(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及び動力車両
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20240305BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240305BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M10/0525
H01M10/0566
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558576
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 CN2022082943
(87)【国際公開番号】W WO2022199681
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】202110320984.1
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼娜
(72)【発明者】
【氏名】▲でん▼暄▲うぇい▼
(72)【発明者】
【氏名】潘▲儀▼
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ19
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA19
(57)【要約】
リチウムイオン電池及び動力車両を開示する。リチウムイオン電池は、正極板、負極板、電解液及びセパレータを含み、正極板は、正極集電体と、正極集電体に設置された正極材料層とを含み、負極板は、負極集電体と、負極集電体に設置された負極材料層とを含み、負極材料層の負極活物質は、黒鉛であり、正極材料層は、リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料で構成された正極活物質を含み、リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料の正極活物質における質量割合は、それぞれA1、A2及びA3であり、かつA1+A2+A3=1であり、α=(M4×η4×Y)/[(M1×η1×A1+M2×η2×A2+M3×η3×A3)×X]、β=[M1×(1-η1)×A1+M2×(1-η2)×A2+M3×(1-η3)×A3]×X/[M4×(1-η4)×Y]と定義し、1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たし、Xは、正極活物質の正極板における塗布量であり、Yは、黒鉛の上記負極板における塗布量であり、式中、M1、M2、M3、M4は、単位がいずれもmAh/gであり、X、Yは、単位がgである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板、電解液、及び前記正極板と前記負極板との間にあるセパレータを含み、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体に設置された正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に設置された負極材料層とを含み、前記負極材料層の負極活物質は、黒鉛であり、前記正極材料層は、リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料で構成された正極活物質を含み、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料、前記リン酸鉄リチウム材料及び前記三元系材料の前記正極活物質における質量割合は、それぞれA
1、A
2及びA
3であり、かつA
1+A
2+A
3=1であり、
α=(M
4×η
4×Y)/[(M
1×η
1×A
1+M
2×η
2×A
2+M
3×η
3×A
3)×X]、
β=[M
1×(1-η
1)×A
1+M
2×(1-η
2)×A
2+M
3×(1-η
3)×A
3]×X/[M
4×(1-η
4)×Y]と定義し、
1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たし、
式中、M
1、η
1は、それぞれ前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
2、η
2は、それぞれ前記リン酸鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
3、η
3は、それぞれ、前記三元系材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
4、η
4は、それぞれ前記黒鉛の初回放電比容量と初回効率であり、Xは、前記正極活物質の前記正極板における塗布量であり、Yは、前記黒鉛の前記負極板における塗布量であり、前記M
1、M
2、M
3、M
4は、単位がいずれもmAh/gであり、前記X、Yは、単位がgである、リチウムイオン電池。
【請求項2】
さらに、γ=(M
1×η
1×A
1+M
2×η
2×A
2+M
3×η
3×A
3)×b×c/(a×A
3×1000)と定義し、0.45≦γ≦1.55を満たし、
式中、aは、前記三元系材料の残留アルカリ含有量であり、bは、前記リチウムイオン電池の注液係数であり、単位がg/Ahであり、cは、組立後の前記リチウムイオン電池の電解液中の残留水含有量の理論値であり、前記a及びcは、ppmで計算される、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記A
2は、A
1の2~5倍である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記A
1は、10%~25%の範囲の値である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記XとYとの比は、1.71~1.89の範囲の値である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記bは、2.9~3.8の間の定数であり、前記cは、200ppm~400ppmの範囲の値であり、前記aは、500ppm~1500ppmの範囲の値である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記三元系材料の一般式は、LiNi
xCo
yM
zであり、式中、前記Mは、IIIB族~VA族の少なくとも1種の金属元素であり、0.33≦x≦0.98、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記リン酸マンガン鉄リチウム材料において、マンガンのモル量は、マンガンと鉄のモル量の和の0.75~0.9を占める、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記リン酸鉄リチウム材料の粒径D50は、0.8μm~1.3μmであり、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の粒径D50は、10μm~15μmであり、前記三元系材料の粒径D50は、4μm~6μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権情報)
本開示は、2021年3月25日に中国国家知識産権局に提出された、出願名称が「リチウムイオン電池及び動力車両」である中国特許公開第202110320984.1号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は、参照により本開示に組み込まれるものとする。
【0002】
本開示は、電池の技術分野に関し、具体的にリチウムイオン電池及び動力車両に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、次世代の環境にやさしく、高エネルギー電池であり、電子機器、自動車、航空宇宙などの分野で広く適用されている。正極材料は、リチウムイオン電池の重要な構成部分として、その選択がリチウムイオン電池の性能に直接的に影響を与え、複数種の正極材料を混合することは、電池分野の一般的な手段の1つである。
【0004】
従来の正極材料の混合は、主に、リン酸鉄リチウム材料(LFP)と三元系材料との混合、リン酸マンガン鉄リチウム材料(LMFP)と三元系材料との混合、及びマンガン酸リチウムと三元系材料との混合などを含む。しかしながら、前者の混合手段は、電池が高SOC(state of charge、充電状態)で高レートで充電する時にリチウム析出のリスクがあり、電池の安全性を低下させ、後者の2つの混合手段は、ある程度で電池の高レートで充電する時のリチウム析出のリスクを緩和することができるが、低SOCで放電する時、すぐにカットオフ電圧に達し、放電電力が低い。また、複数種の正極材料が混合されたリチウム電池は、正極比容量が低く、電池エネルギー密度の向上に不利となる。
【発明の概要】
【0005】
これに鑑みて、本開示は、LMFP、LFP及び三元系材料を適切な割合で混合し、3者の初回充電容量、初回効率などを制御して一定の要求を満たすことにより、それらで製造されたリチウムイオン電池は、高SOC状態で充電する時にリチウムが析出しにくく、低SOC状態で放電する時に電力が大きく、各材料の比容量を十分に発揮することができ、良好なサイクル安定性を有する。
【0006】
第1態様において、本開示に係るリチウムイオン電池は、正極板、負極板、電解液、及び前記正極板と負極板との間にあるセパレータを含み、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体に設置された正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に設置された負極材料層とを含み、前記負極材料層の負極活物質は、黒鉛であり、前記正極材料層は、リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料で構成された正極活物質を含み、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料の前記正極活物質における質量割合は、それぞれA1、A2及びA3であり、かつA1+A2+A3=1であり、
α=(M4×η4×Y)/[(M1×η1×A1+M2×η2×A2+M3×η3×A3)×X]、
β=[M1×(1-η1)×A1+M2×(1-η2)×A2+M3×(1-η3)×A3]×X/[M4×(1-η4)×Y]と定義し、
1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たし、
式中、M1、η1は、それぞれ前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M2、η2は、それぞれ前記リン酸鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M3、η3は、それぞれ前記三元系材料の初回充電比容量と初回効率であり、M4、η4は、それぞれ前記黒鉛の初回放電比容量と初回効率であり、Xは、前記正極活物質の前記正極板における塗布量であり、Yは、前記黒鉛の前記負極板における塗布量であり、前記M1、M2、M3、M4は、単位がいずれもmAh/gであり、前記X、Yは、単位がgである。
【0007】
本開示において、LMFP、LFP及び三元系材料を混合して正極活物質とし、3者の混合割合を調整するとともに、正負極活物質の比容量、初回効率などの電池動作角度などに組み合わせて上記パラメータα、βを一定の範囲に制御することにより、各種の材料の充放電特性の良好なバランスを取ることができ、該正極活物質は、高SOC状態と低SOC状態のいずれでも高い充放電プラトーを有し、さらに電池が高SOC状態で充電する時にリチウムが析出しにくく、低SOC状態で放電する時に電力が大きく、そして、該正極活物質は、高い圧密密度を有し、高い比容量を発揮することができ、リチウムイオン電池のエネルギー密度の向上に寄与する。したがって、該リチウムイオン電池は、良好なレート電力性能と高いエネルギー密度などとを良好に両立することができる。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態において、さらに、γ=(M1×η1×A1+M2×η2×A2+M3×η3×A3)×b×c/(a×A3×1000)と定義し、0.45≦γ≦1.55を満たし、
式中、aは、前記三元系材料の残留アルカリ含有量であり、bは、前記リチウムイオン電池の注液係数であり、単位がg/Ahであり、cは、組立後の前記リチウムイオン電池の電解液中の残留水含有量の理論値であり、前記a及びcは、ppmで計算される。
【0009】
この場合、前記正極活物質におけるLFP、LMFPの構造安定性が向上し、鉄溶解/マンガン溶解が発生しにくく、電池のサイクル性能の向上に寄与する。したがって、該リチウムイオン電池は、さらに、良好なレート電力性能、高いエネルギー密度、良好なサイクル性能、高い安全性などの性能を良好に両立することができる。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態において、前記bは、2.9~3.8の間の定数であり、前記cは、200ppm~400ppmの範囲の値であり、前記aは、500ppm~1500ppmの範囲の値である。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態において、前記A2は、A1の2~5倍である。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態において、前記A1は、10%~25%の範囲の値である。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態において、前記XとYとの比は、1.71~1.89の範囲である。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態において、前記三元系材料の一般式は、LiNixCoyMzであり、式中、前記Mは、IIIB族~VA族の少なくとも1種の金属元素であり、0.33≦x≦0.98、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1である。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態において、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料において、マンガンのモル量は、マンガン鉄のモル量の和の0.75~0.9を占める。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム材料の粒径D50は、0.8μm~1.3μmであり、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の粒径D50は、10μm~15μmであり、前記三元系材料の粒径D50は、4μm~6μmである。
【0017】
第2態様において、本開示に係る動力車両は、本開示の第1態様に記載のリチウムイオン電池を含む。
【0018】
本開示の実施例の利点については、一部が以下の明細書において説明され、一部が明細書に基づいて明らかになるか又は本開示の実施例を実施することにより理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
ここで説明される図面は、本開示への理解を深めるためのものであり、本開示の一部を構成し、本開示の例示的な実施例及びその説明は、本開示を説明するためのものであり、本開示を限定するものではない。
【0020】
【
図1a】リン酸マンガン鉄リチウム-黒鉛系電池の充放電曲線である。
【
図1b】リン酸鉄リチウム-黒鉛系電池の充放電曲線である。
【
図1c】三元系材料-黒鉛系電池の充放電曲線である。
【
図2】本開示の実施例4におけるフルセルの充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明は、本発明の例示的な実施形態である。なお、当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も本発明の保護範囲に含まれる。
【0022】
本開示の実施例に係るリチウムイオン電池は、正極板、負極板、電解液、及び上記正極板と負極板との間にあるセパレータを含み、上記正極板は、正極集電体と、上記正極集電体に設置された正極材料層とを含み、上記負極板は、負極集電体と、上記負極集電体に設置された負極材料層とを含み、上記負極材料層の負極活物質は、黒鉛であり、上記正極材料層は、リン酸マンガン鉄リチウム材料(LMFP)、リン酸鉄リチウム材料(LFP)及び三元系材料で構成された正極活物質を含み、上記リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料の上記正極活物質における質量割合は、それぞれA1、A2及びA3であり、かつA1+A2+A3=1であり、
α=(M4×η4×Y)/[(M1×η1×A1+M2×η2×A2+M3×η3×A3)×X]、
β=[M1×(1-η1)×A1+M2×(1-η2)×A2+M3×(1-η3)×A3]×X/[M4×(1-η4)×Y]と定義し、
1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たし、
式中、M1、η1は、それぞれ上記リン酸マンガン鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M2、η2は、それぞれ上記リン酸鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M3、η3は、それぞれ上記三元系材料の初回充電比容量と初回効率であり、M4、η4は、それぞれ上記黒鉛の初回放電比容量と初回効率であり、Xは、上記正極活物質の上記正極板における塗布量であり、Yは、上記黒鉛の上記負極板における塗布量であり、上記M1、M2、M3、M4は、単位がいずれもmAh/gであり、上記X、Yは、単位がgである。
【0023】
なお、上記M1、M2、M3、M4、η1、η2、η3、η4は、それぞれ単独のLMFP、LFP、三元系材料又は黒鉛材料で製造されたボタン型電池に対して試験を行って得ることができる。X、Yは、電池を設計するときに決定されたパラメータである。
【0024】
上記αは、正極板の容量に対する負極板の容量の過剰比である。αの値が小さすぎると、充電中に負極板にリチウムが析出するリスクがあり、αの値が大きすぎると、負極板の塗布量が大きくなりすぎ、負極板にSEI膜(固体電解質界面膜)が形成される際により多くの活性リチウムを消費する必要があり、正極活物質の容量の発揮に不利となり、電池のエネルギー密度を低下させる。1.03≦α≦1.15を制御することにより、電池のリチウム析出のリスクを低くするとともに、その正極活物質の容量の発揮に寄与する。本開示のいくつかの実施形態において、1.05≦α≦1.12であり、本開示の別のいくつかの実施形態において、1.08≦α≦1.12である。
【0025】
上記βは、LMFP材料、LFP材料、黒鉛、三元系材料の4者の初回効率のバランス関係である。三元系材料の初回効率<黒鉛の初回効率<LMFP材料の初回効率<LFP材料の初回効率であり、負極が黒鉛であり、LFP材料及び/又はLMFP材料のみを正極活物質として用いる場合、LFP材料/LMFP材料は、高い初回効率による不可逆リチウムの損失が少なく、黒鉛がSEI膜を形成するために消費するのに十分ではないため、黒鉛は、電池系中の他の活性リチウムを消費し、LFP/LMFPの比容量を低下させ、さらに電池のエネルギー密度を低下させ、一方、三元系材料は、初回効率が低いため、負極に残留する多くの不可逆リチウムは、負極がSEI膜を形成するために消費するのに十分であり、LFP/LMFPと三元系材料とを混合する場合、三元系材料がLFP/LMFPに実質的にリチウムを補充することに相当し、正極活物質全体の比容量を向上させることができる。総合的に考慮すると、本開示において、βの値の範囲を0.55≦β≦1.5に制御し、これは、正極活物質全体の比容量の向上により役立ち、電池のエネルギー密度の向上に寄与する。
【0026】
また、LMFP、LFP及び三元系材料を混合する場合、3つの材料の異なる充放電特性を利用することができ、LMFP材料は、高電圧区間に一定の長さの放電プラトー(
図1aに示すように、充放電電圧プラトーが3.95V~4.0Vである)を有し、系の高SOC状態で高レートで充電する時のリチウム析出のリスクの低減に寄与し、LFP材料は、低電圧区間に長い充放電プラトー(
図1bに示すように、充放電電圧プラトーが3.2V程度である)を有し、系の低SOC状態での大電力放電性能の向上に寄与し、三元系材料の電圧区間全体における容量放出が均等であり(
図1cに示すように)、高電圧区間で容量放出がより生じやすい。したがって、上記3種の材料を適切な割合で混合して製造された電池は、高SOC状態と低SOC状態のいずれかでも充放電プラトーが存在し(
図2に示すように)、高SOC状態では、LMFPと三元系材料が協働して放電することができ、電池の分極が小さく、電池が高レートで動作することができ、放電電力が大きいが、それぞれの材料が受ける実際の放電電流が小さく、それに応じて、電池が高SOC状態で高レートで充電する場合、3者が協働して充電することができ、それぞれの材料が受ける実際の充電電流が小さく、過充電によるリチウム析出が生じにくく、低SOC状態では、LFPとLMFPは、協働して充放電することができ、電池の分極が小さく、電池の放電電力が大きく、動力車両が起動時に所定の速度に迅速に達することに役立つ。
【0027】
したがって、本開示に係る上記リチウムイオン電池において、LMFP、LFP及び三元系材料の3者を適切な割合で混合して正極活物質とし、正負極活物質の比容量、効率などの関係に基づいて、上記パラメータα、βを一定の範囲に制御することにより、電池に高い平均電圧及び比容量を備えさせ、そのエネルギー密度の向上に寄与し、電池の高SOC状態での充電時のリチウム析出のリスクを低減し、低SOC状態での放電電力を向上させることができる。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態において、さらに、γ=(M1×η1×A1+M2×η2×A2+M3×η3×A3)×b×c/(a×A3×1000)と定義し、0.45≦γ≦1.55を満たし、
式中、aは、上記三元系材料の残留アルカリ含有量であり、bは、上記リチウムイオン電池の注液係数であり、単位がg/Ahであり、cは、組立後の上記リチウムイオン電池の電解液中の残留水含有量の理論値であり、上記a及びcは、ppmで計算される。
【0029】
パラメータaは、該リチウムイオン電池を組み立てる前に、用いられた三元系材料に対して試験を行って得ることができる。パラメータbは、電池を設計するときに決定されたパラメータであり、cは、理論値であり、通常の組立に合格した電池の場合、その電解液中の残留水含有量cは、通常、200ppm~400ppmである。注液係数bは、電池の電解液の注液量と電池の設計放電容量との比であり、注液係数bが決定された場合、電池容量が決定された場合に、電池の電解液の質量を決定し、さらに、cにより電解液中の水含有量の理論値(gで計算する)を知ることができ、さらに、水から変換されたHFの質量を決定することができる。本開示のいくつかの実施形態において、上記bは、2.9g/Ah~3.8g/Ahである。
【0030】
上記パラメータγは、電池電解液中のHFの抑制状況を表すことができる。LFP、LMFP及び三元系材料を混合する場合、三元系材料は、良好な吸水性能を有するため、電池の電解液に残留する水を優先的に消費し、電解液中のHFの含有量を低減することができる。三元系材料の表面の残留アルカリ含有量と電解液中のHFの含有量とが一定の関係(すなわち、0.45≦γ≦1.55)を満たす場合、電解液中のHFの含有量を大幅に低減することができ、さらにLFP材料の鉄溶解性、LMFP材料の鉄マンガン溶解性を明らかに低減することができ、これら2種の材料の構造安定性を良好に保持することに寄与し、それにより、電池のサイクル性能を向上させ、長いサイクル寿命を有する。本開示のいくつかの実施形態において、上記γの値の範囲は、0.5≦γ≦1.45である。
【0031】
本開示のいくつかの実施形態において、上記A2は、A1の2~5倍である。この場合、上記リチウムイオン電池が異なるSOC状態で充放電電力がより高く、安全性能により優れていることを保証することができる。本開示のいくつかの実施形態において、上記A2は、A1の2.4~3.5倍である。
【0032】
本開示のいくつかの実施形態において、上記A1は、10%~25%の範囲の値であり、本開示の別のいくつかの実施形態において、上記A1は、15%~25%であり、本開示のまた別のいくつかの実施形態において、上記A1は、15%~22%である。本開示のいくつかの実施形態において、上記A2は、45%~80%の範囲の値であり、本開示の別のいくつかの実施形態において、上記A2は、45%~75%であり、本開示のまた別のいくつかの実施形態において、上記A2は、50%~75%である。本開示のいくつかの実施形態において、上記A3は、10%~40%の範囲の値であり、本開示の別のいくつかの実施形態において、上記A3は、10%~30%であり、本開示のまた別のいくつかの実施形態において、上記A3は、10%~25%である。
【0033】
本開示のいくつかの実施形態において、上記XとYとの比(X/Y)は、1.71~1.89の範囲である。これにより、負極板の充電中のリチウム析出を回避するだけでなく、正極活物質の容量の発揮に寄与し、電池のエネルギー密度の向上に役立つ。本開示の別のいくつかの実施例において、X/Yは、1.73、1.82又は1.87などである。
【0034】
本開示において、三元系材料の一般式は、LiNixCoyMzであり、Mは、IIIB族~VA族の少なくとも1種の金属元素であり、0.33≦x≦0.98、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1である。例えば、Mは、Mn、Al、Zr、Ti、Y、Sr及びWなどのうちの少なくとも1種である。本開示のいくつかの実施形態において、yは、0.01≦y≦0.33を満たし、zは、0.01≦z≦0.33を満たす。
【0035】
本開示のいくつかの実施形態において、xの値の範囲は、0.70≦x≦0.98である。また、xの値が高い場合、該三元系材料は、「高ニッケル三元系材料」とも呼ばれ、その吸水性が高く、高い比容量と良好なレート性能を有し、4.1~4.15V程度でH2-H3相転移が存在し、明らかな充放電プラトーが存在し、LMFPと高ニッケル三元系材料との協働放電に寄与する。本開示の別のいくつかの実施形態において、xの値の範囲は、0.80≦x≦0.90であり、本開示のまた別のいくつかの実施形態において、xの値の範囲は、0.83≦x≦0.88である。
【0036】
三元系材料中のニッケル元素は、アルカリ性であり、空気に曝されると、水及び二酸化炭素を吸収しやすく、表層リチウムと反応して水酸化リチウム(LiOH)と炭酸リチウム(Li2CO3)を生成する。三元系材料の残留アルカリ含有量は、具体的には、電池を組み立てる前に測定したLiOH及びLi2CO3の質量が三元系材料の総質量に占める百分率である。本開示のいくつかの実施形態において、上記aは、500ppm~1500ppmの範囲の値である。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態において、上記リン酸マンガン鉄リチウム材料において、マンガンのモル量は、マンガン鉄のモル量の和の0.75~0.9を占める。すなわち、リン酸マンガン鉄リチウムの一般式は、LiMnkFe1-kPO4と書くことができ、0.75≦k≦0.9である。この場合、マンガン元素のモル比が大きいため、リン酸マンガン鉄リチウム材料の4.05~4.1Vの充電電圧プラトーが長くなり、電池が高SOCで高レートで充電する時のリチウム析出のリスクの低減により寄与する。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態において、上記三元系材料の粒径D50は、4μm~6μmであり、例えば、4μm~5μmである。本開示の別のいくつかの実施形態において、上記三元系材料は、類単結晶材料であり、構造安定性が凝集体状態の三元系材料よりも高い。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態において、上記リン酸鉄リチウム材料の粒径D50は、0.8μm~1.3μmであり、例えば、0.8μm~1.2μmである。
【0040】
本開示のいくつかの実施形態において、上記リン酸マンガン鉄リチウム材料の粒径D50は、10μm~15μmである。
【0041】
さらに、上記リン酸鉄リチウム又はリン酸鉄リチウム材料は、その導電性を向上させるために、表面に炭素被覆層をさらに有する。さらに、上記リン酸鉄リチウム又はリン酸鉄リチウム材料における炭素含有量は、0.8wt%~1.2wt%である。
【0042】
上記正極材料層、上記負極材料層は、導電剤及びバインダーをさらに含む。例えば、上記正極材料層は、上記正極活物質と、導電剤と、バインダーと、溶媒とを含む正極スラリーを塗布し、乾燥して形成されてもよい。該正極スラリーを調製するときに、まずバインダーと溶媒を混合し、十分に撹拌した後、導電剤を添加し、撹拌した後、上記正極活物質を添加し、撹拌した後、篩にかけてもよい。添加された正極活物質は、上記LMFP、LFP及び三元系材料を直接混合したものであってもよく、これら3種の材料をバッチで添加したものであってもよい。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態において、上記正極活物質の上記正極材料層における質量割合は、95%~97%である。本開示の別のいくつかの実施形態において、上記黒鉛の上記負極材料層における質量割合は、95%~98%である。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態において、上記正極活物質により、上記正極板の最大圧密密度は、2.7g/cm3~2.8g/cm3であってもよい。
【0045】
導電剤、バインダーは、いずれも電池の分野における一般的な選択である。例えば、導電剤は、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、ファーネスブラック及びグラフェンのうちの少なくとも1種を用いてもよいが、これらに限定されない。本開示のいくつかの実施形態において、上記導電剤は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びグラフェンの3種を含み、3種の導電剤により、正極材料層に良好な導電性を備えさせることができる。さらに、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びグラフェンの質量比は、6:5:2であってもよい。
【0046】
バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリアクリレート、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)及びアルギン酸ナトリウムから選択される1種以上であってもよい。PVDFは、フッ化ビニリデンと極性基含有のオレフィン系化合物とが共重合した共重合体であってもよく、極性基は、カルボキシル基、エポキシ基、ヒドロキシ基及びスルホン酸基のうちの少なくとも1種を含み、極性基の存在により、正極材料層又は負極材料層と集電体との間の剥離強度を向上させることができる。
【0047】
上記正極集電体及び負極集電体は、独立して、金属箔材又は合金箔材から選択されてもよい。上記金属箔材は、銅、チタン、アルミニウム、白金、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、タングステン、タンタル、金又は銀箔材を含み、上記合金箔材は、ステンレス鋼、又は銅、チタン、アルミニウム、白金、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、タングステン、タンタル、金及び銀のうちの少なくとも1種の元素を含む合金を含む。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態において、上記合金箔材は、上記元素を主な成分とするものである。上記金属箔材は、ドーピング元素をさらに含んでもよく、上記ドーピング元素は、白金、ルテニウム、鉄、コバルト、金、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、パラジウム、ロジウム、銀、タングステンのうちの1種以上を含むが、これらに限定されない。上記正極集電体及び負極集電体は、電極材料層と有効に接触するために、二次構造を形成するようにエッチング処理又は粗化処理することができる。一般的には、正極集電体として、通常、アルミニウム箔を用い、負極集電体として、通常、銅箔を用いる。
【0049】
本開示の実施例に係る動力車両は、上記リチウムイオン電池を含む。上記リチウムイオン電池を用いるため、該動力車両は、充電ポストで充電する時に速く満充電になり、起動時に高い起動速度に迅速に達することができ、該電池は、航続能力が高く、安全性が高い。
【0050】
以下、複数の具体的な実施例を参照して本開示の実施例をさらに説明する。
【0051】
本開示の実施例が用いるLMFP材料は、LiMn0.8Fe0.2PO4であり、粒径D50が10~15μmであり、初回充電比容量M1が160mAh/gであり、初回効率η1が96%であり、用いるLFP材料は、粒径D50が0.8~1.2μmであり、初回充電比容量M2が162mAh/gであり、初回効率η2が99%である。三元系材料は、高ニッケル三元系類単結晶材料であり、一般式がLiNi0.83Co0.12Mn0.05であり、粒径D50が4~5μmであり、初回充電比容量M3が238mAh/gであり、初回効率η3が86%であり、残留アルカリ含有量aが700ppmである。黒鉛は、初回放電比容量M4が355mAh/gであり、初回効率η4が95%である。組立対象の電池の注液係数bは、3.1g/Ahであり、電池の組立後の電解液中の残留水含有量cの理論値は、200ppmに設計される。
【0052】
正極活物質の調製:
LMFP材料、LFP材料及び三元系材料をそれぞれ表1に示す混合割合A1、A2、A3で混合して、各実施例の正極活物質を得て、表1に示すように、正極活物質の正極板における塗布量Xと黒鉛の負極板における塗布量Yとの比を制御し、上記式に基づいて、上記パラメータγ、α、βを決定し、関連する実験パラメータを表1にまとめる。
【0053】
また、本開示の技術手段の有益な効果を際立たせるために、以下の表1に示す比較例1~4をさらに提供する。
(表1) 各実施例及び比較例の一部のパラメータ
【表1】
【0054】
正極板の製造:有機溶媒NMPとバインダーPVDFとを撹拌機に添加し、1h撹拌した後、導電剤(具体的には、質量比が6:5:2のカーボンチューブ、カーボンブラック及びグラフェンの混合物)を添加し、30min撹拌してから、各実施例又は比較例の正極活物質をそれぞれ添加し、3h撹拌し、篩にかけて、各実施例及び比較例の正極スラリーを得る。各正極スラリーにおいて、正極活物質と、導電剤と、バインダーPVDFと、有機溶媒NMPとの混合質量比は、100:2:2:30である。
【0055】
各実施例及び比較例の正極スラリーをアルミニウム箔の両側の表面にそれぞれ塗布し、高温焼成によりNMPを除去した後、アルミニウム箔に正極材料層を形成してから、ロールプレスし、スリットして、両面の面密度が4.0g/dm2の両面正極板を得る。両面極板の面密度及び厚さに基づいて、極板の圧密密度を計算し、結果を表2にまとめる。
【0056】
類似する方式で、各実施例及び比較例の正極スラリーをアルミニウム箔の一側の表面にそれぞれ塗布し、高温焼成によりNMPを除去した後、アルミニウム箔に正極材料層を形成してから、ロールプレスし、スリットして、片面の面密度が2.0g/dm2の片面正極板を得る。
【0057】
負極板の製造:黒鉛と、導電カーボンブラックSupper P、バインダーSBR、バインダーCMC及び水とを100:1.0:2.5:1.1:105の質量比で混合して、負極スラリーを得て、負極スラリーを銅箔の両側の表面に塗布し、高温焼成により水を除去した後に銅箔に負極材料層を形成してから、ロールプレスし、スリットして、面密度が2.1g/dm2、圧密密度が1.60g/cm3である両面負極板を得る。
【0058】
電池の組立:各実施例及び比較例の両面正極板及び上記面密度が2.1g/dm2の両面負極板を準備し、セパレータとしてPPフィルムを用いて組み立て、053450フルセルを得る。
【0059】
各実施例及び比較例の片面正極板を準備し、金属リチウム板を負極とし、セパレータとしてCelgard 2300微多孔膜を用い、電解液として1.0mol/LのLiPF6のエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1~5(体積比)の溶液を用いて、グローブボックスで組み立てCR2025ボタン型電池を得る。
【0060】
本開示の有益な効果を強く支持するために、各実施例及び比較例のボタン型電池の正極材料の熱暴走のトリガ温度を測定し、各実施例及び比較例のフルセルの、45℃で2000回サイクルした後の容量維持率及び負極に溶出したFe、Mnの含有量を測定し、結果を表2にまとめる。
【0061】
正極材料の熱暴走のトリガ温度の測定方法は、以下のとおりである。各実施例及び比較例のボタン型電池を準備し、まず各ボタン型電池を満充電し(具体的には、まずカットオフ電圧が4.2Vになるまで0.1Cの定電流で充電し、次に4.2Vの定電圧で充電し、カットオフ電流が0.05Cである)、正極板をリチウム完全脱離状態にし、その後、ボタン型電池を分解し、正極板を取り出し、正極板の正極材料と電解液を一定の質量比で混合してから高温坩堝に入れ、5℃/minの昇温速度で昇温させ、示差走査熱量計(DSC)でそのサーモグラムを測定して、正極材料の熱暴走のトリガ温度を観察する。
【0062】
45℃で2000回サイクルした後の容量維持率の測定方法は、以下のとおりである。45℃で、各実施例及び比較例のフルセルを、電圧が4.1Vになるまで1Cの定電流で充電し、次に4.1Vの定電圧で充電し、カットオフ電流が0.05Cであり、その後、電圧が2.5Vになるまで1Cの定電流で放電し、このようにして、充放電を2000サイクル行った後、電池の2000回目の放電容量と1回目の放電容量との比を計算し、この比を電池の2000回サイクルした後の容量維持率とする。
【0063】
異なるSOCでの充放電電力特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0064】
1、各実施例及び比較例のフルセルを4.2Vまで0.2Cの定電流で充電し、5min放置し、2.5Vまで0.2Cの定電流で放電し、5min放置し、2回サイクルし、2回目の放電容量をC0として記録し、この容量でSOCを調整する。
【0065】
2、各フルセルを4.2Vまで0.2Cの定電流で充電し、30min放置し、指定されたSOC(具体的には、フルセルを4.2Vまで0.2Cの定電流で充電する時のSOCの20%である)まで0.2Cの定電流で放電し、その後、異なる放電電流で放電し、
1)、0.5Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で75s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
2)、1Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で150s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
3)、2Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で300s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
4)、3Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で450s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
5)、5Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で750s充電して、5min放置して、SOCを20%に調整し、
6)、7Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で1050s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
7)、10Cの定電流で30s放電し、5min放置し、放電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で1500s充電し、5min放置して、SOCを20%に調整し、
以上の測定された7組のデータに基づいて、放電カットオフ電圧と放電電流との関係式をあてはめ、さらに、本発明者らにより設計された電池の放電カットオフ電圧V0(具体的には、2.5V)に基づいて、一定の放電時間にわたって設定されたカットオフ電圧V0まで放電するのに必要な電流I0を算出し、放電ピーク電力P0=V0*I0を得る。
【0066】
3、室温下で、各フルセルを2.5Vまで0.2Cの定電流で放電し、30min放置し、指定されたSOC(具体的には、フルセルが2.5Vまで0.2Cの定電流で放電する時のSOCの80%である)まで0.2Cの定電流で充電し、その後、異なる充電電流で充電し、
1)、0.5Cの定電流で30s充電し、5min放置し、充電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で75s放電し、5min放置して、SOCを80%に調整し、
2)、1Cの定電流で30s充電し、5min放置し、充電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で150s放電し、5min放置して、SOCを80%に調整し、
3)、2Cの定電流で30s充電し、5min放置し、充電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で300s放電し、5min放置して、SOCを80%に調整し、
4)、3Cの定電流で30s充電し、5min放置し、充電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で450s放電し、5min放置して、SOCを80%に調整し、
5)、5Cの定電流で30s充電し、5min放置し、充電カットオフ電圧を記録してから、0.2Cの定電流で750s放電し、5min放置して、SOCを80%に調整し、
以上の測定された5組のデータに基づいて、充電カットオフ電圧と充電電流との関係式をあてはめ、さらに、本発明者らにより設計された電池の充電カットオフ電圧V0’(具体的には、4.2V)に基づいて、一定の充電時間にわたって設定されたカットオフ電圧V0’まで充電するのに必要な電流I0’を算出し、充電ピーク電力P0’=V0’*I0’を得る。
【0067】
なお、上記で言及したLMFP材料のM1、η1の測定方法は、以下のとおりである。上記方式で片面の面密度が2.0g/dm2のLMFP正極板(正極活物質は、LMFPのみを含む)を製造し、該正極板の圧密密度は、2.5g/cm3程度である。該LMFP正極板、金属リチウム板、セパレータ及び一定の質量の電解液をグローブボックスで組み立てCR2025のボタン型電池を得る。ボタン型電池を約4h放置して、極板を電解液に十分に浸潤させる。ボタン型電池を、電圧が4.3Vになるまで0.1Cの定電流で充電してから、カットオフ電流が0.01Cになるまで4.3Vの定電圧で充電し、その後、電圧が2.0Vになるまで0.1Cの定電流で放電する。初回サイクルの放電容量と充電容量との比を初回効率η1とし、初回サイクルの充電容量と極板のLMFP活物質の質量との比を該LMFP材料の初回充電比容量M1とする。
【0068】
上記LFP材料のM2、η2の測定方法は、以下のとおりである。上記方式で片面の面密度が2.0g/dm2のLFP正極板(正極活物質は、LFPのみを含む)を製造し、該正極板の圧密密度は、2.6g/cm3程度である。該LFP正極板、金属リチウム板、セパレータ及び一定の質量の電解液をグローブボックスで組み立てCR2025のボタン型電池を得る。ボタン型電池を約4h放置し、極板を電解液に十分に浸潤させる。ボタン型電池を、電圧が3.8Vになるまで0.1Cの定電流で充電してから、カットオフ電流が0.01Cになるまで3.8Vの定電圧で充電し、その後、電圧が2.0Vになるまで0.1Cの定電流で放電する。初回サイクルの放電容量と充電容量との比を初回効率η2とし、初回サイクルの充電容量と極板のLFP活物質の質量との比を該LFP材料の初回充電比容量M2とする。
【0069】
上記三元系材料のM3、η3の測定方法は、以下のとおりである。上記方式で片面の面密度が2.0g/dm2の三元系正極板を製造し、該正極板の圧密密度は、3.5g/cm3程度であり、該正極板の正極活物質は、三元系材料LiNi0.83Co0.12Mn0.05のみを含む。該三元系正極板、リチウム板、セパレータ及び一定の質量の電解液をグローブボックスで組み立てCR2025のボタン型電池を得る。ボタン型電池を約4h放置し、極板を電解液に十分に浸潤させる。ボタン型電池を、4.3Vまで0.1Cの定電流で充電し、カットオフ電流が0.01Cになるまで4.3Vの定電圧で充電し、3.0Vまで0.1Cの定電流で放電する。初回サイクルの放電容量と充電容量との比を初回効率η3とし、初回サイクルの充電容量と極板の活物質の質量との比を高ニッケル三元系材料の初回充電比容量M3とする。
【0070】
上記黒鉛のM
4、η
4の測定方法は、以下のとおりである。上記方式で片面の面密度が1.05g/dm
2の黒鉛極板を製造し、該黒鉛極板の圧密密度は、1.60g/cm
3程度である。黒鉛極板、リチウム板、セパレータ及び一定の質量の電解液をグローブボックスで組み立てCR2025のボタン型電池を得る。ボタン型電池を約4h放置し、極板を電解液に十分に浸潤させる。ボタン型電池に対して、(1)0.005Vまで0.1Cの定電流で放電し、(2)0.001Vまで0.09C、0.08C…0.02Cの定電流で放電し、(3)15min放置し、(4)1.5Vまで0.1Cの定電流で充電し、(5)15min放置する。初回サイクルの充電容量と放電容量との比を初回効率η
4とし、初回サイクルの放電容量と極板の活物質の質量との比を黒鉛材料の初回放電比容量M
4とする。
(表2) 各実施例及び比較例の正極板と電池性能の測定結果
【表2】
【0071】
表1及び表2から分かるように、比較例1において、LFPと三元系材料の両方が混合され、LMFPが関与せず、高SOC状態での充電電力が低く、300W/gのみであり、また、三元系材料の添加割合が多すぎて、65%に達し、電池の安全性能が大幅に低下し、その熱暴走の開始温度が250℃に低下し、また、電池全体のサイクル性能が低下する。
【0072】
比較例2において、LMFPと三元系材料の両方が混合され、LFP材料が関与せず、低SOC状態での放電電力が低く、300W/gのみであり、また、三元系材料の添加割合が多すぎて、同様に比較例1における問題が存在し、LMFPは、LFP材料に比べてサイクル性能が悪く、比較例2のフルセルの45℃での2000回サイクルした後の容量維持率は、比較例1のものよりも低く、70%のみである。
【0073】
比較例3において、LMFPとLFPの2種の材料が混合され、三元系材料が関与しない。比較例3の電池は、電解液中のHFの存在を抑制してMn及びFeの溶出をさらに抑制するための三元系材料がないため、サイクル性能が最も悪く、45℃で2000回サイクルした後の容量維持率が60%まで低下する。
【0074】
比較例4において、3種の正極活物質が混合されるが、それらの混合割合は、本開示の要件の1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たさない。比較例4の電池は、高SOC状態での充電電力及び低SOC状態での放電電力がいずれも低く、また、三元系材料の添加割合が多すぎて、安全性能とサイクル性能が異なる程度低下する。
【0075】
表2から分かるように、LMFP材料、LFP材料及び三元系材料を混合して形成された正極活物質において、三者の混合割合により上記αを1.03~1.15、βを0.55~1.5にする場合、電池の低SOCでの放電電力及び高SOCでの充電電力がいずれも大きく、低SOCでの放電電力が1400W/g以上であり、高SOCでの充電電力が600W/g以上であり、正極板の圧密密度が高く、正極材料の構造安定性が高く、電池のサイクル性能が高く、安全性が高い。また、γが0.45~1.55の範囲にある場合、電池は、総合性能により優れている。
【0076】
上記実施例は、単に本開示のいくつかの実施形態を示し、その説明が具体的で詳細であるが、本開示の特許範囲を限定するものと理解すべきではない。なお、当業者にとっては、本開示の構想から逸脱しない前提で、さらにいくつかの変形及び改良を行うことができ、これらは、いずれも本開示の保護範囲に属する。したがって、本開示の特許の保護範囲は、添付された特許請求の範囲を基準とすべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板、電解液、及び前記正極板と前記負極板との間にあるセパレータを含み、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体に設置された正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に設置された負極材料層とを含み、前記負極材料層の負極活物質は、黒鉛であり、前記正極材料層は、リン酸マンガン鉄リチウム材料、リン酸鉄リチウム材料及び三元系材料で構成された正極活物質を含み、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料、前記リン酸鉄リチウム材料及び前記三元系材料の前記正極活物質における質量割合は、それぞれA
1、A
2及びA
3であり、かつA
1+A
2+A
3=1であり、
α=(M
4×η
4×Y)/[(M
1×η
1×A
1+M
2×η
2×A
2+M
3×η
3×A
3)×X]、
β=[M
1×(1-η
1)×A
1+M
2×(1-η
2)×A
2+M
3×(1-η
3)×A
3]×X/[M
4×(1-η
4)×Y]と定義し、
1.03≦α≦1.15、0.55≦β≦1.5を満たし、
式中、M
1、η
1は、それぞれ前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
2、η
2は、それぞれ前記リン酸鉄リチウム材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
3、η
3は、それぞれ、前記三元系材料の初回充電比容量と初回効率であり、M
4、η
4は、それぞれ前記黒鉛の初回放電比容量と初回効率であり、Xは、前記正極活物質の前記正極板における塗布量であり、Yは、前記黒鉛の前記負極板における塗布量であり、前記M
1、M
2、M
3、M
4は、単位がいずれもmAh/gであり、前記X、Yは、単位がgである、リチウムイオン電池。
【請求項2】
さらに、γ=(M
1×η
1×A
1+M
2×η
2×A
2+M
3×η
3×A
3)×b×c/(a×A
3×1000)と定義し、0.45≦γ≦1.55を満たし、
式中、aは、前記三元系材料の残留アルカリ含有量であり、bは、前記リチウムイオン電池の注液係数であり、単位がg/Ahであり、cは、組立後の前記リチウムイオン電池の電解液中の残留水含有量の理論値であり、前記a及びcは、ppmで計算される、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記A
2は、A
1の2~5倍である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記A
1は、10%~25%の範囲の値である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記XとYとの比は、1.71~1.89の範囲の値である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記bは、2.9~3.8の間の定数であり、前記cは、200ppm~400ppmの範囲の値であり、前記aは、500ppm~1500ppmの範囲の値である、請求項
2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記三元系材料の一般式は、LiNi
xCo
yM
zであり、式中、前記Mは、IIIB族~VA族の少なくとも1種の金属元素であり、0.33≦x≦0.98、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記リン酸マンガン鉄リチウム材料において、マンガンのモル量は、マンガンと鉄のモル量の和の0.75~0.9を占める、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記リン酸鉄リチウム材料の粒径D50は、0.8μm~1.3μmであり、前記リン酸マンガン鉄リチウム材料の粒径D50は、10μm~15μmであり、前記三元系材料の粒径D50は、4μm~6μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
各実施例及び比較例の正極スラリーをアルミニウム箔の両側の表面にそれぞれ塗布し、高温焼成によりNMPを除去した後、アルミニウム箔に正極材料層を形成してから、ロールプレスし、スリットして、両面の面密度が4.0g/dm2の両面正極板を得る。両面正極板の面密度及び厚さに基づいて、極板の圧密密度を計算し、結果を表2にまとめる。
【国際調査報告】