(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】CNC旋盤のための方法
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20240305BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B23B1/00 Z
B23B27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557200
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2021085692
(87)【国際公開番号】W WO2022194412
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ボーイング, デニス
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C046HH04
(57)【要約】
本発明は、公称すくい角(γ
n)が変更されるように切削要素(1、11)が機械加工ステップ間に再配置される、少なくとも2つの機械加工ステップを含む、CNC旋盤のための旋削加工方法に関する。それにより、有効工具寿命が延ばされ得、摩耗した工具を用いても、機械加工された表面の高い品質、および安定した切削プロセスが達成され得る。本発明はまた、本方法を実施するためのシステムおよびコンピュータプログラムに関する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNC旋盤のための旋削加工方法であって、
-その回転軸の周りで回転方向(R)に回転可能なワークピース(2)を提供するステップと、
-工具軸(L)に沿って延びる旋削工具(10)を提供するステップであって、前記旋削工具が、すくい面(3)、逃げ面(4)、および前記すくい面(3)と前記逃げ面(4)との間の境界において形成された切れ刃(5)を含む切削要素(1、11)を備え、前記切削要素(1、11)が、前記ワークピース(2)に対して異なる向きに配置可能であり、各向きが、前記ワークピース(2)の表面に対する公称すくい角(γ
n)によって決定され、前記切削要素(1、11)が、前記切れ刃(5)と前記ワークピース(2)との間の接触点において、前記切削要素(1、11)の摩耗に依存する有効すくい角(γ
e)および有効逃げ角(α
e)を有する、提供するステップと、
-第1の有効すくい角(γ
e_1)および第1の有効逃げ角(α
e_1)をもたらす第1の公称すくい角(γ
n_1)によって決定される第1の向きにおいて、前記ワークピース(2)に対して前記切削要素(1、11)を配置するステップと、
-第1の機械加工ステップにおいて、前記切削要素(1、11)が前記第1の向きにある状態で前記ワークピース(2)を機械加工するステップと、
前記第1の機械加工ステップの後に、
-第2の有効すくい角(γ
e_2)および第2の有効逃げ角(α
e_2)をもたらす第2の公称すくい角(γ
n_2)によって決定される第2の向きにおいて、前記ワークピース(2)に対して、または機械加工される別のワークピースに対して、前記切削要素(1、11)を再配置するステップであって、前記第2の公称すくい角(γ
n_2)が前記第1の公称すくい角(γ
n_1)とは異なる、再配置するステップと、
-第2の機械加工ステップにおいて、前記切削要素(1、11)が前記第2の向きにある状態で前記ワークピース(2)または前記別のワークピースを機械加工するステップと
を含む、旋削加工方法。
【請求項2】
前記第2の公称すくい角が前記第1の公称すくい角よりも小さい、請求項1に記載の旋削加工方法。
【請求項3】
前記第2の有効逃げ角が、前記第1の有効逃げ角に対応するか、または実質的に対応する、請求項1または2に記載の旋削加工方法。
【請求項4】
前記第2の公称すくい角が、前記第1の公称すくい角と2~10度だけ異なる、請求項1から3のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項5】
前記切削要素を再配置する前記ステップは、前記切削要素が切削できないときに実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項6】
各機械加工ステップの持続時間は、前記切削要素が切削中であった所定の時間期間に基づいて選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項7】
第2の向きにおいて前記切削要素を再配置する前記ステップが、第1の工具軸位置から第2の工具軸位置まで、前記回転軸に対して横方向に、前記ワークピースに対して前記工具軸を移動させることを含み、前記第2の工具軸位置における前記工具軸が、前記第1の工具軸位置における前記工具軸と平行であるが一致していない、請求項1から6のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項8】
前記工具軸が、前記第1の工具軸位置から前記第2の工具軸位置まで第1の方向に第1の距離だけ移動される、請求項7に記載の旋削加工方法。
【請求項9】
前記第2の機械加工ステップの後に、
-第3の有効すくい角および第3の有効逃げ角をもたらす第3の公称すくい角によって決定される第3の向きにおいて、前記ワークピースに対して、または機械加工される別のワークピースに対して、前記切削要素を再配置するステップであって、前記第3の公称すくい角が、前記第1の公称すくい角および前記第2の公称すくい角の各々とは異なる、再配置するステップと、
-第3の機械加工ステップにおいて、前記切削要素が前記第3の向きにある状態で前記ワークピースまたは前記別のワークピースを機械加工するステップと
をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項10】
前記第3の向きにおいて前記切削要素を再配置する前記ステップが、前記第2の工具軸位置から、前記第1の工具軸位置から離れて第3の工具軸位置まで、前記第1の方向に第2の距離だけ前記工具軸を移動させることを含む、請求項8および9に記載の旋削加工方法。
【請求項11】
前記第2の距離が前記第1の距離と同じであるかまたはそれよりも小さい、請求項10に記載の旋削加工方法。
【請求項12】
前記切削要素が、立方晶窒化ホウ素または多結晶立方晶窒化ホウ素を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項13】
前記ワークピースが、40HRC以上の硬度を有する硬化鋼または耐熱超合金で作られる、請求項1から12のいずれか一項に記載の旋削加工方法。
【請求項14】
-CNC旋盤と、
-プロセッサと、
-切削要素を含む旋削工具と
を備えるシステムであって、前記システムが、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成される、システム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムによって実行されると、前記システムに請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実施させる命令を有する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属切削の技術分野に属する。より詳細には、本発明は、旋削加工の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
金属切削では、旋削加工が一般的な機械加工作業である。CNC旋盤が一般的に使用される。特に硬い材料を機械加工する場合、立方晶窒化ホウ素(CBN)またはセラミックで作られた切削要素を有する旋削工具を使用することが一般的である。そのような材料が、例えば超硬切削工具と比較して、高い耐摩耗性を有するとしても、切削要素のすくい面およびフランク面の摩耗は、最終的には切削要素の使用性を制限することになり、さらには、切削要素が交換されなければならないような工具の破損につながることになる。効率性および経済的理由で、可能な限り長く切削要素を使用することが望ましいことがある。したがって、切削要素の摩耗を低減するための努力がなされてきた。一例として、EP2015881は、クレーター形成に対するより高い耐性を有する二次層をすくい面上に備えるCBN工具構成要素を開示する。しかしながら、工具寿命がいくらか延長され得るとしても、そのような層は、工具摩耗が最終的にCBN工具の切削特性を劣化させることを防がない。
【0003】
したがって、旋削加工プロセスにおいて使用される切削要素の工具寿命をさらに延ばす必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、先行技術の欠点を軽減し、工具寿命、すなわち、切削要素が機械加工のために使用され得る時間を延ばす方法を提供することである。さらなる目的は、高品質の機械加工された表面を一貫してもたらす方法を提供することである。さらなる目的は、安定した切削プロセスを得ることである。
【0005】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、CNC旋盤のための旋削加工方法に関し、本方法は、
-その回転軸の周りで回転方向に回転可能なワークピースを提供するステップと、
-工具軸に沿って延びる旋削工具を提供するステップであって、旋削工具が、すくい面、逃げ面、およびすくい面と逃げ面との間の境界において形成された切れ刃を含む切削要素を備え、切削要素が、ワークピースに対して異なる向きに配置可能であり、各向きが、ワークピースの表面に対する公称すくい角によって決定され、切削要素が、切れ刃とワークピースとの間の接触点において、切削要素の摩耗に依存する有効すくい角および有効逃げ角を有する、提供するステップと、
-第1の有効すくい角および第1の有効逃げ角をもたらす第1の公称すくい角によって決定される第1の向きにおいて、ワークピースに対して切削要素を配置するステップと、
-第1の機械加工ステップにおいて、切削要素が第1の向きにある状態でワークピースを機械加工するステップと、
第1の機械加工ステップの後に、
-第2の有効すくい角および第2の有効逃げ角をもたらす第2の公称すくい角によって決定される第2の向きにおいて、ワークピースに対して、または機械加工される別のワークピースに対して、切削要素を再配置するステップであって、第2の公称すくい角が第1の公称すくい角とは異なる、再配置するステップと、
-第2の機械加工ステップにおいて、切削要素が第2の向きにある状態でワークピースまたは別のワークピースを機械加工するステップと
を含む。
【0006】
それにより、有効工具寿命が延ばされ得、摩耗した工具を用いても、機械加工された表面の高い品質、および安定した切削プロセスが達成され得る。表面品質は、例えば、例えば機械加工プロセスによって引き起こされる微細構造変化に関連する、表面粗さまたは表面完全性を指し得る。
【0007】
旋削加工方法は、CNC旋盤、すなわち、コンピュータまたはコンピュータ化された数値制御旋盤、すなわち、例えば回転旋盤、マルチタスク機械、ターンミル機械、または摺動ヘッド機械など、旋削加工に好適な任意のCNC機械のためのものである。ワークピースは、半径方向外側の表面である外面を含む金属ワークピースであり得る。半径方向外側の表面は、回転軸から外方を向いている。本旋削加工方法は、半径方向外側の表面の旋削加工、すなわち外部旋削加工のために使用され得る。ワークピースは、第1の端部と第2の端部との間に延在する。
【0008】
ワークピースは、硬化鋼、例えば40HRC以上の硬化鋼のものであり得る。代替的に、ワークピースは、耐熱超合金(HRSA)、例えばニッケル基合金など、超合金であり得る。
【0009】
ワークピースは、クランプ手段によってクランプされ得る。クランプ手段は、ワークピースを保持し、モータまたはスピンドルによって少なくとも部分的に制御され、駆動される。クランプ手段は、コレットチャック、フェイスドライバ、または三爪チャックの形態であり得、心押台を備え得る。機械の主軸台端部は、好ましくは、ワークピースの第1の端部に位置する。ワークピースの第1の端部の反対側のワークピースの第2の端部は、自由端であり得る。代替的に、第2の端部は、心押し台または第2のチャックと接触している。
【0010】
旋削工具は、連結部の形態で前端および反対側の後端を備える。連結部は、CNC旋盤に、より詳細には、機械スピンドルまたは工具リボルバータレットまたは刃物台など、CNC旋盤の機械インターフェースに接続される。
【0011】
連結部は、正方形または長方形の断面を有し得る。連結部は、好ましくはISO規格26623-1などに従って、円錐形または実質的に円錐形であり得る。この文脈では、円錐台は、円錐状の形状である。この文脈では、ISO規格26623-1の連結の後部を形成するテーパ部は、円錐状の形状である。連結部は、連結軸に沿って延びる。連結部は、好ましくは、前記円錐または円錐状の形状が連結軸を中心として対称または実質的に対称であるように円錐形である。この文脈では、3回対称が対称であると見なされる。前記円錐または円錐状の形状の断面積は、好ましくは、後方方向に減少する。連結部は、DIN69893に従って、HSKなど、中空テーパシャンクの形態であり得る。
【0012】
連結軸は、旋削工具の長手方向軸を画成する、旋削工具の工具軸または中心軸に対応する。
【0013】
旋削工具は切削要素を備える。切削要素は、好ましくは、耐摩耗性材料、例えば立方晶窒化ホウ素(CBN)、多結晶立方晶窒化ホウ素(pCBN)、セラミックまたは超硬合金から作られる。切削要素は、旋削工具の一部として、例えばそのような旋削工具の一体部分として、あるいは、交換可能および/または割り出し可能な切削インサート、または旋削工具に取り付け可能な旋削インサートとして、例えばインサートポケット内に実装され得、インサートポケット内で、切削インサートが、ねじ、または切削インサートをインサートポケット内にしっかりと保持するための他の手段など、任意の好適な締結手段によって、締結され得る。切削要素はまた、そのような切削インサートの一部と見なされ得る。例えば、切削要素は、超硬キャリアにろう付けされたCBN切削チップであり得、これらは、交換可能な切削インサートを共に形成する。
【0014】
切削要素は、すくい面(rake face)またはすくい面(rake surface)を含む上面を備える。切削要素は、すくい面に隣接する逃げ面(clearance face)または逃げ面(clearance surface)をさらに備える。すくい面と逃げ面との間の境界において、切れ刃が形成される。切れ刃、または切れ刃の一部は、機械加工された表面を生成する。切れ刃は、上面視で凸形状を有し得、例えば、切れ刃は、例えば円弧の形態のノーズ切れ刃であり得る。切削要素は、特に切削インサートの形態である場合、上面視で、菱形、三角形、八角形、正方形、円形または多角形の形状を有し得る。
【0015】
上面は平坦であり得る。代替的に、表面は非平坦または非平面であり得る。例えば、表面は、1つまたは複数の突起および/または窪みの形態の、1つまたは複数のチップ破砕手段を備え得る。さらに、面取り部が、切れ刃が逃げ面とそのような面取り面との間の境界において画成されるように、上面に形成され得る。そのような場合、本開示で説明される目的で、すなわち公称すくい角および/または有効すくい角を考慮する場合、面取り面はすくい面に対応する。
【0016】
機械加工時に、ワークピースは回転方向に回転され、旋削工具は、切削要素の切れ刃が回転するワークピースに係合するように制御される。第1の機械加工ステップ中に実施される機械加工は、ワークピースを機械加工することを含む。第1の機械加工ステップはまた、さらなるワークピースの機械加工を含み得る。
【0017】
機械加工は、ワークピースが回転する回転対称面をもたらす任意の方法を含み得る。したがって、本方法は、単一点旋削加工だけでなく、切れ刃とワークピースとの間の接触点または接触領域が機械加工中に切れ刃に沿って移動する旋削加工作業など、他の旋削加工作業においても使用され得る。例えば、ここで、回転軸に対して横方向に線形送り移動がある。
【0018】
機械加工中、切削要素は、摩耗、特にすくい面に生じるクレーター摩耗および逃げ面に生じるフランク摩耗を受ける。特に、硬質部の旋削加工において使用されるCBN切削要素の場合、切削要素の微小形状は、切削要素の寿命中の摩耗の進行に応じて根本的に変更される。一例として、最初に負のすくい角を有する、面取り部を備えたCBN切削要素を使用する場合、有効すくい角は、切削要素のクレーター摩耗により、最終的に正になる。最終的に、切削要素は破損することになるか、または、切削要素は、許容可能な機械加工結果を提供せず、交換されなければならない。本発明者によって、切削要素が、機械加工の一定時間後のトライボロジー的安定条件、すなわち切削要素の寿命の残りの間維持される条件を仮定し得ることが発見された。例えば、面取り部を備えたCBN切削要素の場合、そのようなトライボロジー的安定条件は、推定された工具寿命の約30%後に現れ得る。トライボロジー的安定条件では、有効すくい角および有効逃げ角、ならびに切れ刃半径が正規化される。結果として、楔角も正規化され、したがって、安定したトライボロジー条件の間に大きく変化しない。したがって、クレーター摩耗およびフランク摩耗がこの安定状態の間に増加し得る場合でも、摩耗の進行は、フランクおよびクレーターの形状が変化しない、すなわち、有効すくい角および有効逃げ角が実質的に同じままであるようなものである。切削要素の切れ刃ラインが、元のすくい角と比較して有効すくい角が大幅に変更されたにもかかわらず、安定したトライボロジー条件においても良好な完全性を維持したことが分かった。しかしながら、安定したトライボロジー条件では、有効逃げ角が、しばしば、すなわち工具寿命のかなりの時間、0であるかまたは0に近く、これが様々な悪影響を潜在的にもたらし得ることも分かった。例えば、逃げ面とワークピースとの間の接触の増加により、機械加工された表面の完全性が変化し得る。本発明者は、安定したトライボロジー条件に達する前、または達した直後に公称すくい角を変更する場合、機械加工された表面の完全性が改善(または維持)され得、有効工具寿命が延びたことを認識した。
【0019】
別様に明確に述べると、本発明者は、従来は磨滅したと見なされていた切削要素がより長い時間使用されることを可能にするやり方または方法が分かった。このやり方は、ワークピースと向かい合って切削要素を再配置することを含む。本発明者は、本方法が、CBNまたはpCBN切削要素、すなわちCBNまたはpCBNを含む切削インサートまたは旋削インサートを使用して、硬化鋼、または例えばNi基超合金などの他の硬質金属を旋削加工する場合、特に良好に機能することが分かった。
【0020】
本明細書で使用される「公称すくい角」は、切削要素の幾何学的形状の変動(摩耗によって引き起こされる変動など)を考慮しない、機械加工された表面に垂直な平面に対する元のすくい面の角度を指す。この文脈では、公称すくい角は「システムすくい角」とも見なされ、すなわち、特定の機械加工設定(例えば、ワークピースに対するCNC旋盤、工具ホルダなどの向きおよび位置)における切削要素の元の幾何学的形状によって決定され得る。対応して、「公称逃げ角」は、工具の摩耗を考慮しない、ワークピースの表面に対する元の摩耗していない逃げ面の隙間、すなわち所望の隙間を指す。対照的に、本明細書で使用される「有効すくい角」は、機械加工時に有効な真のすくい角、すなわち実際の切削角であり、これは、すくい面の幾何学的形状の局所的な変動に依存する。対応して、「有効逃げ角」は、機械加工された表面に対する逃げ面の実際の隙間を指す。有効すくい角および有効逃げ角は、いずれも、切削要素の摩耗によって影響を及ぼされる。例えば、有効すくい角は、すくい面に生じるクレーター摩耗により、元のすくい角と比較して増加し得、有効逃げ角は、フランク摩耗により減少し得る。したがって、摩耗していない切削要素で機械加工する場合、有効すくい角および有効逃げ角は、最初は、それぞれ公称すくい角および公称逃げ角に対応する。しかし、摩耗が生じ、これらの角度に影響を及ぼし始めるとすぐに、有効角度は、対応する公称角度から逸脱する。
【0021】
したがって、第1の機械加工ステップ中、切削要素の摩耗は、すくい面および逃げ面の実際の幾何学的形状に影響を及ぼす。これにより、有効すくい角が増加し得、有効逃げ角が減少し得る。そのような摩耗を補償するために、公称の第2のすくい角は第1の公称すくい角とは異なる。特に、切削要素を第2の向きに再配置すること、すなわち公称すくい角を変更することは、有効隙間を増加させ得る。
【0022】
これを達成するために、第2の機械加工ステップにおいて使用される第2の公称すくい角は、第1の機械加工ステップにおいて使用される第1の公称すくい角よりも小さいことがある。
【0023】
公称すくい角を縮小することで、少なくとも切削要素を再配置する直前に存在する有効すくい角と比較した場合、有効すくい角も明らかに減少する。しかしながら、第2の有効すくい角は、第1の機械加工ステップによって引き起こされる摩耗が第1の有効すくい角と比較して有効すくい角の増加を引き起こすため、依然として第1の有効すくい角よりも大きいことがある。
【0024】
第1の有効すくい角と第2の有効すくい角とが同じであること、すなわち、第1の機械加工ステップからの摩耗によって引き起こされる有効すくい角の変化が第1の公称すくい角と第2の公称すくい角との間の差に対応することも想定される。しかしながら、これは、第1の機械加工ステップが最初に新しい摩耗していない切削要素を使用することを含む場合、クレーター摩耗によるすくい角の増加が、しばしば、切削要素を再配置するときに補償することが望ましいものよりも高くなるため、当てはまらないことが多くなり得る。一方、第1の機械加工ステップが、安定したトライボロジー条件に達した以前の状態から再配置された既に摩耗している切削要素で開始し、第1の機械加工ステップが、新しい安定したトライボロジー条件に達するまで進行する場合、第1の有効すくい角が第2の有効すくい角に対応する、すなわち、有効すくい角が公称すくい角の変化によって復元されるような可能性が極めて高い。しかしながら、摩耗していない切削要素の元の有効すくい角は、復元することが望ましくないまたは可能でないことがある。
【0025】
公称すくい角を縮小することによって、有効隙間が増加し、したがって、切削要素のフランクとワークピースとの間の接触が低減する。切削要素のフランクとワークピースとの間の接触面積が増加すると、受動的な力と送り力との分布が変化し、その結果、機械加工された構成要素の白色層の厚さが増加し、これは、機械加工された表面上の望ましくない微細構造変化に関連する。したがって、隙間を増加させることによって、より安定した機械加工プロセスが得られ、白色層の形成が低減され、したがって、機械加工された表面の品質の改善が実現される。
【0026】
第2の有効逃げ角は、第1の有効逃げ角に対応するか、または実質的に対応し得る。言い換えれば、第1の公称すくい角と第2の公称すくい角との間の差は、第1の機械加工ステップによって引き起こされた有効逃げ角の変化に対応し得る。例えば、第1の機械加工ステップは、有効逃げ角が0に縮小されたように切削要素のフランク摩耗を引き起こしていることがあり、すなわち、ここで、逃げ面の少なくとも一部とワークピースとの間に摩擦が生じる。次いで、第1の公称すくい角と第2の公称すくい角との間の差を、所望の逃げ角、例えば、摩耗していない切削要素について存在する逃げ角に対応させることによって、所望の(例えば、元の)有効逃げ角は、切削要素を再配置することによって復元され得る。言い換えれば、元の有効隙間は、公称すくい角を変更することによって復元され得る。
【0027】
第2の公称すくい角は、第1の公称すくい角と2~10度だけ異なり得る。多くの用途では、これは、良好な切削性能を維持しながら隙間を復元するのに十分であり、公称すくい角をあまり変更しないことによって、切削要素を複数回再配置することが可能であり、切削要素の総寿命をさらに延ばす。第2の公称すくい角は、第1の公称すくい角と、例えば6度だけなど、4~8度だけ異なり得、これは、少なくともいくつかの用途について有益であり得る。
【0028】
切削要素を再配置するステップは、切削要素が切削できないときに実施され得る。本明細書で使用される「切削できない(out of cut)」は、切削要素がワークピースと係合していない状態を指す。そのような状態は、2つの異なるワークピースの機械加工の間、またはワークピースに対する旋削加工作業の2つの異なるパスの間に生じ得る。
【0029】
したがって、第1の機械加工ステップは、1つまたは複数の機械加工作業の第1のセットを含み得、第2の機械加工ステップは、1つまたは複数の機械加工作業の第2のセットを含み得、ここで、切削要素を再配置するステップは、機械加工作業のこれらのセットの間、例えば2つの異なるワークピースを機械加工することの間に実施され得、その場合、第2のセットにおける機械加工作業は、第1のセットにおける機械加工作業と重複しない。
【0030】
この文脈では、機械加工作業は、ワークピースに対して実施され、旋削工具を用いた1つまたは複数のパスを含み得る作業と見なされ得る。
【0031】
上述のように、切削要素を再配置するステップは、機械加工作業の2つの異なるパスの間に実施され得る。この場合、第1の機械加工ステップと第2の機械加工ステップとは、各々、単一の旋削加工作業の異なる部分を含み得る。次いで、第1の機械加工ステップは、例えば、1つまたは複数の完全な機械加工作業(例えば、機械加工された構成要素)および特定の機械加工作業の第1の部分を含み得、第2の機械加工ステップは、特定の機械加工作業の第2の部分、ならびに後続の機械加工作業および/または後続の機械加工作業の部分を含み得る。
【0032】
切削要素の再配置が、機械加工中、例えば旋削加工作業のパス中に行われることも想定される。したがって、切削要素の再配置は、機械加工中に実行される段階的または連続的再配置を含み得る。これは、例えば、大きなHRSA構成要素を旋削加工する場合に有用であり得、ここで、切削要素が単一パスにおいて摩耗し、これが、構成要素の表面完全性を、潜在的に、切削の開始時に切削の終了時と比較して異なるようにし得る。
【0033】
各機械加工ステップの持続時間は、切削要素が切削中であった所定の時間期間に基づいて選択され得る。したがって、切削要素の再配置は、特定の所定の時間期間の後、例えば、切削要素がアクティブであった特定の数分(すなわち、「切削時間(time in cut)」)の後に行われ得る。したがって、第1の機械加工ステップは、実施された機械加工作業の実際の数を考慮しない特定の時間機械加工することを含み得る。機械加工ステップはまた、その間に所定の時間期間が終了した、すなわち、切削要素が再配置される前に現在の機械加工作業またはパスが終了するような、機械加工作業または機械加工作業のパスを含むものとして決定され得る。所定の時間の代わりに、持続時間は、代替的に、所定の切削長に基づいて選択され得る。さらなる代替として、各機械加工ステップは一定の数の機械加工作業に関連し得、すなわち、機械加工ステップは、所定数のワークピースの機械加工を含むものとして決定され得る。したがって、切削要素の再配置は、特定の数の構成要素が機械加工された後に行われ得る。
【0034】
切削要素の再配置がいつ行われるべきかを決定するためにどのパラメータが使用されるかにかかわらず、機械加工ステップの各々は、複数の異なるワークピースの機械加工を含み得る。
【0035】
第1の向きと第2の向きとの間に切削要素を配置および再配置することは、様々なやり方で達成され得る。いくつかの実施形態によれば、ワークピースと工具軸との間の相対位置が調整され得る。例えば、切削要素とワークピースとの間の係合点は、第1の工具軸位置から第2の工具軸位置まで、回転軸に対して横方向に、ワークピースに対して工具軸を移動させることによって調整され得、第2の工具軸位置における工具軸が、第1の工具軸位置における工具軸と平行であるが一致していない。
【0036】
したがって、ワークピースの表面に対する切削要素の係合の方向は、ワークピースに対する工具軸の向きを変更することによって、特に工具軸の並進によって、調整され得る。特に、Z軸がワークピースの回転軸に沿った方向を指し、X軸がワークピースに対する半径方向(すなわち、回転軸に向かうまたは回転軸から離れる方向)を指し、Y軸が、Z軸およびX軸によって画成される平面に直交する方向を指す、旋盤に対するデカルト座標系を考慮すると、並進はY軸に沿った動きを含み得る。したがって、そのような実施形態は、例えば、特定のタイプのマルチタスク機械またはミルターン機械など、Y軸に沿って旋削工具を移動させる能力を有するCNC旋盤の使用を必要とする。したがって、そのようなCNC旋盤を使用する場合、切削要素を再配置するステップは、機械制御システムを介して達成され得る。切削要素のそのような再配置は、特別に設計された旋削工具または工具ホルダを必要としないため、正確かつ比較的容易に実施され得る。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、工具軸は、第1の工具軸位置から第2の工具軸位置まで第1の方向に第1の距離だけ移動される。
【0038】
上記で決定された座標系を考慮すると、第1の方向はY軸に沿ったものであり得る。したがって、工具軸がX軸に沿って方向付けられるか、またはX軸と平行である場合、第1の方向は、工具軸とワークピースの回転軸の両方に対して横の方向に対応し得る。特に、第1の方向は、ワークピースが回転する方向、すなわち、切削要素とワークピースとの間の接触点におけるワークピースの接線運動方向に対応するか、または実質的に対応し得る。別様に明確に述べると、第1の方向は、Y軸に沿って、切削要素のすくい面または上面が面する方向から離れるものであり得る。
【0039】
言い換えれば、工具軸の移動は、Y軸に沿った成分を有し得、移動は、切削要素とワークピースとの間の接触点におけるワークピースの回転方向に沿って、または実質的に沿って、すなわち、切削要素のすくい面または上面が面する方向から離れて、方向付けられ得る。
【0040】
それにより、切削要素は、公称すくい角が減少され、有効逃げ角が増加されるワークピースに対する位置に再配置される。
【0041】
工具軸は、Y軸に沿った移動によって引き起こされる切削深さの変化を補償するために、Y軸に沿ってだけでなく、X軸に沿って移動され得る。例えば、工具軸が公称すくい角を変更するためにY軸に沿って特定の距離を移動される場合、工具軸は、同じ切削深さを維持するために、X軸方向にも、ある距離を移動され得る。
【0042】
工具は、必ずしも第1の向きと第2の向きとの間で線形的に移動されないか、または2つの連続する線形移動で移動されず(例えば、最初にY軸方向に移動され、次いでX軸方向に移動されず)、円弧に沿って、例えば、ワークピースの周囲に沿って移動されることもある。
【0043】
第1の方向に移動された第1の距離、またはその結果としてY軸に沿って移動された距離は、0.07r~0.14rなど、0.03r~0.18rであり得、ここで、rはワークピースの半径である。0.03r~0.18rの移動は、少なくともワークピースの中心の近く、すなわちX-Z平面の近傍において行われる場合、公称すくい角の2~10度だけの変化をもたらし得る。一例として、前記第1の距離、またはその結果としてY軸に沿って移動された距離は、ワークピースの半径の約0.1倍、例えば0.09r~0.11rであり得、これは、公称すくい角の約6度だけの変化に対応し得る。
【0044】
工具軸の並進を必要としない、切削要素を再配置するための代替方法は、どの向きが所望されるかに応じて、異なる旋削工具または工具ホルダにおいて切削要素を取り付けることであり得る。例えば、第1の機械加工ステップの前に、切削要素は旋削工具本体において取り付けられ得、旋削工具本体は、旋削工具がCNC旋盤において取り付けられたときに切削要素がワークピースに対する第1の向きを得るように設計される。第2の機械加工ステップの前に切削要素を再配置するために、切削要素は別の工具本体において取り付けられ得、別の工具本体は、旋削工具がCNC旋盤において取り付けられたときに切削要素がワークピースに対する第2の向きを得るように設計される。
【0045】
切削要素を第2の向きにおいて再配置するステップが、工具軸を傾けることによって、例えば、旋削工具が接続された工具スピンドルの回転運動によって、または旋削工具が接続された工具タレットの角度を制御することによって、ワークピースの表面に対する切削要素の係合の方向を変更することを含み得ることも想定される。代替的に、切削要素は、工具軸に対して傾けられ得る。例えば、傾斜可能な、またはさもなければ調整可能な旋削工具または工具ホルダを使用する場合、切削要素の配置および再配置は、そのような手段によって達成され得る。例えば、傾斜可能である工具ホルダ、または切削要素を含む部分が傾斜可能である工具が、使用され得る。そのような調整は、手動手段によって達成されるか、または、何らかの種類のアクチュエータ、例えば遠隔制御アクチュエータによって制御され得る。工具軸を傾けることによる、または工具軸に対して切削要素を傾けることによる切削要素の再配置は、好ましくは、第1の公称すくい角と後続の公称すくい角との間の差に対応する角度だけ傾けることを含む。例えば第3の向きにおいて再配置するいくつかのステップが、そのような傾けることによって実施される場合、各ステップについての傾斜角は、好ましくは、同じ、または実質的に同じ、すなわち+/-5度以内である。各ステップについて、公称すくい角は、徐々に小さくなるかまたはさらに負になる。
【0046】
いくつかの実施形態によれば、本旋削加工方法は、第2の機械加工ステップの後に、
-第3の有効すくい角および第3の有効逃げ角をもたらす第3の公称すくい角によって決定される第3の向きにおいて、ワークピースに対して、または機械加工される別のワークピースに対して、切削要素を再配置するステップであって、第3の公称すくい角が、第1の公称すくい角および第2の公称すくい角の各々とは異なる、再配置するステップと、
-第3の機械加工ステップにおいて、切削要素が第3の向きにある状態でワークピースまたは別のワークピースを機械加工するステップと
をさらに含む。
【0047】
したがって、切削要素の再配置は、複数回繰り返され得る。第2の公称すくい角は第1の公称すくい角よりも小さいことがあり、第3の公称すくい角は第2の公称すくい角よりも小さいことがある。言い換えれば、第3の公称すくい角は、第1の公称すくい角と第2の公称すくい角の両方よりも小さいことがある。第1の公称すくい角と第2の公称すくい角との間の差は、第2の公称すくい角と第3の公称すくい角との間の差と同じであり得る。すなわち、公称すくい角は、切削要素が再配置されるたびに同じ量だけ変更され得る。再配置は、2回よりも多く、例えば3回、4回または5回、さらにはそれ以上繰り返され得る。切削要素が再配置されるたびに、有効逃げ角は、機械加工ステップの開始時のものに復元され得る。それにより、機械加工された表面の品質を維持したまま、切削要素の有効寿命がさらにもっと延長され得る。
【0048】
第2の向きにおいて切削要素を再配置するステップが、第1の工具軸位置から第2の工具軸位置まで、第1の方向に第1の距離だけ工具軸を移動させることを含む、切削要素の複数の再配置に関係するいくつかの実施形態によれば、第3の向きにおいて切削要素を再配置するステップは、第2の工具軸位置から、第1の工具軸位置から離れて第3の工具軸位置まで、第1の方向に第2の距離だけ工具軸を移動させることを含み得る。
【0049】
工具軸を第1および第2の工具軸位置から離れるように移動させることによって、公称すくい角がさらに縮小され、有効逃げ角が、第3の向きにおいて切削要素を再配置する直前に存在していた有効隙間と比較して増加される。例えば、有効隙間は、第2の位置において切削要素を再配置した直後のものに復元され得る。言い換えれば、第3の有効逃げ角は、第2の有効逃げ角および/または第1の有効逃げ角に対応し得る。
【0050】
第2の距離は、第1の距離と同じであるか、または第1の距離よりも小さいことがある。
【0051】
工具軸の並進によって引き起こされる公称すくい角の変化は、ワークピースの回転中心からのY軸に沿った距離に依存する。例えば、中心に近いほど、中心からより遠くで行われる工具軸並進の場合と同じ公称すくい角変化を達成するために、Y軸に沿ったより大きな並進が必要とされる。
【0052】
したがって、この実施形態を考慮した一例として、第1の機械加工ステップがX-Z平面に位置する切削要素を用いて実施される場合、公称すくい角変化は、第2の距離が第1の距離よりも小さい場合のみ、切削要素の2つの後続の再配置について同じである。
【0053】
しかしながら、多くの用途およびワークピース寸法について、この差を無視することが可能であり得る、すなわち、工具軸を、切削要素を再配置するとき、Y軸に沿って同じ距離移動させれば十分であり得る。言い換えれば、第2の距離は第1の距離と同じであり得る。これは、例えば、第1の機械加工作業がワークピースの中心の上方で実施され、第2の機械加工作業が中心において実施され、第3の機械加工作業が中心の下方で実施される場合にも当てはまり得る。その場合、Y軸に沿った両方の並進は、対応する公称すくい角変化を達成するために同じ大きさのものであり得る。
【0054】
本発明の第2の態様によれば、CNC旋盤と、プロセッサと、切削要素を含む旋削工具とを備えるシステムが提供され、本システムは、本発明の第1の態様による方法を実施するように構成される。プロセッサは、CNC旋盤の一体化部分であるか、またはCNC旋盤に動作可能に結合され得、実施される方法のステップのうちの少なくともいくつかをトリガするコンピュータプログラムを実行するように構成され得る。本システムは、そのようなコンピュータプログラムを記憶するためのメモリをさらに備え得る。
【0055】
したがって、第3の態様によれば、本発明は、本発明の第2の態様によるシステムによって実行されると、本発明の第1の態様による方法をシステムに実施させる命令を有するコンピュータプログラムに関する。
【0056】
したがって、本明細書で説明される方法は、様々な形態で存在し得る1つまたは複数のコンピュータプログラムによって具現化され得る。例えば、それらは、方法のステップのうちのいくつかを実施するためのプログラム命令から構成されたソフトウェアプログラムとして存在し得、コンピュータ可読媒体上で具現化され得る。言い換えれば、切削要素の再配置は、コンピュータプログラムにおいて決定された命令に従って行われ得る。これらの命令は、例えば、切削要素を再配置するための間隔およびそのような各再配置の程度など、パラメータを含み得る。これらのパラメータの最適値は、同様の構成要素を機械加工する経験に基づいて決定され得、例えば、ルックアップテーブルなどにおいて見られるエンドユーザによって入力され得る。代替的に、ユーザからの入力、例えば、使用されるインサートの種類、製造されるべきである構成要素の種類およびそのような構成要素を製造するときの「通常の」摩耗に関する情報、例えば、本発明による方法を使用しないときの予想される工具寿命に関係する入力に基づいて、最適なパラメータを計算するために、アルゴリズムが使用され得る。予想される工具寿命は、例えば、機械加工時間、または切削インサートが交換される前に製造される構成要素の数として決定され得る。そのようなアルゴリズムは、異なる構成要素および材料を製造するときの摩耗伝播の事前知識に基づき得る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】CBN切削要素を有する切削インサートを示す。
【
図2】機械加工中の摩耗していない切削要素の断面図を示す。
【
図3】安定したトライボロジー条件を仮定した場合の、摩耗した切削要素を示す。
【
図4】切削要素の公称すくい角を変更する影響を概略的に示す。
【
図5】本発明による旋削加工方法のステップを示すフローチャートである。
【
図6A-C】旋削加工方法の一実施形態を概略的に示す。
【
図7】旋削加工方法の別の実施形態に基づく試験による有効すくい角の変化を示すグラフである。
【
図8】切削要素のフランク摩耗の進行を示す、
図7と同じ試験に言及するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
すべての図は概略的であり、必ずしも縮尺通りではなく、一般に、それぞれの実施形態を解明するために必要な部分のみを示しているが、他の部分は、省略されるか、または単に示唆され得る。別途指示がない限り、異なる図において同様の参照符号は同様の部分を指す。
【0059】
図1は、CBN切削要素1がろう付けされた切削インサート7を示す。切削インサートは、この例では菱形であり、旋削工具(図示せず)のインサートポケット内のインサートの取り付けを容易にする締結孔8を有する。切削要素の一部が、切削要素のすくい面に対応する面取り部3と逃げ面4とを含む上面6を示す拡大図に示されている。面取り部3と逃げ面4との間に、切れ刃5が形成される。
【0060】
図2は、金属ワークピース2を機械加工するときの、より正確には、チップ9が形成され、したがって材料がワークピースから除去される旋削加工作業中の、切削要素1の断面を示す。切削要素は、CNC旋盤に取り付けられた旋削工具において配置され、公称すくい角γ
n_1および公称逃げ角α
n_1においてワークピースに対して配向される。切削要素1は、摩耗していない状態、すなわち、クレーター摩耗またはフランク摩耗がそれぞれすくい面および逃げ面に生じ始める前の状態にある。この状態では、有効すくい角γ
eおよび有効逃げ角α
eは、それぞれ公称すくい角γ
n_1および公称逃げ角α
n_1に対応する。図に見られるように、この切削要素の初期すくい角は負である。
【0061】
図3は、安定したトライボロジー条件または状態を仮定した後の、摩耗した切削要素1’を示す。この条件では、摩耗がさらに伝播したとしても、有効すくい角および有効逃げ角は大きく変化しない。しかしながら、図から分かるように、有効すくい角γ
eは、クレーター摩耗により、増加し(今や正である)、有効逃げ角α
eは、フランク摩耗により、0に縮小された。元の摩耗していない切削要素1は、破線で示されている。この安定状態は、かなり早期に、例えば予想される総工具寿命の30%後という早期に仮定され得、工具寿命の残りの間継続する。しかしながら、部分的には逃げ面とワークピースとの間の接触の増加により、機械加工された表面の完全性が影響を及ぼされる。
【0062】
図4は、切削要素の公称すくい角を変更する影響を概略的に示す。安定したトライボロジー状態が仮定されている場合、またはそれが仮定される前に、有効逃げ角を復元するために公称すくい角が変更され得る。
図4では、元の摩耗していない切削要素が破線で示され、摩耗した切削要素1’が点線で示され、再配置された摩耗した切削要素1”が実線で示されている。この例では、公称すくい角変化Δγ
nをもたらす再配置が、切削要素を傾けることによって行われている。しかしながら、後述するように、切削要素の再配置は、他の手段によっても達成され得る。
【0063】
以下では、旋削加工方法のステップを示すフローチャートである
図5を参照して、および本方法の一実施形態の概略図である
図6A~
図6Cを参照して、CNC旋盤のための旋削加工方法が説明される。
【0064】
ステップ501において、その回転軸の周りで回転方向Rに回転可能なワークピース2が提供される。
【0065】
ステップ502において、旋削工具10が、工具軸Lに沿って、この場合は旋盤のX軸と平行に延びるように提供される。旋削工具10は、CBN切削インサートの形態の切削要素11を備える。
図1~
図4に示されている切削要素1とは対照的に、
図6A~
図6Cに示されている切削要素11は、切れ刃と切削要素の上面との間に形成される面取り部を有しない。切削要素は、ワークピースに対して異なる向きに配置可能であり、各向きは、切れ刃とワークピースとの間の接触点におけるワークピースの表面に垂直な線に対する公称すくい角γ
nによって決定される。
【0066】
ステップ503において、切削要素は、(この例では0である)第1の公称すくい角γ
n_1および公称逃げ角α
n_1によって決定される、
図6Aに示されている第1の向きにおいて、ワークピースに対して配置される。
図6Aに示されている切削要素11が、摩耗していない切削要素である場合、公称すくい角および公称逃げ角は、最初は、それぞれ有効すくい角および有効逃げ角に対応する。
図6Bおよび
図6Cは、有効角が公称角と異なり得るようにすくい面および逃げ面に摩耗が生じていることがある後続の機械加工ステップを示す。しかしながら、可視性を改善し、理解を容易にするために、摩耗および有効角は
図6A~
図6Cに示されていない。
【0067】
ステップ504において、ワークピースは、切削要素が第1の向きにある状態で機械加工される。
【0068】
ステップ505において、切削要素は、
図6Bに示されている別の向きにおいて、ワークピースに対して、または機械加工される別のワークピースに対して、再配置される。したがって、切削要素11は、異なる公称すくい角γ
n_2および異なる公称逃げ角α
n_2で配置される。この例では、新しい公称すくい角γ
n_2は負であり、すなわち、以前の公称すくい角γ
n_1よりも小さい。切削要素11の再配置は、ワークピース2に対する旋削工具10の並進移動によって達成されている。この移動は、Y軸方向の成分を有し、すなわち、それにより、工具軸Lが距離ΔY
1だけY軸方向に変位する。結果として、公称すくい角は減少し、公称逃げ角は増加する(すなわち、γ
n_2<γ
n_1、α
n_2>α
n_1)。
【0069】
ステップ506において、ワークピースまたは別のワークピースは、切削要素が再配置された向きにある状態で、機械加工される。
【0070】
図5中の矢印507によって示されているように、切削要素を異なる向きにおいて再配置するステップと、再配置された切削要素でワークピース(または別のワークピース)を機械加工するステップとは、数回繰り返され得る。
【0071】
したがって、
図6Cでは、切削要素11は、工具軸Lが距離ΔY
2だけY軸方向に変位するように、工具軸LをY軸方向の成分を有する方向に並進させることによって再び再配置されている。それにより、切削要素11は、ここで、以前の公称すくい角γ
n_2よりも小さいかまたはさらに負である公称すくい角γ
n_3と、以前の公称逃げ角α
n_2よりも大きい公称逃げ角α
n_3とで配置される。
【0072】
図7は、切削要素の有効すくい角が機械加工中にどのように変化し得るかと、有効すくい角が切削要素の複数の再配置によってどのように影響を及ぼされるかとを示す。グラフは、(異なる公称すくい角γ
n_1、γ
n_2、γ
n_3およびγ
n_4を提供する)4つの別様に設計された工具ホルダがワークピースに対して異なる向きで切削要素を再配置するために使用された試験の結果を示す。この試験において使用された切削要素は、面取り部を有するCBN切削要素(すなわち、
図1に示されている切削要素と同様)であった。切削要素は、最初に、第1の公称すくい角γ
n_1(したがって、初期有効すくい角γ
e)が-36度であり、(グラフに示されていない)逃げ角が6度であるように、ワークピースに対して配置された。15分間の機械加工の後に、切削要素は、公称(および有効)すくい角が6度だけ縮小されるように再配置された。そのような再配置は、30分間の機械加工の後に再度行われ、次いで、45分間の機械加工の後に再度行われた。
図7に破線で示されているこれらの再配置の各々は、有効すくい角の6度だけの即時減少をもたらした。図に見られるように、第1の再配置は安定条件に達する前に行われ、第2および第3の再配置は、そのような安定条件に達した後に行われた。この例では、有効すくい角が約15度であった安定条件は、30分および45分間の機械加工時に行われたそれぞれの再配置の後に、かなり迅速に再仮定された。
【0073】
縦軸にフランク摩耗の平均幅VB
Bを示す
図8中のグラフは、上記で説明された試験における切削要素の(点で示されている)フランク摩耗81の伝播を示す。再配置されなかった対応する切削要素の(三角形で示されている)基準フランク摩耗82も、グラフに示されている。
図8に見られるように、本発明による方法を使用する場合、フランク摩耗の平均幅VB
Bは、60分間の機械加工後に200μmに近くなるが、このレベルのフランク摩耗は、本方法を使用しない場合、36分間の機械加工後に既に得られている。
【国際調査報告】