(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】超解像技術を利用したデータキャリア、読出方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G11B 7/004 20060101AFI20240305BHJP
G11B 7/24035 20130101ALI20240305BHJP
G11B 7/24012 20130101ALI20240305BHJP
G11B 7/243 20130101ALI20240305BHJP
【FI】
G11B7/004 Z
G11B7/24035
G11B7/24012
G11B7/243
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557232
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2021056661
(87)【国際公開番号】W WO2022194354
(87)【国際公開日】2022-09-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522055832
【氏名又は名称】セラミック・データ・ソリューションズ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CERAMIC DATA SOLUTIONS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】クンツェ・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プフラウム・クリスティアン
【テーマコード(参考)】
5D090
【Fターム(参考)】
5D090AA03
5D090AA07
5D090BB16
5D090CC04
5D090FF11
(57)【要約】
【課題】情報の長期保存が可能なデータキャリアにおいて、保存される情報の容量増大が可能なデータキャリアと、その情報を読み出す方法とシステムを提供する。
【解決手段】
フォトルミネッセント材料からなる層の画像を、情報を符号化した凹部を有するデータキャリアの表層を介して、構造化照明顕微鏡(SIM)装置または飽和構造化照明顕微鏡(SSIM)装置を含むシステムで取得・処理することにより、情報の複合化が行われる。フォトルミネッセント材料層は、装置側の試料支持体、あるいはデータキャリアの片面または両面に設けられる。情報を符号化した凹部は、データキャリアのセラミックス基板上に被覆されたコーティング層、基板上に設けられたフォトルミネッセント材料層、あるいはフォトルミネッセント材料層上に被覆されたコーティング層に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データキャリアから情報を読み出す方法であって、
フォトルミネッセント材料層を有する試料支持体を備えた、飽和構造化照明顕微鏡(SSIM)装置または構造化照明顕微鏡(SIM)装置を準備する過程と、
透明セラミックス基板と、前記セラミックス基板上に設けられた、該セラミックス基板とは異なる素材からなり、情報が符号化された複数の凹部を有するコーティング層とを含むデータキャリアを準備する過程と、
前記データキャリアを、前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層上に配置する過程と、
前記データキャリアを介して、前記試料支持体の前記層フォトルミネッセント材料から、SIM画像またはSSIM画像を取得する過程と、
前記SIM画像またはSSIM画像を処理して、前記データキャリアに符号化された前記情報を復号化する過程と、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記データキャリアを、前記コーティング層が前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層に面する形で、前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層上に配置する、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層の表面および、データキャリアの、前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層に面する表面が、実質的に平坦であり、前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層の表面と、前記データキャリアが前記試料支持体の前記フォトルミネッセント材料層に面する表面との間の隙間の最大値を、10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは2nm以下とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記コーティング層の各凹部の深さを、前記コーティング層の層厚と実質的に同一とする、方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記コーティング層の各凹部の深さを、前記コーティング層の層厚を上回るものとする、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法において、前記コーティング層の層厚を、100nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは10nm以下とする、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法において、前記セラミックス基板の板厚を、200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下とする、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、各凹部の断面の、該凹部の深さと直交する寸法の最大値を、250nm以下、好ましくは100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下とする、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、フォトルミネッセント材料層を有する試料支持体を備えた、SSIM装置またはSIM装置を準備する前記過程は、
試料支持体を備えた標準的なSIM装置またはSSIM装置を準備するステップと、
該試料支持体上に前記フォトルミネッセント材料層を搭載するステップとを含む、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、前記フォトルミネッセント材料層が、フォトルミネッセンス性結晶、好ましくはフォトルミネッセンス性単結晶である、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法において、前記試料支持体と前記フォトルミネッセント材料層との間に、光反射層が存在する、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記フォトルミネッセント材料は、第1波長で励起最大となり、第2波長で発光最大となるものであり、前記光反射層は、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対する90°反射率が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である、方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法でデータキャリアから情報を読み出すシステムであって、
フォトルミネッセント材料層を有する試料支持体を備えたSIM装置またはSSIM装置と、
前記SIM画像またはSSIM画像を処理し、前記データキャリアに符号化された前記情報を復号化するように構成されたプロセッサと、
を備える、システム。
【請求項14】
片側の第1面および反対側の第2面を有するセラミックス基板と、
前記セラミックス基板の前記第1面上に設けられた、フォトルミネッセント材料からなる第1の層と、
を備え、フォトルミネッセント材料からなる前記第1の層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリア。
【請求項15】
請求項14に記載のデータキャリアにおいて、さらに、
前記セラミックス基板の前記第2面上に設けられた、フォトルミネッセント材料からなる第2の層を備え、該フォトルミネッセント材料からなる第2の層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリア。
【請求項16】
請求項14または15に記載のデータキャリアにおいて、前記第1の層および/または第2の層の各凹部の深さが、対応する層の層厚と実質的に同一である、データキャリア。
【請求項17】
請求項12または15に記載のデータキャリアにおいて、前記第1の層および/または第2の層の各凹部の深さが、対応する層の層厚を上回る、データキャリア。
【請求項18】
請求項17に記載のデータキャリアにおいて、前記基板内へと各凹部が入り込む深さは、1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である、データキャリア。
【請求項19】
請求項14から18のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記セラミックス基板と第1のフォトルミネッセント材料層との間に第1の光反射層が存在し、かつ/または、前記セラミックス基板と第2のフォトルミネッセント材料層との間に第2の光反射層が存在する、データキャリア。
【請求項20】
請求項19に記載のデータキャリアにおいて、前記フォトルミネッセント材料は、第1波長で励起最大となり、第2波長で発光最大となるものであり、前記第1の光反射層および/または第2の光反射層は、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対する90°反射率が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である、データキャリア。
【請求項21】
片側の第1面および反対側の第2面を有するセラミックス基板と、
前記セラミックス基板の前記第1面に設けられた、第1のフォトルミネッセント材料層と、
前記第1のフォトルミネッセント材料層上に設けられた第1コーティング層と、
を備え、
前記第1コーティング層の素材が、前記フォトルミネッセント材料と異なり、前記第1コーティング層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリア。
【請求項22】
請求項21に記載のデータキャリアにおいて、さらに、
前記セラミックス基板の前記第2面上に設けられた、フォトルミネッセント材料からなる第2の層と、
前記フォトルミネッセント材料からなる第2の層上に設けられた第2コーティング層と、
を備え、前記第2コーティング層の素材が、前記励起発光材料と異なり、前記第2コーティング層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリア。
【請求項23】
請求項21または22に記載のデータキャリアにおいて、前記フォトルミネッセント材料は、第1波長で励起最大および第2波長で発光最大となるものであり、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層が、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対し実質的に不透明である、データキャリア。
【請求項24】
請求項21から23のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の各凹部の深さが、対応するコーティング層の層厚と実質的に同一である、データキャリア。
【請求項25】
請求項21から23のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の各凹部の深さが、対応するコーティング層の層厚を上回る、データキャリア。
【請求項26】
請求項25に記載のデータキャリアにおいて、フォトルミネッセント材料からなる前記第1の層および/または前記第2の層内へと各凹部が入り込む深さは、1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である、データキャリア。
【請求項27】
請求項21から26のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の層厚が、1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは10nm以下である、データキャリア。
【請求項28】
請求項21から27のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記セラミックス基板と前記励起発光材料からなる第1の層との間に、第1光反射層が介在し、かつ/あるいは、前記セラミックス基板とフォトルミネッセント材料の前記第2の層との間に第2光反射層が存在している、データキャリア。
【請求項29】
請求項28に記載のデータキャリアにおいて、前記フォトルミネッセント材料は、第1波長で励起最大および第2波長で発光最大となるものであり、前記第1光反射層および/または第2光反射層は、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対する90°反射率が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である、データキャリア。
【請求項30】
請求項21から29のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、フォトルミネッセント材料からなる前記第1の層および/または前記第2の層の層厚が、1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは10nm以下である、データキャリア。
【請求項31】
請求項21から30のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層とフォトルミネッセント材料からなる前記第1の層および/または第2の層との間に焼結界面がそれぞれ存在しており、好ましくは、前記焼結界面が、対応するコーティング層の少なくとも1種の元素およびフォトルミネッセント材料の対応する層の少なくとも1種の元素を含有している、データキャリア。
【請求項32】
請求項21から31のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記セラミックス基板とフォトルミネッセント材料の前記第1の層および/または第2の層との間に焼結界面が存在しており、好ましくは、前記焼結界面が、前記セラミックス基板の少なくとも1種の元素および対応する層の少なくとも1種の元素を含有している、データキャリア。
【請求項33】
請求項14から32のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、フォトルミネッセント材料からなる第1の層および/または第2の層が、Y
3Al
5O
12;Ce
3+、Lu
2SiO
5;Ce
3+、Al
2O
3:Ce
3+、Al
2O
3:Ti
3+またはこれらの組合せを含有している、データキャリア。
【請求項34】
請求項14から33のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記セラミックス基板が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムまたはこれらの組合せを含有している、データキャリア。
【請求項35】
請求項14から34のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記セラミックス基板の板厚が、2mm以下、より好ましくは1mm以下、より好ましくは200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である、データキャリア。
【請求項36】
請求項14から35のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、前記基板のヤング率が、80GPa以下、好ましくは75GPa以下である、データキャリア。
【請求項37】
請求項14から36のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、当該データキャリアは、曲率半径が250mm、好ましくは200mm、より好ましくは150mmでも破断しない、データキャリア。
【請求項38】
請求項14から37のいずれか一項に記載のデータキャリアにおいて、当該データキャリアが、ロール状に巻かれている、データキャリア。
【請求項39】
請求項14から38のいずれか一項に記載のデータキャリアの製造方法であって、
セラミックス基板を準備する工程と、
前記セラミックス基板の前記第1面上に設けたフォトルミネッセント材料からなる第1の層により、前記セラミックス基板を被覆する工程と、
任意で、前記セラミックス基板の前記第2面上に設けたフォトルミネッセント材料からなる第2の層により、前記セラミックス基板を被覆する工程と、
フォトルミネッセント材料からなる前記第1の層、さらには、任意で、前記第2の層に、レーザアブレーション加工によって複数の凹部を形成する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項40】
請求項21から38のいずれか一項に記載のデータキャリアの製造方法であって、
セラミックス基板を準備する工程と、
前記セラミックス基板の前記第1面上に設けたフォトルミネッセント材料からなる第1の層により、前記セラミックス基板を被覆する工程と、
フォトルミネッセント材料からなる前記第1の層を第1コーティング層で被覆する工程と、
任意で、前記セラミックス基板の前記第2面上に設けたフォトルミネッセント材料からなる第2の層により、前記セラミックス基板を被覆し、フォトルミネッセント材料からなる前記第2の層を第2コーティング層で被覆する工程と、
前記第1コーティング層、さらには、任意で、前記第2コーティング層に、レーザアブレーション加工によって複数の凹部を形成する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項41】
請求項39または40に記載の製造方法において、被覆する工程が、物理気相成長法または化学気相成長法によって実施される、製造方法。
【請求項42】
請求項39から41のいずれか一項に記載の製造方法において、さらに、
被覆済みの前記基板を200℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは1000℃以上の温度で焼戻しする工程、
を備える、製造方法。
【請求項43】
請求項39から42のいずれか一項に記載の製造方法において、前記フォトルミネッセント材料は、第1波長で励起最大および第2波長で発光最大となるものであり、レーザアブレーション加工を、前記第1波長で実施する、製造方法。
【請求項44】
データキャリアから情報を読み出す方法であって、
試料支持体を含む、飽和構造化照明顕微鏡(SSIM)装置または構造化照明顕微鏡(SIM)装置を準備する過程と、
請求項14から38のいずれかに記載のデータキャリアを前記試料支持体上に配置する過程と、
前記データキャリアのフォトルミネッセント材料からなる前記層からSIM画像またはSSIM画像を取得する過程と、
前記SIM画像またはSSIM画像を処理して、前記データキャリアに符号化された前記情報を復号化する過程と、
を備える、方法。
【請求項45】
請求項44に記載の方法において、各凹部の断面の、該凹部の深さと直交する寸法の最大値が、250nm以下、好ましくは100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造化照明顕微鏡法(SIM)または飽和構造化照明顕微鏡法(SSIM)の概念を利用した、データキャリアからの情報読出方法およびデータキャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
人類が1日に発生させているバイト数は、平均で約250京バイトと推定されている。これらのデータの大部分は、短期的利用のために生成されているものと思われるが、長期的なデータ保存の需要は日々高まっている。フラッシュメモリやハードディスクドライブ(HDD)、磁気テープなどの現行のデータキャリアは、長期保存の面では理想に程遠いことは明らかである。そのため、マイクロソフト社などの企業は現在、これらを代替する長期保存技術を模索している(例えば、いわゆる「ProjectSilica」や特許文献1を参照のこと)。
【0003】
特許文献2には、情報の長期保存に用いられる異なる技術が記載されている。この技術は、異種材料の層でコーティングされたセラミックス基板を使用し、該コーティングされた基板の局所領域に例えばレーザ等による処理を行うことで、該コーティングされた基板へと情報を符号化するという技術である。この技術は、符号化後の書込み可能なセラミックス板体が、湿気、電磁場、酸性または腐食性の物質などに対し、高い耐久性で情報の保存を可能にし、一般的に使用されている他の情報記憶媒体では得られないほどの耐久性をもたらすことが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第10719239号明細書
【特許文献2】国際公開第2021/028035号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mats G.L. Gustafsson, Nonlinear structured-illumination microscopy: Wide-field fluorescence imaging with theoretically unlimited resolution, PNAS, September 13, 2005, Vol. 102, No. 37, pages 13081-13086
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実験では、このようなセラミックス系データキャリアに特に小型の構造(例えば、二次元バーコード等の形態)が形成され得るということが実証されているが、符号化された情報を再び復号化する際に、このような小規模の構造を光学的に解像しようとすると、周知の回折限界により困難に直面する場合がある。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、データ保存容量を増大させた、長期データ保存用のデータキャリアの改良品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、数年前に発表された技術であるSIMまたはSSIM(例えば、非特許文献1等を参照)を利用することによって達成される。SIMまたはSSIMは、主に生物学や薬学の顕微鏡用途において、回折限界を遥かに超える光学分解能をもたらすことが実証されている。SSIMは、所定の空間周波数の照明を適用して生成されたモアレ縞を分析することにより古典的な解像限界未満の構造の識別を可能にする構造化照明顕微鏡法の原理と、飽和による照明強度-対-発光率の非線形的依存の原理との2種類の原理に基づいた技術である。ただし、SSIMを利用するには、フォトルミネッセント材料、好ましくは蛍光材料が必要となる。
本発明では、このようなフォトルミネッセント材料または蛍光材料の様々な実装方法を提案する。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、フォトルミネッセント材料または蛍光材料が、データキャリアから情報を読み出す処理時にのみ導入される。基本的に、該データキャリアは、特許文献2(同文献は、特に、データキャリア(または情報記憶媒体)の構成、該データキャリアの好適な材料および該データキャリアの製造方法についての開示に関して、参照をもって取り入れたものとする)に記載のデータキャリアと同一のものであってもよい。
【0010】
この第1の態様によれば、本発明は、データキャリアから情報を読み出す方法に関する。本方法は、フォトルミネッセント材料の層、好ましくは蛍光材料の層を含有して顕微鏡使用時に試料を担持し且つ/或いは取り付ける試料支持体を有する、構造化照明顕微鏡(SIM)装置または飽和構造化照明顕微鏡(SSIM)装置を準備する過程、を備える。本方法は、さらに、データキャリアを準備する過程、を備える。このデータキャリアは、透明セラミックス基板(あるいは、ガラスセラミックス基板またはガラス基板)および前記透明セラミックス基板上に設けられたコーティング層を含み、前記コーティング層の素材は、前記セラミックス基板の素材と異なっており、該コーティング層が、情報を符号化した複数の凹部を有するものである。前記情報は、アナログ形式(例えば、文字、記号、写真、絵もしくはその他のグラフィックスを用いた形式)またはデジタル形式(例えば、二次元バーコードや、PCT/EP2021/053894(同文献は、参照をもってその全体を取り入れたものとする)に記載されているような、より複雑なマトリックスコードを用いた形式)で符号化されたものであってもよい。本方法は、さらに、前記データキャリアを、前記試料支持体におけるフォトルミネッセント材料(または蛍光材料)の層上に配置する過程と、前記データキャリアを介して、前記試料支持体におけるフォトルミネッセント材料(または蛍光材料)の層から、SIM画像またはSSIM画像を取得する過程と、前記SIM画像またはSSIM画像を処理して、前記データキャリアに符号化された情報を復号化する過程と、を備える。前記SIM画像またはSSIM画像の取得及び処理は、上記のGustafssonの論文(非特許文献1)に記載されたようにして実施される。
【0011】
基本的に、本発明は、前記セラミックス基板の透光性と、前記コーティング層の凹部が存在しない部分の光反射性及び/又は吸光性とを利用することで、前記データキャリアのうちの凹部が存在する部分でのみ、フォトルミネッセンス応答または蛍光応答の発生を可能とするものである。これらの部分では、SIM装置またはSSIM装置からの照明がデータキャリアを透過して試料支持体のフォトルミネッセント材料または蛍光材料を励起し、そのフォトルミネッセント材料または蛍光材料が応答光を発して該応答光が透明セラミックス基板を透過してSIM装置またはSSIM装置のセンサに到達する。つまり、各凹部は、同じ形状・大きさのフォトルミネッセント材料または蛍光材料の塊であるかの如くに振る舞う。
【0012】
当業者であれば、前記セラミックス基板がフォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長、発光波長の双方に対し透明でなければならないことを理解するであろう。よって、好ましくは、セラミックス基板は、励起波長及び発光波長の入射電磁波パワーの10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上を透過する。前記励起波長及び前記発光波長は、UVスペクトル(100nm~400nm)から可視光スペクトル(400nm~780nm)を経て近赤外スペクトル(780nm~5000nm)までの範囲内であり得る。
【0013】
同様に、前記コーティング層の素材は、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長と発光波長の少なくとも一方に対し、十分な吸光性または光反射性を有していることが望ましい。好ましくは、コーティング層は、励起波長及び前記発光波長の入射電磁波パワーの10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上を吸収および/または反射する。前記励起波長及び前記発光波長は、UVスペクトル(100nm~400nm)から可視光スペクトル(400nm~780nm)を経て近赤外スペクトル(780nm~5000nm)までの範囲内であってもよい。
【0014】
前記データキャリアの各層の透光性、吸光性および光反射性の測定および/または計算には、異なる技術を用いてもよい。例えば、データキャリア全体と基板単独についてそれぞれ別に、特定の波長における透光、吸光および光反射を測定することにより、コーティング層の対応する各光学特性を計算してもよい。
【0015】
データキャリアを試料支持体におけるフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層上に設置するにあたり、コーティング層が支持部のフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層に面するように配置することが好ましい。これにより、前記コーティング層の凹部の境界または壁が光学活性物質に直接隣接することになるので、光学的コントラストが向上する。しかしながら、データキャリアを、これと上下逆にして試料支持体上に設置してもよい。ただし、この場合、透明セラミックス基板の板厚をできるだけ薄くすることが好ましい。
【0016】
また、試料支持体におけるフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層の表面と、データキャリアにおいて前記試料支持体のフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記層に面する表面とが、実質的に平坦であることが好ましく、試料支持体におけるフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層の表面と、データキャリアにおいて前記試料支持体のフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層に面する表面との間の間隙を、10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは2nm以下とすることが望ましい。
【0017】
前記コーティング層の各凹部は、該コーティング層の層厚と実質的に同一の深さを有することが好ましい。これにより、各凹部では、コーティング層の吸光性物質および/または光反射性物質が実質的に全て除去されて、光が何の障害もなく透明セラミックス基板を透過できるとともに、例えばアブレーション加工により、透明セラミックス基板に機械的影響を及ぼすことは避けられる。あるいは、コーティング層の各凹部は、コーティング層の層厚より大きな深さを有してもよい。これにより、各凹部では、コーティング層の素材の全てが実際に完全に除去されることが確実になると同時に、アブレーション加工を求められる加工精度の点で単純化できる。但し、各凹部のセラミックス基板内への入り込みは、基板の板厚の1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、なお好ましくは0.01%である。
【0018】
好ましくは、コーティング層の層厚は、100nm以下、より好ましくは30nm以下、最も好ましくは10nm以下である。
【0019】
好ましくは、前記セラミックス基板の板厚は、2mm以下、より好ましくは1mm以下、より好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、なお好ましくは50μm以下である。
【0020】
好ましくは、各凹部の断面の、該凹部の深さと直交する寸法の最大値は、250nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、なお好ましくは30nm以下、最も好ましくは20nm以下である。基本的に各凹部の形状はどのような形状であってもよいが、円形の断面を有する略円筒形状の凹部を設けることが特に好ましい。
【0021】
本発明の方法に使用される前記SIM装置またはSSIM装置は、標準的なSIM装置またはSSIM装置に、特にフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層を有する支持体を具備させたものであってもよい。あるいは、標準的なSIM装置またはSSIM装置の標準的な試料支持体の上に、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層を配置または取り付けることにより、標準的なSIM装置またはSSIM装を本発明の方法に沿ってアップグレードしてもよい。
【0022】
基本的に、本発明の態様では、様々なフォトルミネッセント材料または蛍光材料を用いることができる。当然ながら、そのフォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長および発光波長は、SIM装置またはSSIM装置の光源に適合している必要がある。好ましくは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層は、フォトルミネッセンス性結晶または蛍光性結晶であり、特には、単結晶が光学特性の面で有利であることからフォトルミネッセンス性単結晶または蛍光性単結晶の形をとることが好ましい。母相の結晶として特に好ましい材料の例としては:(Ba,Sr)2SiO4、Ba2LiSi7AlN12、Ba2Si5N8、BaAl8O13、BaAl12O19、BaF2、BaMgAl10O17、BaSi2O5、BaSi7N10、Ca2Si5N8、Ca5(PO4)3(F,Cl)、CaAlSiN3、(Ca,Mg)SiO3、(Ca,Sr)AlSiN3、(Ca,Sr)2SiO4、CaS、CaSc2O4、CaZnGe2O6、CdSe、Cd2B2O5、CeMgAl11O19、Ga2O3、Gd2O2S、Gd3Ga5O12、Gd3Sc2Al3O12、GdAlO3、GdMgB5O10、K2SiF6、KY3F10、La3Si6N11、LaB3O6、LaBO3、LaMgAl11O19、LaPO4、LiAlO2、LiEuMo2O8、LiYF4、Lu3Al5O12、MgS、MgWO4、NaYF4、Sr2Al6O11、Sr2MgSi2O7、Sr2P2O7、Sr2Si5N8、Sr3Gd2Si6O18、Sr4Al14O25、Sr5(PO4)3Cl、SrAl12O19、SrB4O7、SrGa2O4、SrLiAl3N4、SrMgSi3N4、SrS、Tb3Al5O12、Y2O3、(Y,Gd)2O3、Y2O2S、Y3Al5O12、(Y,Gd)3Al5O12、Y3(Al,Ga)5O12、(Y,Gd)BO3、YAlO3、YPO4、YVO4、Zn2SiO4、(Zn,Be)2SiO4、Zn2(Si,Ge)O4、ZnGa2O4およびZnSが挙げられる。ドーパントとして特に好ましい元素の例としては:Bi、Ce、Er、Eu、Dy、Gd、Ho、La、Lu、Sc、Nd、Pr、Tb、Tm、Ybなどの希土類金属、およびCo、Mn、Fe、Pb、Cu、Al、Au、Cr、Tiなどの金属が挙げられる。Ce、Eu、CrおよびTiが、特に好ましい元素である。特に好ましい蛍光材料としては:Y3Al5O12:Ce3+、Lu2SiO5:Ce3+、Al2O3:Cr3+およびAl2O3:Ti3+が挙げられる。
【0023】
後者の材料は、光学特性がYb:YAG、Nd:YAG、Ti:Saなどの特定の標準的なレーザ光源の発光波長に完全に合っているので、とりわけ好ましい。
【0024】
本発明の方法の信号対雑音比を向上させるには、試料支持体とフォトルミネッセント材料の層との間に光反射層が存在していることが好ましい。好ましくは、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第1波長で励起最大となり、第2波長で発光最大となるものであり、前記光反射層は、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対する90°反射率が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0025】
ここでも、SIM装置またはSSIM装置は、標準的な装置に対し、フォトルミネッセント材料または蛍光材料と前記光反射層との双方による改良が施されたものであってもよい。標準的なSSIM装置における標準的な試料支持体に各層をそれぞれ配置または取り付けることにより、あるいは、試料支持体上にフォトルミネッセント材料または蛍光材料と前記光反射層との積層体を配置することによって改良を施してから、この改良済みの試料支持体上に前記データキャリアを配置してもよい。
【0026】
第1の態様によれば、本発明は、さらに、上記の方法でデータキャリアから情報を読み出すシステムに関する。本システムは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層を具備する試料支持体を含むSIM装置またはSSIM装置と、SIM画像またはSSIM画像を処理し、データキャリアに符号化された情報を復号化するように構成されたプロセッサと、を備える。前記方法との関連で上述したように、試料支持体は、さらに、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層上に、光反射層を具備していてもよい。
【0027】
上述のように、本発明の第1の態様では、透明セラミックス材料を用いるが、この材料は、ガラス状または結晶状態であってもよい。特に好ましい透明セラミックス材料としては:サファイア(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニウム(Zr(SiO4))、ZrO2、または、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムまたはこれらの組合せを含有する透明セラミックス材料が挙げられる。
【0028】
基本的に、前記コーティング層の素材には、上述の光学特性を有するものであれば、どのような素材を使用してもよい。しかしながら、データキャリアに期待される長期安定性を考慮すると、コーティング層は、以下の材料から選択される一種または、組み合わせからなることが特に好ましい:Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta、Th、Nb、Mn、Mg、Hf、MoおよびV;CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物;TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物;Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3などの金属酸化物;TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物;TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物。
【0029】
上述のように、第1の態様による発明では、符号化された情報を復号する際にのみ前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料を利用するが、当然、変形例として、データキャリア自体にフォトルミネッセント材料または蛍光材料を組み込んでもよい。
【0030】
従って、第2の態様によれば、本発明は、片側の第1面および反対側の第2面を有するセラミックス基板と、前記セラミックス基板の第1面上に設けられた、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層と、を備え、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリアに関する。上述のように、該凹部は、任意の情報を任意のアナログ形式および/またはデジタル形式で符号化したものであってもよい。
【0031】
第1の態様に係る発明とは異なり、この第2の態様のセラミックス基板は透明でなくてもよい。そのため、セラミックス基板の素材には、例えば特許文献2に列挙されているような、様々な材料が好適となる。セラミックス基板は、酸化物セラミックスを含むものが特に好ましい。好ましくは、セラミックス基板は、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2,MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3、その他の任意の酸化物セラミックス材料、またはこれらの組合せを、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上含有している。また、前記セラミックス基板としては、非酸化物セラミックスからなるものも好ましい。セラミックス基板は、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物;TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物;TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物;TiSi2、ZrSi2、MoSi2、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物;その他の任意の非酸化物セラミックス材料;またはこれらの組合せ;を、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上含有することが好ましい。
【0032】
前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、どのようなフォトルミネッセント材料または蛍光材料であってもよい。本発明の文脈において、フォトルミネッセンス量子収率または蛍光量子収率が10%以上であれば、どのような材料も「フォトルミネッセント材料」または「蛍光材料」であると見なす。フォトルミネッセント材料のフォトルミネッセンス量子収率とは、吸収光子数のうちから放出される光子数の割合である。蛍光材料の蛍光量子収率とは、吸収光子数に対する放出光子数の割合である。フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層は、同じ材料のみからなる必要はなく、様々な理由から添加剤を含有していてもよいが、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層は、全体として10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上の量子収率を示していることが好ましい。
【0033】
好ましくは、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、フォトルミネッセンス性結晶または蛍光性結晶であり、特には、単結晶が光学特性の面で有利であることからフォトルミネッセンス性単結晶または蛍光性単結晶の形態をとることが好ましい。母相の結晶として特に好ましい材料の例としては:(Ba,Sr)2SiO4、Ba2LiSi7AlN12、Ba2Si5N8、BaAl8O13、BaAl12O19、BaF2、BaMgAl10O17、BaSi2O5、BaSi7N10、Ca2Si5N8、Ca5(PO4)3(F,Cl)、CaAlSiN3、(Ca,Mg)SiO3、(Ca,Sr)AlSiN3、(Ca,Sr)2SiO4、CaS、CaSc2O4、CaZnGe2O6、CdSe、Cd2B2O5、CeMgAl11O19、Ga2O3、Gd2O2S、Gd3Ga5O12、Gd3Sc2Al3O12、GdAlO3、GdMgB5O10、K2SiF6、KY3F10、La3Si6N11、LaB3O6、LaBO3、LaMgAl11O19、LaPO4、LiAlO2、LiEuMo2O8、LiYF4、Lu3Al5O12、MgS、MgWO4、NaYF4、Sr2Al6O11、Sr2MgSi2O7、Sr2P2O7、Sr2Si5N8、Sr3Gd2Si6O18、Sr4Al14O25、Sr5(PO4)3Cl、SrAl12O19、SrB4O7、SrGa2O4、SrLiAl3N4、SrMgSi3N4、SrS、Tb3Al5O12、Y2O3、(Y,Gd)2O3、Y2O2S、Y3Al5O12、(Y,Gd)3Al5O12、Y3(Al,Ga)5O12、(Y,Gd)BO3、YAlO3、YPO4、YVO4、Zn2SiO4、(Zn,Be)2SiO4、Zn2(Si,Ge)O4、ZnGa2O4およびZnSが挙げられる。ドーパントとして特に好ましい元素の例としては:Bi、Ce、Er、Eu、Dy、Gd、Ho、La、Lu、Sc、Nd、Pr、Tb、Tm、Ybなどの希土類金属、およびCo、Mn、Fe、Pb、Cu、Al、Au、Cr、Tiなどの金属が挙げられる。特に好ましい元素は、Ce、Eu、CrおよびTiである。特に好ましい蛍光材料としては:Y3Al5O12:Ce3+、Lu2SiO5:Ce3+、Al2O3:Cr3+およびAl2O3:Ti3+が挙げられる。
【0034】
後者の材料は、光学特性がYb:YAG、Nd:YAG、Ti:Saなどの特定の標準的なレーザ光源の発光波長に完全に合っているので、とりわけ好ましい。
【0035】
下記で詳述するが、このデータキャリアから情報を読み出す方法は、基本的に先述の場合と類似しており、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料が存在する(前記第1の層がそのままである)のかそれとも存在しない(凹部が設けられている)のかによってフォトルミネッセンスのコントラストまたは蛍光のコントラストが得られる。凹部の底部にフォトルミネッセント材料または蛍光材料が少量でも残存していると大きなノイズに繋がる可能性があるため、該フォトルミネッセント材料または蛍光材料は凹部の断面の実質全体にわたって前記第1の層の底部に至るまで完全に除去されていることが好ましい。よって、前記第1の層の各凹部の深さは、前記第1の層の層厚と実質的に同一であるか、さらに第1の層の層厚を上回っていることが好ましい。と同時に、前記セラミックス基板内へと各凹部が入り込む深さは、該凹部の存在により、基板に及び得るいかなる悪影響も避け得るように、1μm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下とされる。第1の態様との関連で上述したが、前記基板内へと入り込む各凹部の割合は該基板の板厚の1%未満であることが好ましく、好ましくは0.1%未満、さらに好ましくは0.01%未満である。
【0036】
データキャリアのデータ保存容量を増大させるため、前記データキャリアは、さらにセラミックス基板の第2面上に設けられた、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層を備え、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層が、情報を符号化した複数の凹部を有することが好ましい。
【0037】
前記セラミックス基板とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層との間に第1光反射層があってもよく、かつ/あるいは、前記セラミックス基板とフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層との間に第2光反射層があってもよい。それらは、光反射性は、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長、発光波長の両方に対して、光反射性を有することが好ましい。したがって、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第1波長で励起最大となり、第2波長で発光最大となるものであるとして、前記第1光反射層および/または第2光反射層は、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対する90°反射率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
前記第1および第2光反射層は、Cu、Al、Au、Ag、Ni、Cr、PtおよびTiなどの高反射率の金属を含むものであってもよい。
【0039】
上述した本発明の第2の態様に係るデータキャリアでは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料が存在する(凹部なし)のかそれとも存在しない(凹部あり)のかによって光学的コントラストが得られる。本発明の第1の態様に係る方法では、試料支持体のフォトルミネッセント材料または蛍光材料が部分的に隠されている(covering)(凹部なし)のかそれとも露出している(凹部あり)のかによって光学的コントラストが得られる。後者のコンセプトは、データキャリア自体にも応用できる。したがって、第3の態様によれば、本発明は、さらに、片側の第1面および反対側の第2面を有するセラミックス基板と、セラミックス基板の前記第1面上に設けられた、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層と、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層上に設けられた第1コーティング層と、を備え、前記第1コーティング層の素材が、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料と異なり、前記第1コーティング層が、情報を符号化した複数の凹部を有する、データキャリアに関する。
【0040】
ここでも、凹部は、任意の情報を任意のアナログ形式および/またはデジタル形式で符号化したものであってもよい。第2の態様と同じく、第3の態様のセラミックス基板は透明でなくてもよく、先述のどの材料からなるものであってもよい。同様に、この第3の態様で用いられるフォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第2の態様との関連で先述した材料であってもよい。
【0041】
第1の態様と同様に、第3の態様のデータキャリアの第1コーティングは、その下にあるフォトルミネッセント材料または蛍光材料への光照射を遮断することで、第1コーティング層が存在する(凹部なし)のかそれとも存在しない(凹部あり)のかによって、つまり、前記フォトルミネッセント材料が隠れているのかそれとも露出しているのかによって光学的コントラストを実現できる。したがって、前記第1コーティング層は、前記フォトルミネッセント材料の励起波長、発光波長の少なくとも一方で吸光性および/または光反射性を示すものであることが好ましい。好ましくは、前記第1コーティング層は、励起波長及び発光波長の入射電磁波パワーの10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上を吸収および/または反射する。
【0042】
上述のように、前記データキャリアの各層の吸光性や光反射性を測定および/または計算するにあたっては、様々な手法を用いることができる。例えば、データキャリア全体と、基板単独の場合と、基板にフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層だけを被覆させた場合とで特定の波長での透光、吸光および光反射をそれぞれ測定することで、コーティング層の対応する各光学特性を計算することができる。
【0043】
上記の要件以外については、第1の態様のコーティング層の素材として先述した素材が、この第3の態様の第1コーティング層にも採用され得る。
【0044】
第2の態様と同じく、前記データキャリアの両面を、データの符号化に利用してもよい。つまり、前記データキャリアは、さらに、セラミックス基板の第2面上に設けられた、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層と、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第2の層上に設けられた第2コーティング層と、を備え、該第2コーティング層の素材が、フォトルミネッセント材料または蛍光材料と異なり、前記第2コーティング層が、情報を符号化した複数の凹部を有するものであってもよい。
【0045】
前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第1波長で励起最大および第2波長で発光最大となるものであり、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層が、前記第1波長の光および/または前記第2波長の光に対し実質的に不透明であることが好ましい。励起波長及び発光波長は、UVスペクトル(100nm~400nm)から可視光スペクトル(400nm~780nm)を経て近赤外スペクトル(780nm~5000nm)までの範囲であってもよい。
【0046】
前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の各凹部の深さは、対応するコーティング層の層厚と実質的に同一であることが好ましい。これにより、復号化時に、該第1コーティング層および/または第2のコーティング層に覆われたフォトルミネッセント材料または蛍光材料に光が確実に到達できる。上述したように、各凹部の深さを完璧に調節しようとすると手間になり得る。そのため、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の各凹部の深さを、対応するコーティング層の層厚を上回るようにすることで、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層内へと若干入り込むようにさせることが好ましい。ただし、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層の層厚全体を有効活用して復号化時のコントラストを最適化するためにも、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層内へと各凹部が入り込む深さは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層の層厚の10%以下とすることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.1%である。
【0047】
上述のように、第1コーティング層および/または第2コーティング層の層厚は、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長、発光波長の双方に対し不透明となるのに十分な層厚に設定されることが望ましい。ただし、この要件を除けば、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の層厚は可能な限り薄いことが好ましい。よって、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層の層厚は、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは30nm以下、最も好ましくは10nm以下である。
【0048】
第1の態様との関連で上述したように、光反射層を設けることにより、信号対雑音比を向上できる。したがって、この第3の態様のデータキャリアは、さらに、セラミックス基板とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層との間に第1光反射層を備え、かつ/あるいは、前記セラミックス基板とフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層との間に第2光反射層を備えることが好ましい。前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第1波長が励起最大および第2波長が発光最大となるものであり、前記第1光反射層および/または前記第2光反射層は、前記第1波長の光および/または第2波長の光に対する90°反射率が80%以上であることが好ましく、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0049】
フォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層の層厚は、復号化時に十分な光学的応答をもたらすのに十分な層厚であることが望ましい。この点を除けば、これらの層の層厚は可能な限り薄く設定されることが好ましい。よって、フォトルミネセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または前記第2の層の層厚は、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、最も好ましくは10nm以下である。
【0050】
本発明のデータキャリアに期待される長期安定性を考慮すると、前記第1コーティング層および/または第2コーティング層とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層との間に、それぞれ焼結界面が存在しており、該焼結界面が、対応するコーティング層の少なくとも1種の元素および対応するフォトルミネッセント材料の層の少なくとも1種の元素を含有していることが好ましい。同様に、セラミックス基板とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層との間に焼結界面が存在していることが好ましく、該焼結界面が、セラミックス基板の少なくとも1種の元素および対応する層の少なくとも1種の元素を含有していることが好ましい。焼戻しの利点および焼結界面の存在については、特許文献2に詳細に記載されており、特にそれらの態様について、この文献の全体を参照をもって取り入れたものとする。
【0051】
この第3の態様のフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第1の層および/または第2の層用の特に好ましい材料としては、第2の態様との関連で上述したものを挙げることができる。
【0052】
セラミックス基板の素材には、例えば特許文献2に列挙されているような様々な材料が好適である。セラミックス基板としては、酸化物セラミックスからなるものが特に好ましい。セラミックス基板は、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2,MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3、その他の任意の酸化物セラミックス材料、またはこれらの組合せを、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上含有していることが好ましい。また、セラミックス基板としては、非酸化物セラミックスからなるものも好ましい。その場合、セラミックス基板は、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物;TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物;TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物;TiSi2、ZrSi2、MoSi2、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物;その他の任意の非酸化物セラミックス材料;またはこれらの組合せ;を、90重量%以上含有することが好ましく、95重量%以上含有していることがより好ましい。
【0053】
しかしながら、欧州特許出願21156858.9号(参照をもってその全体を本願に取り入れたものとする)に詳しく記載されているように、超薄型データキャリアを実現するにあたっては、前記セラミックス基板が、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムまたはこれらの組合せを含有していることが特に好ましい。
【0054】
好ましくは、前記セラミックス基板の板厚は、2mm以下、より好ましくは1mm以下、より好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0055】
欧州特許出願21156858.9号で論じられているように、セラミックス基板のヤング率は、80GPa以下であることが好ましく、より好ましくは75GPa以下である。また、前記データキャリアは、曲率半径が250mmでも破断しないことが好ましく、好ましくは200mm、より好ましくは150mm、さらに好ましくは100mm、最も好ましくは50mmでも破断しないことが好ましい。このような素材により、データキャリアをロール状に巻きとることが可能となる。
【0056】
本発明は、さらに、第2の態様に係るデータキャリアの製造方法に関する。本方法は、セラミックス基板を準備する工程と、前記セラミックス基板の第1面に設けたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層により、前記セラミックス基板を被覆する工程と、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層に、複数の凹部を例えばレーザアブレーション加工等によって形成する工程と、を備える。任意で、前記セラミックス基板は、該セラミックス基板の第2の面上に設けたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層で被覆されてもよい。この場合、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層に、複数の凹部が例えばレーザアブレーション加工等によって形成される。
【0057】
本発明は、さらに、第3の態様に係るデータキャリアの製造方法に関する。本方法は、セラミックス基板を準備する工程と、前記セラミックス基板の第1面上に設けたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層で前記セラミックス基板を被覆する工程と、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層に、第1コーティング層を被覆する工程と、前記第1コーティング層に、複数の凹部を例えばレーザアブレーション加工等によって形成する工程と、を備える。任意で、前記セラミックス基板およびフォトルミネッセント材料または蛍光材料の前記第2の層を、第2コーティング層で被覆してもよい。この場合、当該第2コーティング層に、複数の凹部が例えばレーザアブレーション加工等によって形成される。
【0058】
各層の被覆工程は、既知のどのような成膜方法で実施されてもよく、好ましくは、物理気相成長法または化学気相成長法によって実施される。
【0059】
上述のように、焼結界面を介して各層を互いに結合させるることが特に好ましい。これは、被覆済みの基板を200℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは1000℃以上の温度で焼戻しすることによって実現できる。
【0060】
上述のように、データキャリアに情報を符号化する工程、すなわち、フォトルミネッセント材料もしくは蛍光材料の層、または任意の前記コーティング層に複数の凹部を形成する工程は、例えばレーザアブレーション加工等によって実施される。レーザアブレーション加工の方法および該方法を実行する装置の一例は、欧州特許出願20190446.3号(参照をもってその全体を本願に取り入れたものとする)に詳細に開示されている。一般的に、読出しと書込み、すなわち、レーザアブレーション加工によるデータの符号化と、SIMまたはSSIMを用いたデータの復号化は、同一の装置で行い得ることが好ましい。一般的に、これは、レーザアブレーション加工を前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起最大波長で実施することで可能になる(当然ながら、アブレーション加工は、復号化時よりも数桁大きいパワー密度で実施されることになる)。従って、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、第1波長で励起最大および第2波長で発光最大となるものであり、レーザアブレーション加工を、前記第1波長または前記第1波長近傍で実施することが好ましい。好ましくは、レーザアブレーション加工の波長と前記第1波長との間の波長シフトは、30nm未満、好ましくは20nm未満、より好ましくは10nm未満である。
【0061】
本発明については、レーザビームを用いたアブレーション加工をまず論じているが、本発明は、材料のアブレーション加工によって凹部を形成するにあたっては、例えば粒子ビーム等の使用も想定している。これは、回折限界を実質的に下回るサイズの凹部(例えば、直径50nm未満の円状凹部等)の場合、特に好ましい。このサイズの凹部は、SSIMで簡単に識別できるが、レーザでは再現性の良い形成が困難な場合がある。
【0062】
本発明は、さらに、第2の態様または第3の態様に係るデータキャリアから情報を読み出す方法に関する。本方法は、試料支持体を含む、SIM装置またはSSIM装置を準備する過程と、上述の第2の態様または第3の態様に係るデータキャリアを前記試料支持体上に配置する過程と、前記データキャリアのフォトルミネッセント材料の前記層からSIM画像またはSSIM画像を取得する過程と、前記SIM画像またはSSIM画像を処理して、前記データキャリアに符号化された前記情報を復号化する過程と、を備える。
【0063】
上述のように、SIM、特には、SSIMを用いることで、回折限界よりも遥かに微小な構造を結像できる。従って、各凹部の断面の、該凹部の深さと直交する寸法の最大値は、250nm未満が好ましく、より好ましくは100nm未満、より好ましくは50nm未満、さらに好ましくは30nm未満、最も好ましくは20nm未満である。
【0064】
以下では、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】好ましい一実施形態における情報読出システムの概略図である。
【
図2a】構造化照明(SIM)および飽和構造化照明(SSIM)に用いられる照明方式および励起方式の概略説明図である。
【
図2b】構造化照明(SIM)および飽和構造化照明(SSIM)に用いられる照明方式および励起方式の他の概略説明図である。
【
図3】好ましい他の実施形態における高速データ記録・情報読出装置の概略図である。
【
図4】好ましい他の実施形態における高速データ記録・情報読出装置の概略図である。
【
図5a】本発明の方法の一実施形態における、試料支持体に対するデータキャリアの概略配置図である。
【
図5b】本発明の方法の他の実施形態における、試料支持体に対するデータキャリアの概略配置図である。
【
図5c】本発明の方法のさらなる他の実施形態における、試料支持体に対するデータキャリアの概略配置図である。
【
図5d】本発明の方法のさらなる他の実施形態における、試料支持体に対するデータキャリアの概略配置図である。
【
図6a】本発明に係るデータキャリアの一実施形態を示す概略断面図である。
【
図6b】本発明に係るデータキャリアの他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図6c】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図6d】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図7a】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図7b】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図7c】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【
図7d】本発明に係るデータキャリアのさらなる他の実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1は、好ましい一実施形態における情報読出システムの概略図である。このシステムは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aを具備した試料支持体11を有する、SIM装置またはSSIM装置を備える。このSIM装置またはSSIM装置は、記録されたデータを合焦光学系9を介して結像するように構成された読出装置12を備える。本実施形態の読出装置12は、読出モードの照射を行うデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)15を含む。高解像度デジタルカメラ18が、結像に利用される。データキャリア10から出射した光を高解像度デジタルカメラ18に到達させるように、ビームスプリッタ17がDMD15と合焦光学系9との間に配置されている。
【0067】
読出装置12による結像対象となる領域への照射は、データ記録用の光源16(例えば、LED、レーザ源等)によって、あるいは、別のレーザ源から記録経路のDMD5(
図3及び
図4を参照のこと)を経由して実施できる。SIM装置またはSSIM装置は、さらに、SIM画像またはSSIM画像の処理によってデータキャリアに符号化された情報を復号化するプロセッサ(図示せず)を備える。
【0068】
上述のように、また、Gustafssonによる前記非特許文献1に詳しく記載されているように、SIM技術やSSIM技術では、構造化照明が必要となる。よって、データキャリア10上の限界解像度以下の構造を光学的に解像するため、、データキャリア10には所定の光パターン、例えば、
図2bに模式的に示すような縞パターンが照射される。
図2bには、構造化照明(SIM)で用いられる線形励起パターンの例と、飽和構造化照明(SSIM)で用いられる非線形飽和励起パターンの例が示されている(http://zeiss-campus.magnet.fsu.edu/articles/superresolution/supersim.htmlより引用)。その後、取得した画像を分解するためには、上記照明パターンを回転させながら複数の画像を撮影する必要がある(
図2aを参照のこと)。異なる回転状態の照明パターンは、SIM装置またはSSIM装置のプロセッサによって制御されるDMDにより生成される。高解像度デジタルカメラ18によって撮像されたSIM画像またはSSIM画像は、プロセッサによって処理され、データキャリア10の高解像度画像が生成されて、データキャリア10に符号化された情報が復号化される。
【0069】
図3は、本発明の好ましい一実施形態における、高速データ記録と情報読出の両方を行うように構成された装置を示す概略図である。
図3は、高速データ記録用の装置を描いたPCT/EP2020/072872(参照をもってその全体を取り入れたものとする)のFig.1とほぼ同一である。
【0070】
本装置は、レーザ源1、電動アッテネータ3a、ビームエキスパンダ2、減衰回転子3b、フラットトップビームシェイパ(好ましくは、コリメート光学系を含むシェイパ)14、ガルバノスキャナ4、複数のレーザビーム(簡略化のため、一本のビームのみを図示)を出射するように構成されたデジタルマイクロミラーデバイス5、基板またはデータキャリア10を取り付けるための基板ホルダまたは試料支持体11、DMD5から出射した前記複数の各レーザビームを前記基板ホルダまたは試料支持体11(好ましくは、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aを具備する)に取り付けられた基板10上に合焦させるように構成された合焦光学系9を備える。
【0071】
ガルバノスキャナ4は、レーザ源1のレーザパワーを、一時的にDMD5に割りあてるように構成されている。PCT/EP2020/072872に詳しく記載されているように、ガルバノスキャナ4は、DMD5のマイクロミラーアレイのうちの一部のみを同時に照射するように構成される。DMD5のうちのどの位置または部分をガルバノスキャナ4の標的とするのかによってガルバノスキャナ4から出射するレーザビームの角度は変化するため、本装置は、ガルバノスキャナ4から出射されるレーザ光をDMD5に対して所定の入射角度に揃えるコリメート光学系L1,L2を備えていることが好ましい。レーザ光源によりガルバノスキャナ4を適切に照射するために、電動アッテネータ3a、ビームエキスパンダ2、減衰回転子3b、およびフラットトップビームシェイパ(好ましくは、コリメート光学系を含むシェイパ)14を設けてもよい。
【0072】
DMD5は、アレイ状に配置された複数のマイクロミラー(図示せず)を備え、複数のレーザビーム(図示せず)を第1方向(すなわち、記録用の方向)に沿って出射させるように、あるいは、各マイクロミラーを「オフ」状態とすることで複数のレーザビーム(図示せず)を第2方向に沿って出射させてビームダンプ6へと逸らすように構成されている。各マイクロミラーが「オン」状態のときには、レーザビームがビームスプリッタ8経由で合焦点光学9(これは、例えば高開口数を有する標準的な顕微光学系であってもよい)を介してXY位置決め系(任意で、Z方向沿いにも可動とされ得る)に取り付けられた基板10(すなわち、凹部が形成される前の本発明のデータキャリア)へと照射され、所定の位置に凹部が形成される。
【0073】
本装置は、さらに、レーザゾーンプレートのマトリクスや空間光変調器などのビーム整形光学系7を備えていてもよい。ビーム整形光学系7は、光近接制御を可能にしたり、ベッセルビームを形成したり、位相シフトマスクを形成したりするように構成されたものでもよい。
【0074】
図3に示す装置は、さらに、上記で詳述した
図1に示す読出装置12と同様の読出装置12を備える。合焦光学系9、好ましくはフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aを具備する試料支持体11とともに、読出装置12が、上記のSIM装置またはSSIM装置を構成することにより、試料支持体11に載置されたデータキャリア10のSIM像またはSSIM像を取得し、該SIM像またはSSIM像を処理してデータキャリア10に符号化された情報を複合化することができる。
【0075】
ただし、
図3に示す装置の記録経路にはレーザ光源1およびDMD5が既に含まれていることから、
図1の読出装置12に存在するこれらの構成要素(15,16)は、
図3の読出装置12ではかならずしも必要ではない。むしろ、レーザ光源1およびDMD5を結像モードでも利用してもよい。
【0076】
上述のように、本発明では、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料を情報の読出し時にのみ配してもよい。そのためには、
図1及び
図3に示す試料支持体11が、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aを具備することが好ましく、この層11aは、例えば、
図1及び
図3に示すように試料支持体11に組み込まれてもよい。あるいは、追加で、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層を、標準的な試料支持体上に配置または取り付けることで、試料支持体をアップグレードしてもよい。
【0077】
図5aに示すように、透明セラミックス基板21および透明セラミックス基板21上に設けられた、情報を符号化した複数の凹部23を有するコーティング層22を備えるデータキャリア20から情報を読み出すには、
図5aに模式的に示すように、データキャリア20を試料支持体11におけるフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11a上に配置する必要がある。データキャリア20の上方(
図1参照)から照射を行うと、コーティング層22において凹部23が存在しない箇所では、光が吸収または反射される。これに対し、凹部23では、光が透明セラミックス基板21に直に照射されて基板21を透過し、その凹部23下方の空間を占めるフォトルミネッセンス層または蛍光層11aにおいてフォトルミネッセンスまたは蛍光の発光を引き起こす(但し、照射光が前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料の励起波長範囲と重なっていることが前提である)。光学的応答として、フォトルミネッセンス層または蛍光層11が占める上記空間からは、異なる波長の光が光学応答で放出されて、透明セラミックス基板21を透過して対応する凹部23を再び透過することで、読出装置12に検出できる。
【0078】
このように、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aからデータキャリア20を介してSIM画像またはSSIM画像を多数取得し、例えばGustafssonによる前記非特許文献1の記載のとおりこれらのSIM画像またはSSIM画像を処理して画像の再構成を行うことにより、コーティング層22の凹部23のパターンの画像が生成され得る。
【0079】
明らかに、このようなデータキャリアから情報を読み出すという上記の方法は、
図5bに示すように、該データキャリアの上下の向きをひっくり返しても、すなわち、コーティング層22が試料支持体11におけるフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aに面するようにしてデータキャリア20をフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11a上に配置しても機能する。この配置では、透明セラミックス基板の板厚を制限しなくてもよいので、
図5bでは、透明セラミックス基板21が
図5aよりも若干厚く描かれている。他方、
図5aの配置構成では、例えば回折等によるアーティファクトを最小限に抑えるために、透明セラミックス基板の板厚を可能な限り薄く設定することが好ましい。
【0080】
上述のように、本発明の方法の信号対雑音比は、試料支持体11とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の層11aとの間に光反射層11bを採用することでさらに向上し得る。
図5a及び
図5bに示す配置構成に対し、このような光反射層11bをそれぞれ付け加えた模式図が
図5c及び
図5dに示されている。
【0081】
図3は、レーザ光がビーム整形素子7を透過する実施形態を示している。ただし、該ビーム整形素子が例えば反射モードの空間光変調器からなる場合には、
図4に示すように光路が変更される場合がある。ここでも、読出装置12は、それ自体のDMD(
図1の符号15を参照のこと)を有するセンサとされてもよいし、自体のDMDは持たず、記録経路のDMD5を利用する簡素なセンサとされてもよい。
【0082】
SIMよりもSSIMのほうが遥かに高い解像度が可能となることから、SIMよりもSSIMを利用するのが最も好ましいのは明らかであるが、SIM技術とフォトルミネッセント材料または蛍光材料の使用との組合せにも、一定の利点があるという点に着目すべきである。例えば
図3等では、データキャリアに対する照射の波長が読出ビームの波長と同一であると、散乱光などの一部のアーチファクトによって信号対雑音比が低下する可能性がある。フォトルミネッセント材料や蛍光材料を用いることで、デジタルカメラによって結像される応答光の波長が、照射光の波長と異なるものになる。よって、簡単なフィルタやビームスプリッタを使用することで、デジタルカメラに入射する全ての光を凹部下方のフォトルミネッセント材料または蛍光材料に確実に由来するもの、つまり、真の信号に相当とするものとすることができる。従って、本発明は、SSIMの使用に限定されずに、SIMに基づく実施形態も包含する。
【0083】
本発明の第2の態様や第3の態様との関連で上述したように、変形例として、前記フォトルミネッセント材料または蛍光材料は、前記データキャリアに直接組み込まれてもよい。
図6a~
図6dは、本発明の第2の態様に係るデータキャリアの各実施形態を示す概略断面図である。
図6aに示す最も基本的な形態では、データキャリア30が、セラミックス基板31と、セラミックス基板31の第1面(本例では、上面)に設けられたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層32aと、を備え、フォトルミネッセント材料または蛍光材料の該第1の層32aが、情報を符号化した複数の凹部33を有するものとすることができる。
【0084】
図6bに示すように、データキャリア30は、さらに、セラミックス基板31の第2面(本例では、底面)に設けられたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層32bを備え、該フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層32bが、情報を符号化した複数の凹部33を有するものとしてもよい。
【0085】
また、セラミックス基板31とフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層32aとの間に第1光反射層34aが存在していてもよく(
図6cを参照のこと)、かつ、セラミックス基板31とフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層32bとの間に第2光反射層34bが存在していてもよい(
図6dを参照のこと)。
【0086】
図7a~
図7dは、本発明の第3の態様に係るデータキャリアの各実施形態を示す概略断面図である。このデータキャリア40は、セラミックス基板41と、セラミックス基板41の第1面(本例では、上側)に設けられたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層42aと、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層42a上に設けられた第1コーティング層43aと、を備え、第1コーティング層43aが、情報を符号化した複数の凹部44を有する(
図7aを参照のこと)。
【0087】
データキャリア40は、さらに、セラミックス基板41の第2面(本例では、底面)に設けられたフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層42bと、フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層42b上に設けられた第2コーティング層43bと、を備え、第2コーティング層43bが、情報を符号化した複数の凹部44を有するものであってもよい(
図7b参照)。また、
図7c及び
図7dに示すように、セラミックス基板41とフォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層42aや第2の層42bとの間に、第1光反射層45aや第2光反射層45bがそれぞれ存在していてもよい。
【0088】
上述のように、
図6に示すデータキャリアや
図7に示すデータキャリアでは、いずれの場合の情報の読出しも、試料支持体にフォトルミネッセンス層または蛍光層が埋め込まれていない標準的なSIM装置またはSSIM装置を使って行うことができる。よって、
図6や
図7に示すいずれのデータキャリアの場合も、
図1、
図3及び
図4に示す(試料支持体にフォトルミネッセンス層や蛍光層を埋め込んでいない)システムによって高速データ記録や情報読出しを行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
1 レーザ光源
2 ビームエキスパンダ
3a 電動アッテネータ
3b 減衰回転子3b
4 ガルバノスキャナ
5、15 デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)
6 ビームダンプ
7 ビーム成形光学系
8、17 ビームスプリッタ
9 合焦光学系
10、20 データキャリア
11 試料支持体
11a フォトルミネッセンス性または蛍光性の材料からなる層
12 読出装置
14 フラットトップビームシェイパ
18 高解像度デジタルカメラ
21、31、41 セラミックス基板
22 コーティング層
23、33、44 凹部
32a、42a フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第1の層
32b、42b フォトルミネッセント材料または蛍光材料からなる第2の層
45a 第1光反射層
45b 第2光反射層
【国際調査報告】