(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】耐孔食性マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20240305BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240305BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20240305BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C21D9/00 N
C22C38/00 302Z
C22C38/52
F01D25/00 X
F01D25/00 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023555430
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 US2022070930
(87)【国際公開番号】W WO2022192839
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(72)【発明者】
【氏名】マイカ、セオドア フランシス
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042CA04
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA16
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DE01
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】産業用ガスタービン翼形部としての使用に適しかつ耐孔食性の向上したステンレス鋼合金を提供する。【解決手段】鍛造マルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金は、Cr約12.0~16.0重量%、Co16.0超~約20.0重量%、Mo約6.0~約8.0重量%、Ni約1.0~約3.0重量%、C約0.020~約0.040重量%、残部のFe及び不可避不純物を含む。本合金のミクロ組織は、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まない。その製造方法は、上記合金の鍛造プリフォームを準備し、プリフォームを溶体化温度に加熱して溶体化ミクロ組織を形成し、プリフォームを液体で室温に冷却し、プリフォームを極低温液体に浸漬してミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させ、焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な時間プリフォームを600°F未満の温度に加熱することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金を製造する方法(100)であって、
約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを準備する工程であって、前記合金が、ミクロ組織の2体積%以下の残留オーステナイト相を含むミクロ組織を有する、工程(110)と、
前記鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する工程(120)と、
前記鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を液体で室温に冷却する工程(130)と、
次いで、ミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させるため、前記鍛造プリフォームを極低温液体中に浸漬する工程(140)と、
前記鍛造プリフォームを600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な焼戻し時間、加熱する工程(150)と、
焼戻し鍛造プリフォームを室温に冷却する工程(160)と
を含む方法。
【請求項2】
前記溶体化温度が約2000~約2100°Fであり、時間が約1~約3時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却工程(130)における液体が油又は水を含み、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織が液体に浸漬される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記浸漬工程(140)における極低温液体が液体窒素又は液体ヘリウムを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記焼戻し時間が約3時間~約6時間である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記焼戻し鍛造プリフォームがタービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記合金が、ラーベス相、カイ相又はデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記合金がシグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金であって、当該合金が、
約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、
16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、
約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、
約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、
約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、
残部の鉄及び不可避不純物を含んでおり、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する、合金。
【請求項10】
当該合金がシグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、請求項9に記載の合金。
【請求項11】
当該合金が、ラーベス相、カイ相及びデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、請求項9又は請求項10に記載の合金。
【請求項12】
鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金であって、当該合金が、
約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、
16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、
約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、
約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、
約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、
残部の鉄及び不可避不純物を含んでおり、シグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、合金。
【請求項13】
当該合金が、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する、請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の合金。
【請求項14】
当該合金が、ラーベス相、カイ相及びデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、請求項9乃至請求項13のいずれか1項に記載の合金。
【請求項15】
当該合金がタービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む、請求項9乃至請求項14のいずれか1項に記載の合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願で開示する発明は、一般に、耐食性ステンレス鋼に関する。特に、タービンの回転部品に適したものを始めとする耐孔食性マルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの回転部品、特に動翼及び静翼を始めとする前段圧縮機翼形部に用いられる金属合金は、これらの機械に所要の動作特性をもたらすため、高強度、靭性、耐疲労性その他の物理的及び機械的特性の組合せを有していなければならない。さらに、用いられる合金は、塩化物、硫酸塩、窒化物その他の腐食性種を始めとする様々な化学種のような各種イオン反応種への暴露を始めとする、タービンの極端な運転環境のために、様々な形態の腐食及び腐食メカニズム、特に孔食に対して十分な耐性を有していなければならない。腐食は、タービンの運転に付随する周期的な熱及び応力の下で伝播する表面亀裂の開始によって、高サイクル疲労強度のような他の必要とされる物理的及び機械的特性を低下させてしまうおそれがある。
【0003】
現在、沿岸の産業用発電所のような過酷な海洋/産業環境で2~3年以上耐えるのに十分な孔食耐性をもつ高張力鋼は存在しない。450及び450+ステンレス鋼のような粒界攻撃に対する耐性を始めとする数多くの有利な耐腐食特性を有することが知られている合金であっても、依然として孔食メカニズムの影響を受けやすい。これらのマルテンサイト系ステンレス鋼は、蒸気及びガスタービン回転部品での使用に適した耐食性、機械的強度及び破壊靭性特性の組合せをもたらしてきたが、これらの合金は依然として孔食現象を受け易いことが知られている。例えば、産業用ガスタービンの前段圧縮機に用いられるようなステンレス鋼製翼形部は、翼形部の表面、特に前縁表面で孔食を受けやすいことが判明した。理論に束縛されるものではないが、孔食は、翼形部表面に空気で運ばれる堆積物、特に堆積物に存在する腐食性化学種及び吸気に由来する水分で活性化される様々な電気化学反応プロセスに関連していると考えられる。翼形部表面で電気化学的に惹起される孔食現象は、これらの部品が受ける周期的な熱及び作動応力のため、翼形部の割れを生じかねない。高レベルの水分は、海その他の水域の近くにある施設などの高水分環境下での使用、並びに圧縮機の効率を高めるためのオンライン水洗浄、フォギング、蒸発冷却又はそれらの種々の組合せなど、様々な発生源から発生し得る。タービンは、吸気中に各種の化学種が含まれることがある化学及び石油化学プラントの近く、吸気中に各種の海塩が存在することがある海岸線その他の塩水環境、或いはそれらの組合せ、或いは入口空気に腐食性の化学種が含まれる他の用途など、非常に腐食性の高い環境に設置されることが多いので、腐食性汚染物質はタービンの運転環境で普通に発生する。
【0004】
以上の観点から、上述の運転環境でタービン翼形部、特に産業用ガスタービン翼形部としての使用に適していてかつ耐孔食性の向上したステンレス鋼合金があれば非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/081068号明細書
【発明の概要】
【0006】
一態様では、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金の製造方法を提供する。本方法は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを準備する工程を含む。合金は、ミクロ組織の2体積%未満又は2%以下の残留オーステナイト相を含むミクロ構造を有する。加熱工程で、鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する。冷却工程で、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を液体で室温に冷却し、次いで、浸漬工程で、ミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させるため、鍛造プリフォームを極低温液体中に浸漬する。加熱工程は、鍛造プリフォームを600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な焼き戻し時間、加熱する。冷却工程で、焼戻し鍛造プリフォームを室温に冷却する。
【0007】
別の態様では、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金の製造方法を提供する。本方法は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを準備する工程を含む。合金は、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する。加熱工程で、鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する。冷却工程で、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を液体で室温に冷却するが、液体は油である。鍛造プリフォームを油に浸漬し、次いで、浸漬工程で、ミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させるため、鍛造プリフォームを極低温液体中に浸漬する。極低温液体は、液体窒素又は液体ヘリウムであり、-300°F未満の温度である。第2の加熱工程で、鍛造プリフォームを600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な焼き戻し時間、加熱する。第2の冷却工程で、焼戻し鍛造プリフォームを室温に冷却する。
【0008】
さらに別の態様では、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む。合金は、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する。合金は、シグマ(σ)相を実質的に含まないミクロ組織を有する。合金は、ラーベス(Laves)相、カイ(χ)相及びデルタ(δ)フェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する。合金は、タービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームであってもよい。
【0009】
別の態様では、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む。合金は、シグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する。
【0010】
上記その他の利点及び特徴については、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明とみなされる技術的内容は、本明細書の最後の特許請求の範囲で特定し明瞭に記載する。本願に記載された態様の上記その他の特徴及び利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照すると明らかである。
【
図1】本願で開示するマルテンサイト系ステンレス合金の製造方法の一実施形態のフローチャート。
【0012】
以下の詳細な説明では、例示のため、様々な実施形態について、図面を参照しながら、利点及び特徴と共に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述のような孔食は、現在、供用中の前段圧縮機翼形部で観察されている。本願に記載する耐孔食性マルテンサイト系ステンレス鋼合金及び方法は、耐食性及び耐孔食性の鉄基材料を提供するが、これは、前段タービン圧縮機翼形部を始めとする上述のような孔食現象を受けやすい数多くの重構造舶及び産業用途にとって、サービスの信頼性、メンテナンスの懸念及びコストの削減、並びに翼形部の故障による予定外のダウンタイムの回避の観点から、格段の改善である。本願に記載のステンレス鋼合金は、特にGTD-450及びGTD-450+ステンレス鋼よりも耐孔食性が高い。タービンの出力を置き換えるための購入電力のコスト、並びに翼形部の修理又は交換を行うためのタービンの解体のメンテナンスコスト、翼形部自体の修理又は交換のコストを始めとする、産業用ガスタービンのダウンタイムに付随する多大な運用コストのため、合金の耐孔食性の向上及びそれらの製造方法には多大な商業的価値がある。耐孔食性鉄基合金及びそれらの製造方法の追加の利点は、孔食保護のために別個のコーティングの追加の必要がないことである。本願に記載のステンレス鋼合金は、鍛造、特にタービン翼形部品の鍛造用に特別に構成されており、よく適している。
【0014】
例示的な実施形態では、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む。さらに具体的には、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約13.5重量%~約14.5重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約6.5重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.30重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む。さらに一段と具体的には、鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約14重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.025重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む。ステンレス鋼合金組成物は、本願に記載の熱処理によってマルテンサイトミクロ組織をもたらすように選択及び構成される。ステンレス鋼合金組成は、約150ksiの最小引張強さ、6%超のモリブデン含有量及び約31.8超の孔食指数(PREN;pitting resistance equivalent number)を有するマルテンサイト系ステンレス鋼合金をもたらすように選択及び構成される。本願で開示するステンレス鋼合金は、組成化学と熱処理の組合せによってこれらの腐食及び強度特性を達成する。例えば、本願で開示するステンレス鋼合金は、孔食に対して卓越した耐性を示し、産業用ガスタービン用の動翼及び静翼を始めとする初期段タービン圧縮機翼形部(例えば第1段~第5段)としての用途に適した高い強度及び破壊靭性をもたらすように熱処理し得る。別の態様では、本願に記載のステンレス鋼合金は、主にマルテンサイトミクロ組織の発達及びマルテンサイト反応に伴う固溶強化によって強度を得ると同時に、残留オーステナイトの量を低減又は最小限に抑制し、デルタフェライトを実質的に含んでおらず、ある実施形態ではデルタフェライトを全く含まない。多量の残留オーステナイト(例えば2%超)は耐食性に有害であることが証明されており、2%の上限(すなわち、2%未満又は2%以下の残留オーステナイト)が好ましい。
【0015】
孔食指数は、合金化学に基づいてステンレス鋼合金の耐孔食性(PREN)を比較するための指針を与える。PRENが高いほど孔食に対する耐性は高まるが、合金を適切に熱処理する能力が損なわれるまでに値をどの程度まで高めることができるかについては実際的な限界がある。PRENは、以下の式1を用いて計算することができる。
PREN=(%Cr)+3.3(%Mo)+16(%N) (1)
本願に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約31.8超のPRENを有し、特に約33.3を超える。一実施形態では、PRENは、約31.8超~約42.4であり、特に約33.3~約36.0である。
【0016】
本願で開示するステンレス鋼合金は、Cr、Mo、Co、Ni及びCを含む5種類の合金成分を含む鉄基合金として説明することができる。他のすべての元素は、ステンレス鋼の製造に随伴する不純物であり、重量%で、例えば、Mn(0.25以下)、Al(0.03以下)、V(0.10以下)、Si(0.25以下)、S(0.005以下)又はP(0.02以下)を含んでいることがあり、ロット間での特性及びミクロ組織の一貫性を確保するため、本明細書に記載された最大規定レベル未満に保たれる。上述の範囲内でバランスをとると、開示されたステンレス鋼合金は、耐孔食性と併せて望ましい強度及び破壊靭性レベルを有するマルテンサイトミクロ組織をもたらす。
【0017】
上述の通り、Cr(クロム)は必須成分であり、合金表面に酸化クロムの不動態皮膜を形成するのに十分な量で存在する。一実施形態では、Crは、約11.5重量%以上の量で存在する。別の実施形態では、Crは、約12~約16重量%、さらに具体的には約13.5~約14.5重量%、さらに一段と具体的には約14重量%の量で存在する。
【0018】
式1に示すように、Mo(モリブデン)は、ステンレス鋼の耐孔食性に対してCrよりも大きな影響をもつ。一実施形態では、Moは、約6.0~約8.0重量%、さらに具体的には約6.0~約6.5重量%、さらに一段と具体的には約6重量%の量で存在する。海洋の塩化物環境での孔食に対する十分な耐性を確保するには、約6重量%以上が必要である。研究の結果、Moはステンレス鋼の再不動態化能力を高めることが判明した。従来の高Mo含有量ステンレス鋼は、通例、フェライトグレードであるか或いは高Ni(ニッケル)レベルのオーステナイトグレードのいずれかである。ここで検討してきたマルテンサイト系高Mo含有量ステンレス鋼グレードは、一般に、高温焼戻し材料に存在する超高強度機能を活用することに焦点を当てたものであり、高い作動温度で使用するため、1100°Fのような高い焼戻し温度で設計及び熱処理される。しかし、これらの材料では、高い焼戻し温度では、Moリッチ及びCrリッチ金属間化合物相の析出及び形成により、耐食性元素であるMo及びCr母相(マトリックス)が枯渇するため、耐食性及び靭性が犠牲になる。高い焼戻し温度では、これらの金属間化合物の形成によって二次硬化効果も生じる。これらの金属間化合物相には、ラーベス相(Fe2Mo)、Fe7Mo6、FeMo、シグマ相(Fe-Cr-Mo)及び複雑なBCCカイ相(Fe-Cr-Mo)が含まれる。シグマ相は焼入れ及び焼戻しの際に形成される可能性があり、望ましくない微量成分である。コバルトはこれらの析出反応に関連した相には関与しない。これらの金属間化合物相は、合金の靭性も劇的に低下させる。したがって、本願に記載のマルテンサイト系ステンレス合金は、これらの金属間化合物相の析出を回避するために本明細書に記載されるような低い焼戻し温度で焼戻しされる。焼戻し合金は、中程度の強度及び良好な靭性を備えた耐食性が重要とされる比較的低温用途での使用に適している。本願に記載のマルテンサイト系ステンレス合金は、高Mo添加量を硬度対焼戻し温度曲線の低い焼戻し温度領域と調和させて、金属間化合物相の形成を回避し、高いレベルの靭性を維持するためMo及びCrを固溶体中に保つ。一実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金のミクロ組織は、ラーベス相を実質的に含んでおらず、ある実施形態では、ラーベス相を全く含まない。別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金のミクロ組織は、カイ相を実質的に含んでおらず、ある実施形態ではカイ相を全く含まない。さらに別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金のミクロ組織は、デルタフェライト相を実質的に含んでおらず、ある実施形態ではデルタフェライト相を全く含まない。別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金のミクロ組織は、シグマ相を実質的に含んでおらず、ある実施形態ではシグマ相を全く含まない。さらに別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金のミクロ組織は、ラーベス相、カイ相、デルタフェライト相及びシグマ相を実質的に含んでおらず、ある実施形態では、ラーベス相、カイ相、デルタフェライト相及びシグマ相を全く含まない。
【0019】
式1から分かるように、NはPRENに大きな影響を与え、特許請求の範囲に記載のステンレス鋼材料に適宜含まれていてもよい。しかし、Nは真空溶融材料中に大量に添加するのが難しい。さらに、Nは、合金ミクロ組織中のCrと結合してクロム窒化物を形成するおそれがあるが、これは、特に腐食性化学種と接触する可能性のある合金表面で、ミクロ組織中のクロムの局所的な枯渇によって、ステンレス鋼材料を脆化及び増感させてしまうおそれがある。そこで、存在する場合、Nは、一般に0.02重量%以下、さらに具体的には約0.001~約0.02重量%の量で存在する。
【0020】
マルテンサイト変態からマルテンサイトミクロ組織を発達させるには、高温のオーステナイトミクロ組織が必要とされる。そこで、特許請求の範囲に記載のステンレス鋼合金の組成は、オーステナイトを含む高温ミクロ組織を有することになる。Cr及びMoはいずれもフェライト安定剤であるので、状態図のバランスを取り、かつマルテンサイト熱処理を促進してマルテンサイトミクロ組織をもたらすために高温オーステナイト相を発達させると同時に、所定の最大量の残留オーステナイトを発達させデルタフェライトを実質的に含まないようにするため、オーステナイト形成剤が必要とされる。なお、ある態様ではデルタフェライトを全く含まない。本合金では残留オーステナイトは望ましくなく、最大2%未満に保つ必要がある。Coはオーステナイトを安定化させるために選択した。一実施形態では、Coは、約16.0~約20.0重量%、さらに具体的には約16.5~約20.0重量%、さらに一段と具体的には約16.5~約18.0重量%の量で存在する。オーステナイト安定剤として、コバルトは熱処理プロセスにおける温度及び/又は時間許容度に対して十分に大きなオーステナイト相域を与える。さらに、マルテンサイト開始(MS)温度に対するCoの影響はNiほど顕著ではない。標準的な焼入れ及び焼戻しプロトコルは、本願に記載の合金には十分ではない。従来の焼入れ作業後に残留するオーステナイトをマルテンサイトに変態させるには、-300°F未満の温度への極低温液体(液体窒素又は液体ヘリウムなど)での極低温処理が必要とされる。この極低温操作は、焼入れプロセスと焼戻しプロセスの間に行われる。
【0021】
Niは必須成分であり、オーステナイトを安定化させるのに十分な量で存在する。Niはオーステナイト安定剤であり、これらの合金中の残留オーステナイトの量を増加させる。そこで、Niの量は、合金ミクロ組織中に所定の最大量の残留オーステナイト相をもたらすように制御すべきである。一実施形態では、残留オーステナイト相の所定の最大量は合金ミクロ組織の2体積%以下(つまり0~2体積%)をなす。他の実施形態では、所定量の残留オーステナイト相は、合金ミクロ組織の約0~1.5体積%、0.5~2体積%又は0.5~1.5体積%をなす。一実施形態では、Niの量は、約1.0~約3.0重量%、さらに具体的には、約1.0~約2.0重量%、さらに一段と具体的には約1.0~約1.5重量%である。所定の最大残留オーステナイト量は、特許請求の範囲に記載の合金の破壊靭性を向上させる。NiはMS温度を格段に低下させ、本願で開示した量は、本願で開示する熱処理温度及び時間に適合するMS温度をもたらし、所望のマルテンサイト組織を与えると同時に、所望量の残留オーステナイトを促進する。本明細書に記載の量のNiは、本明細書に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼合金のシャルピーVノッチ靭性も増大させる。Niは、オーステナイト化の際のオーステナイト形成を促進し、デルタフェライトの形成を最小限に抑制するために添加される。本合金では、残留オーステナイトが過剰に存在すると、ミクロ組織が腐食作用を受け易くなるので、望ましくない。ミクロ組織中のオーステナイトの存在は隣接マルテンサイトとガルバニック対を生成し、腐食性水性媒体中での加速された攻撃を招く。残留又は未変態オーステナイトは、隣接マルテンサイトとガルバニック対を形成する。したがって、残留オーステナイト含有量は、最善の耐孔食性を確保するため、合金ミクロ組織の最大2体積%未満に保つべきである。
【0022】
上述の通り、C(炭素)は必須成分であり、所定の硬さ及び/又は所定の引張強さをもたらすのに十分な量で存在する。Cの量も、粗大M23C6炭化物の形成を回避するように選択される。これらの炭化物は粒界で優先的に核生成し、靭性を低下させる。炭化クロムも、クロムの炭化物の周囲の母相を枯渇させ、耐食性の低下を招く。一実施形態では、Cは約0.05重量%未満の量で存在する。別の実施形態では、Cは約0.020~約0.040重量%、さらに具体的には約0.20~約0.030重量%、さらに一段と具体的には約0.025重量%の量で存在する。一実施形態では、所定の硬さは約30~約42HRCであり、所定の極限引張強さ(UTS)は約150~約200ksiである。Cの量は、タービン翼形部品(例えば、タービン圧縮機の静翼及び動翼、さらに具体的には産業用ガスタービン圧縮機の第1~第5段での使用に適したタービン圧縮機の静翼及び動翼)として使用するのに十分な所定の強度及び所定の破壊靭性をもたらすため、本願で説明するような低温焼戻し熱処理と共に用いることができる。
【0023】
図1を参照すると、別の態様に従って、鍛造マルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金を製造する方法100が開示されている。方法100は、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを準備する工程110を含む。ステンレス鋼合金は、実質的に従来の方法で処理することを始めとする任意の適切な方法で準備することができる。例えば、合金は、アルゴン酸素脱炭(AOD)取鍋精錬での電気炉溶融とその後のインゴットのエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって製造し得る。他の同様の溶解法も使用し得る。次いで、様々な鍛造方法のような適切な成形作業を用いて、棒材を製造し、例えばタービン圧縮機翼形部のような本明細書に記載の様々な物品を始めとする、所望の物品の前駆形状を有する鍛造プリフォームを製造すればよい。
【0024】
方法100は、鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する工程120も含む。一実施形態では、溶体化温度は約2000°F~約2100°Fであり、溶体化時間は約1時間~約3時間である。
【0025】
本方法は、マルテンサイトミクロ組織を形成するため、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を室温に冷却する工程130をさらに含む。合金ミクロ組織のマルテンサイト変態を促進するのに十分な冷却速度を与える任意の適切な冷却方法を使用し得る。一実施形態では、冷却は、水、ポリマー又は油焼入れを含む。ガス又は空気焼入れは、冷却の際のシグマ相の形成を防ぐのには不十分である。さらに具体的には、高合金ステンレス鋼のシグマ相生成を抑制するために0.25℃/秒の冷却速度が必要である。
【0026】
本方法は、鍛造プリフォーム140を-300°F未満の温度で極低温液体中に浸漬する工程140をさらに含む。極低温冷却は、残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させる。極低温処理は、極低温液体(液体窒素又は液体ヘリウムなど)で-300°F未満の温度まで行われ、従来の焼入れ作業後に残留オーステナイトをマルテンサイトへと変態させるために必要とされる。この極低温作業は、焼入れ/冷却130プロセス工程と焼戻し/加熱150プロセス工程の間に行われる。
【0027】
本方法は、鍛造プリフォームを約600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な所定の焼戻し時間、加熱する工程150も含む。任意の適切な加熱法及び焼戻し時間を使用し得る。一実施形態では、所定の焼戻し時間は約3時間~約6時間である。一実施形態では、焼戻し鍛造プリフォームは、タービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む。600°F未満の低い焼戻し温度は、本願記載の析出物、特に脆化性のカイ相、ラーベス相及びシグマ相の形成を回避するために用いられる。12%Cr鋼に3.5%超のMoが存在すると、ラーベス相の析出に基づく高温時効反応が起こることが判明した。高Mo含有量は、金属間カイ相及びシグマ相の高温形成を生じるおそれがあり、脆性を高め、引張延性を低下させてしまう。これらの化合物の形成は、耐衝撃性の劇的な損失をもたらす。したがって、重点がおかれるのは、固溶体強化(置換元素及び格子間炭素の両面から)及び600°F未満の温度での低温焼戻しである。低温焼戻しは、これらの合金の所定の最大作動温度を確立し、最大作動温度は焼戻し温度よりも低く、好ましくは、その後のマルテンサイトの焼戻し及び合金ミクロ組織への変化を避けるために、焼戻し温度よりも少なくとも約50~約100°F低い。Cr及びMoは、耐食性をもたらすとともに、これらの元素が金属間化合物又は炭化物に結合しないようにするため、固溶体中にできるだけ多く保つことが望ましい。焼入れ又は焼戻しの際のシグマ相の形成が問題となる。シグマ相の形成は耐食性及び靭性に有害である。焼戻し温度は、合金を脆化させ、耐孔食性を低下させてしまうシグマ相、カイ相及びラーベス相の形成を防ぐため、600°F未満に保たれる。
【0028】
耐孔食性に加えて、本願で開示するマルテンサイト系ステンレス鋼合金は、強度、延性及び破壊靭性の組合せを有し、様々なタービン翼形部、ブレードその他の部品を形成するのに用いるのに適している。一実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、ASTM G85に準拠して500時間塩水噴霧した後でGTD-450及びGTD-450+よりも優れた孔食性を示しており、別の実施形態では、ASTM G85に準拠した500時間の塩水噴霧後に実質的に孔食を示さなかったが、これは、ある実施形態では、この塩水噴霧実験に関して全く孔食がないと説明することもできる。別の実施形態では、本願で開示するマルテンサイト系ステンレス鋼合金は、ASTM B117に準拠して1000時間の塩水噴霧後に実質的に孔食を示さなかったが、これは、ある実施形態では、この塩水噴霧実験に関して全く孔食がないと説明することもできる。一実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約150ksi以上、さらに具体的には約150~約200ksiの極限引張強さを有する。別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約11%の室温伸びを有する。さらに別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金は約39%の引張断面減少率を有する。さらに別の実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼合金は、約20J(16ft-lbs)のシャルピーVノッチ衝撃靭性を有する。
【0029】
本願で開示する合金及び方法は、産業用ガスタービンの圧縮機翼形部品に用いられるものを始めとするタービン翼形部品の形成に使用し得る。タービン圧縮機ブレードの形態の典型的な圧縮機翼形部は周知である。圧縮機ブレードには、前縁、後縁、先端及びブレード根元(圧縮機ディスクへの取外し自在な取付けに適したダブテール根元など)を有する。ブレードのスパン(翼長)は、先端からブレードの根元まで延在する。スパン内に含まれるブレードの表面は、タービン翼形部の翼形部表面を構成する。翼形部表面は、タービン入口からタービンの圧縮機部を経てタービンの燃焼室及びタービンの他の部分へと流れる空気の流路に暴露されるタービン圧縮機翼形部の部分である。本明細書で開示される合金及び方法は、タービン圧縮機の動翼及び静翼の形態のタービン圧縮機翼形部での使用に特に有用であるが、多種多様な部品に用いられるあらゆる種類のタービン圧縮機翼形部に広く適用できる。こうした部品としては、タービン圧縮機の静翼及びノズルに関連するタービン翼形部、シュラウド、ライナー及び他のタービン圧縮機翼形部、すなわち、ダイヤフラム部品、シール部品、バルブステム、ノズルボックス、ノズルプレートなどの翼形表面を有するタービン部品が挙げられる。また、これらの合金及び方法は、ガスタービン圧縮機の動翼及び静翼に有用であるが、産業用蒸気タービンのタービン部品(例えば圧縮機の動翼及び静翼、蒸気タービンバケット及び他の蒸気タービン翼形部品)、石油及びガス機械部品、並びに高い引張強さ、破壊靭性及び耐孔食性が必要とされる他の用途にも、部品の作動温度域が本願に記載の合金の所定の最高使用温度に適合する限り、潜在的に使用することができる。
【0030】
本願において、不定冠詞は数量の限定を示すものではなく、その不定冠詞が付されたものが1以上存在することを意味する。数量に関して用いられる「約」という修飾語は、記載された数値を包含し、文脈によって左右される意味を有する(例えば、特定の数量の測定に付随する誤差の程度を含む)。さらに、別途限定しない限り、本願で開示する範囲はすべて、包括的であるとともに組合せることができる(例えば、「約25重量%以下、さらに具体的には5重量%~約20重量%、さらに一段と具体的には約10重量%~約15重量%」と記載された場合の範囲は、それらの範囲の上下限及びすべての中間値(例えば、「約5重量%~約25重量%、約5重量%~約15重量%」など)を包含する。合金組成の成分リストに関して用いられる「約」は、記載されたすべての成分に適用され、範囲に関して用いられている場合には、その範囲の上下限に適用される。最後に、別途定義しない限り、本願で用いる技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。複数形の接尾語「s」が括弧書きで付された用語は、その用語の単数形及び複数形を両方包含することを示し、その用語の1又は複数を包含する(例えば、「metal(s)」は、1又は複数の金属を包含する。)。本願明細書を通して、「一実施形態」、「別の実施形態」、「実施形態」などという記載は、その実施形態に関して記載した特定の構成要素(例えば、特徴、構造及び/又は特性)が本願に記載された1以上の実施形態に含まれていることを意味し、その他の実施形態に存在していても存在していなくてもよい。
【0031】
本願に記載の合金組成物に関して用いられる「含む」という用語は、合金組成物が記載された成分「から実質的になる」(つまり、記載された成分を含み、開示された基本的及び新規な特徴に実質的に悪影響を与える他の成分を含まない)実施形態並びに合金組成物が記載された成分「からなる」(つまり、記載された成分の各々に天然にかつ不可避的に存在する不純物以外には、記載された成分しか含まない)実施形態を具体的に開示し、かつ包含するものと解される。
【0032】
以上、限られた数の実施形態に関して本発明を詳しく説明してきたが、本発明がこれらの開示した実施形態に限られるものではないことは明らかであろう。本明細書には記載されていないが、本発明の技術的思想及び技術的範囲に則した数々の変更、修正、置換又は均等な構成を導入するように本発明を変更することができる。さらに、様々な実施形態について説明してきたが、本発明の態様は、記載した実施形態の一部しか含んでいないこともある。従って、本発明は、以上の記載によって限定されるものではなく、専ら特許請求の範囲に記載された技術的範囲によって限定される。
【0033】
本発明のその他の態様を、以下の実施態様に示す。
[実施態様1]
鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金の製造方法であって、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを準備する工程であって、合金が、ミクロ組織の約15体積%以上の残留オーステナイト相を含むミクロ組織を有する、工程と、鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する工程と、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を液体で室温に冷却する工程と、次いで、ミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させるため、鍛造プリフォームを極低温液体中に浸漬する工程と、鍛造プリフォームを600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な焼戻し時間、加熱する工程と、焼戻し鍛造プリフォームを室温に冷却する工程とを含む方法。
[実施態様2]
溶体化温度が約2000~約2100°Fを含み、時間が約1~約3時間を含む、実施態様1に記載の方法。
[実施態様3]
冷却工程における液体が油又は水を含み、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織が液体に浸漬される、実施態様1乃至実施態様2のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様4]
浸漬工程における極低温液体が液体窒素又は液体ヘリウムを含む、実施態様1乃至実施態様3のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様5]
焼戻し時間が約3時間~約6時間である、実施態様1乃至実施態様4のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様6]
焼戻し鍛造プリフォームが、タービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む、実施態様1乃至実施態様5のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様7]
残留オーステナイト相が、ミクロ組織の2体積%以下をなす、実施態様1乃至実施態様6のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様8]
合金が、ラーベス相、カイ相又はデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様1に記載の方法。
[実施態様9]
合金がシグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様1乃至実施態様8のいずれか1項に記載の方法。
[実施態様10]
鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金であって、約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含むマルテンサイト系耐孔食性ステンレス鋼合金の鍛造プリフォームを提供する工程であって、合金が、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する、工程と、鍛造プリフォームを、溶体化ミクロ組織を形成するのに十分な時間、溶体化温度に加熱する工程と、鍛造プリフォーム及び溶体化ミクロ組織を液体で室温に冷却する工程であって、液体が油であり、鍛造プリフォームを油に浸漬する工程と、次いで、ミクロ組織中の残留オーステナイト相をマルテンサイトに変態させるため、鍛造プリフォームを極低温液体中に浸漬する工程であって、極低温液体が、液体窒素又は液体ヘリウムであって、-300°F未満の温度である、工程と、鍛造プリフォームを600°F未満の焼戻し温度に、焼戻しマルテンサイトミクロ組織を含む焼戻し鍛造プリフォームを形成するのに十分な焼戻し時間、加熱する工程と、焼戻し鍛造プリフォームを室温に冷却する工程とを含む方法。
[実施態様11]
合金がシグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様10に記載の方法。
[実施態様12]
約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金であって、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ構造を有する、合金。
[実施態様13]
合金がシグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様12に記載の合金。
[実施態様14]
合金が、ラーベス相、カイ相及びデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様12又は実施態様13に記載の合金。
[実施態様15]
合金がタービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む、実施態様12乃至実施態様14のいずれか1項に記載の合金。
[実施態様16]
約12.0重量%~約16.0重量%のクロム、16.0重量%超~約20.0重量%のコバルト、約6.0重量%~約8.0重量%のモリブデン、約1.0重量%~約3.0重量%のニッケル、約0.020重量%~約0.040重量%の炭素、残部の鉄及び不可避不純物を含む鍛造マルテンサイト系ステンレス鋼合金であって、シグマ相を実質的に含まないミクロ組織を有する、合金。
[実施態様17]
合金が、残留オーステナイト相をミクロ組織の2体積%以下しか含まないミクロ組織を有する、実施態様10乃至実施態様16のいずれか1項に記載の合金。
[実施態様18]
合金が、ラーベス相、カイ相及びデルタフェライト相を実質的に含まないミクロ組織を有する、実施態様10乃至実施態様17のいずれか1項に記載の合金。
[実施態様19]
合金がタービン翼形部プリフォーム又は圧縮機翼形部プリフォームを含む、実施態様10乃至実施態様18のいずれか1項に記載の合金。
【国際調査報告】