(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-12
(54)【発明の名称】溶解法
(51)【国際特許分類】
C08B 1/08 20060101AFI20240305BHJP
C08B 16/00 20060101ALI20240305BHJP
C08B 9/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08B1/08
C08B16/00
C08B9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559695
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2022056934
(87)【国際公開番号】W WO2022200158
(87)【国際公開日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523366971
【氏名又は名称】フタムラ・ケミカル・ユーケイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】コックロフト,マーティン・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ルーク
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090BA32
4C090BA33
4C090BD07
4C090BD35
4C090CA06
4C090CA40
4C090CA45
4C090DA10
4C090DA31
(57)【要約】
本発明は、アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む溶液の生成方法であって、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を高圧均質化に供する工程を包含する方法を提供する。
【選択図】
図1A、
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む溶液の生成方法であって、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を高圧均質化に供する工程を包含する、前記方法。
【請求項2】
高圧均質化の少なくとも一部の間の溶液の温度が0℃より高く、および/または高圧均質化中の溶液の温度が35℃を超えない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上の多糖類材料を最初に-5℃~10℃の温度の水と混合する、請求項1または請求項2に記載の方法であって、さらに、アルカリを-25℃~-10℃の温度に冷却した後、1以上の多糖類材料および水を含む混合物に添加して、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を生成してもよい、前記方法。
【請求項4】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を、所望により高剪断ミキサーを使用することによって、高圧均質化の前に処理して混合物の均質性を向上させる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物が複数の高圧均質化工程を経る、請求項1~4のいずれかに記載の方法であって、該混合物を、少なくとも2つの高圧均質化工程の間に-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃に冷却してもよい、前記方法。
【請求項6】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物が、1以上の高圧均質化工程すべての直後に-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃に冷却される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物が、高圧均質化の前、2以上の高圧均質化工程の間、および/または1以上の高圧均質化工程すべての後に、-5℃~15℃の温度に保持される、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1以上の多糖類材料の一部またはすべてを前処理アルカリ溶液で前処理する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前処理が、1以上の多糖類材料を前処理アルカリ溶液と混合し、1以上の多糖類材料を前記前処理アルカリ溶液から分離し、1以上の多糖類材料を酸で中和し、所望により1以上の多糖類材料を漂白剤で処理することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルカリおよび/または前処理アルカリ溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物が、1~10%w/wの多糖類材料、好ましくは2~8%w/wの多糖類材料と、1~15%w/wのアルカリ、好ましくは3~11%w/wのアルカリを含む、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
1以上の多糖類材料がセルロース材料を含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法であって、高圧均質化前のセルロース材料の重合度が500未満、好ましくは100~300であってもよい、前記方法。
【請求項13】
高圧均質化が100~1000barの圧力で行われる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第2の高圧均質化工程では第1の高圧均質化工程における圧力の15~30%の圧力を使用する、請求項5に記載の方法であって、高圧均質化工程の総合圧力が1000barを超えないことができる、前記方法。
【請求項15】
混合物中の1以上の多糖類材料の95%超、好ましくは98%超が、高圧均質化後にアルカリに溶解する、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む溶液であって、20℃で少なくとも2週間にわたり不可逆的ゲル化を起こさず、好ましくは20℃で少なくとも1カ月間にわたり不可逆的ゲル化を起こさない、前記溶液。
【請求項17】
多糖類含量が3~10%w/wであり、および/または溶液に溶解していない多糖類が3%未満、好ましくは1%未満である、請求項16に記載の溶液。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を用いて形成された、請求項16または請求項17に記載の溶液。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか一項に記載の溶液をビスコースに添加する工程を含む、ビスコース溶液の形成方法。
【請求項20】
ビスコース溶液がビスコースおよび請求項16~18のいずれか一項に記載の溶液を含む、前記ビスコース溶液。
【請求項21】
請求項16~18のいずれか一項に記載の溶液であって、多糖類材料がセルロース材料である溶液、または請求項20に記載のビスコース溶液を、酸性溶液と接触させる工程を含む、再生セルロース製品の形成方法。
【請求項22】
再生セルロース製品が、フィルム、繊維、またはビーズもしくは発泡体などの造形品である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21または請求項22に記載の方法を用いて生成された再生セルロース製品。
【請求項24】
製品が、請求項16~18もしくは20の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムの正規化ピークエネルギーよりも30%超大きい正規化ピークエネルギー、および/または請求項16~18もしくは20の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムの破壊時の変位よりも10%超大きい破壊時の変位を有するフィルムである、請求項23に記載の再生セルロース製品。
【請求項25】
30%超、好ましくは45%超の横断方向の破断点伸びを有する、再生セルロースフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリに溶解した1以上の多糖類材料、とりわけセルロースを含む溶液の生成方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
セルロースなどの多糖類をアルカリに溶解して、多糖類のさらなる処理を可能にすることは周知である。セルロースの場合、このさらなる処理は、フィルム、繊維または造形品の形態にある再生セルロース製品の生成を包含することができる。アルカリに多糖類を溶解することは、単純であるため、そして、リサイクル可能で、安価で、広く利用可能な試薬を使用するため、とりわけ魅力的である。しかしながら、水酸化ナトリウムなどのアルカリに多糖類を直接溶解させるためには、極めて低い温度が必要である。
【0003】
Budtova et al., “Cellulose in NaOH-water based solvents: a review”, Cellulose, Springer Verlag, 2016, 23 (1), 5~55頁は、NaOHベースの水溶液へのセルロースの溶解について論じる総説であり、水酸化ナトリウムへのセルロースの混合および溶解には低い温度が必須であると考えられることが明らかにされている。しかしながら、この文書で論じられているように、溶液の安定性には問題があり、多くの溶液は形成後すぐにゲル化する。
【0004】
国際公開WO2007060296号にはセルロースカルバメート溶液の調製方法が記載されており、該方法では、アルカリ性水溶液へのセルロースカルバメートの溶解が、さまざまな濃度の溶液を用いて2工程で行われる。最初に、セルロースカルバメートを、最大で4%のアルカリ濃度を有する冷却された希NaOH溶液中に、好ましくは5℃未満の温度で混合する。第2の工程では、アルカリの残余を、強力な撹拌下、約15~22%の濃度および-15℃未満の温度で投入する。したがって、この文書は、溶解プロセスの全体にわたって溶液を低温に保つ必要があることを明示している。
【0005】
国際公開WO2017178531号には、紡糸液組成物の生産方法が記載されており、該方法は、セルロース系パルプ材料をアルカリ溶液中で激しく混合することを包含する均質化であって、激しい混合が、均質化工程で使用される攪拌機に少なくとも150kW/m3の出力密度を供給することを意味する前記均質化と、その後の、セルロース性パルプ材料をアルカリ溶液中で混合して紡糸液組成物を得ることを包含する溶解とを含む。溶解工程で使用される攪拌機に供給される出力密度は、最大75kW/m3である。アルカリ溶液中のセルロース系パルプ材料は、均質化の間および溶解の少なくとも一部の間、0℃未満の温度に保たれる。
【0006】
したがって、多糖類材料の溶液の生成方法であって、当技術分野でこれまでに使用されていた温度よりも高い温度で実施することができ、その結果、従来の低温を維持するために必要とされる機器およびエネルギーを必要としない方法が、当技術分野で依然として必要とされている。また、当技術分野では、ゲル安定性が改善された多糖類材料の溶液が依然として必要とされている。さらに、当技術分野では、機械的特性が改善された多糖類製品が依然として必要とされている。
【0007】
分散液または懸濁液を生成するために均質化を使用することは当技術分野で公知であり、例えば、中国特許CN104312809号には、処理された微結晶質セルロースを水中で高圧均質化して、均質化された微結晶質懸濁液を作製することが記載されている。
【0008】
中国特許CN108359019号には、均質な固体および均質な液体を生成するための、50~55kPaの圧力でのウコン供給溶液の高圧均質化について記載されている。
中国特許CN107400177号には、加水分解されたタンパク質を抽出するための、2%亜硫酸ナトリウムに溶解したヒマワリ種子粉の均質化について記載されている。
【0009】
米国特許出願公開US2020248405号には、ナノセルロース分散液を形成するための、高剪断または高圧による粉砕セルロース系材料の分散液の均質化について記載されている。
【0010】
上記先行技術には、材料、例えばセルロース系材料の均質化により分散液または懸濁液を生成する条件が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO2007060296号
【特許文献2】国際公開WO2017178531号
【特許文献3】中国特許CN104312809号
【特許文献4】中国特許CN108359019号
【特許文献5】中国特許CN107400177号
【特許文献6】米国特許出願公開US2020248405号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Budtova et al., “Cellulose in NaOH-water based solvents: a review”, Cellulose, Springer Verlag, 2016, 23 (1), 5~55頁
【発明の概要】
【0013】
したがって、セルロース系材料を溶解することができる適した条件を生成することが、依然として必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
ここで、本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を参照して、より詳細に説明する;
【
図1A】
図1Aは、高圧均質化前の、NaOHおよびトマト葉からのセルロースを含有する溶液を例示する(1A);
【
図1B】
図1Bは、高圧均質化後の、NaOHおよびトマト葉からのセルロースを含有する溶液を例示する(1B);
【
図2A】
図2Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(2A);
【
図2B】
図2Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(2B);
【
図3A】
図3Aは、高圧均質化前の、NaOHおよびイネ籾殻からのセルロースを含有する溶液を例示する(3A);
【
図3B】
図3Bは、高圧均質化後の、NaOHおよびイネ籾殻からのセルロースを含有する溶液を例示する(3B);
【
図4A】
図4Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(4A);
【
図4B】
図4Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(4B);
【
図5A】
図5Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(5A);
【
図5B】
図5Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび藁からのセルロースを含有する溶液を例示する(5B);
【
図6A】
図6Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(6A);
【
図6B】
図6Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(6B);
【
図7A】
図7Aは、高圧均質化前の、NaOHおよびオート麦殻からのセルロースを含有する溶液を例示する(7A);
【
図7B】
図7Bは、高圧均質化後の、NaOHおよびオート麦殻からのセルロースを含有する溶液を例示する(7B);
【
図8A】
図8Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(8A);
【
図8B】
図8Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(8B);
【
図9A】
図9Aは、高圧均質化前の、NaOHおよびトマト葉からのセルロースを含有する溶液を例示する(9A);
【
図9B】
図9Bは、高圧均質化後の、NaOHおよびトマト葉からのセルロースを含有する溶液を例示する(9B);
【
図10A】
図10Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび前処理を経た麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(10A);
【
図10B】
図10Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび前処理を経た麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(10B);
【
図11A】
図11Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび前処理を経た麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(11A);
【
図11B】
図11Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび前処理を経た麻からのセルロースを含有する溶液を例示する(11B);
【
図12A】
図12Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび前処理を経た植物アルカリセルロースを含有する溶液を例示する(12A);
【
図12B】
図12Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび前処理を経た植物アルカリセルロースを含有する溶液を例示する(12B);
【
図13A】
図13Aは、高圧均質化前の、NaOHおよび前処理を経た植物アルカリセルロースを含有する溶液を例示する(13A);
【
図13B】
図13Bは、高圧均質化後の、NaOHおよび前処理を経た植物アルカリセルロースを含有する溶液を例示する(13B);
【
図14A】
図14Aは、均質化前の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(14A)、該溶液は、高圧均質化前に30分間保持されていた;
【
図14B】
図14Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(14B)、該溶液は、高圧均質化前に30分間保持されていた;
【
図14C】
図14Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(14C)、該溶液は、高圧均質化前に30分間保持されていた;
【
図15A】
図15Aは、均質化前の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(15A)、該溶液は、高圧均質化前に2時間保持されていた;
【
図15B】
図15Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(15B)、該溶液は、高圧均質化前に2時間保持されていた;
【
図15C】
図15Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(15C)、該溶液は、高圧均質化前に2時間保持されていた;
【
図16A】
図16Aは、均質化前の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(16A)、該溶液は、高圧均質化前に12時間保持されていた;
【
図16B】
図16Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(16B)、該溶液は、高圧均質化前に12時間保持されていた;
【
図16C】
図16Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(16C)、該溶液は、高圧均質化前に12時間保持されていた;
【
図17A】
図17Aは、均質化前の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(17A)、該溶液は、高圧均質化前に72時間保持されていた;
【
図17B】
図17Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(17B)、該溶液は、高圧均質化前に72時間保持されていた;
【
図17C】
図17Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、NaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(17C)、該溶液は、高圧均質化前に72時間保持されていた;
【
図18A】
図18Aは、均質化前の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(18A)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図18B】
図18Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(18B)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図18C】
図18Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(18C)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図19A】
図19Aは、均質化前の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(19A)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図19B】
図19Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(19B)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図19C】
図19Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、-20℃のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(19C)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図20A】
図20Aは、均質化前の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(20A)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図20B】
図20Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(20B)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図20C】
図20Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(20C)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で20分間混合されていた;
【
図21A】
図21Aは、均質化前の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(21A)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図21B】
図21Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(21B)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図21C】
図21Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(21C)、該溶液は、高圧均質化前に2℃で24時間混合されていた;
【
図22A】
図22Aは、均質化前の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(22A)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で20分間混合されていた;
【
図22B】
図22Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(22B)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で20分間混合されていた;
【
図22C】
図22Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(22C)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で20分間混合されていた;
【
図23A】
図23Aは、均質化前の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(23A)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で24時間混合されていた;
【
図23B】
図23Bは、高圧ホモジナイザーを1回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(23B)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で24時間混合されていた;
【
図23C】
図23Cは、高圧ホモジナイザーを2回通過した後の、周囲温度のNaOHおよびセルロースを含有する溶液を例示し(23C)、該溶液は、高圧均質化前に周囲温度で24時間混合されていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の観点に従って、アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む溶液の生成方法であって、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を高圧均質化に供する工程を包含する方法を提供する。
【0016】
本明細書における「高圧均質化」という用語は、100barを超える圧力での均質化をさす。
本明細書における「多糖類材料」という用語は、多糖類を含有する材料をさす。材料の大部分が多糖類であってもよい。多糖類材料は、完全に多糖類であってもよい。
【0017】
溶液は、多糖類材料を1つ含むことができる。溶液は、複数の多糖類材料を含んでいてもよい。この溶液は、Rahcel溶液として知られる。
アルカリは、水性アルカリ、好ましくは、水性アルカリ金属水酸化物などの水性アルカリ水酸化物であることができる。水性アルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウムであることができる。
【0018】
アルカリは、5%w/w~25%w/w、または10%w/w~25%w/wの濃度を有することができる。
本発明の発明者らは、驚くべきことに、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を高圧均質化に供することにより、1以上の多糖類材料が溶解することを見出した。多糖類の溶解は、当技術分野でこれまでに使用されていた温度と比較して、高い温で生じることができる。したがって、本明細書に記載の方法の少なくとも一部は、周囲温度(20℃)以上で行うことができる。
【0019】
さらに、高圧ホモジナイザーは、固定摩擦および剪断効果により混合物の温度を上昇させる。したがって、当技術分野には、溶解方法の間、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を低温に保たなければならないという従来の理解に起因して、多糖類の溶解に高圧ホモジナイザーを使用することに対する先入観が存在する。発明者らは、驚くべきことに、高圧均質化に起因するこの温度上昇は多糖類の溶解に有害ではなく、代わりに、高圧均質化は、当技術分野で使用される温度より高温であっても、アルカリへの多糖類の溶解度を改善することを見出した。
【0020】
発明者らはまた、驚くべきことに、本発明の多糖類溶液が、とりわけゲル化および光学的透明性に関して、当技術分野における多糖類溶液と比較して優れた安定性を有することを見出した。具体的には、アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む得られた溶液は、当技術分野で使用される温度よりも高い温度で、より長く、ゲル化を起こすことなく保存することができる。
【0021】
さらに、発明者らは、驚くべきことに、本発明の多糖類溶液がビスコースなど他の多糖類溶液と相溶性を示すことを見出した。これは、とりわけ、本方法の多糖類材料が農業廃棄物などに由来する場合、ビスコースプラントなどのプラントで、プラントへの多大な投資および/または改変を行うことなく、より環境に優しい製品が可能になるようにプロセスを部分的に変換することを有利に可能にする。
【0022】
高圧均質化の少なくとも一部の間の混合物の温度は、0℃より高く、好ましくは5℃より高いことができる。溶解プロセスはすべて、0℃を上回る温度で行うことができる。発明者らは、驚くべきことに、高圧均質化の少なくとも一部は、0℃を上回る温度、好ましくは2~30℃で行うことができることを見出し、これは、当技術分野で使用されている低温溶解温度よりもはるかに高温である。
【0023】
好ましくは、高圧均質化中の混合物の温度は35℃を超えない。高圧均質化中に混合物の温度が35℃より高温に達すると、可逆的で濃厚なゼラチン状材料が形成する。理論に結び付けようとするものではないが、高温では、何らかの形態の凝固プロセスにより、おそらく一時的な脱水を介して、多糖類材料の沈殿が起きると考えられる。これは、多糖類材料が、実際は懸濁するのではなく溶解することを明示している。
【0024】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、低温で形成してもよい。1以上の多糖類材料およびアルカリを-25℃~15℃、好ましくは-10℃~10℃の温度で組み合わせることができる。少なくとも溶解方法の初期段階を低温で実施すると、1以上の多糖類材料の溶解度を改善することができ、これにより、1以上の多糖類材料が、高圧均質化中に、分散液を生成するのではなく溶解することが確実になる。したがって、高圧均質化の直前の混合物の温度は、好ましくは-20℃~15℃、より好ましくは-5℃~10℃、より好ましくは0℃~10℃である。
【0025】
1以上の多糖類材料を水と混合してからアルカリと混合して、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を生成してもよい。1以上の多糖類材料は、-5℃~10℃、好ましくは0℃~5℃の温度の水と混合することができる。あるいは、最初に1以上の多糖類材料をより高い温度、例えば周囲温度の水と混合してから、混合物の温度を-5℃~10℃、好ましくは0℃~5℃に低下させてもよい。
【0026】
アルカリを-25℃~-10℃、好ましくは-20℃~-15℃の温度に冷却した後、1以上の多糖類材料、好ましくは1以上の多糖類材料および水を含む混合物に添加して、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を生成してもよい。あるいは、アルカリを-5℃~10℃、好ましくは0℃~5℃の温度に冷却してから、1以上の多糖類材料に添加してもよい。
【0027】
アルカリは、好ましくは5%w/w~25%w/wの濃度を有する水溶液として添加することができる。この範囲の下限、例えば、5~15w/w%は、多糖類がアルカリ性である場合に使用することができる。
【0028】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、高圧均質化の前に、混合物の均質性を向上させるために処理してもよい。この処理の間、混合物の温度は、-5℃~15℃、または0℃~10℃であることができる。
【0029】
均質性を向上させるためのこの処理は、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を、所望によりSILVERSONTM型ヘッドなどの高剪断ミキサーを用いて、混合または撹拌することを包含することができる。あるいは、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を、低剪断撹拌などの低剪断ミキサーを使用して処理してもよい。混合物の混合または撹拌は、1時間~24時間、好ましくは3~20時間、より好ましくは5~15時間の期間にわたることができる。混合物の混合または撹拌は、一晩放置してもよい。
【0030】
この処理により、高圧均質化処理の有効性を低下させる多糖類凝集体が混合物中に確実に存在しなくなる。この初期処理は、1以上の多糖類材料の一部をアルカリ溶液に溶解させることができる。しかしながら、大部分は依然として溶解しておらず、アルカリ中に懸濁した繊維状態である。
【0031】
本方法は、高圧均質化の前に飽和工程を包含することができ、該飽和工程では、1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物が周囲温度未満に保持される。好ましくは、飽和工程は0℃より高温で行われる。1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、高圧均質化の前に、-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃の温度で保持することができる。飽和工程は、0.3時間~120時間、より好ましくは24時間~72時間にわたり行うことができる。
【0032】
飽和工程中に、混合物を撹拌または混合してもよい。混合または撹拌は、従来の手段を用いて達成することができる。混合は、400~1000RPMで行うことができる。
発明者らは、驚くべきことに、そのような飽和工程は最終溶液の品質を向上させることができ、飽和工程の長さが長いほど最終溶液の品質が向上することを見出した。理論に結び付けようとするものではないが、この工程は多糖類材料を軟化させて、高圧均質化をより効果的にすると考えられる。さらに、多糖類材料は、この飽和工程中に溶解し始めることができる。好ましくは、この飽和工程は、混合物の均質性を向上させるために、上記処理の後に行われる。
【0033】
飽和工程は、アルカリを、上記のように1以上の多糖類材料に添加する前に-25℃~-10℃の低温に冷却する必要がないことを、意味することができる。代わりに、アルカリを周囲温度で添加した後、-5℃~15℃、または0℃~10℃に冷却することができる。あるいは、アルカリを、-5℃~15℃、または0℃~10℃の温度で、1以上の多糖類材料に添加してもよい。1以上の多糖類材料に添加される場合、アルカリは、飽和工程が長いほど、より温かくなる可能性がある。これは、従来プロセスの非常に低い温度は必要ないので、エネルギー使用および溶解プロセスの容易さを著しく改善する。したがって、溶解プロセスは0℃より高温で行うことができる。
【0034】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、複数の高圧均質化工程を経ることができる。実質的に完全な溶解(すなわち、95%を超える溶解)を達成するためには、高圧ホモジナイザーを複数回通過することが必要であることができる。実質的に完全な溶解を達成するためには、高圧ホモジナイザーを1回、2回、3回、4回、5回または6回通過させることが必要であることができる。
【0035】
混合物は、少なくとも2つの高圧均質化工程の間、好ましくは各高圧均質化工程の間に、-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃に冷却することができる。1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、1以上の高圧均質化工程すべての直後に、-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃に冷却してもよい。これにより、高圧均質化後の溶解度および/または均質化プロセス終了時の最終溶液における溶解度が改善される。
【0036】
混合物は、1以上の高圧均質化工程の後、1以上の多糖類材料の溶解を増大させるのに十分な期間にわたり、-5℃~15℃、好ましくは0℃~10℃の冷却された温度に保持することができる。この期間は、5分間~3時間、好ましくは10分間~2時間であることができる。混合物は、この冷却された温度で、好ましくは低レベルのゆっくりとした攪拌で攪拌してもよい。この低温での撹拌工程は、再循環ともよばれる。
【0037】
再循環は、1以上の多糖類材料の溶解を改善することが見出された。高圧均質化工程後の再循環工程中に大きな粘度低下が観察され、均質化された繊維が溶解していることが明示された。再循環工程はまた、任意のさらなる高圧均質化工程の前に混合物を冷却することを可能にし、それによって、混合物の温度が35℃を超えることを防止する。
【0038】
1以上の多糖類材料の一部またはすべてを前処理して、不純物を除去してもよい。これにより、アルカリへの1以上の多糖類材料の反応性および溶解性が改善される。
1以上の多糖類材料は、乾燥、細断、切断、離解および/または洗浄によって前処理することができる。前処理は、追加的または代替的に、酵素の添加および/またはイオン交換樹脂の使用を含むことができる。
【0039】
1以上の多糖類材料は、前処理アルカリ溶液で前処理することができる。これは、とりわけセルロース材料の場合に1以上の多糖類材料の溶解度をさらに改善し、安定で不可逆的にゲル化しない溶液を生成するのに有用であることが見出された。前処理は、前処理アルカリ溶液中に1以上の多糖類材料を浸漬することを含むことができる。
【0040】
浸漬プロセスは、1以上の多糖類材料および前処理アルカリ溶液の混合物を含む浸漬混合物を生成することを包含することができる。浸漬混合物は、1~10%の多糖類、好ましくはセルロースを含むことができる。浸漬混合物は、10~25%のアルカリ、好ましくは15~20%のアルカリを含むことができる。
【0041】
浸漬プロセスは、40~60℃などの高温で実施することができる。高温において、浸漬プロセスを5分間~2時間、好ましくは5~60分間にわたり実施することができる。
浸漬プロセスはまた、より低い温度、例えば5~50℃で実施することもできる。これらの温度において、浸漬プロセスを5分間~36時間、好ましくは1~24時間にわたり実施することができる。
【0042】
浸漬混合物は、1以上の添加剤を、1以上の多糖類材料の分子量を減少させる(硫酸マンガンなど)か、または反応性を向上させる(例えば、Berol 388、尿素もしくは亜鉛)のを補助するために含むことができる。
【0043】
その後、1以上の多糖類材料を前処理アルカリから分離することができる。これは、濾過、加圧、または当技術分野で公知の他の方法によって行うことができる。
その後、正確な分子量を達成するために、得られた多糖類材料固体をそのまま最長72時間の期間にわたり酸化的分解を介してシルケット加工することができる。これは、20~60℃、好ましくは30~50℃の温度で行うことができる。
【0044】
多糖類材料固体は、本発明の方法に従って1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物を生成するために直接使用することができ、または前処理の一部として酸で中和することができる。代替的または追加的に、1以上の多糖類材料は、アルカリと混合する前に漂白剤で処理してもよい。これらの前処理工程は、本明細書中で参考として援用する国際公開WO2021001557号に開示されている工程に従っていることができる。1以上の多糖類材料は、本発明の方法で使用する前に乾燥してもよい。
【0045】
酸は、酢酸などのカルボン酸であることができる弱酸を含むことができる。酸の濃度は、約1~約20%w/wであることができる。
漂白剤はニート(neat)であることができる。「ニート」という用語は、漂白剤が他の成分を含有しないこと、例えば、漂白剤が希釈されておらず、溶媒を含まないことを意味すると解釈されるべきである。
【0046】
漂白剤は、塩素含有漂白剤を含むことができる。例えば、漂白剤は、次亜塩素酸ナトリウムを含むことができる。あるいは、漂白剤は、非塩素含有漂白剤を含むことができる。例えば、漂白剤は過酸化水素を含むことができる。
【0047】
漂白剤は、0.1~10%w/w、好ましくは0.1~2%w/wの濃度であることができる。
アルカリおよび/または前処理アルカリ溶液は、水性アルカリ、好ましくは水酸化アルカリ水溶液であることができる。アルカリおよび/または前処理アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムであることができる。アルカリおよび前処理アルカリは、同一または異なっていることができる。アルカリおよび前処理アルカリの両方が水酸化ナトリウム水溶液であってもよい。
【0048】
1以上の多糖類材料は、セルロース材料、すなわち、セルロースを含有する材料を包含することができる。1以上の多糖類材料の大部分は、セルロース材料であることができる。セルロース材料は、セルロースからなることができる。1以上の多糖類材料は、ヒドロキシプロピルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体を含有する材料を包含することができる。1以上の多糖類材料は、植物材料中に見出される多糖類、例えば、ヘミセルロース(例えば、キシランまたはキシログルカン)、カロース、ベータグルカンおよび/またはグルコマンナンを含有する材料を包含することができる。1以上の多糖類材料は、デンプン、ポリ乳酸、キチンおよび/またはキトサン材料を含有する材料を包含することができる。
【0049】
溶液は、多糖類材料として、セルロース材料を含むか、セルロース材料からなることができる。溶液は、セルロース材料を、1つの多糖類材料として、1以上のさらなる多糖類材料に加えて含むことができる。セルロース材料は、1以上のさらなる多糖類材料と同等またはそれより多くの量で存在することができる。
【0050】
セルロース材料は、農業廃棄物または木材パルプを含む任意のセルロース含有材料であることができる。農業廃棄は、オート麦殻、トマト葉、イネ籾殻(rice husk)、ジュート、藁、コムギ、ススキ、麻、草、亜麻または食用作物廃棄物から選択することができる。他の適した農業廃棄物源としては、ヤシ繊維、茶殻、籾殻(chaff)繊維、ナツメヤシ、パルミラヤシ、葉柄またはショウガを挙げることができる。セルロース材料は古いものではなく新鮮なもの(例えば、採取してから3週間も経っていないもの)であることができる。これは、材料が古くなると汚染物質が生じる可能性があるためである。
【0051】
1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、1~10%w/wの多糖類、好ましくは2~8%w/wの多糖類を含むことができる。好ましくは、多糖類はセルロースを含む。1以上の多糖類材料およびアルカリを含む混合物は、1~15%w/wのアルカリ、好ましくは3~11%w/wのアルカリ、より好ましくは7~10%w/wのアルカリを含むことができる。混合物中に存在する1以上の多糖類材料の量は、1以上の多糖類材料が由来する供給原料の性質に依存することができる。混合物の残余は、水および1以上の多糖類材料からの不純物を含むか、またはそれらからなることができる。
【0052】
多糖類材料がセルロース材料を含む場合、高圧均質化前のセルロース材料の重合度は、500未満、好ましくは100~300であることができる。発明者らは、この重合度が、最終製品を確実に強くすると同時に、安定なセルロース溶液を提供するのに有用であることを見出した。
【0053】
高圧均質化のための具体的条件は、1以上の多糖類材料が由来する供給原料の性質に依存する。高圧均質化は、100~1000bar、好ましくは150~750barの圧力で行うことができる。高圧均質化工程の総合圧力は、1000barを超えないことができる。本発明の発明者らは、驚くべきことに、この範囲が、広範囲の供給原料に由来する多糖類を溶解するのにとりわけ有効であることを見出した。
【0054】
存在する場合、第2の高圧均質化工程では、第1の高圧均質化工程における圧力よりも低い圧力を使用することができる。これは、アルカリへの1以上の多糖類材料の良好な溶解を提供することが見出された。好ましくは、第2の高圧均質化工程における圧力は、第1の高圧均質化工程における圧力の15~30%である。任意の後続の高圧均質化工程でも、第1の高圧均質化工程における圧力よりも低い圧力、好ましくは第1の高圧均質化工程における圧力の15~30%を使用することができる。
【0055】
混合物中の1以上の多糖類材料の95%超、好ましくは98%超は、高圧均質化後にアルカリに溶解することができる。したがって、本発明の方法を用いて、実質的に完全な溶解が達成される。
【0056】
溶液を高圧均質化後に濾過して、あらゆる残存する未溶解多糖類材料または汚染物質断片を除去してもよい。
第2の観点に従って、アルカリに溶解した1以上の多糖類材料を含む溶液であって、20℃で少なくとも2週間にわたり不可逆的ゲル化を起こさない溶液を提供する。好ましくは、該溶液は、20℃で少なくとも1カ月間にわたり不可逆的ゲル化を起こさない。
【0057】
本明細書に記載する溶液は、アルカリ材料に溶解した1より多くの多糖類材料を含むことができる。多糖類材料は、好ましくはセルロース材料を含む。溶液は、セルロース材料および他の多糖類材料を包含することができる。
【0058】
従来の方法を用いた木材パルプの水酸化ナトリウムへの直接溶解は、24時間未満、しばしば8時間未満でゲル化するセルロース溶液を生成することが知られている。しかしながら、発明者らは、驚くべきことに、本発明の溶液が、不可逆的ゲル化を起こすことなく、周囲温度で長期間保存できることを見出した。
【0059】
ゲルの形成は、目視で、または弾性率G’および粘性弾性率G’’を追跡することによって測定することができ、G’の値がG’’と合致する点がゲル化点である。
溶液中の1以上の多糖類材料の分子量は、20℃で保存した場合、少なくとも2週間の期間にわたって減少しないことができる。溶解した1以上の多糖類材料の分子量は、20℃で保存した場合、少なくとも1カ月の期間にわたって減少しないことができる。
【0060】
溶液は、3~10%w/wの多糖類含量を有することができる。好ましくは、多糖類は、セルロースを含むか、またはセルロースからなる。多糖類含量は、経時的に安定であることができる。多糖類含量の変化は、20℃で保存した場合、2週間の期間にわたって20%未満、好ましくは10%未満であることができる。
【0061】
溶液は、3%未満、好ましくは1%未満の未溶解多糖類を含むことができる。高圧均質化処理は、溶液に溶解しないで残存する多糖類が非常に低レベルであることを確実にすることができる。この未溶解多糖類レベルは、溶液を濾過するなど追加の分離工程なしで達成することができる。
【0062】
溶液は、金属酸化物、尿素、チオ尿素、ポリエチレングリコール、アクリルアミド、アクリル酸およびアクリロニトリルなど、任意の溶解性または安定性向上剤を含まなくてもよい。これらの添加剤は、本発明に従った安定な溶液を生成するのに必須ではない。
【0063】
溶液は永続的に撹拌した状態で保存することができ、これは、ゲルの形成を防止するのに有用である。溶液は真空下で保存してもよい。これは、有利には湿分の侵入を防ぎ、製品の形成前に気泡を除去する。
【0064】
溶液は、安定してチキソトロピーを示すことができる。言い換えると、溶液は経時的に安定な剪断減粘性を有し、その結果、非可逆的ゲル化が起こらない。例えば、本発明に従った溶液は、剪断下で液体に戻る可逆ゲルであってもよい。したがって、本発明の溶液は、不可逆的なゲル化を起こすことなく、周囲温度で長期間保存することができる。これは、不可逆ゲルがしばしば形成する従来技術の溶液よりも有利である。
【0065】
溶液は、本明細書に記載の方法を用いて形成することができる。この溶液は、Rahcel溶液として知られる。
第3の観点に従って、本明細書に記載の溶液をビスコースに添加する工程を含む、ビスコース溶液の形成方法を提供する。好ましくは、本明細書に記載の溶液中の1以上の多糖類材料は、セルロース材料を包含する。しかしながら、ビスコース溶液の特性を変化させるために、他の多糖類を包含する溶液を添加することができる。
【0066】
溶液は、1以上の多糖類材料がビスコースの固形分の最大50重量%の量で存在するように、ビスコースに添加することができる。溶液中の非セルロース多糖類材料は、ビスコースの固形分の最大25重量%の量で添加することができる。
【0067】
多糖類材料がセルロースを含む態様において、本明細書に記載の溶液は、ビスコース溶液中の総セルロース含量の1~99%、好ましくは5~60%、もっとも好ましくは20~50%が本明細書に記載の溶液に由来するように、ビスコースに添加することができる。
【0068】
したがって、本発明の溶液を使用すると、プラントへの多大な投資および/または改変を行うことなくリサイクル材料をビスコースに容易に添加することができるので、この方法は、より環境に優しい製品を作り出す簡潔な方法を提供する。
【0069】
本明細書に記載の本発明の溶液は、任意の相溶性多糖類溶液と混合することができる。例えば、本明細書に記載の溶液は、本発明の溶液に相溶性を示す任意のビスコース溶液、セルロースカルバメート溶液、他のアルカリベースの溶液またはイオン性液体溶液と混合することができる。本発明の溶液中の1以上の多糖類材料は、それが混合される溶液と同じ多糖類を包含することができる。本発明の溶液中の1以上の多糖類材料は、それが混合される溶液と同じであることができる。本発明の溶液中の1以上の多糖類材料は、それが混合される溶液とは異なる多糖類を含有することができる。
【0070】
第4の観点に従って、ビスコース溶液がビスコースおよび本明細書に記載の溶液を含む、前記ビスコース溶液を提供する。本明細書に記載の溶液中の多糖類材料は、セルロース材料を含むことができ、またはセルロース以外の多糖類を包含することができる。発明者らは、本発明のビスコース溶液を使用して、ビスコースのみから形成される製品と比較して環境影響がより少ない再生セルロース製品を形成することができることを見出した。
【0071】
第5の観点に従って、本明細書に記載のアルカリに溶解したセルロース材料を含む溶液、または本明細書に記載のビスコース溶液を、酸性溶液と接触させる工程を含む、再生セルロース製品の形成方法を提供する。再生セルロース製品は、従来の再生方法を用いて形成することができる。
【0072】
再生セルロース製品は、フィルム、繊維、またはビーズもしくは発泡体などの造形品であることができる。酸性溶液は、塩酸を含むことができる酸浴であることができる。
第6の観点に従って、本明細書に記載の再生セルロース製品の形成方法を用いて生成された再生セルロース製品を提供する。したがって、再生セルロース製品は、フィルム、繊維、またはビーズもしくは発泡体などの造形品であることができる。
【0073】
製品は、本明細書に記載の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムまたは繊維の正規化ピークエネルギーよりも20%超、好ましくは30%超大きい正規化ピークエネルギーを有するフィルムまたは繊維であることができる。「対応するフィルムまたは繊維」とは、同じ方法で製造され、厚さなどの特性が同じであるフィルムまたは繊維を意味する。
【0074】
正規化ピークエネルギーは、ASTM D638に従った方法を用いて落錘衝撃試験機で測定することができる。正規化ピークエネルギーの増大は脆性の低減を意味し、これは、フィルムおよび繊維の製造の両方においてかなり有用である。
【0075】
製品は、本明細書に記載の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムまたは繊維の破壊時の変位よりも10%超、好ましくは15%超大きい破壊時の変位を有するフィルムまたは繊維であることができる。破壊時の変位は、ヘッド直径12.7mm、衝撃速度2m/sの落錘を用いて測定することができる。
【0076】
第7の観点に従って、30%超、好ましくは45%超、より好ましくは50%超の横断方向の破断点伸びを有する再生セルロースフィルムを提供する。したがって、本発明のフィルムは、当技術分野における従来のフィルムよりも改善された機械的特性を示し、より低い脆性を示す。
【0077】
本観点に従った再生セルロースフィルムは、上記のアルカリに溶解したセルロース材料の溶液またはビスコース溶液から形成することができる。再生セルロースフィルムは、本明細書に記載の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムの正規化ピークエネルギーよりも30%超大きい正規化ピークエネルギー、および/または本明細書に記載の溶液を用いて作製されなかった対応するフィルムの破壊時の変位よりも10%超大きい破壊時の変位を有することができる。
【0078】
本発明の任意の観点に関する任意の特徴は、本明細書で論じられる任意の他の観点に同等に当てはまることができる。
【実施例】
【0079】
セルロース溶解
いくつかの溶液を作製した。各溶液は、表1に概説するように、水酸化ナトリウムと、多糖類材料としてさまざまな供給源のうちの1つからのセルロースとを含有していた。実施例10~13の多糖類材料は、同様に表1に概説するように、最初に前処理に供した。すべての実施例において、水酸化ナトリウムは、-18℃の温度に冷却してから多糖類材料に添加した。
【0080】
各実施例について、2つの試料を作製した:高圧均質化に供さず、プレミックスのままであった試料A;および、高圧均質化に供した試料B。引用した「均質化温度」は、高圧均質化工程の開始時の溶液温度である。
【0081】
【0082】
【0083】
溶液が高圧ホモジナイザーを出た直後の溶液粘度は極めて高く、ほとんどペースト状であることが観察された。これは、セルロース繊維の長さが最初に減少して、大きい繊維表面積および液体に対する高い要求を生じ、それによって粘度を増加させたことの表れである。次いで、セルロース断片が溶解し、したがって繊維表面積が減少した後すぐに、粘度の急激な低下が見られた。この時点で、粘度はセルロースの分子量の関数であり、繊維表面積の関数ではない。再循環工程は粘度を低下させるのに有用であり、したがってセルロース断片の溶解に有用であることが示された。
【0084】
得られた溶液の画像を顕微鏡およびカメラを用いて撮影した。これらを
図1~13に示す。
図1~13は、すべての実施例において、試料Bが、画像に見られるセルロース微粒子の程度の低減によって例示されるように、試料Aと比較して改善されたセルロース溶解を示したことを明示する。したがって、高圧均質化は、当技術分野において従来から公知の温度よりも高温で行う場合であっても、セルロース材料のアルカリへの溶解性を向上させる。
【0085】
これらの実施例においてアルカリに溶解した主な多糖類はセルロースであるが、植物材料中に存在する他の多糖類、例えばキシラン、キシログルカン、カロース、ベータグルカンおよびグルコマンナンもアルカリに溶解する。
【0086】
均質化溶液の収率および固形分
最終的な均質化試料のうちのいくつかの収率および固形分を分析した。収率試験は、さまざまなメッシュサイズの孔を有するガラス漏斗フィルターに既知重量の試料を通す4相濾過法によって行った。各フィルターの等級は以下の通りであった:
第1相:100~>160μm
第2相:40~100μm
第3相:16~40μm
第4相:10~16μm
ブフナー漏斗および真空ポンプを使用して、試料を各フィルターに通して引いた。通過した溶液の重量を秤量し、これを用いて試料の未溶解部分を計算し、最終溶液の全収率を得た。
【0087】
固形分は、既知重量の試料を中和し、10%酢酸で再生した後、温水で連続的に洗浄しつつ、予め秤量した段階的シンター(graded cinter)を通過させる方法を用いて試験した。試料が残留苛性ソーダまたは酢酸を含まなくなったら、シンターを約120℃の真空オーブン中で一晩乾燥した。シンターを再び秤量し、3つの重量を用いて試料の全固形分を計算した。
【0088】
試料4B、5Bおよび7Bの全収率および固形分を、表2に見出すことができる。見て分かるように、3つの試料はすべて非常に高い収率を達成した。
【0089】
【0090】
セルロース溶解に対する均質化前の飽和工程の効果
4つのセルロース溶液を作製し(実施例14~17)、そのすべてが5%のセルロースおよび7.8%のNaOHを含有していた。溶液は、-18℃、濃度18%のNaOH水溶液を、周囲温度の水および木材パルプと混合することにより形成した。その後、溶液温度を8℃に上げた。
【0091】
つぎに、各溶液を異なる期間にわたり8℃で飽和工程に保持した後、均質化を行った。実施例14(
図14)は30分間保持し;実施例15(
図15)は2時間保持し;実施例16(
図16)は12時間保持し;実施例17(
図17)は72時間保持した。図は、均質化前であるが飽和工程後(A)、高圧ホモジナイザーを1回通過した後(B)、および高圧ホモジナイザーを2回通過した後(C)の溶液を示す。
【0092】
第1の高圧均質化工程は600barで行い、第2の高圧均質化工程は100barで行った。均質化開始時の混合物の温度は8℃であり、高圧均質化中に25~30℃に上昇した。第1および第2の高圧均質化工程の間に、混合物を8℃に冷却した。
【0093】
図14~
図17は、
図14C、15C、16Cおよび17Cに見られるセルロース微粒子の程度の低減によって例示されるように、均質化前に周囲温度より低い温度でより長い期間にわたり溶液を保持することがセルロース溶解を改善することを明示する。飽和工程が長いほど、セルロースの溶解度はより良好になる。
【0094】
図14A、15A、16Aおよび17Aを比較すると、セルロース粒子は、飽和工程中に溶解し始めると思われる。理論に結び付けようとするものではないが、飽和工程中のこの初期溶解は、温度上昇を伴っているにもかかわらず高圧均質化中の溶解を助けると考えられる。
【0095】
その後、溶解プロセス中に必要とされる温度に対する飽和工程の効果を調べるさらなる実験を行った。
麻パルプを、さまざまな温度で18%水酸化ナトリウムに溶解した後、20分間または24時間のいずれかの飽和工程に供した(
図18A、19A、20A、21A、22Aおよび23A)。つぎに、溶液を750barの第1の高圧均質化工程で処理し(
図18B、19B、20B、21B、22Bおよび23B)、続いて150barの第2の高圧均質化工程(
図18C、19C、20C、21C、22Cおよび23C)で処理した。
【0096】
図18および19は、水酸化ナトリウムを-20℃に冷却した後、それぞれ20分間および24時間にわたり2℃で飽和工程に供したときに見られた結果を例示している。
図20および21は、周囲温度の水酸化ナトリウムを添加した後、それぞれ20分間および24時間にわたり2℃で飽和工程に供したときに見られた結果を例示している。
図22および23は、周囲温度の水酸化ナトリウムを添加した後、それぞれ20分間および24時間にわたり周囲温度で飽和工程に供したときに見られた結果を例示している。高圧均質化工程開始時の溶液の温度は、飽和工程中の温度と同じであった。
【0097】
これらの図によって明示されるように、より長い飽和工程は溶解量を増加させるのに有用であり、溶解の増加は、より低い温度で見られる。これらの図はまた、高圧均質化の前に飽和工程を含めることにより、当技術分野で従来使用されている温度よりも高い温度で溶解プロセスを行うことが可能になることを明示している。実際、水酸化ナトリウムおよび高圧均質化工程の両方が周囲温度である場合でさえ、良好な溶解の結果が見られる。
【0098】
機械的特性
本発明に従ったアルカリに溶解したセルロース材料の溶液であって、10%のトマト葉を含有し、アルカリが水酸化ナトリウムである溶液を酸浴中に押し出すことにより、再生セルロースフィルムを生成した。
【0099】
再生セルロースフィルム(トマト)の機械的特性を、同じ方法で形成されたが、従来のビスコースから作製された、同じ厚さの対照セルロースフィルム(対照)と比較した。結果を表3に見出すことができる。
【0100】
見て分かるように、本発明による再生セルロースフィルムは、縦方向(MD)において同等の特性を有し、横断方向(TD)において、とりわけ横断方向の破断点伸び%に関して、改善された特性を有していた。有利なことに、フィルムの横断方向の伸びの改善は、他の特性を損なうことなく達成された。
【0101】
温度23℃、相対湿度50%に状態調整された環境で試験を行った。使用する機械は、静的試験機用ロードセル+5kN-No.115-空気圧引張グリップを備えるInstron 3342-シリーズIX自動材料試験機である。
【0102】
【0103】
同じフィルムを、ASTM D638に従った方法を用いて落錘衝撃試験機で試験して、正規化ピークエネルギーを確認した。破壊時の変位は、ヘッド直径12.7mm、衝撃速度2m/sの落錘を用いて測定した。結果を表4に見出すことができる。見て分かるように、対照フィルムのピークエネルギーは、トマト葉の添加により増大した。したがって、フィルムに本発明に従った溶液を含有させることにより、前記フィルムの抵抗性が改善される。
【0104】
【0105】
本発明に従ったフィルムはより高い正規化ピークエネルギーを明示し、これにより、対照フィルムと比較して低減した脆性を明示する。また、本発明に従ったフィルムは、破壊時の変位がより大きいことを明示した。したがって、本発明のフィルムは破壊する前により多くのエネルギーを吸収することができ、したがって耐破損性がより高い。
【国際調査報告】