IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ ビーシーティー、インコーポレーテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】細胞捕獲及び増殖
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20240305BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240305BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20240305BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240305BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20240305BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240305BHJP
   C07K 14/36 20060101ALN20240305BHJP
   C07K 17/00 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12M3/00 Z
C07K14/78
C07K14/47
C07K14/54
C07K16/00
C07K14/36
C07K17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557660
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 US2022021595
(87)【国際公開番号】W WO2022204315
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/165,060
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/169,173
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/183,591
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/227,293
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/228,561
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/275,389
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/275,793
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/304,467
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507114521
【氏名又は名称】テルモ ビーシーティー、インコーポレーテッド
【住所又は居所原語表記】10811 West Collins Avenue, Lakewood, Colorado 80215, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、マーク イー.
(72)【発明者】
【氏名】セシィ、ダリップ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィンカ、デニス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】フェルト、トーマス ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA04
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC08
4B065AA90X
4B065CA44
4H045AA20
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA02
(57)【要約】
【解決手段】中空糸バイオリアクター内で細胞を増殖するための方法及びシステムに関する実施形態が記載される。実施形態において、細胞は、組換え成長因子の組み合わせを含む複数の成長因子に曝露される。他の実施形態において、細胞は、他の細胞、例えば、hMSC、との共培養において成長される。実施形態では、細胞はCD34+細胞を含む。コーティングされた膜は、膜への細胞接着を促進するように構成された第1のコーティングと、可溶性タンパク質部分を含む第2のコーティングと、を有する膜を含む。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を増殖する方法であって、該方法は、
CD34+造血幹細胞(HSC)を含む第1の複数の細胞を中空糸バイオリアクターの複数の中空糸に導入する導入ステップを有し、
前記中空糸はそれぞれ、細管内側部及び細管外側部を含み、
前記中空糸は、前記中空糸の前記細管内側部の表面及び前記細管外側部の表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有し、
前記コーティングは、
間質細胞由来因子-1(SDF-1)と、
フィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物と、
を含み、
前記方法はさらに、
前記中空糸内の前記第1の複数の細胞を成長条件に曝露する曝露ステップと、
前記中空糸バイオリアクターの前記中空糸において前記第1の複数の細胞の少なくとも一部を増殖させて、少なくとも50倍に増殖された第2の複数の増殖CD34+HSCを生成する増殖ステップと、
を有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項2】
請求項1記載の細胞を増殖する方法において、
前記第1の複数の細胞は、事前の精製処理を行わずに、前記中空糸に導入される、
細胞を増殖する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞を増殖する方法において、
前記成長条件は、前記第1の複数の細胞を、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt-3L)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、及びそれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の成長因子に曝露することを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記曝露ステップは、前記中空糸の前記細管内側部において細胞成長培地を循環させることを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記曝露ステップは、前記中空糸の前記細管外側部において細胞成長培地を循環させることを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記導入ステップは、
ポンプを用いて、前記中空糸の前記細管内側部内で複数の細胞を循環させるステップと、
前記ポンプを停止させて、前記複数の細胞の一部を前記中空糸の前記細管内側部の第1の部分に付着させるステップと、
前記中空糸バイオリアクターを初期位置から180度回転させるステップと、
前記ポンプを用いて、前記中空糸の前記細管内側部内で複数の細胞を循環させるステップと、
前記ポンプを停止させて、前記複数の細胞の一部を前記中空糸の前記細管内側部の第2の部分に付着させるステップと、
を有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記複数の細胞は、前記中空糸の両端に同時に導入される、
細胞を増殖する方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸の前記細管内側部の前記表面及び前記細管外側部の前記表面のうちの前記少なくとも1つの上の前記コーティングは、前記中空糸の表面への細胞接着を促進する材料をさらに含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸の前記細管内側部の前記表面及び前記細管外側部の前記表面のうちの前記少なくとも1つの上の前記コーティングは、タンパク質部分をさらに含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項10】
請求項9記載の細胞を増殖する方法において、
前記タンパク質部分は、インターロイキン-21(IL-21)である、
細胞を増殖する方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記増殖ステップは、前記中空糸中において前記CD34+HSCを、GDNF及びアリール炭化水素受容体アンタゴニストを含む培地と接触させることを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項12】
請求項11記載の細胞を増殖する方法において、
前記アリール炭化水素受容体アンタゴニストは、ステムレゲニン1(StemRegenin 1)(SR1)及びUM171のうちの少なくとも1つである、
細胞を増殖する方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載の細胞を増殖する方法において、
前記培地は、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、SDF-1、及びフィブロネクチンのうちの少なくとも1つをさらに含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記GDNFは、質量/体積パーセント濃度0.5%~2%で前記培地中に存在する、
細胞を増殖する方法。
【請求項15】
請求項11~13のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記GDNFは、少なくとも10ng/mLの濃度で前記培地中に存在する、
細胞を増殖する方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸は、前記細管内側部内に第1の培地を含み、さらに、前記中空糸の前記細管外側部と接触する第2の培地を含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項17】
請求項16記載の細胞を増殖する方法において、
前記細管内側部内の前記第1の培地における少なくとも1つの成分は、前記中空糸の前記細管外側部における同じ成分の濃度よりも濃くなっている、
細胞を増殖する方法。
【請求項18】
請求項17記載の細胞を増殖する方法において、
前記成分は、GDNFである、
細胞を増殖する方法。
【請求項19】
請求項17記載の細胞を増殖する方法において、
前記成分は、SR-1、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、SDF-1、及びフィブロネクチンからなる群から選択される、
細胞を増殖する方法。
【請求項20】
請求項17~19のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記少なくとも1つの成分は、少なくとも5倍、濃くされる、
細胞を増殖する方法。
【請求項21】
請求項17~19のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記少なくとも1つの成分は、少なくとも10倍、濃くされる、
細胞を増殖する方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸中の前記CD34+HSCを単一培養で増殖し、前記中空糸中の前記CD34+HSCと共にさらなる細胞型を共培養しない、
細胞を増殖する方法。
【請求項23】
請求項22記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸は、前記中空糸の前記細管内側部の前記表面及び前記細管外側部の前記表面のうちの少なくとも1つの上に、SDF-1とフィブロネクチンとを含むコーティングを有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項24】
請求項1~21のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記導入ステップの前に、間葉系幹細胞が前記中空糸に導入され、
前記中空糸内の前記間葉系幹細胞が成長条件に曝露され、
その後、CD34+HSCを含む前記複数の細胞が前記複数の中空糸に導入され、前記中空糸中においてCD34+HSCを含む前記細胞が前記間葉系幹細胞と共培養される、
細胞を増殖する方法。
【請求項25】
請求項1~21のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記導入ステップの前に、
第1の複数の間葉系幹細胞を静止状態の成長チャンバー内で成長させ、
CD34+HSCを静止状態の前記成長チャンバー内において前記第1の複数の間葉系幹細胞と共培養で成長させ、
静止状態の前記成長チャンバーからCD34+HSCを含む複数の細胞を取り出し、
静止状態の前記成長チャンバーからのCD34+HSCを含む前記複数の細胞を、前記中空糸に導入する、
細胞を増殖する方法。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、CD34+HSCを含む前記複数の細胞は、臍帯血、骨髄、及び末梢血のうちの少なくとも1つから得られる、
細胞を増殖する方法。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、増殖される前記CD34+HSCは、CD45+/CD34+HSCである、
細胞を増殖する方法。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、増殖される前記CD34+HSCは、CD133+CD38-前駆細胞である、
細胞を増殖する方法。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、CD34+HSCを含む前記第1の複数の細胞は、1単位の血液又は1単位の組織から得られるものであり、前記増殖されたCD34+HSCは、ヒトレシピエントに対する少なくとも1回の生着手順に十分な量である、
細胞を増殖する方法。
【請求項30】
請求項29記載の細胞を増殖する方法において、前記1単位の血液は、臍帯血である、
細胞を増殖する方法。
【請求項31】
請求項30記載の細胞を増殖する方法において、前記1単位の組織は骨髄である、
細胞を増殖する方法。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、前記CD34+HSCは、増殖後に少なくとも90%の生存率を有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、前記中空糸の前記細管内側部は、糖タンパク質でコーティングされている、
細胞を増殖する方法。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の複数の増殖細胞の少なくとも一部を前記中空糸から取り出すステップをさらに有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項35】
請求項34記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸から取り出された前記第2の複数の増殖細胞を患者に投与するステップをさらに有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項36】
請求項35記載の細胞を増殖する方法において、
前記投与によって、前記患者における造血が再構築される、
細胞を増殖する方法。
【請求項37】
細胞を捕獲する方法であって、該方法は、
標的細胞と非標的細胞との混合物を中空糸バイオリアクターの複数の中空糸に導入する導入ステップであって、前記中空糸はそれぞれ細管内側部及び細管外側部を含む、導入ステップを有し、
前記中空糸は、前記中空糸の前記細管内側部の表面及び前記細管外側部の表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有し、
前記コーティングは、
間質細胞由来因子-1(SDF-1)と、
フィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物と、を含み、
前記方法はさらに、
前記混合物を捕獲条件に曝露する捕獲条件曝露ステップと、
前記中空糸の前記細管内側部及び前記細管外側部の前記表面のうちの少なくとも1つに前記標的細胞の少なくとも一部を捕獲する捕獲ステップと、
前記中空糸から前記非標的細胞の少なくとも一部を洗い流す洗い流しステップと、
を有する、
細胞を捕獲する方法。
【請求項38】
請求項37記載の細胞を捕獲する方法において、
前記コーティングは、インターロイキン-21(IL-21)、ストレプトアビジン、アビジン、及び抗ビオチン抗体又はそれら機能的断片からなる群から選択されるタンパク質部分をさらに含む、
細胞を捕獲する方法。
【請求項39】
請求項37又は38記載の細胞を捕獲する方法において、該方法は、
前記洗い流しステップの後、捕獲された前記標的細胞の前記一部を成長条件に曝露する成長条件曝露ステップと、
前記中空糸内に捕獲された前記標的細胞の前記一部を増殖させて、複数の増殖標的細胞を生成する増殖ステップと、
をさらに有する、
細胞を捕獲する方法。
【請求項40】
請求項37~39のいずれか1項に記載の細胞を捕獲する方法において、該方法は、前記増殖ステップの後に、前記複数の増殖標的細胞の少なくとも一部を前記中空糸から取り出すステップをさらに有する、
細胞を捕獲する方法。
【請求項41】
コーティングされた中空糸膜であって、該コーティングされた中空糸膜は、
細管内側部表面及び細管外側部表面を有する中空糸膜を備え、
前記中空糸は、前記中空糸の前記細管内側部表面及び前記細管外側部表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有し、
前記コーティングは、
間質細胞由来因子-1(SDF-1)と、
フィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物と、を含む、
コーティングされた中空糸膜。
【請求項42】
請求項41記載のコーティングされた中空糸膜において、
前記コーティングは、サイトカイン、アプタマー、ケモカイン、モノクローナル抗体、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はそれら機能的断片からなる群から選択されるタンパク質部分をさらに含む、
コーティングされた中空糸膜。
【請求項43】
請求項42記載のコーティングされた中空糸膜において、
前記ケモカインは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)又はインターロイキン-21(IL-21)である、
コーティングされた中空糸膜。
【請求項44】
請求項41~43のいずれか1項に記載のコーティングされた中空糸膜において、
前記中空糸膜は、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンのうちの少なくとも1つを含む、
コーティングされた中空糸膜。
【請求項45】
コーティングされた中空糸膜を形成する方法であって、該方法は、
細管内側部表面と細管外側部表面とを有する中空糸膜を準備するステップと、
前記中空糸膜の前記細管内側部表面上に第1コーティングを施す第1コーティングステップであって、前記第1コーティングは、前記中空糸膜の前記細管内側部表面及び前記中空糸膜の前記細管外側部表面のうちの少なくとも1つへの細胞接着を促進する材料を含む、第1コーティングステップと
前記中空糸膜の前記細管内側部表面上に第2コーティングを施す第2コーティングステップであって、前記第2コーティングは可溶性タンパク質部分を含む、第2コーティングステップと、
を有する、
コーティングされた中空糸膜を形成する方法。
【請求項46】
請求項45記載のコーティングされた中空糸膜を形成する方法において、
前記第1コーティング及び前記第2コーティングを施すことは、
前記中空糸膜とは離れて、前記第1コーティングの材料と前記第2コーティングの材料とをコンジュゲートしてコンジュゲートを形成することと、
前記コンジュゲートを前記中空糸膜の前記細管内側部表面上にコーティングすることと、
を含む、
コーティングされた中空糸膜を形成する方法。
【請求項47】
請求項45又は46記載のコーティングされた中空糸膜を形成する方法において、
前記第1コーティングの材料は、フィブロネクチン、又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物である、
コーティングされた中空糸膜を形成する方法。
【請求項48】
請求項45~47のいずれか1項に記載のコーティングされた中空糸膜を形成する方法において、
前記第2コーティングの材料は、サイトカイン、アプタマー、ケモカイン、モノクローナル抗体、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はそれら機能的断片のうちの少なくとも1つを含む、
コーティングされた中空糸膜を形成する方法。
【請求項49】
請求項45~48のいずれか1項に記載のコーティングされた中空糸膜を形成する方法において、
前記第1コーティングは、フィブロネクチンであり、
前記第2コーティングは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)又はインターロイキン-21(IL-21)を含む、
コーティングされた中空糸膜を形成する方法。
【請求項50】
CD34+HSCを増殖するための組成物であって、該組成物は、
グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)及びアリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニストを含む、
組成物。
【請求項51】
請求項50記載の組成物において、該組成物は、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、SDF-1、及びフィブロネクチンのうちの少なくとも1つをさらに含む、
組成物。
【請求項52】
請求項50又は51記載の組成物において、
前記AHRアンタゴニストは、SR-1及びUM171のうちの少なくとも1つである、
組成物。
【請求項53】
請求項50~52のいずれか1項に記載の組成物において、
前記GDNFは、0.5%から2%重量/体積の濃度で存在する、
組成物。
【請求項54】
請求項50~53のいずれか1項に記載の組成物において、
前記GDNFは、少なくとも10ng/mLの濃度で存在する、
組成物。
【請求項55】
請求項50~54のいずれか1項に記載の組成物において、
フィブロネクチン及びSDF-1が細胞培養表面に固定化されている、
組成物。
【請求項56】
請求項55記載の組成物において、
前記細胞培養表面は半透膜である、
組成物。
【請求項57】
請求項50~56のいずれか1項に記載の組成物において、
前記組成物は、BCL2のレベルを増加させ、HSC分化を阻害する、
組成物。
【請求項58】
細胞増殖システムにおいて灌流によって細胞を増殖する方法であって、該方法は、
中空糸バイオリアクターを、シグナル伝達因子及び/又はコーティング因子を含む第1の流体でコーティングするステップと、
複数の細胞を前記中空糸バイオリアクターに導入するステップであって、前記中空糸バイオリアクターは中空糸膜を含む、ステップと
前記複数の細胞を、複数の成長因子を含む第2の流体に曝露するステップと、
前記複数の細胞を前記中空糸バイオリアクター内において単一培養又は共培養で増殖するステップと、
を有する、
細胞を増殖する方法。
【請求項59】
請求項58記載の細胞を増殖する方法において、
前記第1の流体は、フィブロネクチン及びSDF-1のうちの少なくとも1つを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項60】
請求項59記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングする前に、前記フィブロネクチンと前記SDF-1とが混合される、
細胞を増殖する方法。
【請求項61】
請求項59記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターは、前記中空糸バイオリアクターを前記フィブロネクチンでコーティングし、次いで前記中空糸バイオリアクターを前記SDF-1でコーティングすることによって連続的にコーティングされる、
細胞を増殖する方法。
【請求項62】
請求項59記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターは、前記中空糸バイオリアクターを前記SDF-1でコーティングし、次いで前記中空糸バイオリアクターを前記フィブロネクチンでコーティングすることによって連続的にコーティングされる、
細胞を増殖する方法。
【請求項63】
請求項59~62のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記フィブロネクチンの量は、0.001μg/cm2~2μg/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項64】
請求項59~62のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記フィブロネクチンの量は、0.01μg/cm2~1.0μg/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項65】
請求項59~62のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記フィブロネクチンの量は、0.10μg/cm2~0.50μg/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項66】
請求項59~62のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記フィブロネクチンの量は、0.20μg/cm2~0.40μg/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項67】
請求項59~62のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記フィブロネクチンの量は、0.23μg/cm2~0.24μg/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項68】
請求項59~67のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記SDF-1の量は、0.001ng/cm2~0.30ng/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項69】
請求項59~67のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記SDF-1の量は、0.01ng/cm2~0.10ng/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項70】
請求項59~67のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記SDF-1の量は、0.05ng/cm2~0.09ng/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項71】
請求項59~67のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用される前記SDF-1の量は、0.075ng/cm2である、
細胞を増殖する方法。
【請求項72】
請求項59~71のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体はGDNFを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項73】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、0.001ng/mL~40.0ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項74】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、0.01ng/mL~20.0ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項75】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、0.10ng/mL~15ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項76】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、1.0ng/mL~15ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項77】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、5.0ng/mL~15ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項78】
請求項72記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記GDNFの量は、10ng/mLである、
細胞を増殖する方法。
【請求項79】
請求項58~78のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記複数の成長因子は、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、及びIL-6のうちの少なくとも1つを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項80】
請求項58~78のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体はステムレゲニン(SR-1)を含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項81】
請求項80記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記SR-1の量は、0.001μM~3.0μMである、
細胞を増殖する方法。
【請求項82】
請求項80記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記SR-1の量は、0.01μM~2.0μMである、
細胞を増殖する方法。
【請求項83】
請求項80記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記SR-1の量は、0.10μM~1.0μMである、
細胞を増殖する方法。
【請求項84】
請求項80記載の細胞を増殖する方法において、
前記第2の流体中の前記SR-1の量は、0.75μMである、
細胞を増殖する方法。
【請求項85】
請求項58~84のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法において、
前記複数の細胞を前記中空糸バイオリアクターに導入するステップの前に、前記方法は、
前記中空糸バイオリアクターを、5mgのヒト血漿由来フィブロネクチン又は0.23~0.24μg/cm2のフィブロネクチンと0.075ng/cm2の組換えヒト幹細胞由来因子1(SDF-1)との混合物で、所定時間だけコーティングするステップを含む、
細胞を増殖する方法。
【請求項86】
請求項85記載の細胞を増殖する方法において、
前記所定時間は、4.0時間~16.0時間である、
細胞を増殖する方法。
【請求項87】
請求項85記載の細胞を増殖する方法において、
前記所定時間は、8.0時間~12.0時間である、
細胞を増殖する方法。
【請求項88】
請求項58~87のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法を実施するように構成された中空糸バイオリアクターを備える細胞増殖システム。
【請求項89】
請求項87記載の細胞増殖システムであって、該システムは、
プロセッサと、
前記プロセッサと通信し、前記プロセッサによって読み取り可能であり、一連の命令を含むメモリと、
をさらに備え、
前記一連の命令が前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサは請求項58~88のいずれか1項に記載の細胞を増殖する方法を実行する、
細胞増殖システム。
【請求項90】
標的種を捕獲する方法であって、該方法は、
標的種と非標的種との混合物を中空糸に導入する導入ステップであって、前記中空糸はそれぞれ細管内側部及び細管外側部を含む、導入ステップを、
有し、
前記中空糸は、前記中空糸の前記細管内側部の表面及び前記細管外側部の表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有し、
前記コーティングは、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はそれら機能的断片のうちの少なくとも1つを含み、
該方法はさらに、
前記混合物を捕獲条件に曝露する捕獲条件曝露ステップと、
前記中空糸の前記細管内側部の前記表面及び前記細管外側部の前記表面のうちの少なくとも1つに前記標的種の少なくとも一部を捕獲する捕獲ステップと、
前記中空糸から前記非標的種の少なくとも一部を洗い流す洗い流しステップと、
を有する、
標的種を捕獲する方法。
【請求項91】
請求項90記載の標的種を捕獲する方法において、
前記標的種は、前記中空糸の前記細管内側部の前記表面及び前記細管外側部の前記表面のうちの前記少なくとも1つの上の前記コーティングに結合するビオチン化アプタマー又はビオチン化抗体を含む、
標的種を捕獲する方法。
【請求項92】
請求項90又は91記載の標的種を捕獲する方法において、
前記標的種は細胞であり、
該方法は、
前記洗い流しステップの後、捕獲された前記細胞の前記一部を成長条件に曝露する成長条件曝露ステップと、
前記中空糸内において捕獲された前記細胞の前記一部を増殖して、複数の増殖標的細胞を生成する増殖ステップと、
をさらに有する、
標的種を捕獲する方法。
【請求項93】
請求項92記載の標的種を捕獲する方法において、
該方法は、前記増殖ステップの後に、前記複数の増殖標的細胞の少なくとも一部を前記中空糸から取り出す取り出しステップをさらに有する、
標的種を捕獲する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、以下の米国仮特許出願の利益及び優先権を主張する:2021年3月23日に出願された米国仮特許出願第63/165,060号(タイトル:細胞増殖)、2021年3月31日に出願された米国仮特許出願第63/169,173号(タイトル:細胞増殖)、2021年5月3日に出願された米国仮特許出願第63/183,591号(タイトル:細胞増殖)、2021年7月29日に出願された米国仮特許出願第63/227,293号(タイトル:細胞増殖)、2021年8月2日に出願された米国仮特許出願第63/228,561号(タイトル:細胞増殖)、2021年11月3日に出願された米国仮特許出願第63/275,389号(タイトル:マルチパート膜基材を用いて標的細胞を分離するための方法及びシステム)、2021年11月4日に出願された米国仮特許出願第63/275,793号(タイトル:マルチパート膜基材を用いて標的細胞を分離するための方法及びシステム)、2022年1月28日に出願された米国仮特許出願第63/304,467号(タイトル:マルチパート膜基材を用いて標的細胞を分離するための方法及びシステム)。上記出願の全体は、ここでの開示により明確に本出願に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般には、生細胞を分離及び増殖することに関し、特に、膜を使用して標的細胞を分離し、分離した細胞を増殖することに関する。
【背景技術】
【0003】
細胞処理システムは、細胞収集システム及び細胞増殖システム(CES)を含む。細胞収集システムは、供給源から細胞を収集し、CESは、種々の細胞型を増殖及び分化させるために使用される。増殖及び/又は分化された細胞は、研究及び/又は治療目的の両方に使用され得る。一例として、造血幹細胞(HSC)は多能性を有し、自己再生し、赤血球、白血球、血小板、及びリンパ球等の成熟血液細胞を産生することを可能にする。CD34は、ヒトHSCのマーカーであり、ヒト骨髄(BM)細胞の全てのコロニー形成活性は、CD34を発現する細胞の画分(すなわち、「CD34+HSC」又は「CD34+細胞」又は「CD34+画分」)において見出される。HSCは、骨髄、臍帯血、又は末梢血から収集することができ、CD34+HSCは、血液がん(例えば、リンパ腫、白血病、骨髄腫)等の疾患に対して可能性ある治療として認められている。臍帯血(CB)は、移植可能なCD34+HSCの供給源として骨髄(BM)の代替として使用されることが増えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CD34+HSCによる有効な治療又は移植には、最低限のHSCの投与が必要である。従って、CBのような適切な供給源からCD34+HSCを分離した後、CD34+HSCを、初期量から少なくとも治療又は移植に有効であると考えられる量まで成長(すなわち、「増殖」)させなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、CD34+HSCの分離、増殖、及び投与において有用な手順、装置、及び組成物を提供する。
【0006】
本節は、本発明の態様を簡単な形式で説明するためのものであり、本発明の重要な又は必須の要素を特定することを意図していないし、また、請求項の範囲を制限することを意図しているものでもない。
【0007】
本開示は、細胞捕獲及び増殖システム、並びに混合細胞集団から収集され得る標的細胞を増殖する方法を提供する。例としては、標的細胞、特にCD34+HSC、を捕獲、収集、及び/又は保持するのに有用な膜が挙げられる。本開示の方法を使用して、HSCは、HSCの分化を最小限に抑えるか又は排除しながら、収集され、迅速且つ効率的に有意に増殖される。本開示のシステム及び方法において、HSCは、少なくとも50倍に増殖される。細胞は、ドナー流体(例えば、1つ以上の血液成分)から収集される標的細胞であってもよい。これらの標的細胞としては、幹細胞、CD34+HSC、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球等が挙げられるが、これらに限定されない。膜は、標的細胞を誘引及び収集するように構成される1つ以上の層又はコーティング(すなわち、膜)を備えてもよい。該膜は、基材を含んでもよく、該基材は、自分自身の少なくとも1つの表面への細胞接着を促進する。該基材は、第1の表面及び第2の表面を有し、さらに第1の表面及び/又は第2の表面上に少なくとも1つのコーティングを有してもよい。少なくとも1つのコーティングは、基材の第1の表面及び/又は第2の表面への細胞接着を促進する任意の分子又は材料に対応するものであってよい。少なくとも1つのコーティングは、第1のコーティング材料及び第2のコーティング材料を含んでもよい。第1のコーティング材料はフィブロネクチン又はフィブロネクチン等価物であってもよく、第2のコーティング材料は可溶性タンパク質部分であってもよい。第2のコーティング材料は、混合細胞集団からの特定の標的細胞を標的化してもよい。例えば、第2のコーティング材料は、CD34+HSCの収集力を増強するために使用される、間質細胞由来因子-1(SDF-1)のようなケモカインであってもよい。追加のコーティング材料を使用して、混合細胞集団から同じ又は異なる細胞を収集してもよい。膜は、フラットシート、フィルタマトリックス、中空糸、それらの任意の組合せ、及び/又はそれらのうちのいくつか、のようなに任意の形態で用意することができる。
【0008】
本開示はまた、中空糸バイオリアクター(中空糸型バイオリアクター)のようなバイオリアクターにおいて細胞、特にCD34+HSC、を増殖するための方法を提供する。これらの方法は、細胞(例えば、造血幹細胞(HSC)、例えば、CD34+HSCを含む)をバイオリアクターに導入すること、及び細胞を、バイオリアクターにおいて複数の細胞を増殖する成長条件に曝露することを提供する。成長条件は、成長因子の1つ又は組合せをバイオリアクターへ導入することを含んでもよい。それに代替して又は追加して、成長条件は、バイオリアクター中に共培養細胞が存在することを含んでもよい。バイオリアクター中で細胞を増殖した後、次いで、複数の増殖細胞を、保存、移植、又は癌治療等の治療における使用のためにバイオリアクターから取り出してもよい。
【0009】
本開示は、CD34+造血幹細胞(HSC)を含む複数の細胞を中空糸バイオリアクターの中空糸に導入するステップを有する、細胞を増殖する方法を提供する。バイオリアクターの中空糸はそれぞれ、細管内側部及び細管外側部を含む。さらに、中空糸は、細管内側部表面及び細管外側部表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有する。前記表面上のコーティングは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)及びフィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物を含む。これらの方法では、中空糸中の複数の細胞を成長条件に曝露し、複数の細胞の少なくとも一部をバイオリアクターの中空糸中で増殖して、複数の増殖CD34+HSCを生成する。これらの方法を使用して、バイオリアクターの中空糸に導入された複数の細胞は、少なくとも50倍に増殖される。
【0010】
本開示はまた、細胞増殖システムにおいて灌流によって細胞を増殖する方法を提供する。これらの方法は、シグナル伝達因子及び/又はコーティング因子を含む第1の流体で中空糸バイオリアクターをコーティングすることを含む。これらの方法では、複数の細胞が中空糸バイオリアクターの中空糸膜に導入される。これらの方法において、中空糸膜内の複数の細胞は、複数の成長因子を含む第2の流体に曝露されてもよい。これらの方法において、中空糸バイオリアクター中の複数の細胞は、単一培養又は共培養で増殖されてもよい。
【0011】
本開示はまた、標的細胞と非標的細胞との混合物を中空糸バイオリアクターの中空糸に導入することを含む、細胞を捕獲する方法を提供する。これらの中空糸はそれぞれ、細管内側部及び細管外側部を含み、中空糸はさらに、前記中空糸の細管内側部表面及び細管外側部表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有する。表面上のコーティングは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)及びフィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物を含む。これらの方法では、中空糸中の標的細胞及び非標的細胞の混合物を捕獲条件に曝露して、中空糸の細管内側部及び細管外側部の表面の少なくとも1つに標的細胞の少なくとも一部を捕獲することができる。非標的細胞の少なくとも一部は、中空糸から洗い流され、中空糸の表面に結合した標的細胞を残すことができる。
【0012】
本開示はまた、標的種を捕獲する方法を提供する。これらの方法では、標的種及び非標的種の混合物が、細管内側部及び細管外側部を有する中空糸に導入される。さらに、中空糸は、該中空糸の細管内側部表面及び細管外側部表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを有してもよい。該コーティングは、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はその機能的断片のうちの少なくとも1つを含んでよい。これらの方法では、中空糸中の標的種及び非標的種の混合物を捕獲条件に曝露して、中空糸の細管内側部及び細管外側部の表面の少なくとも1つに標的種の少なくとも一部を捕獲することができる。これらの方法では、非標的種の少なくとも一部が中空糸から洗い流されてもよい。
【0013】
本開示はまた、コーティングされた中空糸膜を提供する。これらの膜は、細管内側部表面及び細管外側部表面を有する中空糸膜である。これらの膜は、中空糸の細管内側部表面及び細管外側部表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを含んでもよい。コーティングは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)及びフィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物を含んでもよい。
【0014】
本開示はまた、コーティングされた中空糸膜を形成する方法を提供する。この方法は、細管内側部表面と細管外側部表面とを有する中空糸膜を準備するステップと、中空糸膜の細管内側部表面上に第1のコーティングを施すステップとを含む。これらの方法において、第1のコーティングは中空糸膜の細管内側部表面及び中空糸膜の細管外側部表面のうちの少なくとも1つへの細胞接着を促進する材料を含む。これらの方法では、第2のコーティングは、中空糸膜の細管内側部表面上に施されてもよい。第2のコーティングは、可溶性タンパク質部分を含んでもよい。
【0015】
本開示はまた、CD34+HSCの増殖において有用な組成物を提供する。これらの組成物は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)及びアリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニストを含む。
【0016】
上記は、本開示のいくつかの態様の簡略化された概要を提供することを意図している。この概要は、本開示並びにその様々な態様、実装形態、及び構成の広範な概要でも網羅的な概要でもない。本開示の主要又は重要な要素を特定することも、本開示の範囲を詳述することも意図されておらず、以下に提示されるより詳細な説明への導入部として、本開示の選択された概念を簡略化された形態で提示することが意図されている。理解されるように、本開示の他の態様、実装形態、及び構成は、上記で説明した又は以下で詳細に説明する特徴のうちの1つ又は複数を単独で又は組み合わせて利用することが可能であり、以下の詳細な説明を考慮し、図面を参照すれば当業者には明らかとなるであろう。
【0017】
添付の図面は、本開示のいくつかの例を示すために、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。これらの図面は、詳細な説明と共に、本開示の原理を説明する。図面は、本開示がどのように作製及び使用され得るかということについての好ましい例及び他に取り得る例を単に示すものであり、本開示を図示及び説明された例のみに限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係る中空糸バイオリアクターの透視図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る、予め設けられた流体移送装置を備えた細胞増殖システムの斜視図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る細胞増殖システムのハウジングの斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る、予め設けられる流体移送装置の斜視図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る細胞増殖システムの概略図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る細胞増殖システムの他の実施形態の概略図である。
図7図7は、本発明の実施形態を実施するために使用されるコンピュータシステムの構成要素を示す図である。
図8図8は、本開示の実施形態に係る、中空糸の概略図を示す。
図9図9は、本開示の実施形態に係る、中空糸の毛細管内側から毛細管外側への限外濾過の概略図を示す。
図10図10は、本開示の実施形態に係る、混合細胞集団を分離するために停止された流れの概略図を示す。
図11図11は、本開示の実施形態に係る、中空糸の底部に落下する細胞を示す概略図である。
図12図12は、フィブロネクチン及びSDF-1の混合物でコーティングされた膜を示す概略図である。
図13図13は、コーティングされた膜における細胞懸濁液を示す概略図である。
図14図14は、細胞(例えば、HSC)を増殖するために実施形態において実行されるフロー1400を示す。フロー1400のステップを実行するための特定の装置が以下で説明されるが、実施形態はそれらに限定されない。例えば、いくつかのステップは、細胞増殖システム(例えば、CES500又は600)の一部又はプロセッサ実行可能命令として提供されるソフトウェアに基づいてステップを実行し得るプロセッサ(1100(図7))によって実行されるものとして説明されてもよい。これは単に例示の目的で行われ、フロー1400は、任意の特定の装置によって実行されることに限定されない。
図15図15は、中空糸の毛細管内側部表面上にコーティングを有する中空糸の毛細管中における標的種及び非標的種の懸濁液を示す概略図である。
図16図16は、中空糸の毛細管内側部上のコーティング材料に標的細胞が捕獲される様子を示す概略図である。
図17図17は、70kgの患者に対する最小限1回及び2回のCBU CD34+細胞投与ガイドラインと比較した、8日間の単一培養後の3つの異なるドナー細胞株からのCD34+細胞収穫量を示すグラフである。
図18図18は、トリパンブルー色素排除によって決定された収穫細胞生存率を示すグラフである。
図19図19は、ピアソン相関係数がR2=0.8863である、凍結保存前の細胞生存率と臍帯血由来CD34+細胞収穫量との相関を示すグラフである。
図20図20は、CD34+正規化されたグルコース消費速度(mmol/日)及び乳酸塩生成速度(mmol/日)の平均を示すグラフである。
図21A図21Aは、FMOゲーティングの方法(FSC-A対SSC-A→シングレットFSC-H対FSC-A→生細胞SSC-A対&-AAD-A)が、Streck CD-Chex-CD34レベル3末梢血参照標準を用いて検証されることを示す。10,000事象をサンプル毎に取得した。
図21B図21Bは、FMOゲーティングの方法(SSC-A対CD45-APC-H7→SSC-A(図21A)対CD34-APC→CD133-PE対CD38-BB515(図21B))が、Streck CD-Chex-CD34レベル3末梢血参照標準を用いて検証されることを示す。10,000事象をサンプル毎に取得した。
図22図22は、ドナー細胞株1つあたり6回の複製で、14日間のQuantum増殖後に収穫したCD34+HSCから分化したコロニー形成単位(CFU)を示すグラフである。
図23図23は、CFU-顆粒球、赤血球、マクロファージ、巨核球、CFU-顆粒球及びマクロファージ、並びにBFU-赤血球系統の代表的な画像を示す。
図24図24は、細胞(例えば、HSC)を捕獲するために実施形態において実行されるフロー2400を示す。フロー2400のステップを実行するための特定の装置が以下で説明されるが、実施形態はそれに限定されない。例えば、いくつかのステップは、細胞処理システム(例えば、CES500又は600)の一部又はプロセッサ実行可能命令として提供されるソフトウェアに基づいてステップを実行し得るプロセッサ(1100(図7))によって実行されるものとして説明されてもよい。これは単に例示の目的で行われ、フロー2400は、任意の特定の装置によって実行されることに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の原理は、以下の詳細な説明及び添付図面に示される実施形態を参照することで、さらに理解されよう。詳細な実施形態において具体的な特徴が示され説明されるが、本発明は、以下で説明される実施形態に限定されないと理解されるべきである。
【0020】
以下では、添付図面に示される実施形態が詳細に言及され説明される。可能な限り、図面及び以下の記載において、同一又は同様な部分に対しては、同じ参照符号が使用される。
【0021】
図1は、本発明と共に使用される中空糸型バイオリアクター100の一例の正面図を示す。中空糸型バイオリアクター100は、長手方向軸LA-LAを有し、チャンバーハウジング104を備える。少なくとも1つの実施形態において、チャンバーハウジング104は、4つの開口部又は4つのポート、すなわち、毛細管内(IC)入口ポート108、IC出口ポート120、毛細管外(EC)入口ポート128、EC出口ポート132を有する。
【0022】
本開示の実施形態において、第1循環路内の流体は、中空糸型バイオリアクター100の第1の長手方向端112におけるIC入口ポート108を通って中空糸型バイオリアクター100に進入し、複数の中空糸116の細管内側(種々の実施形態において、中空糸膜の内腔、毛細管内(「IC」)側又は「IC空間」と呼ぶ)に進入して通過し、中空糸型バイオリアクター100の第2の長手方向端124に位置するIC出口ポート120を通って中空糸型バイオリアクター100の外に出る。IC入口ポート108とIC出口ポート120との間の流体経路は、中空糸型バイオリアクター100のIC部分126を定義する。第2循環路内の流体は、EC入口ポート128を通って中空糸型バイオリアクター100に進入し、中空糸116の細管外側又は外側(該膜の「EC側」又は「EC空間」と呼ぶ)に接触して、EC出口ポート132を通って中空糸型バイオリアクター100の外に出る。EC入口ポート128とEC出口ポート132との間の流体経路は、中空糸型バイオリアクター100のEC部分136を構成する。EC入口ポート128を通って中空糸型バイオリアクター100に入った流体は、中空糸116の外側に接触する。小分子(例えば、イオン、水、酸素、乳酸塩)は、中空糸116を通じて中空糸の内部すなわちIC空間から外部すなわちEC空間へ、又はEC空間からIC空間へ拡散することができる。成長因子のような高分子量の分子は、大きすぎるため中空糸を通過できず、中空糸116のIC空間内にとどまる。実施形態において、培地は、必要であれば交換補充してもよい。また、必要であれば、培地を、酸素供給装置又はガス移送モジュールを通じて循環させて、ガスを交換してもよい(例えば、細胞増殖システム500(図5)や細胞増殖システム600(図6)を参照)。細胞は、以下で説明されるように、第1循環路及び/又は第2循環路内に含有させることができ、該膜のIC側及び/又はEC側に存在させることができる。
【0023】
中空糸膜を作製するために使用される材料は、中空糸に加工可能であり、例えば、イオン、水、酸素、グルコース、乳酸等の小分子に対して適切な透過性を有する、任意の生体適合性高分子材料でよい。本開示の実施形態において、使用可能な一材料としては、合成ポリスルホン系材料が挙げられる。細胞を中空糸の表面に付着させるため、該表面は、少なくとも細胞成長表面をタンパク質(例えば、フィブロネクチンやコラーゲンのような糖タンパク質)でコーティングしたり或いは該表面に放射線を照射したりするような方法で、改質されてよい。膜表面をガンマ線処理することによって、膜に対してフィブロネクチン等による追加コーティングを行わずに、接着性細胞を付着させることが可能になる。本開示の実施形態において、細胞付着のための他のコーティング及び/又は他の処理を用いてもよい。
【0024】
図2において、本開示の実施形態に係る、予め設けられた流体輸送組立体を有する細胞増殖システム200の一実施形態が示される。CES200は、細胞増殖装置202を有する。細胞増殖装置202は、細胞増殖装置202の後側部分206と係合するハッチ又は開閉可能なドア204を有する。細胞増殖装置202内の内部空間208は、バイオリアクター100を含む予め設けられた流体輸送組立体210を受容し係合固定できるような特徴を有する。予め設けられた流体輸送組立体210は、細胞増殖装置202に取り外し可能に取り付けられており、細胞増殖装置202において、使用された流体輸送組立体210を、新しい又は未使用の流体輸送組立体210に比較的迅速に交換できるようになっている。単一の細胞増殖装置202の動作によって、第1の流体輸送組立体210を用いて細胞の第1のセットを成長又は増殖させ、その後、第1の流体輸送組立体210を第2の流体輸送組立体210に交換する間に殺菌する必要なく、第2の流体輸送組立体210を用いて細胞の第2のセットを成長又は増殖させることができる。予め設けられた流体輸送組立体は、バイオリアクター100と酸素供給器又はガス移送モジュール212を有する。実施形態において、流体輸送組立体210に接続される種々の培地用配管を受容する配管案内スロットが214として示される。
【0025】
図3は、本開示の実施形態に係る、予め設けられた流体輸送組立体210(図2参照)を取り外し可能に取り付ける前の、細胞増殖装置202の後側部分206を示す。開閉可能なドア204(図2参照)は、図3では省略されている。細胞増殖装置202の後側部分206には、流体輸送組立体210の構成要素と組み合わせて動作する複数の異なる構造が設けられている。詳細には、細胞増殖装置202の後側部分206は、流体輸送組立体210におけるポンプループと協働する複数の蠕動ポンプ(IC循環ポンプ218、EC循環ポンプ220、IC入口ポンプ222、EC入口ポンプ224)を有する。また、細胞増殖装置202の後側部分206は、複数のバルブ(IC循環バルブ226、試薬バルブ228、IC培地バルブ230、空気除去バルブ232、細胞入口バルブ234、洗浄バルブ236、分配バルブ238、EC培地バルブ240、IC廃棄バルブ242、EC廃棄バルブ244、収穫バルブ246)を有する。さらに、複数のセンサ(IC出口圧力センサ248、IC入口圧力/温度センサ250、EC入口圧力/温度センサ252、EC出口圧力センサ254)が、細胞増殖装置202の後側部分206に関連付けられる。さらに、空気除去チャンバーのための光学センサ256が示されている。
【0026】
実施形態に係る、バイオリアクター100を回転させるための軸又はロッカー制御部258が、図3に示されている。軸又はロッカー制御部258と関連付けられた軸嵌合部260によって、細胞増殖装置202の後側部分206に対して、流体輸送組立体210又は流体輸送組立体400の軸アクセス開口部(例えば、配管収納部300(図4)の開口部424(図4))の適切な位置合わせが行える。軸又はロッカー制御部258の回転によって、軸嵌合部260及びバイオリアクター100に対して回転運動が付与される。従って、CES200のオペレータ又はユーザが、新しい又は未使用の流体輸送組立体400(図4)を、細胞増殖装置202に取り付ける際、位置合わせは、軸嵌合部260に対して、流体輸送組立体400の軸アクセス開口部424(図4)を適切に方向付けるといった比較的簡単な作業となる。
【0027】
図4は、取り付け・取り外し自在の予め取り付けられる流体輸送組立体400の斜視図である。予め取り付けられる流体輸送組立体400は、細胞増殖装置202に取り外し可能に取り付けられており、細胞増殖装置202において、使用された流体輸送組立体400を、新しい又は未使用の流体輸送組立体400に比較的迅速に交換できるようになっている。図4に示されるように、バイオリアクター100は、軸嵌合部402を含むバイオリアクターカップリングに取り付けられる。軸嵌合部402は、細胞増殖装置202の軸(図3に示されている例えば、軸258)を係合させるための1以上の(付勢された腕部又はバネ部材404のような)軸締結機構を有する。
【0028】
実施形態において、軸嵌合部402及びバネ部材404には、バイオリアクター100を回転させる細胞増殖システムの機構が接続される。例えば、いくつかの実施形態において、細胞増殖システムは、バイオリアクターを回転可能なQUANTUM(登録商標)細胞増殖システム(CES)(コロラド州、レイクウッド、テルモBCT社製)の一部であってもよい。バイオリアクターを回転可能な細胞増殖システムの例としては、少なくとも、2013年3月19日発行の米国特許第8,399,245号明細書(タイトル:細胞増殖システムの細胞成長チャンバーのための回転システム及びその使用方法)、2013年2月13日発行の米国特許第8,809,043号明細書(タイトル:細胞増殖システムの細胞成長チャンバーのための回転システム及びその使用方法)、及び2015年6月16日発行の米国特許第9,057,045号明細書(タイトル:細胞増殖システムのバイオリアクターにおける細胞の投入及び分散方法)に記載されている。上記米国特許出願の全体は、ここでの開示により明確に本出願に組み込まれる。
【0029】
実施形態によれば、流体輸送組立体400は、配管408A、408B、408C、408D、408E及び種々の管継手を有する。これらにより、以下で説明されるように、図5及び図6に示されるような流体路が提供される。ポンプループ406A、406Bも、ポンプ用に設けられる。細胞増殖装置202が配置される場所に、種々の培地が設けられてもよいが、実施形態において、プリマウントタイプの流体輸送組立体400は、細胞増殖装置202の外部に延在する程度に十分な長さの配管を有することで、該配管に対して培地バッグに関連付けられた配管が接合されてもよい。
【0030】
図5は、一実施形態における細胞増殖システム500の概略図である。図6は、他の実施形態における細胞増殖システム600の概略図を示す。図5及び図6に示される実施形態では、以下で説明するように、細胞は、IC空間で成長される。他の実施形態では、細胞はEC空間で成長される。さらに他の実施形態では、細胞を共培養するような場合、第1の細胞をEC空間で成長し、第2の細胞をIC空間で成長してもよい。細胞の共培養は、第1の細胞及び第2の細胞をEC空間で成長することにより行ってもよいし、第1の細胞及び第2の細胞をIC空間で成長することにより行ってもよい。
【0031】
図5は、実施形態に係るCES500を示している。CES500は、第1流体循環路502(「毛細管内側ループ」又は「ICループ」とも呼ぶ)と第2流体循環路504(「毛細管外側ループ」又は「ECループ」とも呼ぶ)とを有する。第1流体流路506は、中空糸型バイオリアクター501に流体的に関連付けられて、少なくとも部分的に第1流体循環路502を構成する。流体は、IC入口ポート501Aを介して中空糸型バイオリアクター501に流入し、中空糸型バイオリアクター501内の中空糸を通って、IC出口ポート501Bを介して流出する。圧力測定器510は、中空糸型バイオリアクター501を離れる培地の圧力を測定する。培地は、培地流量/循環流量を制御するために用いられるIC循環ポンプ512を介して、流れる。IC循環ポンプ512は、第1方向(例えば、時計回り)又は第1方向の反対の第2方向(例えば、反時計回り)に、流体をポンピング可能である。出口ポート501Bは、反対方向では、入口として使用されてもよい。ICループ502に流入する培地は、バルブ514を介して流入する。当業者であれば理解できるように、追加のバルブ及び/又は他の装置を種々の位置に配置することにより、流体経路の特定の部分に沿って、培地を隔離し及び/又は該培地の特性を測定することもできる。従って、示される概略図は、CES500の複数の要素に対する1つの可能な構成を示すものであり、1以上の実施形態の範囲において、概略図は変形可能であると理解されるべきである。
【0032】
ICループ502に対して、培地のサンプルは、動作中に、サンプルポート516又はサンプルコイル518から得られる。第1流体循環路502に配置された圧力/温度測定器520によって、動作中において、培地の圧力及び温度が測定できる。そして、培地は、IC入口ポート501Aに戻って、流体循環路502における循環を完了する。中空糸型バイオリアクター501で成長/増殖した細胞は、中空糸型バイオリアクター501から流し出され、バルブ598を通って収穫バッグ599に入るか、中空糸内に再分配され、さらに成長される。
【0033】
第2流体循環路504において、流体は、EC入口ポート501Cを介して、中空糸型バイオリアクター501に入り、EC出口ポート501Dを介して中空糸型バイオリアクター501を離れる。ECループ504では、培地は、中空糸型バイオリアクター501の中空糸の外側と接触し、それによって、小分子の中空糸への及び中空糸からの拡散が可能となる。
【0034】
培地が中空糸型バイオリアクター501のEC空間に入る前に、第2流体循環路504に配置された圧力/温度測定器524によって、該培地の圧力及び温度が測定可能である。培地が中空糸型バイオリアクター501を離れた後、圧力測定器526によって、第2流体循環路504の培地の圧力が測定可能である。ECループに対して、培地のサンプルは、動作中に、サンプルポート530から又はサンプルコイルから得られる。
【0035】
実施形態において、中空糸型バイオリアクター501のEC出口ポート501Dを離れた後、第2流体循環路504の流体は、EC循環ポンプ528を通って、酸素供給器又はガス移送モジュール532に至る。EC循環ポンプ528は、両方向に流体をポンピング可能である。第2流体流路522は、酸素供給器入口ポート534及び酸素供給器出口ポート536を介して酸素供給器又はガス移送モジュール532と流体的に関連付けられている。動作中は、流体培地は、酸素供給器入口ポート534を介して、酸素供給器又はガス移送モジュール532に流入し、酸素供給器出口ポート536を介して、酸素供給器又はガス移送モジュール532から流出する。酸素供給器又はガス移送モジュール532は、CES500における培地に対して、酸素を付加し、二酸化炭素及び気泡の両方を除去する。種々の実施形態において、第2流体循環路504における培地は、酸素供給器又はガス移送モジュール532に入るガスと平衡状態にある。酸素供給器又はガス移送モジュール532は、適当なサイズの任意の酸素供給器又はガス移送装置でよい。空気又はガスは、フィルタ538を介して酸素供給器又はガス移送モジュール532に流入し、フィルタ540を介して、酸素供給器又はガス移送装置532から流出する。フィルタ538、540は、酸素供給器又はガス移送モジュール532及び関連する培地の汚染を減少又は防止する。プライミングステップの一部を行っている際にCES500からパージされた空気又はガスは、酸素供給器又はガス移送モジュール532を介して大気にベント可能である。
【0036】
CES500を図示した構成において、第1流体循環路502及び第2流体循環路504における流体培地は、同じ方向で(並流構成で)中空糸型バイオリアクター501を流れる。CES500は、対向流で流れるように構成してもよい。
【0037】
少なくとも1つの実施形態において、(バッグ562からの)細胞を含む培地及びバッグ546からの流体培地は、第1流体流路506を介して第1流体循環路502に導入される。流体容器562(例えば、細胞投入バッグ又は空気をシステム外にプライミングするための生理食塩水プライミング流体)は、バルブ564を介して、第1流体流路506及び第1流体循環路502に流体的に関連付けられる。
【0038】
流体容器、すなわち培地バッグ544(例えば、試薬)は、バルブ548を介して第1流体入口路542に流体的に関連付けられ、流体容器、すなわち培地バッグ546(例えば、IC培地)は、バルブ550を介して第1流体入口路542に流体的に関連付けられ、又はバッグ544、546は、バルブ548、550、570を介して第2流体入口路574に流体的に関連付けられる。また、滅菌され密封可能な第1及び第2入力プライミング路508、509が設けられる。空気除去チャンバー(ARC)556が、第1循環路502に流体的に関連付けられる。空気除去チャンバー556は、1以上の超音波センサを有してもよい。該センサには、空気除去チャンバー556内における特定の測定点において、空気、流体の不足、及び/又はガス/流体境界、例えば、空気/流体境界、を検知するための上部センサ及び下部センサが含まれる。例えば、空気除去チャンバー556の底部近傍及び/又は頂部近傍で、超音波センサを用いて、それらの場所における空気、流体、及び/又は空気/流体境界を検知することができる。実施形態において、本開示の範囲を逸脱しない範囲で、他のタイプのセンサを使用することができる。例えば、本開示の実施形態に従って、光学センサを使用してもよい。プライミングステップの一部又はその他のプロトコルを行っている際にCES500からパージされる空気又はガスは、空気除去チャンバー556と流体的に関連付けられたライン558を通って、エアバルブ560から大気中へベント可能である。
【0039】
(バッグ568からの)EC培地又は(バッグ566からの)洗浄液が第1流体流路又は第2流体流路に加えられる。流体容器566は、バルブ570と流体的に関連付けられる。バルブ570は、分配バルブ572及び第1流体入口路542を介して第1流体循環路502と流体的に関連付けられる。また、バルブ570を開け、分配バルブ572を閉じることにより、流体容器566は、第2流体入口路574及びEC入口路584を介して第2流体循環路504と流体的に関連付けることができる。同様に、流体容器568は、バルブ576と流体的に関連付けられる。バルブ576は、第1流体入口路542及び分配バルブ572を介して第1流体循環路502と流体的に関連付けられる。また、バルブ576を開け、分配バルブ572を閉じることにより、流体容器568は、第2流体入口路574と流体的に関連付けることができる。オプションとして、培地試薬又は洗浄液の導入用に熱交換器552を設けてもよい。
【0040】
ICループにおいて、流体はまず、IC入口ポンプ554によって送られる。ECループでは、流体はまず、EC入口ポンプ578によって送られる。超音波センサのようなエア検知器580がEC入口路584と関連付けられてもよい。
【0041】
少なくとも1つの実施形態において、第1及び第2流体循環路502、504は、廃棄ライン588と接続される。バルブ590を開けると、IC培地は、廃棄ライン588を介して、廃棄バッグすなわち出口バッグ586に至る。同様に、バルブ582を開けると、EC培地は、廃棄ライン588を介して廃棄バッグすなわち出口バッグ586に流れる。
【0042】
実施形態において、細胞は、細胞収穫路596を介して収穫される。中空糸型バイオリアクター501からの細胞は、細胞を含むIC培地をポンピングすることにより、細胞収穫路596及びバルブ598を介して、細胞収穫バッグ599に収穫される。
【0043】
CES500の各部品は、細胞増殖装置202(図2及び図3)のような装置又はハウジング内に収容され、該装置は、細胞及び培地を所定温度に維持する。
【0044】
図6は、細胞増殖システム600の他の実施形態の概略図である。CES600は、第1流体循環路602(「毛細管内側ループ」又は「ICループ」とも呼ぶ)と第2流体循環路604(「毛細管外側ループ」又は「ECループ」とも呼ぶ)とを有する。第1流体流路606は、中空糸型バイオリアクター601に流体的に関連付けられて、第1流体循環路602を構成する。流体は、IC入口ポート601Aを介して中空糸型バイオリアクター601に流入し、中空糸型バイオリアクター601内の中空糸を通って、IC出口ポート601Bを介して流出する。圧力センサ610は、中空糸型バイオリアクター601を離れる培地の圧力を測定する。圧力の他に、実施形態において、センサ610は、作動中において、培地圧力及び培地温度を検知する温度センサであってもよい。
【0045】
培地は、培地流量又は循環流量を制御するために用いられるIC循環ポンプ612を介して、流れる。IC循環ポンプ612は、第1方向(例えば、反時計回り)又は第1方向の反対の第2方向(時計回り)に、流体をポンピング可能である。出口ポート601Bは、逆方向では、入口として使用することができる。ICループに流入する培地は、バルブ614を介して流入することができる。当業者であれば理解できるように、追加のバルブ及び/又は他の装置を種々の位置に配置することにより、流体経路の特定の部分に沿って、培地を隔離し及び/又は該培地の特性を測定することもできる。培地のサンプルは、動作中に、サンプルコイル618から得られる。そして、培地は、IC入口ポート601Aに戻って、流体循環路602を完了する。
【0046】
中空糸型バイオリアクター601で成長/増殖した細胞は、中空糸型バイオリアクター601から流し出され、バルブ698及びライン697を介して収穫バッグ699に入る。或いは、バルブ698が閉じている場合、細胞は、中空糸型バイオリアクター601に再分配され、さらに成長される。示される概略図は、CES600の複数の要素に対する1つの可能な構成を示すものであり、概略図に対する変更は、1以上の実施形態の範囲において可能であると理解されるべきである。
【0047】
第2流体循環路604において、流体は、EC入口ポート601Cを介して、中空糸型バイオリアクター601に入り、EC出口ポート601Dを介して中空糸型バイオリアクター601を離れる。ECループでは、培地は、中空糸型バイオリアクター601の中空糸の外側と接触し、それによって、一実施形態では、チャンバー601内における小分子の中空糸への及び中空糸からの拡散が可能となる。
【0048】
培地が中空糸型バイオリアクター601のEC空間に入る前に、第2流体循環路604に配置された圧力/温度センサ624によって、該培地の圧力及び温度を測定することができる。培地が中空糸型バイオリアクター601を離れた後に、センサ626によって、第2流体循環路604の培地の圧力及び/又は温度を測定することができる。ECループに対して、培地のサンプルは、動作中に、サンプルポート630から又はサンプルコイルから得られる。
【0049】
中空糸型バイオリアクター601のEC出口ポート601Dを離れた後、第2流体循環路604の流体は、EC循環ポンプ628を通って、酸素供給器又はガス移送モジュール632に至る。実施形態において、EC循環ポンプ628もまた、両方向に流体をポンピング可能である。第2流体流路622は、酸素供給器又はガス移送モジュール632の入口ポート632A及び出口ポート632Bを介して酸素供給器又はガス移送モジュール632と流体的に関連付けられている。動作中は、流体培地は、入口ポート632Aを介して、酸素供給器又はガス移送モジュール632に流入し、出口ポート632Bを介して、酸素供給器又はガス移送モジュール632から流出する。酸素供給器又はガス移送モジュール632は、CES600における培地に対して、酸素を付加し、二酸化炭素及び気泡の両方を除去する。
【0050】
種々の実施形態において、第2流体循環路604における培地は、酸素供給器又はガス移送モジュール632に入るガスと平衡状態にある。酸素供給器又はガス移送モジュール632は、酸素供給又はガス移送に有用な、適当なサイズの任意の装置でよい。空気又はガスは、フィルタ638を介して酸素供給器又はガス移送モジュール632に流入し、フィルタ640を介して、酸素供給器又はガス移送装置632から流出する。フィルタ638、640は、酸素供給器又はガス移送モジュール632及び関連する培地の汚染を減少又は防止する。プライミングステップの一部を行っている際にCES600からパージされた空気又はガスは、酸素供給器又はガス移送モジュール632を介して大気にベント可能である。
【0051】
CES600として示された該構成において、第1流体循環路602及び第2流体循環路604における流体培地は、同じ方向で(並流構成で)中空糸型バイオリアクター601を流れる。ある実施形態において、CES600は、対向流で流れるように構成してもよい。
【0052】
少なくとも1つの実施形態において、(細胞容器、例えばバッグのような供給源からの)細胞を含む培地は、取り付け点662に取り付けられ、培地源からの流体培地は、取り付け点646に取り付けられる。細胞及び培地は、第1流体流路606を介して第1流体循環路602に導入される。取り付け点662は、バルブ664を介して、第1流体流路606と流体的に関連付けられる。取り付け点646は、バルブ650を介して、第1流体流路606と流体的に関連付けられる。試薬源を、点644に流体的に接続して、バルブ648を介して流体入口路642に関連付けてもよいし、又はバルブ648及び672を介して第2流体入口路674に関連付けてもよい。
【0053】
空気除去チャンバー(ARC)656が、第1循環路602に流体的に関連付けられる。空気除去チャンバー656は、1以上のセンサを有してもよい。該センサには、空気除去チャンバー656内における特定の測定点において、空気、流体の不足、及び/又はガス/流体境界、例えば、空気/流体境界、を検知するための上部センサ及び下部センサが含まれる。例えば、空気除去チャンバー656の底部近傍及び/又は頂部近傍で、超音波センサを用いて、それらの場所における空気、流体、及び/又は空気/流体境界を検知することができる。実施形態において、本開示の範囲を逸脱しない範囲で、他のタイプのセンサを使用することができる。例えば、本開示の実施形態に従って、光学センサを使用してもよい。プライミングステップの一部又はその他のプロトコルを行っている際にCES600からパージされる空気又はガスは、空気除去チャンバー656と流体的に関連付けられたライン658を通って、エアバルブ660から大気中へベント可能である。
【0054】
EC培地源が、EC培地取り付け点668に取り付けられる。洗浄液源が、洗浄液取り付け点666に取り付けられる。これにより、EC培地及び/又は洗浄液が第1流体流路又は第2流体流路に加えられる。取り付け点666は、バルブ670と流体的に関連付けられる。バルブ670は、バルブ672及び第1流体入口路642を介して第1流体循環路602と流体的に関連付けられる。また、バルブ670を開け、バルブ672を閉じることにより、取り付け点666は、第2流体入口路674及び第2流体流路684を介して第2流体循環路604と流体的に関連付けることができる。同様に、取り付け点668は、バルブ676と流体的に関連付けられる。バルブ676は、第1流体入口路642及びバルブ672を介して第1流体循環路602と流体的に関連付けられる。また、バルブ676を開け、分配バルブ672を閉じることにより、流体容器668を、第2流体入口路674と流体的に関連付けることができる。
【0055】
ICループにおいて、流体はまず、IC入口ポンプ654によって送られる。ECループでは、流体はまず、EC入口ポンプ678によって送られる。超音波センサのようなエア検知器680がEC入口路684と関連付けられてもよい。
【0056】
少なくとも1つの実施形態において、第1及び第2流体循環路602、604は、廃棄ライン688に接続される。バルブ690を開けると、IC培地は、廃棄ライン688を通って、廃棄バッグ又は出口バッグ686に至る。同様に、バルブ692を開けると、EC培地は、廃棄バッグ又は出口バッグ686に流れる。
【0057】
細胞が中空糸型バイオリアクター601にて成長された後、該細胞は、細胞収穫路697を介して収穫される。中空糸型バイオリアクター601からの細胞は、バルブ698を開けた状態において、細胞を含むIC培地をポンピングすることにより、細胞収穫路697を介して、細胞収穫バッグ699に収穫される。
【0058】
CES600の各部品は、細胞増殖装置202(図2及び図3)のような装置又はハウジング内に収容され、該装置は、細胞及び培地を所定温度に維持する。さらに、実施形態において、CES600とCES500(図5)の部品を組み合わせてもよい。他の実施形態において、CESは、本開示の範囲内において、図5及び図6に示される部品よりも少ない数の部品を含んでもよいし、多い数の部品を含んでもよい。実施形態において、CES500、CES600のある部分は、テルモBCT社(コロラド州、レイクウッド)によって製造されるQUANTUM(登録商標)細胞増殖システム(CES)の1以上の特徴によって実施される。
【0059】
CES600を使用する1つの特定の実施形態において、造血幹細胞(HSC)(例えばCD34+HSC)は、CES600の実施形態において、増殖される。この実施形態では、白血球アフェレーシスプロセス又は手動プロセス(例えば、臍帯)を使用して収集されるHSC(CD34+HSCを含む)をバイオリアクター601に導入する。HSC(CD34+HSCを含む)は、循環路602を介してバイオリアクター601に導入することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、HSC(CD34+HSCを含む)は、バイオリアクター601への導入の前に選択ステップ(例えば、精製ステップ)にかけられてもよい。このステップは、遠心分離機、精製カラム、磁気選択、又は化学的選択の使用を伴うことができる。細胞選択/精製手順のいくつかの例としては、例えば、ドイツ国ベルギッシュグラートバッハのMiltenyi Biotec製の単離カラムを使用して行うものが挙げられる。一例では、臍帯血は、細胞をバイオリアクター601に導入する前に、最初に、HSC(CD34+HSCを含む)を選択する細胞選択プロセスにかけられる。他の例では、最初に収集されたときに(CD34+HSCを含む)HSCに含まれる可能性のある他の細胞を激減するためにアフェレーシス装置が利用される。例えば、HSCは、臍帯血、骨髄、又は末梢血から供給されてもよい。最初の収集後且つバイオリアクター601に導入する前に、CD34+HSCを含むある体積のHSCを処理して、その体積から赤血球、特定の白血球、顆粒球、及び/又は他の細胞を激減させることができる。これらは単なる例示であり、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0061】
他の実施形態では、HSC(CD34+HSCを含む)は、追加の精製を行わずに、収集後、バイオリアクター601に直接添加される。例えば、(HSCを含む)臍帯血はバイオリアクターに添加される。多くのタンパク質やその他の生物活性分子に加えて、臍帯血には、(CD34+HSCを含む)HSC、赤血球、血小板、顆粒球、及び/又は白血球が含まれる。
【0062】
いくつかの実施形態において、HSCは、プライミングステップの後、バイオリアクター601に加えられる。理解されるように、増殖される細胞は非接着性であり、従って、増殖(expansion/proliferation)のために、バイオリアクター601の中空糸壁に付着する必要がない。これらの実施形態では、付着を促進するためのコーティング剤(例えば、フィブロネクチン)で、中空糸の内側をコートする必要がない。これらの実施形態では、(精製された又は精製されていない)(CD34+HSCを含む)HSCは、バイオリアクターコーティングステップなしで、プライミングステップの後に、バイオリアクター601に導入される。細胞が接着性細胞の場合は、プライミングステップの後、HSCの導入前に、コーティングステップを実行する。
【0063】
バイオリアクター601内に入ると、細胞は、成長因子、活性化剤、ホルモン、試薬、タンパク質、及び/又は細胞の増殖を補助する他の生物活性分子に曝露される。一例では、HSC(CD34+HSCを含む)を増殖するための条件を最適化するために、共培養細胞株がバイオリアクター601内で予め成長/導入される。1つの特定の実施形態では、CD34+HSCの増殖を促進するために、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)をHSC(CD34+HSCを含む)と共培養する。理論に縛られるものではないが、MSCは、HSC(例えば、CD34+HSC)と相互作用する因子(例えばSDF-1因子)を放出し、該細胞の増殖を促進すると考えられる。いくつかの実施形態では、共培養hMSCの使用は、HSC(CD34+HSCを含む)をバイオリアクター601に導入する前に、hMSCの増殖に最適化された条件下で最初に成長プロセスを行うことを伴ってもよい。hMSCは、実施形態において、骨髄、末梢血、臍帯細胞、脂肪組織、及び/又は奇胎組織に由来する。
【0064】
共培養細胞に加えて、HSCを成長及び増殖するために、1つ又は複数の成長因子、活性化剤、ホルモン、試薬、タンパク質、及び/又は他の生物活性分子を含むサプリメントをバイオリアクター601に添加してもよい。サプリメントは、単一容量の添加として、又はある期間にわたって(例えば、連続的に、断続的に、又は定期的なスケジュールで)添加することができる。一実施形態では、サイトカイン及び/又は他のタンパク質(例えば、組換えサイトカイン、ホルモン)の組合せをサプリメントの一部として含めることができる。一例として、サプリメントは、組換えヒトFlt3リガンド(rhFlt-3L)、組換えヒト幹細胞因子(rhSCF)、組換えヒトトロンボポエチン(rhTPO)、組換えヒト(rh)グリア細胞由来神経栄養因子、及び/又はそれらの組み合わせのうちの1又は複数のものを含む。実施形態と共に使用することができるサプリメントの一例は、STEMCELL2MAX(商標)サプリメント(stemcell2MAX、カンタニデ、ポルトガル)である。
【0065】
いくつかの実施形態において、因子の組み合わせは、細胞が懸濁されている培地に含まれてもよいことに留意されたい。例えば、HSCを培地に懸濁し、バイオリアクターに培地で導入することができる(1406)。実施形態において、培地は、HSCの増殖を助ける成長因子の組み合わせを含んでもよい。
【0066】
細胞をサプリメント、共培養細胞、及び/又は細胞を増殖するための他の材料と共にバイオリアクターに導入した後、細胞をバイオリアクター内で増殖する(1410)。増殖中に、バイオリアクターに追加する又はバイオリアクターから除去するいくつかの材料がある。一例として、追加のタンパク質(例えば、サイトカイン)がバイオリアクター601に添加される。いくつかの実施形態では、2つ以上のタンパク質又は他の生物活性剤を使用することができる。追加の材料は、個別に、又は同時に、又は異なる時間に、添加することができる。或いは、組み合わせて添加することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、例えば、ポート516を介して、バイオリアクター501に、より直接的に材料が追加される場合もある(図5)。しかしながら、他の実施形態では、バイオリアクター601に、よりゆっくりと灌流されるように、材料を、例えば、流路606を介して、所与の位置において追加してもよい。
【0068】
(CD34+HSCを含む)HSCの成長を補助するための材料に加えて、HSCは、いくつかの栄養素を含む培地の添加等によってもフィーディングすることができる。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含む市販の培地である。他の実施形態では、培地は、無血清であり、他の添加剤を含んでもよい。培地は、他の材料、塩、血清、タンパク質、試薬、生物活性分子、栄養素を含むいくつかの非限定的な例の添加によって変性させてもよい。HSC(CD34+HSCを含む)をフィーディングするために使用される培地の一例としては、CELLGRO(登録商標)無血清培地(CellGenix、フライブルク、ドイツ)が挙げられる。
【0069】
いくつかの実施形態では、共培養細胞はIC空間内に位置しているが、フィーディングはEC空間内で行うことができる。実施形態では、EC空間を介してフィーディングを行うことにより、IC空間内の循環流体から細胞によって感知される力の量を減らすことができる。EC空間における培地の循環は、実施形態において、HSC(CD34+HSCを含む)の増殖のために十分な栄養素を提供することができる。
【0070】
HSC(CD34+HSCを含む)の増殖の一部として、温度、pH、酸素濃度、二酸化炭素濃度、排出物濃度、代謝物濃度のその他の条件は、バイオリアクター601内で調節される。いくつかの実施形態において、EC側(例えば、経路604)の流量を用いて、種々のパラメータが制御される。例えば、細胞成長が行われているIC側の排出物濃度又は代謝物濃度を減らしたい場合、EC側の流量を増やすことで、中空糸を通過するIC側からEC側への移動によって、排出物及び/又は代謝物をIC側から確実に除去することができる。
【0071】
CD34+HSCを増殖した後、該細胞は、バイオリアクター601から取り出される。CD34+HSCは容器699に集められる。実施形態において、収集されたCD34+HSCは、造血を再構築するために、患者に投与される。そのような患者としては、非限定的な例であるが、造血に影響を及ぼし得る、様々な癌(例えば白血病、骨髄異形成、非ホジキンリンパ腫等)の治療を受けている患者等である。細胞は他の化合物又は分子と共に投与されてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、CES600の使用によって、従来のプロセスと比べて、(CD34+HSCを含む)HSCの成長において、種々の利点が得られる。例えば、中空糸の使用によって、密接な細胞間通信が可能になり、その結果、CD34+HSCの成長が高められて、増殖を開始させ継続させることができる。また、バイオリアクター601のような中空糸型バイオリアクターの使用によって、細胞成長のための表面積が拡大し、それによって、より高い濃度の又はより高い量のCD34+HSCをもたらすことができる。
【0073】
さらに、バイオリアクター601における条件は、CES600のいくつかの異なる構成要素(IC流量及びEC流量を含む)を使用して制御され得る。また、CES600は、物質を添加するための様々な場所を提供することができる。これによって、サイトカインのバイオリアクター601への直接的な投入又は間接的な投入(例えば灌流)を行うことができる。
【0074】
さらに、CES600によって、閉鎖系システムが提供される。すなわち、CD34+HSCを成長するためのステップを、周囲環境に直接曝露することなく、実行することができる。従って、周囲環境によって該細胞が汚染されたり、或いは該細胞や該細胞成長に使用される物質によって周囲環境が汚染されたりすることがない。いくつかの実施形態では、増殖のためのCD34+HSCの開始濃度を、他の方法/システムに比べて、小さい量にすることができると考えられる。これらの実施形態では、CD34+HSCの増殖の収穫量を、他の方法/システムに比べて大きくできる。いくつかの実施形態は、有効量のCD34+HSCを増殖するための時間を短縮することができると考えられる。
【0075】
図7は、本発明の実施形態が実行されるコンピュータシステム1100の構成要素例を示す。コンピュータシステム1100は、例えば、細胞増殖システムがプロセッサを用いて、(上述のプロセスのように、プロセスの一部として行われるカスタムタスクや予めプログラムされたタスクのような)タスクを実行する実施形態において、使用される。
【0076】
コンピュータシステム1100は、ユーザインターフェース1102、処理システム1104、及び/又は記憶装置1106を有する。ユーザインターフェース1102は、当業者であればわかるように、出力装置1108、及び/又は入力装置1110を有する。出力装置1108は、1又は複数のタッチスクリーンを有してよい。タッチスクリーンは、1又は複数のアプリケーションウィンドウを提供するためのディスプレイ領域を有してよい。タッチスクリーンはまた、例えば、ユーザやオペレータからの物理的な接触を受容可能及び/又は取り込み可能な入力装置1110であってもよい。タッチスクリーンは、当業者であれば理解できるように、処理システム1104による接触位置の推定を可能とする静電容量構造の液晶ディスプレイ(LCD)でもよい。この場合、処理システム1104は、接触位置を、アプリケーションウィンドウの所定位置に表示されるユーザインターフェース(UI)要素にマップすることができる。また、タッチスクリーンは、実施形態において、1又は複数のその他の電子構造を介して接触を受容することもできる。他の出力装置1108としては、プリンター、スピーカ等が挙げられる。その他の入力装置1110としては、当業者であれば理解できるように、キーボード、その他のタッチ式入力装置、マウス、音声入力装置等が挙げられる。
【0077】
本発明の実施形態において、処理システム1104は、処理ユニット1112、及び/又はメモリ1114を有してもよい。処理ユニット1112は、メモリ1114に記憶された命令を実行するために動作可能な汎用プロセッサであってよい。処理ユニット1112は、本発明の実施形態では、単一のプロセッサ又は複数のプロセッサを含んでよい。さらに、実施形態では、各プロセッサは、個別に命令を読み込んで実行するための1又は複数のコアを有するマルチコアプロセッサでよい。プロセッサは、当業者であれば理解できるように、汎用プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、その他の集積回路を含んでよい。
【0078】
本発明の実施形態において、メモリ1114は、データ及び/又はプロセッサ実行可能命令を短期に又は長期に記憶する任意の記憶装置を含んでよい。メモリ1114は、当業者であれば理解できるように、例えば、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、リード・オンリ・メモリ(ROM)、又は電気的消去・プログラム可能型リード・オンリ・メモリ(EEPROM)を含む。他の記憶媒体としては、例えば、当業者であれば理解できるように、CD-ROM、テープ、デジタル多用途ディスク(DVD)、又は、その他の光学記憶装置、テープ、磁気ディスク記憶装置、磁気テープ、その他の磁気記憶装置等がある。
【0079】
記憶装置1106は、任意の長期データ記憶装置又は部品である。本発明の実施形態において、記憶装置1106は、メモリ1114と関連して記載されたシステムのうちの1又は複数のものを含んでよい。記憶装置1106は、常設してもよいし、取り外し可能でもよい。一実施形態において、記憶装置806は、処理システム1104によって生成された又は与えられたデータを記憶する。
【0080】
本開示は、細胞を増殖する(すなわち、培養細胞の数を増加させる)方法を提供する。特に、これらの方法は、CD34タンパク質を発現するHSC(CD34-陽性HSC、又はCD34+HSC)を含むヒト造血幹細胞(HSC)の増殖に有用である。これらの方法において、CD34+HSCは、CD45+/CD34+HSC及び/又はCD133+CD38-前駆細胞であってもよい。これらの方法は、有利なことに、これらHSCの分化を最小限に抑えながら、迅速且つ効率的にHSCを(例えば、少なくとも50倍に)増殖させる。
【0081】
実施形態において、フロー1400を実行することで、CD34+HSC等の標的細胞を単一培養又は共培養で増殖することができる。フロー1400はステップ1404で開始し、ステップ1412へと至り、増殖した細胞(例えば、CD34+HSC)がバイオリアクターから取り出される。
【0082】
同様に、これらの方法において増殖される細胞は、幹細胞、CD34+HSC、T細胞、単球、及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞を含むドナー流体(例えば、1つ以上の血液成分)から収集される細胞であってよい。これらの方法では、ドナー流体内の特定の「標的」細胞(例えば、CD34+HSC)を増殖し、ドナー流体中に存在する他の細胞を除去するか、又は数を減少させることができる。
【0083】
これらの方法は、培養液中で又は膜上で、細胞を増殖することを含む。細胞増殖のこれらの方法において、そのような膜は、細胞を捕獲、収集、及び/又は保持するのに有用である。膜は、フラットシート、フィルタマトリックス、中空糸、それらの任意の組合せ、及び/又はそれらのうちのいくつか、のような任意の形態で用意することができる。これらの方法において、膜は、膜の少なくとも1つの表面上にコーティングを含んでもよい。コーティングは、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、及びフィブロネクチン又はアイソフォーム、又はそれらの機能的等価物を含む。本開示の方法において特に有用な膜は、中空糸バイオリアクター内に見られるように、中空糸又は複数の中空糸である。このような中空糸は、中空糸の内腔内の内側部分(細管内側部)又は内側部表面、及び外側表面(「毛細管外」側又は「毛細管外」表面)(細管外側部、細管外側部表面)を含む。中空糸膜は、複数の中空糸を含んでもよい。中空糸の例は、図8の概略図に示されるようなものであってよい。図8には、ある長さの中空糸800と、中空糸802の端部が図示されており、中空糸800の内腔(細管内側部)804と毛細管外側(細管外側部)808とを有する。図8に示すように、内腔面(細管内側部表面)806はコーティング810を有する。
【0084】
これらの方法のいくつかの例において、膜は、細胞処理装置と併せて使用することができる。一例では、細胞処理装置としては、テルモBCT社(コロラド州、レイクウッド)製のSPECTRA OPTIA(登録商標)アフェレーシス・システム、COBE(登録商標)スペクトラ・アフェレーシス・システム、TRIMA ACCEL(登録商標)自動血液収集システムが挙げられる。細胞をドナーから収集した後、細胞を膜に通過させて、そこから標的細胞を分離することができる。
【0085】
これらの方法のいくつかの例において、膜は、細胞増殖装置と併せて使用され得る。一例では、細胞増殖装置は、コロラド州レイクウッドのTerumo BCT社によって製造されたQuantum(登録商標)細胞増殖システムに対応する。標的細胞が(例えば、上記のように)分離された後、標的細胞は、膜において増殖され、例えば、膜に含まれる標的細胞の数が増加させられる。
【0086】
タンパク質又はエキソソームのような小さいサイズの種の捕獲は、膜上を流れる連続流に基づいて行われ得る。拡散動力学は、これらの種を膜に輸送するのを助けるのに有効であり、それら種は、該膜上に堆積されたそれらの共役化学物質によって捕獲される。中空糸壁への輸送は、図9の概略図に示されるように(図9における矢印は限外濾過流の方向を示す)、中空糸900の内腔側906から毛細管外側への適度な限外濾過によってさらにアシストされる。限外濾過流は、中空糸900の内腔表面906上に存在するコーティング910を通して生じる。流れは、図10の概略図に示されるように、混合細胞集団を分離するために停止される。ここでは、中空糸1000の内腔内の粒子1002が内腔1004内において浮遊した状態で、内腔1004における流れが停止されている。流れがない場合、粒子1002(例えば、HSC)は、図11の概略図に示されるように、中空糸1000の底部1006に落下する。この時点で、(細胞等の)標的種は、膜の表面に付着し、(細胞又は細胞残屑等の)非標的種は、膜上に含まれる標的種を残して膜から洗い流される。一例では、非標的種が除去された場合、解除機構(pHの変更、温度の変更、結合剤物質の排除を含むがこれらに限定されない)を使用して、膜成分と標的種との間(例えば、アプタマーと細胞膜抗原との間)の会合(結合等)を解除し、標的種をその本来の未修飾状態のままにすることができる。例えば、アプタマーは、適切なヌクレアーゼによって切断されて、アプタマーと細胞との間の結合が破壊され、細胞が結合から解放される。
【0087】
膜は、その後に増殖される標的細胞を誘引、収集、及び/又は保持するように構成された1又は複数のコーティングを含んでもよい。膜が中空糸バイオリアクターの中空糸である場合、中空糸は、中空糸の内腔(細管内側部)表面及び毛細管外(細管外側部)表面の一方又は両方にコーティングを含んでもよい。本開示において設けられるコーティングは、(例えば、疎水性相互作用及び親水性相互作用を介して)膜に化学的に結合されるコーティングであってもよい。いくつかの例では、基部コーティング材料が1層目のコーティング層として機能してもよく、第2コーティング材料が2層目のコーティング層として機能してもよい。これらのコーティング材料は、連続して又は一緒に膜に施される。第1コーティング材料の例としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、任意の細胞外マトリックス(ECM)糖タンパク質、コラーゲン、酵素、それらの等価物及び/又は組み合わせ、及び/又は、膜或いは他の表面への細胞接着を可能とすることができる任意の分子又は材料を挙げることができる。第2コーティング材料の例としては、可溶性タンパク質部分、ビオチン化分子、抗ビオチン抗体、ビオチン結合及び/又はストレプトアビジン結合ペプチド、ストレプトアビジン、アビジン、モノクローナル抗体、アプタマー(例えば、特定の細胞表面マーカーを標的とするアプタマー)、サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL)-6、IL-21)、ケモカイン(例えば、間質細胞由来因子(SDF)-1)、それらの等価物及び/又は組合せを挙げることができる。
【0088】
コーティングは、単一の化学操作で施されてもよい。例えば、第1の分子(例えば、第1の部分のコーティング材料)及び第2の分子(例えば、第2の部分のコーティング材料)は、膜から離れて、共役され、次いで、同時に膜上にコーティングされる。コーティングによって形成される場合、本開示の膜は、(1)細胞を増殖するための選択的バイオリアクターを作製するため、及び/又は(2)特定の標的細胞又は分子(任意のビオチン化分子又は細胞等)を捕獲することができるフィルタを作製するため、に使用され得る。
【0089】
一例において、膜は、基材の少なくとも1つの表面への細胞接着を促進する1又は複数の材料を含んでもよい。例えば、コーティングは、二量体糖タンパク質フィブロネクチン、又はフィブロネクチンの機能的等価物(例えば、そのプレmRNAの選択的スプライシングを介して作製されるフィブロネクチンの多くの公知のアイソフォーム、又はフィブロネクチンの一次細胞接着活性を与えるフィブロネクチンタンパク質のインテグリン結合配列Arg-Gly-Asp(RGD)を含む他のタンパク質)を含む。
【0090】
さらなる有用なコーティングは、1又は複数のタンパク質部分を含んでもよい。このようなタンパク質部分は、ドナー流体内に存在する特定の標的細胞を標的とするように選択されてもよい。例えば、タンパク質部分は、(例えば、コーティングされていない膜又はフィブロネクチンのみでコーティングされた膜と比較した場合に)ドナー流体からのCD34+HSCの収集を増進するために使用され得る、間質細胞由来因子-1(SDF-1)等のケモカインである。これらのコーティングにおける他の有用なタンパク質部分は、インターロイキン-21(IL-21)である。これらのコーティングにおける他の有用なタンパク質部分は、SDF-1及びIL-21の組合せである。これらのコーティングにおける他の有用なタンパク質部分は、図12に示すように、フィブロネクチンとSDF-1との組合せであってもよい。図12において、フィブロネクチンとSDF-1との組合せを含むコーティング1210が、中空糸1200の内腔表面に結合している。膜のさらなるコーティングは、ドナー流体内からの同じ細胞又は異なる細胞を標的化、収集、及び/又は保持するように選択されてもよい。
【0091】
これらの方法において、膜は、図5の概略図に示されるように、フィブロネクチンと可溶性タンパク質部分との混合物でコーティングされる。
【0092】
図13に示すように、これらの方法において、複数の細胞1302(HSCの懸濁液等)が、内腔表面1306上にコーティング1310を有する中空糸膜1300に導入される。
【0093】
いくつかの実施形態において、コーティングされた膜は、ストレプトアビジン、アビジン、及び/又は抗ビオチン抗体及び/又はそれらの機能的等価物のようなビオチン化分子を捕獲するために、フィブロネクチンと可溶性タンパク質部分との混合物でコーティングされる。
【0094】
図15の概略図に示されているように、いくつかの例では、中空糸1500の内腔表面1506は、例えば、ビオチン化分子を含むコーティングであるコーティング1510を有してもよい。一例では、このタイプの膜コーティングは、非標的種1503(赤血球等)の懸濁液内の標的種1502(HSC等)が捕獲されることを可能にする。コーティングされた膜は、細胞の混合集団から標的細胞を分離又は捕獲するために使用されてもよい。図16に示されるように、標的細胞1502は、例えば、中空糸1500の内腔表面1506上のコーティング1510中に存在するタンパク質部分によって捕獲される。中空糸1500の洗い流し(flushing)1550の後、非標的種1503は、中空糸1500の内腔1504から除去されるが、標的種1502は、中空糸1500の内腔表面1506に結合したままである。
【0095】
これらの方法において、複数の細胞は、本開示のコーティングされた膜である膜と接触するように方向付けられ、膜と接触した状態で増殖される。これらの方法において中空糸膜が使用される場合、複数の細胞は、中空糸バイオリアクターの、上記のように、細管内側部及び細管外側部を有する中空糸に導入される(1406)。複数の細胞は、膜と接触するように方向付けられる前に、種々の手段によって最初に精製される。或いは、複数の細胞は、例えば、細胞のドナー源からの収集(例えば、末梢血、又は骨髄、又は臍帯血(CB)の収集)から直接、最初に精製することなしに膜と接触するように方向付けられてもよい。すなわち、いかなる事前の精製もなしに複数の細胞を複数の中空糸に導入することを含んでもよい。細胞は、膜上にさらなる細胞を「播種」するために又は膜から残留細胞や細胞破片を除去するために行われる膜に対するさらなる循環又は移動の前に、膜と接触するように方向付けられ、次いで、膜と結合するようにその位置に残される。膜が中空糸バイオリアクターの中空糸を含む場合、この手順は、好適には、ポンプを用いて複数の細胞を中空糸の内腔内で循環させること、次いでポンプを停止して複数の細胞の一部を中空糸の内腔の第1の部分に付着させること、次いで中空糸バイオリアクターを初期位置から180度回転させた後、ポンプを用いて複数の細胞を中空糸の内腔内で再び循環させること、次いでポンプを停止して複数の細胞の一部を中空糸の内腔の第2の部分に付着させることを含んでよい。
【0096】
細胞は、中空糸内の細胞を成長条件に曝露すること(1408)によって増殖される(1410)。成長条件は、例えば、中空糸バイオリアクターの中空糸の内腔において、及び/又は中空糸の毛細管外側において細胞成長培地を循環させることによって、細胞を1又は複数の細胞成長培地に曝露することを含む。或いは、又はさらに、成長条件は、細胞を1又は複数の成長因子に曝露することを含んでよい。有用な成長因子としては、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt-3L)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-6(IL-6)、IL-21、SDF-1、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。GDNFが成長培地中に存在する場合、質量/体積パーセント濃度0.5%から2%の濃度、例えば成長培地中で約10ng/mLの濃度、が特に有用である。
【0097】
中空糸バイオリアクターの中空糸の膜を使用するこれらの方法では、第1の培地を中空糸の内腔で使用してもよく、第2の培地を中空糸の毛細管外側と接触させて使用してもよい。これらの方法では、内腔における培地のうち少なくとも1つの成分は、中空糸の毛細管外側の同じ成分の濃度よりも、濃くなっていてもよい。これらの方法において、濃くされる成分(濃縮成分)は、GDNF、SR-1、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、SDF-1、フィブロネクチン、又はそれらの組み合わせであってよい。これらの方法において、濃縮成分は、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍に濃くされる。
【0098】
細胞増殖のための他の有用な因子としては、モントリオール大学で開発され、ExcellThera社によって細胞療法のために臨床開発中であるステムレゲニン1(StemRegenin 1)(SR1)又はUM171のようなアリール炭化水素受容体アンタゴニストを挙げることができる。
【0099】
コーティングは、細胞培養のための特殊な環境を提供するために使用され得る(例えば、コーティングにおいて、基部コーティング材料がフィブロネクチン等であり、第2層目のコーティング材料がSDF-1、IL-21等の可溶性タンパク質部分を含む場合)。従って、本開示は、CD34+HSCを増殖するのに有用な組成物を提供する。これらの組成物は、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、及びアリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニスト(SR-1等)のうちの少なくとも1つを含み得る。これらの組成物はまた、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、SDF-1、及びフィブロネクチンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。これらの組成物において、GDNFは、質量/体積パーセント濃度0.5%から2%の濃度、又は少なくとも10ng/mLの濃度で存在し得る。これらの組成物において、フィブロネクチン及びSDF-1は、細胞培養表面(例えば、半透膜)上に固定されてもよい。これらの組成物は、BCL2のレベルを増加させ、HSC分化を阻害する。
【0100】
本開示のコーティングされた膜は、ストレプトアビジン、アビジン、抗ビオチンのようなビオチン化分子を捕獲するための特殊な環境を提供するために使用され得る(例えば、コーティングが、フィブロネクチン等の第1のコーティング材料と、ビオチン化分子、特定の細胞表面マーカーを標的とするアプタマー、又はサイトカイン(例えば、IL-6)等の可溶性部分のようなビオチン捕獲部分を含む第2のコーティング材料とを含む場合)。
【0101】
本明細書に記載される化学コーティングの少なくとも1つの利点は、無菌環境においてコーティングを有する膜(例えば、中空糸膜)を製造する能力である。化学的にコーティングされ、滅菌されたコーティング膜を含む滅菌パッケージは、開封され、パッケージから膜を取り出した後に(例えば、さらなる処理を必要とせずに)すぐに使用できる状態にある。
【0102】
一例において、Quantum(登録商標)細胞増殖システムのバイオリアクター中空糸膜(HFM)は、ストレプトアビジン-フィブロネクチンを含むコーティング材料でコーティングされてもよい。このコーティング材料は、例えば、続いてビオチン化細胞特異的モノクローナル抗体(mAbs)と結合される場合に、特定の細胞型を選択又は分離するために使用され得る。
【0103】
いくつかの例において、フィブロネクチン-ストレプトアビジン基礎は、細胞選択のための、ポリエーテルスルホンHFMバイオリアクター又は予備カラム、の表面を官能化するためのビオチン化分子の付着のためのコーティング材料として使用され得る。フィブロネクチンは、間葉系間質/幹細胞(MSC)、線維芽細胞、大動脈内皮細胞等の接着性細胞の接着及び増殖を介して、Quantum(登録商標)細胞増殖システムバイオリアクター内のポリエーテルスルホンHFMに結合し得る。このフィブロネクチン-ストレプトアビジンコンジュゲーションは、ビオチンに対するストレプトアビジン結合の高親和性を利用している。利用可能なタンパク質結合生化学構造を考慮しながら、細胞療法製品の製造におけるそれらの適応を調整するために、最小限の残留物又は反応物質で、プロトコルを直接的且つ効率的に維持することが重要である。一例では、フィブロネクチン-ストレプトアビジン混合物又はコンジュゲートを混合及び/又は結合してもよく、これにより、ビオチン化サイトカイン、ケモカイン、及び/又は他のリガンドを有するHFMバイオリアクター又はカラムが細胞選択及び/又は増殖を促進することが可能になる。生体分子の他のアフィニティー分離が使用されてもよい。いずれの場合も、このタンパク質-タンパク質コンジュゲーションは、利用可能な技術を使用する細胞療法に関連する親和性プロセスのためのプラットフォームとみなすことができる。
【0104】
これらの方法において、フィブロネクチン及びストレプトアビジンの混合物を、コーティングされた膜のためのコーティング材料として使用することができる。このプロセスは、凍結乾燥されたフィブロネクチン及びストレプトアビジン(例えば、質量比で1:3.3)を、周囲温度で約30分間、水中で再構成することを含んでもよい。フィブロネクチン-ストレプトアビジンのコンジュゲーション後、Ca2+-Mg2+を含まないリン酸緩衝生理食塩水で混合物体積を100mLにし、「Coat Bioreactor」タスクを使用して十分な時間(例えば、8時間)、Quantum(登録商標)細胞増殖システムに導入することができる。バイオリアクターコーティングの後、余分な未結合コンジュゲートタンパク質を洗い流してもよく、選択されたビオチン化分子、例えば、サイトカイン(インターロイキン又は成長因子)、エピトープ、リガンド、モノクローナル抗体、染色剤、又はアプタマーを、フィブロネクチン-ストレプトアビジンコーティングへのカップリングのため、「Coat Bioreactor」タスクを使用して、Quantum(登録商標)細胞増殖システムバイオリアクターに導入してもよい。完了すると、得られたフィブロネクチン-ストレプトアビジン-バイオコンジュゲートタンパク質は、細胞選択又は細胞シグナル伝達(分化を含む)用途における使用の準備ができた状態となる。他の用途としては、Quantum(登録商標)細胞増殖システムに細胞を導入する前に細胞選択又は分化に使用することができる予備HFMカラム又はマトリックスのコーティングが挙げられる。
【0105】
これらの方法では、組換えフィブロネクチン又は半合成フィブロネクチン又はフィブリノーゲンを、血漿由来フィブロネクチンの代わりに用いることができる。フィブロネクチンのような細胞外マトリックスタンパク質は、極性及び水素結合によってポリエーテルスルホン中空糸膜に結合することができる。フィブロネクチンは、フィブロネクチンがポリエーテルスルホン及び細胞膜インテグリンの両方に結合することを可能にする、糖タンパク質構造及び特定のドメインに起因して、生来的に接着性を有する。
【0106】
一例では、フィブロネクチンとストレプトアビジンの共有結合は、ストレプトアビジンコンジュゲーションキットを用いて、上記と同様の質量比で行うことができる。このキットは、フィブロネクチンとストレプトアビジンとの間の共有結合を、30分から24時間の期間で、いくつかの実施態様では3時間から15時間の期間で、生成するために、ある特定の結合修飾因子及びクエンチャーを利用し得る。いくつかの例において、フィブロネクチンとストレプトアビジンとの間の共有結合を生成するための時間は、約4時間±30分である。共有結合コーティング法において、選択されたビオチン化分子のストレプトアビジンに対する親和性は、フィブロネクチン-ストレプトアビジン混合物コーティング法におけるビオチン化分子の親和性と類似している。共有結合アプローチの1つの利点は、フィブロネクチン-ストレプトアビジン結合の安定性の改善である。
【0107】
例えば、1:3(フィブロネクチン:ストレプトアビジン)のモル比を用いたフィブロネクチンへのストレプトアビジン-ビオチン化分子の結合は、有用である。いくつかの例では、フィブロネクチン-ストレプトアビジンビオチン化分子のHFMバイオリアクターへの結合は、2段階プロセスである。このコンジュゲーションコーティングの化学的構造は、細胞選択、刺激、増殖、又は分化のためのビオチン化分子のアレイを結合するためのプラットフォームである。
【0108】
フィブロネクチン-ストレプトアビジンタンパク質コンジュゲートは、Quantum(登録商標)細胞増殖システムバイオリアクターのための接着分子として選択することができる。フィブロネクチン-ストレプトアビジンコンジュゲートへのビオチン化細胞特異的mAb又はタンパク質エピトープの結合は、解離定数Kd=10-14から10-15Mで、1:4以下の特定の比において、ビオチンに対するストレプトアビジンの高親和性を引き出すことができる。細胞特異的であるビオチン化抗体又はエピトープの例としては、親T細胞に対する抗CD3 mAb、ヒトT-reg細胞に対する抗CD4/CD25 mAb、ヒトT-エフェクター細胞に対する抗CD8 mAb、造血幹細胞に対する抗CD34 mAb、又はNK細胞に対する抗CD56 mAbが挙げられる。ストレプトアビジン-ビオチン結合は、強力な非共有結合を含んでもよく、従って、この機能的特異性を利用して、ビオチン化mAbコンジュゲートの特異性を変化させるだけで実質的に任意の細胞型を選択することができる。さらに、ビオチン化フィブロネクチンがストレプトアビジン-細胞特異的mAbと結合する逆のアプローチを利用することも可能であり、これを用いて目的の細胞を選択することができる。第1のアプローチを使用した場合、小さなビオチン分子(m.w.244.3ダルトン)を用いたmAbのビオチン化は、mAb結合又は細胞抗原認識に影響を及ぼす可能性が低い。第2に、グリコシル化ストレプトアビジンの欠如及び正味の負電荷は、細胞の非特異的結合を最小限にするのに役立つ。このコンセプトは、ストレプトアビジン-ビオチン相互作用の高度に特異的な相互作用及び多用途性を活用して、より良好な接着系を提供することができる。いくつかの例では、細胞は、DNase感受性リンカーを酵素的に切断することによって、ストレプトアビジン-フィブロネクチン-ビオチン-mAb-細胞複合体から酵素的に分離される。
【0109】
従って、本開示はまた、コーティングされた膜、並びにそれを作製及び使用する方法を提供する。これらのコーティングされた膜は、中空糸バイオリアクターにおいて使用される中空糸を含む中空糸であってもよい。これらのコーティングされた中空糸膜は、内腔表面(細管内側部表面)及び毛細管外側表面(細管外側部表面)を含んでよく、内腔表面及び毛細管外側表面の少なくとも1つの上に第1のコーティングを有してよい。第1のコーティングは、内腔表面及び毛細管外側表面のうちの少なくとも1つへの細胞接着を促進する材料を含んでもよい。内腔表面及び毛細管外側表面のうちの少なくとも1つの上の第2のコーティングは、可溶性タンパク質部分を含んでよい。これらのコーティングされた中空糸膜において、第1のコーティングはフィブロネクチンを含んでもよい。これらのコーティングにおいて、第2のコーティングは、サイトカイン、アプタマー、ケモカイン(例えば、SDF-1又はIL-21)、モノクローナル抗体、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はその機能の一部のうちの少なくとも1つを含んでもよい。これらの膜は、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンを含む材料から構成され得る。
【0110】
これらのコーティングされた中空糸膜において、中空糸をコーティングするフィブロネクチンの量は、0.001μg/cm2~2μg/cm2であってもよく、0.01μg/cm2~1.0μg/cm2であってもよく、0.10μg/cm2~0.50μg/cm2であってもよく、0.20μg/cm2~0.40μg/cm2であってもよく、0.23μg/cm2~0.24μg/cm2であってもよい。これらのコーティングされた中空糸膜において、中空糸をコーティングするSDF-1の量は、0.001ng/cm2~0.30ng/cm2であってもよく、0.01ng/cm2~0.10ng/cm2であってもよく、0.05ng/cm2~0.09ng/cm2であってもよく、0.075ng/cm2であってもよい。
【0111】
本開示はまた、コーティングされた中空糸膜を形成する方法を提供する。これらの方法は、内腔表面及び毛細管外側表面を有する中空糸膜を準備することと、中空糸膜の内腔表面上に第1のコーティングを施すことと、中空糸膜の内腔表面上に第2のコーティングを施すこととを含む。これらの方法では、第1のコーティングは、中空糸膜の内腔及び中空糸膜の毛細管外側の表面のうちの少なくとも1つへの細胞接着を促進する材料(フィブロネクチン等)を含むことができる。第2のコーティングは、可溶性タンパク質部分(例えば、サイトカイン、アプタマー、ケモカイン、モノクローナル抗体、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はその機能的断片のうちの1つ若しくは複数)を含むことができる。これらの方法において、第1のコーティング材料及び第2のコーティング材料を施すことは、第1のコーティング材料及び第2のコーティング材料を、中空糸膜とは離れて、共役体(コンジュゲート)(conjugate)にコンジュゲートすることと、該コンジュゲートを中空糸膜の内腔表面上にコーティングすることとを含んでよい。これらの方法は、中空糸膜の毛細管外側表面上に第1のコーティングを施すこと、及び/又は中空糸膜の毛細管外側表面上に第2のコーティングを施すことを含むことができる。これらの方法において、第1のコーティングはフィブロネクチンであってもよく、第2のコーティングはSDF-1又はインターロイキン-21(IL-21)であってもよい。
【0112】
本明細書に記載されるように、バイオリアクター(例えば、HFM、中空糸装置、及び/又は中空糸)は、連続的にコーティングされてもよい。バイオリアクターを連続的にコーティングすることにより、SDF-1部分への曝露を時間と共に高めることができる。例えば、例示的なプロトコルによれば、-2日目(例えば、播種の2日前)に、バイオリアクターHFMを(例えば、上記の「Coat Bioreactor」タスクを使用して)フィブロネクチンでコーティングしてもよく、-1日目(例えば、播種の1日前)に、バイオリアクターHFMを(例えば、上記の「Coat Bioreactor」タスクを使用して)SDF-1でコーティングしてもよく、0日目(例えば、播種の日)に、バイオリアクターにCB由来CD34+HSCを播種してもよい。いくつかの例では、各コーティングは、完了させるのに8時間~24時間かけてよい。
【0113】
これらの方法において、膜と接触している細胞(例えば、複数の中空糸の内腔内の細胞)は、単一培養(すなわち、実質的に他の細胞型の非存在下)又は共培養(すなわち、他の細胞型の存在下)において成長させることによって増殖される。例えば、これらの方法では、中空糸中で増殖されたCD34+HSCを、該中空糸中で他の細胞型と共培養されない単一培養で増殖することができる。CD34+HSCを単一培養で中空糸中において増殖するこれらの方法において、該中空糸は、中空糸の内腔表面及び毛細管外側表面の少なくとも1つの上にSDF-1及びフィブロネクチンを含むコーティングを有してもよい。これらの方法において、CD34+HSCは、共培養において他の細胞を必要とすることなく、SDF-1及びフィブロネクチンの存在下で好適に増殖される。
【0114】
これらの方法において、複数の細胞(例えば、CD34+HSC)は、共培養において成長させることによって増殖されてもよい。CD34+HSCは、間葉系幹細胞との共培養において増殖されてもよい。これらの方法では、共培養で成長させる細胞(間葉系幹細胞等)は、複数の増殖用細胞を中空糸に導入する前に、中空糸に導入されてもよい。共培養で成長させる細胞(間葉系幹細胞等)は、増殖される複数の細胞(CD34+HSC等)を導入する前に、(中空糸中の間葉系幹細胞を成長条件に曝露すること等によって)中空糸中において単一培養で増殖されてもよい。代替的に又は追加的に、増殖される複数の細胞(例えば、CD34+HSC)は、最初に、静止状態の成長チャンバー(例えば、従来の細胞培養ウェル又はフラスコ)内において共培養(例えば、間葉系幹細胞との共培養)で増殖され、増殖される複数の細胞(例えば、CD34+HSC)の全て又は一部を静止状態の成長チャンバーから取り出し、静止状態の成長チャンバーからの該複数の細胞を中空糸に導入してもよい。
【0115】
これらの方法において、細胞の増殖は、好適には、1単位の血液又は1単位の組織から得られるCD34+HSCを含む複数の細胞を、ヒトレシピエントに対する少なくとも1回の生着手順に十分な数の増殖細胞までに増殖するのに十分であり得る。これらの例において、1単位の血液は臍帯血であってもよく、又は1単位の組織は骨髄であってもよい。
【0116】
これらの方法において、CD34+HSCを含む増殖された細胞は、増殖後に少なくとも90%の生存率を有し得る。これらの方法において、CD34+HSCを含む増殖された細胞は、少なくとも50倍に増殖され得る。
【0117】
いくつかの例では、本開示は、非標的種の混合集団から標的種、例えば標的細胞又は標的分子、を分離するための方法及び装置を提供する。細胞の混合集団からの標的細胞の分離を用いて、該方法及び該装置が記載される。血液透析器と同じような中空糸装置が、細胞分離手順において使用され得る。上述したように、中空糸の毛細管内側(内腔)壁は、特定の結合試薬(例えば、コーティング材料)が中空糸装置の毛細管内側表面に均一に付着するようにコーティングされてもよい。それに加えて、又はそれに代替して、中空糸の毛細管外側の壁を結合試薬で処理して、(例えば、分子捕獲のために)表面積を増加させてもよい。
【0118】
結合試薬は、例えば、モノクローナル抗体(mAb)又は配列決定されたアプタマーに対応する。結合試薬は、分離ターゲットである標的細胞の表面上の受容体分子に対して特異性を有するように選択され得る。例えば、T細胞が単核細胞(MNC)収集物から分離される場合、CD3、CD4、CD8、及び/又はT細胞マーカーの組み合わせに対する特異性を有する結合試薬が、膜を構成する中空糸の毛細管内側表面及び/又は毛細管外側表面に付着(例えば、塗布、コーティング、堆積)される。混合細胞集団からT細胞を分離する方法の一例は、膜への導入の前に抗体又はアプタマーを細胞に付着させ、次いでストレプトアビジン被覆中空糸のようなストレプトアビジン被覆膜を通過させることを含む。他の例では、対向流閉じ込め(CFC)アプローチが使用され、細胞の収集物が中空糸膜の内腔側に流される。細胞が膜の内腔側に収容されると、対向流は、細胞を中空糸内に保持するのに十分なレベルまで最小化される。標的細胞が内腔表面に結合したら、長手方向の流れ(内腔入口ヘッダから内腔出口ヘッダへ)及び限外濾過の流れの両方を利用して、中空糸の内腔から未結合細胞を除去することができる。
【0119】
いくつかの例では、標的細胞のそれらの結合部位からの剥離を容易にする(例えば、標的細胞収穫を容易にする)ために、剥離剤を使用してもよい。剥離剤は、長手方向に流されてもよく、限外濾過を用いて流されてもよく、両方を用いて流されてもよい。
【0120】
中空糸装置(例えば、中空糸として配置されたコーティングされた膜を含むバイオリアクター又は他の装置)に関連して実施例を本明細書において記載する場合があるが、コーティングができるのであれば、任意の膜を使用することができることを理解されたい。例えば、以下の装置のうちの任意の1つ以上が、種々のコーティングを受容するために、及び/又は本明細書に記載される方法を行うために使用され得る:大表面積中空糸装置、透析装置(例えば、血液透析器)、細胞捕獲カラム(例えば、磁気細胞選別、磁気カラム装置)、ポリスルホン膜フィルタ装置、細胞処理システム等。
【0121】
これらの方法において、複数の増殖細胞の少なくとも一部は、膜(例えば、中空糸バイオリアクターの中空糸)から取り出されてもよい(1412)。次いで、増殖された細胞は、保存されるか、又は患者のための他の治療手順(例えば、癌処置プロトコル)における移植又は投与のために使用される。これらの方法において、複数の増殖細胞を患者に投与することで、患者における造血を再構築することができる。
【0122】
ヒト白血球抗原(HLA)-8-アレル一致臍帯血(CB)移植は、特定の血液悪性腫瘍、異常ヘモグロビン症、及び自己免疫疾患の処置のための同種異系処置である。CB由来CD34+幹細胞及び前駆細胞は、造血再構築のために選択され得る。何故なら、血液移植レシピエントにおいて迅速な生着を達成するそれらの能力と共に、自己再生能力と増殖能力が向上し、テロメアが長くなり、同種反応性T細胞の頻度が低下することにより移植片対宿主病(GVHD)の発生率が低下するからである。しかしながら、この状況における課題の1つは、混合同種造血幹細胞移植(HSCT)をサポートするために必要である十分な数のT細胞除去造血幹前駆細胞を提供することである。CBバンクに保存された臍帯血単位のうち、70kgの患者に対する1単位移植(≧1.05×107CD34+HSC)又は2単位移植(≧1.40×107CD34+HSC)に対して十分な数のCD34+HSCを含有するものは、わずか4%~5%程度である。
【0123】
間葉系間質細胞又は種々のサイトカインサプリメントと組み合わせた小分子のいずれかとの共培養において臍帯血由来CD34+HSCを増殖する方法は、臍帯血単位(CBU)からの4~6×106以上のCD34+HSCの接種に依存することが多い。いくつかの実施形態において(例えば、保存されたCBUの範囲を拡大するために)、組換えヒト-幹細胞因子(SCF)、-トロンボポエチン(TPO)、-fms様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3L)、-インターロイキン3(IL-3)、及び-インターロイキン6(IL-6)からなる一次サイトカインカクテルを製造業者の推奨濃度の10分の1で使用して、細胞処理システム(例えば、Quantum(登録商標)細胞増殖システムの灌流ベースの2チャンバー半透過性中空糸膜(HFM)バイオリアクター)における、予め選択された臍帯血由来CD34+HSCの2×106個の低初期播種のための単一培養増殖プロトコルが提供される。このサイトカインカクテルは、例えば、細胞生存率を維持するために、組換えヒトグリア細胞由来神経栄養因子(rhGDNF)でさらに補充され、そしてアリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニストSR-1と組み合わされる。GDNFは、ヒトCB-CD34+細胞前駆体における抗アポトーシス遺伝子BCL2の発現を上方制御することができ、SR-1は、他のHSCサイトカインと共に実施される場合、CD34+HSC増殖中のHSCの分化を制限することができる。骨髄類洞における間葉系間質細胞(MSC)と造血幹前駆細胞(HSPC)との近接性は、CD146+MSCからのSCFによるHSPCの血管周囲支持と相まって、造血共培養プロセスにおいてそれらの包含の一因である。魅力ではあるが、MSC及びHSPCの共培養は、幹細胞及び前駆細胞の増殖プロセスに複雑さ、時間、及び潜在的な変動性を加える。たとえそうであっても、MSC/HSPC共培養は、CB由来CD34+HSCにおける代替的な産生戦略を提供し得る。造血細胞及び前駆細胞の増殖プロセスを自動化することにより、治療適応のために選択された細胞を信頼できる量で提供することができる。
【0124】
さらに、Quantum(登録商標)システムは、灌流ベースのHFMバイオリアクターを用いて、接着性MSC並び懸濁CD3+T細胞及び制御性T細胞の両方の増殖をサポートする。本明細書に記載されるCB由来CD34+細胞増殖方法において、バイオリアクターの毛細管内側(IC)HFM内腔は、骨髄由来又はワルトン膠質由来間葉系間質細胞の刺激及びホーミング効果を模倣するために、細胞播種の前に、ヒトフィブロネクチン(Fn)及びケモカイン間質由来因子1(SDF-1)の混合物でコーティングされる。予め選択されたCB由来CD34+HSCは、続いて、懸濁培養条件下で増殖され、そしてこのプロセスの間に、コーティングされたHFM IC表面に付着されて、例えば、Fn-SDF-1修飾表面と結合される。いくつかの場合において、固定化されたSDF-1は、VLA-4インテグリンによるCD34+HSCのマウス内皮細胞へのインテグリン媒介細胞接着を発達させるために必要とされる。これに関連して、細胞培養表面上へのPEG-RGDインテグリン認識配列の組み込みと共に、SCF及びSDF1αのヒドロゲル固定化は、骨髄微小環境の特定の様相(aspect)を再現する。本明細書に記載される実施形態及び実施例は、修飾された細胞外マトリックスタンパク質を有するCB由来CD34+HSCの増殖を提供する。
【0125】
一例では、混合され、正に選択されたCB由来CD34+HSCで始める、CB由来HSC及び前駆細胞の自動化された単培養増殖のための方法及び/又はシステムが提供される。これらの細胞を無血清培地に再懸濁し、規定の造血サイトカインカクテルを補充し、例えば、Fn-SDF-1コーティングHFMバイオリアクターシステムにおいてT細胞分化を最小限に抑えるように、プログラムされているが変更可能な灌流プロトコル下で8日間増殖される。Quantum(登録商標)システムで増殖されたCB由来CD34+HSCは、CD34+表現型を保存し、リンパ球の頻度を最小限に抑えながら、1単位及び2単位の最小限CD34+用量当量の両方を支持するのに十分な量の細胞を生成することができる。さらに、これらのCB由来増殖前駆細胞は、メチルセルロースアッセイ条件下で成熟造血コロニー形成単位(CFU)に分化する能力を示し得る。
【0126】
例示的な実施態様では、臍帯血由来の予め選択された混合CD34+HSCの3つのマスターロットを、約124mLの灌流培養体積を有する約2.1m2のHFMバイオリアクター中で増殖し、自動懸濁細胞プロトコルを使用して収穫される。細胞は、規定された灌流プロトコルによってHFMバイオリアクターの毛細管内側ループ(例えば、ICループ)に導入され、カスタムの対向流流体工学プログラムを用いてバイオリアクターの内腔内に維持される。
【0127】
上記のように、本開示の膜を使用して、特定の標的細胞又は分子を捕獲することができる膜を効果的に作製することができる。従って、本開示はまた、細胞を捕獲する方法を提供する。実施形態において、フロー2400は、CD34+HSCのような細胞を捕獲するために実行される。フロー2400はステップ2404で開始し、ステップ2414へと至り、捕獲した標的細胞(例えば、HSC)がバイオリアクターから取り出される。これらの方法は、標的種(例えば、細胞又は分子)と非標的種との混合物を本開示の膜上に(例えば、中空糸バイオリアクターの中空糸内に)導入すること(2406)を含む。ここで、各中空糸はそれぞれ、内腔及び毛細管外側を有する。上で詳細に説明したように、これらの膜は、細胞接着を促進する材料及びタンパク質部分のうちの少なくとも1つを含む膜の少なくとも1つの表面上にコーティングを有する。中空糸膜を使用する場合、中空糸の内腔表面及び毛細管外側表面の一方又は両方が、細胞接着を促進する材料及び/又はタンパク質部分でコーティングされる。
【0128】
膜と接触している種の混合物は、標的種と膜との会合を強める条件(すなわち、「捕獲条件」)(2410)に曝露される(2408)。捕獲条件の例としては、pH、温度、張度の変更、及び/又は標的種と膜との会合を増強する化合物の添加若しくは除去が挙げられる。捕獲条件の実施により、膜(例えば、中空糸の内腔及び毛細管外側表面のうちの少なくとも1つ)の表面上に標的細胞の少なくとも一部を効果的に捕獲し得る。その後、非標的種の少なくとも一部が、膜から(例えば、中空糸の内腔から)洗い流される(2412)。これらの捕獲方法において、標的種は、例えば、CD34+HSCであってもよく、非標的種は、例えば、他の細胞型又は細胞破片又は血液タンパク質であってもよい。
【0129】
これらの捕獲方法において、膜の表面への細胞接着を促進する膜上のコーティング材料は、フィブロネクチンを含んでよい。これらの捕獲方法において、タンパク質部分は、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、インターロイキン-21(IL-21)、ストレプトアビジン、アビジン、及び抗ビオチン抗体又はそれらの機能的断片のうちの少なくとも1つであってよい。これらの捕獲方法において、コーティングは、フィブロネクチン及びSDF-1を含んでよい。標的細胞種(例えば、CD34+HSC)を捕獲するこれらの方法において、非標的細胞の少なくとも一部を膜から洗い流した後、捕獲された標的細胞は、例えば、CD34+HSC等の捕獲された細胞の成長及び増殖を高めるために、培地及び/又は膜における他の条件を変更することによって増殖されてよい。これらの捕獲方法は、捕獲された(CD34+HSCのような)標的種の少なくとも一部を膜から取り出すことを含んでよい。これらの捕獲される種は、上記のように、標的種の捕獲及び非標的種を除去するための洗い流しの後に、又は捕獲後に標的細胞種が増殖された後に、膜から取り出される(2414)。
【0130】
本開示はまた、ビオチンとアビジンとの相互作用を用いて細胞を捕獲する方法を提供する。これらの方法は、標的種及び非標的種の混合物を中空糸に導入することを含む。これらの方法では、中空糸はそれぞれ、内側管腔及び毛細管外側を含み、中空糸は、中空糸の内腔表面及び毛細管外側表面のうちの少なくとも1つの上にコーティングを含んでよい。これらの方法において、コーティングは、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン化分子、及び抗ビオチン抗体又はその機能的断片のうちの少なくとも1つを含み得る。これらの方法において、標的種及び/又は非標的種は、細胞(例えば、HSC)又は分子であってよい。これらの方法では、標的種及び非標的種の混合物を捕獲条件に曝露して、中空糸の内腔及び毛細管外側表面の少なくとも1つに標的種の少なくとも一部を捕獲することができる。そして、非標的種の少なくとも一部が中空糸から洗い流される。これらの方法において、中空糸に導入される標的細胞は、中空糸の内腔表面及び毛細管外側表面のうちの少なくとも1つの上のコーティングに結合するビオチン化アプタマー又はビオチン化抗体を含んでよい。
【0131】
標的種が細胞であるこれらの方法は、中空糸から非標的細胞の少なくとも一部を洗い流した後、中空糸の表面上に捕獲された標的細胞の一部を成長条件に曝露して、中空糸内に捕獲された標的細胞の一部を増殖し、それによって複数の増殖標的細胞を生成することを含んでよい。これらの方法では、標的細胞の捕獲及び非標的細胞の洗い流しの後、捕獲された標的細胞の少なくとも一部が中空糸から取り出される。
【0132】
本開示はまた、細胞増殖システムにおいて灌流によって細胞を増殖する方法を提供する。これらの方法は、中空糸バイオリアクターを、シグナル伝達因子及び/又はコーティング因子を含む第1の流体でコーティングすることを含む。複数の細胞が、中空糸膜を備える中空糸バイオリアクターに導入される。複数の細胞は、複数の成長因子を含む第2の流体に曝露される。中空糸バイオリアクター内の複数の細胞は、単一培養又は共培養で増殖されてもよい。これらの方法において、第1の流体は、フィブロネクチン及びSDF-1のうちの少なくとも1つを含んでよい。これらの方法において、フィブロネクチン及びSDF-1は、中空糸バイオリアクターをコーティングする前に一緒に混合されてもよい。これらの方法において、中空糸バイオリアクターは、中空糸バイオリアクターをフィブロネクチンでコーティングし、次いで、中空糸バイオリアクターをSDF-1でコーティングすることによって、連続的にコーティングされてもよい。これらの方法において、中空糸バイオリアクターは、中空糸バイオリアクターをSDF-1でコーティングし、次いで中空糸バイオリアクターをフィブロネクチンでコーティングすることによって連続的にコーティングされてもよい。これらの方法において、中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用されるフィブロネクチンの量は、0.001μg/cm2~2μg/cm2、又は0.01μg/cm2~1.0μg/cm2、又は0.10μg/cm2~0.50μg/cm2、又は0.20μg/cm2~0.40μg/cm2、又は0.23μg/cm2~0.24μg/cm2であってよい。これらの方法において、中空糸バイオリアクターをコーティングするために使用されるSDF-1の量は、0.001ng/cm2~0.30ng/cm2、0.01ng/cm2~0.10ng/cm2、又は0.05ng/cm2~0.09ng/cm2、又は0.075ng/cm2であってもよい。
【0133】
これらの方法において、第2の流体はGDNFを含んでもよい。これらの方法において、第2の流体中のGDNFの量は、0.001ng/mL~40.0ng/mL、又は0.01ng/mL~20ng/mL、又は0.10ng/mL~15ng/mL、又は1.0ng/mL~15ng/mL、又は5.0ng/mL~15ng/mL、又は10ng/mLであってよい。
【0134】
これらの方法において、複数の成長因子は、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、及びIL-6のうちの少なくとも1つを含んでよい。これらの方法において、第2の流体はステムレゲニン(SR-1)を含んでもよい。これらの方法において、第2の流体中のSR-1の量は、0.001μM~3.0μM、又は0.01μM~2.0μM、又は0.10μM~1.0μM、又は0.75μMであってもよい。
【0135】
これらの方法では、複数の細胞を中空糸バイオリアクターに導入する前に、中空糸バイオリアクターを、5mgのヒト血漿由来フィブロネクチン又は0.23~0.24μg/cm2のフィブロネクチンと0.075ng/cm2の組換えヒト幹細胞由来因子1(SDF-1)との混合物で所定の期間コーティングしてもよい。これらの方法において、所定の期間は、4.0時間~16.0時間、又は8.0時間~12.0時間である。
【0136】
実施例
【0137】
実施例1 Quantum(登録商標)システムにおける臍帯血由来CD34+HSCの短期増殖方法
【0138】
8日以下で増殖されたヒト臍帯血由来のCD34+造血幹細胞(HSC)は、ヒト化免疫不全マウスモデルにおいて、8日を超えて増殖された細胞よりも良好に生着した。臍帯血由来CD34+HSCを8日間以下で増殖した結果、より一貫したヒト造血及びリンパ系生着を示すBALB/C-RAG2ヌルIL-2r-ガンマヌルマウスモデルヒト化マウス(Clinical Immunology、140:102-116、2011)が得られた。
【0139】
実施形態は、例えば、細胞収率、表現型及び機能性を改良しながら、細胞(例えば、CD34+HSC及び/又はCB-CD34+HSC)の増殖のための期間を低減又は短縮する。ある実施形態では、SDF-1のin situ供給源である間葉系幹細胞(MSC)との共培養におけるHSC CB-CD34+HSCの、約14日間の、接種物増殖及びQuantum(登録商標)システム増殖を提供する。さらなる実施形態では、短縮された単一培養プロトコルを用いて、例えば、収量、表現型及び機能性が改善される。ヒト臍帯血由来CD34+HSCを、例えば以下の2段階で増殖することができる。(1)T25フラスコ中で約3日間、約100万個のCB-CD34+HSCの接種物調製増殖の後、(2)フィブロネクチン固定化SDF-1及び他の成長因子/サイトカインを用いた単一培養技術を使用することによって、CD34+CD38-CD133+のHSC表現型及び関連する生着機能を維持するため、約5日間、Quantum(登録商標)細胞増殖システム中において灌流によって生存CD34+HSCを増殖する。例えば、実施形態は以下を提供する。(1)約8日間の細胞増殖のための短縮されたタイムラインの使用:例えば、単一培養で、(1)固定化されたSDF-1シグナル伝達因子を(2)新規増殖因子カクテルと組み合わせて使用し、フラスコ内で約3日間、そしてQuantum(登録商標)システムで約5日間、行う。該カクテルは、例えば、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、GNDF±SR-1、及びそれらの組合せのうちの1又は複数を利用する。一実施形態では、単一培養プロトコル(例えば、短縮単一培養プロトコル)は、例えば、Quantum(登録商標)システムにおける双方向細胞再播種タスクを使用することができる。
【0140】
CD34+混合細胞増殖
【0141】
フラスコ試験
【0142】
一例では、フラスコ試験を7日間にわたって行った。臍帯血由来のCD34+HSCを、振盪せずにCO2 CD34完全培地を用いて37°Cで増殖した。1日目に、細胞を7mL中に1×105細胞/mLで播種し、7日目に収穫した。5,700,000の収穫量が最善だと考えられた。CD34培地は11,800,000個の細胞を産生するが、完全培地で1:10希釈したCD34培地は9,200,000個の細胞を産生し、1:20希釈したCD34培地は5,900,000個の細胞を産生した。細胞生存率は、未希釈、1:10希釈、及び1:20希釈のCD34培地について、それぞれ86.2%、90.3%、及び90.1%であった(アーム当たりn=2、細胞計数は3回行った)。
【0143】
凍結-融解試験
【0144】
解凍した混合臍帯血由来CD34+HSC(Stem Cell Technologies、Lot 1907519003)の増殖の実行可能性を試験した。細胞(1.1×106個及び2.1×106個のCB由来CD34+HSCを、2つの別々の単一培養Quantumプロセスでそれぞれ播種した)を、T25フラスコ中で、フィブロネクチン固定化SDF-1コーティング表面を用いて、修飾されたサプリメントカクテル(1体積%のStemSpan CD34+サプリメントにGDNF及びSR-1を加えたもの)を添加したSCGM培地(Cat.20802-0500、CellGenix GmbH、Freiburg、Germany)で、培養した。フラスコ及びQuantumCESの両方を、細胞播種の前に、フィブロクネチン-SDF-1タンパク質混合物で37°Cで一晩コーティングした。流体工学的に、フラスコは静止状態であった。一方、Quantumシステムは、Quantum CES「Coat Bioreactor」タスク(IC入口レート:0mL/分、IC循環レート:Fn/SDF-1を付加して20mL/分、EC入口レート:PSを付加して0.1mL/分、及びEC循環レート:30mL/分、EC出口)を使用して一晩(12~15時間)灌流させた。細胞を3日間培養し、Quantum(登録商標)システム中空糸膜(HFM)バイオリアクター中で5日間培養した。
【0145】
実行可能性試験では、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、及びGNDFを含み且つSR-1カクテルを含む又は含まない2つの培地に対して、単一培養におけるCB由来HSCの増殖をサポートする性能について評価した。両方の実験アームに、T25フラスコ中に1×106細胞を播種した。3日目に、Q1893(SR-1なし)Quantum(登録商標)システム及びQ1894(SR-1あり)Quantum(登録商標)システムに、それぞれのフラスコ培養物からの細胞接種物を播種した。
【0146】
8日目において、収穫量は、SR-1なしで4.49×107細胞(生存率98.5%)及びSR-1ありで5.57×107細胞(生存率98.8%)であった。凍結保存された造血幹細胞Quantum(登録商標)システム収穫物表現型のフローサイトメトリー分析は、CD34+細胞画分が、1.40×107細胞すなわちSR-1を含まない総収穫の31.1%であり、また2.1×107すなわちSR-1を含む総収穫の37.7%であることを示した。最小限及び最大限CD34+用量は、それぞれ7,000,000及び10,500,000細胞である。
【0147】
実施例2 Quantum(登録商標)システムにおける臍帯血由来CD34+HSCのための単一培養増殖方法
【0148】
実施形態は、例えば、SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、及びフィブロネクチン-SDF-1コーティング膜から構成される新規サイトカインカクテルを使用する、Quantum(登録商標)システムの動的灌流ベースの2チャンバー半透過性中空糸膜(HFM)バイオリアクターにおけるCB由来CD34+HSCのための自動増殖プロトコルを提供する。カクテルは、GDNF及びSR-1で補充される。さらに、毛細管内側(IC)HFM管腔は、骨髄由来間葉系間質細胞の刺激効果及びホーミング効果を模倣するために、ヒトフィブロネクチン及びケモカインSDF-1の混合物でコーティングされる。
【0149】
この自動増殖プロトコルの一連の試験では、解凍された臍帯血(CB)由来の予め選択された混合CD34+HSCの3つのマスターロットを、2.0×106個のCD34+HSCの初期細胞播種で、約124mLのIC体積を有する約2.1m2のHFMバイオリアクター中において増殖する。まず、細胞を、成長因子カクテルを補充したSCGM基本培地に再懸濁する。細胞は37°Cの水浴で解凍され、23mLの完全培地で洗浄され、50mLの完全無血清GMP SCGM培地(Cat.20802-0500、CellGenix GmbH、Freiburg、Germany)で、再懸濁される。該完全無血清GMP SCGM培地は、1体積%の濃度でStemSpan CD34 Supplement 10X(Cat.2691、Stem Cell Technologies、Vancouver、BC、Canada)、10ng/mLでグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)(Cat.212-GD-050、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)、0.75μMのステムレゲニン1(StemRegenin 1)(SR-1)(Cat.72342、Stem Cell Technologies、Vancouver、Canada)、及び1体積%の濃度でペニシリン-ストレプトマイシン-ネオマイシン(PSN)抗生物質混合物100X(Cat.15640-055、ThermoFisher Scientific、Waltham、MA、USA)で補充されている。StemSpan CD34 Supplement 10Xは、組換えヒトFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3l)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)、及びインターロイキン6(IL-6)を含有する。基本培地は、SR-1及びPSN抗生物質混合物を補充した無血清GMP SCGMを用いて構成され得る。
【0150】
CD34+HSC接種材料を播種する前に、Quantum(登録商標)システム HFMバイオリアクター(21,000cm2のS.A.)を、100mLのCa2+-Mg2+無しPBS(Cat.17-516Q、Lonza Group、Walkersville、MD、USA)において、5mgのヒト血漿由来フィブロネクチン(又は0.23~0.24μg/cm2、Cat.356008、Corning Life Sciences、Corning、NY、USA)及び0.075ng/cm2の組換えヒト幹細胞由来因子1(SDF-1)(Cat.6448-SD、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)の混合物を用いて、37°Cの温度及び混合ガス(5%CO2、20%O2、残部N2)で一晩コーティングした。
【0151】
次いで、細胞を、規定の灌流プロトコルによってHFMバイオリアクターの毛細管内側ループ(例えば、ICループ)に導入し、カスタム対向流流体工学プログラムを用いて、バイオリアクターの内腔内に維持した。Quantum(登録商標)システムの自動化タスク(該タスクの設定概要は以下の表1-3に示される)を使用して、CB由来のCD34+HSCを、内腔及び毛細管外培地交換並びに調整の後、50mLの完全培地(以下のサイトカインカクテルを含む無血清GMP SCGM基本培地:SCF、TPO、Flt-3L、IL-3、IL-6、GDNF、及びSR-1)中でコーティングされたHFMバイオリアクターに懸濁状態で播種し、単培養で増殖し、細胞培養8日目に収穫した。上記調整においては、QuantumシステムのバイオリアクターのIE/ECループにおける灌流による培地循環により、少なくとも10分間、以下の循環速度(IC循環:100mL/分、EC循環:250mL/分、EC入口:0.1mL/分)が設定された「培地調整」と題するQuantum組み込みタスクを使用して、QuantumのCES内で細胞増殖培地に対して調整が行われる。これにより、ガス移送モジュールを介したECループでのガス交換により、バイオリアクター培地内の混合ガス(20%O2、5%CO2、バランスN2)が平衡化される。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
【表4】
【0156】
【表5】
【0157】
デフォルトタスクは、Quantum(登録商標)システムプライミング、IC培地/EC培地交換、及び培地調整タスクに使用される。プロセスにおいて、グルコース及び乳酸レベルを、i-STAT Analyzer G及びCG4+カートリッジ(Abbott Point-of-Care、Princeton、NJ)によってモニターした。細胞増殖の間、Quantum(登録商標)システムのIC及びEC入口流量を、グルコース消費速度及び乳酸塩生成速度並びに自動化タスクの種類に応じて調整した。このプログラムは、細胞培養中のT細胞分化を減少させる(すなわち、最小化する)ために、約5%のCO2、約20%のO2、及び残りがN2のガス混合物を約37°Cで約8日間だけ使用する。細胞は、自動懸濁細胞プロトコルを用いて収穫される。
【0158】
例えば、Quantumシステム入口流量は、約+0.1~約100mL/分の範囲であり、IC循環流量は、約-40~約300mL/分の範囲である。細胞培養プロセス中、対応するQuantumシステムEC入口流量は、約0~約148mL/分の範囲であり、EC循環流量は、約-1.7mL/分~約300mL/分の範囲である。増殖中、グルコース及び/又は乳酸レベルは、例えば、G及びCG4+カートリッジを使用したi-STAT分析器(例えば、Abbott Point-of-Care、Princeton、NJ、USA)によって分析され得る。収穫時に、細胞数を(例えば、Vi-CELL XR細胞分析器、Beckman Coulter、Indianapolis、IN、USAを用いて)カウント(図17)し(トリパンブルーによる細胞生存率の定量を含む)(図18)、CryoStor CS10凍結培地(例えば、Biolife Solutions、Bothell、WA、USA)で凍結保存し、次の分析まで液体窒素気相中で保存した。
【0159】
増殖結果
【0160】
平均収穫量は、約1.02×108細胞(約4.02×107~約1.61×108細胞の範囲)であり、トリパンブルー定量による平均細胞生存率は約95.5%(約93.3%~約96.8%の範囲)であり、細胞生存率カウンター(Vi-CELL(商標)XR、Beckman Coulter)によって決定した。4.0×107~1.6×108細胞の細胞増殖収量は、1単位移植に対する最小限CD34+細胞量である1.5×105細胞/kg及び2単位移植に対する最小限CD34+細胞量である1.0×105細胞/kgを超えた。これは、70kgの患者に対する、1単位移植及び2単位移植についてそれぞれ1.1×107個のCD34+HSC及び1.4×107個のCD34+HSCの最小量に等しい。
【0161】
平均細胞集団倍加は約5.4であり、平均細胞集団倍加時間は約34.9時間である。平均倍数増加は、増殖期間の過程にわたって51.0倍(約20.1倍~約80.5倍の範囲)である。IC培地入力灌流流量は、グルコース及び乳酸代謝産物に応答して調整され、約0.1~約0.2mL/分の範囲であった。
【0162】
中央値の臍帯血単位(CBU)は、約4.4×106個のCD34+HSCを含み、最大約2.0×107個のCD34+HSCまでを含有し得る。本明細書中に記載される方法及びシステムを使用した場合、単一のCBUからの平均増殖収量は、例えば、完全なCBU CD34+細胞画分で、細胞接種物を2.0×106細胞から4.4×106~2.0×107細胞まで単純に増加させることによる自動化された8日間の単培養細胞増殖プロトコルを用いて、2.2×108~1.0×109程度のCB由来幹細胞又は前駆細胞となり得る。このアプローチは、とりわけ、灌流バイオリアクターにおいて細胞播種密度を、例えば、1.6×104細胞/mLから3.6×104~1.6×105細胞/mLに増加させることができ、細胞分化の可能性を低減することができる、より短い増殖時間枠をもたらすことができる。
【0163】
凍結保存
【0164】
様々なUCBドナーに対して、そのようなCD34+HSC収穫量と凍結保存前細胞生存率とを比較することにより、増殖収量と凍結保存前細胞生存率との間の関係が明らかになった(図19)。BC Vi-CELL XR Cell Analyzerを使用したトリパンブルー色素排除によって、収穫時においてQuantumCES CD34+細胞生存率が測定された。凍結保存前CD34+細胞生存率には大きな幅がある。本発明者らの研究では、凍結保存前の細胞生存率は84%~98%の範囲であった。Quantum CESにおけるCB由来CD34+HSCの増殖は、95%の平均収穫細胞生存率をもたらした。
【0165】
解糖代謝
【0166】
解糖代謝のモニタリング結果が示すように、グルコース消費速度は0mmol/日から最高値(5日目)0.596mmol/日の範囲であり、乳酸塩生成速度は0mmol/日から最高値(8日目)0.650mmol/日の範囲である(図20)。これら2つの代謝産物の最高値を示す日の差は、培地流量の調節、解糖系のフラックスを制御する酵素の発現の違い、及び細胞増殖中の中心的な生合成代謝産物の需要に起因すると考えられる。
【0167】
免疫表現型検査
【0168】
自動化された3種類のCB由来CD34+細胞の各増殖から1x106細胞ずつ解凍した細胞収穫サンプルを完全培地で再懸濁・洗浄し、500gで5分間遠心し、100μLのBD Flow Stain Bufferに再懸濁し、5μLのヒトBD Fcで10分間ブロックした後、以下のコンジュゲート染色液で染色する:BD Pharmingen抗ヒトCD45-APC-H7(Cat.560178)、抗ヒトCD34-APC(Cat.560940)、抗ヒトCD133-PE(Cat.566593)、抗ヒトCD38-BB515(Cat.564499)、抗ヒトCD41a-APC-H7(Cat.561422)、抗ヒトCD3-PE(Cat.555333)、抗ヒトCD19-PE(Cat.555413)、抗ヒトCD56(555516)、抗ヒトCD15-BB515(Cat.565236)、及び7-AAD(Cat.559925)。フローサイトメトリーによってCD34+HSCを計数するためのISHAGEゲーティングガイドラインは、増殖細胞の免疫表現型検査のために参照されてもよく、CD34+HSC集団は、CD45+親細胞集団に従属してもよい(Cytometry、34:61-70、1998)。さらに、CD34+ゲーティング方法は、CD-Chex CD34末梢血対照(Streck、CD-Chex CD34、レベル3)で検証された。細胞試料データを、BD FACSDiva v9.0ソフトウェアを備えたBD FACSCanto IIフローサイトメーターで取得し(10,00事象/試料)、続いてFlowJo v10.7ソフトウェアで分析した。
【0169】
表1及び図21A図21Bに示すように、フローサイトメトリーは、自動培養の8日目の収穫時に、CD45+/CD34+免疫表現型の平均頻度が54.3%(51.9~57.9%)であり、より原始的なCD133+CD38-免疫表現型の平均頻度が31.8%(25.9~39.0%)であることを示す。これらの結果は、SR-1(CD34+HSC 10-25%)培地を用いた他のCD34+HSC7日間増殖プロトコルや、UCB由来細胞培養のニコチンアミド(CD34+HSC 0.2-4.4%)培地を用いた21日間CD34+CD38-増殖プロトコルと比較して遜色がない。分化した細胞系統の平均頻度は、リンパ球(CD3+、CD19+、CD56+)について0.5%、好中球(CD15+)について27.7%、及び血小板(CD41a+)について26.5%であった。好中球及び血小板の両方についてのバイオマーカーが増殖されたCB由来CD34+HSC集団中に存在するという事実は、インターロイキンIL-3及びIL-6を含有する増殖培地のサイトカイン組成に部分的に起因していると考えられる。両方のサイトカインは、CD34+細胞増殖をサポートするために使用されるが、骨髄細胞系統の発生にも関与する。
【0170】
【表6】
【0171】
インビトロCB-CD34+クローン分化
【0172】
MethoCult(商標)CD34+細胞分化造血コロニー形成単位(CFU)アッセイを、rh-サイトカインSCF、GM-CSF、IL-3、G-CSF、及びEPOで補充されたMethoCult(商標)H4034 Optimum培地(Stem Cell Technologies、Vancouver、BC、Canada)を用いて実施する。細胞は、GEMM、GM、BFU-E CFUの造血前駆細胞系統を生成した。
【0173】
簡単に説明すると、Quantumで収穫したUCB由来CD34+HSCを洗浄し、2%FBS含有IMDMで再懸濁し、メチルセルロースベースの培地で希釈し、ボルテックスし、150、500、及び1,000細胞/ウェルの播種密度を用いてマルチウェルプレートに1.1mL/35mmウェルの培地で播種する。CFUプレートを、37°C、5%CO2、湿度条件下の静止状態にあるインキュベーター中で14日間インキュベートし、その後、各ウェル中のCFUをマニュアルで計数し、Olympus CKX41倒立顕微鏡を対物倍率×4でCellSens 2.2ソフトウェアと共に使用してスコア化する(n=6)。
【0174】
MethoCult Optimum H4034サイトカイン培地でメチルセルロースベースの細胞培養を14日間行った後、CB由来CD34+細胞の分化したCFUは、3種類の増殖したCB由来CD34+細胞株全体の全CFUのうち、GM系統で平均56%、GEMM系統で平均23%、BFU-E前駆細胞系統で平均21%であった(例えば、図22及び図23を参照されたい)。これらのCFU例の結果は、系統の大部分がGM-CFU(60%)クローンであり、次いでBFU-E(36%)及びGEMM-CFU(10%)クローンである、及び/又は遺伝子組換えクローン及び非組換えクローンの両方の大部分がGM-CFU(60%)であり、次いでBFU-E(18~20%)及びGEMM-CFU(5%)クローンである、電気穿孔した遺伝子未組換えのCB由来CD34+HSCのメチルセルロースH4034サイトカイン分化に関する先行研究と同等である。これらの研究の間のCFUクローンの相対的分布における差異は、ドナーCBU細胞源、幹細胞選択方法、いくつかの例における遺伝子組換え、及び分化前のCB由来CD34+HSCの増殖において使用されるサイトカインカクテル製剤における違いに起因していると考えられる。SR-1以外のサイトカインと共に製剤化された他の小分子サプリメントは、CB由来CD34+細胞増幅を増加させ、生着を改善する目的のための造血幹細胞培養の選択肢であり得る、ニコチンアミド(SIRT1ヒストンデアセチラーゼ及びリボシルアーゼ阻害剤)、バルプロ酸(ヒストンHDAC1阻害剤)、及びUM171(ヒストンHDAC1脱アセチル化及びLSD1脱メチル化の阻害剤)を含んでよい。
【0175】
収穫された細胞のMethoCult(商標)分化アッセイは、GEMM、GM、BFU-E CFUの造血前駆細胞系統を生成し得る。これらの結果を総合すると、自動Quantum(登録商標)システム単培養プロトコルは、リンパ球の残存を最小限に抑えながら、単回及び2回のCBU用量当量の両方について、事前に選択したCB由来のCD34+造血幹細胞の増殖をサポートできることが実証された。
【0176】
当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の方法及び構造に対して種々の変形及び変更を行えることは理解できよう。従って、本発明は、上記の特定の実施形態又は実施例に限定されないと理解されるべきである。むしろ、本発明は、以下の請求項及びそれらの等価物の範囲内において、変形形態及び変更形態をも含むことが意図されている。
【0177】
本発明の実施形態及び適用例が示され説明されてきたが、本発明は、上記した構成及び資源に制限されないと理解されるべきである。当業者に明らかな種々の変形、変更等は、本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の構成、動作、また方法及びシステムにおける詳細において行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
【国際調査報告】