(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】高M/Zカットオフを含むサンプルを分析する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20240305BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20240305BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240305BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20240305BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240305BHJP
【FI】
H01J49/42 600
H01J49/24
H01J49/42 150
H01J49/00 310
G01N33/02
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557726
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2021060678
(87)【国際公開番号】W WO2022200852
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ベッドフォード, リー
(72)【発明者】
【氏名】コービー, トーマス アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイガー, ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー, ブラッドレー ビー.
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA08
2G041CA01
2G041FA08
2G041GA03
2G041GA09
2G041GA13
2G041GA29
2G041KA01
2G041KA03
(57)【要約】
一側面では、サンプル、例えば、食品ベースのサンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供し、分析物イオンの通過を可能にする一方、該高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、該質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含む。関連側面では、質量分光計が、開示され、それは、大気圧イオン源と、第1の質量フィルタと、ユーザインターフェースと、コントローラとを備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分光計であって、前記質量分光計は、
サンプルを受け取り、前記サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、
前記複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るために前記イオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタと、
ユーザから、1つ以上の着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報を受信するためのユーザインターフェースと、
前記着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報を前記ユーザインターフェースから受信するために前記ユーザインターフェースおよび前記第1の質量分析器と通信するコントローラと
を備え、
前記コントローラは、前記ユーザインターフェースから受信される情報に基づいて、質量分析のための最大の着目m/z比を決定し、帯域通過窓が前記最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように前記第1の質量分析器の帯域通過窓を調節する、質量分光計。
【請求項2】
前記高M/Zカットオフは、約10~約500の範囲内の値だけ前記最大のm/z比から離されている、請求項1に記載の質量分光計。
【請求項3】
前記第1の質量フィルタは、減圧チャンバ内に配置されている、請求項1-2のいずれか1項に記載の質量分光計。
【請求項4】
前記減圧チャンバは、約2mTorr~約20mTorrの範囲の内の圧力に維持されている、請求項4に記載の質量分光計。
【請求項5】
前記第1の質量フィルタは、四重極構成に配置された複数のロッドを備えている、請求項1-4のいずれか1項に記載の質量分光計。
【請求項6】
前記第1の質量フィルタを通して伝送されるイオンを受け取るために前記第1の質量フィルタの下流に位置付けられた第2の質量フィルタをさらに備え、前記第2の質量フィルタは、前記第2の質量フィルタを通して伝送されることが可能なm/z比の範囲を定義する帯域通過窓を有する、請求項1-5のいずれか1項に記載の質量分光計。
【請求項7】
前記コントローラは、前記第2の質量フィルタと通信し、前記第1の質量フィルタから受け取られるイオンに関連付けられたあるm/z比の通過を可能にするように、前記第2の質量フィルタの前記帯域通過窓を調節する、請求項6に記載の質量分光計。
【請求項8】
前記コントローラは、前記第1の質量フィルタから受け取られる異なるm/z比を有するイオンの通過を可能にするために、前記第2の質量フィルタの前記帯域通過窓をシフトさせるように構成されている、請求項7に記載の質量分光計。
【請求項9】
サンプルの質量分光測定分析を実施する方法であって、前記方法は、
サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、
質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの中に前記複数のイオンを導入することであって、前記質量フィルタは、前記サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供することによって、前記分析物イオンの通過を可能にする一方、前記高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、
前記質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することと
を含み、
前記高M/Zカットオフは、前記下流質量分析器の汚染を減らすように選択される、方法。
【請求項10】
前記サンプルは、食品ベースのサンプルを備え、
随意に、前記食品ベースのサンプルは、お茶を備え、
随意に、前記食品ベースのサンプルは、ルッコラを備え、
随意に、前記食品ベースのサンプルの処理は、QuEChERS抽出方法を利用することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルは、組織サンプルを備え、
随意に、前記組織サンプルは、肝臓組織ホモジネートを備えている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記質量分析を実施するステップは、前記質量フィルタを通過する前記イオンを前記下流質量分析器の中に導入することを含み、
随意に、前記質量分析器は、多極構成に配置された複数のロッドを備えている、請求項9-11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記高M/Zカットオフは、前記多極ロッドの汚染を減らすように選択される、請求項9-12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記質量分析を実施するステップは、前記質量分析器を通過する前記イオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させることを含み、
随意に、前記方法は、前記生成イオンの質量スペクトルを発生させることをさらに含む、請求項9-13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記質量分析を実施するステップは、前記分析物イオンのうちの少なくとも1つの1つ以上のMRM移行を監視することを含み、
随意に、前記質量分析を実施するステップは、四重極質量分析器を利用することを含む、請求項9-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記高M/Zカットオフは、約700であり、
随意に、前記高M/Zカットオフは、約1,000である、請求項9-15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記質量フィルタは、イオン伝送のための帯域通過窓を提供するように構成されている、請求項9-16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記帯域通過窓は、約20amu~約1,250amuに広がっている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記サンプルをイオン化するステップに先立って、前記サンプルを処理することをさらに含む、請求項9-18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の着目分析物は、少なくとも1つの駆除剤を備えている、請求項9-19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2021年3月25日に出願され、「Method For Analyzing Samples Including A High M/Z Cutoff」と題された米国仮出願第63/166,158号の優先権を主張する。
【0002】
本教示は、概して、サンプルの分析のための質量分光測定方法およびシステムに関連し、より具体的に、食品ベースおよび組織サンプルの分析のために採用され得るそのような方法およびシステムに関連する。
【背景技術】
【0003】
食品ベースのサンプルの分析は、特に、駆除剤および他の有害な薬品の検出と関連して、重要性が増加している。そのような分析は、典型的に、着目薬品(分析物)を調査対象のサンプルから抽出するために、試薬を用いたサンプルの処理を要求する。食品サンプルの処理のための1つの一般的アプローチは、頭字語QuECheRS(迅速、容易、安価、効果的、頑丈、および安全)下で公知である、抽出方法である。この抽出方法は、典型的に、食品サンプル中の駆除剤残留物の検出のために採用される。これは、駆除剤残留物を食品サンプルから抽出することにおいて効果的であるが、QuEChERSアプローチは、次に、駆除剤残留物を検出するために採用される質量分光計システムの急速な汚染につながる非常に複雑なマトリクスをもたらし得る。
【0004】
例えば、トリプル四重極質量分光計が、そのような分析のために採用されるとき、そのような電荷蓄積および性能の減少は、第1の質量分析器(例えば、Q1)のための低入口イオンエネルギーを採用するシステムでは、悪化させられ得る。質量分析器の汚染は、システムの周期的清掃を必要とし、それは、サンプルの分析のための作業フローに悪影響を及ぼし、システムを動作させるコストを追加し得る。
【0005】
故に、サンプルの分析、特に食品ベースのサンプルの分析のための改良された質量分光測定方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの中に導入することであって、該質量フィルタは、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供し、分析物イオンの通過を可能にする一方、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、該質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含み、高M/Zカットオフは、下流質量分析器の汚染を減らすように選択される。
【0007】
様々な質量分析器が、採用されることができる。例として、限定ではないが、質量分析器は、四重極質量分析器(例えば、トリプル四重極質量分析器)、飛行時間(TOF)質量分析器、イオントラップ、またはそれらの組み合わせであることができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、質量フィルタを通過するイオンのうちの少なくとも一部は、例えば、質量フィルタの下流に位置付けられた衝突セル内において、断片化を受けさせられ、複数の生成イオンを発生させる。生成イオンは、次いで、例えば、四重極および/または飛行時間(TOF)質量分析器を使用して、質量分析を受けさせられ、その質量スペクトルを発生させることができる。いくつかのそのような実施形態では、質量分析を実施するステップは、トリプル四重極質量分光計を使用して、分析物イオンのうちの少なくとも1つの1つ以上の多重反応監視(MRM)移行を監視することを含むことができる。
【0009】
例として、いくつかの実施形態では、高M/Zカットオフは、約700、または約900、または約1,000に設定されることができるが、他のカットオフ値が、例えば、汚染イオンのm/z比に応じて、採用されることもできる。
【0010】
いくつかの実施形態では、研究対象のサンプルは、食品ベースのサンプルであることができる。例として、限定ではないが、いくつかのそのような実施形態では、そのような食品ベースのサンプルは、例えば、お茶またはコーヒー等の任意の飲料およびルッコラ、レタス、人参等の作物、または食用材料を備えている任意の他のサンプルマトリクスであることができる。いくつかの実施形態では、研究対象のサンプルは、組織サンプルであることができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、質量フィルタの帯域通過窓は、標的着目イオンが質量フィルタを通過することを可能にするように選択されることができる。例として、いくつかの実施形態では、質量フィルタの帯域通過窓は、約20~約1,250、例えば、約50~900の範囲内、または特定の用途のための任意の他の好適な範囲であるように選択されることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、サンプルは、そのイオン化に先立って処理される。例として、食品ベースのサンプルの処理は、例えば、ある着目分析物、例えば、1つ以上の駆除剤を抽出するように実施されることができる。いくつかの実施形態では、QuEChERSとして知られる処理方法が、採用されるが、任意の他の好適な処理技法も、使用されることができる。いくつかの実施形態では、組織サンプルは、ホモジネート組織マトリクスを形成するように処理されることができる。
【0013】
様々な質量フィルタが、本教示の実践において、採用されることができる。例として、いくつかの実施形態では、質量フィルタは、多極イオンガイドを含むことができる。いくつかのそのような実施形態では、多極イオンガイドは、近位端から遠位端まで延びている四重極ロッド組を含むことができ、四重極ロッド組の4つのロッドは、イオンを受け取るための入口を近位端に、それを通してイオンが四重極ロッド組から出て行く、出口を遠位端に提供するように、互いに対して配置される。四重極ロッド組は、第1の対のロッドおよび第2の対のロッドであって、各ロッドは、中心縦軸から間隔を置かれ、それに沿って延びている、第1の対のロッドおよび第2の対のロッドと、補助電極が四重極ロッド組のロッドによって互いに分離されるように、および補助電極の各々が第1の対のロッドの単一ロッドおよび第2の対のロッドの単一ロッドに隣接するように四重極ロッド組のロッドとの間に挿入される複数の補助電極とを含むことができる。
【0014】
電力供給源は、多極イオンガイドに結合され、i)第1の周波数および第1の位相において、第1のRF電圧を第1の対のロッドに、ii)第1の周波数に等しい第2の周波数および第1の位相と反対の第2の位相において、第2のRF電圧を第2の対のロッドに、および、iii)補助電気信号を補助電極の各々に提供するように動作可能であり、補助電極の各々に印加される補助電気信号は、実質的に同じであり、少なくとも1つの補助RF電圧源は、RF電圧を補助電極に印加するように動作可能であり、補助DC電圧は、DC電圧を補助電極に印加し、カットオフより大きいm/z比を有するイオンの伝送を防止するように動作可能である。いくつかのそのような実施形態では、DC電圧は、2つの対の補助電極を横断して印加されるDC電圧が反対極性を有し、基準、例えば、イオンガイドに印加されるDCオフセットに対して対称的にオフセットされ得るように、補助電極に印加されることができる。
【0015】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供し、分析物イオンの通過を可能にする一方、該高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含む。
【0016】
関連側面では、質量分光計が、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタと、ユーザから1つ以上の着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報を受信するためのユーザインターフェースと、着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報をユーザインターフェースから受信するためにユーザインターフェースおよび第1の質量フィルタと通信するコントローラとを備えている。コントローラは、ユーザインターフェースから受信される情報に基づいて、質量分析のための最大の着目m/z比を決定し、帯域通過窓が該最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように第1の質量フィルタの帯域通過窓を調節する。
【0017】
いくつかの実施形態では、高M/Zカットオフは、約10~約500m/zの範囲内の値だけ最大のm/z比から離されている。
【0018】
いくつかの実施形態では、質量フィルタと、質量フィルタの下流に位置付けられた第1の質量分析器とが、異なる圧力に維持される2つの別個のチャンバ内に配置され、第1の質量フィルタが位置付けられたチャンバ(本明細書では、「第1のチャンバ」とも称される)内の圧力は、質量分析器が位置付けられたチャンバ(本明細書では、「第2のチャンバ」とも称される)内の圧力を上回る。例えば、第1のチャンバ内の圧力は、少なくとも約2倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍、または少なくとも約20倍、または少なくとも約100倍、第2のチャンバ内の圧力を上回る。例として、いくつかの実施形態では、第1のチャンバ内の動作圧力は、約2~約20mTorrの範囲内であることができ、第2のチャンバ内の動作圧力は、5×10-5Torr未満であることができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、第2の質量分析器は、第1の質量分析器の下流に位置付けられることができる。上記の質量分光計のいくつかのそのような実施形態では、第1の質量フィルタおよび第1または第2の質量分析器のいずれかは、四重極構成に配置された複数のロッドを備えていることができる。四重極ロッドに印加されるRFおよびDC電圧は、第1の質量フィルタが、所望の帯域通過窓を示し、下流質量分析器が、着目m/z比を伴うイオンの通過を可能にする一方、他のイオンの通過を阻止するように選択されることができる。例えば、コントローラは、少なくとも1つのRF電圧源と通信し、少なくとも1つのDC電圧源は、制御信号をこれらの電圧源に印加し、第1の質量フィルタの帯域通過窓および第1の質量分析器の伝送窓を設定することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、印加されるRF電圧の周波数は、例えば、約100kHz~約10MHzの範囲内であることができ、RF電圧の振幅(ゼロ/ピーク振幅)は、例えば、約0ボルト~約6,000ボルトの範囲内であることができる。例として、DC電圧は、DC分解電圧として採用され、所望のm/z比を有するイオンの通過を確実にすることができる。例として、DC電圧は、約5ボルト~約5,000ボルトの範囲内であることができる。
【0021】
コントローラは、第1および/または第2の質量分析器と通信し、第1の質量フィルタから受け取られるイオンに関連付けられた少なくとも1つのm/z比の通過を可能にすることができる。コントローラは、第1および/または第2の質量分析器m/z値をシフトさせ、第1の質量フィルタから受け取られる異なるm/z比を伴うイオンの通過を可能にするように構成されることもできる。
【0022】
関連側面では、質量フィルタを有する質量分光計を使用して、質量分光測定を実施する方法が、開示され、それは、サンプルの質量分析を実施し、サンプル中の1つ以上の着目化合物に関連付けられたある範囲のm/z比を決定することと、該m/z比の範囲に関連付けられた最大のm/z比を識別することと、該最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを示すように、質量フィルタの帯域通過窓を調節することとを含む。質量フィルタの帯域通過窓の調節に続いて、サンプルの別の部分の質量分析が、調節された帯域通過窓を伴う質量フィルタを使用して、実施されることができる。
【0023】
関連側面では、質量分光計システムが、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタとを備え、第1の質量フィルタは、帯域通過窓内のm/z比を有するイオンの通過を可能にするように構成される。システムはさらに、複数の測定期間の各々のためにその測定期間中の質量分析のための標的m/z比または標的m/z比の範囲を受信するためのユーザインターフェースを含むことができる。
【0024】
コントローラは、ユーザインターフェースおよび第1の質量フィルタと通信し、コントローラは、測定期間の各々のために、その測定期間に関して、最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを示すように、最大のm/z比を決定し、第1の質量フィルタの帯域通過窓を調節するように構成され、第1の質量フィルタは、少なくとも2つの異なる測定期間に関して、異なる高M/Zカットオフを示す。
【0025】
関連側面では、質量分光計が、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタとを備え、第1の質量フィルタは、帯域通過窓内のm/z比を有するイオンの通過を可能にするように構成される。質量分光計は、ユーザから最大の着目m/z比を受信するためのユーザインターフェースをさらに含むことができ、コントローラは、帯域通過窓が最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように第1の質量フィルタの帯域通過窓を調節する。いくつかの実施形態では、コントローラは、少なくとも約10amuだけ最大の着目m/z比より大きいように、高M/Zカットオフを設定することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、本教示による質量分光測定システムおよび方法は、以下の駆除剤、すなわち、その中でもとりわけ、1-(2,4ジクロロフェニル)-2-イミダゾール(イマザリル代謝物質);1-4(クロロフェニル尿素);1-ナフタレンアセトアミド(1-NAD);2,3,5-トリメタカルブ;2,4-ジクロロベンゾフェノン;2,4-ジメチルアニリン(2,4-キシリド);2,6-ジクロロベンズアミド;2-ヒドロキシ-プロポキシカルバゾン;6-クロル-3-フェニルピリダジン-4-オール;アセフェート;アセキノシル;アセタミプリド;アセタミプリド-N-デスメチル;アシベンゾラル-S-メチル;アザシチジン;アラニカルブ;アルジカルブ;アルジカルブスルホキシド;アルジカルブスルホン(アルドキシカルブ);アルジモルフ;アリジクロール;アロキシジム-ナトリウム;アメトクトラジン;アメトリン1;アミジチオン;アミノカルブ;アミスルブロム;アミトラズ;アミトロール;アンシミドール;アニラジン;アニロホス;アラマイト;アプソン;アシュラム;アチダチオン;アトラジン-デスエチル;アトラジン-デスイソプロピル;アトラジン;アベルメクチン;アザコナゾール1;アザジラクチン;アザメチホス;アジンホス-メチル;アジプロトリン;アゾキシストロビン;バルバン;ベナラキシル-;ベンジオカルブ;ベンフラカルブ;ベノダニル;ベノミル;ベンスルフロン-メチル;ベンタゾンメチル;ベンチアバリカルブ;ベンチアバリカルブ-イソプロピル;ベンゾキシマート;ベンゾイルプロプ-エチル;ベンズチアズロン;BIPC(クロルブファム);ビスピリバック-ナトリウム;ボスカリド(ニコビフェン);ブロムコナゾール;BTS44596;ブフェンカルブ;ブピリマート;ブプロフェジン;ブタミホス;ブトカルボキシム;ブトキシカルボキシム-スルホキシド;ブトキシカルボキシム;ブツロン;カズサホス;カルバリル;カルベンダジム、カルベタミド;カルボフラン1;カルボフラン-3-ヒドロキシ;カルボキシン;カルプロパミド;クロラントラニリプロール;クロルブロムロン;クロルエトキシホス;クロルフルアズロン;クロルフルレノール-メチル;クロリダゾン;クロロキスロン;クロルプロファム;クロルスルフロン;クロルチアミド;クロルチオホス;クロルトルロン;クロマフェノジド;シニドン-エチル;シノスルフロン;クレトジムのうちの1つ以上のものを検出するために採用されることができる。本教示の用途は、上記に提供される化学種および/または化合物の例の検出および/または分析に限定されないことを理解されたい。むしろ、本教示は、サンプル、例えば、食品ベースのサンプル中に存在する任意の化学種または成分を検出および/または分析するために採用されることができる。
【0027】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、該複数のイオンを質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、イオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供し、該サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられた分析物イオンの通過を可能にする一方、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、該質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含む。
【0028】
関連側面では、質量分光計が、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、該複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタと、ユーザから1つ以上の着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報を受信するためのユーザインターフェースと、ユーザインターフェースから着目m/z比またはm/z比の範囲に関する情報を受信するために、ユーザインターフェースおよび第1の質量分析器と通信するコントローラとを備え、コントローラは、ユーザインターフェースから受信される情報に基づいて、質量分析のための最大の着目m/z比を決定し、帯域通過窓が該最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように該第1の質量分析器の帯域通過窓を調節する。
【0029】
上記の質量分光計のいくつかの実施形態では、高M/Zカットオフは、約10~約500amuの範囲内の値だけ最大のm/z比から離されている。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1の質量フィルタは、減圧チャンバ内に配置される。いくつかのそのような場合では、減圧チャンバは、約2mTorr~約20mTorrの範囲の内の圧力に維持される。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1の質量フィルタは、四重極構成に配置された複数のロッドを備えている。質量分光計は、第1の質量フィルタを通して伝送されるイオンを受け取るために第1の質量フィルタの下流に位置付けられた第2の質量フィルタをさらに含むことができ、該第2の質量フィルタは、それを通して伝送され得るm/z比の範囲を定義する帯域通過窓を有する。コントローラは、第2の質量フィルタと通信し、その帯域通過窓を調節し、第1の質量フィルタから受け取られるイオンに関連付けられたm/z比の通過を可能にすることができる。コントローラは、第2の質量フィルタの帯域通過窓をシフトさせ、該第1の質量フィルタから受け取られる異なるm/z比を有するイオンの通過を可能にするように構成されることもできる。
【0032】
関連側面では、質量フィルタを有する質量分光計を使用して、質量分光測定を実施する方法が、開示され、それは、サンプルの質量分析を実施し、サンプル中の1つ以上の着目化合物に関連付けられたある範囲のm/z比を決定することと、m/z比の範囲に関連付けられた最大のm/z比を識別することと、該最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを示すように、質量フィルタの帯域通過窓を調節することとを含む。方法は、該調節される質量フィルタの帯域通過窓を用いて、サンプルの質量分析を実施することをさらに含むことができる。
【0033】
関連側面では、質量分光計システムが、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、該複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタとを備え、第1の質量フィルタは、帯域通過窓内のm/z比を有するイオンの通過を可能にするように構成される。ユーザインターフェースは、複数の測定期間の各々のために、その測定期間中の質量分析のための標的m/z比または標的m/z比の範囲を受信し、コントローラは、ユーザインターフェースおよび第1の質量フィルタと通信し、測定期間の各々のために、その測定期間に関して、最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを示すように、最大のm/z比を決定し、第1の質量フィルタの帯域通過窓を調節するように構成され、第1の質量フィルタは、少なくとも2つの異なる測定期間に関して、異なる高M/Zカットオフを示す。
【0034】
関連側面では、質量分光計が、開示され、それは、サンプルを受け取り、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させるように構成された大気圧イオン源と、該複数のイオンのうちの少なくとも一部を受け取るためにイオン源の下流に位置付けられた第1の質量フィルタとを備え、第1の質量フィルタは、帯域通過窓内のm/z比を有するイオンの通過を可能にするように構成される。ユーザインターフェースは、最大の着目m/z比をユーザから受信し、ユーザインターフェースおよび第1の質量分析器と通信するコントローラは、該最大の着目m/z比を受信し、帯域通過窓が該最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように帯域通過窓を調節する。
【0035】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、複数のロッドを含み、それに、RFおよび/またはDC電圧が、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供するように印加されることができ、したがって、それらの分析物イオンの通過を可能にする一方、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンのうちの少なくとも一部は、質量フィルタのロッドのうちの1つ以上のもの上に堆積させられ、したがって、下流質量分析器への高m/zイオンの通過を阻止する、ことと、該質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含む。
【0036】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、複数のロッドを含み、それに、RFおよび/またはDC電圧が、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフ提供するように印加されることができ、したがって、それらの分析物イオンの通過を可能にする一方、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンのうちの少なくとも一部がロッドのうちの1つ以上のもの上に堆積させられるようにし、したがって、下流質量分析器への高m/zイオンの通過を阻止することと、該質量フィルタを通過するイオンの質量分析を実施することとを含む。
【0037】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、複数のイオンを質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの中に導入することであって、質量フィルタは、質量分析器より高い圧力に維持され、質量フィルタは、サンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを提供し、分析物イオンの通過を可能にする一方、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンの通過を阻止するように構成されている、ことと、その質量分析を実施するために、質量フィルタを通過するイオンを質量分析器に送達することとを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、質量フィルタは、イオンを質量フィルタを通して誘導するために構成された少なくとも1つの多極ロッド組と、該M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンのうちの少なくとも一部を捕捉するように位置付けられた少なくとも1組のロッドとを含む。
【0039】
関連側面では、サンプルの質量分光測定分析を実施する方法が、開示され、それは、サンプルをイオン化し、複数のイオンを発生させることと、複数のイオンを質量分光計のオリフィスの中に導入することと、高M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンを捕捉し、より低いm/zイオンの下流質量分析器への通過を可能にすることによって、イオンを質量濾過することとを含む。イオンの質量濾過は、M/Zカットオフより大きいm/z比を有するイオンが、質量フィルタの犠牲電極のうちの少なくとも1つによって捕捉されるように、複数の電極(本明細書では、犠牲電極またはロッドとも称される)を有する質量フィルタを通して、イオンを伝送することによって遂行されることができる。方法は、高M/Zカットオフを下回るm/z比を有するイオンをその質量分析のための下流質量分析器に送達することをさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、質量フィルタは、下流質量分析器が位置付けられたチャンバより高い圧力に維持されるチャンバ内に配置される。様々な質量分析器が、採用されることができる。そのような質量分析器のいくつかの例は、限定ではないが、飛行時間(TOF)質量分析器、四重極質量分析器、イオントラップ、およびそれらの組み合わせを含む。
【0040】
本教示の種々の側面のさらなる理解が、下記に簡潔に説明される関連付けられた図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによって取得されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、本教示による質量分光測定を実施する方法の実施形態の種々のステップを図示するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本教示による質量分光測定を実施する方法の別の実施形態の種々のステップを図示する別のフローチャートである。
【
図3】
図3および4は、本教示のある実施形態によるシステムにおいて使用するために好適な質量フィルタを示す。
【
図4】
図3および4は、本教示のある実施形態によるシステムにおいて使用するために好適な質量フィルタを示す。
【
図5A】
図5Aは、その中に本教示のある実施形態による質量フィルタが組み込まれる質量分光計の部分図である。
【
図5B】
図5Bおよび5Cは、
図5Aに描写される実施形態による質量フィルタの帯域通過窓の概略例を示し、帯域通過窓は、伝送のために、一度に2つ以上のm/z比を含む。
【
図5C】
図5Bおよび5Cは、
図5Aに描写される実施形態による質量フィルタの帯域通過窓の概略例を示し、帯域通過窓は、伝送のために、一度に2つ以上のm/z比を含む。
【
図6】
図6は、本教示によるシステムが組み込まれる質量分光計を図式的に描写する。
【
図7】
図7は、本教示の種々の実施形態によるシステムおよび質量分光計内で採用されるコントローラおよび/または分析器の実装の例を図式的に描写する。
【
図8】
図8は、30mLの食品ベースのサンプルマトリクスの注入後のトリプル四重極システム上で取得されたMRM荷電データを示す。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、30mLの食品ベースのマトリクスの注入後のQ1ロッド組上のデブリパターンのデジタル写真を示す。
【
図10】
図10は、食品ベースのサンプルの質量スペクトルと、250~400の範囲内のm/z比を有するイオン(次いで、Q1分析器の中に導入される)を除き、Q0質量フィルタ内の全ての荷電種を濾過することによって取得された同じサンプルの質量スペクトルとを示す。
【
図11】
図11は、
図10の帯域通過窓を使用して、最初と、その後、100mLの総マトリクスまで10mLずつとで測定されたレセルピンイオンに関する信号強度を示す。
【
図12】
図12Aおよび12Bは、Q1ロッド組のデジタル写真を示し、
図12Cおよび12Dは、質量分光計内への100mLの食品ベースのマトリクスの注入後の1対のQ0Tバーを示し、100mLの食品ベースのマトリクスの注入にもかかわらず、デブリの実質的蓄積がQ1ロッド上で見えず、大量のデブリがQ0Tバー上に堆積させられたことを示す。
【
図13】
図13は、食品ベースのサンプルの質量スペクトルと、Q0質量フィルタの帯域通過が400~850の範囲におよぶm/z窓に設定され、本範囲内のm/z比を有する任意のイオンの質量スペクトルを取得するときのサンプル質量スペクトルとを示す。
【
図14】
図14は、
図13に示されるようなQ0質量フィルタの帯域通過が設定されたときの量分析計の中に噴霧される0~100mLの食品ベースのマトリクスを用いて得られるレセルピンイオンに関する複数の強度測定のオーバーレイを示す。
【
図15】
図15Aおよび15Bは、Q1ロッドの写真を示し、
図15Cおよび15Dは、Q0Tバーの写真を示し、大量のデブリがQ0Tバー上に堆積させられ、Tバー濾過を伴わない対照実験と比較して、Q1ロッド上のデブリの量を大幅に減らすことを図示する。
【
図16】
図16Aおよび16Bは、720より大きいm/zを伴う全てのイオンを伝送するように設定される帯域通過窓を用いた40mLのお茶/ルッコラマトリクスを注入後の1対のQ1ロッドのデジタル写真を示し、Tバーを使用せずに得られた元のベースラインデータに類似するQ1ロッド上の大堆積物の存在を実証する。
【
図17A】
図17Aおよび17Bは、お茶/ルッコラマトリクスに関するQ1走査(上枠)と、同じマトリクスに関するAsteroid走査(下枠)とを表す質量分光測定データを示す。
【
図17B】
図17Aおよび17Bは、お茶/ルッコラマトリクスに関するQ1走査(上枠)と、同じマトリクスに関するAsteroid走査(下枠)とを表す質量分光測定データを示す。
【
図18】
図18は、食品ベースのサンプルの質量スペクトルと、Q0Tバーが質量濾過窓を設定し、900より大きいm/z比を有するイオンを排除するために使用されるときのサンプルの質量スペクトルを示す。
【
図19】
図19A、19B、19C、および19Dは、
図18に示される帯域通過を用いた100mLのマトリクスを注入後の5分荷電実験の過程にわたるTICおよびQ1ピーク幅の変化を示す。
【
図20】
図20Aおよび20Bは、それぞれ、Q0TバーおよびQ1ロッドのデジタル写真を示す。
【
図21】
図21は、Q0濾過の有無別のQ1走査の2つのモードに関するラット肝臓ホモジネートマトリクスの質量スペクトルを示す。
【
図22】
図22A、22B、および22Cは、Q0質量フィルタを使用しない40mLのラット肝臓ホモジネートサンプルマトリクスの注入後のQ1荷電データを示す。
【
図23-1】
図23A、23B、および23Cは、m/z400を上回るQ0質量フィルタ濾過を用いた40mLのラット肝臓ホモジネートサンプルマトリクスの注入後のQ1荷電データを示す。
【
図23-2】
図23A、23B、および23Cは、m/z400を上回るQ0質量フィルタ濾過を用いた40mLのラット肝臓ホモジネートサンプルマトリクスの注入後のQ1荷電データを示す。
【
図24A】
図24Aおよび24Bは、各10mLのラット肝臓ホモジネートマトリクスの注入後に得られた59のm/zに関するQ1データのオーバーレイを示す。
【
図24B】
図24Aおよび24Bは、各10mLのラット肝臓ホモジネートマトリクスの注入後に得られた59のm/zに関するQ1データのオーバーレイを示す。
【
図25】
図25A、25B、25C、および25Dは、40mLのラット肝臓ホモジネートの注入後のトリプル四重極質量分光計のQ1ロッドの1組の極上に堆積させられたデブリパターンのデジタル写真を示し、
図25Aおよび25Bは、Tバーによる高質量濾過が採用されなかったとき、実質的デブリパターンが堆積させられたことを示し、
図25Cおよび25Dは、Tバーが400より大きいm/z比を伴うイオンを濾過するように設定されたとき、可視デブリ堆積物がないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示は、概して、質量分光測定を実施する方法およびシステムを対象とし、質量フィルタが、高M/Zカットオフによって特徴付けられる帯域通過窓を示すように構成され、該帯域通過窓は、そうでなければ下流構成要素(例えば、下流質量分析器)の汚染を引き起こし得る望ましくないイオンを除去することを可能にし、下流構成要素への標的着目イオンの通過を可能にする。多くの実施形態では、本教示による方法は、食品ベースのサンプルを分析するために採用されるが、組織サンプル等の他のサンプルも、分析されることができる。食品ベースのサンプルは、例えば、30~45mLの食品ベースのマトリクスを導入後の短期間内に、質量分光計、例えば、トリプル四重極質量分光計の性能の劣化を引き起こし得ることが観察されている。
【0043】
用語「約」および「おおよそ」は、本明細書では、両方向における数値の15%または10%以内に該当する変動を示すために同義的に使用される。さらに、本明細書で使用されるように、用語「実質的に」は、着目特性または性質の全体またはほぼ全体範囲または程度を示す定性的条件を指し、変動は、該当する場合、完全な状態から、最大で15%または10%である。
【0044】
用語「食品ベースのサンプル」は、本明細書で使用されるように、1つ以上の食用原料/成分を含むサンプルを指し、多くの事例では、食品ベースのサンプルの全ての原料および/または成分は、食用である。
【0045】
多くの場合、大きいm/z比(例えば、700より大きいm/z比)を有するイオンがそのような性能劣化の主因であることが、意外にも発見された。この発見は、食品ベースのサンプルの質量スペクトルが、例えば、多数の低質量ピークおよび非常に少数の高質量ピークを典型的に示すので、予期されていなかった。さらに、第1の質量分析器のロッド上のそのようなイオンの堆積が分光計の性能の劣化に主に関与することが、意外にも発見された。
【0046】
下記に議論される種々の実施形態は、サンプル、例えば、食品ベースまたは組織サンプルの分析のための質量分光測定方法を開示し、分析において、着目分析物の最高m/zを上回る高M/Zカットオフを有する質量フィルタが、例えば、第1の質量分析器の上流において採用され、処理されるサンプルのマトリクス成分による分光計の質量分析器の汚染を減らす(好ましくは、防止する)一方、着目分析物の検出を可能にする。例えば、下記にさらに詳細に議論されるように、いくつかのそのような実施形態では、高M/Zカットオフは、約m/z400、または約m/z700、または約m/z900、または約m/z1,000に設定され、マトリクス成分によって引き起こされる汚染を減らすこと、好ましくは、防止することができる。下記に議論されるように、多くの実施形態では、そのような高M/Zカットオフの使用は、質量分光計のための清掃間隔の少なくとも3倍の延長をもたらし得る。
【0047】
図1のフローチャートを参照すると、本教示による方法の一実施形態では、サンプル、例えば、食品ベースまたは組織サンプルが、イオン化され、複数のイオンを発生させ(ステップ1)、イオンのうちの少なくとも一部は、質量フィルタの中に導入され、質量フィルタは、サンプル中、例えば、食品ベースのサンプル中の1つ以上の着目分析物に関連付けられたイオンの最大のm/z比より大きいM/Zカットオフを提供することによって、それらのイオンの通過を可能にする一方、閾値より大きいm/z比を有するイオン、例えば、カットオフより大きいm/z比を有する汚染物質の通過を阻止するように構成されている、(ステップ2)。続いて、質量フィルタに通されたイオンの質量分析が、実施される(ステップ3)。
【0048】
例えば、いくつかの実施形態では、質量フィルタを通過するイオンは、上流質量フィルタが維持される圧力より低い圧力で動作し、標的着目イオン、例えば、所望のm/z比を有するイオンを検出するために構成された別の下流質量分析器の中に導入される。いくつかの実施形態では、M/Zカットオフは、着目分析物の予期されるm/z比およびサンプル中の1つ以上の汚染物質に関連付けられたイオンの予期されるm/z比に基づいて、設定されることができる。
【0049】
例として、いかなる限定でもないが、いくつかの実施形態では、M/Zカットオフは、約m/z700以上、例えば、約m/z720または約m/z1,000に設定されることができる。例えば、その中で食品ベースのサンプルがお茶および/またはルッコラを含み得るいくつかの実施形態では、M/Zカットオフは、700または1,000に設定されることができる。他のサンプルマトリクスに関して、M/Zカットオフは、着目イオンのための最大m/zよりわずかに、例えば、約10~約50高いように選択されることができる。
【0050】
図2を参照すると、いくつかの実施形態では、着目サンプルの質量分析が、サンプルの一部の質量分析を介して実施され、サンプル中に存在する1つ以上の着目化合物に関連付けられたm/z比の範囲を決定する(ステップ1)。該m/z比の範囲の最大のm/z比が、識別され(ステップ2)、質量フィルタの帯域通過窓が、着目分析物イオンに関連付けられた最大のm/z比より大きいM/Zカットオフを示すであろうように、調節される(ステップ3)。続いて、サンプルの別の部分の質量分析が、調節された質量フィルタの帯域通過窓を用いて、実施される(ステップ4)。例として、いくつかの実施形態では、そのような質量分析は、その中に質量フィルタがシステムの第1の質量分析器の上流に位置付けられたトリプル四重極質量分光計を使用して、実施されることができる。
【0051】
様々な質量フィルタおよび質量分光計が、本教示によるサンプル、特に、食品ベースおよび組織サンプルの質量分析のための方法を実装するために、採用されることができる。例えば、下記にさらに詳細に議論されるように、質量フィルタは、多極構成に配置された複数のロッドを含むことができ、RFおよび/またはDC電圧が、イオンを半径方向に閉じ込めるためのみならず、着目イオンを濾過するためにも複数のロッドに印加され得る。いくつかのそのような実施形態では、複数の補助電極が、四重極ロッド間に挿入されることができ、補助電極は、四重極ロッドのうちの1つによって互いに分離される。さらに、いくつかの実施形態では、質量フィルタが、トリプル四重極質量分光計またはハイブリッド四重極/飛行時間質量分光計内に組み込まれることができる。
【0052】
本教示による質量分光測定を実施する方法の実装は、上で議論される質量フィルタに限定されない。むしろ、様々な質量フィルタが、本教示の実践において、採用されることができる。好適な質量フィルタのいくつかの例は、限定ではないが、当技術分野において公知の他の好適な技法の中でもとりわけ、下記に議論されるデバイス等の複数のロッドの多極(例えば、四重極)配置と一緒にTバーを含むデバイス、電気濾過デバイス、標的閾値より大きい高m/z比を排除するために十分な角度でイオン経路を折り曲げるためのデバイスを含む。
【0053】
例として、いくつかの実施形態では、「RF/DC Filter to Enhance Mass Spectrometer Robustness」と題された米国特許第10,741,378号(「第’378号特許」)(参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる)に説明される質量フィルタが、採用されることができる。要するに、
図3および4として本明細書に再現される第’378号特許の
図2および3は、入口オリフィスに隣接して配置された近位入口端から、出口開口に隣接して配置された遠位出口端まで延びている4つのロッド130a、bの組を含むイオンガイド120を説明する。
【0054】
ロッド130a、bは、四重極構成に従って配置され、イオンが入口端から出口端に進行し得る空間を包囲する四重極ロッド組130を形成する。前の実施形態と同様、ロッド130の各々は、中心軸の両側のロッドがロッド対を一緒に形成し、実質的に同じRF信号が、それらに対して印加され、1つのロッド組に印加されるRF信号の位相が他のロッド組に印加されるRF信号のそれぞれの位相と反対であるように、RF電力供給源(
図3および4には図示せず)に電気的に結合されることができる。DCオフセット電圧も、四重極ロッド組のロッドに印加されることができる。
【0055】
図3および4を継続して参照すると、イオンガイド120は、加えて、四重極ロッド組130の四重極ロッドのロッド間に散在させられた複数の補助電極140を含む。補助電極140の各々は、イオンガイド120を通したイオンの伝送を制御するための補助電気信号をそれらに提供するためのRFおよび/またはDC電力供給源に結合されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、四重極ロッド組のロッドに印加されるDCオフセット電圧に等しいDC電圧が、補助電極に印加されることができる。補助電極を採用するそのような質量フィルタの種々の側面に関するさらなる詳細は、「RF/DC cutoff to reduce contamination and enhance robustness of mass spectrometry systems」と題された公開された国際出願第WO/2020/039371号(参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる)に見出されることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、下流の質量フィルタに移送される、複数のm/z比を含む質量/電荷(m/z)比ドメインにおける帯域通過窓を有する質量フィルタが、採用されることができる。多くの実施形態では、下流の質量フィルタの帯域通過窓は、一度に1つのm/z比の通過を可能にするように構成される。下記により詳細に議論されるように、複数のm/z比にわたるイオンが伝送されることを可能にするように上流の質量フィルタの帯域通過窓を構成することによって、異なるm/z比を伴う複数のイオンのより迅速な分析が、達成されることができる。
【0057】
例えば、
図5Aを参照すると、質量フィルタQ0は、ロッドの4つの組Q0A、Q0B、Q0C、およびQ0Dを含み、それらは、四重極構成において互いに対して直列に位置付けられ、質量フィルタQ0の入口14を介して受け取られたイオンが質量フィルタQ0から出て行くその出口16まで伝搬し得る通路を提供する。本実施形態では、Q0質量フィルタは、四重極構成に配置された4つのロッド10(その2つのみが見えている)を含む上流イオンガイドQjetからイオンを受け取る。
【0058】
RF電圧源12(または別個のRF電圧源)およびDC電圧源20は、イオンの半径方向集束を提供し、かつ質量フィルタQ0を通したイオンの通過のための帯域通過窓(すなわち、伝送窓)を確立するように、質量フィルタQ0のロッドにRFおよびDC電圧を印加する。
【0059】
換言すると、質量フィルタQ0の帯域通過窓内に該当するm/z比を有するイオンは、質量フィルタQ0を通過することができる一方、帯域通過窓外に該当するm/z比を有するイオンの伝送は、実質的に減らされ、好ましくは、阻止される。本実施形態では、下記により詳細に議論されるように、RF電圧(信号)が、ロッドの第1、第2、および第4の組Q0A、Q0B、およびQ0Dに印加される一方、RF電圧と分解DC電圧(質量フィルタQ0の帯域通過窓を設定するため)とが、ロッドの第3の組Q0Cに印加される。
【0060】
いくつかのそのような実施形態では、質量フィルタQ0(例えば、四重極質量フィルタ)の帯域通過窓は、着目前駆体イオンの質量に加えて、監視されるべき次の前駆体の質量を含むように構成されることができる。これは、
図5Bおよび5Cに図式的に示される。この例では、最初に、質量フィルタQ0は、m
1およびm
2のm/z比を伴うイオンの伝送を可能にする帯域通過窓(BP1)を有するように構成され、質量分析器Q1は、m
1のm/z比を伴うイオンの伝送を可能にするように構成される。質量分析器Q1の伝送窓が、次の着目質量、すなわち、m
2のm/z比を伴うイオンにシフトされると、質量フィルタQ0の帯域通過窓は、m
2のm/z比を伴うイオンおよびm
3のm/z比を伴うイオンの伝送を可能にするように調節される(この調節された帯域通過窓は、本明細書でBP2として指定される)。
【0061】
多くの実施形態では、質量フィルタQ0の帯域通過窓のそのような調節は、最初に、質量フィルタQ0に印加されるRF電圧を増加させ、その後、分解DC成分を調節することによって遂行されることができる。これは、質量フィルタQ0の帯域通過窓の初期増加をもたらし、下流質量分析器Q1の中へのm2イオンの流動を中断することなく、m2およびm3の両方を含むことができる。質量フィルタQ0のRF電圧における変化に続いて、質量フィルタQ0に印加されるDC分解電圧は、その帯域通過窓を所望の幅に調整するように調節される。
【0062】
多くのそのような実施形態では、質量分析器Q1は、質量フィルタQ0に印加されるDC分解電圧が調節されている間、m3のm/z比を伴うイオンを選択するように動作させられる。続けて、質量フィルタQ0の帯域通過窓は、m3およびm4のm/z比(すなわち、BP3として指定される帯域通過窓)を含むように調節されることができる。この例では、これに、m4およびm5を含むように質量フィルタQ0の帯域通過窓を調節することが続く(BP4として指定される帯域通過窓を参照されたい)。
【0063】
本実施形態では、RFおよびDC電圧源12および20は、質量フィルタQ0の帯域通過窓および質量分析器Q1の伝送窓を設定および調節するように、質量フィルタQ0と質量フィルタQ0の下流に位置付けられた質量分析器Q1とへのRFおよびDC電圧の印加を制御するために、コントローラ22の制御下で動作させられる。より具体的に、コントローラ22は、質量フィルタQ0および質量分析器Q1のロッドに印加されるRFおよびDC電圧が、質量フィルタQ0のための所望の帯域通過窓を提供し、質量分析器Q1を通した所望のm/z比を有するイオンの伝送も可能にするように、RFおよびDC電圧源を制御するようにプログラムされることができる。さらに、コントローラ22は、質量フィルタQ0の帯域通過窓を次の帯域通過窓に更新し、質量分析器Q1に印加されるRFおよび/またはDC電圧を調節し、質量分析器Q1を通したイオンの伝送を1つのm/z比から別のものに切り替えることもできる。
【0064】
例えば、測定サイクルの開始時に、コントローラ22は、質量フィルタQ0の帯域通過窓が、複数の着目m/z比を含み、質量分析器Q1の伝送窓が、それらのm/z比のうちの1つを含むであろうように、質量フィルタQ0の帯域通過窓および質量分析器Q1の伝送窓を設定することができる。事前設定された期間(例えば、質量分析器Q1が着目m/z比を有するイオンを処理するために要求される時間)後、コントローラ22は、すでに質量フィルタQ0の帯域通過窓内にある次の着目m/z比に質量分析器Q1の伝送窓を切り替え、さらに、質量分析器Q1によって処理されているm/z比に加えて、新しい着目m/z比を含むように(例えば、コントローラに以前に提供された着目m/z比の所定のリストに基づいて)質量フィルタQ0の帯域通過窓をシフトさせる。
【0065】
いくつかの実施形態では、コントローラ22は、質量フィルタQ0の伝送帯域幅および質量分析器Q1の伝送窓を実質的に同時にシフトさせるように構成されることができる。他の実施形態では、コントローラ22は、質量分析器Q1の伝送窓を次の着目m/z比にシフトさせる前、質量フィルタQ0の伝送帯域幅をシフトさせるように構成されることができる。例えば、再び
図5Bを参照すると、質量分析器Q1が、m
2のm/zを伴うイオンを監視している間、コントローラ22は、質量フィルタQ0の伝送帯域幅をm
2およびm
3のm/z比を伴うイオンを含むようにシフトさせることができる(すなわち、BP1からBP2へ)。コントローラ22は、次いで、m
3のm/z比を伴うイオンが、質量フィルタQ0において、(例えば、衝突冷却を介して)平衡化している間、質量分析器Q1の伝送窓をm
3のm/z比を含むようにシフトさせることができる。
【0066】
上記の例では、コントローラ22が質量フィルタQ0の伝送帯域幅および質量分析器Q1の伝送窓をm/z比の増加方向にシフトさせることが、説明されている。しかしながら、本教示は、それに限定されず、いくつかの実施形態では、コントローラ22は、質量フィルタQ0の伝送帯域通過および質量分析器Q1の伝送窓をm/z比の減少方向にシフトさせるように構成されることができる。
【0067】
本教示は、様々な異なる質量分光計に組み込まれることができる。例として、
図6は、複数のイオンを発生させるためのイオン源102を含む質量分光計100を図式的に描写する。様々なイオン源が、本教示の実践において採用されることができる。好適なイオン源のいくつかの例は、限定ではないが、とりわけ、エレクトロスプレーイオン化デバイス、ネブライザ支援エレクトロスプレーデバイス、化学イオン化デバイス、ネブライザ支援霧化デバイス、化学イオン化デバイス、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)イオン源、光イオン化デバイス、レーザイオン化デバイス、サーモスプレーイオン化デバイス、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源、ソニックスプレーイオン化デバイス、グロー放電イオン源、大気圧化学イオン化源(APCI)、および電子衝撃イオン源を含むことができる。
【0068】
発生させられたイオンは、カーテンプレート104の開口104aと、カーテンプレート104の下流に位置付けられたオリフィスプレート106のオリフィス106aとを通過し、オリフィスプレート106は、ガスカーテンチャンバがオリフィスプレート106とカーテンプレート104との間に形成されるようにカーテンプレート104から分離されている。カーテンガス供給源(図示せず)が、カーテンプレート104とオリフィスプレート106との間に(例えば、窒素の)カーテンガス流動を提供し、大きい中性粒子をクラスタ分離および排気することによって、質量分光計の下流区分を汚れていないように保つことに役立つことができる。カーテンチャンバは、高い圧力(例えば、大気圧を上回る圧力)において維持されることができる一方、質量分光計の下流区分は、1つ以上の真空ポンプ(図示せず)を通した排気を介して1つ以上の選択された圧力において維持されることができる。
【0069】
本実施形態では、カーテンプレート104およびオリフィスプレート106のオリフィス104aおよび106aを通過するイオンは、イオン光学系QJetによって受け取られ、それは、質量分光計100の下流コンポーネントへの伝送のためのイオンビームを形成するように四重極構成において配置された4つのロッド108(そのうちの2つが本図に見えている)を備えている。使用時、イオン光学系QJetは、ガス動力学および無線周波数場の組み合わせを使用して、オリフィスプレート106の開口部を通して受け取られたイオンを捕捉し、集束させるために採用されることができる。
【0070】
イオンビームは、イオン光学系Qjetから出て行き、レンズIQ0を介して、質量フィルタを含み得る追加のイオンガイド(Q0)を伴う後続の差圧排気式真空ステージの中に集束させられる。いくつかの実施形態では、質量フィルタQ0の圧力は、例えば、約2mTorr~約20mTorrの範囲内に維持されることができる。
【0071】
質量フィルタQ0は、4つのロッド110(そのうちの2つが、本図では、見えている)を含み、そられは、四重極構成に従って配置され、イオンが通路に入り得る入口110aからイオンが通路から出て行き得る出口110bまで延びている通路をそれらの間に提供する。上で記載したように、本実施形態では、質量フィルタQ0は、イオンレンズIQ0を介して、イオン光学系Qjetから出て行くイオンを受け取る。
【0072】
RF電圧源200は、イオンが通路を通過するとき、イオンの半径方向閉じ込めを提供し得る電磁場を通路内に発生させるために、RF電圧を質量フィルタQ0のロッド110に印加する。本実施形態では、1対のロッドに印加されるRF電圧は、他の対のロッドに印加されるRF電圧に対して同じ振幅および反対位相を有する。
【0073】
さらに、DC電圧源202は、質量フィルタの帯域通過窓を設定するために、分解DC電圧を質量フィルタQ0のロッド110のうちの少なくとも1つに印加することができる。特に、多くの実施形態では、分解DC電圧は、質量フィルタの帯域通過窓が、所望の閾値(例えば、いくつかの実施形態では、700または1,000)より大きい高M/Zカットオフを示すであろうことを確実にするように選択されることができる。代替として、DC電圧源は、DC電位をQ0四重極ロッド間の追加のTバー電極に印加するために使用されることができる。DC電位は、高M/Zカットオフを質量フィルタ内で確立するために使用されることができる。いくつかの実施形態では、高M/Zカットオフは、最高着目m/zより高い値として固定され、したがって、後続質量分析ステップ中、質量フィルタ設定を変更する必要はない。
【0074】
RFおよびDC電圧源と通信するコントローラ204は、必要RFおよびDC電圧をロッドまたは補助電極に印加するように、これらの電圧源を制御することができる。例えば、いくつかの実施形態では、質量フィルタの所望の特性、例えば、高M/Zカットオフ値に関する情報が、コントローラに提供されることができ、コントローラは、次いで、この情報を利用して、質量フィルタの所望の特性を達成するために要求されるRFおよびDC電圧を算出することができる。多くの実施形態では、RF周波数は、約100kHz~約10MHzの範囲内であることができ、RF振幅(ゼロ/ピーク)は、例えば、約0~約6,000ボルトの範囲内であることができる。
【0075】
図6を継続して参照すると、いくつかの実施形態では、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)206が、コントローラ204に動作可能に結合され、GUIは、ユーザが、標的着目m/z比または標的着目m/z比の範囲を入力することを可能にする。例として、GUIは、入力窓206a等の1つ以上のグラフィカル要素を提示することができ、それは、ユーザが、特定の着目m/zまたは着目m/z比の範囲に関する情報を入力することを可能にする。
【0076】
グラフィカルユーザインターフェースは、この情報をコントローラに伝達することができる。いくつかのそのような実施形態では、コントローラは、最大の着目m/z比を識別し、帯域通過窓がコントローラによって識別される最大のm/z比より大きい高M/Zカットオフを有するように質量フィルタの帯域通過窓を設定するように、1つ以上の制御信号をRFおよび/またはDC電圧源に印加するようにプログラムされる。例として、いくつかの実施形態では、コントローラは、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、最大着目標的m/z比より大きい値に高M/Zカットオフを設定することができる。
【0077】
GUI206は、様々な異なる方法において実装されることができる。さらに、いくつかの実施形態では、GUI206は、質量分光計が動作させられている、特定の方法に基づいて、入力データを入力する種々の方法を提示することができる。例えば、1つの動作モードでは、オペレータは、例えば、多重反応監視モード(MRM)において、特定のm/z比等に設定された第1の四重極質量分析器組を伴うトリプル四重極質量分光計を動作させることができ、質量分析器として機能する第2の四重極も、複数の前駆体イオンの断片化を介して衝突セル内で発生させられる断片着目イオンに対応する特定のm/z比に設定される。そのような動作モードでは、ユーザは、一連のQ1/Q3質量対をGUI206の中に入力することができ、コントローラ204は、最高着目m/z比を決定することができ、識別された最大の着目m/z比より高い値におけるM/Zカットオフを示すように、質量フィルタを構成することができる。M/Zカットオフ値は、例えば、最大の着目m/z比より75m/z高い、または150m/z高い、または任意の値高くあり得る。このアプローチを用いることで、固定された高M/Zカットオフが、全ての移行のために使用される。
【0078】
前のものに類似する別の動作モードでは、ユーザは、一連のQ1/Q3質量対を入力することができるが、コントローラが、質量分析器の上流に位置付けられた質量フィルタの高M/Zカットオフを定義するのではなく、ユーザが、高M/Zカットオフのための値を規定することができる。例えば、食品ベースの分析のために、高M/Zカットオフは、約m/z900の値であり得るが、高M/Zカットオフは、他のサンプルに関して異なり得る。ユーザは、Q1値のうちのいくつかより低い値も規定し得る。これらのMRM移行に関して、ソフトウェアおよび/またはファームウェアは、規定されたカットオフが、いくつかのMRM移行のために、信号を排除し、具体的に、より高いQ1m/zを伴うそれらのMRM移行のみに関して、Tバー電位をオフにするであろうことを認識するであろう。このアプローチを用いることで、固定された高M/Zカットオフが、カットオフより低いm/zを伴う全ての移行のために使用される。
【0079】
さらに別の動作モードでは、ユーザは、一連のQ1/Q3質量対をGUI206の中に入力することができ、ソフトウェアおよび/またはファームウェアは、各対のためのQ1値を検討し、上流質量フィルタがQ1m/z値に対して高M/Zカットオフを提供するための条件を設定し、Q1m/z値に対するカットオフのオフセットは、例えば、75m/zより高い、150m/zより高い等であることができる。ユーザは、各対のために所望される、オフセットも規定し得る。
【0080】
上で議論されるように、そのような高M/Zカットオフは、ある汚染物質イオンが、質量分光計の下流構成要素(下流質量分析器Q1等)に到達することを阻止することができることが発見されている。より具体的に、Q0質量フィルタの高M/Zカットオフの結果として、カットオフより大きいm/z比を伴うイオンは、それらがQ0質量フィルタを通過するにつれて、不安定軌道を取得し、故に、Q0質量フィルタの1つ以上のロッド上に堆積させられるであろう。その結果、そのようなイオンは、下流Q1質量分析器に到達しないであろう。しかしながら、
図3および4と関連して上で説明されるように、Q0Tバーが、使用される場合、カットオフより大きいm/z値を伴うイオンは、Q0ロッド上ではなく、Tバー上に堆積するであろう。
【0081】
Q0質量フィルタまたはTバーのロッドのいずれか上への汚染物質イオンの堆積は、Q0質量フィルタを通した標的イオンの通過に悪影響を及ぼさないであろうことが意外にも発見された。任意の特定の理論に限定されるわけではないが、この現象は、Q0質量フィルタがミリトル圧力領域内で典型的に動作させられ、その圧力領域において、イオンの背景中性種との衝突周波数が比較的に高く、それによって、フィルタを通して伝送されるイオンの半径方向振動を減らすという認識を介して解説されることができる。換言すると、Q0質量フィルタは、衝突集束レジメで動作する。伝送されるイオンのそのような半径方向閉じ込めは、それらのイオンをQ0ロッドまたはTバーの汚染をあまり受けにくいものにする。
【0082】
質量フィルタQ0は、イオンレンズIQ1と、Brubakerレンズとして機能する、短太レンズST1とを介して下流質量分析器Q1にイオンを送達する。本実施形態では、質量分析器Q1は、4つのロッド112(そのうちの2つが、本図では、見えている)を含み、それらは、四重極構成に従って配置され、それらに、RFおよびDC電圧が、質量分析のための着目m/z比を選択するために、印加されることができる。
【0083】
RF電圧源200は、RF電圧をQ1質量フィルタのロッドに印加し、質量フィルタを通過するイオンの半径方向閉じ込めを引き起こすことができ、DC電圧源202は、分解DC電圧をQ1質量分析器のロッドに印加し、標的m/zまたは標的窓内のm/zを有するイオンの通過を可能にする一方、他のm/z比を有するイオンの通過を阻止するように、質量分析器の帯域通過を設定することができる。
【0084】
コントローラ204は、RFおよびDC電圧源によって発生させられるRFおよびDC電圧を制御することができる。特に、コントローラは、質量フィルタの帯域通過を変更し、異なるm/z比を伴うイオンが、質量フィルタを通過し、質量フィルタQ0および質量分析器Q1が組み込まれる質量分光計の下流構成要素による質量分析を受けることを可能にするように、DC分解電圧の振幅を掃引することができる。
【0085】
Q1質量分析器は、Q0質量フィルタより低い圧力で動作する。例えば、Q0質量フィルタの圧力は、少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも30倍、または少なくとも40倍、または少なくとも50倍、または少なくとも60倍、または少なくとも70倍、または少なくとも80倍、または少なくとも90倍、または少なくとも100倍、Q1質量分析器の圧力を上回ることができる。例えば、Q1質量分析器は、約5e-5Torr未満またはQ0質量フィルタの典型的動作圧力より約120倍低い圧力で動作することができる。そのような減少した圧力は、イオンと背景中性種との間でのかなり少ない衝突をもたらし、それによって、Q1質量分析器を通過するイオンのより大きい半径方向振動範囲に結果としてつながる。これは、次に、イオンが、該当する場合、Q1質量分析器のロッド上に堆積させられた荷電デブリの影響をより受けやすくし得る。例えば、四重極質量分析器は、典型的に、高Mathieu a-およびq-パラメータおよび狭伝送窓、例えば、約1amuで動作する。
【0086】
四重極質量分析器のそのような動作パラメータは、RFおよびDC電圧の両方の精密な設定を要求し得る。四重極質量分析器を通したイオンの狭帯域通過は、伝送されるイオンの比較的に高い半径方向振幅、および安定イオンと不安定イオンとの間の鮮明な区別をもたらし得る。結果として、Q1質量分析器のロッド上に堆積させられた任意の荷電材料は、質量分析器を通過するイオンによって経験されるRFおよびDC場の一方または両方の時間変動を生じさせることによって、安定イオンと不安定イオンとの間の境界を「ぼかし」、それは、次に、質量分析器の性能を低下させ得る。
【0087】
より具体的に、本実施形態では、第2の質量分析器Q1の四重極ロッド組は、着目m/z比を有するイオンを選択するための伝送RF/DC四重極質量分析器として動作させられることができる。例として、質量フィルタQ1の四重極ロッド組は、質量分解モードにおける動作のために好適なRF/DC電圧を提供されることができる。例えば、印加RFおよびDC電圧のパラメータは、質量分析器Q1が、選定されたm/z比の伝送窓を確立し、したがって、それらのイオンが、大部分が中断されることなく質量分析器Q1を横断し得るように選択されることができる。しかしながら、窓外に該当するm/z比を有するイオンは、四重極内で安定した軌道を達成せず、質量分析器Q1の四重極ロッド組を横断することを防止されることができる。この動作モードが、質量分析器Q1に関する1つの可能な動作モードにすぎないことを理解されたい。
【0088】
四重極質量分析器の中に導入されるイオンのエネルギーは、典型的に、イオンが、それらが四重極質量分析器を横断するとき、四重極場内の十分なサイクルにさらされ得ることを確実にするために、低いことが、当業者によって理解されるであろう。例として、典型的イオンエネルギーは、約約0.5~約3eVであることができ、そのような低エネルギーイオンは、四重極入口のデブリ蓄積および荷電によって、悪影響を及ぼされ得る。
【0089】
本実施形態では、質量分析器Q1によって選択されたイオンは、短太レンズST2およびイオンレンズIQ2を介して衝突セルQ2の中に集束させられる。本実施形態では、衝突セルQ2は、例えば、約1ミリトル~約20ミリトルの範囲内の圧力において維持され得る加圧コンパートメントを含むが、他の圧力も、このまたは他の目的のために使用されることができる。好適な衝突ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)が、衝突セルQ2によって受け取られたイオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こすために、ガス入口(図示せず)を用いて提供されることができる。
【0090】
本実施形態では、衝突セルQ2は、四重極構成において配置され、衝突セルQ2によって受け取られたイオンの半径方向閉じ込めを提供するためにRF電圧が印加され得る4つのロッドQ2aを含む。さらに、本実施形態では、一対の短太レンズQ2bおよびQ2cは、前駆体イオンのうちの少なくとも一部の断片化を介して発生させられる生成イオンを出口イオンレンズIQ3のオリフィスの中に集束させ、それを通して生成イオンは、衝突セルから出て行く。他の実施形態が使用されること例えば、短太レンズQ2bおよびQ2cを伴わない)も、当業者に明白であろう。衝突セル、Q2は、より高次の多極またはリングガイドを含むこともできる。
【0091】
衝突セルQ2によって発生させられた生成イオンは、生成イオンを四重極質量分析器Q3の中に集束させるように機能する、イオンレンズIQ3および短太レンズST3を介して下流の四重極質量分析器Q3によって受け取られる。本実施形態では、下流分析器は、四重極質量分析器であるが、他の実施形態では、別のタイプの質量分析器、例えば、飛行時間(TOF)質量分析器またはイオントラップであることができる。
【0092】
四重極質量分析器Q3は、生成イオンの質量分析を提供するために、互いに対して四重極構成に配置された4つのロッド114を含み、RFおよび/またはDC電圧が、当技術分野において公知の様式においてそれらに印加され得る。質量分析器Q3を通過するイオンは、イオンレンズ116および118を通過後、下流検出器122によって受け取られ、検出され、下流検出器122は、入射イオンに応答してイオン検出信号を発生させる。検出器122と通信する、分析器124は、イオン検出信号を受信し、イオン検出信号を処理し、生成イオンの質量スペクトルを発生させ、それによって、着目前駆体m/zに対してQ1を固定し、前駆体イオンをQ2内で断片化し、着目娘m/zに対してQ3を固定することによって、MRM移行の監視を可能にする。
【0093】
当技術分野において公知のように、分析器124およびコントローラ204は、本教示によって情報が与えられるように、当技術分野において公知の技法を使用して、ハードウェア/ファームウェアおよび/またはソフトウェア内に実装されることができる。例えば、分析器124は、プロセッサと、1つ以上のランダムアクセスメモリ(RAM)モジュールと、1つ以上の恒久的メモリモジュールと、これらおよび他の構成要素間の通信を可能にするための少なくとも1つの通信バスとを含むことができる。例として、
図7は、分析器およびコントローラのいずれかの実装700の例を図式的に描写し、それは、プロセッサ701と、ランダムアクセスメモリ(RAM)702と、恒久的メモリ703(例えば、ROM)と、通信モジュール705と、プロセッサをこれらの構成要素に接続する通信バス704とを含む。いくつかの実施形態では、RFおよび/またはDC電圧源を制御するための命令、および/または本教示による質量分光計の検出器によって検出信号を分析するための命令は、恒久的メモリ内に記憶され、実行されるべきランタイム中、プロセッサによって、RAMモジュールに転送されることができる。
【0094】
以下の実施例は、本教示の種々の側面のさらなる例証のために提供され、必ずしも、本教示を実践する最適方法および/または取得され得る最適結果を示すために提供されるものではない。
【実施例】
【0095】
一連の実験が、食品ベースのサンプルを分析するために使用されるときの質量分光計の性能の劣化の原因を決定するために行われた。上で議論され、さらに下記に例証されるように、意外にも、より軽量のイオンではなく、重いイオン、例えば、約700より大きいm/z比を伴うイオンが、そのような性能における劣化の主因であることが発見された。さらに、1つ以上の質量フィルタ後に位置付けられた第1の質量分析器内に荷電イオンの堆積が、質量分析器のロッドの荷電につながり得、それが、次に、質量分析器の性能を低下させ得ることが発見された。上で議論されるように、高M/Zカットオフを有する質量フィルタを第1の質量分析器の上流に設置することは、有利なこととして、第1の質量分析器へのそのような汚染イオンの通過を阻止することができる。
【0096】
サンプルマトリクスは、紅茶およびルッコラの抽出物を含んだ。お茶の原液が、10mLのLC/MSグレード脱イオン水を4gのお茶に添加することによって調製された。サンプルは、30秒にわたって、振とうによって均質化され、次いで、10mLのLC/MSグレードアセトニトリルが、添加された。サンプルは、10分にわたって、ボルテックスされ、4gの硫酸マグネシウム、1gの塩化ナトリウム、1gのクエン酸三ナトリウム二水和物、および0.5gのクエン酸水素二ナトリウムセスキ水和物を備えている、塩混合物が、添加された。サンプルは、10分にわたってボルテックスされ、次いで、5分にわたって、3,500rpmで遠心分離された。アセトニトリル層が、取り出され、同じ様式で調製された並列サンプルのためにプールされた。
【0097】
類似手順が、10gの開始材料を使用して、ルッコラ原液を調製するために使用された。混合溶液が、56mLのお茶抽出物と56mLのルッコラ抽出物とを組み合わせ、28mLの水および0.14mLのギ酸を添加することによって、調製された。混合溶液は、1:1アセトニトリル:0.1%ギ酸を伴う水で50倍に希釈され、Whatmanガラスマイクロファイバフィルタ(グレード696)を通して濾過された。
(実施例1)
【0098】
上記
図6に描写されるそれに類似するトリプル四重極質量分光計が、お茶およびルッコラの抽出物を用いて、一連の実験を行い、汚染に起因する信号劣化と、性能を低下させるために十分な四重極分析器堆積物を生じさせる荷電種のm/z範囲とを特性評価するために使用された。
【0099】
実験は、お茶およびルッコラマトリクスの混合された抽出物を10mLずつ注入し、その後、質量分光計の性能をベースライン化することを伴った。ベースライン化実験は、MRMおよびQ1モードで行われる荷電試験を含み、信号変動およびQ1ピーク幅の変化を監視した。
図8は、30mLのサンプルマトリクスの注入後の前述のトリプル四重極システム上で得られるMRM荷電データを示す。荷電試験は、正のイオンモードへの切り替えに先立って、5分にわたって、分光計を負イオンモードで動作させ、信号安定性を追跡することを伴う。この実験は、Q0質量フィルタを使用せずに行われた。
【0100】
図8に示されるように、Q1の実質的荷電が、30mLの食品ベースのマトリクスの注入後、システム上で観察され、最初に、増加傾向を示し、その後、減少傾向が続く信号をもたらした。5分間の実験の過程にわたって、Q1 FWHMは、10%を上回って変化した(この図には図示せず)。
図8の例は、質量分析器性能を損なわせるであろう深刻な荷電効果を実証することが、当業者に明白であろう。
【0101】
図9Aおよび9Bは、30mLの食品ベースのマトリクスの注入後のQ1ロッド組の1組の極上のデブリパターンのデジタル写真を示す。かなりのデブリパターンが、Q1ロッドの一方の対上で可視であった一方、対の他方は、比較的に汚れていなかった(図示せず)。
(実施例2)
【0102】
一連の追加の実験が、汚染イオンに関連付けられた質量窓を確立するために、同じ食品ベースのマトリクスを質量分光計の中に注入しながら、
図3-4と関連して議論される質量フィルタに類似するTバー電極で構成されたQ0質量フィルタを使用して行われた。
【0103】
第1の実験では、TバーおよびQ0アセンブリに印加されるRFおよびDC電圧が、
図10に描写される灰色トレースによって示されるように、約250~約400の範囲内のm/z比を有するイオン(次いで、Q1質量分析器の中に導入された)を除き、Q0領域内の全ての荷電種を濾過するように設定された。本m/z窓は、1,033個の典型的駆除剤MRM移行のリストを分析後に選択された。リストからの平均m/z値は、312であり、それぞれ、85および890.5の最小および最大値を伴う。250~400のm/z窓は、5500上で駆除剤に関して典型的に監視される1,033個のMRM移行のうちの583個(56%)を含むであろう。
【0104】
図10のQ1走査から、m/z250~400の帯域通過窓を確立する上流質量フィルタを伴って、または伴わずに、測定された総イオン電流は、質量分析器を使用して100~1,000のm/zの範囲を走査するとき、約4×10
9cpsから7×10
8cpsに降下した。質量フィルタを使用するとき、質量分析器の大きな荷電を伴わずに、100mLのマトリクスを注入することが可能であった。
図11は、各10mLマトリクス注入後に得られた、基準(レセルピンイオン)に関する信号強度トレースを示す。総信号損失は、2倍未満であった。
【0105】
図12Aおよび12Bは、Q1ロッド組のデジタル写真を示し、100mLの食品ベースのマトリクスの注入にもかかわらず、デブリのかなりの蓄積がQ1ロッド上で可視ではなかったことを示す。
図12Cおよび12Dは、100mLのマトリクスの注入後の1対のQ0Tバーを示し、大量のデブリが、入口領域内の表面上に堆積させられている。これらの結果は、Q1荷電を引き起こす大量のデブリが、m/z250~400の範囲外のm/z比を伴う荷電種から生じることを示唆する。
【0106】
第2の実験の組では、Q0質量フィルタの帯域通過は、400~800の範囲に及ぶ新しいm/z窓に設定され、
図13に描写される灰色トレースに示されるように、本範囲内の任意のm/z比を有するイオンの質量スペクトルを取得した。TICは、Tバー窓の結果として、約4×10
9cpsから1.7×10
9cpsまで降下した(本図では、見えていない)。
【0107】
m/z範囲を400~800に制限するTバーを用いることで、大きな荷電問題を伴わずに、100mLの食品ベースのマトリクスを噴霧することが可能であった。再び、
図14は、各10mLのマトリクスの注入後のレセルピン基準に関して得られた、強度データのオーバーレイを示す。総信号低減は、2倍未満であった。
【0108】
図15Aおよび15Bは、Q1ロッドの写真を示し、
図15Cおよび15Dは、Q0Tバーの写真を示し、大量のデブリがQ0Tバー上に堆積させられ、Tバー濾過を伴わない対照実験と比較して、Q1ロッド上のデブリの量を大幅に減らしたことを図示する。わずかな堆積物が1対のQ1ロッド上で可視であったが、堆積物の量は、Tバーが濾過しないときの30mLのみのマトリクスの後で観察されたものよりはるかに少なかった。ロバスト性における利得は、質量分析器に到達するイオンの総数の3倍未満の低減にもかかわらず、3倍を上回った。これらの結果は、単に、TICが、汚染の影響に関する問題であるだけではなく、あるタイプのデブリは、その他より有害である可能性が高いことを示唆する。
【0109】
これまでの結果は、食品ベースのマトリクスが、250~800の典型的m/z範囲外のm/z比を伴う荷電汚染デブリを含むことを示している。これらのデブリに関する質量範囲を確認するために、追加の実験が、行われ、その中では、Tバーに印加されるDC電位が、オフにされ、Q0 RF電位が、約720のm/zにおける低M/Zカットオフを提供するように増加させられた。これらの条件下では、かなりの荷電が、40mLの食品ベースのマトリクスの注入後、システム上で観察された。Q1ピーク幅は、5分の荷電実験の過程にわたって、10%を上回って変化した。
【0110】
図16Aおよび16Bは、1対のQ1ロッドのデジタル写真を示し、Tバーを使用せずに得られた元のベースラインデータに類似する大きい堆積物の存在を実証する(
図9Aおよび9B参照)。
【0111】
上記のデータは、1)お茶およびルッコラの抽出物等の食品ベースのマトリクスを分析するとき、Q1荷電を引き起こすことに最も関与する荷電デブリが、約720より大きいm/z比を有し、2)高m/z荷電種がQ1分析器に先立って濾過されると、器具ロバスト性が、例えば、上記の実験において、3倍を上回って、かなり改良されることを示す。
【0112】
追加の実験が、お茶/ルッコラマトリクスを使用して行われ、非常に高m/zを伴う大きい荷電種の範囲を特性評価した。第1の実験の組では、
図17Aに示されるように、Q0 RF電位が、1,560Vに設定され、Tバーは、オフにされ、Q0 RFレベルが、低M/Zカットオフをもたらしたことが明白である。
【0113】
上昇した背景が、Q1走査において可視であったが、m/z比が約1,000を上回る領域内では、極端なピークの指示は、存在しなかった。このトリプル四重極器具上の質量分析器は、m/z2,000に限定されており、したがって、カスタム走査が、2,000より大きいm/z比を伴うイオン電流の大きさを特性評価することを試みるために使用された。
【0114】
Q1質量分析器は、オープンに設定され、器具は、前駆体質量が2,000に設定されたMS/MSモードで動作させられた。これは、1,500のm/z付近で、Q1における低M/Zカットオフをもたらした。衝突エネルギーが、次いで、Q3内で測定される信号を最大化するように最適化され、これは、約70eVのエネルギーを要求した。これらの条件下で、より大きい荷電クラスタ種からの断片に対応する多数のピークが、
図17Bに示されるように、Q3領域内で観察された。
【0115】
Asteroid(例えば、MSの上側質量限界外の大きいm/z比を伴うイオン)走査における遊離されたピークの多くは、Q1走査(
図17A)においても観察された食品ベースのマトリクスからの固有種に対応する。
【0116】
汚れていないマトリクスと連動する、前述のAsteroid(例えば、MSの上側質量限界外の大きいm/z比を伴うイオン)走査では、レセルピンに関するイオン電流の約4%が大きいクラスタ内で捕獲されたと推定される。ここで試験される食品ベースのマトリクスに関して、Asteroid内容物は、よりはるかに高くあり得ると考えられ、Asteroid走査からのTICは、Q1走査からのTICの12%であった。これは、これらの食品ベースのマトリクスが、非常に大m/zクラスタまたは液滴内に含まれる不均衡イオン電流を作成し、質量分析器汚染に寄与し得ることを意味する。
【0117】
Sciex5500シリーズ等のトリプル四重極分光計上で食品ベースのマトリクスに関して通常監視されるであろう駆除剤は、1,033個のMRMを含み、85~890.5に及ぶQ1m/z範囲を伴う。これらの化合物のうち、それらの18個のみが、約720のm/z比を有し、したがって、
図13-15に説明される窓実験は、大量の荷電デブリが、駆除剤の98.3%のために必要とされるm/z範囲より大きいm/z窓から生じることを示す。これらの結果は、1)食品ベースのマトリクスが、トリプル四重極器具を他の一般的サンプルマトリクスより高速で汚染し、2)分光計の性能における劣化の主要原因は、Q1荷電であることを示す。
【0118】
さらに、890.5の最大の駆除剤m/zを用いることで、上で説明される例は、最大の着目m/z(この場合、m/z890.5)より大きいm/zカットオフを伴う質量フィルタを含むことによって、駆除剤分析のための新しいアプローチを提案する。
図18は、Q0Tバーが900より大きいm/zを伴う全てのイオンを排除するための質量フィルタとして使用された追加の例を示す。実質的な荷電を伴わずに、100mLの食品ベースのマトリクスを噴霧することが可能であった。
【0119】
図19A-19Dは、
図18に示される帯域通過を用いた、100mLのマトリクスを注入後の5分間の荷電実験の過程にわたる、TICおよびQ1ピーク幅の変化を示し、レセルピン信号およびQ1ピーク形状が、100mLのマトリクスの注入後、一定のままであったことを示す。
【0120】
図20Aおよび20Bは、それぞれ、Q0TバーおよびQ1ロッドのデジタル写真を示す。再び、大量のデブリが、Tバー上に堆積させられ、大きなデブリ蓄積は、Q1質量分析器上に存在しなかった。
(実施例3)
【0121】
別の一連の実験では、ラット肝臓ホモジネートマトリクスが、10mLずつ、トリプル四重極質量分光計の中に注入され、その後、質量分光計の性能のベースライン化が続き、それは、信号変動およびQ1ピーク幅の変化を監視するためのMRMおよびQ1モードにおいて行われる荷電試験を伴った。
【0122】
より具体的に、ラット肝臓ホモジネートは、1量部ラット肝臓組織と10量部PBS(リン酸塩緩衝剤溶液)とを混合することによって調製された。ホモジネートは、3量部メタノールを伴う1量部組織ホモジネート(3.5mLのホモジネートおよび10.5mLのメタノール)に従って沈殿させられ、結果として生じる沈殿物は、ボルテックスされ、遠心分離された。上清が、除去および乾燥された。次いで、15mLの80:20移動相A:B(再構成するために、ボルテックスおよび超音波処理された)、0.1%ギ酸に加え、5mMギ酸アンモニウムで再構成された。再構成された沈殿物は、0.45ミクロンおよび0.2ミクロンセルロースで濾過された。最終希釈倍数は、4.2倍であった。
【0123】
図21は、ラット肝臓ホモジネートマトリクスを注入するときに取得されたQ1走査を示す。トレース1としてマークされる質量スペクトルは、Q0質量フィルタを使用せずに取得された、質量スペクトルを提示する。トレース2としてマークされる質量スペクトルは、TバーおよびQ0アセンブリに印加されるRFおよびDC電圧が400未満のm/z比を有するイオン(次いで、Q1質量分析器の中に導入される)を除き、Q0領域内の全ての荷電種を濾過するように設定された状態で、取得された。このm/z窓は、全ての着目分析物が314またはより低いm/z比を有するユーザ入力に基づいて選択された。
【0124】
図22A-Cは、Q0質量フィルタを使用しない、40mLのサンプルマトリクスの注入後のSciex6500トリプル四重極システム上で得られたQ1荷電データを示す。この荷電試験は、正のイオンモードへの切り替えに先立って、10分にわたって、分光計を負イオンモードで動作させ、信号安定性を追跡することを伴った。
図22Aは、m/z比500以上に関するデータを示し、Q1の最小限の荷電が観察されたことを図示する。
【0125】
図22Bは、m/z175に関するデータを示し、信号が、10分の工程の過程にわたって、増加し始め、深刻な荷電を示す。
図22Cは、m/z59に関するデータを示し、完全な信号損失を図示し、それは、Q1荷電に起因し得る。これらの結果は、Tバーを伴わずに、40mLのマトリクスを注入後、システムが、300未満のm/z比に関して、深刻な荷電を経験したことを示す。
【0126】
図23A-Cは、m/z400を上回るQ0質量フィルタ濾過を用いた、40mLのサンプルマトリクスの注入後の前述のトリプル四重極システムを使用して取得された、Q1荷電データを示す。より具体的に、
図23Aは、m/z比500以上に関する荷電データを示し、最小限の荷電を図示する。
図23Bおよび23Cは、それぞれ、m/z175および59に関する荷電データを示す。これらの結果は、m/z400を上回るTバー濾過を用いることで、40mLのマトリクスを注入後、任意のm/z比に関して、最小限の荷電が存在することを示す。
【0127】
図24Aおよび24Bは、各10mLのマトリクスの注入後に得られた、59のm/zに関するQ1データのオーバーレイを示す。
図24Aに示されるオーバーレイは、Tバーによる濾過を伴わずに質量分光計を動作させるときに取得されるデータに対応する。トレースAに示される(実験を開始することに先立った)ベースラインからのピーク幅は、各注入後、狭くなり始める。トレースBは、40mLのマトリクスの注入後のピーク幅を示し、Q1 FWHMがベースラインから26%を上回って変化したことを図示する。
図24Bに示されるオーバーレイは、Tバーを動作させ、400より大きいm/z比を濾過するときの結果を示す。ピーク幅は、各10mL注入後、非常に最小限の変化を示し、それは、荷電データに明白に現れている。
【0128】
図25A-Dは、40mLのラット肝臓ホモジネートマトリクスの注入後のQ1ロッド組の1組の極上に堆積させられたデブリパターンのデジタル写真を示す。
図25Aおよび25Bは、かなりのデブリパターンが、Tバーが使用されなかった1対のQ1ロッド上で可視であったことを示す。対照的に、
図25Cおよび25Dに示されるように、Tバーがm/z400を上回るものを濾過するように設定されたとき、可視デブリ堆積物が、Q1ロッド上に存在しなかった。
【0129】
当業者は、種々の変更が、本教示の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に行われ得ることを理解するであろう。
【国際調査報告】