(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】薬剤供給用の制御システムにおける適合可能な非対称型の薬剤コスト要素
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20240305BHJP
A61M 5/172 20060101ALI20240305BHJP
G16H 20/10 20180101ALI20240305BHJP
【FI】
A61M5/142 530
A61M5/172 500
G16H20/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554893
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 US2022019080
(87)【国際公開番号】W WO2022192106
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519167449
【氏名又は名称】インスレット コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100202740
【氏名又は名称】増山 樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ボク リー
(72)【発明者】
【氏名】イーピン チョン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン オコナー
(72)【発明者】
【氏名】トラン リー
【テーマコード(参考)】
4C066
5L099
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4C066FF01
4C066FF04
4C066QQ78
4C066QQ82
4C066QQ84
5L099AA25
(57)【要約】
例示用の実施形態は、薬剤投薬量を判定するためにその制御システム内においてコスト関数を使用する薬剤供給装置を提供している。コスト関数は、薬剤コスト要素と、パフォーマンスコスト要素と、を有することができる。例示用の実施形態は、入力の異なる範囲(即ち、異なる候補薬剤投薬量)について非対称な方式でスケーリングする薬剤コスト要素を有するコスト関数を使用することができる。異なる入力範囲におけるスケーリングの変化は、ユーザに対して薬剤コスト要素を適合させるために、且つ、従って、ユーザに対する薬剤供給の相対的に良好な管理を提供し且つパフォーマンスターゲットに対する相対的に良好な準拠を提供するために、追加された柔軟性を提供している。例示用の実施形態は、(例えば、基準投薬量未満などの)候補投薬量の範囲について候補投薬量用のゼロの(インスリンコスト要素などの)薬剤コスト要素を有するコスト関数を使用することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤供給装置であって、
データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、
薬剤をユーザに供給するためのポンプと、
前記コンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサと、を有し、
前記プロセッサは、
前記ユーザに対する候補投薬量用のコスト関数の値を判定し、前記コスト関数は、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有し、
前記薬剤コスト要素は、閾値量を中心として非対称的になるように構成され、
前記候補投薬量用の前記コスト関数の値に基づいて前記候補投薬量のうちから前記ポンプによって前記ユーザに供給される投薬量を選択する、前記コンピュータプログラミング命令を実行する、薬剤供給装置。
【請求項2】
前記閾値量は、平均基礎投薬量又は前記ユーザ用の特定の基礎投薬量である請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項3】
前記閾値量は、前記ユーザ用の基礎投薬量の倍数であり、且つ、前記倍数は、1超である請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項4】
前記倍数は、ターゲット血糖濃度に対する時間インターバルにおける平均血糖濃度の比率である請求項3に記載の薬剤供給装置。
【請求項5】
前記倍数は、前記ユーザ用の1日の総薬剤から導出されたインターバルにおける基礎投薬量の推定値に対する前記インターバルにおける前記ユーザに供給された平均基礎投薬量の比率である請求項3に記載の薬剤供給装置。
【請求項6】
前記投薬量を選択するステップは、前記コスト関数用の最小値を有する前記候補投薬量の1つを選択するステップを有する請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項7】
前記薬剤供給装置は、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、又はプラムリンチドの少なくとも1つを供給している請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項8】
前記薬剤コスト要素は、前記閾値量未満の前記候補投薬量の任意のものについては実質的にゼロである請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項9】
薬剤供給装置であって、
データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、
ユーザに薬剤を供給するためのポンプと、
前記コンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサと、を有し、
前記プロセッサは、
前記ユーザに対して前記薬剤の候補投薬量用のコスト関数の値を判定するために、前記コスト関数は、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有し、
前記薬剤コスト要素のスケーリングは、第1閾値超においては、二次であり、且つ、前記第1閾値超である第2閾値超においては、線形であり、
前記候補投薬量用の前記コスト関数の値に基づいて前記ユーザに対して前記候補投薬量のうちから前記ポンプによって前記ユーザに供給される投薬量を選択する、前記コンピュータプログラミング命令を実行する、薬剤供給装置。
【請求項10】
前記薬剤コスト要素の前記スケーリングは、前記第1閾値未満においては線形である請求項9に記載の薬剤供給装置。
【請求項11】
前記薬剤コスト要素は、前記第1閾値未満である前記候補投薬量の少なくとも1つについては固定された値を有する請求項10に記載の薬剤供給装置。
【請求項12】
前記固定された値は、ゼロ又は実質的にゼロである請求項11に記載の薬剤供給装置。
【請求項13】
薬剤供給装置であって、
データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、
ユーザに薬剤を供給するためのポンプと、
前記コンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサと、を有し、
前記プロセッサは、
前記ユーザに対する候補投薬量用のコストの値を判定するために、前記コストは、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有し、
前記コストは、前記候補投薬量の異なる範囲について異なる方式で算出され、
前記候補投薬量用の前記コストの前記値に基づいて前記ユーザに前記候補投薬量のうちから前記ポンプによって前記ユーザに供給される投薬量を選択する、前記コンピュータプログラミング命令を実行する、薬剤供給装置。
【請求項14】
前記コストは、第1閾値未満の前記範囲の1つにおいて前記候補投薬量の任意のものについて無視可能となるように算出されている請求項13に記載の薬剤供給装置。
【請求項15】
前記第1閾値は、平均基礎投薬量又は前記ユーザ用の特定の基礎投薬量である請求項14に記載の薬剤供給装置。
【請求項16】
前記第1閾値は、前記平均基礎投薬量又は前記ユーザ用の前記特定の基礎投薬量の倍数であり、且つ、前記倍数は、1超である請求項15に記載の薬剤供給装置。
【請求項17】
前記コストは、前記第1閾値超である第2閾値超の前記範囲の1つにおいて二次フォーミュレーションによって算出された薬剤コスト要素を含む請求項14に記載の薬剤供給装置。
【請求項18】
前記コストは、前記第2閾値超である第3閾値超の前記範囲の1つにおいて線形フォーミュレーションによって算出された薬剤コスト要素を含む請求項17に記載の薬剤供給装置。
【請求項19】
前記コストは、前記範囲の少なくとも2つにおいて異なる方式でコスト関数及びコスト関数スケールを使用して算出されている請求項13に記載のインスリン供給装置。
【請求項20】
前記コスト関数は、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を含み、且つ、前記薬剤コスト要素は、前記薬剤コスト要素が前記範囲の前記少なくとも2つにおいて異なる方式でスケーリングするようにするために前記範囲の前記少なくとも2つにおいて異なっている請求項19に記載のインスリン供給装置。
【請求項21】
前記コスト関数は、薬剤コスト要素を有し、且つ、前記コストは、前記範囲の第2のものについて前記コストを判定する際に使用されているものとは異なる薬剤コスト用の式を使用して前記範囲の第1のものについて判定されている請求項19に記載のインスリン供給装置。
【請求項22】
前記コストは、それぞれの範囲ごとに異なるコスト関数によって判定されている請求項13に記載のインスリン供給装置。
【請求項23】
前記薬剤は、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、又はプラムリンチドの1つである請求項13に記載の薬剤供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月24日付けで出願された米国仮特許出願第63/165,252号及び2021年3月10日付けで出願された米国仮特許出願第63/158,918号に対する利益を主張するものであり、これらの特許文献の内容全体は、引用により、そのすべてが本明細書に包含される。
【背景技術】
【0002】
いくつかの制御システムは、コスト関数を極小化することを追及している。このような制御システムの一例は、自動インスリン供給(AID)装置などの薬剤供給装置用の制御装置である。AID装置用のコスト関数は、通常、制御ターゲットを下回る又は上回るグルコースの逸脱のリスクとの対比においてインスリンの供給不足又は供給過多のリスクを比較検討している。いくつかのAID装置においては、コスト関数は、グルコースコスト要素とインスリンコスト要素を合計している。グルコース要素は、候補投薬量に伴って予測されている制御ターゲットを上回る且つ/又は下回るグルコースの逸脱の大きさをキャプチャしており、且つ、インスリン要素は、候補投薬量に伴って供給されることになる(基礎投薬量などの)標準投薬量を上回る又は下回るインスリンの大きさをキャプチャしている。制御システムは、インスリンのそれぞれの候補投薬量に対してコスト関数を適用し且つ最小コストを有する候補投薬量を選択している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
AIDシステムは、基礎投薬量が血糖濃度をターゲット血糖濃度において維持することになると仮定している。残念ながら、この仮定は、多くのユーザには当て嵌まらない。標準基礎投薬量用のフォーミュレーション(例えば、1日の総インスリン(TDI)から算出された基礎投薬量)は、多くのユーザの真のニーズにマッチングしてはいない。例えば、ユーザが標準基礎投薬量超のインスリンを必要としているとしよう。標準基礎投薬量超の候補投薬量は、コスト関数のインスリンコスト要素によって罰せられている。インスリンコスト要素は、コスト関数のフォーミュレーションにおける二次表現である。従って、インスリンコスト要素の大きさは、候補投薬量が標準基礎投薬量超において増大するのに伴って迅速に増大している。これは、相対的に小さな大きさのグルコースの逸脱について補償することを困難にしており、その理由は、迅速に増大するインスリンコスト要素に起因して、相対的に小さな大きさのグルコースを修正するための適切な候補投薬量用のコストが迅速に上昇しているからである。従って、システムは、インスリン投薬量に対する相対的に大きな変化ではなく相対的に小さな変化を選好しており、従って、このような相対的に小さな大きさのグルコースの逸脱についての補償は、長い期間を所要し得る。従って、ユーザが持続的な小さな大きさのグルコースの逸脱を有する場合があり、これは、患者にとって不健康なものとなり得る。この結果は、ユーザがターゲットよりも持続的に大きな又は小さな血糖濃度を有し得るというものである。
【0004】
AIDシステム用のコスト関数の標準フォーミュレーションに伴う別の問題点は、基礎投薬量との関係においてデルタが存在していることから、インスリン供給の減少についてペナルティが存在しているという点にある。これは、ユーザが低血糖症に進むリスクを回避するために投薬量の迅速な減少を要する例においては問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明態様によれば、薬剤供給装置は、データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、ユーザに薬剤を供給するためのポンプと、を含む。薬剤供給装置は、ユーザに対する候補投薬量用のコスト関数の値を判定するためにコンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサを更に含む。コスト関数は、例えば、(望ましいターゲットからのグルコースの逸脱用の)パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有する。薬剤コスト要素は、閾値、標準基礎量、又はユーザに対して構成されたカスタマイズされた量を中心して非対称になるように構成されている。また、プロセッサは、候補投薬量用のコスト関数の値に基づいて候補投薬量のうちからポンプによってユーザに供給される投薬量を選択するためにコンピュータプログラミング命令を実行するように構成されている。
【0006】
閾値量は、平均基礎投薬量又はユーザ用の特定の基礎投薬量であってよい。閾値量は、ユーザ用の基礎投薬量の倍数であってよく、且つ、倍数は、1超である。倍数は、ターゲット血糖濃度に対する所定の時間インターバルにおける平均血糖濃度の比率であってよい。倍数は、ユーザ用の1日の総薬剤から導出された所定のインターバルにおける基礎投薬量の推定値に対するそのインターバルにおいてユーザに供給された平均基礎投薬量の比率であってよい。投薬量を選択するステップは、コスト関数の最小値を有する候補投薬量のうちの1つを選択するステップを有することができる。薬剤供給装置は、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、プラムリンチド、これらのコフォーミュレーション、又は別のタイプの薬物の少なくとも1つを供給することができる。薬剤コスト要素は、閾値量未満の候補投薬量の任意のものの場合には、ゼロ又は実質的にゼロであってよい。
【0007】
別の発明態様によれば、薬剤供給装置は、データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、ユーザに薬剤を供給するためのポンプと、を含む。薬剤供給装置は、ユーザ用の薬剤の候補投薬量用のコスト関数の値を判定するために且つ候補投薬量用のコスト関数の値に基づいて候補投薬量のうちからポンプによってユーザに供給される投薬量を選択するためにコンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサを含む。コスト関数は、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有する。薬剤コスト要素のスケーリングは、第1閾値超においては二次であり、且つ、第1閾値超である第2閾値超においては線形である。
【0008】
薬剤コスト要素のスケーリングは、第1閾値未満においては線形であってよい。薬剤コスト要素は、第1閾値未満である候補投薬量の少なくとも1つの場合には、固定された値を有し得る。固定された値は、ゼロであってもよく又は実質的にゼロであってもよい。
【0009】
更なる発明態様によれば、薬剤供給装置は、データ及びコンピュータプログラミング命令を保存するためのメモリと、ユーザに薬剤を供給するためのポンプと、を含む。また、薬剤供給装置は、ユーザに対する候補投薬量用のコストの値を判定するために且つ候補投薬量用のコストの値に基づいてユーザに対する候補投薬量のうちからポンプによってユーザに供給される投薬量を選択するためにコンピュータプログラミング命令を実行するためのプロセッサを含む。コストは、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を有する。コストは、候補投薬量の異なる範囲について異なる方式によって算出されている。
【0010】
コストは、第1閾値未満の範囲の1つにおける候補投薬量の任意のものについては、無視可能となるように算出することができる。第1閾値は、平均基礎投薬量又はユーザ用の特定の基礎投薬量であってよい。第1閾値は、平均基礎投薬量又はユーザ用の特定の基礎投薬量の倍数であってよく、且つ、倍数は、1超であってよい。コストは、第1閾値超である第2閾値超の範囲の1つにおいては二次フォーミュレーションによって算出される薬剤コスト要素を含み得る。コストは、第2閾値超である第3閾値超の範囲の1つにおいては線形フォーミュレーションによって算出される薬剤コスト要素を含み得る。コストは、コスト関数を使用することにより、算出することができると共に、コスト関数は、範囲の少なくとも2つにおいて異なる方式でスケーリングすることができる。コスト関数は、パフォーマンスコスト要素と、薬剤コスト要素と、を含むことができると共に、薬剤コスト要素は、コスト関数が範囲の少なくとも2つにおいて異なる方式でスケーリングするようにするために範囲の少なくとも2つにおいて異なることができる。コスト関数は、薬剤コスト要素を有することができると共に、コストは、範囲の第2のものについてコストを判定する際に使用されているものとは異なる薬剤コスト用の式を使用することにより、範囲の第1ものについて判定することができる。コストは、それぞれの範囲ごとに、異なるコスト関数によって判定することができる。薬剤は、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、プラムリンチド、これらのコフォーミュレーション、又は別のタイプの薬物の1つであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】例示用の実施形態による薬剤を供給するのに適した例示用の薬剤供給システムを描く。
【
図2】例示用の実施形態においてユーザに供給される次の投薬量を選択する際に実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図3】従来のコスト関数を算出するために実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図4】従来の線形薬剤コスト要素及び従来の二次薬剤コスト要素用の薬剤の要求される投薬量との対比におけるコスト関数の薬剤コスト要素の値のプロットを描く。
【
図5】コスト関数に伴ってゼロコストを実現するために例示用の実施形態において実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図6】例示用の実施形態においてユーザの平均血糖濃度に基づいて薬剤コスト要素用の閾値を判定するために実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図7】例示用の実施形態においてユーザ用の1日の総インスリン(TDI)に対するユーザ用の平均基礎投薬量の実際の比率に基づいて薬剤コスト要素用の閾値を判定するために実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図8A】例示用の実施形態において候補薬剤投薬量の範囲に跨って混合されたスケーリングを提供するために実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【
図8B】例示用の実施形態において薬剤コスト要素用の候補薬剤投薬量の範囲に跨って混合されたスケーリングを示すプロットを描く。
【
図9】例示用の実施形態において候補投薬量の範囲において薬剤コスト要素の非対称性を提供するように実行され得る例示用のステップのフローチャートを描く。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示用の実施形態は、薬剤投薬量を判定するためにその制御システムにおいてコスト関数を使用している薬剤供給装置に関する。コスト関数は、薬剤コスト要素と、パフォーマンスコスト要素と、を有することができる。例示用の実施形態は、入力の異なる範囲(即ち、異なる候補薬剤投薬量)について非対称な方式でスケーリングする薬剤コスト要素を有するコスト関数を使用することができる。異なる入力範囲におけるスケーリングの変化は、ユーザに対して薬剤コスト要素を適合させるための、且つ、従って、ユーザに対して薬剤供給の相対的に良好な管理を提供し且つパフォーマンスターゲットに対する相対的に良好な準拠を提供するための、追加された柔軟性を提供している。
【0013】
例示用の実施形態の薬剤供給装置は、様々な薬剤のうちの任意のものを供給することができる。例示用の実施形態の薬剤供給装置によって供給される薬剤は、限定を伴うことなしに、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、プラムリンチド、これらのものの2つ以上のもののコフォーミュレーション、グルカゴン、ホルモン剤、疼痛管理剤、化学療法剤、抗生物質、抗ウイルス薬、抗凝血剤、血液凝固剤、抗うつ剤、抗発作剤、抗精神病薬、降圧剤、スタチン、治療薬、及び医薬品を含み得る。
【0014】
例示用の実施形態は、従来の薬剤供給装置との関係において薬剤供給装置のコスト関数に対して変更を提供することができる。例えば、例示用の実施形態は、(例えば、基準投薬量未満の)候補投薬量の範囲について候補投薬量用のゼロの(インスリンコスト要素などの)薬剤コスト要素を有するコスト関数を使用することができる。或いは、この代わりに、薬剤コスト要素は、候補投薬量の範囲について、実質的にゼロであるものなどのような無視可能な値を有することもできる。インスリン又はGLP-1アゴニスト供給装置の場合には、これは、薬剤投薬量の減少に対する低減されたペナルティが存在するように薬剤コスト要素を低減しており、且つ、いくつかの例においては、低血糖症の回避を相対的に容易にしている。この薬剤コスト要素に対する変更は、低血糖症の結果のほうが一般的には低血糖症よりも危険であるという見方を反映するように構成されている。
【0015】
その他の例示用の実施形態においては、薬剤コスト要素は、範囲内の候補投薬量については、固定された正の値を有することができる(即ち、一定の値である)。更にその他の例示用の実施形態においては、薬剤コスト要素は、候補投薬量の範囲内の候補投薬量については、コスト関数のフォーミュレーションにおいて線形表現であってよい。従来の薬剤コスト要素に対するこれらの変更の正味の効果は、従来の薬剤コスト要素との関係において標準投薬量未満の候補投薬量において薬剤コスト要素から結果的に得られるペナルティを減少させるというものである。
【0016】
コスト関数は、すべての可能な候補投薬量の範囲にわたる薬剤コスト要素用の単数表現又は単一タイプの表現の使用を必要としてはいない。薬剤コスト表現は、定数、線形表現、二次表現、又は二次ではない指数表現であってよい。薬剤コスト要素は、候補投薬量の範囲にわたって異なる表現を有することができる。例えば、薬剤コスト要素は、候補投薬量の第1範囲については定数であってよく、候補投薬量の第2範囲については一定ではない線形表現であってよく、且つ、候補投薬量の第3範囲については二次表現であってよい。いくつかの実施形態において、薬剤コスト要素表現は、候補投薬量の範囲にわたって単一タイプ(例えば、定数、線形、二次、又は指数)であってよいが、異なるフォーミュレーションを有することができる。例えば、薬剤コスト要素は、第1範囲についてはx+2として、且つ、異なる範囲については2x+3として、表現されてもよく、この場合に、xは、基礎投薬量との関係におけるデルタなどの変数である。
【0017】
いくつかの例示用の実施形態においては、コスト関数の異なるフォーミュレーションが、異なる範囲について使用されてもよく、或いは、場合によっては、異なるコスト関数が、異なる範囲について使用されてもよい。相違点は、薬剤コスト要素に対する変更にのみ起因するものである必要はない。薬剤コスト要素のスケーリングは、すべての可能な候補投薬量にわたって同一である必要はない。コスト関数は、閾値又は基準投薬量に跨って非対称なものであってよい。
【0018】
また、例示用の実施形態は、薬剤コスト要素を判定する際に使用される基準投薬量を変更することもできる。第1に、基準投薬量を基礎投薬量よりも大きく設定することができる。従って、基準投薬量は、相対的に大きなインスリンニーズなどのように、通常の薬剤ニーズよりも大きなものを有するユーザの場合に、相対的に良好に適し得る。第2に、基準投薬量を(最近のインターバルにおける平均などの)ユーザの実際の平均基礎量に対してカスタマイズすることができる。この結果、基準投薬量の値がユーザに対して相対的に良好に適合される。第3に、基準投薬量を薬剤の基礎供給と薬剤のボーラス供給の間のユーザの最近の実際の食い違いに基づいてカスタマイズすることができる。基準投薬量は、コスト計算においてTDIの50%となるように制限されてはいない。
【0019】
図1は、例示用の実施形態によるユーザ108にインスリン、GLP-1アゴニスト、又は以上において詳述されているもののようなその他の薬剤などの薬剤を供給するのに適した例示用の薬剤供給システム100を描いている。薬剤供給システム100は、薬剤供給装置102を含む。薬剤供給装置102は、ユーザ108の身体上において装用されるウェアラブル装置であってよい。薬剤供給装置102は、ユーザに直接的に結合することができる(例えば、接着剤又はこれに類似したものを介してユーザ108の身体部分及び/又は皮膚に直接的に装着されている)。一例において、薬剤供給装置102の表面は、ユーザ108に対する装着を促進するように接着剤を含み得る。
【0020】
薬剤供給装置102は、コントローラ110を含むことができる。コントローラ110は、ハードウェア、ソフトウェア、又はこれらの任意の組合せにおいて実装することができる。コントローラ110は、例えば、マイクロプロセッサ、論理回路、フィールドプログラム可能なゲートアレイ(FPGA)、用途固有の集積回路(ASIC)、又はメモリに結合されたマイクロコントローラであってよい。コントローラ110は、日付及び時刻のみならず、その他の機能(例えば、計算又はこれに類似したもの)を維持することができる。コントローラ110は、薬剤供給装置102の動作を制御するための制御システムをコントローラ110が実装することを可能にするストレージ114内において保存されている制御アプリケーション116を実行するように動作自在であってよい。制御アプリケーション116は、本明細書において記述されているように、ユーザ108への薬剤供給を制御することができる。ストレージ114は、自動化された薬剤供給の履歴、ボーラス薬剤供給の履歴、食事イベント履歴、エクササイズイベント履歴、センサデータ、及びこれらに類似したものなどのユーザ用の履歴111を保持することができる。これに加えて、コントローラ110は、データ又は情報を受け取るように動作自在であってよい。ストレージ114は、プライマリメモリとセカンダリメモリの両方を含み得る。ストレージ114は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、光ストレージ、磁気ストレージ、着脱自在のストレージ媒体、半導体ストレージ、又はこれらに類似したものを含み得る。
【0021】
薬剤供給装置102は、当然のことながら、ユーザ108に供給される薬剤を保存するためのリザーバ112を含み得る。ユーザ108への流体経路を提供することができると共に、薬剤供給装置102は、薬剤を流体経路を介してユーザ108に供給するようにリザーバ112から薬剤を放出することができる。流体経路は、例えば、薬剤供給装置102をユーザ108に結合するチューブ(例えば、カニューレをリザーバ112に結合するチューブ)を含み得る。
【0022】
例えば、ユーザ及び/又はユーザの介護者の管理装置104及び/又はセンサ106を含む薬剤供給装置102から物理的に分離された1つ又は複数の装置との間には1つ又は複数の通信リンクが存在し得る。通信リンクは、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi、近距離通信規格、セルラー規格、又は任意のその他の無線プロトコルなどの任意の既知の通信プロトコル又は規格に従って稼働する任意の有線又は無線通信リンクを含み得る。また、薬剤供給装置102は、情報をユーザ108に表示するための且ついくつかの実施形態においてはユーザ108から情報を受け取るための統合された表示装置などのユーザインターフェイス117を含むこともできる。ユーザインターフェイス117は、タッチスクリーン及び/又はボタン、ノブ、又はキーボードなどの1つ又は複数の入力装置を含み得る。
【0023】
薬剤供給装置102は、ネットワーク122とインターフェイスすることができる。ネットワーク122は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、又はこれらの組合せを含み得る。演算装置126は、ネットワークとインターフェイスさせることができると共に、演算装置は、インスリン供給装置102と通信することができる。
【0024】
薬剤供給システム100は、1つ又は複数の検体のレベルを検知するための1つ又は複数のセンサ106を含むことができる。1つ又は複数のセンサ106は、例えば、接着剤又はこれに類似したものによってユーザ108に結合することができると共に、ユーザ108の1つ又は複数の医療状態及び/又は物理属性に関する情報又はデータを提供することができる。1つ又は複数のセンサ106は、いくつかの例示用の実施形態においては、定期的な血糖濃度計測値を提供することができると共に、継続的なグルコースモニタ(CGM)又は血糖計測値を提供する別のタイプの装置又はセンサであってよい。1つ又は複数のセンサ106は、薬剤供給装置102とは物理的に別個のものであってもよく又はその統合された要素であってもよい。1つ又は複数のセンサ106は、ユーザ108の1つ又は複数の計測値又は検出された検体レベルを通知するデータをコントローラ110に提供することができる。1つ又は複数のセンサ106によって提供された情報又はデータは、薬剤供給装置102の薬剤供給動作を調節するために使用することができる。
【0025】
また、薬剤供給システム100は、管理装置104を含むこともできる。いくつかの実施形態においては、管理装置104が必要とされてはおらず、むしろ、薬剤供給装置102がそれ自体を管理することができる。管理装置104は、専用のパーソナル糖尿病マネージャ(PDM)装置などの特殊目的装置であってよい。管理装置104は、例えば、プロセッサ、マイクロコントローラ、又はこれらに類似したものなどの専用のコントローラを含む任意の携帯型電子装置などのプログラミングされた汎用装置であってよい。管理装置104は、薬剤供給装置102及び/又はセンサ104の動作をプログラミング又は調節するために使用することができる。管理装置104は、例えば、専用の装置、スマートフォン、スマートウォッチ、又はタブレットを含む任意の携帯型電子装置であってよい。描かれている例においては、管理装置104は、プロセッサ119と、ストレージ118と、を含み得る。プロセッサ119は、ユーザ108に対する薬剤の供給を管理及び制御するためのプロセスを実行することができる。また、プロセッサ119は、ストレージ118内において保存されているプログラミングコードを実行するように動作自在であってよい。例えば、ストレージは、プロセッサ119による実行のために1つ又は複数の制御アプリケーション120を保存するように動作自在であってよい。1つ又は複数の制御アプリケーション120(或いは、116)は、例えば、ユーザ108に対するインスリンの供給などのような薬剤供給装置102を制御するための責任を担うことができる。ストレージ118は、1つ又は複数の制御アプリケーション120、薬剤供給装置102について上述されているもののような履歴121及びその他のデータ及び/又はプログラムを保存することができる。
【0026】
管理装置104は、ユーザ108との通信するためのユーザインターフェイス(UI)123を含み得る。ユーザインターフェイス123は、情報を表示するために、タッチスクリーンなどのディスプレイを含むことができる。また、タッチスクリーンは、タッチスクリーンである際には、入力を受け取るために使用することができる。また、ユーザインターフェイス123は、キーボード、ボタン、1つ又は複数のノブ、又はこれらに類似したものなどの入力要素を含むこともできる。ユーザインターフェイス123は、基礎薬剤投薬量の変化を生成する、薬剤のボーラスを供給する、又は制御アプリケーション116/120によって使用される1つ又は複数のパラメータを変更する、などを目的として、データ又は履歴を検討するために又は入力を提供するために使用することができる。
【0027】
管理装置104は、LAN又はWAN、或いは、このようなネットワークの組合せなどのネットワーク124とインターフェイスすることができる。管理装置104は、ネットワーク124上において1つ又は複数のサーバー又はクラウドサービス128と通信することができる。
【0028】
スマートウォッチ130、フィットネスモニタ132、及び/又は別のウェアラブル装置134のようなその他の装置は、薬剤供給システム100の一部分を構成し得る。これらの装置は、薬剤供給装置102との間において情報を受け取るために且つ/又はコマンドを発行するために薬剤供給装置102と通信することができる。これらの装置130、132、及び134は、さもなければコントローラ110又はプロセッサ119によって実行される制御機能のいくつかを実行するためにコンピュータプログラミング命令を実行することができる。これらの装置130、132、及び134は、例えば、現時点の血糖レベルのような検体レベル、充填状態の薬剤、薬剤供給履歴、などのような情報を表示するためのディスプレイを含み得る。ディスプレイは、例えば、基礎薬剤投薬量の変化、薬剤のボーラスの供給、又は制御アプリケーション116/120によって使用される1つ又は複数のパラメータの変更を実現するように、入力を提供するためのユーザインターフェイスを表示することができる。また、これらの装置130、132、及び134は、検体データを直接的に受け取るために、センサ106との間において通信接続を有することもできる。
【0029】
例示用の実施形態の制御システムは、上述のようにコスト関数に依存している。制御システムは、可能な候補薬剤投薬量の広い範囲にわたってコスト関数の総ペナルティを極小化するように試みている。
図2は、例示用の実施形態においてユーザに供給される次の投薬量を選択する際に実行され得る例示用のステップのフローチャート200を描いている。202において、制御システムは、投薬量がそれから選択され得る候補投薬量を選択している。204において、コスト関数を使用することにより、それぞれの候補投薬量ごとに、コストが算出されている。コスト関数は、入力として候補投薬量を有し、且つ、出力として候補投薬量用のコストを有する。206において、最良のコストを有する候補投薬量が選択されている。コスト関数が構成されている方式に応じて、最良のコストは、最小の値又は最大の値であってよい。以下における説明を目的としては、最小コストの候補投薬量が最良のコストであるものと仮定されている。208において、選択された投薬量がユーザに供給されている。選択された薬剤投薬量をポンプ113がユーザに供給するようにするために、制御信号を生成することができると共に、制御アプリケーション116を稼働させているコントローラ110からポンプ113に送信することができる。その後に、別の後続のサイクルについて(例えば、5分ごとに)プロセス200を反復することができる。
【0030】
例示用の実施形態が薬剤供給装置用のコスト関数を変更している方式について理解するには、薬剤装置用の従来のコスト関数を観察することが有用である。薬剤供給装置用のコスト関数の一例は、インスリン供給装置用のコスト関数である。インスリン供給装置用の従来のコスト関数は、次式のとおりであり、
【数1】
ここで、Jは、コストであり、Q及びRは、重み係数であり、G
p(i)
2は、サイクルiにおける特定の(例えば、候補である)インスリン投薬量用の計画されている血糖濃度と標準基礎インスリン投薬量用の計画されている血糖濃度の間の逸脱の二乗であり、Mは、予測区間内のサイクルの数であり(1サイクルは、5分などの固定されたインターバルである)、I
p(i)
2は、サイクルiにおいて供給された計画されているインスリンと基礎インスリン供給用の標準インスリンの間の逸脱の二乗であり、nは、サイクルにおける制御区間である。
【0031】
図3は、式1において詳述されているものなどのコスト関数を算出するために実行され得る例示用のステップのフローチャート300を描いている。302において、薬剤コスト要素が算出されている。このコスト例の従来のコスト関数の場合には、パフォーマンスコスト要素は、
【数2】
という式であり、これは、グルコースコスト要素である。パフォーマンスコスト要素は、ターゲットパフォーマンスからの逸脱においてコストをキャプチャしている。インスリン供給の場合には、ターゲットパフォーマンスは、ターゲット血糖濃度との関係において計測されている。304において、薬剤コスト要素が算出されている。薬剤コスト要素は、標準基礎投薬量などの基準薬剤投薬量からの逸脱のペナルティをキャプチャしている。この従来のコスト関数においては、薬剤コストは、
【数3】
という式であり、これは、重み付けされたインスリンコストである。306において、合計コストJが、パフォーマンスコスト要素と薬剤コスト要素の合計として算出されている。
【0032】
従来の薬剤供給装置用のコスト関数は、薬剤コスト関数を線形コスト又は二次コストとして規定する傾向を有する。換言すれば、薬剤コスト関数は、線形表現として又は二次表現として表現されている。上述の従来のコスト関数は、二次薬剤コスト要素を有し、その理由は、
【数4】
が二次表現であるからである。
図4は、線形薬剤コスト要素及び二次薬剤コスト要素用の薬剤の要求されている投薬量(即ち、候補投薬量)との対比においてコスト関数の薬剤コスト要素の値(y軸を参照されたい)のプロット400を描いている。プロット400においては、線形薬剤コスト要素が曲線402によって表され、且つ、二次薬剤コスト要素が曲線404によって表されている。線形薬剤コスト要素402は、線形方式で(即ち、ラインに沿って)スケーリングする線形フォーミュレーションを有する。二次薬剤コスト要素404は、二次的な方式でスケーリングする二次フォーミュレーションを有する。
図4の例においては、標準基礎投薬量は、0.1単位のインスリン/時間である。線形薬剤コスト要素によれば、曲線402は、標準基礎投薬量に等しい要求されている投薬量における薬剤コスト要素用のゼロペナルティ又はコストに対して、インスリンが要求されていない際には、ペナルティ又はコストが0.02(y軸)から線形で減少することを示している。ペナルティは、コストが標準基礎投薬量を中心として対称的になるように、標準基礎投薬量の上方において又は下方において増大する投薬量について線形で増大している。二次薬剤コスト要素の場合には、ペナルティ又はコストは、インスリンが要求されていない際に0.01(y軸)において開始し、且つ、標準基礎投薬量に等しい投薬量に到達する時点まで二次方式で(即ち、パラボラ状に)減少している。ペナルティ又はコストは、コストが標準基礎投薬量を中心として対称的になるように、標準基礎投薬量における投薬量について二次方式で増大している。二次薬剤コスト要素用のペナルティの増大のレートは、この例においては、0.3U/hという要求されている投薬量において始まることにより、二次薬剤コスト要素に伴う要求されている投薬量用のペナルティが線形薬剤コスト要素のものを超過するように、相対的に大きな投薬量において線形薬剤コスト要素のものを超過している。
【0033】
図4から観察され得るように、従来の線形薬剤コスト要素及び従来の二次薬剤要素の両方によれば、標準基礎投薬量の下方においてインスリン投薬量の供給についてのペナルティが存在している。後述する且つ後続の図における例示用の実施形態は、このようなペナルティが望ましくない場合があることを認識している。上述のように、このようなペナルティは、標準基礎投薬量の下方におけるインスリン投薬量の供給を抑制している。従って、いくつかの例示用の実施形態によれば、薬剤コスト要素は、標準基礎投薬量(即ち、上述の基準投薬量)未満の要求されている投薬量の場合には、ゼロである又は実質的にゼロである(即ち、わずかにゼロ超であるが依然として無視可能である)。この薬剤コスト要素のフォーミュレーションは、予測されているパフォーマンスメトリックを設定点に変更するために、必要とされるだけ、制御システムが薬剤供給を自由に低減することを許容している。この制御方式は、標準基礎投薬量との関係における薬剤供給の増大についての補償を維持しつつ、薬剤供給の低減において相対的に積極的であり得る。
【0034】
図5は、コスト関数に伴ってゼロコストを実現するために例示用の実施形態において実行され得る例示用のステップのフローチャート500を描いている。502において、候補投薬量が、標準基礎投薬量未満であるなどのように、閾値未満であるかどうかのチェックが実施されている。504において、候補投薬量が閾値未満である場合には、薬剤コスト要素がゼロとして又は実質的にゼロである値において設定されている。506において、候補投薬量が閾値以上である場合には、コスト関数において規定されているフォーミュレーションを使用することにより、薬剤コスト要素が算出されている。
【0035】
インスリン供給用の閾値又は標準基礎投薬量未満のゼロコスト薬剤コスト要素値を提供するコスト関数の例示用のフォーミュレーションは、次式であり、
【数5】
ここで、I
rは、要求されているインスリンの投薬量(即ち、候補投薬量)であり、且つ、I
bは、基礎投薬量である。いくつかの例示用の実施形態においては、薬剤コスト要素について、0の代わりに実質的に0に等しい値を使用することができる。
【0036】
薬剤コスト要素がそれ未満においてはゼロ又は実質的にゼロである閾値として使用されている基準値は、標準基礎投薬量以外の値であってもよい。しばしば、ユーザは、標準基礎フォーミュレーションよりも大きな薬剤ニーズを有し得る。従って、標準基礎投薬量において供給を固定することにより、血糖ターゲット超における持続的な低レベルのパフォーマンスの逸脱を取り除くことはできない。従って、いくつかの例示用の実施形態は、血糖ターゲット超における平均の正のパフォーマンスの逸脱に基づいて閾値を設定することができる。これは、ペナルティを伴うことなしに正のパフォーマンスの逸脱を低減するために、薬剤の標準基礎投薬量よりも大きな供給を可能にしている。
【0037】
標準基礎投薬量よりも大きな適合可能な閾値の用途の1つは、インスリン供給装置用のものである。このような用途においては、閾値は、
図6のフローチャート600において示されているように算出することができる。602において、ターゲット血糖濃度に対する所定の期間におけるユーザの平均血糖濃度の比率が算出されている。この比率は、ユーザの平均血糖濃度がターゲット血糖濃度を超過している程度を反映している。604において、閾値を判定するために、基礎投薬量が比率によって乗算されている。
【0038】
平均のグルコースの逸脱に基づいた変更された閾値を有するコスト関数は、次式として表現され得るが、
【数6】
ここで、G
tは、平均血糖濃度ターゲットである。閾値は、(G
mean/G
t)・I
bである。
【数7】
の値は、閾値未満の値の場合には、I
bであることから、インスリンコスト要素R・I
p(i)は、0であり、その理由は、I
p(i)がI
b-I
b、即ち、0、であるからである。
【0039】
この代わりに、閾値は、ユーザの実際の基礎/TDIの食い違いの基準値に基づいて設定することもできる。従来、ユーザ用の基礎量は、ユーザTDIの半分として設定されている。残念ながら、この経験則は、いくつかのユーザの場合には良好に機能していない。このようなユーザに対処するために、例示用の実施形態は、ユーザの実際の基礎/TDI比率に基づいて閾値を判定することができる。
図7は、このような閾値を判定するために実行され得るステップのフローチャート700を描いている。702において、ユーザ用のTDIの半分に対する所定の期間(例えば、1日)にわたるユーザ用の平均基礎投薬量の比率が判定されている。ユーザが通常を上回るインスリンニーズ(即ち、ベーサル超)を有する場合には、比率は、1超となる。704において、閾値基準値を判定するために、ユーザ用の標準基礎投薬量(即ち0.5TDI)が比率によって乗算されている。これは、閾値が基礎投薬量を超過することを可能にしており、この場合に、平均の実際の基礎投薬量は、標準基礎投薬量超である。
【0040】
コスト関数のフォーミュレーションは、上述のように、平均のグルコースの逸脱について記述されているようなものであってよいが、
【数8】
は、以下のように、異なる方式でフォーミュレートされてもよく、
【数9】
ここで、I
btotalは、所定のインターバルにわたる合計基礎インスリンであり、且つ、I
bactual(i)は、サイクルiにおける実際の基礎インスリンである。
【0041】
コスト関数における薬剤コスト要素が、ユーザの薬剤ニーズに適するように異なる範囲の間において非対称になることが望ましい場合がある。換言すれば、薬剤コスト要素は、異なる範囲においては、異なる方式でスケーリングし得る。
図8Aは、異なるスケーリングが薬剤候補投薬量の異なる範囲について使用されている例のフローチャート800を描いている。この例においては、802において、薬剤コスト要素は、第1閾値未満のゼロコストを有する。
図8Bのプロット820には、この例が示されている。プロット820は、
図4において描かれているもののように、線形スケーリングを有する曲線822と、二次スケーリングを有する曲線824と、を示している。曲線825は、候補投薬量の範囲にわたる薬剤コスト要素を表しており、この場合に、スケーリングは、異なる基礎投薬量レートにおいて変化している。0.1U/hという要求されているインスリン供給の前の曲線の領域826は、
図5との関係において上述したように、0であるフラットな一定の値を有する。804において、曲線825のスケーリングは、0.1U/hから0.3U/hまで延在する領域828において二次スケーリングに変化している。この領域828は、ユーザの血糖濃度がターゲットの近傍であり且つ要求されているインスリン投薬量が基礎投薬量をわずかに超過している際の要求されている投薬量の範囲を表している。この領域828については、二次スケーリングが良好に適しており、この場合に、インスリンレベルは、上昇しているが、低血糖症の発症に対する脅威を課すほどには大きく上昇していない。但し、候補投薬量が0.3U/hを超過するのに伴って、二次スケーリングは、過剰に積極的なものになり得ると共に、低血糖症のリスクを増大させ得る。従って、806において、スケーリングが低減されている。具体的には、インスリンコスト要素は、要求されているインスリン投薬量が領域830内において第2閾値(例えば、0.3U/h)超である際には、線形スケーリングを有する。この結果、過大なインスリンの投薬量の供給に起因した低血糖症のリスクが低減されている。
【0042】
上述の例は、薬剤コスト要素及びコスト関数が、入力の異なる範囲(即ち、薬剤投薬量)にわたって変更され得ることを示している。更に一般的には、例示用の実施形態は、薬剤コスト要素についての非対称性を有するコスト関数を使用し得ることに留意されたい。
図9は、範囲にわたって非対称性を提供するように実行され得る例示用のステップのフローチャート900を描いている。902において、薬剤の候補投薬量の範囲が識別されている。904において、表現がそれぞれの範囲ごとに薬剤コスト要素について割り当てられており、それぞれの範囲ごとのコストのフォーミュレーションが割り当てられており、或いは、別個のコスト関数がそれぞれの範囲ごとに割り当てられている。この割当は、候補投薬量の範囲にわたる非対称性を提供している。この非対称性は、制御システムがユーザのニーズに対して薬剤コスト要素を相対的に良好にカスタマイズすることを可能にしている。
【0043】
本明細書における説明は、例示用の実施形態に合焦しているが、形態及び詳細の様々な変更が、本明細書に添付されている請求項の意図されている範囲からの逸脱を伴うことなしに、例示用の実施形態との関係において実施され得ることを理解されたい。
【国際調査報告】