(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】心筋の原発性先天性疾患(心筋症)を治療するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240305BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240305BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240305BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20240305BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240305BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20240305BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20240305BHJP
A61K 9/28 20060101ALI20240305BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/00
A61K45/06
A61K31/426
A61K31/517
A61K31/427
A61K31/4439
A61K9/28
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558981
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2022057708
(87)【国際公開番号】W WO2022200473
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523364553
【氏名又は名称】プレベンテージ セラピューティックス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ,コルドゥラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA42
4C076BB01
4C076CC11
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4C084ZA36
4C084ZC75
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4C086BC82
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4C086GA07
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4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬(特にチアゾリジン-2,4-ジオン類の群からの)、および原発性先天性心筋症を予防または治療するための方法において使用するための、そのようなアゴニストを含有する医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原発性先天性心筋症を予防または治療するための方法において使用するためのPPARγアゴニストおよび/またはMPC阻害薬。
【請求項2】
前記原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、拘束型HCM、構造的先天性心臓欠損における心筋症、およびRASオパシー、特にヌーナン症候群スペクトラムからの疾患における心筋症からなる群から選択される、請求項1に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項3】
前記原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、構造的先天性心臓欠損における心筋症、およびRASオパシー、特にヌーナン症候群スペクトラムからの疾患における心筋症からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項4】
前記原発性心筋症は、肥大型心筋症である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項5】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、チアゾリジン-2,4-ジオン類の群からの化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項6】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、C5環原子において置換されたチアゾリジン-2,4-ジオンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項7】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、C5環原子に置換基を有し、当該置換基は、リンカー構造を介して互いに連結された2つの(ヘテロ)芳香族環系を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項8】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、特にシグリタゾン、バラグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、ピオグリタゾン、リボグリタゾン、ロシグリタゾン、GQ-16、およびトログリタゾンからなる群から選択されるグリタゾンであり、ここで、前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、好ましくはピオグリタゾンまたはロシグリタゾンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項9】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、無機酸または有機酸の塩、特に塩酸またはマレイン酸の塩である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項10】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、(S)-エナンチオマーまたは(R)-エナンチオマー、好ましくはキラル中心において重水素化された(S)-エナンチオマーまたは(R)-エナンチオマーである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項11】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、(R)-エナンチオマー、好ましくはキラル中心において重水素化された(R)-エナンチオマーである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬。
【請求項12】
原発性先天性心筋症を予防または治療するための方法において使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬と、任意に医薬キャリアと、を含有する医薬組成物。
【請求項13】
前記原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、拘束型HCM、構造的先天性心臓欠損およびRASオパシー、特にヌーナン症候群スペクトラムからの疾患における心筋症からなる群から選択される、または特に肥大型心筋症(HCM)である、請求項12に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項14】
前記原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、構造的先天性心臓欠損およびRASオパシー、特にヌーナン症候群スペクトラムからの疾患における心筋症からなる群から選択される、または特に肥大型心筋症(HCM)である、請求項12または13に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物は、濃縮されたもしくは純粋な形態の、好ましくはキラル中心に重水素原子を有する、グリタゾンの(S)-エナンチオマーもしくは(R)-エナンチオマー、またはグリタゾンの(S)-エナンチオマーおよび(R)-エナンチオマーのラセミ体を含有する、請求項12または13に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物は、濃縮されたもしくは純粋な形態の、好ましくはキラル中心に重水素原子を有する、グリタゾンの(R)-エナンチオマーを含有する、請求項15に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物は、経口投与される治療用組成物、特に被覆錠剤である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項18】
前記PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、1~30mg、好ましくは1~15mgの1日用量において投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストもしくはMPC阻害薬、または請求項12~17のいずれか一項に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項19】
前記方法は、ベータ遮断薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンI受容体遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト、カルシウムアンタゴニスト、抗不整脈薬、およびミオシンモジュレーターからなる群から選択される活性薬剤との併用療法を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法において使用するためのPPARγアゴニストもしくはMPC阻害薬、または請求項12~18のいずれか一項に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
遺伝的である心筋の全ての疾患は、原発性先天性心筋症と呼ばれる。それらは、最初に、心筋の疾患(肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈源性右室心筋症、または拘束型心筋症等)として単離された形態で出現するか、あるいは先天性構造的心臓欠損、遺伝的に引き起こされた症候群(例えば、ヌーナン症候群スペクトラムまたは他のRASオパシーからの疾患との関連において)、先天性代謝疾患(例えば、ファブリー病、ミトコンドリア症、またはグリコーゲン蓄積症との関連において)との関連において、または先天性神経筋疾患(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたは筋緊張性ジストロフィーとの関連において)との関連において、心筋の疾患として出現する1。
【0002】
従って、原発性先天性心筋症は、他の疾患(例えば、動脈性高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドローム、または冠状動脈性心疾患との関連において)との関連において二次的状態としては生じず、それ故に、それ自体が続発性心筋肥大と区別される、独立した病状である。これらの独立した病状はそれぞれ、個々の治療概念を必要とする。従って、このような二次的疾患の排除は、診断、原発性先天性、且つ特に肥大型の心筋症(2,3,4,5,1)の臨床診断において不可欠な要素である。
【0003】
原発性先天性心筋症の臨床的出現は特に、心臓の拡張または両方の変化の組み合わせの結果としての心筋組織(心筋)の肥厚(肥大)を特徴とする。また、原発性先天性心筋症は、心筋の線維症を伴い得る。前記疾患の過程において、最終的には、心臓の充満機能の低下(拡張機能不全)または心臓の駆出機能の低下(収縮機能不全)がある。これは、心不全の臨床症状を含む。原発性先天性心筋症は多くの場合、例えば、頻脈および失神、またはさらには心臓突然死の臨床症状に関連する心不整脈を伴う。従って、臨床徴候の変動性は、臨床症状および当該症状の重症度と、臨床徴候の時間との両方に関して、広範囲に及ぶ。新生児でさえ、重症の経過によって影響を受ける可能性があるが、この疾患はまた、成人期の初期または後期にのみ現れることがある。
【0004】
肥大型心筋症(HCM)は、先天性原発性心筋症の内の独立した状態として定義付けられる。HCMは、これまでで最も一般的な原発性先天性心筋症である。通常、HCMの有病率は約1:250~1:500であり、最も一般的な遺伝性遺伝子心疾患1でもある。肥大型心筋症は、病原的におよび病態生理学的に、心筋の肥厚とは異なり、上記のように、例えば、動脈性高血圧、心臓弁奇形、糖尿病、または代謝性、神経性、もしくは症候群の疾患等の他の疾患における二次的症状としてのみ観察され得る。従って、HCMの臨床診断はとりわけ、このような二次的疾患(2,3,4,5,1)の排除を必要とし、米国および欧州の専門家団体からのガイドラインに従って以下のように定義される:
“...本ガイドラインの目的のために、我々は、HCMの臨床的定義を、形態学的発現が心臓のみに限定される疾患状態として考えた。これは、所定の患者において明らかな大きさの肥大を生じ得る別の心疾患、全身疾患、または代謝性疾患が無く、疾患を引き起こすサルコメア(またはサルコメア関連)変異体が同定されるか、または遺伝的病因が未解決のままである場合に、主にLVHによって特徴づけられる。”6
“...HCMの一般的に受け入れられている定義は、所定の患者において明らかな大きさの肥大を生じ得る別の心疾患または全身疾患が無い場合に、非拡張性心室チャンバに関連する原因不明のLV肥大によって特徴づけられる疾患状態である...”(肥大型心筋症の診断および治療のための2011 ACCF/AHAガイドライン:要旨5)
“...左室壁肥厚は、別の心疾患または全身疾患が無い場合に、非拡張性および運動過多性のチャンバ(しばしば収縮期の腔閉塞を伴う)に関連する...”(肥大型心筋症に関する、米国心臓学会/欧州心臓学臨床専門家学会合意文書3)
【0005】
原発性先天性心筋症全般についてすでに説明したように、一般に、心筋肥厚(肥厚)および心筋の瘢痕化(線維症)はまた、加齢とともにHCMにおいて進行することが発見されている
2。臨床的には、これは、心機能不全、心不全、および心不整脈をもたらし、これは心臓突然死のリスクを増加させる。HCMの遺伝的原因は、大部分は、サルコメアのタンパク質をコードする遺伝子(例えば、MyBP-Cをコードする遺伝子MYBCP3、βミオシン重鎖をコードするMYH7、心筋トロポニンIをコードするTNNI3、または心筋トロポニンTをコードするTNNT2)における突然変異である
3,4。相応に改変された心筋細胞の構造タンパク質は、その生物物理学的収縮性
5、細胞エネルギー
6、およびカルシウムバランス
7を変化させ、且つ肥大促進性および線維化促進性のシグナル伝達経路を誘導する
8,9,10。これらの相関は、
図1にまとめられている。
【0006】
しかしながら、HCMが疑われる場合、原則として、患者のゲノムの変化は、遺伝子標準試験で明確に検出することができない。エピジェネティック因子は、とりわけ、これ、すなわち遺伝子検査のための心筋組織の利用可能性の欠如に関与し得る。これは、典型的には、遺伝子検査は、例えば血液または上皮細胞のような、入手がより容易な他の組織を用いて実施され、その結果、心筋組織の特徴的な突然変異を示している可能性のある遺伝的モザイクを、その中で認識することができないためである。遺伝的素因に加えて、多数の因子が疾患の重症度に影響を及ぼすため、疾患の経過は大きく異なる
11,12,13,14,15(
図1)。
【0007】
先行技術において、原発性先天性心筋症全般および特に肥大型心筋症を治療するための薬理学的アプローチは、たとえあったとしても、せいぜい前臨床試験または臨床試験の対象であるが、診療にはまだ適用されていない。カルシウムアンタゴニストであるジルチアゼム7,8およびアンギオテンシンII受容体アンタゴニストであるロサルタン9のポジティブな効果が、動物モデルにおいて暫定的に記載された。初めての臨床試験は、ジルチアゼムの投与が、左室リモデリングを遅れさせる可能性を示す10。先行技術におけるロサルタン投与の臨床結果は矛盾する11,12。さらに、MYK-46113による心筋ミオシンATPアーゼの抑制は、先行技術において、マウスモデルにおいて試験されている。閉塞性心筋症を有する患者における、この心筋ミオシン阻害薬(マバカムテン)のポジティブな効果は、近年、第III相臨床試験において示されている14。
【0008】
従って、有効な因果的または疾患修飾性の薬理療法アプローチの利用可能性がないため、肥大型心筋症は、通常、診断時に、例えば、心臓に対する過剰なストレスを避けることによってまたは競技スポーツを控えることによって、もっぱら保存的に治療され、定期的に制御される。医学的介入は、心臓突然死の予防、例えばベータ遮断薬、ACE阻害薬およびカルシウムアンタゴニストを用いた、発生の可能性のある心不全の症候性薬物治療、ならびに保存的測定の手段による心筋リモデリングの進行を制限する試み16,17に焦点を当てる。埋込型除細動器(ICD)は、重症例において随意に考慮される。これは、急性心停止による早期死亡から患者を保護し得るが、当該疾患の進行を停止することができない。肥厚した心筋による左室流出路の高度の狭窄の存在下において、開心術(中隔心筋切除術)または中隔肥大の経冠動脈アブレーション(TASH)が必要となることがある。心臓移植は、ドナー臓器の利用可能性の欠如、手術の侵襲性およびそれらに関連するリスク、ならびに必要な生涯にわたる免疫抑制のために、ごくわずかな患者のための代替治療である。
【0009】
この全てに照らして、本発明の目的は、原発性先天性心筋症を予防および治療するための、特に肥大型心筋症(HCM)を予防および治療するための、薬理学的治療選択肢を提供することである。
【0010】
この目的は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体ガンマ(PPARγ)シグナル伝達経路を活性化するおよび/またはミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC)を阻害する形態における薬理学的介入が、上記疾患スペクトラムのための大きな予防的または治療的な可能性を提供するという驚くべき発見によって達成される。従って、原発性先天性心筋症を予防または治療するための方法において使用するためのPPARγアゴニストおよび/またはMPC阻害薬が、本発明に従って提供される。予防的または治療的に処置することができる原発性先天性心筋症は、特に、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、拘束型HCM、ならびに構造的先天性心臓欠損、ヌーナン症候群スペクトラムまたは他のRASオパシーからの疾患、および他の先天性全身疾患との関連における心筋症、特に、肥大型心筋症(HCM)である。HCMは、通常、常染色体優性の方法で遺伝する;従って、罹患者の子孫もまたこの遺伝的障害を有する可能性が50%ある。まれに、この疾患は、常染色体劣性または母系的な方法で遺伝する。好ましくは、HCMの常染色体優性型が本発明に従って治療される。
【0011】
ヒト生物体において、3つのPPARサブタイプ(α、β/δ、γ)が公知であり、組織特異的発現、特に遺伝子発現パターンは、その転写が影響を受けている遺伝子の生物学的機能と同様に多様である15,16。PPARγは、偏在的に発現する17,18。
【0012】
従って、本発明に従って使用されるPPARγアゴニストまたはモジュレーターは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体シグナル伝達経路におけるシグナルカスケードを妨害する。ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR’s)は、核に位置する一群の受容体に属する19。それらは、生理学的または薬理学的リガンドを介して活性化されることができ、且つ転写因子として、複数の遺伝子の発現を調節することができる。活性化されると、PPAR’sは、同様に活性化されたレチノイドX受容体(RXR)に結合する。この複合体は、次に、特異的なDNA配列、すなわちPPAR応答エレメント(PPRE)に結合し、その結果、特異的な遺伝子転写パターンを誘導する20,21,22。
【0013】
従って、本発明は、対応する予防または治療のための活性薬剤としてのPPARγアゴニストまたはモジュレーター、特に原発性先天性心筋症の予防および治療のための、特にHCMの予防および治療のための、チアゾリジンジオン類の薬物クラスからの活性薬剤、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾン等を開示する。
【0014】
PPARγアゴニスト、すなわちグリタゾンとして使用される活性薬剤は、それぞれの活性薬剤のエナンチオマー、互変異性体、水和物、溶媒和物、または塩であり得る。
【0015】
チアゾリジンジオン類の活性成分クラスは、別の背景から何十年も前から知られている。チアゾリジンジオン類の抗糖尿病作用は、1980年代後半に初めて報告された23,24,25。それらは、インスリン感受性を増加させ、且つ高インスリン血症を予防する。従って、チアゾリジンジオン類はまた、インスリン増感剤とも呼ばれる26,27,28,29,30。例えば、このクラスの薬物の代表であるロシグリタゾンは、2型糖尿病の治療において使用された(商品名:Avandia、GlaxoSmithKline);しかしながら、心臓発作リスクの有意な増加を伴う心血管副作用の観察のために、多くの国において市場から取り除かれた。全体として、PPARγシグナル伝達経路全般および特にチアゾリジンジオン類等のPPARγアゴニストの治療可能性に関する範囲で、先行技術において収集されたデータおよび行われた調査は、例えば、糖尿病、動脈性高血圧症、メタボリックシンドローム、または肺高血圧症等の他の基礎疾患の二次的な結果である心疾患に関すると言える31,32。
【0016】
本発明に関連して行われた実験的前臨床研究の一部として、PPARγアゴニストおよびMPC阻害薬、特にチアゾリジンジオン類が、原発性先天性遺伝性疾患である「肥大型心筋症」、例えばHOCM(肥大型閉塞性心筋症)およびHNCM(肥大型非閉塞性心筋症)において、心筋組織および心機能に対して明確な保護効果を有し得ることが、極めて驚くべきことに見出された。この観察は、一般的な教示および一般的な医療行為と正反対である。これらの逸脱する観察についての最終的な説明を提供することはできないが、その基盤は、原発性遺伝性心筋症の、続発性心筋疾患と比較して有意に異なる病因であり得る。本発明に従って対処される疾患は、対応する心筋変化を先天的に引き起こし且つ進行性の発達をもたらす、先天的な遺伝的変化(例えば、心筋組織のサルコメアを形成するタンパク質をコードする遺伝子、例えば、MyBP-CをコードするMYBCP3遺伝子、βミオシン重鎖をコードするMYH7、心筋トロポニンIをコードするTNNI3、または心筋トロポニンTをコードするTNNT2における変化)の結果として理解されるべきであるが、続発性心筋疾患は原則として、互いに他の個別の治療アプローチを必要とする他の病因に基づく。
【0017】
例えば炎症過程によって誘発され、それ故に先天性ではなく後天性である心筋症は、原発性先天性遺伝性心筋症とは異なる状態である。それらもまた、原発性先天性心筋症と病因的および治療的に区別されなければならない。拡張型心筋症(DCM)もまた、この症例群に属する。罹患した患者の約70%は、他の疾患、例えば、心臓弁欠損、動脈性高血圧症、冠動脈性心疾患、慢性アルコール摂取、または自己免疫疾患の結果として、あるいは慢性筋炎症の結果として、二次的にDCMを発症する。前記患者の約30%のみが、家族性、すなわち遺伝性DCMを有する。従来技術において、DCMは、その病因を考慮することなく、(例えば、β-遮断薬またはACE阻害薬の手段による)慢性心不全の治療のための一般的なアプローチに従ってのみ薬理学的に治療される。従って、DCMの先天性(遺伝性)形態のための治療選択肢は存在しない。
【0018】
本発明の一実施形態において、原発性先天性心筋症は、DCMの遺伝性形態を含まない。
【0019】
別の実施形態において、PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬を本発明に従って使用することができ、ここで、前記原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、構造的先天性心臓欠損における心筋症、およびRASオパシーにおける心筋症(特に、ヌーナン症候群スペクトラムからの疾患)からなる群から選択される。
【0020】
一実施形態において、本発明によれば、予防または治療のために使用される前記PPARγアゴニストおよび/またはMPC阻害薬は、チアゾリジン-2,4-ジオン類の群からの化合物である。チアゾリジン-2,4-ジオンの環構造は、この化合物クラスの化合物の特徴的な骨格であり、典型的には、比較的長鎖の置換基がC5環原子に導入される。従って、好ましくはC5-置換チアゾリジン-2,4-ジオンである。置換基は、好ましくはリンカー構造を介して互いに連結された2つの(ヘテロ)芳香族環系を有する。前記環系は、例えば、芳香族6環系、特にピリジル環、ナフチル環、またはベンジル環であり得る。一実施形態において、グリタゾン、特に、シグリタゾン、バラグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、ピオグリタゾン、リボグリタゾン、ロシグリタゾン、GQ-16、およびトログリタゾンからなる群から選択されるグリタゾンのうちの1つ以上が提供され、且つ本発明に従って使用される。特定の実施形態において、ピオグリタゾン((RS)-5-{p-[2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ]ベンジル}-2,4-チアゾリジンジオン)またはロシグリタゾン((RS)-5-({4-[2-(メチル-2-ピリジニルアミノ)エトキシ]フェニル}メチル)-2,4-チアゾリジンジオン)は、前記疾患の予防または治療において使用される。
【0021】
グリタゾン類の薬物クラスの代表例を、本発明に従って使用する場合、それらのPPARγアゴニスト作用だけでなく、ミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC)34の阻害薬としてのそれらの質も指摘すべきである。従って、理論に束縛されるものではないが、グリタゾンの作用機序は、付加的または代替的に、MPC阻害薬としてのその機能に基づくこともできる。この点において、本発明に従って使用されるグリタゾンはまた、MPC阻害薬として本明細書中に開示される。従って、本発明はまた、原発性先天性心筋症を予防または治療するための方法において使用するための、MPC阻害薬、特にグリタゾン類の群からの化合物を開示する。従って、PARγアゴニストについて本発明に従って開示される全ての特徴は、MPC阻害薬、特にグリタゾン類の群からのMPC阻害薬、および前述の予防または治療方法におけるそれらの使用についても本発明に従って開示される。
【0022】
C5環原子におけるキラリティーのために、グリタゾン類はエナンチオマーとして作用する。一方では、前記エナンチオマーのラセミ体は、予防または治療のために本発明に従って使用される。
【0023】
しかしながら、あるいは、2つのエナンチオマーのうちの1つを、濃縮された形態、好ましくは純粋な形態で使用することもできる。原則として、(S)-エナンチオマーおよび(R)-エナンチオマーの両方の濃縮された/純粋な形態が、ここで可能である。(S)-エナンチオマーは、増加したPPARγアゴニスト効果が保証される場合に好ましい。これは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体ガンマ(PPARγ)の活性化は、ほとんどもっぱら(S)-エナンチオマーによってもたらされるためである。
【0024】
グリタゾン類がMPC阻害薬としてのその特性において使用される場合、チアゾリジンジオン類の(S)-エナンチオマーおよび(R)-エナンチオマーの両方が投与される。本発明によれば、しかしながら、典型的には、そのような場合には、純粋なまたは濃縮された(R)-エナンチオマーが好ましい。これは(R)-エナンチオマーがPPARγを活性化しないか、またはそれをわずかにしか活性化しないためであり、その結果、生物学的効果は、かなりの大部分はMPC作用様式によって達成される。また、特に(S)-エナンチオマーによって生じる、体重増加、浮腫、または骨折のリスクの増加等のPPARγアゴニスト効果に関連する副作用のスペクトラムは、基本的に、MPC阻害薬としての(R)-エナンチオマーの投与によって予防することができる。
【0025】
さらに、本発明によれば、チアゾリジンジオン類のキラル中心における水素原子の重水素による置換は、特に、濃縮または純粋な形態のエナンチオマーが本発明に従って使用される場合に提供され得る。結果として、2つのエナンチオマーの濃縮または純粋な形態の投与時のラセミ化反応の動態を変化させることができる。これは、濃縮または純粋なエナンチオマー形態におけるチアゾリジンジオン類は、in vivoにおいて水溶液中で動力学的に不安定であり、数時間以内にラセミ化されるためである。生理学的なpH7.4且つ37℃の温度において、元の純粋なエナンチオマーから出発して、約2:1(元の純粋なエナンチオマー:他のエナンチオマー)の濃度比におけるラセミ体は、10時間後に存在し、約48時間後には、前記比は、ほぼ1:1である35。キラル中心での重水素化の結果として、例えば、PPARγアゴニスト((S)-エナンチオマー)としての比較的強い生物学的作用は、(S)-エナンチオマーおよび(R)-エナンチオマーの両方によって達成され得る33。MPC阻害薬としてのグリタゾンの好ましい活性の場合、ミトコンドリアピルビン酸キャリアに対する阻害効果を増加させるために、純粋なまたは濃縮された(R)-エナンチオマーの重水素化形態が好ましい。これは、本発明に従ってMPC阻害薬として使用される、重水素化(R)-エナンチオマーの速度論的に遅延されたラセミ化反応によって、PPARγの活性化がわずかに誘発されるか、または誘発されないからである。
【0026】
PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特にグリタゾン類は、好ましくは塩として使用することができる。無機酸または有機酸の塩は適切な塩である。特に、塩酸またはマレイン酸の塩、例えばマレイン酸ロシグリタゾンまたは塩酸ピオグリタゾンが提供される。
【0027】
医薬組成物もまた、本発明に従って提供され、当該医薬組成物は、PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、および任意に医薬キャリアを含有する。それはまた、原発性先天性心筋症の予防または治療のための方法における使用にも役立つか、または原発性先天性心筋症、特に、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、拘束型HCM、構造的先天性心臓欠損における心筋症、ヌーナン症候群スペクトラムまたは他のRASオパシーからの疾患および他の先天性全身疾患からなる群から選択される、前述の原発性先天性心筋症、特に、肥大型心筋症(HCM)の予防または治療のために使用される。一実施形態において、前記医薬組成物は、DCMの遺伝性形態を治療するためには使用されない。別の実施形態において、医薬組成物は、本発明に従って使用することができ、ここでは、原発性先天性心筋症は、肥大型心筋症(HCM)、構造的先天性心臓欠損における心筋症、およびRASオパシー(特に、ヌーナン症候群スペクトラムからの疾患)における心筋症からなる群から選択される。
【0028】
機能的観点から、本発明に従って使用されるPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬は、特に、それらがまた低酸素誘導性因子1-アルファを阻害することを、さらに特徴とする。
【0029】
本発明に従って使用される医薬組成物は、グリタゾンのラセミ混合物、またはグリタゾンの純粋なもしくは濃縮された(S)-エナンチオマーもしくは(R)-エナンチオマー、好ましくはキラル中心に重水素原子を有するものを含有することができる。前記医薬組成物の活性成分としてのラセミ混合物は、例えば、両方のエナンチオマーが機構的に有効である場合に、好ましいことがある。対照的に、対応するエナンチオマーに基づく特定の作用様式が好ましい場合、および/または他のエナンチオマーの作用様式が除外される場合は、濃縮またはエナンチオマーの純粋な形態が好ましい。例えば、PPARγアゴニズムが回避されるべきであり、且つMPC阻害薬としての生物学的効果が増大されるべきである場合、医薬組成物において、(R)-エナンチオマーが好ましい場合がある。あるいは、好ましくはPPARγに基づく作用様式が意図される場合、前記組成物中の(S)-エナンチオマーは、濃縮されたまたは純粋な形態において存在することができる。この文脈において、「濃縮された」は、特に、1つのエナンチオマー画分が、医薬組成物中の活性薬剤の総質量の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%を構成することを意味する。
【0030】
本発明によれば、(グリタゾン類による治療を伴わない肥大または線維症とは対照的に)有意に減少した肥大および有意に減少した心筋の線維症の両方を達成することが意図される場合、チアゾリジンジオンの(R)-エナンチオマーは、医薬組成物中で、または純粋な形態におけるPPARγアゴニストとして、あるいはいずれの場合でも濃縮された形態において好ましい場合がある。しかしながら、(グリタゾン類による治療を伴わない肥大と比較して)肥大における中程度の減少のみが意図される場合、濃縮または純粋な形態における(S)-エナンチオマーを使用することも可能である。意図される治療結果に応じて、本発明による医薬組成物中の(R)-エナンチオマーおよび(S)-エナンチオマーの混合比、例えば、1:1~5:1または3:1~5:1((R)-エナンチオマー対(S)-エナンチオマー)の範囲の混合比を設定することも可能である。
【0031】
前記医薬組成物は、液体、半液体、ゲル様、または特に固体形態において存在することができる。それは、必要に応じて、異なる投与経路によって投与することができる。特に錠剤形態、例えば被覆錠剤としての経口投与が好ましい。しかし、特に注射または注入の形態における心臓内投与または静脈内投与もまた考慮されてもよい。
【0032】
本発明による医薬組成物は、任意で添加剤を含有してもよい。添加剤の例は、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤、安定剤、矯正剤、甘味剤、香味剤、流動化剤、帯電防止剤、光安定剤、酸化防止剤、還元剤、キレート剤のうちの1つ以上であってもよい。これらは、例えばこれらの添加剤のうちの2種以上も、適切な比率で混合して使用することができる。
【0033】
賦形剤の例は、結晶性セルロース、無水リン酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、粉末セルロース、ゼラチン、軽質無水シリカ(例えば、疎水化処理を伴わない軽質無水シリカ、または0.1ミクロンを超える粒径を有する非晶質二酸化ケイ素微粒子)、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、および硫酸カルシウムである。結晶性セルロースとしては、例えば、CEOLUS KG801、KG802、PH101、PH102、PH301、PH302、PH-F20、RC-A591NF(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製)が好ましく、いわゆるマクロ結晶性セルロースを含む。
【0034】
崩壊剤の例は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース[好ましくはヒドロキシプロポキシ基の含有量が5~16重量%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、例えばLH-11、LH-21、LH-31、LH-22、LH-32、LH-20、LH-30、LH-33、LH-B1、NBD-020、NBD-021、NBD-022(商品名、信越化学工業株式会社製)等である。結合剤の例は、ヒドロキシプロピルセルロース、-好ましくはHPC-SSL、SL、L(商品名、日本ソーダ株式会社)-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、アラビアゴム粉末、ゼラチン、プルラン、メチルセルロース、結晶性セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース-好ましくはヒドロキシプロポキシ基の含有量が5~16重量%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、例えばLH-11、LH-21、LH-31、LH-22、LH-32、LH-20、LH-30、LH-33、LH-B1、NBD-020、NBD-021、NBD-022(商品名、信越化学工業株式会社製)-デキストラン、およびポリビニルアルコールである。
【0035】
滑剤の例は、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、脂肪酸のスクロースエステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ワックス、DLロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール、および軽質無水シリカ(疎水化処理を伴わない軽質無水シリカまたは0.1ミクロンを超える粒径を有する非晶質二酸化ケイ素微粒子)である。ステアリルフマル酸ナトリウムが好ましい。着色剤の例は、フードカラーイエローNo.5(サンセットイエロー、USフードカラーイエローNo.6と同じ)、フードカラーレッドNo.2、フードカラーブルーNo.2等の食品着色剤、フードワニスカラー、黄色酸化鉄(黄色酸化鉄顔料)、赤色酸化鉄(赤色酸化鉄顔料)、黒色酸化鉄(黒色酸化鉄顔料)、リボフラビン、リボフラビン有機酸エステル(例えば、リボフラビン酪酸エステル)、リボフラビンリン酸またはそれらのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩、フェノールフタレイン、酸化チタン、リコピン、およびベータカロテンを含む。
【0036】
pH調整剤の例は、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、酢酸塩およびアミノ酸塩、アスコルビン酸、(無水)クエン酸、酒石酸、およびリンゴ酸である。界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60である。安定剤の例は、アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、エデト酸四ナトリウム、ニコチンアミド、シクロデキストリン;アルカリ土類金属塩(例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム)、およびブチルヒドロキシアニソールである。甘味料の例は、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、タウマチン、サッカリンナトリウム、およびグリチルリチン酸二カリウムである。香味物質の例は、メントール、ペパーミント油、レモン油、およびバニリンである。
【0037】
流動化剤の例は、軽質無水シリカ(疎水化処理を伴わない軽質無水シリカまたは0.1ミクロンを超える粒径を有する非晶質二酸化ケイ素微粒子)および水和二酸化ケイ素である。ここで、軽質無水ケイ酸は、水和二酸化ケイ素(SiO2 nH2O)(nは整数)のみを主成分として含まなければならず、それらの具体例は、シリシア320(商品名、富士シリシアケミカル社製)、アエロジル200(商品名、日本アエロジル社製)等である。帯電防止剤の例は、タルクおよび軽質無水シリカ(疎水化処理を伴わない軽質無水シリカまたは0.1ミクロンを超える粒径を有する非晶質二酸化ケイ素微粒子)である。遮光剤の例は、酸化チタンである。酸化防止剤の例は、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、トコフェロールエステル(例えば、酢酸トコフェロール)、アスコルビン酸またはそのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩、リコペン、およびベータ-カロテンである。還元剤の例は、シスチンおよびシステインである。キレート剤の例は、EDTAまたはそのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩である。
【0038】
本発明の医薬組成物の製剤、特に、錠剤の形態における製剤は、慣用の方法によって、上述の添加剤を使用して調製することができる。製剤は、例えば、PPARγアゴニストもしくはMPC阻害薬またはそれらの塩、例えば、グリタゾンまたはその塩(例えば、塩酸ピオグリタゾン)と、添加されてもよい賦形剤とを混合し、混合物を造粒し、造粒物を乾燥させ、必要に応じて篩にかけ、添加されてもよい滑剤(例えば、ステアリルフマル酸ナトリウム)をそれらと混合し、得られた造粒物または混合物を成形プレスする。混合は、Vミキサー、タンブルミキサー等の混合機を用いて行うことができる。造粒は例えば、高速混合造粒機、流動床乾燥造粒機等を用いて行うことができる。圧縮を行うことができる。錠剤は、打ち抜きによって、例えば、シングルパンチ打錠機、回転錠剤打錠機等を用いて成形することができる。
【0039】
必要に応じて、コーティングは、医薬調製物の技術分野において慣用の方法に従って、特に遅延調製製剤の場合に、適用することができる。加えて、マーキングのためのマーキングもしくは文字、または錠剤を分割するための分離線を適用することができる。コーティング基剤の例は、糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基剤、腸溶性コーティング基剤、遅延フィルムコーティング基剤等である。
【0040】
糖衣基剤としてスクロースを使用することができ、さらに、タルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナウバワックス等から選択される1種以上を組み合わせて使用することができる。水溶性フィルムコーティング基材の例は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロースポリマー;ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE[オイドラギットE(商品名)]、ポリビニルピロリドン等の合成ポリマー;プルラン等の多糖類を含む。腸溶性コーティング基剤の例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート等のセルロースポリマー;メタクリル酸コポリマーL[オイドラギットL(商品名)]、メタクリル酸コポリマーLD[オイドラギットL-30D55(商品名)]、メタクリル酸コポリマーS[オイドラギットS(商品名)]等のアクリル酸ポリマー;セラック等の天然物を含む。
【0041】
遅延フィルムコーティング基材の例は、エチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロースポリマー;アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS[オイドラギットRS(商品名)]、エチルアクリレートメチルメタクリレートコポリマー懸濁液[オイドラギットNE(商品名)]等のアクリル酸ポリマー等を含む。
【0042】
さらに、コーティングのためのコーティング添加剤を使用することができる。コーティング添加剤の例は、光安定剤および/または着色剤、例えば酸化チタン、タルク、赤色酸化鉄等;可塑剤、例えばポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、ヒマシ油、ポリソルベート等である。
【0043】
一実施形態において、本発明によるPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬を含有する医薬組成物は、即時放出のために、または別の実施形態においては遅延放出のために、製剤化されてもよい。
【0044】
活性薬剤の遅延放出を有する遅延製剤として具体化される場合、そのような遅延製剤は、典型的には2時間後に25~58%、4時間後に60~100%の放出を有する。放出は、パドル法(US薬局方)に従って、50rpm(試験溶液として、37℃のKCL/HCl緩衝液(pH=2))の溶解試験系において測定することができる。1mgの活性薬剤を有する遅延製剤の、特に経口投与後の錠剤のCmax値は、即時放出製剤と比較して、好ましくは10~90%内、好ましくは30~80%である。従って、Cmax値は、好ましくは即時放出製剤のピーク濃度未満である。これらの条件下で、標的AUC値はまた、即時放出製剤と比較して、50~150%または60~140%の範囲内である。
【0045】
上述のように、製剤は、遅延フィルムコーティング基材を有するフィルムコーティングを使用することによって、遅延調製物として提供することができる。あるいは、遅延製剤は、ゲル形成ポリマー、特に、ポリエチレンオキシド(例えば、100,000~10,000,000、好ましくは300,000~8,000,000の分子量を有する)、ヒプロメロース(例えば、20,000~500,000、好ましくは20,000~250,000の分子量を有する)、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、Na-クロスカルメロース、および前述のポリマーの混合物から選択されるゲル形成ポリマーを含有してもよい。遅延製剤中のポリマー成分の割合は、10~90%、好ましくは30%~80%、または50%~80%であり得る。遅延調製物の放出速度は、ポリエチレンオキシド等のゲル形成ポリマーの量および分子量を変更することによって制御することができる。
【0046】
遅延製剤は、例えば、ゲル形成促進剤を含有することもでき、当該ゲル形成促進剤は、ゲル形成ポリマーが膨潤し始める前に水の浸透をサポートする。それは、例えば、ラクトース、グルコース、マンニトール、トレハロース、d-ソルビトール、キシリトール、スクロース、マルトース、ラクツロース、d-フルクトース、デキストラン、グルコース等の水溶性親水性化合物、またはポリエチレングリコール等の水溶性ポリマーであり得る。水不溶性の親水性化合物、例えば、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、クロスポビドン、結晶性セルロース等を使用することも可能である。
【0047】
本発明による医薬組成物の経口製剤、特に錠剤を提供するために、ゲル形成ポリマーを用いてこのような遅延製剤を製造する場合に、上述のように、ゲル形成ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド)および任意でゲル形成促進剤(例えば、d-マンニトール、ラクトース)を、造粒される混合物に添加することができる。ゲル形成性ポリマーを含有する遅延調製は、さらに、急速なゲル化を示すことができる。これは、顆粒中への水の浸透を防止する1つの構成要素(ヒドロキシポリマー、結合剤等)をカプセル化することによってそのゲル形成機能が改善され、水浸透を防止する前記構成要素を表面改質剤でコーティングすることによって水浸透の経路が確保されるためである。これは、活性薬剤のゼロ次放出を可能にする。さらに、食物摂取による体内の物理的刺激に耐えるために必要な強度を付与することができる。
【0048】
経口投与用の錠剤の重量は、典型的には40~600mg、好ましくは60~480mg、より好ましくは60~200mg、さらにより好ましくは100~200mgである。
【0049】
本発明に従って使用されるPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特に本発明に従って使用されるグリタゾンは、小児および成人に投与することができる。本発明によれば、これは、特に小児治療、すなわち、例えば1~12歳の小児の小児治療を可能にする。
【0050】
PPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特に医薬組成物の活性薬剤としてのグリタゾンは、典型的には性別、年齢、体重、原発性先天性心筋症の形態、進行、治療期間、および重症度、ならびにPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特にグリタゾンの選択に応じて、1~30mg、特に5~15mgの1日用量で投与することができる。投与は、1日に1回または1日に複数回であり得る。小児を治療する場合、錠剤形態以外の活性薬剤の製剤が必要であり得る。液体製剤またはカプセル製剤は、小児の治療のために好ましい場合がある。
【0051】
本発明に従って使用されるPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特に本発明に従って使用されるグリタゾンまたはそれを含有する医薬組成物はまた、併用療法において使用することもできる。従って、例えば、グリタゾンの活性薬剤クラスの2つ以上の活性薬剤、すなわち、例えばロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを互いに組み合わせることができる。さらなる併用療法は、本発明に従って使用される1つ以上のPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特に1つ以上のグリタゾン、またはそれを含有する1つ以上の医薬組成物を、対症療法に適用される先行技術による少なくとも1つの標準療法と組み合わせて含んでいてもよい。組み合わせて使用されるこの標準療法は、ベータ遮断薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンI受容体遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト、カルシウムアンタゴニスト、抗不整脈薬、およびミオシンモジュレーターから選択される群からの活性薬剤を、特にミオシンアクチン架橋結合を減少させるために、好ましくはマバカンテン(6-[[(1S)-1-フェニルエチル]アミノ]-3-プロパン-2-イル-1H-ピリミジン-2,4-ジオン)を投与することによって提供することができる。
【0052】
原発性先天性心筋症の群からの本明細書に開示される疾患の予防または治療のための薬物、例えば本発明に従って本明細書に開示されるような薬学的組成物を調製するための、本発明に従って開示されるPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬の1つ以上、特にグリタゾン類の群からの化合物の使用もまた開示される。
【0053】
最後に、原発性先天性心筋症の群からの疾患の予防または治療のための方法が本発明に従って開示され、ここで、本発明に従って本明細書に開示されるように、薬学的有効量の1つ以上のPPARγアゴニストまたはMPC阻害薬、特に有効量の1つ以上のチアゾリジン-2,4-ジオン(グリタゾン)またはそれを含有する医薬組成が、対象に投与される。
【0054】
〔図面〕
図は以下を示す:
図1 肥大型心筋症の病因(
図1a:心筋のサルコメア構造を示す;
図1b:心筋疾患ならびに心筋疾患を引き起し得る機構的原因および因子を示す)。
【0055】
図2 心筋収縮過多の相関としての心エコー検査の手段による、左室画分短縮([(左室拡張終期径-左室収縮終期径)/左室拡張終期径]×100)(%)の決定:実験開始6週間後に、野生型(WT)マウスと比較して(p=有意ではない)、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された亢進した直径左室収縮の進行は、ロシグリタゾン(Rosi)での経口処置によって有意に阻害される(p=0.046)。ロシグリタゾン(5mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスは、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、減少した左室画分短縮を示した。
【0056】
図3 心筋肥大の相関としての心エコー検査の手段による、心臓の左室壁の最大厚さの決定:実験開始6週間後に、野生型(WT)マウスと比較して(p=0.032)、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の進行は、ロシグリタゾン(Rosi)での経口処置によって有意に阻害される(p=0.046)。ロシグリタゾン(5mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスは、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、左室の厚さの減少を示した。
【0057】
図4 心筋肥大の相関としての心臓対体重比(臓器除去後のex vivoでの相対心筋質量)の提示:実験開始6週間後に(p=0.008)、野生型(WT)マウスと比較して、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の進行は、ピオグリタゾン(Pio)での処置によって完全に阻害される(p=0.008)。ピオグリタゾン(10mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスにおけるex vivoでの心臓対体重比は、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、有意に減少している。
【0058】
図5 蛍光ATPアナログを用いたSRX(超弛緩)状態と比較したDRX(無秩序弛緩)における左室心筋ミオシンのパーセンテージの実験。未処置αMHC
719/+マウスと比較して、ピオグリタゾンでの処置は、野生型マウスと同様に、SRX状態への有意なシフトをもたらす。従って、ピオグリタゾンを用いたHCMマウスモデルの処置はまた、左室心筋組織の機能的特性にもポジティブな効果を有する。このMant-ATPアッセイの結果は、ピオグリタゾンで処置したマウスにおいて、肥大型心筋症の原因であると記載されているミオシンの生物物理学的特性における変化を防ぐことが可能であることを示している。未処置のαMHC
719/+マウスは、典型的な生物物理学的変化(「無秩序弛緩」(DRX)状態におけるミオシンの有意な増加)の形質を示したが、ピオグリタゾンによる処置は、これらの異常の正常化をもたらした。
【0059】
図6 6週間後の、ピオグリタゾン(PIO)による処置を伴うおよび処置を伴わない、野生型(WT)およびHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋の組織病理学;心筋線維症は、マッソンの三重染色組織切片において中程度の灰色で現れる。野生型マウスは、線維症をほとんど有さない(ピオグリタゾンによる処置を伴わないWT(A)および処置を伴うWT(B))。HCMマウスは、重度の心筋線維症を示す((C)における白色矢印)。ピオグリタゾンによる処置は、心筋線維症の形成をほぼ完全に防ぐ(D)。(E)ImageJツールにおける、マッソンの三重染色組織切片におけるコラーゲンの半自動閾値検出後に、未処置のHCMマウスと比較して、ピオグリタゾンによって処置したHCMマウスにおける繊維症は有意に少ない(p=0.017)。従って、組織病理学的検査は、全体として、未処置αMHC
719/+マウスと比較して、ピオグリタゾン(10mg/kg体重/日、経口)によって処置したαMHC
719/+マウスの左室心筋において有意に少ない線維症を示す。
【0060】
図7 6週間後の、野生型マウス(WT)と比較した、未処置HCMマウスおよびN-アセチルシステイン(NAC)またはロシグリタゾン(Rosi)によって処置したHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋におけるPPARγmRNAの相対的発現;***:p<0.001。心筋におけるPPARγmRNA発現に対するPPARγアゴニストの効果に関して、野生型マウスと比較して、αMHC
719/+マウスの心筋におけるPPARγのmRNA発現が有意に低下していると言える。チアゾリジンジオン類(ロシグリタゾン)の経口投与は、PPARγの心筋mRNA発現を、再びほぼ完全に野生型レベルまで増加させる。
【0061】
図8 Acta1、Col1a1、Col1a2、Cyba、Gdf15、Hif1a、Icam1、IL33、Mmp2、Nfkb1、Nox4、Nppa、Postn、Tgfb1、Tgfb2、およびTgfb3等の肥大促進性、線維化促進性、および炎症促進性の遺伝子のmRNA発現は、野生型マウス(WT)と比較して、αMHC
719/+ HCMマウス(HET)の左室心筋において増加する(HET/WT)。HCMマウスをピオグリタゾン(PIO)で処置することによって、肥大促進性、線維化促進性、および炎症促進性のシグナル伝達経路に関与し且つその活性化が心筋の病理学的リモデリングにおいて説明されている、これらのタンパク質の過剰発現が、有意に減少するかまたは完全に防がれる(HET+PIO/HET)。*:p<0.001。
【0062】
図9 電子常磁性共鳴分光法(EPR)によって決定される、酸化ストレスの発現としてのラジカル酸素種(ROS)の形成は、実験の開始から6週間後に、野生型マウス(WT)と比較して、HCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋において有意に増加する。ポグリタゾンで処置したHCMマウスの左室心筋におけるラジカル酸素種の産生は、未処置のHCMマウスと比較して有意に減少し(p=0.053)、野生型マウスにおいて測定された値に匹敵する。酸化ストレスの減少:PPARγアゴニストによる処置は、酸化還元シグナル伝達経路における主要な転写因子である低酸素誘導性因子1-αの発現の減少をもたらす。その結果、左室心筋において生成されるラジカル酸素種が少なくなり、それによって細胞の酸化ストレスを低下させる。心筋の病理学的リモデリングに対する保護効果が観察された。
【0063】
【0064】
図11 実験セットアップCによる実験/実験記録の設計。
【0065】
図12 心エコー検査の手段による、心筋肥大との相関としての心臓の左室の壁の最大厚さの決定:野生型と比較した、試験開始6週間後の未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の発達(WT対αMHC
719/+:p<0.001)は、ピオグリタゾンの(R)-立体異性体による経口処置(10mg/kg/日)によって有意に阻害される(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(R)-Pio:p<0.001)。この効果は、ピオグリタゾンの(S)-立体異性体(10mg/kg/日)で処置したαMHC
719/+マウスにおいては、それほど顕著ではない(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(S)-Pio:p=0.072)。
【0066】
図13 心筋の組織病理学的切片を用いた心筋線維症の決定。心筋線維症(マッソンの三重染色組織切片において青色に着色された)の徴候は、それぞれの場合において互いに独立して、2人の盲検試験者によって半定量的に決定された。割り当てられたスコアは0~3であった:0:線維症なし、1:軽度の線維症、2:中等度の線維症、3:重度の線維症、0.5:線維症なし~軽度の線維症、1.5:軽度~中等度の線維症、2.5:中等度~重度の線維症、3:重度の線維症。
【0067】
野生型マウスと比較した、実験開始6週間後の未処置HCMマウス(αMHC719/+)において観察された強い心筋線維症の発達(WT対αMHC719/+:p<0.001)は、ピオグリタゾンのR-立体異性体(10mg/kg/日)による経口処置によって有意に阻害される(αMHC719/+対αMHC719/+プラス(R)-Pio:p=0.01)。この効果は、ピオグリタゾンのS-立体異性体(10mg/kg/日)で処置したαMHC719/+マウスにおいて見られない(αMHC719/+対αMHC719/+プラス(S)-Pio:p=0.916)。
【0068】
図14 1匹の野生型(WT)マウスおよび3匹のHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋の組織病理学的切片の例示的描写。3匹のHCMマウスのうち、1匹は未処置(αMHC
719/+)であり、1匹はピオグリタゾンのR-立体異性体(10mg/kg/日)で処置し(αMHC
719/+(R)-Pio)、1匹はピオグリタゾンのS-立体異性体(10mg/kg/日)で処置した(αMHC
719/+(S)-Pio)。
【0069】
〔例示的実施形態〕
チアゾリジンジオン類(実験セットアップA/B)またはチアゾリジンジオンのそれぞれの立体異性体(実験セットアップC/D)によるHCMの処置に関する前臨床研究
A)実験セットアップ
野生型マウスおよび遺伝子改変マウスを処置し、未処置マウスと比較した。遺伝子改変マウス系統の実験は、病態生理学的現象のための特定の遺伝子の関連性の評価を可能にする。サルコメア突然変異によって引き起こされる肥大型心筋症の場合、進行性心筋肥大、拡張期心機能および収縮期心機能の障害、心筋細胞のカオス的配列を伴う心筋の構造的リモデリング(「筋細胞の乱れ」)、ならびに線維症および不整脈が、関係する患者の心臓において生じる。ある種の遺伝的に生成された肥大型心筋症のマウスモデルの表現型は、関係する患者の表現型と非常に類似しているので、これらのモデルは、疾患の全体論的実験に適している36,37。
【0070】
心臓のマウスα-ミオシン遺伝子の重鎖の719位におけるアルギニンからトリプトファンへの変異が相同組換えによってもたらされる、確立されたHCMマウスモデル(αMHC719/+と呼ぶ)において試験を行った38。このような遺伝子改変マウスは、年齢の増加に伴って、心筋肥大および線維症等の肥大型心筋症の典型的な病理学的疾患特性をますます発達させる。従って、この遺伝的に生成されたHCMマウスモデルの表現型は、罹患したHCM患者の表現型をシミュレートする36,37,38。カルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンA(CsA)の皮下投与によって、前記疾患の徴候が促進され得る9。
【0071】
動物は、出生後3週目に遺伝子型を決定された。
【0072】
出生後6週目から12週目の間に、すべてのマウスにシクロスポリンA(CsA)を皮下注射して、HCMマウスモデルにおける、心筋における肥大型リモデリングを促進した
9。出生後6週目から12週目の間に、マウスの半数を、PPARγアゴニストである、チアゾリジンジオン類の群からのロシグリタゾンおよびピオグリタゾンで処置した。出生後12週目に、それらはin vivo経胸壁心エコー検査を受けた。次いで、動物をex vivo試験(器官除去、組織病理学、および組織中のmRNAおよびタンパク質発現のラジカル酸素種の決定)のために安楽死させた(
図10を参照されたい)。D
【0073】
肥大型心筋症マウス系統(αMHC719/+)の雄動物は雌動物と比較してより顕著な疾患表現型を有するので39,37,38、試験のために雄マウスのみを使用した。群の大きさは11匹であり、分析目的のために、1群あたり少なくとも6匹の動物を他と比較した。
【0074】
左室壁厚さおよび心室機能のin vivo表現型決定は、上記のように、経胸壁心エコー検査の手段によって行った40,41,39。
【0075】
心エコー検査による試験は、次のとおり行う。具体的には、ケージからマウスを取り除き、動物を秤量しおよび視覚評価をし、30分間の観察後に腹腔内ミダゾラムにより軽度に鎮静させ、その後の標準化され公表された標準プロトコールに従った心エコー検査を行う39,41,37,40。
【0076】
マウスを秤量し、安楽死させて、心臓対体重比を計算した。胸部を迅速に開き、心臓を取り出し、冷PBS溶液中で2回洗浄した。大血管および結合組織を除去し、心臓を交換して乾燥させ、秤量し、マウスの心臓の重量および体重を測定した。
【0077】
心筋線維症を定量するために、除去した心臓を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、脱水し、上記のように、パラフィン中に置いた37,42,43。5μm切片を、マッソンの三重染色およびヘマトキシリン-エオシン染色した。心筋線維症の程度は、全体的に染色された心筋に対するマッソンの三重染色で青色に染色された心筋部分のパーセンテージを計算することによるデジタル化された方法によって定量化した。血管周囲および壁内の構造、心内膜、または骨梁は、線維症のパーセンテージの計算において除外した。
【0078】
心筋ミオシンATPアーゼ活性は、心筋細胞の収縮性および弛緩を心筋ミオシンATPアーゼの活性を測定することによって間接的に調べる、Mant-ATPアッセイによって測定した。この目的のために、Mant-ATPアッセイ(Roche)を異なるマウス群の左室心筋に適用し、液体窒素中でショック凍結し、-80℃にて凍結状態で保存した。Mant-ATPは、蛍光性の非加水分解性ATPであり、心臓ミオシンの頭部に結合する。前記アッセイは、ATPを加えた後のMant-ATPの放出を測定する44,45。
【0079】
電子常磁性共鳴(EPR)を、左室心筋におけるラジカル酸素種(ROS)の生成を計算するために、記述したように適用した46-48。要約すれば、左室心筋を、Krebs-HEPES緩衝液(pH7.35;99mM NaCl,4.69mM KCl,25mM NaHCO3,1.03mM KH2PO4,5.6mM D-グルコース,20mM Na-HEPES,2.5mM CaCl2,1.2mM MgSO4)中で2回洗浄し、次いで25μMデスフェロキサミン、5μMジエチルジチオカルバメート、および100μMスピトラップ1-ヒドロキシ-3-メトキシカルボニル-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン(CMH;Noxygen)を補充したKrebs-HEPES緩衝液中で、20分間、氷上でインキュベートした。ROS生成の分析は、温度制御下のEscan EPR分析計(Noxygen)において、マイクロ波出力23.89mW;中心磁場3459~3466G;急勾配幅10G、周波数9.7690GHzおよび変調振幅2.93Gのパラメータを用いて、37℃で10分間、20スキャンで行った。線形回帰の手段によってROS生成を計算し、細胞タンパク質含量に対して正規化した。
【0080】
統計解析は、SPSS(Statistical Package for Social Sciences,IBM,シカゴ,IL,バージョン22)によって行った。データは、中央値、四分位数、最小値および最大値としてボックスプロット内に示される。異なる群の中央値を、Mann-Whitney検定(Wilcoxon検定、ノンパラメトリックデータ)を用いてチェックした。
【0081】
RNA単離は、製造業者の指示に従って、左室心筋から、peqGOLD全RNAキット(Peqlab)の手段によって行った。500ngの全RNAから第一鎖cDNAを合成し、これをランダムヘキサマー(TIB Molbiol)を用いて逆転写した(Reverse Transcriptionキット,Invitrogen)。RtPCR分析は、QIAGEN Rotor-Gene Q(Corbett Rotor-Gene 6000)において、Perfecta SYBR Green fast Mix(VWR,ドイツ)を用いて実施する。定量は、ΔCT計算および無作為化検定49,50の手段によって行う。
【0082】
鎖特異的、ポリA富化RNAシークエンシングを、上述のとおり実施した51。RNAは、AllPrep RNAキット(Qiagen)を用いて単離した。RNAインテグリティーナンバー(RIN)は、Agilent 2100 BioAnalyzer(RNA 6000 Nanoキット,Agilent)を用いて決定した。ライブラリーを調製するために、1μgのRNAをポリ(A)選択し、断片化し、そしてElute,Prime,Fragment Mix(Illumina)で逆転写した。Aテーリング、アダプターライゲーション、およびライブラリー濃縮は、TruSeq Stranded mRNA Sample Prep Guide(Illumina)に記載されているように実施した。RNAライブラリーを、Agilent 2100 BioAnalyzerおよびQuant-iT PicoGreen dsDNAアッセイキット(Life Technologies)を用いて、品質および量について試験した。RNAライブラリーを、Illumina HiSeq4000プラットフォーム上で100bpのペアエンドランとして配列決定した。ヒトゲノムアセンブリーhg19(GRCh37)およびUCSC knownGene annotationに対するスプリットリードアラインメントのために、修正されたパラメータ設定(--twopassMode=Basic)を用いたSTARアライナー(バージョン2.4.2a)52を使用した。HTseq-count(バージョン0.6.0)53を用いて、アノテーションされた遺伝子にマッピングされたリードの個数を定量した。FPKM値(100万個のマッピング断片当たりの1キロベースの転写物当たりの断片)は、カスタムスクリプトを使用して計算した。示差的発現解析は、R Bioconductor package DESeq254を用いて行った。
【0083】
B)結果のまとめ
要約すれば、前臨床αMHC
719/+HCMマウスモデルで得られた結果は、HCM患者における最も頻繁な遺伝子突然変異と類似して、野生型マウスと比較して、左室心筋におけるPPARγのダウンレギュレーションがαMHC
719/+マウスモデルにおいて起こること、およびPPARγアゴニストであるロシグリタゾンおよびピオグリタゾンの経口投与が、一方では心筋細胞における生物物理学的特性の変化を、他方ではHCMマウスモデルにおける心筋肥大および線維症の発症を、大幅に防ぐことを示す。心エコー検査によって決定される収縮過多、および野生型マウスと比較したHCMマウスにおける左室の厚さの強い増加は、PPARγアゴニストであるロシグリタゾンで処置した場合、有意に減少する。ピオグリタゾンでの処置はまた、HCMマウスモデルの左室心筋において記載される機能的生物物理学的変化、ならびに肥大促進性、線維化促進性、および炎症促進性遺伝子の過剰発現を防ぐ。これらの保護効果の少なくともいくつかは、とりわけ、低酸素誘導性因子α(HIF1α)の活性化が阻害されることに起因すると考えられる
55。その結果、酸化還元系が阻害され、心筋の酸化ストレスが軽減される。この仮説は、ピオグリタゾンで処置したHCMマウスの左室心筋において測定したラジカル酸素種の有意な減少によっても支持される。従って、前臨床HCMマウスモデルは、例えばチアゾリジンジオンピオグリタゾンまたはロシグリタゾンなどのPPARγアゴニストによる薬物処置が、肥大型心筋症における心筋の病理学的リモデリングを有意にまたはほぼ完全に予防し得ることを示した。これらの実験の結果を
図2~
図9に示す。
【0084】
C)実験セットアップ
この実験プロトコールは、実験セットアップAについて記載したものと同じ肥大型心筋症マウスモデルにおける、チアゾリジンジオン(ピオグリタゾン)((S)-および(R)-立体異性体)の2つの立体異性体の作用を調べた。従って、実験セットアップは、Aによる前記実験セットアップと同様である。
【0085】
A)下の実験セットアップにおける実験に示されるように、野生型マウスおよび遺伝子改変マウスを処置し、未処置マウスと比較した。遺伝子改変マウス系統の実験は、病態生理学的現象のための特定の遺伝子の関連性の評価を可能にする。実験セットアップAに記載されているように、肥大型心筋症マウス系統(αMHC719/+)の雄動物は雌動物と比較してより顕著な疾患表現型を有するので39,37,38、実験には雄マウスのみを使用した。従って、A)による実験セットアップの上記の説明を参照することができる。
【0086】
動物は、出生後3週目に遺伝子型を決定された(実験セットアップAにも記載)。出生後6週目から12週目の間に、65匹すべてのマウスに1日用量30mg/kgのシクロスポリンA(CsA)を経口投与した。シクロスポリンA(CsA)は、HCMマウスモデル
56において心筋における肥大性リモデリングを促進するためにペレット飼料に添加した。出生後6週目から12週目の間に、(a)13匹のWTマウスおよび9匹のαMHC
719/+マウスを、さらにチアゾリジンジオンの(R)-立体異性体(ピオグリタゾン)(10mg/kg/日)で経口的に処置するか、または(b)12匹のWTマウスおよび11匹のαMHC
719/+マウスを、さらに(S)-立体異性体(ピオグリタゾン)(10mg/kg/日)で経口的に処置した。出生後12週目に、それらはin vivo経胸壁心エコー検査を受けた。次いで、動物をex vivo試験(器官除去および組織病理学)のために安楽死させた(
図11を参照)。
【0087】
実験セットアップAに示されているように、左室壁厚さおよび心室機能のin vivo表現型決定は、上記のように、経胸壁心エコー検査の手段によって行った40,41,39。
【0088】
心エコー検査による試験は、次のとおり行った。具体的には、マウスをケージから取り除き、動物を秤量しおよび視覚評価をし、30分間の観察後に意識のある動物において標準化され公表された標準プロトコールに従った心エコー検査を行った39,41,37,40。線維症を定量するために、除去した心臓を4%のパラホルムアルデヒド中で固定し、脱水し、上記のようにパラフィン中に置いた37,42,43。5μm切片をマッソンの三重染色で染色した。心筋線維症の半定量化は、2人の盲検試験者によって互いに独立して行われた。この目的のために、全体的に染色された心筋に対するマッソンの三重染色で青色に染色された心筋部分のパーセンテージを計算した。血管周囲および壁内の構造、心内膜、および骨梁は、線維症のパーセンテージの計算において除外した。分類は、「線維症なし」、「軽度の線維症」、「中等度の線維症」、および「重度の線維症」であった。
【0089】
実験セットアップAに記載のように、統計解析は、SPSS(Statistical Package for Social Sciences,IBM,シカゴ,IL,バージョン22)によって行った。データは、中央値、四分位数、最小値および最大値としてボックスプロット内に示される。異なる群の中央値を、Mann-Whitney検定(Wilcoxon検定、ノンパラメトリックデータ)を用いてチェックした。
【0090】
D)結果のまとめ
実験セットアップC)による実験の結果を
図12~14に示す。要約すると、HCMマウス(αMHC
719/+)をチアゾリジンジオンの(R)-立体異性体(ピオグリタゾンの例を用いて)での処置は、心筋の肥大および線維症の有意な減少をもたらすと言うことができる。ピオグリタゾンの(S)-立体異性体によるHCMマウス(αMHC
719/+)の処置は、心筋の肥大の減少をもたらす傾向があるが(p=0.072)、心筋線維症の減少をもたらさない傾向がある。
【0091】
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【0092】
上記で引用された文献は、その全体が本出願の開示に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1a】肥大型心筋症の病因(
図1a:心筋のサルコメア構造を示す)。
【
図1b】肥大型心筋症の病因(
図1b:心筋疾患ならびに心筋疾患を引き起し得る機構的原因および因子を示す)。
【
図2】心筋収縮過多の相関としての心エコー検査の手段による、左室画分短縮([(左室拡張終期径-左室収縮終期径)/左室拡張終期径]×100)(%)の決定:実験開始6週間後に、野生型(WT)マウスと比較して(p=有意ではない)、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された亢進した直径左室収縮の進行は、ロシグリタゾン(Rosi)での経口処置によって有意に阻害される(p=0.046)。ロシグリタゾン(5mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスは、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、減少した左室画分短縮を示した。
【
図3】心筋肥大の相関としての心エコー検査の手段による、心臓の左室壁の最大厚さの決定:実験開始6週間後に、野生型(WT)マウスと比較して(p=0.032)、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の進行は、ロシグリタゾン(Rosi)での経口処置によって有意に阻害される(p=0.046)。ロシグリタゾン(5mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスは、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、左室の厚さの減少を示した。
【
図4】心筋肥大の相関としての心臓対体重比(臓器除去後のex vivoでの相対心筋質量)の提示:実験開始6週間後に(p=0.008)、野生型(WT)マウスと比較して、未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の進行は、ピオグリタゾン(Pio)での処置によって完全に阻害される(p=0.008)。ピオグリタゾン(10mg/kg体重/日、経口)で処置したαMHC
719/+マウスにおけるex vivoでの心臓対体重比は、未処置のαMHC
719/+マウスと比較して、有意に減少している。
【
図5】蛍光ATPアナログを用いたSRX(超弛緩)状態と比較したDRX(無秩序弛緩)における左室心筋ミオシンのパーセンテージの実験。未処置αMHC
719/+マウスと比較して、ピオグリタゾンでの処置は、野生型マウスと同様に、SRX状態への有意なシフトをもたらす。従って、ピオグリタゾンを用いたHCMマウスモデルの処置はまた、左室心筋組織の機能的特性にもポジティブな効果を有する。このMant-ATPアッセイの結果は、ピオグリタゾンで処置したマウスにおいて、肥大型心筋症の原因であると記載されているミオシンの生物物理学的特性における変化を防ぐことが可能であることを示している。未処置のαMHC
719/+マウスは、典型的な生物物理学的変化(「無秩序弛緩」(DRX)状態におけるミオシンの有意な増加)の形質を示したが、ピオグリタゾンによる処置は、これらの異常の正常化をもたらした。
【
図6】6週間後の、ピオグリタゾン(PIO)による処置を伴うおよび処置を伴わない、野生型(WT)およびHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋の組織病理学;心筋線維症は、マッソンの三重染色組織切片において中程度の灰色で現れる。野生型マウスは、線維症をほとんど有さない(ピオグリタゾンによる処置を伴わないWT(A)および処置を伴うWT(B))。HCMマウスは、重度の心筋線維症を示す((C)における白色矢印)。ピオグリタゾンによる処置は、心筋線維症の形成をほぼ完全に防ぐ(D)。(E)ImageJツールにおける、マッソンの三重染色組織切片におけるコラーゲンの半自動閾値検出後に、未処置のHCMマウスと比較して、ピオグリタゾンによって処置したHCMマウスにおける繊維症は有意に少ない(p=0.017)。従って、組織病理学的検査は、全体として、未処置αMHC
719/+マウスと比較して、ピオグリタゾン(10mg/kg体重/日、経口)によって処置したαMHC
719/+マウスの左室心筋において有意に少ない線維症を示す。
【
図7】6週間後の、野生型マウス(WT)と比較した、未処置HCMマウスおよびN-アセチルシステイン(NAC)またはロシグリタゾン(Rosi)によって処置したHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋におけるPPARγmRNAの相対的発現;***:p<0.001。心筋におけるPPARγmRNA発現に対するPPARγアゴニストの効果に関して、野生型マウスと比較して、αMHC
719/+マウスの心筋におけるPPARγのmRNA発現が有意に低下していると言える。チアゾリジンジオン類(ロシグリタゾン)の経口投与は、PPARγの心筋mRNA発現を、再びほぼ完全に野生型レベルまで増加させる。
【
図8】Acta1、Col1a1、Col1a2、Cyba、Gdf15、Hif1a、Icam1、IL33、Mmp2、Nfkb1、Nox4、Nppa、Postn、Tgfb1、Tgfb2、およびTgfb3等の肥大促進性、線維化促進性、および炎症促進性の遺伝子のmRNA発現は、野生型マウス(WT)と比較して、αMHC
719/+ HCMマウス(HET)の左室心筋において増加する(HET/WT)。HCMマウスをピオグリタゾン(PIO)で処置することによって、肥大促進性、線維化促進性、および炎症促進性のシグナル伝達経路に関与し且つその活性化が心筋の病理学的リモデリングにおいて説明されている、これらのタンパク質の過剰発現が、有意に減少するかまたは完全に防がれる(HET+PIO/HET)。*:p<0.001。
【
図9】電子常磁性共鳴分光法(EPR)によって決定される、酸化ストレスの発現としてのラジカル酸素種(ROS)の形成は、実験の開始から6週間後に、野生型マウス(WT)と比較して、HCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋において有意に増加する。ポグリタゾンで処置したHCMマウスの左室心筋におけるラジカル酸素種の産生は、未処置のHCMマウスと比較して有意に減少し(p=0.053)、野生型マウスにおいて測定された値に匹敵する。酸化ストレスの減少:PPARγアゴニストによる処置は、酸化還元シグナル伝達経路における主要な転写因子である低酸素誘導性因子1-αの発現の減少をもたらす。その結果、左室心筋において生成されるラジカル酸素種が少なくなり、それによって細胞の酸化ストレスを低下させる。心筋の病理学的リモデリングに対する保護効果が観察された。
【
図11】実験セットアップCによる実験/実験記録の設計。
【
図12】心エコー検査の手段による、心筋肥大との相関としての心臓の左室の壁の最大厚さの決定:野生型と比較した、試験開始6週間後の未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋肥大の発達(WT対αMHC
719/+:p<0.001)は、ピオグリタゾンの(R)-立体異性体による経口処置(10mg/kg/日)によって有意に阻害される(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(R)-Pio:p<0.001)。この効果は、ピオグリタゾンの(S)-立体異性体(10mg/kg/日)で処置したαMHC
719/+マウスにおいては、それほど顕著ではない(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(S)-Pio:p=0.072)。
【
図13】心筋の組織病理学的切片を用いた心筋線維症の決定。心筋線維症(マッソンの三重染色組織切片において青色に着色された)の徴候は、それぞれの場合において互いに独立して、2人の盲検試験者によって半定量的に決定された。割り当てられたスコアは0~3であった:0:線維症なし、1:軽度の線維症、2:中等度の線維症、3:重度の線維症、0.5:線維症なし~軽度の線維症、1.5:軽度~中等度の線維症、2.5:中等度~重度の線維症、3:重度の線維症。 野生型マウスと比較した、実験開始6週間後の未処置HCMマウス(αMHC
719/+)において観察された強い心筋線維症の発達(WT対αMHC
719/+:p<0.001)は、ピオグリタゾンのR-立体異性体(10mg/kg/日)による経口処置によって有意に阻害される(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(R)-Pio:p=0.01)。この効果は、ピオグリタゾンのS-立体異性体(10mg/kg/日)で処置したαMHC
719/+マウスにおいて見られない(αMHC
719/+対αMHC
719/+プラス(S)-Pio:p=0.916)。
【
図14】1匹の野生型(WT)マウスおよび3匹のHCMマウス(αMHC
719/+)の左室心筋の組織病理学的切片の例示的描写。3匹のHCMマウスのうち、1匹は未処置(αMHC
719/+)であり、1匹はピオグリタゾンのR-立体異性体(10mg/kg/日)で処置し(αMHC
719/+(R)-Pio)、1匹はピオグリタゾンのS-立体異性体(10mg/kg/日)で処置した(αMHC
719/+(S)-Pio)。
【国際調査報告】