、臨床研究、効力パラメータ、適応症および使用法、禁忌、警告、注意事項、副作用、過剰摂取、適切な用量および投与量、提供方法、適切な保管条件、参考資料、製造業者/販売業者情報、および知的財産情報。
【0129】
方法を実行するための指示は、一般に適切な記録媒体に記録される。例えば説明書は、紙やプラスチックなどの基材に印刷してもよい。説明書は、キットの容器または(例えば、パッケージまたは部分パッケージに関連する)その構成要素などのラベルに添付文書としてキット内に存在させてもよい。説明書は、適切なコンピュータ可読記憶媒体、例えばCD-ROM、フロッピーディスク、フラッシュドライブなどに存在する電子記憶データファイルとして存在させてもよい。場合によっては、実際の説明書がキット内に存在しないこともあるが、遠隔源(インターネットなど)から説明書を入手する手段が提供されていてもよい。この実施態様の一例は、説明書を閲覧できる、および/または説明書をダウンロードできるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、説明書を得るためのこの手段は、適切な基材に記録していてもよい。
【0130】
本開示に記載される全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示すのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0131】
本明細書に引用されるいかなる参考文献も先行技術を構成するものであるとは認められない。参考文献の考察には、それらの著者が主張する内容を記載しているが、出願人は引用文献の正確性および妥当性に異議を唱える権利を行使しない。科学雑誌の記事、特許文書、および教本を含む多くの情報源を本明細書では参照にしているが、この参照が、これらの文書のいずれもが当該技術分野での共通の一般知識の一部を形成することを認めるものではないことは当然のことである。
【0132】
本明細書に付与される一般的な方法の説明は、例示のみを目的としている。その他の代替法および代替案は、本開示を検討する当業者には明白なものであり、かつ本出願の趣旨およびその範囲の中に含まれるものとなる。
【0133】
追加の実施態様は、以下の実施例にさらに詳細に開示されるが、これらは例示として提供され、決して本開示または特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0134】
本発明の実施には、特に断りのない限り、当業者には周知である分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、および免疫学の従来からの技術が用いられる。このような技術は、例えばSambrook, J., & Russell, D. W. (2012). Molecular Cloning: A Laboratory Manual (4th ed.).「分子クローニング:実験室マニュアル(第4版)」Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor LaboratoryおよびSambrook, J., & Russel, D. W. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.).「分子クローニング:実験室マニュアル(第3版)」Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory(両者を併せて「Sambrook」と呼ぶ);Ausubel, F. M. (1987). Current Protocols in Molecular Biology.「分子生物学の最新手順」New York, NY: Wiley(2014以来の補足を含む);Bollag, D. M. et al. (1996). Protein Methods.「タンパク質手法」New York, NY: Wiley-Liss;Huang, L. et al. (2005). Nonviral Vectors for Gene Therapy.「遺伝子療法用非ウイルスベクター」San Diego: Academic Press;Kaplitt, M. G. et al. (1995). Viral Vectors: Gene Therapy and Neuroscience Applications.「ウイルスベクター:遺伝子療法および神経科学の用途」San Diego, CA: Academic Press;Lefkovits, I. (1997). The Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques.「免疫学手法マニュアル:技術の包括的原典」San Diego, CA: Academic Press;Doyle, A. et al. (1998). Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology.「細胞および組織の培養:遺伝子工学での実験手順」New York, NY: Wiley;Mullis, K. B., Ferre, F. & Gibbs, R. (1994). PCR: The Polymerase Chain Reaction.「PCR:重合酵素連鎖反応」Boston: Birkhauser Publisher;Greenfield, E. A. (2014). Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.). 「抗体:実験室マニュアル(第2版)」New York, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press;Beaucage, S. L. et al. (2000). Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry.「核酸化学の最新手順」New York, NY: Wiley,(2014年以来の補足を含む);およびMakrides, S. C. (2003). Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells.「哺乳動物細胞での遺伝子移入および発現」Amsterdam, NL: Elsevier Sciences B.V.などの文献に十分に説明されていて、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
実施例1
【0136】
臨床試料
ヒトの組織および血液の採取のための手順は、スタンフォード大学治験審査委員会によって承認された(IRB 15166およびIRB 21319)。対象の基準には以下を含んだ:成人患者(年齢:18歳以上);NSCLC診断が確定あるいは疑い有り;原発腫瘍:2 cm超;および研究への同意済み。術前補助療法を受けている患者、または潜在的な肺感染症、炎症性疾患、または線維性疾患を有する患者は除外した。スタンフォード大学で治療を受けた外科的に切除可能なNSCLC患者の全体で21人がこの研究に含まれた。DNAを、HLAとの結合のために末梢血PBMC(Qiagen社)から抽出した。
【0137】
実施例2
【0138】
組織の処理
組織を手術後2時間以内に処理した。組織を分割し、1切片を細胞懸濁液用にして他方の1切片を組織検査用にした。組織を細かく刻み、続いてコラーゲン分解酵素III型(200 IU/mL)およびDNA分解酵素(100 U/mL)(Worthington Biochemical社)によってRPMI中で40分間消化させて、70 μmのフィルターを通過させて細胞懸濁液を生成した。組織検査用の切片を4%のパラホルムアルデヒド中に固定して、翌日70%エタノール溶液に移した。
【0139】
実施例3
【0140】
FACS分析
T細胞を、抗体染色、それに続くパーカー癌免疫療法研究所からの資金で購入した5種のレーザーによるFACSAria Fusion(スタンフォード大学のFACS施設)での細胞選別によって腫瘍単細胞懸濁液から単離した。生存率を評価するために、腫瘍細胞懸濁液をZombie Aqua色素(Biolegend社)によってPBS中で染色した。これを、続いてFcブロッキング溶液(Biolegend社)と以下の抗体を含む2%のFBSを有するPBS中で染色した:抗CD4(OKT4、Biolegend社)、抗CD8(SK1、Biolegend社)、抗CD3(OKT3、Biolegend社)、抗CD45(H130、Biolegend社)、抗CD25(BC96、Biolegend社)、抗PD-1(EH12.2H7、Biolegend社)、抗CD137(4B4-1、BD Biosciences社)、および抗HLA-DR(L243、Biolegend社)。CD3+CD45+AquaZombie細胞を、4 μLの捕捉緩衝液で予め負荷した96ウェルプレートに直接的に指標付け選別し、ドライアイスで瞬間凍結して-80℃で保存した。
【0141】
実施例4
【0142】
GLIPH2解析およびT細胞特異性群の構築
GLIPH2アルゴリズムを、MDアンダーソン癌センターのNSCLCデータ集合からの778,938個の異なるCDR3β配列を用いて、T細胞特異性群の構築のために実行した[文献25]。簡潔に言うと、12人の健全な個体からの273,920個の異なるCDR3β配列(CD4とCD8の両方)の参照データ集合との比較によって、GLIPH2ではまず、過去の説明[文献24]のように全体モチーフあるいは局所モチーフのいずれかを共有するCDR3β配列のクラスターを見出した。共有配列モチーフを備えるCDR3βクラスターの結果に複数の統計数値を伴なわせて、Vβ遺伝子利用の偏り、CDR3β長さの分布(局所モチーフのみに関連)、クラスターサイズ、HLA対立遺伝子の利用、およびクローン増幅を含む信頼性の高い特異性群の抽出を容易にした。NSCLCデータ集合を有する信頼性の高い特異性群を構築するために、Vβ遺伝子の利用に顕著な偏りがある少なくとも3人の異なる患者からの少なくとも3つの異なるCDR3βメンバーを有するTCR特異性群、および参照データ集合との比較でのCDR3βクローン増幅を優先順位付けした。これにより、研究全体でのさらなる解析のための基礎を形成する4,226個の特異性群の検出に繋がった。
【0143】
実施例5
【0144】
四量体由来のCDR3β配列による特異性群の注釈付け
肺がん患者からの推測される特異性群に注釈付けるために、MDアンダーソン癌センターの肺がん患者のCDR3β配列と広く入手可能な四量体由来のCDR3β配列との両方を用いる複合GLIPH解析を実施した。そのためにまず、四量体データ集合からの合計で10,051個のCDR3β配列による独立GLIPH解析を実行して、TCR特異性群を形成する可能性のある四量体由来のCDR3β配列を識別した。これにより、1,561個のCDR3β配列を含む395個の特異性群が形成された。次いでこれらの1,561個のCDR3β配列を、前述のGLIPH2解析のために、MDアンダーソン癌センターの肺がんデータ集合からの778,938個のCDR3β配列に結合した。四量体データからの少なくとも1つのCDR3β配列を含むいずれの特異性群も「注釈付き」と見做され、関連する四量体配列に従って特異性およびHLA制限が割り当てられた。注目すべきことに、複数の四量体由来のCDR3β配列が特定の特異性群に見出される全ての場合に、関与する主要な四量体定義の特異性/HLAは1個のみであった。
【0145】
実施例6
【0146】
Smart-seq2手法による単細胞RNA-seq(scRNA-Seq)試料の調製
単細胞水準でFACS選別されたT細胞からの完全なトランスクリプトームは、いくつかの変更を加えた過去の報告[文献54]の手順に従って生成された。次いで製造元の手順書(Takara Bio社)に従って、TakaraのSMARTScribe Reverse Transcriptaseキットを用いて、第1鎖cDNAを生成した。過去の報告のSmart-Seq2 RT工程からの注目すべき変更点は、以下を含む:2 mMのdNTPおよび2 μMのオリゴdTを捕捉緩衝液中に含み;1 Mのベタインおよび追加の6 mMのMgCl2をRT反応緩衝液中に含んだ。次にcDNA試料を、KAPA Library Quantificationキット(Roche社)を用いて22~25サイクルで増幅した。1 μLの増幅済みcDNA(合計25/ウェル)を単細胞TCR配列決定に使用し、それにより過去の報告[文献35]のようなRT工程を回避した。scRNA-Seqを進めるために、まず完全長のcDNA試料を、0.6~0.8倍量の事前校正済みAMPure XPビーズ(Beckman Coulter社)で洗浄して、500塩基対未満のDNA断片を排除した。自動液体処理装置であるBiomek FXP Automated Workstation(Beckman Coulter社)を使用して、細胞間のばらつきを取り除いた。精製された完全長cDNAの品質を、AATI Fragment Analyzer(Agilent社)で検証した。引き続きFragment Analyzerからの測定値を用いて、Mantis液体処理装置(Formulatrix社)によってcDNA入力値を正規化した。次いでcDNA試料をMosquito X1液体処理装置(TTP labtech社)によって384ウェルプレート(LVSD)内に統合した。転送後に、Illumina配列決定ライブラリーをMosquito HTS液体処理装置(TTP labtech社)を用いて調製した。ウェルあたり0.4 μL(合計で23 μL)のcDNAのみを用いて、Nextera XT DNAライブラリー調製キット(Illumina社、FC-131-1096)により完全なトランスクリプトームライブラリーを作成した。特注のi5およびi7の独自の8 bpインデックスプライマー(IDT)を使用して、1回の配列決定の実行で384ウェルを多重送信した。ライブラリーを、384ウェル反応モジュール(Bio-rad社)を備えたC1000 Touch(登録商標)熱サイクル装置で増幅した。蓄積されたライブラリーを、Agilent 2100 Bioanalyzer(スタンフォードPAN施設)で検査し、かつスタンフォード機能ゲノミクス施設(SFGF;Stanford Functional Genomics Facility)のために国立衛生研究所(NIH;S10OD018220)からの資金で購入したHiseq 4000 Sequencing Systemで両末端読込み配列(150 bp×2)を得た。
【0147】
実施例7
【0148】
TCRα/β鎖の単細胞配列決定
scRNA-Seq試料調製の方法では、T単細胞を上述のように選別かつ捕捉した。第1鎖cDNAの合成(Takara社)および増幅(Roche社)に続いて、1 μLの増幅済みcDNA(合計で25 μL/ウェル)を単細胞TCR配列決定に用いて、これにより過去の報告[文献35]のようにRT工程を回避した。ネステッドPCRを、1回のMiseq操作で蓄積されたCDR3α/βの配列決定を可能にする多重バーコードを保有するTCRα/βプライマーを用いて実行した。過去の報告のように専用スクリプトを用いて両末端配列の読込み値を結合し、多重分離し、international ImMunoGeneTics information system(登録商標)(IMGT;国際免疫遺伝学情報システム)からのヒトTCR対照にマップ化した。
【0149】
実施例8
【0150】
scRNA-Seq結果のデータ解析
配列決定の読込み値を、まず多重分離して、個々のT細胞の全長トランスクリプトームに対応する個別のfastqファイルに分類した。STARアライナー(2.7.1a)を用いて、UCSCゲノムブラウザーからのヒトゲノム対照GRCh38(v21)に対するデフォルトパラメーターによって読込み値をマップ化した。マップ化読込み値を、SAMtoolsソフトウェア(1.4)を用いて分別して指標付けした。遺伝子発現を、まず以下の設定:-- stranded=no --type=exon --idattr=gene_name --mode=intersection-nonemptyを用いて、htseq-count(HTSeq 0.9.1)によって遺伝子にマップ化読込み値を計数して定量した。特に明記しない限り、全ての単細胞であるT細胞の状態を、未加工読込み計数値を用いてSeurat(3.1.4)のRパッケージで解析した。scRNA-Seqの結果からTCRレパートリーを導出するために、TCRα遺伝子とTCRβ遺伝子の両方にマップ化読込み値を、過去の説明[文献36]のように、トレーサー(TraCeR)アルゴリズムを用いてまず再構成した。次いで再構成されたDNA配列をIMGTに提示して、HighV-QUESTを通して遺伝子区画の利用量およびCDR3アミノ酸配列を呼び出した。
【0151】
実施例9
【0152】
TRACERx NSCLC群からのCDR3β配列に対するGLIPH2解析
NSCLCのTRACERx(TRAcking Cancer Evolution through therapy (Rx);療法による癌成長の追跡)群からのバルクCDR3βヌクレオチド配列の未加工fastqファイル(n=202)を、報告[文献26]のようにShort Read Archive(短縮読込み値記録庫)からダウンロードした。続いて過去の報告[文献35]で構築された専用経路を用いて、CDR3βのアミノ酸配列、V遺伝子の利用量、およびクローン数を導出した。図1Bに示す腫瘍が濃縮された特異性群の百分率を定量するために、まずMDアンダーソン癌センターの群(n=778,938)からのCDR3β配列とTRACERx群の各腫瘍試料からのバルクCDR3β配列とを組み合わせて、結合GLIPH2解析を実施した。次いで449個の腫瘍が濃縮された特異性群に属する上位20個のクローン増幅ならびに残りのCDR3βクローン型の合計百分率(%)を、各腫瘍について導出した(n=202)。
【0153】
実施例10
【0154】
酵母選別用の可溶性ビオチン化TCRα/β鎖
酵母の選択に用いられる可溶性TCRα/β鎖を、過去の報告[文献33]のように作製した。簡潔に説明すると、N末端切詰め型TCRα鎖VまたはTCRβ鎖Vの合成遺伝子ブロック(gBlocks(登録商標))および修飾C遺伝子断片を、Gibson集合(New England BioLabs社)を用いてバキュロウイルスpAcGP67a構築物(BD Biosciences社)内に組み立てた。最終的にバキュロウイルスプラスミドを、FuGENE(登録商標)6(Promega社)を含むBestbac 2.0(Expression systems社)を用いてSF9細胞(ATCC)内に共形質導入して、粗製ウイルス上清(P0)を作製した。続いてウイルスを、1:500の希釈率で1×106個の細胞/mLの密度で30~50 mLの培養物中に継代してより高い力価のウイルス(P1)を生成した。可溶性TCRα/β鎖を生成するために、最大4 LのHigh Five細胞(Hi5、Thermo Fisher Scientific社)を、1:500~1:1000の希釈率で2×106個の細胞/mLの密度でタンパク質の精製前にP1バキュロウイルスによって1週間感染させた。組換えTCRα/β鎖を、Hi5細胞培地中でNi-NTA樹脂(QIAGEN社)と室温で3時間結合させ、pH 7.2の1×HBS中の20 mMのイミダゾールで洗浄し、pH 7.2の1×HBS中の200 mMのイミダゾール中に溶出した。30 kDaのフィルター(Millipore社)を用いてpH 7.2の1×HBSに緩衝液交換した後に、精製したタンパク質を、100 μMのビオチン、40 mMのビシン(pH 8.3)、10 mMのATP、および10 mMの酢酸マグネシウムの存在で、birAリガーゼを用いて4℃で一晩ビオチン化した。ビオチン化タンパク質を、AKTAPurifier Superdex 200カラム(GE Healthcare社)を用いるサイズ排除クロマトグラフ法によって精製しSDS-PAGEゲルで検証して、過剰のストレプトアビジンによって化学量論性およびビオチン化を確認した。
【0155】
実施例11
【0156】
レンチウイルスTCRの形質導入
TCRα鎖、P2Aリンカー、およびTCRβ鎖の融合遺伝子断片をIDT社から購入し、EF1a-MCS-GFP-PGK-プロレンチウイルスベクターのMCS内にクローン化した[文献23]。形質移入の前日にHEK-293T細胞を、7.5×106個の細胞密度で10 mLのDMEMを含む10 cm皿に播種した。293T細胞を、120 μLのOpti-MEM(ThermoFisher Scientific社)中の33 μLのPEIと予め混合させた3.3 μgのレンチウイルスプラスミド、2.5 μgのgag-polプラスミド、および0.83 μgのVSV-Gエンベローププラスミドによって同時形質移入させた。24時間後に培地を補充して、24時間後および48時間後にウイルス上清を採取した。TCR欠損Jurkat細胞(以下に示す)にウイルス上清を形質導入し、TCR発現を流動細胞計測法で評価して、GFP、CD3、および形質導入されたTCRα/β鎖の発現に基づいてTCR発現細胞を選別した。
【0157】
実施例12
【0158】
レトロウイルスTCRの形質導入
初代T細胞内でのTCR27およびTCR28のレトロウイルス媒介発現のために、TCRα鎖、P2Aリンカー、およびTCRβ鎖をレンチウイルスベクター(上記に示す)からPCR増幅させ、MSGV1系レトロウイルスベクター(Steve Rosenberg laboratoryから入手)のMCS内にIn-Fusion Cloning(Takara社)を用いてクローン化した。初代T細胞内でのTCR27およびTCR28のレトロウイルス媒介発現のために、TCRα鎖、P2Aリンカー、およびTCRβ鎖の融合遺伝子断片をIDT社から購入し、MSGV1系レトロウイルスベクターのMCS内にクローン化した。
【0159】
実施例13
【0160】
細胞培養
TCRαおよびTCRβの両方を欠損したJurkat 76 T細胞株を、Shao-An Xue博士(ロンドン大学免疫学部門)から入手した。Jurkat細胞および初代T細胞を、10%のFBS、25 mMのHEPES、290 μg/mLのL-グルタミン、100 U/mLのペニシリン、100 U/mLのストレプトマイシン、1 mMのピルビン酸ナトリウム、および1×非必須アミノ酸を含む完全RPMI(ThermoFisher社)内で増殖させた。T2細胞を、20%のFBS、290 μg/mLのL-グルタミン、100 U/mLのペニシリン、および100 U/mLのストレプトマイシンを含むIMDM(Fisher Scientific社)内で増殖させた。
【0161】
実施例14
【0162】
Jurkat T細胞クローンの生体外刺激
目的の外因性TCRを発現するJurkat 76細胞を選別し、上記に詳述のように完全RPMI内でT2細胞とともに共培養した。ペプチドを20 mMの保存濃度のDMSO中に溶解し、2 mMの最終濃度まで希釈した。18時間の刺激後に、細胞を洗浄して、抗CD3(OKT3、Biolegend社)、抗CD69(FN50、Biolegend社)、および抗TCRα/β(IP26、Biolegend社)の各抗体で染色した。FACS Fortessa(BD Biosciences社)すなわち自動高処理能力試料採取器を用いて細胞を取得し、FlowJoソフトウェア(Treestar社)を用いてデータ解析した。
【0163】
実施例15
【0164】
全エキソームの配列決定
腫瘍DNAおよび対応する生殖系列白血球DNAの全エキソームの配列決定を、過去の説明[文献57]のように、KAPA HyperPrepキット(Roche社)によるライブラリー調製のために75 ngの断片化ゲノムDNAを添加して製造業者の指示に修正を加えて実施した。ライブラリーで調製した試料を、SeqCap EZ MedExomeキット(NimbleGen社)で製造業者の指示に従って捕捉した。過去の説明[文献58]のように、配列データを多重分離し、専用バイオインフォマティクス経路を用いてhg19にマップ化した。VarScan 2[文献59]、Mutect[文献60]、およびStrelka[文献61]を用いて、デフォルトパラメーターの使用による変異体を呼び出した。次いで少なくとも2つの手法によって呼び出された変異体を、1)少なくとも2.5%の変異体対立遺伝子の頻度、2)腫瘍試料と生殖系列試料の両方で少なくとも30倍の深さ、3)ゼロである生殖系列の読込み値、および4)ゲノム集合データベース[文献62]中での0.1%未満の集団対立遺伝子頻度を要件としてフィルタリングした。
【0165】
実施例16
【0166】
統計解析
特に明記しない限り、GLIPH2を用いて信頼性の高い特異性群を見出す際に実施される全ての統計分析として、CDR3βクエリ集団(特異性群)および参照集団[文献24]を有する相関表を用いるフィッシャーの直接確率検定を用いた。ポアソン検定を用いて、腫瘍肺と非罹患肺の間の異なるCDR3β配列または特異性群の比較における代表性バイアスを決定した。スチューデントt検定を用いて、全ての生体外測定法からの結果を評価した。統計的有意性は、p値<0.05と定義した。
【0167】
実施例17
【0168】
ヒトの肺がんでの腫瘍浸潤性T細胞からの特異性群の確立
本実施例は、肺がんでの共有腫瘍抗原を認識するT細胞の特定のために実施された実験の結果を説明する。
【0169】
肺がんでの共有腫瘍抗原を認識するT細胞を特定するために、GLIPH2を用いて特異性群を確立した。過去の説明[文献23]のように、特異性を共有する可能性が高いTCRクローン型を、TCRの可変CDR3β領域内に埋め込まれた短いアミノ酸配列モチーフに基づいて群に分ける。改良GLIPH2により、大規模なT細胞レパートリーデータ集合を解析する利点、かつ局所配列モチーフまたは全体配列モチーフを保有する特異性群を遥かに高い能力で特定する利点を提供する[文献24]。GLIPH2アルゴリズムを、外科切除可能な疾患を持つ178人のHLA型非小細胞肺がん(NSCLC)患者からの778,938個の異なるCDR3β配列からなる最近公開されたT細胞レパートリーデータ集合[文献25]に適応させた(例えば以下の表1を参照)。注目すべきことには、バルク配列決定からのT細胞クローン型は、外科切除された腫瘍ならびに非罹患肺の両方に由来していた(例えば表1を参照)。
【表1】
【0170】
このデータ集合を用いて、Vβ遺伝子の濃縮ならびにT細胞抗原認識を示すクローン増幅を含む一連の基準を適応させた後に、NSCLC患者由来の腫瘍が濃縮された435個の特異性群を確立した(図1Aおよび3A)。これらの患者に亘って共有される抗原に関連する特異性群を特定するために、特異性群をさらに、少なくとも3人の患者からの少なくとも3個の異なるCDR3β配列を含むように構成した。過去に定義された上述のような特異性群のメンバーであるクローン型の部分を確立した。腫瘍内の最も増幅したTCRクローン型の有意に高い百分率は、腫瘍が濃縮された特異性群に属することが判明した(図1B)。対照的に患者の非罹患肺からのTCRクローン型では、腫瘍が濃縮された特異性群に属する比率が遥かに低かった(例えば図3Bを参照)。次いで435個の腫瘍が濃縮された特異性群が、単に正常の肺組織や他の種類の肺疾患ではなく、肺がんに関連していることが確定された。68人のNSCLC患者を代表する202個の腫瘍試料からの7,363,492個のクローン型の検証群[文献26]では、腫瘍内で上位に増幅されたTCRクローン型の非増幅の対応物に比較しての有意に高い比率は、435個の腫瘍が濃縮された特異性群に属していた(図1B)。対照的に、健全な提供者および(癌と診断されてない)COPD患者からの肺組織では、腫瘍が濃縮された特異性群に属するTCRクローン型の比率が低いことが、クローン増幅に関係なく観察された(図1B)。要約すると、本明細書に記載の実験データにより、NSCLC患者全体に亘って共有腫瘍抗原を認識すると予測される一連の特異性群が特定された。
【0171】
実施例18
【0172】
HLA四量体配列を用いるTCR特異性群のコンピューター検証
GLIPH2によって確立された特異性群を検証するために、種々のHLA四量体データベースから公的に入手可能なCDR3β配列を、共同GLIPH2解析のためにMDアンダーソン癌センターからのCDR3β配列と組み合わせて含んだ[文献23、27、28]。四量体データ集合から入手可能なCDR3β配列は、主にウイルス特異性を包含し、かつそれぞれのHLAの環境でエピトープに結合することが実験的に示されている。これにより、実験的に確立された抗原特異性およびHLA制限に関連付けられた四量体データベースからの配列を用いて、一部の特異性群に注釈付けることが可能となる。この共同解析により、396個の特異性群に注釈付けができた(図1C)。これらの特異性群のうち、71個がクローン増殖されて、10種の異なる四量体として注釈付けられた(図3C)。予想通りに、インフルエンザ(Flu)抗原、エプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原、またはサイトメガロウイルス(CMV)抗原に対し推測される特異性を有するクローン型は、非罹患肺に比較して腫瘍内に優先的に局在しないことが判明した(図4A~4B)。さらにネットワーク解析により、いくつかの同一のCDR3β配列メンバーを共有するこれらの四量体として注釈付けられた特異性群が共同体に組織化された(図1Cおよび3D~3G)。所定の共同体に属する特異性群は、一貫して同一のHLA四量体として注釈付けられていて(図1C、3D、および3E)、これにより、いくつかの抗原特異性群は、異なる配列モチーフを共有しているにも拘らず、同じ特異性およびHLA制限に関連する可能性が高いことを示している。
【0173】
実施例19
【0174】
GLIPH2により推測される特異性の実験的検証
ペプチド-MHC特異性を実験的に検証するためには、単一のT細胞からのTCRα/β対の配列が必要とされる。従って、スタンフォード大学で治療を受けた15人の早期NSCLC患者からの単細胞のTCR配列決定(TCR-seq)を実施した。腫瘍浸潤T細胞を、外科切除した標本から調製し、配列決定の前にFACSによって分類した(例えば図5を参照)。合計で4,704個のCDR3α配列とCDR3β配列の対を配列決定し、さらなる解析のためにMDアンダーソン癌センターからのCDR3β配列と結合させた。
【0175】
実施例20
【0176】
免疫チェックポイント阻害に応答する患者でのEBV特異的T細胞クローンの増幅
病原菌特異的T細胞が抗PD1チェックポイント免疫療法に対する臨床応答に影響を及ぼすことが可能か否かを決定するために、治療に対して臨床応答を経験した2人のNSCLC患者のTCRレパートリーを解析した(例えば図6Aを参照)。治療前後の血液試料のCDR3α/βレパートリー対を配列決定して、治療後試料で増幅した102個のCDR3βクローン型を特定するために用いた(例えば図2Aを参照)。これらの増幅クローンのうち、41個は、腫瘍浸潤T細胞のCDR3βレパートリー(合計n=66,094、例えば図3Aを参照)中に特定された99個の特異性群に属していた。次いで四量体CDR3β配列を用いて、これらの特異性群に注釈付けたところ、EBV抗原およびFlu抗原を認識すると推測される3個の増殖されたCDR3βクローンを含む11個(合計でn=99)が見出された(図2B)。特異性の推測を検証するために、EBV抗原を認識すると推測されるTCRα/β鎖を発現する2個のJurkat細胞クローンおよび野生型B*35を発現するT2細胞株(図2Bおよび6B)を形成した。実際には、T2-B*35細胞との共培養により、Jurkat-TCR27細胞およびJurkat-TCR28細胞の両方が予測されたEBVペプチドに応答することが観察された(例えば図2Cを参照)。注目すべきことに、これらのEBV特異的特異性群は、治療後に増幅されただけでなく、隣接の肺と比較して腫瘍の偏在も示し、これにより未知のTAAに対する潜在的な交差反応性を示唆していた(例えば図6Cを参照)。過去には、腫瘍内に見出される一般的な病原菌特異的T細胞は「傍観者細胞」であり、TAAには特異的ではないと考えられていた。本明細書に説明の実験データでは、TAAと病原菌由来抗原に対するT細胞特異性は相互に排他的ではないことを示していた。さらに腫瘍内のこれらの病原菌特異的T細胞は、枯渇状態または応力印加状態ではないエフェクター表現型を示し、CD39発現を欠いていた。これらのデータにより、交差反応性T細胞は、抗PD1チェックポイント阻害を設定して癌の進行を抑制する役割を果たす可能性があることを示唆していた。
【0177】
本開示の特定の代替例を開示してきたが、当然のことであるが、様々な修正および組合せが可能であり、かつそれらは添付の特許請求の範囲の真の趣旨および範囲内にあると考えられる。従って、本明細書に提示される要約および開示内容に厳格に限定する意図は無い。
【0178】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0179】
参考文献
1.Kawakami, Y., et al., Cloning of the gene coding for a shared human melanoma antigen recognized by autologous T cells infiltrating into tumor.「腫瘍に浸潤する自己T細胞で認識される、共有ヒト黒色腫抗原をコードする遺伝子のクローン化」Proc Natl Acad Sci U S A, 1994. 91(9): p. 3515-9.
2.Coulie, P.G., et al., A new gene coding for a differentiation antigen recognized by autologous cytolytic T lymphocytes on HLA-A2 melanomas.「HLA-A2黒色腫の自己細胞溶解性Tリンパ球で認識される分化抗原をコードする新規遺伝子」J Exp Med, 1994. 180(1): p. 35-42.
3.van der Bruggen, P., et al., A gene encoding an antigen recognized by cytolytic T lymphocytes on a human melanoma.「ヒト黒色腫の細胞溶解性Tリンパ球で認識される抗原をコードする遺伝子」Science, 1991. 254(5038): p. 1643-7.
4.Coulie, P.G., et al., A mutated intron sequence codes for an antigenic peptide recognized by cytolytic T lymphocytes on a human melanoma.「変異したイントロン配列は、ヒト黒色腫の細胞溶解性Tリンパ球で認識される抗原ペプチドをコードする」Proc Natl Acad Sci U S A, 1995. 92(17): p. 7976-80.
5.Wolfel, T., et al., A p16INK4a-insensitive CDK4 mutant targeted by cytolytic T lymphocytes in a human melanoma.「ヒト黒色腫内の細胞溶解性Tリンパ球の標的となる、p16INK4a非感受性のCDK4変異体」Science, 1995. 269(5228): p. 1281-4.
6.Murray, R.J., et al., Identification of target antigens for the human cytotoxic T cell response to Epstein-Barr virus (EBV): implications for the immune control of EBV-positive malignancies.「エプスタイン・バーウイルス(EBV)に対するヒト細胞傷害性T細胞応答での標的抗原の識別:EBV陽性悪性腫瘍の免疫制御への影響」J Exp Med, 1992. 176(1): p. 157-68.
7.Koziel, M.J., et al., HLA class I-restricted cytotoxic T lymphocytes specific for hepatitis C virus. Identification of multiple epitopes and characterization of patterns of cytokine release.「C型肝炎ウイルスに特異的なHLAクラスIの拘束細胞傷害性Tリンパ球。複数のエピトープの識別およびサイトカイン放出パターンの特性評価」J Clin Invest, 1995. 96(5): p. 2311-21.
8.Rehermann, B., et al., The cytotoxic T lymphocyte response to multiple hepatitis B virus polymerase epitopes during and after acute viral hepatitis.「急性ウイルス性肝炎中かつ急性ウイルス性肝炎後の複数のB型肝炎ウイルスポリメラーゼエピトープに対する細胞傷害性Tリンパ球の応答」J Exp Med, 1995. 181(3): p. 1047-58.
9.Tran, E., et al., Immunogenicity of somatic mutations in human gastrointestinal cancers.「ヒト消化器がんでの体細胞変異の免疫原性」Science, 2015. 350(6266): p. 1387-90.
10.Gros, A., et al., Prospective identification of neoantigen-specific lymphocytes in the peripheral blood of melanoma patients.「黒色腫患者の末梢血中の新生抗原特異的リンパ球の予測識別」Nat Med, 2016. 22(4): p. 433-8.
11.Zacharakis, N., et al., Immune recognition of somatic mutations leading to complete durable regression in metastatic breast cancer.「転移性乳がんの完全な永続的な退縮を誘導する体細胞変異の免疫認識」Nat Med, 2018. 24(6): p. 724-730.
12.Schumacher, T.N., W. Scheper, and P. Kvistborg, Cancer Neoantigens.「癌の新生抗原」Annu Rev Immunol, 2019. 37: p. 173-200.
13.Rosenberg, S.A. and M.E. Dudley, Adoptive cell therapy for the treatment of patients with metastatic melanoma.「転移性黒色腫患者の治療のための養子細胞療法」Curr Opin Immunol, 2009. 21(2): p. 233-40.
14.Hinrichs, C.S. and S.A. Rosenberg, Exploiting the curative potential of adoptive T-cell therapy for cancer.「癌に対する養子T細胞療法の治癒能力の開拓」Immunol Rev, 2014. 257(1): p. 56-71.
15.de Vos van Steenwijk, P.J., et al., An unexpectedly large polyclonal repertoire of HPV-specific T cells is poised for action in patients with cervical cancer.「HPV特異的T細胞の予想外に広範囲の多クローン性レパートリーは、子宮頸がん患者での作用を支える」Cancer Res, 2010. 70(7): p. 2707-17.
16.Piersma, S.J., et al., Human papilloma virus specific T cells infiltrating cervical cancer and draining lymph nodes show remarkably frequent use of HLA-DQ and -DP as a restriction element.「子宮頸がんに浸潤しかつリンパ節を排出するヒトパピローマウイルス特異的T細胞は、制限要素としてHLA-DQおよびHLA-DPの顕著に頻繁な使用を示す」Int J Cancer, 2008. 122(3): p. 486-94.
17.Evans, E.M., et al., Infiltration of cervical cancer tissue with human papillomavirus-specific cytotoxic T-lymphocytes.「子宮頸がん組織のヒトパピローマウイルス特異的細胞傷害性Tリンパ球による浸潤」Cancer Res, 1997. 57(14): p. 2943-50.
18.Triozzi, P.L. and A.P. Fernandez, The role of the immune response in merkel cell carcinoma.「メルケル細胞がんでの免疫応答の役割」Cancers (Basel), 2013. 5(1): p. 234-54.
19.Simoni, Y., et al., Bystander CD8(+) T cells are abundant and phenotypically distinct in human tumour infiltrates.「傍観者CD8(+)T細胞は、ヒト腫瘍浸潤物内に豊富に存在し表現型が異なる」Nature, 2018. 557(7706): p. 575-579.
20.Rosato, P.C., et al., Virus-specific memory T cells populate tumors and can be repurposed for tumor immunotherapy.「ウイルス特異的記憶T細胞は、腫瘍に集合しかつ腫瘍免疫療法に再利用できる」Nat Commun, 2019. 10(1): p. 567.
21.Scheper, W., et al., Low and variable tumor reactivity of the intratumoral TCR repertoire in human cancers.「ヒトの癌での腫瘍内TCRレパートリーの腫瘍反応性の低下かつ変動」Nat Med, 2019. 25(1): p. 89-94.
22.Yu, W., et al., Clonal Deletion Prunes but Does Not Eliminate Self-Specific alphabeta CD8(+) T Lymphocytes.「クローン欠失は、自己特異的αβCD8(+)Tリンパ球を切詰めるが排除はしない」Immunity, 2015. 42(5): p. 929-41.
23.Glanville, J., et al., Identifying specificity groups in the T cell receptor repertoire.「T細胞受容体レパートリーでの特異性群の識別」Nature, 2017. 547(7661): p. 94-98.
24.Huang, H., et al., Analyzing the CD4+ T cell response repertoire to M. tuberculosis using GLIPH2 and whole-genome antigen screening.「GLIPH2および全ゲノム抗原選別を用いる結核菌に対するCD4+T細胞応答レパートリーの解析」Nat Biotechnol, 2020.
25.Reuben, A., et al., Comprehensive T cell repertoire characterization of non-small cell lung cancer.「非小細胞肺がんの包括的なT細胞レパートリーの特性評価」Nat Commun, 2020. 11(1): p. 603.
26.Joshi, K., et al., Spatial heterogeneity of the T cell receptor repertoire reflects the mutational landscape in lung cancer.「T細胞受容体レパートリーの空間的異質性は、肺がんでの変異状況を反映する」Nat Med, 2019. 25(10): p. 1549-1559.
27.Shugay, M., et al., VDJdb: a curated database of T-cell receptor sequences with known antigen specificity.「VDJdb:既知の抗原特異性を有するT細胞受容体配列の厳選データベース」Nucleic Acids Res, 2018. 46(D1): p. D419-D427.
28.Song, I., et al., Broad TCR repertoire and diverse structural solutions for recognition of an immunodominant CD8(+) T cell epitope.「免疫優勢なCD8(+)T細胞エピトープを認識するための広範なTCRレパートリーおよび多様な構造の解決手段」Nat Struct Mol Biol, 2017. 24(4): p. 395-406.
29.Sidney, J., et al., HLA class I supertypes: a revised and updated classification.「HLAクラスI上位型:改訂かつ更新された分類」BMC Immunol, 2008. 9: p. 1.
30.Harjanto, S., L.F. Ng, and J.C. Tong, Clustering HLA class I superfamilies using structural interaction patterns.「構造的相互作用パターンを用いるHLAクラスIスーパーファミリーのクラスター化」PLoS One, 2014. 9(1): p. e86655.
31.Robins, H.S., et al., Overlap and effective size of the human CD8+ T cell receptor repertoire.「ヒトCD8+T細胞受容体レパートリーの重複かつ有効サイズ」Sci Transl Med, 2010. 2(47): p. 47ra64.
32.Arstila, T.P., et al., A direct estimate of the human alphabeta T cell receptor diversity.「ヒトαβT細胞受容体の多様性の直接的推定」Science, 1999. 286(5441): p. 958-61.
33.Gee, M.H., et al., Antigen Identification for Orphan T Cell Receptors Expressed on Tumor-Infiltrating Lymphocytes.「腫瘍浸潤リンパ球に発現するオーファンT細胞受容体の抗原識別」Cell, 2018. 172(3): p. 549-563 e16.
34.Kheir, F., et al., Detection of Epstein-Barr Virus Infection in Non-Small Cell Lung Cancer.「非小細胞肺がんでのエプスタイン・バーウイルス感染の検出」Cancers (Basel), 2019. 11(6).
35.Han, A., et al., Linking T-cell receptor sequence to functional phenotype at the single-cell level.「単細胞水準でのT細胞受容体配列の機能的表現型との関連付け」Nat Biotechnol, 2014. 32(7): p. 684-92.
36.Stubbington, M.J.T., et al., T cell fate and clonality inference from single-cell transcriptomes.「単細胞トランスクリプトームからのT細胞の運命およびクローン性の推定」Nat Methods, 2016. 13(4): p. 329-332.
37.Guo, X., et al., Global characterization of T cells in non-small-cell lung cancer by single-cell sequencing.「単細胞配列決定による非小細胞肺がんでのT細胞の包括的特性評価」Nat Med, 2018. 24(7): p. 978-985.
38.Joglekar, A.V., et al., T cell antigen discovery via signaling and antigen-presenting bifunctional receptors.「シグナル伝達および抗原提示二機能性受容体を介するT細胞抗原の検出」Nat Methods, 2019. 16(2): p. 191-198.
39.Li, G., et al., T cell antigen discovery via trogocytosis.「トロゴサイトーシスによるT細胞抗原の検出」Nat Methods, 2019. 16(2): p. 183-190.
40.Kula, T., et al., T-Scan: A Genome-wide Method for the Systematic Discovery of T Cell Epitopes.「Tスキャン:T細胞エピトープを体系的に検出するゲノム全域にわたる方法」Cell, 2019. 178(4): p. 1016-1028 e13.
41.Sewell, A.K., Why must T cells be cross-reactive?「なぜT細胞は交差反応性である必要があるのか?」Nat Rev Immunol, 2012. 12(9): p. 669-77.
42.McCarthy, E.F., The toxins of William B. Coley and the treatment of bone and soft-tissue sarcomas.「William B. Coleyの毒素ならびに骨肉腫および軟部組織肉腫の治療」Iowa Orthop J, 2006. 26: p. 154-8.
43.Morales, A., D. Eidinger, and A.W. Bruce, Intracavitary Bacillus Calmette-Guerin in the treatment of superficial bladder tumors.「表在性膀胱腫瘍の治療での体腔内カルメット・ゲラン桿菌」J Urol, 1976. 116(2): p. 180-3.
44.Gopalakrishnan, V., et al., Gut microbiome modulates response to anti-PD-1 immunotherapy in melanoma patients.「腸内微生物叢は、黒色腫患者での抗PD-1免疫療法に対する応答を調節する」Science, 2018. 359(6371): p. 97-103.
45.Routy, B., et al., Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors.「腸内微生物叢は、上皮腫瘍に対するPD-1に基づく免疫療法の効力に影響を及ぼす」Science, 2018. 359(6371): p. 91-97.
46.Vetizou, M., et al., Anticancer immunotherapy by CTLA-4 blockade relies on the gut microbiota.「CTLA-4阻害による抗癌免疫療法は、腸内微生物叢に依存する」Science, 2015. 350(6264): p. 1079-84.
47.Sivan, A., et al., Commensal Bifidobacterium promotes antitumor immunity and facilitates anti-PD-L1 efficacy.「共生ビフィズス菌は、抗腫瘍免疫を促進しかつ抗PD-L1効力を助長する」Science, 2015. 350(6264): p. 1084-9.
48.Matson, V., et al., The commensal microbiome is associated with anti-PD-1 efficacy in metastatic melanoma patients.「共生微生物叢は、転移性黒色腫患者での抗PD-1効力に関連する」Science, 2018. 359(6371): p. 104-108.
49.Riquelme, E., et al., Tumor Microbiome Diversity and Composition Influence Pancreatic Cancer Outcomes.「腫瘍の微生物叢の多様性および組成は、膵臓がんの転帰に影響を及ぼす」Cell, 2019. 178(4): p. 795-806 e12.
50.Emerson, R.O., et al., Immunosequencing identifies signatures of cytomegalovirus exposure history and HLA-mediated effects on the T cell repertoire.「免疫配列決定により、サイトメガロウイルス曝露歴の特徴およびT細胞レパートリーへのHLA媒介効果を特定する」Nat Genet, 2017. 49(5): p. 659-665.
51.Abazeed, M.E., et al., Integrative radiogenomic profiling of squamous cell lung cancer.「扁平上皮肺がんの統合的放射性ゲノムの特性解析」Cancer Res, 2013. 73(20): p. 6289-98.
52.Barbie, D.A., et al., Systematic RNA interference reveals that oncogenic KRAS-driven cancers require TBK1.「体系的なRNA干渉により、発癌性KRASが誘導する癌にはTBK1が必要なことが明白になる」Nature, 2009. 462(7269): p. 108-12.
53.Altman, J.D. and M.M. Davis, MHC-peptide tetramers to visualize antigen-specific T cells.「抗原特異的T細胞を視覚化するMHC-ペプチド四量体」Curr Protoc Immunol, 2003. Chapter 17: p. Unit 17 3.
54.Picelli, S., et al., Full-length RNA-seq from single cells using Smart-seq2.「Smart-seq2を用いる単細胞からの全長RNA-seq」Nat Protoc, 2014. 9(1): p. 171-81.
55.Rueden, C.T., et al., ImageJ2: ImageJ for the next generation of scientific image data.「ImageJ2:次世代の科学画像データ用のImageJ」BMC Bioinformatics, 2017. 18(1): p. 529.
56.Schindelin, J., et al., Fiji: an open-source platform for biological-image analysis.「Fiji:生体画像解析のためのオープンソースプラットフォーム」Nat Methods, 2012. 9(7): p. 676-82.
57.Hellmann, M.D., et al., Circulating tumor DNA analysis to assess risk of progression after long-term response to PD-(L)1 blockade in NSCLC.「NSCLCでのPD-(L)1阻害に対する長期応答後の進行リスクを評価する循環腫瘍DNA解析」Clin Cancer Res, 2020.
58.Newman, A.M., et al., An ultrasensitive method for quantitating circulating tumor DNA with broad patient coverage.「幅広い患者を適用範囲とする、循環腫瘍DNAを定量する超高感度手法」Nat Med, 2014. 20(5): p. 548-54.
59.Koboldt, D.C., et al., VarScan 2: somatic mutation and copy number alteration discovery in cancer by exome sequencing.「VarScan 2:エキソーム配列決定による癌での体細胞変異およびコピー数変化の検出」Genome Res, 2012. 22(3): p. 568-76.
60.Cibulskis, K., et al., Sensitive detection of somatic point mutations in impure and heterogeneous cancer samples.「不純かつ不均質な癌試料中の体細胞点変異の高感度検出」Nat Biotechnol, 2013. 31(3): p. 213-9.
61.Saunders, C.T., et al., Strelka: accurate somatic small-variant calling from sequenced tumor-normal sample pairs.「Strelka:配列決定された腫瘍試料-正常試料対からの高精度の体細胞の小変異の回収」Bioinformatics, 2012. 28(14): p. 1811-7.
62.Lek, M., et al., Analysis of protein-coding genetic variation in 60,706 humans.「60,706人のヒトでのタンパク質をコードする遺伝的変異の解析」Nature, 2016. 536(7616): p. 285-91.
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図5
図6A
図6B-6C】
【配列表】
2024510931000001.app
【国際調査報告】