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▶ ショット ファーマ アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】医薬品用の容器
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/30 20060101AFI20240305BHJP
   C03C 17/28 20060101ALI20240305BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240305BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20240305BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20240305BHJP
   A61J 1/06 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C03C17/30
C03C17/28 A
C03C3/091
C03C3/093
A61J1/05 311
A61J1/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558684
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022058033
(87)【国際公開番号】W WO2022200623
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21164784.7
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21164787.0
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21164788.8
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21164881.1
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21164896.9
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323000376
【氏名又は名称】ショット ファーマ アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Pharma AG&Co.KGaA
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,55122 Mainz,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ビッカー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ブリューニング
(72)【発明者】
【氏名】アンネ シュペンデ
(72)【発明者】
【氏名】フロア トレド ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエラ クラウゼ
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ロートハール
(72)【発明者】
【氏名】タンヤ ヴォイヴォード
(72)【発明者】
【氏名】エヴェリネ ルディギア-フォイクト
(72)【発明者】
【氏名】ヨヴァナ ドルデヴィッツ-ライス
(72)【発明者】
【氏名】ジルビア ビーデンベンダー
(72)【発明者】
【氏名】ハートムート バウフ
【テーマコード(参考)】
4C047
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4C047AA02
4C047AA05
4C047AA27
4C047BB01
4C047BB11
4C047BB35
4C047CC04
4G059AA04
4G059AB11
4G059AC30
4G059FA22
4G059FA28
4G059FA29
4G059FB03
4G062AA01
4G062BB01
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB04
4G062DB05
4G062DC03
4G062DC04
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4G062DE01
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4G062EB03
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4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM01
4G062NN34
(57)【要約】
本発明は、医薬品用の容器に関する。この容器は、例えばmRNAなどの医薬品の繊細な成分の保管および輸送に特に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、前記内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、
前記容器が、コーティングされた前記内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、0.67未満の脂質因子1の相対脂質ナノ粒子(LNP)インキュベートMCRスコア比を有する、医薬品用の容器。
【請求項2】
前記容器が、7×1013未満、5×1013未満、または2×1013未満の脂質因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する、請求項1記載の医薬品用の容器。
【請求項3】
前記容器が、
少なくとも1×1012の有機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコア、および/または
少なくとも2の有機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比
を有する、請求項1または2記載の医薬品用の容器。
【請求項4】
前記医薬品用の容器が、
少なくとも1×1013の無機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコア、および/または
最大5の無機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比
を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項5】
前記容器が、
少なくとも1×1012の有機因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコア、および/または
少なくとも0.2の有機因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比
を有する、請求項1または2記載の医薬品用の容器。
【請求項6】
前記ToF-SIMSデータが、特定のコーティングまたは容器で測定されたToF-SIMS結果がn次元組成空間における特定の位置に帰属可能であるように、イオン固有の質量およびそれらの対応する強度からなるn個のデータセットを含み、
脂質因子1、有機ケイ素因子1、無機ケイ素因子1、および有機因子1から選択される1つ以上の因子が、因子に固有のMCRローディングを有し、前記因子に固有のMCRローディングは、前記1つ以上の因子に帰属可能である前記n次元組成空間における概念的な成分を示し、前記因子に固有のMCRローディングは、前記因子の定義に寄与するイオンを列挙することによって前記1つ以上の因子を特徴付け、
絶対LNPインキュベートMCRスコアまたは相対LNPインキュベートMCRスコア比のそれぞれが、前記コーティングまたは容器中の対応する因子の存在量を表す、
請求項1から5までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項7】
・脂質因子1が、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:脂肪酸イオン;[C2n-1[nは、10、12、14、16、または18である];[C2n-3[nは、10、12、14、16、または18である];[C2n-5[nは16または18である];ホスファチジルコリンイオン;[(CH)P][n=0、1、2、または3である]のうちの1種以上を含む、ならびに/または
・有機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:シラン種;ケイ素-炭素種;式[OSiR に基づくポリシロキサン種[式中、RおよびRは、独立して、メチル、エチル、プロピルから選択され、nは2~10の任意の整数である]のうちの1種以上を含む、ならびに/または
・無機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:ケイ素種;ケイ素酸化物種;アルミニウム種、アルミニウム酸化物種および/またはホウ素種および/もしくはホウ素酸化物種;ハロゲン種;アルカリ酸化物種;アルカリ土類酸化物種のうちの1種以上を含む、
請求項1から6までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項8】
・脂質因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[C1017、[C1019、[C1221、[C1629、[C1631、[C1632、[C1831、[C1833、[C1835、[PO、[PH、[CHP]、[CP]のうちの1種以上を含む、および/または
・有機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[SiC]、[SiCHO]、[SiCH、[SiCO]、[SiCHO、[SiCO]、[Si15、[Si15のうちの1種以上を含む、および/または
・無機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:OH、Al、Si、P、Cl、NaO、AlO、BO 、SiHO、AlO 、SiO 、SiH 、Si 、SiHO のうちの1種以上を含む、
請求項1から7までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項9】
・脂質因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[C1019、[C1221、[C1629、[C1631、および[C1835を含む、ならびに/または
・有機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[SiCHO]、[SiCH、[SiCO]、[SiCO]、および[Si15を含む、ならびに/または
・無機ケイ素因子1が、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:OH、Si、SiO 、SiH 、およびSi を含む、
請求項1から8までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項10】
前記MCRスコアが、合計3、4、または5個のMCR因子を有するMCRを使用して計算される、請求項1から9までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項11】
内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、前記内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、前記容器が、コーティングされた前記内面に以下の条件:
・光源D65および2°の観察者を使用してASTM D1003-13規格に従って測定される50%未満、もしくは30%未満のLNPインキュベートヘイズ値であって、LNPインキュベートが、-80℃まで凍結し、-80℃で4週間インキュベートすることを含む、LNPインキュベートヘイズ値、ならびに/または
・DIN 55660-2-2011-12に従って測定される少なくとも105°の水接触角
のうちの1つ以上を満たす、医薬品用の容器。
【請求項12】
前記容器がガラス製容器またはポリマー製容器である、請求項1から11までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項13】
前記容器が、以下の特性:
・0.50~10.0mm、好ましくは1.00~4.00mmの肉厚;および/または
・0.1ml~1000ml、好ましくは0.5ml~500ml、より好ましくは1ml~250ml、より好ましくは2ml~30ml、より好ましくは2ml~15ml、より好ましくは約1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10ml、11ml、12ml、13ml、14ml、もしくは15ml;より好ましくは5~15mlの前記容器の容積容量
のうちの1つ以上を有する、請求項1から12までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項14】
前記容器がシリンジ、カートリッジ、アンプル、またはガラス製バイアルである、請求項1から13までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項15】
前記容器が、
・50~90重量%のSiOと3~25重量%のBとを含むガラス組成物、または
・アルミノケイ酸塩を含み、好ましくは55~75重量%のSiOおよび11.0~25.0重量%のAlを含むガラス組成物
を含む、請求項1から14までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項16】
前記容器が、70~81重量%のSiO、1~10重量%のAl、6~14重量%のB、3~10重量%のNaO、0~3重量%のKO、0~1重量%のLiO、0~3重量%のMgO、0~3重量%のCaO、0~5重量%のBaOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項17】
前記容器が、72~82重量%のSiO、5~8重量%のAl、3~6重量%のB、2~6重量%のNaO、3~9重量%のKO、0~1重量%のLiO、0~1重量%のMgO、0~1重量%のCaOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項18】
前記容器が、60~78重量%のSiO、7~15重量%のB、0~4重量%のNaO、3~12重量%のKO、0~2重量%のLiO、0~2重量%のMgO、0~2重量%のCaO、0~3重量%のBaO、4~9重量%のZrOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項19】
前記容器が、50~70重量%のSiO、10~26重量%のAl、1~14重量%のB、0~15重量%のMgO、2~12重量%のCaO、0~10重量%のBaO、0~2重量%のSrO、0~8重量%のZnO、0~2重量%のZrOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項20】
前記容器が、55~70重量%のSiO、11~25重量%のAl、0~10重量%のMgO、1~20重量%のCaO、0~10重量%のBaO、0~8.5重量%のSrO、0~5重量%のZnO、0~5重量%のZrO、0~5重量%のTiOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項21】
前記容器が、65~72重量%のSiO、11~17重量%のAl、0.1~8重量%のNaO、0~8重量%のKO、3~8重量%のMgO、4~12重量%のCaO、0~10重量%のZnOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項22】
前記容器が、64~78重量%のSiO、4~14重量%のAl、0~4重量%のB、6~14重量%のNaO、0~3重量%のKO、0~10重量%のMgO、0~15重量%のCaO、0~2重量%のZrO、0~2重量%のTiOを含むガラス組成物を含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項23】
前記コーティングが元素種Si、C、O、およびHを含む、請求項1から22までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項24】
前記コーティングが、少なくとも55%の炭素含有量を有する少なくとも1つの層を含む、請求項1から23までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項25】
前記コーティングが少なくとも1つの層を含み、
前記コーティング、または前記コーティングの少なくとも1つの層が、
[Si15 20/[Si15 80≧x1[Si2C5H15O2-]
のパラメータを満たし、
式中の[Si15 20は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の20%でTOF-SIMSによって測定される[Si15 ]イオンのカウント数であり、
式中の[Si15 80は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の80%でTOF-SIMSによって測定される[Si15 80イオンのカウント数であり、
x1[Si2C5H15O2-]は、1.2、1.5、2、3、5、8、または12である、
請求項1から24までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項26】
前記コーティングが少なくとも1つの層を含み、前記コーティングの前記少なくとも1つの層が、
[Si 20/[Si 80≧x1[Si2C3H9O3-]
[式中、x1[Si2C3H9O3-]は、1.1、好ましくは1.5、より好ましくは2、より好ましくは3である]、および/または
[Si 20/[Si 80≦x2[Si2C3H9O3-]
[式中、x2[Si2C3H9O3-]は、100、好ましくは75、より好ましくは50、より好ましくは40、より好ましくは30、より好ましくは20、より好ましくは10、より好ましくは8、より好ましくは6、より好ましくは5、より好ましくは4である]
のパラメータを満たし、
式中の[Si 20は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の20%でTOF-SIMSによって測定される[Si ]イオンのカウント数であり、
式中の[Si 80は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の80%でTOF-SIMSによって測定される[Si 80イオンのカウント数である、
請求項1から25までのいずれか1項記載の医薬品用の容器。
【請求項27】
充填された医薬品用の容器であって、
・請求項1から26までのいずれか1項記載の医薬品用の容器と、
・脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物と
を含む、充填された医薬品用の容器。
【請求項28】
前記脂質ベースのキャリアシステムまたは脂質ナノ粒子が、以下の化合物の分類:
a.)リン脂質、および/または
b.)C24位が直鎖もしくは分岐のアルキル鎖で官能化されたコレステロールもしくはステロイドであって、前記直鎖もしくは分岐のアルキル鎖が1~50個のC原子を含み、前記C24位がIUPAC命名法に従って定義される、コレステロールもしくはステロイド、および/または
c.)PEG修飾脂質、および/または
d.)カチオン性脂質
のうちの1つ以上を含む、請求項27記載の充填された医薬品用の容器。
【請求項29】
前記医薬組成物が液体または凍結液体であり、
a.)1.05mg/mL~1.95mg/mLのリン脂質、および/または
b.)2.3mg/mL~4.3mg/mLのコレステロール、および/または
c.)0.56mg/mL~1.05mg/mLのPEG修飾脂質、および/または
d.)0.50mg/mL~9.40mg/mLのカチオン性脂質
を含む、請求項27記載の充填された医薬品用の容器。
【請求項30】
前記脂質ナノ粒子が、Malvernゼータサイザーを使用して動的光散乱(DLS)で測定される以下の特性:
i)多分散性指数(PDI)値が<0.5、または≦0.1である、および
ii)z平均径が50nm~200nm、または50nm~100nmである
のうちの1つ以上によって特徴付けられる、請求項27から29までのいずれか1項記載の充填された医薬品用の容器。
【請求項31】
前記医薬組成物が、RNA、例えばmRNAまたはsiRNAまたはsaRNAを含む、請求項27から30までのいずれか1項記載の充填された医薬品用の容器。
【請求項32】
脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物の保管および/または輸送のための、請求項1から26までのいずれか1項記載の医薬品用の容器の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品用の容器に関する。この容器は、例えばmRNA-LNPベースの医薬品のような繊細な成分を含む医薬組成物の保管および輸送に特に適している。
【0002】
背景技術
脂質ナノ粒子(LNP)などの脂質ベースのキャリアシステムは、例えばmRNAなどの薬学的に活性かつ繊細な成分に使用される最新の薬物送達担体である。
【0003】
SarS-CoV-2に対するmRNAワクチンに使用されるLNPは、例えばリン脂質、コレステロール、PEG修飾脂質、およびカチオン性脂質などの化学的に異なるタイプの脂質に基づいている。カチオン性脂質は、その反対の分子電荷のためmRNAと結合する。mRNA分子は化学的に繊細であり、薬物を保存するために、例えば場合によっては-20℃を大幅に下回る温度など、保管条件に高い要求が求められる。
【0004】
Buschmannら(Vaccines 9, 2021, 65)は、当時行われていたSARS-CoV-2ワクチンの臨床試験で使用された脂質ナノ粒子に焦点を当てたmRNA送達システムの概要を記載している。
【0005】
したがって、mRNAワクチンの保管および輸送のための容器には高い要求が課される。RNAベースの活性薬剤は非常に強力な薬物であり、非常に少量の投与量しか必要としない。現在、これらの医薬品は複数回投与用の容器で入手可能である。容器から取り出される各用量に同じ量の活性薬剤が含まれていること、および長期間保管後であっても活性薬剤が元の形態で容器内に存在することが重要である。
【0006】
したがって、脂質ベースのキャリアシステムの付着および起こり得る不活性化を低減および/または回避する、薬学的に活性かつ繊細な成分のための容器を提供することが依然として求められている。
【0007】
発明の概要
第1の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、0.67未満、0.5未満、0.3未満、または0.13未満の脂質因子1の相対脂質ナノ粒子(LNP)インキュベートMCRスコア比を有する、医薬品用の容器に関する。
【0008】
第2の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、7×1013未満、5×1013未満、または2×1013未満の脂質因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する、医薬品用の容器に関する。
【0009】
第3の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、少なくとも1×1012の有機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する、医薬品用の容器に関する。
【0010】
第4の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、少なくとも2、または少なくとも5の有機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比を有する、医薬品用の容器に関する。
【0011】
第5の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、光源D65および2°の観察者を使用してASTM D1003-13規格に従って測定される50%未満、または30%未満のLNPインキュベートヘイズ値を有し、LNPインキュベートヘイズ値が、-80℃まで凍結し、-80℃で4週間インキュベートした後に得られる、医薬品用の容器に関する。
【0012】
本開示による容器は、医薬組成物に適しており、先行技術で知られている容器に関連する問題を克服している。この容器によって、脂質ナノ粒子などの脂質ベースのキャリアシステムを含む組成物、具体的にはワクチンを含むmRNA、またはsiRNA、またはsaRNA含有製剤などの医薬組成物の保管および輸送が可能となる。この容器は、複数回用量の均一性の問題、および長期間保管した後であっても医薬組成物を元の形態で保存するという問題を克服している。
【0013】
多種多様なコーティングされた容器がすでに知られているが、脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む組成物の保管および輸送に適した医薬品用の容器を提供するという課題が残されたままである。本開示による主題は、改善された付着阻害特性を有するコーティングを容器に付与することによって、この要求に応えている。この文脈において、「改善された付着」とは、付着の低下を意味する。長期間保管した後であっても、脂質ベースのキャリアシステムの成分の付着は非常に少ない。したがって、用量均一性が優れており、医薬組成物は損なわれず変化しないままである。
【0014】
容器の改善された付着特性は、本明細書の以降で説明されるように、MCRを使用して得られる因子およびそのスコアによって具体化され、表現される。
【0015】
第6の態様では、本発明は、本開示の医薬品用の容器と、脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物とを含む、充填された医薬品用の容器に関する。
【0016】
第7の態様では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、特にLNPインキュベーションなしで、
少なくとも3×1012の有機ケイ素因子1の絶対MCRスコア、および/もしくは
少なくとも2の有機ケイ素因子1の相対MCRスコア比、または
最大3×1013の無機ケイ素因子1の絶対MCRスコア、および/もしくは
最大5の無機ケイ素因子1の相対MCRスコア比
を有する、医薬品用の容器に関する。
【0017】
充填された医薬品用の容器は、容器の内面への医薬組成物の成分の付着が少ないため、有利なことに、優れた用量均一性を可能にし、また、脂質ベースのキャリアシステムに対して不活性であることができる。有利なことには、医薬組成物が脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む場合、容器の内面への脂質および/または脂質ナノ粒子の付着を少なくすることができる。
【0018】
第8の態様では、本発明は、脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物の保管および/または輸送のための医薬品用の容器の使用に関する。
【0019】
詳細な説明
本発明による医薬品用の容器は、シリンジ、カートリッジ、アンプル、またはバイアルであってよい。容器は、ホウケイ酸ガラス製容器、アルミノケイ酸ガラス製容器、またはホウアルミノケイ酸ガラス製容器などのガラス製容器であってよい。代替的には、医薬品用の容器は、シクロオレフィン系コポリマー(COC)またはシクロオレフィン系ポリマー(COP)などの適切なポリマーから製造することができる。医薬品用の容器の内面は、脂質ナノ粒子(LNP)などの脂質ベースのキャリアシステムの付着に関して望ましい表面特性を付与するコーティングでコーティングされている。本開示の因子およびスコアを確立する目的で、コーティングされた容器は、以下でさらに詳しく概説されるように、ネガティブモードToF-SIMSデータ取得およびそれに続くMCR(多変量スペクトル分解)分析を受ける。本開示における「LNPインキュベート」への言及は、測定前に容器またはコーティングがLNPと共にインキュベートされたことを意味する。スコアが「相対」スコア比として示されている場合、それぞれの値は、コーティングされた容器のスコア値を、同じMCR因子に基づくコーティングされていない参照容器のスコア値で割った相対比であると理解されるべきである。例えば、コーティングされた容器とコーティングされていない容器(コーティングされていない容器は参照容器である)との間の相対LNPインキュベートMCRスコア比を測定するために、両方の容器は、コーティングされた容器に適用されたものと同じ特定のLNP組成物と共にインキュベートされる。コーティングされた容器と参照容器の両方がToF-SIMSとMCRにより分析され、例えば脂質因子1などの絶対MCRスコアが得られる。相対LNPインキュベートMCRスコア比、例えば脂質因子1のスコア比は、コーティングされた容器の得られるMCRスコアを参照容器のMCRスコアで割ることによって得られる。例えば、脂質因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比は、0.5未満であってよい。前述したように、参照容器はコーティングされていない容器であってよい。参照容器は、コーティングされた容器と同じ寸法、材料、およびバルク組成のものであってよい(当然コーティングを除く)。
【0020】
有利なことに、コーティングされた容器には脂質が付着しにくい。これは、コーティングされた容器を参照容器と比較した場合に、脂質因子1の低い相対LNPインキュベートMCRスコア比で表される。
【0021】
類似の実施形態では、本開示は、内面と外面とを備える医薬品用の容器であって、内面の少なくとも一部がコーティングでコーティングされており、容器が、コーティングされた内面に、ネガティブモードのToF-SIMSデータに基づいて、0.5未満の脂質因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比を有し、コーティングされた容器が参照容器と比較され、脂質因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比が、コーティングされた容器の脂質因子1の絶対MCRスコアをコーティングされていない容器の脂質因子1の絶対MCRスコアで割ることによって得られる、医薬品用の容器を提供する。
【0022】
一実施形態では、コーティングされていないガラス製容器またはコーティングされたガラス製容器のいずれかであるガラス製容器のLNPインキュベートは、超純水(純度1相当、DIN ISO3696、25℃で≦0.1μS/cm)で容器を洗浄し、層流条件下で乾燥し、標準LNP組成物が容器に充填されることによって標準LNP組成物が含まれる容器をインキュベートし、-80℃まで凍結し、-80℃で12時間インキュベートし、その後、12時間以内に5℃まで解凍し、その後、内容物を空にしてから超純水で10回すすぎ洗いすることによって容器内面を洗浄する工程を行い、その後、層流下で乾燥することを含む。
【0023】
関連する実施形態では、コーティングされていないポリマー製容器またはコーティングされたポリマー製容器のいずれかであるポリマー製容器のLNPインキュベートは、標準LNP組成物が容器に充填されることによって標準LNP組成物が含まれる容器をインキュベートし、-80℃まで凍結し、-80℃で12時間インキュベートし、その後、12時間以内に5℃まで解凍し、その後、内容物を空にしてから超純水で10回すすぎ洗いすることによって容器内面を洗浄する工程を行い、その後、層流下で乾燥することを含む。
【0024】
一実施形態では、標準LNP組成物はComirnaty(登録商標)ワクチン製剤(ライセンス番号EU/1/20/1528)である。
【0025】
代替的な実施形態では、標準LNP組成物は、スクロース含有量が10重量%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中に、示された量で以下の脂質:7.2mg/mLの(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート)、0.83mg/mLの2[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1.5mg/mLの1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、および3.3mg/mLのコレステロール;を以下の濃度
【0026】
【表1】
で含む。
【0027】
一実施形態では、容器は、7×1013未満、5×1013未満、または2×1013未満、さらには0.5×1013未満の脂質因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する。
【0028】
一実施形態では、容器は、0.67未満、0.5未満、0.3未満、または0.13未満の脂質因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比を有する。
【0029】
一実施形態では、容器は、少なくとも1×1012、少なくとも2×1012、または少なくとも3×1012の有機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する。任意選択的には、有機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアは、最大9×1013、最大7×1013、または最大6×1013に到達し得る。
【0030】
一実施形態では、容器は、少なくとも2、少なくとも3、または少なくとも5の有機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比を有する。任意選択的には、有機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比は、最大20、最大15、または最大10であってよい。有機ケイ素因子1のMCRスコアがこの範囲にあると、脂質、特にLNPの付着が顕著な程度に減少することが見出された。
【0031】
一実施形態では、医薬品用の容器は、最大1×1013、最大5×1012、または最大3×1012の無機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する。任意選択的には、このスコアは少なくとも0.5×1012であってよい。
【0032】
一実施形態では、無機ケイ素因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比は、最大5、最大3、または最大1.5である。任意選択的には、このスコア比は少なくとも0.1、または少なくとも0.2である。
【0033】
一実施形態では、容器は、少なくとも1×1012、少なくとも2×1012、もしくは少なくとも3×1012の有機因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコア、および/または少なくとも0.2、少なくとも0.5、もしくは少なくとも1.0の有機因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比を有する。任意選択的には、有機因子1の相対LNPインキュベートMCRスコア比は、最大10、最大5、最大2.0である。
【0034】
任意選択的には、容器は、最大9×1012、最大8×1012、または最大6×1012の有機因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアを有する。
【0035】
代わりに、または加えて、容器は、対応する非LNPインキュベートスコア値を有することができる。これらの値は、LNPインキュベートなし(「非インキュベート」)で得られる。
【0036】
有機ケイ素因子1の絶対非インキュベートMCRスコアは、少なくとも3×1012、少なくとも5×1012、または少なくとも7×1012であってよい。任意選択的には、有機ケイ素因子1の絶対非インキュベートMCRスコアは、最大9×1013、最大7×1013、または最大6×1013に到達し得る。
【0037】
有機ケイ素因子1の相対非インキュベートMCRスコア比は、少なくとも3×1012、少なくとも5×1012、または少なくとも7×1012であってよい。任意選択的には、有機ケイ素因子1の絶対LNPインキュベートMCRスコアは、最大9×1013、最大7×1013、または最大6×1013に到達し得る。
【0038】
無機ケイ素因子1の絶対非インキュベートMCRスコアは、最大1×1013、最大5×1012、または最大3×1012であってよい。任意選択的には、このスコアは少なくとも0.5×1012であってよい。
【0039】
無機ケイ素因子1の相対非インキュベートMCRスコア比は、最大5、最大3、または最大1.5であってよい。任意選択的には、このスコア比は少なくとも0.1、または少なくとも0.2である。
【0040】
医薬品用の容器の一実施形態では、ToF-SIMSデータは、特定のコーティングまたは容器で測定されたToF-SIMS結果がn次元組成空間における特定の位置に帰属可能であるように、イオン固有の質量およびそれらの対応する強度からなるn個のデータセットを含み、脂質因子1、有機ケイ素因子1、無機ケイ素因子1、および有機因子1から選択される1つ以上の因子は、因子に固有のMCRローディングを有し、これは前記1つ以上の因子に帰属可能である前記n次元組成空間における概念的な成分を示し、因子に固有のMCRローディングは、前記因子の定義に寄与するイオンを列挙することによって1つ以上の因子を特徴付け、絶対LNPインキュベートMCRスコアまたは相対LNPインキュベートMCRスコア比のそれぞれは、コーティングまたは容器中の対応するMCR因子の存在量を表す。(予め)選択されたイオン種がゼロの強度であるか、または因子のローディングにおいてゼロの値を有する場合、そのイオン種はローディングおよび関連する因子に寄与しない。
【0041】
図2A図3A、および図4Aは、イオン固有の質量からなるn個のデータセットを表すToF-SIMSスペクトルの束から生成されたMCRデータを示している。図2Aおよび図3Aは、吸着された脂質含有化合物のネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた特徴的な脂質因子1のローディングおよびスコアを示している。図4Aは、ネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた特徴的な有機ケイ素因子1のローディングを示し、図4Bは、容器の内面に吸着された有機ケイ素化合物のスコアを示している。
【0042】
1つ以上の因子は、脂質因子1、有機ケイ素因子1、無機ケイ素因子1、および有機因子1から選択することができ、各因子は、前記1つ以上の因子に帰属可能である前記n次元組成空間における概念的な成分を示す因子に固有のMCRローディングを有し、因子に固有のMCRローディングは、前記因子の定義に寄与するイオンを列挙することによって各因子を特徴付ける。概念的な成分は、例えば脂質、シロキサン、およびガラスに典型的なケイ素のような種などの化合物の分類に対応する。そのため、概念的な成分はコーティング中または容器上には存在しない。
【0043】
脂質因子1は一般的には脂質の存在と相関し、例えば脂質因子1のMCRスコアが高い場合には、他の前述した因子のMCRスコアからの追加情報の評価を含めて、脂質の存在量が多いと解釈される。一実施形態では、脂質因子1は、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:
・脂肪酸イオン;
・[C2n-1[nは、10、12、14、16、または18である];
・[C2n-3[nは、10、12、14、16、または18である];
・[C2n-5[nは16または18である];
・ホスファチジルコリンイオン;
・[(CH)P][n=0、1、2、または3である]
のうちの1種以上を含む。
【0044】
有機ケイ素因子1は、一般的には有機ケイ素化合物の存在と相関し、例えば有機ケイ素因子1のMCRスコアが高い場合には、他の前述した因子のMCRスコアからの追加情報の評価を含めて、有機ケイ素化合物の存在量が多いと解釈される。一実施形態では、有機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:
・シラン種、
・ケイ素-炭素種(すなわちSi原子とC原子とを有する種)、
・式[OSiR [式中、RおよびRは、独立して、メチル、エチル、プロピルから選択され、nは2~10の任意の整数である]を有するポリシロキサン種
のうちの1種以上を含む。
【0045】
無機ケイ素因子1は、一般的には無機化合物の存在と相関し、例えば無機ケイ素因子1のMCRスコアが、他の前述した因子のMCRスコアからの追加情報の評価を含めて高いと解釈される場合には、無機化合物(例えばガラス成分または無機酸化物)の存在量が多い。一実施形態では、無機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディングの中に、以下のイオン:
・ケイ素種および/またはケイ素酸化物種;
・アルミニウム酸化物種および/またはホウ素種および/またはホウ素酸化物種;
・ハロゲン種;
・アルカリ酸化物種および/またはアルカリ土類酸化物種
のうちの1種以上を含む。
【0046】
一実施形態では、脂質因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[C1017、[C1019、[C1221、[C1629、[C1631、[C1632、[C1831、[C1833、[C1835、[PO、[PH、[CHP]、[CP]:のうちの1種以上を含む。
【0047】
一実施形態では、有機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下:[SiC]、[SiCHO]、[SiCH、[SiCO]、[SiCHO、[SiCO]、[Si15、[Si15:のイオンのうちの1種以上を含む。
【0048】
一実施形態では、無機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:OH、Al、Si、P、Cl、NaO、AlO、BO 、SiHO、AlO 、SiO 、SiH 、Si 、SiHO :のうちの1種以上を含む。
【0049】
一実施形態では、脂質因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[C1017、[C1019、[C1221、[C1629、[C1631、[C1632、[C1831、[C1833、[C1835、[PO、[PH、[CHP]、[CP]:のうちの少なくとも5種を含む。
【0050】
一実施形態では、有機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[SiC]、[SiCHO]、[SiCH、[SiCO]、[SiCHO、[SiCO]、[Si15、[Si15:のうちの少なくとも4種を含む。
【0051】
一実施形態では、無機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:OH、Al、Si、P、Cl、NaO、AlO、BO 、SiHO、AlO 、SiO 、SiH 、Si 、SiHO :のうちの少なくとも5種を含む。
【0052】
一実施形態では、脂質因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[C1019、[C1221、[C1629、[C1631、および[C1835:を含む。
【0053】
一実施形態では、有機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:[SiCHO]、[SiCH、[SiCO]、[SiCO]、および[Si15:を含む。
【0054】
一実施形態では、無機ケイ素因子1は、その因子に固有のMCRローディング中に、以下のイオン:OH、Si、SiO 、SiH 、およびSi :を含む。
【0055】
一実施形態では、MCRスコアは、合計3、4、または5個のMCR因子を有するMCRを使用して計算される。
【0056】
一実施形態では、医薬品用の容器は、内面と外面とを備えており、内面の少なくとも一部はコーティングでコーティングされており、容器は、コーティングされた内面に、以下の条件:
・光源D65および2°の観察者を使用してASTM D1003-13規格に従って測定される50%未満、もしくは30%未満のLNPインキュベートヘイズ値であって、-80℃まで凍結し、-80℃で4週間インキュベートした後に得られる、LNPインキュベートヘイズ値;ならびに/または
・DIN 55660-2-2011-12に従って測定される少なくとも105°の水接触角
のうちの1つ以上を満たす。
【0057】
一実施形態では、光源D65および2°の観察者を使用してASTM D1003-13規格に従って測定されるヘイズ値は、50%未満、40%未満、30%未満、または20%未満である。一実施形態では、光源D65および2°の観察者を使用してASTM D1003-13規格に従って測定されるヘイズ値は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、または少なくとも5%である。LNPインキュベートヘイズ値は、容器をLNP組成物と共にインキュベートした後に決定され、LNPインキュベートヘイズ値は、-80℃に凍結し、-80℃で4週間インキュベートした後に得られる。それ以外の処理は、LNPインキュベートMCRスコアについて上述した通りである。
【0058】
一実施形態では、水接触角は、DIN 55660-2-2011-12に従って測定されたときに少なくとも105°、または少なくとも110°である。一実施形態では、水接触角は、DIN 55660-2-2011-12に従って測定されたときに125°以下、または120°以下である。水接触角は、事前にLNPインキュベートせずに容器上で決定される。
【0059】
一実施形態では、容器はガラス製容器またはポリマー製容器である。
【0060】
一実施形態では、容器は環状オレフィンコポリマーを含む。一実施形態では、容器は環状オレフィンポリマーを含む。
【0061】
一実施形態では、容器は以下の特性:
・0.50~10.0mm、もしくは1.00~4.00mmの肉厚;および/または
・0.1ml~1000ml、0.5ml~500ml、1ml~250ml、2ml~30ml、2ml~15ml、もしくは約1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10ml、11ml、12ml、13ml、14ml、もしくは15ml;任意選択的には5~15mlの容器の容積容量
のうちの1つ以上を有する。
【0062】
一実施形態では、容器は0.50mm以上、1.00mm以上、または2.0mm以上の肉厚を有する。一実施形態では、容器は、10.0mm以下、または7.00mm以下、または4.0mm以下の肉厚を有する。
【0063】
一実施形態では、容器は、シリンジ、カートリッジ、アンプル、またはバイアルである。
【0064】
ガラス組成物
一実施形態では、容器は、50~90重量%のSiOと3~25重量%のBとを含むガラス組成物を含む。
【0065】
一実施形態では、容器は、アルミノケイ酸塩を含み、任意選択的には55~75重量%のSiOおよび11.0~25.0重量%のAlを含むガラス組成物を含む。
【0066】
一実施形態では、容器は、70~81重量%のSiO、1~10重量%のAl、6~14重量%のB、3~10重量%のNaO、0~3重量%のKO、0~1重量%のLiO、0~3重量%のMgO、0~3重量%のCaO、および0~5重量%のBaOを含むガラス組成物を含む。
【0067】
一実施形態では、容器は、72~82重量%のSiO、5~8重量%のAl、3~6重量%のB、2~6重量%のNaO、3~9重量%のKO、0~1重量%のLiO、0~1重量%のMgO、および0~1重量%のCaOを含むガラス組成物を含む。
【0068】
一実施形態では、容器は、60~78重量%のSiO、7~15重量%のB、0~4重量%のNaO、3~12重量%のKO、0~2重量%のLiO、0~2重量%のMgO、0~2重量%のCaO、0~3重量%のBaO、および4~9重量%のZrOを含むガラス組成物を含む。
【0069】
一実施形態では、容器は、50~70重量%のSiO、10~26重量%のAl、1~14重量%のB、0~15重量%のMgO、2~12重量%のCaO、0~10重量%のBaO、0~2重量%のSrO、0~8重量%のZnO、および0~2重量%のZrOを含むガラス組成物を含む。
【0070】
一実施形態では、容器は、55~70重量%のSiO、11~25重量%のAl、0~10重量%のMgO、1~20重量%のCaO、0~10重量%のBaO、0~8.5重量%のSrO、0~5重量%のZnO、0~5重量%のZrO、および0~5重量%のTiOを含むガラス組成物を含む。
【0071】
一実施形態では、容器は、65~72重量%のSiO、11~17重量%のAl、0.1~8重量%のNaO、0~8重量%のKO、3~8重量%のMgO、4~12重量%のCaO、および0~10重量%のZnOを含むガラス組成物を含む。
【0072】
一実施形態では、容器は、64~78重量%のSiO、4~14重量%のAl、0~4重量%のB、6~14重量%のNaO、0~3重量%のKO、0~10重量%のMgO、0~15重量%のCaO、0~2重量%のZrO、および0~2重量%のTiOを含むガラス組成物を含む。
【0073】
コーティング
一実施形態では、コーティングは、元素種Si、C、O、およびHを含む。
【0074】
一実施形態では、コーティングは、少なくとも55%の炭素含有量を有する少なくとも1つの層を含む。
【0075】
一実施形態では、コーティングは、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、テトラメチルシラン(TMS)、トリメチルボラゾール(TMB)、トリ(ジメチルアミノシリル)アミノ-ジ(ジメチルアミノ)ボラン(TDADB)、トリス(トリメチルシリル)ボレート(TMSB)、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(HMCTSO)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、デカメチルシクロペンタシロキサン(DMCPS)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(DMCHS)、ジアセトキシ-ジ-t-ブトキシシラン(DADBS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリス(トリメチルシリルオキシ)ビニルシラン(TTMSVS)、ビニルトリエトキシシラン(VTES)、および/またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上から誘導および/または生成される。
【0076】
一実施形態では、コーティングは少なくとも1つの層を含み、コーティング、またはコーティングの少なくとも1つの層は、
[Si15 20/[Si15 80≧x1[Si2C5H15O2-]
のパラメータを満たし、
式中の[Si15 20は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の20%でTOF-SIMSによって測定される[Si15 ]イオンのカウント数であり;
式中の[Si15 80は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の80%でTOF-SIMSによって測定される[Si15 80イオンのカウント数であり;
x1[Si2C5H15O2-]は、1.2、1.5、2、3、5、8、または12である。
【0077】
一実施形態では、コーティングは少なくとも1つの層を含み、コーティングの少なくとも1つの層は、以下のパラメータ:
[Si 20/[Si 80≧x1[Si2C3H9O3-]
[式中、x1[Si2C3H9O3-]は、1.1、好ましくは1.5、より好ましくは2、より好ましくは3である]、および/または
[Si 20/[Si 80≦x2[Si2C3H9O3-]
[式中、x2[Si2C3H9O3-]は、100、好ましくは75、より好ましくは50、より好ましくは40、より好ましくは30、より好ましくは20、より好ましくは10、より好ましくは8、より好ましくは6、より好ましくは5、より好ましくは4である]
を満たし、
式中の[Si 20は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の20%でTOF-SIMSによって測定される[Si ]イオンのカウント数であり;
式中の[Si 80は、スパッタガンビームがガラス表面に到達するのに必要な時間の80%でTOF-SIMSによって測定される[Si 80イオンのカウント数である。
【0078】
この分析には、ToF-SIMS深さ方向分析測定プロセスが使用され、その開始は、スパッタ分析プロセスがガラス表面に到達するのに必要な時間の0%に設定された。この時点で、[Si]イオンのカウント数に対する[Al]イオンのカウント数の比は好ましくは0.00とすることができる。一定の分析時間(スパッタ時間)が経過した後、[Si]イオンのカウント数に対する[Al]イオンのカウント数の比の値は0.10以上になる。アルミニウムは通常ガラスの元素として帰属されるため、この時点はスパッタガンのビームがガラス表面に到達するのに必要な時間を示す。この時点は、スパッタ分析プロセスがガラス表面に到達するのに必要な時間の100%に関連して100%に設定される。
【0079】
この測定に使用されるToF-SIMS深さ方向分析プロセスは、MCRのデータセットを得るために使用される静的ToF-SIMS法とは異なる。
【0080】
充填された医薬品用の容器
一態様では、本発明は、本開示の第1~第5の態様のうちの1つの医薬品用の容器と、脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物とを含む、充填された医薬品用の容器を提供する。
【0081】
一実施形態では、脂質ベースのキャリアシステムまたは脂質ナノ粒子は、以下の化合物の分類:
a.)リン脂質;および/または
b.)C24位が直鎖もしくは分岐のアルキル鎖で官能化されたコレステロールもしくはステロイドであって、直鎖もしくは分岐のアルキル鎖が1~50個のC原子を含み、C24位がIUPAC命名法に従って定義される、コレステロールもしくはステロイド;および/または
c.)PEG修飾脂質;および/または
d.)カチオン性脂質
のうちの1つ以上を含む。
【0082】
一実施形態では、医薬組成物は液体または凍結液体であり、
a.)1.05mg/mL~1.95mg/mLのリン脂質;および/または
b.)2.3mg/mL~4.3mg/mLのコレステロール;および/または
c.)0.56mg/mL~1.05mg/mLのPEG修飾脂質;および/または
d.)0.50mg/mL~9.40mg/mLのカチオン性脂質
を含む。
【0083】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、Malvernゼータサイザーを使用して動的光散乱(DLS)で測定される以下の特性:
i)多分散性指数(PDI)値が<0.5、または≦0.1である;および
ii)z平均径が最大200nm、最大150nm、または最大100nm、例えば10nm~200nm、20nm~150nm、または50nm~100nmである
のうちの1つ以上によって特徴付けられる。
【0084】
一実施形態では、脂質ナノ粒子のz平均径は、10nm以上、20nm以上、または50nm以上である。
【0085】
粒径およびPDIは、Malvern(商標)(Malvern Instruments Ltd., Worcestershire, United Kingdom)ゼータサイザーNano ZSを使用して室温で決定した。サイズおよびPDIは、pH7.4の10mMリン酸緩衝液で脂質濃度を0.07mg/mlに希釈した後に自動モードを使用して測定した。Malvern(商標)(Malvern Instruments Ltd., Worcestershire, United Kingdom)ゼータサイザーNano ZSの自動モードのデフォルト設定は以下の通り:測定数=3;実行時間=60秒;実行数=10;平衡化時間=60秒;屈折率溶媒1.45;屈折率分散剤1.335;粘度=1.02cP;温度=24.9℃;誘電率=78.5F/m;後方散乱モード(173°);自動電圧選択;Smoluchowski式:であった。
【0086】
一実施形態では、医薬組成物は、RNA、例えばmRNAまたはsiRNAまたはsaRNAを含む。
【0087】
使用
一実施形態では、本発明は、脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む医薬組成物の保管および/または輸送のための医薬品用の容器の使用に関する。
【0088】
(充填された)医薬品用の容器は、有利なことに、容器の内面への医薬組成物の成分の付着が少ない。有利なことに、医薬組成物が脂質ベースのキャリアシステム、特に脂質ナノ粒子を含む場合、容器の内面への脂質および/または脂質ナノ粒子の付着が少なくなり得る。したがって、用量の均一性および変化しない医薬組成物が保護される。
【0089】
脂質ナノ粒子(LNP)
本開示では、「脂質ベースのキャリアシステム」には、リポソーム、ミセル、SEDDS、および脂質ナノ粒子などの脂質含有薬物送達システムが含まれる。
【0090】
固体脂質ナノ粒子または脂質ナノ粒子(LNP)は、脂質から構成されるナノ粒子である。
【0091】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、Buschmannら(Vaccines 9, 2021, 65、これは参照により本明細書に組み込まれる)の表2に開示されているイオン化可能な脂質のうちの1つ以上を含む。
【0092】
一実施形態では、脂質ナノ粒子はPEG脂質を含み、PEG脂質は脂質のPEG化によって得ることができる。
【0093】
本開示との関係において、PEG化とは、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖を、例えば後にPEG化される脂質などの(マクロ)分子に共有結合および非共有結合させるプロセスを指す。
【0094】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2017/075531号の表2および表3に開示されている1種以上のカチオン性脂質を含む。
【0095】
本開示との関係において、脂質は、コレステロール;12個以上の炭素原子から26個の炭素原子までの鎖長の脂肪酸;グリセリンと、同じであっても異なっていてもよい3つの脂肪酸との縮合生成物に基づくトリグリセリド;スフィンゴ脂質およびリン脂質(phospholid);の4種の化合物または化合物の分類の1つとして理解することができる。
【0096】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、イオン化可能な脂質、DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン)、コレステロール、およびPEG脂質を含む。
【0097】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、ポリヌクレオチド、特にRNAをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1】コーティングされていないガラス製バイアルとコーティングされたガラス製バイアルから得られた写真を示す図であり、ガラス製バイアルはガラス管(Fiolax(登録商標)clear、Schott AG, Germany)を用いて製造し、標準溶液およびLNPを含む溶液にさらした。
図2A】ガラス製バイアルの内面に吸着された脂質含有化合物のネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた、特徴的な脂質因子1のローディングを示す図である。
図2B図2Aに示したローディングでの脂質因子1に基づくMCR分析からの、コーティングされたガラス製バイアルとコーティングされていないガラス製バイアルとについて得られたスコア値を示す図である。各実験は、ガラス製バイアル内面の底部の壁と底部近傍の壁との両方で二重に実施した。
図3A】COCポリマーから製造されたコーティングされたポリマー製シリンジとコーティングされていないポリマー製シリンジの内面に吸着された脂質含有化合物のネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた、特徴的な脂質因子1のローディングを示す図である。
図3B図3Aに示したローディングでの脂質因子に基づくMCR分析からの、コーティングされたポリマー製シリンジとコーティングされていないポリマー製シリンジとについて得られたスコア値を示す図である。各実験は、内面の底部の壁と底部近傍の壁との両方で二重に実施した。
図4A】コーティングされたガラス製バイアルおよびコーティングされていないガラス製バイアル、ならびにガラス製シリンジおよびポリマー製シリンジの内面上の有機ケイ素化合物についてのネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた、特徴的な有機ケイ素因子1のローディングを示す図である。
図4B図4Aに示したデータマトリックスのMCR分析からコーティングされた容器とコーティングされていない容器とについて得られたスコア値を示す図である。各実験は、内面の底部の壁と底部近傍の壁との両方で二重に実施した。
図5A】ガラス製容器から得られた、強度を含む生のToF-SIMSデータから選択されたイオン種のリストを示す図である。
図5B】ポリマー製容器から得られた、強度を含む生のToF-SIMSデータから選択されたイオン種のリストを示す図である。
図6A】コーティングされたガラス製バイアルとコーティングされていないガラス製バイアルとの内面上の無機ケイ素化合物のネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた、特徴的な無機ケイ素因子1のローディングを示す図である。
図6B図6Aに示したデータマトリックスのMCR分析からの、コーティングされた容器とコーティングされていない容器とについて得られたスコア値を示す図である。各実験は、内面の底部の壁と底部近傍の壁との両方で二重に実施した。
図7A】コーティングされたガラス製バイアルとコーティングされていないガラス製バイアルとの内面上の有機化合物のネガティブToF-SIMSスペクトルのデータマトリックスから得られた、特徴的な有機因子1のローディングを示す図である。
図7B図7Aに示したデータマトリックスのMCR分析からの、コーティングされたガラス製バイアルとコーティングされていないガラス製バイアルとについて得られたスコア値を示す図である。各実験は、内面の底部の壁と底部近傍の壁との両方で二重に実施した。
【0099】
方法
ガラス製容器の製造
共に同じ寸法、同じガラスの種類、およびガラスの組成を有する、コーティングされたガラス製容器とコーティングされていないガラス製容器(後者は参照容器として機能する)とを、全く同じ条件下で処理する。
【0100】
LNPインキュベートMCRスコアを測定するために、それぞれの容器を超純水(純度1相当、DIN ISO3696、25℃で≦0.1μS/cm)で洗浄し、層流条件下で乾燥する。次いで、容器に標準LNP組成物を充填し、-80℃まで凍結し、-80℃で12時間インキュベートし、その後、12時間以内に5℃まで解凍する。
【0101】
第1の変形形態では、標準LNP組成物はComirnatyワクチン(ライセンス番号EU/1/20/1528)である。
【0102】
第2の変形形態では、標準LNPは、糖含有量が10重量%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中に、示された量で以下の脂質:7.2mg/mLの(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート)、0.83mg/mLの2[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1.5mg/mLの1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、および3.3mg/mLのコレステロール;を含み、以下の濃度
【0103】
【表2】
である。
【0104】
いずれの容器もToF-SIMSおよびMCR分析によって分析される(次のセクションを参照)。
【0105】
絶対LNPインキュベートMCRスコアとは、コーティングされたガラス製容器またはコーティングされていない(参照)ガラス製容器のいずれかの単一の容器から得られる1つの特定の因子についてのMCRスコアを意味し、因子は、脂質因子1、有機ケイ素因子1、無機ケイ素因子1、および有機因子1から選択され、各因子は因子に固有のMCRローディングを有する。
【0106】
相対LNPインキュベートMCRスコア比は、コーティングされたガラス製容器とコーティングされていない(参照)ガラス製容器との間の特定の因子のMCRスコアの商を指す。
【0107】
ポリマー製容器の製造
共に同じ寸法、同じガラスの種類、およびガラスの組成を有する、コーティングされたポリマー製容器とコーティングされていないポリマー製容器とを、全く同じ条件下で処理する。
【0108】
ポリマー製容器の製造は、超純水(純度1相当、DIN ISO3696、25℃で≦0.1μS/cm)による洗浄と層流条件での乾燥が省略されることを除いて、ガラス製容器の製造と同じである。
【0109】
ToF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)
以降で、特定のToF-SIMS測定の測定方法とデータ評価について詳しく説明する。測定にはIontofのTOF.SIMS4を使用した。別段の記載がない場合には、ToF-SIMSはASTM E1829およびASTM E2695に従って測定される。
【0110】
測定
ToF-SIMS分析には、以下のパラメータ設定:
一次イオン:Ga;(あるいはTOF.SIMS5とBiを使用);
(一次イオン)エネルギー:25000V;
測定領域:100×100μm
一次イオン線量密度:6×1012cm-2
表面放電:低エネルギー電子による
を使用した。
【0111】
スペクトルデータは100秒間取得し、その後、積分した。
【0112】
サンプルの準備
(コーティングされた)容器の各サンプルを縦に2つに切断し、ToF-SIMS装置の一次イオンガンの中心線がサンプルの内面に当たるように配置した。これによって生成した本質的にイオン化された二次イオンを、飛行時間分析によって分析し、異なる検出可能な質量/電荷比に分離した。その結果、原子イオン種と分子イオン種との両方を網羅する高分解能のマススペクトル(SiではΔm/m>3000)が得られる。ダイ表面感度は、複数の幾つかの単層を網羅する。
【0113】
データの作成
ToF-SIMSデータには、イオン固有の質量とそれに対応する強度からなるn個のデータセットが含まれる。イオン種/質量は、ガラス製容器とポリマー製容器のそれぞれについて図5A図5Bに示されている、強度を含む生のToF-SIMSデータから選択される。実験がネガティブモードで行われるため、イオン固有の質量は陰イオンのみに関連する。質量の解釈には、IONTOF GmbHのスペクトルライブラリを使用することができる。全てのイオン種/質量は、それぞれの分散に従って正規化される。
【0114】
多変量スペクトル分解(MCR)
MCR因子を特定するために、ToF-SIMSの結果に対して、その後、MCR(多変量スペクトル分解)による多変量解析が行われる。MCRは統計解析手法であり、最も一般的なアプローチでは、二元データマトリックスD(m×n)を、未知混合物のk種の純粋な濃度プロファイルと純粋なスペクトルとをそれぞれ含む2つのマトリックスC(m×k)とS(k×n)とに、式D=CS+Eに従って分解する。式中のEはデータの残差を含む誤差マトリックスである(Ruckebusch & Blanchet, Analytica Chimica Acta 765, 2013, 28-36)。MCR法は、ToF-SIMSの分解および解析に適用されている。このタスクには、例えば因子の数が任意選択的に3、4、または5に設定されるソフトウェアパッケージSurfaceLab Ver 7.1.などの市販のソフトウェアを使用することができる。スペクトル情報を詳細に分析することができる方法の一般的な説明は、Juan & Tauler(Analytica Chimica Acta 1145, 2021, 59-78)によって示されている。
【0115】
要約すると、特定のコーティングまたは容器で測定されたToF-SIMSの結果は、n次元の組成空間における特定の位置に帰属可能である。MCRは、データセットをより限られた数の変数、いわゆる「因子」にまとめることによって、ToF-SIMSの結果の複雑さを軽減するために使用される。MCRの結果は、一連の因子、ローディング、および対応するスコアである。それぞれの因子は、前記因子に帰属可能である前記n次元組成空間内の概念的な成分を示す、因子に固有のMCRローディングを有し、ローディングは前記因子の定義に寄与するイオンを列挙するという点で、因子を特徴付ける。各因子は、コーティングまたは容器の中または上に存在する物質に関係する。明確にしておくために明記すると、概念的な成分は実際にはコーティングや容器には存在しない。各スコアは、対応する因子の強度を示す。これは、コーティングまたは容器の中または上にある物質の存在量と相関する。
【0116】
スパッタガンを使用するToF-SIMS深さ方向分析
例えばイオン[Al20、[Al80、[Si15 20、および[Si15 80などのイオンの深さ方向分析値は、以下の方法に従って得ることができる。
【0117】
測定方法
測定には、TOF SIMS(IontofのTOF.SIMS5)を使用することができる。別段の記載がない限り、TOF-SIMSはASTM E1829およびASTM E2695に従って測定される。
【0118】
TOF-SIMSには、次のパラメータ設定:
分析用に:
一次イオン:Bi3+
エネルギー:30000eV;
測定領域:200×200μm
パターン:128×128ランダム;
ビスマス分析電流:0.3pA、
スパッタガン(アルゴンクラスターソース)用に:
スパッタイオン:Ar1051(アルゴン);
エネルギー:5000eV;
スパッタ領域:500×500μm
Arクラスターソースのスパッタ電流:1nA、
さらに:
サイクルタイム:200μs;
アナライザ抽出器:2160V;
アナライザ検出器:9000V;
電荷補償:フラッドガン;
一次イオン飛行時間補正:オン;
ガスフラッディング:9×10-7mbar
を使用した。
【0119】
コーティングされたガラス要素のサンプル、例えば内側にコーティングされた容器を縦に2つに切断した半分を、スパッタガンの中心線とTOF-SIMSの液体金属イオンガンの中心線がサンプルのコーティングされた領域に当たってスパッタ領域が測定領域全体をカバーするように、好ましくはスパッタガンの中心線とTOF-SIMSの液体金属イオンガンの中心線がサンプルのコーティングされた領域の同じ地点に当たるように、配置する。TOF-SIMSは、陽イオンまたは陰イオンのいずれかを測定する。両方の種類のイオンを得るためには、同じサンプルの新しい領域、または新しいサンプル、例えば縦に2つに切断されたコーティングされた容器の最初の半分と残りの半分を各測定で使用して、2回の測定を行うことができる。
【0120】
データ評価
データ評価のために、全てのイオンのカウント数がそれぞれ[Si]イオンと[Si]イオンに正規化され、それによって[Si]イオンと[Si]イオンがそれぞれ1に設定される。
【0121】
さらに、TOF SIMS分析が開始される時点(スパッタ時間)を0%に設定し、ガラス表面に到達する時点を100%に設定する。[Al]シグナルと[AlO2-]シグナルとは明確にガラスに帰属可能であるため、これは[Al]シグナルと[AlO2-]シグナルとによってそれぞれ示される。
【0122】
陽イオンを測定する場合、スパッタガンがガラス表面に到達する時点は、[Si]イオンのカウント数に対する[Al]イオンのカウント数の比が初めて0.10以上の値になった時点とすることができ、好ましくはそのような時点である。
【0123】
陰イオンを測定する場合、スパッタガンがガラス表面に到達する時点は、[Si]イオンのカウント数に対する[AlO2-]イオンのカウント数の比が初めて0.10以上の値になった時点とすることができ、好ましくはそのような時点である。
【0124】
分析、すなわち測定プロセスを開始した時点は、スパッタ分析プロセスがガラス表面に到達するのに要する時間の0%に設定した。この時点で、[Si]イオンのカウント数に対する[Al]イオンのカウント数の比は0.00とすることができ、好ましくは0.00である。一定の分析時間(スパッタ時間)の後、[Si]イオンのカウント数に対する[Al]イオンのカウント数の比の値は0.10以上である。アルミニウムはガラスの元素として明確に帰属されるため、この時点は、スパッタガンのビームがガラス表面に到達するのに必要な時間を示している。この時点まで、この比が0.10以上になることはなかった。結果として、この時点を100%に設定した。これは、スパッタ分析プロセスがガラス表面に到達するのに必要な時間の100%であるためである。
【0125】
実施例
コーティングされたガラス製バイアル
20Rのバイアル(ガラス管で製造されたガラス製バイアル、Fiolax(登録商標)clear、Schott AG, Germany)を準備した。最初の前処理として、実験室用食洗機(HAMO AGのLS-2000)内で、バイアルを25℃の≦10μS/cmの超純水で室温にて2分間、40℃で6分間、続いて室温で25分間洗浄する洗浄前処理を行った。その後、バイアルを300℃で20分間乾燥した。続いて、国際公開第03/015122号による装置を使用して、バイアルを処理し、同時にコーティングした。全てのプラズマ処理で、周波数2.45GHzのマイクロ波照射を使用した。反応チャンバーはバイアルの内部であった。バイアルの外側は周囲条件であった。
【0126】
最初に、バイアル内部を0.05mbarの値に到達するまで排気した。その後、5mbarの圧力に到達するまで、25sccmの流量で酸素をバイアル内に充填し、その後、プラズマ前処理を開始した。プラズマは、5500Wの入力電力で、パルス持続時間0.5ms、パルス休止時間1.8msのパルスモードで励起した。プラズマ前処理は、バイアルの温度が250℃になるまで17秒間行い、バイアルの円筒部分の中央でパイロメーターにて測定した。
【0127】
その直後にコーティングプロセスを行った。バイアルに12.5sccmの流量でHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)を充填し、圧力を0.8mbarに設定した。次いで、バイアルを0.2秒間照射し(圧力:0.8mbar、流量12.5sccmのHMDSO、入力電力:6000W、パルス持続時間:0.050ms、パルス休止時間:30ms)、続いて13秒間照射した(圧力:0.8mbar、流量:12.5sccmのHMDSO、入力電力:4500W、パルス持続時間:0.008ms、パルス休止時間:1ms)。
【0128】
その後、後処理を行った。すなわち、バイアルに酸素を充填し、酸素の存在下でバイアルを室温まで冷却し、コーティングされたバイアルを得た。
【0129】
代替的には、コーティングは、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願第21164784.7号に記載の通りに設けることができる。
【0130】
コーティングされたポリマー製バイアル
ルアーロック形式のCOC(環状オレフィンコポリマー)から製造されたポリマー製シリンジ(容積1mL)を使用した。スプレープロセスまたは浴プロセスを介して、ケイ素含有流体を容器の内面に塗布した。ケイ素含有流体は、ポリ(オルガノ)シロキサンなどの異なる有機ケイ素化合物の混合物であってよく、少なくとも1つの反応性成分が熱硬化されてネットワークを形成することができる。
【0131】
代替的には、コーティングは、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願第21164784.7号の記載に従って、同様に調製することができる。
【0132】
標準脂質ナノ粒子(LNP)
コーティングされたガラス製バイアルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液または同じPBS溶液中の標準-LNPのいずれかで処理した。異なる処理が行われたコーティングされたガラス製バイアルに対して上述したToF-SIMS測定を行い、上述したMCR分析に従ってデータを抽出した。
【0133】
第1の変形形態では、標準LNP組成物はComirnatyワクチン(ライセンス番号EU/1/20/1528)であった。
【0134】
第2の変形形態では、標準LNPは、糖含有量が10重量%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中に、示された量で以下の脂質:7.2mg/mLの(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート)、0.83mg/mLの2[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1.5mg/mLの1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、および3.3mg/mLのコレステロール;を以下の濃度
【0135】
【表3】
で含んでいた。
【0136】
更なるLNP製剤
代替的には、同様の配合のLNPを使用することもでき、その配合は、個々の脂質成分の所定の量から最大30重量%逸脱する場合がある。
【0137】
さらに、LNPは、特にアデニンを含むポリヌクレオチドに基づくmRNAなどのRNAを含む。
図1
図2A(1)】
図2A(2)】
図2B
図3A(1)】
図3A(2)】
図4A(1)】
図4A(2)】
図4B
図5A
図5B
図6A(1)】
図6A(2)】
図6B
図7A(1)】
図7A(2)】
図7B
【国際調査報告】